ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

サイトメガロウイルス(CMV)感染

2011年09月30日 | 周産期医学

Cytomegalovirus: CMV

サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科のDNAウイルスで、どこにでもいるありふれたウイルスであるため結果的にほとんどのヒトが感染する。CMV感染は直接的、間接的なヒトとヒトの接触によって起こり、感染源になりうるものとしては、尿、唾液、鼻汁、子宮頸管粘液、腟分泌液、精液、母乳、涙、血液などが知られている。人類に広く分布し、ほとんどのCMV感染症は不顕性であるが、健常人でも初感染に際して伝染性単核球様の症状を呈する場合がある。主に臨床的に問題となるのは、胎児CMV感染症および免疫不全患者での日和見感染症である。

胎児CMV感染症は、TORCH 症候群(トキソプラズマ、梅毒、風疹、CMV、単純ヘルペスウイルス)のひとつである。先天性CMV感染症あるいは巨細胞封入体症とも呼ばれる。症状は重篤なものから軽症まであり、低出生体重、小頭症、水頭症、脳室周囲石灰化、黄疸、出血斑、肝臓・脾臓腫大、聴力障害、視力障害(脈絡膜炎)、知能障害など多彩である。

感染妊婦検出と児予後改善のための母体CMV抗体スクリーニング検査の有用性については、児障害程度の予測が困難、有効な胎児治療法が確立されていない、ワクチンがない、感染児の90%が無症候性であり治療適応は定まっていない、等の理由によりいまだ結論は出ていない。

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ609 サイトメガロウイルス(CMV)感染については?

Answer

1. 児予後改善のための母体CMV抗体スクリーニング検査の有用性は確立されていないと認識する。(C)

2. 超音波検査で胎児発育不全、脳室拡大、小頭症、脳室周囲の高輝度エコー、腹水、肝脾腫等を認めた場合、胎児感染を疑ってもよい。(C)

3. 母体CMV抗体検査を行った場合の解釈については以下を参考にする。(B)
 1)妊娠初期母体CMV IgG陰性であったものが、妊娠中にIgG陽性になった場合、妊娠中初感染と判断する。
 2)妊娠初期母体CMV IgG陽性(妊娠以前の感染)でも母子感染は起こりうるが、その頻度と胎児への影響は初感染に比し少ない。
 3)母体CMV IgM陽性の場合、最近の感染を疑うがIgM陽性が長期間持続する現象(persistent IgM)が知られているので注意する。

4. 「胎児治療については現時点で確立されたものはない」と説明する。(B)

5. CMV感染胎児は分娩時に心拍パターン異常を示しやすいので注意する。(C)

6. 臍帯血CMV IgM陽性、もしくは生後 2週以内の新生児尿からCMVが同定された場合、胎児感染が起こったものと判断する。(B)

7. 胎内感染児については聴覚の長期フォローアップを専門医に依頼する。(B)


子宮収縮薬による陣痛誘発・陣痛促進に際しての留意点、改訂2011年版

2011年09月28日 | 周産期医学

「産婦人科診療ガイドライン・産科編2011」は子宮収縮薬を使用する場合、本書(子宮収縮薬による陣痛誘発・陣痛促進に際しての留意点、改訂2011年版)の順守を求めている。本書は「産婦人科診療ガイドライン・産科編2011」の一部である。本書中の「CQ」は「産婦人科ガイドライン・産科編2011」中のCQである。

● 子宮収縮薬(オキシトシン、プロスタグランジンF[PGF]、プロスタグランジンE2[PGE2])使用のための適応、使用のための条件、ならびに禁忌

1)子宮収縮薬適応 (表1)

経腟分娩の条件を満たしていて、表1.のような場合(CQ404、405、409、412参照)。

表1. 陣痛誘発もしくは促進の適応となりうる場合

医学的適応
胎児側の因子
 1. 児救命等のために新生児治療を必要とする場合
 2. 絨毛膜羊膜炎
 3. 過期妊娠またはその予防
 4. 糖尿病合併妊娠
 5. 胎児発育不全
 6. 巨大児が予想される場合
 7. 子宮内胎児死亡
 8. その他、児早期娩出が必要と判断された場合

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母体側の因子
 1. 微弱陣痛
 2. 前期破水
 3. 妊娠高血圧症候群
 4. 墜落分娩予防
 5. 妊娠継続が母体の危険を招くおそれがある場合

非医学的適応
 1. 妊産婦側の希望等(CQ405参照)

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2)子宮収縮薬使用(陣痛誘発・陣痛促進)のための条件

1. 子宮収縮薬使用のためのインフォームド・コンセントが得られていること。

2. 子宮収縮薬投与開始前から分娩監視装置が装着されていること。
  PGE2経口錠も同様とする。

3. 子宮収縮薬静脈内投与時、精密持続点滴装置(輸液ポンプ等)が利用できること。

4. 事前に頸管熟化について評価すること。頸管熟化が極端に未熟な場合は、他の方法により頸管熟化を図った後に子宮収縮薬を使用する(CQ412参照)。
ラミナリアあるいはプラステロン硫酸ナトリウム(マイリス?、レボスパ?、アイリストーマ?等)と子宮収縮薬同時併用は行わない。

5. 母児の状態が比較的良好であり、子宮収縮薬使用中は母児の状態の適切なモニターが可能であること。子宮内胎児死亡の場合にも子宮収縮の状態が適切にモニターされること(過強陣痛予防のため)。

6. オキシトシンあるいはPGFを使用する場合にはPGE2錠最終投与時点から1 時間以上経ていること。

7. PGE2を使用する場合はオキシトシンあるいはPGF最終投与時点から1 時間以上経ていること。

8. メトロイリンテル挿入時点から1 時間以上経ていること。

3)子宮収縮薬使用の禁忌

表2に禁忌となる例および慎重投与例を示す。

表2. 子宮収縮薬(オキシトシン、PGF、PGE2)の禁忌と慎重投与 

三薬共通
禁忌
 1. 当該薬剤に過敏症
 2. 帝王切開既往2 回以上
 3. 子宮体部に切開を加えた帝王切開既往
   (古典的帝王切開、T字切開、底部切開など)
 4. 子宮筋全層もしくはそれに近い子宮切開
   (子宮鏡下筋腫核出術含む) 
 5. 他の子宮収縮薬との同時使用
 6. プラステロン硫酸(マイリス?、レボスパ?等)との併用  
 7. メトロイリンテル挿入後1 時間以内
 8. 吸湿性頸管拡張材(ラミナリア等)との同時使用
 9. 前置胎盤
 10. 児頭骨盤不均衡が明らかな場合
 11. 骨盤狭窄
 12. 横位
 13. 常位胎盤早期剥離(胎児生存時)
 14. 重度胎児機能不全
 15. 過強陣痛

慎重投与
 1. 児頭骨盤不均衡が疑われる場合
 2. 多胎妊婦

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オキシトシン
禁忌
 1. PGE2最終投与から1 時間以内

慎重投与
 1. 異常胎児心拍数図出現
 2. 妊娠高血圧症候群
 3. 胎位胎勢異常による難産
 4. 心・腎・血管障害
 5. 帝王切開既往回数1 回
 6. 禁忌にあるもの以外の子宮切開
 7. 常位胎盤早期剥離(胎児死亡時)

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PGF
禁忌
 1. PGE2最終投与から1 時間以内
 2. 帝王切開既往(単回も)・子宮切開既往
 3. 気管支喘息・その既往
 4. 緑内障
 5. 骨盤位等の胎位異常

慎重投与
 1. 異常胎児心拍数図出現
 2. 高血圧
 3. 心疾患
 4. 急性骨盤腔内感染症・その既往
 5. 常位胎盤早期剥離(胎児死亡時) 

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PGE2
禁忌
 1. 子宮収縮薬静注終了後1 時間以内
 2. 帝王切開既往(単回も)・子宮切開既往
 3. 異常胎児心拍数図出現
 4. 常位胎盤早期剥離(胎児死亡時でも)
 5. 骨盤位等の胎位異常

慎重投与
 1. 緑内障
 2. 喘息

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注: ここに記載されている禁忌あるいは慎重投与の対象は主に胎児が生存している場合を想定している。したがって、常位胎盤早期剥離で示したように胎児死亡時には異なった基準が考慮され、禁忌対象への子宮収縮薬使用があり得る。しかし、このような場合にも子宮収縮薬使用のための条件や使用法は順守する。
・ 禁忌対象が増加したので、子宮収縮薬投与の際には本表参照を勧める。
・ 帝王切開既往経腟分娩時にはCQ403参照。

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● 子宮収縮薬使用中に行うこと

1. 母体バイタルサイン(血圧と脈拍数)のチェック
血圧と脈拍数を原則1 時間ごとにチェックする(CQ404参照)。子宮収縮が増強すると血圧が上昇する場合がある。また定期的に内診し頸管の変化を把握する。

2. 子宮収縮と胎児心拍の連続モニター
分娩監視装置を用いて子宮収縮と胎児心拍を連続的モニターする。
PGE2経口錠を使用している場合にも同様とする。トイレ歩行時など、医師が必要と認めた場合に一時的に外すことは可能である(CQ410参照)。

3. 投与量が基準範囲内であることの確認(表4参照)。

4. 増量間隔が適切(最終増量から30分以上経ている)であることの確認

5. 胎児well-beingの確認
 CQ410(分娩監視法)、CQ411(胎児心拍数図読み方・対応)を参考にする。

6. 異常胎児心拍数パターン出現時の適切な対応
 CQ411(胎児心拍数図読み方・対応)を参考に胎児心拍数パターンの正常・異常の判断を行い、異常と判断した場合にはCQ411を参考に適切に対応する。また、子宮収縮薬投与中断の必要性について検討する(CQ408参照)。必要とされた場合にはCQ408を参考に胎児蘇生を試みる。

● インフォームドコンセント

子宮収縮薬を使用する必要性(適応)。手技・方法、予想される効果、主な有害事業(表3を参考にする)、ならびに緊急時の対応などについて、事前に説明し同意を得る。その際、文書での同意が望ましい。

表3. 子宮収縮薬との関連が示唆される主な有害事象

重大な有害事象
 ① ショック
 ② 過強陣痛、子宮破裂、頸管裂傷、微弱陣痛、弛緩出血
 ③ 胎児機能不全

その他の有害事象
 過敏症: 過敏症状
 新生児: 新生児黄疸
 循環器: 不整脈、静脈注射後の一過性血圧上昇・下降
 消化器: 悪心・嘔吐
 その他: 水中毒症状

注:子宮収縮薬と羊水塞栓症の因果関係については否定的である

● 診療録への記録

文書によるインフォームドコンセントを得た場合には、診療録に添付しておく。口頭で同意を得た場合にはその旨を診療録に記載する。母体の血圧と脈拍数、内診所見、子宮収縮、胎児心拍の所見は診療録に記載する。分娩監視装置記録紙は保存する。

● 子宮収縮薬の使用法(表4)

表4 に則して使用する。静脈内投与時にはオキシトシン、PGF いずれにおいても精密持続点滴装置(輸液ポンプ等)を使用し、希釈液は5%糖液あるいは生理食塩水を用いる。増量についてはオキシトシン、PGF いずれにおいても30分以上の間隔をあけた後、必要とされた場合のみ実施する。稀釈倍数(使用する希釈液のオキシトシンあるいはPGF濃度)に関しては独自に設定してもよい。

表4. 子宮収縮薬の使用法

1. オキシトシン:精密持続点滴装置(輸液ポンプ等)を用いる

オキシトシン5単位を5%糖液あるいは生理食塩水500mLに溶解(10ミリ単位/mL)

開始時投与量: 6~12 mL/時間 (1~2 ミリ単位/分)
維持量: 30~90 mL/時間 (5~15 ミリ単位/分)
安全限界: 120 mL/時間 (20 ミリ単位/分)

・ 増量: 30分以上経てから時間当たりの輸液量を6~12mL(1~2ミリ単位/分)増やす
・ 注意点: PGE2錠内服後のオキシトシン点滴静注は最終内服時から1時間以上経た後に開始し、過強陣痛に注意する(CQ412参照)

2. PGF :精密持続点滴装置(輸液ポンプ等)を用いる

PGF 3000μgを5%糖液あるいは生理食塩水500mLに溶解(6μg/mL)

開始時投与量: 15~30 mL/時間 (1.5~3.0 μg/分)
維持量: 60~150 mL/時間 (6~15 μg/分)
安全限界: 250 mL/時間 (25 μg/分)

・ 増量: 30分以上経てから時間当たりの輸液量を15~30mL(1.5~3.0μg/分)増やす
・ 注意点: PGE2錠内服後のPGF 点滴静注は最終内服時から1時間以上経た後に開始し、過強陣痛に注意する(CQ412参照)
気管支喘息、緑内障、骨盤位ならびに帝王切開・子宮切開既往にはPGF を使用しない

3. PGE2(経口)の使用法

1回1錠、次回服用には1時間以上あける、1日最大で6錠まで

・ 注意点: 他の子宮収縮薬同様に投与開始前から分娩監視装置を装着し、投与中は原則連続的モニターを行う。
帝王切開・子宮切開既往ならびに骨盤位にはPGE2を使用しない。
子宮収縮薬静脈投与終了後1時間以内は使用しない。
また、異常胎児心拍パターンを確認したら投与中止とする。


腹壁破裂、臍帯ヘルニア

2011年09月24日 | 周産期医学

Gastroschisis、Omphalocele

出生時に臍帯の中に腸管などの腹腔内臓器が脱出していたり 臍帯の脇から内臓が脱出している状態で、多くは出生前の超音波で診断されるが、出生時に気付かれることもある。

腹壁破裂:
・ 腹壁形成不全に起因し、臍帯は正常に付着するが、その側方に腹壁の欠損を認める。
・ 同部位から腸管が羊水中に脱出し曝露されているため、脱出腸管に壁肥厚や短縮を伴う。
・ 低出生体重児に多い。

Gastroschisis

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臍帯ヘルニア: 臍輪形成不全に起因し、ヘルニア囊内に腸管・肝臓などの脱出臓器が透見される。腹壁破裂との鑑別が必要である。

Omphalocele

Omphaloceleimage

【合併奇形】 心奇形、染色体異常、腸回転異常症や腸閉鎖症などの腸管奇形がみられる。臍帯ヘルニアでは50~80%に合併奇形を有する。心大血管奇形、染色体異常の合併は治療成績に大きく関与する。 腹壁破裂では合併奇形は比較的少ないが、腸管の状態により短小腸となり治療に難渋することもある。

【診断】 出生時の外観で診断は容易である。

超音波検査による出生前診断症例が多い。

Gastroschisisus
腹壁破裂

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Omphalocele_sag_view
臍帯ヘルニア

【治療】
初期治療: 脱出腸管からの熱放散と水分喪失による低体温、脱水、および感染の予防を行うことが重要である。脱出臓器を滅菌ガーゼ、またはドレープで覆い管理する。

手術: 初回手術で臓器を腹腔内に還納させ腹壁を閉じることができる場合(一期的手術)と、何段階かに分けて閉鎖する場合(多期的手術)がある。腹壁閉鎖が安全に可能かどうかは胃内圧、膀胱内圧、呼吸終末二酸化炭素濃度、中心静脈圧などが指標とされるが、明瞭な基準はない。術中の呼吸状態や腹壁の緊張、臓器損傷の可能性の有無により判断される。

多期的手術の場合、人工布を腹壁に縫合固定し臓器を覆い、その後に7日から10日かけて病室で人工布を縫縮し臓器を腹腔内に戻し最終的に全身麻酔下で閉鎖する。


小腸(空腸・回腸)閉鎖症・狭窄症

2011年09月24日 | 周産期医学

small intestinal atresia / stenosis 

【頻度・疫学】

4000~5000分娩に1例といわれる。発生頻度に性差や家族性を認めない。先天性小腸閉鎖・狭窄症では95%が閉鎖症である。十二指腸閉鎖症と異なり、染色体異常や合併奇形を有することは少ない。

約30%は空腸近位部、約20%は空腸遠位部、約15%は回腸近位部、約35%は回腸遠位部に発生する。 閉鎖・狭窄は単発のことが多いが、多発することもある。

【小腸閉鎖の病型】

Ⅰ型(膜様型):粘膜のみで閉鎖。空腸に多い。

Ⅱ型(索状型): 両盲端間が索状物でつながる。

Ⅲa型(離断型): 腸間膜のV字欠損。回腸に多い。

Ⅲb型(離断・特殊型、apple peel 型): 広範囲の腸間膜欠損のために肛側腸管が1本の栄養血管に巻きついている。

Ⅳ型(多発型): 離断型と索状型が混合し連続したもの。

Intestinalatresia_3

【超音波検査による出生前診断】

閉塞部位の上部小腸の拡張所見が認められ、空腸閉鎖では小腸拡張像(嚢胞)が数個確認できるのに対して、より下部の回腸閉鎖では小腸拡張像(嚢胞)が多数描出され蜂の巣状(honey comb pattern)となることが多い。羊水過多の程度は空腸閉鎖の方が強い。 回腸閉鎖では羊水過多が認められないことも多い。最近は出生前に診断されることも多い。

Jejunalatresia
空腸閉鎖、小腸拡張像(嚢胞)が数個確認できる

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Smallintestinalatresia_2
回腸閉鎖、honey comb pattern

※ 小腸拡張像が複数確認でき "honey comb pattern" を呈していれば通常は小腸閉鎖と診断できるが、稀に、クロール漏出性下痢症やヒルシュスプルング病の中でも広範囲無神経節症(全腸型ヒルシュスプルング病)では胎児期には小腸閉鎖と同様の超音波所見を示す。正確な鑑別診断は出生後でないと困難であるが、胎児期の管理は小腸閉鎖と同様である。

【臨床症状】

胎生期

・ 羊水過多: より高位での消化管閉鎖ほど著明である。小腸閉鎖では高位空腸閉鎖で著明な羊水過多を伴うが、回腸閉鎖では羊水過多を伴わないこともある。羊水過多の著明な例では早期産となる傾向がある。

新生児期

閉鎖症では出生後数時間以内に気づかれることが多いが、下位小腸閉鎖では24時間以後に発症することもある.また、狭窄症では乳児期以降に発症することもある。

・ 胆汁性嘔吐: 高位での閉鎖ほど生後まもなくから嘔吐が見られる。

・ 腹部膨満: 下部小腸閉鎖ほど著明である。

・ 胎便排泄異常: 胎便排泄遅延を認めることがある。胎便の便色は、閉鎖の発生が胎生の早い時期であるほど灰白色となる。胎生後期に発生した閉鎖症では暗緑色の正常胎便を排泄することもある。

・ 黄疸遷延(間接ビリルビン優位)

【検査】

・ 腹部単純X線像: 拡張した小腸ガス像

高位空腸閉鎖ではtriple bubble sign、それより下位の閉鎖ではmultiple bubble signがみられる。回腸閉鎖では多数の鏡面形成(step ladder sign)を認める。

Bubble
空腸閉鎖、triple bubble sign

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Ilealatresia
回腸閉鎖、multiple bubble sign

・注腸造影:結腸閉鎖症の有無を知るために行う。多発閉鎖症の有無の確定診断は術中に行われるが、結腸閉鎖の検索は結腸が腹壁に固定されているため術中には困難である。そこで、術前に造影し、結腸閉鎖の有無を確認する。回腸末端まで造影されれば結腸閉鎖は否定できる。また、注腸造影検査は腸回転異常症やヒルシュスプルング病の鑑別にも有用である。小腸閉鎖症では通常結腸は細くmicrocolonといわれるが、胎生後期に発生した閉鎖症では必ずしも細くはない。

【合併症】

・ 合併奇形の頻度は高くない。

・ apple peel 型では、低出生体重児が多く、奇形やDown症を合併することが多い。女児に好発する。

【治療】

・ 経鼻胃管による減圧:下部腸管では十分な減圧ができず穿孔の危険が高くなる。高位での閉鎖ほど胃管での消化管減圧が容易であり、1~2日の待期が可能であるが、回腸閉鎖では減圧が困難であり、出生当日あるいは診断後すぐの手術が必要となることが多い。

・ 輸液:脱水の改善、電解質の補正を十分に行う。

・ 手術: 膜様型では膜様閉鎖物の切除を行い、その他の病型では口側腸管と肛門側腸管の吻合を行う。離断型では拡張腸管のtaperingを行い口径をそろえて吻合する。

短腸症候群: とくに多発型やapple peel 型では残存小腸が短く、消化吸収障害を生じ、術後栄養管理に難渋し、長期にわたり中心静脈栄養を必要とする症例がある。

【予後】 合併奇形のない成熟児の予後は良いが、極低出生体重児、多発閉鎖症を伴うapple peel型や腸管穿孔例の予後は不良である。

****** 参考

胎児消化管閉鎖疾患(食道閉鎖、十二指腸・小腸閉鎖、鎖肛など)[産科編]、 聖隷浜松病院・総合周産期センター周産期科、村越 毅

先天性小腸(空腸・回腸)閉鎖症、慶応義塾大学病院

小腸閉鎖症・狭窄症、MyMed 医療電子教科書


抗リン脂質抗体症候群(APS)

2011年09月23日 | 周産期医学

antiphospholipid antibody syndrome: APS

【抗リン脂質抗体症候群の診断基準】(2006年改訂)

臨床基準:
1. 血栓症
 1回以上の動脈もしくは静脈血栓症の臨床的エピソード。血栓症は画像診断、ドプラ検査、または病理学的に確認されたもの。

2. 妊娠合併症
 a)妊娠10週以降で、ほかに原因のない正常形態胎児の死亡、または、
 b)重症妊娠高血圧症候群、子癇または胎盤機能不全による妊娠34週以前の形態学異常のない胎児の1回以上の早産、または、
 c)妊娠10週以前の3回以上続けての他に原因のない流産

検査基準:
1. ループスアンチコアグラントが12週以上の間隔をあけて2回以上陽性(国際血栓止血学会のガイドラインに沿った測定法による)

2. 抗カルジオリピン抗体(IgG型またはIgM型)が12週以上の間隔をあけて2回以上中等度以上の力価(>40GPL[MPL]、または>99パーセンタイル)で検出される(標準化されたELISA法による)

3. 抗カルジオリピンβ2GP1 抗体(IgG型またはIgM型)が12週以上の間隔をあけて2回以上検出される(力価>99パーセンタイル、標準化されたELISA法による)

※ 臨床基準を1つ以上、かつ検査基準を1つ以上満たした場合、抗リン脂質抗体症候群と診断する。したがって、検査基準を満たしても臨床基準に該当する既往がなければ抗リン脂質抗体症候群とは診断されない。

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・ 健康保険が適用され得る抗リン脂質抗体検査は、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体および抗カルジオリピンβ2GP1 抗体である。

・ 習慣流産患者がこれらのいずれかについて複数回陽性を示せばAPSと診断される。習慣流産患者の3~15%に抗リン脂質抗体が陽性となる。この定義によるAPS患者での流産率は90%であるとする報告もある。

・ 上記リン脂質抗体のいずれかが陽性、かつ以下の既往のいずれかを認めれば、習慣流産の既往がなくてもAPSと診断される。
 a)臨床的血栓症既往(動脈血栓、静脈血栓いずれでも可)
 b)妊娠10週以降の1回以上の胎児死亡
 c)妊娠高血圧腎症重症、子癇または胎盤機能不全による妊娠34週以前の1回以上の早産。
したがって、習慣流産既往歴がなくてもa)~c)のいずれかの既往歴がある場合には抗リン脂質抗体の検査が考慮される。

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【APSにみられる症状】
1.血栓症
 <静脈系>
 血栓性静脈炎、網状皮斑、下腿潰瘍、網膜静脈血栓症、肺梗塞・塞栓症、血栓性肺高血圧症、Budd-Chiari症候群、肝腫大など。
 <動脈系>
 皮膚潰瘍、四肢壊疸、網膜動脈血栓症、一過性脳虚血発作、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、疣贅性心内膜炎、弁膜機能不全、腎梗塞、腎微小血栓、肝梗塞、腸梗塞、無菌性骨壊死など。

2.習慣流産、自然流産、子宮内胎児死亡

3.血小板減少症

4.その他
 自己免疫性溶血性貧血、Evans症候群、頭痛、舞踏病、血管炎様皮疹、アジソン病、虚血性視神経症など。

【APS合併妊娠の管理】
・ APSは、流・死産、FGR、常位胎盤早期剥離、妊娠高血圧症候群を高率に発症する。
⇒胎児well-beingの頻回な評価が必要である。

・ 母体にとって致死的な肺塞栓症を引き起こす静脈血栓症の発生頻度が高い。
⇒たとえ妊娠経過が順調であっても厳重な薬物療法が必要で、妊娠が確認された時点で低用量アスピリン+ヘパリン併用療法などの薬物療法を開始する。

・ APSにおいてアスピリン、ヘパリン、プレドニゾロンなどさまざまな治療が妊娠予後改善に試みられてきた。前方視的無作為試験において低用量アスピリン+ヘパリン併用療法はAPS合併習慣流産患者の初期流産率を減少させるが、別の無作為試験においては低用量アスピリンのみで十分妊娠予後を改善でき、低用量アスピリン+低分子ヘパリンと予後に差を認めない。抗リン脂質抗体陽性の習慣流産患者に対しては、低用量アスピリン(75~100 mg/日)投与もしくは、低用量アスピリン+ヘパリン(5,000~10,000単位/日)併用療法で予後改善が期待できる。メタ分析の結果では低用量アスピリン+ヘパリンの組み合わせにおいてのみ有意に妊娠予後を改善できた。

参考:反復・習慣流産患者の診断と取り扱い


全身性エリテマトーデス(SLE)

2011年09月23日 | 周産期医学

systemic lupus erythematosus

SLEは、自己抗体、免疫複合体による細胞障害、組織障害が全身に及ぶ疾患である。生殖可能年齢の女性が約9割を占め、産科診療上決して稀な疾患ではない。SLEの罹患率は妊孕性のある女性の約500人に1人とされる。

素因をもったヒトに感染、ホルモン、紫外線、薬剤などの環境因子が加わって免疫異常が惹起されるものと考えられる。家族的発症も認められており、HLA-DR2やDR3との関係が報告されている。B細胞のpolyclonalな活性化とT細胞の制御機構の異常が起こり、自己抗体産生にいたる。組織障害性T細胞と産生された自己抗体は免疫複合体を形成し組織障害を起こし、種々の臓器症状を呈する。

診断は妊婦であっても非妊娠時と同様に診断基準に従って診断する。

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【SLE の診断基準】
(アメリカリウマチ協会、1997 年改訂)

1.頬部紅斑:頬骨隆起部上の紅斑

2.円板状紅斑(ディスコイド疹)

3.光線過敏症:患者病歴または医師の観察による

4.口腔内潰瘍:医師の観察によるもので通常無痛性

5.関節炎:二つ以上の末梢関節の非びらん性関節炎

6.漿膜炎
 a)胸膜炎:疼痛、摩擦音、胸水
 b)心膜炎:心電図、摩擦音、心膜液

7.腎障害
 a)0.5g/日以上または3 +以上の持続性蛋白尿
 b)細胞性円柱:赤血球、顆粒、尿細管性円柱

8.神経障害
 a)けいれん
 b)精神障害

9.血液学的異常
 a)溶血性貧血
 b)白血球減少症:4,000/μL未満が2 回以上
 c)リンパ球減少症:1,500/μL未満が2 回以上
 d)血小板減少症:100,000/μL未満

10.免疫学的異常
 a)抗DNA抗体:native DNAに対する抗体の異常高値
 b)抗Sm抗体の存在
 c) 抗リン脂質抗体:抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント陽性、梅毒血清反応偽陽性

11.抗核抗体の検出

観察期間中、経時的あるいは同時に11 項目中4 項目以上存在すればSLE と分類する。

******

【SLE活動性判定基準】
(厚生省自己免疫疾患調査研究班、1985 年)

1. 発熱

2. 関節痛

3. 紅斑(顔面以外も含む)

4. 口腔潰瘍または大量脱毛

5. 血沈亢進(30mm/時以上)

6. 低補体血症(CH50:20U/mL以下、あるいはC3:60mg/dL以下)

7. 白血球減少症(4000/μL以下) 

8. 低アルブミン血症(3.5g/dL以下) 

9. LE細胞またはLEテスト陽性

上記9項目中3項目以上陽性を活動性と判定する。
(感度:95.7%、特異性:94.0%)

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Lupus_facial_rash
顔面(頬部)紅斑

Discoidlupus
円板状皮疹(ディスコイド疹)

Sle3
口腔潰瘍

【妊娠がSLEに与える影響】
 妊娠中一般的には妊娠14週頃までは増悪し、その後は分娩までは軽快し、分娩後に再度増悪する。(中絶後は分娩後と同様に増悪する。)

【SLEが妊娠・胎児に与える影響】
 妊孕率:低下
 流産・早産・死産:増加
 妊娠高血圧症候群(PIH):増加
 胎児発育不全(FGR):増加
 胎児機能不全(NRFS):増加
 母体死亡:増加

【SLE患者の妊娠許可の条件】
・ 免疫抑制剤の併用がなく、プレドニゾロン10mg/日以下で6カ月以上寛解状態にある
・ SLEによる重篤な臓器障害がない
・ ステロイドによる重篤な副作用の既往がない
・ 妊娠・出産・育児に伴う精神的肉体的負担の増大と危険性を十分理解できる
・ 抗リン脂質抗体、SS-A抗体の有無を検査

※ 従来は妊娠・出産はSLEの増悪因子と考えられて、避けることが望ましいと考えられていたが、最近は早期に診断される軽症例や長期寛解例で妊娠出産を希望する例が多くなってきた。一定の基準を設けて妊娠を許可する傾向にある。

【児に対する影響】

a)新生児ループス(neonatal lupus erythematosus: NLE)
・ ループス様皮疹、白血球減少症、血小板減少症などのSLE様の症状がみられる。症状の多くは一過性である。(先天性房室ブロックは非可逆的である。)

・ NLEは、母体血中からの抗SSA-IgG抗体、抗SSB-IgG抗体の移行と関係がある。母体からの移行抗体が消失する生後6カ月頃から症状は徐々に改善する。

Nle1
新生児ループス(NLE)

b)先天性房室ブロック

・ 心房結節、His束などに広範な心筋炎や線維化を生じる結果、房室ブロックを生じる。先天性房室ブロックのほとんどはSSA抗体、SSB抗体を有する母親から生まれるが、頻度は3%以下である。

・ 先天性房室ブロックは出生前に診断可能である。CTGで60bpm以下の除脈で基線細変動がみられない。

・ 先天性房室ブロックの児を妊娠した母親の多くは、妊娠中はSLEの症状は存在しなくてもその30~60%は、将来、自己免疫性の血管障害を呈するとされている。(次回妊娠もハイリスクとして扱う)

【妊娠前に注意すること】
・ 妊娠許可条件を満たしてから、(内科・産科主治医とよく相談して)計画的な妊娠をする。
・ 患者および産科医の認知事項:
 ①SLEの家族発症例あり、子どもがSLE になるリスクが高い。 
 ②流・早産の頻度が高い(とくに抗リン脂質抗体症候群合併例)。 
 ③腎炎悪化の可能性-ステロイドの増量の可能性がある。
 ④SS-A抗体、SS-B抗体陽性母体の4~25%に新生児ループスを認める(ループス様皮疹、先天性房室ブロック、血液検査異常〔白血球減少、血小板減少〕)。

【SLEが悪化した場合の対応】
正常妊娠にみられる諸症状とSLE の症状が類似しているため、鑑別が難しい(全身倦怠感・手足の浮腫・腰痛などの関節痛・息切れ・手のしびれ・皮膚の変化)。
・ SLEの急性増悪を早期に発見:活動性の判定基準項目に注意をはらう。自己抗体の増加(抗2本鎖DNA抗体,抗Sm抗体など)、補体低下(C3,C4,CH50)、汎血球減少、発熱などを指標とする。とくに補体価の低下は重要な指標である。
・ 妊娠高血圧症候群、腎障害の発症予防に努め、増悪に注意する。
・ 胎児発育、妊娠22週以降胎児well-being のチェック。娩出時期を考慮する(胎児・新生児では流・死産、FGR、新生児死亡率が抗リン脂質抗体陽性例ではとくに高い).
・ 抗SS-A 抗体陽性─胎児房室ブロックの有無のチェックする(SS-A/Ro抗体やSS-B/La抗体陽性の際は、胎児完全房室ブロックを発症することがある)

Sle1

【治療】
・ ステロイドの維持量(プレドニゾロン10mg/日以下)を継続投与する。
・ 妊娠許可条件を満たさずに妊娠した場合やSLEが悪化した場合は、ステロイドの増量を行い妊娠を維持させる。プレドニゾロンの維持量が15mg/日を超える場合、流早産や前期破水の率が高くなるため注意を要する。
・ 抗リン脂質抗体が陽性の場合は、抗凝固療法を行う。

【妊娠・分娩時の管理と治療】
一般的注意事項 
 安静を保ち、過労を避ける。 
 日光、寒冷、ストレスなどの増悪因子に注意する。

良好な病態とは、 
 ステロイドの維持量がプレドニゾロンとして、15mg/日以下。 
 腎機能が良好なもの(クレアチニンクリアランス70mL/分以上)。 
 抗DNA抗体陰性─とくにループス腎炎の病状に相関。

Sle2

・ 厳重な管理を要する状態 
 抗リン脂質抗体陽性例(ステロイド・アスピリン療法、へパリン皮下注、血漿交換療法) 
 血清補体価(CH50、C3)の急激な低下や低値の持続例 
 抗DNA抗体陽性例

・ 寛解と再燃を繰り返すため、妊娠がSLEに与える影響は、妊娠前のSLEの活動性の程度により異なる。
・ 妊娠中一般的には妊娠14週頃までは増悪し、その後は分娩までは軽快し、分娩後に再度増悪する。
・ 妊娠初期から高次医療施設への紹介が望ましい。
・ 妊娠の有無で、基本的治療は変化しない。SLEの活動性により、ステロイド量を決定する。
・ ステロイド使用、子宮頸管炎、絨毛膜羊膜炎などの感染に注意し、早産に留意する。
・ SLEは出産後にしばしば増悪する。産褥期にも慎重な管理が必要である。

【予後に関わる合併症】
・ 流・死産、早産などの周産期異常は、健常妊娠の約2倍である。
・ SLE合併の妊娠母体の約40%にSS-A抗体、SS-B抗体を認める。
・ SS-A抗体、SS-B抗体陽性母体の4~25%に新生児ループスを認める(ループス様皮疹、先天性房室ブロック、血液検査異常〔白血球減少、血小板減少〕)。
・ 妊娠による腎炎の悪化に注意する。
・ 出産後の育児ストレスはSLE の悪化をまねくことがあるので、家族の協力が必要である。

【分娩方法】
・ 経腟分娩を原則とする。
・ 実際には合併症のため帝王切開の頻度が高い。

【検査】
・ 血清補体価(CH50):最悪期には低値を示す
・ 腎機能検査:Ccrなど。妊娠継続の可否を決定する
・ 赤血球数:減少、白血球数:減少、リンパ球数:減少、血小板数:減少
・ 抗SS-A抗体価:高値の場合、胎児心機能の精査が必要

【次回妊娠へのアドバイス】
・ 寛解と再燃を繰り返すことが多い
・ 入院は短期間ではすまないことが多い
・ 非妊娠時も経過観察が重要である

****** 問題

全身性エリテマトーデス(SLE)合併妊娠で正しいのはどれか。1つ選べ。

a 妊娠終了後にSLEが自然寛解することが多い。
b 血中補体の測定はSLEの活動性の指標となる。
c 妊娠中は副腎皮質ホルモン剤の投与量を減量する。
d 抗SS-A抗体、抗SS-B抗体陽性例では胎児の先天性心室性期外収縮を発症する。
e 胎児発育不全を合併しない。

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正解:b

****** 問題

全身性エリテマトーデス(SLE)合併妊娠で正しいのはどれか。1つ選べ。

a 妊娠が成立した場合、副腎皮質ホルモン服用を中止する。
b 抗SS-A抗体は胎児心室性期外収縮の原因となる。 
c 胎児発育不全(FGR)を生じやすい。
d SLEの増悪により血清補体価は上昇する。
e 妊娠終了とともにSLEが軽快する。

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正解:c


B群溶血性レンサ球菌(GBS)感染症

2011年09月23日 | 周産期医学

Group B Streptococcus: GBS

厚労省は「平成21年2月27日付け雇児母発第0227001号」において、「妊娠24週から妊娠35週までのGBSに関する検査は標準検査」との見解を示した。

GBSは10~30%の妊婦腟・大便中から検出され、母児垂直感染症(肺炎、敗血症、髄膜炎等)の原因となる。新生児GBS感染症は生後7日未満に発症する早発型と7日以降に発症する遅発型に分類され、いずれも上行性子宮感染、産道感染が関連しており児死亡もしくは後遺症の原因となる。

英国では1000分娩あたり3.6名程度(0.36%)の早発型GBS感染症発症が推定されている。したがって、GBS保菌母体から出生した新生児が早発型GBS感染症を発症するのは2%前後と推定される。

米国では全妊婦に対する検査が勧められている。(ACOG comittee Opinion No.279)

わが国の早発型GBS感染症は欧米に比して少ないと考えられていたが、最近の報告では、わが国においても英国と同様の率で新生児GBS感染症が起こっている可能性が指摘されている。わが国の早発型GBS感染症172例の検討(保科ら、2001)で、死亡19例(11.0%)、後遺症残存例10例(5.8%)と報告されている。

****** 産婦人科治療ガイドライン・産科編2011

CQ603 B群溶血性レンサ球菌(GBS)保菌診断と取り扱いは?

1. 妊娠33~37週に腟周辺の培養検査を行う。(B)

2. 以下の妊婦には経腟分娩中あるいは前期破水後、ペニシリン系薬剤静注による母子感染予防を行う。(B)
 ・ 前児がGBS感染症(今回のスクリーニング陰性であっても)
 ・ GBS陽性妊婦(破水/陣痛のない予定帝王切開の場合には予防投与は必要ない)
 ・ GBS保菌状態について不明の妊婦

3. GBS陽性妊婦やGBS保菌不明妊婦が前期破水した場合(主に早産期)、GBS除菌に必要な抗菌剤投与期間は3日間と認識する。(C)

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(表1)GBS母児垂直感染に用いられる薬剤の用法・用量
(ACOG comittee Opinion No.279 を一部改変)

ペニシリン過敏なし
 ・ ampicillin(ビクシリン)を初回量2g静注、以後4時間ごとに1gを分娩まで静注

ペニシリン過敏症あり
a. アナフィラキシー危険が低い妊婦
 ・ cefazolin(セファメジン)を初回量2g静注、以後8時間ごとに1gを分娩まで静注

b. アナフィラキシー危険が高い妊婦
 GBSがclindamycinやerythromycinに感受性あり
 ・ clindamycin(ダラシン)900mg を8時間ごとに分娩まで静注
 ・ erythromycin(エリスロシン)500mg を6時間ごとに分娩まで静注

 GBSがclindamycinとerythromycinに抵抗性あり
 ・ vancomycin(バンコマイシン)1.0g を12時間ごとに分娩まで静注

注意: ペニシリン投与歴について聴取し、ペニシリン投与後ただちに過剰反応を示した既往のある妊婦はアナフィラキシー危険が高い妊婦と判断する。アナフィラキシー危険が高い妊婦にはGBS培養検査時にclindamycinとerythromycinの感受性検査を行う。米国においてはclindamycin耐性GBSが3~15%、erythromycin耐性が7~25%に上ると報告されている。発熱等があり、臨床的に絨毛膜羊膜炎が疑われる場合は広域スペクトラムを持ち、GBSに対しても効果のある薬剤を用いる。

******

・ 検体採取は一本の綿棒で腟入口部の県債採取後(できれば腟鏡を用いない)、同綿棒もしくはもう一本の綿棒を用いて肛門内あるいは肛門周辺部からも採取することが望ましい。

・ 妊娠初期、中期にはGBS検出を目的とした培養検査を行う必要はない。もし、妊娠中に偶然GBS保菌が判明した場合であっても妊娠中の除菌(抗菌剤による)は必要なく、分娩中のみ抗菌剤を投与する。妊娠中に除菌した場合でも、分娩中の抗菌剤投与を省略するためには33~37週時に再度培養検査を行い、GBS陰性を確認する必要がある。

・ 前児がGBS感染症の場合はGBS陽性として扱い腟培養検査を省略できる。今回の妊娠でGBS陰性が確認されても前児がGBS感染症であった場合には分娩中に抗菌剤を投与する。

・ 培養検査が結果が確認されてない場合、あるいは検査が何らかの理由により行われなかった場合にはGBS陽性として扱う。早産期破水患者において妊娠継続を図る場合があるが、このような場合にGBS陰性となるまでの抗菌剤投与期間について検討した報告がある。入院時にGBS陽性であった33名中、抗菌剤1日間投与で29名(88%)が、2日間投与で32名(97%)、3日間投与で33名(100%)がGBS陰性となった。したがって、早産期前期破水患者においてGBS不明の場合にはGBS陽性として扱い、その除菌のためにはGBS陽性患者分娩時と同様な方法により3日間抗菌剤を投与する。

・ 「スクリーニング実施と陽性妊婦やハイリスク群全例に予防的抗菌剤投与を行っても新生児GBS感染症を絶滅できるわけではない」ことを承知しておくべきである。


円錐切除後妊娠の取り扱い

2011年09月21日 | 周産期医学

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ503 子宮頸部円錐切除後の妊娠の取り扱いは?

Answer

1. 早産ハイリスク群と認識する。(A)

2. 早産徴候(頸管長短縮、子宮収縮等)に注意して管理する。(B)

3. 頸管長短縮例では治療的頸管縫縮術を考慮する。(C)

******

1.の解説 

・ 円錐切除後の妊娠では早産率が8~15%であり、対照群の1.5~3倍と有意に高く、児が低出生体重児となる頻度も約2~4倍増加する。

・ 帝王切開や前期破水が前期破水が増加することも報告されている。

・ 早産率の増加はコールドナイフ法、レーザー法、LEEP法でも差異はなく、切除した頸部組織が大きいほどリスクが高い。レーザーなどによる蒸散法では早産率は増加しないという報告が多いが、増加したという報告もある。

2.の解説

・ 円錐切除後妊娠のうちでも、24週までに頸管長25mm未満であった場合は有意に早産率が高いという報告がある。

3.の解説

・ 円錐切除後妊娠に対する予防的頸管縫縮術に関しては、これを施行してもしなくても早産率の差異はなかったという報告があり、全例に行う必要はない。

・ 頸管長が30mm以上の場合は経過観察とし、頸管長が短縮している場合に頸管縫縮術の適応を考慮する。

・ コールドナイフによる円錐切除後には分娩時に頸管裂傷の頻度が7倍上昇するという報告がある。


心房中隔欠損症(ASD)

2011年09月20日 | 周産期医学

atrial septal defect

【定義】 左右の心房を隔てる心房中隔に欠損孔のあるもの。

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【分類】
二次孔中隔型 secundum type:
 最も多い、先天性心疾患の7~13%、女性に多い(男女比 1:2)
一次中隔型 primum type
静脈洞型 sinus venosus type
冠静脈洞型 coronary sinus type

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【臨床症状と経過】

・ 乳幼児期は無症状

・ 心雑音または学校検診の心電図異常などで発見される。

・ 20代後半より労作性呼吸困難、動悸、息切れ

【臨床所見】
1)理学所見
・ 胸骨左縁第2~3肋間に収縮期駆出性雑音(相対的肺動脈狭窄)
・ Ⅱ音の固定性分裂(呼吸による変動がない)
・ 拡張期中期ランブル(相対的三尖弁狭窄音)

2)胸部X線所見
 左2弓の突出、肺血管造影の増強、右心室拡大

3)心電図所見
・ 正常~右軸偏位
・ 不完全右脚ブロックパターン(IRBBB)

4)心エコー
・ 右心室、右心房の拡大と欠損孔(四腔断面)
・ 心室中隔の奇異性運動

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経食道エコー: 経胸壁エコーでは診断が困難な場合、またカテーテル心房中隔閉鎖術の適応判断のため必須の検査。

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【合併症】
① 肺高血圧症: 多くは思春期以降に生ずる。

② 僧房弁逸脱症: 15~40%に出現

③ 部分肺静脈還流異常症: 9%に合併し多くは静脈洞型に認められる。

【治療】
1)外科治療: 肺高血圧がなく、肺/体血流比≧2.0なら、小児期から思春期の間に手術を行う。乳児期に心不全症状を起こしたものは、その時期に手術を行う。

2)カテーテル閉鎖術: 2006年より我が国でもカレーテル心房中隔閉鎖術が保険適用となり、外科手術と同等の成績をおさめている。経食道エコーによる評価が重要である。

【予後】 自然閉鎖する率は低い。感染性心内膜炎の合併はきわめて稀である。


心室中隔欠損症(VSD)

2011年09月19日 | 周産期医学

ventricular septal defect

【定義】 心室中隔に欠損孔があり、左室と右室の間に交通がある先天性心疾患。先天性心疾患の中で発生頻度が一番高い。

Vsd

【Kirklin分類】
漏斗部欠損(Ⅰ型): 高位欠損。右室流出路の肺動脈弁直下の欠損で、大動脈弁閉鎖不全症を合併しやすい。東洋系人種に比較的多い。

膜性部欠損(Ⅱ型): 中間位欠損。心室中隔の膜性部およびその周辺の欠損で、頻度は最も多い。自然閉鎖の傾向が強い。

流入部欠損(Ⅲ型): 後方欠損。頻度は最も少ない。Down症に合併する頻度の高い心奇形のひとつである。

筋性部欠損(Ⅳ型): 低位欠損。多孔性のことがある。頻度は少ない。自然閉鎖例が多い。西洋人に多い。

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【臨床症状と経過】

・ 小欠損孔: 無症状、ほとんど自然閉鎖。

・ 大欠損孔: 肺血流増加による多呼吸、哺乳不良、体重増加不良、拡大した肺臓脈や左心房が気管圧迫し喘鳴や呼吸困難を呈する。

・ 加齢にともない肺血管抵抗は高値となり、やがて肺血管抵抗が体血管抵抗を凌駕してEisenmenger 症候群となる。

【臨床所見】

1)聴診所見
 ・小欠損孔: 出生数日後から胸骨左縁第3~4肋間に汎収縮期雑音。
 ・大欠損孔: 胸骨左縁第3~4肋間の収縮期雑音、心尖部の拡張期ランブル音、肺高血圧合併例では心雑音は聴取されずⅡ音が亢進。

2)胸部X線所見
 心拡大(左2、3、4弓の突出)、肺血管陰影の増強。

3)心電図所見:
 肺高血圧が合併しなければ左室肥大所見のみ。
 肺高血圧合併により両室肥大所見。
 Eisenmenger化すると右室肥大所見のみ。

4)心エコー
 欠損孔の確認で診断確定、欠損孔の位置、大きさ、負荷所見(左心房、左心室の肥大)、合併心奇形の検索に有用。

Vsdplax

Vsdjetplaxcolour

5)CTおよびMR
 心エコーのみで欠損孔の形態の評価が困難な場合に実施。合併する大血管の異常の評価に有用。

6)心臓カテーテル検査
 肺体血流比、肺血管抵抗の測定を行い、手術適応を決定する。

【内科的治療】

・ 小~中欠損孔:自然閉鎖の可能性が高いため経過観察。

・ 大欠損孔:利尿剤、ACE阻害薬投与。

【外科的治療】 パッチによる欠損孔の閉鎖

・体重増加不良、肺高血圧合併症例では早期に手術。

・容量負荷所見が明らかな場合(肺/体血流比>1.5)は手術適応あり。

・漏斗部欠損症例で大動脈弁の変形を認めた場合にも手術適応。

****** 問題

心室中隔欠損症で可能性のある自然経過はどれか。3つ選べ。

a 自然閉鎖はまれである。
b 小児期を無症状で経過する。
c 乳児期にうっ血性心不全を呈する。
d Eisenmenger症候群になる。
e 感染性心内膜炎の合併はまれである。

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正解:b、c、d

a 膜性部VSDは自然閉鎖が多いが、漏斗部VSDではまれである。

b VSDでは欠損孔が大きくなければ、小児期をほとんど無症状で経過することが多い。

c VSDでは欠損孔の大きい例では、生後1年頃より肺うっ血をきたす。肺高血圧を合併した例では早期にうっ血性心不全を呈することがある。

d 大欠損孔では、肺高血圧をきたしてEisenmenger化することがある。

e VSDでは感染性心内膜炎を合併しやすい。

****** 問題

心室中隔欠損症の乳児にみられる心不全の治療に用いるのはどれか。2つ選べ。

a 補液
b 利尿剤
c 強心剤
d 気管支拡張薬
e プロスタグランジンE1

------

正解:b、c

a 通常補液は必要ない。かえって、過剰な補液は容量負荷を増大させ、心不全を悪化させる。

b 容量負荷を軽減するために利尿剤を投与する。

c 強心剤の投与はよく行われる。

d 気管支拡張薬の投与はVSDによる心不全には無意味である。

e プロスタグランジンE1 薬は動脈管依存性心疾患に投与する。VSDは動脈管依存性心疾患ではない。


妊娠中の水痘感染の取り扱い

2011年09月18日 | 周産期医学

水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus: VZV)の初感染により水痘(varicella)を発症する。神経根に潜んだVZVの再活性化が帯状疱疹(herpes zoster)を起こす。

ほとんどの妊婦は小児期に水痘罹患し抗体を有しており問題ないが、未罹患妊婦が水痘罹患すると非妊時より重症化しやすく、妊娠末期では肺炎の合併が増し、死亡率は2~35%と報告されている。また、VZVは経胎盤的に胎児に移行し、その時期により種々の影響がでる。

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ611 妊娠中の水痘感染の取り扱いは?

Answer

1. 水痘に関して問われたら以下のように答える。
 1)水痘感染既往なく、ワクチン接種歴のない妊婦は、水痘患者との接触を避ける。(A)
 2)妊娠中の水痘感染の場合、妊娠初期では0.55%に、妊娠中期では1.4%に、妊娠末期では0.0%に先天性水痘症候群が認められたとの報告がある。(B)
 3)妊娠前3か月以内に、あるいは誤って妊娠中にワクチン接種をうけた場合、現在までの報告では先天性水痘症候群あるいはワクチン接種に起因する奇形の報告はない。(B)

2. 妊婦に対して水痘ワクチン接種は行わない。(A)

3. 過去2週間以内に水痘患者と濃厚接触(顔を5分以上合わせる、同室に60分以上等)があり、かつ「抗体がない可能性が高い妊婦」においては予防的ガンマグロブリン静注(2.5g~5.0g)を行う。ただし、保険適用はない。(C)

4. 感染妊婦には母体重症化予防を目的としてアシクロビルを投与する(有益性投与)。(C)

5. 母親が分娩前5日~産褥2日の間に発症した例では以下の治療を行う。
 ・ 母体にアシクロビル投与(B)
 ・ 新生児へのガンマグロブリン静注(B)
 ・ 児が発症した場合は児へのアシクロビル投与(B)

6. 入院中母親が発症した場合、他の妊婦への感染に配慮し個室管理等を行う。(C)

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(表1) 先天性水痘症候群の主な症状(文献※)より引用)

1)感覚神経の障害
 皮膚症状:皮膚の瘢痕、色素脱出

2)視覚原器の障害
 小眼球症
 網脈絡膜炎
 視神経萎縮

3)頸髄と腰仙髄の障害
 四肢の低形成
 指趾の無形成
 運動・知覚障害
 深部腱反射の喪失
 瞳孔不同・ホルネル症候群
 肛門括約筋・膀胱括約筋の機能障害

4)中枢神経系障害
 小頭症
 水頭症
 脳内石灰化

5)その他
 低出生体重児
 体重増加不良

※)中野貴司:水痘の母児感染と対策.産婦人科治療.2005:600-604

******

【病原体】 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV) 

【感染経路】 空気感染と水疱内容物の接触感染。

【潜伏期間】 水平感染では接触後14~16日、垂直感染では妊婦の症状出現後9~15日。

妊婦に帯状疱疹がでることもあるが、帯状疱疹を発症した妊婦からは一般的にVZVは垂直感染しないとされている。

【症状】 38℃台の発熱、倦怠感、食欲不振、皮疹(3~4mm大の紅色疹)。皮疹は紅疹→丘疹→水疱→膿疱→痂皮と変化し、顔面から始まって全身性に広がる。皮疹にはさまざまな段階が混在する、有毛頭部にも出現するなどの特徴がある。

Varicella1
初期の水痘:紅い点状の小丘疹が出現し、一部露滴状の水疱を形成している。

Varicella2
背中一面に水疱が出現

Varicella3
一部痂皮を形成した状態

【診断】 臨床像から診断可能である。ウイルス学的には、血清VZV-IgM抗体の検出、血清抗体価の上昇、VZV抗原の検出、水疱からのウイルス分離などにより確定できる。

【治療】 
・ 過去2週間以内に水痘患者と濃厚接触(顔を5分以上合わせる、同室に60分以上等)があり、かつ「抗体がない可能性が高い妊婦」においては予防的ガンマグロブリン静注(2.5g~5.0g)を行う。ただし、保険適用はない。

・ アシクロビル(ACV)は水痘に有効である。妊婦水痘では重篤化しやすいことを考慮して、ACV点滴静注(10mg/kgを1日3回)を勧める報告もある。 特に、妊娠末期の感染では母体の重症化、分娩前5日~分娩後2日の罹患では児水痘の重症化のリスクが高いため、ACV投与を考慮する。

・ 水痘ワクチンは生ワクチンのため妊婦への接種は禁忌である。

【母体水痘罹患の児への影響】

・ 先天性水痘症候群(Congenital varicella syndrome:CVS): 妊娠20週以前の罹患では2%に四肢低形成、四肢皮膚瘢痕、眼球異常などが出現する(表1)。その後の多数例の集計では、妊婦が水痘に感染すると、1st trimesterでは0.55%(4/725)に、2nd trimesterでは1.4%(9/642)に、3rd trimesterでは0.0%(0/385)にCVSが認められた。

・ 妊娠20週~分娩21日前までに妊婦が水痘に感染すると、出生した児の9%は水痘に罹患することなく乳幼児期に帯状疱疹を発症する。

・ 分娩前21日~分娩前6日の罹患では、生後0~4日に児に水痘が発症しても母体からの移行抗体のために軽症で済む。

・ 分娩前5日~分娩後2日の罹患では30~40%の児に生後5~10日に水痘を発症し重症化することがあり、死亡率は30%である。このため、この期間に罹患した母親から出生した児に対しては、出生直後の静注用ガンマグロブリン(IVIG):200mg/kg投与と、水痘発症した場合はアシクロビル(ACV)投与が勧められる。

また、妊娠末期に妊婦が水痘を発症した場合、新生児重症化防止目的のために(保険適用はないが)子宮収縮抑制剤を投与し妊娠期間延長を図る場合もある。


パルボウイルスB19(PB19)感染症

2011年09月17日 | 周産期医学

human parvovirus B19

PB19は伝染性紅斑(リンゴ病)、貧血、関節炎の原因ウイルスである。PB19は赤血球系前駆細胞に感染し、赤血球造成を一時的に抑制する(一時的貧血、一過性骨髄無形成発作、transient aplastic crisis)。

妊婦が感染すると経胎盤胎児感染が懸念され、感染した胎児の一部は貧血、胎児心不全、あるいは胎児水腫を示し死亡に至る場合もある。

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ614 パルボウイルスB19(PB19)感染症(リンゴ病)については?

Answer

1. 以下の2点を認識する。(B)
 ・ 同居者のPB19感染は妊婦PB19感染の危険因子である
 ・ 感冒様症状、それに伴う発疹(紅斑)、関節痛等はPB19感染を示唆する

2. 妊婦PB19感染を疑った場合、PB19-IgMを測定する。(B)

3. 妊婦PB19感染の場合、「胎児貧血、胎児水腫、あるいは胎児死亡が約10%に起こり得る」ので、胎児貧血・胎児水腫について評価する。(C)

4. 胎児水腫の原因検索時にはPB19感染を考慮する。(B)

5. 他妊婦への感染防止のために感染妊婦には手洗い・マスク着用を勧める。(C)

6. パルボウイルス感染について表1内容の報告があると認識する。(C)

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(表1) 胎児パルボウイルス感染に関する報告

・ 胎児水腫発症例の9割は母体感染後 8週以内に発症(中央値・3週)

・ 20週未満感染例では20週以降感染例に比し胎児死亡率が高い

・ 胎児水腫の約1/3 が自然寛解する

・ 胎児輸血が予後改善に有効である可能性

・ PB19 感染に起因する諸所見焼失後の児は、非感染児と同等の予後を示す

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[感染経路] 主として飛沫感染。接触感染やまれに輸血、血液製剤による。

単発でも発生するが3~10年ごとの流行もみられる。

成人では70%以上がPB19-IgG抗体をもつとの英国からの報告があるように、成人に達するまでに免疫を獲得している場合が多い。

未感染者中、医療従事者、保健事業従事者、学校、保育所勤務者は感染リスクが高い。

家庭内にリンゴ病患者がいる妊婦の場合は約50%が感染し、リンゴ病が流行している学校に勤務する妊婦では約20%に感染がみられ、リンゴ病流行がみられる地域に居住する妊婦には約6%に感染の可能性があると推定する報告がある。

ヒトのみがPB19の宿主となるので、家畜、ペット等を通じては感染しない。

[潜伏期間・ウイルス血症・症状]

成人がPB19に感染した場合、約4 日ないし10日の潜伏期間の後にウイルス血症となり、その期間は5 日程度持続する。

網状赤血球と血小板、白血球数はウイルス血症と同時期に低下、最低値を認める。一方、貧血はウイルス血症から約3~5日遅れて出現し、ウイルス血症の改善時に最も高度となる。

ウイルス血症のピーク時数日と感染から2週間経ったウイルス血症消失後に特徴的な紅斑や関節痛を示す(二相性症状)。しかし、25%の感染者は無症状であり、50%が風邪症状のみで、典型的なリンゴ病の症状を示す症例は25%にすぎない。

皮疹は頬部、大腿部、腕などに赤い斑点、あるいはまだら模様として出現する。患部は熱感をもち、掻痒感を伴うことがある。直接日光を浴びたり、入浴後に掻痒感は増強する。

Pb19

[感染期間]

発疹の発現する7~10日前のかぜ様の前駆症状期に最もウイルス排泄量が多く、発疹が現れたときにはウイルス血症は終息しており、ウイルスの排泄はほとんどなく感染力はほぼ消失している。

【妊婦感染の診断】 欧米では、妊婦の約0.25~1.0%にPB19感染が起こる。

母体のPB19急性感染の診断には、
①  PB19-IgMの検出、
②  PB19-IgGが4倍以上増加したこと、
③  PB19-DNA を定量または定性する方法、
④ NS1 蛋白またはVP1あるいはVP2を直接測定する方法
などが挙げられるが、①の方法が実際的である。

【胎児感染の診断】 

・ 胎児PB19感染の診断は、羊水中のPB19-DNA あるいは、胎児体液中のPB-19-DNA の証明により行う。

・ 分娩後であれば、臍帯血中PB19-IgMが診断の助けになる。

[胎児への影響]

・ 経胎盤感染が成立すると、胎児の赤芽球系細胞に感染、破壊し高度の胎児貧血をもたらし、胎児は非免疫性胎児水腫(non-immune hydrops fetalis)となる。

・ PB19感染妊婦の約2~10%が胎児水腫を合併する。胎児水腫は母体感染から1~8週間の間(中央値・3週間)に発生し、胎児水腫発生からは数日から数週間で胎児死亡となるか、あるいは自然に軽快する。

・ PB19感染妊婦の3.9%(40/1018)に胎児水腫が発生したが、妊娠32週未満感染例での頻度(4.4%)はそれ以降の頻度(0.8%)に比して高かった。

・ 子宮内胎児死亡は妊娠20週未満感染例で多かった。PB19感染妊婦1343例中、胎児死亡は110例(8.2%)に認められたが、うち98例は20週未満感染例であった。子宮内胎児死亡に至った110症例中、胎児水腫が確認された症例は51例であり、胎児水腫が必ずしも胎児死亡に先行していない可能性もある。

・ 胎児水腫の自然寛解も報告されている。胎児水腫539例の34%自然寛解が認められており、うち66%は5週間以内に、20%が5~8週間で自然寛解した。

・ 重症の胎児水腫の自然寛解は稀であることが示唆されている。

・ 胎児輸血の有効性を示唆している報告がある。

・ 本邦では「胎児腹腔内免疫グロブリン投与」の効果について多施設共同で検討されている。奏功例も報告されているが、まだその有効性については確立されていない。

・ PB19感染の催奇形性については否定されている。胎児感染後の生存例においては、その後の新生児期の問題点は指摘されていない。長期予後・成長予後についても、非感染妊婦から出生した症例と差がないという報告もある。

****** 問題

パルボウイルスB19(伝染性紅斑)感染に関して正しいのはどれか。2つ選べ。

a. B19抗体保有率は約90%である。
b. 母体に感染すると約80%に胎児感染が成立する。
c. 妊娠20週以降の感染で胎児水腫になる例が多い。
d. 胎児水腫による流死産の原因となる。
e. 赤芽系細胞に感染し、胎児貧血となる。

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正解:d、e


成人T細胞白血病(ATL)

2011年09月17日 | 周産期医学

Adult T-cell leukemia

HTLV-1(Human T-cell Leukemia Virus type-1: ヒトT細胞白血病ウイルス1型)は、成人T 細胞白血病(ATL)、HTLV-1 関連脊髄症(HAM)などの重篤なHTLV-1 関連疾患の原因ウイルスであり、母子感染する。

ATL 患者の大多数は、母子感染に起因する成人キャリアからの発症例で占められており、この点、HTLV-1 母子感染予防対策は重要である。ただし、キャリアが将来ATLを発症する確率は必ずしも高いとは言えない。

ATLは現時点で確立された治療法はなく予後不良である。しかし、ATLの発症年齢のほとんどが50歳以上であるので、妊婦自身や妊娠・分娩経過あるいは胎児に対する影響はない。

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ612 妊娠中にHTLV-1抗体陽性が判明した場合は?

Answer

1. スクリーニング検査(ゼラチン粒子凝集法や酵素抗体法)には偽陽性があることを認識する。(A)

2. スクリーニング検査陽性の場合、確認検査(ウェスタンブロット法)を行い、確認検査陽性の場合にHTLV-1 キャリアと診断し、妊婦に結果を伝える。(A)

3. HTLV-1 キャリア本人への告知は特に慎重に行う。(A)

4. 家族への説明可否は、妊婦本人の希望に基づき判断する。(B)

5. HTLV-1 キャリアの場合、経母乳母子感染予防の観点から、以下の栄養方法を選択肢として呈示する。(B)
 1) 人工栄養
 2) 凍結母乳栄養
 3) 短期間(3ヵ月以内)の母乳栄養

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【キャリア診断】

HTLV-1 感染(キャリア)診断は、
① スクリーニング検査(血中HTLV-1抗体測定)、
② スクリーニング検査陽性例に対する確認検査
という2段階の手順を踏む。

スクリーニング検査としては、ゼラチン粒子凝集法(PA法)や酵素抗体法(EIA法)に基づくキットがよく用いられる。しかし、これらの方法には非特異反応による偽陽性が少なからず存在する。

スクリーニング検査で陽性と判定されたら、ウェスタンブロット法(WB法)を用いて確認検査を行う。確認検査陽性であった場合にHTVL-1 キャリアと診断し、妊婦に結果を説明する。家族への説明は妊婦本人が希望した場合にのみ行う。

確認検査であるWB法でも診断がつかず「判定保留」となる例が10~20%いることが知られており、この場合、キャリアの確定診断は困難である。診断のためにPCR法(保険未収載)の結果が参考になることがあるが、これも絶対ではない。こうした女性の中にも、頻度は不明ながらキャリアが存在することが知られている。

【母子感染予防】

HTLV-1 は主に経母乳感染する。低頻度だが、子宮内感染、産道感染もある。長期母乳栄養哺育児への感染率は15~40%と報告されている。

母子感染率低減に有効な方法として以下3法が推奨されている。 

1) 人工栄養
感染Tリンパ球を含んだ母乳が児の口に入らないため、経母乳感染予防には最も確実な方法である。しかし、人工栄養を用いても母子感染率は3~6%あるとされる。これは子宮内感染や産道感染は防止できないためである。

2) 凍結母乳栄養
搾乳した母乳をいったん冷凍(-20℃・12時間)した後に解凍して与える方法である。感染T リンパ球が不活化されるために母子感染予防効果が得られる。

3) 短期間(3ヵ月以内)の母乳栄養
母体からの移行抗体が母乳中に存在するとされる短期間だけ母乳栄養を行い、その後人工栄養を選択する方法である。ただし、中和抗体にも個人差があり、理論的に確実である保障はない。なお、母乳栄養を行う場合には、「その量が少ないほど、また期間が短いほど母子感染率が低下する」ことはほぼ確実である。

【HTLV-1の病原性について】

HTLV-1 感染(主に母子感染)によりキャリアになった成人において、CD4 陽性T 細胞の腫瘍性増殖が起こることがある。これがATL であり、HTLV-1 はATL の原因ウイルスである。

HTLV-1 キャリアからのATL の生涯発症率は3~7%程度と報告され、40歳以上のキャリア約750~2000人の中から1 年に1 人発症してくる。本邦発症者数は約700人/年である。

いったんATLが発症すると、化学療法の治療成績は完全寛解率16~41%、生存期間中央値3~13ヵ月、と極めて予後不良である。

我が国のHTLV-1 キャリア成人数は約108万人と推計されている。キャリア成人の地域分布には特徴があり、沖縄や九州地方でキャリア率が高い。近年キャリア全体に占める他地域在住キャリアが占める割合増加が指摘されている。

HTLV-1 感染経路は、母子感染、血液の移入(輸血、臓器移植、注射)、性交による男性から女性への感染に限られる。針刺し事故によるHTLV-1 感染の可能性はほとんどないとされている。

****** 問題

母乳による新生児感染が重要とされるのはどれか。2つ選べ。

a. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
b. ヒトパピローマウイルス
c. B型肝炎ウイルス
d. 成人T細胞白血病ウイルス
e. インフルエンザウイルス

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正解:a、d


妊娠性掻痒性蕁麻疹様丘疹(PUPPP)

2011年09月13日 | 周産期医学

pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy

PUPPPは、妊娠後半期に発症する蕁麻疹様の丘疹や紅斑で、かなり強い掻痒感があるのが特徴である。主に下腹部にできやすいが、次々に体中に広がり、全身に広がってしまう場合もある。全妊婦の200人に1人程度の発症率で、初産婦に多い。PUPPPの原因は不明である。治療はステロイド外用剤、抗ヒスタミン剤などを使用するが、あまり効き目がないことも多い。PUPPPは分娩の1週間後には消失することが多い。児の健康には影響を及ぼさない。

http://www.skinsight.com/adult/pruriticUrticarialPapulesPlaquesofPregnancy.htm

Puppp

Puppp1

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平日夜間および休日における超緊急帝王切開への取り組み(スライド)

2011年09月11日 | 周産期医学

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第63回日本産科婦人科学会学術講演会 一般演題抄録

【演題名】 平日夜間および休日における超緊急帝王切開への取り組み

【目的】 当院では、平日夜間および休日(時間外)の緊急手術は自宅待機の手術室スタッフを招集して実施している。そのため、時間外では超緊急帝王切開であっても帝切決定から児娩出までに1時間以上かかる例も少なくなかった。そこで、時間外において超緊急帝切の準備が短時間にでき児を安全に娩出するために、院内にいるスタッフを緊急招集して手術を開始するシステム(新システム)を構築し、定期的にシミュレーションによるトレーニングを実施している。新システムの実績について報告する。

【方法】 2003年1月から2010年12月までの8年間に当院で分娩した6496症例の中で超緊急帝切となった症例について、頻度、適応、手術を実施した時間帯、帝切決定から児娩出までの時間などについて調査した。

【成績】 超緊急帝切は計18例で、施行率は0.28%(18/6496)、全帝切例の1.1%(18/1602)であった。適応は重症の常位胎盤早期剥:8例、重症の持続性胎児徐脈:7例、子宮破裂:2例、臍帯脱出:1例であった。麻酔方法別では、全身麻酔が16例、腰椎麻酔が2例であった。36週未満が6例、胎児発育不全が2例、陣痛促進中が2例、リトドリン点滴中が2例、時間外に実施した手術は9例であった。新システム導入後の時間外の超緊急帝切は4例で、いずれの症例でも帝切決定から児娩出までの時間は30分以内であった。

【結論】 当院における超緊急帝切は、関連各科の協力体制により、時間外でも帝切決定から概ね30分以内に児が娩出されている。超緊急帝切の適応疾患は分娩360例に1回の頻度で発生しており、その約半数は時間外に実施されている。各病院の事情に応じて、24時間体制で超緊急帝切に対応するための院内のシステムを整備しておく必要がある。

****** 英文抄録

A System for “Extremely Emergent Cesarean Section” (EECS) on Weekday Nights and Holidays (i.e., off business hours)

Dep. of Obs. & Gyn., Iida Municipal Hospital

YAMASAKI Teruyuki, HORISAWA Shin, MIYAMOTO Tsubasa, HURUKAWA Teppei, MATSUBARA Naoki, ASHIDA Takashi

Objectives: At our hospital, emergent surgery off business hours is carried out by operative staff members called from their homes. Under such a system, it was not uncommon that more than 1 hour elapsed from the decision to perform CS off business hours until delivery of the neonate, even in cases in which EECS was needed. To facilitate quick preparation for EECS and safe delivery of the neonate off business hours, we recently established a system for urgent calling of staff members from inside the hospital to perform EECS and have been periodically conducting simulation trainings based on this new system.

Methods: Of the 6496 women who delivered neonates at our hospital during the 8-year-period from January 2003 to December 2010, those who underwent EECS were investigated as to frequency, indications, time of the day that the operation was performed, time elapsed from the CS decision until delivery of the neonate.

Results: EECS was performed on 18 women, accounting for 0.28% of all women who delivered neonates at our hospital (18/6496) and 1.1% of all CS cases (18/1602). The reason for EEC was premature separation of normally implanted placenta in 8 cases, persistent fetal bradycardia in 7, uterine rupture in 2, and umbilical cord prolapse in 1. General anesthesia was applied in 16 cases and lumbar anesthesia in 2. Gestational age at surgery was less than 35 weeks in 6 cases. FGR had been noted before surgery in 2 cases. Two cases required operation while inducing labor, and 2 while receiving intravenous ritodrine hydrochloride. The operation was performed off business hours in 9 cases. After introduction of the new system, EECS off business hours was carried out on 4 cases, with the time elapsed from the CS decision until delivery of the neonate being 30 minutes or less in all 4 cases.

Conclusion: (1) At our hospital, EECS has been conducted with close linkage among relevant specialties, enabling completion of neonate delivery within 30 minutes after the decision to perform a CS even off business hours. (2) EECS has been needed at a frequency of 1 out of 360 deliveries, and about half of the cases underwent surgery off business hours. (3) It is desirable that each hospital providing obstetrical care establish a system tailored to its own circumstances to deal with the need for EECS on a 24-hour-per-day basis.