ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

福岡県産婦人科医会・日本産科婦人科学会福岡地方部会の抗議声明

2006年03月15日 | 大野病院事件
        抗議声明
福島県立大野病院産婦人科医師逮捕に抗議する

 はじめに、今回、この医療事故で亡くなられた患者様ならびにご遺族の方々に対し、心より哀悼の意を表します。
      
 平成18年2月18日福島県立大野病院の産婦人科医加藤克彦先生が逮捕・勾留され、3月10日に起訴されました。容疑は、平成16年12月前置胎盤で帝王切開術中、出血多量で死亡した件と、医師法21条による異状死体等の届出を警察にしなかったためとのことです。
  
[業務上過失致死容疑について]
 癒着胎盤を『予見できた』との当局の判断は、産科の専門医の考えに照らしてみて妥当とは思えません。何故、あえて刑事罰が科せられるか理由が見当たりません。医療上不可避なことまで刑事責任を問われるなら、医師は医療行為そのものが出来なくなってしまいます。

[医師法21条違反について]
 本件のような部分前置胎盤に合併した癒着胎盤による出血死は臨床的に『異状死』とみなさず、当然警察への届出義務違反には当たらないと考えます。

[逮捕・勾留について]
 私達は、現在医療過誤を巡り、関係者全員が納得出来る医療システムを国民・医療者・行政と共に作り上げようと最大の努力を払っております。そのような時に、今回のような逮捕・勾留・起訴は周産期医療のみならず、いたずらにすべての医療現場を混乱させ、さらには日本国民がよりよい医療を享受する機会を損ねる結果となり、国益に反する行為に他なりません。
 このような事態を避けるためにも、今回の逮捕・勾留・起訴に強く抗議します。

          平成18年3月15日

                福岡県産婦人科医会
                    会長  福嶋 恒彦
        日本産科婦人科学会福岡地方部会
                   会長  瓦林 達比古

大分県産婦人科医会・日本産科婦人科学会大分地方部会の抗議声明

2006年03月15日 | 大野病院事件
          抗議声明

福島県立大野病院産婦人科医師の不当逮捕に抗議する

はじめに、今回亡くなられた患者犠とそのご遺族に対し、心より哀悼の意を表します。

 平成18年2周18日福島県立大野病院産婦人科医師加藤克彦氏が、業務上過失致死及び医師法違反の容疑で逮捕・勾留され、 3月10日起訴されました。
 大分県産婦人科医会と日本産科婦人科学会大分地方部会は、検察及び福島県警の不当逮捕・勾留に強く抗議すると共に、直ちに加藤克彦医師を釈放することを求めます。

〔業務よ過失致死容疑について〕
 本件の業務上過失致死容疑の理由は、術前診断が極めて困難な、現代の医療水準をもってしても完全に予見できない癒着胎盤を、『予見できたはず』との誤った前提に基づいており、到底認めることはできないものです。また、癒着胎盤による出血が多量となった後の対応措置についても、その状況下における最善の治療を施しており、結果的に不幸な転帰をたどった事をもって、診療上一定の確率で起 こり得る不可避なできごとにまで刑事責任を問われ、逮捕・勾留・起訴されるのであれば、医師は何の治療もできなくなってしまいます。

〔医師法違反-「異常死 」 の届出について〕
 臨床の立場から、『異常死』とは診療行為の合併症としては合理的に説明できない『予期しない死亡』であり、予期される死亡は『異常死』には含まれないと考えます。本件は癒着胎盤による出血であり、当然『異常死』ではありません。また、届出については、県立大野病院の『医療事故防止のための安全管理マニュアル』に従って、 病院長へ報告しており、届出義務違反にも当たりません。

〔不当逮捕・勾留〕
 平成 17 年 3 月に県立大野病院事故調査委員会が事故調査を行い、報告書を作成し、行政処分が行われ、同年 4 月には県警が提査・証拠書類の押収を行っています。さらに加藤医師は、その後も大野病院唯一人の産婦人科医師として、献身的に勤務し続け、逮捕当日も診療中でありました。 この様な状況下にあるにも拘らず、 「証拠隠滅及び逃亡の恐れがある。」として、逮捕・勾留が行われたことは、県警・検察の強権的暴挙と言わざるを得ません。
 産婦人科医師不足の中、過酷な勤務条件のもとに医師の使命感を唯一の支えとして、診療に従 事している多くの産婦人科医師にとって、今回の逮捕・勾留・起訴は到底容認できるものではあり ません。 予測不可能、或いは医師がその置かれた状況下で、現在の医療レベルの処置を施しても不幸な 転帰となった場合に、これが業務上過失致死として逮捕・勾留されるのであれば、その様な職業に誰が進んで身を投ずることができましょうか。日本の周産期医療の崩壊にも繋がる今回の事件は、極めて重大であります。

改めて、今回の不当逮捕・勾留・起訴に強く抗議します。

                平成 18 年 3 月 13 日

             大分県産婦人科医会
                  会長 松岡幸一郎
     日本産科婦人科学会大分地方部会
                     会長 楢原久司


朝日新聞記事(福島) 医師逮捕・詳細(上・中)

2006年03月15日 | 報道記事

朝日新聞の記事
医師逮捕・詳報(上)~声なき子宮の訴え~
2006年03月14日

 大熊医師逮捕・詳報(上)~声なき子宮の訴え~町にある県立大野病院の産婦人科医、加藤克彦医師(38)=業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴=が帝王切開手術で「医療ミス」を起こし、女性(当時29)が死亡した――。

 (遺体なき捜査) 

 県警がこの事実を知ったのは05年3月。県が公表した事故調査報告書についての報道からだった。報告書は、死亡した女性が、出産後に自然にはがれるはずの胎盤が子宮に癒着している「癒着胎盤」で、十分な輸血用血液を待たずに胎盤をはがそうとしたことに「はがすのをやめ、子宮摘出に進むべきだった」と指摘していた。

 県警は手術の状況を把握するため、捜査に着手した。病院を家宅捜索してカルテなどを入手した。しかし、手術からすでに4カ月が経過し、遺体がないため、司法解剖は出来なかった。

 「物証」の一つとなったのが、死亡した女性の子宮だった。県警は、保存されていた子宮やカルテの鑑定を専門家に依頼。鑑定の結果、子宮のどの部分に胎盤が癒着していたかが裏付けられ、子宮から胎盤を強引にはがしたことも分かった、とする。

 癒着胎盤にどう対応するか――。医学生向けの教科書(『STEP産婦人科(2)産科』可世木久幸監修、海馬書房)には、「まずは胎盤用手剥離(胎盤を手を使ってはぐこと)を行いますが、ここで無理をすると、大出血や子宮内反を招くので注意が必要です。胎盤用手剥離が難しい場合には、原則として単純子宮全摘術を行います」と記載される。

 県警は専門家から話を聴くなどして、多くの血管が密集する胎盤を無理やりはがすと、大量出血して母胎に危険が及ぶ可能性があり、通常なら、無理にはがすべきではないと結論づけた。

 「無理やりはがすこと自体が過失」と、捜査関係者は言う。

 県警によると、加藤医師は手術後、院長に「医療過誤はなかった」などと説明したという。「うそをついているのか、もしくは、医学的知識が不足していたのか。どちらかだろう」と、捜査関係者の一人はみている。

 (真っ向対立に)

 一方、弁護側は、加藤医師の行った一連の手術について「担当医として講ずべき処置を行ったもの。業務上過失致死罪に問われる過失はない」とする。

 逮捕について、捜査関係者の一人は「(加藤医師を)病院の関係者と遮断して話をする必要があった」と説明した。

 今月10日の起訴に際して、福島地検の片岡康夫次席検事も「罪証隠滅のおそれ」を挙げた。

 片岡次席は「遺体やビデオ、心電図が残されておらず、関係者の供述が不可欠な状況で、身柄を確保した上で話を聴く必要があった」とし、また、「海外を含めて逃亡のおそれがあった」とも付け加えた。

 「医療ミス」を知ってから逮捕まで約1年を要したことについて、片岡次席は「専門的な捜査で県警と地検が内容を理解するのに時間が必要だった」とした。

 捜査当局の主張に対して、弁護側は、(1)カルテなどの証拠物が押収されていて、廃棄や書類の偽造など罪証隠滅はあり得ない(2)発生から長時間が経過していて、証拠隠滅や口裏合わせをしているのであればすでにしている――などとして、真っ向から対立する姿勢を示している。

                     ◇

 医療関係者から批判が相次ぐ中で、捜査当局は、公判維持に自信をのぞかせる。約4時間半の手術で、いったい何が起きたのか。何が捜査で明らかになったのか。一人の命と引き換えに県と医療界は何を学んだのか。事件を検証した。
(この連載は、神庭亮介、斎藤智子、田中美穂、八木拓郎が担当します)

医師逮捕・詳報(中)~血液あふれ出てきた
2006年03月15日

 04年12月17日――県立大野病院で、女性(当時29)の帝王切開手術が午後2時26分に開始された。

 主治医の加藤克彦医師(38)のほか、麻酔科専門医と外科医、看護師4人が手術室にいた。

 女性は、手術前の検査で、子宮の口を胎盤が覆う「前置胎盤」と診断された。帝王切開手術しか選択肢はなく、第1子の出産時に続き、2度目の手術に臨んだ。

 手術は順調だった。11分後に無事、女の子が産まれた。捜査関係者によると、女性は、生まれたばかりの赤ちゃんを抱かされ、見つめたという。のちに、全身麻酔で意識を失った。

 「はがれない」

 その後――「事故」を調査した医師や関係者によると、加藤医師は手順通り、子宮収縮剤を注射し、胎盤を外しにかかった。だが、へその緒を引っ張ればつるりととれるはずの胎盤が外れなかった。子宮を手でマッサージしたが、変わらない。胎盤を手ではがし始めたが、途中ではがれなくなった。

 「ひっぱってもとれなかった」「血液があふれ出てきた」。加藤医師は逮捕後、そう関係者に話している。はがれないため、クーパー(手術用はさみ)の先を子宮と胎盤のすき間に入れ、空間を作るようにして、癒着胎盤をはがしたという。

 胎盤は、いわば血の塊だ。お産の際、胎盤がとれると子宮が収縮し、血管が縮んで血が止まる。通常のお産なら、「1千ミリリットルぐらい出血しても気にしない」と、複数の産婦人科医はいう。

 見えない手元

 だが、癒着胎盤の場合は別だ。癒着胎盤の手術を経験した産婦人科医は「血がどんどん吹き出して手元が見えない。どこから出ているのかもわからない」と話す。

 加藤医師は9年目の「中堅」(県病院局)だが、癒着胎盤は初めてだった。県の事故報告書によると、胎児をとり出してから胎盤摘出までの13分間に約5千ミリリットルの血が失われていた。

 準備した血液製剤5単位(1単位、200ミリリットル)はすべて輸血。午後3時15分に血液製剤2千ミリリットルを、いわき市にある赤十字血液センターに注文した。同3時35分には子宮摘出に向け、全身麻酔に移った。

 このころ、作山洋三院長が手術室に入り、加藤医師に、ほかの医師の応援を頼んではどうかと提案している。加藤医師の返事はなかったという。

 血液センターから、注文した血液製剤が届いたのは、午後4時30分。ただちに輸血。総出血量は1万2千ミリリットルに及んでいた。

 午後4時5分に追加注文した血液製剤も午後5時30分に届き、子宮を摘出した。ところが午後6時ごろから、女性の脈が弱まった。作山院長が再び手術室に入った時は蘇生の真っ最中だったという。午後7時1分、死亡が確認された。

 作山院長は、加藤医師と麻酔科医を呼び、手術の経過を聴いた。「異状死」なら、医師本人が24時間以内に警察に届けなくてはならない。県のマニュアルでは、院長に届け出義務があった。

 作山院長は、取材に対して「医師2人の話を聴き、医療過誤にあたらないと判断した。血管を切ってしまったり、臓器を傷めたり、そういうことが医療過誤と考えている」と答えた。

 家族はこの間、ずっと手術室前の廊下で待っていた。すべてが終わってから、加藤医師に、女性の死を告げられた。

 「結果論」の声

 医学書によると、帝王切開の回数が増えるほど前置胎盤での癒着胎盤の確率は増す。

 米国の臨床例では、前回の帝王切開の傷跡部分に胎盤が付着している場合、35歳以下で前置胎盤の妊婦のうち、6人に1人が癒着胎盤だった。

 加藤医師の手術前の診断では、女性は「前回の帝王切開の傷跡に胎盤が付着していない前置胎盤」とされた。子宮後壁に付着し、傷跡とは無関係の場合、癒着胎盤となっている確率は27人に1人に下がる。

 事故調査委員会は、カルテや超音波診断写真などから、加藤医師と同じ判断を下した。だが、県警は残された子宮を鑑定し、胎盤が前回の帝王切開の傷跡にかかっていたと結論づけ、福島地検は起訴状で加藤医師もそれを「認めていた」と指摘した。

 「手術前、かりに帝王切開の傷跡に胎盤が付着していたと診断していれば、血液の準備や医師の確保などで、もっと何とかなったのではないか」。そう指摘する医療関係者もいる。

 その一方、ある産婦人科医は「すべては結果論。現実にはわからなかった。これが臨床診療の限界です」と話した。


加藤先生、保釈のニュース

2006年03月15日 | 報道記事

福島民友新聞社
http://www.minyu.co.jp/morning/morning.html#morning3

執刀の産婦人科医保釈

 県立大野病院(大熊町)の産婦人科医による医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴された医師の加藤克彦被告(38)=同町下野上字清水=は14日、保釈された。福島地裁は同日、加藤被告の保釈を決定。これに対し福島地検が同日中に決定を不服として準抗告したが、却下された。関係者によると、加藤被告の保釈金は500万円で、保釈の条件として病院関係者との接触や海外渡航の禁止などが盛り込まれているという。加藤被告の保釈をめぐっては、弁護団が13日に「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」などとして福島地裁に保釈を申請していた。同被告は2月18日に富岡署に逮捕、3月10日に起訴されていた。

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毎日新聞
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/fukushima/

大野病院医療ミス:加藤医師の保釈認める--福島地裁 /福島

 県立大野病院(大熊町)で04年12月、帝王切開手術中の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、福島地裁は14日、業務上過失致死と医師法違反の罪で10日に起訴された同院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)の保釈を認める決定を出した。これに対し、福島地検は、決定取り消しを求める準抗告を同地裁に申し立てたが、却下された。【松本惇】   (毎日新聞 2006年3月15日)