ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

生殖補助医療(ART)

2020年06月29日 | 生殖内分泌

assisted reproductive technology ART

生殖補助医療(ART)とは、卵子を採取する採卵、体腔外での卵子と精子の体外受精卵細胞質内精子注入法(顕微授精)、培養後の受精卵を子宮内に移植する胚移植などを含む医療技術の総称です。

生殖補助医療の種類と適応
① 体外受精・胚移植(IVF-ET)
採卵により未受精卵を体外に取り出し、精子と共存させる(媒精)ことにより得られた受精卵を、数日培養後に子宮に移植する(胚移植)治療法です。最初は卵管性不妊の不妊治療に用いられてきましたが、現在はその他の不妊原因の治療としても使われています。
② 顕微授精(卵細胞質内精子注入法、ICSI)
卵子の中に細い針を用いて精子を1匹だけ人工的に入れる治療法です。顕微授精は、男性不妊受精障害など、顕微授精以外の治療によっては妊娠の可能性が極めて低いと判断される夫婦を対象とします。
③ 凍結胚・融解移植
体外受精を行った時に得られた胚を凍結させて保存し、その凍結胚をとかして移植する方法です。身体に負担のかかる採卵の回数を最小限にして、効率的に妊娠の機会を増やすことができます。卵巣過剰刺激症候群のリスクの高い時期の胚移植を避けることができます。移植する胚の数を1つにしておけば、多胎妊娠となるリスクを減らすことができます。

日本産科婦人科学会では、生殖補助医療を行っている施設(生殖医療登録施設)の一覧を毎年発表しています。

http://www.jsog.or.jp/modules/statement/index.php?content_id=20
体外受精・胚移植に関する見解(日本産科婦人科学会)
体外受精・胚移植(以下、本法と称する)は、不妊の治療、およびその他の生殖医療の手段として行われる医療行為であり、その実施に際しては、わが国における倫理的・法的・社会的基盤に十分配慮し、本法の有効性と安全性を評価した上で、これを施行する。
1.本法は、これ以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断されるもの、および本法を施行することが、被実施者またはその出生児に有益であると判断されるものを対象とする。
2.実施責任者は、日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医であり、専門医取得後、不妊症診療に2年以上従事し、日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録施設において1年以上勤務、または1年以上研修を受けたものでなければならない。また、実施医師、実施協力者は、本法の技術に十分習熟したものとする。
3.本法実施前に、被実施者に対して本法の内容、問題点、予想される成績について、事前に文書を用いて説明し、了解を得た上で同意を取得し、同意文書を保管する。
4.被実施者は、挙児を強く希望する夫婦で、心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態にあるものとする。
5.受精卵は、生命倫理の基本に基づき、慎重に取り扱う。
6.本法の実施に際しては、遺伝子操作を行わない。
7.本学会会員が本法を行うにあたっては、所定の書式に従って本学会に登録、報告しなければならない。

(昭和58年10月発表、会長 鈴木雅洲)
(平成18年4月改定、理事長 武谷雄二、倫理委員会委員長 吉村泰典)
(平成26年6月改定、理事長 小西郁生、倫理委員会委員長 苛原 稔)



http://www.jsog.or.jp/modules/statement/index.php?content_id=21
顕微授精に関する見解(日本産科婦人科学会)
 顕微授精(以下,本法と称する)は,高度な技術を要する不妊症の治療行為であり,その実施に際しては,わが国における倫理的・法的・社会的基盤に十分配慮し,本法の有効性と安全性を評価した上で,これを実施する.本法は,体外受精・胚移植の一環として行われる医療行為であり,その実施に際しては,本学会会告「体外受精・胚移植に関する見解」を踏まえ,さらに以下の点に留意して行う.
1. 本法は,男性不妊や受精障害など,本法以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断される夫婦を対象とする.
2. 本法の実施に当たっては,被実施者夫婦に,本法の内容,問題点,予想される成績について,事前に文書を用いて説明し,了解を得た上で同意を取得し,同意文書を保管する.
3. 本学会会員が本法を行うに当たっては,所定の書式に従って本学会に登録・報告しなければならない.

(平成4年1月発表、会長 鈴木雅洲)
(平成18年4月改定、理事長 武谷雄二、倫理委員会委員長 吉村泰典)

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不妊症の原因

2020年06月28日 | 生殖内分泌

男女別の不妊原因の頻度(WHO、1996)
女性のみ:41%、男性のみ:24%、男女とも:24%、原因不明:11%
不妊原因は女性に多いが、「男性のみ」「男女とも」の合計は48%で、約半数は男性に不妊原因がある。


不妊症の原因(WHO、1996)

卵管閉塞無排卵症重度の乏精子症・無精子症は不妊期間を問わず妊娠のために医療介入が必要である。

女性不妊症:
不妊原因の女性因子は、卵巣因子卵管因子子宮因子免疫因子に分けられる。

(1) 卵巣因子:
①排卵障害
・ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)への反応性低下
・視床下部性(ストレス、ダイエット)
・下垂体性(ゴナドトロピン分泌低下)
高プロラクチン血症
多嚢胞性卵巣症候群
②黄体機能不全
③卵巣予備能の低下
加齢が原因の卵巣予備能低下
・早発卵巣不全(POI)
・子宮内膜症、卵巣手術、悪性腫瘍に対する化学療法など

(2) 卵管因子:
卵管閉塞
ピックアップ障害(排卵された卵子を卵管内に取り込めない)
 ⇒検査が不可能のため原因不明不妊となる
配偶子(精子・卵子)や受精卵の卵管輸送ができない
 ⇒検査が不可能のため原因不明不妊となる

(3) 子宮因子:
着床障害
 粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮腔癒着症、中隔子宮など
頸管因子(精子が子宮内に侵入できない)
 子宮頸管狭窄、精子の頸管粘液不適合
 ⇒配偶者間人工授精(AIH)で妊娠は可能

(4) 免疫因子:
抗精子抗体
抗精子抗体(特に精子不動化抗体)を産生する女性では、抗体が頸管粘液内にも分泌され、精子の通過を妨げる。また卵管内にも精子不動化抗体は分泌され、人工授精で精子を子宮腔の奥まで注入しても卵管内でその通過が妨げられる。さらに精子不動化抗体は受精を妨害し不妊症の原因なる。

男性不妊症:
(1) 造精機能障害
(2) 精路障害
(3) 性機能障害
 勃起不全(ED)、性交障害
(4) 免疫因子
 精子に対する自己免疫もしくは同種免疫
 ⇒重度の乏精子症・無精子症の原因となる

原因不明不妊症
原因不明不妊は、一次検査で評価が難しい病態か、検査が不可能な不妊原因があるか、偶発的に妊娠できていないことなどが考えられる。
検査が不可能な不妊原因:
卵管疎通性のある卵管機能障害
 ⇒生殖補助医療で妊娠可能
受精障害
 ⇒生殖補助医療で妊娠可能
器質的疾患のない着床障害
 ⇒治療が困難なことが多い

参考文献:
データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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原因不明不妊

2020年06月26日 | 生殖内分泌

原因不明不妊、機能性不妊、
unexplained infertility

不妊期間が1年以上で、不妊症の一次検査を行っても明らかな異常を認めない場合を原因不明不妊という。原因不明不妊は、一次検査で評価が難しい病態か、検査が不可能な不妊原因があるか、偶発的に妊娠できていないことなどが考えられる。

原因不明不妊への対応で最も配慮すべきことは女性の年齢と不妊期間で、とくに女性の年齢は妊孕性を規定する最も重要な因子で、晩婚化や望児年齢の高齢化が進行している現在、治療を急がなくてはならない場合が多い。

軽度の卵管周囲癒着や軽度の子宮内膜症は、一次検査では診断困難であり、腹腔鏡により初めて診断される場合が多い。子宮内膜ポリープ、軽度の子宮腔癒着症などの子宮内腔病変は子宮鏡検査で診断可能である。

検査が不可能な不妊原因:
①卵管疎通性のある卵管機能障害 ⇒生殖補助医療で妊娠可能
②受精障害 ⇒生殖補助医療で妊娠可能
③器質的疾患のない着床障害 ⇒治療が困難なことが多い


女性の年齢が若くかつ不妊期間が短い場合は、6カ月間から1年間のタイミング指導により自然妊娠を期待できる。一方、高年女性においては早期の検査や治療が必要となる。特に女性の年齢が37~38歳以上の場合や不妊期間が3年以上の場合には、生殖補助医療という選択肢を早期に提示する必要がある。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ319 原因不明不妊に対する対応は?

1. 女性の年齢、不妊期間、社会的背景などを考慮して、検査・治療方針を提案する。(A)
2. 一次検査では特定できない病態について説明し、原因を明らかにするために二次検査を行う。(B)
3. 女性の年齢と不妊期間を考慮し、以下を選択する。(C)
 1) タイミング指導を含む6~12周期程度の待機療法を行う。
 2) 排卵誘発治療、配偶者間人工授精(AIH)のいずれか、または併用療法を行う。
 3) 早期に生殖補助医療を提案する。

参考文献:
1) 産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
2) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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不妊症の原因検索としての一次検査

2020年06月26日 | 生殖内分泌

不妊症は1つの原因が見つかっても他の原因がないとはいえず、治療に先立って、原因検索のための一次検査を網羅的に実施する必要があります。『産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020』には比較的簡便な以下の一次検査が示されています。

①基礎体温測定
基礎体温測定は、排卵や黄体機能を簡易的に評価でき、検査の日程を決めるうえでも有用です。

②超音波検査
超音波検査は子宮および卵巣の状態観察に必須の検査です。また、経腟超音波検査は卵胞発育モニタリングに欠かせません。子宮内腔の形態評価にはソノヒステログラフィー(SHG)が有用です。

③内分泌検査
黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、エストラジオール(E₂)、プロラクチン(PRL)、プロゲステロン(P₄)、テストステロン(T)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定。(月経周期とホルモンの変化
・LH、FSH、E₂の3項目は月経周期3~7日目に測定する。
・乳汁分泌、排卵障害が認められる症例ではPRL測定が勧められます(高プロラクチン血症)。特に多嚢胞性卵巣症候群を疑う症例では併せてTを測定します。
・P₄測定は黄体機能不全を疑う症例で黄体期中期に実施します。

④クラミジア抗体検査あるいは核酸増幅検査
・クラミジア抗体検査(IgG、IgA):クラミジア感染の既往の有無の診断に有用です
・子宮頸管のPCR検査:検査時点でのクラミジア感染の有無の診断に有用です

⑤卵管疎通性検査
子宮卵管造影、超音波下卵管通水法、卵管通気法。

⑥精液検査
男性因子の評価に必要な検査です。治療に先立って実施することが勧められます。

⑦頸管粘液検査
頸管粘液検査、精子子宮頸管適合検査(フーナーテスト)。これらの検査は排卵期に実施することが重要です。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ318 不妊症の原因検索としての一次検査は?

1. 基礎体温測定(A)
2. 超音波検査(A)
3. 内分泌検査(B)
4. クラミジア抗体検査あるいは核酸増幅検査(B)
5. 卵管疎通性検査(B)
6. 精液検査(A)
7. 頸管因子検査(B)

参考文献:
産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020

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女性の年齢と妊孕能(にんようのう)

2020年06月25日 | 生殖内分泌

妊孕能 妊孕性 fertility

妊孕能とは妊娠する能力を意味する用語です。

女性は年齢とともに卵胞数が減少します。出生時に200万個あった原始卵胞は年齢とともに減少し、思春期には5~10万個となり、35歳以上から減少率は加速し、閉経で0となります。女性の一生で排卵する卵子数は約400個です。また、一部の女性では子宮内膜症や卵巣腫瘍などを発症し、卵巣機能が低下することがあります。いったん低下した卵巣予備能は回復することはありません。卵巣内に残っている卵子の数は、血清抗ミュラー管ホルモン(AMH)値でその目安が確認でき、卵巣予備能を評価することができます。

加齢による卵胞数の減少


一方、卵子の質は、AMHでは測定できず、年齢に相関します。卵子の質を正確に表す指標は、現在のところありません。卵子の妊孕能は、おおむね37歳から44歳の間のどこかの時点で消失します。いったん卵子が加齢により妊孕能を消失すると、現在の不妊治療では妊孕性を回復することは不可能であり、治療不能(絶対不妊)となってしまいます。そのため、そうなる前に治療を開始することが唯一の対処法となります。

受精卵の着床率は、原則として年齢の影響を受けませんが、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの子宮疾患により影響を受けます。子宮内膜症、子宮筋腫、子宮頸がん、卵巣悪性腫瘍など、女性の不妊の原因となる病気は年齢とともに増加します。

女性の年齢別出生率をみると、30歳を超えるころから徐々に減少し、35歳を過ぎるとその傾向は顕著になり、40歳からは急激に減少します。その一方で、女性の平均初産年齢は年々上がってます(30.7歳・2017年)。従って、女性が出産できる期間は短くなっています。挙児を希望する場合は、年齢に応じてライフプランを考えておくことが大切です。

女性の年齢別出生率


不妊症診療における基本的考え方

参考文献:
データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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不妊症診療における基本的考え方

2020年06月24日 | 生殖内分泌

現在の不妊治療では、体外受精・顕微授精を用いれば、体外での受精をほぼ確実に起こすことができます。しかし、その受精卵を子宮内に胚移植しても妊娠成立しないカップルの不妊原因として、受精卵そのものの妊孕性喪失子宮因子(着床障害)が考えられます。現代の不妊診療でまず考慮しなければならないことは、いったん配偶子(精子・卵子)が加齢により妊孕能を消失すると、現在の不妊治療では妊孕性を回復することは不可能であり、治療不能(絶対不妊)となってしまうことです。特に35歳以上の女性の場合、卵子妊孕性の消失により絶対不妊となる前に、必要であれば体外受精まで治療を行うことを考慮する必要があります。検査、タイミング法、配偶者間人工授精(AIH)などを施行して様子を見ているうちに卵子の妊孕性が失われて絶対不妊となってしまうことは極力避けなければなりません。従って、適当な時期に、絶対不妊の危険性について、夫婦同席で十分な説明を行うことが重要です。

不妊原因の分類
現在の不妊症の原因は、生殖補助医療(ART)の有効性の観点から、①体内における受精障害、②配偶子・受精卵の異常、③子宮・母体側の異常、の三つに分類できます。

1) 体内における受精障害:
 ・卵管閉鎖
 ・精子減少症
 ・ピックアップ障害
 (卵管が排卵された卵子を取り込めない病態)
⇒体外受精で挙児可能

2)配偶子(精子・卵子)・受精卵の妊孕性消失:
 ・卵巣不全 (閉経)
  成熟卵子が得られない場合
 ・卵子妊孕性の消失 (加齢)
  成熟卵子が産生されているにもかかわらず個体発生能を消失している場合
 ・高度精子無力症・無精子症
  精子が得られない場合
 ・遺伝子異常による不妊
⇒現在の医療技術では体外受精を用いても挙児不可能

3) 女性側因子(子宮因子)による着床障害:
 子宮筋腫、子宮内膜症、子宮内膜ポリープ、子宮内膜菲薄化、子宮内膜増殖症、子宮腔癒着症などによって、着床が妨げられて妊娠が成立しない病態。
⇒外科的処置で妊娠が可能な場合と、挙児不可能な場合がある

参考文献:
生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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配偶者間人工授精(AIH)

2020年06月24日 | 生殖内分泌

artificial insemination with husband's semen (AIH)

配偶者間人工授精(AIH)は、妻の排卵日に合わせて調整した夫の精液を子宮内に注入する治療法で、できるだけ多数の運動精子を卵管内に到達させて受精させることを目的とします。軽度から中等度の男性因子不妊、頸管因子不妊、性交障害、原因不明不妊などに用いられます。女性側の要件としては、①少なくとも一側の卵管に通過性があり、②排卵が存在することが挙げられます。

一般的にAIHで妊娠する症例の約9割が4周期以内に妊娠します。ある一定の治療回数を行って妊娠しない場合は、受精障害や胚分割障害、着床障害など検査できない不妊原因があると考え、生殖補助医療(ART)などの積極的な不妊治療に進むべきと考えられます。

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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無月経の分類

2020年06月23日 | 生殖内分泌

月経が発来しない状態を無月経(amenorrhea)という。

正常な月経の発来には、
①間脳-下垂体-卵巣系による制御、
②卵巣における性ホルモン産生、
③子宮・腟
のすべてが正しく機能する必要がある。

①初経前、②妊娠・産褥・授乳中、③閉経後の無月経を生理的無月経という。生理的無月経以外の無月経を病的無月経という。

満18歳になっても初経がみられないものを原発性無月経という。原発性無月経の原因としては、Müller管の分化異常(子宮欠損、アンドロゲン不応症など)や染色体異常(Turner症候群など)が多い。それに対して、順調にあった月経が3カ月以上停止したものを続発性無月経という。

黄体ホルモン製剤(ゲスターゲン)投与により消退出血が生じるものを第1度無月経という。それに対して、ゲスターゲン投与のみでは出血が起こらず、エストロゲン投与に引き続きエストロゲンおよびゲスターゲンを投与して消退出血が出現するものを第2度無月経という。エストロゲンとゲスターゲンとを投与しても消退性出血が起こらない場合は子宮性無月経と診断される。子宮性無月経の原因としては、子宮欠損や子宮腔癒着症(アッシャーマン症候群)がある。


無月経の診断法

第1度無月経:
第1度無月経は、卵巣には発育途中の卵胞を認め、血中エストロゲン値を一定量認めるため、子宮内膜は増殖しているが、排卵せずプロゲステロンの分泌がない。
①多嚢胞性卵巣症候群(LH>FSH)
②視床下部性無月経(FSH、LH、E2:ともに正常値)

第2度無月経:
第2度無月経は、中枢性のゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)分泌低下、もしくは卵巣機能低下が主な原因である。
①下垂体性無月経、重症の視床下部性無月経(FSH、LH、E2:ともに低値)  
②早発卵巣不全、更年期(FSH、LH:ともに高値、E2:低値)

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014
3) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016

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ソノヒステログラフィー

2020年06月23日 | 生殖内分泌

sonohysterography (SHG)

ソノヒステログラフィー(SHG)は、生理食塩水を経腟的に子宮内に注入して子宮内腔を広げて経腟超音波検査で子宮内膜面の構造異常を評価する方法です。通常の経腟超音波検査で子宮内腔の厚さなどから、子宮内膜ポリープ、子宮粘膜下筋腫、子宮内膜癌などの子宮内膜面にある病変の存在を疑った場合に有用です。放射線被爆がなく、造影剤アレルギーのある患者にも実施でき、コストも安いなどの利点があります。


子宮内膜ポリープ

参考文献:
生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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子宮卵管造影検査

2020年06月23日 | 生殖内分泌

hysterosalpingography (HSG)

子宮卵管造影検査(HSG)は、月経終了後から排卵までの時期に、造影剤を経腟的に注入し、腹部レントゲン撮影を行います。子宮腔の形、卵管の通過性、卵管周囲に癒着があるかどうかの評価ができます。子宮奇形、粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮腔癒着症、卵管閉塞、卵管狭窄、卵管周囲癒着、卵管留水症などを診断することができます。HSGは不妊症スクリーニング検査として実施されますが、診断への有用性のみならず治療的効果も無視できません。HSG施行後に原因不明不妊患者が妊娠する事例をしばしば経験します。


正常所見


両側卵管閉塞

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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タイミング法

2020年06月23日 | 生殖内分泌

タイミング法、タイミング療法、タイミング指導、timed intercourse

タイミング法は、経腟超音波による卵胞計測、尿中LH簡易測定などにより排卵日を推定し夫婦生活(intercourse)を促す指導で、両側の卵管閉塞や重度の乏精子症・精子無力症などを認めなければ適応となります。

タイミング法では、妊娠成立の確率が最も高いintercourseのタイミングは排卵日の1~2日前です。排卵の6日以前もしくは排卵後1日後には妊娠の可能性はありません。そのため、排卵1~2日前にintercourseのタイミングをとるよう指導します。


Wilcox AJ et al, Hum Reprod, 1998

また、精液所見が正常の場合、妊娠の可能性のある排卵5日前から排卵当日までの間のintercourseの頻度(日数)が3回以上あると妊娠率が高くなります。 (Wilcox AJ et al, N Engl J Med, 1995)

参考文献:
データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

2020年06月22日 | 生殖内分泌

卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)は、主にゴナドトロピン療法後卵巣の嚢胞性腫大をきたし、全身の毛細血管透過性亢進により血漿成分がサードスペースへ漏出し、循環血液量減少、血液濃縮、胸・腹水貯留が生じた状態である。


OHSSの超音波像

OHSSは、多胎が減少している現在、生殖補助医療(ART)で最も懸念される医原性の副作用である。重症化すると血栓症などの重篤な後遺症も懸念されるため、その予防と初期対応が大切である。

OHSS重症度分類
現在のOHSS重症度分類は、一般診療所で行える検査で診断し、軽症は外来管理、中等症は週2回程度の再検、重症は入院を考慮することを原則としている。重症症例は、OHSS治療経験を有する医師が勤務する入院可能施設への紹介・搬送が前提である。



OHSS重症例の治療
重症例では大量の腹水が貯留して血管内脱水が生じ、循環血漿量の減少を生じることにより、急性腎不全、血栓症などの生命予後にかかわる重大な合併症に進展することがあるため、早期に発症を把握して治療を行うことが重要である。OHSSの治療には経験と慎重な対応が必要である。
厚生労働省・重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS):
https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm1104011.pdf

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ327 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症や重症化の予防は?
1. 軽症例には水分を十分に摂取させ、激しい運動や性交を控えさせる。(C)
2. 中等症以上ならびに妊娠例は厳重に管理し、症状や検査結果が改善しない場合は高次医療機関での管理を考慮する。(B)
3. 重症例では原則的に入院管理を勧める。(B)
4. PCOS症例とOHSS既往症例に対してゴナドトロピン療法を行う際は、低用量で緩徐に刺激する。(B)
5. 一般不妊治療の排卵誘発中にOHSSのリスクが高いと判断したら、hCG投与を中止する。(B)
6. 生殖補助医療を志向する場合にOHSSのリスクが高いと判断したら、以下のいずれかまたは複数の対策を施行する。
 卵巣刺激前
 1) GnRHアンタゴニスト法または低卵巣刺激法で排卵誘発する。(B)
 卵巣刺激中
 2) hCGの替わりにGnRHアンタゴニストを用いる。(B)
 3) hCG投与を減量または延期(coasting)する。(B)
 4) hCG投与を中止する。(B)
 採卵後
 5) 胚移植をキャンセルして全胚凍結する。(B)
 6) カルベルゴリンを投与する。(B)
 7) ルテアルサポートにhCGを使用しない。(A)

参考文献:
1) 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm1104011.pdf
2) 産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
3) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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排卵誘発法

2020年06月21日 | 生殖内分泌

視床下部性排卵障害の治療法
体重減少性、ストレス性、高プロラクチン血症性など、排卵障害の原因が明らかな場合にはそれらの原因を取り除く必要がありますが、そうでない場合には以下の排卵誘発法を行います。

クロミフェン療法:
クエン酸クロミフェン(クロミッド®)は、視床下部に働いてゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の放出を促進する作用があります。GnRHは下垂体からの黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進し排卵を回復させます。月経周期の5日目から50mg~100mg(1錠~2錠)/日を5日間連続服用します。クロミッド®は自然周期の排卵とは異なり、卵胞径20~25mmまで発育してもLHサージが起こらないことがあり、その場合はhCGもしくはGnRHアゴニスト点鼻薬などで排卵誘起を行います。また、クロミッド®を長期にわたり使用すると子宮内膜が菲薄化し頸管粘液が少なくなり、かえって妊娠しにくくなります。したがって、クロミフェン療法で妊娠が成立しない場合には6カ月を目処として中止し、他の治療法(ゴナドトロピン療法、体外受精など)へと移行します。

アロマターゼ阻害薬(レトロゾール):
レトロゾール(フェマーラ®)は、抗エストロゲン作用による閉経後乳癌の治療薬です。アロマターゼを阻害し抹消・脂肪細胞でのエストロゲン産生が抑制され、ネガティブフィードバックによりFSH分泌が促進され卵胞が発育します。通常月経3~5日目より2.5mg/日を5日間連続服用します。排卵率は90%で単一卵胞発育の割合が高いです。クロミッド®と異なり頸管粘液の減少や子宮内膜の菲薄化はほとんどありません。アロマターゼ阻害薬を排卵誘発剤として使用する際は、本来の治療薬としての適応外使用であり保険適用がありません。

ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)療法:
ゴナドトロピン療法は、FSH製剤ヒト閉経期性腺刺激ホルモン(hMG)製剤ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)製剤を用いて、直接的に卵巣に作用する治療法であり、強力な排卵誘発作用があります。従来のゴナドトロピン療法では、多胎と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高いことが知られています。


ゴナドトロピン療法

FSH低用量漸増療法:
ゴナドトロピン療法は多胎と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高いが、そのリスクを最小限に抑えた方法がFSH低用量漸増法です。FSH製剤を低用量で開始し、原則1週間ごとに診察し、主席卵胞の発育がみられるまで投与量を少しずつ増量する方法です。従来の方法と比較すると卵胞発育に時間がかかり、連日注射することによる肉体的な負担がありますが、副作用の発生率は減ってきてます。4個以上の排卵可能な発育卵胞を認める場合は、多胎やOHSSのリスクがあり、その周期のhCGもしくはGnRHアゴニスト点鼻薬などでの排卵誘起をキャンセルします。



ゴナドトロピン製剤

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016

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不育症・習慣流産

2020年06月21日 | 生殖内分泌

自然流産:
全妊娠の10~15%に起こります。自然流産の60~80%に胎児染色体異常が認められ、この偶発的に発生する染色体異常はどの妊娠においても発生する可能性があり、予防あるいは治療することはできません。

反復流産:
連続して2回流産を繰り返す状態をいいます。全妊娠の約5%に起こります。

習慣流産:
連続して流産を3回以上繰り返す状態をいいます。全妊娠の約1%に起こります。

不育症:
不育症は「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、妊娠は成立するが流産や早(死)産を繰り返して生児が得られない状態」と定義されます。



不育症のリスク因子:
一般的な流産率は10~15%なので、流産を3回繰り返す確率は計算上約0.1~0.3%となるはずですが、実際の頻度は不育症4.2%、習慣流産0.9%とこれよりかなり高い。従って、不育症・習慣流産では何らかのリスク因子が存在することが示唆され、以下のリスク因子の精査が必要です。リスク因子は多様化してますが、その半数以上は原因不明です。
①抗リン脂質抗体症候群
②子宮奇形
③染色体異常
④内分泌・代謝異常(甲状腺機能異常、糖尿病)
⑤血液凝固異常(凝固第Ⅻ因子、プロテインC、プロテインSなどの欠乏症)
⑥その他のリスク因子(感染症、同種免疫異常、多嚢胞性卵巣症候群など)

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014
3) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016

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高プロラクチン血症

2020年06月21日 | 生殖内分泌

高PRL血症 乳汁漏出性無月経 
hyperprolactinemia galactorrhea-amenorrhea

プロラクチン(PRL)は下垂体前葉で分泌されるホルモンの一つで、乳汁分泌作用性腺抑制作用を持ちます。分娩後、乳児の母乳吸引刺激によりPRLの分泌量が増加し乳汁産生を増加させます。 また、卵巣機能を抑制することで産褥性無月経を誘発します。また、妊娠や分娩と関連のない時期に高PRL血症をきたすと乳汁が漏出し、排卵障害を伴う場合が多く、典型的な例では乳汁漏出性無月経となります。

測定系によって差異を認めるものの本邦女性における血中プロラクチン(PRL)値の正常値は約30ng/mL以下であり、それをこえるものを高PRL血症と称します。PRLは排卵期から黄体期にかけて分泌が盛んになるので月経期での採血が推奨されます。

高PRL血症の原因
①生理的な原因:
 ストレス、運動、妊娠、乳頭刺激など
②PRL産生下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)
③間脳障害:
 キアリ-フロンメル症候群
 アルゴンツ-デル・カスチロ症候群
 視床下部腫瘍
④薬剤性:
・中枢神経系薬剤
 クロルプロマジン、ハロペリドール、イミプラン、アミトリプチリンなど
・胃腸薬
 メトクロプラミド(プリンペラン)、スルピリド(ドグマチール)、シメチジンなど
・血圧降下剤
 メチルドパ、レセルピンなど
・ホルモン製剤
 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、エストロゲン製剤など
⑤内分泌疾患:
 原発性甲状腺機能低下症
 末端肥大症
 多嚢胞性卵巣症候群
⑥腎不全
⑦その他


プロラクチンに関する排卵障害の診断
(標準産科婦人科学、第4版、p77、医学書院)

高PRL血症の治療:
①薬剤性高PRL血症
 休薬ないしは薬剤変更を処方科と相談します。
②甲状腺機能低下症
 甲状腺の原因疾患の加療による甲状腺ホルモンのコントロールでPRL値も正常化します。
③下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)
 視機能障害がある場合、患者の手術希望が強い場合は脳神経外科との相談が必要となります。手術対象とならない場合は、カベルゴリン(カバサール)、ブロモクリプチン(パーロデル)、テルグリド(テルロン)などのドパミン作動薬の内服治療が行われます。
④機能性高PRL血症
 ドパミン作動薬の内服治療が行われます。挙児希望がない場合は積極的なドパミン作動薬の内服は必要とされません。挙児希望がある場合は、排卵が認められていても黄体機能不全を伴うこともあり、血中PRL値の正常化が考慮されます。


高PRL血症の治療法
(インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症、改訂3版、p55)

参考文献:
1)岡井崇・綾部琢哉(編)、標準産科婦人科学、第4版、医学書院
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014
3) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016

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