ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

日本産科婦人科学会と日本婦人科医会の合同記者会見(報道)

2006年03月16日 | 報道記事

****NHKオンライン

“医師の起訴は疑問”と学会

福島県立大野病院では、産婦人科の医師が帝王切開の際の手術ミスで女性を死亡させたとして、今月10日、業務上過失致死などの罪で起訴されました。これについて全国の産婦 人科の医師で作る「日本産科婦人科学会」と「日本産婦人科医会」が16日、東京で記者会見し、異例の声明を出しました。

会見で日本産科婦人科学会の稲葉憲之常務理事らは、 「女性は、胎盤が子宮に付いてはがれにくくなるという最も難しい事例で、高い医療技術を備えた施設でも対応はきわめて困難だった」と強調しました。

そのうえで、起訴された 医師が1人で産婦人科を担当していた実態に触れ、「今回の問題は全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制に深く根ざしており、医師個人の責任を追及するのは疑問だ」と 述べました。

厚生労働省によりますと、産婦人科の医師は年々少なくなり、全国的に深刻な状況が続いていて、産婦人科を休診する病院が相次ぐなど各地で問題になっています。

03/16 22:24

****Yahoo!ニュース JNN(TBS系)

「医師逮捕は不当」と2学会が会見

 福島県の県立病院で帝王切開手術中に患者が死亡し、担当医師が業務上過失致死などの罪で逮捕・起訴された問題で、日本産科婦人科学会など2つの学会が「最も難しい症例であり、ミスではない」として、改めて医師逮捕は不当であると訴えました。

 「(今回の件は)診断そのものが難しいし、その程度がどうであるかということを正しく事前に判定することも難しい。ですから、癒着胎盤は産科の中で最も難しい病気のひとつになっている」(日本産科婦人科学会・岡井崇常務理事)

 会見を開いたのは、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の2つの学会です。会見で、今回のケースについて「癒着胎盤という診断も対応も難しい症例で、医師が誠意をもって医療を行ったが力が及ばなかった。過失や故意はなく、逮捕・起訴するなど刑事責任を追及するのはおかしい」と改めて訴えました。

 この事件では、担当医師は無理に胎盤を剥離して輸血の対応が遅れた上、「異状死」として届出を怠ったとして、業務上過失致死と医師法違反で逮捕・起訴されています。

(16日18:12)

************ 毎日新聞

日産婦:帝王切開中の死亡 医師を起訴に反論

 福島県立大野病院(同県大熊町)で帝王切開手術中に患者が死亡し産婦人科医、加藤克彦被告(38)が業務上過失致死と医師法違反の罪で逮捕・起訴された事件を受け、日本産科婦人科学会(日産婦)と日本産婦人科医会は16日、厚生労働省で会見し「加藤医師に過失や故意はなく、刑事罰に問うのは不当」と主張した。

 常務理事の岡井崇・昭和大教授は「産科特有の極めて困難な事例であり、胎盤をはがしたことは過失に当たるとは言えない」と指摘。「検察側は輸血の対策を怠ったというが、輸血用血液は1、2日しか持たず、大量に発注して使わなければ無駄になる。血液が不足する中、万が一のためにそこまでの対策は考えない。今回の手術は応援の医師がいたとしても難しいケース」と分析した。

 日産婦によると、患者の死につながった癒着胎盤による大量出血は1万例に数例程度の低い確率である上、実際に胎盤をはがすまで大量出血が起きるかどうかの判断は難しいという。

 この事件では、福島県は昨年3月、(1)癒着胎盤の無理なはく離(2)対応する医師の不足(3)輸血の遅れ--のミスがあったとする最終報告書をまとめている。【山本建】

毎日新聞 2006年3月16日 19時55分

************ 共同通信

難しい症例で逮捕は不当 関係学会が会見で訴え

 福島県立大野病院で帝王切開を受けた女性が死亡し、医師が逮捕、起訴された医療事故で、日本産科婦人科学会(武谷雄二理事長)と日本産婦人科医会(坂元正一会長)は16日、東京都内で合同記者会見を開き、「非常に難しい症例で、適切な処置が行われたとしても救命できないこともある」として「逮捕は不当」と訴えた。
 起訴状は、女性に胎盤の癒着で大量出血の可能性があり、生命の危険を未然に回避する必要があったのに医師がこれを怠った、としている。

(共同通信) - 3月16日19時59分更新


報告書 結論ありき

2006年03月16日 | 報道記事

****** 私見

今日の朝日新聞の記事から、『事故報告書はご遺族に補償する目的で作成されたもので、結論は最初から決まっていた。これを県病院局側も認めている。』という疑惑が浮かび上がってきました。朝日新聞が記事にしてインターネット上に配信した以上は、記者が単なる想像で書いているのではなく、多くの関係者の取材からそのような証言が得られたということだと考えます。

(以下、3/16の朝日新聞の記事より引用)

報告書 結論ありき

 県立医大・産婦人科講座の佐藤章教授は、医局のまな弟子、K医師(38)の突然の逮捕に驚き、憤慨した。

 全国の医師から、メールや電話が大学側に殺到した。「仲間を見殺しにするのか」。インターネットの掲示板に名指しで批判が書き込まれた。何か行動を起こそうと思ったが、弁護士から「警察を刺激する。K医師のためにならない」といさめられた。

 ネットで署名活動を始めたのは、K医師の勾留期限が目前に迫った今月9日だった。

 東京大学医科学研究所の知人たちが、佐藤教授の名で呼びかけのホームページを立ち上げた。開設から数時間でアクセスは約2千人に達した。大半が医師だった。

 14日午前6時現在、署名は6220人。医療関係者に混じって「K先生にお産でお世話になった」という地元の人もいる。

 「医療現場の事故は個人の責任ではなく、システムの問題」として、近く厚生労働相や国家公安委員会などに、署名を添えて陳情書を出すつもりだ。

予想外の逮捕

 県病院局が、05年1月に事故調査委員会を設置したのは、「原因を調べて再発防止に役立てるため」(秋山時夫局長)だった。2カ月後に公表した報告書は、「無理に胎盤をはがした」点などについて医療過誤を認めた。

 だが、佐藤教授は「報告書は、始めから結論ありきだったのでは」と指摘する。

 「『過誤がない』という結論では、遺族に補償ができないから困る。そういった示唆が、県側からあった」と、調査にかかわった複数の関係者が声を上げているからだ。

 報告書をまとめる際に遺族との交渉が念頭にあったことを、県病院局側も認める。ただ、その当時、加藤医師が逮捕されるとは思っていなかったという。

 その報告書が、当初の目的を果たしているとも言えない。

 県病院局は、県立病院長の会合で報告書を配布し、注意を促した。しかし、各病院で何がどのように改善されたのか、把握していない。

 手術時の人員や血液などの準備、そして危険な患者への対応……。実態は今も執刀医の判断に委ねられ、何かあれば医局の人脈に頼る「医局まかせ」(県立病院の医師)が続いているという。

 県病院局は「医師が足りない。コマがなければ、(改善は)難しい」とする。

 産婦人科医は確かに減っている。約10年前、県立医大の医局に産婦人科医が30人以上いた。現在は20人を割る。うち十数人は出張先の地方病院や医大でそれぞれ月10回前後の宿直をこなす激務が続く。

 ある産婦人科医は「産婦人科医が減るから仕事が忙しくなり、それを見た若い医師が、また産婦人科を敬遠する」とため息をつく。

 今回の事件で、さらに産婦人科医の志望者は減る、と関係者は危機感を募らせる。

 だが、ある捜査関係者は「地域医療の問題と事件を結びつけるべきではない。必要があったから逮捕した。医師を特別扱いするつもりはない」とする。捜査当局では、県が改善策をまとめていないことも問題視しているという。

(以上で引用終わり)