ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

2年半で22病院が35診療科を休廃止/長野

2007年10月30日 | 地域医療

コメント(私見):

最近、勤務医不足が急速に進行し、産婦人科など非常に多くの診療科が次々に休止もしくは廃止に追い込まれている実態が、長野県衛生部より公表されました。

状況が好転する要素はなかなかみつけられないので、現在の診療科休廃止の連鎖は、今後まだまだしばらくは続くことも十分に予想されます。

いったん休廃止に追い込まれてしまった診療科を、また一から立ち上げて軌道に乗せるのは並大抵の事ではありません。

診療科の休廃止を回避するためには、現時点における科の常勤医師数で、無理なく、余裕を持って業務を継続できる程度に、科全体の業務量を厳しく制限することが重要だと思います。

****** 毎日新聞、2007年10月28日

2年半で22病院が35診療科を休廃止/長野

医師不足、急速に進行

 県内22の病院が05年4月から2年半の間に、産婦人科など35の診療科を休止もしくは廃止していたことが、県衛生部の調べで明らかになった。大半の病院が常勤医の退職など医師不足を理由に挙げている。入院の受け入れや夜間のみの休止など診療体制の縮小も合わせると、影響は27病院にも上る。休廃止の時期は今年4月からの半年間が最も多く、県内で医師不足が急速に進行していることが浮き彫りになっている。【神崎修一】

 県衛生部が保健所を通じ、今年9月時点の状況をまとめた。対象は病院だけで診療所は含まない。休廃止の内訳は、産婦人科・産科が11で最多。小児科・小児外科が4、整形外科が3と続く。麻酔科、眼科、循環器科もそれぞれ二つ休廃止された。休廃止の時期は4月からの半年間が最も多く、8病院11診療科にも及んだ。

 休廃止の理由は「2人いた常勤医師の1人が退職した」(下伊那赤十字)など医師不足を理由に挙げる病院が多い。医師不足は04年度からの新しい研修制度の影響で、医師が減った大学医局が医師を引き揚げたことが原因とされる。勤務がきつく、リスクを伴うことが多い産婦人科などが敬遠されていることも要因だ。

 休廃止や縮小した27の病院を地域別にみると、中信が最多の8。東信7、北信と南信の6と続き、県内全域に影響が及んでいる。このほか、県内では須坂市の県立須坂病院と駒ケ根市の昭和伊南総合病院が、来年4月から分娩(ぶんべん)の休止を予定。大町市の市立大町総合病院も、医師退職の影響で来年4月からの内科縮小を明らかにしている。

 県は特に深刻な小児科医、産科医不足を受け、「産科・小児科医療対策検討会」を設置。同委は今年3月に「医療資源の集約化、重点化が必要」との提言をまとめた。各医療圏の中心病院を「連携強化病院」とし、産科9病院、小児科10病院を指定。医師不足が生じた場合には連携強化病院に優先的に医師を配置することにしている。

 3人いた常勤医師が1人に減ったため、06年4月から産婦人科で分娩の扱いを休止している安曇野赤十字病院(安曇野市)。外来診療は継続されているものの、分娩再開のメドは立っていない。同病院の青山守事務部長は「深夜の対応などを考えると、最低でも3人の産科医が必要。1人の医師でお産を扱うのは難しい」と話す。

 同病院では医師を紹介する民間企業などを通じて、医師を探しているが、現状は厳しい。青山事務部長は「人材は大都市、大病院へ向いている」と漏らす。また、今年4月から分娩を休止中の別の病院関係者も「何とか医師を確保したいが、大学にすら医者がいない」と嘆く。

 厳しい現状の中で、医師確保に成功した病院もある。佐久市立浅間総合病院は、新たに常勤の産婦人科医1人を確保できた。これまで月28人としていた分娩の受け入れ制限を11月から解除する。来年5月までの分娩予約が既にいっぱいになるなど、反響は大きい。佐々木茂夫事務長は「少しでも市民の要望に応えたかった。医師に私たちの熱い思いが伝わったのでは」と振り返った。

 一方、26日の定例会見で県内の医師不足について言及した村井仁知事。「あの手この手と一生懸命やっている。何とか成果を出したいし、非常に焦燥感も持っている」と危機感を募らせている。

(以下略)

(毎日新聞、2007年10月28日)


第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題041~問題050

2007年10月28日 | 婦人科腫瘍

第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題と解答例

【問題041~問題050】

問題041 子宮体部の癌肉腫で誤っているのはどれか。
a)平滑筋肉腫よりも発生頻度が高い。
b)子宮腔にポリープ様に突出する。
c)癌成分の多くは腺癌である。
d)線維肉腫は異所性成分である。
e)転移や再発は癌成分が多い。

問題042 子宮平滑筋肉腫で誤っているのはどれか。
a)閉経前の発症が多い。
b)体部悪性腫瘍の約1%を占める。
c)子宮肉腫の約25%を占める。
d)出血・壊死を伴うことが多い。
e)核分裂像は>10個/10高倍視野のことが多い。

問題043 子宮平滑筋肉腫で誤っているのはどれか。
a)不正性器出血はきたすことは稀である。
b)閉経後の子宮増大は肉腫を疑う根拠となる。
c)内膜細胞診異常で発見されることは少ない。
d)血清LDH高値は診断に有用である。
e)MRIのT1強調像で高信号成分を認めることが多い。 

問題044 子宮平滑筋肉腫の病理診断で重要な所見はどれか。
(1)細胞密度
(2)核異型
(3)核分裂像
(4)凝固壊死
(5)核小体数

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

問題045 子宮内膜間質肉腫で正しいのはどれか。
(1)低悪性度子宮内膜間質肉腫と内膜間質結節との鑑別には子宮摘出を要する。
(2)低悪性度子宮内膜間質肉腫はしばしば脈管内へ侵入する。
(3)低悪性度子宮内膜間質肉腫は遠隔転移をきたさない。
(4)高悪性度子宮内膜間質肉腫の構成細胞は子宮内膜間質細胞に類似する。
(5)高悪性度子宮内膜間質肉腫は異所性成分を伴うことがある。

a(1)(2)、b(1)(5)、c(2)(3)、d(3)(4)、e(4)(5)

問題046 子宮内膜間質肉腫で正しいのはどれか。
a)骨盤内リンパ節転移は希である。
b)低悪性度であっても子宮を摘出すべきである。
c)低悪性度では卵巣はなるべく温存すべきである。
d)高悪性度では術後化学療法が予後を改善する。
e)高悪性度では黄体ホルモン療法が奏功する。

問題047 絨毛性疾患で正しいのはどれか。
a)全胞状奇胎の核型は常染色体のトリソミーが多い。
b)部分胞状奇胎は正常卵への2精子受精による3倍体が多い。
c)全胞状奇胎の発生は受精機構の異常による雌核発生である。
d)胞状奇胎妊娠の反復は30%程度にみられる。
e)絨毛癌では直前の妊娠が発生に関与する責任妊娠である。

問題048 絨毛性疾患で誤っているのはどれか。
a)肉眼的嚢胞化絨毛の診断規準は短径が2 mmを超える絨毛の存在である。
b)全胞状奇胎の組織像は絨毛間質の水腫化と栄養膜細胞の過剰増殖である。
c)妊娠中期の胞状奇胎に胎児が共存する場合は部分胞状奇胎と診断できる。
d)部分胞状奇胎に特徴的なscallopingは嚢胞化絨毛の辺縁が皺状の像をいう。
e)部分胞状奇胎では嚢胞化絨毛と正常絨毛の二群を認める。

問題049 胞状奇胎娩出後の管理に有用な検査はどれか。
(1)尿中hCG値測定
(2)胸部レントゲン撮影
(3)血中エストラジオール値測定
(4)骨盤CT
(5)基礎体温測定

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

問題050 絨毛癌肺転移に対してまず行う治療はどれか。
a)胸部腫瘤の摘出術
b)胸部腫瘤と子宮の摘出術
c)MTX単独化学療法
d)TJ化学療法
e)EMA-CO化学療法

―――――――――――――――――――――――――

解答例 (誤答の場合は御指摘ください)

問題041 子宮体部の癌肉腫で誤っているのはどれか。
a)平滑筋肉腫よりも発生頻度が高い。
b)子宮腔にポリープ様に突出する。
c)癌成分の多くは腺癌である。
d)線維肉腫は異所性成分である。
e)転移や再発は癌成分が多い。

解答:d

a)子宮肉腫は、主に子宮内膜間質肉腫、平滑筋肉腫、癌肉腫の3範疇に分類される。半数近くを癌肉腫が占め、ついで平滑筋肉腫、ときに子宮内膜間質肉腫が発生する。

c)上皮成分としては、類内膜腺癌が60%を占め、腺扁平上皮癌が25%で、漿液性腺癌が10%である。

d)肉腫成分は、同所性の場合は内膜間質肉腫、線維肉腫が多く、異所性の場合には横紋筋肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脂肪肉腫の順で頻度が高い。

******

問題042 子宮平滑筋肉腫で誤っているのはどれか。
a)閉経前の発症が多い。
b)体部悪性腫瘍の約1%を占める。
c)子宮肉腫の約25%を占める。
d)出血・壊死を伴うことが多い。
e)核分裂像は>10個/10高倍視野のことが多い。

解答:a

平滑筋肉腫は子宮悪性腫瘍のうちの1.3%を、また子宮肉腫の1/3を占める。平均発生年齢は52歳で、ほとんどが閉経後女性に発生している。

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問題043 子宮平滑筋肉腫で誤っているのはどれか。
a)不正性器出血はきたすことは稀である。
b)閉経後の子宮増大は肉腫を疑う根拠となる。
c)内膜細胞診異常で発見されることは少ない。
d)血清LDH高値は診断に有用である。
e)MRIのT1強調像で高信号成分を認めることが多い。

解答:a

d)LDH値(isozyme LDH2, 3)の上昇も参考となる。

e)MRIで出血(T1/T2像で高信号)や壊死(T1で低信号、T2で高信号)の検出が参考となる。

******

問題044 子宮平滑筋肉腫の病理診断で重要な所見はどれか。
(1)細胞密度
(2)核異型
(3)核分裂像
(4)凝固壊死
(5)核小体数

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

解答:d

典型的な場合は、高い細胞密度、著しい核の多形成、異型分裂像を含む高頻度(10高倍率視野で10以上)の核分裂像などがみられ、また腫瘍の凝固壊死や境界部の浸潤所見より平滑筋腫と区別される。診断には、細胞(核)異型、高頻度の核分裂像と栓塞性壊死が最も重要である。

******

問題045 子宮内膜間質肉腫で正しいのはどれか。
(1)低悪性度子宮内膜間質肉腫と内膜間質結節との鑑別には子宮摘出を要する。
(2)低悪性度子宮内膜間質肉腫はしばしば脈管内へ侵入する。
(3)低悪性度子宮内膜間質肉腫は遠隔転移をきたさない。
(4)高悪性度子宮内膜間質肉腫の構成細胞は子宮内膜間質細胞に類似する。
(5)高悪性度子宮内膜間質肉腫は異所性成分を伴うことがある。

a(1)(2)、b(1)(5)、c(2)(3)、d(3)(4)、e(4)(5)

解答:a

低悪性度子宮内膜間質肉腫は、子宮内膜間質細胞に類似した細胞よりなる肉腫で、子宮筋層ことに脈管を侵襲し、ときに子宮外の脈管へ進展する。子宮内膜間質結節とは腫瘍境界部の特徴(脈管侵襲を示さない)で鑑別される。

高悪性度子宮内膜間質肉腫は、低悪性度子宮内膜間質肉腫と腫瘍境界部浸潤部は共通しているが、多くの分裂像(10高倍率視野で10以上)を伴った多形性の細胞よりなり、低分化で特徴ある組織像を示さない場合が多く、また異所性成分を含まない。

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問題046 子宮内膜間質肉腫で正しいのはどれか。
a)骨盤内リンパ節転移は希である。
b)低悪性度であっても子宮を摘出すべきである。
c)低悪性度では卵巣はなるべく温存すべきである。
d)高悪性度では術後化学療法が予後を改善する。
e)高悪性度では黄体ホルモン療法が奏功する。

解答:b

******

問題047 絨毛性疾患で正しいのはどれか。
a)全胞状奇胎の核型は常染色体のトリソミーが多い。
b)部分胞状奇胎は正常卵への2精子受精による3倍体が多い。
c)全胞状奇胎の発生は受精機構の異常による雌核発生である。
d)胞状奇胎妊娠の反復は30%程度にみられる。
e)絨毛癌では直前の妊娠が発生に関与する責任妊娠である。

解答:b

全胞状奇胎は、核のない卵子(ゲノム欠損卵)に精子が受精することにより発症し、すべての対立遺伝子が夫由来となり(雄核発生)、受精精子の本数によりホモ奇胎(1精子受精)、ヘテロ奇胎(2精子受精)に分類される。ホモ奇胎が90%、ヘテロ奇胎が10%を占めるとされる。全奇胎の核型はほとんどが46,XXで、残りの少数が46,XYである。

部分胞状奇胎は、正常卵子に2精子受精した3倍体がほとんどで、まれに2倍体の母方由来染色体を持つ3倍体の場合もある。

胞状奇胎掻爬後の妊娠転帰に関してはさまざまな報告がなされているが、奇胎を反復する頻度が2%前後と高率である以外、流産率、早産率、胎児奇形については差を認めなかった。

******

問題048 絨毛性疾患で誤っているのはどれか。
a)肉眼的嚢胞化絨毛の診断規準は短径が2 mmを超える絨毛の存在である。
b)全胞状奇胎の組織像は絨毛間質の水腫化と栄養膜細胞の過剰増殖である。
c)妊娠中期の胞状奇胎に胎児が共存する場合は部分胞状奇胎と診断できる。
d)部分胞状奇胎に特徴的なscallopingは嚢胞化絨毛の辺縁が皺状の像をいう。
e)部分胞状奇胎では嚢胞化絨毛と正常絨毛の二群を認める。

解答:c?

c)部分胞状奇胎と2卵性双胎妊娠の一方の児の奇胎化との鑑別が必要である。確定するには胎児、胎盤、奇胎、父母の細胞遺伝学的分析が必要である。

******

問題049 胞状奇胎娩出後の管理に有用な検査はどれか。
(1)尿中hCG値測定
(2)胸部レントゲン撮影
(3)血中エストラジオール値測定
(4)骨盤CT
(5)基礎体温測定

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

解答:b

******

問題050 絨毛癌肺転移に対してまず行う治療はどれか。
a)胸部腫瘤の摘出術
b)胸部腫瘤と子宮の摘出術
c)MTX単独化学療法
d)TJ化学療法
e)EMA-CO化学療法

解答:e

絨毛癌では、MEA 療法(MTX、Act-D、Etoposide)、EMA/CO 療法(MTX、Act-D、Etoposide、Cyclophosphamide、Vincristine)などが行われている。


婦人科腫瘍学、必修知識

2007年10月28日 | 婦人科腫瘍

婦人科腫瘍専門医修練ガイドライン
(日本婦人科腫瘍学会)

第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006)、問題と解答例

癌関連遺伝子

RECISTガイドライン

外陰の腫瘍・類腫瘍

腟の腫瘍

外陰・腟の腫瘍・類腫瘍、問題と解答

子宮頚癌、組織分類

子宮頸癌、進行期分類

子宮頸癌、放射線治療

子宮頚癌、化学療法

子宮頚癌、問題と解答

子宮体癌

子宮体癌、問題と解答

子宮肉腫

子宮肉腫、問題と解答

卵管癌

卵巣の腫瘍・類腫瘍、全般・組織型

卵巣癌、進行期分類

卵巣癌の手術療法

卵巣癌、化学療法

卵管・卵巣の腫瘍・類腫瘍、問題と解答

絨毛性疾患

絨毛性疾患、問題と解答

細胞診

細胞診、問題と解答

組織診、問題と解答

コルポスコピー

腫瘍マーカー

婦人科疾患のCT診断

婦人科疾患のMRI診断

抗癌剤の分類

緩和医療

EBM、ガイドライン

参考文献:
子宮頚癌取り扱い規約(改訂第2版)
子宮体癌取り扱い規約(改訂第2版)
卵巣腫瘍取り扱い規約
絨毛性疾患取り扱い規約(改訂第2版)
子宮頸癌治療ガイドライン(2007)
卵巣がん治療ガイドライン改訂版(2007)
子宮体癌治療ガイドライン(2006)
産婦人科研修の必修知識(2007)
婦人科腫瘍の臨床病理(改訂第2版)
症例から学ぶ婦人科腫瘍学入門(2006)
Berek & Novak's Gynecology(2006)
Clinical Gynecologic Oncology(2007)
その他


大野病院事件 第9回公判

2007年10月27日 | 大野病院事件

第9回公判について(07/10/26)
周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページ

ロハス・メディカル ブログ

 福島県立大野病院事件第9回公判は

 福島県立大野病院事件第9回公判(速報)

 福島県立大野病院事件第9回公判(速報2)

 福島県立大野病院事件第9回公判(速報3)

大野事件第9回公判、速報【産科医療のこれから】
大野事件第9回公判、追加版【産科医療のこれから】

大野病院事件についての自ブロク内リンク集

****** OhmyNews、2007年10月27日

癒着胎盤の剥離に過失はない――臨床医が証言

検察のいうことは「現場ではやってない」福島県立大野病院事件第9回公判

 福島県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術を受けた女性が死亡し、執刀したK医師が業務上過失致死と医師法21条(異常死の届け出)違反に問われている事件の第9回公判が10月26日、福島地裁で開かれた。

 弁護側証人尋問の3回目。今回は臨床面から東北大学の岡村州博教授(周産期医学)が出廷、「(癒着がきわめて深い)穿通胎盤であれば術前検査で予測できると思うが、そうでない程度の癒着胎盤では予見は難しい」と、癒着胎盤は予測可能だったとする検察の主張を否定した。

 さらに、周産期の臨床30年以上という経験から、「現場では、出血が多くても胎盤を剥離(はくり)し、子宮収縮を促すことによって止血操作をする(止血を目指す)」として、検察の「出血時点で剥離を止め、子宮摘出に切り替えるべきだった」という指摘は、現場では行われていないと主張した。

 岡村教授は、K医師の逮捕・起訴後に、弁護側の依頼で鑑定書を作成した立場にある。また、K医師の起訴以前にも、日本産婦人科学会周産期委員会委員長(当時)の立場から、逮捕を遺憾として、過失の存在そのものを否定する意見書を提出している。

 この日の尋問は、おもにK医師が行った術前検査の妥当性について。妊娠5週目からのカルテと超音波検査画像から、癒着胎盤はないとしたK医師の判断について問われた岡村教授は、

 「通院中も入院してからも、超音波検査では子宮と胎盤のあいだに黒いすきま(クリアスペース)がはっきり見えており、癒着は確認できない」

 「穿通胎盤のような深い癒着があれば、胎盤部分はスイスチーズのように穴が開いて見えるもの。このケースでは組織が均一に存在している。尿中潜血反応があったというが、これは妊婦にはときどき見られることで、これをもって癒着を疑うのは診断の行き過ぎといえる。カラードプラーで血流を見ても、癒着があると言うことはできない」

と、K医師の判断は妥当であったと証言。

 「K医師は周産期医療についてよく勉強しているし、超音波診断の技術は非常に習熟している。カルテの記載からも慎重に患者さんを診ていることが見てとれる。もし癒着を疑わせる所見があったなら、カルテにそう書いていたと思う。(術中の対応についても)私も同じことをやっただろう」

と述べて、K医師が産婦人科医として未熟だったとする検察側の指摘を全面的に否定した。

 これに対し検察側は、胎盤がはがれなければ子宮摘出に切り替えるべきとする教科書の記載があること、また前回帝王切開創がある場合は、それが子宮前壁であれ後壁であれ癒着胎盤のリスクを想定すべきことを問い詰めたが、岡村教授はこれらについても、

 「そういう考え方があることは知っているが、実際に『胎盤がはがれない』という経験は私にはない。胎盤は、はがしてみればほとんどはがれてしまう。教科書に記載があっても一般的とは思わない」

 「胎盤が子宮前壁にあれば、前回帝王切開創に胎盤がかかっているリスクが高くなるが、それ以外は通常の前置胎盤と同じと考えてよいのではないか。子宮後壁にある胎盤が前回帝王切開創にかかる率はきわめて少ない。範囲として、まずかかることはない」

と一蹴した。

 ただ、岡村教授は日産婦常務理事の立場のほかにも、日産婦宮城地方部会長としてこの事件に批判的な声明を出している。また、K医師が所属する福島県立医大産婦人科医局の教授とは先輩・後輩の間柄でもある。検察はこれらに言及し、証言内容の中立性を弱めた。

  ◇

 公判後に会見した平岩敬一弁護士は、「これまで証言に立った産婦人科の臨床医は全員、癒着胎盤であってもすべて、まず胎盤を剥離するとしている。これは、検察が言うような『出血したら途中で胎盤剥離をやめて子宮摘出に切り替える』ことは、臨床現場では行われていないということ」と説明。

 「この事件の最大の特徴は、ガーゼの置き忘れや薬の取り違えといった明確な医療ミスがないのに、刑事責任を問われているということにある。医師が『これで止血できるのでは』と期待してやったことでも期待に反することはしばしば起きる。それを『可能性があるならすべきではない』とされ、刑事責任を問われるのでは、誰も何もできなくなってしまうのではないか」

と話した。

 次回は11月30日。12月に再び被告人質問が行われ、残った証拠調べのあと、1月に結審の予定。当初予定よりずれ込んだが、求刑、最終弁論を経て、春ごろに1審判決の見込みとなる。

OhmyNews、2007年10月27日)


深刻化する医師不足

2007年10月24日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

どの産科施設にも分娩受け入れ数の限界があります。いくら需要があっても、ある月の分娩予約件数が施設の分娩受け入れの限界に達した場合は、その時点で、その月の分娩予約の受付は中止せざるを得ません。

また、産科1次施設の場合、母児に何か異常が発生した時は直ちに対応可能な高次施設に患者を救急搬送する必要があります。万が一、高次施設が常に満床で救急搬送の受け入れ困難な状況が日常化しているようだと、産科1次施設で分娩を取り扱うことも不可能となってしまいます。従って、地域中核病院は救急搬送を受け入れるために常にベッドを空けておく必要もあります。

要するに、地域中核病院が、低リスク分娩の対応だけで手一杯になってしまって、救急搬送を受け入れるだけの余裕が全く無くなってしまうようでも非常に困るわけです。地域中核病院が十分にその機能を果たしていくためには、産科1次施設にも頑張っていただき、日常的に両者が緊密に協力し合っていくことが重要です。

周産期医療では、県内の多くの施設(産科1次施設、産科2次施設、地域周産期母子医療センター、総合周産期母子医療センター)のそれぞれが十分にその機能を果たし、緊密に連携していくことが非常に大切です。すなわち、県内の多くの施設が、一つの大きなチームとして、情報を共有し、スムーズに連携・協力していくというスタンスが、今後ますます重要になっていくと思います。

****** 産経新聞、群馬、2007年10月23日

深刻化する医師不足

 全国的に広がる医師不足の影響が、県内にもじわりと広がっている。救急医療の現場では、かかりつけではない妊婦の受け入れを拒否する病院も出ており、県立病院では常勤医不在から、産婦人科を休診する病院が出ている。大学病院が地域に派遣した医師を呼び戻す動きも出ており、事態は深刻化している。県などは問題解決に乗り出しているが、思うような効果は出ていない。(小川寛太)

 ■受け入れ8回拒否

 館林地区消防組合管内で平成18年、東京からの旅行者だった妊婦が突然体調を急変させた。旅先だったため、かかりつけの産婦人科医に行くことができず、駆けつけた救急隊は県内で搬送先を模索。8カ所の病院に相次いで受け入れを断られ、妊婦は119番通報から約1時間半後に、ようやく県外の病院に収容された。

 県消防防災課によると、妊婦の救急搬送を断られた発生件数は同年で37件あり、1件当たりでみると前述した8回が最多だった。17年には21件、16年も16件の受け入れ拒否が起きている。

 受け入れ拒否が発生した割合は、全体の3~6%ほどで、「かかりつけの病院に1回で搬送されるケースがほとんど」(同課)という。搬送中に死産したり妊婦が亡くなったケースはないが、一刻を争う事態が想定されるだけに、拒否事案は決して少ない割合ではない。

 ■婦人科休診の事態

 受け入れ拒否が増加する背景には、産科医をはじめとした医師不足がある。県医務課によると、県内の医療機関に勤務する16年末の医師数は3908人で、14年末より33人増加した。しかし、地域や診療科によっては医師の偏在があるといい、産科と産婦人科を合わせた医師数は、14年末の181人から16年末には172人に減少した。

 医師不足に伴い、太田市高林西町の県立がんセンターでは、常勤医が不在となったため、婦人科は10月から休診となっている。医師を派遣している群馬大学が引き揚げを決めたことなどが原因とされる。

 16年6月から産婦人科を休診した渋川地区の中核病院「渋川総合病院」(渋川市渋川)では9月、常勤の産婦人科医を確保したものの、「医師を3人以上確保しないと産科を行うことは難しい」として、同25日に婦人科だけを再開した。内科や小児科でも、診療を実施しているとはいえ、常勤医がいない状況が続いており、医師不足は産婦人科にとどまらない状況だ。

 ■求職登録まだ8人

 16年4月に導入された新医師臨床研修制度により、出身大学の付属病院以外で臨床研修を行う医師が増加した。その一方、大学側は地域に派遣している医師を引き揚げることで医療水準を確保しているため、地域医療に反動が出ている。

 県は医師確保策の一環として、6月から県内の勤務を希望する医師に情報を提供し、医療機関の紹介や斡旋(あっせん)をする「県ドクターバンク」を導入。しかし、同制度で県内勤務に至った医師は9月末で、内科医に1人いるだけという。

 また、県内の59医療機関243診療科で求人登録を行っているが、現在求職登録している医師は3人で、将来を見据えて登録しているのは8人しかない。

 同課は「医師側の売り手市場となっている。各自治体にも同様の制度があるので、群馬の制度を周知し魅力を伝えたい」と話している。

(産経新聞、群馬、2007年10月23日)

****** 岡山日日新聞、2007年10月22日

産科医「ゼロ」で苦悩 井原は県外出産7割 県内過半市町村 医師確保に躍起

 全国的に医師不足が問題となる中、勤務が過酷で医療事故による訴訟リスクも高いとされる産科は特に深刻な状況だ。奈良県の妊娠24週の妊婦が8月、同県と大阪府の病院に相次いで救急診療を断られて死産した問題は記憶に新しい。岡山県内の出生数当たりの産科医師数は全国平均と同水準だが、産科医ゼロの市町村も多く、大きな問題となっている。

 県西部に位置し、人口4万5767人(9月末、外国人除く)を抱える井原市では、07年の新生児231人(9月末まで)のうち、県内で誕生したのは30・7%。実に残りの約7割は、県外の病院で産声を上げている。県外のうち66・2%は、隣接していて地理的に近く、医療機関も充実している広島県福山市で出生している。これはほぼ例年の傾向で、井原市は深安地区医師会、福山市医師会と契約を結び、妊婦が県内で受診した際と同様の公的補助が受けられるようにしている。

 しかし、03年から市内唯一の分べん可能施設だった同市立井原市民病院(同市井原町)が、昨年8月末で産科を休止。産科を標ぼうする医療機関、常勤産科医はゼロとなり、現在は市内で産もうにも産めない状況となった。同病院での出産が市内の妊婦の1割程度にとどまり、もともと県外出産が多く公的補助も整っているものの、瀧本豊文市長は「安全安心の観点からも、市内に分べん施設がないのは大問題」と危機感をあらわにする。「市内で出産したい」「近くに産科がないのは不安」という声も多いという。

 このため同市は、同病院の産科医師確保に躍起になっている。ホームページなどでの募集、医師派遣バンクへの登録、大学への派遣要請などあらゆる手を尽くすが「産科再開には2~3人の医師が必要だが、岡山大から週2回の非常勤医師派遣で、婦人科診療をするのがやっとの状態」(同市保健センター)と頭を抱えている。

 県内の産婦人科の医師数は、94年の206人から04年には170人まで減り、減少率は医師数の多い20診療科で最大。04年時点では、現在の27市町村ベースでみると、4市9町2村で産科医がゼロだった(井原市は当時3人)。出生1千人当たりの数は、県平均の9・6人は全国平均(9・5人)と同水準だが、県内五つの2次医療圏域別で、全国平均を上回るのは岡山市を含む県南東部医療圏域しかない。

 岡山県はこうした状況を受けて今年7月、産科、小児科を中心とした医師確保策や地域での医師偏在の解決策を話し合う「県医療対策協議会」(会長・末長敦県医師会長)を設置。来月に第2回会合と、現場医師らも交えた産科部会の初会合を開く方向で調整を進めている。 井原市議会でも「地域医療等を考える調査特別委員会」(乗藤俊紀委員長)を設置し、議論を行っている。

 しかし、医師不足対策は、自治体レベルで対応しきれないのが実情。瀧本市長は「産科医師の確保へ努力を続ける一方、国や県など関係機関へ、過酷な勤務医の環境改善や医師不足の抜本的対策をさらに進めるよう働きかけていきたい」と話している。

(岡山日日新聞、2007年10月22日)

****** 毎日新聞、静岡、2007年10月20日

医師不足の課題抱え 産科医確保できずスタート 浜松赤十字病院、完成式

 11月1日に浜松市中区から同市浜北区小林に移転する浜松赤十字病院(安藤幸史院長)の完成式が19日、移転先の新病院であった。「浜北区に分娩(ぶんべん)のできる総合病院を」と市民から要望を受けて移転するが、分娩に対応できる産科医が1人も確保できないなど、医師不足の課題を抱えてのスタートとなる。

 新病院は病床が341床から312床に減るが、延べ床面積(2万6455平方メートル)は約1・8倍、駐車場の収容数(309台)は約2倍になる。ヘリポートや高度な放射線治療機器を導入するなど、浜北地区の医療拠点として約110億円をかけて整備された。

 しかし、分娩施設がありながら必要な医師3人が集まらず、現時点では産科の運営はできない状況。同病院は「訴訟のリスクや激務などで全国的に産科医が不足しているあおりを受けた。東京の病院などにも声をかけ、これからも人材探しを続ける」と説明している。眼科や脳神経外科でも常勤医が確保できず、高度な手術には対応できないという。

 同病院は1938年開設。新しい病棟でも築20年以上が経過し老朽化が進んでいた。このため旧浜北市が移転を推進。合併後の新市も、建設費や医療機器購入の補助金約17億円を拠出することになっている。

 市健康医療課は医師不足について「どの病院も同じ課題を抱えており、特定の病院を直接支援するのは難しい」と話している。【竹地広憲】

(毎日新聞、静岡、2007年10月20日)


勤務医の大量離職、診療科の休廃止

2007年10月20日 | 地域医療

コメント(私見):

どんな仕事であれ、業務量を増やすためには、スタッフを増員することが必須条件となります。スタッフが増員されないのに、業務量だけが際限なくどんどん増え続けていけば、いずれどこかで破綻してしまうのは当然です。

最近、勤務医不足による診療科の休廃止が急増しています。診療科の休廃止を回避するためには、現在の科の常勤医数で、無理なく、余裕を持って業務を継続できる程度に、科全体の業務量を厳しく制限することが重要だと思います。

勝算も無いのにギリギリまで頑張り続けるのは、破綻した時の被害が甚大となり、得策とは言えません。万策尽き果て勝算が無いと悟った時点で、早めに白旗を掲げて降参を表明することも大事なことだと思います。

****** 朝日新聞、長野、2007年10月20日

27病院の43科が休廃止か縮小

 県内の27病院が05年4月以降、医師数の不足などを理由に、43の診療科を廃止や休止、縮小したことが、県医療政策課による各保健所に対する聞き取りでわかった。43科の内訳は、産婦人科が最も多い14科で、小児科の6科が続く。時期的には今年に入ってからが17科を占めており、産科医や小児科医を中心に、勤務医不足の影響が急激に出てきていることが改めて明らかになった。

 調査対象は病院のみで、診療所は含まない。産婦人科や小児科に続く内訳は、整形外科4、麻酔科3、眼科2、循環器科2、精神科2などの順だった。休廃止や縮小を迫られた27病院の地域別は、北信6、東信7、中信8、南信6で県内全域に及んでいる。

 産婦人科については、ほとんどが分娩(ぶん・べん)に関する休廃止・縮小。縮小は、県外からの電話による申し込みは断るなどして里帰り分娩を制限(佐久総合)したり、予約制にしたりするなどの方法が取られている。

 すでに休廃止・縮小した以外にも、県立須坂病院(須坂市)と昭和伊南総合病院(駒ケ根市)が今年度いっぱいで分娩の扱いを休止する方針をすでに決めている。

(以下略)

(朝日新聞、長野、2007年10月20日)


子宮頚癌治療ガイドライン2007年版

2007年10月18日 | 婦人科腫瘍

Keigansisin 日本婦人科腫瘍学会 編

後 援:日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会/婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構

金原出版、定価2,520円

以下、金原出版ホームページより

 本ガイドラインの作成にあたっては,これまでと同様にガイドライン作成委員会と評価委員会を設置し,作成委員には頸癌の診療を専門的に行っている医師を全国から召集し,さらに放射線治療専門医と腫瘍内科医にも入っていただいた。作成形式は,体癌と同様に頸癌も治療に関するエビデンスが少なくレベルも低いこと,欧米との治療上のギャップも少なからず存在することなどから,頸癌の治療上の問題点を明らかにしそれに回答する「Q&A形式」を採用することにした。取り扱う対象は,子宮頸部に原発した各ステージの扁平上皮癌と腺癌,およびそれらの再発癌と妊娠合併頸癌とした。さらにこれらの治療に対応した3つのアルゴリ ズムを載せ,各項を「Q&A形式」で記述した。すなわち,頸癌治療における現在の問題点を臨床的疑問点(クリニカルクスチョン:CQ)として抽出し,各CQに対して国内外の文献を網羅的に収集し,各文献の構造化抄録を作成しエビデンスとして評価した。これらを十分に吟味したうえで,総合的な判断からCQに対する答えを推奨として簡潔に記載しそのグレードを付記した。さらにそのCQに対する背景・目的と推奨に至るまでの経緯を解説として記述し,最後にエビデンスのレベルを付記した参考文献を載せた。エビデンスのレベルと推奨のグレードに関しては,「卵巣がん」や「子宮体癌」の治療ガイドラインとの整合性から,そこで用いたものをそのまま使用することにした。ガイドライン原案は,評価委員会での検討に次いで,大小計4回に亘るコンセンサスミーティングにて専門家間の長時間にわたる論議を尽くす一方で,全学会員に提示され,これらの過程を通して多くの提言や助言を容れた。さらに婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構(JGOG)や日本産婦人科医会,日本産科婦人科学会にも提示され,ここでも多くの意見を採り入れたうえで,これらの学会の承認を得た。最終的には本年夏に開催された日本婦人科腫瘍学会理事会での審査・承認を経て,このたびの発刊に至った。


最高500万円を貸与 昭和伊南病院の医師確保策

2007年10月17日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

医師確保に悩む自治体病院で、医師確保対策と称して、高額研究資金を貸与し一定期間勤務で返済免除にする制度を設ける制度を創設するという報道です。何が何でも頭数を揃えたい切実な気持ちはわかりますが、医師不足に悩む自治体病院の数は非常に多く、全体の医師数がすぐには増えない現状では、他地域からの医師引き抜きには限界があると思います。

地域によっては、産婦人科の勤務条件改善の必要性が全く理解されず、1人でも産婦人科医を確保すれば分娩の取り扱いを再開できるという考え方に立って、産婦人科医確保の努力を行っている自治体や病院の事例も、時々報道されています。

もしも、産婦人科の集約化が全く進まないまま、個別の自治体や病院の努力で一人医長体制の産婦人科が復活するだけの状況が続けば、産婦人科の勤務条件はますます悪化するばかりで、母児の安全も確保できませんし、新人産婦人科医も増えないでしょう。

****** 信濃毎日新聞、2007年10月16日

最高500万円を貸与 昭和伊南病院の医師確保策

 昭和伊南総合病院(駒ケ根市)を運営する伊南行政組合は15日、独自の医師確保制度を盛った条例案を組合議会臨時会に提出、可決された。県外在住で同病院に勤務を希望する医師に研究資金として最高500万円を一括で貸し付け、一定期間勤務すれば返済を免除する。県医療政策課は、県内で病院を運営する市町村や組合によるこうした制度は「聞いたことがない」としている。

 制度は、産婦人科と整形外科などの専門医が対象。希望に応じ、3年以上の勤務の場合に500万円、2年以上の勤務で300万円をそれぞれ貸し、定められた期間勤務することで返済を免除する。使途に制限はない。

 医師不足対策としては県も4月から同様の制度を設けているが、組合側は「伊南地域の医師不足に手をこまぬくわけにはいかない」(組合長の中原正純駒ケ根市長)と強調。3年以上300万円、2年以上200万円を貸す県の制度を併用する場合は、差額分について組合の制度を適用し、上乗せする。財源として伊南行政組合の一般会計剰余金から1千万円を病院事業会計に繰り入れる。

 県内在住者を対象にしない理由について、組合事務局は「県内で医師の奪い合いにつながる恐れがある」としている。

 昭和伊南は来年4月以降、産婦人科の常勤医2人が信大に引き揚げとなるため、出産の扱いを休止。整形外科の常勤医も9月から1人になっており、地域の人からは「安心できない」と対策を求める声が相次いでいた。

(信濃毎日新聞、2007年10月16日)

****** 伊那毎日新聞、2007年10月16日

昭和伊南病院が医師確保に向けた新制度創設

 不足している産科医師などの確保に向け、昭和伊南総合病院(千葉茂俊院長)を運営する伊南行政組合(組合長・中原正純駒ケ根市長)は、県外から転入して同院で3年以上勤務しようとする医師に500万円、2年以上勤務しようとする医師に300万円をそれぞれ貸与する―などとする医師研究資金貸与制度を新たに創設する。私立を除く県内の病院では初の導入という。15日の伊南行政組合議会で条例案と補正予算案を可決した。

 貸与された資金は、それぞれの勤務期間を経過すれば返還の義務は免除される。対象となる診療科は産婦人科、整形外科、そのほか。県が運用している同様の制度では3年勤務で300万円、2年勤務で200万円が貸与されるが、その適用者には差額(3年―200万円、2年―100万円)が貸与される。

 同日の全員協議会で、同院で1年以上の後期研修を受けた外科、内科医師に対し、1回限り100万円を交付する後期研修医奨励金制度も示され、了承された。

(伊那毎日新聞、2007年10月16日)

****** 長野日報、2007年10月8日

昭和伊南病院産科休止 「非常事態」へ取り組み

 医師不足により、駒ケ根市の昭和伊南総合病院(伊南行政組合運営)で産科が休止となる来年4月まで、半年を切った。里帰り出産の受け入れを中止し、近隣病院が受け皿になっても、このままだと同市を中心に年間100人の出産難民が出る見通しとされる。病院側は院内産院(院内助産所)の開設に向けた研究を続け、市民団体も自然分娩(ぶんべん)を呼び掛けるなど非常事態を乗り切ろうとする取り組みが始まった。組合側も医師確保のための制度づくりに向けて動き出した。

 医療関係者の多くが地方都市で医師が不足する原因に挙げるのが、2004年に実施された医師臨床研修制度。医療の専門化が進む中で、プライマリ・ケア(基本医療)の基本的な診療能力(態度、技術、知識)の習得を目的に導入された。当初は総合的な医療の質の向上が期待されていた。

 ところが、ふたを開けてみると卒後の医師が2年間の研修先に選ぶのは専門医がいて設備が整った大都市の大病院ばかり。県内の各病院に医師を輩出する信州大学でさえ、研修医を確保するのがやっとという状況になってしまった。

 昭和伊南総合病院の千葉茂俊病院長は「これに加えて24時間態勢の重労働、すぐに訴訟につながることへの警戒感もあり産科医師の不人気が続いている」と指摘するように、こうした状況が診療科による医師の不均衡に拍車をかけた。

 一方、国は人口30万―50万人に一つの割合で拠点病院(連携強化病院)を置き、医師を重点的に配置して医療の質を守りながら医療体制を確保する施策をとってきた。県では、産科・小児科医療対策検討会が「連携強化病院への医師の集約化・重点化の提言」を行い、信大はこれを受けて昭和伊南からの医師引き揚げを決めた。

 こうした動きに対し、組合側は6月、地域の実情を踏まえた対応をするよう村井仁知事と大橋俊夫信大医学部長に要望。9月の2度目の要望で、中原正純組合長は「研修医受け入れに対する支援策も検討している」と、組合独自の医師確保策を講じる方針を明らかにした。

 医師確保に向けて組合は、15日に開く臨時議会に1千万円を追加補正する議案を提出する。県外の医師が同病院に勤務した際、診療科を定めず研究資金の名目で一定額を貸与、規定の期間勤めることで返済を免じる制度。県が産科、小児科、麻酔科を対象に4月から始めた県医師研究資金貸与規定に準じる内容で、県制度と重複しないよう調整する。病院側は「これで30代から40代の医師に来てもらえれば」と望みを託す。

 県は開会中の9月定例県議会で、院内産院の設置を支援する考えを示した。昭和伊南の強力な追い風となり得るのか―。県内にはまだ院内産院の施設はない。

(長野日報、2007年10月8日)


産婦人科と小児科の診療休止急増、医師不足が深刻化

2007年10月16日 | 地域周産期医療

特に産婦人科と小児科で、診療を休止する病院が予想を超えるスピードで急増しています。

地域の中で、産婦人科と小児科を標榜する医療機関が次々に診療を休止して脱落していけば、最後には、地域で唯一かろうじて生き残っている病院に地域のすべての患者が集中することになります。そして、その最後の砦が陥落すれば、地域の周産期医療が完全に終焉を迎えることになってしまいます。

今、全国各地いたるところで事態は急速に悪化し続けています。

一体全体、半年後には地域の周産期医療体制がどうなっているのか?全く見当もつきません。

****** 読売新聞、2007年10月15日

産婦人科と小児科の診療休止急増、医師不足が深刻化

 医師不足が深刻化する中、産婦人科と小児科の診療を休止する病院が増えていることが15日、日本病院団体協議会の初の調査でわかった。

 医師の採用枠を満たせない病院も4分の3に上り、協議会は「医師不足が予想以上に進んだことや、医療費抑制による経営圧迫の影響」と分析している。

 調査は今年8~9月、アンケート方式で行い、全国の病院の32%に当たる2837病院から回答を得た。

 それによると、2004年度以降に診療科を休止した病院は、回答した病院の16%にあたる439病院。このうち、産婦人科の診療を休止した病院が71病院、小児科の休止も67病院と多かった。以下、精神科の34病院、耳鼻咽喉(いんこう)科、皮膚科の各33病院などが続き、激務や訴訟リスクの高さなどで医師確保が難しいと指摘される産婦人科と小児科の休止が突出していた。

 産婦人科は都道府県立など自治体運営の病院で、小児科は民間の医療法人の病院で休止が多かった。

(以下略) 

(読売新聞、2007年10月15日)


周産期医療が危ない

2007年10月13日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

全国的に、分娩受け入れ中止を表明する地域中核病院の数が増えています。周産期医療は、24時間体制でいつでも母児の急変に対応できる体制を維持する必要がありますから、産婦人科医、助産師、小児科医、麻酔科医などのスタッフの体制が十分に整っていなければ、周産期医療の提供は継続できません。

地域における産婦人科医、小児科医、麻酔科医などのトータルの数は、そう急に増やすことはできません。従って、少なくともこれからしばらくの間は、今いる人員を何とかやりくりして急場をしのいでいく必要があります。すなわち、緊急避難的に周産期医療提供体制を再構築することによって、地域において周産期医療の提供を維持継続していく方策を考えていかねばなりません。

分娩受け入れ施設の数を維持することにこだわっても、現場のスタッフがどんどん辞めてしまうような施設ばかりでは全く意味がありません。

今は何よりもまず、現場で辞めずに必死に頑張っている産婦人科医、小児科医、麻酔科医などのトータルの数を維持することが最も重要だと思います。

****** 朝日新聞、滋賀、2007年10月12日

周産期医療が危ない

【分娩受け入れ総合病院14に減少】
【医師不足、県が公募で対策】

 医師不足で分娩(ぶんべん)の受け入れを取りやめる総合病院が増え、県内の周産期医療(妊娠満22週から生後7日未満の産科・小児科双方による医療)が厳しい局面を迎えている。03年に県内に20カ所あった分娩が受け入れ可能な総合病院の数は、今年8月末現在で14カ所にまで減少。開業医の負担も増えている。医療水準の低下に危機感を持った県は、公募による医師確保に踏み切るなど対策に乗り出した。(上田悠)

 彦根市に住む山本友香さん(31)は昨年10月、次女を出産する際に救急車で彦根市立病院(彦根市八坂町)に搬送された。帝王切開の緊急手術が必要だったため、病院にあと5分到着するのが遅れたら、無事出産できたかわからなかったという。

 同病院は今年3月、3人いた産婦人科医のうち2人が退職したことから、分娩の受け入れを中止。山本さんは同病院での分娩継続を求めて「彦根市立病院での安心なお産を願う会」(現・安心なお産を願う会)に加わり、署名活動や勉強会に参加してきた。山本さんは「市立病院で分娩ができなくなり、これから出産する人たちは、容体が悪化した場合や手術が必要な時にどうすればいいのか……」と、不安を口にする。

 6月、彦根市立病院に続き、近江八幡市立総合医療センター(近江八幡市土田町)も新たな妊婦の分娩の予約受け付けを中止した。10月には公立甲賀病院(甲賀市水口町鹿深)が、医師の退職を理由に小児科の時間外の救急医療体制を一部縮小。同病院の冨永芳徳院長(64)は「全国的な医師不足で、地方の一病院の努力で対応することが出来ない状況になった」とコメントしている。

(朝日新聞、滋賀、2007年10月12日)

****** 読売新聞、山口、2007年10月13日

小児科、産科を集約化…県医療対策協

今年度中に計画策定

 医師不足の解消を目指し、有識者や医療関係者らで対策を話し合う「県医療対策協議会」(会長=前川剛志・山口大医学部長、21人)の会合が12日、県庁で開かれた。事務局の県医務保険課は特に深刻化している小児科と産科について、中心となる病院に医師を集中させる「集約化・重点化」計画を今年度中に策定する方針を明らかにした。

 同課によると、人口10万人あたりの県内の小児科医は11・3人で、全国平均(11・5人)より低い。また、日本産科婦人科学会が「分娩(ぶんべん)する場合、1病院あたり産科医を3人以上配置すべき」と提言しているものの、県内は1病院あたり2・57人にとどまっている。

 こうした実態を受け、県は「小児科、産科とも勤務医の負担が過重となり、医療の安全性が損なわれる」と懸念。一部地域では病院までの距離が遠くなる恐れも生じるが、「集約化・重点化」に取り組む必要があると判断した。

 集約化の対象となるのは民営以外の病院。今後、圏域を設定した上で、基幹的病院や、そこに機能を移転する病院を決める。

(読売新聞、山口、2007年10月13日)

****** 中国新聞、2007年10月13日

小児科・産科医師を基幹病院に集約 山口県

 ▽年度内に医療確保計画

 小児科、産科の深刻な勤務医不足に対応するため、山口県は十二日、基幹病院に医師を集めて地域の医療体制を確保する「集約化・重点化計画」の策定作業を始めた。県医療対策協議会の議論を基に、本年度内にまとめる。

 県庁であった対策協議会の初会合には、会長を務める前川剛志山口大医学部長や医師会長、病院長ら委員十八人が出席した。県側が、県内の小児科、産科の病院当たりの医師数は全国平均に比べてほぼ一人少ない現状を報告。医師の集約化を進める方針を確認した。

 委員は、多くの軽症患者が夜間救急を訪れる実態や、医学生がリスクの高い診療科を避ける傾向などを指摘。「勤務医の負担を減らさなければ、地域医療が立ち行かなくなる」との意見が相次いだ。一方、かかりつけ医の考え方を広める努力が先とし、「医療が手薄になる地域が出ないかが心配」との声も出た。

 「集約化・重点化」は厚生労働省が二〇〇五年十二月、都道府県に緊急避難策として検討を指示。〇七年四月現在、小児科で二十四道府県、産科で十七道府県が「必要」と回答している。【高橋清子】

(中国新聞、2007年10月13日)

****** 公明新聞、2007年10月12日

産科医療 医師減少、救急対応鈍らす

5日に1回の「当直」

 今年(2007年)8月に起きた、奈良県の妊婦が多数の病院に受け入れを断られた末に救急車内で死産したケースなどを受けて、各地で地域内の連携など産科救急の在り方を見直す動きが相次いでいる。

 日本産科婦人科学会は、地域の拠点となる病院に医師を集約化することで医療の質を高める構想を発表している。産科救急の見直しに際しては、地域で産科を担う病院や医師数、勤務実態も十分に考慮に入れた体制を構想する必要があるだろう。

 病院に勤める産科医の勤務実態を浮き彫りにする全国調査の結果が、日本産婦人科医会から発表された。それによると産婦人科勤務医の当直回数は2006年度で月平均6.3回、6年前に比べ約30%も増えているという。単純に計算すれば5日に1回以上の頻度で当直していることになる。その上、9割以上の施設で医師は当直明けもそのまま勤務を続けていた。

 当直明けも働き続けるという実態は、例えば、きょうの朝から勤務を開始したとすれば、ほとんど休憩も取らず、少なくとも、あすの夕方まで働き続けるということだ。乗客の命を預かる電車やバスの運転手であれば到底、許されないような勤務が常態化していることを表している。疲弊というより“燃え尽きる”ような過酷な勤務の中で起きる医療事故も心配される。

 当直回数は2000年度に行われた調査では月4.7回だったとされるので、1.6回増えた計算になる。同医会ではこの数字を、小児科や救急などと比べても多いのではないかと分析している。

 このように勤務が過酷になる背景には、産科医師数そのものが減り続けている実態がある。日本産科婦人科学会が昨年まとめた調査結果によると、1994年からの10年間に産婦人科医は8.6%減少し、その半数に当たる4.3%が直近の2年間で減っていた。そのあおりを受けて、分娩を扱う医療機関は05年度までの12年間で全国で1200施設も減っていた。地域でお産をする病院がない、いわゆる“お産難民”が生まれる背景にはこうした実情がある。

 産婦人科医が辞めてしまう理由には、過酷な勤務実態に加え、他科に比べて訴訟が多く敬遠される、若い世代で急激に増えている女性医師が自らの結婚や出産を機に辞めてしまう問題もある。産科医会は、過重労働やそれに見合わない対価、産科医やお産ができる施設の不足に拍車を掛け、それが妊婦の救急搬送先が見つからない一因になっていると分析している。

 産科医療体制の見直し、再構築に当たっては、地域で働く医師数や施設の実態を十分に踏まえた検討を行う必要がある。身近ではあっても産科医が1人か2人しかいない施設がたくさんあるよりは、多少は遠くなっても、医師数が多く設備も充実、ハイリスクのお産にも対応できる施設がある方が、提供される医療の質は高くなる視点を持つ必要があろう。

「産科診療圏」構想も

 産婦人科医の育成へ即効策が見つからない中、産科婦人科学会は具体的な対応として、人口30万~100万人ごとに24時間態勢で対応できる中核病院を中心に「産科診療圏」を設定、ハイリスクの妊娠・分娩を扱う医療機関は原則、専任の医師を3人以上置く構想を提言している。その地域にふさわしい構想は、当然のことながらその地域の医師会や病院、行政が連携して知恵を絞るしかない。

(公明新聞、2007年10月12日)

****** 信濃毎日新聞、2007年10月12日

須坂病院のお産休止 県会衛生委が産科医確保求める請願採択

 県立須坂病院(須坂市)が来年4月以降、出産受け入れの休止方針を示している問題で、県会衛生委員会は11日、須高地区の母親らでつくる住民グループが提出した同病院の産科医確保を求める請願を全会一致で採択した。15日の本会議でも採択される見通し。

 提出したのは、村井知事に9月下旬、3万3900人余の署名を手渡した「地域で安心して子供を産み育てることができることを望む会」。請願書は、同病院は須高地区で唯一の出産施設であり「お産の取り扱いの存続は、地域で安心して子どもを産み育てるためには欠かせない」と訴えている。

 同病院では、産科医2人のうち1人がけがで出産に対応できないとして、来年4月以降、出産の取り扱いを休止する方針を決定。この日の委員会で北原政彦・県立病院課長は「全国的な産科医不足で医師確保は厳しい状況だが、4月以降にお産が再開できるよう、あらゆる手を尽くす」と述べた。

(信濃毎日新聞、2007年10月12日)

****** 毎日新聞、岐阜、2007年10月11日

羽島市民病院あり方検討委:羽島市民など3病院産科休止、別の病院に集約 /岐阜

 ◇医師1人で緊急時、対応できず

 「羽島市民病院あり方検討委員会」の第1回会合が10日、羽島市新生町の同病院で開かれ、同病院の産科が年内で休止し、隣接する笠松町の松波総合病院に集約されることが明らかになった。また、同委員会に特別参加した岐阜大学大学院医学系研究科・医学部地域医療医学センターの今井篤志教授は、同病院以外の県内二つの病院の産科も年内に休止し、近隣の病院に集約されることを明らかにした。

 2病院は東海中央病院(各務原市)と白鳥病院(郡上市)。それぞれ中濃厚生病院(関市)と郡上市民病院(郡上市)に集約される。産科を休止する3病院はいずれも常勤の産科医が1人で「緊急時に対応できない」として、各病院に産科医を派遣している岐阜大が打開策として各病院に集約を伝えたという。

 委員会で今井教授は、羽島市民病院と東海中央病院は近年、出産件数が減少傾向にあり、周辺には開業医のほか県総合医療センターなどもあるなどとして「安全な出産には産科医が3人以上必要。全国的に問題となっている妊婦のたらい回しは岐阜県ではしたくない。集約される3病院の産科は一時避難的に休止とするが、婦人科は継続し、体制が整えば必ず再開させる」と説明した。【宮田正和】

(毎日新聞、岐阜、2007年10月11日)

****** 朝日新聞、2007年10月11日

周産期救急医療 産婦人科医会支部の4割「十分でない」

 日本産婦人科医会(寺尾俊彦会長)が、周産期救急医療の現状について、47都道府県の支部にアンケートしたところ、4割の19支部から「受け入れ態勢が十分ではない」と回答があったことが分かった。「十分に行われている」と答えたのは28支部で、産科医不足などが問題の背景にあるとし、国に対策を求めている。

 受け入れが不十分になる理由(複数回答)では、産科医不足(14支部)、ハイリスクな新生児を受け入れる「NICU」の不足(13支部)などの回答が目立った。

 妊婦を搬送する際、病院間の連携のあり方などを定めた「搬送システム」が整備されていると答えたのは44支部。しかし、システムが「十分に機能している」としたのは24支部にとどまり、18支部は「機能しているが十分ではない」と回答。2支部は「機能していない」と答えた。

 ただ、システムが機能していなくても「受け入れについては十分に行われている」と回答した支部もあった。「拠点となる病院が1カ所しかないような地域では、そこが受け入れるより選択肢はない」としている。

 アンケートは、奈良で妊婦の受け入れ先が決まらず、死産した問題が起きたことを受け、9月に実施された。

(朝日新聞、2007年10月11日)

****** 長野日報、2007年10月8日

昭和伊南病院産科休止 「非常事態」へ取り組み

 医師不足により、駒ケ根市の昭和伊南総合病院(伊南行政組合運営)で産科が休止となる来年4月まで、半年を切った。里帰り出産の受け入れを中止し、近隣病院が受け皿になっても、このままだと同市を中心に年間100人の出産難民が出る見通しとされる。病院側は院内産院(院内助産所)の開設に向けた研究を続け、市民団体も自然分娩(ぶんべん)を呼び掛けるなど非常事態を乗り切ろうとする取り組みが始まった。組合側も医師確保のための制度づくりに向けて動き出した。

 医療関係者の多くが地方都市で医師が不足する原因に挙げるのが、2004年に実施された医師臨床研修制度。医療の専門化が進む中で、プライマリ・ケア(基本医療)の基本的な診療能力(態度、技術、知識)の習得を目的に導入された。当初は総合的な医療の質の向上が期待されていた。

 ところが、ふたを開けてみると卒後の医師が2年間の研修先に選ぶのは専門医がいて設備が整った大都市の大病院ばかり。県内の各病院に医師を輩出する信州大学でさえ、研修医を確保するのがやっとという状況になってしまった。

 昭和伊南総合病院の千葉茂俊病院長は「これに加えて24時間態勢の重労働、すぐに訴訟につながることへの警戒感もあり産科医師の不人気が続いている」と指摘するように、こうした状況が診療科による医師の不均衡に拍車をかけた。

 一方、国は人口30万―50万人に一つの割合で拠点病院(連携強化病院)を置き、医師を重点的に配置して医療の質を守りながら医療体制を確保する施策をとってきた。県では、産科・小児科医療対策検討会が「連携強化病院への医師の集約化・重点化の提言」を行い、信大はこれを受けて昭和伊南からの医師引き揚げを決めた。

 こうした動きに対し、組合側は6月、地域の実情を踏まえた対応をするよう村井仁知事と大橋俊夫信大医学部長に要望。9月の2度目の要望で、中原正純組合長は「研修医受け入れに対する支援策も検討している」と、組合独自の医師確保策を講じる方針を明らかにした。

 医師確保に向けて組合は、15日に開く臨時議会に1千万円を追加補正する議案を提出する。県外の医師が同病院に勤務した際、診療科を定めず研究資金の名目で一定額を貸与、規定の期間勤めることで返済を免じる制度。県が産科、小児科、麻酔科を対象に4月から始めた県医師研究資金貸与規定に準じる内容で、県制度と重複しないよう調整する。病院側は「これで30代から40代の医師に来てもらえれば」と望みを託す。

 県は開会中の9月定例県議会で、院内産院の設置を支援する考えを示した。昭和伊南の強力な追い風となり得るのか―。県内にはまだ院内産院の施設はない。

(長野日報、2007年10月8日) 


『飛び込み出産』増加 死産など高リスク 搬送拒否要因にも (東京新聞)

2007年10月10日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

どの産科施設でも、その施設のスタッフと設備の規模に応じて、自ずと患者受け入れ数の限界が存在します。施設の許容量を超えて無制限に患者を受け入れてしまえば、安全な医療ができなくなってしまいます。分娩の予約数が受け入れ限界に達した場合、その月の予約はそれ以上に増やすことはできませんから、分娩予約の受け付けは一定数で中止せざるを得ません。

スタッフが激務に耐えかねてどんどん辞めてしまうような事態となれば、その施設の産科部門は閉鎖せざるを得ません。いったん閉鎖されてしまった産科施設を、また一から立ち上げて業務の再開までこぎつけるのは至難の業だと思います。

ですから、施設の限界以上に業務量が増え過ぎないように、常に最大限の配慮をしていく必要があります。

もしも、今後、『飛び込み出産』がどんどん増えていき、どの医療機関もその受け入れを拒否できないということになれば、それだけで地域における産科崩壊の大きな要因となり得ます。

****** 東京新聞、2007年10月7日

『飛び込み出産』増加 死産など高リスク 搬送拒否要因にも

 妊婦健診を受けないまま、突然病院を訪れて出産する「飛び込み出産」が増えている。神奈川県で昨年は二〇〇三年に比べ倍増、東京都内でも増加傾向だ。八月に奈良県で救急搬送を拒否され救急車内で死産した妊婦も同様のケースだった。背景には、産科医不足や健診費の負担感があるとみられる。出産費を踏み倒すケースもあるという。こうした出産は死産などリスクが高まることから医療機関は敬遠しがちで、救急搬送先がみつからない「たらい回し」に拍車をかける要因にもなっているようだ。 

Tobikomi_2  神奈川県産科婦人科医会の集計によると、妊婦健診を受けないまま、同県内の基幹病院(八施設)に飛び込んで出産した件数は、〇三年は二十件だったが、昨年は四十四件と倍増した。今年は四月までに三十五件と百件を突破する勢いだ。若年層や外国人、経産婦に多く、約半数が救急車で搬送されたという。

 日本医科大学多摩永山病院(東京都多摩市)の集計でも一九九七-二〇〇一年には十六件だったが、〇二-〇六年には二十三件と増加傾向で、今年も五月までに二件の飛び込み出産があった。

 集計した四十一件の妊婦のうち二十九歳以下が約六割を占めた。経産婦が二十六件と六割を超え、うち四件は前回の出産時にも受診していなかった。十一件で入院費が支払われず、四件で子どもを置き去りにした。

 受診しなかった理由は多い順に▽経済的問題▽妊娠に気づかなかった▽家庭の事情▽放置した▽不安だった-など。

 飛び込みだと、妊娠週数や合併症などの妊娠状況がわからず、適切な医療行為ができない懸念もあり、早産や死産のリスクも高くなる。

 こうした出産が増える背景について、横浜市立大学医学部の平原史樹教授(産婦人科)は「産科医不足で身近な健診施設や産める施設が減ったため」と分析、「健診費(一回五千円程度から)の負担も大きいようだ」と話す。出産後に入院費を支払わないケースも「珍しくない」という。医療機関側は、高リスク出産による訴訟リスクを回避するため、飛び込み出産を断る施設も出ている。

<メモ>妊婦健診 妊娠6カ月まで月に1度、その後2週間に1度、妊娠10カ月以降は1週間に1度のペースで受ける。費用は自己負担で1回当たり5000円程度だが、血液検査などを行うと1万円以上になる場合もある。国は本年度から5回分を公費で負担するよう、自治体に通知を出している。

(東京新聞、2007年10月7日)

****** 東奥日報、2007年10月7日

県病の未受診緊急分娩死亡率23%

 医療機関を未受診のまま出産間近に医療機関に駆け込む、いわゆる“飛び込み分娩(ぶんべん)”が、県立中央病院(青森市)では過去五年半で二十六例あり、そのうち約23%(六例)の赤ちゃんが死亡していたことが同病院の調べで分かった。未受診妊婦から生まれた赤ちゃんは通常より体重が軽く、リスクが高い傾向があり、同病院は「かかりつけ医をもって、健診を受けるようにしてほしい」と訴えている。

 同病院によると、未受診妊婦は増える傾向があり、〇六年度は七例あった。本年度はすでに五例あるという。

 今年十月までの過去五年半の未受診二十六例のうち約半数が早産。

 体重別では約半数が二〇〇〇グラム以下で、約三割が一〇〇〇グラム以下の「超低出生体重児」と、赤ちゃんが小さい傾向が明らかになった。

 死亡率は23%で、通常よりも約二百倍のリスクがあった。

 未受診妊婦の年齢や結婚経験を調べると、二十代後半の未婚者、三十五歳以上の未婚・既婚者が多かった。さらに三十五歳以上の未受診妊婦の多くが前回の妊娠でも「受診なし」だった。

(東奥日報、2007年10月7日)

****** 中日新聞、2007年10月5日

静岡県内の「飛び込み出産」 昨年は61人 04年から3年間で受け入れ拒否は62件

 妊娠中に医療機関で一度も受診しないまま、救急車で搬送されて出産する「飛び込み出産」が、静岡県内で2006年に61人いたことが、県厚生部の調べで分かった。医療機関から受け入れを拒否されたケースは、04年からの3年間で62件あった。

 かかりつけ医がいないと出産リスクが大幅に高まるため、医療機関が受け入れをためらう傾向があり、県こども家庭室は「母子の命を守るため、妊娠段階で受診してほしい」と話している。

 奈良県で8月、妊婦が救急車で搬送中に医療機関からの受け入れを拒否され死産した問題を受け、静岡県は産科のある県内30病院に対し実態調査を実施、23病院が回答した。

 その結果、61人が産科病院や診療所、助産所で一度も受診せず、出産が迫って救急車で搬送され、出産していた。

 妊婦の健診は健康保険の適用外で、原則として全額が自己負担となるため、経済的理由から受診しない例もあるとみられる。

 現在、県内の各市町は2回の無料健診を実施しており、国は08年度から最低5回に増やす方針を示している。

 県は「未受診の場合、受診した妊婦に比べ、死産や出生直後の新生児の死亡が約25倍になるとの研究結果がある。危険性を広く周知していきたい」と話した。

 一方、県消防室が県内の27消防本部を対象に実施した調査によると、04-06年で妊婦の救急搬送は2636件。うち62件が医療機関から1回以上受け入れを拒否されていた。理由は産科医の不在や多忙、ベッドが満床など。搬送中に容体が悪化したケースはなかった。

 菊川市消防本部では06年に20代女性を搬送中、菊川市と周辺の4病院から延べ7回の受け入れ拒否や、回答保留を受けたケースがあった。市消防本部は「菊川市のような小さな市には総合病院が一つしかなく、かかりつけ医に受診していないと救急で受け入れてもらえないのが現状。病院との連携システムを確立していく必要がある」と話した。

 県は今後、医療機関と救急との連携強化を目指し、担当者レベルの協議を重ねる方針。

(中日新聞、2007年10月5日)

****** 読売新聞、2007年9月18日

急増する「飛び込み出産」

妊婦健診受けず、受け入れ拒否の一因に

 陣痛や腹痛を覚えて初めて救急車を呼んで医療機関に駆け込み、いわゆる「飛び込み」で出産する事例が増えている。

 その多くが、妊婦健診を一度も受けたことのない「未受診妊婦」という。各地で救急搬送中の未受診妊婦が受け入れを拒否されるケースが相次いでおり、専門家は「赤ちゃんと自分の健康のためにも、妊婦健診を受けて」と呼びかけている。

 医師不足が影響

 「今年になってすさまじい増え方です」。横浜市大付属病院産婦人科教授の平原史樹医師は、「飛び込み出産」がこのところ急増していると指摘する。

 神奈川県産科婦人科医会がこのほどまとめた調査によると、同県内8か所の基幹病院で扱った飛び込み出産は、2003年に20件だったのが04年28件、05年39件、06年44件と年々増加。今年は4月までで既に30件を超えており、年末には100件を超えると推計している。平原医師によると、飛び込み出産のほとんどが未受診妊婦だという。「産科病院や分娩(ぶんべん)施設が減り、医師不足のため健診を受ける機会も減っているため」と分析する。

 未受診妊婦は救急搬送されても妊婦・胎児の健康状態が把握しにくいため、受け入れを拒否されることが多い。8月末に奈良県で妊娠中の女性が病院に受け入れを断られ死産した事例では、かかりつけ医がいなかったことがわかっている。その後、北海道、宮城、千葉などでもかかりつけ医のいない妊婦の受け入れ拒否のケースが明らかになっている。

 9月7日、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の幹部が厚生労働省を訪れ、産科救急医療体制の整備や産婦人科医師不足への対策を舛添要一厚生労働大臣に陳情した。陳情書では未受診妊婦についても言及し、救急医療での対応を検討する必要がある、と指摘している。

 同学会の産婦人科医療提供体制検討委員会の委員長で北里大医学部教授の海野信也医師は「未受診妊婦の『飛び込み出産』は全国的に増えている。産科医療の現場では非常に困惑している」と指摘する。

 日本助産師会専務理事の加藤尚美さんによると、飛び込み出産につながる未受診妊婦は以前は出産を経験したことのある女性に多かったが、最近は〈1〉若年妊婦〈2〉外国人女性〈3〉経済困窮家庭――などに多い傾向があるという。「自分自身の健康へ関心が低いのも特徴」と指摘する。

 「命にかかわる」

 加藤さんは「健診を受けないことはお母さんの健康を損い、赤ちゃんの命にかかわる恐れがある。健診は必ず受けてほしい」と話す。そして「未受診妊婦を減らすためには、無料健診をさらに拡充するほか、若いころからの健康教育を充実させる必要があるでしょう」と話している。

 妊婦健診 流産や早産などを予防するため、妊娠週数に応じて問診や内診、胎児の超音波検査などを行う。出産までに13~15回受け、費用は自己負担で1回約5000円、血液検査や超音波検査を行うと1万~1万5000円かかる場合もある。国は原則2回分の健診費用を負担しているが、独自に負担軽減に取り組む自治体もある。

(読売新聞、2007年9月18日)

****** 読売新聞、2007年9月12日

教育と経済的支援を…大阪・愛染橋病院 村田雄二院長

 月間約150件。大阪市浪速区の愛染橋病院は、西日本では有数の“お産病院”。約100件は通常の手続きでのお産で、残りは高度な治療が必要なために緊急搬送されて来たリスクの高いお産が中心だ。この中には医療関係者が「飛び込み出産」と呼ぶ、未受診のまま救急車などで運び込まれるケースも含まれている。

 同病院によると、飛び込み出産(死産も含む)は2003年38件、04年21件、05年16件、06年10件で、今年は7月までに6件あった。また、妊娠後期で初めて健診に来る妊婦もいる。未受診の理由としては、経済的な問題や家庭の事情を挙げる人が多く、経産婦の占める割合が高い。

 村田雄二院長は「飛び込み出産は珍しくない。いつ何が起きるかわからない妊娠で、健診を受けないことが、どれほど危険かということを考えてほしい」と訴える。

 それでは、なぜ医療機関での健診が必要なのか。

 医療機関で受診しないと、まず妊娠週数がわからない。その後の健診で、妊娠初期には子宮の中に妊娠しているか、胎児が発育しているかを調べ、中期には胎児に異常がないかを確認、後期には妊婦に感染症がないか、胎児の下がり具合などを診る。未受診だと、こうした情報が一切わからず、場合によっては急きょ、帝王切開になり、小児科医が必要になることもある。

 「それぞれの健診には意味がある。異常があれば治療し、予防にもつなげる。健診を受けないと、妊婦と赤ちゃんへのリスクは一挙に高まる」と村田院長は指摘する。

 同病院の医師は9人。医師不足を理由に、周辺で産科が相次いで閉鎖したため妊婦が集中し、さらに周産期医療の基幹病院としてリスクの高い妊婦を受け入れている。飛び込み出産は、激務の医師に一層の負担を強いる結果となる。

 村田院長は「健診は必ず受けるという教育と、健診費用の補助など、行政の経済的支援が必要だ。医療は進歩しているが、『出産イコール安全』という考え方は大きな間違い。妊婦は、おなかの赤ちゃんと、自分の体を大切にしてほしい」と呼び掛けている。

広がる負担軽減策

 母子保健法によると、妊娠が判明したら「速やかに」市区町村に妊娠届を出し、市区町村は母子手帳を交付する。医療機関で定期健診や指導を受けた時は、そのつど母子手帳に内容の記載を受けなければならない、と定めている。

 同法は健診回数や内容にまで触れていないが、厚労省の通知(1996年)では「望ましい」とされる健診回数は、妊娠初期~6か月末は4週間に1回、7~9か月は2週間に1回、臨月には1週間ごと。しかし、実際は妊娠の経過によってさらに増えることも多い。

 妊娠・出産は病気ではないので健康保険が使えず、健診は自費診療となる。基本的には医療機関が独自に価格を定める。おおむね1回5000円前後で、内容や医療機関によっては数万円になることもあるという。

 経済的な理由で受診できない人が出ないよう、国は今年度中をめどに原則2回だった公費負担による無料健診を5回に増やすことに決めた。

 自治体レベルで負担軽減の取り組みも始まっている。福島市は昨年度から、年間1億6800万円の予算で、県外健診を含め最多15回の公費負担を始めた。週数に応じて15回分の健診受診票を母子手帳交付時に渡し、妊婦が受診したら1枚ずつ医療機関に提出する仕組み。県外で出産した時は後日、申請する。

 同市健康推進課の担当者は「経済的な支援になるほか、妊婦が健診について理解し、子どもへの愛着や関心を高めることにも役立つ」と話した。

国が進める集約・重点化 7都県でモデル事業

 産科医師不足を解消する手段の一つとして、国が進めているのは地域の拠点となる病院に医師を集めてリスクの高い出産を扱い、その他の病院でリスクの低い出産を扱うという「集約化・重点化」だ。

 その一環として、健診は診療所などで行い、出産する際は診療所の医師が連携する病院に出向いて立ち会う「オープンシステム」や、出産は病院だけに任せる「セミオープンシステム」をそれぞれ取り入れる病院が出てきた。ともに妊婦が医療機関で定期的に健診を受け、出産する際のリスクを医療機関が把握することで成り立つシステムであり、国は三重、岡山など7都県でモデル事業を進めている。

(読売新聞、2007年9月12日)

****** 朝日新聞、2007年8月26日

悩まし「飛び込み出産」 費用踏み倒しも

 妊娠してから一度も検診にかからず、陣痛が来てはじめて救急車をよんで病院に運ばれてくる――。産科医のあいだで「飛び込み出産」とよばれる事例が、最近、基幹病院で増えている。胎児の情報が少ないうえ、中には出産費用を踏み倒す妊婦もおり問題も多く、基幹病院も頭を悩ませている。県産科婦人科医会も実態把握のため調査に乗り出した。【大貫聡子】

 横浜市南区の横浜市大センター病院で05年に受け入れた飛び込み出産は7件だったが、06年は一挙に16件に増えた。

 「以前は年に数件だったが、最近は月に数件のペースでやってくる。基幹病院の産科医は本来だったらリスクの高い妊婦を診なければならないのに、飛び込み出産は大きな負担だ」と横浜市大センター病院の高橋恒男医師。

                   ■   ■

 一番多いのは陣痛がきておなかが痛くなり、119番通報するケース。中には「破水してしまった」といって深夜に病院の守衛室にあらわれた妊婦もいたという。

 横浜市南区の県立こども医療センターでも、昨年まで年数件ほどだった飛び込み出産が、今年は7月段階ですでに11件に上っている。

 山中美智子医師は「基幹病院でなくても診ることができるのに、最近は産科医が減っているためか、飛び込み出産を断る町中の病院が多い。救急隊が、何軒電話しても断られたと困り果て、基幹病院に連絡してくる」と話す。

 多くの医師が飛び込み出産を敬遠するのは、身体的、精神的な負担が大きいからという。山中医師は「赤ちゃんが逆子なのか、どれぐらいの大きさか、どんな感染症をもっているのかも分からない。ふつうなら検診を通して時間をかけて把握すべきことを大急ぎで判断するしかない」と、現場の苦労を語る。

 超音波診断でおおよその赤ちゃんの大きさは把握するが、自然分娩(ぶんべん)ができない場合は、急きょ帝王切開などの手術になることもある。

                   ■   ■

 病院にとっては経済的なリスクも高い。県立こども医療センターによると、1~4月に来た飛び込み出産の妊婦8人のうち、出産費用を払ったのはわずか2人しかいなかった。なかには生まれた赤ちゃんをおいていってしまった女性もいたという。

 「出産の予約をとろうと思って何軒も病院に電話をしたが見つからなかった」「妊娠に気づかなかった」「第1子も飛び込みで産んだので」という妊婦もいたという。

 県内の市町村は、出産費用を払うのが経済的に難しい人のために児童福祉法に基づき、「助産制度」を設けている。提携した病院で出産すれば自治体が出産費用を支払ってくれる制度だ。しかし飛び込み出産の場合は支払いの対象にならないことが多い。妊婦が費用を踏み倒せば、そのまま全額が病院の負担になってしまう。

 しかも医師法により費用未払いを理由に診療を断ることはできない。

 以前は不法滞在の外国人や、10代で妊娠したため親に相談できなかったなど、病院に通えない事情のある妊婦が多かったが、最近はほとんどが成人した日本人という。

 こうした状況を受け、県産科婦人科医会も県内八つの基幹病院で飛び込み出産の実態調査に乗り出した。医会副会長で横浜市大付属病院産婦人科教授の平原史樹医師は「どこが飛び込みを診るのか、どこが費用を負担するのか、県にも実態を報告し対応を話し合っていきたい」と話している。

(朝日新聞、2007年8月26日)

****** 東奥日報、2007年4月3日

県内の「飛び込み分娩」増加

 妊婦健診を受けずに出産直前に医療機関を受診する「飛び込み分娩(ぶんべん)」が県内の医療機関で目立っている。八戸市民病院では二〇〇六年、十二件で前年の四倍となった。妊婦の意識の問題、社会・経済的問題などが要因として挙げられるが、「医療事故を懸念する民間医療機関から“飛び込み”を断られた妊婦が、公立病院に集中する」という指摘もある。また、一部関係者は「一回の健診費用が六千円前後と妊婦の経済負担が重く、それが健診を受けないままの“飛び込み”の一因になっている。自治体は補助拡大を」と訴える。

 八戸市の飛び込み分娩の現状は三月、青森市で開かれた産科医療フォーラムで八戸市民病院の助産師が報告した。同病院の〇六年の飛び込み分娩は十二件で、〇五年度の三件から、大幅に増えた。〇七年も三月十一日現在で既に四件とハイペースで推移している。

 この理由について、八戸市内の複数の医療関係者は「飛び込みで民間医療機関を受診しても、医療事故を避けるため、受け付けない。断られた人たちが市民病院に流れているのではないか」と分析。現に八戸市内の開業医は「福島県・大野病院の逮捕事例などで産科医は委縮している。リスクが高いケースは受け付けず、総合病院へ送るようになった」と話す。また「四月から産婦人科を休診した青森労災病院の影響で、さらに“飛び込み”が市民病院へ集中するのでは」と危惧(きぐ)する医療関係者の声もある。

 青森市民病院は年五-十件の“飛び込み”はあるが、特別、増える傾向はないという。ただ、関係者は「社会的・経済的に許されない妊娠のため、飛び込みで来るケースがある」と言う。

 一方、弘前市の公立病院でも年間十件前後の飛び込みがあり、同病院の医師は「ほとんどが経済的な問題。妊婦健診はお金が掛かる。弘前市の無料券は二回だけ。もっと補助を拡大してほしい」と説明する。

(東奥日報、2007年4月3日)


第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題031~問題040

2007年10月09日 | 婦人科腫瘍

第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題と解答例

【問題031~問題040】

問題031 子宮内膜細胞診で正しいのはどれか。
a)内膜細胞の細胞異型のみを評価する。
b)内膜細胞がみられなければ再検査を指示する。
c)細胞診陰性であれば子宮内膜癌は否定できる。
d)疑陽性の場合、内膜組織診は不要である。
e)卵巣癌細胞が検出されることはない。

問題032 わが国の女性10万人あたりの子宮体癌罹患数はどの程度か。
a)1 人未満
b)6~15人
c)106~115人
d)506~515人
e)1006~1015人

問題033 タイプⅡ子宮体癌で正しいのはどれか。
a)肥満
b)閉経後
c)予後良好
d)類内膜腺癌
e)エストロゲン依存性

問題034 子宮体癌の手術進行期分類(取り扱い規約、1996年)で正しいのはどれか。
(1)浸潤が筋層1/2を超えるものはⅠb期である。
(2)頚管腺のみを侵すものはⅡb期である。
(3)腟に転移を認める場合はⅢb期である。
(4)骨盤リンパ節に転移があればⅢc期である。
(5)鼠径リンパ節に転移があればⅣb期である。

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

問題035 子宮体癌の手術進行期分類(取り扱い規約、1996年)で正しいのはどれか。
a)腹腔細胞診で陽性であったのでⅠc期とした。
b)卵巣に転移がみられたのでⅡa期とした。
c)大網に径1 cmの転移がみられたのでⅢb期とした。
d)子宮傍結合織浸潤がみられたのでⅢc期とした。
e)傍大動脈リンパ節転移がみられたのでⅣ期とした。

問題036 子宮体癌の治療で正しいのはどれか。
(1)若年女性で類内膜腺癌G1かつⅠa期と予測される場合は子宮温存を考慮する。
(2)傍大動脈リンパ節郭清が長期予後改善に寄与するか否かは不明である。
(3)臨床進行期Ⅱ期の症例に対する腟壁切除の有用性は証明されている。
(4)進行例に対する手術療法の意義は低く、腫瘍減量手術は行うべきでない。
(5)内視鏡下手術は確立しておらず、その適応は慎重に考慮すべきである。

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

問題037 子宮体癌の化学療法で正しいのはどれか。
(1)中リスク症例の術後化学療法は放射線療法と同等かそれ以上に有効である。
(2)高リスク症例で術後残存腫瘍2 cm以下の場合に化学療法が推奨される。
(3)アンスラサイクリン系とプラチナ製剤の併用が推奨される。
(4)進行例に対する術前化学療法の有効性が証明されている。
(5)放射線療法後の再発例にはイリノテカンが有用である。

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

問題038 子宮体癌化学療法のkey drugはどれか。
a)エトポシド
b)ジェムシタビン
c)アドリアマイシン
d)サイクロフォスファミド
e)5-FU

問題039 子宮内膜増殖症および体癌の治療で誤っているのはどれか。
a)単純型子宮内膜増殖症に対して単純子宮全摘術を施行した。
b)子宮内膜異型増殖症に対して黄体ホルモン療法を施行した。
c)体癌で浸潤が筋層1/2を超えており傍大動脈リンパ節郭清を施行した。
d)体癌で頚部間質に深い浸潤を認めたため広汎子宮全摘出術を施行した。
e)体癌の高リスク例にdoxorubicinとcisplatinによる化学療法を施行した。

問題040 子宮肉腫の治療で正しいのはどれか。
a)第一選択の治療法は手術療法である。
b)標準的手術術式は広汎子宮全摘出術である。
c)進行例に対しては化学療法が有用である。
d)平滑筋肉腫には黄体ホルモン療法が奏功する。
e)低悪性度内膜間質肉腫の5年生存率は50%以下である。

―――――――――――――――――――――――――

解答例 (誤答の場合は御指摘ください)

問題031 子宮内膜細胞診で正しいのはどれか。
a)内膜細胞の細胞異型のみを評価する。
b)内膜細胞がみられなければ再検査を指示する。
c)細胞診陰性であれば子宮内膜癌は否定できる。
d)疑陽性の場合、内膜組織診は不要である。
e)卵巣癌細胞が検出されることはない。

解答:b

******

問題032 わが国の女性10万人あたりの子宮体癌罹患数はどの程度か。
a)1 人未満
b)6~15人
c)106~115人
d)506~515人
e)1006~1015人

解答:b

子宮体癌は近年増加傾向にあり、推定罹患数は1996年4507人(女性10万人あたり5.7人)、2015年には6623人(女性10万人あたり7.3人)にまで増加すると予測されている。(婦人科腫瘍の臨床病理、改訂第2版、118頁)

******

問題033 タイプⅡ子宮体癌で正しいのはどれか。
a)肥満
b)閉経後
c)予後良好
d)類内膜腺癌
e)エストロゲン依存性

解答:b

Ⅰ型子宮体癌
 発生機序:unopposed estrogenの長期持続により、子宮内膜異型増殖症を経由しそれが癌に至るもの
 好発年齢:閉経前~閉経早期
 頻度:80~90%
 病巣周辺の子宮内膜異型増殖症:あり
 組織型:類内膜腺癌
 分化度:高分化型
 筋層浸潤:軽度
 予後:比較的良好
 遺伝子:K-ras(癌原遺伝子)、PTEN(癌抑制遺伝子)の変異が高率で見られる

Ⅱ型子宮体癌
 発生機序:子宮内膜異型増殖症を介さないで癌化するもの(de novo癌)
 好発年齢:閉経後
 頻度:10~20%
 病巣周辺の子宮内膜異型増殖症:なし
 組織型:漿液性腺癌、明細胞癌など
 分化度:低分化型
 筋層浸潤:高度
 予後:不良
 遺伝子:p53(癌抑制遺伝子)の変異が高率に見られる

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問題034 子宮体癌の手術進行期分類(取り扱い規約、1996年)で正しいのはどれか。
(1)浸潤が筋層1/2を超えるものはⅠb期である。
(2)頚管腺のみを侵すものはⅡb期である。
(3)腟に転移を認める場合はⅢb期である。
(4)骨盤リンパ節に転移があればⅢc期である。
(5)鼠径リンパ節に転移があればⅣb期である。

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

解答:e

子宮体癌の手術進行期分類
0期 子宮内膜異型増殖症
Ⅰ期 癌が子宮体部に限局するもの
 Ⅰa 期 子宮内膜に限局するもの
 Ⅰb 期 浸潤が子宮筋層1/2以内のもの
 Ⅰc 期 浸潤が子宮筋層1/2をこえるもの
Ⅱ期 癌が体部および頸部に及ぶもの
 Ⅱa 期 頸管腺のみを侵すもの
 Ⅱb 期 頸部間質浸潤のあるもの
Ⅲ期 癌が子宮外に広がるが、小骨盤をこえていないもの、または所属リンパ節転移のあるもの
 Ⅲa 期 漿膜ならびに/あるいは付属器を侵す、ならびに/あるいは腹腔細胞診陽性のもの
 Ⅲb 期 腟転移のあるもの
 Ⅲc 期 骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの
 (注:子宮傍結合織浸潤例はⅢc期とする)
Ⅳ期 癌が小骨盤腔をこえているか、明らかに膀胱または腸粘膜を侵すもの
 Ⅳa 期 膀胱ならびに/あるいは腸粘膜浸潤のあるもの
 Ⅳb 期 腹腔内ならびに/あるいは鼠径リンパ節転移を含む遠隔転移のあるもの

〔分類にあたっての注意事項〕
(1)初回治療として手術がなされなかった例(放射線療法など)には、従来からの臨床進行期分類が適用される。
(2)各期とも腺癌の組織学的分化度により、それぞれ亜分類される。
(3)0期は治療統計に含まれない。FIGOでは0期は設定されていないが、日本産科婦人科学会では従来の分類との整合性により0期を設定した。
(4)所属リンパ節とは、基靭帯リンパ節、仙骨リンパ節、閉鎖リンパ節、内腸骨リンパ節、鼠径上リンパ節、外腸骨リンパ節、総腸骨リンパ節、および傍大動脈リンパ節をいう。
(5)子宮傍結合織浸潤例はⅢc期とする。
(6)本分類は手術後分類であるから、従来Ⅰ期とⅡ期の区別に用いられてきた部位別掻爬などの所見は考慮しない。
(7)子宮筋層の厚さは腫瘍浸潤の部位において測定することが望ましい。

〔子宮体部腺癌の組織学的分化度〕
すべての類内膜癌は腺癌成分の形態によりGrade 1、2、3に分類される。
Grade 1: 充実性増殖の占める割合が腺癌成分の5%以下であるもの
Grade 2: 充実性増殖の占める割合が腺癌成分の6~50%のもの。あるいは充実性増殖の割合が5%以下でも細胞異型の著しく強いもの
Grade 3: 充実性増殖の占める割合が腺癌成分の50%を超えるもの。あるいは充実性増殖の割合が6~50%でも細胞異型の著しく強いもの

〔組織学的分化度に関する注意〕
(1)漿液性腺癌、明細胞腺癌、扁平上皮癌は核異型によりGradeを判定する。
(2)扁平上皮への分化を伴う腺癌のGradeは腺癌成分によって判定する。

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問題035 子宮体癌の手術進行期分類(取り扱い規約、1996年)で正しいのはどれか。
a)腹腔細胞診で陽性であったのでⅠc期とした。
b)卵巣に転移がみられたのでⅡa期とした。
c)大網に径1 cmの転移がみられたのでⅢb期とした。
d)子宮傍結合織浸潤がみられたのでⅢc期とした。
e)傍大動脈リンパ節転移がみられたのでⅣ期とした

解答:d

a)b)Ⅲa 期:漿膜ならびに/あるいは付属器を侵す、ならびに/あるいは腹腔細胞診陽性のもの。

c)Ⅳb 期:腹腔内ならびに/あるいは鼠径リンパ節転移を含む遠隔転移のあるもの。

d)子宮傍結合織浸潤例はⅢc期とする。

e)Ⅲc 期:骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの。

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問題036 子宮体癌の治療で正しいのはどれか。
(1)若年女性で類内膜腺癌G1かつⅠa期と予測される場合は子宮温存を考慮する。
(2)傍大動脈リンパ節郭清が長期予後改善に寄与するか否かは不明である。
(3)臨床進行期Ⅱ期の症例に対する腟壁切除の有用性は証明されている。
(4)進行例に対する手術療法の意義は低く、腫瘍減量手術は行うべきでない。
(5)内視鏡下手術は確立しておらず、その適応は慎重に考慮すべきである。

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

解答:b

(2)CQ04:骨盤リンパ節郭清に加えて傍大動脈リンパ節郭清をすることの意義は?推奨:①正確な進行期決定を可能にする(グレードA)。②傍大動脈リンパ節郭清の治療的な意義は確立されていない(グレードC)。【子宮体癌治療ガイドライン2006、p28】

(4)CQ29:肉眼的な骨盤外腹腔内進展例に対し、腫瘍減量手術の治療的意義は?推奨:腫瘍減量手術を行うことにより、予後を改善し得る可能性がある(グレードC)。【子宮体癌治療ガイドライン2006、p94】

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問題037 子宮体癌の化学療法で正しいのはどれか。
(1)中リスク症例の術後化学療法は放射線療法と同等かそれ以上に有効である。
(2)高リスク症例で術後残存腫瘍2 cm以下の場合に化学療法が推奨される。
(3)アンスラサイクリン系とプラチナ製剤の併用が推奨される。
(4)進行例に対する術前化学療法の有効性が証明されている。
(5)放射線療法後の再発例にはイリノテカンが有用である。

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

解答:a

CQ21:術後補助化学療法は有効性が確立されているのか?推奨:①低リスク症例に対する術後補助化学療法は奨められない(グレードC)。②中リスク症例に対する術後補助化学療法は、放射線治療と同等あるいはそれ以上に有効である可能性がある(グレードC)。③高リスク症例術後残存腫瘍2cm以下の症例に対して、術後化学療法を行うことが奨められる(グレードB)。【子宮体癌治療ガイドライン2006、p74】

CQ22:術後補助化学療法を行う場合にはどのような薬剤が推奨されるか?推奨:①アンスラサイクリン系とプラチナ製剤を含む薬剤の選択が奨められる(グレードB)。②タキサン系薬剤も併用されているが、その十分な根拠は得られていない(グレードC)。【子宮体癌治療ガイドライン2006、p76】

CQ30:術前化学療法や術前放射線療法は有効か?推奨:①術前化学療法は推奨されない(グレードD)。②子宮頸部に明らかな浸潤がある場合に術前放射線療法が用いられることがある(グレードC)。【子宮体癌治療ガイドライン2006、p96】

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問題038 子宮体癌化学療法のkey drugはどれか。
a)エトポシド
b)ジェムシタビン
c)アドリアマイシン
d)サイクロフォスファミド
e)5-FU

解答:c

アドリアマイシンは子宮体癌に対するkey drugであり、単剤での効果は17%~26%である。

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問題039 子宮内膜増殖症および体癌の治療で誤っているのはどれか。
a)単純型子宮内膜増殖症に対して単純子宮全摘術を施行した。
b)子宮内膜異型増殖症に対して黄体ホルモン療法を施行した。
c)体癌で浸潤が筋層1/2を超えており傍大動脈リンパ節郭清を施行した。
d)体癌で頚部間質に深い浸潤を認めたため広汎子宮全摘出術を施行した。
e)体癌の高リスク例にdoxorubicinとcisplatinによる化学療法を施行した。

解答:a

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問題040 子宮肉腫の治療で正しいのはどれか。
a)第一選択の治療法は手術療法である。
b)標準的手術術式は広汎子宮全摘出術である。
c)進行例に対しては化学療法が有用である。
d)平滑筋肉腫には黄体ホルモン療法が奏功する。
e)低悪性度内膜間質肉腫の5年生存率は50%以下である

解答:a

a)b)子宮肉腫の治療の第1選択は手術療法であり、一般に標準的術式として単純子宮全摘出術、両側付属器切除、骨盤および傍大動脈の選択的リンパ節切除術が行われる。

c)術後の放射線療法あるいは化学療法によるアジュバント療法の有効性については不明である。

e)低悪性度子宮内膜間質肉腫の予後は比較的よく、Ⅰ、Ⅱ期では80%以上の5年生存率が期待できる。子宮内膜間質肉腫にはMPAによる内分泌療法も行われる。


産科医不足対策 宮城県、集約化方針を決定 (河北新報)

2007年10月08日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

すでに多くの県において、『分娩機能を維持する重点化病院を指定して、その指定された病院に、産婦人科医、小児科医などを重点的に配置する』との将来の方向性が示されています。

宮城県においても、産婦人科医を拠点病院へ重点的に配置する『分娩機能の集約化』の方針が決定されたとの報道記事です。

参考:産科医の重点配置

河北新報:東北の産婦人科医療の実態

産科・小児科の重点配置を提言 (長野県産科・小児科医療対策検討会)

****** 河北新報、2007年10月8日

産科医不足対策 宮城県、集約化方針を決定

 産科医不足対策として国が方針を打ち出した拠点病院への医師の集約化について、宮城県は7日までに、「集約化が必要」との方針を決めた。栗原、登米市など県北地域の産科医不足が深刻化しているためで、妊婦健診と分娩(ぶんべん)を開業医と拠点病院で機能分担する「セミオープンシステム」の導入や助産師外来の設置といった体制整備に着手する。

 「集約化」は分散している医師を1カ所に集めたり、新たな医師の配置を集中させたりすることで拠点病院を強化し、医師の負担軽減や診療の高度化を図る。

 県は集約化で産科医不足に対応する。とりわけ県北地域では、栗原市の産科・産婦人科の常勤医はわずか1人。登米市と気仙沼市はともに3人にとどまっている。仙台市の87人に比べ、地域偏在が進んでいる。

 県北の産科医療については、複数の産科医がいる大崎市民病院に医師を集約し、妊婦健診と分娩を行う「連携強化病院」に指定する計画。栗原中央病院(栗原市)と佐沼病院(登米市)は健診だけを担当する。

 大崎市民病院から週1回、栗原中央、佐沼の両病院に医師を派遣するほか、両病院に助産師外来を設ける方針。外来設置に向け、本年度は助産師対象の研修を実施する。

 集約化については、厚生労働省が都道府県に対し、来年3月末までに実施の適否を決めるよう、都道府県に求めていた。

 県は集約化に伴い、医師の空白地域が拡大することを懸念。ことし3月、「さらに詳細な調査が必要」として判断を先送りしていた。

 県医療整備課は「産科医の地域偏在が深刻で、医師一人当たりの負担も増えている。医師が複数いなければ、24時間体制も敷けず、リスクの大きい分娩に対し、高度な医療を提供できなくなる恐れも出てくる」と説明している。

(河北新報、2007年10月8日)

****** 朝日新聞、宮城、2007年10月8日

安心な出産ピンチ/県内医療機関アンケート

 妊婦健診や出産を取り扱う病院は県内全域で減少、産婦人科医1人あたりの年間出産取扱件数は多い地域で240件に――。周産期医療のあり方を考える県の協議会が調べたアンケートで、お産を取り巻く窮状が浮き彫りになった。勤務が厳しく、訴訟リスクの高い産婦人科医の数が減少する一方で、現場の医師には負担がのしかかる。出産を控えた女性にとっても深刻な状況だ。

 調査は昨夏、県内138の病院、診療所に対して実施した。産科・婦人科の医師数や出産実績、近隣病院との連携を尋ね、約7割が回答した。

 その結果、県内の産婦人科の常勤医師数は123人で、7年前から37人減った。県内5地域は減少、同数のいずれかだった。少子化で出産件数は約2200件減の1万8千件となったものの、医師の減少が著しいため、1人あたりの年間出産取扱件数が約20件増加。県平均で146件になった。とりわけ医師不足の進む気仙沼(243件)、大崎・栗原・登米(236件)、石巻(213件)の3地域は年間の取り扱いが200件を超えた。

 また、妊婦健診を実施している病院は27カ所減り、出産を手がける病院も18カ所減った。栗原、登米、気仙沼の産婦人科病院では、いずれも常勤医師が1人となっていた。産婦人科医が減っている理由については「勤務条件が厳しい」「訴訟リスクが高い」「報酬が見合わない」といった意見が多かった。

 万一、母親の症状に問題が生じた場合、高度医療機関が集中する仙台市に搬送する事例も目立つ。仙南、岩沼、塩釜、黒川の各地では母親と異常新生児の9割以上が仙台に搬送された。

 こうした現状があるために、各地域ごとに「病院の集約化・重点化が必要だ」と考える病院が56%に達した。医療の安全や、医師の負担軽減のためというのが主な理由だ。県はこれらの結果をもとに、今年度中にお産に関する病院機能の集約化計画をまとめる。県医療整備課の担当者は「とりわけ健診面積が大きい半面、医師不足が進む県北地域で緊急性が高い」としている。

(朝日新聞、2007年10月8日)

****** 琉球新報、2007年10月7日

過酷な産科医勤務 お産に優しい環境づくりを

 お産を取り巻く環境が厳しい。奈良県では昨年、妊婦が約20カ所の病院に受け入れを断られた揚げ句、大阪府内の病院まで搬送されたが死亡。さらに、今年の8月にも同県内で妊婦の搬送先が決まらず、死産するなど、痛ましいトラブルが相次いだのは記憶に新しい。

 人生で最も喜ばしく、何より多くの祝福を受けるはずの出産という瞬間。そこで、このような仕打ちが待っているとは、誰が想像するだろうか。誰もが安心して産み育てる環境の整備が急務だ。少子化対策が叫ばれて久しいが、こうした足元への配慮を軽視して進めても、大きな成果は得られまい。

 トラブル続発の大きな要因の1つに、産科医の過酷な勤務実態があらためて浮かび上がった。日本産婦人科医会の全国調査では、産婦人科勤務医の当直回数は2006年度は月平均6・3回で、6年前に比べて約30%も増えた。単純に計算しても、5日に1回以上となる。また、当直明けでもいつもと同じ勤務に就かなければならない施設が9割以上を占めるという。当直手当が増額された例もごく一部にとどまる。

 調査はお産を取り扱う全国約1300施設が対象で、約800施設(62%)から回答を得た。

 2000年度の調査では当直は月平均4・7回で、1・6回増えたことになる。当直明けの勤務緩和措置については「なし」が全体の92・5%。国立系の施設(大学病院を除く)では100%、大学病院は97・4%が勤務緩和をしていなかった。

 産科医の勤務の過酷さと待遇の不十分さが数字で裏付けられた形だ。この調査結果を分析するだけでも、とるべき対策はおのずと見えてくる。もちろん、勤務がきつく待遇が悪いからといって、ずさんな医療が許されるわけでは決してない。しかし、この悪循環が改善されない限り、トラブルの芽が摘めないことも確かだろう。

 そんな中、厚労省が5日、救急搬送された妊産婦を円滑に受け入れた医療機関に手厚い加算を実施する方針を決めた。2008年度の診療報酬改定に盛り込むことを中央社会保険医療協議会(中医協)に示したという。緊急時に妊産婦を広く受け入れるよう報酬面で医療機関を誘導するのが狙いだ。

 もっとも、これですべてが好転するとは言い難い。一連のトラブルをめぐっては産科医療の現場から(1)施設の不備(2)勤務が過酷で産科医が減少している―ことなどから「不十分な医療提供体制が背景」との指摘がある。そのため、報酬面で優遇しても実効性は未知数、というわけだ。

 とまれ、お産に優しい環境づくりに向けて、行政が一歩踏み出したことは素直に評価したい。

(琉球新報、2007年10月7日)

****** 沖縄タイムス、2007年10月7日

産科勤務医 長時間労働の改善急務

 産婦人科の医師の勤務が過酷であり、待遇も不十分であることが、日本産婦人科医会の二〇〇六年度の調査であらためて浮き彫りになった。

 当直勤務は月平均六・三回で、単純計算すると五日に一回以上の頻度となり、六年前と比べて、一・六回増えた。

 当直明けでも、九割以上の施設が普段と同じ勤務をこなさなければならないというから、出産で母子の命を預かる産婦人科医がいかに厳しい労働環境に置かれているかが分かる結果であろう。

 さらに、過去一年以内に当直手当を増額したのは9・4%にすぎず、過重労働の上、待遇面でも改善が進んでいない実態がある。

 日本産婦人科学会の調査では、出産を扱う施設は一九九三年には全国に約四千二百カ所あったのが、二〇〇五年には約三千カ所に減った。厚生労働省によると、産科医の数も〇四年に約一万六百人となり、九四年から7%減少している。

 背景には、産科医の過酷な勤務や訴訟リスクがあるとされ、当直勤務日数が増えていることは、労働環境が悪化していることを具体的に示しているといえる。

 県内でも全国的な傾向と同様、産科医が不足している。県立北部病院に産科医がいないため、北部地区から救急車による妊婦の搬送は〇五年から〇七年八月末までに二百二件あり、うち五人が救急車の中で出産したという。

 深刻な状況にあることは、沖縄も例外ではない。

 出産は時刻を選ばず、不測の事態が起きやすい。産科医は過重労働の中でも、必死になって新しい命のために仕事をしているというのが現状であろう。

 産科医不足を解消する“特効薬”はない。まず、現状の慢性的な長時間労働を改善する対策を講じなければ、産科医の数が先細りする懸念は増すばかりだ。

(沖縄タイムス、2007年10月7日)

****** 産経新聞、2007年10月6日

産科勤務医 当直、5日に1回超 医会全国調査 過酷な待遇浮き彫り

 産婦人科勤務医の当直回数は、平成18年度は月平均6・3回で、6年前に比べ約30%も増えたことが、日本産婦人科医会(会長・寺尾俊彦浜松医大学長)の全国調査で分かった。単純計算で5日に1回以上の頻度。当直明けでも普段と同じ勤務をこなさなければならない施設が9割以上を占め、当直手当が増額された例もごく一部にとどまった。

 産科医の勤務の過酷さと待遇の不十分さがあらためて数字で裏付けられた形で、同医会は今後、改善に向けた具体的提言をまとめるとしている。

 調査はお産を取り扱う全国約1300施設が対象で、約800施設(62%)の有効回答を分析した。

 当直回数は、12年度に行われた調査では月平均4・7回で、1・6回増加した。同医会は「この数字は小児科や救急と比べても多いのではないか」としている。

 当直明けの勤務緩和措置については「なし」が全体の92・5%。国立系の施設(大学病院を除く)では100%、大学病院は97・4%が勤務緩和をしていなかった。

 過去1年以内に当直手当を増額した施設は9・4%。妊婦が糖尿病や妊娠高血圧症候群であるなど、リスクが高いお産を扱った施設に加算される「ハイリスク分娩(ぶんべん)管理料」を、一部でも医師に還元した施設は1%にも満たなかった。

 調査をまとめた同医会常務理事の中井章人日本医大教授(周産期医学)は「過重労働や労働に見合わない対価などが、産科医やお産施設の不足に拍車をかけている。妊婦の救急搬送に支障が出る一因もここにあるのではないか」としている。

(産経新聞、2007年10月6日)


第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題021~問題030

2007年10月08日 | 婦人科腫瘍

第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題と解答例

【問題021~問題030】

問題021 TNM分類(取り扱い規約、1997年)で正しいのはどれか。
a)TX - 原発腫瘍を認めない。
b)TO - 浸潤前癌
c)NX - 所属リンパ節に転移を認めない。
d)N1 - 所属リンパ節に転移を認める。
e)MO - 遠隔転移の検索が行われていない。

問題022 子宮頚癌の臨床進行期と治療法の組み合わせで誤っているのはどれか。
a) 0 期 - レーザー円錐切除術
b)Ⅰa1期 - 単純子宮全摘出術
c)Ⅰa2期 - 子宮頸部円錐切除術
d)Ⅰb1期 - 広汎子宮全摘出術
e)Ⅲb期 - 化学放射線療法

問題023 子宮頸癌の治療で誤っているのはどれか。
a)広汎子宮全摘出術では症例によっては卵巣温存が可能である。
b)広汎子宮全摘出術で傍大動脈節郭清の治療的意義は不明である。
c)放射線療法では全骨盤照射と腔内照射を組み合わせる。
d)化学放射線療法ではプラチナ製剤を同時に用いる。
e)化学療法後の放射線療法は生存期間を延長させる。

問題024 子宮頸癌の各組織型で誤っているのはどれか。
a)腺癌は扁平上皮癌に比し放射線感受性が低い
b)小細胞癌は腺扁平上皮癌に比し予後不良である。
c)すりガラス細胞癌は扁平上皮癌に比し予後不良である。
d)扁平上皮癌で角化型は非角化型に比し予後不良である。
e)腺癌のうちvilloglandular adenocarcinomaは予後良好である。

問題025 子宮頚部の上皮内腺癌で誤っているのはどれか。
a)子宮頚部細胞診が診断に有用な場合がある。 
b)コルポスコピーで病変の拡がりを評価できない。
c)円錐切除で断端陰性であれば残存病変はない。
d)リンパ節転移は認められない。
e)妊孕能温存は可能である。

問題026 子宮内膜増殖症で正しいのはどれか。
a)子宮体癌取り扱い規約で4 種類に分類されている。
b)異型増殖症の内膜細胞診による正診率は90%を超える。
c)異型増殖症では篩状(cribriform pattern)の腺管増生が著しい
d)異型増殖症が腺癌へと進展する割合は約5 %である。
e)異型増殖症と腺癌との鑑別にMRI検査が有用である。

問題027 単純型子宮内膜増殖症で正しいのはどれか。
a)間質量が著しく減少している。
b)腺は分泌期内膜腺に類似する。
c)腺細胞に極性の乱れが目立つ。
d)腺の拡張が認められる。
e)大型の核小体が目立つ。

問題028 子宮内膜異型増殖症に対する酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)療法で正しいのはどれか。
a)更年期以降の患者が適応となる。
b)効果は経腟超音波検査で観察する。
c)間質には脱落膜様の変化がみられる。
d)奏効率は約20%である。
e)完全消失例で再発は稀である。

問題029 子宮内膜異型増殖症に用いる酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)の副作用で誤っているのはどれか。
a)脳梗塞
b)心筋梗塞
c)肺塞栓症
d)肝機能障害
e)末梢神経障害

問題030 ポリープ状異型腺筋腫(atypical polypoid adenomyoma)で誤っているのはどれか。
a)閉経前の女性に好発する。
b)発生部位で最も多いのは子宮底部である。
c)腺癌の筋層浸潤と鑑別が必要である。
d)扁平上皮化生を伴うことが多い。
e)腺癌への進展例が報告されている。 

―――――――――――――――――――――――――

解答例 (誤答の場合は御指摘ください)

問題021 TNM分類(取り扱い規約、1997年)で正しいのはどれか。
a)TX - 原発腫瘍を認めない。
b)TO - 浸潤前癌
c)NX - 所属リンパ節に転移を認めない。
d)N1 - 所属リンパ節に転移を認める。
e)MO - 遠隔転移の検索が行われていない。

解答)d

TX 原発腫瘍の評価が不可能
T0 原発腫瘍を認めない
Tis 浸潤前癌
NX 所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
MX 遠隔転移の評価が不可能
M0 遠隔転移なし

******

問題022 子宮頚癌の臨床進行期と治療法の組み合わせで誤っているのはどれか。
a) 0 期 - レーザー円錐切除術
b)Ⅰa1期 - 単純子宮全摘出術
c)Ⅰa2期 - 子宮頸部円錐切除術
d)Ⅰb1期 - 広汎子宮全摘出術
e)Ⅲb期 - 化学放射線療法

解答:c

c)Ⅰa2期 - 広汎子宮全摘出術

******

問題023 子宮頸癌の治療で誤っているのはどれか。
a)広汎子宮全摘出術では症例によっては卵巣温存が可能である。
b)広汎子宮全摘出術で傍大動脈節郭清の治療的意義は不明である。
c)放射線療法では全骨盤照射と腔内照射を組み合わせる。
d)化学放射線療法ではプラチナ製剤を同時に用いる。
e)化学療法後の放射線療法は生存期間を延長させる。

解答:e

Neoadjuvant Chemotherapy(NAC)後の放射線治療については、メタアナリシスの結果、その効果が否定的な結論となったため、最近は、試みられなくなっている。

******

問題024 子宮頸癌の各組織型で誤っているのはどれか。
a)腺癌は扁平上皮癌に比し放射線感受性が低い
b)小細胞癌は腺扁平上皮癌に比し予後不良である。
c)すりガラス細胞癌は扁平上皮癌に比し予後不良である。
d)扁平上皮癌で角化型は非角化型に比し予後不良である。
e)腺癌のうちvilloglandular adenocarcinomaは予後良好である。

解答:d

d)角化型、非角化型の分類と予後との関連は少ないと考えられている。

e)villoglandular adenocarcinoma:肉眼的には頚管内に小乳頭状の腫瘍として観察される。長く細い茎を有する絨毛状構造を特徴とする。上皮細胞の異型は軽度で浸潤は浅い。経口避妊薬との関連性が指摘されている。若い人に多く、予後は良好とされている。円錐切除や単純性子宮全摘出術が推奨される。

******

問題025 子宮頚部の上皮内腺癌で誤っているのはどれか。
a)子宮頚部細胞診が診断に有用な場合がある。 
b)コルポスコピーで病変の拡がりを評価できない。
c)円錐切除で断端陰性であれば残存病変はない。
d)リンパ節転移は認められない。
e)妊孕能温存は可能である。

解答:c

円錐切除で断端陰性の症例においても、6~40%程度に病変の残存が証明されたとの報告がある。

上皮内腺癌adenocarcinoma in situ(AIS)
 組織学的に悪性の腺上皮細胞が正常の内頸腺の構造を保ったまま上皮を置換して増殖するが、間質への浸潤を欠くものである。上皮内腺癌は同一腺腔内あるいは一連の被覆上皮内に、非癌円柱上皮と明瞭な境界を形成するという特徴を有する(フロント形成)。診断は円錐切除術かそれに準じた方法で行う。本病変は40~100%と高い確率で扁平上皮の異形成・上皮内癌・微小浸潤癌と共存し、それらの手術摘出検体中に偶然発見されることもある。術前細胞診での診断は困難であることが少なくない。

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問題026 子宮内膜増殖症で正しいのはどれか。
a)子宮体癌取り扱い規約で4 種類に分類されている。
b)異型増殖症の内膜細胞診による正診率は90%を超える。
c)異型増殖症では篩状(cribriform pattern)の腺管増生が著しい
d)異型増殖症が腺癌へと進展する割合は約5 %である。
e)異型増殖症と腺癌との鑑別にMRI検査が有用である。

解答:a

a)単純型子宮内膜増殖症、複雑型子宮内膜増殖症、単純型子宮内膜異型増殖症、複雑型子宮内膜異型増殖症。

c)腺癌では篩状構造をとるが、異型増殖症の場合はそのような構造は示さない。

d)腺癌への進展率:単純型子宮内膜増殖症が1 %、複雑型子宮内膜増殖症が3 %、単純型子宮内膜異型増殖症が8 %、複雑型子宮内膜異型増殖症が29%と報告されている(Kurmanら)。

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問題027 単純型子宮内膜増殖症で正しいのはどれか。
a)間質量が著しく減少している。
b)腺は分泌期内膜腺に類似する。
c)腺細胞に極性の乱れが目立つ。
d)腺の拡張が認められる。
e)大型の核小体が目立つ。

解答:d

単純型子宮内膜増殖症
 細胞異型のない内膜腺の過剰増殖からなり、腺上皮は増殖期内膜腺に類似する。腺の拡張と内膜間質の過剰増殖を伴う。

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問題028 子宮内膜異型増殖症に対する酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)療法で正しいのはどれか。
a)更年期以降の患者が適応となる。
b)効果は経腟超音波検査で観察する。
c)間質には脱落膜様の変化がみられる。
d)奏効率は約20%である。
e)完全消失例で再発は稀である。

解答:c

40歳以下で妊娠を希望する子宮体部類内膜癌Ⅰa期(28例)および子宮内膜異型増殖症(17例)の患者に対し、MPA 600mg/日を連日26週間投与した。CR率は64%であった。CR例の40%が治療後平均13.4ヶ月の間に再発した。(牛嶋公生、日本癌治療学会誌2005)

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問題029 子宮内膜異型増殖症に用いる酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)の副作用で誤っているのはどれか。
a)脳梗塞
b)心筋梗塞
c)肺塞栓症
d)肝機能障害
e)末梢神経障害

解答:e

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問題030 ポリープ状異型腺筋腫(atypical polypoid adenomyoma)で誤っているのはどれか。
a)閉経前の女性に好発する。
b)発生部位で最も多いのは子宮底部である。
c)腺癌の筋層浸潤と鑑別が必要である。
d)扁平上皮化生を伴うことが多い。
e)腺癌への進展例が報告されている。

解答:b

ポリープ状異型腺筋腫(APA)
 ほとんどが閉経前の未経産婦に発症し、不正出血で発見される。定義は「扁平上皮化生を伴う不規則な異型内膜腺の増殖とその周囲を取り囲む平滑筋の密な増殖によって特徴づけられるポリープ状病変」である。粘膜下筋腫と臨床的には区別できないが、病理像で、子宮内膜上皮で構成された大小多数の腺腔が平滑筋束内に分け入って分布する。類内膜癌の筋層浸潤と誤診される場合もある。内膜癌との共存や癌化することもあるが、大部分は良性腫瘍である。


産科医の重点配置

2007年10月06日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地域基幹病院の産婦人科に産科医を重点的に配置して、分娩機能を集約化しようという試みが、全国各地で進行中です。これらの取り組みは、地域の産科施設が全滅してしまう最悪の事態を何とかして回避しようとする緊急避難的措置だと思います。

これらの緊急避難的な取り組みによって、何とか地域産科医療体制の一時的な延命に成功したとしても、集約先の産科施設の業務量は従来よりも劇的に増えてしまうことは確実なので、その集約先施設の産科医や助産師などのマンパワーを大幅に増強する必要があります。さらに、今後も長期的にその増強されたマンパワーの規模を維持し続けなければなりません。

報道記事で行政の分娩施設の集約化構想の内容を読んでみますと、『今、現場で頑張っている産科医達でも、このままでは、辞めて現場からいなくなってしまうかもしれない!』という発想が全く欠如しているように感じます。国全体の勤務産科医の総数がどんどん減っているわけですから、今も現場に踏みとどまって頑張っている産科医達の職場環境はますます悪化し続けてます。いくら新人産科医を増やしても、それ以上に現役産科医が辞めてしまうようでは、全く意味がありません。『今、現場に踏みとどまって、何とか辞めずに頑張っている産科医達が、これから先も辞めないでも済むような方策を考えること!』が最も重要だと思います。

参考:産科・小児科の重点配置を提言 (長野県産科・小児科医療対策検討会)

**** 朝日新聞、北海道、2007年10月5日

産科医を重点配置/道が素案

■地域考慮、24病院に

 深刻な産科医不足のため、道内の産科医療体制の見直しが急務となっている。道は4日、道内の産科病院の「役割分担」に関する素案を公表した。各地域ごとに医師を優先的・重点的に配置する病院を決め、産科医療体制を保つと同時に、産科医を増やすことで、医師の勤務状況改善を進める狙いもある。道は来年度から10年間の道の医療計画に反映させたいとしているが、「重点」からはずれる地域の反発も予想される。

 素案によると、「道央」「オホーツク」など道内の6圏域に1カ所ずつある「総合周産期母子医療センター」となっている病院が、高度・専門医療を担えるように、医師を最優先で配置する。

 これに次いで、面積が広く、人口が多い「道央」「道北」の2圏域では、「地域周産期母子医療センター」に認定された5病院にも重点的に医師を置く。

 これら計11病院から冬場の移動時間が2時間、移動距離が100キロを超える地域の体制整備として、計13病院への医師の配置も優先する。

 一方、NTT東日本札幌病院や道立紋別病院など、すでに同センターに認定されている8病院については、引き続き産科医療体制の維持を図る。また、同センターに認定されているが、分娩(ぶんべん)を休止している市立函館病院など5病院は、再開に向けて医師確保に努める。

 これらの実現に向けて、北大、札幌医大、旭川医大からの派遣に加え、病院間の連携推進や、国の緊急臨時的医師派遣システムなどを活用する――としている。

 産科医の重点配置を進める背景には、このままでは、道内の産科医療体制が崩壊しかねないという危機感がある。

 道内の医師数は、96年の1万279人から04年には1万1490人に増えたが、産科医は439人から395人に減った。地域による偏りも大きく、04年の調べでは札幌圏に44・6%が集中し、過疎地を中心にお産ができない病院・診療所が増えている。

 道はこの素案について、11月上旬まで道民や各地域での意見聴取を実施し、12月に正式案とする方針だ。

 ただ、道が8月に発表した自治体病院の再編構想と同様、「地方切り捨て」との批判が起きる可能性もある。さらに素案に強制力はなく、実現性も不透明だ。素案で医師の配置を優先するとした中には、産科医不在で分娩を中止している市立根室病院も含まれているなど、課題解決には険しい道のりも予想される。

《キーワード》
◆総合周産期母子医療センターと地域周産期母子医療センター
 「総合」は、一定病床数以上の母体・胎児集中治療管理室や新生児集中管理室が整い、24時間体制で産科医が複数、新生児担当医が常時1人勤務している病院。道内は6病院だが、うち釧路赤十字病院と市立札幌病院は国の指定を、他の4病院は道の認定を受けている。「地域」は、24時間体制で産科医と新生児担当医を確保するよう努めている病院。道が25病院を認定している。

   ◇

■道がまとめた産科病院の「役割分担」と該当する病院■=地図参照

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○=【医師配置を最優先・重点的に進め、高度・専門的な医療をする病院】(1)函館中央病院(2)市立札幌病院(3)旭川厚生病院(4)北見赤十字病院(5)帯広厚生病院(6)釧路赤十字病院
□=【面積が広く、人口も多い地域であるため、優先的・重点的に医師を配置する病院】<1>小樽協会病院<2>砂川市立病院<3>王子総合病院<4>苫小牧市立総合病院<5>名寄市立総合病院
白抜きの○=【上記11カ所から、冬の移動時間が2時間、移動距離が100キロを超える地域で、優先的に医師を配置する病院】〈1〉八雲総合病院〈2〉倶知安厚生病院〈3〉岩見沢市立総合病院〈4〉伊達赤十字病院〈5〉市立室蘭総合病院〈6〉浦河赤十字病院〈7〉富良野協会病院〈8〉留萌市立病院〈9〉市立稚内病院〈10〉網走厚生病院〈11〉遠軽厚生病院〈12〉市立根室病院〈13〉町立中標津病院
【産科医療の機能維持を図る病院】カレス・アライアンス天使病院▽北海道社会保険病院▽NTT東日本札幌病院▽手稲渓仁会病院▽深川市立総合病院▽道立紋別病院▽帯広協会病院▽市立釧路総合病院
【将来的に分娩再開を目指す病院】市立函館病院▽道立江差病院▽滝川市立病院▽カレス・アライアンス日鋼記念病院▽旭川赤十字病院

   ◇

■「出産できぬ根室」では・・・
■「評価」一方で妊婦「心配」

 昨年9月から産婦人科医が非常勤態勢となり、出産ができなくなった市立根室病院。市内で唯一、出産できる医療施設だったため、市民は遠方の市町での出産を余儀なくされている。素案は同病院を「産科医療を確保する必要がある」と認定。関係者からは評価する声もあるが、身近に産科医がいないため、市民の不安は依然として解消されていない。

 根室支庁管内で出産可能な医療施設は、町立中標津病院(産科医2人)、町立別海病院(同1人)の2カ所。根室市内からは、それぞれ車で約1時間(約60キロ)と約1時間50分(約100キロ)。素案が示した総合周産期センターで最も近い釧路赤十字病院のある釧路市までは約2時間15分(約130キロ)かかる。

 根室において医師の確保を目指すとした素案について、根室病院の事務局は「産科医療が根室に必要だと認めている。地域の実情を理解してもらえた」と評価する。

 しかし、市民が産科医を求める状況に変わりはない。町立別海病院によると、今年2月、同病院にかかっていた根室市の女性の陣痛が強まり、女性は夫の運転する乗用車で病院に向けて出発。別海町側からも救急車を走らせたが、合流した時には出産していたという。

 根室市から同病院に通う妊娠3カ月の女性(35)は「何かあった時には心配でたまらない」と言う。さらに、同病院では1カ月に対応できる出産は20件前後のため、町民や町内関係者の受診を優先的に受け付けている。女性は「結婚して別海町から根室に来たが、出産を考えて住民票は別海町に残している」。

   ◇

■公立系の54病院医師確保「急務」――道調査

 道が道内の市町村立病院など114カ所を対象に医師の配置状況などをアンケートしたところ、約半数の病院で内科、外科、産婦人科など計152人の医師の確保が緊急に必要だと答えていたことが4日、分かった。道が同日の保健福祉委員会で明らかにした。

 道が8月に、市町村立病院94カ所と公的病院20カ所に医師の勤務状況などについて調査したところ、47%にあたる54病院で緊急に医師の確保が必要な状態だった。

 必要な総数は152人で、内訳は内科が37病院59人、外科が10病院12人、産婦人科が8病院12人、循環器科が7病院11人と続いた。

 緊急に医師を必要とする主な理由は、退職者の補充(22人)、診療態勢の充実(9人)、現員では医師の負担が大きい(8人)、大学の派遣中止(6人)などが挙げられた。

(朝日新聞、北海道、2007年10月5日)

****** 毎日新聞、北海道、2007年10月5日

医師不足:道が産科医優先配置策 10年計画、素案を議会委に報告

 道保健福祉部は4日、医師不足が深刻な産婦人科医の勤務環境を改善するため、高度な胎児・新生児医療に対応できる「総合周産期母子医療センター」認定病院など道内各地域の24病院に新人産科医らを優先的に配置する10年計画の素案を道議会保健福祉委員会に報告した。産科医減少に歯止めをかける緊急対策。年内にスタートさせる。

 道内の産科医数は96年の439人が04年には395人と10%減少し、全国平均の減少率5・9%を大きく上回る。産科医が大学から地方へ「広く薄く」配置され、過酷な勤務実態を知った医学生が産科医を敬遠する悪循環に一因があった。

 新計画では総合周産期センター6病院(道南、道央、道北、オホーツク、十勝、根釧の各圏域に1カ所)に加え、これに準じた地域周産期センター認定病院の一部12病院、センター病院から100キロ離れた地域で産科を維持している道央・根釧の6病院を重点配置先とする。

 05年度から道内3医大と協議を始め、道医療対策協議会で議論を進めてきた。保健福祉部子ども未来推進局の立花理彦医療参事は「今のままでは産科医は減る一方。勤務環境の改善で産科志望者が増え、負の循環を断ち切れれば」と話した。【真野森作】

(毎日新聞、2007年10月5日)

****** 中日新聞、2007年10月4日

6病院の産科、3病院に集約 岐阜「お産難民」防止、年内にも

 岐阜県の羽島市民病院(羽島市)、東海中央病院(各務原市)、白鳥病院(郡上市)の三つの病院の産科が、年内にも近隣の三病院に集約されることが分かった。

 集約先はそれぞれ松波総合病院(笠松町)、中濃厚生病院(関市)、郡上市民病院(郡上市)。六つの病院では現在、常勤の産科医が羽島市民、白鳥、郡上市民の三病院が一人など、いずれも三人以下。常勤医の少ない産科の存在が、緊急時に対応できずに妊婦をたらい回しするなど全国的な「お産難民」問題の温床となっていることから、六病院すべてに産科医を派遣している岐阜大が中心となって打開案をとりまとめ、各病院が受け入れた。

 集約化によって産科自体の数は減るものの、残った産科では常勤医が増えるため「お産難民」の発生防止につながる。また医師一人一人にかかる負担が軽くなることから、出産時の妊婦のリスクが小さくなるメリットが期待できるという。

 三病院のうち、東海中央と羽島市民の両病院は周辺に開業医などが充実、近年は出産件数が減少傾向にある上、岐阜市民病院、県総合医療センター、岐阜大病院(いずれも岐阜市)など高度な医療に対応できる病院もあり、集約が可能と判断した。また郡上市の場合、人口規模などから公的産科サービスの提供は一カ所で可能とされた

 集約後は羽島市民など三病院では出産ができなくなるが、婦人科医一人は常駐し、産前産後を含めた婦人科医療は継続する。

 取りまとめの中心となった岐阜大大学院医学系研究科・医学部地域医療医学センターの今井篤志教授は「安全なお産を第一に考えた。全国的に問題となった妊婦の受け入れ拒否を発生させない母体搬送システムを確立する」と説明。

 岐阜県地域医療対策協議会のメンバーを務める長良医療センター(岐阜市)の川鰭(かわばた)市郎産科医長は「不安を感じるかもしれないが、近隣地域により安全な出産場所が増えるのであればいい動き」と話している。

 六病院のうち羽島市民と郡上市民は市、東海中央は公立学校共済組合、中濃厚生は岐阜県厚生連、白鳥は国保、松波総合は医療法人がそれぞれ運営している。

(中日新聞、2007年10月4日)

*** 医療タイムス、長野、2007年9月27日

伊那中央に分娩機能を集約化

「上伊那地域における医療検討会」

 上伊那地域の公立3病院の院長や自治体担当者らで構成する「上伊那地域における医療検討会」は25日、地域の産科医療の「連携強化病院」である伊那中央病院に分娩機能を集約化することで合意した。今後は地域内での妊婦検診や産褥管理入院体制の連携体制などについて検討を重ね、来年4月の実施にむけて準備を進める。

 会合では、年間約1600件の上伊那地域の分娩を、来年度以降は里帰り出産の制限などで1300件程度まで抑制し、地域の産科医療を保持していくことを確認。その上で、伊那中央病院に分娩を集約することとした。集約化によって、伊那中央病院で年間約1200件、福島病院と助産所、自宅で約130件の分娩を担う。

 また、検討会は分娩集約後の産科医療体制についても協議。妊婦検診については、分娩が集中する伊那中央病院の負担を減らすため、福島病院や産婦人科を標榜する医療機関、助産所などが主に担当。産褥管理入院に関しても伊那中央病院を中心に産婦人科を標榜する辰野総合病院や昭和伊南病院などで分担していくことで合意した。さらに、現在県助産師支援検討会で協議が進んでいることなども踏まえ、産科医療への助産師の関与を組み込んでいく考えだ。来年4月の集約化に向け、今後は上伊那広域連合や地元自治体と、伊那中央病院の産科施設の改修費用などの分担方法や費用捻出などについて、引き続き検討していく。

 伊那保健所の宮澤茂次長は、病院や地元自治体が分娩機能の集約化に合意したことについて「これまで足踏みしていた上伊那地域の産科医療問題が、ようやく解決に向けて一歩踏み出した。これからは住民の理解が得られるよう、各論部分の検討を進めていきたい」としている。

■妊婦の共通カルテを導入へ

 また、会合では、妊婦検診の円滑な実施を目的に、共通カルテを導入することを決めた。これに伴い、10月に伊那中央と昭和伊南病院の産科医と助産師、上伊那医師会、上伊那地区助産師会の代表者でつくる「上伊那地域産科連携体制研究会」を立ち上げ、11月までに共通カルテの具体的な運用方法や産科医療機関における連携などについてまとめる予定だ。

(医療タイムス、長野、2007年9月27日)

****** 信濃毎日新聞、2007年9月26日

妊婦の共通カルテ導入へ 上伊那地域

 上伊那8市町村の福祉担当課長や公立3病院長らでつくる「上伊那地域における医療検討会」は25日、上伊那の産婦人科がある病院や診療所、助産所で、妊婦の共通カルテを導入することで合意した。上伊那のお産は伊那中央病院(伊那市)に集約、妊婦健診や産後の体調変化による入院はできるだけそれ以外で分担するため、妊婦の健康状態など円滑に交換する試みだ。

 上伊那には、民間1病院を含む4病院と、民間3診療所に産婦人科、1病院に婦人科があるが、信大医学部の医師引き揚げなどにより、来年4月以降お産を扱う病院は伊那中央病院と福島病院(箕輪町)だけになる見込み。伊那中央病院の産婦人科外来患者数は8月が1750人で、4月と比べ約2割増。同病院の産婦人科医ができるだけお産に集中できるよう妊婦健診などの分担が急務だった。

 会合で、辰野総合病院(辰野町)の松崎廉院長が、2005年4月から同病院が休止していた妊婦検査を近く再開する方針を明らかにした。昭和伊南総合病院(駒ケ根市)の千葉茂俊院長は、来年4月開設を検討してきた院内助産院について「市内に産婦人科の開業医がおらず、不可能」と述べ、妊婦検査などに協力する姿勢を示した。

 同検討会は10月、伊那中央病院と昭和伊南総合病院の医師と助産師、上伊那医師会と上伊那助産師会の代表者でつくる「上伊那地域産科連携体制研究会」を立ち上げ、産婦人科の病院や診療所、助産所の協力態勢や共通カルテの詳細をまとめる方針。11月には完成させる予定だ。

(信濃毎日新聞、2007年9月26日)

****** 伊那毎日新聞、2007年9月26日

産科連携体制研究会設置へ

上伊那地域における医療検討会(2)

 伊那保健所が主催する「上伊那地域における医療検討会」の第2回会議が25日、駅前開発ビル「いなっせ」であった。産科医療の機能分担を示し、具体的に連携体制の枠組みを検討する「上伊那地域産科連携体制研究会」(仮称)をできるだけ早い時期に設置することを決めた。

 来年4月、昭和伊南総合病院(駒ケ根市)の常勤産科医がいなくなることを受け、上伊那全体で産科体制について検討している。

 機能分担で伊那中央病院(伊那市)、民間病院、助産所などが「妊婦検診」「分娩(ぶんべん)」、出産後、母体が回復するまでの「産褥(さんじょく)管理入院」をそれぞれ受け持つ。分娩は、中病が年間1200件、民間が100件、助産所・自宅出産が30件と想定。

 助産所は伊那市と駒ケ根市の2カ所にあり、出張助産師は2人いる。来年は4施設になる予定で、2、3年後には6施設と見込み、年間100人くらいは対応できるのではないかとみている。

 昭和病院は来年4月以降、信州大学産婦人科からの非常勤医師による妊婦検診をする予定。「院内助産院は事実上、できない」との考えを示したが、引き続き、検討するという。

 新たに設置する産科連携体制研究会では、機能分担の詳細、公立病院間や助産院を含めた共通カルテの導入などを検討する。人選はこれからで、中病、昭和病院、上伊那医師会、上伊那助産師会の医師、助産師らで構成。検討内容は、医療検討会へ提言する。

 医療検討会メンバーは公立3病院長、上伊那医師会長、市町村担当課長ら16人で、6月に第1回会議を持った。

(伊那毎日新聞、2007年9月26日)

****** 長野日報、2007年9月26日

産科医療の連携大枠了承 上伊那地域医療検討会

 県伊那保健所が主催する「上伊那地域における医療検討会」は25日、伊那市の駅前ビルいなっせで第2回会合を開いた。公立3病院や医師会など医療、行政関係者約20人が出席。産科医療の連携体制の大枠を了承し、医師や助産師ら実務者レベルの上伊那地域産科連携体制研究会(仮称)を設置して具体的な連携のあり方を早急に検討していくことになった。

 来年4月から昭和伊南総合病院(駒ケ根市)が産婦人科を休止するのに伴い、上伊那地域の医療機関の機能分担を検討し、妊婦検診、出産、産じょく管理入院の3段階で示した。出産は、里帰り出産を自粛した上で、伊那中央病院(伊那市)が約1200件、民間の福島病院(箕輪町)が約100件、助産所約30件を想定した。

 助産所は2カ所、妊婦の自宅出産を行う出張助産師が2人いるが、日本助産師会県支部上伊那地区は「2、3年のうちに」助産所が6カ所6人に増加し、「年間100例くらいできるようになるのでは」との見通しを示した。

 出産前の妊婦検診は、これら病院や助産所、開業医に加え、お産の拠点となる伊那中央病院の負担軽減が必要として辰野総合病院が「パート医師による検診を検討する余地はある」と実施に前向きな姿勢を示した。伊那中央病院は「(助産師が中心になって妊婦検診を行う)助産師外来も考えたいが、それには助産師の研修も必要」とし早急な対応は難しいとした。

 昭和伊南総合病院の千葉茂俊院長は取材に、来年4月以降の対応について「非常勤の医師で妊婦検診をやりたい。できれば助産師外来もつくりたい」とする一方、院内助産所の開設は「信大との話で来年4月からの開設は無理。ただ、あきらめず開設は検討していく」と述べた。

 検討会は、産科・小児科医療の集約化・重点化を打ち出した県の検討会の提言を受け、地域の実情に応じた対応策を検討する目的で、県の呼び掛けで6月に発足した。

(長野日報、2007年9月26日)

****** 信濃毎日新聞、2007年9月26日

上伊那地区の産科医確保を 知事あてに要望書

 昭和伊南総合病院(駒ケ根市)が来年4月から出産の扱いを休止する問題で、同病院を運営する伊南行政組合(組合長・中原正純駒ケ根市長)は25日、上伊那地区の産科医確保を求める村井知事あての要望書を板倉副知事に提出した。

 中原組合長は、同病院の医師確保を訴えた一方で、県の検討会が上伊那地区で産科医を重点配置する「連携強化病院」に指定した伊那中央病院(伊那市)についても「強化病院である以上、1人でも多く配置してほしい」と求めた。

 また、昭和伊南の休止に伴い、上伊那の市町村が負担し、伊那中央の産科施設増設を検討している-として、県の財政支援を要望。同組合独自に、研修医を対象とした助成制度を検討していることも明らかにした。

 板倉副知事は「医師の確保は県としても全力で取り組んでおり、徐々に芽は出ている」と説明。財政支援については「無い袖は振りにくい。よく考えさせてほしい」と述べた。

(信濃毎日新聞、2007年9月26日)