ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師不足の大学病院、派遣医引き揚げ

2007年02月28日 | 地域周産期医療

関連病院に在籍する医師の大学への引き揚げにより、地方中核病院の産科や小児科が次々と閉鎖されています。大学の人事は4月1日付けで行われることが多く、人事は直前になるまで発表されないため、この年度替わり直前の時期になって、4月1日付けの診療大幅縮小・休診が多く発表され始めています。

周辺の病院が次々と診療大幅縮小・休診となって、患者数が急増して信じられないほどの激務となっている病院でも、突然、医師引き揚げの通告があれば、診療の継続は断念せざるを得ません。

患者の急増に対応するためには、助産師などのマンパワーを増員し、医療機器を整備し、病棟編成組み換えによって病床数を増やし、外来や病棟の拡張工事を実施するなど、いろいろな準備が必要です。そうやって莫大な資金を投入して診療拡大の準備をしている真最中に、突然、大学から派遣医師の引き揚げを通告されて診療の継続は不可能という事態になれば、診療拡大のために投入した資金はすべて無駄となり、病院全体の経営戦略にも大きな影響が出ることは必至で、病院の倒産も十分にあり得ます。

診療縮小の方向性が最初からわかっていれば、前もって人員を削減したり、設備投資を控えたり、病床数を縮小する、などのさまざまな対応も可能です。被害も最小限で済ませられます。

今は将来の方向性の状況判断が非常に難しいです。いつハシゴをはずされるか全く予測もできないような状況の中にあって、将来の方向性は全く不明であり、5年後にこの世に存在しているのかどうかさえ確信がもてず、あぶなくて長期計画などとても立てられません。その日その日をいかにして生き延びてゆくかだけで精一杯です。このままでは、各病院が生き残りをかけて最大限の努力をしても、結局はすべての病院が共倒れになって、地域医療がどんどん崩壊していく気がします。

将来の方向性が具体的に示されたなら、各病院がその将来プランの実現に向けて適切に対応していくことが可能となります。住民の不安も取り除かれると思います。今はどう対応したらいいのか?の指針が全くありません。現場の各自の状況判断で、それぞれ勝手気ままに対応していて、これから先、地域の医療がどうなってゆくのか? さっぱり見当もつきません。国や県が、地域医療の将来の方向性を、病院側にも住民側にも、わかりやすく、しっかりと具体的に示して欲しいと思います。


深刻さ増す「お産状況」

2007年02月25日 | 地域周産期医療

今、全国的に産科空白地域がどんどん広がりつつあります。地域内のすべての産科施設が分娩取り扱いを止めてしまった場合は、地域の妊婦さん全員が他の医療圏で分娩しなければならない事態となります。

居住する県では分娩場所が全く見つからず、仕方なく遠路はるばる何時間もかけて(県境を越えて)当科までお産のためにやって来る妊婦さんの数も、最近ではずいぶんと増えてきました。

地域内のどこにも産むところがないという状況になってしまえば、地域の誰もが事の重大性に初めて気が付くことでしょう。しかし、そうなってしまってからでは時すでに遅しで、全く手の打ちようがありません。困り果てた末に、地域住民の多数の署名や嘆願書を、県や大学に持って行っても、もうその時は誰も何もできません。

県内各医療圏の産科医療の状況が、今後も、ますます厳しくなってゆくことは確実です。まだ何とかなる可能性が少しでも残っている地域においては、手遅れにならないうちに、断固として、医療崩壊を阻止する対策を講じてゆく必要があります。

****** 信濃毎日新聞、2007年2月24日

深刻さ増す「お産状況」

 深刻な産科医不足で、県内で今年に入り、分娩(ぶんべん)の取り扱いをやめたか、やめる方針の医療機関が少なくとも四カ所あることが二十三日、分かった。年間約三百の出産例があった茅野市の諏訪中央病院が四月から分娩の取り扱いを一時中止する予定など、地域の中核病院も含まれている。関係者からは「今後も減る可能性がある。お産をめぐる状況はさらに深刻になりそうだ」との声が強まっている。

諏訪中央病院 分娩中止へ 産科医 確保できず 

 諏訪中央病院産婦人科が分娩の取り扱いを一時中止する予定なのは、現在二人いる担当医が三月末で不在になり、後任がみつからないため。病院は現在も医師確保を模索するが、全国的な産婦人科医不足の中で状況は厳しく、四月以降の分娩の予約受け付けは既に中止した。

(中略)

県内他の3医療機関も

 長野市のNTT東日本長野病院は、昨年末で分娩の取り扱いをやめ、一月から「産婦人科」を「婦人科」に改称した。医師二人の態勢で産婦人科を続けてきたが、「態勢的にきつくなった」などとし、現在、常勤医一人が検診などを行っている。

 このほか、茅野市内で年間二百例ほどの分娩を扱っていた開業医も一月から取り扱っておらず、長野市内の開業医も三月末で分娩をやめる方針で受診者に他の施設への紹介を始めている。

 県医療政策課によると、県内で分娩を取り扱う施設は、二〇〇一年に六十八カ所あったが、昨年五月時点の調査は五十三カ所。さらに分娩を扱う医療機関の中には、医師不足で四月から「一カ月二十四人」と受け入れを制限する病院や、「勤務医の疲弊が激しい」と言う病院もある。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2007年2月24日)


大野病院事件 検察側証人が被告に理解示す証言 (読売新聞)

2007年02月24日 | 大野病院事件

コメント(私見):

昨日(2月23日)、大野病院事件の第2回公判が福島地裁で開催されました。

最大の争点になっている、『癒着胎盤と判明した時点で、胎盤を剥離する処置を止め、ただちに子宮摘出手術に移行する義務があったかどうか?』について、『検察側証人が、弁護側の主張に沿うとも受け取れる一般的見解を述べた』とのことです。

要するに、検察側証人が、フタを開けてみたら、いつの間にか弁護側証人に早変わりしていた!ということのようです。

今回、周産期医療の崩壊をくい止める会のメンバーが公判を傍聴できて、第2回公判内容の詳細をホームページに掲載してくださいました。

次回の公判は来月16日とのことです。

参考:大野病院事件について(自ブログ内リンク集)

****** 読売新聞、福島、2007年2月24日

大野病院事件 検察側証人が被告に理解示す証言

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術で妊婦を失血死させたなどとして、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われている産婦人科医、K被告(39)の第2回公判が23日、福島地裁であった。検察側の証人尋問が行われ、証人が検察側の主張と食い違う見解を示す場面があった。

 証人は、手術に先立ちK被告から相談を受けていた双葉厚生病院(双葉町)の産婦人科医と、手術で助手を務めた外科医の2人。

 最大の争点になっている、子宮に癒着した胎盤をはく離する処置をやめ、子宮摘出手術に移行する義務があったかについて、産婦人科医は「胎盤のはく離を完了すれば、子宮の収縮が期待でき、止血できるかもしれない」と弁護側の主張に沿うとも受け取れる一般的見解を述べた。この産婦人科医は、胎盤が子宮に癒着した患者の帝王切開手術で子宮の摘出手術に移行した経験があり、検察側が証人申請していた。

 胎盤のはく離に手術用ハサミを使った妥当性について、2人の証人は「切るのではなく、そぐように使うなら許容できる」などと理解を示す証言をした。福島地検は公判後、「無理にはく離して、大量出血を招いたことが問題」と反論した。

(読売新聞、福島、2007年2月24日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 朝日新聞、福島、2007年2月24日

大野病院事件 争点の処置「効果的」

-検察側証人 捜査時供述翻す-

 大熊町の県立大野病院で04年、帝王切開手術中に女性(当時29)が死亡し、産婦人科医K被告(39)が業務上過失致死などの罪に問われている事件で23日、第2回公判が福島地裁(大澤廣裁判長)で開かれた。争点となっている、子宮に癒着した胎盤をはがす際のクーパー(手術用ハサミ)の使用について、検察側証人の医師が、「むしろ効果的かもしれない」と、弁護側の主張を裏付けるような証言をした。

 この日の公判では、双葉町の双葉厚生病院の産婦人科医で、手術当日に被告のK医師から緊急時の応援を要請されていた○○○○・副院長が証人に立った。

 ○○副院長は捜査段階の地検の聴取に対し、「手で剥がすのに比べて、微妙な感触を確かめられない器具を使うのは危険」などと供述していた。しかしこの日、「当時はK医師がどのような方法でクーパーを使ったかという説明を受けておらず、(胎盤を)切るためにクーパーを使ったと考えていた。しかし(K医師のように)自分の目で見て、刃を閉じたクーパーで胎盤をはがすように使うのであれば適切な場合もある」「クーパーであれば、剥離(はくり)部分も視野に入るので、手で剥離するよりもむしろクーパーの方が優れているかもしれない」などとし、クーパー使用の妥当性を指摘した。

 クーパーの使用については「安易にクーパーを使用し、無理やりはがしたのは問題」とする検察側と、「すばやく剥離するための妥当な医療行為」とする弁護側が対立し、争点の一つになっている。

 ○○副院長はまた、32年間の臨床経験で癒着胎盤患者の帝王切開を実施した例などを踏まえつつ、「胎盤をはがすことで止血効果が得られることがあるので、胎盤の剥離を始めたら中止せずに完了するべきだ」などと指摘。「剥離が難しいと分かった時点で直ちに中止すべきだ」とする検察側の主張に反する主張を展開した。

 県立大野病院の外科医として手術に加わった県立医大の△△△△医師も検察側証人として立ち「癒着部分の剥離にクーパーを(こうした方法で)使うのは、外科ではよくあること」などと指摘した。

 検察側は、「あくまで胎盤を無理やりはがしたこと自体を問題としており、クーパーを使ったからいけないとは一言も言っていない」としている。

 次回の公判は来月16日。

(朝日新聞、福島、2007年2月24日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 毎日新聞、福島、2007年2月24日

大野病院医療事故:胎盤はく離継続は妥当 証人、尋問で指摘--福島地裁

 県立大野病院で起きた帝王切開手術中の医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、K被告(39)の第2回公判が23日、福島地裁であり、証人尋問が行われた。争点である「胎盤のはく離を中止すべきだったか」について、K被告が急変時の応援を依頼していた産科医は「はく離を始めたら完了しなければならない」とはく離継続の妥当性を指摘した。

 双葉厚生病院(双葉町)の産婦人科医は、自身が帝王切開手術中に癒着胎盤であることを認識した際、はく離を継続し、胎盤をはがし終えた後も出血が止まらなかったため、子宮を全摘出した経験を明らかにした上で、すぐに子宮全摘出に移行しなかった理由を「はく離が完了すれば子宮が収縮し、止血できると考えた」と述べた。

 また、争点の一つの手術用はさみ(クーパー)の使用の妥当性について、はがす部分が見えない手によるはく離に比べ「歯を閉じた状態で、(はがす部分を)視野に入れながらやるのであれば、優れているかもしれない」と証言した。

 一方、事故当日の手術に立ち会った県立大野病院の外科医は、子宮の全摘出に移行する際、自身と院長が計3回、大野病院の外科部長に応援を要請するか尋ねたが、K被告はいずれも「大丈夫」と断ったことを明らかにした。【松本惇】

(毎日新聞、福島、2007年2月24日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 河北新報、2007年2月24日

「被告の処置は適切」検察側証人の医師ら証言 大野病院事件

 福島県立大野病院(大熊町)で帝王切開手術中、子宮に癒着した胎盤を剥離(はくり)した判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医K被告(39)の第2回公判が23日、福島地裁であった。手術前、緊急事態に備えて応援を要請されていた産婦人科医と、手術に立ち会った外科医が検察側証人として出廷したが、いずれもK被告の判断や処置は適切だったとする趣旨の証言をした。

 最大の争点となっているK被告が癒着胎盤を確認した時点で胎盤剥離を続けた判断が妥当かどうかについて、産婦人科医は「胎盤の剥離を完遂すると出血が止まることがあるため、剥離を進める。自分も癒着胎盤の症例に出合った際は、重症だったが剥離を続けた」と証言。「K被告が罪に問われた手術の出血量では、血液の準備があれば剥離をする」と供述した。

 検察側が大量出血の原因とするクーパー(医療用はさみ)を使った剥離についても、産婦人科医は「クーパーの使用は危険」とした捜査段階の供述を撤回。「クーパーの刃を開いて剥離すると考えていたため危険だと言ったが、K被告のように刃を開かず、外側でそぐように剥離するならば、手を使うより安全かもしれない」と述べた。

 外科医も「外科手術で使っており、クーパーを使うリスクが高いとは思わなかった。クーパーを使った剥離によって大量出血したという感じではなかった。胎盤もスムーズにはがれた」と証言した。

 一方、K被告が事前に危険性を認識して手術に臨んだとする検察側主張について、産婦人科医はK被告から応援を頼まれたことを認めた上で「応援要請は初めてだった。癒着胎盤とも考えた」と、検察側立証に沿う証言をした。

 起訴状によると、K被告は2004年12月17日、女性の帝王切開手術で胎盤と子宮の癒着を確認して剥離を始めた。このまま続ければ大量出血で死亡することを予見できる状況になっても子宮摘出などに回避せず、クーパーを使った剥離を続けて、女性を失血死させた。

(河北新報、2007年2月23日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 福島民友、2007年2月24日

事実関係立証で対立 大野病院事件第2回公判

 大熊町の県立大野病院で2004(平成16)年12月、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が死亡した医療事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告(39)の第2回公判は23日、福島地裁で開かれ、証人尋問が行われて本格的な審理が始まった。

 手術当日に応援のため待機していた医師と手術の助手を務めた医師の2人は、K被告とのやりとりや手術室の当時の状況などを証言。争点のうち胎盤癒着の剥離(はくり)中止義務の有無や手術用はさみ「クーパー」の使用の妥当性を中心に検察、弁護側双方が尋問を展開した。事実関係の立証をめぐって双方の異議が飛び交うなど、たびたび尋問が中断され、対立の構図が表面化した。

(福島民友、2007年2月24日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。

****** 福島民報、2007年2月24日

癒着胎盤の可能性認識 大野病院公判で応援の産科医証言

 福島県大熊町の県立大野病院医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告(39)の第2回公判は23日、福島地裁で開かれた。関係者の証人尋問を行い、K被告が手術前に癒着胎盤の可能性を認識していたことを示唆する証言があった。

 証人尋問は、手術前にK被告から緊急時の応援を頼まれていた双葉厚生病院の男性産婦人科医と、手術で助手を務めた当時の大野病院の男性外科医の2人に行われた。

 産婦人科医は、K被告から依頼を受けた時、「『前回の帝王切開創部に胎盤が掛かっているかもしれない』と言われた」と証言。外科医は手術前の打ち合わせで「(K被告が)『癒着があるかもしれない』と言った。どの部位の癒着かは言わなかった」と述べ、K被告が手術前に胎盤の癒着を予見した可能性をうかがわせた。

(福島民報、2007年2月24日)

文中、K医師名を伏せさせていただきました。


ブログ上で大野病院・加藤医師の支援の動き広がる(医療タイムス、長野)

2007年02月22日 | 報道記事

コメント(私見):

福島県立大野病院事件の第2回公判は、明日(2月23日)開催される予定です。

最近は、ブログ上での大野病院・加藤医師支援の動きなどがマスコミでもよく取り上げられるようになってきました。1年前にはなかった現象で、マスコミの論調も明らかに変わってきているように感じます。

私自身、1年前に自分でブログを始めてみるまでは、ブログなんてものの存在すら全く知らなかったんですが、今では、毎日お気に入りブログを巡回する新しい習慣ができ、全く面識のないブログ仲間の方々と、日々、いろいろと議論したり、楽しく情報交換したりするようになりました。今までは存在しなかった全く新しい社会現象だと思います。

参考:あれから1年

大野病院事件について(自ブログ内リンク集)

公判概略について(06/7/28)

公判概略について(06/9/23)

公判概略について(06/10/19)

公判概略について(06/12/19)

第一回公判について(07/1/30)

****** 医療タイムス、長野、2007年2月21日

ブログ上で大野病院・加藤医師の支援の動き広がる

~県内の産科医師らが企画

 福島県立大野病院で04年に女性が帝王切開手術中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われている加藤克彦医師を、長野県内の産婦人科医師が開設しているブログなどで支援する動きが広がっている。「我々は福島事件で逮捕された産婦人科医師の無罪を信じ支援します」と銘打った企画には、医師や看護師などの医療関係者のほか、医学生や一般市民などから「(この企画に)賛同する」との書き込みが続いている。

 加藤医師の支援企画を進めているブログ「ある産婦人科医のひとりごと」には、企画スタートの18日からこれまでに150を超える「賛同の声」が寄せられている。コメント欄には「日本の将来の医師像について、日本国民全員が真剣に考える日が来るのを祈っている」や「産婦人科医にとって、誇りをもって行っていた医療行為をすべて否定された事件。K医師が無罪を勝ち取るまで支援する」、「この判決で、無罪になれば、ある程度産科崩壊のスピードが減速する可能性がありますが、有罪になれば、想像を絶する加速度がかかる」などの書き込みが後を絶たない。このブログ以外にも同じ企画が進められており、企画への賛同者は医療関係者を中心に日に日に拡大している。

 先月26日に行われた初公判で加藤医師は「胎盤の剥離を続けたことは適切な処置だった」などと述べ、起訴事実を全面否認。一方、検察側は「直ちに剥離を中止し、子宮摘出に移る注意義務を怠った」などと主張した。この事件をめぐっては、全国の医師会や産婦人科医会などが「不当逮捕」との抗議声明を発表している。

(医療タイムス、長野、2007年2月21日)


産科施設の減少

2007年02月20日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

都会の状況はよくわかりませんが、地方基幹病院の産婦人科の状況はどこも惨憺たるものです。伝統ある地域基幹病院産婦人科が、次々に縮小・休診となっています。

また、今は何とかギリギリのところで頑張っていらっしゃる産科診療所の先生方の平均年齢も年々高齢化していて、これからの数年間で、その先生方も次々に引退していかれると予想されます。

残り少なくなってしまった産科施設には地域の患者が集中し、激務に耐えられなくなったスタッフが次々に辞めていき、その最後の砦の産科施設もついには休診せざるを得なくなる、という悪循環に陥っています。

業務量が倍増しているというのに、一時しのぎの中途半端な医師の集約化では全く対応できません。誰か1人が激務に耐えられず辞めてしまったら一巻の終わりです。どうせ集約化するのであれば、思い切って医師数を一気に倍増するくらいでないと、今後、地方の産科基幹施設がこの世に生き残ってゆくのは非常に難しいと考えています。

****** 朝日新聞、2007年2月16日

産科医減少「少子化の反映」 柳沢氏答弁に医師反発

 産婦人科医が減っているのは出生数の減少で医療ニーズが低減した反映――。7日の衆院予算委員会での柳沢厚生労働相の発言が、産科医の反発を呼んでいる。訴訟リスクの高まりや24時間態勢の過酷な勤務などに触れなかった答弁が理由だ。「産む機械」発言の余波もあってか、医師らのブログには「このような認識では有効な対策がとられない」などの書き込みが続く。柳沢氏は16日、閣議後の記者会見でこの発言について「訴訟のリスクや勤務状況がきついということはよく承知している」と話した。

 発言は、「産科、産婦人科、外科の医師数が減っているが、なぜか」という質問に答えたもの。柳沢氏は「産科の医師は出生数あたりでは減っているわけではない」「出生数の減少で医療ニーズがはっきり低減していることの反映」などと答弁。産科医、助産師不足の対策には「効率化、ネットワーク化して対応していく」とした。

 この発言を取り上げたブログ「ある産婦人科医のひとりごと」のコメント欄には「(現場を)理解しようともしない」などの言葉が並ぶ。国会中継の録画から議事録をおこしたブログも。医療関係者らが参加する掲示板「m3」などでも批判が続いている。

 確かに産婦人科医1人あたりの出生数は、90年が95人、04年が98人と横ばい傾向にある。だが、日本産科婦人科学会で医療提供体制検討委員長を務める海野信也・北里大教授は「大臣は、分娩(ぶんべん)施設数の減少が出生数の減少率より大きい事実を見落としている」と指摘。「産婦人科が扱う領域は、婦人科系のがんや不妊治療などに広がっているのに、担い手は減っている。お産を扱う医師は、数字以上の激務。実態にきちんと目を向けていただきたい」という。

(朝日新聞、2007年2月16日)

****** Ameba News、2007年2月16日

とある産婦人科医が柳沢厚生労働大臣の無理解を批判

 2月7日の国会審議における柳沢厚労相の発言に対し、とある産婦人科医がブログ上で意見を述べている。

 同ブログ上では、国会審議において柳沢厚労相と枝野幸男議員との答弁が詳細に書き記されている。それによると柳沢大臣は、現在進行中の産科医減少問題は単に分娩件数減少に対応したものであり、今後病院のネットワーク化と医療の効率化により解決可能であると発言したようである。

 その発言に対しこの産婦人科医は、大臣というポストは今まで自分が関係のない分野の問題を突然のにわか勉強で理解しなければならなず、それが故に危機感を持っていないことも仕方のないことだと書いた。

 また、「高度な医療行為を行った場合に残念ながら失敗があった時に医師が逮捕されてしまう時代に、産婦人科のようにリスクの高い仕事をやる人はいなくなる」という発言をした枝野幸男議員に対してこの産婦人科医は「現場の状況をかなり正確に把握してらっしゃるようで、現在の産科で問題となっている諸問題に対して鋭く質問をしていて非常に感心しました」と高く評価した。

 これを受けブロガーたちからは、「なんでこんな人がよりによって厚生労働大臣になってしまったんだ?」、「産婦人科医のやる気をそぐような発言は控えてもらいたい」など、依然として柳沢大臣に対する批判的な意見が多く見られた。

(Ameba News、2007年2月16日)

****** 中国新聞、2007年2月20日

産婦人科医不在の恐れ 福山市民病院

 ▽岡山大が派遣中止通告

 福山市民病院(福山市蔵王町)が、岡山大病院(岡山市鹿田町)から産婦人科医師二人の派遣を打ち切りたいと通告を受けていることが十九日、分かった。期限は三月末で市民病院に産婦人科医が不在となる事態を避けるため、羽田皓市長らが岡山大側に出向いて撤回を要請している。(木原慎二、野崎建一郎)

 医療関係者によると、岡山大病院産科婦人科の平松祐司教授が、市民病院の浮田実院長に文書で通告した。市民病院の産婦人科に勤務する医師は二人で、いずれも岡山大が派遣。今のままでは四月以降の診療が危ぶまれる。今月中旬には羽田市長と浮田院長が平松教授を訪ね、撤回を求めた。

 派遣中止の背景には、大学病院の慢性的な産婦人科医師不足がある。このため福山市医師会が調整に乗り出し、岡山大から派遣を受けている市内の病院間で産婦人科医師を再配置する案も視野に検討する方針。今月末には岡山大関係者を交えた話し合いの場を持つ。

 市医師会によると、福山市内は開業医も多く出産の受け入れ態勢に問題はない。一方、市民病院は年間五十例前後の帝王切開手術を実施。麻酔科が充実し母体にリスクを伴う分娩(ぶんべん)、高度な処置が必要な婦人科患者の診療などを担っている。

 岡山大からの派遣打ち切り通告について市民病院は「県東部の中核病院の責務を果たすため派遣の継続をお願している。医師会とも連携して要請する」と説明している。

 <福山市民病院> 1977年に現在地に開設し、病床数は約400、医師数は約70人。心臓血管外科や脳神経外科など19診療科と県東部では唯一の救急救命センターを置く。ヘリポートを備え、24時間態勢で救急患者を受け入れている。昨年8月には国が整備を進める地域がん診療連携拠点病院の指定を受けた。産婦人科は05年で計216例の手術実績がある。

(中国新聞、2007年2月20日)

****** 紀伊民報、2007年2月18日

出産の取り扱い休止へ 新宮市立医療センター

 新宮市立医療センターは、10月1日から出産の取り扱いを休止する。産婦人科医が3月末で1人になるため十分な医療体制が取れなくなるのが理由という。妊婦の検診と婦人科は従来通り診察を継続するが、出産受け付け再開の見通しは立っていない。紀南地方では田辺市の南和歌山医療センターが昨年9月から産科を休止している。

 三木仁一院長が16日、同センターで記者会見した。これで同市周辺の妊婦は市内に1軒ある開業医か串本町の町立串本病院、三重県紀宝町の紀南病院などで出産しなければならなくなる。

 会見で三木院長は、これまで同科は医師3人だったが昨年12月末で1人が退職、別の1人も3月末で派遣元の奈良県立医大に戻され、医師の補充を断られたと経過を説明。「安全に分娩してもらえる体制ではなくなる。医師確保に努力しているが、全国的に産婦人科医は不足しており、見通しは暗い」と話した。

 すでに出産の予約を受け付けた9月末までの妊婦91人については、4月から半年間、同医大から産婦人科医1人を派遣してもらい、対応することにしている。

 10月以降は、他の病院への搬送が間に合わないなど、緊急時の出産に限り引き受けるという。

 同センターは2001年5月に開業。診療科は内科や外科など18科で、医師43人。うち産婦人科は医師3人で、新宮東牟婁と三重県南牟婁の一部を含む地域の約75%を占める、年平均400件の出産を扱ってきた。

(紀伊民報、2007年2月18日)

****** 毎日新聞、2007年2月19日

隠岐病院:産科医派遣減で説明会 島外出産に17万円助成--広域連合 /島根

 ◇交通費、滞在費など

 隠岐病院(隠岐の島町)で出産リスクのある妊婦の分娩(ぶんべん)が4月から出来なくなる問題で、同病院を運営する隠岐広域連合は18日、町内で説明会を開催。妊婦ら約90人に、島外で出産する場合、交通費や滞在費など17万円を助成することを説明した。

 同病院では、県立中央病院(出雲市)からの産婦人科医派遣が1人減り、4月から1人体制になる。このため同月から院内に助産科を設け、医師と助産師が出産経験のある妊婦の正常分娩のみ出産対応することにした。出産リスクのある初産や経過の良くない人の対応は難しく、約1月前に本土に渡っての出産となる。

 助成は同町内の妊婦が対象。現在、4~9月の出産予定者は約55人で、うち7割前後が本土での出産になる見込みという。同連合では、常勤産婦人科医がいなくなった昨年4~10月も本土に渡る妊婦に17万円を助成している。【久野洋】

(毎日新聞、2007年2月19日)


あれから1年

2007年02月18日 | 大野病院事件

2.18企画(新小児科医のつぶやき) 
共通メッセージ:

我々は福島事件で逮捕された産婦人科医師の無罪を信じ支援します

コメントを寄せられる方で上記趣旨に賛同される方は「私も賛同する」と冒頭に付け加えてください。御記入はハンドルネームでもかまいません。また、医療関係者であるかどうかも問いません。賛同してくださるブログ管理人の方はブログのタイトルとアドレスも一緒に記入お願いいたします。

県立大野病院事件について

新小児科医のつぶやき
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20070207
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20070218

勤務医 開業つれづれ日記
http://ameblo.jp/med/entry-10025165057.html

健康、病気なし、医者いらず

シロのほら穴  産医師異国に向かう

元 院長の独り言  Toshikun’s Diary

五里霧中於札幌菊水  道標 Guideboard

textpot  ある町医者の診療日記

回り道をしながら理想の地域医療を目指す

A Fledgling Child Psychiatrist

なんだかな。  エレキも医療も整備しなきゃ。

今日手に入れたもの  読影室の片隅から

ほんのり科学風味な日  へなちょこ内科医の日記

カブシキ!  Follow My Heart  趣味の生活

さよなら独身貴族  にょろすけの雑記帳 

オルタナティブメディスン  ある内科医の嘆息

freeanesthe  医療事務員mycatの日記

東京日和@元勤務医の日々  百八記

Drさいぞうの日記帳  side Bの備忘録

The Man  [es] Miscellary written in tedium 

いなか小児科医  あきちゃんの雑記帳

Nobody ask me but....  駅弁医学生の戯言

ザウエリズム  サッカーと地域医療の部屋

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賛同コメントのリスト【医師(医学生も含む)】

賛同コメント【医師以外】

******

非常に多くの皆様からこのプロジェクト(2.18企画:新小児科医のつぶやき)に賛同していただけて、たいへんうれしく、私にとっても大きな励みになりました。本当に有難うございました。

裁判はまだまだ始まったばかりです。裁判というものがこれからどういう手続きで進行してゆくのか?については、素人の私には、正直に言って、全く分かりません。見当もつきません。

しかし、私も、皆様とともに、精一杯、これからも加藤先生を支援し続けていきたいと思っています。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

(管理人)


産科/検討進む医師の集約化

2007年02月16日 | 飯田下伊那地域の産科問題

たかだかこの半世紀間だけを見ても、日本における分娩場所のトレンドは、自宅分娩中心から始まって、何度か大きく変化してきました。トレンドが大きく変わる変革期では、それまでの安定した体制が根底から崩れて、多くの人達が戸惑い、一時的な混乱も止むを得ないことだと思われます。

日本の他の地区と全く同様に、当医療圏においても、自宅分娩が中心で地域の産婆さん達が大活躍した時代のあとに、非常に多くの開業助産所、開業診療所、病院産婦人科(私立、日赤、公立)が共存した時代が続きました。その後、代が変わって、最近数年間は6施設(3診療所、3病院)で地域の分娩を担ってきました。

そして、今また、我々は時代の大きな変革期を経験しつつあり、みんなで暗中模索しているところです。

一体全体、この先、時代はどのように変化していくのだろうか? 我々自身がどのように変化していけばいいのだろうか? いろんな人たちが、各々の立場から、いろんなことを言ってますが、何が正解なのかは誰にもわかりません。これから、誰も経験したことがない新しい時代が始まります。

****** 毎日新聞、長野、2007年2月15日 

産科/検討進む医師の集約化

(略)

 飯田・下伊那地域では05年秋、分娩を扱っていた6施設のうち、松川町の下伊那赤十字病院など3施設が06年春から分娩を取りやめた。この3施設の分娩数は年間800件。大量の「お産難民」が出る可能性があった。地域で懇談会をつくり知恵を出し合った結果、診療所と病院の連携システムが導入された。

 妊娠中の検診は診療所、出産は飯田市立病院という役割分担を行うことで同病院の負担を軽減。同病院の医師や助産師、分娩台の数も増やした。同病院の産婦人科長、山崎輝行医師は「システムの開始から1年。トラブルはなく成功したと言える」と話す。  

 県などでは国の方針に基づき、産科・小児科の集約化を検討している。各病院にいる小児科医や産科医を地域の拠点となる病院に集め、そこで治療などを行うという。飯田・下伊那地域の取り組みがモデルケースとされている。検討委員会の関係者は「現状のままでは産科医の負担は増す一方。いずれ、島根県の隠岐島のように、お産が出来る病院が消滅する。余力のある今だからこそ、医療資源を集約化する必要がある」と説く。

(以下略)

(毎日新聞、2007年2月15日)


旭川日赤の産婦人科医3人 旭医大が派遣打ち切りへ (北海道新聞)

2007年02月15日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

事情はよくわかりませんが、医師引き揚げの通告から実際の引き揚げ開始までにたった2ヶ月間しかなければ、産科継続のために秘策を練ることも非常に難しいかもしれません。

産科休止が報道されている事例は非常に多いですが、報道されている事例は全体の中のほんのごく一部だけだと思います。

今、地域を代表する大病院の産婦人科が、相次いで、分娩取り扱い中止に追い込まれています。一つの病院が分娩の取り扱いを中止すれば、その周辺の残された病院には、さらに患者が集中し、それらの病院の助産師や産婦人科医の勤務状況がますます悪化して、ドミノ倒し式に、産科空白地域が加速度を増して広がりつつあります。

産婦人科医が去った後、病院に大勢の助産師達が取り残されて看護師として働く事例が非常に多いようですが、彼女達がせっかくの貴重な技能を発揮できないのは、その地域にとって非常に大きな損失だと思います。

医師は医局人事で病院間を移動しますが、助産師は病院に固定されて病院間の移動が難しいのが実情です。いくら医師だけを集約しても、集約先の病院では、分娩が集中して極端な助産師不足に陥ることになってしまう事例も少なくないと思います。医師と助産師の病院間の移動を連動させる必要があると思われます。

****** 北海道新聞、2007年2月14日

旭川日赤の産婦人科医3人 旭医大が派遣打ち切りへ

 【旭川】旭医大は、旭川赤十字病院(後藤聡院長、七百六十五床)産婦人科への常勤医派遣を早ければ五月末で打ち切ることを決め、同病院に通告した。旭川赤十字病院は「最悪の場合、産婦人科の一時休診もありうる」としている。

 同科には十三日現在、三人の常勤医がいるが、いずれも旭医大からの派遣で、三人のうち二人は三月末で、残る一人もその二-四カ月後に引き揚げる。旭医大から病院に通告があったのは今月一日。引き揚げ開始まで二カ月しかない中、同病院は診療継続に向けて独自に医師を探す一方、四月以降の救急患者の診療体制見直しを進めている。

(北海道新聞、2007年2月14日)


医師不足受け「里帰り出産」を制限 中津川市民病院 (中日新聞)

2007年02月12日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地域の分娩施設がどんどん減ってしまい、最後の最後に1つだけ残った施設に、地域の妊産婦さんがすべて集中するようになったにもかかわらず、常勤の産婦人科医の数は従来通り2人のままで据え置きという状況のようです。

いくら「里帰り出産」をすべて断ったとしても、常勤の産婦人科医が2人だけで、地域のハイリスク症例もすべて受け入れて、年間900件の分娩を扱うというのでは、お二人の先生方の勤務状況が、あまりにも厳しくなり過ぎるのではないか?と心配です。

参考:中津川市民病院での「里帰り分娩」に対するお願い中津川市公式ホームページ

****** 毎日新聞、2007年7月21日

託したい:07参院選・岐阜/1 医師不足

 年金問題や格差問題など、国政を大きく揺さぶる争点が浮き彫りになってきた参院選も、中盤戦に突入する。県内だけでは解決できない問題を国会へ届け、政策として生かすのが国会議員の役割でもある。県が抱える課題を追った。

◇広がる地域格差

 恵那市内で唯一、分べんを扱っていた「恵那産婦人科」を今年5月、22年間務めてきた1人の産婦人科医が辞めた。一杉明員(あきかず)医師、60歳。「今夜、自分の身に何かあったら、患者はどうなるのか」。1人で24時間対応しなくてはならない緊張と体力が、還暦を迎えた自分にはなくなっていた。考え抜いた末の結論だった。

 1人の産婦人科医が年間に扱う分べん数は100~150件が理想と言われる。一杉医師は平均約450件に及んでいた。一杉医師の退職で、同医院は閉院に追い込まれた。いま恵那市には、分べんできる産婦人科は存在しない。

   ◇

 土岐市立総合病院は、唯一の常勤医だった産婦人科部長(39)の退職で、今年9月から産婦人科を休診することを決めた。後任が見つかり次第、再開する予定だが、医師確保の見通しは立っていない。飛騨市民病院でも今年4月、常勤医が11人から6人に減り、小児科の常勤医がいなくなった。

 医師不足の進展にあせる県は同月、「県地域医療対策協議会」を設立し、医療関係者らとともに医師確保や病院支援などの議論を始めた。だが「国の医療費削減と医師数抑制政策が招いた結果。県や病院ができることはほとんどない」との声が上がる。医師の卵が研修先を選ぶ「研修医制度」も医療の地域格差を招いた。医学部生は卒業後4年間、研修医として勤務するが、選ぶのは最先端の医療技術を学べる都市部の病院が多い。結果、地方には研修医が来ず、現場の医師の負担が重くなっている。土岐市立総合病院の加藤靖也事務局長は「地方の医師不足の波は止められない。ならば、地方の中核都市に医師を集めて手厚い医療体制を整える方が、医師の負担も減り患者にも充実した医療を提供できるのではないか」と話す。

   ◇

 一杉医師は今年6月から、中津川市民病院(中津川市)で勤務を始めた。3人の医師が常勤している。「患者に責任ある医療を提供できる。恵那を辞めてよかった」と思うという。今月、同病院で出産した母親は以前、一杉医師が恵那で取り上げた赤ちゃんだった。「赤ちゃんが母親になるまで、医師としてずっと成長を見守れる。地方医療だからこそ味わえる感動とやりがい」。自分の口から出た言葉と現実とのギャップに、一杉医師はうつむいてしまった。

(毎日新聞 2007年7月21日)

****** 中日新聞、2007年2月11日

医師不足受け「里帰り出産」を制限 中津川市民病院

 東濃東部2市の産科医師不足を受け、中津川市は臨時に「里帰り出産」の市民病院での受け入れを5月以降制限することを決めた。恵那市の開業産婦人科医院が4月限りで診療を休止することを受け、この地域から“お産難民”を出さないための窮余の策。産科医師の確保を急ぐとともに、緊急事態への理解を求めている。

 恵那、中津川両市はここ数年、3医療機関で4人の産科医師が年間約1000件のお産を取り扱ってきた。中津川市民病院ではこのうち2人の産科医師を擁して昨年度は450件を扱い、本年度は500件を超す勢い。そこで、恵那市の開業医師が診療休止すると、900件前後を2人の医師で扱う緊急事態が予測されている。

 医師の勤務状況のさらなる悪化はお産のリスクを高め、医師が倒れるケースも予測されるため取扱件数の制限が必要になる。しかし、単純に人数を制限すると、地元でお産できない「お産難民」を生み出す可能性があるため、「里帰り出産」制限の策を選んだ。

 市の広報やホームページに掲載したところ、不満の声も寄せられているが、地域の産科事情を説明して理解を求めている。

 医師不足の背景として、臨床研修医制度により新人医師が都市部に集中することや、リスクの高い産婦人科を志望する人が減ったことがあるとみられる。同市民病院では「出産の機会の里帰りを楽しみにする親御さんの気持ち、中津川に愛着を持ってもらう機会を逸することは痛いほど分かるが、それ以前の瀬戸際にある。解除に向けて第一条件の医師の確保に手を尽くしたい」としている。【山本哲正】

(中日新聞、2007年2月11日)

****** 岐阜新聞、2007年1月31日

里帰り出産の受け入れ制限 中津川市民病院

 中津川市は30日までに、同市駒場の市民病院に開設している産科について、今年5月から、同市出身の妊婦が実家に戻って出産する「里帰り出産」の受け入れを制限する方針を明らかにした。

 隣接する恵那市に唯一ある産院が5月以降の出産受け入れを停止することから、地域医療として市民病院が担う両市在住の妊婦の受け入れを優先させるためで、中津川市は異例の措置に理解を求めている。

 中津川市と恵那市の産科医療は、中津川市民病院と両市に1施設ずつある民間の産院が担い、3施設で4人の産科医が年間計約1000件の出産を担当している。年間約400件を行ってきた恵那市の産院で受け入れ停止が続いた場合、中津川市の2施設で産科医療を行うことになる。

 同市民病院は2人の産科医がいるが、2002(平成14)年度に340件だった出産が05年度は450件で、年々増加傾向にある、このため、受け入れの増加は産科医の負担を増やし、出産の安全確保や産科の維持が困難になると判断し、「里帰り出産」の受け入れ制限を決めた。

 同市民病院は、大学病院などに医師の派遣増員を働き掛けているが困難な状況で「地域で暮らす妊婦の受け入れを優先する必要があると考えた。里帰り出産を予定している人は居住地での出産をお願いしたい」としている。受け入れの制限は同市の広報やホームページに掲載して伝えている。

(岐阜新聞、2007年1月31日)

****** 中日新聞、2007年1月19日

恵那市内 産科医ゼロの危機 4月で不在に、派遣要望進展なし

 恵那市で開業する唯一の産婦人科医院が4月限りで診療を休止することになり、同市の産婦人科医がゼロとなる可能性が高まっている。市は市内で働いてもらえる産婦人科医を探しているが、めどが立っておらず「お産がしにくくなれば、地域の人口減や少子高齢化に歯止めがかからなくなる」と危機感を募らせている。 (鈴木智行)

 診療を休止するのは、同市長島町中野の「恵那産婦人科」。同病院によると、五月から産婦人科医が不在となる見込みとなったため、お産は四月までしか受け付けていない。病院は閉鎖しないが、後任の医師が見つかるまで休むという。

 もし休止が続けば、市民は市中心部からでも車で三十分近くかかる中津川市、瑞浪市などの医療機関でしか出産ができなくなる。休止を知った市内の主婦からは「当面、次の子どもを産むのは控えた方がいいのかしら」という不安の声も上がっている。

 山間部の過疎化が進む恵那市は、新総合計画で二〇一五年の人口を現在から約二千人減の五万五千人にとどめる目標を設定。昨春には少子化対策推進室を設置するなど力を入れていただけに「(同病院に)何とか続けるようお願いしてきたが…」と頭を抱える。

 市は同病院の診療休止を把握する前から、市幹部らが厚労省や県外の医療機関に出向き、市立恵那病院などへの産婦人科医派遣を要望しているが、具体的な話は進んでいない。市は「努力を続けていきたいが、全国的な産科医不足は深刻。今後は首長らの協力で、自治体の枠を超えた医療態勢の構築も必要になる」としている。

 <県内の産科の状況> 県などによると現在、県内で産科医がいない市は本巣市だけだが、近くの岐阜市や北方町の病院で出産ができる。また、美濃市は、市立病院で、週二回大学病院から婦人科医が来て診察、山県市や飛騨市の病医院では婦人科の診療はしているが、三市ともお産はできない。

(中日新聞、2007年1月19日)


枝野議員と柳沢厚労相との質疑応答(国会衆院予算委)

2007年02月11日 | インポート

コメント(私見):

2月7日の国会審議のテレビ中継の映像をインターネットで見ました。今回の柳沢厚生労働大臣の答弁の要旨は以下の通りと私は理解しました。実際に映像を見ていただきたいと思います。

国会 衆院予算委-枝野幸男議員-10分から本論

以下、柳沢厚生労働大臣の答弁内容の要旨

『産科医が減少しているのは、分娩件数の減少と比例していて、分娩件数あたりにすれば産科医数は特に減っていない。従って、産科医療は病院のネットワーク化で効率化すれば十分に対応できるはずだ。

外科医の減少は、外科が呼吸器外科とか消化器外科とか細分化され、それぞれの科別に分けると統計上減っているように見えるが、実際の外科医の数は減ってない。

大野病院事件は現在公判中なのでこの事例に対する具体的答弁は差し控えるが、かなり特殊な事例であることは把握している。今後、同様の事件が起きない対策として、第三者機関による事故調査制度を早急に成立させる。

助産師不足の問題は、今後、看護師に助産師の免許を与えることと、休業助産師を現場復帰させることで対応してゆく。横浜の事件は起訴猶予となったが、看護師の内診が違法行為にあたるという現在の厚労省の認識に変わりはない。』 

(以上、国会での答弁内容の要旨)

要するに、現在進行中の産科医減少は、単に分娩件数減少に呼応した現象に過ぎず、今後、病院のネットワーク化と医療の効率化で対応することが十分に可能との認識でいらっしゃるようです。

大臣というポストは、そのポストに指名されるまで全然関係がなかった分野にいきなり飛び込んで、事態がどうなっているのか?を突然のにわか勉強で理解しなければならない御立場でいらっしゃるので、現時点では、産科崩壊に対して一般人並の乏しい理解でしかなくて、何の危機感も持ってないというのも、ある意味、仕方がないのかもしれません。その点、枝野幸男議員は現場の状況をかなり正確に把握してらっしゃるようで、現在の産科で問題となっている諸問題に対して鋭く質問をしていて非常に感心しました。

勤務医つれづれ開業日記のコメント欄で、この質疑応答の様子の文字化作業が現在進行中です。現時点で文字化されている部分をコピーさせていただきました。いつもお世話になっています。】

***** 国会審議テレビ中継、2007年2月7日

枝野幸男議員-10分から本論

【衆院予算委】枝野議員、周産期医療の改善等の必要性を強調、民主党ニュース

*** 勤務医つれづれ開業日記のコメントより
(僻地の産科医・さま)

枝野議員 「なぜ産婦人科と外科だけ(医師が)減っているのか?産婦人科の医師は94年から04年の10年間で8%減っている。」

柳沢厚労相 「いま手元にH16年の資料しか手元にないが、産科医10594人、施設はH17年2933施設と聞いている。」

枝野 「大阪市では市民病院を4施設から3施設に集約化したが、それでも産科はさらに病院を減らさねばならなくなっている。都市部でもハイリスクを扱える病院は足りない。」

厚労相 「産科の医師減少は出生数減少の問題。出生数あたりの医師の数は横ばいである。」

枝野 「なぜ産科と外科だけが減っているか?」

厚労相 「産科は出生数が減っているから。外科は専門化しており、呼吸器外科や消化器外科などを足すと外科総数はかわらない。」

枝野 「福島県大野事件の概要説明。知っているか?」

厚労相 「大野事件は特別な事案と心得ている。」

枝野 「大野事件は大変稀なケースで、執刀された医師が逮捕・起訴された。こんな初歩的ではない専門性の高い医療で、結果がうまくいかなかったからと逮捕されれば、リスクのある医療を誰もしなくなる。こういう場合にこそ法務大臣の指揮権があるのではないか。僻地医療でリスクのある出産を一人で担ってきた産科医だった。初歩的ミスではなく、真摯に対応もしている。しかし、僻地医療を一人で担い、高度な医療で残念な結果になることもある。結果が悪ければ起訴・逮捕になりうると全国の医師にメッセージしてしまう結果となっている。それでは産科などやってられない。」

厚労相 「この事件については公判中なので述べられない。一般的な話では医事紛争には第三者機関が必要。来年度をめどに厚労省として取組みたい」

枝野 「このように誠実に最善を尽くしても、ベストな結果が出なかった場合に、今後はどうしていけばいいのか? 厚労省からはこの事件に対して公式な表明がない。高度な医療技術をもった頑張っている医師に対して、あまり関わらない方がいいというメッセージを出すことになっている。現在リスクのある医療にかかわっている医師が、やめてしまっていいのか。医師の養成は10年くらいの時間がかかる。」
厚労相 「何が可能か検討していく。」

枝野 「起訴したあとでも公訴とりさげは可能なはず。このまま刑事罰の対象としていいのか?」

厚労相 「その検討が必要とは考えていない。」

枝野 「厚労省と法務省はきちんと協議すべき。横浜の堀病院の看護師内診事件でも違法ではあるが構造的問題と言ったが。」

法相 「助産師不足が背景にあり、構造的問題。今回の事件自体では内診による危険性が認められなかったなどの結果、起訴猶予となった。」

枝野 「厚生省は看護師の内診を違法としているが、今後どうしろというのか?」

厚労相 「厚労省としては違法と認識。起訴猶予となったのは厚労省として恥ずかしい。早く克服しなければ。」

枝野 「厚労省としての危機感を感じられない。看護師が内診するのがダメであれば早急に対応すべき。看護師でも一定の条件があれば内診してもいいのであれば、認めてあげるべき。現場は困っている。」

厚労相 「重大な問題と受け止める。違法状態とすべきではない。看護師免許もちつつ助産師資格を与えたい。」

枝野 「助産師不足なら看護師を活用すべき。頑張るべきは現場ではなく厚労省である。現場の看護師や医師に責任をおしつけるべきではない。足りないものを養成するのに何年かかると思っているのか? 違法とするなら、養成できてくるまでの期間はどうすればいいのか?」

厚労相 「厚労省としては看護師に助産師の資格を取ってほしい。また休業助産師を再教育して即戦力としたい。同時に拠点病院を中心としたネットワーク化で効率化したい。」

枝野 「現場の病院はどうすればいいのか答えてもらっていない。人手は足りない。H22になっても1000人の助産師さんが足りない。今回は起訴されなかったが、次は起訴されるかもしれないという不安を現場に押し付ける結果になっている。」

厚労相 「ネットワーク化すればいい。」

枝野 「助産師さんは拠点病院にだけいればいい存在ではない。出産の場である診療所にも必要。充足するまで違法と打ち捨てるのは無責任だ。」

厚労相 「とにかくネットワーク化、効率化だ。出生数が減っているから仕方ない。」

枝野 「医療現場にしわ寄せがいっている。総理はどう考えますか?」

安倍総理 「今回の起訴猶予は構造的問題でもあり、個々の問題でもある。助産師が足りないのは事実。助産師養成・発掘(とはいってないが)ネットワーク化、派遣医師の支援をしたい。」

枝野「大甘な厚労省の予測でもH22に1000名の助産師が足りない。日本産婦人科医会の現場の声では、1343箇所の診療所を調査した結果、助産師0%充足が250施設、30%以下が353施設、70%以下が532施設、70%以上は208施設であり、助産師不足解消には最低10年かかるといわれている。建前は美しいが、現場医師はどうしたらいいのか? 大野事件も構造的な問題ではないか。そもそも365日24時間の僻地産科を一人で支えること自体、現場医師には過剰な負担。ミスも出やすく、ただでさえ危険な出産が一層危険になる。厚労省は現場が働きやすくなるような環境を作るべき。」

厚労相 「大野事件については答弁を差し控える。一般的に第三者機関で解決したい。また無過失補償でも解決をしたいと思っている。」

枝野 「産科医療は弱体化しつつある。現場でベストを尽くしても患者が亡くなる事もあり、逮捕されるかもしれない。厚労相の言っているのは建前ばかり。」

安倍総理 「この事件は公判中なので答えられない。」

枝野 「起訴された事件でも公訴取り下げをできるはず。このケースには真摯に検討をして欲しい。」

勤務医つれづれ開業日記の別のコメントより
(ブログ読者の有志の方々による共同作業)

開会日:平成19年2月7日 (水)
会議名:予算委員会
収録時間:7時間 10分
発言者一覧
説明・質疑者等(発言順): 開始時間 所要時間
 金子一義(予算委員長) 9時 00分 01分
 猪口邦子(自由民主党) 9時 01分 40分
 斉藤鉄夫(公明党) 9時 41分 21分
 枝野幸男(民主党・無所属クラブ) 10時 02分 2時間 00分
 金子一義(予算委員長) 13時 00分 01分
 高井美穂(民主党・無所属クラブ) 13時 00分 1時間 01分
 川内博史(民主党・無所属クラブ) 14時 01分 1時間 10分
 小宮山洋子(民主党・無所属クラブ) 15時 11分 1時間 51分
答弁者等
大臣等(建制順)
 安倍晋三(内閣総理大臣)
 長勢甚遠(法務大臣)
 伊吹文明(文部科学大臣)
 柳澤伯夫(厚生労働大臣)
 甘利明(経済産業大臣)
 高市早苗(沖縄及び北方対策担当大臣 科学技術政策担当大臣 イノベーション担当大臣 少子化・男女共同参画担当大臣 食品安全担当大臣)

 10:19 枝野
 まずこどもをうみたいと思っている人が子供を安心して産むためには産科医療・周産期医療がしっかりとしていなければいけません。ところが日本では医師全体の数は伸びてはおりますが、私が公表されている統計データーで把握をできている厚生労働省の04年度の調査で、えー減っているのは、産科と産婦人科と外科だけであって、たとえば94年から04年までの10年間で産婦人科の医師は8%ダウンをしている。とこういう統計になっております。もしそのもの情勢わかっておれば厚生労働大臣お願いします。

 11:20 柳沢
 えーまぁあのあとおいおい○○委員からご質問がありますのであとから答えさせていただきますが、いま委員の私もまさしくそのとおりだと、思います。あえて申し上げさせていただきますならさる12月25日に人口の問題に関連して、合計特殊出生率1.39を目標にしたそういうまぁ政策をたてたらどうかというご質問を委員から伺いました。そのとき私は、そういうことは適切ではないと思うと、というのは結婚をする、子供をうむというのは、まさに個人の自由に属する問題であって、我々の国は、そういった自由の意思の複合体としてつくられているという風に自分は考えるからだということを、申させていただいたんです。これは付け焼刃で申したのではなくって私はその前にまぁちょっと遠い話ではありますが、昭和53年大平内閣がスタートするときに家庭基盤強化ということをタイトルに歌った政策を打ち出しました。あのときに随分議論がありました。家庭生活そのものをとりあげることではないかという議論もあった一方で、家庭に政治が入り込むことはよくない。せいぜい政治がやりうることは家庭基盤の制度なんだ。そこにとどまって頑張るべきなんだ。そういう議論が対立いたしまして、最終的に家庭基盤の整備ということが政策目標のなったとそういういきさつを私もよく承知し記憶もありますのでそのような観点から発言をしたということであります。(13:20)さて産婦人科のお医者さんの数ということでございますが、さて産婦人科のお医者さまの数は、H16のものしかございませんが、産科または産婦人科を主科とするお医者さんの数は10592人 分娩を実施した施設の総数は2933人ときいています。

 14:00 枝野
 「(略)いま数値をだしていただきましたが、今、現実リスクのある妊娠(略)リスクの高い妊娠。分娩を扱える病院が明らかに急激に大幅に減っている。これは大阪の例でありますが大阪市が4つある市立病院を3つ再編しましてそれでも病院をへらさないといけないところへきていて、人口減少の地域ははもちろんのこと都会でもリスクのある分娩出産を扱える産科の医師が減っている。という状況が背景にあるといわれている。この現状認識は厚生労働大臣にしたらお認めになりますか。(16;32)

 16:44 柳沢
 医師の数が医療の需要とどのようにマッチするかということは我々にとっては重要な課題でございます。いうまでもないことでございます。まぁ特に今先生がご指摘になられたような産科の医師の場合は出生数の減少というようなことで、実は総数としても減っているわけではありますが、出生数辺りの医師の数が減っているわけではない。だいたい横ばい状態。(17:29)ということは、そういうことを行政としてやればいいかということですが、やっぱりこれはネットワーク化というか、拠点病院を指定してですね。あとは診療所を含めてネットワーク化してリスクの発生した医療については早急に拠点病院に搬送して、こういう体制をつくるのが大事であるとなっていまして、現在周産期と周産期医療ネットワークというようなものを構成しつつ拠点病院もしっかりと整備しつつあることによって、こういうある種の効率化というか効率化というと経済的みたいですが、医療の安全性を高めながらという方向性での医療を構築しております。(18:30)

 18:40 枝野
 そういう答弁は、あきらかに現場のみなさんとずれているんではないか、と思うんですね。たしかにですね、その拠点化をしなければならないという部分もあるかもしれない。しかし先ほども申しましたけれど、出産はもともとリスクがあるとわかっている場合もありますけれど、実際に出産分娩に入って、あら急に破水ってこともあるわけでして、その場合にたとえば拠点化をして結果として身近な診療所は家から歩いて10分だけど、病院は車で10分です。そういう拠点化だったらわかりますよ。ところが現実におこっていることは島からリスクのある出産は扱える産科の医師・病院がなくなる、車で何時間も行かないといけない、実際に出産・分娩のときというのは妊婦の方だけではなくてですね、うまれた跡のお子さんのことだとか、いろんなことを考えると、配偶者である男性とか、おじいちゃんおばあちゃんとか家族とかみんな家族ぐるみでのプロセスであるわけですよね。そのときに何かあったときには救急車で二時間、たとえば都市部においてはギャクにみんな満床でそんなリスクの高い患者を運び込まれても、受けられないよって。関西でありましたよね?それで出欠死をされた妊婦さん。そういうのがつぎつぎにおこっている。だけど拠点化だから仕方ないんだ。ということで、本当に安心して生める育てることのできる社会づくりをしているとゆうことになるんでしょうか?私はまったく逆の方向に行っているんじゃと、妊婦のみなさんには健康だけではなく心理的なことも親身になってくださる医師のみなさんや助産師の皆さんが必要である。普段はこっちの病院で、いざとなったらあっちの病院行くからといって果たして実際にさぁ子供を生み育てましょうというこういうときに安心になれるでしょうか(21:37)

 21:37 柳沢
 枝野委員がご指摘いただいた離島、僻地に関しては格別の措置をいたしておりまして、出産の日が近くになったときには近くに来て宿泊して出産の日を待つ。またその運賃・宿泊費は別途の手当てをいたしております。突然何か起こったから拠点病院にいってそういうことがうまくいくのかとお話をいただきましたが、これは今それぞれの県で医療計画を策定しておりまして、医療提供体制の拠点病院を中核としたネットワーク化もしております。実は先行事例もありまして先般視察に行ってきました。E2システムといって、お医者さんが、病院のお医者さんと診療所のお医者さんが両方とも行き着け、情報が常に交換し合っている。こういうネットワーク化を実現しているところも実はございまして、こういう形で私どもの今の医療体制を安心のものにしていく努力が私には必要であると思いますし、的確に行われることが大切であると考えています。(23:27)

 23:30 枝野
 あの~、別の視点から聞きますと、先ほど私が取り上げました、04年度の厚生労働省調査の時点でですね、医師の数が減っているのは産婦人科と外科だけというふうに厚生労働省調査の結果になっています。この傾向は大きく変わっていないだろうと思います。なぜ産科、産婦人科と外科だけ減っているのか、大臣はご理解されてますか?
 
 24:15 柳沢
 え~、ま、産科はですね、先程来私も触れたかと思いますけれども、出生数の減少で医療ニーズがはっきり低減している、ということの、まあ、反映というふうに、え~、承知をいたしております。
 外科については、一般の外科という捉え方をすると確かに減少しているんですけれども、医療の専門化が進捗しておりましてですね、先生ご承知の通り、呼吸器外科、消化器外科・・・消化器内科もあるし消化器外科もあるんです、呼吸器内科もあるし、呼吸器外科もあるんです。そういうものについてですね、外科という一括りをして、まあ、あの~、統計を取ると、いうようなことをいたしておらないと、一般の外科という、つまり外科そのものが縮小しているというふうには我々は考えておりません。
 
 25:28 枝野
 あの~、これも通告しているんでたぶんお勉強してこられていると思うんですが、福島県の大野病院事件という事件の経緯、それから私この問題を法務委員会で取り上げたことありますが、その時の経緯・・・大臣は事前に勉強して頂いてきておられるでしょうか?
 
 25:57 柳沢
 え~、これはですね、大野病院事件につきましては、私ども、個別の事案であると言うことで、これは従来の慣例によりまして、ここで所見を申し述べることは差し控えさせて頂きたいということでございます。

 26:20 枝野
 この大野病院事件というのは、福島で起きた事件なんですけれども、え~、出産分娩の際に、非常にレアなケースであったようでございますが、胎盤が癒着をして、その処置のプロセスで母親が出血死をされてしまったと、大変お気の毒な事例であって、残されたご家族の皆さん、あるいはご本人の無念というものは、本当に何とも申し上げられない事件であるというふうに思います。
 で、この事件について、その執刀した産科の医師が昨年、逮捕されて・・・業務上過失致死で、起訴をされたという事件でございます。
 で、私の所にも、産科の医師ではありませんが、知り合いの医師から、こんな事件を放置しておいたらリスクのある医療に従事をする医師はいなくなりますよ、というご指摘を頂きました。
 その後、あるいは同時並行かもしれませんが、産科、産婦人科の学会等、全国の関係者の皆さんが、これはひどいじゃないかということで、厚生労働省にも要望をあげたというふうに思います。
 私は法務委員会でこの問題を取り上げまして、まだ起訴前でございましたので、私はあえて、これは、こういう場合のためにこそ法務大臣には警察に対する指揮権があるのではないかと、いうことを申し上げました。
 個別の刑事事件に今なっておりますので、起訴してしまっていますので、ま、起訴の取り下げは検察によってはできますから、それも本当はお考えを頂かなくてはいけないと思うんですが、私はあの、医師の刑事責任を甘く見ろと言うつもりは全くありません、これはあの、ご存じの方も多いと思いますけど、私はこの場で十数年前、薬害エイズ事件でむしろ医師の刑事責任をちゃんと問わないことに対して、激しく指摘をして、実際にその後医師の刑事責任を問うという形で事件が推移を致しました。従いまして、刑事責任を負うべき事件についてはちゃんと医師の責任を問わなければならないというふうに思います。

26:20~

 このケースの場合は、僻地医療であって、一人の産科の医師でその広域地域のリスクのある出産、分娩を、一人でずっと担ってこられました。そしてそれは、いろいろと専門家の方のご意見も聞かせていただいてますが、少なくとも初歩的なミスであるとか、あるいはその、例えば酔っぱらって手術をしたとかですね、道義的に許されないようなことではない・・・真摯に対応して、しかもそれがもしとことん法律的に突き詰めて、更正要件的に業務上過失致死に当たるのかどうか、ということは最終的にはこれは裁判所が決めることだとは思います、その可能性はあるからこそ検察は起訴したのかもしれません。
 しかしながら、僻地医療をたった一人のお医者さんで担っていて、真摯に対応して、しかも初歩的な医療ミスではない、高度な医療の非常にレアなケースへの対応、残念ながら力及ばずお母さんが亡くなられてしまったというケース・・・ご本人も道義的な責任を強く感じておられる。
 これを逮捕して、起訴をして、刑事処分をする・・・なるほどリスクの高い医療をやったら、全力を尽くして、真摯に全力を尽くしても結果が悪ければ刑事責任を取らされる可能性があるんだと、こういうメッセージを政府は全国の高度医療に携わっている医師の皆さんに発信をしてしまったんです。
 で、起訴をする前でしたので、こういう時のためにこそ法務大臣の指揮権という制度があるんじゃないんですかと、私は指摘をしました。そして、起訴というのは起訴便宜主義ですから、更正要件に該当したら全て起訴をするということではない、それが起訴をしなければならない、起訴するに値するかどうかというのは、検察が判断できる、その事件ごとに、と、いうことであります。

26:20~

 刑事事件になってますから、更正要件に該当して形式的には処罰対象になる事件かもしれませんが、この事件、やはりどうトータルで見てもこの今被告人になっている医師が逮捕され・・・逮捕されるということは逃亡・証拠隠滅のおそれがあるから逮捕したわけで、逮捕自体がそもそもおかしい、もし起訴するとしても在宅事件ではないかと・・・なおかつその今言った全体の医療、高度医療、リスクの高い医療に対して、触らぬ神に祟りなしということをこういう時に使っていいかどうかわかりませんが、まさにリスクの高いことをやって真摯にベストを尽くしても刑事責任が問われるかもしれない、と、こういうメッセージを発信してしまった。その後現実に、それではとてもリスクの高い産科医療やってられないよと、あるいはそんな科は選択したくないよという声は、各所で上がっています。
 こういう実態を厚生労働大臣、どう考えますか?

 32:10 柳沢
 え~、このまあ、事案については、あの~、いろいろ経緯もあるようでございますが、ここではこれを言明する、所見を述べることは差し控えさせて頂きますが、いずれにしましても、こういうことに非常に危機感を持って関係の団体等もですね、これでは困る、と、いう声を上げていらっしゃることもございます。
 で、医事紛争につきましては、産科医療に限らず、医療事故の真因究明をですね、第三者が行うということがやはり医療の透明性を増し、患者にとって納得のいく医療確保のためにも必要だというふうに考えておりまして、このような仕組みを構築するという方向で現在いろいろな検討が行われているところでございます。
 年度内を目途に、厚生省としての試案をとりまとめまして、これをパブリックコメントあるいは有識者による検討にかけまして、来年度において最終的な仕組みを確定したいということで、取り組ませて頂く予定になっております。

 33:37 枝野
 あの~・・・今後ね、医療事故について、どういうふうにするのか・・・もちろん、特に医療事故で人の命が失われているという場合については、例えばベストを尽くして、真摯にベストを尽くしたかどうかをちゃんと事務的にチェックしないといけないということはあるだろうと思います、あるいはあまりにも初歩的な平均水準以下の技量で、というようなことがあったら、それは一定のペナルティと言いますか、何らかの処置は必要だろうというふうに思います。
 だけれどそれと同時に、真摯に、誠実に最善を尽くしなおかつとても初歩的なミスとは言えないような、そういったケースが現に今、刑事裁判にかけられているんですよ。で、それに対して、厚生労働省からも法務省からも、何のメッセージも発信されていないんですよ。これで本当に・・・もちろんそれでも自分は産科の医療に使命感を持っているんだということで頑張っておられる産科の医師の方、たくさんいらっしゃいます、あるいは高度の外科の医療に携わっている方、たくさんいらっしゃいます。
 しかし、やはり傾向として、それよりも、医療ミスがあっても死亡とかという重大なことに繋がらない医療の方が無難だよねという方向にどうしても流れていってしまうのは、ある意味人間のやることですから当然だろうと思います。

 ですから、これを何とか食い止めないといけない、政治として行政としてしっかりとメッセージを出していかないと・・・
 これ、医師の養成というのはそこから何十年間に影響していく訳でありまして、他の科をやっていた人が時代状況が変わったからじゃあ産科に変わりますと簡単になれる世界じゃありませんから、あの~、例えば今現に医大に通ってらっしゃる方々がこれから数年間どういう道を選択されるのか、あるいは今現に産科の医療をやってる人がとてもやってられないよといって離れている方が現にいらっしゃる、そういって離れて数年経ってまた戻ってきましょうって、簡単にいかないわけでありますよ、しかも高度の医療に近い人ほど、つまり技術を持っている人ほどそのリスクを高く感じている・・・
 先ほど、関西で出産時出血死をされたケース、最近もあったなという話をしましたけれども、いやあうちは満床だからとかいって、リスクの高い患者さんは危ないと思ったら受け入れない方が一番無難なんです、刑事責任を問われないようにすれば。
 と、いう現実を、本当に厚生労働大臣、そんな悠長な話でいいと思ってるんですか?

 38:24 枝野
 少なくともですね、法務省とあの時私は申し上げたと思うんですが法務委員会で。ま、当時と大臣が替わってますが。厚生労働省と法務省との間で、真摯に協議をして、これがまさに現場に与える社会的影響、それから逆に法務省としての、あるいは検察を通じて持っている法と証拠の状況として、もしかすると私が情報不足で、その初歩的なこういう状況だとしても処罰に値するようなケースなのかもしれない、それは私はまさに刑事裁判の証拠をその時点で見ている訳ではない、現時点でも公判に出てきているものしか見ていませんから、ま、しかしどうも公判に出てきている状況を見ても、最初の私の判断は間違ってないなと今のところ思っておりますが、それこそ検察・法務の持っている証拠と状況と医療の現場の実態ということをせめて協議をして検討するぐらいしたらいいじゃないかと、私あの時申し上げたんですが・・・どうもされてないように思うんですが。先程来、個別の案件をうんぬんって話ありますが、実際にその後個別の案件をちゃんと法務省というか検察庁は判断しているんですよね?
 
 39:26
 あの~、横浜の無資格助産事件というのがありまして、つい最近起訴猶予になりました。この起訴猶予の理由の中に、検察は、構造的問題というのを挙げていると報道されていますが、間違いありませんか法務大臣?

 39:55 長勢
 え~、今ご指摘の事件でございますが、横浜地検におきまして不起訴処分をいたしました。その際に、一つは本件の背景には助産師偏在等を原因とする産科個人病院及び産科診療所における助産師不足があり、本件は周産期医療における構造的な問題の一端であって、事態の改善に向けて施策が推進されている分野において、被疑者らを処罰することが相当であるとは考えられないこと、その他、具体的な危険がないとか、あるいはそのうち是正措置(?)がとられているとか、あるいは退職されているとかいったような理由をあげてこれらの諸般の事情を考慮して起訴を猶予したものであるという旨の発表をしたものと承知いたしております。
 
 40:54 枝野
 報道によるとですね、今法務大臣がお答えになったように、横浜地検は構造的問題があるということも理由の一つにして起訴猶予にしている・・・起訴猶予というのは構成要件的には違法である、刑罰に該当する、けれども起訴しないという判断をした訳であって、・・・
 厚生省は、報道によるとこれは看護師による内診行為、助産師でないとできない内診行為について看護師が行っていたという事件でありますけれども、「厚生労働省は違法としているが」、ということでありますが、今のような横浜地検の構造的問題であるという指摘を受けて、どうするんですか?

 41:47 柳沢
 え~、まあ、厚生労働省としては法と証拠に基づいてこれは違法であると、いうことで、まあ、立件されることをそのままにしておいたということでございますが、判決においてですね、構造的問題をですね、いわば、理由とされた、そうした扱いがされたことについては、司法の側からもこの問題について重大な問題提起があったと、いうように受け止めております。
 これについては早急にですね、裁判に置いてですね、そのようなことを指摘されるよな、いわば行政としては恥ずかしいと、いうようなことを言わざるを得ないと思うんですが、そういう状況を早く克服しなければならないと、このように思っております。

 42:53 枝野
 あの~、正確に言いますと、裁判ではなくて裁判の前、起訴をしなかった、しかも起訴猶予ですから不起訴・・・あの~、嫌疑なしではありませんから。嫌疑なしとか嫌疑不十分とかではありませんから、犯罪には当たる、当たるけれども起訴をしない。その理由として構造的な問題として・・・つまり、犯罪には形式的には当たるけれども、起訴をしないということの理由として、いわば、そういう露骨な表現でありますが厚生労働省の怠慢を指摘されてるんですよっ。
 その、その危機感が、今の御答弁から全く感じられないんですよ。
 危機感、必要じゃないですか。
 これがですね、厚生労働省の顕示している方針の通り、看護師が内診をすると・・・助産師に代わってするということが、いけないことだ、よくないことだ、危ないことだと考えるならば、早急にそれに代わってどうするのかしなきゃならないし、そうではなくて、いや何らかの条件をクリアすれば看護師でもいいんだということであるならば、それはそれでこうして現場で対応してやっている病院・医師あるいは看護師が、その刑事罰の危険にさらされないで安心して仕事が出来るように、どっちか早急にしなきゃいけないじゃないですか、どっちにするんですか!?

 44:19 柳沢
 失礼しました、これは起訴猶予ということであれば、これは検察官の判断ということでございますので、その点は訂正致します。
 先ほど申したように、そうしたことを、仮に検察官であれ、指摘をされて、いわば省の処分を差し控えると、いうことはやはり我々の行政に対して重大な問題提起をしているということでございます。
 今、議員は、そもそもそうしたことを許してしまう、そういう法改正をすればいいじゃないかと、いうようなことを選択肢の一つとして申されたように私はお聞きしましたが、しかし私はやはりそうしたことはなすべきではないと、このように考えておりまして、我々は、看護師資格を持ちながら同時に助産師資格を持つ、これは両者を養成する過程等に顧みられればそんなに難しいことではない訳ですから、至急にですね、夜間の講習か何かによりまして、看護師資格を持つ者に助産師資格を与えるというような再教育を早急にやるべきであると、このように考えております。

 45:35 枝野
 あの、時間があれば後でやろうと思っていますが、私、助産師さんの、看護師さんとは別の・・・何というんでしょう、知識、技能というものをもっともっと生かさなきゃいけないと思っていますので、助産師さんが不足しているのであれば、その養成ということに早急に取り組む、それはまさにその通りでありますが、まさに最初の柳沢さんの例の松江での発言の、女性が頑張って欲しい・・・
 頑張るのは女性の前に厚生労働省なんですよ。これも、厚生労働省の今までの厚生行政のツケを現場の医師・看護師に押しつけてるじゃないですか。
 いや、これから養成するにしたってですよ、養成されて実際に現場が構造的な問題と検察から指摘されないようにしっかりと数がそろって、どの病院でも必要な助産師さんがそろうというまでに何年かかるんですか?
 その間、実際に目の前の患者さんを抱えている病院は、患者さんを抱えているけど助産師は足りないと、だけれども目の前に患者さんがいるんだからそれは対応しなきゃならないと、そういうことの中で形式的には違法であると、形式的には違法であるけれどもそれをやらなければ現場が回らない、そのツケを現場の病院に押しつけているんですよ。
 そういう発想が、こういう社会政策にとってあべこべだと言っているんですよ。
 どうするんですか、養成、育成する、何年かかるんですか?
 そろうまでに。構造的な問題が解消されるまでに。
 その間、違法な状態、どうするんですか?
 いやあ、じゃあ違法じゃない状態で、実際に患者さんが来ても、うちは助産師さんが足りないから他へ行って下さい、ということで、たらい回しするんですか。
 どうするんですか!?

 47:34 柳沢
 もちろん、中期的というか、先生は時間が掛かるというのであえて私は中期的というお話しをさせて頂きますけれども、厚生労働省としては先ほど申し上げるように看護師に特別な研修をして助産師資格も持って頂くと、これも一つの方法です。
 それからまた現にですね、現役を引退している助産師さんを再研修して、至急即戦力の現場に戻って頂くと、こういうことも考えておるわけでございます。
 同時に、先程来申し上げております通り、とにかく拠点病院を中心とするネットワークシステムというものを構築致しまして、これに対して対応していく。これは周産期医療につきましてもそうですし他の医療についてもそうした考え方で、とにかく医療を今までのようにポツポツと独立して切り離されて存在している病院あるいは診療所の問題ではなくて、その地域全体のネットワークの中で、医療ニーズをきっちりと対応していく、こういうようなことを考えているということでございます。

 49:00 枝野
 答えて頂いてないんですよ。
 現場の病院はどうすればいいんですか?
 厚生労働省の05年12月に出している看護職員需給見通しでもですね、助産師について、平成22年で1000名不足をする、厚生労働省自身の需給見通しでも平成22年で1000人不足すると、出ているんですよ。現場の実態からすれば、これの平成18年度の需要見通しと供給見通しと、ま、こういうところで需要と供給と使っていいのかと人の問題なんでそもそもそう思いますけれども、厚生労働省の文章にそう書いてありますからそのまま読みますが、1700と出ているんですが、現場の実態こんなもんじゃないですよ、助産師さんの不足は。その甘い見通しに基づいても、そして5年後の22年でも1000名不足すると言っているんです。
 その間、これ実際に検察から書類送検をされているんですね、病院は。
 書類送検されているけれども、構造的な問題だから、起訴は勘弁してあげましょうと言われているんですね。でも構造的な問題だから、この病院はもしかするとこういう事件で書類送検されたから、助産師さんを何とかかき集めてやるかもしれないけど、構造的な問題なんですからどっかでやっぱりまた同じように書類送検されるかもしれない、今度はもしかすると起訴されるかもしれない、だけど助産師さんは実際足りない、こういう状況が数年間放置されるんですよ。
 そのツケを現場に回すんですかと、聞いているんですよ!?

 50:34 柳沢
 これは、重ねての答弁になりますが、今のシステムを、各診療所あるいは病院がバラバラにあまり連携しないで対処しているというものを、もっとネットワーク化していろいろなところに円滑に、一番適切な医療を受けられる所に患者さんを持って行く。こういうことによって、需給の、まあ確かに需給という言葉を使ってはいけないのかもしれませんけれども、マッチというものを、我々としては的確に計っていきたいという施策を当面追求している、もちろん、マンパワーの不足についてもこれを軽視するとか等閑しているとかではなくて、それはそれとして対処しようとしている。その両面から対処している、というのが現状であります。

 51:42 枝野
 あの~、ネットワーク化・拠点化自体の話、先程来私はそれ自体がこのケース、このケースというのは産科医療について、どれぐらい意味があるのかということ自体疑問に思っていますが、仮にそれがあったとしてもですよ?、助産師さんというのは、その拠点病院のような大きな、つまりリスクのある患者さんについて妊婦さんについて対応すべき病院にだけいればいいんじゃなくて、まさに日常の、かかりつけ的診療所においても、内診等について医師か助産師でなきゃできないことになっていて、その特に診療所における、診療所における助産師の充足率・・・基準に対しても何人いるのかということについても、大幅に不足しているんですよ。
 だからネットワーク化が解決策にはならないんですよ。


加藤先生の初公判後のインタビュー記事について

2007年02月10日 | 大野病院事件

コメント(私見):

子持ちししゃも様のコメントからの情報で、加藤先生の初公判後のインタビュー記事がネット上に掲載されてました。

気力体力とも人生で一番充実している39歳の医師が、長期間にわたり臨床の現場から離れざるを得ない状況に置かれ、本当につらい日々だと思います。これは、地域にとっても、本当に大きな損失だと思います。

思えば、私も同じ年齢の頃は、加藤先生と同様に僻地の一人医長でした。毎日毎日、外科や泌尿器科などの病院の同僚の先生方に手術の助手をお願いして緊急手術で明け暮れていました。忙しすぎて1週間以上にわたって1度も帰宅できず、自宅を守る家内から、「生きてる?」という電話がかかってきたこともありました。

今回の裁判は他人事とは思えません。

トラックバック:速報 大野病院初公判傍聴記

*** 以下、ネット上のインタビュー記事の一部抜粋

(前略)

--逮捕されたときの状況とそのときの気持ちを聞きたい。
加藤医師 インターネットなどでいろいろな情報を見ていると、診療中に逮捕されたとの記載もあったが、そうではない。逮捕されたのは土曜日で、その3~4日前に警察から病院に連絡があり、家宅捜索に入るため、朝から待機するように言われた。土曜日は外来が休みだが、急患などに備えて近隣の病院の先生に応援に来てもらうよう手配もした(編集部注:当時、福島県立大野病院の産婦人科医は、加藤医師一人)。午前中に2時間くらい家宅捜索があり、「警察署で話を聞く」と言われた。その前にも3回くらい警察署で話をしており、それと同じかなという感覚だった。(所属している)大学にも電話し、「警察に連れて来られた。逮捕されたら、どうしようか」などと冗談で言っていった。ところが警察の取調室に入ったら、突然逮捕状が読み上げられた。「これは、こうだからこうしたんですよ」などと説明もしたが、もちろん聞き入れてもらえなかった。

--今日は法廷だけに出て記者会見に出ず、そのまま帰るという選択肢もあったが、公の場に出た理由は。
加藤医師 逮捕当初は、逮捕されたという事実、その後のマスコミの報道、インターネットなども見て、遺族の思いも考えながら、私自身、かなり落ち込んだ。話をする踏ん切りが付かなかった。今回も、私は言葉に詰まるタイプであり、言いたいことを言えるのかという不安もあった。また、物事にはいろんな見方があり、変な受け取られ方をすると遺族が傷付くと思った。けれど、逮捕からほぼ1年がたち、気持ちの整理もでき、周囲の状況もやっと理解できるようになった。また私を支援してくれている医療従事者に元気でいることを伝えたかった。今日も、昼食前までは記者会見に出るとは全然思っていなかったが、記者の方から質問状を受け取り、弁護士の先生方の説得もあり、記者会見に出ることを決めた。
主任弁護人 彼は昼前までは出るつもりもなかった。ただ初公判は新聞で報道され、顔写真も出る。これを機会に自分の気持ちを話しておいた方がいいのでは、と説得した。

(中略)

--全国の産婦人科医などから支援の声が数多く寄せられているが。
加藤医師 本当にありがたく、心強く思っている。

--産婦人科医は今、志望する医師も少なく、厳しい現状が伝えられているが、そのことをどう思うか。
加藤医師 私も産婦人科医であり、いろんな現状を聞くが、今回の裁判が一因になってしまったと申し訳なく感じてもいる。

--今日の裁判の特徴として、検察側が遺族の心情が書かれた供述調書を読み上げることに時間を割いた点が挙げられる。加藤医師には非常につらい時間だったと思うが。
主任弁護人 あの調書は加藤医師にとって不利なものであるという認識はあったが、遺族の率直な気持ちであるとして証拠として採用することに同意した。同意しなければ、遺族の何人かは法廷に呼ばれ、証言することになる。それは遺族にとって二重の悲しみであり、負担、心理的な圧迫となる。われわれも非常に悩んだが、結局、これ以上は遺族に迷惑をかけたくないと思い、証拠として同意した。しかし、本件で問われているのは医療行為の過失の有無であり、検察官が朗読したことは公正とはいえないだろう。
弁護人 予期せぬ結果、死に常に向き合わなければいけないのは、医師の務めである。いつ何時、自分の患者さんを意思に反して失うか、その「まさか」に向き合わなければならず、常にそれにさらされているのが医師という職業だろう。遺族がどんなに悲しみ、どんなに憤っているか、それを私たちが受け止めなかったら、弁護はできない。

(以下、略)


開業助産所、3割ピンチ 嘱託医義務化に確保厳しく (朝日新聞)

2007年02月10日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

日本における周産期死亡率は年々減少し、過去20年間で約4分の1、過去10年間で約2分の1に減少し、平成16年の周産期死亡率は3.3(妊娠満28週以降の死産率:2.2、早期新生児死亡率:1.1)です。最近の日本の周産期死亡率の少なさは、群を抜いて世界一の水準となっています。それは、日本の周産期医療が世界に誇れる勲章と考えられます。

かつては日常茶飯事だった死産や新生児死亡も、近年では非常にまれなこととなりました。しかし、世界で一番少ない早期新生児死亡率とは言っても、1年間に111万人生まれる中に、1184人の早期新生児死亡があり(平成16年)、それらを分娩に立ち会った産婦人科医の責任として処罰や莫大な賠償金請求の対象にしようとする動きが近年ますます強まってきました。

そのため、現在、日本では、多くの現役の産婦人科医達が産科の現場からどんどん離れています。また、若い新人医師が産婦人科を専門とすることを嫌う傾向が非常に顕著となっています。

多くの産科施設が分娩取扱いを中止して、都会でも田舎でも産科施設がどんどん減っていて、日本全国に産科空白地帯が急速に広がりつつあります。この国で、現在の周産期死亡率の水準を、今後も維持してゆくことは非常に難しいのではないか?と多くの人が考え始めています。

助産所での分娩であっても、当然、病院での分娩と同じく、『30分ルール』が適用されるはずですが、助産所では容態が急変した妊産婦の母児の救命処置が一切できません。分娩経過中に何か異変があれば、すぐに救急車で提携病院に母体搬送する必要があります。従って、『助産所の立地が、提携病院まで15分以内に母体搬送できること!』という条件はやはり必須だと思います。また、『常に病院と緊密に提携し、何か異変が起こった場合は、必ず、手遅れになる前に患者を病院に搬送すること』も必須条件になると思います。

今は、どこの病院の産科も存亡の危機に立たされていて、そんなに余裕がありません。助産所の助産師と病院の医師との間に互いの信頼関係があって、初めて、提携関係の契約を結ぶことも可能となると思います。

『30分ルール』: 多様な施設を許容しつつ安全性を確保するために、分娩を取り扱うすべての施設で、急変時に30分以内に帝王切開による児の娩出が可能な体制が整備されていること。

参考:出産「24時間支援センター」を学会が提言 (読売新聞)

****** 朝日新聞、2007年2月10日

開業助産所、3割ピンチ 嘱託医義務化に確保厳しく

 年間約1万人、全国のお産の1%を担う開業助産所が存亡の危機に立っている。4月施行の改正医療法で、産婦人科の嘱託医を持つことが義務づけられたのに、日本産婦人科医会が産科医不足などを理由に、厳しい条件の契約書モデル案を示したためだ。NPO法人の緊急アンケートでは、嘱託医確保が「困難・不可能」が3割にのぼる。

 嘱託医確保の猶予期間は施行から1年。来年4月までに嘱託医が決まらない助産所は、廃業せざるを得ない。

 「産む場所の選択肢を奪わないで下さい」

 9日、助産師や産婦たちでつくるNPO法人「お産サポートJAPAN」が、厚生労働省で会見を開いた。同時に発表した全国の分娩(ぶんべん)を扱う開業助産所330全施設対象のアンケート結果によると、「嘱託医が確保できる」は38%。「不確実だが見込みがある」30%、「困難」21%、「不可能」が7%だった。

 出産時の異常で、助産所から病院・診療所に搬送されるのは約1割。同NPO代表で助産師の矢島床子さんは「安全性確保には医療のバックアップは必要。でも、助産師が自力で嘱託医を探すのは難しい」と話す。

 一方、日本産婦人科医会は、助産師は独立開業より院内助産所の形を取るべきだとする。昨年末には「嘱託医契約書モデル案」を発表した。「助産所は嘱託医に委嘱料を支払う」「妊婦を転送したケースについては、助産所が訴訟費用などを補償する」「助産所は十分な資力を確保しなければならない」など、厳しい内容だ。産科医不足の上、転送を受けた病院が訴訟の対象となる例が相次いでいる事情がある。

 神谷直樹常務理事は「助産所の分娩は安心かもしれないが、安全面で問題がある。一歩進んだ分娩環境の提供を目指すため、あえて厳しいモデルを示した」と話す。

 日本助産師会は「モデル案は助産師の開業権を事実上、侵害する」として、厚労省に「嘱託医と、救急搬送先となる連携医療機関を同じ病院(医師)が兼務できるようにしてほしい」と要望した。同省看護課も「後方支援機関として嘱託医を残すべきだと主張し、確保に協力すると言ったのは産科医会だ。安全なお産のために積極的に嘱託医を引き受けてほしい」と話している。

(朝日新聞、2007年2月10日)


医療を問う 自治体の危機 (産経新聞)

2007年02月09日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

病院の産科部門が次々に閉鎖され、全国的に分娩施設が激減し続けています。この産科崩壊の影響は、地方だけにとどまらず、ついに都心の大病院にまで及んできつつあると報道されています。

もしも、県内の主な病院の産科がことごとく全滅してしまえば、県内のどこに行っても分娩ができなくなってしまいます。

従って、各医療圏で、最低でも一つの産科には残ってもらう必要があります。万一、現行の(行政上の)医療圏の中では残りそうな産科が一つもないような場合には、新たに『産科医療圏』を設定しなおす必要がでてくるかもしれません。

県全体の問題として、長期的視野に立って対応していかないと、この問題の解決は難しく、もはや、一自治体だけの単独の努力で解決するのは不可能に近いと思われます。

****** 産経新聞、2007年2月8日

医療を問う 自治体の危機

 地域から1人もいなくなった産婦人科医を、厚遇によって確保した自治体がある。世界文化遺産に指定されている熊野古道の伊勢路が通る三重県尾鷲市だ。

 市が独自に招いた医師への報酬額は5520万円。市立病院「尾鷲総合病院」の常勤医師の平均年収の3倍以上、院長や市長よりも高い。

 「賛否はあると思うが、産婦人科医がいなくなるリスクと報酬を比べたとき、リスクの方が大きいと判断した。この地域で子供を出産できなくなるということは、社会資本がなくなるのに等しい」

 伊藤允久(まさひさ)市長(54)は、市立病院から産婦人科医が1人もいなくなることの重大性を、かみ締めるように語った。

 昨年7月、尾鷲総合病院で出産ができなくなった。市内には他に出産ができる病院がない。妊婦は車で南に約1時間走った熊野市など3市町でつくる紀南病院(三重県御浜町)や、北へ約1時間半の松阪市内の病院などで出産するしかなくなった。

 尾鷲総合病院に医師を派遣してきた三重大学医学部が、医師の勤務状況の改善と医療の質の維持を目的に産婦人科医を引き揚げ、紀南病院に集約したためだ。

 尾鷲総合病院では15年度264件、16年度235件の出産があった。険しい山に囲まれた尾鷲市は、台風や豪雨の際には各所で道路が寸断される。年間200件以上の出産を、1時間以上離れた病院で行わねばならないのは重大問題だった。

 昨年2月下旬に大学側から医師集約化の方針が打ち出されて以降、伊藤市長は産婦人科医の確保に奔走した。市民だけでなく、市出身者らからも寄せられた産婦人科医常勤を求める署名は、市の人口を上回る6万人以上。それが市長に重くのしかかった。そしてようやく出会えたのが、津市内で開業していた50代半ばの医師だった。

 尾鷲に来るにあたり医師は自らの医院を閉じなければならなかった。市はそれに見合う報酬と、病院内に毎日24時間常駐できる居室の確保、助産師5人態勢の整備を約束した。

 昨年9月、医師が病院に住み込み、産婦人科が再開。外来が戻りはじめ、今年3月までの7カ月間に87人の赤ちゃんが産声をあげた。

 伊藤市長は「これがベストとも、永続できるとも思っていない」という。そして「集約化は必要だが、隣に1時間以上かかるような病院まで医師を引き揚げるべきではない」と訴える。

 4月26日、東京都内で、公立病院を持つ自治体首長でつくる全国自治体病院開設者協議会の総会が開かれた。自治体病院長でつくる全国自治体病院協議会の小山田恵会長(75)=岩手県立病院名誉院長=はあいさつで、医師不足に苦しむ首長らにあえて言った。

 「医師の確保は、見果てぬ夢である。現状においては集約化と統合しかありえない」

 医師の集約化という「総論」には賛成でも、自分の病院から常勤医がいなくなるという「各論」には大半の自治体が反対にまわるからだ。

 小山田会長は、医師が集まらない原因は「勤務条件の厳しさ」に尽きるという。

 尾鷲市の取り組みについては「産婦人科医が1人ではいけない。1億円出してでも2人以上雇わねば。できないなら、医師が確保できない状況を前提に対策を考えるべきだ」と指摘する。

 ただ、悲観ばかりしているわけではない。

 「いま一つだけ光がある。新しい臨床研修医制度で、約2900人の若い医師が全国の自治体病院で研修している。若い、能力のある医師を全力で育てよう。もう少しの間苦難に耐えれば、自治体病院に医師が残る」

(産経新聞、2007年2月8日)

****** 朝日新聞、三重、2006年12月25日

産婦人科医不足問題

◇◆確保綱渡り 研修見直しを◆◇

 全国的に産婦人科医師が不足するなか、人口2万2千人足らずの尾鷲市が、この問題に直面した。三重大からの派遣医師が市立尾鷲総合病院から引き上げた後、市が昨年9月に採用した男性開業医(55)の年間報酬が5520万円と高額だったことが話題になった。

 男性医師は24時間院内で寝泊まりし、新生児を150人以上とり上げた。その後、今年9月に伊藤允久(まさひさ)市長との交渉で、男性医師は「精神的に疲れ、これ以上できない」と契約解除を告げた。

 勤務した1年間の思いや報酬、産婦人科医不足の問題について、私は直接、本人から聞きたかった。しかし、病院事務局を通じて何度も申し込んだ取材は、拒否された。

 結局、医師が辞める理由は、市長の言葉から間接的にしか知り得なかった。理由は、昼夜を問わない勤務から年2日間しか休みが取れなかったにもかかわらず、減額の報酬が示されたことや、高額報酬を問題視した議会でのやりとりに不信を持ったことだった。

 市民の声を聞くと、妊婦や子どもがいる主婦から、この医師にいてほしいと願う声が多かった。3人の子を持つ妊婦からは「これまでの派遣されてきた先生と比べ、経験が豊富で安心できる」という声も聞いた。

 一度も医師に会えないまま迎えた退職日。病院事務局に聞くと、「退職の儀式はなく、本人からもあいさつもなく、病院を後にした」と答えた。地域から熱望されて来た医師の去り際としては寂し過ぎる。

 今、後任の野村浩史医師(50)がほかの医師らと同じ待遇で勤務している。来年4月には1人増え、医師2人体制になる。伊藤市長は「後任が見つかったのは奇跡。運がよかった」と喜ぶ。

 しかし、喜んでばかりもいられない。地域での医師不足を引き起こした要因に、04年度に導入された新卒医師が2年間経験を積むため自由に研修先を選べるようになった「新たな臨床研修制度」があげられる。

 多くが出身の大学病院ではなく、設備などがいい一般病院に流れたため、大学病院が人手不足に陥り、研修後も新卒医師は戻らなくなった。この制度が続く限り、再び医師がいなくなる可能性は常にある。

 地域での対応には限界がある。国には、この制度の抜本的な見直しが早急に求められている。(百合草健二)

◇◆「産声を再び」地元の願い◆◇

 使われなくなった分娩(ぶんべん)室。扉には鍵がかけられていた。暗い室内に入ると、分娩台と新生児を置く台が隅に片づけられ、部屋全体ががらんとしていた。新しい命が芽生え、喜びがあふれるはずの場所がこんな空虚な空間になるなんて……。せつなさが募り、いたたまれなくなった。

 志摩市の県立志摩病院で11月から、常勤の産婦人科医がいなくなった。週2回の婦人科外来だけは残ったが、出産はできなくなった。志摩市や南伊勢町に住む妊婦が出産するなら、前もって入院をしない場合は車で30分以上かけて山道を抜け、伊勢市内の病院に向かうしかない状態だ。

 病院に助産師は6人いるが、経験者は少ない。器具を消毒したり、お湯を沸かしたり、常に準備を整えておかないと対応できない。「急に産気づいた妊婦が駆け込んできても、今は断るしかない」と、田川新生(しんせい)院長はあきらめ顔だ。他の病院への転院を希望する助産師もいるという。

 同病院の産婦人科をめぐり、派遣元の三重大が今年、医師の引き上げ計画を具体化させた。病院側は抵抗して何度も話し合ったが、結局産科はなくなった。

 リスクが高く難しい出産でトラブルが起きた際の訴訟に備えて、最終的に医師の負担をなくすという意味では三重大の論理も確かによくわかる。全国的に産婦人科の勤務医が不足している状況からすると、やむを得ないと思う。

 だが、地域を取材すると、住民の志摩病院への期待感が痛いほど伝わってきた。里帰り出産を希望する人が病院に直接不安を訴えることもあったという。「地元住民の多くは、産科がなくなって初めて、ことの重大さに気付いたのでは」と田川院長。

 現時点では、県も志摩市も改善策を打ち出せないのが実情だ。だが、病院は独自の産婦人科医探しを続けるという。病院には来年8月、新しい外来棟ができあがる。そこには産婦人科の部屋も機材も設置される予定だ。

 田川院長はこうも話した。「いつかはこの地域でお産を再開させたい。とかく暗くなりがちな病院を明るくしてくれる産声が聞こえなくなることが、こんなにさびしいものだとは」。私には1歳11カ月の娘がいる。ひとごととは思えない取材だった。(岩堀滋)

◎産婦人科医の現状 厚生労働省の04年の調査では、全国の医師総数27万人に対して産婦人科医は1万100人。10年間で医師全体が約5万人増えた中、産婦人科医は約千人減少。一方、一人当たりに対する医療ミスによる訴訟の確率は産婦人科が最も高い(04年司法統計)。県内に産婦人科医は144人おり、うち三重大関連は55人(06年9月現在)。6年前に比べ20人減った。志摩病院を含む県内4病院が、同大の医師引き上げで産科休診中。

(朝日新聞、2006年12月25日)

****** 朝日新聞、三重、2007年1月27日

予定の産科医、辞退

★尾鷲総合病院 2人態勢 持ち越し★

 産婦人科の医師不足に悩む尾鷲市は26日、市立尾鷲総合病院(五嶋博道院長)に4月に着任する予定だった2人目の産婦人科医が「本人の都合で着任を辞退した」と明らかにした。同日の市議会全員協議会で病院事務局が報告した。

 同病院は、前任の産婦人科医が昨年10月に退職し、後任として着任した野村浩史医師(50)と、4月に着任予定だった県外の男性医師(65)による2人態勢になる予定だった。昨年9月初旬、男性医師に内定を出していた。

 病院事務局によると、野村医師の着任直後から「自分の着任時も同じように報道されるとプライバシーが守れない」と難色を示し、辞退を申し入れてきたという。市側は説得を続け、昨年末に再交渉したが、本人に着任の意思はなかったという。

 病院事務局は「まだ決定には至っていないが、別の医師と現在、交渉している。早く2人目を確保したい」と話した。

(朝日新聞、2007年1月27日)

****** 伊勢新聞、2007年1月27日

内定の医師が辞退 尾鷲総合病院産婦人科 新たに交渉進める方針

【尾鷲】尾鷲市の伊藤允久市長は二十六日、市立尾鷲総合病院が確保を目指していた二人目の産婦人科医師(65)との交渉が決裂した、と発表した。今後は病院側が現在、接触している別の医師と交渉を進める方針を示した。市議会全員協議会で明かした。

 同病院によると、六十五歳の医師は昨年九月初旬、同病院を訪ね、現在勤務する県外の病院を定年退職後の今年三―四月ごろ赴任する意向を示していた。が、「(同病院で勤務する)産婦人科医師への報道などを非常に気遣い、それを理由に断りの連絡を受けた」という。

 病院職員らが説得を続けたが、意志が固く、決裂となった。

 同病院は現在、別の医師から問い合わせがあり、交渉を進めている。「先方にも事情があり、解決いかんによっては来てもよいと言っており、動向を見守っている」状態だという。

 三月からも当面、一人勤務となる現在の医師について、同病院は「以前、同病院で副院長を務めていた産婦人科医師の応援を受け、毎月一回二泊三日の休み」を確保できることになったとし、医師の業務軽減やサービス向上を目指し「助産師外来を新年度から実施したい」と方針を明らかにした。

(伊勢新聞、2007年1月27日)


出産「24時間支援センター」を学会が提言

2007年02月08日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

産科では、『いつでも30分以内に緊急帝王切開を実施できる病院の態勢を24時間維持し続けなければならない!』(30分ルール)というのが世間の常識になりつつあるようだ。

しかしながら、現実には、自病院の分娩室や陣痛室の中で容態が急変した妊婦に対してですら、「いつ何時でも、30分以内に緊急帝王切開を実施できるのか?」と問われたら、「時間帯によってはかなり厳しい!」と答えざるを得ない。

ましてや、他施設で分娩管理中に容態が急変し、救急車で緊急母体搬送されて来た妊婦に対しては、容態急変後30分以内の緊急帝王切開の実施は絶対に無理な話である。

そもそも、患者が病院に到着した時点で、すでに容態急変後30分以上経過しているし、患者が病院に到着したからといって、何の準備もしないでいきなり手術を始めるわけにもいかない。まず、患者の状態を診察して、緊急手術が必要な状態であるかどうかを見極めなければならない。緊急手術が必要と判断された場合には、緊急手術に必要な術前検査を実施し、緊急手術に必要なスタッフの召集や手術室の機材の準備などを開始して、すべての状況が完全に整ってから、患者の手術室への入室が可能となる。どんなに条件が整っていても、患者が病院に到着から手術室入室までに最低でも1時間以上かかるのが普通だ。さらに、手術室に入室してから麻酔科医が麻酔をかけ始めて執刀可能な状態になるまでに30分近くを要する。他施設からの緊急母体搬送例に関して言えば、現実には、母体の容態急変後2時間以内の執刀でも非常に難しい。

確かに、『1つの産科施設に10人以上の産科医を集める!』のが理想であることはよくわかっているが、今後、それをどうやって実現してゆくのか?が一番の問題である。それを今すぐに実現するのは不可能に近いが、今後、病院で産科を維持していこうとすれば、常勤産科医10人体制を目指して早急に体制を整えていかなければならない。

『立ち去り型サボタージュ』による産科医減少に全く歯止めがかけられない現状において、地域の産科医療を当面とりあえず維持してゆくためには、残り少なくなってしまった産科医達が、それぞれの立場で役割を分担し、緊密に連携して、地域全体で産科医療を支えて合ってゆくしか道はないと思われる

****** 毎日新聞、2007年2月7日

産婦人科医療:緊急搬送30分内に対応 学会報告書案

 産婦人科医不足への対応を目指し、日本産科婦人科学会(日産婦、武谷雄二理事長)の検討委員会は、産婦人科医療の望ましい将来像を盛り込んだ報告書案をまとめた。地域の中核病院と診療所・助産所の連携や、患者の緊急搬送先を30分以内に決める体制の構築、医療紛争の解決制度導入などを提言。24時間態勢の救急対応や全国どこでも専門家の下で出産できる環境作りを目指すとした。4月の総会で正式決定し、国や自治体、現場の医師に実現を働きかける。

 報告書案は、望ましい産婦人科医療の将来像を実現する具体策として、30万~100万人か出生数3000~1万人ごとに地域産婦人科センターを設置▽救急搬送に対応できる病院の紹介システムの構築▽勤務内容・量に応じた給与体系▽医療事故の原因究明機関の整備--などを掲げた。

 国や自治体に対しては、地域の施設整備への補助や医師・スタッフの待遇改善、施設数の正確な把握などを求めている。

 同学会が昨年6月に公表した調査結果によると、全国で出産できる施設は3065カ所、医師は7985人だった。従来の厚生労働省調査と比べ施設数で半分、医師数で4分の3で、出産現場の深刻な医師不足が浮き彫りになった。背景には他の診療科に比べて多い医療訴訟や勤務条件の厳しさなどがあるとされる。

(以下略)

(毎日新聞、2007年2月7日)


医師派遣:地域の基幹病院へ重点配置 阪大が集約化検討 (毎日新聞)

2007年02月06日 | 地域医療

コメント(私見):

以前は、医学部を卒業したら、まず大学の医局に所属し、医局から研修病院に派遣されて、大学病院といくつかの研修病院を数年間づつ回りながら修業をするというコースが一般的であった。

最近スタートした「新医師臨床研修制度」により、医学部を卒業したばかりの一番若い研修医達が、自分が研修する病院を自由に選べるようになり、最初の研修先として大学を選択する者が激減した。

大阪大学の医師派遣病院では、若手の専門医教育を充実させるという目的で、『現状では1病院当たりの産婦人科の常勤医師数が3~4人のところを、1病院当たり8人程度まで増やす』という構想らしい。そのために、『現在、全国に200ヶ所ある関連病院を、将来的には20ヵ所程度の基幹病院にまで絞り込む』予定であるとの報道である。

従来は、地方の自治体病院では、黙っていても、大学から若手医師が順番に派遣されてきて、必要な医師数が充足されてきた。医師が足りなくなれば、大学の医局に泣きつけば、大学が何とかしてくれた。

しかし、今後は、必要な医師数は、自治体病院の自助努力で集めるしかない時代に突入する。従って、若手医師をちゃんと教育できる病院しか将来的には生き残ることはできない。今後、地方自治体病院の数が激減してゆくのは絶対に避けられないと思う。

****** 毎日新聞、2007年2月5日

医師派遣:地域の基幹病院へ重点配置 阪大が集約化検討

 医師不足が深刻化する中、大阪大医学部(大阪府吹田市)が、関連病院に広く医師を派遣していたこれまでの方式を改め、地域ごとに決めた基幹病院へ医師を重点配置する構想を検討していることが分かった。モデルケースとして来年度から、大阪府豊中市や箕面市など北摂地域で実施し、その後、府内の他地域に広げる方針。若手医師に対する教育の充実などを図る狙いだが、全国に約200カ所ある関連病院を、将来的には20カ所程度の基幹病院に絞る見通しで、自治体病院などで医師不足が加速する恐れもある。

 大阪大医学部は従来、医局から自治体病院などに医師を派遣していた。しかし、研修する病院を自由に選べる「新医師臨床研修制度」が04年に始まり、学部を卒業したばかりの研修医が医局に入局しなくなるなど、医師不足に陥った。その結果、従来通り関連病院に広く医師を派遣する体制を今後も同様に維持することは困難と判断した。

 構想では、府内の大阪市以外の地域を「北摂」「泉州」「河内」などに分割。各科に特色のある病院を基幹病院として選び出し、医師を重点配置する。派遣先の関連病院を絞ることで、派遣する医師の数は、例えば産婦人科の場合、これまでの1カ所3~4人から、8人程度に増やす。派遣する医師の負担を軽減できるほか、関連病院での若手医師に対する専門教育の充実が図れるという。

 関連病院との渉外担当を務める大阪大医学部の杉本寿教授(救急医学)は「大学が地域医療を守るという重要性は認識しているが、医師不足が深刻化する中、どの診療科も医師の派遣は難しくなっている。若手医師を育成し、過重労働による医師の病院離れを防ぐためにも、今後は、関連病院を絞り、医師の集約化を進めざるを得ない」と説明している。【河内敏康】