ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

子宮頸がんとHPVワクチン

2020年08月23日 | 婦人科腫瘍

子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンと子宮頸がん検診(細胞診)で予防できるがんです。世界では子宮頸がんの排除に向けて15歳までにワクチン接種率90%を目指した活動が始まっています。それに対して、日本では平成25年4月に定期接種化されたものの、わずか2カ月後に厚生労働省は接種勧奨を差し控えるという発表をしました。その後も定期接種は継続し、小学校6年生〜高校1年生相当の女子は公費(無料)で接種できるにもかかわらず、かつて約70%だった接種率は0%近くまで激減してしまいました。このため、世界全体では子宮頸がんの罹患数も死亡数も減少してますが、日本では罹患数・死亡数とも近年漸増傾向にあります。

2017年6月、WHOワクチンの安全性に関する委員会は、HPVワクチンの安全性に関して評価を行い、疼痛、運動障害を含む多様な症状との因果関係を示す科学的根拠はないと結論づけています。現在も続いている根拠のない主張の影響によってワクチン接種率が低迷するなど、真の害悪をもたらすことを懸念している、と繰り返し日本の現状に憂慮を示しています。
Global Advisory Committee on Vaccine Safety. 7-8 June 2017
https://www.who.int/vaccine_safety/committee/reports/June_2017/en/


各国のHPVワクチン接種プログラム対象女子の接種率
(ガーランドSM他 Clin Infect Dis, 2016; 63:519-527、厚生労働省定期の予防接種実施者数、MSD Connectより)

子宮頸がんについての基礎知識:
子宮がんは、子宮体部にできる子宮体がんと、子宮頸部にできる子宮頸がんに分類されます。

子宮頸がんは早期に発見すれば比較的治療しやすく予後良好ですが、進行すると治療が難しく予後不良となります。子宮頸がんの治療は、癌の組織型や広がり具合に応じて、円錐切除術、単純子宮全摘出術、広汎性子宮全摘出術、(化学療法併用)放射線療法などが行われます。子宮頸がん全体の治療後の5年相対生存率は76.5%(乳がん:92.3%、子宮体がん:81.3%、卵巣がん:60.0%)です。大事な子宮や卵巣機能、そして命を失わないために、HPVワクチンでのHPV感染予防と子宮頸がん検診での早期発見が重要となります。(国立がん研究センターがん情報サービス、がん登録・統計

子宮頸がんの組織型は、扁平上皮がん腺がんに大きく分けられます。扁平上皮がんが全体の7割程度、腺がんが2割程度を占めます。

扁平上皮がんには、異形成と呼ばれる前がん状態(現状ではがんとは言えないががんに進行する確率が高い状態)が存在します。さらに異形成には3つの段階があり、軽度異形成(CIN1)中等度異形成(CIN2)高度異形成(CIN3)と進みます。扁平上皮がんでは、高度異形成(CIN3)と上皮内がん(CIN3)前がん病変(悪性・良性の境界にある状態)としています。


    扁平上皮がんの発生・進行のしかた
 (国立がん研究センター・がん情報サービスより)

腺がんでは、上皮内腺がんを前がん病変としています。子宮頸がんの前がん病変では円錐切除術または単純子宮全摘術が必要になります

子宮頸がんは、日本全国で年間約11,000人が診断されます(上皮内がんを含まない)。子宮頸がんと診断される人は20歳代後半から増加して、40歳代でピークを迎え、その後横ばいになります。子宮頸がんと診断された人の治療では、広汎性子宮全摘出術または(化学療法併用)放射線療法などが選択されます。日本では今でも年間約2800人が子宮頸がんで死亡してます。世界全体では子宮頸がんの罹患数も死亡数も減少してますが、日本では罹患数・死亡数とも近年漸増傾向にあります


   (日本産科婦人科学会HPより)


   (日本産科婦人科学会HPより)

子宮頸がんの発生要因:
子宮頸がんのほとんどは ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因です。HPVは100種類以上知られています。発見順に番号が振られているので重症度や頻度とは直接関係はありません。30~40種類が性的接触によって感染します。その中で、発がん性のある高リスク型16、18、31、33、35、45、52、58型など約15種類)と、尖圭コンジローマなどのいぼの原因となる低リスク型6、11型など)に分かれます。HPVはごくありふれたウイルスで、性的接触で性器だけでなく口や指などを介して男性にも女性にも感染します。コンドームを用いても完全に感染を防御することはできないといわれています。ほとんどの女性が生涯のうち一度はHPVに感染すると報告されています。HPVは性的接触で子宮頸部粘膜の細胞に感染し、細胞の変化(軽度異形成)を起こしますが、多くの場合は免疫の働きなどによってウイルスは排除されます。何らかの原因でウイルスが排除できずに持続的に感染を起こすと中等度異形成~高度異形成(前がん病変)となり、その一部が子宮頸がんに進行します。HPV感染が起こった女性のうち子宮頸がんを発症するのは0.1%程度と推計されています。

HPVワクチン:
日本国内で承認されているHPVワクチンは2価と4価の2種類があります。2価ワクチン(サーバリックス®)は子宮頸がんの主な原因となるHPV-16型と18型に対するワクチンです。一方、4価ワクチン(ガーダシル®)は16型・18型と、良性の尖形コンジローマの原因となる6型・11型の4つの型に対するワクチンです。これらワクチンはHPVの感染を予防するもので、すでにHPVに感染している細胞からHPVを排除する効果は認められません。したがって、初めての性交渉を経験する前に接種することが最も効果的です。現在世界の80カ国以上において、HPVワクチンの国の公費助成によるプログラムが実施されています。

なお、海外ではすでに9つの型のHPVの感染を予防する9価HPVワクチンが公費接種されています。日本でも、MSD株式会社は、2020年7月21付けで厚生労働省から、9価HPVワクチン(商品名:シルガード9®)の製造販売承認を取得したと発表しました。シルガード9® は、HPV-6、11、16、18、31、33、45、52、58の9つの型に対応した9価HPVワクチンです。これらの型のうちHPV-16、18、31、33、45、52、58の7つの型は、子宮頸がん、外陰がん、腟がんなどの原因となります。また、HPV-6、11型は尖圭コンジローマの原因の約90%を占めます。9価HPVワクチンは2014年12月に米国で承認されて以降、現在では世界で80カ国以上で承認されています。子宮頸がんに対するHPV型のカバー率は4価HPVワクチンが約65%に対し、9価HPVワクチンは約90%を示します。シルガード9®は薬価基準の適用外で、今後議論される予防接種法に基づく定期接種にどのように位置付けられるか、また、シルガード9®の登場を機にHPVワクチンの積極的な接種勧奨が再開されるか注目されます。

現時点で定期接種として認められているHPVワクチンはサーバリックス®︎とガーダシル®のみで、シルガード9 ®︎は任意接種となり自費になりますが、今は発売前で値段もまだ決まってないようです。発売時期は未定のようです。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ207 HPVワクチン接種の対象は?

Answer
1.最も推奨される10~14歳の女性に接種する。(A)
2.次に推奨される15~26歳の女性に接種する。(A)
3.ワクチン接種を希望する27~45歳の女性に接種する。(B)
4.子宮頚部細胞診軽度異常女性(既往を含む)には接種できる。(B)
5.原則的に、接種の可否を決めるためのHPV検査は行わない。(B)
6.妊婦には接種しない。(B)
※HPVワクチンは平成25年度から定期予防接種となり、小学6年生から高校1年までに相当する年齢(概ね12~16歳)の女子は市町村が契約する医療機関で無料(もしくは低額)にて接種を受けることができる。ただし厚生労働省では現在は積極的な接種の勧奨を一時中止している(2018年4月現在)。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ208 HPVワクチン接種の際の説明は?

Answer
以下の説明を含むこと。
1.2価ワクチン(サーバリックス®)、4価ワクチン(ガーダシル®)ともにHPV16型/HPV18型の感染を予防し、性交未経験の女性に接種した場合には子宮頸がんの60~70%の予防が期待できるワクチンであること。(A)
2.4価ワクチン(ガーダシル®)では、HPV16型/HPV18型に加えてHPV6型/HPV11型の感染も予防し、尖圭コンジローマの予防効果もあること。(A)
3.子宮頸がんやその前がん病変、既存のHPV感染に対する治療効果はないこと。(B)
4.性的活動の開始前に接種すると最も効果的であること。(B)
5.子宮頸がん検診の必要性。(B)
6.3回接種の接種スケジュールと費用。(A)
7.局所の疼痛・発赤・腫脹、頭痛、失神、ショックなどの主な有害事象発生の可能性。(A)
8.接種後に注射部位に限局しない激しい疼痛、しびれ、脱力などの異常が認められた場合には、ただちにかかりつけ医やワクチン接種医の診察を受けるように被接種者またはその保護者に予め伝えておく。(A)

参考Webサイト:
1)国立がん研究センターがん情報サービス、子宮頸がん
2)子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために、日本産科婦人科学会
3)子宮頸がん予防ワクチンQ&A、厚生労働省
4)シルガード9水性懸濁筋注シリンジ 添付文書

参考文献:
1)産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020


飯田市立病院市民医療フォーラム 講演会(がんと向き合う、「仁科亜希子さん」を囲んで)

2012年12月14日 | 婦人科腫瘍

先日、市内で飯田市立病院創立60周年、新病院開院20周年記念事業・飯田市立病院市民医療フォーラムが開催され、講演会(癌と向き合う、仁科亜希子さんを囲んで)とパネルディスカッションがあり、市民約三百人が参加しました。まず、仁科さん御自身の、子宮頸がん治療や今も続く治療の後遺症と向き合う状況、子宮頸がん検診や子宮頸がん予防ワクチンの重要性などについての講演会がありました。引き続いて開催されたパネルディスカッションでは、まず、市保健課の保健師より市の子宮頸がん検診、子宮頸がん予防ワクチン接種の実施状況などについて説明し、次に、私が専門医の立場から主に子宮頸がんの診断と治療の現況などについて説明し、次に、放射線治療科部長より子宮頸がんの放射線治療などについて説明しました。最後に仁科さんの追加コメント、ディスカッション、質疑応答、院長の総括コメントなどがあって、盛会のうちに市民医療フォーラムを無事終了ました。

「子宮頸がん検診受けて」 仁科亜季子さん、飯田で体験語る

****** 講演会(仁科さん)の様子

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「子宮頸がん」―経験したからこそ伝えたい! 「子宮頸がん」―経験したからこそ伝えたい!
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2011-10-01

**** パネルディスカッションで使用したスライドの一部 

子宮頸がんの診断と治療について

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腹水が大量に貯留し卵巣がんが強く疑われる初診患者さんへのアドバイス(私見)

2012年02月11日 | 婦人科腫瘍

卵巣がんの場合(子宮頸がんや子宮体がんとは違って)、初診時すでに進行例である場合が多く、手術を先延ばしにするとその間にさらに進行してしまい、全身状態が悪化して手術どころではなくなってしまう可能性もあり、なるべく早急に、腫瘍マーカー、MRI、CT、PET-CT、全身状態の一般的検査などを実施し、手術可能な状況であれば、なるべく早急に手術を実施する必要があります。

手術の方法は、子宮摘出+両側付属器摘出+大網切除に加え、転移巣、播種巣の可能な限りの摘出、後腹膜リンパ節廓清(生検)が行われます。初回手術でそれだけの手術を一期的に実施することが困難な場合は、まず最初は試験開腹を行い、腫瘍の生検で卵巣がんの病理組織型、臨床進行期の診断を確定し、化学療法を数コース実施してから、本格的な腫瘍摘出手術を実施する場合もあります。

手術は、婦人科腫瘍専門医が実施することが望ましいとされてます。婦人科腫瘍専門医は、各都道府県のがん診療連携拠点病院および地域がん診療連携拠点病院などの大きな病院に勤務してます。

ただ、大学病院やがんセンターなどの大きな病院では、地域の多くのがん患者さん達が集まって来るので、予定手術が数カ月先までびっしりつまっていて、いくら必要だからと言っても、1日がかりの卵巣がん手術を新たに早急に組み入れることが非常に難しいのが実情です。そこで、すぐに手術したいのはヤマヤマだけどスケジュール的に難しいので、とりあえず、手術までの数か月間に術前化学療法を実施して時間稼ぎする場合も少なくありません。術前化学療法が予想以上に奏功し、がんが著明に縮小したり、腹水や胸水が消失したりするような場合も少なくありません。

セカンドオピニオンも非常に大切ですが、時間との勝負という側面もありますし、どの施設で治療を行うにしても、治療は卵巣がん治療ガイドラインの最新版に沿って行われるので、婦人科腫瘍専門医や修練医が勤務していて、多くの婦人科悪性腫瘍手術が行われている病院なら、診断、治療方針、予後などは大きな差がないと思われます。

もしも他の手術のキャンセルなどがあって、すぐに手術できる枠が急にできて、本来なら数カ月先になるところを、担当の先生の特別の計らいで、1~2週間先に手術の予定を組んでくださったような場合は、これぞ天の恵みだと幸運に感謝して、そのありがたい提案を受け入れた方がいい場合ももしかしたらあるかもしれません。

担当の先生とよく御相談になってください。


子宮頸癌治療ガイドライン2011年版(第2版)

2011年11月26日 | 婦人科腫瘍

編集:日本婦人科腫瘍学会  
後援:日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、婦人科悪性腫瘍研究機構、日本放射線腫瘍学会

第51回日本婦人科腫瘍学会学術講演会が福岡県久留米市のホテルマリターレ創世で開催されてます。学会会場内に設置された書籍販売コーナーで、「子宮頸癌治療ガイドライン」(2011年版)定価2940円が販売されてました。2011年11月30日発行で、正式に発行する前の学会場での先行販売とのことで早速購入しました。

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****** 第2版序文

 初版(2007年版)から4年が経過し、やっと改訂版(2011年版)の発刊にこぎつけました。初版の時も「子宮体癌治療ガイドライン」と同時に作業を開始したにもかかわらず1年長くかかりましたが、今回の改訂でも時間がかかってしまいました。これは、第一に子宮頸癌のエビデンスが蓄積されているとはいえ、エビデンスが一つ一つ連続して積み重なっておらず、各エビデンス間での比較が難しかったことによります。第二に、国内の治療法発達の歴史的背景の違いから、せっかく欧米で高いエビデンスがある領域であっても、それがそのまま国内の治療指針に適応とならなかったという点にも依存します。そのために初版作成にあたっては作成委員会内でも意見がなかなか集約せず、コンセンサスミーティングでも多くの意見が出されるなかでコンセンサスに至らないままの事項が残っておりました。今回の改訂に際しては、新たな項目は設けずに、最新のエビデンスを収集しながら国内の意見を再度集約することを目的としました。すなわち、初版を吟味しなおしてブラッシュアップするという方針で改訂作業を進めることとしました。そのために、できるだけ全国の大学やがんセンター、中核病院などで実地診療に携わっている専門家に作成をお願いしたいと考え、今回初めて作成委員を公募しました。また、初版で放射線腫瘍医側の意見を十分に反映できなかったのではないかという反省から、日本放射線腫瘍学会に事前に作成委員の推薦をお願いしました。

 今回の改訂の主なポイントは以下の通りです。

1) 推奨グレードの変更
 初版では推奨グレードがA、B、C、D、A’、Eの6段階になっていましたが、「子宮体がん治療ガイドライン2009年版」や「卵巣がん治療ガイドライン2010年版」に倣い、A、B、C1、C2、Dの5段階に変更しました。

2) 新FIGO進行期分類との関係
 本ガイドラインの作成作業中にFIGO(International Federation of Gynecology and Obstetrics)の進行期分類が改訂されました。新分類では上皮内癌0期を除外することとなっていますが、0期は患者数も多く患者年齢も若年者が多いためにガイドラインに記述する意義は高いと判断し、従来通り0期に対する治療指針を示すこととしました。
 一方、新分類でIIA期がIIA1期とIIA2期に細分類されました。それに伴い日本産科婦人科学会を中心とした「子宮頸癌取扱い規約」の改訂作業が急速に進み、本ガイドライン発刊時期からそれほど期間をおかずに発刊されることが明らかとなりました。そこで、本ガイドラインではIIA1期とIIA2期の細分類を採用しています。

3) 「子宮頸癌取扱い規約」との役割分担
 「子宮頸癌取扱い規約」との役割分担という意味で、放射線治療の具体的な方法については本ガイドラインで詳述することとしました。

4) 腺癌関連のCQの取り扱い
 子宮頸癌では腺癌単独での臨床試験がほとんど施行されていないことから、初版に設けていた腺癌単独の章は削除し、各進行期のなかで腺癌についても記述することとしました。

5) 妊娠合併症例の充実
 子宮頸癌症例の若年化、妊娠出産年齢の高齢化という傾向から、妊娠に合併した子宮頸癌の取り扱いはますますその重要性を増しています。そのために、これに関連するCQを増やし詳細に治療指針を示すこととしました。

 東日本大震災の年に、大変困難と思われた「子宮頸癌治療ガイドライン」の改訂版を世に出すことができましたことは、本書に関わったすべての人にとって大きな誇りとなるはずです。ガイドライン作成のまとめ役をしてきたものとして、改訂作業に携わっていただいたすべての皆様に深甚なる感謝を申し上げます。

2011年盛夏

日本婦人科腫瘍学会子宮頸癌治療ガイドライン検討委員会
委員長 八重樫伸生
副委員長 片渕秀隆

****** 目次

第1章 ガイドライン総説

第2章 0期とIA期の主治療
I 0期
 総説
 CQ01 上皮内癌に対して推奨される治療は?
 CQ02 治療後に再発した場合、どのような対応が推奨されるか?
II IA期
 総説
 CQ03 IA1期に対して推奨される治療は?
 CQ04 IA2期に対して推奨される治療は?
 CQ05 単純子宮全摘出術後にup stageされてIB期(またはそれ以上)の癌がみられた場合、推奨される治療は?
III 0期・IA期の腺癌
 総説
 CQ06 上皮内腺癌に対して推奨される治療は?
 CQ07 IA 期の腺癌に対して推奨される治療は?

第3章 IB期とII期の主治療
 総説
 CQ08 IB1・IIA1期(扁平上皮癌)に対して推奨される治療は?
 CQ09 IB2・IIA2期(扁平上皮癌)に対して推奨される治療は?
 CQ10 IIB期(扁平上皮癌)に対して推奨される治療は?
 CQ11 IB・II期(扁平上皮癌)に対して術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;NAC)は推奨されるか?
 CQ12 広汎子宮全摘出術の場合の骨盤神経温存術は推奨されるか?
 CQ13 広汎子宮全摘出術の場合に卵巣温存は可能か?
 CQ14 広汎子宮全摘出術の場合に傍大動脈リンパ節郭清の追加は推奨されるか?
 CQ15 IB・II期の腺癌に対して推奨される治療は?

第4章 IB 期とII期の術後補助療法
 総説
 CQ16 推奨される術後補助療法は?
 CQ17 術後再発リスク因子をもつ例に術後補助療法として放射線治療を行う場合、推奨される照射方法は?
 CQ18 傍大動脈リンパ節領域への予防照射の適応は?
 CQ19 維持療法として経口抗がん剤や免疫療法は推奨されるか?

第5章 III期とIV期の主治療
 総説
 CQ20 III・IVA期に対して放射線治療を施行する場合、放射線治療単独と同時化学放射線療法(CCRT)のいずれが推奨されるか?
 CQ21 III・IVA期に対して同時化学放射線療法(CCRT)を施行する場合、推奨される薬剤は?
 CQ22 III・IVA期に対して主治療前に施行する化学療法は推奨されるか?
 CQ23 III・IVA期に対して手術療法は推奨されるか?
 CQ24 IVB期に対して推奨される治療は?
 CQ25 III・IV期の腺癌に対して推奨される治療は?

第6章 再発癌の主治療
 総説
 CQ26 前治療として放射線治療が施行されていない場合、骨盤内に限局した再発に対して推奨される治療は?
 CQ27 照射野内再発に対して推奨される治療は?
 CQ28 照射野外再発、あるいは放射線治療を施行していない場合の骨盤外再発に対して推奨される治療は?
 CQ29 再発癌に対して全身化学療法は推奨されるか?
 CQ30 再発癌に対して全身化学療法を行う場合、推奨されるレジメンは?

第7章 妊娠合併子宮頸癌の治療
 総説
 CQ31 妊娠に合併した0期に対して推奨される治療は?
 CQ32 妊娠に合併したIA期に対して推奨される治療は?
 CQ33 妊娠に合併した浸潤癌に対して推奨される治療は?

第8章 治療後の経過観察
 総説
 CQ34 治療後の経過観察として推奨される間隔は?
 CQ35 治療後の経過観察において施行すべき検査項目は?

第9章 資料集
I 抗がん剤の有害事象一覧
II 子宮頸癌に用いることが多い抗がん剤と保険適用の有無
III 略語一覧

索引

****** 私見

医療従事者が患者さんのためによかれと思って最善を尽くしたとしても、必ずしも100%患者さんの期待通りの結果が得られるとは限りません。患者さんに対して、“我が国における現時点での標準医療”が提供されていれば、結果の善し悪しに関わらず、その結果を厳粛に受け入れるしかありません。

医療従事者は、職務として患者さんに関わる以上、“我が国における現時点での標準医療は何であるか?” を患者さんにきちんと説明して、現時点での標準医療を患者さんに提供できるように最大限の努力を払い続ける義務があります。もしも、自施設でそれが無理な状況であれば、標準医療を提供することが可能な施設に患者さんをただちに紹介する必要があります。

患者さん自身が、御自分の意思で標準医療を拒否し、自己責任において代替療法を選択した場合は、その結果責任を他人に押しつけることは難しいと思います。医療従事者が、現時点での標準医療を患者さんに提供する努力を怠って、エビデンスに乏しい代替療法を患者さんに押し付けて、その結果が不良の場合は、その医療従事者に対して結果責任が問われるのは当然だと思います。そこで、医学の全分野において、“現時点における標準医療は何か?” ということが、常に、非常に大きな問題となります。

最近刊行された産婦人科関連のガイドライン、取り扱い規約は以下の通りです。

・ 子宮頸癌治療ガイドライン(2011年版)
・ 卵巣がん治療ガイドライン(2010年版)
・ 子宮体がん治療ガイドライン(2009年版)
・ 絨毛性疾患取扱い規約第3版(2011年)
・ 産婦人科診療ガイドライン産科編2011
・ 妊娠高血圧症候群(PIH)管理ガイドライン2009
・ 日本版救急蘇生ガイドライン2010に基づく新生児蘇生法テキスト改訂第2版(2010年)
・ 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2011
・ 子宮内膜症取扱い規約第2部治療編・診療編(第2版)2010年
・ ホルモン補充療法ガイドライン2009
etc.

自分の関わっている診療分野のガイドラインや取り扱い規約の最新版を常に熟読吟味して、科内でも周知徹底させる必要があると考えています。


子宮頚がん予防ワクチンについて

2011年02月06日 | 婦人科腫瘍

子宮頚がんは子宮頸部に発生する悪性腫瘍で、組織学的には扁平上皮癌が約85%、腺癌が約15%を占めます。近年、子宮頸がんの原因のほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスであることが分かってきました。 HPVに感染しても多くの場合は、免疫力によってウイルスが体内から排除されますが、何らかの理由によりHPVが持続感染した場合、長い年月(HPV感染から平均で10 年以上)をかけて子宮頸がんへと進行する危険性があります。

HPVは現在までに100種類以上確認されてますが、そのうちの十数種類のハイリスク型HPV(16型、18型、31型、33型、35型、45型、51型、52型、56型、58型、59型、68型、73型、82型など)が子宮頸がんの発症に関わっています。 特に、HPV 16型と18型は子宮頸がんの70%近くの原因を占めると報告されています。

子宮頚がんを予防する目的のワクチンが開発され、海外ではすでに100カ国以上で使用されています。日本でも、子宮頸がん予防ワクチン(サーバリックス)が2009年10月に承認され、2009年12月22日より一般の医療機関で接種することができるようになりました。

このワクチンは、ウイルスの殻を目印に抗体を作らせようというもので、ウイルスの遺伝子そのものが入っているわけではありませんから、ワクチン接種により子宮頚癌が悪化するということはないと思います。ですから、ワクチン接種の前に、ウイルス感染の有無を確認する必要は特にないと思います。

ただし、このワクチンは、すでに今感染しているハイリスク型HPV(16型、18型)を排除したり、子宮頸部の前がん病変やがん細胞を治す効果はなく、あくまで接種後のハイリスク型HPV(16型、18型)感染を防ぐものです。全てのハイリスク型HPVの感染を防ぐことができるわけではありませんので、ワクチンを接種しなかった場合と比べれば可能性はかなり低くなるものの、ワクチンを接種していても子宮頸がんにかかる可能性はゼロではありません。またワクチンの効果がどれだけ長く持続するかについては、現在も調査が継続して行われています。現時点でワクチンを接種してから最長で6.4年までは前がん病変を100%予防できることが確認されてます。

米国では、HPVに感染していない女性を対象にした大規模臨床試験で80%近い予防効果があったと報告されています。しかし、欧米ではHPV 16型と18型の割合が多いのに対し、日本ではHPV 52型、58型の割合が比較的多いとされ、欧米型二価ワクチン(HPV 16型、18型)のサーバリックスが日本でどの程度有効なのか?は未知数です。

ハイリスク型HPVに感染した女性の0.1~0.15%程度しか子宮頸がんを発症しませんが、ハイリスク型HPVに感染後にどのような女性が子宮頸がんを発症するのか、そのメカニズムは解明されていないため、感染した全ての女性が子宮頸がんを発症するリスクがあります。毎年15,000人の女性が子宮頸がんに罹患し、3,500人もの女性が命を落とすことにつながりますから、子宮頸がん予防ワクチンを接種してハイリスク型HPV(16型、18型)の感染を予防することは子宮頸がん発症のリスク軽減のためには大いに意味のあることと考えられます。

対象となる全女性に無料接種を実施している国もあります。例えば、オーストラリア政府は12歳から26歳の女性200万人に対してHPVワクチンの無料接種を2007年4月から開始しました。 日本でも年齢を限定して全女性に全額公費助成している自治体が多くあります。飯田市の場合、本年1月11日以降、中学校1年生(13歳相当)~ 高校1年生(16歳相当)の女子が全額公費助成の対象となりました。 助成対象年齢以外の女性は全額自己負担(約5万円)となります。

子宮頸がん予防ワクチンは肩に近い腕の筋肉に注射します。1~2回の接種では十分な抗体ができないため、半年の間に3回の接種が必要です。接種期間の途中で妊娠した際にはその後の接種は見合わせることとされています。

16、18型以外のハイリスク型HPVが原因になる子宮頸がんには効果が認定されておらず、ワクチン接種時点ですでに感染していたウイルスにも無効です。子宮頸がんを完全に防ぐためには、子宮頸がんワクチンの接種に加えて、定期的に子宮頸がん検診を受けることが大切です。ワクチン接種後も、1~2年に1度は子宮頸がん検診(子宮頚部細胞診)を受けるようにしましょう。


やさしい医学: 子宮がんについて

2010年12月22日 | 婦人科腫瘍

1 はじめに

一般に子宮に発生する癌(上皮成分から発生する悪性腫瘍)は、子宮頸部に発生する子宮頸癌と、子宮体部に発生する子宮体癌に大別されます。

Uterineca

2 子宮頚がん

◎子宮頸癌とはどんな病気か?

子宮頸癌は子宮頸部にできる癌で、最近では20~30歳代の若年女性に急増しています。初期の子宮頸癌ではほとんど自覚症状がありませんが、癌が進行すると不正性器出血や性交渉時の出血などの症状がみられることもあります。

子宮頸癌は扁平上皮癌と腺癌の2種類があります。扁平上皮癌は子宮頸癌の約80%で放射線療法がよく効きますが、腺癌は子宮頸癌の約20%で放射線療法はあまり効果が期待できません。

子宮頸癌は他の癌と異なり、定期的な検診で前癌病変のうちに発見することが可能です。前癌病変の異形成の段階で発見し治療を行えば、ほぼ100%完治します。また子宮を温存することも可能なため、その後の妊娠・出産も可能です。

◎子宮頚癌の原因

近年、子宮頸癌の原因のほとんどはヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスであることが分かってきました。HPVは性交渉により感染します。このウイルスはとてもありふれた存在で、性交渉の経験のある女性であれば、ほとんどの人が感染したことがあると考えられています。

HPVに感染しても多くの場合は、免疫力によってウイルスが体内から排除されますが、何らかの理由によりウイルスが持続感染した場合、長い年月(ウイルス感染から平均で10年以上)をかけて子宮頸癌へと進行する危険性があります。HPVには100以上ものタイプがあり、そのなかで約15種類が特に癌になりやすいハイリスクタイプとされています。

◎子宮頸癌の検査と診断

初期の子宮頸癌は自覚症状に乏しいので、定期的に子宮頸癌検診を受ける必要があります。現在、子宮頸癌検診では細胞診検査が主流です。細胞診とHPV検査を併用することで検診の精度がほぼ100%になり、将来の子宮頸癌のリスクも知ることができます。アメリカの婦人科検診のガイドラインでは、細胞診とHPV検査の両方が陰性の場合はその後3年間は検診の必要がないとされています。

子宮頚癌検診の結果、精密検査の必要性があると判断された場合、コルポスコープ(腟拡大鏡)検査を行います。コルポスコープ検査で異常が疑われる部位があれば、その部分の組織を一部採取(生検)して病理専門医が診断します。

前癌病変の異形成は、軽度、中等度、高度と長い時間をかけて進行し、最終的に子宮頸癌になる恐れがあります。

◎子宮頚癌の臨床進行期分類

Ⅰ期:癌が子宮頚部にとどまる場合。肉眼的に癌が見えない場合はⅠA期(間質浸潤の深さが3mm以内ならⅠA1期、間質浸潤の深さが3mmをこえるが5mm以内ならⅠA2期)と診断されます。肉眼的に癌が見えればⅠB期と診断されます。

Ⅱ期:癌が子宮頚部を超えて広がってるが、骨盤壁や腟壁の下3分の1には達してない場合。

Ⅲ期:癌が骨盤壁に達しているか、腟壁の下3分の1まで広がっている場合。

Ⅳ期:癌が小骨盤腔を超えてほかの臓器に転移しているか、膀胱・直腸の粘膜にまで広がっている場合。

◎子宮頸癌の治療

異形成・子宮頸癌の治療法は病変の進行状態によって異なります。

軽度異形成は、自然に治癒する可能性が高いため通常は治療の対象になりません。異形成がさらに進行した場合には、癌への進行を防ぐため円錐切除術という治療を行います。子宮頚癌ⅠA1期までの段階であれば、円錐切除術で治癒が可能で、子宮を温存できるのでその後の妊娠・出産にもほとんど影響はありません。

ⅠA2期以上の子宮頸癌に進行してしまうと、円錐切除術では病変を取りきれなくない場合が多く、子宮の摘出が必要になります。ⅠB期以上の子宮頚癌では、子宮だけでなく基靭帯、膣壁、骨盤内リンパ節なども同時に摘出する広汎子宮全摘出術を実施する必要があります。広汎子宮全摘出術では、下肢リンパ浮腫や排尿障害などの後遺症が高頻度に残ります。

子宮頸癌の中でも扁平上皮癌は放射線に対して感受性が高く、放射線療法の治療成績は手術と同等です。最近は、化学療法(抗癌剤治療)と放射線療法を同時に行う同時併用化学放射線療法により、治療成績が向上しました。しかし、放射線療法は癌だけでなく腸や膀胱などにも放射線があたってしまうため、後遺症が残ることがあります。

◎子宮頸癌の予防ワクチン

子宮頸癌の原因がウイルスだとわかり、子宮頸癌の予防ワクチンが開発されました。子宮頚癌予防ワクチンは、子宮頚癌の原因となりやすいHPV16型とHPV18型の感染を防ぐワクチンで、最近、日本でも一般の医療機関で接種することができるようになりました。

3 子宮体癌

◎子宮体癌とはどんな病気か?

子宮体癌は子宮内膜に発生する癌で、95%以上が腺癌です。以前は日本人には少ない癌と言われていましたが、近年増加傾向にあり、現在では全子宮癌の45%を占めるほどになっています。

子宮体癌は、食生活やその人の体質に深く関係があります。高脂肪・高カロリーの食事を好む人、肥満、糖尿病、高血圧などのある人は注意が必要です。また、出産経験のない人や、若い頃排卵障害、ホルモン異常のあった人も危険性が高いことが知られています。

年齢的には45歳以上から増えはじめ、50歳以上の閉経後に多く発生します。

◎子宮体癌の検査と診断

子宮体癌の症状としては、閉経後の不正性器出血や月経の異常が重要です。子宮体癌を早期発見するには閉経期前後の子宮内膜の検査が大切です。

子宮体癌のスクリーニング検査としては、子宮内膜細胞診が一般的です。子宮の内部に細い器具を入れ、子宮内膜の細胞をこすりとって調べる検査で、比較的簡単にできます。この検査で異常が発見された場合、今度は子宮内膜の組織を一部採取して病理専門医が顕微鏡で調べ診断を確定します(子宮内膜組織診)。

また、経腟超音波検査で、子宮内膜が厚くなっているかどうかも非常に重要な情報です。通常、閉経後には子宮内膜は委縮して薄くなりますが、子宮体癌の場合は子宮内膜が肥厚しています。

子宮体癌は、発生のメカニズムの違いから、2つのタイプに大別されます。1つは、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの影響を受けて発生する「タイプⅠ」と呼ばれるものです。もう1つは、エストロゲンと関係なく発生し、高齢者に多くみられる「タイプⅡ」と呼ばれるものです。タイプⅠは子宮体癌の80~90%を占め、「子宮内膜異型増殖症」という前癌病変を経て癌に移行します。タイプⅠは進行が遅く、予後は比較的良好です。タイプⅠの病理組織型は類内膜腺癌です。それに対して、タイプⅡの場合は委縮した子宮内膜から突然発症し、タイプⅠと比べて進行が速く、遠隔転移の頻度も高く、予後不良です。タイプⅡの病理組織型は、漿液性腺癌、低分化型腺癌、明細胞癌などです。

◎子宮体癌の手術進行期分類

Ⅰ期:癌が子宮体部にとどまる場合。

Ⅱ期:癌が子宮頸部間質まで広がっている場合。

Ⅲ期:癌が卵管・卵巣、腟、リンパ節に広がっている場合。

Ⅳ期:癌が骨盤を超えてほかの臓器に転移しているか、膀胱・直腸の粘膜にまで広がっている場合。

◎子宮体癌の治療

子宮体癌の治療は手術療法が中心となります。手術方法としては、子宮全摘出術・両側付属器切除 + 骨盤~傍大動脈リンパ節郭清術(または生検)などが行なわれます。

癌の進行度、糖尿病や高血圧の有無、年齢や肥満の程度など、患者さんそれぞれに最適な手術方法を正確に見きわめることが重要です。子宮体癌の進行度を手術前に正確に見きわめるために、CTやMRIなどの検査も行なわれます。

手術摘出物の病理検査結果(癌の組織型、筋層浸潤の深さ、癌の広がり具合、リンパ節転移の有無など)によっては、手術後の追加療法が必要になる場合もあります。子宮体癌の手術後の追加療法は、放射線療法や化学療法がありますが、未だに標準的な方法は確立されていません。これは、欧米では放射線療法が、日本では化学療法が主に使われてきたため、大規模な比較検討が行なわれていないためです。

4 子宮肉腫

子宮体部に発生する悪性腫瘍には、子宮体癌以外に子宮肉腫(子宮の非上皮性部分から発生する悪性腫瘍)があります。子宮肉腫には発生頻度の高い順に、「癌肉腫」、「子宮平滑筋肉腫」、「子宮内膜間質肉腫」の3つのタイプがあります。これらの腫瘍の発生頻度はいずれも非常にまれで予後不良の場合が多いですが、比較的ゆっくりした経過をたどる症例もあります。

特に、子宮平滑筋から発生する子宮平滑筋肉腫は進行が早く、予後はきめて不良です。癌に比べて非常にまれですが、術前診断が難しく、子宮筋腫と誤診されて、手術後の病理診断で子宮平滑筋肉腫と判明する場合もあります。治療は手術療法が主で、子宮全摘出術を行います。化学療法や放射線療法はあまり有効ではありません。

信濃の地域医療」(住民の健康を守るために)、2009・No.396、毎月1回発行、社団法人・長野県国保地域医療推進協議会


卵巣癌の診断と治療

2010年12月05日 | 婦人科腫瘍

昨日、日本婦人科腫瘍学会学術講演会に出席するために、佐賀市まで行ってきました。学会会場(佐賀市民会館)の書籍販売で、「卵巣がん治療ガイドライン 2010年版」(2010年11月25日発行、162ページ、定価:本体2600円+税)をみつけてさっそく購入しました。2007年版(95ページ)と比べてページ数がかなり増えました。

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卵巣には、表層上皮、性索間質(顆粒膜細胞、莢膜細胞)、胚細胞などがあり、これらの組織から多種多様な腫瘍が発生する。卵巣癌の組織型は多様であり、その発生も単一の機序では説明できず、卵巣癌の発生には複数の要因が関与していると考えられる。

大部分は散発性であるが、乳癌と同じくBRCA1、BRCA2遺伝子変異が知られている(母親や姉妹が卵巣癌である場合は卵巣癌のリスクが約3倍になる)。他のリスク要因として不妊、出産歴がないこと、子宮内膜症、肥満、食事、排卵誘発剤の使用、ホルモン補充療法、動物性脂肪の多量の摂取や喫煙などが挙げられる。一方、経口避妊薬の使用や授乳(1回の妊娠で授乳期間も含めると卵巣は2年半休める)は卵巣癌のリスクを低下させる。

日本人の卵巣癌のリスクは欧米人(動物性脂肪を多くとる)に比べると半分以下とされているが、最近この差は縮まっている(生活が欧米化、晩婚化や出産回数の減少といった女性のライフスタイルの変化も関係)。

卵巣癌は癌が蔓延してから初めて自覚的な症状がでるため、早期診断しにくい癌である。半数以上が進行癌で診断される。また卵巣癌と良性卵巣腫瘍との鑑別は難しく、手術で摘出し検査して初めて癌と診断される場合も多い。

経腟超音波、CT、MRI、PET-CTなどの画像診断で、腫瘍の大きさや内容の性状、腹水・胸水の有無、転移病巣の有無など癌の進行の程度を調べる。

CA125、CA19-9などが主な卵巣癌の腫瘍マーカーで、これらが異常高値を示す場合には悪性の可能性が高い。治療前に高値を示した腫瘍マーカーは治療中・治療後に繰り返し検査して、治療効果の判定や経過観察に利用する。

腹水や胸水が貯留する場合には、これらを一部採取して悪性細胞の有無を調べる。また膣内、腹部、鼠径部など採取しやすい場所に転移病巣がみられる場合にはこれを一部生検し病理組織検査を実施する場合もある。

術前に卵巣癌の診断を確定することは困難で、開腹手術で摘出した卵巣腫瘍の組織診断が最終診断となる。

卵巣癌の治療は手術療法と化学療法が密接に連動する複合療法として行われる。

初回治療は手術療法であり、基本術式として両側付属器摘出術、子宮全摘術、大網切除術が含まれ、staging laparotomyとして腹腔細胞診、生検、後腹膜リンパ節(骨盤・傍大動脈節)郭清術ないし生検が必要となる。さらに進行癌では初回腫瘍減量術(primary debulking surgery)が必要である。

卵巣癌では術後の残存腫瘍が予後と相関することから、手術は完全切除を目指した最大限の腫瘍減量術(maximum debulking surgery)を行うべきである。しかし、進行例では腫瘍の可及的摘出に終る場合もあるため、腹腔内腫瘍の状態および全身状態を確認したうえで、腫瘍減量術の程度を考慮する。

進行癌では初回術後残存腫瘍径が化学療法効果を予言する。しかしながら、卵巣癌は進行癌が60%を占め、初回腫瘍減量術でoptimal disease(1cm未満の残存腫瘍)にできる確率が50~60%にとどまることより、interval debulking surgery (IDS)が導入されている。

術後low-risk群(Ⅰa/Ⅰb期、高分化癌、非明細胞腺癌)では手術のみで約95%の5年生存が期待できる。術後の化学療法は省略され、厳重な経過観察を行う。一方、highrisk群(Ⅰc期以上、低分化癌、すべての明細胞腺癌)では術後に化学療法が実施される。

初回化学療法(first-line chemotherapy)は、TC療法(パクリタキセル175~180mg/m2+カルボプラチンAUC 5~6)が標準的治療として広く世界中で推奨されている。カルボプラチンの投与量はmg/m2ではなくAUCを用いて算出され、Calvert計算式〔目標AUC×(GFR+25)〕が用いられる。

初回手術が、1cm未満の残存腫瘍(optimal disease)の場合と、1cm以上の残存腫瘍(suboptimal disease)で予後は異なる。optimal diseaseの場合は術後化学療法(TC療法)を6コース行う。suboptimal diseaseに対してもTC療法6コースが予定治療となる。しかし、試験開腹例や大きな残存腫瘍(測定可能病変)を有する症例では化学療法を3(2~5)コース行い、増悪例を除いた症例に対してIDSを行い、さらに術後化学療法を3コース程度継続することが臨床上推奨される。初回化学療法に非奏効例は初回薬剤と交差耐性を有さない薬剤を用いた二次化学療法(second-line chemotherapy)を行うが、奏効が得られない場合は緩和医療へ移行する。

IDSを前提とした術前化学療法の臨床試験が進んでいる。また、抗癌剤感受性に乏しい明細胞・粘液性腺癌に対しては術後化学療法として標準的なレジメンは科学的に確立されていない。

若年者に好発する胚細胞性悪性腫瘍は抗癌剤に高い感受性を有することより、患側付属器の摘出にとどめ(妊孕性温存手術)、術後はブレオマイシン、エトポシドとシスプラチンの併用療法(BEP療法)が標準的である。術後の残存腫瘍径が予後と相関するというコンセンサスは得られていない。


子宮頸がん予防ワクチン接種の公費助成を 電子署名募集

2010年01月15日 | 婦人科腫瘍

日本では、毎年約15000人が子宮頸がんに罹患し、毎年約3500人がお亡くなりになっています。子宮頸がん予防ワクチンはすでに100カ国以上の国で承認されてますが、日本でも遅ればせながら作年10月にやっと承認されました。

予防ワクチンと定期検診(子宮頚部細胞診)とを組み合わせることにより、子宮頸がんの発症率および死亡率が7割程度減少することが示唆されています。

この子宮頸がん予防ワクチンは現時点では任意接種であり、3回の接種に合計で約5万円前後の費用が必要となります。

より多くの女性での接種が可能となるように、約30カ国で公費負担による10歳代前半の女子に対する接種が行われています。ワクチン接種により、将来的に子宮頚がんが7割以上減ることが見込まれますので、接種費用を公費負担としても、長期的には医療費が抑制されます。日本でも子宮頸がん予防ワクチン接種の公費助成が行われるよう求める電子署名の募集活動が開始されました。

子宮頸がん予防ワクチン 予防効果に期待 定期検診も受診を

子宮頸がんワクチン、11~14歳へ優先接種を 日本産科婦人科学会など3学会が提言

子宮頸がん予防ワクチン承認決定、国内初

子宮がんについて

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(以下、http://hpv.umin.jp/より引用)

子宮頸がん予防ワクチン接種の公費助成を

子宮頸がんは性交渉時のヒトパピローマウイルス(HPV)が原因の一つであり、日本でも毎年約1万5千人の方が発症し、約3千500人の方がお亡くなりになっています。近年、子宮頸がん予防HPVワクチンが開発され、ワクチン接種によりウイルス感染を予防し、将来的な子宮頸がんの発症数を減らすことが期待されるようになりました。このHPVワクチンが本邦でもようやく承認されたところですが、現時点では任意接種であり、3回の接種に合計で約5万円前後の費用が必要となります。より多くの女性での接種が可能となるように、諸外国では国のワクチン政策に組み入れることが推奨されており、ほとんどの先進国では接種費用に対し公費助成がなされています。我が国においてもより多くの日本女性の健康を守るために、子宮頸がん予防HPVワクチンの公費助成による負担軽減を求めます。

平成22年1月13日
国立がんセンター中央病院院長
内閣府規制改革会議専門委員
土屋了介

本趣旨にご賛同いただけます皆様からのご署名をお願いいたします。

電子メールのアドレスをご記入の上、連絡の可否の欄を可にしていただいた方には、本件関連のニュースをお知らせいたします。

プライバシーポリシー
ご署名のためにいただいたお名前等個人情報は署名以外の目的に使うことはございません。署名提出先には、個人情報につき取り扱いに留意してくださるよう申し入れを行います。個人情報を、署名提出先以外の第三者に開示・提出することはございません。管理は本署名事務局で適切に行います。

(引用終わり)

下記のサイトで電子署名が出来ます。
http://hpv.umin.jp/


子宮頸がん予防ワクチン 本日から販売開始

2009年12月22日 | 婦人科腫瘍

子宮頸がんを予防するワクチンの販売が、本日から、日本国内でも開始されます。販売が始まるのは、グラクソ・スミスクライン株式会社の「サーバリックス」と呼ばれるワクチンで、海外では、2007年5月にオーストラリアで承認されたのに続いて、欧米やアジアの各国で承認され、現在すでに100か国以上で承認されています。

子宮頚がんは、特定のヒトパピローマウイルス(16型、18型など)への感染が原因とされています。日本国内では、年間約8000人、上皮内がんも含めると約15000人が子宮頸がんと診断され、年間約3500人の女性の死因となっています。特に、20~30代の若い女性で発症率が高いのが特徴です。

子宮頚がんの予防には、ワクチンを半年間に3回接種する必要があり、接種費用がかなり高額となってしまうため、関係学会や患者団体などは、国に対し接種費用を公費で負担するよう訴えています。

子宮頸がん予防ワクチンを10代前半の女子に公費負担で接種するという政策によって、次世代での子宮頸がん発症率の激減が期待できます。長い目で見れば、決して税金の無駄遣いにはなりません。ぜひとも接種費用を公費負担にしていただきたいと思います。

参考記事:

子宮頸がん予防ワクチン 予防効果に期待 定期検診も受診を

子宮頸がんワクチン、11~14歳へ優先接種を 日本産科婦人科学会など3学会が提言

子宮頸がん予防ワクチン承認決定、国内初

子宮がんについて


子宮頸がん予防ワクチン 予防効果に期待 定期検診も受診を

2009年12月12日 | 婦人科腫瘍

グラクソ・スミスクライン株式会社は、国内初の子宮頸がん予防ワクチン「サーバリックス®」の発売を、2009年12月22日から開始します。 「サーバリックス®」は、ヒトパピローマウイルス16型および18型に対する2価ワクチンで、10歳以上の女性に対し、通常、1回0.5mLを3回(初回、初回から1ヵ月後、初回から6ヵ月後)、上腕の三角筋部に筋肉内接種することで、子宮頸がんの予防効果が期待できます。すでに世界101カ国で承認され、1100万回以上の接種実績があります。日本国内では自由診療扱い、1本12000円、3回の接種で36000円の全額自己負担となります。

子宮頸がんワクチン、11~14歳へ優先接種を 日本産科婦人科学会など3学会が提言

子宮頸がん予防ワクチン承認決定、国内初

子宮がんについて

****** 南信州新聞、2009年12月12日

子宮頸がん予防ワクチン 予防効果に期待 定期検診も受診を

 宮本 翼
 飯田市立病院(産婦人科) 医師

 子宮頸がんのワクチン接種が始まると聞きましたが、子宮頸がんとはどういう病気ですか?また、ワクチンで予防できるものですか?

 子宮頸がんは子宮頸部(膣に近い方)にできるがんで、好発年齢は40歳代と、若い方に多いがんです。初期には自覚症状はほとんどなく、ときに性器出血で婦人科を受診され、進行がんで見つかることがあります。
 近年、ほとんどの子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因で起こることが分かってきました。HPVは現在100種類以上見つかっており、そのうち、子宮頸がんを起こす可能性が高いのは主に十数種類です。
 HPVは、性交渉の際に子宮頸部に感染しますが、この時点では自覚症状がありません。ほとんどの女性が、一生のうちにこのような自覚症状のないHPV感染を経験し、そのほとんどは子宮頸がんに至ることはありません。
 しかし、進行した子宮頸がんでは、子宮摘出を含む手術や、抗がん剤・放射線療法などの治療が必要となり、特に最近増えている20~30歳代の患者さんにとって、子宮摘出は、妊娠のチャンスを失うことになり、大きな問題です。
 子宮頸がんは、HPV感染から、いくつかの段階を経て発症(がん化)しますが、がんになる以前の段階で早期発見できれば、子宮頸部のみを切除する手術も可能であり、妊娠・分娩が可能です。早期発見・早期治療のため、定期的な子宮がん検診をお勧めします。
 今回、承認され、接種が始まる子宮頸がんワクチンは、特に頻度が高い2種類のHPVを予防するワクチンです。主な接種対象年齢は、諸外国と同様、性交渉の経験がない10歳代前半の女子です。接種は3回の筋肉注射で、予防接種なので保険が効かず、合計で数万円と高価なのが難点です。
 ワクチンを接種すれば、この2種のHPVによる子宮頸がんは予防でき、子宮頸がんにかかる人を6~7割減らすことができるとされますが、他のウイルスによるものには効果が弱いため、定期的な子宮がん検診が勧められます。

(南信州新聞、2009年12月12日)


子宮頸がんワクチン、11~14歳へ優先接種を 日本産科婦人科学会など3学会が提言

2009年10月19日 | 婦人科腫瘍

子宮頸がんワクチンが正式承認され、年内にも発売されます。日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本婦人科腫瘍学会は、11歳~14歳の女子に優先的に接種し、費用は公費負担にするように連名で提言しました。ワクチン接種により、将来的に子宮頚がんが7割以上減ると見込まれるので、接種費用を公費負担としても医療費は抑制されるとしています。

ワクチンは3回の接種が必要で、全額自己負担だと3~4万円かかります。欧州や豪州、カナダなど26カ国では全額公費負担または補助が行われていて、接種率が9割に上る国もあります。厚生労働省は接種費用をどうするのかまだ決めてませんが、もしも全額自己負担ということになったら接種率はかなり低くなってしまうことでしょう。

子宮頚がんはありふれた病気で、当院でもほぼ毎週のように新たな子宮頚がんが見つかり、多くの子宮頚がんの手術(円錐切除術、単純子宮全摘術、広汎性子宮全摘術など)を実施していますし、放射線治療も多く行われています。子宮頚がんで亡くなる患者さんも毎年少なからずいらっしゃいます。

子宮頸がんワクチンを11歳~14歳の女子に公費負担で接種するという政策は、国家戦略として、次世代での子宮頸がんの発生率を減少させる試みです。決して税金の無駄遣いにはなりません。ぜひとも公費負担にしていただきたいと思います。

子宮頸がん予防ワクチン承認決定、国内初

****** 読売新聞、2009年10月16日

子宮頸がん予防ワクチンの製造販売を承認…厚労省

【要約】 厚生労働省は16日、子宮頸がんを予防するワクチン「サーバリックス」の製造販売を承認した。子宮頸がんワクチンの承認は国内初。子宮頸がんの主な原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)のうち、7割を占める2種類のウイルス感染を防ぐことができると期待されている。ただ、ワクチンは3回の接種が必要で、費用は4万~6万円程度かかる見込み。日本産科婦人科学会などは同日、政府に対して11~14歳女児への無料接種などを求める声明を出した。子宮頸がんは、年間1万人以上が新たに発症し、約3500人が死亡している。特に近年、20~30歳代の若い女性で発症者が増加している。

(読売新聞、2009年10月16日)


子宮頸がん予防ワクチン承認決定、国内初

2009年10月03日 | 婦人科腫瘍

近年、子宮頸がんの原因のほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスであることが分かってきました。 このウイルスに感染しても多くの場合は、免疫力によってウイルスが体内から排除されますが、何らかの理由によりウイルスが持続感染した場合、長い年月(ウイルス感染から平均で約10 年以上)をかけ、子宮頸がんへと進行する危険性があります。

子宮頚がんの原因がウイルスだとわかり、子宮頚がん予防ワクチンが開発されました。2006年6月に米国で初めて承認されて以降、欧米や豪州、カナダなど世界100カ国以上ですでに使われています。ワクチンによる予防手段があるため、子宮頸がんは予防できる唯一のがんと言われています。間もなく、子宮頸がん予防ワクチンが日本でも使用できるようになる見込みです。

多くの国では、12歳を中心に9~14歳で接種が開始され、学校や医療機関で接種が行われています。ワクチンは3回の接種が必要で、全額自己負担だと3~4万円かかります。欧州や豪州、カナダなど26カ国では全額公費負担または補助が行われていて、接種率が9割に上る国もあります。厚生労働省は接種費用をどうするのかまだ決めてません。

子宮頸がん予防ワクチンを接種するのは、次世代の子宮頸がん発生率を減らすための対策です。すでにがん年齢に達している世代の人の場合は、子宮頸がん検診(細胞診検査)を定期的に受診する必要があります。

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****** 産経新聞、2009年9月28日

子宮頸がん抑止に本腰 厚労省、ワクチン承認へ

国内で年間約3500人の女性の死因となっている子宮頸がんを予防するワクチンが、29日に開かれる厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の薬事分科会で承認される見通しとなった。頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)が原因。感染前のワクチン接種によって、頸がんの原因の約7割を占めるHPVの感染予防が期待できる。女性にとっては朗報であると同時に、接種開始年齢や費用など解決すべき課題も多い。【長島雅子】

(以下略)

(産経新聞、2009年9月28日)


HPVワクチンが登場しても子宮頸がん検診は重要

2009年06月28日 | 婦人科腫瘍

参考:子宮がんについて

****** 産経新聞、2009年6月27日

子宮頸がん 

若い世代に無料クーポン券配布 

100%予防可能、検診受けて

 検診でほぼ100%予防できる子宮頸(けい)がん。米国では検診受診率が80%を超え発症や死亡が減っているが、日本では24%にとどまり、年間2500人が亡くなっている。特に若い世代の受診率が低く、厚生労働省は受診率アップを目指し、対象年齢の女性に検診の無料クーポン券を配布する。専門医は「検診が自分の命を守るのに有効なことを知ってほしい」と呼びかけている。【平沢裕子】

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検診で必ず発見

 子宮頸がんは子宮の入り口(頸部)にできるがんで、性交渉によってHPV(ヒト・パピローマウイルス)に感染することが原因で起こる。HPVはありふれたウイルスで性交渉があれば誰でも感染の可能性がある。感染しても多くの人は自分の免疫力でウイルスを排除できるが、約1割がウイルスを排除できずに感染が持続し、さらにその中からがんに進行する人がいる。

 ただ、感染からがんに進行するまでには5~10年以上かかり、がんになる前に細胞が変形する「異形成」という状態になるため、定期的な検診でがんになる前に必ず発見・治療できる。

 自治医大附属さいたま医療センター産婦人科の今野良教授は「子宮頸がん検診は世界で最も普及し、効果が評価されている。先進国のほとんどで検診受診率が60~80%と高いのに対し、日本は30%以下で、それが若い世代の発症や死亡の増加につながっている」と指摘する。

 欧米に比べて検診受診率が低いとはいえ、50歳以上の世代はそれ以下に比べれば高く、子宮頸がんの発生と死亡は減少。一方で、20~40代では発生・死亡ともに増加、中には妊娠で初めて婦人科を受診し、悪化した子宮頸がんが発見されるケースもある。

将来の出産のために

 子宮頸がんの発症のピークは30代半ば。結婚・出産年齢が上がり、“アラフォー世代”の出産が増加していることを考えれば、20、30代での検診は将来の出産の備えにもなる。今野教授は「検診を定期的に受けていれば『子宮をとらずにすんだのに』と思うケースは少なくない」と警鐘を鳴らす。

 こうしたことから、厚労省は女性のがん検診受診率を上げようと、今年度補正予算で約216億円を投じ、子宮頸がんと乳がんについて検診の無料クーポン券を配布する。子宮頸がんの対象は前年度に20、25、30、35、40歳になった女性400万人で、早ければ各市町村から7月初めに送付される。

 検診は子宮の入り口を肉眼や拡大鏡で見る内診と、表面をブラシや綿棒でこすって採取した細胞を顕微鏡で見る細胞診。個人差はあるが基本的に痛みもなく、1分程度で済む。簡単な検査だが、日本では内診を嫌がる女性が多く、それが受診率の低さにつながっているという声もある。

 今野教授は「予防に検診が必要なことを理解していない人も多い。検診は女性の当然の権利と理解してほしい。将来子供を産むため、自分の命を守るため、ぜひ検診を受けてもらいたい」と呼びかけている。

検診の受診率、どうすれば上がる?

 がん検診の受診率を上げるにはどうすればいいのか-。東京都杉並区は乳がん検診を呼びかける案内文書の内容を、(1)従来通り(2)「補助が出る」とお得感を強調(3)「早期発見が命を救う」と安心感を強調(4)「発見が遅れると命にかかわる」と恐怖感を強調-の4種類用意し、どれが最も受診につながるかを調べている。

 文書は今年1月に40、50代の女性6000人に送付。返信があった2248人のうち、(1)が379人で受診希望が最も少なく、ほかは約430人でほぼ同じだった。受診期間は来年2月末まで。同区は実際に受診するかどうかをみた上で、今後のがん検診の通知内容を検討したいとしている。

(産経新聞、2009年6月27日)


子宮がんについて

2008年12月04日 | 婦人科腫瘍

 子宮は骨盤の中央に位置し、その両側には左右の卵巣があります。子宮は、子宮の下部の子宮頸部と、子宮の上部の子宮体部より構成されます。子宮がん(上皮性悪性腫瘍)は、子宮頸部に発生する子宮頸がんと子宮体部に発生する子宮体がんに大別されます。

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子宮頚がん

 子宮頸がんは子宮頸部にできるがんで、最近では20~30歳代の若年女性に急増しています。 初期の子宮頸癌ではほとんど自覚症状がありませんが、 がんが進行すると不正性器出血や性交渉時の出血などの症状がみられることもあります。

 子宮頚がんは扁平上皮がんと腺がんの2種類があり、扁平上皮がんは子宮頚がんの約80%で放射線療法がよく効きますが、腺がんは約20%で放射線療法はあまり効果が期待できません。

 子宮頸がんは他のがんと異なり、定期的な検診で前がん病変のうちに発見することが可能です。前がん病変で発見し、治療を行えば、ほぼ100%完治します。また子宮を温存することも可能なため、その後の妊娠・出産も可能です。

 近年、子宮頸がんの原因のほとんどは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスであることが分かってきました。 HPVは性交渉により感染します。このウイルスはとてもありふれた存在で、性交渉の経験のある女性であれば、ほとんどの人が感染したことがあると考えられています。 このウイルスに感染しても多くの場合は、免疫力によってウイルスが体内から排除されます。しかし、何らかの理由によりウイルスが持続感染した場合、長い年月(ウイルス感染から平均で約10 年以上)をかけ、子宮頸がんへと進行する危険性があります。

 HPVには100以上ものタイプがありますが、全てのタイプが子宮頸がんの原因となるのではありません。子宮頸がんは高リスク型HPVと呼ばれている一部のHPVによって引き起こされます。高リスク型HPVは性交渉により人から人へと感染します。 この高リスク型HPVが持続感染した場合、子宮頸がんへと進行する危険性があります。持続感染する原因はまだ明らかにはなっていませんが、その人の年齢や免疫力などが影響しているのではないかと考えられています。

 HPVに感染した人の中で、およそ10人に1人がウイルスを排除できず持続感染することがあります。その場合、子宮頸部の細胞に異常な変化を起こすことがあります。この細胞の変化を異形成といいます。異形成になってもウイルスが排除されれば、それに伴い異形成も自然に治ります。しかし、ウイルスが持続感染した場合、異形成の程度が進行することがあります。異形成の程度が軽い場合(軽度異形成)は自然に治癒することが多く、程度が重くなった場合(中等度~高度異形成)は自然治癒しづらくなります。

 高度異形成を治療せず長期間放置した場合、病変が進行し子宮頸がんになる恐れがあります。子宮頸がんは早期がんであれば、手術により高い確率で治癒することが可能です。しかし、がんが進行しているほど、手術をしてもがんをとりきれなかったり、他の臓器へ癌が転移している可能性が高くなり、治癒が難しくなります。

 子宮頸がんは定期的に癌検診を受けることで予防することができます。現在、子宮頸がん検診では細胞診での検査が主流です。しかし、細胞診のみでは検診の精度にやや問題があり、細胞診とHPV検査を併用することで、検診の精度がほぼ100%になり、将来の子宮頸がんのリスクも知ることができます。アメリカの婦人科検診のガイドラインでは細胞診、HPV検査の両方が陰性の場合は、その後3年間は検診の必要がないとされています。従って、子宮頸がん検診では、できれば、細胞診とHPV検査を併用することをお勧めします。

 子宮頸がん検診の結果、精密検査の必要性があると判断された場合、コルポスコープ(膣拡大鏡)検査を行います。コルポスコープ検査で異常が疑われる箇所があれば、その部分の組織を一部採取(生検)して病理専門医が診断します。

 異形成の病変は、軽度、中等度、高度と長い時間をかけて進行し、上皮内がんを経て最終的に浸潤子宮頸がんになる恐れがあります。異形成/上皮内がん/浸潤子宮頸がんの治療法は病変の進行状態によって異なります。

 軽度異形成は、ウイルスが免疫力によって排除されると、異形成も自然に治癒する可能性が高いため、通常は治療の対象になりません。異形成がさらに進行した場合には、がんへの進行を防ぐため円錐切除術という治療を行います。高度異形成~上皮内がんまでの段階であれば、円錐切除術で治癒が可能で、子宮を温存できるのでその後の妊娠・出産にもほとんど影響はありません。

 高度異形成~上皮内がんの段階で発見されず浸潤子宮頸がんに進行してしまうと、円錐切除術では病変を取りきれなくない場合が多く、子宮の摘出が必要になります。病巣の大きさ・拡がり具合によっては、子宮だけでなく基靭帯、膣壁、骨盤内リンパ節なども同時に摘出する広汎性子宮全摘術を実施する必要があります。広汎性子宮全摘術では、下肢リンパ浮腫や排尿障害などの後遺症が高頻度に残ります。

 子宮頚がんの中でも扁平上皮がんは放射線に対して感受性が高く、放射線療法の治療成績は手術と同等です。最近は、化学療法(抗がん剤治療)と放射線療法を同時に行う同時併用化学放射線療法により、治療成績が向上しました。しかし、放射線療法はがんだけでなく腸や膀胱等にも放射線があたってしまうため、後遺症が残ることがあります。

 子宮頚がんの原因がウイルスだとわかり、子宮頚がんの予防ワクチンが開発されました。アメリカなどでは臨床試験を終え、医療の現場で使用されるようになってきました。性交渉をもつ前に予防接種をしなければならないので、性交渉を経験する年代に達する前に何度か繰り返し接種することが必要です。日本でも臨床試験が進められていて、間もなく日本でもワクチンの使用が始まります。

子宮体がん(子宮内膜がん)

 子宮体がんは、子宮体部の粘膜(子宮内膜)に発生するがんで、95%以上が腺がんです。以前は日本人には少ないがんと言われていましたが、食生活の欧米化にともなって、近年増加傾向にあり、現在では子宮がん全体の30%を占めるほどになっています。

 子宮体がんは、食生活やその人の体質に深く関係があります。高脂肪・高カロリーの食事を好む人、肥満体質の人や糖尿病、高血圧のある人は注意が必要です。また、出産経験のない人や、若い頃排卵障害、ホルモン異常のあった人も危険性が高いことが知られています。年齢的には、45歳以上から増えはじめ、50歳以上の閉経後に多く発生します。

 子宮体がんの症状としては、閉経後の不正性器出血や月経の異常が重要です。子宮体がんを早期発見するには閉経期前後の子宮内膜の検査が大切です。不正性器出血などの症状が気になる場合は、自己判断せずに産婦人科で子宮内膜の検査をしてもらいましょう。

 子宮体がんのスクリーニング検査としては、子宮内膜細胞診が一般的です。子宮の内部に細い器具を入れ、子宮内膜の細胞をこすりとって調べる検査で、比較的簡単にできます。この検査で異常が発見された場合、今度は子宮内膜の組織を一部採取して病理専門医が顕微鏡で調べます(子宮内膜組織診)。また、経腟超音波検査で、子宮内膜が厚くなっているかどうか?も非常に重要な情報です。通常、閉経後には子宮内膜は委縮して薄くなりますが、子宮体がんの場合は子宮内膜が肥厚しています。

 子宮体がんは病理組織学的には90%以上が腺がんですが、発生のメカニズムの違いから、2つのタイプに大別されます。1つは、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの影響を受けて発生する「タイプⅠ」と呼ばれるものです。もう1つは、エストロゲンと関係なく発生し、高齢者に多くみられる「タイプⅡ」と呼ばれるものです。

 「タイプⅠ」は子宮体がん全体の80~90%を占め、「子宮内膜異型増殖症」という前がん病変の時期を経てがんに移行します。「タイプⅠ」は進行が遅く、予後は比較的良好です。「タイプⅠ」の病理組織型は「類内膜腺がん」です。

 それに対して、「タイプⅡ」の場合は委縮した子宮内膜から突然発症し、「タイプⅠ」と比べて進行が速く、遠隔転移の頻度も高く、予後不良です。「タイプⅡ」の病理組織型は「漿液性腺がん」、「明細胞がん」などです。

 子宮体がんはほとんどが腺がんであり、(ほとんどが扁平上皮がんである)子宮頚がんほど放射線療法が有効ではありません。従って、子宮体がんの治療は手術療法が中心となります。

 手術方法としては、子宮全摘出術・両側付属器切除・骨盤~傍大動脈リンパ節郭清術(または生検)などが行なわれる場合が多いですが、癌の進行度、糖尿病や高血圧の有無、年齢や肥満の程度など、患者さんそれぞれに最適な手術方法を正確に見きわめることが重要になります。子宮体がんの進行度を正確に見きわめるために、手術前にCTやMRIなどの検査も行なわれます。

 手術摘出物の病理検査結果(癌の組織型、筋層浸潤の深さ、癌の広がり具合、リンパ節転移の有無など)によっては、術後の追加療法が必要になる場合もあります。子宮体がんの追加療法は、放射線療法や化学療法(抗がん剤療法)がありますが、未だに標準的な方法は確立されていません。これは、欧米では放射線療法が、日本では化学療法が主に使われてきたため、大規模な比較検討が行なわれていないためです。

子宮体部に発生する、子宮体がん以外の悪性腫瘍

 子宮体部には、まれに子宮体がん以外にも(非上皮性の)悪性腫瘍が発生することがあります。「平滑筋肉腫」、「高悪性度子宮内膜間質肉腫」、「低悪性度子宮内膜間質肉腫」、「がん肉腫」、「腺肉腫」、「がん線維腫」などがあります。これらの腫瘍の発生頻度はいずれも非常にまれです。予後不良の場合が多いですが、比較的ゆっくりした経過をたどる症例もあります。


第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年) 問題と解答例

2007年11月27日 | 婦人科腫瘍

問題001~問題010   問題011~問題020 

問題021~問題030   問題031~問題040

問題041~問題050   問題051~問題060

問題061~問題070   問題071~問題080

問題081~問題090   問題091~問題100