ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

大野病院事件の影響

2008年05月28日 | 大野病院事件

コメント(私見):

癒着胎盤という、非常に稀かつ予測もほとんど不可能、しかも治療難易度がきわめて高い疾患に対して、救命目的で現在の標準的な医療行為を懸命に実施した医師が、極悪非道の罪人と同様の扱いで、公衆の面前で手錠をかけられて逮捕されました。考えてみれば、これほど無茶苦茶な話もめったにありません。

周産期医療に従事している限り、癒着胎盤にいつ遭遇するかは全くわかりません。そして、いざ癒着胎盤に遭遇した時には、この事件の担当医師と同じような対応をしなければならない立場にいるわけですから、多くの産婦人科医が「とてもじゃないがやってられない」という気持ちになって職を辞してしまいました。今度の判決次第では、現在まだ現場に何とか踏みとどまっている産婦人科医の中からも大量の離職者が出るかもしれません。

いずれにせよ、病院で分娩を取り扱う以上は、24時間体制で産科医、新生児科医、麻酔科医が院内常駐しているような完璧な医療提供体制が当然のごとくに求められる時代になってきました。1人医長体制などのマンパワーの不十分な産科は時代に全く合わなくなりました。今後、産科は集約せざるを得ない世の中の流れにあると思われます。

****** 医療タイムス社、長野、2008年5月23日

産科離れ加速に危機感を表明 

「大野病院」結審で県産婦人科医会・菅生副会長

 福島県立大野病院で、帝王切開手術で女性を死亡させたとして、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医師の公判が結審し、8月20日に判決が言い渡されることになった。このことについて、県産婦人科医会の菅生元康副会長(長野赤十字病院副院長)は本紙の取材に対し、「仮に有罪判決が出れば、産科をやめようという医師はさらに増えるだろう」と、医師の産科離れ加速に憂慮の念を示した。

 公判で争点となったのは癒着胎盤をはがす際の出血が死亡するほどのものかを予測できたかどうかという予見可能性など。菅生副会長は「癒着胎盤というのはどこでも起こりうることなので、私のところに回ってくる可能性もある。医療行為で努力した結果が、刑事罰ということになれば、これはたまらない。民事訴訟で賠償を求められるというのなら分かるが、刑事処分は産婦人科医師にとってショックだ」と語る。

 実際、お産で医師が起訴された影響は大きい。同事件の影響ばかりではないとしても、このところ全国的に産科をやめて婦人科専門としたり、若い医師が産婦人科を希望しなくなったりしている。菅生副会長によれば、特に若手男性医師が産婦人科を敬遠するようになり、20代の産婦人科医の7割は女性という現状も、お産の現場で大きな問題となっている。

(医療タイムス社、長野、2008年5月23日)