ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

朝日新聞:お産が危ない、加賀市民病院も休診へ

2006年05月31日 | 地域周産期医療

****** コメント

>県立病院を除く県内の公立病院で産科がある8病院のうち、7病院が一人医長だ。

一人医長で産科診療に従事すれば、どうしても超激務となってしまい長続きするはずがない。このまま放置すれば、近日中に一人医長の公立病院がどこも産科廃止となってしまう可能性も高い。その前に、産科施設数を思い切って減らして、産科医の再配置を検討するしかない気がする。

****** 朝日新聞 石川、2006年5月30日

【お産が危ない!】加賀市民病院も休診へ

産科医不足 県内でも深刻な影

 全国的な産科医不足が、県内でも深刻な影を落とし始めている。地域の中核病院が相次いで産科を休診し、開業医でも分娩(ぶんべん)の扱いをやめる医院も増えている。一方で、新人医師たちも激務の産科を敬遠。産科医確保に向け、報酬増など抜本的な対策を求める声も出ているが、解決の方法はまだ見えない。

(浅見和生)

開業医多い金沢「実はギリギリの状態」

 今春の金沢赤十字病院に続き、加賀市民病院が7月から産科を休診することを決めた。6月いっぱいで産科の常勤医が辞めるためだ。これまでは金沢大から医師が派遣されていたが、今のところ、後任のなり手がいないという。

 同病院の産科常勤医は1人、いわゆる「一人医長」だ。交代要員がいないため、勤務拘束時間が長い。相談する相手もなく、リスクの高い分娩などの責任も一手に負わなければならない。

 金沢大医学部付属病院の前産婦人科医局長で、周産母子センターの田中政彰副センター長は「一人医長は、医師も敬遠したがる。自治体の事情も分かるが、われわれも無理強いするわけにもいかない」と話す。

 問題は、加賀市民病院にとどまらない。県立病院を除く県内の公立病院で産科がある8病院のうち、7病院が一人医長だ。

 昨夏、やはり産科医が辞め、一時休診した市立輪島病院。産科医を確保するため、同病院の勤務医全員の報酬をあげて、ようやく産科医を招き入れた。珠洲市総合病院の産婦人科医は定年後、再任用された医師で、今年が最後の任期。波佐谷兼綱院長は「将来のことを考えると不安でならない」と明かす。

 開業医が多く、地方にあっては比較的医師が多いとされる金沢市周辺。だが、県医師会によると、市内に27ある産婦人科のうち、18医院が分娩を取り扱っていない。うち7医院は開業時から、取り扱っていない。

 産婦人科医で、県医師会の中村彰理事(地域医療担当)は「金沢市の産科も実はギリギリの状態で保たれている」と指摘する。

(以下略)

(朝日新聞 石川、2006年5月30日)


南信州新聞社:「院内助産院」勧める意見も

2006年05月31日 | 飯田下伊那地域の産科問題

****** コメント

2次医療圏内に高リスク妊娠・分娩をきちんと管理できる基幹病院が存在し、その基幹病院がきちんとバックアップする体制のもとで、低リスク妊娠・分娩を扱う産科一次施設が地域内に多数存在するのが理想の姿であることは間違いないだろう。

しかし、現実の地域周産期医療の現場の姿は、低リスク妊娠・分娩を扱う産科一次施設がどんどん閉鎖されるのと同時に、高リスク妊娠・分娩を扱う基幹病院もどんどん閉鎖されて、地域内の産科施設がすべて消滅する現象が日本各地で起こっているのだ。

いくら「院内助産院」を作ったとしても、バックアップする基幹病院が地域内に存在しなければ、いざという時には母児の命が失われる大惨事をどうすることもできない。いざという時に命の危機に全く対応できないようなシステムを作り上げても、それが地域のためになるとは思えない。

地域周産期医療滅亡の危機にある今、滅亡の危機を何とか回避するために、今は何を優先すべきか?今は何を実行しなければならないのか?をよくよく考えてみる必要がある。

****** 南信州サイバーニュース、5月30日

「院内助産院」勧める意見も

 松川町の下伊那赤十字病院(櫻井道郎院長)の分娩再開を切望する「心あるお産を求める会」(松村道子会長)主催、上伊那郡境7町村と南信州新聞社など後援のシンポジウム「産む安心を求めて」は、このほど約200人が出席して松川町民体育館で開いた。この日は現況報告、行政の対応、意見交換、総合討論などを行い、最後に「良い子育てができる地域づくり」へのアピールを採択した。

 シンポジウムの前段では、同会が活動経過を報告。続いて、竜口文昭松川町長が県、国、日赤本部などへ医師確保を要請した経過を報告した。一方、4月から分娩を休止した同病院の櫻井院長は「産科医師がひとりになってしまい、やむなく分娩を休止した。この地域で産院再開を期待する住民は多く、お母さん方のこうした活動が実を結ぶことを願っている」と語った。

 シンポジウムは県衛生部の鳥海宏医療医監、信大医学部の小西郁生教授、福岡県春日市の大牟田智子助産院院長、廣瀬健上田産院副院長、植田育也小児科医師の5人のパネリストが「産む安心を求めて」をテーマに、それぞれの立場で意見を発表した。

(中略)

 上田産院の廣瀬副院長も「産院の集約化で母親の不満は強い。私も安全のためといって、上田に行った。が、安全とは医療との連携であり、搬送システムを確立すれば助産院でも充分対応できる」とし、助産師による院内助産を勧めた。

(以下略)


医療タイムス社:上田市産院・廣瀬副院長 産科の集約化を非難

2006年05月30日 | 地域周産期医療

コメント

日本の多くの地域が、地域内に分娩できるところが全く見つからない産科空白地域となって、それが急速に拡大しつつあるのが現状です。

この飯田下伊那地域でも半年間で産科施設が半減してしまい、今は産科医療滅亡の危機に直面しています。この問題を、地域内の一つの病院、一つの自治体だけで、すべてに対応しようとしても絶対に無理です。でも、地域全体でしっかりと協力体制を組んで、少ない医療資源を最大限に有効利用すれば、もしかしたら何とかなるかもしれません。

この地域全体の医療が崩壊してしまっては何にもなりません。これからは、下伊那赤十字病院の医師、助産師とか、飯田市立病院の医師、助産師とか、言っているような場合ではないと思います。この飯田下伊那地域の医師、助産師という意識をもち、地域として対応していくことが非常に重要と考えています。

これから、産科医療を取り巻く状況はますます厳しくなっていくと思いますが、この地域でお産難民を出さないことが大切です。そのためには、地域全体でよく話し合い、地域内での協力体制を築き上げてゆくことが非常に重要だと思います。

参考:公的病院での分娩再開を求める運動について

******

医療タイムス社、日刊タイムスFax、2006年5月3日
(発行元に当ブログへの記事転載の承諾を得ました。)

上田市産院・廣瀬副院長 産科の集約化を非難  ~松川町で産科医不足シンポジウム 

 産婦人科医不足を考えるシンポジウムが27日、松川町で開かれた。松川町では下伊那赤十字病院が4月からお産の取り扱いを中止しているが、地元の市民グループなどは同院の産婦人科再開を強く求めている。シンポジウムでは産科を集約化せざるを得ない現状が報告された一方、集約化に疑問を呈す産婦人科医の声もあった。

 シンポジストの県衛生部医療チーム医療医監の鳥海宏氏は、昨今の産科閉鎖問題について「産婦人科医が増えなければ根本的には解決できない」との見方を示した上で、医療側としては、産科医の労働条件の改善、医療訴訟への対応、診療報酬での手当て、女医のバックアップシステムの構築などが必要とした。

 信大医学部産科婦人科学教室の小西郁生教授は、出産時のリスクは「ヘルプ症候群」や「エコノミー症候群」などがあり、「低いとは言えない」との見解を表明。「どうしても高次医療のサポート体制が必要。一概に集約化とは言えないが、みなさんに辛抱してもらわざるを得ないこともある」と産科施設の集約化に理解を求めた。

 また、小西教授は、今年度、産婦人科教室に3人の新人を確保できたことも紹介。「産科はやり甲斐があることを訴えていきたい」と今後も入局者のリクルート活動に力を注ぐ方針を示した。

 一方、諏訪赤十字病院から廃院の危機に直面していた上田市産院の副院長に転出した廣瀬健氏は、産科医療の集約化に失敗したイギリスの事例を説明しながら、「安全な出産のためには集約化が不可欠であるとの主張に根拠はあるのか」と集約化に強い疑念を提示。その上で助産師と産婦人科医間の自立性の尊重と協働、情報の共有、搬送システムの整備などによって「出産に伴う危険に対応する環境を向上できるはず」との持論を展開した。

(タイムスFAX、医療タイムス社、2006年5月30日)


日本医学会会長:『妊婦さんは喫煙しないでください』

2006年05月30日 | 地域周産期医療

http://mric.tanaka.md/2006/05/25/_vol_14_mric.html

http://www.lohasmedia.co.jp/

妊婦さんは喫煙しないでください

日本医学会会長
高久史麿

 福島県立病院の産婦人科医が帝王切開の患者さんを死亡させ、3月に逮捕・起訴されたことを覚えていらっしゃると思います。新聞などで、逮捕・起訴に対して全国の医師たちが反発していると報道されましたが、医師たちが何を憤っていたのかという背景まで理解しておられる方は少ないかもしれません。

 実は、地方では、お産を支える体制が崩壊しつつあります。

 そもそも出産は本来的に、母子とも身体生命の危険があるものです。そして異常出産だと、間違いなく患者さんや家族が医師を訴えます。このため、開業医がお産を引き受けなくなってきており、地域の中核病院に患者さんが殺到しています。

 一方、地方では中核病院といえども、産科医が1人か2人しかいないことが少なくありません。起訴された医師も1人で頑張っていました。忘れていけないのは、お産に昼も夜もないことです。産科医が1人しかいなければ毎日当直をすることになりますし、2人いても2日に1回は当直です。医師も人間ですから、せめて1施設に3人いないと体を壊してしまいます。

 小児救急についても同じことが言えますが、とにかく医師を増やす必要があります。けれど残念ながら、激務のうえに訴えられる危険が高いということで、産婦人科を希望する学生が激減しています。

 厚生労働省は、施設ごとの医師数を増やすために、拠点を選んで医師を集中しなさいと言っています。裏返すと、医師のいなくなる施設を作りなさいということです。自治医大でも、2人以下の体制の病院からは医師を引き揚げさせてもらいました。

 結果として、市民病院なのに市民がお産できなくなるようなことが起きます。今でも少子化が叫ばれているのに、さらに少子化を進めてしまいかねません。

 問題を食い止めるためには、国と日本産科婦人科学会などの関連学会が早急に何らかの方策を取る必要があります。私が必要だと思うのは、医師に過失がなくても事故の際に患者へ補償が行われる無過失補償制度の創設と、賠償金の上限設定です。このようなことに関して、日本医学会は産科婦人科学会をバックアップしたいと考えています。

 患者さん側にも、産婦人科医の負担を減らすためにできることがあります。妊娠を考えている女性は、喫煙をやめてください。胎児の重要な臓器は、妊娠に気づかないくらいの早期に形成が始まっており、喫煙は早産・流産のリスクを高める最大の要因の一つです。飲酒もリスクを高めます。やめるのは生まれてくる子供のためです。お願いします。


新潟日報:守れるか「地元でお産」

2006年05月29日 | 地域周産期医療

****** コメント

この新潟県の地元紙の記事を読んで、新潟県においても産婦人科医不足はかなり深刻な状況にあることがよくわかった。新潟市の下越病院、上越市の新潟労災病院、糸魚川市の糸魚川総合病院などなど、県内各地域の中核的な病院が相次いで分娩受け入れ困難な状況に追い込まれているようである。

****** 新潟日報、2006年5月25日

守れるか「地元でお産」

専門医が激減 確保に奔走

 今月19日。糸魚川市が開いたマタニティースクールで、妊婦たちが母乳育児の利点を学んでいた。熱心に聞いていた同市本町の安田ケイ子さん(30)は8月、同市の厚生連糸魚川総合病院でお産を予定している。

 「赤ちゃんの来る日が楽しみ」とほほ笑むが、不安もある。同市の産婦人科で出産を受け入れているのは同病院だけだが、医師を派遣する富山大が、現在2人いる常勤医を来年度から1人に減らすことを決定。「お産のできる産婦人科」は、存続の危機にある。

 「糸魚川でお産ができなくなったら、親せきもいない上越市に行って産まなければならなくなる」と安田さん。

 医師を引き上げる理由として富山大医学部の斎藤滋教授は「産婦人科医のなり手が激減した。医師の勤務希望が都会に集中していることも大きな要因」と話す。2004年度に導入された臨床研修制度の影響などもあり、同大の産婦人科医局への入局は3年間ゼロ。20人いた同科の医師は11人にまで減った。

 産婦人科医不足は全国的な傾向だ。新潟市の下越病院や上越市の新潟労災病院が今月末で出産受け入れを停止するなど、「産科」撤退が県内でも相次ぐ。佐々木繁県医師会長は「昼夜を問わないハードな勤務と訴訟リスクの高さで、医学部の学生に産婦人科は敬遠されがち」と指摘する。

 斎藤教授も「教え子を1人医長にして、負担やリスクを一身に負わせることはできない」と強調。医師1人を残す代わりに、新たに1人を独自に確保するよう同病院に求める。病院側は県内外の大学などに打診、医師探しに懸命だ。

 糸魚川市も「市内で出産できなくなれば、過疎化に拍車が掛かる」と危機感を強める。現在も快適な施設を求めて市外のクリニックで出産を選ぶ志向は強く、出産件数は5年前の6割に。市は妊娠から産後ケアまで、糸魚川総合病院と連携したサポート体制をPR、地元出産を呼び掛ける。

 産科の「空白」を埋める人材として注目されているのが、女性医師だ。産婦人科医は他科に比べて女性の割合が高いが、出産や子育てで現場を離れる例も少なくない。

 この4月、新潟大医歯学総合病院に職場復帰した産婦人科医、木戸直子さん(28)は九カ月の息子を育てている。医師の激務がこなせるのは、当直の免除など子育てへの配慮があるからだ。

 「元気な赤ちゃんが生まれれば疲れも吹っ飛ぶ」と笑顔で仕事のやりがいを話す木戸さん。「子育て支援があれば、全国から女医が集まるはず。病院への託児所設置など環境づくりを考えては」とアドバイスした。

 県内の産婦人科医 厚生労働省の調査によると、県内の病院と診療所に勤務する産婦人科医は、2004年で141人。1994年の175人と比べ、19.4%減となった。人口10万人当たりの医療施設に勤める医師数(2004年)も、全国平均の8.0人に対し、本県は5.8人と大きく下回っている。

(新潟日報)


加西病院:産婦人科医、来月からゼロに

2006年05月28日 | 地域周産期医療

****** コメント

『公立・公的病院の産婦人科は常勤医師3名以上を原則とする!』という内容の緊急提言が、最近、日本産科婦人科学会より公表された。従って、今後は、常勤の産婦人科医が1~2名の病院の産婦人科はほとんどが廃止され、一部の病院が常勤の産婦人科医3名以上に増員されて残ってゆくことになると考えられる。

現状では、年間分娩件数120件の病院に産婦人科医を3名以上配置することは到底できるはずがないので、この病院が産婦人科廃止の対象となってしまうのも止むを得ないことなのかもしれない。

参考:

緊急提言(日産婦委員会):ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う病院は3名以上の常勤医を!

****** 毎日新聞、2006年5月28日

加西病院:産婦人科医、来月からゼロに 出産医療継続を要望、2万人署名提出/兵庫

 ◇市連合婦人会、2万人署名提出

 加西市立加西病院(山辺裕院長)は6月から、産婦人科の出産医療を休止することを決めた。同科の常勤医師2人が今月末で他の病院に異動し、後任が決まっていないことが理由。市内には出産できる施設は他になく、今回の事態を受けて市連合婦人会(板井ちさ代会長)のメンバーらは26日、市役所を訪れ、出産医療の継続を求める署名2万812人分を中川暢三市長と山辺院長に提出した。

 同病院ではこれまで、神戸大から派遣された医師が同科の診療に当たり、年間約120人が出産してきた。しかし全国的に深刻化する医師不足を理由に、神戸大は今年度の派遣を見送った。同病院の強い要望により、婦人科の外来診療は非常勤医師が週1回行うが、産科については再開の見通しが立っていない。ホームページ上でも産婦人科医を募集しているが、応募者はないという。

 同病院は、院内の掲示板や市の広報誌を通じて出産医療の休止を市民に伝える一方で、入院患者には小野市や西脇市への転院を促してきた。

 これに対して、出産医療の継続を要望する同婦人会のメンバーらはこの日、市役所を訪れて、市民や市外に住む同病院利用者から集めた署名簿を提出。板井会長は「出産は緊急性が高く、時には母子の生命にかかわる事態もある。市内唯一の産婦人科の存続は全市民の願いです」と訴えた。

 受け取った中川市長は「要望を無駄にしないよう最大限努力する」と応じ、山辺院長も「医師不足は北播磨地域の全公立病院が抱える問題だが、診療体制を再構築するため、今後も医師の確保に努める」と話した。【松田栄二郎】

(毎日新聞、2006年5月28日)


公的病院での分娩再開を求める運動について

2006年05月28日 | 地域周産期医療

****** コメント

昨日、地域住民主催のお産を考える集会に一般参加して来ました。会を主催されている方々には、是非とも以下の資料を熟読していただきたいと思い、参考のために引用させていただきます。

>  3. 地域医療担当者に対する指導:集約化前倒策、地域医療計画策定時の現場の産婦人科医を含む医療関係者の意見重視、(一部の地区の行政担当者、公的病院管理者が大学産婦人科に対して、「社会的責任」と称して過酷な勤務条件のまま派遣要請を続けて責任を転嫁する事例が続発している。)

今まで複数の産婦人科医が勤務し分娩を取り扱っていたのに、同僚の産婦人科医が辞めてしまって産婦人科医がたった一人だけになってしまった場合は、その残った先生が分娩取り扱いの中止を決意するのは当然のことだと思います。

このような状況下で、地域の住民が集会を開催して、地域の産科を取り巻く現状と今後の対策を話し合うことは非常に大切なことだと思います。しかし、自治体の長や病院長なども一緒になって、「産婦人科医と助産師がいるんだから、地域住民のために、ここは一肌脱いで、分娩をぜひ再開してほしい。」などと、一人残った産婦人科の先生にプレッシャーをかけるとしたら、それは非常に好ましからざる事態だと思われました。

産婦人科医一人だけの(麻酔科医も小児科医もいない)公的病院で、地域で唯一の産婦人科医として、地域のすべての分娩を一人で取り扱うのは、まあ、今までは日本中でごく普通のことだったのかもしれませんが、今後は絶対に止めてゆかねばならないことだと思っています。

もしも地域から産婦人科医が一人もいなくなってしまったら、近くで妊婦検診も受けられなくなってしまうし、子宮がん検診なども近くでは受けられなくなってしまいます。その先生が地域に残ってくれたことに心から感謝し、その先生が妊婦検診や子宮がん検診などを地域で実施してくださっていることに心から感謝して、地域で唯一の産婦人科医を大切に大切に守っていかねばならないと思います。

参考:緊急提言(日産婦委員会):ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う病院は3名以上の常勤医を!

*************

5月23日に日本産科婦人科学会が厚生労働大臣に提出した資料
http://www.jsog.or.jp/about_us/html/shiryou_24may2006.html

                  平成18年5月23日
           日本産科婦人科学会理事長
                                                   武谷雄二

      我が国の産科医療の現状・問題点・対策
―日本産科婦人科学会(以下、学会)の立場から

1.現状認識:我が国の産科医療水準は現時点では依然として極めて高いレベルで維持されているが、産婦人科医の絶対数の減少と若い年代での女性医師の占める割合の急激な増加により、これまでどおりの産科医療提供体制を維持することは事実上不可能な状況に陥っている。

①地域の基幹病院で、勤務産婦人科医数の実質的著減が起きている。
②分娩の約半数を取り扱ってきた有床診療所において、分娩取扱を中止する施設が増加している。
③助産師は病院施設に偏在しており、有床診療所では非常に少ない。

2.問題点と対策:産婦人科学の発展と産婦人科専門医養成に責任を有する学会の立場から、産婦人科の新規専攻医の確保を重視する観点で、問題点とその対策について述べる。

(ア)医療紛争問題:訴訟リスクの高さが産婦人科専攻を考慮する際の最大の障害。

①中立的医療紛争処理機構の創設:
② 「無過失補償制度」の早期創設:「分娩時障害による脳性麻痺」及び「妊産婦死亡」を対象とすることを希望する。

(イ)地域産婦人科医療提供体制の迅速な整備:安全確保を前提とした医療提供体制の合理化、病院勤務医の勤務条件と待遇の改善、初期・後期研修の充実、研修後の多様な進路保証、有床診療所経営の安定化。

①病院産婦人科医療の迅速かつ広範な、自治体・公立・公的病院の枠にとらわれない集約化の推進:

  1. 地域医療の組織化、基幹病院集約化と施設あたり産婦人科医数増加の同時実現 が必要。病院産婦人科の勤務条件を他の診療科とほぼ同等にする。
  2. 離脱しつつある産婦人科医をとどめるため、待遇面での誘導 が必要。
  3. 地域医療担当者に対する指導:集約化前倒策、地域医療計画策定時の現場の産婦人科医を含む医療関係者の意見重視、(一部の地区の行政担当者、公的病院管理者が大学産婦人科に対して、「社会的責任」と称して過酷な勤務条件のまま派遣要請を続けて責任を転嫁する事例が続発している。)

②病院産婦人科医の勤務条件と待遇の改善:

  1. 集約化する基幹病院の迅速な定員増と人員確保策の推進
  2. 勤務医に対する労働内容に応じた報酬。
  3. (保育所整備等を含む)適切な医師勤務条件を整備した医療機関に対する診療報酬加算等の導入。

③分娩料の引き上げを可能にする条件の整備:

  1. 出産育児一時金の大幅な引き上げ(60万円程度)。地域所得格差を考慮した地域独自の付加的な出産一時金の創設。里帰り分娩に対する地方側の負担軽減策の導入。
  2. 地域の公的・公立病院における分娩料設定に関する自立性を促進するための制度整備、地方自治体に対する指導。

(ウ)助産師養成数の大幅増加を可能とする助産師教育研修制度の改正:


読売新聞:医療事故 摘発どこまで

2006年05月27日 | 報道記事

****** コメント

今回の事例(福島県立大野病院事件)に関しては、日本産科婦人科学会、日本産婦人医会をはじめとして、全国医学部長・病院長会議、日本医師会、日本医学会など、ありとあらゆる日本の医師の団体がこぞって、「医療ミスはなかった、正当な医療行為であった、逮捕は不当であった」と主張しています。

最近は、マスコミの論調も変わってきて、この医療事故に関する限り、「医療ミスは存在しなかった、逮捕は不当であった」というニュアンスの報道がほとんどとなってきつつあります。

このような状況でありながらも、検察側は裁判を長引かせて、あくまでも加藤医師を有罪にしようと、最後の最後まで頑張り抜くというのでしょうか?

癒着胎盤は、非常にまれながら、一定の確率で必ず誰かに発生します。私自身、産科医療に従事する限り、いつ癒着胎盤に遭遇するか全く予想もできません。癒着胎盤の治療の難易度は非常に高く、必ずしも全例で救命できるとは限りません。もしも、この裁判で加藤医師が有罪となるようであれば、産科医療に従事すること自体が刑罰に値すると断罪されたも同然で、そんなことになれば、多くの産科医が産科医療から一斉に離れていくことになるでしょう。

検察が今やろうとしていることは、産科医療だけにとどまらず、日本の医療そのものを根本から破壊しようという非常に無謀な行為だと思います。

真実は誰の目にも明らかになってきたと思うのですが、実際の裁判のゆくえは、裁判官の考え方次第で決まりますから、最終的な判決がどうなるのかは全く予断を許しません。国民みんなが、この裁判の動向を注視してゆく必要があると思います。

****** 読売新聞、2006年5月24日

検察官 第5部 あすへの模索

医療事故 摘発どこまで

医療界は「現場萎縮」反発

 1人の医師の逮捕が大きな波紋を呼んだ。

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に女性(当時29歳)が失血死した医療事故。執刀した産婦人科医(38)が今年2月、福島県警に逮捕され、3月10日に業務上過失致死などの罪で起訴された。

 「大量出血は予見できたはずで、無理に胎盤をはがすべきでなかった。医師の判断ミスだ」。福島地検次席検事の片岡康夫(48)は、起訴の理由をそう説明した。

 「女性は医師を信頼していたのに、麻酔で何も分からないまま亡くなった。この事実は軽視できない」と、被害者感情にも触れた。

 医療事故で医師が逮捕されるのは異例だった。また、同病院で産婦人科医はこの医師1人で、年間約230件の出産を手がけていた。

 「事件は産婦人科医不足という医療体制の問題に根ざしている。医師個人の責任を追及するのは、そぐわない」。日本産科婦人科学会などは逮捕・起訴を強く批判した。

              *

 年間1万件以上とも推計される医療事故死で、近年、医師個人の刑事責任を問う事件が増えている。警察庁のまとめでは、警察から検察への送致件数は1997年の3件から昨年は91件に増加。医療事件の判例に詳しい元福岡高検検事長で弁護士の飯田英男(67)によると、医療事件の起訴件数(略式含む)は、98年までの約50年間は137件だったが、99年から6年間79件に上る。

 増える一方の事件を処理するため、東京地検は02年4月、刑事部に医療専従班を設けた。しかし、昨年から今年にかけ、東京女子医大事件と杏林大病院割りばし死事件で、相次いで医師に無罪が言い渡された。

 東京地検で薬剤エイズ事件の公判を担当した検事の青沼隆之(51)は言う。「医療事故は、非常に立証が難しい。だが、事故が起きた時の原因や責任を追及する制度が整っていない現状で、悪質な過誤やカルテ改ざんを前に、我々が手をこまぬいているわけにはいかない」

              *

 「医療現場は常に死や傷害と隣り合わせ。専門知識に乏しい警察や検察に、罪となる医療を過不足なく判断する能力があるとは思えない」。昨年4月、虎の門病院泌尿器科部長の小松秀樹医師(56)は、最高検の「医療事故等研究会」に講師として招かれ、医療事故捜査を批判した。最高検が昨年、研究会を設置した背景には、「捜査は医療現場を萎縮させるだけで、再発防止に役立たない」という医療界からの指摘があった。

 欧米では、医療事故に基本的に刑罰を適用しない代わりに、第三者機関などが独自に原因を調査し、医師に免許はく奪を含む処分を厳しく行っている。対照的に、日本では、医師の行政処分は、刑事事件で罰金以上の刑が確立した場合などに限られてきた。

 こうした刑事司法頼りから脱却しようと、厚生労働省は02年12月、刑事裁判の確定を待たずに、処分する方針に転換。昨年9月からは、治療中に起きた不審死について、第三者の医師や弁護士が死因究明と再発防止策を検討するモデル事業を実施している。

 東京女子医大事件で二女(当時12歳)を失った平柳利明さん(55)は、「捜査で医療界の隠ぺい体質には変化が生じたが、原因究明には限界も感じた」と話す。飯田は「捜査機関とは別に専門医が調査し、その結果に基づき行政処分するシステムができれば、検察が扱うべき事案は、患者取り違えのような悪質なものに限られる。今はその過渡期だ」と分析する。

 「重大事件が相次ぎ、医療不信が高まる中、検察は遺族感情に突き動かされて刑事罰を積極的に適用してきた。しかし、すべてを刑事事件にするのがいいのかどうか」。ある検察幹部は、揺れる胸の内をそう語る。刑事司法がどこまで医療事故に踏み込むべきか。最高検の研究会は明確な結論を出せないでいる。

(検察官、弁護士の敬称略)

以上、読売新聞、2006年5月24日


日本医師会ホームページ:小児救急医療の現状とその対応策

2006年05月27日 | 地域周産期医療

日医白クマ通信 No.409、2006年5月25日(木)

石井常任理事らが川崎大臣と懇談
―小児救急医療の現状とその対応策について―

 小児救急医療に関する厚生労働大臣との懇談会が、5月24日、厚労大臣室で開催された。

 当日は、日医から石井正三常任理事、師研也日本小児科医会長、別所文雄日本小児科学会長、小児科の女性勤務医らが出席し、小児救急医療の現状とその対応策について、意見交換が行われた。

 石井常任理事は、「小児救急医療を含む周産期医療に係る医師の過重労働の蔓延と常態化が大きな問題になっており、新しい世代の医師が同分野への参入を敬遠するという二次的な影響も顕著となっている」と、医療現場の現況を説明。「この問題は、少子化社会対策の根幹であり、周産期医療の整備・確保を放置したままに、いかなる施策を立案しても、実効性は確保されない」と強調した。

 産科、小児科医師を確保するために打ち出されている、集約化・重点化の問題に関しては、「各地域にガイドラインと選択肢を与えたと理解している」と指摘。「地域にはそれぞれの事情があり、地域医師会を中心として実情を検討し、小児科医の確保策として集約化が有効であれば選択すべきである」との見解を示した。

 今回の医療制度改革のなかで、「救急医療等確保事業」ごとの医療連携体制や医師等の医療従事者を確保するための協議会が法制化される予定となっていることについては、「地域の医療提供体制、医療連携体制は、その地域医療の担い手を代表する医師会が中心となって構築されるべきである」と改めて主張。「同協議会の場でも、医療確保の取りまとめは地域の医師会がしっかりと関与しなければならない」とした。

 最後に、総合的な少子化対策、救急医療のあるべきヴィジョン、小児救急医療の見地から、医師会・行政、立法府をも交えた早急な懇談と方向付けを決定することが喫緊の課題であると結んだ。

 出席者からは、「患者さんのQOLの向上だけでなく、医師のQOLの向上も同時に考えなくては、周産期医療における過重労働、女性医師の就労環境等の問題は解決しない」などの意見が出された。

 川崎二郎厚労大臣からは、主に医療機能の集約化についての質問があり、石井常任理事は、「地域の実情に応じた施策が重要であり、集約化したあとのヴィジョンを示していくことが必要」と指摘した。


読売新聞:日本の制度不備を痛感 大野病院事故 医師逮捕に驚きの声

2006年05月26日 | 報道記事

****** 読売新聞、2006年5月26日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/feature/20060526ik04.htm

医療安全 米国報告

(4)日本の制度不備を痛感

大野病院事故 医師逮捕に驚きの声

 「えっ、それで医師が逮捕されるの?」

 ワシントンの政府系医療機能評価機関の主任研究員、デボラ・クイーンが驚きの声を上げた。日本の福島県立大野病院で今年2月、帝王切開の手術中に女性患者(当時29歳)が失血死し、産科医が逮捕された事件を説明した時のことだ。

 「医療過誤に刑事罰はなじまない」「逮捕の基準、異状死の届け出の基準が不透明だ」という医師団体などの従来の主張に、「たった1人の産科医が不在になれば地域医療が崩壊する」という要素が加わり、医療従事者の間で波紋が広がっている。

 ――そうした日本の事情を説明すると、クイーンは混乱した表情で、こう口にした。「なぜ、そんな分かりにくい制度や状況を放置しているのですか」

 同じ言葉を、多くの医療関係者から聞いた。

                  ◎

 米国では、医療事故が刑事事件になることはきわめてまれだ。

 病院での不審な死については、具体的な届け出の基準があり、専門職が解剖の適否を判断する。解剖して初めて医療過誤が発覚した場合も、検察側に連絡する義務はなく、通常は担当者の判断に任せられるという。解剖結果の情報は基本的に閲覧が可能。民事訴訟に使うことができ、州ごとのボード(専門家委員会)がこの結果を判断材料にすることもある。

 大野病院の例のほか、患者の取り違え事故、先端技術を駆使した手術でのミスなど、日本で刑事処分の対象になるケースの対応について、医療制度に詳しいボルティモア大のアラン・ライズ教授に尋ねると、「医師は免許を失い、民事で訴えられるだろう」という答えが返ってきた。

 米国の行政処分は厳しい。2000年の統計では、約70万人の医師のうち、免許取り消し1642人、免許停止745人、戒告・けん責1014人。免許取り消しだけでも日本の過去35年の累計の33倍に当たり、医師数が日本の3倍弱であることを考慮しても多い。

 「行政処分が日本の刑事処分に近い懲罰的な意味を持っている。それでも『医師に甘すぎる』という国民感情がある」と、ライズ教授は付け加えた。

                  ◎

 日本では、「医療事故だけを業務上過失致死罪から除外する理由はない」とする法曹界と、反発する医療界の“溝”が埋まらない。

 昨年、法医学、病理、臨床の3者が解剖と検証、評価を行うモデル事業が始まったが、過失の評価や公表の方法について明確な基準を出せずにいる。

 「なぜ、県ごとにボードを作らないのですか。警察に頼らない事故検証と懲罰の仕組みを作らなければ、医療はダメになりますよ」。自由主義を掲げ、規制の強化には基本的に反対の立場であるはずの民間研究機関「ケイトー研究所」の担当者でさえそう懸念するのを聞き、日本の制度設計の遅れを強く感じた。(敬称略)

(2006年5月26日  読売新聞)

読売新聞: 医療安全 米国報告

(1)患者との和解導く「謝罪」(2006年5月23日)

(2)プロ意識保つ“分業制” (2006年5月24日)

(3)消費者の力で変える (2006年5月25日)

(5)実名公表支える横の連携(2006年5月29日)


日本産科婦人科学会が厚生労働大臣と意見交換・医療紛争解決に中立機関を要望

2006年05月25日 | 地域周産期医療

日本産科婦人科学会ホームページ

http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_24MAY2006.html

                                                              (平成18年5月24日)

                                       お知らせ

昨日(5月23日)午後5時過ぎより約1時間40分に亘り、厚生労働省大臣室に於いて、川崎二郎厚生労働大臣と産科関係者による産科医療に関する意見交換が行われ、本会から武谷理事長が出席されました。懇談会は川崎大臣の挨拶、産科関係者6名による意見陳述、自由議論の順で進行され、活発な意見交換が行われました。

武谷理事長より、産婦人科医師不足の現状、世界に誇る日本の周産期医療レベル、ハイリスク妊娠の増加、産科医の過酷な労働環境、訴訟リスク、医師法21条問題等に関して意見を述べられました。その中でも特に最近の産婦人科医師逮捕、起訴の事例の産科医療に与えた衝撃の大きさから無過失補償制度の早期創設及び医事紛争処理機構として中立的第3者機関の設置を要望致しました。

川崎大臣からは、診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業、診療報酬、集約化等につき質問があり、産科関係者との意見交換が行われました。最後に川崎大臣より産科の方が小児科よりも一層深刻な状況であるとの認識が示された後、国民に対し産科医療に関わる行政の方向性につきメッセージを出すことが確認されました。

(本会の提出資料及び懇談会の参加者につきましては添付ファイルをご参照下さい。)

社団法人 日本産科婦人科学会
広報委員長 稲葉憲之

****** 提出資料
http://www.jsog.or.jp/about_us/html/shiryou_24may2006.html

                  平成18年5月23日
           日本産科婦人科学会理事長
                                                   武谷雄二

      我が国の産科医療の現状・問題点・対策
―日本産科婦人科学会(以下、学会)の立場から

1.現状認識:我が国の産科医療水準は現時点では依然として極めて高いレベルで維持されているが、産婦人科医の絶対数の減少と若い年代での女性医師の占める割合の急激な増加により、これまでどおりの産科医療提供体制を維持することは事実上不可能な状況に陥っている。

①地域の基幹病院で、勤務産婦人科医数の実質的著減が起きている。
②分娩の約半数を取り扱ってきた有床診療所において、分娩取扱を中止する施設が増加している。
③助産師は病院施設に偏在しており、有床診療所では非常に少ない。

2.問題点と対策:産婦人科学の発展と産婦人科専門医養成に責任を有する学会の立場から、産婦人科の新規専攻医の確保を重視する観点で、問題点とその対策について述べる。

(ア)医療紛争問題:訴訟リスクの高さが産婦人科専攻を考慮する際の最大の障害。

①中立的医療紛争処理機構の創設:
② 「無過失補償制度」の早期創設:「分娩時障害による脳性麻痺」及び「妊産婦死亡」を対象とすることを希望する。

(イ)地域産婦人科医療提供体制の迅速な整備:安全確保を前提とした医療提供体制の合理化、病院勤務医の勤務条件と待遇の改善、初期・後期研修の充実、研修後の多様な進路保証、有床診療所経営の安定化。

①病院産婦人科医療の迅速かつ広範な、自治体・公立・公的病院の枠にとらわれない集約化の推進:

  1. 地域医療の組織化、基幹病院集約化と施設あたり産婦人科医数増加の同時実現 が必要。病院産婦人科の勤務条件を他の診療科とほぼ同等にする。
  2. 離脱しつつある産婦人科医をとどめるため、待遇面での誘導 が必要。
  3. 地域医療担当者に対する指導:集約化前倒策、地域医療計画策定時の現場の産婦人科医を含む医療関係者の意見重視、(一部の地区の行政担当者、公的病院管理者が大学産婦人科に対して、「社会的責任」と称して過酷な勤務条件のまま派遣要請を続けて責任を転嫁する事例が続発している。)

②病院産婦人科医の勤務条件と待遇の改善:

  1. 集約化する基幹病院の迅速な定員増と人員確保策の推進
  2. 勤務医に対する労働内容に応じた報酬。
  3. (保育所整備等を含む)適切な医師勤務条件を整備した医療機関に対する診療報酬加算等の導入。

③分娩料の引き上げを可能にする条件の整備:

  1. 出産育児一時金の大幅な引き上げ(60万円程度)。地域所得格差を考慮した地域独自の付加的な出産一時金の創設。里帰り分娩に対する地方側の負担軽減策の導入。
  2. 地域の公的・公立病院における分娩料設定に関する自立性を促進するための制度整備、地方自治体に対する指導。

(ウ)助産師養成数の大幅増加を可能とする助産師教育研修制度の改正:

****** 出席者について(写真あり)
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/shussekisha_H18_5_24.pdf

「shussekisha_H18_5_24.pdf」をダウンロード

****** 参考記事:

地域周産期医療の現場で、我々が今なすべきことは何だろうか?


日本医師会ホームページ:茨城県医師会 萎縮医療に陥らないために

2006年05月25日 | 大野病院事件

日医白クマ通信 No.397、2006年5月15日
http://www.med.or.jp/shirokuma/no397.html

茨城県医師会 萎縮医療に陥らないために(概要)

 座談会「萎縮医療に陥らないために―困難な症例には対応しなくなる恐れ」が開催される。(概要)

 帝王切開による出産に際して、大量出血を生じ患者が死亡した責任を問われ福島県立大野病院産婦人科医師が逮捕された事件は医療界ばかりでなく社会的にも大きな波紋を投げかけました。

 医療を担う医師が外来診察中に逮捕されたことは、医療関係者に、最善を尽くしても犯罪者にされる恐れがあるという不安感を抱かせ、リスクを回避するために困難な症例には対応しなくなるという萎縮医療に陥る危険があります。

 茨城県医師会では、座談会「萎縮医療に陥らないために」を、5月10日、茨城県医師会館で開催しました。出席者は、泉 陽子茨城県保健福祉部医監兼次長、野口雅之筑波大学基礎医学系(病理)教授、藤原秀臣土浦協同病院長、小松 満茨城県医師会副会長(司会)、石渡 勇茨城県医師会常任理事、小沢忠彦茨城県医師会常任理事の6名でした。

 以下は、そこでの議論の抜粋です。

「このたび起きた産婦人科医師逮捕のような事態を避けるためには、医師法21 条の解釈を明確にする事はもちろんであるが、診療行為に関する死亡事故については、直ちに警察に届けるのではなく中立的な第3者機関にて検討する仕組みを作る必要がある」

「現在、茨城県でも実施されている『診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業』のような機関が有効ではないか」

「医師が萎縮医療に陥ることを防ぐためには、不可避的であった医療事故の場合、責任を医師個人に負わせるのではなく、病院組織全体として共有し、バックアップしていく体制がもとめられ、医師に責任が無くても、初期の目的に反して患者が不幸な転帰をたどった場合には 、国が補償をする「無過失補償制度」の創設が必要である」等の意見がありました。患者と医療機関との不毛な対立を解消するためには、茨城県医師会が全国に先駆けて創設した「医療問題中立処理委員会」が有効であろう等の意見交換が行われました。

文責:茨城県医師会副会長 小松 満
問い合わせ先:茨城県医師会 TEL:029-241-8446

******

日医白クマ通信 No.401、2006年5月18日
http://www.med.or.jp/shirokuma/no401.html

茨城県医師会◆座談会「萎縮医療に陥らないために」(抜粋)

 5月10日、茨城県医師会で行われた座談会「萎縮医療に陥らないために」の模様(抜粋)をお伝えします。(No.397で、概要は既報)

1.福島県立大野病院産婦人科医逮捕事件について
 福島県立大野病院産婦人科医師の逮捕刑事起訴は医療界に大きな衝撃をもたらした。医療を担う医師が何ら事前の連絡もなく、外来診療中に犯罪者の如く逮捕された。起訴理由は、第1に業務上過失致死(刑法第211条)と、第2に医師法違反(医師法第21条異状死の届出義務)である。

 外科系・産婦人科系諸団体より猛烈な抗議声明と当該医師および支援団体への支援が展開され、マスコミも大きく報道している。大学関連病院で産婦人科が一人しかいない132の施設では、分娩からの撤退を余儀なくされ、分娩医療機関の減少および重症患者・救急患者の受け入れが困難となり、萎縮医療に陥っている。

 問題は医師法21条の解釈である。医師法21条は昭和23年7月に制定されたものである。当初の立法趣旨は「医師が犯罪の発見と公安の維持に協力すること」であった。

 茨城県医師会は「福島事件に対する抗議声明文」を出すと共に、日本医師会に「異状死の定義(警察への届出が必要な症例の特定)と中立的異状死判定機関の創設」を求める要望書を提出した。

<異状死に関する各学会の解釈>
(1)「異状死」ガイドライン:日本法医学会/平成6年5月

 診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの。注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中、または診療行為の比較的直後における予期しない死亡。診療行為の過誤や過失の有無を問わない。

(2)診療に関連した「異状死」:(社)日本外科学会声明/平成13年3月
 日本法医学会のガイドラインに対する抗議声明である。

(3)「診療行為に関連した患者の死亡・障害の報告」についてのガイドライン:外科関連10学会協議会/平成14年7月
 何らかの重大な医療過誤の存在が強く疑われ、または何らかの医療過誤の存在が明らかであり、それらが患者の死亡の原因となったと考えられる場合には、診療に従事した医師は、速やかに所轄警察署への報告を行うことが望ましい。

(4)中立的専門機関の設置 19学会/平成16年9月30日
 医療行為に関連した患者死亡の届出を受け、死体解剖を含めた分析と検証を行う中立的専門機関の設置が必要であり、その創設を速やかに実現するため、19学会が結集して努力すると決意。

(5)それを受けて、厚労省で「医療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を開始したと受け止められる。

2.医療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業について
 厚労省が推進するモデル事業で平成17年9月より開始された。全国(東京・大阪・愛知・兵庫・茨城・新潟)で15件の取り扱いがあった。しかし、従来通り、医師法21条の解釈があいまいなまま警察への届出が本事業よりも優先され、法医・病理・臨床医による解剖と死因の究明さらに事故防止対策というこのモデル事業の役割が生かされていない。

3.無過失補償制度について
 脳性麻痺と無過失補償制度創設に関しては日本医師会前執行部が取り組んだ。現執行部もこれを引き継ぎ、国会議員、地方議員などに設立への働きかけをすることになっている。産婦人科医療は脳性麻痺を主とした紛争・医療裁判が多く、臨床研修医及び医学生が産婦人科を志望しない要因となっている。当面、脳性麻痺を先行するが将来は全医療を対象とする。社会保障制度が充実した北欧は既にこの制度を取り入れている。

4.茨城県医療問題中立処理委員会について
 医事紛争の中には患者側の誤解により発生するものもある。現在、医事紛争が発生した場合、会員の要請により医師会内に医事紛争処理委員会が開かれているが、外部から見れば、医療側に偏っているとの誤解を受ける可能性がある。特に、患者側にとっては、医療側に過失ありとの裁定がなされた場合でも満足できず、ましてや過失がないとの裁定の場合は、度重なる要求も起きている。まず、紛争を解決するために、患者側・医療側双方が胸襟を開いて真摯に話し合い、互いの誤解を解くことができる場(中立委員会)を設けることが必要であり、茨城県医師会が中心となり、全国に先駆けて「茨城県医療問題中立処理委員会」を立ち上げた。今後の成果が期待される。

文責:茨城県医師会常任理事 石渡 勇
◆問い合わせ先:茨城県医師会 TEL:029-241-8446


市立加西病院、西宮市立中央病院などの分娩取り扱い中止

2006年05月24日 | 地域周産期医療

地域周産期医療の現場で、我々が今なすべきことは何だろうか?

****** 神戸新聞、2006年5月16日

分娩医療休止へ 市立加西病院

 加西市立加西病院(山邊裕院長)が六月から、産婦人科の入院患者の受け入れと分(ぶん)娩(べん)医療を休止することが、十五日までに決まった。現在の医師二人が他の病院へ移り、後任のめどは立っていないため。市内に産婦人科医療施設はなく、市連合婦人会(板井ちさ代会長)は「市内で唯一子どもが産める場所をなくさないで」と署名活動を始めた。(末永陽子)

 同科ではこれまで、神戸大から派遣された医師二人が診察に当たっていたが、五月末で他の医院へ移ることが決定。市と病院側は、大学に後任医師の派遣を強く求めているが、現時点では見通しは立っていない。婦人科系の診察は今後、非常勤医師が週一回の回診で対応する方針だが、出産については事実上の休診となる。病院は現在の患者らに直接伝達し、市の広報紙を通じても市民に通知。出産を控えた患者らには、近隣の病院への転院などを勧めている。ホームページ上などでも医者を募集し、分娩医療の再開を目指すという。

 事態を受けて、市連合婦人会は今月から、これまでの診療体制の継続を求める署名活動を開始。市内の商業施設などで署名を呼び掛け、月内にも中川暢三市長に提出する計画。板井会長(66)は「婦人科系には多様な病気があり、妊婦だけが患者ではない。遠方に行くのは体力的に大変だから、と署名する高齢者も多い」と話す。

 山邊院長は「訴訟件数の多い産婦人科を選ぶ専門医は少ない。さらに、臨床研修制度の変更で、一万五千人の医者が二年間は勤務医をすることができず、婦人科医不足は全国的な問題になっている。引き続き医師の派遣を求めていくので、理解してほしい」と説明している。

利用者増に水さす

 分娩医療を休止することが決まった市立加西病院の産婦人科は二〇〇四年、「選ばれる産婦人科」を目指して、出産患者を対象にアンケートを実施。結果を基に、アロマセラピー(芳香療法)や週に一度のディナー入院食を実施するなどして、利用増を図ってきた。

 〇五年度の患者数は前年度比百二人増の七千百五十人(一日平均二十九人)に上るなど、患者数は増加傾向をみせていただけに、利用者らからは「市内での評判も良くなっていたのに…」と嘆く声が上がっている。

 東・北播磨地域では、公立病院の産婦人科医不足が深刻化。現在、社総合(加東市)、三木市民が分娩医療を休止しており、小野市民は昨年五月末で科を閉鎖。高砂市民も六月から休診を決めている。

 ただ、他の市と違って加西市内には個人の産婦人科医院がないため、女性たちは唯一の出産の場所を失うことになる。署名をした市内の主婦(33)は「どんなに近い病院でも車で三十分はかかる。車中出産の可能性などを考えると、加西では子どもを産めなくなる」と不安げに話していた。

(神戸新聞、2006年5月16日)

****** 神戸新聞、2006年2月8日

産婦人科の入院休止 西宮市立中央病院

 西宮市林田町の市立中央病院は七日、産婦人科の入院患者の受け入れと手術を四月以降、当面の間休止すると発表した。常勤医師三人が全員、本年度末で退職するため。市は「外来診療は従来通り続ける」としているが、現時点で確保しているのは非常勤の医師一人。診療時間の短縮など影響は必至だ。

 同病院によると、産婦人科の患者数は、一日当たり外来が四十数人、入院が十数人。

 常勤医はいずれも兵庫医科大学(同市武庫川町)から派遣されているが、本年度末で同病院を退職し、同大の付属病院に戻る。現在入院している患者は今後、兵庫医大などに転院してもらう。

 二〇〇四年の臨床研修制度の導入に伴い、大学卒後、併設の付属病院ではなく外部で経験を積む新人医師が増え、全国の大学病院で医師不足の傾向がみられる。兵庫医大でも派遣している医師の呼び戻しを決め、新規派遣も見送っている。

 市は兵庫医大に新たな医師の派遣を要請しているが、前向きな返事は得られていない。中央病院管理部は「現在の外来診療が持続できるよう、何とか医師を確保したい」としている。

 同病院では、同様の理由などで耳鼻咽喉科が〇五年三月から休診している。

(西井由比子)

(神戸新聞、2006年2月8日)

****** 神戸新聞、2006年5月17日

 産婦人科が大変なことになっている。医師の数が減り、地元で出産できない事態が各地で相次いでいるのだ。

 きのうの本紙北播版は、市立加西病院が六月から分(ぶん)娩(べん)医療を休む、と伝える。医師不足のためだが、市内には産婦人科の医療施設がほかにない。淡路版でも数日前、産婦人科病院や診療所がない淡路市の女性が明石などへ通う実情を報告していた。

 ことは特定の地域に限らない。本紙の地域版をめくるだけでも、小野、三木、高砂などの公立病院で産婦人科や産科が次々と看板を下ろしている。大都市圏も例外ではなく、西宮の市立中央病院が三月で分娩への対応をやめた。いったい産婦人科になにが起きたのか。

 医師の総数は増えたのに産婦人科医は減ってきた。不規則勤務や医療訴訟の多さが背景にあるようだ。これが理由の一つ。もう一つは若手医師の研修制度が変わり、大学の医局が人手不足になったこと。仕方なく関連病院の医師を引き揚げている。

 こうした要因が複雑に絡まりあっての現象である。小児科、麻酔科の医師不足と同様、構造的な問題といってもいいだろう。九〇年代に入り、地域の助産院や自宅での出産の魅力が見直されてきたとはいえ、数の上では病院・診療所を頼りにする人が圧倒的に多いから、及ぼす影響は大きい。

 きのうの新聞の一面には政府の少子化対策が載った。出産・子育ての費用負担を軽減するのも大事だが、安心して地元で出産できる医療体制がなくて、なにが少子化対策か。「お産格差」の解消にもっと知恵を。

(神戸新聞、2006年5月17日)


必修初期研修修了後の進路の動向

2006年05月24日 | 地域医療

従来は、医学部卒業後の新人医師の進路として大学病院で研修する者が多かった。そして、大学病院から医局人事で一般病院に医師が派遣され、大学病院は医師供給元の役割を長く果たしてきた。

しかし、新臨床研修制度によって、医学部卒業後に一般病院で研修する者が増え、必修初期研修の修了後も大学には戻らずに、そのまま一般病院で勤務する者の割合が増えてきたという調査報告が今回公表された。

必修初期研修修了後の進路の動向が、長期的に今後どのように変化してゆくのかは全くわからないが、大学病院が医師供給元の役割を果たし続けてゆくことが今後はだんだん難しくなってゆくことも予想される

****** 産経新聞、2006年5月24日

臨床研修医 3割、進路を変更 小児科希望は微増

 医師の新臨床研修制度の一期生として、今春、二年間の必修初期臨床研修を終えた研修医の三分の一が、研修中に進みたい診療科を変更していたことが二十三日、厚生労働省の中間まとめで分かった。厚労省は「進路を固めていない研修医は多く、診療内容に興味を持たせる研修の工夫が進路を分ける」とみている。

 調査は初期研修を修了した研修医約七千三百人に実施。二千五百人分(34%)について中間的にまとめた。

 研修修了後の進路割合は内科14・4%、外科8・5%、小児科8・4%、麻酔科6・4%、産婦人科4・8%、皮膚科3・9%など。平成十四年の医師調査時の二十歳代の医師の診療科別割合に比べ、約10ポイント減った内科以外は、大きな変化はなく、小児科は1・6ポイントの微増だった。

 勤務の忙しさが指摘されている診療科について進路変更の理由(複数回答)を分析したところ、小児科から他科へ進路変更した人の場合、他科に興味がわいた80・6%▽小児科が大変だと思ったから30・6%▽興味がそがれたから29・0%-だった。

 また、産婦人科については、あきらめた人と新たに希望した人がほぼ同数いた。

(以下略)

(産経新聞、2006年5月24日)


全国医学部長病院長会議声明

2006年05月23日 | 大野病院事件

全国医学部長病院長会議声明(全文掲載)

平成18年5月19日

                                                  全国医学部長病院長会議
                                                              会長 吉村 博邦

                             大学病院の医療事故対策に関する委員会
                                                           委員長 嘉山 孝正

                                   声 明

 平成16年12月に福島県立大野病院で腹式帝王切開術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が業務上過失致死および医師法違反の容疑で逮捕起訴された件について。

 はじめに、亡くなられた患者様とそのご遺族に対して謹んで哀悼の意を表します。

 本件に関し、手術を担当した産婦人科医師が業務上過失致死ならびに医師法違反の罪で起訴されたことに対し、医師養成及び教育に責任を有する医育機関およびその教育病院の責任者という立場から、本会議としても重大な関心を寄せております。

 本件は、癒着胎盤という、術前診断がきわめて難しく、治療の難度が最も高い事例であります。そのような症例に対する医療行為に対し、担当医師個人が業務上過失致死という刑事責任を問われるに至ったことはきわめて残念なことであり、今後、献身的に日夜医療に取り組んでいる多くの医師の善意を無にするとともに不安を助長することが強く懸念されます。

 本来、医療には予見できない合併症や、予見できたとしてもそれをはるかに凌駕するような重篤な合併症が起こることは避けがたいことであります。本会議は、今回の事件の事実経過ならびに地域医療の構造的問題の解明と共に、医療行為の結果次第で逮捕起訴されることのないよう、中立的な立場で適正な医学的根拠に基づいた判断の上で医療行為の是非を判定できるシステムの早急な確立が必要と考えます。

****** 

参考:毎日新聞:「医療判断制度を」医学部長会議が声明