ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

県立大野病院事件 公判前整理手続き終了

2006年12月16日 | 報道記事

コメント(私見):

福島県立大野病院で起きた妊婦死亡事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医についての、福島地裁での5カ月間にわたる公判前整理手続きが終わったようです。

争点は以下の3点に絞られたとのことです[(1)については4点が問題となる]。 

(1)胎盤と子宮の癒着を認識した時点で胎盤の剥離を中止すべきだったか否か
 ①癒着した部位やその程度
 ②出血の程度や予見可能性
 ③死亡との因果関係
 ④クーパー(手術用ハサミ)を使用して剥離したことの妥当性

(2)医師法違反にあたるのかどうか
(3)被告の供述の任意性

弁護側は会見で、「医師に対する業務上過失致死事件で、医師の裁量が問われた裁判はこれまでにない。加藤医師に過失はなく、最善を尽くしたので無罪だと確信している」と検察側と全面対決する方針を改めて示したようです。

参考:

日本医学会、声明文

公判概略について(06/7/28)

公判概略について(06/9/23)

公判概略について(06/10/19)

県立大野病院事件についての自ブログ内リンク集

****** 朝日新聞、2006年12月15日

焦点3つに絞る 県立大野病院事件

 大熊町の県立大野病院で女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡し、執刀した産婦人科医加藤克彦被告(39)が業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴された事件の公判前手続きが14日、福島地裁であり、争点は大きく3点に絞り込まれた。公判前手続きはこれで終了し、来年1月26日に初公判が開かれる。

 弁護側によると、地裁側は(1)胎盤と子宮の癒着を認識した時点で胎盤の剥離(はくり)を中止すべきだったか否か(2)医師法違反にあたるのかどうか(3)被告の供述の任意性の3点を争点として認定した。

 さらに、争点の中の胎盤の剥離について、癒着した部位やその程度▽出血の程度や予見可能性▽死亡との因果関係▽クーパー(手術用ハサミ)を使用して剥離したことの妥当性の4点が問題になる、としたという。

 来月の初公判では、検察側、弁護側双方が冒頭陳述を行い、2~5月の4回の公判で、検察側が証人尋問を行う予定。

 検察側は、同院の作山洋三院長や、手術室にいた医師や看護師、子宮の病理鑑定を行った、県立医大の杉野隆講師らを証人申請し、認められたという。

 検察側は、「第1回公判期日以降、主張を明らかにし、事実関係の立証に努めたい」となどとする談話を発表した。

(朝日新聞、2006年12月15日)

****** 毎日新聞、2006年12月15日

大野病院医療事故:「医師は最善尽くした」 弁護側、改めて対決方針

 ◇公判前整理終了

 県立大野病院(大熊町)で起きた医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医、加藤克彦被告(39)の福島地裁での5カ月間にわたる公判前整理手続きが14日終わった。弁護側は会見で、「医師に対する業務上過失致死事件で、医師の裁量が問われた裁判はこれまでにない。加藤医師に過失はなく、最善を尽くしたので無罪だと確信している」と検察側と全面対決する方針を改めて示した。

 争点は6点に絞られ、弁護側は加藤医師の刑事責任を全面的に否定している。癒着胎盤について、「子宮後壁の一部への癒着で、程度も軽かった。はく離を継続しても問題はなかった」と主張。出血は「はく離に伴うものだけではない」と指摘し、手術用はさみの使用は「はく離面の面積を小さくして出血を最少にするため」と説明している。

 また、弁護側は医師法の届け出義務は「異状死の定義があいまい」と指摘し、「加藤医師の供述調書は本人の主張とずれている。文献や医学書が証拠採用されず、検察側が専門的なことを理解しようとする姿勢がみられない」と批判した。

 検察側はこれまでに、癒着の範囲は弁護側の主張より広かったとし、出血もはく離によるものが大部分だと主張しているという。福島地検の片岡康夫次席検事は「来年の公判期日以降において、主張を明らかにし、事実関係の立証に努めたい」とコメントした。

 来年1月の初公判では、検察側、弁護側双方の冒頭陳述が行われる。2回目以降は月1回程度公判が開かれ、検察側が証人申請した手術に立ち会った医師や看護師、病理鑑定をまとめた医師ら計8人への尋問を5月ごろまで行う。その後、弁護側証人の尋問が予定されている。【町田徳丈】

(毎日新聞、2006年12月15日)

****** 読売新聞、2006年12月15日

「子宮摘出」最大の争点

大野病院産婦死亡公判前整理手続き終了

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術を受けた楢葉町の女性(当時29歳)が出血性ショックにより死亡した事故で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(39)の第6回公判前整理手続きが14日、福島地裁であった。地裁側は、大量出血に対する加藤被告の予見可能性など6つの争点を示し、同手続きが終了した。

 加藤被告の弁護団によると、6つの争点は〈1〉出血の部位・程度、それに対する加藤被告の予見可能性〈2〉手術用ハサミを使用するなどして、はく離したことの妥当性〈3〉医師法違反の正否――など。弁護団は「胎盤はく離を中止し、子宮摘出に移らなければならない義務があったかどうか」という点が最大の争点としている。初公判は来月26日。

 起訴状などによると、加藤被告は、胎盤が子宮に癒着し、大量出血する可能性を認識していたにもかかわらず、本来行うべき子宮摘出を行わず、胎盤を無理にはがして大量出血を引き起こしたなどとされる。

(読売新聞、2006年12月15日)

****** 河北新報、2006年12月15日

来年にも結審か 福島・大野病院事件 公判前手続き終了

 福島県立大野病院(大熊町)で帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が失血死し、産婦人科医加藤克彦被告(39)が業務上過失致死罪などに問われた事件の公判前整理手続きで、福島地裁は14日、検察、弁護側と第6回協議を行い、加藤被告が癒着胎盤の手術で、胎盤の剥離(はくり)を続けた行為の妥当性など6点を争点とすることで合意した。

 協議は今回で終わり、初公判は来年1月26日に開かれる。

 ほかの争点は、胎盤の癒着程度や出血の原因、死亡と剥離の因果関係など。弁護側は「胎盤の剥離の継続は産科臨床の常識で過失はない」と主張、剥離を止めて子宮を摘出すべきだったとする検察側と対立している。

 初公判後、検察側の証人尋問が5月ごろまで行われ、弁護側の証人尋問に入る。来年中には結審し、判決が言い渡される見通し。

 起訴状によると、加藤被告は2004年12月17日、同県楢葉町の女性の帝王切開手術を行った際、胎盤と子宮の癒着を確認。無理にはがせば大量出血で女性が死亡する恐れがあるのに、子宮を摘出するなど事故を回避する注意義務を怠り、胎盤をはぎ取って女性を失血死させた。

(河北新報、2006年12月15日)

以下、産科医不当逮捕事件より転載
http://www.yk.rim.or.jp/~smatu/iken/sankafutotaiho/20061214.htm

大野病院医療過誤 争点6項目確定
福島地裁公判前手続き、危険予見性で相違癒着剥離妥当か

<裁判の争点>
1:癒着胎盤の程度、部位
2:手術中の出血の程度、部位
3:女性の死亡と手術との因果関係
4:胎盤剥離の際に医療器具(クーパー)を使ったことの妥当性
5:異状死の際の届出を義務付けた医師法違反の認識
6:捜査段階における加藤被告の供述の任意性


 大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件で、最終の公判前整理手続きとなる第六回協議が十四日、福島地裁で開かれ、手術と死亡との因果関係など六項目の争点が確定した。

 これまでの協議を受けて地裁側が争点を提示し、検察、無罪主張の弁護側が同意した。癒着胎盤というきわめてまれな症状に対する医師の措置の是非が問われることになる。初公判は来年一月二十六日。全国の医療団体などが注目する事件は女性の死亡から二年を経て、舞台を法廷に移す。

 起訴されたのは大熊町・・産婦人科医加藤克彦被告。起訴状によると、加藤被告は平成十六年十二月十七日、楢葉町の女性の帝王切開手術を執刀し、癒着した胎盤をはがし大量出血で死亡させた。女性が異状死だったのに二十四時間以内に警察署に届けなかった。

 弁護団によると、地裁が示した争点は表の通り。特に、癒着胎盤をはがしたことに対する妥当性では検察、弁護側の意見が対立している。検察側は「剥離を中止して子宮摘出手術などに移るべきだった」、弁護側は「出血を抑えるため剥離を続けるべきで、子宮摘出は最終手段」と主張している。

 争点の1-4は剥離の是非がポイント。弁護側は癒着の程度、範囲ともに検察側の認定よりも軽度と見ている。検察側が剥離による出血が多く、女性の死亡を予見できたとみているのに対し、弁護側は剥離行為以外が原因の出血もあり、予見できなかったと反論している。死亡と手術の因果関係では、加藤被告に過失があったかどうかを争う。

 手術ではさみのような医療器具クーパーを使ったことについて検察側は手ではがせなかったために用いたことを問題視したが、弁護側は「剥離の範囲を最小にし、より早く行うために使うことがある」とした。

 5の医師法違反の認識では、検察側は「被告は死体に異状があると認めた」とし、弁護側は「被告に異状死の認識がない」と反論。異状死の基準があいまいで、報告義務は憲法の黙秘権などに反するとしている。

 6の供述の任意性について弁護側は「被告の言い分を聞いてもらえなかった部分がある」としている。加藤被告は捜査段階で、手術による女性の生命への危険を予見できなかったとして容疑を否認している。

 癒着胎盤は、胎児と母体をつなぐ胎盤が子宮内の壁と癒着するケース。出産の後に通常行われる胎盤の除去が難しくなる。一万人に数例の珍しいケースとされ、加藤被告は事件前、執刀経験がなかった。

来年末に結審へ

 協議では後半の進行予定も決まった。来年末には結審する見込み。

 初公判では検察側、弁護側それぞれが冒頭陳述し、証拠書類を調べる。第二回から第五回までは、検察側が請求した証人尋問。手術に立ち会った医師や鑑定医が証言台に立つ。第六回以降は弁護側請求の証人尋問で、鑑定医などの出廷が見込まれる。いずれも午前十時から午後五時まで。

公判日程は次の通り。

初公判=1月26日
第2回=2月23日
第3回=3月16日
第4回=4月27日
第5回=5月25日

 福島地検福島地検の片岡康夫次席検事は十四日、公判前整理手続きの終了について「第一回公判で主張を明らかにし、事実関係の立証に勤めたい」とコメントした。

裁判に全国的注目

 事件発生から初公判までの経緯は左表の通り(省略)。県立病院医師の逮捕や全国の医療団体による抗議声明などを受け、裁判は全国的な注目を集めている。

 女性が帝王切開手術中に亡くなったのは平成十六年末。県は翌年三月に「病院側のミス」と認めた。今年二月、富岡署が「証拠隠滅の恐れがある」などとして加藤被告を逮捕し、県病院局を家宅捜索した。県立病院医師の逮捕は初めて。福島地検は同年三月、加藤被告を起訴した。

 起訴後、日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会が「医療過誤ではない」とする声明を相次いで発表した。

 産婦人科医が不足する地方医療の現状がある一方、医療過誤が刑事事件として立憲されにくい背景もあることも、話題を呼ぶ一因となっている。

(以上、産科医不当逮捕事件
http://www.yk.rim.or.jp/~smatu/iken/sankafutotaiho/20061214.htm
より転載しました。)

****** 福島民友、2006年12月15日

争点7つに絞り込む/大野病院医療事故

 業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた県立大野病院の産婦人科医加藤克彦被告(39)=大熊町下野上=の公判前手続きの第6回協議が14日、福島地裁(大沢広裁判長)であり、争点を7点に絞り込んだ。同日で公判前手続きは終了した。

 争点は(1)癒着胎盤が分かった後の胎盤はく離の中止義務の有無(2)癒着部位と程度(3)出血部位と程度(4)死因と因果関係(5)はく離における手術用はさみ使用の妥当性(6)医師法による異状死届け出義務違反の有無(7)被告医師の供述の任意性。

 検察側は、女性患者の手術に加わっていた医師や看護師、検察側の病理鑑定を行った医師や専門医など11人を証人として申請。これに対し弁護側は、3人の採用を留保、8人に同意した。

 協議後に記者会見した主任弁護人の平岩敬一弁護士は、「胎盤はく離の途中で癒着胎盤が分かった場合、癒着胎盤をまずはく離した対応は医師として正当。これが過失となれば医療行為ができなくなる」と無罪を主張した。

 初公判は来年1月26日。その後は月1度の割合で公判を開き、2月以降は順次、証人尋問を行う予定。

(福島民友、2006年12月15日)