ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

福島県立大野病院の医師起訴についての報道(3月10日)

2006年03月10日 | 報道記事

************* 私見

癒着胎盤の術前診断は不可能で、治療難度が最も高い産科疾患であり、対応が極めて困難であることは、多くの産婦人科専門医達が一致して主張しているところである。今回の症例は、たとえ高次医療機関であったとしても救命できたかどうかわからないと考えている。多くの専門医達が口をそろえて同様の主張をしているのに、なんで医学には全くの素人である地検検事が、「大量出血は予見できたはずで、予見する義務があった。判断ミスだった」などと断言できるのだろうか。

現時点では、癒着胎盤の術前診断が不可能である以上、今後、(少なくとも福島県では、)産科業務を継続することはあまりに危険すぎる。不可能なことを要求され、理不尽な逮捕が堂々とまかり通るようなところでは産科は消滅するしかない。

加藤医師不当逮捕・起訴の暴挙に対し厳重に抗議すると共に、微力ながら加藤医師への全面的な支援を表明する。

********** 読売新聞

帝王切開手術中に死亡、福島県の産婦人科医を起訴

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に同県内の女性(当時29歳)が出血性ショックで死亡した事故で、福島地検は10日、手術を執刀した産婦人科医師の加藤克彦容疑者(38)を業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪で福島地裁に起訴した。

 起訴状によると、加藤容疑者は、事前の検査で胎盤が子宮に癒着し、大量出血する可能性を認識していたにもかかわらず、本来行うべき子宮摘出などを行わず、胎盤を無理にはがして大量出血を引き起こしたとされる。さらに、医師法で定められた24時間以内の警察への届け出をしなかったとされる。

 この事件を巡っては、医師や関係団体が加藤容疑者の逮捕に抗議する動きを見せている。同県内の開業医らで構成する「福島県保険医協会」は3日、「(逃走や証拠隠滅の恐れはなく)逮捕は人権を無視した不当なもの」とする異例の抗議文を県警に送付。日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会なども抗議声明を出している。

 一方、同地検の片岡康夫次席検事は10日、「罪証隠滅の恐れがあり逮捕した。血管が密集しているところを無理にはがした。大量出血は予見できたはずで、予見する義務があった。判断ミスだった」と起訴した理由を説明した。医師法違反罪については「通常の法解釈をした。大量出血しており、異状死にあたる」とした。

(読売新聞) - 3月10日20時39分更新

********** 毎日新聞

帝王切開医療事故:産婦人科医を起訴 福島地検 

 福島県立大野病院(同県大熊町)で04年12月、帝王切開手術中の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、福島地検は10日、同院の産婦人科医、加藤克彦容疑者(38)を業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪で福島地裁に起訴した。

 起訴状によると、加藤被告は04年12月17日午後に帝王切開手術中、女性が胎盤をはがせば大量出血の恐れがある「癒着胎盤」と知りながら、子宮摘出手術などに移行せず、手術用はさみで胎盤をはがし、失血死させた。加藤医師は関係者に「こんなに出血があるとは思わなかった。医師として最善の努力をした」などと話しているという。【坂本昌信】

 ◇産科婦人科学会などが声明

 起訴を受け、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は連名で「本件は癒着胎盤という治療の難度が最も高い事例。全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に深く根ざしており、医師個人の責任を追及するにはそぐわない」との声明を発表した。
(毎日新聞) - 3月10日 21時36分更新

********** 共同通信

帝王切開の執刀医を起訴 福島県立病院医療事故で

 福島県大熊町の福島県立大野病院で2004年、帝王切開した女性=当時(29)=が死亡した医療事故で、福島地検は10日、業務上過失致死と医師法違反の罪で、執刀した医師加藤克彦容疑者(38)=同県大熊町=を起訴した。
 起訴状などによると、加藤被告は04年12月17日、帝王切開の手術を執刀した際、胎盤の癒着で大量出血する可能性があり、生命の危険を未然に回避する必要があったにもかかわらず、癒着した胎盤を漫然とはがし大量出血で福島県楢葉町の女性を死亡させた。また女性の死体検案を24時間以内に警察署に届けなかった。
 日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、加藤被告の起訴について「術前診断が難しく、治療の難度が最も高い事例で対応が極めて困難。産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に根差しており、医師個人の責任を追及するにはそぐわない部分がある」との声明を発表。

(共同通信) - 3月10日21時43分更新

福島産科医師不当逮捕に対し陳情書を提出するホームページ
http://www006.upp.so-net.ne.jp/drkato/index.htm


日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の抗議声明

2006年03月10日 | 大野病院事件

 声明

福島県の県立病院で平成16年12月に腹式帝王切開術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が、平成18年3月10日、業務上過失致死および医師法違反で起訴された件に関して、コメントいたします。

はじめに、本件の手術で亡くなられた方、および遺族の方々に謹んで哀悼の意を表します。

このたび、日本産科婦人科学会の専門医によって行われた医療行為について、個人が刑事責任を問われるに至ったことはきわめて残念であります。
本件は、癒着胎盤という、術前診断がきわめて難しく、治療の難度が最も高い事例であり、高次医療施設においても対応がきわめて困難であります。
また本件は、全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に深く根ざしており、献身的に、過重な負担に耐えてきた医師個人の責任を追求するにはそぐわない部分があります。

したがって両会の社会的使命により、われわれは本件を座視することはできません。

平成18年3月10日

 社団法人 日本産科婦人科学会
 理事長 武谷 雄二

 社団法人 日本産婦人科医会
 会長 坂元 正一


朝日新聞記事(福島)

2006年03月10日 | 報道記事

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県立病院医師逮捕/応援の提案応ぜず
2006年03月10日

 県立大野病院で04年12月、帝王切開手術ミスで女性(当時29)を死亡させたとして同病院の産婦人科医、加藤克彦容疑者(38)が業務上過失致死と医師法違反の疑いで逮捕された事件で、女性が大量出血した後、院長が加藤容疑者に対し、ほかの医師への応援要請の提案をしたが応じなかったことが、県警の調べでわかった。県警は、加藤容疑者が提案に応じなかったことが、医療過誤が起きた原因の一つとみて調べている。福島地検は拘留満期日の11日までに起訴する方針だ。

 医療関係者が05年3月に公表した事故報告書によると、04年12月17日午後2時過ぎ、手術が始まった際、手術室には加藤容疑者と、外科医1人、麻酔科専門医1人、数人の看護師がいた。その後の県警の調べで、作山洋三院長も、同日午後3時15分に輸血用血液を、いわき市の血液センターに発注した後に、手術室に入ったことも分かった。

 県警は、手術時の様子を捜査するため、複数の病院関係者から事情を聴いてきた。

 県警によると、女性の胎盤をはがし、大量出血が起きた後、手術室に入った作山院長が、加藤容疑者に、ほかの医師に応援を頼むことを提案したという。だが、加藤容疑者が提案に応じず、1人で手術を続けたという。これについて、複数の捜査関係者は「(加藤容疑者が)自分の技術を過信していたことが、医療過誤に影響したのではないか」などと話している。

 関係者の話では、加藤容疑者は手術前、大野病院と以前から連携している民間病院の産婦人科医に、緊急時に応援に来てもらえるように依頼していた。女性やその家族に対しても、この病院名を挙げて、もしもの場合は応援してもらうと説明していた。

 女性は、子宮に胎盤が癒着する「癒着胎盤」の状態だった。癒着胎盤をはがす際には大量出血するおそれがあるが、加藤容疑者は手術前、女性が癒着胎盤かどうかを、強く疑ってはいなかったという。

 県によると、加藤容疑者は、大野病院ではただ1人の産婦人科医だったが、癒着胎盤の手術経験はなかったという。加藤容疑者は弁護士に「あんなに血が出るとは思わなかった」などと説明しているという。

(以上、朝日新聞記事)

****** 大阪府保険医協会の抗議声明
http://osaka-hk.org/cgi/topics/s_news.cgi?action=show_detail&txtnumber=log&mynum=150

福島県立大野病院の産婦人科医師の逮捕に抗議する

■まず、はじめに今回の産科手術で亡くなられた患者さま並びにご遺族の方々には心からお悔やみ申し上げます。

■平成18年2月18日に福島県立大野病院の産婦人科医師が業務上過失致死と医師法違反容疑で逮捕されました。我々大阪府保険医協会は、検察および福島県警の不当逮捕に強く抗議するとともに、直ちに産婦人科医師を釈放することを求めます。

■大阪府保険医協会では30年前より産婦人科医療の問題点を列挙し、社会保障を充実させるべき責任を負っている政府が早急に改善すべきであると指摘してきました。

■地域医療を担ってきた医師個人の崇高な精神に甘え、産科医療を軽視した福島県、また行政改革の名で推し進められている政府の財政優先の国民医療軽視政策が招いた不幸な結果であると考えています。

■今回の問題も、個々の産婦人科医師の事例として矮小化することは許されません。

■いつ何時、危機的に急変するかもしれない産婦人科医療の特殊性を何ら配慮することもなく、産婦人科医師を24時間休まる暇もない1人医長という過酷な環境のまま放置し、不可避であったかもしれない今回の医療事故における最悪の結末を迎えたとたん、医師個人の責任に転嫁する姑息な福島県および県立病院の姿勢にも強く抗議します。

■医師としてリスクを最小限にする努力遂行の義務は当然のことですが、医療上行われた行為は、結果責任を犯罪として問われる類のものではないことは世界的にみても当然のことです。

■現在、産科医療で蔓延している結果責任の追及の風潮により、産婦人科医師の減少、産婦人科の閉鎖、分娩施設の減少、それによる労働環境の悪化、一層の産婦人科医師の減少という悪循環が現実に起こっています。また、他の診療科においても同様の事態が波及する危険性が高く、医学的根拠に基づかず結果責任だけを犯罪行為として裁けば、萎縮した医療が蔓延して国民医療は後退することは明らかです。

■我々はあらためて、刑事事件として扱われた今回の不当逮捕に対して強く抗議するとともに、産婦人科医師の一日も早い釈放と、荒廃しつつある医療の改善に向けての全面的な支援を表明いたします。

2006年3月9日
大阪府保険医協会第11回理事会

****** 新生児医療連絡会の声明
http://www.jnanet.gr.jp/htmls/seimei.htm

新生児医療を担う医師からの声明

はじめに、亡くなられた患者さんとそのご遺族に深い哀悼の意を表します。

福島県の県立病院で帝王切開術を担当した医師の逮捕について、平成18224日に日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会から共同声明が出されました。周産期医療を新生児の立場から支える新生児医療の専門集団としても、今回の逮捕の妥当性については疑問を抱かざる得ません。各地域における周産期医療の混乱を避ける責務のある本会としても、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の共同声明を強く支持します。

平成1839

新生児医療連絡会  長 堺 武男事務局長 楠田 聡

役員一同