ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

妊娠悪阻

2010年03月28日 | 周産期医学

hyperemesis gravidarum

[定義] つわり症状が悪化し、栄養・代謝障害をきたし、体重減少のほか、脱水症、ケトアシドーシス、電解質異常、腎障害、脳神経症状など、種々の症状を呈し、治療を必要とする状態。重篤になれば死にいたる場合もある。初産婦に多いが、重症化するものは経産婦に多い。

全妊婦の1~2%に発生する。

[症状]

第1期:頑固な悪心・嘔吐を主徴とする時期
①嘔吐は食欲に関係なく起こる。唾液過多を呈することが多い。
②脱水症状が出現し、吐物に胆汁や血液が混ずる場合が多い。
③体重減少、口渇、めまい、頭痛などの症状が出現する。
④尿中ケトン体、ウロビリノーゲンやウロビリン、尿蛋白の陽性

第2期:嘔吐に加えて代謝障害による全身症状が現れる時期
①著しい体重減少、口渇および皮膚の乾燥
②軽度黄疸、発熱、頻脈の出現
③尿量減少
④母体血中の電解質異常および蛋白の減少

第3期:脳症状、神経症状の現れる時期
①肝機能障害から黄疸の出現。
②ケトーシス、代謝性アシドーシスの出現。
③傾眠、昏睡、意識低下、眼振、眼球運動麻痺など脳症状の出現。
④母体血中の電解質異常、蛋白の減少、残余窒素、クレアチニン、ビリルビンなどの上昇。
⑤胎児死亡および母体死亡にいたる場合がある。

ケトーシス(ケトン血症):
生体が糖をエネルギー源として利用できなくなると、体内の脂肪を分解し(β酸化)エネルギーを得る。その結果生じたケトン体(アセトン、アセト酢酸、3-ヒドロキシ酢酸)の血中濃度が上昇する病態をケトーシスという。正常ではケトン体は尿中には出現しないが、ケトン体の血中濃度が腎排泄閾値を越えると尿からも検出される。

代謝性アシドーシス:
代謝異常により体内の炭酸水素イオンHCO3-が過度に減少し、血液pHが酸性に傾く病態。血中にケトン体などの酸性代謝物が蓄積する、もしくは腎で塩基の再吸収ができなくなると血液pHが酸性に傾き、代謝性アシドーシスになる。

Wernicke脳症:
長期にわたる不完全な食事摂取などの原因によりビタミンB1が欠乏して起こる脳疾患。 Wernicke脳症の三徴(眼球運動障害、失調歩行、意識障害)。神経症状は不可逆性で、時には死にいたる場合もある。母体死亡率4.8%、神経学的後遺症90.5%。本症の予防のためにも、重症妊娠悪阻の治療においてビタミンB1の投与は重要である。

妊娠悪阻の治療:
①食事療法: 入院を必要としない場合はまずこれを行う。好きなものを少量かつ頻回に分けたり、冷やしたりすると効果的な場合もある。

②第1期(頑固な悪心・嘔吐を主徴とする時期): 絶食・輸液療法で妊娠を継続・維持する。

1)絶食・輸液療法: 1日2000~3000mlを補液する。
 Wernicke脳症予防のため、ビタミンB1の投与は必須。

2)薬物療法:薬物使用は必要最小限とする。嘔吐の著しいときにはメトクロプラニド、ピリドキシンなどを使用する。漢方薬では小半夏加茯苓湯、半夏厚朴湯、五苓散などが用いられる。鍼灸が試みられる場合もある。これらの治療効果は一定でなく、個人差も大きい。

③第2期(嘔吐に加えて代謝障害による全身症状が現れる時期): 栄養障害が著しい場合には高カロリー輸液が必要な場合もある。

④第3期(脳症状、神経症状の現れる時期): 母体の生命予後に影響を与える可能性がある場合、人工妊娠中絶を考慮せざるを得ない場合もある。


つわり(妊娠嘔吐)

2010年03月28日 | 周産期医学

emesis gravidarum

[定義] 妊娠によって起こる悪心・嘔吐など消化器系の症状を中心とする症候。

妊娠5~6週頃から症状が出現し、症状の多くは一過性で、妊娠12~16週頃までに自然に消失する。

50~80%の妊婦が経験し、初産婦に多い。

[症状] 悪心(吐き気)、嘔吐、唾液量の増加、 全身倦怠感(だるさ)、頭痛、眠気、 食欲不振、趣向の変化。症状は多彩で個人差が大きい。症状は早朝の空腹時に顕著であるため、morninng sicknessとも呼ばれている。

[対策] 症状を軽減するため、日常生活や食事の工夫を行う。

つわり対策のさまざまな工夫の例:
・ 朝起きた時にすぐにつまめるように、枕元にクッキーなどの軽食を用意しておく。
・ 食べたいものを食べたい時に食べる。
・ 安静にしたり、趣味などの集中できるものをみつけたりする。
・ 外出時は空腹を避け、糖質補給を心がける。
・ 家事や仕事で無理をしない。

つわりで食事が十分に摂取できなくても、この時期の胎児はまだ小さく、母体が備えている栄養で成長できる。


飯田市立病院 常勤医師の増員

2010年03月18日 | 地域医療

飯田市立病院は、4月1日付けの常勤医師数が現在よりも8人増えて95人となる見込みです。4月1日付けで新たに加わるのは、腎臓内科、内分泌内科、消化器外科、外科(ローテーター)、小児科、産婦人科、麻酔科(後期研修医)などで、信州大、名古屋大、大阪大、山梨大などから赴任(またはローテート)する医師、後期研修医として直接採用される医師などが含まれます。さらに、7月1日付けで眼科が2人、耳鼻咽喉科が1人増員される予定です。

内科は常勤医師が2人加わり23人体制となります。外科は常勤医師が1人加わり14人体制(消化器外科、乳腺内分泌外科、呼吸器外科、心臓血管外科、救急外科を含む)となります。麻酔科は常勤医師が1人加わり7人体制となります。産婦人科は常勤医師が1人加わり6人体制となります。

眼科は常勤医師不在となっていたため、診察はこれまで事前の予約制でしたが、今回2人の常勤医師が新たに着任することで2年3か月ぶりに通常の診療態勢に戻り、手術や入院にも対応できるようになります。耳鼻咽喉科は南信の拠点病院の位置付けとなり、今回常勤医師が1人増えて3人体制となります。

しかし、整形外科(常勤医師4人)、脳神経外科(常勤医師2人)、心臓血管外科(常勤医師1人)などの医師不足の状況は改善されず、今後の課題となってます。

薬剤師、臨床心理士などの医療技術職は8人増えて、4月1日付けで104人となります。看護職も看護師19人、助産師2人が加わり、4月1日付けで332人となります。助産師は総勢37人の態勢となります。

また、飯田市立病院は2009年度収支で経常黒字となる見通しを発表しました(3月1日)。黒字決算は8年ぶりで、昨年策定した「飯田市立病院改革プラン」の目標より1年早い達成となります。2009年度の入院収益は前年度比10億400万円増の68億7400万円となる見込みで、黒字額は2億1100万円の見込みです。


周産期センター棟の新築計画

2010年03月11日 | 飯田下伊那地域の産科問題

飯田下伊那地域では、現在、3施設(飯田市立病院、椎名レディースクリニック、羽場医院)で、地域の分娩(約1500件)を分担して取り扱ってます。しかし、時代の流れにかんがみて、数年後には地域の分娩のほとんどが飯田市立病院に集中する可能性も考えられます。

現在、飯田市立病院が取り扱っている年間分娩件数は約1000件で、産科病棟はほぼ満床の状態が続き、施設的にこれ以上の妊婦さんを受け入れるのは困難な状況ですが、病院の構造上、産科病棟を現在の場所で改修・拡張するのには限界があります。そこで、第3次整備計画を練り直して、2年後に手術室に隣接した中庭に周産期センター棟が新築されることになりました。

現在のスタッフの陣容では年間分娩件数1000件で精一杯の状況です。今のうちに産婦人科医、助産師の数を少しづつ増やしていく必要があると考えてます。産婦人科医数は一進一退を繰り返していますが、数年前の最悪期と比べるとやや増加傾向にはあります。4月からは1人増えて一応6人体制になります。また、助産師も毎年多くの新人を迎えることができ総勢40人近くまで増えてきましたが、最近は助産師自身のベビーラッシュで経験豊富な助産師の多くが産休中で、修行中の若い助産師の比率が高くなり、産科病棟師長は勤務表作成のやりくりにいつも頭を悩ませている状況です。

周産期医療を充実させるためには、産科だけでなく小児科や麻酔科の充実が非常に重要です。飯田市立病院では、以前から小児科の先生方が新生児医療に熱心に取り組んでおられます。緊急時にはいつでも分娩室や手術室に駆けつけて来てくださり、新生児の蘇生処置をしてくださってます。また最近、麻酔科のマンパワーが充実してきて非常に助かってます。4月からは1人増えて麻酔科7人体制となります。真夜中の緊急帝王切開にも、いつも麻酔科医2人で適切に対応してくださいますし、年に数例はある超緊急帝王切開(子宮破裂、臍帯脱出、常位胎盤早期剥離など)にもいつも適切に対応してくださってます。

考えてみれば、周産期医療提供体制は1人や2人の頑張りだけではどうにもなりません。いっとき盛り上がって頑張ればそれで済むようなものでもありません。大きな組織の体制が永続的に機能する必要があります。私も定年退職までの9年間を精一杯頑張りたいと思いますが、個人の頑張りには限界があります。どの分野で頑張っている人でも、みんな年々歳を取っていき、いつかは引退しなければなりません。その時、その業務を引き継いでくれる次の世代の人が育ってなければ、その業務はそこで途絶えてしまいます。周産期医療の業務は、人類が存続する限り、今後も引き継いでいく必要がありますが、次世代の人達が育ってくれないことには業務を存続させることが困難となってしまいます。次世代の若い人達が入門を尻込みするような過酷な勤務環境で、無理に無理を重ねて頑張り続けるのは考えものです。若い人達が喜んで入門できるような勤務環境を整えることが重要です。この業界の今最も重要な課題は、持続可能な組織の体制を確立することだと思います。次世代を担う若い人達が多く集まって、立派に育っていく場所を作りたいと思います。10年後も20年後も立派に機能する組織を残したいと思います。

長野県・飯田下伊那地域における産科問題の変遷

地域周産期医療の現場で、我々が今なすべきことは何だろうか?

病院の広報:当院産科の状況

ハイリスク分娩に適切に対応できる病院の体制とは?

分娩件数、手術件数の急増

持続可能な周産期医療システムの構築

周産期医療体制の崩壊を阻止するために

周産期医療の危機的状況


頸管妊娠

2010年03月11日 | 周産期医学

cervical pregnancy

【定義】 頸管妊娠は、内子宮口以下の頸管粘膜に受精卵が着床し発育する、子宮内の異所性妊娠である。

頸管妊娠の胎盤絨毛は容易に筋層に浸潤し、高度の癒着胎盤となる。

【頻度】 妊娠1000~18000に1例の頻度。

子宮外妊娠の0.15%(産婦人科研修の必修知識2007)

子宮外妊娠の0.5%(最新産科学、異常編)

【原因】 子宮内での正常な着床ができず、低位置で着床することになる。子宮内容除去術の既往。子宮筋腫などの子宮の異常。

【症状】
①不正性器出血。とくに内診、ゾンデ診、子宮頸管拡張時に大出血をきたす。

②軽い下腹痛、腰痛。

【診断】 子宮頚部が腫大し、その上に子宮体部を触れるため、子宮は全体として「ダルマ型」となる。経腟超音波検査で子宮頚部に胎嚢を認める。追加検査としてMRIが有用である。

【治療】
①腹式単純子宮摘出術

②保存療法:
 性器出血が多量となる前ではメソトレキセート(MTX)の局所または全身投与が奏功することがある。最近では、選択的子宮動脈塞栓術を併用することによる保存療法成功の報告も多くみられる。


腹膜妊娠

2010年03月10日 | 周産期医学

peritoneal pregnancy

【定義】 腹膜妊娠とは妊卵が腹膜に着床して発育する妊娠と定義される。

【頻度】 
子宮外妊娠の1.40%(産婦人科研修の必修知識2007)

子宮外妊娠の0.5%(最新産科学、異常編)

【分類】
①原発性腹膜妊娠:
 受精卵が直接腹膜に着床するもの

②続発性腹膜妊娠:
 腹膜妊娠の大部分は続発性と言われる。

 卵管流産や卵管破裂の後に、胎芽のみ腹腔に排出され、胎盤の一部はなお卵管に着床し続けて、胎芽の発育が持続するとともに、この胎盤がさらに広間膜、子宮後面、大網、腸管などに着床面を拡大していく。胎児の周囲はフィブリン膜で胎嚢を形成する。胎盤は周囲臓器(腸管、大網、子宮)などに癒着する。

【症状】 腹膜は広いので、血液供給が保たれれば、胎児はかなりの大きさまで発育することもある。胎動による不快感、腹痛を訴える。

【診断】
①診断困難なことが多い。
②腹部X線像、超音波断層法、MRI検査が参考になる。
③胎児部分を直接触れる。

【治療】
①開腹して腹腔内の胎児を除去する。
②まれに生児を得ることがある。(多くは先天奇形)
③胎盤は周囲臓器との癒着の程度により、一期的に摘出するか胎盤を残すかを決定する。
 胎盤除去可能の場合は、胎盤が付着している臓器(子宮、付属器、大網など)とともに切除する。
 胎盤除去不能の場合は、胎児・臍帯のみ除去し、臍帯を結紮して胎盤は残置したまま閉腹して胎盤の自然融解、排出を待つ。MTXの全身投与で胎盤組織を変性壊死させた後に再開腹して除去する場合もある。


子宮外妊娠

2010年03月08日 | 周産期医学

extrauterine (ectopic) pregnancy

【定義】 子宮外妊娠とは、「受精卵が子宮腔以外の場所に着床し、生育した状態」と定義される。

Pregnancy_ectopic

【分類】 妊卵が着床する部位によって次のように大別する。
①卵管妊娠 tubal pregnancy
 1)膨大部妊娠 ampullary pregnanncy
 2)峡部妊娠 isthmic pregnancy
 3)間質部妊娠 interstitial pregnanncy
 4)卵管采妊娠 infundibular pregnancy
②腹膜妊娠 peritoneal pregnancy
 (腹腔妊娠 abdominal pregnancy)
③卵巣妊娠 ovarian pregnancy
④頸管妊娠 cervical pregnancy

【頻度】 自然妊娠の1~2%に発生する。子宮外妊娠の98.3%を卵管妊娠が占める。卵管妊娠はさらに4つに分けられ、卵管膨大部妊娠が最も多い。

部位別頻度 (産婦人科研修の必修知識2007)
①卵管妊娠:98.3%
 1)卵管膨大部妊娠:79.6%
 2)卵管峡部妊娠:12.3%
 3)卵管間質部妊娠:1.9%
 4)卵管采妊娠:6.2%
②腹膜妊娠:1.40%
③卵巣妊娠:0.15%
④頸管妊娠:0.15%

【疫学】 
近年、不妊治療における生殖補助医療技術(ART)が普及し、体外受精・胚移植による妊娠例が増加している。体外受精・胚移植での子宮外妊娠の発生率は2~4%と高率である。

子宮外妊娠の反復は10~20%にみられる。

【原因】
①卵管の異常:
 卵管内癒着、卵管周囲癒着(クラミジア感染後、子宮内膜症)
 卵巣・卵管の手術の既往

②受精卵の輸送の異常:
 卵の外遊走、
 体外受精・胚移植

③子宮の異常:
 子宮内避妊具(IUD)の挿入、
 人工妊娠中絶の既往

【症状】(卵管妊娠)
①破裂前の自覚症状
 1)無月経後の不正性器出血(少量)
 2)下腹部痛

②破裂後の症状
 1)腹腔内出血による急性貧血、出血性ショック
 2)下腹部激痛

【診断】
①血中(尿中)hCG値と経腟超音波断層法で診断
 1)hCG値が1000(~2000)IU/L以上なのに子宮内に胎嚢が認められない場合には子宮外妊娠が強く疑われる。
 2)腹腔内出血があれば経腟超音波検査でダグラス窩にエコーフリースペースがみられる。
 3)子宮外に胎嚢像や胎児心拍を認めることがある。

②腹腔鏡検査(確定診断):上記で診断できない場合に実施。

【治療】
①待機療法:hCG低値の場合は、hCG値の推移をみながら経過観察。

②メソトレキセート(MTX)の全身(筋注)投与

③経腟超音波ガイド下の局注
 (MTX、プロスタグランディンF2α など)

④手術療法:
 a. 根治手術
  (卵管切除術)
 b. 保存的手術
  (卵管線状切開、卵管内容圧出、卵管端々吻合術)

 1)腹腔鏡下手術が主流
 2)緊急開腹手術
 (大量の腹腔内出血が疑われる場合)


羊水塞栓症

2010年03月07日 | 周産期医学

amniotic fluid embolism

【定義】 羊水塞栓症とは、分娩時に、何らかの原因で、比較的多量の羊水および胎児成分が母体血中に流入し、母体に突発的な呼吸不全、循環不全、ショック、DICなどをひき起こす極めて重篤な疾患である。

【発生機序】 子宮内圧の上昇、卵膜・子宮内膜の裂傷などの条件がそろった場合、比較的多量の羊水が卵膜の裂隙を通って子宮内膜面に露呈した破綻血管から母体血中に流入し、本症をひき起こすと考えられている。①母体肺血管の機械的塞栓、②化学伝達物質(プロスタグランディン、組織トロンボプラスチンなど)を介した肺血管攣縮、③アナフィラキシーショックなどが本症の病態として考えられている。

【発症頻度】 約2~3万(文献により約6~8万)分娩に1例と非常にまれな疾患である。

【誘因】 過強陣痛、陣痛誘発、破水、頚管裂傷、子宮破裂、常位胎盤早期剥離、帝王切開、羊水穿刺など

【症状】 分娩中や分娩直後に、急激に低酸素症(呼吸困難、チアノーゼ、呼吸停止)をきたし、血圧低下または心停止に陥り、原因不明の産科DICあるいは多量出血(湧き出るような性器出血)などがみられる。多くは意識が回復することなく死の転帰をとる。1時間以内に半数が死亡するとも言われている。

羊水塞栓症は、陣痛発来後、特に破水後に発症することが多い。

【予後】 劇症型では発症直後に死亡に至る。母体死亡率は60~80%と非常に高い。

【診断】 確定診断は、死後解剖で肺組織内に羊水や胎児成分(胎児扁平上皮、胎脂)を証明するか、Swan-Ganzカテーテルによって採取した肺動脈血内の胎児成分(ムチン)を証明する。

母体血中に胎便由来の亜鉛コプロポルフィリン(Zn-CP)とシリアルTN抗原(STN)が確認されれば、母体血内への羊水流入が証明できる。

【治療】 羊水塞栓症は病因がいまだ明らかとなっていないため、予知および根本的治療は困難である。心肺停止時は、まず心肺蘇生法を行う。酸素療法、抗ショック療法、抗DIC療法を施行する。急性期の左心不全を乗り切ると救命の可能性がでてくる。本症の臨床像の性格から、高次医療施設のICU にて管理されるべきと考えられる。ICUに搬送後、呼吸管理においては、成人呼吸窮迫症候群発症に注意し、残存肺機能を増加させるような人工換気を行う。循環管理はSchwann-Ganzカテーテルを留置し、特に左心機能のパラメーターに注意をはらう。肺水腫の出現に注意しながら輸液、輸血を継続し、急性血液浄化療法を試してもよいだろう。

ショックに対して副腎皮質ステロイド(ソル・コーテフ、ソル・メドロール)やウリナスタチン(ミラクリッド)を静脈内投与し、vital signsを頻回にチェックし、血圧が維持されるように輸液・輸血ならびにドーパミンを点滴静注する。

DIC の進展を防止するため速効性のあるヘパリンを静注する。とくに出血増加の副作用が少ない点から低分子ヘパリン(フラグミン)の使用が勧められている。

参考記事:

妊産婦死亡 原因別の最多は羊水塞栓症

羊水塞栓症について


羊水塞栓症、問題と解答

2010年03月07日 | 周産期医学

【国試過去問】 分娩時、破水後に突然原因不明の呼吸困難、チアノーゼ、痙攣(cramp)発作を起こし、数時間で死亡した。もっとも疑われるものはどれか。

a. 低フィブリノーゲン血症
b. 子癇(eclampsia)
c. 羊水塞栓症
d. 常位胎盤早期剥離
e. 子宮破裂

解答:c

【正誤問題】

(1)羊水塞栓症では母体死亡はまれである。

(2)羊水塞栓症では下腹部が板状硬となる。

(3)羊水塞栓症では妊娠高血圧症候群を合併することが多い。

(4)羊水塞栓症では突然の呼吸困難、チアノーゼ、ショックが特徴的である。

(5)羊水塞栓症では中心静脈圧が低下を示す。

(6)羊水塞栓症の確定診断は死後剖検での肺病理検査によって行う。

(7)羊水塞栓症の臨床的診断は母体血中のZn-CPとSTNの証明による。

(8)羊水塞栓症ではDICをともなうことが多い。

(9)羊水塞栓症では、まず抗ショック療法、抗DIC療法を行う。

(10)羊水塞栓症では低分子ヘパリンの投与が有効である。

解答 ――――――

(1)X 羊水塞栓症の母体死亡率は60~80%と非常に高い。約50%は発症後1時間以内に死亡すると言われている。

(2)X

(3)X

(4)O

(5)X 羊水塞栓症は、羊水および胎児成分が母体血中へ流入することによって引き起こされる「肺毛細血管の閉塞を原因とする肺高血圧症と,それによる呼吸循環障害」を病態とする疾患である。中心静脈圧は上昇を示す。

(6)O

(7)O 体血中に胎便由来の亜鉛コプロポルフィリン(Zn-CP)とシリアルTN抗原(STN)が確認されれば、母体血内への羊水流入が証明できる。

(8)O

(9)X 心肺停止時はまず心肺蘇生法を行う。

(10)O DIC の進展を防止するため速効性のあるヘパリンを静注する。出血増加の副作用が少ない点から低分子ヘパリン(フラグミン)の使用が勧められている。


子宮内反症

2010年03月06日 | 周産期医学

inversion of the uterus

【定義】 子宮内反症とは、子宮体が内方に反転して頚管内に下降したり腟内あるいは腟外に脱出し、子宮内膜面が外方に内転した状態をいう。

Naihan

【分類】 内反の程度により、
①全内反症 complete inversion of the uterus
②不全内反症 incomplete inversion of the uterus
③子宮圧痕(陥凹) impressio uteri
に分類される。

【頻度】 初産婦に多く、非常にまれ(2000~20000分娩に1例の頻度)である。23127例中に1例(Das)。自然発生:40%、臍帯牽引:21%、子宮底圧出:19%。

【予後】 治療が遅れると、大量出血・ショックのため母体死亡に至ることもある。死亡率14.8%(Das)。用手整復例の次回分娩時には再発がある。

【原因】 胎盤剥離徴候以前に臍帯を過度に牽引したり、強引な胎盤の子宮底圧出法を行った場合に発生しやすい。しかし、通常の扱いでも生じることがあり、また一度発生すると次回分娩時の再発率が高いことから、内因性の素地に外因性の力が加わって発生すると考えられている。

【症状】 分娩第3期の胎盤剥離前後に生じ、子宮内反症を生ずるとすぐに大量の出血と下腹部の激痛が始まり、出血性ショックと腹膜刺激症状による神経原性ショックが加わって重篤なショック状態になる。

※ 出血量とショックの程度とは一致しない。

【診断】 内反子宮が子宮腔より脱出している場合は、赤色腫瘤を認める。この腫瘤に胎盤が付着していれば、診断は確実である。子宮底は下降し触知不能で、超音波断層法で陥凹した子宮を確認する。

【治療】
①全身療法
 十分な輸液・輸血と抗ショック療法を行う。

②感染対策
 厳重な無菌操作を行い、十分な抗生物質を投与する。

③用手的整復
 胎盤が付着していれば静脈路を確保し、吸入麻酔や子宮収縮抑制剤を投与し子宮が弛緩した後に剥離を行う。発生後間もない(1時間程度)内反子宮は、術者が一方の手掌を子宮底に当て、反対の手の指で骨盤軸の方向に押し上げるだけで修復可能なことが多い。元に戻れば子宮を弛緩させる薬物は中止し、オキシトシンを点滴して子宮を収縮させる。この間、子宮底を把持して正常な子宮の位置を保ち、子宮が収縮して止血するまで双手圧迫を続ける。

④手術的整復(Huntington手術)
 絞扼が強く、用手的整復が不可能な場合は開腹する。円靭帯と子宮底部を同時にゆっくりと引き上げながら、子宮体部を下方に押し下げるようにして修復する。絞扼が強くて修復できないときは、後壁を注意深く切開して子宮底部を露出させる。修復した後は子宮筋を弛緩させる麻酔薬は止め、オキシトシンの点滴を始める。

⑤子宮摘出
 子宮内反症の整復に不成功の場合は、腟式または腹式に子宮を摘出する。


子宮内反症、問題と解答

2010年03月06日 | 周産期医学

【国試過去問】 32歳の初産婦。20分前に児を経腟分娩した。胎盤の自然剥離徴候がみられないので臍帯を軽く牽引したところ、産婦は突然激痛を訴え、大量の性器出血がみられた。

次にとるべき処置はどれか。2つ選べ。

a. 内診
b. 全身麻酔の準備
c. 開腹手術の準備
d. 胎盤用手剥離
e. オキシトシンの静注

解答:a、b

胎盤剥離徴候がみられないまま臍帯を牽引したら激痛と大出血をきたした症例で、子宮内反症の典型例である。内診と超音波断層法で診断する。用手整復が無理な場合は開腹手術を行う。オキシトシンの静注は禁忌である。子宮を弛緩させたいので全身麻酔を行う。

******

【正誤問題】

(1)子宮内反症は次回分娩で再発しやすい。

(2)子宮内反症は胎盤剥離徴候以前の胎盤の牽引、子宮底圧迫により発生する。

(3)子宮内反症では子宮底の上昇が認められる。

(4)子宮内反症では腟内に赤色腫瘤を認める。

(5)子宮内反症のショックは出血性ショックだけで起こる。

(6)子宮内反症における子宮圧痕の診断は、超音波断層法で陥凹した子宮を認める。

(7)子宮内反症の整復は、一方の手掌を子宮底に置き、他方の手の指で押し上げる。

解答 ――――――

(1)O 用手整復例では次回分娩時に再発することがある。

(2)O 医原性が多い。

(3)X 子宮底触知不能となる。

(4)O

(5)X 激痛による神経原性ショックもある。

(6)O

(7)O 発生後1時間以内なら用手整復が成功する場合が多い。


妊娠高血圧症候群

2010年03月03日 | 周産期医学

pregnancy-induced hypertention (PIH)

【定義】 妊娠高血圧症候群(PIH)は、妊娠20週以後、分娩後12週までに高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症候が偶発合併症によらないものをいう。

【名称】 従来「妊娠中毒症」と称した病態は、妊娠高血圧症候群(pregnancy-induced hypertention = PIH)との名称に改める。(日本産科婦人科学会、2005年)

【病型分類】
a. 妊娠高血圧(GH: gestational hypertension)
妊娠20週以後に初めて高血圧が発症し、分娩後12週までに正常に復する場合。

b. 妊娠高血圧腎症(PE: preeclampsia)
妊娠20週以後に初めて高血圧が発症し、かつ蛋白尿を伴うもので、分娩後12週までに正常に復する場合。

c. 加重型妊娠高血圧腎症
 (superimposed preeclampsia)
①慢性高血圧が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以後蛋白尿を伴う場合。
②高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以後、いずれか、または両症状が増悪する場合。
③蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以後に高血圧が発症する場合。

d. 子癇(eclampsia)
妊娠20週以後に初めてけいれん発作を起こし、てんかんや二次性けいれんが否定されるもの。けいれん発作の起こった時期により、妊娠子癇、分娩子癇、産褥子癇に分ける。

【症候による亜分類】
①軽症
血圧:次のいずれかに該当する場合
収縮期血圧 140mmHg以上、160mmHg未満
拡張期血圧 90mmHg以上、110mmHg未満
蛋白尿:300mg/日以上、2g/日未満

②重症
血圧:次のいずれかに該当する場合
収縮期血圧 160mmHg以上
拡張期血圧 110mmHg以上
蛋白尿:2g/日以上 

【発症時期による分類】
①早発型(EO: early onset type)
妊娠32週未満に発症するもの

②遅発型(LO: late onset type)
妊娠32週以後に発症するもの

軽症は遅発型が大多数を占める。重症は早発型と遅発型のいずれでも発症する可能性がある。早発型では合併症の頻度が高く、母や児が予後不良となりやすい。早発型は胎児の発育が障害されていることが多く、胎盤形成不全が大きく関わる。遅発型は胎児発育の障害はないかあっても軽度で、胎盤形成不全以外の母体因子(肥満など)が発症原因と考えられる。

【頻度】
PIHの発生頻度は全妊婦数の約5%(4~8%)である。 

重症PIHは全妊婦の1~2%である。

PHのうち約25%がPEに移行する。

子癇は1000~2000分娩に1例の頻度である。

【リスク因子】
①遺伝素因:高血圧家系

②既往歴:既往妊娠のPIH、高血圧症、慢性腎炎、糖尿病、抗リン脂質症候群、甲状腺機能亢進症

③身体的因子:高年齢、肥満(BMI≧26)

④産科的因子:初産、多胎、羊水過多、

⑤社会的因子:過労、ストレス、低所得、塩分過剰摂取

【検査】
①血液濃縮(Ht

②水、Naの貯留

③腎機能低下(GFR 、BUN 、尿酸

④アシドーシス

⑤慢性DIC(血小板 、過凝固)

⑥尿蛋白(+)、低蛋白血症

⑦脂質

⑧PGI2/TXA2比の低下 (TXA2優位)
 子宮・胎盤のほか主要臓器の血流低下、血小板機能異常

PGI2(プロスタサイクリン):血管内皮細胞で主に産生され強力な血管平滑筋弛緩作用と血小板凝集抑制作用を有する

TXA2(トロンボキサンA2):血小板で産生され血管平滑筋収縮作用や血小板凝集作用を有する

【合併症】 PEでは、全身の血管内皮細胞障害による血管攣縮、血管透過性亢進、凝固亢進が生じ、重大な合併症が生じやすく、厳重な監視とその患者に適した分娩時期・方法の決定が必要になる。

DIC、子癇、脳出血、肺水腫、肝機能障害、HELLP症候群、腎機能障害、常位胎盤早期剥離、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、胎児機能不全など

【治療】 PIHの最終的な治療は妊娠中断である。

児が未熟な場合は妊娠を継続し、適切な分娩時期を判断する。

1. 安静・食事療法(食塩摂取7~8g/日程度)

 ※以前は厳重な塩分制限が推奨されていたが、現在は否定的である。

2. 薬物療法:
 ①降圧薬:ヒドララジン、メチルドーパ
 ②硫酸マグネシウム:子癇の治療、発症・再発の予防

 ※ PIHに降圧利尿剤は禁忌である。

3. 妊娠中断
 ①重症で、児が十分に成熟している場合
 ②母体の状態悪化や合併症、胎児機能不全がある場合


妊娠高血圧症候群、問題と解答

2010年03月03日 | 周産期医学

【練習問題11】(産婦人科研修の必修知識2007)

重症妊娠高血圧症候群の母体検査所見で認められるのはどれか、2つ選べ。

a. ヘマトクリット値の低下
b. 血糖値の上昇
c. 血小板数の減少
d. 尿酸値の上昇
e. 動脈血酸素分圧の上昇

解答:c、d

妊娠高血圧症候群の検査所見:
①血液濃縮(Ht ↑)、
②水、Naの貯留、
③腎機能低下(GFR 、BUN 、尿酸 )、
④アシドーシス、
⑤慢性DIC(血小板 ↓、過凝固)、
⑥尿蛋白(+)、低蛋白血症、
⑦脂質 ↑、
⑧PGI2/TXA2比の低下 (TXA2優位)

******

【国試過去問】

妊娠高血圧症候群の病態として正しいのはどれか。

a. ヘマトクリット値の低下
b. 血小板数の増加
c. 血液凝固能の低下
d. 血管透過性の亢進
e. 腎血流量の増加

解答:d

妊娠高血圧症候群では、血管透過性の亢進から血漿成分の血管外漏出をきたし、ヘマトクリット値は脱水により高値となる。血小板数は低下、血液凝固能は亢進、腎血流量は低下する。

******

【国試過去問】 25歳の初妊婦。妊娠36週の妊婦健診で高血圧、下腿浮腫を指摘されて紹介、入院。胎児発育は週数相当と言われていた。血圧146/94mmHg。子宮口の開大はなく、展退も認めない。尿蛋白(-)。Ht33%、血小板20万。

まず行うべき検査はどれか。2つ選べ。

a. ノンストレステスト(NST)
b. 超音波検査による羊水量計測
c. 羊水鏡検査
d. マイクロバブルテスト
e. 胎児血液ガス分析

解答:a、b

妊娠高血圧症候群では、まず胎児機能不全の検査(NST、羊水量計測など)を行う。

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【正誤問題】

(1)癒着胎盤は妊娠高血圧症候群(PIH)において起こりやすい。

(2)常位胎盤早期剥離はPIHにおいて起こりやすい。

(3)子宮内胎児発育遅延(IUGR)はPIHにおいて起こりやすい。

(4)仰臥位低血圧症候群によるショックはPIHにおいて起こりやすい。

(5)重症PIHでは羊水過多症がみられる。

(6)PIHではヘマクリット値の低下がみられる。

(7)PIHでは血小板増加がみられる。

(8)PIHでは血液凝固能低下がみられる。

(9)PIHでは血管透過性亢進がみられる。

(10)PIHでは循環血液量が減少する。

解答 ――――――

(1)X 絨毛が子宮筋層に侵入し、胎盤と筋層が癒着するもの。

(2)O 

(3)O

(4)X 妊娠子宮による下大静脈圧迫のために起こる。左側臥位に体位変換すれば軽快する。

(5)X 重症PIHでは羊水過少症を起こすことが多い。

(6)X PIHでは血液は濃縮状態でヘマトクリット値は上昇する。

(7)X 血小板減少がPIHの重症化の目安となる。

(8)X 血液凝固能は亢進状態である。

(9)O 血管内皮の障害に基づく血管透過性の亢進が浮腫の一因となる。

(10)O

******

【正誤問題】

(1)PIHは双胎妊娠に合併しやすい。

(2)PIHは糖尿病妊婦に合併しやすい。

(3)甲状腺機能亢進症が妊婦に及ぼす影響としてPIHがある、

(4)PIHは一般に妊娠28週以降に発症するものをいう。

(5)PIHは初産婦に多い。

(6)妊娠高血圧腎症(PE)では次回妊娠で再発しやすい。

(7)PEの症状の多くは分娩後早期に消失する。

(8)妊娠30週以前に発症するものは加重型妊娠高血圧腎症が多い。

(9)加重型妊娠高血圧腎症は、妊娠回数を重ねると重症化する。

(10)PIHでは正期産で低出生体重児が生まれやすい。

解答 ――――――

(1)O

(2)O

(3)O

(4)X 妊娠高血圧症候群(PIH)は、妊娠20週以後、分娩後12週までに高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症候が偶発合併症によらないものをいう。

(5)O

(6)X PEでは次回妊娠での再発はあまりない。加重型妊娠高血圧腎症は再発しやすい。 

(7)O PEの症状の多くは約1カ月で消失する。

(8)O 加重型妊娠高血圧腎症は比較的早期に症状が現れ、慢性の経過をとる。

加重型妊娠高血圧腎症とは、妊娠前、または妊娠20週前より高血圧、蛋白尿のいずれか、もしくは両方の症状を呈し、妊娠20週以降に増悪を見た場合をいう。

(9)O 加重型妊娠高血圧腎症は、妊娠回数を重ねると、子癇、肺水腫などへの移行が多い。

(10)O

******

【正誤問題】

(1)重症PIHの判定基準として収縮期血圧160mmHg以上は正しい。

(2)重症PIHの判定基準として拡張期血圧100mmHg以上は正しい。

(3)PIHは全妊娠の2~4%にみられる。

(4)PIHは一般に胎盤病とされている。

(5)PIHには妊娠偶発合併症による高血圧を含める。

(6)妊娠偶発合併症による高血圧で症状が増悪した場合を、加重型妊娠高血圧腎症という。

(7)PIHの症候による亜分類では、収縮期血圧が140mmHg以上、160mmHg未満、拡張期血圧が90mmHg以上、110mmHg未満を軽症とする。

(8)PIHの症候による亜分類では、収縮期血圧が160mmHg以上、拡張期血圧が110mmHg以上を重症とする。

(9)24時間尿の蛋白尿が300mg/日以上、2g/日未満を蛋白尿軽症、2g/日以上を蛋白尿重症とする。

(10)重症PIHは全妊娠の1~2%に発生する。

解答 ――――――

(1)O

(2)X 拡張期血圧110mmHg以上が重症PIHの判定基準である。

(3)X PIHは全妊娠の4~7%にみられる。

(4)O

(5)X

(6)O

(7)O

(8)O

(9)O

(10)O

******

【正誤問題】

(1)32週未満の発症を早発型、32週以後の発症を遅発型とする。

(2)早発型では遅発型に比較してIUGR減少する。

(3)PIHでは一般に血液希釈が認められる。

(4)PIHでは一般に循環血液量の増加が認められる。

(5)PIHによるIUGRはsymmetrical IUGR(均衡型発育遅延)になる。

(6)PIHの治療の基本は安静・食事療法である。

(7)PIHでは一般に高カロリー療法を行う。

(8)PIHでは一般に食塩摂取量を5g/日に制限する。

(9)PIHでは一般に厳重な水分制限を行う。

(10)PIHの薬物療法ではACE阻害薬が第一選択である。

解答 ――――――

(1)O

(2)X 早発型では遅発型に比較してIUGRが増加する 

(3)X PIHでは血液濃縮が認められる。

(4)X PIHでは一般に循環血液量の減少が認められる。

(5)X asymmetrical IUGR(不均衡型発育遅延)

(6)O

(7)X PIHでは一般に軽度の低カロリー療法を行う。

(8)X PIHでは一般に食塩摂取量を7~8g/日に制限する。極端な塩分制限はしない。 

(9)X PIHでは循環血液量の減少が認められるため、極端な水分制限はしない。口渇を感じない程度に摂取させる。 

(10)X PIHではACE阻害薬は禁忌である。PIHの降圧剤としてはヒドララジン(アプレゾリン)やメチルドーパ(アルドメッド)を用いる。


弛緩出血

2010年03月01日 | 周産期医学

atonic bleeding

【定義】 弛緩出血とは、分娩第3期または胎盤娩出後に、子宮筋の収縮不全(子宮弛緩症)に起因して起こる異常出血(500mL以上)である。

【病態】 子宮筋の収縮不良により、胎盤剥離部での生理学的結紮とよばれる止血機序が障害されて、大出血をきたす。

【発生頻度】 (最新産科学・異常編より)
500~1000mLの出血:15.2%
1000~2000mLの出血:2.6%
2000mL以上の出血:0.14%

【症状】
①持続的外出血
②子宮の柔軟と子宮底上昇
③全身症状:貧血、ショック
④その後の経過で、血栓および塞栓、腎不全、DICなどを起こすことがある。

Sheehan症候群:分娩時の大出血のショックに伴い、下垂体前葉に虚血性梗塞が起こり、その結果、下垂体細胞が破壊されて下垂体機能不全に陥った病態。

【予後】
2000mL以上の出血は極めて危険である。

母体死亡は出血死が第1位を占めている。

【弛緩出血の原因】
①多産婦
②子宮壁の過度の進展:
 多胎、巨大児、羊水過多症
③子宮収縮を妨げるものがあるとき:
 膀胱・直腸の充満、子宮筋腫、手術創(帝王切開後)、
 胎盤・卵膜の遺残
④子宮筋の疲労:
 微弱陣痛、遷延分娩、過強陣痛
⑤子宮弛緩作用のある薬剤:
 吸入麻酔薬(セボフルランなど)

【治療】
(1) 出血性ショック対策:
①輸血、輸液、②ショックの治療

(2) 子宮収縮薬投与:
①オキシトシン、
②プロスタグランジンF2α、
③麦角剤(マレイン酸メチルエルゴメトリンなど)

(3) 子宮収縮促進処置:
①導尿、
②子宮底輪状マッサージ、
③遺残物除去

(4) 双手子宮圧迫法:
腟内に挿入した内手と腹壁上の外手の間に、子宮体および子宮頚を挟んで、恥骨結合に向けて強く圧迫する。数分ないし数十分間圧迫して止血を図る。

(5) 子宮腟強圧タンポン:
子宮腔および腟内に滅菌ガーゼで固く充填する方法。麻酔下で行うことが望ましい。外手で子宮底を触りながら、子宮腔の最上部より隙間なくガーゼを充填し、腟も同様に充填する。ガーゼはタンポンの役割を担い、周囲の神経叢を刺激して子宮収縮を促す。

(6) 子宮動脈塞栓術(UAE)

(7) 開腹手術:
①子宮摘出術
②子宮動脈結紮、内腸骨動脈結紮


弛緩出血、問題と解答

2010年03月01日 | 周産期医学

【国試過去問】

33歳の1回経産婦。妊娠38週2日に自然陣痛が発来し、3時間後に3150gの男児を経腟分娩した。Apgarスコアは9点(1分)、10点(5分)であった。分娩10分後に胎盤が自然娩出し、子宮底は臍上4cmに触れる。下腹部痛はないが胎盤娩出直後から中等量の出血が持続している。母体脈拍数は84/分で血圧は126/68mmHgである。母体ヘモグロビン値は9.8g/dlである。

対応として適切なのはどれか。

a 硫酸マグネシウム投与
b プロスタグランジンF2α
c 輸血
d 子宮動脈塞栓術
e 子宮全摘術

解答:b

分娩直後の異常出血で、子宮底を臍上4cmに触れるので、弛緩出血と考えられる。バイタルサインから、いまだショックには至ってない。子宮収縮剤(オキシトシン、プロスタグランジンF2α、麦角剤)を投与し、子宮収縮を促す。現段階ではいまだ輸血、子宮動脈塞栓術、子宮全摘術などの適応ではない。硫酸マグネシウムは子宮収縮抑制剤であり、弛緩出血には禁忌である。

******

【正誤問題】

(1)弛緩出血では、オキシトシン投与、双手圧迫法を行う。

(2)弛緩出血は分娩第3期以後に1000mL以上の出血のあった場合をいう。

(3)弛緩出血は胎盤娩出後の持続的性器出血の原因となる。

(4)弛緩出血の原因としては羊水過多症があげられる。

(5)弛緩出血の原因としては膀胱充満があげられる。

(6)弛緩出血は巨大児分娩で起こりやすい。

(7)弛緩出血は自己血輸血の適応となりうる。

(8)弛緩出血では子宮摘出術の適応になるものがある。

(9)弛緩出血では消費性凝固障害によるDICが発生する。

(10)弛緩出血への麦角薬の投与では血圧上昇、冠動脈収縮に注意する。

解答 ――――――

(1)O 

(2)X 弛緩出血とは、分娩第3期または胎盤娩出後に子宮筋の収縮不全に起因して起こる異常出血(500mL以上)である。

(3)O

(4)O 弛緩出血の原因:①多産婦、②子宮壁の過度の進展(多胎、巨大児、羊水過多症)、③子宮収縮を妨げるものがあるとき(膀胱・直腸の充満、子宮筋腫、帝王切開後、胎盤・卵膜の遺残、④子宮筋の疲労(微弱陣痛、遷延分娩、過強陣痛)、⑤子宮弛緩作用のある薬剤(吸入麻酔薬など)

(5)O

(6)O

(7)X

(8)O 子宮収縮剤投与、双手圧迫法でも子宮収縮不良で出血が持続する場合、子宮摘出術を行う。

(9)O

(10)O

******

【正誤問題】

(1)子宮筋腫の合併では弛緩出血が起きやすい。

(2)妊娠経過中に子宮壁の過伸展があれば弛緩出血が起きやすい。

(3)弛緩出血は微弱陣痛に対する子宮収縮薬の長時間投与で発生する。

(4)弛緩出血は胎盤片や卵膜片の子宮内遺残で発生する。

(5)弛緩出血は暗赤色の出血が主であるが、時に鮮紅色の出血もある。

(6)陣痛発来前に行われた選択的帝切後には弛緩出血が発生しやすい。

(7)Sheehan症候群は弛緩出血などの異常出血が原因となる。

解答 ――――――

(1)O

(2)O

(3)O

(4)O

(5)O

(6)O

(7)O Sheehan症候群は分娩時の大量出血またはショックで下垂体前葉が虚血性壊死に陥り、下垂体機能低下を来たしたもの。