ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

産科勤務医の減少

2007年12月29日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地域の病院の産科勤務医数は予想をはるかに超えるスピードで減少しています。多くの地域基幹病院が相次いで産科部門の閉鎖を余儀なくされています。

各医療圏では、何とかしてこの危機的状況を打開しようと、それぞれ、地域としての対応策を必死になって協議しています。しかし、協議をするたびに次から次へと新たな難問に直面し、頻繁に対応策の全面的練り直しを迫られているような状況です。

個々の医療圏や県レベルの自助努力には限界があり、このままではこの先、各医療圏の産科医療体制がどこまで持ちこたえられるか全くわかりません。

現在の産科医療の危機的状況を打開してゆくためには、根本的には、国レベルの有効な施策による後押しが絶対に必要だと思われます。

****** 信濃毎日新聞、2007年12月28日

産科医、麻酔医の派遣、信大に要請 上田地域広域連合

 国立病院機構長野病院(上田市)の産科医引き揚げ問題で、上田地域広域連合の母袋創一連合長(上田市長)は27日、信大病院(松本市)に産科医、麻酔科医の派遣を要望した。母袋連合長によると、信大病院の勝山努院長は「すぐに派遣するのは困難」と回答した。

 要望に対し勝山院長は、上田小県地域にとって長野病院の産科医、常勤麻酔科医の確保が重要な課題になっているとの認識を示した。その上で、産科医について、全国的に不足している現状では、上田市内の市産院や民間病院の医師が出産の取り扱いを続けやすい状況をつくることがまず重要とした。医師確保のため、開業医に比べ給与水準が低い国立病院系の医師に対し、地元自治体が財政的支援を検討することも必要との提案もあったという。

 長野病院は、産科医の4人全員を派遣している昭和大(東京)が引き揚げ方針を示し、今月3日から新たな出産の受け付けを休止。麻酔科医は、全国的な医師不足を背景に信大が引き揚げ、昨年4月から常勤医がいない状態が続いている。

(信濃毎日新聞、2007年12月28日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月27日

国立長野病院:産科医引き揚げ問題 市長ら知事に協力要請 産科医療崩壊指摘

 ◇地域の産科医療崩壊指摘

 国立病院機構長野病院(上田市)で産科医の引き揚げが求められている問題で、上田地域5市町村でつくる上田広域連合の関係者らが26日、県庁を訪問。連合長の母袋創一上田市長が村井仁知事に、医師確保への協力を求める要望書を提出した。村井知事は「国立病院でさえこうなってしまう事態は深刻。努力させていただく」と述べた。

 要望書では「同病院の産科・婦人科が閉鎖されれば、地域の産科医療態勢の崩壊が避けられない」と指摘。「県がリーダーシップを発揮し、長野病院の医師確保に尽力いただきたい」とした。

 母袋市長は「何としても悪い流れを食い止めるため県にも協力いただきたい」と話した。【神崎修一】

(毎日新聞、長野、2007年12月27日)

****** SBCニュース、2007年12月26日

国立長野病院の産科医引き揚げ問題で母袋市長が知事に要望

 上田市の国立長野病院の産婦人科医師引き揚げ問題で、地元の市町村が、県に医師確保への協力を求めました。

 きょうは県庁で、上田地域広域連合の連合長を務める母袋上田市長が、村井知事に要望書を手渡しました。

 上田市の国立長野病院では、産婦人科の医師4人を派遣している昭和大学が、全員を引き揚げる方針を示しています。

 要望で母袋市長は、「リスクの高い出産を受け入れる地域でただ一つの基幹病院で、閉鎖されると、地域の医療体制は崩壊する」と訴え、医師確保に向けて県の協力を求めました。

 これに対し村井知事は、「本当に参っている、努力するとしか言いようがない」と述べるに留まりました。

 広域連合では、国立病院としての責任を果たすよう、国にも要望を行なうことにしています。

(SBCニュース、2007年12月26日)


医師確保、悩む自治体 類似策で奪い合い

2007年12月25日 | 地域周産期医療

現在は少ない産科医の奪い合いの状況にあり、各自治体であの手この手の対策を講じても、産科医を新たに確保するのは本当に至難の業です。

いくら働く意欲があっても、職場の勤務環境があまりに過酷な状況のまま放置されたら、誰だってその職場での勤務を続けることはできなくなってしまいます。

体力・気力とも充実している働き盛りの中堅産科医達を使い捨てにしているようでは、この国の産科崩壊の問題は永久に解決しないと思います。

****** 毎日新聞、2007年12月25日

医師確保、悩む自治体 類似策で奪い合い

 国の08年度予算案でも重点項目の一つとなった医師不足対策。毎日新聞が先月実施した都道府県調査からは、自治体も医師確保対策に力を入れている現状が浮かぶ。日本における医師の絶対数不足は深刻だ。ドクターバンク、給与優遇、再就業支援……。あの手この手の対策で医師不足は解消できるのか。問題解決のための抜本策はあるのか。現状と課題を追った。【河内敏康、五味香織、鯨岡秀紀】

好条件に“応募ゼロ”も--研究費100万円補助、月給20万円上乗せ…

 「研究費助成!」「国内外での研修が可能!」。医師向け新聞のホームページに掲載された岩手県の「ドクターバンク」の求人広告には、こんな勧誘文句が並んでいる。

 岩手県のドクターバンク事業は、06年12月にスタートした。医師不足に悩む県内の病院や診療所に勤務できる医師を登録する。任期は3年で、うち1年間は有給のまま国内外の大学などで研修できる。3年間で最大100万円の研究費も補助し、かなりの好条件だ。

 さらに県内の医師にダイレクトメールも送ったが、この1年間、応募実績はゼロ。

 県医師確保対策室は「利用しやすいよう制度の見直しを検討中だが、医師の絶対数が少なすぎる」と頭を抱える。

 山梨県も同様の制度を実施しているが、採用はいまだない。昨年9月にドクターバンクを始めた愛知県では、今年10月までに13人を医療機関に紹介したが、医師不足の解消には程遠いのが実情だ。

 埼玉県は、医師確保のため給与面で優遇する策をとる。臨床研修病院が、産婦人科と小児科の後期研修医を医師不足地域に派遣する場合、医師1人当たり月に最大で20万円を給与に上乗せできる支援制度を実施。2病院で6人の産科医を確保することに成功した。

 埼玉県医療整備課は「産科や小児科の勤務医が少ない中、後期研修医は即戦力になる。しかし、各都道府県が同じような医師確保策を実施しているため、限られたパイの奪い合いをしているような状況だ」と嘆く。

少な過ぎる絶対数--各国平均に「14万人不足」

 毎日新聞の調査では、各自治体の医師確保対策予算は急増している。回答のあった46都道府県の合計額は、03年の約22億4000万円と比べ、07年は3倍以上の約74億6000万円になった。各都道府県はこのほか、地方で勤務する医師を養成する自治医大の負担金を年に1億2700万円ずつ支出している。

 だが、医師不足解消の見通しは立っていない。島根県は「専任スタッフ7人で取り組み、02年度以降で29人の医師を招いたが、地方の取り組みには限界がある」と回答した。

 背景には、日本の医師数の少なさがある。経済協力開発機構(OECD)によると、日本の医師数は04年、人口1000人当たり2・0人。加盟30カ国でワースト4だ。各国平均の3・0人に追いつくには約14万人も足りないとの試算もある。国は「地域や診療科によって医師数に偏りがあるのが医師不足の原因」との姿勢だが、医師の絶対数そのものが少ないのが実情だ。

 医療法の医師配置基準は、一般病院では入院患者16人に1人以上、外来患者40人に1人以上。厚生労働省によると、常勤医だけでこの基準を満たす病院は04年度でわずか35・5%。最も医師数が多い東京都でも45・8%にとどまる。非常勤医を含めると83・5%の病院が基準を満たすが、フルタイムで働くわけではない医師もカウントした上での数字だ。しかも、この基準は1948年に定められたものだ。

(以下略)

(毎日新聞、2007年12月25日)


対応「もう限界」

2007年12月23日 | 地域周産期医療

多くの産科施設が相次いで分娩の取り扱いを中止していることにより、分娩取り扱い施設がだんだん残り少なくなってきました。かろうじて何とか生き残って分娩を取り扱っている施設では、地域の妊婦さん達が集中し、業務量が従来と比べて急増しているため、対応はすでに限界に達しているところも少なくありません。

国全体の産科勤務医の総数がどんどん減っているわけですから、今、現場に踏みとどまって、何とか辞めずに頑張っている産科医達の職場環境は、ますます悪化し続けてます。いくら新人産科医を増やしても、それ以上に現役産科医が辞めてしまうようでは、全く意味がありません。『今、現場に踏みとどまって、何とか辞めずに頑張っている産科医達が、これから先も辞めないでも済むような方策を考えること!』が最も重要だと思います。

産科の勤務で一番つらいのは、勤務医の頭数が少ないと、それだけ当直回数が増えてしまうことだと思います。現在は、悪い勤務環境から逃れるために多くの産科勤務医が離職し、残された者の勤務環境がますます悪化するという悪循環に陥っています。

全体の産婦人科医の数が急減し、当分の間は増える見込みがないということであれば、医療圏の枠をとっぱらって分娩施設をセンター化して、当直業務に関わる産科医の(1施設当たりの)頭数を増やして当直業務の負担を減らすしか手はないと思われます。

しかし、例えば、『人口30万人程度のエリアで産科施設をセンター化する』というような構想を、政策によって短期間のうちに実現するのは並大抵のことではありません。少なくとも、この1~2年では絶対に不可能だと思われます。まだ、現状では多くの人々のコンセンサスを得るのは難しいと思います。

最近は産科施設数がどんどん減っていて、一つの医療圏に一つの産科施設を確保することすら、だんだん危うくなりつつありますから、あと5~6年も経過すれば、自然淘汰的に分娩施設数は適正な数に落ち着いていくのではないでしょうか?

****** 信濃毎日新聞、2007年12月22日

波田総合病院の分娩、最多に 周辺の休止影響か 対応「もう限界」

 東筑摩郡波田町の町立波田総合病院が今年扱った分娩件数が21日現在、例年より約100件多い692件に達し、1955(昭和30)年の産科開設以来最多になる見通しであることが分かった。昨年春以降、松本地域の病院が相次ぎ出産扱いを休止した影響が大きいとみられる。

(中略)

 波田総合病院の過去10年は年間500-600件台で推移していた。が、昨年4月に安曇野市の安曇野赤十字病院、今年9月に松本市の同機構松本病院が出産の扱いを休止。妻が波田総合病院で出産した安曇野市の会社員(22)も「安曇野赤十字はお産を休止していると聞いた」と説明した。同病院の産科医は3人。小松竹美事務長によると、分娩の2割を占める帝王切開は産科医2人が必要なため、夜間は当直に加えもう1人を自宅から呼び出している。「これ以上こなせない」と頭を抱える。松本地域では、松本市の相沢病院も、昨年度510件だった分娩が本年度は600件近くに増える見込みだ。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2007年12月22日)

****** 中日新聞、長野、2007年12月3日

県内産科医療 崩壊の危機 住民側の意識改革必要

飯伊に続き松本地域でも 診療分担に理解を

 来年3月以降、県内の産婦人科医約20人が離職し、各地で分べん制限や集約化が進む見通しで、県内の産科医療は危機的状況に陥っている。高い訴訟リスクや日々の激務で、現場の医師も「限界だ」と悲鳴を上げるが、医師数が増えない限り、抜本的解決は望めそうにない。今、医療を崩壊させないために、医療の受け手である私たちができることは何か。(中津芳子)

 「非常に切迫した状況。行政の皆さんにもこの状況をわかっていただきたい」。先月初旬、松本市で開かれた「松本地域の産科小児科検討会」の第2回会合。信州大、県立こども病院などの医師らと、松本地方事務所管内の9市町村長約20人が集まる中、信州大のNICU担当の馬場淳医師らが現場の医師たちの窮状を訴えた。

 県衛生部によると、県内でお産を扱う施設数は49施設(9月現在)。昨年に比べて4件減少した。出産数を制限したり、HPで出産できるか否かを公表するなど、自分たちの医療を守るための対応策をとる病院が増加している。残った勤務医は日々の業務に加え、ギリギリの状態で踏みとどまる若手医師を支える役割を担うなど、負担は増える一方。信大の金井誠医師は「今一番必要なのは、ぎりぎりの状態で頑張っている医師をやめさせない努力」と力を込める。

 医師を追い詰めている要因の一つに、患者側の問題もある。緊急性は認められないのに、仕事や家庭の都合で夜間や休日に受診に訪れる人、定期的に健診を受けない妊婦など、信大にも県内各地から相談が寄せられている。それでいて「待ち時間が長い」などと不平不満をぶつける。「病院がまるでサービス業やコンビニエンスストアのようになっている。医師がやめていく一つの要因」(金井医師)と指摘する。

 さらに、現場の医師が懸念するのが、医療崩壊の危機感が医師や病院関係者の間だけにとどまっていること。検討会の会合で、松本医師会の須沢博一会長は「医療者側からの訴えや説明だけではなく、行政も広報紙などを使って現状を説明してほしい」と求めたが、行政側からの具体的な回答は得られなかった。金井医師は「なぜお産ができなくなったのか、自分たちの地域だけでなく、もっと大きなエリアで考えようという意識を持ってほしい」と訴え、行政の支援を強く求めている。

(中略)

飯田下伊那地域に続き、松本地域でも診療分担を視野に入れた体制作りが進んでいるが、これらは行政の支援と住民の理解が不可欠。男性も女性も医療崩壊寸前の現状を知り、自分に何ができるかを考えることが、今、医療を崩壊させないための方法ではないだろうか。

(以下略) 

(中日新聞、2007年12月3日)


大野病院事件 第11回公判

2007年12月22日 | 大野病院事件

癒着胎盤で母体死亡となった事例

第1回公判 1/26 冒頭陳述
第2回公判 2/23 近隣の産婦人科医 前立ちの外科医
第3回公判 3/16 手術室にいた助産師 麻酔科医
第4回公判 4/27 手術室にいた看護師 病院長
第5回公判 5/25 病理鑑定医
第6回公判 7/20 田中憲一新潟大教授(産婦人科)
第7回公判 8/31 加藤医師に対する本人尋問
第8回公判 9/28 中山雅弘先生(胎盤病理の専門家)
第9回公判 10/26 岡村州博東北大教授(産婦人科)
第10回公判 11/30 池ノ上克宮崎大教授(産婦人科)

第11回公判 12/21 加藤医師に対する本人尋問

【今後の予定】 
1/25 証拠書類の採否を決定、遺族の意見陳述
3/14 論告求刑
5/ 9  最終弁論
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ロハス・メディカル ブログ

 福島県立大野病院事件第11回公判(0)

 福島県立大野病院事件第11回公判(1)

大野事件 第11回公判!【産科医療のこれから】

第十一回公判について
【周産期医療の崩壊をくい止める会】

大野病院事件についての自ブロク内リンク集

****** m3.com 医療維新、2007年12月25日

福島県立大野病院事件◆Vol.6

「異状死の届け出はしなくていい」
医師法第21条で加藤医師への尋問、院長との会話が明らかに
橋本佳子(m3.com編集長)

 大野病院院長:「医療過誤はあったのか」
 加藤医師:「いえ、ありません」
 大野病院院長:「それでは、異状死の届け出はしなくていい」

 福島県立大野病院で、女性が大量出血で死亡したのは2004年12月17日のこと。当日の夜、被告である加藤克彦医師と同病院の院長との間で、こんな会話が交わされたという。加藤医師は、業務上過失致死罪に加えて、異状死の届け出をしなかったとして医師法第21条違反にも問われている。先週末の12月21日に開かれた第11回公判では、加藤医師は、「異状死の届け出対象は医療過誤で、施設長である院長が届け出る」という認識を持っていたと述べた。

加藤医師は当時の厚生省指針に準拠

 この日の公判では、25人分の一般傍聴席を求め、並んだのは63人。午前10時開廷で、午前中は12時まで、午後は1時から3時まで、被告人質問が行われた。

 医師法第21条に基づく異状死の届け出について、加藤医師の認識や院内でのやり取りが明らかになったことが、この日の一番のポイントだ。そのほか、女性の死亡に伴い、被告の加藤医師がどんな心境に陥ったか、また遺族側といかなるやり取りがなされたかなど、当時の様子が語られ、非常に興味深い展開になった(これらの点については、「墓前で自然な気持ちで土下座した」を参照)。

 医師法第21条は、「医師が異状死体を検案した場合は、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と定めている。しかし、何が「異状死体」に当たるのかなど、21条の解釈をめぐっては、日本法医学会や日本外科学会、厚生労働省など様々な団体が異なる解釈を出しており、医療現場は混乱しているのが現状だ。

 加藤医師は、21条について、「事件や事故で死亡した場合や医療過誤で死亡した場合に、施設長である院長が警察に届け出るという認識だった」と語った。ここでいう「医療過誤」とは、「医療準則に反した行為」などを想定したという。加藤医師の頭には、当時の厚生省保健医療局国立病院部が2000年に作成した「リスクマネージメントマニュアル作成指針」が念頭にあった。この指針では、「医療過誤によって死亡又は傷害が発生した場合又はその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う」と記載している。また大野病院の「医療事故防止のための安全管理マニュアル」も、この指針に沿った内容になっている。加藤医師は、大野病院のマニュアルの存在は知っていたものの、内容は読んでいなかった。

「過誤がないなら、届け出はしなくていい」と院長

 手術当日、加藤医師は、異状死の届け出について、院長と2回話す機会があった。1回目は、女性の死亡直後の19時半ごろで、手術室から出た直後、廊下で立ち話をした際だ。加藤医師が「届け出はしますか」と聞いたところ、院長は「届け出はしなくていい」と、「届け出は君の仕事ではないから」というニュアンスで話したという。

 2回目は、22時40分ごろに女性の死亡退院を見送った後、院長と話し合いをした際だ。手術を担当した麻酔科医が同席して、手術の経過を説明するとともに、死亡原因については出血性ショックによる心室細動であると説明した。

 院長は「過誤はあったのか」と質問したが、加藤医師は「いえ、ありません」と答えた。同様の質問をされた麻酔科医も「ありません」と答えた。院長は、「医療過誤がないから、届け出はしなくていい」との趣旨の発言をして、話し合いは終わった。

 その直後、院長は福島県の病院局長との電話で、「過誤ではないから、届け出はしなくていい」という趣旨の話をしていた。その後、12月20日に各診療科部長などが集まった会議の席上でも、「過誤はないと考えられるので、届け出はしなかった」と院長は説明したという。

 医師法第21条に関する証人尋問は、第4回公判で院長に対して行われたのみ。弁護側は、高名な法学者の21条に関する意見書を証拠として出したが、採用はされなかった。それだけに、加藤医師のこの日の証言は重要な意味を持つ。ただ、たとえ院長が「届け出なくていい」と言ったとしても、法律上は「異状死体を検案した医師が届け出る」となっている。また、前述のように「異状死体」の定義は必ずしも明確ではない。加藤医師が21条違反の罪に問われるか否かは、微妙なところだ。

「検察官は何をお聞きになりたいのですか」と裁判長

 そのほか、第11回公判では、裁判長が検察官の尋問のやり方を問題視するという、珍しい場面があったので、触れておく。裁判長の心証がうかがえた場面でもある。

 加藤医師の法廷での証言には、起訴前の取り調べの際の供述調書などと食い違う点が幾つかある。例えば、供述調書では、「胎盤を子宮から剥離する際、クーパーを使用した」としているが、この日は、「クーパーと用手剥離を併用した」と話した。

 その理由を聞かれた加藤医師は、「記載はないが、そういう(クーパーを併用しているという)気持ちで説明した」と話した。検察側は加藤医師の記憶の曖昧さを問題視し、証言の信憑(しんぴょう)性に疑問を投げかけようとしたのか、何度か同じ質問を繰り返したところ、裁判長が「要するに、検察官は何をお聞きになりたいのですか。もうお答えになっているじゃないですか。検察官が思った答えが出ないというだけではないのですか」と制した。

「検察は立証に失敗している」と弁護団

 公判後、午後4時半すぎから開かれた記者会見で、主任弁護人の平岩敬一氏は、「弁護団は、検察は立証に失敗しているとみている。これまでの証人尋問により、検察が主張する用手剥離の中断は、臨床現場では行われていないことが明らかになった」と語った。検察の訴因は、「用手剥離で出血を来した場合は剥離を中断して、子宮摘出に移行すべきである。しかし、用手剥離を継続した。そのことが大量出血を招き、死亡につながった」という点だ。だが、これまで証人尋問を受けた周産期医療の専門家は、剥離の完遂により子宮収縮が期待でき、止血作業もやりやすくなると証言している。

 次回の公判は来年の1月25日。供述調書などの証拠調べのほか、遺族3人(死亡した女性の夫、父、弟)の意見陳述が行われる。

(m3.com 医療維新、2007年12月25日)

****** m3.com 医療維新、2007年12月25日

福島県立大野病院事件◆Vol.7

「墓前で自然な気持ちで土下座した」
加藤医師が事故後の心境や遺族とのやり取りを語る
橋本佳子(m3.com編集長)

 「私を信頼して、受診してくださったのに、亡くなってしまうという悪い結果になったことを本当に申し訳なく思っています。突然お亡くなりになり、本当に私もショックでした。

 亡くなってしまってからは、(女性が)受診したときからのいろいろな場面が頭に浮かんできて、頭から離れない状態になりました。
 
 家族の方には分かっていただきたいと思ってはいるのですが、なかなか受け入れていただくことは難しいのかなと考えています。

 こうすればよかった、他にいい方法があったのかとも思いますが、あの状況でそれ以上のいい方法は思い浮かびませんでした。

 亡くなってしまった現場に私がいて、私がその現場の責任者で、亡くなってしまったという事実があるわけで、その事実に対して責任があると思われるのも、当然のことだと感じています。

 できる限りのことは、一生懸命にやりました。ただ、亡くなってしまったという結果は、もう変えようもない結果ですので、非常に重い事実として受け止めています。申し訳ありませんでした。

 最後になりますけれども、ご冥福を心からお祈りします」

「すみません」とずっと頭を下げていた

 福島県立大野病院事件の第11回公判では、女性の死亡後、被告である加藤克彦医師と、遺族との間でどんなやり取りがあったのか、その詳細が加藤医師本人の口から語られた(公判の概要は、「異状死の届け出はしなくていい」を参照)。前述したのは、弁護士が一連の経過を尋ねた後に、「最後に遺族に対して」とコメントを求めた際、加藤医師が語った言葉だ。

加藤医師の証言を基に、当時のやり取りを再現しよう。

 本事件で、帝王切開手術を受けた女性が死亡したのは、2004年12月17日の19時1分。死亡直後、加藤医師は突然の死亡にかなりショックを受け、茫然として、頭が真っ白になったという。

 手術室にいたスタッフ全員で合掌。その後、腹部の縫合や点滴ラインの抜管、死亡後の処置などを行い、19時30分すぎにやや広めの病室に遺体を運んだ。その後、遺族のほか、それ以外の人も含めて十数人が集まった。最初は沈痛な雰囲気で遺族らは遺体の手を握って、泣いていた。加藤医師は、手術の経過を説明しようと思っていたが、遺族以外の人もいたため、説明を控えていた。

 いろいろな人が加藤医師の前に来たが、中には罵声を浴びせるような人もいた。そのように言う気持ちは当然だとは思いつつも、「この時は、かなりこたえた」(加藤医師)という。その病室にいたのは約1時間。「すみません」と何度も言いながら、ずっと頭を下げている状態だった。

 その後、別室に移り、死亡した女性の夫と、夫妻の双方の両親、病棟の看護師長、助産師が同席し、加藤医師は入院から手術、死亡に至る経過を説明した。

 本件の手術は、14時26分に開始した。術中、輸血用の血液を追加発注し、その到着までに約1時間半ほどかかった。手術中に説明がなかったことを遺族から指摘され、この点については、加藤医師は「説明する余裕がなかったので、申し訳ありません」と謝罪した。家族への説明は約1時間かかった。この説明の際に書いた紙も、コピーして手渡した。

 加藤医師は、死亡原因を知りたいとの考えから病理解剖を勧めたが、「これ以上、体に傷を付けたくない」との理由から断られた。

 その後、加藤医師は、死亡診断書を書いた。「妊娠36週の帝王切開手術で、癒着胎盤があり、出血性ショックを来し、心室細動が起こり、心停止した」という旨を記した。死因については麻酔科医と話し合ったこともあり、あまり迷わずに書いたという。

 遺族が遺体とともに病院を後にしたのは、22時40分ごろ。病院の裏の玄関まで行き、加藤医師をはじめとするスタッフが見送った。「非常に悲しかった。遺族に申し訳ないという気持ちでいっぱいだった」(加藤医師)。

「土下座してくれ」と遺族に言われる

 加藤医師は、死亡した女性の告別式には出席しなかった。病院や県の病院局と話し合った結果だ。女性のことは、ふと頭に浮かんだり、カルテを整理しているときなど、頻繁に考えていたという。

 死亡から約10日後の12月26日、院長、事務長、麻酔科医とともに、加藤医師は女性宅を尋ねた。手術の経過を改めて説明するとともに、「精一杯がんばったけれども、こんな結果になって申し訳ありませんでした」と謝罪した。

 大野病院の事故調査委員会は、翌2005年3月に、事故の調査報告書をまとめている。その際にも遺族に会ったが、「墓前にも報告してくれ。お墓のところで、土下座してくれ」と言われたという。「死亡させてしまったという気持ちが強く、本当に申し訳ないと思い、自然な気持ちで土下座しました」(加藤医師)。

 その後、2006年2月の逮捕前までは月命日の前後の休日に、逮捕後は命日に墓参をしているという。

 女性の死亡直後も、また今でも加藤医師は、「自分の手技に問題があったとは考えていない」としている。それでも、女性の突然の死亡にショックを受け、強い謝罪の気持ちを今に至るまで持ち続けている。

(m3.com 医療維新、2007年12月25日)

****** OhmyNews、2007年12月21日

福島県立大野病院事件、被告医師が経緯を語る

記者:軸丸 靖子

 2004年12月に福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が死亡し、執刀した加藤克彦医師が業務上過失致死と異状死の届け出違反(医師法21条違反)に問われている事件の第11回公判が21日、福島地裁で開かれた。

 今回は、8月の第7回公判で終わらなかった被告本人への尋問の続き。21条違反があったかについて、弁護側は、女性が亡くなってからの医師と病院側の対応を問いただした。

患者死亡後の経緯生々しく

 手術室で女性の死亡が確認されたのは04年12月17日午後7時1分。そのときの心境を問われた加藤医師は、

 「突然亡くなられたので、かなりショックで呆然として頭が真っ白だった。信頼して受診していただいたのに悪い結果になってしまって、本当に申し訳ないと思った」

と話した。

 手術室ではその後、スタッフ全員で合掌。腹部を縫合し、点滴などの管を抜いてガーゼを充填、病室へ戻す準備をした。広めの病室へ運ぶと、女性の家族ら 10数人が入ってきた。死亡に至った経過を説明しようとしたが、目の前に次々にいろいろな人が立ち、罵声を浴びせられることもあって説明できる状態になかったという。

 「かなりこたえた。そう言われるのも当然だろうと思い、1時間くらいはその部屋にいた。(結果的に何も言えず)すみませんと何度も頭を下げていた」(加藤医師)

 その後、別室で女性の夫と双方の両親に経過を説明した。午後2時26分に始まった手術で4時間以上、輸血を待っていた1時間のあいだにも説明がなかったことを家族に指摘されたという。

 加藤医師はその後、死亡診断書を書き、午後10時半過ぎに退院する女性と家族を病院の裏口まで見送った。

 その足で院長室へ向かい、麻酔医とともに、女性の受診から術中死亡までの経緯を説明。胎盤剥離の経過やクーパーの使用についても説明したが、「医療過誤はないから異状死の届け出はしなくてよい」と院長が判断した。手術直後、および数日後にあった院内の会議でも同様の話が出たが、いずれも届け出は不要と言われたという。

 女性の葬儀には、病院と県病院局の判断で参列しないことになったが、数日後に女性の自宅で謝罪した。

 「『お墓で土下座してきてくれ』と言われたので、行った。女性を亡くならせてしまったという気持ちが強く、本当に謝罪したいという思いで自然に土下座した。(その後も)お墓を教えていただいたので、逮捕前までは月命日の前後の休日に行っていた。逮捕後は年1回の命日に行っている」

と語った。

 ただ、女性の死亡に関して医療過誤があったかに関して、医療過誤の定義を問われた加藤医師は、医療準則に反した場合に被害が生じた場合」と明言。この件では準則に反しておらず、医療過誤ではないと考えているとの見解を改めて示した。

「検察は何が聞きたいの?」

 一方の検察側は、応援医師を依頼するときのやりとりや、術中エコーでの所見、クーパー(手術用はさみ)の使い方などについて、過去の尋問ですでに行ったのと同じ問いを繰り返し、加藤医師の証言の揺れや、供述調書と証言の矛盾を突いた。

 特に、癒着した胎盤の剥離にクーパーを用いた考えや使い方については、細かく追及。

 供述調書では「クーパーで剥離した」となっているのに、法廷では「クーパーと指を併用した」となっていることについて、「頭の中に(併用は当たり前という考えが)あったというが、声に出して言ったのか?」「この件については前回の証言で何と答えたか?」と記憶を試すような問いを繰り返したため、弁護団の異議を受けた鈴木信行裁判長が「裁判所としては、それについては答えが出ている」と口をはさむ場面も。

 「要するに、検察官は何をお聞きになりたいんですか? もう答えているじゃないですか」

といさめても「まだ」と食い下がる検察官を

 「(検察が)思った答えが(被告から)出ないというだけじゃないでしょうか」

と制し、傍聴席を驚かせた。

 次回は1月25日で、証拠の採否が決まるほか、女性の家族が意見陳述に立つ予定。

(OhmyNews、2007年12月21日)


産科医不足 地域越えた連携望む

2007年12月20日 | 飯田下伊那地域の産科問題

多くの医療圏で里帰り分娩を制限すれば、医療圏外から里帰り分娩で流入してくる妊婦さんの数が減る一方で、本来なら医療圏外に里帰り分娩で流出する筈だった妊婦さん達も里帰り分娩ができなくなってしまうので、結局、プラス・マイナス・ゼロで地域内の総分娩件数は期待通りに減ってくれない可能性もあります。

県全体の産科勤務医数が急減し、どの医療圏でも必要な医師数を確保できなくて困り果てている状況下で、医療圏間の垣根をどんどん高くして、少ない産科医の争奪戦をしているだけでは、現状の産科勤務医不足の問題はなかなか解決できないと思われます。

それぞれの医療圏内の連携・協力だけではもはや解決できそうにない大きな問題だとすれば、今後、各医療圏の産科医療体制が順次崩壊していく危機を回避するためにも、従来の医療圏の枠を超えて連携・協力していく必要があると思います。

産科の勤務で一番つらいのは、勤務医の頭数が少ないと、それだけ当直回数が増えてしまうことだと思います。現在は、悪い勤務環境から逃れるために多くの産科勤務医が離職し、残された者の勤務環境がますます悪化するという悪循環に陥っています。

全体の産婦人科医の数が急減し、当分の間は増える見込みがないということであれば、医療圏の枠をとっぱらって分娩施設をセンター化して、当直業務に関わる産科医の(1施設当たりの)頭数を増やして当直業務の負担を減らすしか手はないと思われます。

しかし、例えば、『人口30万人程度のエリアで産科施設をセンター化する』というような構想を、政策によって短期間のうちに実現するのは並大抵のことではありません。少なくとも、この1~2年では絶対に不可能だと思われます。まだ、現状では多くの人々のコンセンサスを得るのは難しいと思います。

最近は産科施設数がどんどん減っていて、一つの医療圏に一つの産科施設を確保することすら、だんだん危うくなりつつありますから、あと5~6年も経過すれば、自然淘汰的に分娩施設数は適正な数に落ち着いていくのではないでしょうか?

****** 中日新聞、長野、2007年12月19日

産科医不足 地域越えた連携望む

 急転直下で決まった。「飯田市立病院は来年4月から、産科医が1人減る見込みになりました。地域住民の出産を守るため、里帰りや他地域住民の出産を一部制限します」。市が11月4日、発表した。急を要する重要事項ということで、週明けに持ち越さず日曜日の会見で、牧野光朗市長や千賀脩院長らが顔をそろえた。

 飯田下伊那地域では以前から産科医不足が深刻で、出産できる医療機関は市立病院と2つの開業医だけ。医師5人の市立病院に出産約1000件を集中させ、開業医で妊婦検診を担う連携システムを構築していた。

 「ギリギリの状態」(産科医)ながら、従来の年間約1600件出産を維持。全県的にもモデル的な取り組みとして注目されていた。

 ことし8月の段階では、この秋にも信州大から市立病院に医師1人が派遣されて増員。来年4月からは、常勤産科医がいなくなる松川町の下伊那赤十字病院に派遣する構想も浮上していた。

 正直、なんて頼もしい地域だろうと思っていた。

 ところが、上伊那地域における産科医不足の進行が、飯田下伊那にも暗雲をもたらした。予定していた医師は結局、伊那市の伊那中央病院に配属。ある産科医は「飯伊は順調と言っていたせいだ」と悔しがった。

 上下伊那とも危機的状況に変わりはない。飯伊で取材をしていて残念だったのは「上伊那は上伊那で、下伊那は下伊那で」という繰り返し聞いた言葉。

 出産を取り巻く現場はじわりじわり侵食され、厳しい現実に地域の境などない。しかし、行政や医師らが対策を協議する会議室には明確な境界線がある。

 地域を担う人たちが、その地域の医療を優先したい思いは理解できる。ただ、不便を強いられる妊婦のことを真っ先に考えるべきではないだろうか。

 今、多くの自治体が施策に「子育て支援」を掲げている。出産に対する支援とは別なのか。疑問がわいてくる。そして悲しい。

 産科医不足は上下伊那に限ったことではない。どこも制限によって地域の出産を乗り切ろうとしている。各機関の事情はあるかもしれないが、事態が悪化する可能性もある。

 産科医が急激に増えることが見込めない中で、境界線ととらえる視野をより広くもち、上下伊那が互いに手を取り合った”伊那谷連携モデル”は目指せないのだろうか。

 新たな命の誕生のためにも。【石川才子】

(中日新聞、長野、2007年12月19日)


漢方の脈診法

2007年12月17日 | 東洋医学

脈診とは動脈の拍動を触知して診断に役立てる方法である。

現代の日本漢方の脈診では、橈骨動脈拍動部を所見としてみる。患者の橈骨茎状突起の内側の拍動部位に中指(この部が関上)を、それに接して、示指(この部が寸口)、薬指(この部が尺中)を置く。一般的には、と呼ぶことが多い。

Myakusin

以下、「学生のための漢方医学テキスト」(日本東洋医学会学術教育委員会)より抜粋

●代表的な脈の所見

健康者の脈を平脈という。

①脈の深さ: ←→

・浮脈:皮下に血管が浮いているようで、指を軽く当てるだけで、すぐにはっきりと触れる脈 。 

・沈脈:指を軽く当てただけでは拍動を触れず、強く圧迫してはじめて触れる脈。

②脈の強さ: ←→

・実脈:力のある脈。按圧している指を力強く押し返してくる脈であり、強く按圧しても消失しない。

・虚脈:力のない脈。按圧している指を押し返す力の弱い脈であり、強く按圧すると消失する。弱脈ともいう。

③脈の回数: (さく)←→

・数脈(さくみゃく):速い脈。医師の1呼吸間に患者の脈が6回以上の脈。およそ1分間に90回以上。  

・遅脈:遅い脈。医師の1呼吸間に患者の脈が4回以下の脈で、およそ1分間に60回以下となる。

④脈の幅: ←→

・大脈:大きな幅の広い脈。さらにあふれるばかりの大きな脈を洪脈という。

・小脈:幅の狭い脈。指頭で触れる血管の太さが細く感じるものであり、細脈ともいう。。

⑤脈の緊張: ←→

・緊脈:張りがある脈。ピーンと張った弓の弦のように、脈管の性状が緊張しているもの。  

・緩脈:ゆったりした脈。脈の緊張がそれほど強くなく、穏やかなもの。

⑥脈のなめらかさ: ←→

・滑脈:なめらかな脈。脈派の伝播が玉を転がすようにスムーズなもの。 

渋脈:渋滞している脈。脈派の伝播が遅く、ドロドロと流れる脈。

【以上、「学生のための漢方医学テキスト」(日本東洋医学会学術教育委員会)より抜粋】

*****

実際に脈診に精通することは大変難しく、同一患者の脈についても医師により結論が違うこともよくあって、客観性に乏しく、デ-タとしても残し難い。古典には多くの脈状が出てくる。例えば、日本では二十四脈、中国では二十八脈など、多数の分類が行われてきた。しかし、これらの違いを客観的に示すことは難しく、また各々の意味付けも曖昧となるので、過去においても度々その整理と簡略化の試みが行われてきた。 循環器系についての診断機器の発達している今日の日本で、果たしてどれ程の意味をもつかは不明である。


漢方の腹診法

2007年12月14日 | 東洋医学

腹診は、日本で江戸時代に独自の発達を遂げた診察法である。漢方の腹診は、患者の体質を判断(虚実証の判定)して、治療方針をたてるのが目的である。

腹診では、まず患者を仰向けに寝かせて、両足を伸ばさせ、手を両脇に軽く置かせ、腹部に力を入れないようにさせる。診察は右手の手掌または指先で行う。

腹診の実際の診察手技については、講習会で漢方専門医の先生方から実技指導を受けたり、漢方の大家の諸先生方の腹診のビデオを見比べたりして習得していただきたいと思います。多くの書物に、原則として医師は患者の左側に位置して診察すると記載されていますが、腹診のビデオを見てみますと、例えば、大塚敬節先生、山田光胤先生、寺師睦宗先生などは患者の左側に位置して診察をしていらっしゃいますし、大塚恭男先生、藤平健先生、三潴忠道先生などは患者の右側に位置して診察をしていらっしゃいます。

●腹部の漢方的な名称

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① 心下(しんか)  ② 胸脇(きょうきょう)
③ 脇下(きょうか)  ④ 臍上(せいじょう)
⑤ 臍下(せいか)  ⑥ 小腹(しょうふく)

●腹力の判定

手のひらを平らに下に向け、手のひらが患者の腹壁に接するようにして、まんべんなく軽く按圧しながら、腹力の状態を判定する。腹力の強いものを、弱いものをとし、強くも弱くもないものを虚実間(腹力中等度)とする。患者が緊張し腹壁が緊張している場合は、腹直筋の外側の腹壁の強度を参考にする。

腹壁の皮下脂肪と筋肉が厚く、腹部全体が弾力のある場合には、実証と診断される場合が多い。逆に腹壁の皮下脂肪、筋肉ともに薄く、軟弱無力の場合には、虚証と診断される場合が多い。例えば、防風通聖散大柴胡湯の適応者は前者、六君子湯人参湯の適応者は後者の例である。防已黄耆湯の適応者では、腹壁の皮下脂肪は厚いが腹力は軟弱である。

●腹診所見

・心下痞鞭(しんかひこう)

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所見:心下痞鞭は、心下がつかえるという自覚症状(心下痞)と同部位に、抵抗やときには圧痛を認める。自覚的なつかえ感がなくて、同部の抵抗・圧痛を認めることは多い。

処方:瀉心湯類半夏瀉心湯など)、人参湯類人参湯桂枝人参湯など)を用いる目標。

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・胃内停水(胃部振水音)

所見:上腹部を叩打すると、ポチャポチャとかパチャパチャとかいう、水の揺れる音(振水音)が聞こえる症状を言う。水滞(水毒)を示す腹候である。胃内停水の診断をする際には、患者の膝を曲げさせて診察する。

処方:小青竜湯人参湯六君子湯茯苓飲真武湯五苓散苓桂朮甘湯半夏白朮天麻湯などを用いる目標。

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胸脇苦満(きょうきょうくまん)

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所見:季肋下部に抵抗ならびに圧痛が証明されるのを胸脇苦満という。その最も証明される部位は、乳頭と臍とを結ぶ線が季肋下部と交差する部分である。この部分に三指を乳頭の方へ向けて圧入すると、胸脇苦満がある場合には抵抗があって指が入りにくい。そしてさらに圧入すると、疼痛あるいは不快感を感じる。8~9割が右に証明され、左に証明されるのは1~2割である。

処方:柴胡剤大柴胡湯柴胡加竜骨牡蛎湯四逆散小柴胡湯柴胡桂枝湯柴胡桂枝乾姜湯など)の主目標。

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・腹直筋攣急(ふくちょくきんれんきゅう)、腹皮拘急(ふくひこうきゅう)

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処方:腹直筋が過度に緊張した状態をいう。通常は両側対称性であるが、左右どちらかにとくに強く出ることもある。また上部が緊張していて、下部が緊張していないものもある。

処方:両腹直筋が上から下まで均等に緊張している場合は芍薬甘草湯、腹直筋の外側の腹壁が著しく弱い場合は小建中湯黄耆建中湯を用いる。腹直筋の緊張に胸脇苦満を合併している場合は四逆散柴胡桂枝湯を用いる。

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・腹満(ふくまん)

Hukuman

所見:腹部が全般的に膨満していて、腹に弾力のあるのは実証、軟弱無力なのは虚証。

処方:実証であれば、大承気湯小承気湯防風通聖散など。虚証であれば、桂枝加芍薬湯小建中湯四逆散など。

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・小腹不仁(しょうふくふじん)

Shouhuku

所見:下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁が容易に陥没し(典型的には船底型)、按圧すると指が腹壁に入る。臍下の腹力が臍上のそれに比べて明らかに弱い場合も所見にとる。著しい場合は知覚鈍麻を合併し、正中芯を触れることがある。腎虚を示す腹候である。

処方:八味地黄丸牛車腎気丸六味丸などを用いる目標。

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・正中芯(せいちゅうしん)

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所見:腹部正中線上の皮下に索状物を触れる。臍上と臍下の両方にあるものと、臍下だけにあるものとがある。通常、按圧しても痛みはない。小腹不仁に合併して見られることが多く、臍上は脾虚、臍下は腎虚の腹候である。

処方:臍下のみの正中芯は八味地黄丸、臍上のみの正中芯は人参湯四君子湯、臍上から臍下に続く正中芯は真武湯の使用目標とされる。

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・臍傍圧痛(せいぼうあっつう)

所見:臍周囲に出現する圧痛で、瘀血病態の存在を示唆する重要な症候の一つである。

処方:桂枝茯苓丸当帰芍薬散などの駆瘀血剤を用いる。

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・小腹急結(しょうふくきゅうけつ)

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所見:左腸骨窩に現れる腹候で、指先で同部位を擦過するだけで急迫性の疼痛を生じるものをいう。瘀血証の腹候とされる。

処方:桃核承気湯の適応。

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・回盲部の抵抗・圧痛

所見:回盲部を指頭で軽く触診した場合にみられる腹壁筋の硬結と、この部を圧迫した際に現れる放散痛を回盲部の抵抗・圧痛という。瘀血証の腹候である。

処方:大黄牡丹皮湯などを用いる。

******

・心下悸(しんかき)、臍上悸(せいじょうき)、臍下悸(せいかき)

所見:心下悸は心窩部で、臍上悸は臍上部、臍下悸は臍下部で腹部大動脈の拍動を触れる。気逆を示す腹候である。

処方:苓桂朮甘湯桂枝加竜骨牡蛎湯などを用いる目標。

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・腸の蠕動亢進(蠕動不穏)

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所見:腹部が軟弱無力で腸管の動きが外から望見できるもの。

処方:大建中湯が適合する場合が多い。

参考文献

学生のための漢方医学テキスト:日本東洋医学会学術教育委員会

はじめての漢方診療十五話(腹診のDVD付):三潴忠道

漢方概論:藤平健、小倉重成


長野病院の全産科医派遣の昭和大、引き揚げ方針

2007年12月09日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

上田市を中心とした「上小医療圏」(人口約22万人)では、長野病院の産婦人科が唯一の産科2次施設としての役割を担ってきました。その長野病院で産科機能の存続が困難になってきたと報道されています。

産科2次施設がなくなってしまうと、その医療圏内では高リスク妊娠や異常分娩は取り扱いが困難となってしまいます。さらに、低リスク妊娠の分娩であっても、分娩経過中に急に異常化した時の搬送先が医療圏内に一切なくなってしまうということになれば、産科1次施設における正常分娩の取扱いも継続がだんだん困難になってしまう可能性があります。

現代の周産期医療は典型的なチーム医療の世界で、非常に多くの専門家たちが一致団結してチームとして診療を実施していく必要があります。地域内に周産期医療の大きなチームを結成し、毎年、新人獲得などのチーム維持の努力をしながら、チームを10年後も20年後も安定的に維持・継続していく必要があります。もはや、1人や2人のスーパードクターの熱意だけではどうにもならない世界です。地域で頑張り続けたいと思っている熱意あふれる医師達でも、所属チームが解散してしまえば、その地から去っていく他ありません。

その周産期医療を担っている産科医、新生児科医、麻酔科医などは、養成に非常に長い時間がかかります。今、地域で必要だからといって、急に増やせるものでもありません。

産科医療 崩壊の危機

迫る限界 お産の現場

分娩体制崩壊の危機

産科医療に関する新聞記事

「バースセンター」構想 上田の母親ら「集い」発足

長野県・東信地域の厳しい産科医療の状況について

追加情報あり(12/15)
***** NHKニュース信州、2007年12月15日

上田市産院、1月に助産師外来

 院長の退職に伴う医師不足で出産の受け入れを制限する方針を示していた「上田市産院」は、出産の受け入れ数をできるだけ維持しようと、助産師が医師の業務の一部を分担して医師の負担を軽減する「助産師外来」を来年1月から始めることを決め、近く上田市と協議して正式に決定する方針です。

 その結果、「上田市産院」は出産の受け入れ数をできるだけ維持するために、助産師が医師に代わって妊婦の検診などを行う「助産師外来」を来年1月から始めることを決めました。
具体的には、いま上田市産院で常時勤務している13人の助産師のうち、県外の助産師外来で研修の経験のある5人に産院の外来を担当してもらい、医師が出産に専念できるよう態勢を整えます。

 「上田市産院」は近く母袋市長と協議して、正式に開始時期を決めることにしています。

(NHKニュース信州、2007年12月15日)

***** 医療タイムス、長野、2007年12月13日

上小地域の産科医療「近接医療圏との連携で確保」

12月県会で渡辺衛生部長

 渡辺庸子衛生部長は12日、県会12月定例会の一般質問で、常勤産科医の引き揚げや退職で危機的状況に陥っている上小地域の産科医療体制について、「ハイリスク分娩に関しては、隣接する長野、佐久の両医療圏との連携を視野に入れ、行政や医師会、医療機関による医療圏を越えた調整を行い、産科医療を確保していきたい」との考えを示した。

 さらに、産科医療の集約化に対する見解を求められた渡辺部長は、「地域の産科医療の崩壊を防ぐための緊急避難的措置」とした上で、「現在の医師不足の中で数少ない産科医を複数の医療機関に分配、配置することは、より深刻な事態につながる恐れがある」と理解を求めた。いずれも、高村京子議員(共産党)への答弁。

(医療タイムス、長野、2007年12月13日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月13日

国立長野病院:産科医引き揚げ問題 長野や佐久と連携、産科医療確保を

 ◇県議会で衛生部長

 国立病院機構長野病院(上田市)で産科医の引き揚げが求められている問題で、県の渡辺庸子衛生部長は12日、「ハイリスクの分娩(ぶんべん)については、隣接する長野や佐久医療圏との連携を視野に入れ、行政や医療機関が協力し、医療圏を超えて上田地域の産科医療を確保したい」との見解を示した。同日開かれた県議会一般質問で、上田市・小県郡選出の高村京子議員(共産党県議団)の問いに答えた。渡辺部長は、県や上田地域の首長らが11日に産科医を派遣している昭和大病院(東京都)を訪問し、派遣継続を求める要請を行ったことも報告した。

(毎日新聞、長野、2007年12月13日)

****** 信濃毎日新聞、2007年12月12日

昭和大に医師派遣継続を要請 上田地域広域連合

 国立病院機構長野病院(上田市)の産科医を、派遣元の昭和大(東京)が引き揚げる方針を示している問題で、母袋創一・上田地域広域連合長(上田市長)は11日、昭和大病院の飯島正文院長を訪ね、派遣継続を求める要請書を提出した。会談は非公開。母袋連合長によると、飯島院長は「(昭和大病院の)足元がおぼつかない状態」として、派遣継続は困難との認識を示した。

 要請には、進藤政臣・長野病院長、桑島昭文・県衛生技監、勝山努・信大付属病院長らが同席した。母袋連合長は、長野病院が上田小県地域の中核的病院で、危険度の高い出産を担っていることなどを説明。同病院の産科医4人全員を派遣している昭和大に継続への理解を求めた。

 これに対し飯島院長は、昭和大病院が中核病院となっている東京・品川区と大田区でも産科医が不足しているとして「引き揚げに(上田地域の)理解を求めざるを得ない状況」と述べたという。4人のうち何人を、いつまでに引き揚げるのか-といった方針については説明しなかった。

 会談後、母袋連合長は「(医師を引き揚げる)強い意志を感じた」と話し、現在の4人の派遣を維持することは「極めて厳しい」との受け止めを示した。その上で、昭和大への働き掛けは引き続き続けるものの、他の医療機関に派遣を求めることも必要になる-との考えを示した。

(信濃毎日新聞、2007年12月12日)

****** 信濃毎日新聞、2007年12月12日

院内助産院設置を 上田市の有志が県会に請願

 上田市の母親らでつくるグループ「安心してお産と子育てができる地域をつくる住民の集い」(佐納美和子代表)は11日、正常出産を助産師主導で扱う院内助産院(バースセンター)の開設に支援を求める請願書を、賛同者5万240人の署名を添えて県会に提出した。開会中の12月定例会で審議される。

 上田小県地域では、国立病院機構長野病院(上田市)が今月に入り、産科医を派遣していた昭和大(東京)の医師引き揚げ方針を受け、新規の出産受け付けを休止。上田市産院も院長が年内で退職する意向を示すなど、産科医不足が深刻となっている。

 「集い」の桐島真希子副会長(32)=上田市材木町=は「どこで出産したらよいのか、妊婦はすごく不安に感じている」と話し、出産を支える仕組みづくりを強く訴えた。

 請願書と署名簿を受け取った服部宏昭議長は「少しでも安心できるよう、県会も取り組みを進めたい」と述べた。

(信濃毎日新聞、2007年12月12日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月12日

バースセンター:県議長に設立支援を請願 上田の住民団体、5万人分署名添え

 助産師が出産を扱うバースセンター(院内助産院)の設立を目指す上田市の住民グループが11日、県議会の服部宏昭議長を訪ね、設立への支援を求める請願書と約5万人分の署名を提出した。服部議長は「県議会としても憂慮しており、県と一緒になって取り組んでいきたい」と述べた。請願は開会中の12月議会で審議される。

 グループでは、バースセンターの設置への県の支援や、各地域で中心となる病院の医療体制充実、救急搬送システムの整備などを請願した。11月には上田市議会にも同種の請願を行った。グループ副代表の桐島真希子さん(32)は「一日も早く産む場所を確保してほしい」と訴えた。

 上田地域では、中核病院である国立病院機構長野病院で産科医全員の引き揚げが明らかになるなど、お産を巡る環境への不安が広がっている。【神崎修一】

(毎日新聞、長野、2007年12月12日)

****** 信州民報、2007年12月11日
出産・育児ママネットワークより引用)

上田地域広域連合  正副連合長会で協議

長野病院の産婦人科医引き揚げ問題
「できるだけ早く昭和大へ要請する」

 国立病院機構長野病院(上田市緑ヶ丘)から、派遣している産婦人科医師4人を全員を引き揚げる昭和大(東京都)の方針が明らかになったことから10日、上田地域広域連合正副連合長会では、長野病院の進藤正臣院長も同席し緊急の協議を行い、今後の方針を話し合った。

 同正副連合長は定例のもので、この日午前中に会議。正午から開いた記者会見で、母袋創一連合長=上田市長=は「地域の産科医療体制の確保が一番。この危機を乗り越えていく」とし、「全面的な協力体制でいくこうと、意思疎通を図った」と報告。

 責任部分についても触れ「言いにくいが、医師の人事権はどこのあるのか」とし、「長野病院は国立病院機構で高度医療を行う場所。国の医療機関にもかかわらず、このような状況でいいのか」と語った。

 さらに「今後は昭和大への要請をじかに行こう」としたが、具体的には調整中で、「まだ確定していない。1日もは早い段階で行動に移す」と答えることにとどめた。

 また県、信大にも要請していくとし、地元医師会、議会にも理解を求めていくことにした。昭和大への要請内容は具体的にはきまっていないが、同じ状態(4人体制)でお願いしたいとしている。

 医療確保のための支援については、広域副連合長の東御市、長和町、青木村の各首長ともに「財政的支援は惜しまない」とし、羽田健一郎・長和町長は「地域全体で考える問題」と答えた。また、長野病院の進藤院長も「昭和大に派遣継続をお願いするが、駄目だった場合、(医師確保の)働きかけをしていく」としたが、具体的内容は語らなかった。

(信州民報、2007年12月11日)
出産・育児ママネットワークより引用

****** 信濃毎日新聞、2007年12月11日

昭和大に派遣継続要請を確認 産科医引き揚げ問題

 上田地域広域連合(連合長・母袋創一上田市長)は10日、上田市内で正副連合長会を開いた。国立病院機構長野病院(上田市)の産科医を、派遣元の昭和大(東京)が引き揚げる方針を示している問題で、近く連合として昭和大に派遣の継続を申し入れるとともに、他の医療機関からの産科医確保も検討することを確認した。

 会合は非公開で、上田市、東御市、小県郡長和町、青木村の4市町村長が出席。進藤政臣・長野病院長が経緯を説明し、対応を協議した。

 終了後の記者会見で母袋連合長は、国、県、信大などと連携し「難局を打開したい」と説明。昭和大への要請時期は調整中とした。

 一方、進藤院長は、昭和大以外の新たな派遣要請先を、幾つか念頭に置いている-と表明。上田小県地域の中核病院として産科機能を維持するためには「3人以上(の産科医)を確保したい」との考えを示した。

 昭和大は、長野病院の産科医4人全員を派遣しているが、来年春から段階的に引き揚げる方針。長野病院は今月3日から新規の出産受け付けを休止している。

(信濃毎日新聞、2007年12月11日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月11日

国立長野病院:産科医引き揚げ問題 

上田広域連合、国などに派遣継続要請へ

 ◇国、昭和大学に要請へ

 国立病院機構「長野病院」(上田市、進藤政臣院長)で産科医4人全員の引き揚げが求められている問題で、上田市など5市町村でつくる上田広域連合(連合長、母袋創一・上田市長)は10日、正副連合長会を開いた。会議では、広域連合として国や派遣元の昭和大学に対し、派遣の継続を求めていくことを確認した。

 この日の会議は、非公開で行われ、5市町村の首長に加え、進藤院長も出席した。会議後の会見で、母袋市長は「長野病院は公的な医療機関であり、このような状態になっていることをどうしてくれるのか」と国の責任を指摘した。

 同病院では、すでに先週から新規の分べんの予約を休止している。今後、分べんが休止すると年間約500件のお産の受け入れ先がなくなるほか、上小地域で異常分べんを取り扱う病院がなくなるため、出産環境が悪化することが懸念されている。【川口健史】

(毎日新聞、長野、2007年12初11日)

****** 信州民報、2007年12月9日
出産・育児ママネットワークより引用)

上田市産婦人科医会・宮下会長

安心安全のお産のため「前向きに取り組んでいく」

 上小地域には現在、産婦人科は長野病院、上田市産院と市内に二つの民間の産婦人科医院がある。その一つ、角田産婦人科内科医院(角田英弥院長、上田市山口)の昨年一年間の出産件数は、482件、今年は12月7日まで403と減少しているが、これは8月から11月まで医院の増改築で出産の受け入れを制限していたため。ようやく改築も終了し、ベットは9床から14床になった。角田医長は「今後、積極的に出産の受け付け増をはかる」とし、医師2人体制で、来年は昨年よりも50~60件の出産受付が増える見通しとした。

 また上田原レディース&マタニティクリニック(宮下尚夫院長、上田市上田原)は医師2人体制、15床で、昨年は約400のお産を扱った。

 市産婦人科医会会長を勤める宮下尚夫院長は「6日に4医院と関係者が集まり、長野病院については、まだ決定していないが、仮に最悪の事態になっても頑張って乗り切ろうと誓い合ったばかり」と明かす。

 「通常出産なら、なんとかなるかもしれない。異常分娩はそれほど多くないが、お産はいつ異常になるかわからない。長野病院までおよそ、救急車で15分だった。今後は、篠ノ井総合病院(同約40分)や佐久総合病院(同約50分)までの転送手段を早くする。あるいはドクターヘリを有効に使うことも考えていかなくては」などど、具体案を上げる。

 宮下院長は「それには産科が異常を早く発見する努力と、早く頼むことが必要」とし、「妊産婦らは検診を早くしっかり受けてほしい」と市民の協力も仰いだ。

 また「市内には6~7人の産科医師がいることになる。手を携えていこうとまとまってきた。いい傾向だ」と話し、「市民の不安を解消、安心・安全なお産のために、産科医会としても前向きに取り組んでいく」とした。

(信州民報、2007年12月9日)
出産・育児ママネットワークより引用

****** 信濃毎日新聞、2007年12月8日1面

長野病院の全産科医派遣の昭和大、引き揚げ方針

 国立病院機構長野病院(上田市)は7日、同病院の産科医4人全員を派遣している昭和大(東京都品川区)から医師を引き揚げる方針を通告され、3日から新規の出産受け付けを休止したことを明らかにした。大学側は来春から段階的に引き揚げるとしているが、期間は示していない。同病院は上田小県地域の中核病院で、今後地域に大きな影響が出そうだ。

 同病院の進藤政臣院長は記者会見で「産科医確保に最大限努める」と述べたが、見通しは立っておらず、産科廃止に至る可能性もある。同病院では2006年、同地域の出産2024件の23%、467件を扱っている上、他の病院から危険度の高い出産も受け入れている。

 同病院は、既に予約済みで、来年7月ごろまでに同病院で出産予定の97人の出産は扱うとしている。

 昭和大からの通告は11月中旬にあった。同大学医学部産婦人科の岡井崇教授は取材に、長野病院からの医師引き揚げは、昭和大近くの病院に派遣するため-と説明。別の大学がこの病院から派遣医を引き揚げたため、現在は出産の扱いを休止しているという。昭和大は東京・品川区と大田区の周産期医療の拠点病院で、同教授は「地域に責任を果たさなければならない」としている。

 上田地域広域連合長の母袋創一・上田市長は「派遣を継続するよう昭和大に要請したい」としている。

(信濃毎日新聞、2007年12月8日1面)

****** 信濃毎日新聞、2007年12月8日3面

上小の産科医療 危機

長野病院の医師引き揚げ

 「地域のお産を支える土台が壊れる」―。国立病院機構長野病院(上田市)から産科医を引き揚げる昭和大(東京)の方針が明らかになった7日、上田小県地域の母親に不安と戸惑いが広がった。上田市では市産院も院長が年内に辞職し、その後の医師確保のめどが立っていない。「正直驚いている」と母袋創一上田市長。安心して子供を産める医療態勢をどう再構築するのか、市や県、医療関係者は緊急に取り組まなければならない。

他地域で出産…不安

 「ますます厳しい。不安でいっぱいです」。地域の産科医不足を受け、助産師を活用する院内助産院(バースセンター)の設置を市や県に求めているグループの世話人、直井恵さん(29)=上田市別所温泉=は重い口調で語った。

 自身も2月、市産院で長女を出産。危険度の高いケースを扱う長野病院は、バースセンター構想にとっても重要な存在だった。だが、同病院からの医師引き揚げで、先行きは不透明感を増している。

Shinmai  上田小県地域では、2006年度に600件以上の出産を扱った市産院の甲藤一男院長が「体力面」を理由に年内で退職する。後任は未定で、この他の産科は市内の民間2病院だけだ。

 地域の出産件数の半数強を扱っていた公的2病院の出産受け入れがこのまま狭まれば、地域に住む母親が、他の場所で産まなければならない事態さえ危惧(きぐ)される。

 地域に大きな不安を与える医師引き揚げを、なぜ突然通告したのか―。

 昭和大の岡井崇・医学部産婦人科教授は「上田のことを思うと、長野病院に医師派遣を続けたい。だが、われわれは(大学がある都内の)こちらの地域に責任を負っている」と説明する。

 同大は10年以上前から長野病院に産科医を派遣してきた。だが、2004年の医師研修制度の変更後、研修医が一部の大病院に偏り、大学病院の人材不足が表面化。その一方、勤務が厳しく訴訟リスクなども抱える産科医は、都市部でも不足感が強まっているという。

 同大は長野病院から引き揚げた分を、大学近隣の病院への派遣に回す方針だ。「われわれの大学病院自体が最低の人数で回している」。岡井教授はそう強調する。

上田市・県 問われる対応

 「緊急事態だ」。母袋市長は7日夕、市役所で記者会見し、厳しい表情で話した。長野病院の進藤政臣院長が市長を訪ね、昭和大の医師引き揚げ方針を伝えたのは前日の6日。市にとっても「寝耳に水」だった。

 ただ、地域住民からは、医師確保をめぐる市の取り組みに不満の目も向けられている。

 市は05年、信大が医師引き揚げの方針を示した市産院について、いったん廃院を検討する意向を表明。母親らの存続運動に押されて存続に転換した。だがその後も、老朽化している施設の更新を含め、どう維持、発展させるか、明確な展望を示してこなかった。

 その上に降り掛かった今回の問題。母袋市長は「近隣の首長とも話し、できる支援は最大限したい」と強調する一方で「行政には医者を動かす何の権限もない」と漏らしたが、市民の納得はどこまで得られるのか。

 県の対応も問われる。県は産科、小児科の医師不足対策として、10広域圏ごとに医師を集約する案を示してきた。だが、長野病院からの医師引き揚げで「長野市や佐久市の病院に危険度の高い出産を頼らざるを得なくなる可能性がある」と上田保健所。構想そのものが揺らぎ始めている。

 市産院の存続を求める署名運動に携わった斉藤加代美さん(42)=上田市上丸子=は「こんどこそ市にしっかりしたビジョンを示してほしい」と求める。市を中心に県や病院が本腰で連携しなければ、危機的な状況は打開できない。【祢津 学】

(信濃毎日新聞、2007年12月8日3面)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月8日

国立長野病院:産科、存続の危機 今年度で、医師4人引き揚げ

 年間450件以上のお産を扱っている国立病院機構・長野病院(上田市緑が丘、進藤政臣院長)は7日会見し、同病院に昭和大医学部(東京都)から派遣されている産婦人科医4人を今年度いっぱいで引き揚げるとの申し出があったことを明らかにした。4人がいなくなると産科医不在となり、医師の確保ができない場合は、出産の取り扱いの休止が懸念されている。同病院では、すでに今週から新規の分娩(ぶんべん)の予約を休止している。

 進藤院長によると、先月中旬、「医局の産科指導者が不足し大学病院の診療に支障が出ている」などとして、来年3月末で引き揚げる趣旨の連絡があった。同病院ではすでに入っている7月ごろまでの分娩予約97件については責任を持って対応するという。

 上田市内には長野病院のほか、上田市産院、二つの産婦人科病院が、上小地域を中心に年間1800~2000件の分娩を担当。長野病院は異常分娩などを引き受けているため、出産の取り扱いができなくなった場合の打撃は大きい。

 同病院では大学側と慰留を含めて協議するとともに、関係医療機関との協力体制を取っていくという。また10日に広域連合の正副連合長会で、進藤院長の説明を受けて今後の対応を協議する。上田市の母袋創一市長は「今年8月に昭和大の教授に会って派遣の継続をお願いしたばかり。急な話に驚いている。大学側の事情を把握し、市としてどんな支援ができるか早急に検討したい」と話している。【藤澤正和】

(毎日新聞、長野、2007年12月8日)

****** 読売新聞、2007年12月7日

長野病院 産科受け入れ中止
上田 昭和大の医師引き揚げで

 上田市緑が丘の国立病院機構長野病院(進藤政臣院長)は7日、産婦人科の新規の出産の予約受け付けを中止したと明らかにした。産婦人科医を派遣している昭和大医学部(東京都品川区)から、医師を引きあげると通告があったため。今月3日から受け付けを中止しており、医師確保のめどがつくまで、予約分を除き出産の扱いを中止する。

 進藤院長によると、昭和大から11月16日、大学病院の指導者、中堅医師の不足を理由に、常勤産婦人科医4人を来年3月で引きあげたいと連絡があった。両者の協議でその後、引きあげの時期や人数は白紙に戻ったという。

 上田地域で、長野病院以外で出産を受け付けているのは、上田市産院と民間の2病院。出産の新規予約は、この3病院で扱うが、市産院も来年から常勤医が1人になり、対応しきれない可能性もある。

 長野病院では、年間約450~480人の出産を扱い、手術を伴う出産なども積極的に扱っているが、産科医が引きあげられれば、上田地域から正常出産以外の出産に対応できる病院が消える可能性もある。母袋創一市長は「(医師確保に)あらゆる手段を講じていきたい」としている。

(読売新聞、2007年12月7日)

****** 朝日新聞、2007年12月7日

上田の病院、産科医引き揚げの危機

 上田市を中心とした上小地域で、比較的リスクの高い分娩(ぶん・べん)も扱う国立病院機構長野病院(進藤政臣院長)の産婦人科の常勤医師4人全員が、来年7月いっぱいで派遣元の大学に引き揚げられ、出産、診療、健診など産婦人科の機能がすべて休止に追い込まれる可能性のあることが7日わかった。同病院では年間約480人が出産しており、最悪の場合、これがゼロになる。上田市では先月、市産院の院長が体力面を理由に退職したが、産科医不足が一気に加速する事態になった。(高田純一)

 長野病院によると、同病院で扱う年間約480人の分娩数は、上小地域全体の26%にあたる。研修医を含む産科医4人は昭和大学(東京都品川区)医学部から派遣されていて、11月16日に大学側から引き揚げの連絡があり、今月3日以降、分娩予約の受け付けを停止した。それまでに受け付けた97人は、来年7月の出産予定者まできちんと対応するという。

 全面的な休止になった場合、人口約16万人の同市内でお産ができるのは、市産院、上田原レディース&マタニティークリニック、角田産婦人科内科医院の3施設だけとなる。特に院長が退職して医師が3人から2人になった市産院の場合、補充ができなければ、年間約700人のお産数を500人程度に縮小することが検討されている。

 長野病院が6日に県上田保健所や上田市に引き揚げ方針を打診し、問題が表面化した。7日に開かれた上田市議会厚生委員会にも報告された。

 進藤院長は「大学側は、若い先生を指導する中堅層が少なくて支障が出ている、と引き揚げの理由を説明している。信州大や医師会などと協力して方向性を見つけたい」と話す。上田市の母袋創一市長は7日、「この問題を最優先し、まずは地域の声を大学側に届けたい」と語った。

 お産の場がさらに狭められそうな事態に、上田市などの母親らでつくる「安心してお産と子育てができる地域を作る住民の集い」副代表の桐島真希子さん(32)は「不安です。どこでお産したらいいか、さまよう人が増える。行政にはその危機感を分かってほしい」と話している。

(朝日新聞、2007年12月7日)


産科医療 崩壊の危機

2007年12月04日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

新聞記事を読むと、『正常分娩のみに対象を絞ったバースセンターを地域内に設立すれば、産科医の負担はその分だけ軽減する筈なので、産科医不足の立派な対策となるのではないのか?行政はすぐにでもバースセンター設立を実行に移してほしい。』などと主張して熱心に署名活動に励んでいらっしゃる住民運動のリーダーの方々や、それらの運動を支持する新聞記者なども、世の中には大勢いらっしゃるようです。

『正常分娩』とは、分娩が終了して、経過を振り返ってみて、初めて今回の分娩は正常分娩だったと言えるわけで、途中まで正常の経過だと思っていた妊婦さんであっても、妊娠経過中や分娩経過中に、予想に反して異常事態が発生するようなことはいくらでもあり得ます。その時には、発症後30分以内に迅速に対応しなければならないような状況はいくらでも起こり得ます。

確かに、今後の産科医療にとって、経験豊かな助産師達のパワーを、従来以上に最大限に地域で活用していくことは非常に重要だと思います。

しかし、バースセンターの助産師達をバックアップする地域の産科医療体制が未整備のまま、バースセンター設立だけを強力に推進すれば、分娩経過が急に異常化した時には、その地域内では決して適切に対応することができず、必ずお手上げ状態になってしまいます。万が一、地域の産科事情がそんな状況になってしまったら、最後まで残って頑張っていた産科医たちも、全員その地域から逃げ出してしまうかもしれません。

参考記事:

迫る限界 お産の現場

分娩体制崩壊の危機

産科医療に関する新聞記事

産める病院が1年半で1割減、読売新聞全国調査

分娩取り扱う病院 激減

飯田下伊那医療圏の産婦人科医療

貴重な助産師パワーの活用

2年半で22病院が35診療科を休廃止/長野

深刻化する医師不足

勤務医の大量離職、診療科の休廃止

産婦人科と小児科の診療休止急増、医師不足が深刻化

周産期医療が危ない

『飛び込み出産』増加 死産など高リスク 搬送拒否要因にも

産科医不足対策 宮城県、集約化方針を決定

産科医の重点配置

****** 中日新聞、長野、2007年12月3日

県内産科医療 崩壊の危機

住民側の意識改革必要

飯伊に続き松本地域でも 診療分担に理解を

 来年3月以降、県内の産婦人科医約20人が離職し、各地で分べん制限や集約化が進む見通しで、県内の産科医療は危機的状況に陥っている。高い訴訟リスクや日々の激務で、現場の医師も「限界だ」と悲鳴を上げるが、医師数が増えない限り、抜本的解決は望めそうにない。今、医療を崩壊させないために、医療の受け手である私たちができることは何か。(中津芳子)

 「非常に切迫した状況。行政の皆さんにもこの状況をわかっていただきたい」。先月初旬、松本市で開かれた「松本地域の産科小児科検討会」の第2回会合。信州大、県立こども病院などの医師らと、松本地方事務所管内の9市町村長約20人が集まる中、信州大のNICU担当の馬場淳医師らが現場の医師たちの窮状を訴えた。

 県衛生部によると、県内でお産を扱う施設数は49施設(9月現在)。昨年に比べて4件減少した。出産数を制限したり、HPで出産できるか否かを公表するなど、自分たちの医療を守るための対応策をとる病院が増加している。残った勤務医は日々の業務に加え、ギリギリの状態で踏みとどまる若手医師を支える役割を担うなど、負担は増える一方。信大の金井誠医師は「今一番必要なのは、ぎりぎりの状態で頑張っている医師をやめさせない努力」と力を込める。

 医師を追い詰めている要因の一つに、患者側の問題もある。緊急性は認められないのに、仕事や家庭の都合で夜間や休日に受診に訪れる人、定期的に健診を受けない妊婦など、信大にも県内各地から相談が寄せられている。それでいて「待ち時間が長い」などと不平不満をぶつける。「病院がまるでサービス業やコンビニエンスストアのようになっている。医師がやめていく一つの要因」(金井医師)と指摘する。

 さらに、現場の医師が懸念するのが、医療崩壊の危機感が医師や病院関係者の間だけにとどまっていること。検討会の会合で、松本医師会の須沢博一会長は「医療者側からの訴えや説明だけではなく、行政も広報紙などを使って現状を説明してほしい」と求めたが、行政側からの具体的な回答は得られなかった。金井医師は「なぜお産ができなくなったのか、自分たちの地域だけでなく、もっと大きなエリアで考えようという意識を持ってほしい」と訴え、行政の支援を強く求めている。

 岐阜県では、常勤の産科医が1人しかいない3病院を、年内にも近隣の3病院の産科に集約。宮崎県では、地域分散型のシステムを構築するなど、県外でもこれ以上医療を崩壊させないための取り組みが進む。飯田下伊那地域に続き、松本地域でも診療分担を視野に入れた体制作りが進んでいるが、これらは行政の支援と住民の理解が不可欠。男性も女性も医療崩壊寸前の現状を知り、自分に何ができるかを考えることが、今、医療を崩壊させないための方法ではないだろうか。

・・・・・・取材ノートから

知恵出し合おう

 正直に言うと、取材後には、子どもを産むことに不安を感じてしまった。それだけ現場の医師たちの叫びは切実だった。

 医師不足は全国的な問題。県内各地の病院に医師を派遣する信大病院でさえ、医師が不足している。しかし、出産で離職し、復帰を果たしていない女性医師、助産師、看護師、出産を扱わない開業医など、隠れた力はたくさんあるはずだ。

 子どもは私たちの光であり、未来であり、希望である。地域に住む一人一人が少しずつ力と知恵を出し合い地域医療を支える体制づくりが求められている。 

(中日新聞、2007年12月3日)

****** 読売新聞、2007年12月3日

市立半田病院 搬送妊婦 受け入れ休止

「産科医2人減で対応困難」

 半田市立半田病院の産婦人科で、医師不足のため他の医療機関からの妊婦搬送の受け入れを11月から休止していることがわかった。同病院で診療を受けている妊婦については従来通り24時間態勢で対応している。

 同病院は病床数が500あり、県の地域周産期センターとして東海、常滑市など知多半島医療圏の10市町を担当し、これまで各市町で対応できなくなった妊婦らを年間30~50人受け入れている。

 産婦人科の石田時一統括部長(52)によると、同科には医師が5人いたが、今年7月に産休に入った女性医師が退職し、来年1月から産休に入る予定だった女性医師が体調を崩したため10月から病欠、そのまま産休となったため、2人減となった。

 このため同病院にかかっている妊婦を24時間態勢で診療するのに手いっぱいとなり、石田部長は「他の機関からの搬送を休止せざるを得なかった」という。

 同病院に医師を派遣している名古屋大医学部に新たな医師の派遣を求めているが、メドは立っていない。

(読売新聞、2007年12月3日)

****** 毎日新聞、愛知、2007年12月3日

市立半田病院:妊婦の緊急受け入れ、11月から停止

 愛知県半田市の市立半田病院(肥田野等院長、500床)が11月から、他の医療機関からの妊婦の緊急受け入れを取りやめたことが2日分かった。同病院は、地域の診療所や開業医での出産、治療が難しい妊婦を受け入れる県の「地域周産期母子医療センター」にも認定されているが、診察に必要な産婦人科医を確保できなくなった。

 半田病院は05年2月、中部国際空港開港に合わせて「救命救急センター」を開設した知多半島地域の中核病院。産婦人科にはこれまで5人の医師がいたが、30代の女性医師が7月から産休に入り、20代の女性医師が育児などのため11月に退職、3人になった。名古屋大医学部への医師派遣要請も断られ「現態勢での妊婦の緊急受け入れは困難」と判断。半島内の公立病院や産婦人科医院などに、緊急時は名古屋市内の病院などに搬送するよう連絡した。名古屋市への搬送には約1時間かかるが、知多中部広域消防本部によると、受け入れ停止に伴う問題は現時点では起きていないという。

 肥田野院長は「産休医師の復帰や、産婦人科希望の研修医に来てもらうことでの再開に期待している。異常分べんは、多くは事前に分かるので、普段からかかりつけの病院を決め、定期的に診察を受けてほしい」と話している。【林幹洋】

(毎日新聞、愛知、2007年12月3日)

****** 毎日新聞、滋賀、2007年12月4日

彦根市立病院:非常勤医師確保、「院内助産所」開設へ--来年2月から

 彦根市立病院(赤松信院長)は3日、医師が1人になり、3月から出産ができなかった産婦人科に来年2月1日から院内助産所を開設すると発表した。非常勤の産婦人科医師1人が確保できたのが大きな要因。2人目以上のお産で、通常分娩(ぶんべん)が可能な出産リスクの低いケースに限定し、年間100件の分娩に対応する。院内助産所は県内初。

 産婦人科は、医師3人だったが、3月20日以降は1人に。外来は従来通り行い、分娩や手術、がん治療などは軽い場合を除き、他の病院を紹介してきた。出産を控えた母親を中心に不安が高まり、市は湖東地域医療対策協を設けて対応を協議。市立病院も院内助産所開設に備え、先進地の神戸などで助産師の研修を重ね、施設も整備した。

 この日は、赤松院長や江頭輝枝・看護部長らが記者会見。医師ではなく、助産師15人が中心になって院内助産所を開設し、常勤医師と新しい非常勤医師が万一に備える支援態勢を発表した。前回が帝王切開だった妊婦や双子や逆子などリスクの伴うケースは対象外。

 同病院は、医師3人の時は年間550件の分娩があったが、助産所では100人前後になる見通し。赤松院長は「週1回だが、非常勤医師の確保と、助産師の研修が終わるので、リスクが低いケースに限るが、分娩ができる院内助産所が開設できる。今後は医師確保に努力する」と話している。【松井圀夫】

(毎日新聞、滋賀、2007年12月4日)

****** 京都新聞、滋賀、2007年12月3日

「院内助産所」を来年2月開設
彦根市立病院、助産師支援の医師確保

 産婦人科の医師不足に伴い、今年3月から分娩(ぶんべん)などの診療を休止していた彦根市立病院(彦根市八坂町)は3日、助産師が中心となり出産を介助する「院内助産所」を2008年2月1日に開設する、と発表した。助産師を支援する非常勤医師を確保できたのが大きな要因で、院内助産所の開設は県内で初めて。

 院内助産所の体制は、助産師15人、産婦人科の常勤と非常勤の医師2人。2人目以上のお産で通常分娩が可能とみられる妊産婦が対象で、双子以上の多胎分娩や逆子など、リスクの高い出産は対象外となる。助産師が中心となってお産を手伝い、利用する妊産婦は妊娠から育児期まで継続したケアを受けられるとともに、家族立ち会いなど希望通りの出産もできるという。

 同病院の分娩件数は年間約550件(05年度)だったが、06年4月に常勤4人体制だった産婦人科の医師のうち3人が今年3月末までに退職した。このため、同病院は診療体制を縮小、分娩を休止していた。

 赤松信院長は「リスクの低いものに制限されるが、非常勤医師を確保できたため、分娩を再開できることになった。体制を拡大できるよう努力したい」と話している。

(京都新聞、滋賀、2007年12月3日)

****** 朝日新聞、宮城、2007年12月3日

助産師外来へ県が研修会/産科医不足に対応

 助産師が医師に代わって健診や保健指導にあたる「助産師外来」の開設を支援しようと、県は助産師の資格を持つ看護師の研修を今月から始める。産科医不足で分娩(ぶん・べん)を扱わない病院が増えている県北地域の病院に勤務する看護師が対象だ。最新の技術や知識を学んでもらい、産科医の負担を少しでも和らげる狙いがある。

 県北では、昨年310件の赤ん坊を取り上げた登米市立佐沼病院が今年9月からお産を取りやめた。栗原市立栗原中央病院では04年8月からお産を休止している。両病院とも産科の常勤医はおらず、非常勤医が週2日ほど外来診療のみを行っている。

 このため、産科の常勤医がいる大崎市民病院や石巻赤十字病院だけではなく、岩手県一関市の病院まで1時間以上かけて通院する妊婦もいるという。

 助産師の資格を持つ看護師の多くは、病院に勤めていながら、お産の現場から離れているため、技術や経験の不足が懸念されるという。研修はこのような不安を取り除くことが目的だ。

 研修は講義8日間と実習32日間。東北大病院など仙台市内の4病院で行う予定。講義では主に妊婦の精神的なケアなどを学び、実習では超音波検査や触診など最新技術を習得してもらう。

 受講生は、栗原中央病院や佐沼病院など産科の常勤医がいない県北地域の病院に勤める助産師10人前後になりそう。

 県では、研修を受けた助産師らを中心に、両病院に助産師外来を設置したい考えだ。当面は、経過が順調な妊婦の健診や保健指導をするだけで、お産は扱わない。健診などを地元の病院で行い、出産は常勤医のいる病院に集約化する方針だ。

 県医療整備課は「出産前後の体調管理や育児など妊産婦が抱えるさまざまな悩みにも対応できる。産科医の負担も減らせる」と期待を寄せる。

 県内では、仙台医療センター(仙台市)が助産師外来を設けている。公立刈田綜合病院(白石市)では、助産師が正常なお産を担当する院内助産所を設置している。

(朝日新聞、宮城、2007年12月3日)

****** 読売新聞、長野、2007年12月2日

院内助産院設置進まず 産科医不足解消の選択肢

 上田市の市民グループが、上田市産院に「院内助産院」を設立するよう、同市議会に請願書を提出したが、市は早期設立には及び腰だ。産科医不足の現状を打開しようと、県内の10病院は院内助産院の開設を検討しているという。にもかかわらず、設置が進まないのはなぜか。

■知事「困難」 

 院内助産院では、病院内の助産院で正常な出産だけを扱い、検診から出産までのすべてを助産師が手掛ける。妊婦や胎児に異変があれば、院内の産科医の指示を仰ぎ、医療設備の整った病院に搬送するなどの対応を取る。県内では、諏訪マタニティークリニック(下諏訪町)にあるだけだが、出産の扱いを中止する病院が相次ぐ中、産科に代わる選択肢として注目を集めている。

 だが、県も上田市も、自ら運営する病院への院内助産院の設置に否定的だ。
「緊急時に対応する医師が不足しており、設置は困難」。来年度から出産の受け入れを停止する県立須坂病院(須坂市)への「院内助産院」設置について、村井知事は10月、県議会の一般質問で、こう説明した。

 県は院内助産院をサポートする医師の不足を、上田市は産院の医師や設備で対処できない非常時の搬送先候補である国立病院機構長野病院(上田市)の医師不足や訴訟リスク、助産師の技術・経験不足を理由に挙げる。実際、須坂病院で出産をサポートできる常勤産科医は1人だけだという。こうした姿勢に対し、県内のある医師は「助産師だけのお産は危険という先入観がある。自治体は医療過誤訴訟を恐れている」と指摘する。

■集約化 

 一方、県内の医師の派遣先決定にかかわる信州大医学部と県は、地域の中核となる病院に産科医を集め、出産の扱いを集中させる「集約化」を目指している。飯田市立病院では2005年、常勤医を1人補充して4人態勢とする代わりに、周辺地域の出産を一手に引き受けることにした。小規模な病院が出産を取り扱わなくなったことで、「集約病院」の医師の負担がかえって増える事態も起きている。

 「院内助産院は正常な出産だけを扱うため、常勤医1人でも十分対応できる」との専門家の意見もある。産科医の絶対数増がすぐには望めない以上、院内助産院への期待は高まっている。

■医師頼み 

 県内に約570人いる助産師は、正常な出産については取り扱う資格を持つが、病院勤務の助産師の場合、医師に頼らず出産を扱える技術がないケースも少なくない。産科医の下で、補助的な立場でしか出産にかかわっていないからだ。

 日本助産師会長野県支部の保谷ハルエ支部会長は「院内助産院には大賛成だが、我々も技術の向上に努める必要がある」と話す。助産師が出産前までの検診などを扱う「助産師外来」は、すでに13の病院が設置しているが、県内の別の医師は「院内助産院ならば、高度な経験まで積ませることができる」と指摘している。

(読売新聞、2007年12月2日)

****** 信濃毎日新聞、2007年12月1日

母親ら、院内助産院開設求め上田市会に請願書

 上田市の母親らでつくる「安心してお産と子育てができる地域をつくる住民の集い」(佐納美和子代表)は30日、逆子などの心配がない正常出産を助産師主導で取り扱う院内助産院(バースセンター)の開設を求める請願書を、賛同者4万6千人余の署名を添えて市議会に提出した。県に院内助産院の拡充を求める請願書も近く県会に提出する。

 この日の請願書は、産科医が不足する中、助産師を積極的に活用するよう提言。上田市産院を念頭に、正常出産は助産師が扱い、出産前後を一貫してケアする院内助産院を将来的に開設するよう求めている。

 また、危険を伴う出産などに対応できるよう、国立病院機構長野病院(上田市)の常勤麻酔科医確保や、救急搬送システムの整備も訴えた。

 佐納代表が土屋陽一議長に請願書を渡した後、「集い」の直井恵世話人(29)が「産科の先生が減っていき、『出産難民』が発生するのではないかと不安だ。早急に新しい出産の仕組みを地域に作っていただきたい」と声明を読み上げた。

 上田市産院をめぐっては、甲藤一男院長の辞意を受け、母袋創一市長が助産師外来開設の方針を示しているが、助産師外来は妊婦の健康診断などが主で、通常、出産までは取り扱わない。

(信濃毎日新聞、2007年12月1日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月1日

バースセンター:設立へ4万7000人分の署名提出 助産師主導の出産求め

 ◇上田市議会へ

 上田市で助産師が主導して出産を取り扱う「バースセンター」などの設立運動を行っている住民グループ「安心してお産と子育てができる地域をつくる住民の集い」は30日、設立を要望する請願書と設立に賛同する約4万7000人分の署名を同市議会の土屋陽一議長に提出した。土屋議長は「いい方向に持っていけるように努力したい」と応えた。

 請願書では▽助産師外来の設置▽病院内に助産師が出産を主導する「院内助産院」の将来的な設置▽連携する病院の医療体制の充実――を求めた。請願を受け、開会中の同市議会は厚生委員会で審議する予定。住民グループ事務局の片桐直希さん(62)は「感触はよかった。ただ医師不足もあるので、助産院については設立してもらいたい」と話した。【川口健史】

◇ しらかば帳: 「それは素人の意見だ」…

 「それは素人の意見だ」。助産師を中心に医師が出産を支援する「バースセンター」の設立運動が地域で盛り上がりを見せる上田市。先日、ある席で母袋創一市長にこの話をしてみたら、一蹴(いっしゅう)されてしまった。県選出のある国会議員は全国の設置例を引き、「全国的に広がる産科医不足の解消につながるのでは」と前向きだ。折りしも年約700件の分娩(ぶんべん)を扱う上田市産院は、院長の辞職により常勤医1人となり、分娩数を大幅に削減しなければならない。どうすればよいのか。医師確保の展望も見えない現状では、バースセンター設立を考えても、「素人の意見」とは誰もいわないと思うのだが。【健】

(毎日新聞、2007年12月1日)

****** 中国新聞、2007年11月30日

小児・産科医師を基幹病院に集約 山口県、計画策定へ本腰

 山口県は、勤務医不足の深刻な小児科、産科の医療体制を確保するため、医師を基幹病院に集める「集約化・重点化」計画づくりが本格化してきた。山口大医学部や病院の医師らでつくる医療対策協議会で議論を重ね、本年度内の策定を目指す。

 集約化・重点化は公的病院が対象。圏域で基幹となる「連携強化病院」と、その病院に医師を含めて一定の機能を移す「連携病院」を決める。圏域は、県内八ブロックの二次保健医療圏を一つか複数組み合わせて設定する。

 国の指針によると、連携強化病院は小児科が入院を必要とする救急に二十四時間対応できる病院、産科はリスクの高い出産に対応する「地域周産期母子医療センター」クラスの病院から選ぶとしている。これに相当するのは県内で小児科、産科とも六病院。この指針をベースに、県が独自の基準を設けて選ぶ。

 県庁で二十九日に医療対策協議会が非公開であった。会長の前川剛志山口大医学部長ら委員に県が骨子案を示した。委員から「連携強化病院、連携病院が外来や入院などの機能をどう分担するのか」「集約化の意義や適切な受診の仕方などの啓発も必要」などの意見が出たという。県は骨子案を修正し、年度末までに計画案を提示する。

 県内の小児科は、医師数は増えているが開業医志向が強い。勤務医は一病院当たり一・六四人で、全国平均より〇・九三人少ない。救急の時間外受診の増加も加わり、勤務医の繁忙さが課題になっている。

 産科医は二〇〇六年が百二十一人で、一九九八年の百四十一人に比べて二十人減少。訴訟リスクの高さなどから出産を取り扱う施設が減り、患者が集中して業務が過剰になっている。【高橋清子】

(中国新聞、2007年11月30日)