ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

分娩施設における医療水準の保持・向上のための緊急提言 (日本産科婦人科学会)

2006年10月31日 | 地域周産期医療

公立病院の分娩料(自費料金)の改訂は議会の承認を要し、当施設(公立病院)の分娩料の設定も長く据え置かれたままです。分娩料の値上げの提案に対しては、少子化対策などの理由で反発が大きく、むしろ公共性から分娩料は値下げすべきとの主張もあります。

全国的に分娩施設が激減し、産科空白地帯がどんどん拡大しつつある現状において、地域内にちゃんとした周産期医療体制が存続し、地域の周産期医療がきちんと地域内で安定的に維持されてゆくことこそが真の少子化対策であるということを、市民、議会、市幹部などに理解してもらう必要があります。

****** 日本産科婦人科学会

分娩施設における医療水準の保持・向上のための緊急提言:

                   平成18年10月27日

                         会員各位

                 日本産科婦人科学会
         産婦人科医療提供体制検討委員会

分娩施設における医療水準の保持・向上のための緊急提言:

 我が国の産婦人科医療、特に周産期医療水準を保持・向上するため、以下の緊急の提言を行います。会員各位におかれましては、本提言の趣旨をご理解の上、何卒、迅速かつ適切なご対応と関係施設への働きかけをお願い申し上げます。

提言の理由: 「我が国の分娩施設数の推移(グラフ)」

 分娩施設の減少が進行している。厚生労働省による医療施設(動態・静態)調査および本学会・学会のあり方検討委員会調査の結果をまとめると右のグラフのようになる。1993年に4200施設以上存在した分娩取扱医療機関は、調査のたびに減少し、2005年には3000施設強になっている。この間、診療所の減少率は28%、病院の減少率は29%でほぼ同等の減少を示している(この期間の出生数の減少率は12%であり、分娩施設の減少の方がより迅速である。)。

分娩施設数減少の原因は、診療所と病院では事情が異なっている。
 分娩取扱を行う診療所の減少の背景として以下の問題が挙げられる。

  1)診療所医師の高齢化

  2)訴訟圧力の増大

  3)助産師雇用難と看護師内診問題

  4)医療水準維持のための経費増大とこれに応じた分娩料適正化が遅れていることによる経営難

 これに対して分娩を取り扱う病院が減少している背景には上記以外に以下の問題がある。

   1)病院において要求される医療水準の変化に起因する医師の労働量の増加と労働の質の変化(医師に要求される管理業務、事務業務が著増しているにも関わらず、それに対応するだけの増員がなされていない)

   2)産婦人科医師中の女性医師の割合の増加による実労働力の減少

   3)臨床研修の必修化に伴う業務の増大

   4)臨床研修の必修化に伴う新規専攻医師の2年間にわたる不在。その結果として産婦人科医師の減員。勤務の過酷化

   5)低水準の給与

   6)給与が勤務実態に即して支払われない硬直した給与体系

   7)中堅医師の退職・転職の増加

   8)個々の病院における産婦人科医師の消失

 このような厳しい現実の中で、分娩施設の確保のために、診療所に対しては経営改善のための支援が必要であり、病院においては産婦人科医師の勤務条件と待遇の改善が同時に進められなければならない。産婦人科医師の絶対数を増やし、他の診療科と同等の勤務条件とするのには時間がかかる。それまでは今現場にいて臨床を支えている産婦人科医師の士気を維持しなければならないからである。

 分娩を取り扱う診療所は多くの従業員を雇用しており、経営の安定は診療所維持のために必要不可欠である。そのためには(分娩は自由診療なので)分娩料を引き上げればよいとの議論がある。それは正論ではあるが、問題はそれほど単純ではない。複数の分娩施設への受診が可能な地域では、妊産婦にとって分娩料は施設選択の大きな要素の一つである。その際特に問題となるのが、地域における公立・公的病院の分娩料の問題である。公立病院の分娩料が病院経営の観点から設定されている施設は多くない。その変更には議会の承認を必要とする地域が多い。県立病院はすべて一律という県も多い。診療所が分娩料を適正化しても公立病院の分娩料が据え置かれれば妊産婦は相対的に公立病院にシフトする。公立病院が分娩数の制限を行えばよいのだが、住民サービスと病院経営を重視する病院・行政側はそれをなかなか許容しない。その結果は、公立病院の勤務医の勤務条件の悪化と診療所の経営状態の悪化である。診療所の分娩料の適正化は必要だが、公立病院の分娩料の適正化が先行して行われないと、期待した効果は得られないことになる。

 病院で、どう考えても合理的とは思えない硬直した給与体系に縛られて待遇改善が行われないのであれば、その現場から立ち去る医師が生じるのは避けられない。勤務実態、労働の内容に応じた給与、待遇を実現する必要がある。(ある給与体系が適切であるかどうかを判定するのは難しい。しかし、明らかに不合理、不平等な待遇では安定した人員確保は不可能である。)病院の経営状態が安定しているとは言えない状況にあることは確かだが、分娩料の適正化は、合理的な給与体系の導入と待遇改善に必要な財源の確保にもつながると考えられる。

 公立病院が分娩料を適正化すると、それは低所得層にとって出産しにくい環境を形成するので、少子化対策に逆行するという議論が生じる。このような議論では、安全な妊娠分娩管理を行うためには産婦人科医療提供体制がすべての地域で安定的に維持されていることが必要であることが考慮されていない。医療機関の経営状態の安定化と産婦人科医師の確保は、産婦人科医療の維持のために必要不可欠である。それが行われた上で、低所得層に対しては所得に応じた出産育児一時金の割り増し等の補助を行うことで、バランスをとることは可能と考えられる。また同様の議論で、分娩にかかる経費の増大は、少子化対策に逆行するというものがある。しかし、分娩にかかる経費を低く抑えることは、分娩取扱への医師及び医療関係者の新規参入を抑制する方向に働くとともに、分娩に係る安全の確保という観点からも、マイナスに働くと考えられる。分娩にかかる経費は、産科医療体制が安定的かつ安全に維持可能な水準以上でなければならない。その経費を個人が負担するかどうかは政策の問題であり、現行制度の範囲でも出産育児一時金の引き上げ等によって対応可能と考えられる。

以上の理由から、以下のような提言をすべての分娩施設に対して行うこととする。

1.すべての分娩施設は必要なスタッフを確保し、医療設備の向上に努めていただきたい。

2.分娩施設の責任者は、勤務している産婦人科医師の過剰勤務を早急に是正すべきであり、それが達成されるまでの過渡期においては、産婦人科医師の過剰な超過勤務・拘束に対して正当に処遇していただきたい。

3.上記を達成し、地域の周産期医療を崩壊させないためには、分娩料の適正化が必要である。

(日本産科婦人科学会、産婦人科医療提供体制検討委員会)


産科医不在地域 妊婦の宿泊・交通費に補助金 (産経新聞)

2006年10月30日 | 出産・育児

コメント(私見)

基幹病院に勤務する産科医が著減し、日本全国で産科空白地帯が広がっています。もはや、近くの病院にこだわるほど産科勤務医は残ってません。

産科空白地域となってしまった医療圏では、妊産婦が遠方の医療機関を利用せざるを得ません。交通の便の悪い地域では、出産が近づいたら、医療機関近くのホテルなどを利用せざるを得ない場合もあり得ます。厚生労働省は、その際の宿泊費や交通費を助成する制度を新設する方針を決めたとの報道です。

****** 産経新聞、2006年10月29日

産科医不在地域 妊婦の宿泊・交通費に補助金

 厚生労働省は28日、少子化対策の一環として、近くに産婦人科がなく、遠方の医療機関を利用せざるを得ない妊産婦が、出産が近づいて医療機関近くのホテルなどを利用する際の宿泊費や交通費を助成する制度を新設する方針を決めた。地方自治体との共同事業で、負担率や助成対象などは自治体が設定、国は最大半額を負担する。

 助成制度は妊産婦の精神的、経済的な負担を軽減するのが目的。

 モデルとなったのは、常勤の産婦人科医が不在となった島根・隠岐の島町の隠岐広域連合が、緊急措置として、予定日から4週間以内の妊婦を対象に実施したケース。隠岐広域連合では、松江・出雲両市に月ぎめアパートなどを確保し、妊産婦に無料で提供、交通費を本人1万5000円、家族1人につき1万円(最大3人まで)、滞在雑費などを負担している。

 同省では、隠岐広域連合の取り組みを評価し、全国的な離島対策とした制度を新設するため、平成19年度予算で、3000万円を要求していた。

 しかし、これでは、山間部など最寄りの医療機関まで1時間以上かかるような「無医地区」の住民は利用できず、与党の一部から「少子化対策事業」として、充実を図るよう求める声が続出。同省は、対象範囲を離島に限らない制度にすることをめざし、追加要求することにした。

 近くに産婦人科があるにもかかわらず、遠方の医療機関を選んで出産する場合は認めない。一方、妊婦本人だけでなく、付き添いの家族の宿泊費や交通費は補助対象に加える。

 こうしたガイドラインを策定し、それに沿って各自治体が(1)補助の割合(2)宿泊代・交通費などに上限を設けるかどうか(3)出産予定日の何日前からの宿泊を補助対象とするか-などの具体的な利用基準を決める。そのうえで、国が最大半額を負担し、残りは都道府県と自治体が負担する。

(産経新聞、2006年10月29日)


夜学で助産師資格の取得 (厚労省方針)

2006年10月28日 | 出産・育児

全国的に4年制看護大学の中で助産教育を行うようになって、各地で助産師養成校の多くが閉鎖されました。つまり、従来は看護師教育を受けたことが助産師養成校への入学条件であったのに、助産教育の中心が4年制看護大学にシフトされたことに伴って、従来からの助産師養成校の多くが閉鎖されてしまい、看護師から助産師に転身する道がほとんど閉ざされてしまいました。

昭和61年には全国に80校あった助産師学校および短大専攻科が、平成16年には33校と激減し、しかも47都道府県中23県にしか設置されていません。

現実の出産の現場で助産師数が圧倒的に不足しているのに、現場で経験を積んだ看護師が助産師に転身しようとしても、道がほとんど閉ざされてしまっている現在の状況には大きな問題があります。

そこで、厚生労働省は、産科の看護師が働きながら助産師の資格を取れるよう、夜間の助産師学校を全国に整備する方針を決めたとの報道です。

****** 中日新聞、2006年10月28日

夜学で助産師資格 看護師向け厚労省方針

 厚生労働省は産科の看護師が働きながら助産師の資格を取れるよう、夜間の助産師学校を全国に整備する方針を決めた。看護師による無資格助産をめぐって現場が混乱する中、速やかに助産師の数を確保し、安心して産める環境づくりにつなげたい考えだ。

 同省は2002年、分娩の進行具合をみる「内診」は医師か助産師しかできない「助産行為」に当たるとの解釈を示した。このため、助産師不足で看護師が内診をしていた診療所や中小病院に深刻な影響が生じ、日本産婦人科医会などは看護師の内診を認めるよう強く要望。こうした中、今月18日には愛知県豊橋市の産婦人科院長や看護師らが保健師助産師看護師法違反(無資格助産)容疑で同県警から書類送検される事態も起きている。

 現在の助産師学校はいずれも全日制で、現役の看護師が通うには休職するか退職するしかない。このため、各地の医師会立看護学校を活用し、新たに平日午後6時から9時までの助産師養成コースを設定。1年間で国家試験の受験資格が得られるカリキュラムとする。

(以下略)

(中日新聞、2006年10月28日)


医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (朝日新聞)

2006年10月26日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

当県の場合でも、県外の大学からの派遣医師で維持されていた病院の多くが、医師引き揚げにより分娩の取り扱いが中止となり、その周辺地域が産科空白地帯となってしまいました。今や、どの大学も、自県内の関連病院の維持だけでも非常に厳しい状況に陥っており、とてもじゃないが、他県の関連病院までは維持できないというところまで追い詰められてきています。

今回の妊婦死亡の報道を受けて、奈良県は、周産期医療体制を早急に整備するようにと県の内外から厳しく求められ、県外の関連病院への派遣医師を撤収することも検討し始めたとのことです。

医師引き揚げの対象となる病院では、新たに産婦人科医を集めることは非常に難しく、分娩の取り扱いを中止せざるを得ないと思われます。これによって、今、全国的にどんどん広がっている産科空白地帯が、さらに広がってしまうことになってしまいます。医師引き揚げの対象となる病院の周辺住民、自治体にとっては、まさに青天の霹靂、突然降ってわいた重大事件です。

関西圏のように、比較的面積の小さい県が密集していて、人口も多く、交通網が県境を越えて互いに複雑に入り組んでいるような地域では、それぞれの県単位で独立して周産期医療体制を完結させるのは非常に難しいのかもしれません。

お産ドミノ 医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (勤務医 開業つれづれ日記)

余波というより津波(新小児科医のつぶやき)

****** 朝日新聞、2006年10月25日

医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡

 奈良県大淀町の町立大淀病院で19病院に搬送を断られた末、妊婦が死亡した問題を受け、同県立医大から大阪や和歌山など県外の病院に派遣されている産科医を引き揚げる方向で、県が検討を始めたことがわかった。高度な治療が必要な妊婦と新生児を受け入れる「総合周産期母子医療センター」を早急に整備するためだが、深刻な産科医不足の中、引き揚げによって「お産の空白地帯」に陥る恐れがある地域に、動揺が広がっている。

 同センターは、厚生労働省が各都道府県に07年度中の整備を呼びかけているが、奈良を含む8県が未整備となっている。関係者によると、同センターは、県立医大付属病院(橿原市)の産婦人科が入る施設内に設置。母体・胎児集中治療室(MFICU)を現在の3床からセンター化の基準である6床に増床する。施設整備費は数千万円にのぼる見込み。

 同病院には産科医が15人程度配属されているが、増床などでさらに数人が必要になる見通し。全国的な産科医不足で新たな補充が望めず、同医大の医師派遣先となっている大阪府の東大阪市立総合病院や松原市立松原病院など、県外の関連病院約10カ所のうち、いずれかから引き揚げる案が県庁内では有力だ。

 大学の医局に所属する医師の人事権は通常、医局の教授が実質的に握り、人的つながりのある関連病院に派遣されてきた。県幹部の一人は「派遣先の医師が現状を理解して医大に戻ってきてくれるはず」とみる。

 一方で、関連病院の一つ、大阪府八尾市の八尾市立病院は4月、同医大から産科医4人の派遣を受けて昨年から中止していた分娩(ぶんべん)を再開。医大側も奈良からの急患を受け入れる県外の拠点として期待していたが、今回のケースで病院側は、新生児集中治療室(NICU)が満床との理由で受け入れ要請を断った。

 周辺の公立や私立の病院が医師不足で次々と分娩の取り扱いを中止し、患者が同病院に集中。分娩数は月約60件と昨年までの2倍に達した。病院幹部は「ここは地域の拠点病院。医師が引き揚げられたら地元の救急搬送も受けられない」。

 和歌山県新宮市の市立医療センターも医大から医師2人の派遣を受けている。地域で分娩できる唯一の病院で、年に約400件のお産を扱う。担当者は「都会と違って妊婦の転院ができない現状では、引き揚げの影響が大きすぎる」と漏らす。

(朝日新聞、2006年10月25日)


奈良の妊婦死亡、産科医らに波紋 処置に賛否両論

2006年10月25日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

産科では、しばしば胎児や母体の急変があり、緊急的な医学的対応を要する場合も非常に多くあります。

この病院の産婦人科の常勤医は六十代の医師が一人だけ(いわゆる一人医長)とのことですから、当然、昼間は外来、手術などでフルに働いて、夜は夜で、そのまま当直業務に突入しているわけです。次の日の勤務もありますから、夜の診療の合間合間にも、できるだけこまめに仮眠をとって体力を温存しながら仕事をしていかないと、体がもつはずがありません。おまけに、自病院では絶対に対処できない急変患者の受け入れ先が、いくら必死で探しても県内では全く見つからないというんでは、職場環境としては最悪だと思います。

同じような職場環境にある全国の産婦人科医達が一斉に職場放棄して辞めていったとしても何ら不思議ではないと思います。

早急に産婦人科医の集約化を実施して、産婦人科医がちゃんと普通に働ける職場環境をつくっていく必要があると考えられます。

参考:
産婦人科医療を安定的に供給する体制の提案

緊急提言:ハイリスク分娩は3名以上の常勤医を!

拡大産婦人科医療提供体制検討委員会配付資料

****** 朝日新聞、2006年10月23日

奈良の妊婦死亡、産科医らに波紋 処置に賛否両論

 奈良県大淀町の町立大淀病院で、重体となった妊婦が19病院に搬送を断られた末、脳内出血で死亡した問題が、お産の現場に波紋を広げている。今回の処置をめぐっては賛否両論が渦巻くが、医師不足が急速に進む中、昼夜を問わずに地域の分娩(ぶんべん)と向き合う産科医の悩みは共通する。出産時の幸福感との落差があまりにも大きい医療事故にどう対応していくか。県警の捜査が進むのを横目に、「担い手の減少に拍車がかかる」との懸念も膨らむ。

 ■捜査に不安

 「福島の事件とそっくり。複数の産科医がいれば診断ミスにつながらなかったかもしれないが、1人では体力、技術ともに限界がある」。関西の病院で常勤医が1人だけの「一人医長」を経験した産科医はこう明かす。

 福島県立大野病院で今年2月、帝王切開の手術中に胎盤をはがした結果、妊婦が大量出血で死亡したとして、30代の執刀医が業務上過失致死容疑などで逮捕、起訴された。医師は年間200件余の分娩を1人で担当していたとされる。

 大淀病院の場合も、60代の常勤医1人が奈良県立医大から派遣された非常勤の医師の応援を得ながら、月に十数件のお産を扱っていた。宿直勤務は週3回以上にのぼり、知人の医師らに「この年での宿直は相当きつい」と漏らしていたという。

 奈良県内では3月にも、大和高田市立病院で出産直後の妊婦が大量出血で死亡し、産科医が同容疑で書類送検された。今回、妊婦の受け入れを打診されたが、満床を理由に断った病院の産科医は「担当医なりに一生懸命やった結果、立件されるようでは、ますます産科医をめざす若者がいなくなる」と漏らす。

 ■処置に賛否

 死亡した妊婦は当初、頭痛を訴え、間もなく意識を失った。その1時間半後にけいれんを起こしたため、主治医だった常勤医は、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)によって起こる「子癇(しかん)」の発作と判断。脳の異常を疑わなかったとされる。「出産中に脳内出血を起こす例は1万人に1人程度。自分も子癇とみて治療を進めた可能性がある」と、奈良県内の50代の開業医は同情する。

 一方で、妊娠中は脳出血やくも膜下出血のリスクが高まるとされる。大阪市内の産婦人科医は「昏睡(こんすい)状態の時間が異常に長く、子癇の典型的な症状とは違う。頭痛と意識消失が重なったのなら、もっと早く脳内出血を疑ってもよかった」。

 前大阪大産婦人科教授の村田雄二・愛染橋病院長は「詳しい時間経過や症状、血圧の数値がわからないと医師の判断の是非は問えない。専門家の細かな検証が必要だ」と指摘する。ただ、脳卒中の専門医の一人は「重症の脳出血なら、早い処置でも救命できなかった可能性もある」とみる。

 ■行政への批判も

 他県より遅れている救急搬送体制の整備を急ぐよう提言する産科医も多い。奈良の産科医療に詳しい医師は「県は救急搬送を大阪の病院に頼り、県内の搬送システムの整備をおざなりにしてきた。怠慢を認め、県民に謝罪すべきだ」と憤る。

 同県五條市の開業医で、数人の妊婦を毎年、病院に救急搬送している後藤寛医師は「今回のケースで、どこも救急患者を受け入れないのでは、という不安がさらに高まった。高度な医療を必要とする妊婦と新生児を必ず受け入れてくれる総合周産期母子医療センターを一刻も早く整備する必要がある」と訴えた。

(朝日新聞、2006年10月23日)


公判概略について(06/10/19)

2006年10月24日 | 大野病院事件

周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページより

公判概略について(06/10/19)

10月11日(水)に開催された、公判前整理手続き(第4回)の報告

 福島地方裁判所において、午前10時より午後まで開催されました。

 今回も争点を絞り込むまでにはいたりませんでしたが、11月10日(金)、12月14日(木)に公判前整理手続きを行って、平成19年1月26日(金)、2月23日(金)、3月16日(金)に公判が開催されることに決定いたしました。

 今回も弁護側より「予定主張等記載書面」を福島地方裁判所刑事部に提出しました。その主なる内容について記載いたします。

1.本件における帝王切開手術時の子宮と胎盤の状態

 胎盤が妊娠37週の通常の円形板状で15cmから20cm程度であることと比較すると、形状が異なると同時に1.47倍から2.61倍であった。本件の胎盤は2つの部分に分かれる分葉胎盤様であり、内子宮口付近に付着していた部分には、胎盤の卵膜だけが存在し、胎盤実質は存在せず、子宮前壁に島状に存在していた。また子宮切開創には胎盤はなかった。

 胎盤の癒着は子宮前壁には殆どなく、その程度も軽いものであった。

 子宮後壁の癒着部分は、子宮後壁下部の右寄りのごく一部であり、その癒着の程度は、子宮筋層の表層の5分の1程度に絨毛が侵入している程度であり、陥入胎盤の中でも非常に軽い部類に属するものであった。

2.本件手術前における癒着胎盤の予見可能性

 本件は子宮前壁には癒着がほとんどなく、その程度も軽いため、大出血は生じ得ず、子宮前壁においては、そもそも本件訴因に示された結果が生じていない。術前に超音波検査やカラードプラ法を施行して癒着の可能性のないことを確かめている。子宮後壁は手術前の時点では子宮前壁や子宮内容物及び胎児が存在するため、超音波検査やカラードプラ法によって検査することは困難であること、MRI検査は子宮後壁の癒着胎盤の検査が不可能ではないが、偽陽性、偽陰性の確率が高く、程度の軽い癒着胎盤は術前に診断することは不可能に近いこと。

 検察側は前回帝王切開創痕に胎盤が付着しているので、帝王切開既往1回で子宮前壁(子宮の前回帝王切開創痕)に付着する前置胎盤の場合、約24%の高率で癒着胎盤の発生が認められるとしているが、本件では胎盤は前回帝王切開創痕にかかっていないため、約24%の高率で癒着胎盤が発症することはないこと(ちなみに、帝王切開既往1回で、前置胎盤で子宮切開創痕に胎盤が付着していない場合、35歳未満では癒着胎盤である可能性は3.7%である)。

3.本件手術中における大量出血の予見可能性及び結果回避可能性

 本件手術開始後、用手剥離困難になるまでの間、大量出血の予見可能性はなく、大量出血により死に至ることの予見義務は課せられない。

 胎盤剥離途中及び剥離直後の出血量についていえば、用手剥離開始直後の14時40分の時点での出血量は2000ml(羊水量込み)であった。また、胎盤娩出が終わったのちの14時52~3分の時点でも、出血量は2555ml(羊水量込み)である。この出血量は前置胎盤の患者にとってはごく一般的なものであり、通常予見する範囲の出血量である。さらに、本件患者は胎児及び胎盤が通常より非常に大きいため、羊水量が通常よりも多かったので、実際の出血量はもっと少ないものと思われる。

 したがって、胎盤剥離開始時点から完了時点までの出血量から、その後の大量出血を予見することはできなかった。

4.本件手術中における結果回避の可能性

 本件手術前及び手術中における予見可能性が認められないため、本来は、本件手術中の結果回避義務について論じる必要はない。しかし、癒着胎盤の剥離を中止する義務の有無についていえば、検察官は、胎盤が子宮に癒着していることを認識した場合、癒着の程度にかかわらず、直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出手術等に移行するべきであったとする。

 しかし、検察官が主張するように、どのような程度の癒着胎盤でも直ちに子宮の摘出を行っていたのでは、日本全国で本来摘出の必要がない子宮が摘出され続けることとなる。癒着胎盤であっても、その程度により大量出血を招来せずに胎盤を剥離できる場合の方が多いし、前置胎盤の場合には子宮下部の収縮不良により胎盤が剥がれにくいことが多く、その場合には出血も多いので、臨床的に癒着胎盤との区別を診断することは困難だからである。本件患者には子宮温存の希望があり、前置胎盤に由来する出血や胎盤剥離面からの出血に対する止血措置のためには、胎盤を剥離し、目視下で施術した方が有利であった。したがって、穿通胎盤との診断がなされていない限り、胎盤剥離の継続を選択し、その上で止血措置を行おうとすることは、当時の出血量からしても、本件手術当時の通常の産婦人科医の選択としてきわめて正当なものであり、結果回避義務違反があったとはいえない。

 なお、被告人は、本件患者について、15時5分に子宮摘出を決断し、16時30分、輸血の到着を待って子宮摘出手術を開始し、摘出手術は無事終了した。

 また、クーパーによる胎盤剥離の是非についていえば、検察官は、被告人がクーパーを使用して本件胎盤を剥離したことにより、出血量がさらに増加したと主張するようである。しかし、被告人がクーパーを使用して胎盤を剥離したのは、胎盤と子宮筋層の間に指が入らなくなったからやむを得ず行ったのではなく、胎盤の残置と子宮筋層への侵襲を可及的に減少させるためであり、それは手で剥離を続けるよりは有利な処置であり、出血量の増加を招く行為ではなかった。

 クラーク博士らによる著書 Cesarean Deliveryによれば、癒着が局所的な場合、絨毛が侵入しているところの簡単な切除、その場所を数カ所8の字縫合すること、または鋭利な掻爬は時として効果的であると記載してある。また、その他の文献にも同趣旨の記載が見られる。

5.医師法違反について

(1)罪刑法定主義違反による法律の違憲無効

 医師法第21条は、憲法31条に根拠づけられる罪刑法定主義に反しており、違憲無効な法律であり、違憲無効な法律に基づいて被告人を処罰することはできない。

(2)憲法第38条第1項違反

 医師法第21条は、憲法第38条第1項に反しており、違憲無効な法律である。違憲無効な法律に基づいて被告人を処罰することはできない。

(3)構成要件該当性について

 どのような場合に死体等に「異状」があると言えるのかについては、定まった解釈が存在しないし、検察官も充分な基準を示していない。したがって、構成要件該当性を論ずる基礎がない状態である。

(4)構成要件的故意について

 仮に、過失によって生じた死体に「異状」が認められると解釈するとしても、被告人は自らに過失があると認識していなかったため、被告人には構成要件該当行為の認識がなく、被告人は、本件患者の死後、作山洋三院長らと協議し、その結果として過失はなかったという結論に達しているからである。したがって、被告人には構成要件的故意がない。

(5)責任阻却事由について

 仮に被告人の行為が医師法第21条の構成要件に該当するとしても、被告人には違法性の意識の可能性がなく、その責任は阻却される。また、被告人は、本件患者の死後、作山洋三院長らと相談して、本件が医療過誤ではなかったという結論に達している。その結果、医療過誤でない場合には届出を行わないという厚生省のリスクマネジメントマニュアル指針等と同様の処理を行ったのである。厚生省という所轄官庁が告示している指針と同様の処理について、被告人が違法性を意識することは不可能である。したがって、届出を行わなかった行為について、被告人を非難することはできず、被告人の責任は阻却される。

 以上弁護団が主な主張や証拠をまとめた「予定主張等記載書面」です。これに対し、検察側から、10月末日までに、反論する回答が提出される予定になっています。

 今後弁護団側より、岡村州博(東北大学医学部産婦人科学)教授、池ノ上克(宮崎大学医学部産婦人科学)教授からの意見書と、中山雅弘(大阪府立母子保健センター検査科)部長より、子宮・胎盤病理の鑑定意見書を提出することになっています。

                             以上

平成17年10月18日

福島県立医科大学 産科婦人科学 教授

佐藤 章

****** 参考:

県立大野病院事件についての自ブログ内リンク集

公判概略について(06/7/28)

公判概略について(06/9/23)


細胞診

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

はじめに

通常行われる細胞診は、対象から採取された検体をスライドグラス上に塗抹後、固定、染色、鏡検して、細胞を形態学的に診断する病理形態学的診断のひとつである。細胞診の検体は、病変との対応のあり方により大きくふたつに分けられる。

ひとつは、腹腔内の病変由来の細胞を含む腹水や、腹腔→卵管→子宮腔→子宮頸部→腟の病変由来の細胞を含みうる後腟円蓋に貯溜する分泌物のように、ある広い範囲内の一部に存在する病変に対応するものであり、他のひとつは、ビラン・潰瘍の擦過物や腫瘤の穿刺検体のように、病変そのものに由来する細胞を含み、細胞診が病変と1対1に対応しうる確率の高いものである。

細胞診の検体採取にあたっては、採取法と得られる検体の病変との対応状況を考え、スクリーニングや診断の目的に沿った採取法を選択すべきである。

細胞診標本の鏡検においては、細胞採取法とスライドグラス上に存在する細胞所見から、主たる病変や随伴する病変の診断の可能性と内分泌環境のような全身的な変化の把握の可否を考慮しなければならない。

細胞採取法

(1)外陰
外陰は角化重層扁平上皮に覆われているので、表面の擦過は診断的意義が少ない。外陰にPaget病のようにビランや潰瘍の形成をみる場合には、生理食塩水で湿した綿棒やスパーテルによる擦過により細胞を採取する。

(2)腟
腟鏡診により腟粘膜に異常を認める場合は、当該部位より、綿棒またはスパーテルの擦過により細胞を採取する。

内分泌細胞診においては、腟鏡診下に、腟上1/3の側壁の綿棒またはスパーテルによる軽い擦過、あるいは、腟に貯溜している分泌物をスパーテルですくい取るように採取する。

後腟円蓋のプールに貯溜している腟内容の採取は、かつては細胞診の主流であったが、現在はほとんど行われていない。

(3)子宮頸部
早期の子宮頸癌および子宮頸部の前癌病変発見のための細胞診の重要性は、歴史的にもルーチンの医療行為としても確立されている。

子宮頸部の前癌病変や初期癌では、扁平上皮系の病変の頻度が高く、細胞診の主たる目的も、このような病変の発見にある。

子宮頸部の異形成、上皮内癌、微小浸潤癌の発生部位は扁平円柱上皮境界であり、当該部位の細胞が確実に採取されている場合には、標本上に外頸部由来の扁平上皮細胞頸管内膜由来の円柱上皮細胞の両者が観察される(どちらか一方の細胞を欠く場合は、診断に不適当な標本と判定される)。

細胞の採取は、内診、腟洗浄、その他の腟内操作の前に、腟鏡診下に行う。腟鏡診にて子宮腟部の大きさ、腟部ビランの範囲、扁平円柱上皮境界の状況を観察したうえで、適切な細胞採取器具を選択する。そして、扁平円柱上皮境界の部位に応じて、粘膜面を擦過して細胞を採取する。妊娠中の婦人にあっては、軟かい器具を選択すると出血が少ない。細胞を採取したらただちに塗抹・固定を行う。

(4)子宮体部(子宮内膜細胞)
子宮内膜の病変部位から直視下で細胞を採取することは、通常の診療では不可能であり、細胞採取は手さぐりの状況下で、吸引法または擦過法で行われる。子宮と採取器具との関係や子宮内膜病変部位との関係から、目的とする部位の細胞が採取されないことがある。

子宮内膜細胞の採取にあたっては、前もって内診を行い、子宮の傾・屈、偏位、子宮頸部と体部の大きさ、形を確認する。次いで、腟鏡をかけ、洗浄・清拭後子宮腟部を消毒し、マルチン単鈎鉗子で子宮腟部前唇を把持する。子宮ゾンデ診にて子宮頸管の太さ、長さ、子宮の位置、子宮腔の形、大きさ、腔内の病変部位、貯溜液等をさぐる。これにより対象に適した採取器具を選択する。また、外筒やチューブに付された目盛のいずれを指標にするかを決定する。次いで、採取器具を子宮ゾンデの挿入方向に従い静かに挿入、細胞を採取する。

i)吸引法
最近では、銀製の吸引チューブよりも、ディスポ吸引チューブがよく用いられる。充分な細胞量を得るためには、吸引回数は20回以上の操作がよく、チューブ抜去時は陰圧状態にしない。

ii)擦過法
本法に用いる器具は、頸管内細胞の混入をさけるため外筒内に装着のまま子宮腔内に挿入する。器具の先端が子宮底に達するか、外筒の目盛で挿入が完全であることを確認したら、外筒のみを目印まで引きもどし、採取器具の中軸を中心に回転させ擦過する。採取後は、採取部位を外筒に収納し、器具を抜去する。

(5)腹腔,卵巣の穿刺細胞診
腹水の細胞診を目的とした腹腔穿刺は、23~24G針付注射器を用い、モンロー・リヒテル線の中央で行う。超音波断層法ガイド下に行うこともある。採取した腹水には、フィブリンの析出を防ぐため、抗凝固剤(二重シュウ酸塩、EDTA、ヘパリン)を加える。

※Monro-Richter line:臍から上前腸骨棘に引いた線

近年、腹腔鏡の普及により、卵巣の穿刺細胞診が注目されるようになり、卵巣腫瘍の穿刺孔からの内容の漏出を防止する装置の開発と診断的意義の検討が行われている。

細胞の読み方

細胞標本をみる前に、検体の種類、検体の採取法と標本作製法、検査の目的、が何であるかを確認する。

鏡検時まず注意すべきことは標本の良否の評価である。細胞は適切に採取されているか、乾燥していないか、固定は良好か、塗抹の状態はよいか、染色はよいか、などをチェックする。

婦人科細胞診のみかたで重要なものは、性周期や内分泌環境の類推と前癌病変および悪性腫瘍由来の細胞の判定である。

以下の所見はパパニコロー染色による。

i)内分泌細胞診
腟側壁から採取された細胞標本には、重層扁平上皮由来の細胞が観察されるが、角化所見を呈する細胞、エオジン好性の細胞質の細胞や核濃縮を示す細胞の比率から、角化指数、好酸指数、核濃縮指数を求めたり、扁平上皮細胞100個あたりの傍基底,中層,表層の各細胞の比率から成熟度指数を計算し、内分泌環境の指標とする。

子宮内膜細胞診では、増殖期、排卵日周辺、分泌期の判定が可能である。

ii)腫瘍関連病変の細胞診
細胞の形態を観察するにあたり、ふたつの原則を知ることが必要である。

そのひとつは、核の形態はその細胞の活動性を、細胞質の形態はその細胞の機能的分化を反映しているということである。そして、細胞の活動性は、正常状態、退行状態、進行状態、悪性腫瘍状態に分類される。

もうひとつの原則は、生理的である正常状態にある細胞は、形態的に均一で規則性があり、円形傾向を示すことである。

a)正常状態
扁平上皮系の上皮細胞では、核は細胞質の中央にあり、球形または卵円形である。クロマチンは繊細で、均等に分布し、核小体は通常みられない。細胞質は均等、対称性で、分化状態により、淡いピンク色からうすい緑~青色に染まる。円柱上皮系の細胞では、核は基底部にあり、細胞の長軸に平行に配列し、卵円形ないし円形で、クロマチンは細顆粒状で、分布は均等である。細胞質は淡染で、空胞、繊毛を有するものがある。

b)退行状態
変性像である。核は大きくなり淡明化したり、小さくなり濃縮状で観察される。細胞質には、染色性の変化、核周囲淡明化や空胞化がみられる。

c)進行状態
この状態では、核は球状でやや大きくなり緊満しており、クロマチンは顆粒状で均等に分布し、核膜は薄く、緊張している。円柱上皮細胞では核小体がやや大きく明瞭となる。

d)悪性腫瘍状態
悪性腫瘍由来の細胞であることを判定する最大の基準は核所見である。

核の形が不整形となり、クロマチンの大きさ、分布が不整となる。核小体は大きく、数を増すが、細胞ごとに大小不同、形態のばらつきが大きい。核膜は肥厚したものが多いが、肥厚の程度が核の部位によって異る所見を呈するものもある。

核/細胞質比は、細胞における核の占める割合で、癌細胞では大きくなる。また分化度が低いほど大となる。

細胞相互の関係では、核の大小不同、核間距離の不整、細胞の極性の乱れがみられる。

iii)扁平上皮系病変
子宮頸部や腟壁の重層扁平上皮から採取された細胞には、傍基底細胞中層細胞表層細胞の三種がある。

これらの細胞の分化をともなったままの状態で、核の増大、核形が球~卵円形、一部不整で、クロマチンの増量、細顆粒状、一部不均等な分布を示す細胞をdysplastic cellと呼び、異形成由来と考えられている。また,HPV感染があればparakeratocytekoilocytesmudged 核などが観察される。

擦過法により採取された標本では、細胞の集塊に注意する必要があり、扁平上皮癌では大型の充実性集塊として観察されるものがある。

iv)腺上皮系病変
子宮頸部の円柱上皮や子宮内膜由来の細胞は、擦過法によりシート状、腺管状構造を保ったまま採取され、鏡検時にはその立体構造を思いうかべながら観察する。

子宮内膜増殖症では、子宮内膜腺細胞の核は葉巻状で長楕円形のものが多く、腺管の形態は複雑なものが多い。

腺癌由来の細胞集塊では、腺管状、篩状、乳頭状、索状、立体的不整形のものがあり、細胞の配列と構成細胞の形態から診断を進める。

v)非上皮性悪性腫瘍
女性性器の非上皮性悪性腫瘍は頻度が低いが、非上皮系細胞に異常をみとめたり、由来不明の異常細胞が観察されたら、本腫瘍の存在を疑ってみる。


細胞診、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Q31 内分泌細胞診でエストロゲン優位の指標とされる細胞はどれか。
a)表層細胞
b)中層細胞
c)傍基底細胞
d)基底細胞
e)予備細胞

解答:a

******

Q32 子宮頸部の細胞診で、検体がよいとされる標本にみられるのはどれか。3つ選べ。
a)扁平上皮細胞
b)化生細胞
c)円柱上皮細胞
d)組織球
e)細網細胞

解答:a、b、c

******

Q33 外陰疾患で細胞診が有用なのはどれか。
a)外陰白斑症
b)外陰萎縮症
c)外陰異形成
d)外陰Paget病
e)急性外陰潰瘍

解答:d

d) 細胞像は比較的特徴的で、大型の広い細胞質をもつ異型細胞がシート状の小集団として出現する。核は偏在し、細顆粒状で、肥大した核小体が認められる。ときに細胞封入像や細胞質内メラニン顆粒が認められる。

******

Q34 婦人科悪性腫瘍のスクリーニングに細胞診が最適なのはどれか。
a)外陰癌
b)子宮頚癌
c)子宮体癌
d)卵巣癌
e)卵管癌

解答:b

******

Q35 固定不良標本の原因で最も多いのはどれか
a)採取器具の不適
b)採取部位の洗浄
c)塗抹後の乾燥
d)採取部位の炎症
e)固定後の劣化

解答:c

******

Q807 ホルモン細胞診の記述のうち,誤りはどれか.
a)高エストロゲン環境では表層細胞が増加し、成熟度指数(Maturation Index : M.I.)は左方移動する
b)閉経後婦人の腟部細胞診にて多数の表層細胞を認めた場合、顆粒膜細胞腫や莢膜細胞腫の存在を考える必要がある
c)乳癌術後のタモキシフェン内服閉経後婦人において、腟部細胞診に多数の表層細胞を認める時がある
d)産褥期婦人の細胞診は、閉経後婦人の細胞診(旁基底細胞の増加)に類似することがある
e)閉経後婦人の腟部細胞診にて成熟度指数(M.I.)が右方移動を示す時、子宮内膜癌の存在も否定できない

解答:a

a)高エストロゲン環境では表層細胞が増加し,成熟度指数は右方移動する。

******

Q808 子宮頸部の扁平上皮病変について、誤りはどれか
a)軽度異形成はThe Bethesda System のlow grade squamous intraepithelial lesion: LSIL に相当し、Richart 分類(CIN 分類)の1 に相当する
b)中等度異形成はThe Bethesda System のhigh grade squamous intraepithelial lesion : HSIL に相当し、Richart 分類(CIN 分類)の2 に相当する
c)高度異形成はThe Bethesda System のHSIL に相当し、Richart 分類(CIN 分類)の3 に相当する
d)上皮内癌はThe Bethesda System のHSIL に相当し、Richart 分類(CIN 分類)の3 に相当する
e)微小浸潤癌はThe Bethesda System のHSIL に相当し、Richart 分類(CIN 分類)の3 に相当する

解答:e

******

Q809 human papilloma virus(HPV)について,誤りはどれか.
a)尖圭コンジローマから検出されるHPV は、大部分が6 型か11型である
b)HPV の感染細胞は、単核又は多核の合胞性の巨細胞となり、核内構造は特有のスリガラス状となる
c)70種類以上の遺伝子型に分類され、そのうちCIN には少なくとも20種類以上のHPVが同定されている
d)子宮頸部扁平上皮癌、上皮内癌は、主にHPV の16型,18型が関与している
e)HPV の感染細胞所見の特徴は,コイロサイトーシスとして表現される

解答:b

******

Q810 子宮頸部上皮内癌(CIS)の細胞所見で,誤りはどれか.
a)壊死性背景は認めない
b)細胞標本上に異形成の細胞は出現しない
c)基底・旁基底細胞に類似した深層型の悪性細胞が特徴的である
d)裸核の頸管腺細胞との鑑別を要する時がある
e)ライトグリーン好性でN/C 比が大である

解答:b


組織診、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

25歳未婚女性が細胞診クラス分類でⅢaで精査目的で来院し、コルポスコピーでSCJは確認され、モザイクの所見が得られた。
Q31 狙い組織診で図のごとくであった。病理診断はどれか。
a)軽度異形成上皮
b)中程度異形成上皮
c)高度異形成上皮
d)上皮内癌
e)微少浸潤癌

Cin2

Cin22

解答:b

上皮の下層2/3に異型細胞が見られるものを中等度異形成とする。写真は表層に著明なコイロサイトーシスを認め、中層ぐらいにまで異型細胞が出現している。表層に見られる大型核を持つ異型細胞はHPV感染によるものととらえる。したがって,本病変を高度異型とするのは病変を強くとらえ過ぎである。

a)軽度異形成上皮

Cin1

表層にコイロサイトーシスが見られるもの、上皮の下層1/3に異型細胞が見られるものを軽度異形成とする。

c)高度異形成上皮

Cin3

上皮の表層1/3にまで異型細胞が見られるものを高度異形成とする。クロマチンに富む核を持つ異型細胞が、表皮の表層1/3に及んで増殖している。表層の上皮は扁平化している。細胞密度が高く、核クロマチンの増量も認められる。

d)上皮内癌

Cis

核クロマチンの増量を伴うN/Cの高い癌としての形態学的特徴を有する異型細胞が、上皮の全層に見られるものを上皮内癌とする。

e)微小浸潤癌

Mic

Mic2

浸潤の深さ5mm以内、縦軸への広がり7mm以内の微小浸潤を示す扁平上皮癌。写真では癌が基底膜を破壊して浸潤性に増殖するため、癌胞巣周囲に間質反応を認める。

******

Q32 この患者の組織診断がCIN3であった場合の適切な処置はどれか。
a)細胞診の3カ月ごとの経過観察
b)円錐切除
c)子宮頸管内掻爬
d)組織診の再検査
e)単純性子宮全摘出

解答:b

******

Q33 子宮腟部擦過細胞診異常者のルーチーンの頸管内掻爬の目的はどれ
か.
a)HPV感染の検出
b)クラミジア頸管炎の診断
c)卵管癌や卵巣癌の検出
d)頸管内CINや腺癌の診断
e)体部癌の頸管侵襲の診断

解答:d

******

Q34 子宮腟部擦過細胞診異常者で円錐切除の禁忌となるのは。
a)コルポスコピー不適格症例
b)子宮頸管内掻爬で悪性細胞陽性の症例
c)細胞診と組織診が不一致例
d)微少浸潤が疑われる症例
e)肉眼的な癌の症例

解答:e

円錐切除術の適応
①細胞診断と組織診断の不一致例
②コルポスコピー不適格症例
③子宮頸管内掻爬で悪性細胞陽性
④微小浸潤癌を疑う症例
⑤浸潤癌の診断に疑問である症例

円錐切除の禁忌
①肉眼的に明らかな癌においては組織型や分化度を知るためにパンチ生検を行うが、円錐切除はむしろ禁忌である。
②強度の炎症所見を伴う感染症の場合、治療後に施行する。急性炎症期には出血の頻度が増すとされる。
③妊娠中は原則として行わない。ただし、微小浸潤癌を疑う場合や浸潤癌の鑑別が必要な場合はこの限りではない。できるだけ妊娠中期が望ましい。この場合破水に注意する必要がある。頸管深く切除することは避ける。

Q35 この患者が妊娠16週で、CIN3であった場合適切な治療は。
a)分娩まで細胞診にて経過観察する。分娩後円錐切除術を行う
b)毎月に組織診を行い浸潤開始を早期に診断する。浸潤の開始が疑われればただちに子宮摘出術を行う
c)病変の妊娠による進展を防ぐため、ただちに円錐切除術を施行する。その後、妊娠を継続する
d)妊娠中絶後ただちに円錐切除術施行し、次回の妊娠に備える
e)患者の生命を第一とする立場から妊娠子宮を単純性に全摘出する

解答:a


コルポスコピー

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

新コルポスコピー所見分類日本婦人科腫瘍学会2005

A) 正常所見 NCF

 1 扁平上皮  S
 2 円柱上皮  C
 3 移行帯  T

B) 異常所見  ACF

 1 白色上皮  W
    軽度所見 W1
    
高度所見 W2
       腺口型(腺口所見が主体の場合) Go
    軽度所見 Go1
    
高度所見 Go2

 2 モザイク  M

    軽度所見 M1
    
高度所見 M2

 3 赤点斑  P
    軽度所見 P1
    
高度所見 P2

 4 白斑  L
 5 異型血管域  aV

C) 浸潤癌所見 IC

 コルポスコピー浸潤癌所見 IC-a
 肉眼浸潤癌所見 IC-b

D) 不適例  UCF

 異常所見を随伴しない不適例 UCF-a
 異常所見を随伴する  UVF-b

E) その他の非癌所見 MF

 1 コンジローマ Con
 2 びらん Er
 3 炎症 Inf
 4 萎縮 Atr
 5 ポリープ Po
 6 潰瘍 Ul
 7 その他 etc

****** 問題と解答

問題013 新コルポスコピー所見分類(日本婦人科腫瘍学会、2005)で正しいのはどれか。
a)ヨード塗布試験が必須である。
b)移行帯は異常所見に分類される。
c)白色上皮は軽度または高度にgradingする。
d)白斑は異常所見から除かれた。
e)HPV感染所見を特別に分類する。

解答:c

b)移行帯は正常所見に分類される。

******

Q36 HPV 感染と関連の深いコルポスコピー所見はどれか.
1)×移行帯
2)×異型血管域
3)○白色上皮・微小乳頭型
4)○微小乳頭状病変
5)○コンジローマ

a)1-2-3 b)1-2-5 c)1-4-5 d)2-3-4 e)3-4-5

解答:e

******

Q37 コルポスコピー所見と細胞診クラス分類との組み合わせで正しいのは
どれか.
a)○白斑(軽度)……クラスⅢa
b)×赤点斑(高度)……クラスⅡ
c)×白色上皮・腺口型(軽度)……クラスⅤ
d)×びらん……クラスⅣ
e)×扁平上皮……クラスⅢb

解答:a

******

Q38 コルポスコピー所見と組織所見との組み合わせで正しいのはどれか.
1)○移行帯……扁平上皮化生
2)○白色上皮・扁平型(高度)……高度異形成
3)×モザイク(軽度)……微小浸潤癌
4)×不適例……浸潤癌
5)×コンジローマ……頸管ポリープ

a)1-2 b)1-5 c)2-3 d)3-4 e)4-5

解答:a

******

Q767 子宮頸部病変の診断について正しいのはどれか。
a)×病変の確定診断は細胞診により決定する
b)○コルポスコピーにより病変の局在と広がりの確認ができる
c)×組織診により病変の有無をスクリーニングすることができる
d)×細胞診,組織診,コルポスコピーのなかではコルポスコピーが最も診断能力が高い
e)×コルポスコピーでは病変の推定をすることは困難である

解答:b

******

Q769 コルポスコピーについて次のうち正しいのはどれか。
a)×粘膜の観察が最も重要である
b)○血管の分布の観察により間質の状態がわかる
c)×毛細血管の間隔は正常上皮ではむしろ不規則となる
d)×酢酸加工は表面の性状を観察するときに不可欠である
e)×酢酸加工により健常部と病変部の境界はつねに明確となる

解答:b

******

Q770 コルポスコピー所見について正しいのはどれか。
a)×移行帯内病変しか観察できない
b)×所見の質(Grading)は5 段階に分類されている
c)○白色上皮は酢酸加工後にみられる限局性の異常病変である
d)×赤点斑は腺開口が点状にみえる限局性の異常病変である
e)×白斑は酢酸加工後にみられる隆起した白色の限局性病変である

解答:c

******

Q771 35歳の女性.帯下を主訴として来院した。腟壁に異常所見は認められない。子宮腟部のコルポスコピーで白色上皮が認められ、子宮頸部擦過細胞診はⅢaでkoilocytosis が認められた。この疾患の原因はどれか。

a)×単純ヘルペスウイルス
b)○ヒトパピローマウイルス
c)×Candida albicans
d)×Chlamydia trachomatis
e)×Trichomonas vaginalis

解答:b


腫瘍マーカー

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

腫瘍マーカーの定義と分類

定義:悪性腫瘍の診断に役立つ生体産物あるいは生体反応

腫瘍マーカーの分類法:
汎用性腫瘍マーカーCEABFPTPAフェリチン
組織選択性腫瘍マーカー:絨毛性疾患のhCG、扁平上皮癌のSCC抗原、卵黄嚢腫瘍のAFPなど

腫瘍マーカーの評価基準

腫瘍マーカーの評価は、
・ 感度:癌患者における腫瘍マーカー陽性率
・ 特異度:非癌例における陰性率
で行うことが多い。

癌患者における陽性例(真陽性)と非癌例における陰性例(真陰性)を加えた和が全症例に占める割合を「正診率」として,腫瘍マーカーの総合的有用性の指標とする。

理想的には感度100%で特異度100%のものが望ましいが、病巣の小さいときは当然陽性率も低く、また現在報告されている腫瘍マーカーはすべて非癌状態でも出現するので偽陽性も避けられない。

カットオフ値を設定するには通常ROC曲線(reactive operation curve)を用いる。ROC曲線はカットオフ値を変えた際の感度と特異度を二次平面にプロットしたもので、最も感度と特異度が高くなる値をカットオフ値とする。一般に、感度を上げようとしてカットオフ値を下げると偽陽性も多くなり特異度が下がる。特異度については、できるだけ特殊で鑑別しやすい偽陽性を示す腫瘍マーカーが使いやすい。

IAPは多くの悪性腫瘍に用いられる汎用性腫瘍マーカーであるが、炎症などでも高値となる。癌患者ではしばしば各種の炎症が合併するので、IAPの異常値を評価するには注意が必要となる。

病状管理では、病状変化に応じて迅速に変動する腫瘍マーカーが望ましい。SCC抗原の血中濃度半減期は約2時間で腫瘍摘出後遅くとも2日目には陰性化する。一方、CEAは優れた腫瘍マーカーであるが、血中濃度の変化速度が遅く、明らかな変化を示すのに4~6週間を要する。

腫瘍マーカーの保険適用

十分な感度をもつ腫瘍マーカーがないだけに、多くの腫瘍マーカーを組み合わせて測定しがちであるが、医療費節約の面からも,効果的な使用を心がけたい。現行の保険制度では、診断が確定する前の測定は1回限り4項目までの加算があり、診断確定後は1カ月に1回の悪性腫瘍特異物質治療管理料の中で2項目までの加算算定がされる。もっとも、化学療法や放射線療法施行中は2週間に1度位腫瘍マーカーを測定したいが、これは保険適用外となる。なおhCG、hCGβ、エストロゲンなどの測定は内分泌検査の項目に含まれている。

腫瘍マーカーの実施料と管理料

1.診察及び腫瘍マーカー以外の検査の結果から悪性腫瘍の患者であることが強く疑われるものに対して、当該傷病の診察開始から悪性腫瘍の診断の確定または転帰の決定までの間に1回を限度として検査実施料を算定できる。

2.悪性腫瘍の診断が確定し、計画的な治療管理を開始した場合、当該治療中に行った腫瘍マーカー検査の費用は悪性腫瘍特異物質治療管理料として同一暦月につき1回に限り算定できる。

3.腫瘍マーカー検査実施料と悪性腫瘍特異物質治療管理料を同一月に併せて算定できることはできない。

実施料と管理料の比較

・検査実施料
一般測定 2項目以上 75点
精密測定 2項目 230点
        3項目  290点
                4項目以上 420点

・悪性腫瘍特異物質治療管理料
一般測定 220点
精密測定 1項目 360点
        2項目以上  400点

婦人科悪性腫瘍と主な腫瘍マーカー

子宮癌:頸癌の約87%は扁平上皮癌で、腫瘍マーカーとしてはSCC抗原が用いられる。体癌の約86%は腺癌で、これら体癌や頸癌の腺癌の腫瘍マーカーとしては、CEA、hCGβコア、CA125などが推奨される。

コンビネーション・アッセイには子宮頸癌ではSCC抗原とCEAあるいはhCGβ コアの組み合わせ、子宮体癌ではCA125、CA19-9、CA72-4の組み合わせで感度が向上したと報告されている。

なおCA130やCA602はCA125と同一分子で、血中濃度の相関性も高いので重複して測定する意義は少ない。

子宮肉腫は術前の診断が難しく、子宮筋腫の保存的療法に際しては特に注意すべき疾患である。腫瘍マーカーでは血中CA125値が上昇すると報告されているが、これはむしろ腫瘍により刺激された子宮内膜の産生によるものであろう。

卵管癌でもCA125が利用できるが、卵管内膜も腹膜や子宮内膜と同様にcoelomic上皮由来で、元来CA125産生能を有しているためである。

卵巣悪性腫瘍の約80%は腺癌で、他に胚細胞性腫瘍性索間質性腫瘍皮様嚢胞の悪性転化転移性腫瘍などがある。したがって腫瘍マーカーの第一選択は腺癌で陽性率の高いCA125で、特に漿液性嚢胞腺癌で陽性率が高いが、子宮内膜症や腹水貯留疾患などの偽陽性に注意する。
 糖鎖抗原であるCA72-4STNCA54/61粘液性腺癌での陽性率が比較的高く、子宮内膜症や妊娠による偽陽性が少ない。

 特殊なものでは胚細胞性腫瘍AFPhCG性索間質性腫瘍エストロゲンアンドロゲンLDHがある。

 卵巣悪性腫瘍は自覚症状に乏しく初期癌の発見が難しいので、腫瘍マーカーによるスクリーニングも試みられているが、初期癌における陽性率は低い。例えば直径6cm以上の卵巣癌に対するCA125の感度は約80%といわれており、またsecond look手術で残存腫瘍が認められた例でも約半数では術前の血中CA125値が陰性である。

コンビネーション・アッセイでは、CA125、TPA、IAP、ALP、アルブミン、血清鉄の組み合わせによるCAMPASOV2が有名で85%の陽性率が報告されている。またCA72-4、TPA、LDHの組み合わせや、CA125hCGβコアの組み合わせでも70%以上の陽性率が報告されている。

病状モニターに関しては腫瘍マーカーは有効な指標で、臨床現場でも盛んに利用されている。いずれの腫瘍マーカーも血中濃度の変化はhCGやSCC抗原を除くと比較的遅く、例えばCA125では腫瘍摘出後血中濃度が半減するのに約2~3週間を要する。

絨毛性疾患におけるhCGは感度、特異度ともに理想的な腫瘍マーカーであり、日産婦学会では胞状奇胎娩出後の尿中hCGの推移パターンによる経過判定基準を定めている。また低濃度のhCGモニターにはhCGの関連蛋白であるhCGβhCGβ-CTPの測定も有用であり,SP1(Schwangershaftsprotein1)、PP(placental protein)、Reagan enzymeなどの胎盤性蛋白も腫瘍マーカーとして利用されている.

なおhCGβコアの適応は絨毛性疾患でなく,頸癌体癌卵巣癌である。

腟癌、外陰部癌:これらはほとんどが扁平上皮癌でありSCC抗原が用いられる。

主な腫瘍マーカーの解説

SCC抗原:
SCC抗原は1977年に加藤らによって発見された扁平上皮癌の腫瘍マーカーで、食道癌、肺癌、皮膚癌、頭頸部癌など各種臓器の扁平上皮癌で利用できる。初期癌での陽性率はあまり高くないが、治療前に高値(6ng/ml 以上)を示す場合は進行例や予後不良例が多い。また血中半減期が短く、腫瘍摘出後は2日以内に陰性化し、NACが有効な場合は2~3コース終了時点で急速に低下するので、主治療への切り替え時期の判定に便利な指標となる。偽陽性は、天疱瘡、乾癬、紅斑などの皮膚疾患や重症呼吸器疾患などである。また腎透析患者でも血中SCC抗原値が上昇する。

CA125:
CA125は漿液性嚢胞腺癌で発見された糖蛋白質で、卵巣癌の代表的な腫瘍マーカーである。カットオフ値は35U/ml であるが、閉経後や卵巣摘除後は16U/ml とすることも提唱されている。CA125は、正常の腹膜、胸膜、心嚢膜、子宮・卵管内膜などcoelomic上皮由来の器官に発現するので、これらの組織の生理的変化(妊娠、月経、加齢など)や病的変化(子宮内膜症、腹水・胸水貯留疾患、卵管留膿腫など)では血中濃度が上昇する。

CEA:
CEAは結腸癌で発見された高分子蛋白質で、多くの悪性腫瘍に出現する代表的な汎用性腫瘍マーカーである。もっとも、利用頻度が多いだけに測定用キットも数種類市販されており、それぞれにカットオフ値も異なるので、血中濃度の変化をモニターする際には測定に使用されたキットに注意する必要がある。血中濃度の半減期は比較的長く、腫瘍摘出などで血中濃度が変化するには6~8週間を要する。偽陽性は喫煙、加齢、肝疾患などである。

hCG:
hCGは、絨毛性疾患の腫瘍マーカーとして感度、特異度、変化速度の3拍子揃った極めて優秀な腫瘍マーカーであり、hCG測定法の改良と化学療法の発達により絨毛癌の死亡率が激減した。

hCGはα とβ のサブユニットからなるが、αサブユニットのアミノ酸構成は他の糖蛋白ホルモンと共通であり、特にLHとの交叉反応を避けるために、hCGβhCGβ-CTPを測定することもある。なお絨毛癌に用いられるSP1は、絨毛細胞から分泌される蛋白質で、hCGやその関連蛋白との交叉性がなく、hCGが陰性の症例でも陽性になることがある。

hCGβコア(又はhCGβ-corefragment、β-CF):
hCGβコアはhCGが腎臓で排泄される際に作られて尿中に出現する蛋白質で、各種の悪性腫瘍に出現する汎用性腫瘍マーカーである。カットオフ値は0.2ng/ml で、他の腫瘍マーカーとの相関性が低いので、頸癌ではSCC抗原と、また卵巣癌ではCA125との組み合わせて試してみるのもよい。

腫瘍マーカーの一般的留意点と展望

対癌戦略の第一目標は初期癌の発見である。腫瘍マーカーは初期癌に対する感度が悪く、特にマス・スクリーニングに利用するには新しい工夫が必要である。適当な腫瘍マーカーの組み合わせにより確かに感度が改善されることから、卵巣癌を中心に「コンビネーション・アッセイ」も試みられているが、できるだけ早く適当な腫瘍マーカーを1~2種類みつけて、以後はその腫瘍マーカーを測定するのが経費の面からも得策である。

一方、ハイリスク例の選別や病状のモニターには腫瘍マーカーは有効な武器で、侵襲性が低いことも長期間の利用に適している。

腫瘍マーカーの生物活性も次第に明らかにされつつあり、例えばSCC抗原アポトーシス抑制作用CA19-9細胞接着への関与が報告されている。将来は腫瘍マーカーの生物活性を利用した新しい診断や治療も可能になるものと期待される。

****** 問題と解答

Q 36 正しいものを2 つ選べ。
a)癌患者の中で腫瘍マーカーが陽性となる率を「感度」という
b)癌患者の中で腫瘍マーカー陰性となる率を「特異度」という
c)カットオフ値を下げると偽陽性が減る
d)ROC曲線では感度と特異度によりカットオフ値を決めるものである
e)CA125のカットオフ値は閉経後には上げるべきである

解答:a,d

a)感度=癌患者の中で腫瘍マーカーが陽性となる率

b)特異度=非癌例における陰性率

c)一般に、感度を上げようとしてカットオフ値を下げると、偽陽性が多くなり特異度が下がる。

d)ROC曲線はカットオフ値を変えた際の感度と特異度を二次平面にプロットしたもので、最も感度と特異度が高くなる値をカットオフ値とする。

e)CA125のカットオフ値は35U/ml であるが、閉経後や卵巣摘除後は16U/ml とすることも提唱されている。

******

Q 37 腫瘍マーカー測定の保険請求につき正しいものを2 つ選べ。
a)悪性腫瘍が強く疑われる場合、診断の確定または転機の決定までは数回請求できる
b)上記の場合、4項目以上は同額の請求となる
c)診断確定し、計画的な治療管理を開始した場合、腫瘍マーカー検査は悪性腫瘍特異物質治療管理料として請求する
d)悪性腫瘍特異物質治療管理料では4項目以上は同額となる
e)子宮内膜症の病名でCA125測定とCA130測定を同時に請求できる

解答:b、c

現行の保険制度では、診断が確定する前の測定は1回限り4項目までの加算があり、診断確定後は1カ月に1回の悪性腫瘍特異物質治療管理料の中で2項目までの加算算定がされる。

hCG、hCGβ、エストロゲンなどの測定は内分泌検査の項目に含まれている。

******

Q 38 次の文章のうち正しいものを選べ。
a)CA125は卵管膿腫で増加することがある
b)hCGβコアは絨毛癌の腫瘍マーカーである
c)SCC抗原は妊娠時に増加する
d)SCC抗原の半減期はCEAの半減期より短い
e)AFPが増加すれば粘液性腺癌である

解答:a,d

b)hCGβコアの適応は絨毛性疾患でなく,頸癌体癌卵巣癌である。

d)SCC抗原の血中濃度半減期は約2時間で腫瘍摘出後遅くとも2日目には陰性化する。一方、CEAは優れた腫瘍マーカーであるが、血中濃度の変化速度が遅く、明らかな変化を示すのに4~6週間を要する。

e)AFPは卵黄嚢腫瘍で高値となる。糖鎖抗原であるCA72-4STNCA54/61は粘液性腺癌での陽性率が比較的高い。

******

Q 39 妊娠により増加する腫瘍マーカーはどれか。
a)AFP
b)SCC抗原
c)CA125
d)IAP
e)CEA

解答:a,c

******

Q 40 次の腫瘍マーカーの中で生体内での生理活性が判明しているものはどれか。
a)hCG
b)SCC抗原
c)CA125
d)IAP
e)TPA

解答:a,b

a)hCG:黄体の保持を促進しプロゲステロンを分泌させる。

b)SCC抗原:アポトーシス抑制作用。
  CA19-9:
細胞接着への関与


婦人科疾患のCT診断

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

読影に必要な基礎知識

1.原理と歴史

CT は、基本的には撮影される人体を挟んでX 線管球と検出器を対向させ、多くの方向からX 線を照射して人体のX 線吸収値を測定し、その情報をコンピュータ処理して画像の再構成を行い、人体の横断面の断層像を得る方法である。それが、検出器が多くなることで感度が高くなり、回転が早くなることで撮影時間が短くなった。螺旋状にスムーズに動かして撮影できたことからヘリカルCT と呼ばれる三次元表示も可能となり一般化しつつある。

2.読影に必要な理論

CT 値:水が基本。X 線吸収係数を水のX 線吸収係数を基準として相対値として表示する。水のCT 値は0 である。CT 値は骨が最も高くて1,000(最も白く映る)、順に軟部組織や種々の病巣は-100~-50(濃淡種々のグレー)、水は0(薄い黒)、脂肪組織は-100~-50(黒)そして空気は-1,000(最も黒い)である。

画素(ピクセル):画素の数が多いほど画像はきめ細かく、小病変を見つけやすいが、反面、画像のコントラストは悪くなる。

ウィンドウ幅、ウィンドウレベル:白から黒までをCT 値で2,000段階に分けても、わずかなCT 値の違いは人間の目にはわからない。そこで、注目したい病変部のCT 値を新たに0 として(ウィンドウレベル)ある一定のCT 値の範囲のみ(ウィンドウ幅)を濃度差として表示すると、観察したい病変はより効率よく描出しうる。

アーティファクト:存在しない像が抽出されることで、撮影部位の動きによるもの、高吸収あるいは低吸収物質の存在によるもの、骨組織の影響によるものおよび装置によるものがある。

部分容積効果:CT 像はある一定の厚みのスライスで抽出されており、そのなかの組織でX 線吸収係数の異なった2 種類の物質が含まれていると、CT 値がこの2 種の物質の平均値として表されるため、この2 つの物質の辺縁の分解能を低下させる現象。

3.CT 検査の実施にあたって注意すべきこと

1)適応:婦人科疾患では、画像検査としてまず行うべきは超音波検査である。その次の段階としてねらう病変・病態に応じて、CT を行うべきか、MRI を行うべきか、考えるべきである。

CT の利点としては、
① 広い範囲を短時間でスキャンできること
② 石灰化の描出に優れていること
③ 脂肪組織の抽出に適すること

①については、癌の広がりの検索や骨盤リンパ節および傍大動脈リンパ節転移の検索を行う際に、上腹部から骨盤のCT を撮影しているが、造影CT を含めても撮影は10分弱で済む。一方、MRI の方は以前より撮影時間は短縮されてきたが、骨盤MRI で造影すると30分、造影なしでも20分以上かかる。したがって、MRI の方はCT に比べこなせる患者数に制限が大きい。

②、③の所見を含んでいる皮様嚢胞腫の診断には優れている。

CT の欠点としては、
① 軟部組織の抽出において、組織コントラストはMRI に比べ劣る
② MRI ではあらゆる断面の撮影が可であるが、CT は横断像しか得られない

①について、子宮の腫瘍では頸癌や体癌でも周囲組織とコントラストが不十分で腫瘍を描出できないことも多い。良性腫瘍である子宮筋腫の抽出も不十分で、子宮腺筋症との鑑別も困難である。

②について、通常は横断面像を何枚もみながら頭のなかで立体画像に構成していかねばならない。したがってMRI の撮影に比べ、より断面像ごとの解剖の理解が必要となる。

以上から、子宮疾患については、良性疾患に関してCT の適応はほとんどないと考えられる。悪性腫瘍においても主病変そのものの描出は困難であり適応ではないが、広い範囲のリンパ節や遠隔転移の診断に適応があると考えられる。

2)CT 検査実施時の注意点

前処置:造影剤を使用する患者では、検査前の絶食を原則とする。脱水状態ではむしろ危険なので、適度の水分摂取は可とする。子宮頸癌などの腫瘍の膀胱への浸潤を観察するために適度な蓄尿をしたり、骨盤CT を撮影する際には、時に、目印として腟内タンポン挿入などを行う。

造影剤使用時の注意点:

造影剤使用の目的は以下の3 つの点に集約される。
① 病変の検出能を高めること
② 病巣内の血行動態を描出すること
③ 解剖学的構造,特に血管との関係をよく描出すること

以前はヨードテスト(プレテスト)として、病棟・外来などで少量の造影剤を静脈注射して造影剤過敏症の検査をした時期もあったが、信頼度に乏しいことが明らかとなり、現在は不必要であるとされている。大事なことは、検査前に十分な説明とヨード過敏、アレルギー歴などの問診を行うことと、CT 室で造影剤投与時に確実な静脈確保を行ったあと救急対応まで意識して検査を行うことである。

放射線被曝の問題:X 線使用時に常に問題となることであるが,国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告では、妊娠可能年齢の女性および妊婦に対する医療行為の適応の決定については、これまでの勧告に比べると医療従事者の判断にまかされている部分が多い。ただし確率的影響(性腺被曝による悪性腫瘍,胎児期の被曝による小児癌の発生)に関してはまだ結論は出ておらず、妊婦への放射線照射を控えることはもちろんのこと、妊娠可能な若い女性についても検査適応の正確な判断と、無駄な被曝のない慎重な検査を行うべきである。

各種疾患・病態におけるCT の有用性と限界

まず正常CT 解剖について知っておくべき事項がいくつかある。子宮、卵巣は可動性が高いため思わぬ部位まで移動しているようなことがある。生殖器も年齢と共に大きく変化する。骨盤内腸管の長さや走行は一定していない。つまり個人差が大きいことを知っておく必要がある。

1.MRI と比較したCT の適応

以下の項目は、代表的な産婦人科疾患について、MRI と比較する形でCT の適応を述べた。
1)超音波の次に画像診断を行う際にMRI と共にCT が必要な疾患
 子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌
2)超音波の後,CT かMRI のいずれかでよい疾患
 卵巣類皮嚢胞腫、卵巣嚢胞腺腫
3)基本的にCT が適応とならない疾患
 子宮筋腫、子宮腺筋症、双角子宮、内膜症性嚢胞、卵巣線維腫
4)妊娠患者のためCT が適応とならない疾患
 胎児奇形、母体の腫瘤性病変、前置胎盤のうち、超音波診断では確診できない場合で、なおかつ2nd trimester 以降の場合。

2.各疾患・病態のCT 像

各疾患や病態のCT 像による解説をCT が適応となる疾患について行う。その際、CT 像の読影における注意点を一部MRI との比較で述べる。

1)CT は横断像しか得られないため、矢状断像が有用な子宮疾患の診断には不利になる。またCT は組織コントラスト分解能が低いため、子宮の内部構造を明瞭に描出できず、腫瘍の検出能も低い。このためMRI に比べて、局所の病巣を抽出することについてはその有用性は低い。

a.子宮頸癌

主病変の描出はある程度は可能だが、傍結合織、膀胱・直腸などへの浸潤の評価は困難である。頸部間質への癌の深達度の評価にはMRI が必要である。CTはリンパ節転移が疑われた時の上腹部等の検索などに有用である。

b.子宮体癌

主病変の描出は子宮溜水腫が合併している時は可能であるが、基本的にはMRI が優れている。筋層浸潤の評価はCT では困難である。頸癌の場合と同じく、進行癌が疑われた時の上腹部等の検索などに有用である。

2)卵巣腫瘤の多くは嚢胞成分を有しているが、嚢胞部分と充実性部分の区別にCT、特に造影CTは有用である。ただし、嚢胞内容液については、漿液性内容液、粘液性内容液の鑑別にMRI がより有用で、特に、内膜症性嚢胞のような血腫の診断にはMRI が必須である。一方、石灰化成分や脂肪の判定にはCT の有用性は高い

a.良性嚢胞性卵巣腫瘍

薄い壁であり、内部は水と同濃度。漿液性の場合は単房性,ムチン(粘液)性の場合は多房性のことが多い。いずれにしても壁が薄いことと充実性部分がないことをよく確認することが大切である。

b.卵巣類皮嚢胞腫(皮様嚢腫)

腫瘍の中に非常に低濃度の脂肪成分が認められる。毛髪塊や歯牙や軟骨などによる石灰化の存在も診断の一助となる。嚢胞内に実質成分や水と脂肪による液面形成がみられることもある。脂肪成分の判定にCT は有用であるが、最近は脂肪抑制MRI などを用いてMRI で診断することが多い。

c.悪性嚢胞性卵巣腫瘍

大きさが6cm 以上で、充実性部分が存在する、壁が厚い時や隔壁厚が3mm 以上あるいは結節形成などの所見があれば悪性を疑う。骨盤壁や骨盤内臓器への浸潤など含めてMRI で診断することがほとんどである。

3)転移リンパ節については、CT、MRI ともに腫大したリンパ節の大きさを基準に診断しているため、診断能に差はない遠隔転移の評価については、短時間に広い範囲を検査できるCT の有用性が高い。卵巣癌の症例では、範囲を広げて、腹膜、腸間膜、大網への播種や腹水の存在、傍大動脈リンパ節まで検索するのが常であるが、今のところCT が有用である。

4)悪性腫瘍では体の各部への転移についても考えておくべきである。胸部X 線で検出された肺内病変(肺転移)の精査にはCT がMRI より適している。脳転移が疑われる時もあるが、頭部の腫瘍性疾患に関しては、ある程度の大きさであればCT でもMRIでも診断可能である。肝、胆、膵、消化管領域の腫瘤性病変もCT の適応となる。

****** 問題と解答

Q46 誤っているものを選べ。
a)○ 一般的にMRI はX 線CT より腫瘍の質的診断において有用性が高い
b)○ X 線CT はMRI と比較して短時間で広い範囲の撮影が可能である
c)○ 妊娠中に母体や胎児の病態の検索にはMRI が有用である
d)○ 造影CT の際に,前もって造影剤の注入などのプレテストを行うことは必須ではない
e)× CT 値は,脂肪組織のX 線吸収値を基準として定められている

解答:e

CT 値:水が基本。X 線吸収係数を水のX 線吸収係数を基準として相対値として表示する。水のCT 値は0 である。CT 値は骨が最も高くて1,000(最も白く映る)、順に軟部組織や種々の病巣は-100~-50(濃淡種々のグレー)、水は0(薄い黒)、脂肪組織は-100~-50(黒)そして空気は-1,000(最も黒い)である。

******

Q47 誤っているものを選べ。
a)○ X 線CT 画像で,最も白く映るのは骨組織や石灰化部位である
b)× X 線CT は、子宮筋腫と子宮腺筋症を鑑別するのに有用である
c)○ 骨盤リンパ節転移の検索では,CT とMRI は同等である
d)○ X 線CT は,MRI に比べ呼吸性変動の影響を受けにくい
e)○ 造影CT を予定する場合は撮影前の禁食が必要である

解答:b

X 線CT は、良性腫瘍である子宮筋腫の抽出も不十分で、子宮腺筋症との鑑別も困難である。

******

Q48 誤っているものを選べ。
a)× 子宮頸癌や子宮体癌の頸部浸潤の検索にはX 線CT が有用である
b)○ CT において異なる組織の境界面が不鮮明になる現象として部分容積効果がある
c)○ ウィンドウ幅を小さくするとコントラストの強い画面に,これを大きな値に設定するとコントラストの弱い画面になる
d)○ ウィンドウレベルは低い値に設定すれば濃度の薄い画像に,これを高い値に設定すれば濃度の濃い画像になる

解答:a

子宮頸癌主病変の描出はある程度は可能だが、傍結合織、膀胱・直腸などへの浸潤の評価は困難である。頸部間質への癌の深達度の評価にはMRI が必要である。CTはリンパ節転移が疑われた時の上腹部等の検索などに有用である。

子宮体癌主病変の描出は子宮溜水腫が合併している時は可能であるが、基本的にはMRI が優れている。筋層浸潤の評価はCT では困難である。頸癌の場合と同じく、進行癌が疑われた時の上腹部等の検索などに有用である。

部分容積効果:CT 像はある一定の厚みのスライスで抽出されており、そのなかの組織でX 線吸収係数の異なった2 種類の物質が含まれていると、CT 値がこの2 種の物質の平均値として表されるため、この2 つの物質の辺縁の分解能を低下させる現象。

ウィンドウ幅、ウィンドウレベル:白から黒までをCT 値で2,000段階に分けても、わずかなCT 値の違いは人間の目にはわからない。そこで、注目したい病変部のCT 値を新たに0 として(ウィンドウレベル)ある一定のCT 値の範囲のみ(ウィンドウ幅)を濃度差として表示すると、観察したい病変はより効率よく描出しうる。

******

Q49 誤っているものを選べ。
a)○ 体動や腸管の蠕動によるアーティファクトは高速CT の導入により改善がみられた
b)○ 骨盤部の金属(人工関節など)や腸管に遺残するバリウムの存在は,高いX 線吸収値により近接部へのアーティファクトを生じ著しい画質の劣化につながる
c)○ ヘリカルCT の登場で高精度の三次元画像の作成が可能となった
d)× 造影CT では,正常子宮体部筋層は弱く,内膜は強く造影され,中心部は高吸収域として認められる

解答:d

******

Q50 誤っているものを選べ.
a)× 腹水の存在はたとえ少量でも病的所見である
b)○ 子宮体癌の筋層浸潤の程度は,X 線CT よりもMRI の方が診断精度が高い
c)○ 子宮頸癌は,X 線CT では患部と正常頸管筋層に濃度差がなく描出が困難である
d)○ X 線CT では,卵巣腫瘍内の隔壁や充実成分の有無は造影により明瞭となる
e)○ X 線CT では,腹腔内播種やリンパ節転移,肝転移も造影検査が有用で,かつ水腎症の有無を含めて一度に検査できる利点がある

解答:a


婦人科疾患のMRI診断

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

MRI の安全性

MRI の強い静磁場や変動磁場が生体に与える影響については、これまでの研究により安全性は確立されているが、胎児への影響については未解決の部分があり、妊娠初期の女性への適用はできるだけ避けるべきである。National Radiological Protection Boardのガイドラインによると、MRI が胎芽に対してはっきりとした障害があるという証拠はないものの、1st trimester における使用は控えるべきであると勧告している。現時点では無侵襲でリアルタイムに胎児を観察できる超音波断層法が胎児診断のfirst choiceであるが、胎児疾患によりMRI の方がより多くの情報が得られる場合もある。妊娠中のMRI の適応は、胎児奇形、母体の腫瘤性病変、前置胎盤のうち、超音波診断では確診できない場合で、なおかつ2nd trimester 以降に限られる。

また、誤作動の可能性がある、心臓ペースメーカー使用者や電気的人工臓器使用者のMRI 検査は禁忌である。さらに、危険で禁忌なものとして,脳動脈瘤のクリップ(非磁性体のクリップは除く)の使用者や眼球内金属異物の使用者がある。

MRIの基礎知識

MRI は生体内の水の水素原子(プロトン)の分布とその状態を画像化したものである。

変動磁場を加えることにより、静磁場と直角な方向に倒れた生体内の水のプロトンがつくるベクトルがふたたび静磁場の方向にもどっていく過程が緩和現象であり、縦磁化の回復(縦緩和)と横磁化の消失(横緩和)から成る。この過程はいずれも指数関数的に表現でき、それぞれの時定数をT1およびT2と定義している。また、核磁気共鳴信号からMRI画像を構成するためには何百回も励起を繰り返して信号を収集する必要があり、この繰り返し時間をTR と呼ぶ。また、プロトンが励起されてから信号が得られるまでの時間をエコー時間(TM)と呼ぶ。

T1時間はTR だけに、T2時間はTE だけに影響を受けており、T1 強調画像はTR の短縮により、T1 コントラストを強調し、TE の短縮によってT2 値の影響を少なくする。同様に、T2 強調画像はTE の延長により、T2 コントラストを強調し、TR の延長によってT1値の影響を少なくする。よって、T1値が大きい組織はより信号が弱く、MRI 画像(T1強調画像)上はより黒くみえ、T2 値が大きい組織はより強い信号を出し、MRI 画像(T2強調画像)上はより白くみえる

一般的には皮質骨はプロトンに乏しいので、いずれの画像でも低信号となり、黒くみえる。水はT1 値、T2 値ともに非常に長いので、T1 強調画像では黒く、T2 強調画像では白くみえる。脂肪はT1 値が短く、T1 強調画像で白くみえるが、水よりはT2 値が短く、T2強調画像では灰白色にみえる。血液は経時的に多彩な変化を示し、信号強度も経時的に変化するが、子宮内膜症性嚢胞などにみられる亜急性期の血腫ではT1 強調画像、T2 強調画像のいずれにおいても高信号となり、白くみえる。もっと古い血腫となると、粘稠となり、T2 強調画像で黒くなり、shading と呼ばれる。また、出血が組織に吸収されるとヘモジデリンとなりT2 値が短縮し、T2 強調画像で黒くなってくる。

婦人科疾患のMRI

1.婦人科疾患の診断のための標準的なMRI 撮像法

婦人科疾患のMRI はspin echo 法を標準として、T1 強調画像、T2 強調画像の撮像が基本であり、横断像・矢状断像・冠状断像などの断面は症例に適したものを適時応用する。また、出血と脂肪組織の鑑別のために脂肪抑制法を併用することが多く、Gd-DTPA 造影を行う場合も、脂肪抑制法を併用するとよい。子宮体癌の広がりの診断と卵巣腫瘍の良悪性の鑑別にはGd-DTPA 造影を行うべきである。一般的にT1強調画像、T2 強調画像でともに不均一な高信号があり、 Gd-DTPA 造影でも不均一な造影効果が認められれば、悪性病変を疑う。Gd-DTPA 造影の注意点としては気管支喘息患者には禁忌であり、造影剤は乳汁中に分泌されるため、投与後24時間は授乳を避けることが望ましい。

2.子宮・卵巣・卵管の正常構造の同定

T1 強調画像では子宮、卵巣ともに均一な低信号を示し、層構造や内部構造は認識できないので正常構造の同定にはT2 強調画像が基本となる。以下、次の順序で正常臓器をT2強調画像により同定していく。

1)子宮体部

矢状断像で高信号の子宮内膜、低信号のjunctional zone、中等度信号の子宮筋層の3 層構造を確認する。なお、小児や閉経後女性では子宮内膜やjunctional zoneは同定しにくい。

2)子宮頸部

低信号の頸部間質と高信号の頸管上皮および粘液の2 層構造を確認する。横断像で高信号の領域を低信号のstromal ring が全周を取り囲む像を確認する。

3)卵巣

子宮体部のレベルの横断像を用い、外腸骨動・静脈の背側に認められる低信号の間質と、高信号の卵胞より成る構造を確認する。性成熟期の女性、特に20~30代ではほぼ100%で同定できるが、小児や閉経後女性では同定が困難である。

4)卵管

正常卵管は描出されない。

3.よく遭遇する疾患

A)子宮の疾患

1)子宮筋腫

他の画像診断よりもMRI が有用であり、正確に大きさ、数、位置、種類が診断可能である。典型的な子宮筋腫はT1 強調画像で子宮筋層と等信号、T2強調画像で子宮筋層よりも低信号を示す境界明瞭な腫瘤として認められる。Gd-DTPA 造影では子宮筋層と同等か、それ以上の造影を受けるものが多い。また,筋腫の周囲に発達した流入血管が無信号域としてみられるsignal void も特徴の一つである。しかし,実際の子宮筋腫は、さまざまな程度の変性をきたしており、T2 強調画像での信号は一定でない。一般的に変性のない領域は低信号を保つが、浮腫や嚢胞変性では、信号が上昇し、ヒアリン変性が生ずると、信号が低下する。これらの変化が同一筋腫のなかに混在する像も数多く認められる。これらの子宮筋腫の変性の有無と種類を推測するためにはGd-DTPA 造影との組み合わせが役立ち、GnRH analog 療法の治療効果の判定に利用可能である。

子宮筋腫との鑑別を要するものとして、平滑筋肉腫があるが、MRI での鑑別は困難である。平滑筋肉腫は出血壊死を伴うことが多く、Gd-DTPA 造影T1 強調画像で不均一な造影効果が認められれば平滑筋肉腫を疑う。

2)子宮腺筋症

T2 強調画像でjunctional zone の肥厚やjunctional zone に連続する境界不明瞭な低信号域が認められる場合、子宮腺筋症を疑う。この境界不明瞭なびまん性に不均一な低信号域の内部に数mm 大の点状の高信号が多発することがあり、増生した異所性内膜組織やその内部への出血が考えられる。これらの点状の高信号の数が多いほど月経痛が強いものと推測される。また、本疾患は子宮内膜症と高率に合併するため、本疾患が疑われる場合には、卵巣および腹膜の子宮内膜症病変の有無にも注意することが肝要である。

3)子宮体癌

MRI では子宮体癌は子宮内膜の肥厚として認められ、性成熟期婦人においては10mm、閉経後婦人では5mm を越える場合、異常と考える。腫瘍はT2 強調画像で、正常内膜と同等の高信号を示すことが多いが、中等度から低信号を示すこともあり注意を要する。しかし、子宮筋腫のように辺縁明瞭な限局性腫瘤とはならず、腫瘍のGd-DTPA 造影効果は正常内膜や正常筋層よりも弱い。子宮体癌は子宮内膜増殖症、子宮内膜ポリープ、子宮粘膜下筋腫との鑑別が求められるが、これらの病変はいずれも正常子宮筋層と同等かそれ以上の造影効果を受けるものが多い。また、子宮内腔に貯留した液体や血液(子宮留水症、留血症)はGd-DTPA 造影効果を受けないので、腫瘍との鑑別は容易である。

MRI は腫瘍の筋層浸潤の評価に役立つ。すなわち、T2 強調画像でjunctional zone が全周にわたって保たれている場合は筋層浸潤はないが、junctional zone に断裂を認める場合は筋層浸潤ありとする。しかし、閉経後でjunctional zone が認められない場合の診断はGd-DTPA 造影T1 強調画像を用い、淡く造影される腫瘍と、強く造影される正常子宮筋層との境界を目安として、筋層浸潤を診断する。

4)子宮頸癌

腫瘍はT2 強調画像で高信号を示し、低信号を示す頸部間質と容易に区別可能である。腫瘍径が10mm 以上あれば容易に診断できる。通常のGd-DTPA 造影にて腫瘍は淡く造影されるが、頸部間質組織との造影度の差がなく、診断能の向上は得られない。

しかし、dynamic法で造影を行えば腫瘍が早期濃染され、頸部間質は淡く造影され、コントラストが明瞭となり、診断に寄与しうる

MRI は腫瘍が頸部を越えて広がっているかどうかの評価に役立つ。すなわち、T2強調画像でstromal ring の断裂の有無を確認する。断裂が認められる場合、そこより腫瘍が頸部を越えて浸潤していることが判る。

5)子宮奇形

双角子宮はT2 強調画像でそれぞれの内腔がjunctional zone と高信号の子宮筋層により囲まれて認められるが、子宮中隔は内腔を分離する低信号帯として描出されるにすぎない。

B)卵巣の疾患

卵巣の疾患の診断にあたっては、まず、T1 強調画像をみて、高信号を示すか否か。次に、T2 強調画像をみて病巣が嚢胞性か充実性かで鑑別を進めるのがよい。この時、Gd-DTPA 造影は必須である。

1)T1 強調画像で高信号を示す卵巣疾患

a)子宮内膜症性嚢胞

MRI で特異的に診断可能なものの一つである。子宮内膜症性嚢胞の内容物は亜急性期の血液が多く、T1、T2 強調画像いずれにしても高信号となるのが特徴である。慢性期の血液が混在する場合には、T2 強調画像で高信号のなかに低信号が混じった像(shading)が認められる。また、複数の小嚢胞が認められるのも特徴である。病巣は卵巣のほか、卵管、ダグラス窩、子宮表面、仙骨子宮靭帯など広く骨盤内に好発する。脂肪抑制法併用T1 強調画像では径2mm 大の小病巣の検出も可能である。

子宮内膜症性嚢胞とMRI 上で鑑別困難なものとして、出血黄体があることを念頭に入れておく必要がある。

また、子宮内膜症性嚢胞に、類内膜癌や明細胞癌といった卵巣悪性腫瘍を合併することがあるので嚢胞内部に充実性構造が疑われる場合は、卵巣腫瘍のMRI 診断に準じて、Gd-DTPA 造影を追加し、評価することが望ましい。

b)奇形腫

T1強調画像で高信号を示し、脂肪抑制法で信号が抑制されれば、脂肪成分を含む卵巣腫瘍で大部分は成熟嚢胞奇形腫である。内部に水様内容液を含むものでは、水様内容液が背側、脂肪成分が腹側に分離して液面を形成し、その液面との境界にchemical shift artifactがみられ、hair ball が界面に浮遊する独特の像を示す。脱落上皮や変性成分によりdebris、protrusion と呼ばれる充実性、結節性の構造を認めることも多く、この部分に弱い造影効果をみることもある。未熟嚢胞奇形腫は脂肪の分布が成熟奇形腫とは異なり、さまざまな信号強度の混ざる小さな嚢胞の集簇が認められ、この部分は比較的強い造影効果を受けることが多い。成熟嚢胞奇形腫の約2%に悪性転化があり、特に閉経後にみられる10cm 以上の大きな腫瘍は注意を要する。

2)T1 強調画像で高信号を示さない卵巣疾患

a)良性嚢胞性腫瘍

漿液性嚢胞腺腫は境界明瞭な薄い壁をもつ単房な腫瘤として認められ、内部は水と同等の信号を呈する。したがって、T1 強調画像で低信号、T2 強調画像で高信号の均一画像が多い。また、造影では嚢胞壁のみ造影される。

ムチン性嚢胞腺腫は多房性で内部は蛋白含有量の多い液体でT1 強調画像で水よりも高信号を示す。蛋白の濃度差により、各々の胞によって内部の信号が異なり、ステンドグラス状となる場合がある。

b)良性充実性卵巣腫瘍

腫瘍の全体が充実性である場合、線維腫を疑う。線維腫はT1、T2 強調画像でいずれも均一な低信号を示す境界明瞭な腫瘤として認められ、信号強度は子宮筋腫に類似する。

c)嚢胞性と充実性部分の混在した腫瘍

一般的に腫瘤がT2 強調画像で嚢胞性部分と壁在する充実性部分より成り、充実性部分はGd-DTPA 造影T1 強調画像で不均一な造影効果を受ける場合、卵巣癌が最も疑われる。

MRI での卵巣癌の診断基準
主所見

 嚢胞性構造と充実性構造の混在
 壁/隔壁の不規則な肥厚、壁在結節の存在
 腫瘍内の壊死、出血の存在
 内部構造の不均一な造影効果の存在
随伴所見
 生理的範囲を逸脱した腹水の存在
 リンパ節腫大
 腫瘍周囲への浸潤傾向
 腹膜,腸間膜,大網への播種

上の表のような所見が認められる場合、悪性卵巣腫瘍の可能性が高い。

なお、リンパ節腫大はT1 強調画像で同定するのが基本である。

****** 問題と解答

Q51 MRI の絶対的禁忌として正しいものを選べ。
a)○心臓ペースメーカー使用者
b)×妊娠
c)○脳動脈瘤クリップ使用者
d)○眼球内金属異物の使用者
e)×人工骨頭使用者

解答:a、c、d

誤作動の可能性がある、心臓ペースメーカー使用者や電気的人工臓器使用者のMRI 検査は禁忌である。さらに、危険で禁忌なものとして,脳動脈瘤のクリップ(非磁性体のクリップは除く)の使用者や眼球内金属異物の使用者がある。

妊娠中のMRI の適応は、胎児奇形、母体の腫瘤性病変、前置胎盤のうち、超音波診断では確診できない場合で、なおかつ2nd trimester 以降に限られる。

******

Q52 正しいものを選べ.
a)○MRI は生体内の水の水素原子(プロトン)の分布を画像化したものである
b)×MRI に用いる静磁場の強さは地磁場の約1,000倍である
c)○大部分の病変において、T1 値は正常組織より延長する
d)×T2 強調画像ではT2 値が長いほど低信号となる
e)×漿液性嚢胞腺腫のT1 値、T2 値は、いずれも正常卵巣実質組織のそれより短い

解答:a、c

b)現在臨床で使用されているMRIの静磁場は、0.2~1.5テスラ(2000~15000ガウス)で、地磁場は0.5ガウスである。従って、MRIで用いる静磁場の強さは地磁場の4000~30000倍である

d)T1値が大きい組織はより信号が弱く、MRI 画像(T1強調画像)上はより黒くみえ、T2 値が大きい組織はより強い信号を出し、MRI 画像(T2強調画像)上はより白くみえる

e)漿液性嚢胞腺腫は境界明瞭な薄い壁をもつ単房な腫瘤として認められ、内部は水と同等の信号を呈する。したがって、T1 強調画像で低信号T2 強調画像で高信号の均一画像が多い。また、造影では嚢胞壁のみ造影される。

水はT1 値、T2 値ともに非常に長いので、T1 強調画像では黒く、T2 強調画像では白くみえる。

******

Q53 誤っているものを選べ.
a)○X 線被曝はまったくない
b)×妊娠初期の婦人に行っても問題ない
c)×MRI の長所の一つは検査時間がCT スキャンより短いことである
d)○成熟奇形腫の診断についてはCT スキャンの方が優れている
e)○MRI は任意の断層面が撮影でき,病巣をさまざまな方向から検討できる

解答:b、c

b)National Radiological Protection Boardのガイドラインによると、MRI が胎芽に対してはっきりとした障害があるという証拠はないものの、1st trimester における使用は控えるべきであると勧告している。

c)MRI の短所の一つは検査時間がCT スキャンより長いことである

******

Q54 誤っているものを選べ.
a)×子宮,卵巣の正常構造の同定にはT1 強調画像が基本となる
b)○子宮腺筋症は造影しなくても診断が可能である
c)×T1 強調画像で高信号を示す卵巣病変は出血性嚢胞や内膜症性嚢胞がある
d)×典型的な子宮筋腫はT1、T2 強調画像で境界明瞭な高信号腫瘤として認められる
e)×子宮筋腫と平滑筋肉腫との鑑別がMRI で容易となった

解答:a、c、d、e

a)子宮,卵巣の正常構造の同定にはT2 強調画像が基本となる。T1 強調画像では子宮、卵巣ともに均一な低信号を示し、層構造や内部構造は認識できない。

b)T2 強調画像でjunctional zone の肥厚やjunctional zone に連続する境界不明瞭な低信号域が認められる場合、子宮腺筋症を疑う。この境界不明瞭なびまん性に不均一な低信号域の内部に数mm 大の点状の高信号が多発することがあり、増生した異所性内膜組織やその内部への出血が考えられる

c)T1 強調画像で高信号を示す卵巣疾患:子宮内膜症性嚢胞、出血黄体奇形腫

d)典型的な子宮筋腫はT1 強調画像で子宮筋層と等信号(低信号)、T2強調画像で子宮筋層よりも低信号を示す境界明瞭な腫瘤として認められる。

e)子宮筋腫との鑑別を要するものとして、平滑筋肉腫があるが、MRI での鑑別は困難である。平滑筋肉腫は出血壊死を伴うことが多く、Gd-DTPA 造影T1 強調画像で不均一な造影効果が認められれば平滑筋肉腫を疑う

******

Q55 正しいものを選べ.
a)×正常卵巣の同定は性成熟期の女性では約70%に可能である
b)○卵巣の線維腫および莢膜細胞腫の信号は子宮筋腫に類似する
c)×子宮体癌はT1 強調画像で、正常子宮内膜と同等の高信号を示すことが多い →低信号
d)○子宮体癌の造影効果は正常子宮内膜、正常子宮筋層よりも弱い
e)○子宮頸癌はT2 強調画像で高信号を示し、低信号を示す頸部間質と区別可能である

解答:b、d、e

a)性成熟期の女性、特に20~30代では、正常卵巣はほぼ100%で同定できるが、小児や閉経後女性では同定が困難である。

c)T1 強調画像では子宮、卵巣ともに均一な低信号を示し、層構造や内部構造は認識できない。

MRI では子宮体癌は子宮内膜の肥厚として認められ、性成熟期婦人においては10mm、閉経後婦人では5mm を越える場合、異常と考える。腫瘍はT2 強調画像で、正常内膜と同等の高信号を示すことが多いが、中等度から低信号を示すこともあり注意を要する。


外陰の腫瘍・類腫瘍

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

(1) 外陰原発の悪性腫瘍

外陰に原発する悪性腫瘍の発生頻度は全女性性器癌の約4%とされる。すなわち女性人口100万人当たりの年間発生数が10例前後と推定される比較的まれな疾患である。

外陰悪性腫瘍の組織型は、扁平上皮癌がその大部分を占め、悪性黒色腫がそれに次ぐ。

扁平上皮癌 Squamous cell carcinomaは、角化型 Keratinizing、非角化型 Nonkeratinizing、類基底細胞型 Basaloid、疣状型 Verrucous、湿疣型(コンジローマ様癌) Warty (condylomatous)、その他 Othersに分類される。このうち類基底細胞型、湿疣型は、ヒトパピローマウイルス16型との関連が指摘されている。

臨床進行期分類として国際産科婦人科連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics: FIGO)の分類が使われている。

ちなみにFIGOのAnnual reportでの5年生存率は、Ⅰ期69.4%、Ⅱ期48.8%、Ⅲ期31.7%、Ⅳ期12.6%である。

外陰悪性腫瘍の組織型と頻度
組織型               %
扁平上皮癌 Squamous    86.2
悪性黒色腫
Melanoma      4.8
肉腫 Sarcoma          2.2
基底細胞癌 Basal cell     1.4              
バルトリン腺癌
Bartholin gland carcinoma
   扁平上皮癌 Squamous     0.4 
   腺癌 Adenocarcinoma      0.6
腺癌 Adenocarcinoma            0.6
未分化癌 Undifferentiated     3.9

******

外陰癌の進行期分類

1994年FIGO進行期分類

0期:上皮内癌

Ⅰ期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍。リンパ節転移はない。
 Ⅰa期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍で、間質浸潤の深さが1mm以下のもの※。
 Ⅰb期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍で、間質浸潤の深さが1mmを超えるもの。
 ※浸潤の深さは隣接した最も表層に近い真皮乳頭の上皮間質接合部から浸潤先端までの距離とする。

Ⅱ期:外陰および/または会陰のみに限局した最大径2cmを超える腫瘍。リンパ節転移はない。

Ⅲ期:腫瘍の大きさを問わず、
(1) 隣接する下部尿道および/または膣または肛門に進展するもの。
  および/または
(2) 一側の所属リンパ節転移があるもの。

 所属リンパ節:大腿リンパ節鼠径リンパ節

Ⅳa期:腫瘍が次のいずれかに浸潤するもの:
上部尿道、膀胱粘膜、直腸粘膜、骨盤骨および/または両側の所属リンパ節転移があるもの。

Ⅳb期:骨盤リンパ節を含むいずれかの部位に遠隔転移があるもの。

******

TNM分類

T- 原発腫瘍
 TX  原発腫瘍の評価が不可能
 T0  原発腫瘍を認めない
 Tis  上皮内癌(浸潤前癌)
 T1  外陰/会陰に限局し、最大径が2.0cm以下
  T1a 間質性浸潤が1.0mm以下
  T1b 間質性浸潤が1.0mmを超える

 T2  外陰/会陰に限局し、最大径が2.0cmを超える
 T3  次のいずれかに浸潤:下部尿道肛門
 T4  膀胱粘膜直腸粘膜上部尿道恥骨

N- 所属リンパ節
 NX  所属リンパ節転移の評価が不可能
 N0  所属リンパ節転移なし
 N1  片側の所属リンパ節転移
 N2  両側の所属リンパ節転移

 所属リンパ節:大腿リンパ節鼠径リンパ節

M- 遠隔転移
 MX  遠隔転移の評価が不可能
 M0  遠隔転移なし
 M1  遠隔転移あり(骨盤リンパ節転移を含む) 

******

病期分類

0期  Tis  N0  M0
Ⅰ期  T1  N0  M0
ⅠA期  T1a  N0  M0
ⅠB期  T1b  N0  M0
Ⅱ期  T2  N0  M0
Ⅲ期  T1  N1  M0
     T2  N1  M0
     T3  N0, N1  M0
ⅣA期  T1  N2  M0
      T2  N2  M0
      T3  N2  M0
      T4  Nに関係なく  M0

ⅣB期  T、Nに関係なく  M1

****** 

治療:治療の基本は手術療法であるが、術式については原発巣の摘出方法、リンパ節の郭清範囲によってバリエーションがある。

高齢者が多いため全身状態が不良で手術に適さないこともあり、そのような場合には放射線療法や化学療法、あるいは両者の併用療法が考慮されるが、手術なしではいずれも根治の可能性は低いと考えられる。

Ⅰa 期については鼠径リンパ節転移はないと考えられ、最低1cm 以上病変から離れて切除する根治的外陰部分切除術のみでよいと考えられる。

Ⅰb 期では根治的外陰部分切除術+病変側の鼠径リンパ節郭清術を基本とする。ただし,病変が正中から1cm 以内の場合や、郭清した片側のリンパ節転移が陽性だった場合には両側の郭清を施行する。

Ⅱ期については現在のところこれまで通り広汎外陰切除術+両側鼠径リンパ節郭清が基本と考えられるが、病変が片側に限られる場合には根治的外陰部分切除術と片側のリンパ節郭清術で根治可能としている報告もみられる。

Ⅲ期以上の進行例に対しては病変の完全切除が可能と考えられる場合には広汎外陰切除術および周辺臓器の部分切除さらには骨盤内臓全摘術まで施行する場合もあるが、手術侵襲が大きくなるためにその適応は限定される。このような症例に対し術前に放射線治療、あるいはフルオロウラシル(5-FU)+マイトマイシンC(MMC),5-FU+シスプラチン(CDDP)を併用した化学放射線療法、ブレオマイシン(BLM)を中心とした化学療法を施行してから手術をする試みもなされてきている。

術中の迅速診断にて鼠径リンパ節転移が陽性と診断された場合には、骨盤内リンパ節郭清術を施行せずに鼠径部および骨盤部に放射線療法の追加が勧められる。ただしリンパ節転移が1 個しか認めなかった場合には後療法をせずに慎重な経過観察のみとするという意見もある。

(2) 外陰・腟の悪性黒色腫

外陰・腟に発生する悪性黒色腫は早期に転移を起こしやすく5年生存率も21.7~54%と不良である。

好発部位は大陰唇陰核で特徴的な色素性病変を視認できる。

確定診断には可能な限り病変部の全摘が勧められる。なお現在ではその後のすみやかな手術が可能であれば生検は禁忌とはされていない。

病理診断として、免疫組織染色にてS-100NSEHMB-45などが陽性となり、鑑別に有用である。

治療としては、Ⅰ期では根治的外陰部分切除でも可能と考えられるが、Ⅱ期以上の症例に対して広汎外陰切除、鼠径リンパ節郭清が施行されることが多い。術後の補助療法としてDAVFeron(塩酸ビンクリスチン:VCR、塩酸ニムスチン:ACNC、ダカルバジン:DTIC、インターフェロン:IFN-β)療法などが行われる。

(3) 外陰上皮性腫瘍 vulvar intraepithelial neoplasia: VIN

外陰上皮内腫瘍(VIN)の罹患者数は増加傾向にあり、かつ若年化が世界的に傾向として認められている。

VIN の50~80%にHPV が検出される

VIN1、VIN2、VIN3と3段階に分類される。

Bowen病(Bowen disease):VIN3で基底細胞類似のタイプ。

VIN は多中心性に病変が生じることが多く、腟や子宮頸部にも同様に扁平上皮病変を認める場合が多い。そのために外陰掻痒感、疼痛などを訴えて来院した患者に対する注意深い視診が最も重要である。

VIN は白色、赤色、褐色の平坦または丘疹状に隆起した限局性の病変として認められる。最終診断は組織診によらねばならず積極的な生検が必要である。浸潤をみるためにもメスやKeyes dermatological punch などを用いて皮下組織まで採取するように心掛ける。この際,トルイジンブルーによる染色や酢酸加工した外陰のコルポスコープによる観察も有用である。

VIN1、VIN2では厳重な経過観察も可能であるが、VIN3では外科的切除が基本である。病変が限局している場合には広い局所切除とし、多発性で病変が広範囲に及ぶ場合には単純外陰切除術が確実な方法である。若年者に対しては美容面も考慮し皮下組織を温存して表皮を切除(skinning vulvectomy)し、中間層植皮を併用する手術法も行われている。多発性の病変に対してはCO2レーザーによる蒸散も有効とされているが、美容面では優れているものの確定診断がつかず、浸潤癌の除外など治療前の診断を慎重にすべきである。

(付) Bowen様丘疹症 Bowenoid papulosis
 
若年者に好発する色素沈着を伴った丘疹である。Bowen病と同様の組織像を示すにもかかわらず自然消退することが知られている。HPV16型が関与しているとされる。進行する例もあるともいわれていることから臨床的にはVIN3として取り扱う

(4) Paget病
Paget病は乳腺に好発し、乳腺外に発生したものは乳腺外Paget病と一括される。乳腺外Paget病のなかでは外陰が最も好発部位である。Paget病は通常は扁平上皮に限局する異型腺細胞からなる癌であるが、10~20%には浸潤性腺癌を合併する。若年者はまれで閉経後に好発する。

掻痒感、疼痛などを訴えて受診することが多い。発生は多中心性と考えられるが、受診時には癒合した広い病変として認められ、湿疹様の紅斑に鱗屑(りんせつ)、白斑などを伴うことが多い。湿疹や接触性皮膚炎、カンジダ外陰炎と間違えやすく、難治性の湿疹様の病変に対しては積極的に生検を施行し、確定診断をつけることが勧められる。

病理組織学的診断では、淡明な細胞質をもったPaget細胞を表皮内に認める。毛包、皮脂腺、汗腺などの皮膚付属器を侵襲する像を認めることもある。Paget細胞は免疫染色でCEAEMA低分子ケラチンが陽性で、悪性黒色腫などとの鑑別に有用である。

治療としては、表皮内に留まった病変に対しては健常な皮膚を含めた局所切除が選択される。病変が広ければ単純外陰切除術を施行する場合もある。術前の腫瘍周囲からの多数の生検により切除範囲を決めるか、切除断端を術中迅速診断して腫瘍の残存の有無を調べることが必要である。浸潤した腺癌を合併する場合には通常の外陰癌と同様に扱う

Paget病では乳癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌などの他臓器の癌を重複する場合が多いとも言われ、検索が必要である。

(5) 尖形コンジローマ
外陰、腟、子宮腟部などの外性器に発生する乳頭状、鶏冠状の隆起性病変で、性感染症の一つである。HPV 6型、11型が関与するとされる。発生、発育には宿主側の免疫状態も強く関与するとされ、免疫の低下している妊娠中や移植手術後、担癌、糖尿病の患者では病変が発症しやすく増悪する傾向がある。

特徴的な肉眼所見から診断は容易であるが、VINとの鑑別が問題となる場合もあり確定診断には全層を含めた生検が必要である。組織学的所見では有棘細胞層の肥厚、表層細胞の角化、錯角化などを認める。表層上皮細胞のkoilocyte(細胞の核周囲が広く、空洞状に抜けて見える)は特徴的である。

内科的治療法としては、ポドフィリン5-FU軟膏ブレオマイシン軟膏などがある。外科的治療としては、レーザーによる蒸散や切除、電気焼灼などがある。性感染症でありパートナーの診断、治療も必要である。


腟の腫瘍

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

(1) 腟原発の悪性腫瘍

原発性の腟悪性腫瘍の頻度は全女性性器癌の約1~2%といわれ、婦人科悪性腫瘍の中でもまれな疾患の一つである。分類の前提として、腟病変が子宮腟部を侵しかつ外子宮口に及ぶものは子宮頸癌に、外陰を侵すものは外陰癌にそれぞれ分類される

好発部位は腟の上部1/3であるが、腟からのリンパの流れが複雑であるために、原発腫瘍の発生部位によって所属リンパ節が異なるので注意を要する。

所属リンパ節
腟の上部2/3の場合:骨盤リンパ節
腟の下部1/3の場合:鼠径リンパ節

発生原因については機械的な刺激やHPV との関連性などが報告されている。

腟悪性腫瘍の組織型別頻度では扁平上皮癌が大多数を占めている。

腟悪性腫瘍の組織型別発生頻度
組織型       %
Squamous     85
Adenocarcinoma  6
Melanoma             3
Sarcoma               3
Miscellaneous        3

進行期分類はFIGO(1971)およびUICC(Union Internationale Centre le Cancer)(1992)によって表のように定められている。ちなみに各進行期別の5 年生存率は報告によりばらつきがあるが、Ⅰ期が70~100%、Ⅱ期が50~75%、Ⅲ期が20~50%、Ⅳ期が0~20%程度である。

******

原発性腟癌の進行期分類

T-原発腫瘍
TNM  FIGO
分類  進行期
TX   -   原発腫瘍を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき
T0   -   原発腫瘍を認めない
Tis   0   上皮内癌(浸潤前癌)
T1   Ⅰ   腟に限局する腫瘍
T2   Ⅱ   腟傍組織に浸潤するが、骨盤壁に進展しない腫瘍
T3   Ⅲ   骨盤壁に進展する腫瘍
T4   Ⅳa  膀胱、または直腸の粘膜に浸潤する腫瘍および/または小骨盤を超えて進展する腫瘍   
 注:胞状浮腫のみではⅣ期としない
M1   Ⅳb  遠隔転移

N-所属リンパ節
 NX  所属リンパ節転移の評価が不可能
 N0  所属リンパ節に転移なし 
 N1  骨盤、または鼠径リンパ節転移

腟の上部2/3の場合:骨盤リンパ節
腟の下部1/3の場合:鼠径リンパ節

M-遠隔転移
MX  遠隔転移の評価が不可能
M0  遠隔転移なし
M1  遠隔転移あり

pTNM 術後病理組織学的分類
pT、pN、およびpM分類はTNM分類に準ずる

腟癌のFIGO進行期分類とTNM分類

0期: Tis、N0、M0

Ⅰ期: T1、N0、M0

Ⅱ期: T2、N0、M0

Ⅲ期: T3、N0/N1、M0
      T1/T2、N1、M0

Ⅳa期: T4、any N、M0

Ⅳb期: any T、any N、M1

******

診断
 腟癌では不正出血や血性帯下を訴えて受診することが多い。腟鏡に病変が隠されてしまうこともあり診断の際に注意する。
 基本的には病変部から直視下に生検することによって確定診断をつける。さらに視診(コルポスコピー)、内診、直腸診を行い、また直腸鏡、膀胱鏡も施行し周囲組織への浸潤の程度を評価する。子宮頸癌と同様、DIPなどで尿路系の評価が必要な場合もある。
 所属リンパ節やその他の遠隔転移の評価はCTやMRI、胸部単純X線撮影などの画像診断、鎖骨窩リンパ節などの表在リンパ節の触診で判断する。

治療:
 まれな腫瘍であることからコンセンサスを得られている標準治療はないのが現状であるが、これまでの報告では放射線治療が選択されることが多い。
 Ⅰ期で病変が腟上部に限局した症例や放射線治療後の再発症例、Ⅳa期で膀胱腟瘻を有する症例などでは手術療法の適応となることもある。
 Ⅰ期で手術療法を選択する場合には上部1/3の症例では骨盤リンパ節郭清を含めた広汎子宮全摘術(+腟全摘術)、下部1/3では腟全摘術(+外陰切除術)および鼠径リンパ節郭清術を施行するのが一般的である。
 化学療法についてはCDDP を中心にBLM、VCR、VBL、MMC、MTXなどを組み合わせた多剤併用が報告されているが、現在のところまだ標準治療として確立されたものではない。

(2) 腟上皮内腫瘍( vaginal intraepithelial neoplasia : VAIN)

VAIN はその程度により3 段階(VAIN1、VAIN2、VAIN3)に分類されている。好発部位は腟の上1/3であるが多中心性に発生することが多い。CIN やVIN と互いにしばしば合併して存在するが、その発生率は子宮頸部、外陰に比して低い。

診断:ほとんどが無症状であり、検診の際には扁平上皮系の異常細胞診が出ているにもかかわらず子宮頸部にはっきりとした病変を認めない時などには腟の詳細な観察が必要である。子宮頸部と同様の手技で、コルポスコピーで観察し狙い組織診を施行する。ただし病変が複数存在する場合が多く観察範囲も広いことから子宮頸部よりも難しい。1ヵ所病変をみつけても他に病変はないか腟の全周を根気強く観察することが重要である。ルゴール液を用いたうえでの観察(Schiller テスト)も病変の発見に有効である。

治療:VAIN1、NAIN2であれば経過観察可能と考えられる。VAIN3で単発の病変であれば局所切除可能である.広範囲(多発性)の場合には程度に応じた腟摘出術が必要になるが、レーザーによる蒸散や5-FU 軟膏も有効とされる。ただし保存的治療の際には浸潤癌を術前に否定することが重要である。放射線治療も症例によっては施行されるが治療後の腟の狭小化、再発時の他の治療の困難さなど問題も多い。