ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満

2020年08月31日 | ダイエット

肥満は内臓脂肪型肥満皮下脂肪型肥満に分かれます。


  リンゴ型肥満、洋ナシ型肥満

内臓脂肪型肥満は、腹腔内の腸間膜などに脂肪が過剰に蓄積しているタイプの肥満で、下半身よりもウェストまわりが大きくなるその体型からリンゴ型肥満とも呼ばれます。中年以降の男性に多く見られます。内臓脂肪型肥満が原因で、高血糖・脂質異常・高血圧などを発症した状態がメタボリックシンドロームです。内臓脂肪の蓄積を防ぐことが、糖尿病、高脂血症、高血圧、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)や動脈硬化などの生活習慣病の予防につながると考えられます。内臓脂肪はつきやすく減りやすいといわれています。

日本のメタボリックシンドロームの診断基準では、内臓脂肪の蓄積を必須項目としています。この場合の内臓脂肪蓄積とは、CTスキャンでおへその位置で体を輪切りにしたときの内臓脂肪面積が100cm2を超えているものを指し、これに相当する簡便な目安としてウェスト周囲径(男性85cm以上、女性90cm以上)が採用されています。

皮下脂肪型肥満主に皮下組織に脂肪が蓄積するタイプの肥満で、お尻や太ももなど下半身の肉づきが良くなるその体型から洋ナシ型肥満(下半身型肥満)とも呼ばれ、女性に比較的多くみられます。日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準で女性のウェスト周囲径の基準値が男性より大きい値となっているのも、女性の方が皮下脂肪のつきやすい傾向があるためです。皮下脂肪は内臓脂肪に比べていったんついてしまうとなかなか減らしにくい面があります。

参考:
肥満とダイエットの基礎知識
メタボリックシンドロームの診断基準

参考サイト:メタボリックシンドローム、e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)、厚生労働省、2019


メタボリックシンドロームの診断基準

2020年08月29日 | ダイエット

内臓脂肪症候群(metabolic syndrome)
診断基準

メタボリックシンドロームは、内臓脂肪蓄積を基盤として血圧や血糖、血清脂質の異常をひきおこす病態と考えられています。つまり、内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)をきっかけに脂質異常、高血糖、高血圧となる状態です。運動不足・食べすぎなどの長年の生活習慣の積み重ねが原因である場合が多く、日本では、ウエスト周囲径(おへその高さの腹囲)が男性85cm・女性90cm以上で、かつ血圧・血糖・脂質の3つのうち2つ以上が基準値から外れるとメタボリックシンドロームと診断されます。生活習慣の見直し・改善によりメタボリックシンドロームを解消しましょう。

メタボリックシンドロームの診断基準(2005)
日本内科学会などの8つの医学系学会が合同して策定

  • CTスキャンなどで内臓脂肪量測定を行うことが望ましい。
  • ウエスト径は立位・軽呼気時・臍レベルで測定する。脂肪蓄積が著明で臍が下方に偏位している場合は肋骨下縁と前上腸骨棘の中点の高さで測定する。
  • メタボリックシンドロームと診断された場合、糖負荷試験がすすめられるが診断には必須ではない。
  • 高トリグリセライド血症・低HDLコレステロール血症・高血圧・糖尿病に対する薬剤治療を受けている場合は、それぞれの項目に含める。
  • 糖尿病、高コレステロール血症の存在はメタボリックシンドロームの診断から除外されない。

引用:山岸 良匡、メタボリックシンドロームの診断基準、e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)、厚生労働省、2019

参考:肥満とダイエットの基礎知識


癒着胎盤で母体死亡となった事例

2020年08月27日 | 大野病院事件

当時、全国の現役産婦人科医の多くが一斉に職場を去りました。産科医療の最大の危機でした。

https://obgyn.blog/癒着胎盤で母体死亡となった事例/

2006年02月19日 | 大野病院事件

************私の感想:
 癒着胎盤は非常にまれで、事前の予測は不可能なことがほとんどです。正常の妊娠経過で正常の経腟分娩後であっても、児の娩出後に胎盤が剥がれず大量出血が始まれば、そこで初めて癒着胎盤を疑い、緊急で子宮摘出手術を実施しなければなりません。その際には、大量の輸血も必要ですし、手術中に大量の出血により母体死亡となる可能性も当然あり得ます。
 どの癒着胎盤の症例でも、児が娩出する前には癒着胎盤を疑うことすら不可能の場合が多いです。今回報道されている事例は、帝王切開ですから、当然、手術前には癒着胎盤の診断がついてなかったと思われます。手術中に、児を娩出した後、胎盤がどうしても剥離しないで大量の出血が始まり、初めて癒着胎盤とわかったと考えられます。大量の輸血の準備をして帝王切開に臨むことは通常ありえません。また、帝王切開は腰椎麻酔で実施されることが多いですが、大量の輸血の準備もなく、腰椎麻酔のままでは、帝王切開から子宮摘出手術に移行すること自体が非常に危険です。麻酔科医がその場にいなければ、手術中に腰椎麻酔から全身麻酔に移行することも不可能です。
 ですから、今回の事例では、誰が執刀していても、母体死亡となっていた可能性が非常に高かったと思われます。帝王切開をしてみたら、たまたま癒着胎盤であったケースで、母体を救命できる可能性があるのは、いつでも大量の輸血が可能で、複数の産婦人科専門医が常勤し、麻酔科医も常駐している病院だけだと思います。そういう人員・設備が整った病院であっても、帝王切開中に突然大量の出血が始まれば、全例で母体を救命できるという保障は全くありません。
 今回の事例は、術前診断が非常に困難かつ非常にまれな癒着胎盤という疾患で、誰が執刀しても同じく母体死亡となった可能性が高かったのに、結果として母体死亡となった責任により執刀医が逮捕されたということであれば、今後、同じような条件の病院では、帝王切開を執刀すること自体が一切禁止されたと考えざるを得ません。
 産科診療に従事していれば、母体や胎児の生命に関わる症例に遭遇することは日常茶飯事です。我々は、この生命の危機に直面した母児の命を助けるために帝王切開などの危険な緊急手術を日常的に実施していますが、手術の結果が常に患者側の期待通りにいくとは全く考えていません。産科では、予測不能の母体死亡、胎児死亡、死産は、一定頻度でいつでも誰にでも起こり得るという事実を全く無視して、結果責任だけで担当医師が逮捕される世の中になってしまえば、今後は危なくて誰も産科診療には従事できません。今後の産科診療に非常に大きな影響を与える重大事件だと思います。

************新聞記事より引用:
帝王切開で出血死、福島県立病院の医師逮捕
 福島県警富岡署は18日、同県大熊町、県立大野病院の産婦人科医師○○○○容疑者(38)(大熊町下野上)を業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の疑いで逮捕した。
 医師が届け出義務違反で逮捕されるのは異例。
 調べによると、○○容疑者は2004年12月17日、同県内の女性(当時29歳)の帝王切開手術を執刀した際、大量出血のある恐れを認識しながら十分な検査などをせず、胎盤を子宮からはがして大量出血で死亡させた疑い。また、医師法で定められた24時間以内の所轄警察署への届け出をしなかった疑い。胎児は無事だった。
 医療ミスは、05年になって発覚。専門医らが調査した結果、県と病院側はミスを認めて遺族に謝罪。加藤容疑者は減給1か月の処分となった。
(2006年2月18日  読売新聞)

癒着胎盤での帝王切開は未経験…逮捕の産婦人科医
 福島県大熊町の県立大野病院の産婦人科医師○○○○容疑者(38)が業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反容疑で逮捕された事件で、○○容疑者が数多くの出産に立ち会っていたものの、今回死亡した被害者のように、子宮と胎盤が癒着している状態での帝王切開手術の経験はなかったことがわかった。
 県病院局によると、○○容疑者は、医師免許を取得して9年目の中堅医師で、2004年4月に同病院に赴任後、唯一の産婦人科医として年間200回の出産に立ち会っていた。
 しかし、「癒着胎盤」の状態で帝王切開が行われたのは03、04年度、産婦人科がある4つの県立病院で今回のケースが唯一で、○○容疑者も経験がなかったという。
 県は昨年1月、専門医らで作る調査委員会を設置。同3月に、事故の要因を「癒着した胎盤の無理なはく離」「対応する医師の不足」「輸血対応の遅れ」などと結論づけ、遺族に謝罪していた。県は遺族と補償問題について交渉中という。
 会見した秋山時夫・県病院局長は、警察へ届け出なかったことについて、「当時、医療過誤という判断はなかった」と釈明した。
(読売新聞) – 2月19日0時30分更新


肥満とダイエットの基礎知識

2020年08月24日 | ダイエット

はじめに
近年、わが国においても食生活の欧米化や運動不足から肥満の人が増えています。肥満とは、単に体重が多いだけではなく、体脂肪が過剰に蓄積した状態を言います。肥満は、糖尿病や脂質異常症・高血圧症・心血管疾患などの生活習慣病をはじめとして数多くの疾患のもととなるため、健康づくりにおいて肥満の予防・対策は重要な位置づけを持ちます。

肥満度の判定には、国際的な標準指標であるBMI(Body Mass Index)=[体重(kg)]÷[身長(m)2が用いられます。男女とも標準とされるBMI22.0ですが、これは統計上、肥満との関連が強い糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症)に最もかかりにくい数値とされています。

標準体重(kg)=身長(m)2×22
肥満の定義:脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI)25以上のもの

肥満度の定義(日本肥満学会、2011)

なお、上記基準で肥満と判定された方でも、筋肉量が多く体脂肪率が正常の場合は、医学的にはダイエットの必要はありません。そういう方が無理にダイエットを実行すると筋肉が落ちてしまい、体脂肪率が上がって健康を害してしまうこともあり得ます。ダイエットの目的はあくまで余分な体脂肪を取り除くことにあり、単に体重を減らすことではありません。

ダイエットの目的
ダイエットの目的は単に体重を減らすことではなく、体についた余計な脂肪を減らすことにあります。脂肪は落とさずに筋肉と骨だけを落としてしまうような減量方法では、体重は減っても体脂肪率は逆に増加してしまい、肥満解消にはなりません。また、体の水分をぬいて急激に体重を減らすような減量方法では、脱水症状をきたし非常に危険です。このように非健康的な「間違ったダイエット方法」が巷にはあふれていますからくれぐれもご用心下さい。

脂肪はどこに蓄えられるのか?
体内の脂肪の量は、脂肪細胞に蓄えられている脂肪の総量です。人体の脂肪細胞の数は成人で250~300億個と言われています。肥満の場合、この一つ一つの脂肪細胞の中に蓄えられている脂肪の量が普通の3倍にもなります。さらに、この脂肪細胞の数が多くなればなるほど体脂肪の全体量も多くなり太りやすくなるわけです。人間は一生の間に3回脂肪細胞の数が増える時期があります。妊娠末期の胎児期、生後1年間、思春期の3回です。いったん増えた脂肪細胞の数を減らすのは難しいので、これらの3回の時期に脂肪細胞の数をできるだけ増やさないように気をつける必要があります。妊娠末期の胎児期に脂肪細胞の数が多くなり、生まれた後の肥満が運命づけられてしまう場合もあります。幼少期からの肥満は肥満細胞の数が多いタイプの肥満(細胞増殖型肥満)で、なかなかやせられず、やせても元に戻りやすい傾向があります。青年期にはやせていて中年以降に肥満となったいわゆる「中年太り」では、脂肪細胞の数は正常でそのサイズが肥大化しています(細胞肥大型肥満)。ダイエットには成功しやすいタイプの肥満です。

脂肪細胞の体内での役割は?
1. 必要なときに燃焼してエネルギーを補給する(備蓄エネルギー)
2. 体温保持などの断熱作用
3. 内臓を正常な位置に保つためのクッション

脂肪細胞は体を正常に維持するために欠かせないものです。体脂肪率10%以下では、環境の変化や暑さ寒さに弱く、細菌に対する免疫力も弱く、胃下垂になるなどの健康障害も多くなります。体脂肪率の正常値は、成人男性で15~20%、成人女性では20~25%程度といわれています。

人類の長い進化の歴史のほとんどの期間は飢餓との闘いだったと考えられます。狩猟民族の場合、獲物がとれなければ何日も絶食だったでしょうし、農耕民族の場合でも天候不順の年は収穫が無く飢え死に続出だったでしょう。だから、脂肪細胞の中に余剰エネルギーを備蓄する能力というのは人類がこの世に生き残ってゆくために授けられた非常に大切な能力だったと思います。現在の日本は、毎日3回の食料を確保できるのは当たり前の世の中です。原始時代では人類生き残りのためのサバイバル能力であったエネルギー備蓄能力が、今の世では余計な脂肪蓄積の元凶ともなっています。

肥満の原因
摂取エネルギー(食べた食物のエネルギー)が消費エネルギー(基礎代謝量+活動エネルギー)を上回ると、余ったエネルギーが脂肪に変えられて脂肪細胞の中に蓄えられます。肥満の原因は、摂取エネルギーが多すぎる(食べ過ぎ)か、消費エネルギーが少なすぎるか(運動不足)のいずれかです。

太りやすい体質の人と太りにくい体質の人は確かに存在します。同じ量を食べても、太ってしまう人もいれば、ちっとも太らない人もいます。太りやすい体質は遺伝的要因も大きいですが、さらに後天的な社会的・環境的要因も重要です。

また、早食いやどか食いの摂食パターンは肥満を招きやすく、精神的ストレスから過食に走ったり、ムードで食べ過ぎてしまう人も太りやすく、最大の太る原因は食習慣にあると言えます。食習慣は幼少時より長い時間かかって身についたものですから、それを改めるのは容易なことではありません。しかし、せっっかく苦労して減量しても、悪い食習慣を改めない限り、あっと言う間に元の木阿弥です。太る原因となる悪い食習慣はぜひとも改める必要があります。肥満解消を志す人はまず自分自身の食習慣をしつけ直す覚悟が必要です。

減量のリバウンド現象,ヨーヨー現象とは?
ダイエットがうまくいって、いったん減量に成功したとしても、その後再びもとの体重へ戻ってしまうという体重の「リバウンド現象」はよく経験します。ダイエット成功後に短期間で前よりもさらに太るというのはよくある話です。特に急激なダイエットで短期間に大幅に減量すると、体重がすぐに逆戻りしやすいことが知られています。リバウンド後は以前より筋肉が減り脂肪だけが増えていて、しかも脂肪がとれにくい状態になってしまってます。この減量とリバウンドというサイクルを幾度も繰り返す「ヨーヨー現象」(または「ウェイトサイクリング」)に陥ると、1度目よりも2度目と回を重ねる毎に、ますます減量しにくく、かつリバウンドしやすくなる方向に生体は変化していきます。これは、ダイエットを実行する前よりはるかに悪い状態です。やせることよりも、やせた状態をいかに維持するかの方が、はるかに重要で困難な問題です。やせた状態を維持するために絶対に必要なことは、太る原因となった食習慣を変えることです。減量で減らした体重をいかに維持するかが最重要事項です。ダイエット成功後、油断してはいけない期間は2年間です。特にダイエット成功後の半年間くらいは最も警戒すべき時期です。食事量には常に気を配り、体重が増加し始めたらすかさず運動量を増やすなどして早めに対処する必要があります。

減量後の体重維持は減量の程度が大きいほど困難です。現状から10%程度の減量でも成人病は著しく改善されますから、最初から理想体重を目指して挫折を繰り返すよりは、現在の不健康な状態から少しでも脱却できる実行可能な目標体重を設定してそれを確実にクリアしていく方が現実的でしょう。米国健康財団の健康体重に関する勧告では,まずは体重の10%程度の減量で十分としています。そしてこの体重を6カ月以上維持し、体重増加のないことを確認してから次のステップに移るようにとしています。

体重を減らす食事 
食事療法は摂取エネルギーを少なくするのが基本ですが、人間が生きてゆくうえで必要最小限のエネルギー(基礎代謝量)は確保する必要があります。極端に食事量を減らし過ぎると、基礎代謝率が下がって減量困難となる上に、筋肉や骨格などにも影響し、無月経などの月経異常、貧血、低カリウム血症、肝機能異常、低血圧症、精神異常、まれには突然死すら招いたりします。ですから、食事療法を実行する際には、摂取エネルギーの量、バランスのとれた栄養が問題になります。

体脂肪1kgを燃焼させるためには、エネルギー収支の赤字を7200kcalつくる必要があります。一般に、脂肪1gを燃焼させるためには9.3kcalを消費する必要がありますが、実際には体脂肪には水分が含まれているので、体脂肪1g減らすための消費エネルギーは7.2kcalとなります。

例えば、1日に2400kcalのエネルギーを消費している人が1日の摂取エネルギーを1600kcalに落とした場合、1日あたりのエネルギー収支の赤字は800kcalですから、体脂肪を1kcal減らすには、7200÷800=9日かかります。これなら1カ月で3kgの減量に成功するはずです。

日常生活や仕事を普通にこなしながら減量する場合、1日の摂取エネルギーを男性1600kcal、女性1400kcalにし、1カ月3kg減を目標にゆっくり減量しましょう。

どんなに少なくする場合でも、男性は1500kcal、女性は1200kcalを必ずとるようにして下さい。ただし、肥満度40%を越える高度肥満の人では、入院して医師の管理下で1日の摂取エネルギーを男性1000kcal,女性800kcalとする厳重な減食療法が行われる場合もあります。

ダイエットの基本はあくまで食事制限にあります。1日の摂取エネルギーを正確に知るためには、どうしてもカロリー計算が必要になります。しかし、食材からカロリーを計算してゆくのは面倒です。メニューごとにカロリーを表示しているカロリーブックを使ってみるのも一つの方法です。外食の時どれくらい残したらいいのか判断したりするにも便利です。

肥満の人は、常日頃、摂取カロリー過剰で胃拡張の状態となっていて、食べ過ぎないと満足できない状態となってます。その悪い食習慣を断ち切らないかぎり、たとえいったん減量に成功しても、すぐに元の体重に戻ってしまいます。適正な食事量で満足できるように、気長に自分をしつける必要があります。

ダイエットには運動も必要
食事制限によるダイエットを開始すると、ちゃんと実行すれば、最初の1カ月間はおもしろいように体重が減少しますが、2カ月目にはいると体重の減少はほとんど止まります(適応現象)。これは体が少ない摂取エネルギーに合わせて基礎代謝量を低下させて消費エネルギーを減らそうとするために起こる現象です。ダイエットの途中で挫折する人の多くは、体重減少のみられないこの時期に減量をあきらめてしまうのです。

この適応現象を克服するために必要なのが運動なのです。運動をすると活動エネルギー消費に加えて基礎代謝量も増加します。さらに余剰エネルギーが脂肪に変換されにくくなります。適応現象を克服するために必要な1日運動量は300kcal程度とされています。およそ一万歩の歩行がこの運動量に当たります。

食事制限+運動がダイエットの基本
食事制限だけでは適応現象によって体重減少が止まる時期が何度もやってきます。そこで、さらに体重を減らすためには、より過酷な食事制限か、運動を加えるかのどちらかを選択しなければなりません。より過酷な食事制限は健康状態を悪化させてしまいます。食事制限はそのままにして、根気よく運動を続けて、何度も訪れる適応現象を克服してゆくことが大切です。運動で消費できるエネルギーはそれほど多いものではありません。食事制限なしで、運動だけで体重を減少させることはほとんど不可能です。運動で体脂肪1kgを減らすためには,7200kcalのエネルギーを消費する必要があり、これをウォーキングに換算すると24万歩分の運動で消費されるエネルギーで、ランニングだとマラソン3回分の消費エネルギーです。運動の前後に体重計の目盛りが減るのは発汗で体の水分が減った分がほとんどで、運動後に水を飲んだらすぐに元に戻ります。運動後に食欲が増進して普段より余分に食べてしまえば、むしろ体重は増えてしまいます。減量のためには、運動をしてなおかつ摂取カロリーもある程度は制限する必要があります。

ダイエット効果のある運動
適応現象を克服してゆくためには、1日300kcal程度消費する運動が必要ですが、具体的にいうと、歩行で75分、階段の昇りで40分、自転車こぎで1時間、水泳やなわとびで30分、これらの運動を継続した場合の消費エネルギー量が300kcalに相当します。300kcalというと,ビールなら大ビン1本と同じエネルギー量です。運動後にビール1杯飲めば消費エネルギーはプラスマイナスゼロとなってしまいますから用心してください。

ダイエットには、短距離走のような急激で激しい運動よりも、軽く汗ばむ程度の軽い全身運動を長く続けるほうが効果があります。運動開始直後は、エネルギー源として筋肉中のグリコーゲンや血液中のブドウ糖が使われますが、運動開始後15~20分たってから脂肪が使われるようになり、30分を経過すると使用されるエネルギーのほとんどが脂肪になります。そのため,脂肪を燃焼させるためには、30~60分くらいは運動を持続した方が効果的です。また、週1回程度の運動ではダイエット効果はほぼゼロに等しく、毎日継続して行える歩行などの軽い運動がダイエットには適しています。毎日継続できるかどうかが重要で、激しい運動は必要ありません。

体脂肪は,時間をかけてゆっくりと温めなければ燃焼が始まらず、しかも燃焼し続けるには多量の酸素を必要とします。脂肪を燃焼させるために一番効果のある運動が、大量の酸素を使う有酸素運動(酸素を取り入れながら行う運動)です。ウォーキング、スロージョッギング、水中ウォーキングなどです。

ダンベル体操などの筋肉トレーニングでは、筋肉を鍛えて筋肉の量が増え、基礎代謝量が増えることによって消費エネルギーが増加します。また、ダイエットの食事制限で、脂肪ばかりでなく筋肉なども減少してしまう可能性がありますから、筋肉を鍛えて筋肉減少を予防することは大切です。

要するに、ダイエットのためには、ウォーキングなどの有酸素運動を主とし、それを補う形でダンベル体操のような筋肉運動も併用するのがベストと考えられます。

ウォーキングのすすめ
ウォーキングは、誰でも気軽に始められて安全で故障の心配も少なく、健康維持や脂肪燃焼にも最適な万人向きの全身運動です。日常生活の中に、ウォーキングを積極的に取り入れて習慣化しましょう。

ジョッギングでは、足首、ひざ、腰に体重の3~4倍の衝撃が加わるため、ひざや腰などの故障を起こしやすいことが指摘されています。心臓への負担も大きく、ジョッギング中の突然死も少なくありません。ジョッギング提唱者のジム・フィックスさんも走行中に死亡しました。ジョッギングなどの激しい運動では、細胞に障害を与える活性酸素が体内で発生しやすく、健康作りや脂肪燃焼の目的のためには、むしろウォーキングやスロージョッギングなどのような『適度の運動』の方がむしろ効果が高いことが実証されています。『適度な運動』とは心拍数110~125/分程度を維持できる比較的軽い運動です。にこにこ笑いながら歩く程度の運動強度です。実は、これが最も効率的に体脂肪が燃焼する運動強度でもあります。運動強度がこれ以上になると糖質(グリコーゲン)が主なエネルギー源として使われ、これ以下では脂肪が十分に燃焼されません。

ウォーキングの目標:1日1万歩
フィットネス・ウォーキングの理想的なペースは、1分間に約100歩と言われています。このペースで1日1万歩というと、トータルで1日約100分のウォーキングが基準となるわけです。高度肥満の人の場合は、急にがんがん歩くと、関節痛や筋肉痛を起こしたり、心臓に異常をきたす危険さえあります。従って、最初は足腰への負担の少ない水中歩行やサイクリングなどから入り、ある程度体重を落としてからウォーキングに進むことをお勧めします。

ゆっくり気長に継続しましょう
ダイエットの食事は、カロリーを押さえた栄養バランスのよい食事を規則正しく食べるというのが王道で、これ以外には方法論はありません。しかし、栄養士がついているわけでもなく、カロリー計算なんてやってられません。そこで、具体的には例えば、『間食は一切止め、3度の食事を品数はいつもと同じにして、各品の量をいつもの2/3に減らす(外食の場合は各品を1/3づつ残す)』というような方法も有効です。これを気長に続けてゆけば確実に体重は落ちていくはずです。最初の2週間くらいは空腹感に悩まされますが、3週間目以降くらいになると胃も小さくなってきて空腹感は次第になくなります。これと1日1万歩のウォーキングを組み合わせて確実に実行してゆけば、1日当たり600~800kcal程度のエネルギー収支の赤字を作り出すことが可能です。これを継続すれば1カ月3kg程度の減量ペースが期待できます。方法論としては非常に単純なことです。実行すれば必ず成功するはずですから、これをゆっくり気長に継続しましょう。

内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満
以前は肥満とは皮下脂肪の蓄積と考えられていましたが,CT検査により肥満者(ときには肥満ではなくても)にはおなかの中の臓器の周囲に大量の脂肪が蓄積している人がいることが分かりました。このおなかの中に脂肪(内臓脂肪)がついた肥満を内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)、皮下脂肪の多い肥満を皮下脂肪型肥満(洋ナシ型肥満)に分けると、従来、肥満が引き金になると考えられていた糖尿病、高脂血症、高血圧、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)や動脈硬化など生活習慣病の多くは、実は皮下脂肪型ではなく、内臓脂肪型に多いことが分かりました。肥満と病気の研究は今や内臓脂肪の研究に絞られてきたと言っても過言ではありません。内臓に脂肪がたまってお腹ポッコリ(リンゴ型)の肥満の人は、腰回りなど下半身を中心に皮下脂肪が多くたまっている(洋ナシ形)の肥満の人よりも危険です。


   リンゴ型肥満    洋ナシ型肥満

内臓脂肪こそ悪玉脂肪の最たるものだということです。この内臓脂肪は内臓の周囲や腸間膜の表面などに大量についていますが、その存在はCTで突き止める以外にありません。CTでへその部分を輪切りにすると白く映るのが筋肉で、脂肪は黒く見えます。内臓脂肪は皮下脂肪より目立ちにくいのですが、生活習慣病を招く危険性が高く、臨床的には、皮下脂肪の量よりも内臓脂肪の量の方がずっと問題視されています。内臓脂肪型肥満は、さまざまな疾患を合併しやすく、内科的治療の対象となる場合が少なくありません。

やせの大食い(褐色脂肪細胞の働き)
脂肪は脂肪細胞にためられますが、この脂肪細胞にはまったく働きの違う2種類があります。脂肪細胞のほとんどは白色脂肪細胞で、これは全身にあって余剰エネルギーの蓄積という役目を担っています。褐色脂肪細胞は余剰のエネルギーを消費する逆の働きを担っています。

褐色脂肪組織は、首の後ろ、背中の肩甲骨あたり、脇の下、心臓の周囲、腎臓の周りにあり、総量でも40g程度しかありません。褐色脂肪組織は交感神経系に支配され、熱を出してエネルギーを消費します。褐色脂肪組織は寒さから体を守るために働く他に、余計なエネルギーを燃やし肥満を防ぐ働きもしています。褐色脂肪細胞の働きの活発な人は脂肪がどんどん燃焼されて、いくら食べても太らない(やせの大食い) 体質の人です。逆に,褐色脂肪細胞の働きが悪ければ、脂肪がなかなか燃焼されず肥満につながりやすいということになります。やせの大食いは,この褐色脂肪組織が発達しているということで説明できると考えられます。もし、将来、この褐色脂肪細胞の働きを有効利用することが可能となれば、肥満解消の大きな助けになることも期待されます。

まとめ
肥満は、脂肪組織が過剰に蓄積した状態です。健康に問題がなければ治療の必要はありませんが、BMI:25以上で、肥満によって合併症が発症したり、健康に問題が生じたりしている場合は肥満症と診断され、減量が必要になります。過剰な脂肪の蓄積は、さまざまな病気に近づいている状態ともいえます。これからはBMIの数値と一緒に起こりうる合併症なども意識して、肥満を予防していく時代です。

参考:
内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満
メタボリックシンドロームの診断基準

 


子宮頸がんとHPVワクチン

2020年08月23日 | 婦人科腫瘍

子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンと子宮頸がん検診(細胞診)で予防できるがんです。世界では子宮頸がんの排除に向けて15歳までにワクチン接種率90%を目指した活動が始まっています。それに対して、日本では平成25年4月に定期接種化されたものの、わずか2カ月後に厚生労働省は接種勧奨を差し控えるという発表をしました。その後も定期接種は継続し、小学校6年生〜高校1年生相当の女子は公費(無料)で接種できるにもかかわらず、かつて約70%だった接種率は0%近くまで激減してしまいました。このため、世界全体では子宮頸がんの罹患数も死亡数も減少してますが、日本では罹患数・死亡数とも近年漸増傾向にあります。

2017年6月、WHOワクチンの安全性に関する委員会は、HPVワクチンの安全性に関して評価を行い、疼痛、運動障害を含む多様な症状との因果関係を示す科学的根拠はないと結論づけています。現在も続いている根拠のない主張の影響によってワクチン接種率が低迷するなど、真の害悪をもたらすことを懸念している、と繰り返し日本の現状に憂慮を示しています。
Global Advisory Committee on Vaccine Safety. 7-8 June 2017
https://www.who.int/vaccine_safety/committee/reports/June_2017/en/


各国のHPVワクチン接種プログラム対象女子の接種率
(ガーランドSM他 Clin Infect Dis, 2016; 63:519-527、厚生労働省定期の予防接種実施者数、MSD Connectより)

子宮頸がんについての基礎知識:
子宮がんは、子宮体部にできる子宮体がんと、子宮頸部にできる子宮頸がんに分類されます。

子宮頸がんは早期に発見すれば比較的治療しやすく予後良好ですが、進行すると治療が難しく予後不良となります。子宮頸がんの治療は、癌の組織型や広がり具合に応じて、円錐切除術、単純子宮全摘出術、広汎性子宮全摘出術、(化学療法併用)放射線療法などが行われます。子宮頸がん全体の治療後の5年相対生存率は76.5%(乳がん:92.3%、子宮体がん:81.3%、卵巣がん:60.0%)です。大事な子宮や卵巣機能、そして命を失わないために、HPVワクチンでのHPV感染予防と子宮頸がん検診での早期発見が重要となります。(国立がん研究センターがん情報サービス、がん登録・統計

子宮頸がんの組織型は、扁平上皮がん腺がんに大きく分けられます。扁平上皮がんが全体の7割程度、腺がんが2割程度を占めます。

扁平上皮がんには、異形成と呼ばれる前がん状態(現状ではがんとは言えないががんに進行する確率が高い状態)が存在します。さらに異形成には3つの段階があり、軽度異形成(CIN1)中等度異形成(CIN2)高度異形成(CIN3)と進みます。扁平上皮がんでは、高度異形成(CIN3)と上皮内がん(CIN3)前がん病変(悪性・良性の境界にある状態)としています。


    扁平上皮がんの発生・進行のしかた
 (国立がん研究センター・がん情報サービスより)

腺がんでは、上皮内腺がんを前がん病変としています。子宮頸がんの前がん病変では円錐切除術または単純子宮全摘術が必要になります

子宮頸がんは、日本全国で年間約11,000人が診断されます(上皮内がんを含まない)。子宮頸がんと診断される人は20歳代後半から増加して、40歳代でピークを迎え、その後横ばいになります。子宮頸がんと診断された人の治療では、広汎性子宮全摘出術または(化学療法併用)放射線療法などが選択されます。日本では今でも年間約2800人が子宮頸がんで死亡してます。世界全体では子宮頸がんの罹患数も死亡数も減少してますが、日本では罹患数・死亡数とも近年漸増傾向にあります


   (日本産科婦人科学会HPより)


   (日本産科婦人科学会HPより)

子宮頸がんの発生要因:
子宮頸がんのほとんどは ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因です。HPVは100種類以上知られています。発見順に番号が振られているので重症度や頻度とは直接関係はありません。30~40種類が性的接触によって感染します。その中で、発がん性のある高リスク型16、18、31、33、35、45、52、58型など約15種類)と、尖圭コンジローマなどのいぼの原因となる低リスク型6、11型など)に分かれます。HPVはごくありふれたウイルスで、性的接触で性器だけでなく口や指などを介して男性にも女性にも感染します。コンドームを用いても完全に感染を防御することはできないといわれています。ほとんどの女性が生涯のうち一度はHPVに感染すると報告されています。HPVは性的接触で子宮頸部粘膜の細胞に感染し、細胞の変化(軽度異形成)を起こしますが、多くの場合は免疫の働きなどによってウイルスは排除されます。何らかの原因でウイルスが排除できずに持続的に感染を起こすと中等度異形成~高度異形成(前がん病変)となり、その一部が子宮頸がんに進行します。HPV感染が起こった女性のうち子宮頸がんを発症するのは0.1%程度と推計されています。

HPVワクチン:
日本国内で承認されているHPVワクチンは2価と4価の2種類があります。2価ワクチン(サーバリックス®)は子宮頸がんの主な原因となるHPV-16型と18型に対するワクチンです。一方、4価ワクチン(ガーダシル®)は16型・18型と、良性の尖形コンジローマの原因となる6型・11型の4つの型に対するワクチンです。これらワクチンはHPVの感染を予防するもので、すでにHPVに感染している細胞からHPVを排除する効果は認められません。したがって、初めての性交渉を経験する前に接種することが最も効果的です。現在世界の80カ国以上において、HPVワクチンの国の公費助成によるプログラムが実施されています。

なお、海外ではすでに9つの型のHPVの感染を予防する9価HPVワクチンが公費接種されています。日本でも、MSD株式会社は、2020年7月21付けで厚生労働省から、9価HPVワクチン(商品名:シルガード9®)の製造販売承認を取得したと発表しました。シルガード9® は、HPV-6、11、16、18、31、33、45、52、58の9つの型に対応した9価HPVワクチンです。これらの型のうちHPV-16、18、31、33、45、52、58の7つの型は、子宮頸がん、外陰がん、腟がんなどの原因となります。また、HPV-6、11型は尖圭コンジローマの原因の約90%を占めます。9価HPVワクチンは2014年12月に米国で承認されて以降、現在では世界で80カ国以上で承認されています。子宮頸がんに対するHPV型のカバー率は4価HPVワクチンが約65%に対し、9価HPVワクチンは約90%を示します。シルガード9®は薬価基準の適用外で、今後議論される予防接種法に基づく定期接種にどのように位置付けられるか、また、シルガード9®の登場を機にHPVワクチンの積極的な接種勧奨が再開されるか注目されます。

現時点で定期接種として認められているHPVワクチンはサーバリックス®︎とガーダシル®のみで、シルガード9 ®︎は任意接種となり自費になりますが、今は発売前で値段もまだ決まってないようです。発売時期は未定のようです。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ207 HPVワクチン接種の対象は?

Answer
1.最も推奨される10~14歳の女性に接種する。(A)
2.次に推奨される15~26歳の女性に接種する。(A)
3.ワクチン接種を希望する27~45歳の女性に接種する。(B)
4.子宮頚部細胞診軽度異常女性(既往を含む)には接種できる。(B)
5.原則的に、接種の可否を決めるためのHPV検査は行わない。(B)
6.妊婦には接種しない。(B)
※HPVワクチンは平成25年度から定期予防接種となり、小学6年生から高校1年までに相当する年齢(概ね12~16歳)の女子は市町村が契約する医療機関で無料(もしくは低額)にて接種を受けることができる。ただし厚生労働省では現在は積極的な接種の勧奨を一時中止している(2018年4月現在)。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ208 HPVワクチン接種の際の説明は?

Answer
以下の説明を含むこと。
1.2価ワクチン(サーバリックス®)、4価ワクチン(ガーダシル®)ともにHPV16型/HPV18型の感染を予防し、性交未経験の女性に接種した場合には子宮頸がんの60~70%の予防が期待できるワクチンであること。(A)
2.4価ワクチン(ガーダシル®)では、HPV16型/HPV18型に加えてHPV6型/HPV11型の感染も予防し、尖圭コンジローマの予防効果もあること。(A)
3.子宮頸がんやその前がん病変、既存のHPV感染に対する治療効果はないこと。(B)
4.性的活動の開始前に接種すると最も効果的であること。(B)
5.子宮頸がん検診の必要性。(B)
6.3回接種の接種スケジュールと費用。(A)
7.局所の疼痛・発赤・腫脹、頭痛、失神、ショックなどの主な有害事象発生の可能性。(A)
8.接種後に注射部位に限局しない激しい疼痛、しびれ、脱力などの異常が認められた場合には、ただちにかかりつけ医やワクチン接種医の診察を受けるように被接種者またはその保護者に予め伝えておく。(A)

参考Webサイト:
1)国立がん研究センターがん情報サービス、子宮頸がん
2)子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために、日本産科婦人科学会
3)子宮頸がん予防ワクチンQ&A、厚生労働省
4)シルガード9水性懸濁筋注シリンジ 添付文書

参考文献:
1)産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020


平石農場ひまわり畑

2020年08月22日 | 南信州観光名所めぐり

所在地:長野県下伊那郡阿南町北条平石地区

農業実践グループの「野良舞夏ひまわり倶楽部」が運営する農場。南北500メートル東西200メートル、1.3ヘクタールの農場に15万本ものひまわりが一面に咲き誇っていました。

今朝、出勤前に見たNHKの番組で紹介されていて行ってみたくなったので、外来診療終了後すぐに平石農場に向かいました。カーナビで設定した目的地は山奥の細いくねくね道の先にありました。

約1時間かけて平石農場までたどり着きましたが、現地に到着して約10分後には、突然、雷を伴うどしゃ降りの豪雨となってしまい、やむなく自動車内に退避しました。結局、ひまわり畑内に滞在していた時間は実質10分程度でした。晴れているうちに何とか現地にたどり着けて非常にラッキーでした。


大腸内視鏡検査

2020年08月18日 | 医療全般

近年、日本人の寿命も延びて人生百年時代などと言われているが、なかには若くして進行癌を発症して四十代や五十代で亡くなる人も少なくない。予防できない癌であれば発症したのは運命だと思ってあきらめるしかないが、なかには子宮頸がん(HPVワクチン、子宮頚部細胞診)胃がん(ピロリ菌除菌)などのようにかなり予防できるようになったものもある。大腸がんも定期的な大腸内視鏡検査を受けることによってかなり予防できるようになってきた癌である。しかし、この事実を知らずに予防対策を全くとらずに大腸がんで亡くなる人はいまだに非常に多いのが現実である。

定年退職直前の2019年3月末に勤務先の市立病院で久しぶりに人間ドックを受けたついでに、頭部MRI肺ヘリカルCTPET-CTなど、今まで自分自身には実施したことがなかったいろいろな検査を受けてみた。そしたら、検査の直後に「頭部MRIで脳腫瘍の疑いがあったので脳造影MRI検査を早急に受けて下さい」と連絡がありショックを受け、さらに極め付きは「PET-CTで大腸にFDG集積が複数認められて大腸がんも否定できないので大腸内視鏡検査を早急に受けて下さい」という連絡もあった。

私自身、これまで脳腫瘍や大腸がんで亡くなった方々を数多く見てきた。今まで何とか元気でやってこられたけど、自分にもついに観念すべき時がやってきたのかと覚悟をして、定年退職直後の4月に入ってから脳造影MRI大腸内視鏡検査胃内視鏡検査などの追加精密検査を立て続けに受けた。胃内視鏡検査は検査時の嘔気が強く具合が悪くなってしまうのでその恐怖からここ10年近く敬遠していたが、この際、大腸内視鏡検査と同時に胃内視鏡検査もやってもらった。信頼する消化器内科のS先生にお願いして、近所のその先生の病院で検査して頂いたが、麻酔をしっかりかけてもらえたので検査は全然苦しくなくて楽だった。

追加精密検査の結果は、脳腫瘍なし、胃の病変なしだったが、大腸には6個の大腸ポリープがありそのうちの一つが病理検査で上皮内癌と診断された。大腸内視鏡検査をして頂いたS先生より、「腺腫の中に腺癌の部分が一部認められましたが、癌と腺腫の部分は今回内視鏡的に完全に切除され追加治療はありません」と言われた。

病理診断
管状腺癌(高分化型)、Tis (上皮内癌)
Colon and rectum; polypectomy. EMR & biopsy ….
1)Carcinoma in adenoma, tub1. pTis(M) (⑦)
2) Low grade tubulovillous adenoma (①②) and low grade tubular adenoma (④⑤⑥⑧), Group 3
3) Hyperplastic polyp (③)

所見
大腸 polypectomy、EMR 及び生検: 8個
①②Ra、0.9×0.7×0.5 cm及び小片組織、low grade tubulovillous adenoma 、切除断端陰性
③T、0.7×0.5 × 0.4 cm、hyperplastic polyp
④T、low grade tubular adenoma
⑤⑥S、low grade tubular adenoma、切除断端陰性
⑦Ra、1.1×0.7×0.8 cm
carcinoma in adenoma
手術の種類: EMR
腫瘍の占居部位: Ra
肉眼型分類: 0-I sp型
腫瘍の大きさ: 1.1×0.7×0.8cm
組織型: tub1 in tubular adenoma
壁深達度: pTis(M)
リンパ管侵襲: Ly0
静脈侵襲: V0
簇出: BD1
切除断端: HM0、VM0
※Adenoma 成分も切除断端陰性
内視鏡治療後の癌遺残: ER0
⑧Rb、low grade tubular adenoma

写真(大腸内視鏡検査)
右上: 過形成ポリープ
左上と左下: 腺腫
右下: 腺腫内腺癌

日本でも大腸がんで亡くなる人は非常に多く(年間5万人)、胃がんに次いで日本人男性の死因の第2位、女性では死因の第1位である。確かに私の親しかった知り合いの何人かは大腸がんで亡くなった。大腸がんの場合、癌化する前に大腸ポリープの腺腫の状態が何年かあって癌化する場合が多いので、定期的に大腸内視鏡検査を受けてポリープ切除していれば、大腸がんで死ぬ可能性をかなり減らせるらしい。つまり定期的に検査を受けることが癌の予防になる非常に珍しい癌ということらしい。私の場合は、もうすでに初期の癌になっていたわけだが、上皮内癌で大腸内視鏡検査の時に完全切除できたことが確認できれば追加治療の必要はないそうだ。大腸内視鏡検査はこの時生まれて初めて受けたんだけど、この検査を受けたことで寿命が延びたことは間違いなさそうで、今後はS先生にお願いして定期的に大腸内視鏡検査を受けたいと思っている。

人間ドックの追加精密検査の結果で自分の寿命がそんなに残ってない事が判明した場合には、残り少ない人生は中途半端に仕事をしないで、終活で有意義に過ごそうと考えていたが、結局、悪性と診断されたものの、間もなく死ぬ状態との診断には至らなかったので、定年退職後もあまり無理はしないで好きな仕事を続ける事にした。


不妊・不育症 支援事業(長野県)

2020年08月15日 | 不妊・不育症 支援事業

長野県では不妊・不育症に悩む方への治療費助成制度(特定不妊治療、男性不妊治療、不育症治療)があり、不妊・不育症などの治療費の一部助成を行っています。
不妊・不育症治療支援事業のご案内(長野県)
不妊に悩む方への特定治療支援事業について(長野県)
不育症治療費に対する助成制度(長野県)

特定不妊治療費に対する助成制度

● 特定不妊治療とは?
体外受精または顕微授精に係る治療を指します。

● 特定不妊治療に対する助成制度
長野県では「不妊に悩む方への特定治療支援事業」において特定不妊治療費に対する助成を行っています。

● 助成対象者の要件
夫婦の一方または両方の住所が長野県内(長野市は除く)にあり、次のいずれにも該当する方が対象です。
(1) 法律上の婚姻をしている夫婦であって、体外受精・顕微授精以外の治療では妊娠の見込みがないか又は極めて少ないと医師に診断されていること。
(2) 夫婦の前年所得(1~5月の申請については前々年の所得)の合計が730万円未満であること。
※所得額の算出方法

● 助成の対象となる不妊治療
長野県並びに他の都道府県、指定都市及び中核市が指定する医療機関で実施した体外受精及び顕微授精。ただし、夫婦以外の第三者からの精子・卵子・胚の提供による不妊治療、代理母・借り腹による不妊治療は除きます。

● 助成を受けられる回数
① 初めて助成を受ける際の妻の年齢が40歳未満の夫婦(※注1)
 通算6回まで(※注2)
 (年間回数、通算期間の制限なし)
② 初めて助成を受ける際の妻の年齢が40歳以上の夫婦(※注1)
 通算3回まで(※注2)
 (年間回数、通算期間の制限なし)
③ 妻が43歳以上の夫婦(※注1)の治療は助成対象外
※注1 治療開始時の年齢
※注2 他の自治体で助成を受けた場合は、その助成回数を控除する

● 助成の額及び期間
一組の夫婦に対し、1回の治療につき15万円(治療ステージC及びFについては7万5,000円)を限度に、通算6回まで(初めて助成を受ける際の治療開始時の妻の年齢が40歳以上の夫婦は通算3回まで)助成します。ただし、初回の特定不妊治療(治療ステージC及びFを除く)に限り30万円まで助成します。また、特定不妊治療の一環として行われる男性不妊治療(精巣内精子採取術)を行っている場合は、当該男性不妊治療費につき15万円まで助成します。ただし、平成31年4月1日以降に開始した男性不妊治療について、初回の治療に限り30万円まで助成します。

別表 体外受精・顕微授精の治療ステージと助成対象範囲

● 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う対応
新型コロナウイルス感染症防止の観点から一定期間治療を延期した場合、時限的に年齢要件を緩和します。また、新型コロナウイルスの影響により所得が急変した場合、所得判定の見直しを行います。

男性不妊治療費に対する上乗せ助成

体外受精・顕微授精に至る過程で精子を採取する手術を行った場合、特定不妊治療費に対する助成に上乗せして助成金を給付します。

● 助成の対象となる治療は?
次の治療が対象となります。
・精巣内精子生検採取法(TESE)
・精巣上体内精子吸引採取法(MESA)
・その他精子を精巣または精巣上体から採取する手術

● 助成対象者の要件
「不妊に悩む方への特定治療支援事業」と同じです。長野市にお住まいの方は、長野市保健所へ申請お願いします。

●助成額および助成回数は?
初回治療時は30万円、2回目以降は15万円を上限として助成します。「不妊に悩む方への特定治療支援事業」における女性上限回数に達するまでの治療について助成します。

不育症治療費に対する助成制度
長野県単独(H27年4月スタート)

● 不育症とは?
妊娠後に流産を繰り返す反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)のことを指します。

● 助成の対象となる治療
国内の医療機関において行われた次の検査及び治療費(保険適用・保険適用外)を対象とします。
(1)不育症の診断に係る検査
(2)ヘパリン療法
(3)アスピリン療法
(4)ステロイド療法
(5)その他知事が特に必要と認めたもの

● 助成対象者の要件
夫婦の一方または両方の住所が長野県内(長野市を含む)にあり、次のいずれにも該当する方が対象です。
(1) 法律上の婚姻をしている夫婦であって、体外受精・顕微授精以外の治療では妊娠の見込みがないか又は極めて少ないと医師に診断されていること。
(2) 夫婦の前年所得(1~5月の申請については前々年の所得)の合計が730万円未満であること。
※所得額=所得合計額-8万円(社会保険料等相当額)-諸控除額

● 助成額および助成回数
1回の妊娠に係る検査および治療につき上限5万円を上限、通算6回までとなります。ただし、妻の治療開始時の年齢が治療期間の初日において40歳以上の場合は、通算3回までとなります。

治療費助成制度の申請窓口、問い合わせ先
お住まいの市町村を管轄する保健福祉事務所(保健所)へ申請書類をご提出ください。
佐久保健福祉事務所、上田保健福祉事務所、諏訪保健福祉事務所、伊那保健福祉事務所、飯田保健福祉事務所、木曽保健福祉事務所、松本保健福祉事務所、大町保健福祉事務所、長野保健福祉事務所、北信保健福祉事務所

長野市にお住まいの方へ:
・「不妊に悩む方への治療費助成制度」は長野市保健所へ申請をお願いします。
・「不育症治療費に対する助成制度」は長野保健福祉事務所へ申請をお願いします。

※ 市町村でも独自の助成制度を設けている場合があります。

参考Webサイト:
1)不妊に悩む方への特定治療支援事業について(長野県)
2)長野県不妊に悩む方への特定治療支援事業実施要綱
3)不育症治療費に対する助成制度(長野県)
4)長野県不育症治療支援事業実施要綱


月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)

2020年08月09日 | 生殖内分泌

premenstrual syndrome : PMS
premenstrual dysphoric disorder : PMDD
selective serotonin reuptake inhibitors : SSRIs

月経前症候群(PMS)とは、「月経前3~10日間の黄体期に発症する多種多様な精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減弱あるいは消失するもの」をいう。重症型で精神症状主体の場合は、月経前気分不快障害(PMDD)と分類する。精神神経症状として、情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害などがあり、自律神経症状として、のぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感などがあり、身体的症状として、腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどがある。日本では生殖年齢女性の約70~80%が月経前に何らかの症状を有するといわれる。欧米と同じ基準を適応すると生殖年齢女性の約5.4%で社会生活困難を伴う中等度以上のPMSが認められる。PMDDの頻度は日本では約1.2%である。PMS/PMDDの症状が患者の日常・社会生活に影響を与える場合には治療対象となる。

カウンセリング・生活指導・運動療法
生活指導には、症状日記の記録、疾患の理解、頻度と発症時期、重症度の位置づけの認識(認知行動療法)などがある。規則正しい生活を送り、定期的に有酸素運動を行い、喫煙とコーヒーなどの嗜好品を制限する。重症の場合には仕事の制限、家事の軽減などを指導する。

薬物療法:
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬利尿薬鎮痛薬漢方薬などがある。欧米ではSSRIsがPMS、PMDDの第1選択薬となっている。患者とよく相談して治療薬剤を決めることが肝要である。各薬物療法の効果、メリット、デメリットを詳細に説明をして、患者本人に処方する薬剤を選択してもらう(informed choice)ことを原則とする。

婦人科的治療としては、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬のほか、E₂貼付+レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)などもセカンドラインの選択肢として挙げられる。難治症例ではGnRHアゴニストによる排卵抑制の選択枝がある(保険適用外)。

低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬や精神安定薬を希望しない患者には漢方薬を投与する。(処方例:当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、女神散、抑肝散加陳皮半夏など)

PMS/PMDDの重症例(精神症状が強い時)は、精神科または心療内科に紹介する。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ404 月経前症候群の診断・管理は?

Answer
1.発症時期、身体症状、精神症状から診断する。(A)
2.カウンセリング・生活指導や運動療法を行う。(B)
3.利尿薬や漢方薬を処方する。(C)
4.ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠などの低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬を処方する。(B)
5.精神症状が主体の場合、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)により治療する。(B)
6.精神症状が強い時は精神科または心療内科に紹介する。(C)

月経前症候群の診断基準(米国産婦人科学会、2014)
過去3回の連続した月経周期のそれぞれにおける月経前5日間に、下記の情緒的および身体的症状のうち少なくとも1つが存在すれば月経前症候群と診断できる。
情緒的症状
 ・抑うつ
 ・怒りの爆発
 ・易刺激性・いらだち
 ・不安
 ・混乱
 ・社会的引きこもり
身体的症状
 ・乳房緊満感・腫脹
 ・腹部膨満感
 ・頭痛
 ・関節痛・筋肉痛
 ・体重増加
 ・四肢の腫脹・浮腫
※これらの症状は月経開始後4日以内に症状が解消し、少なくとも13日目まで再発しない、いかなる薬物療法、ホルモン摂取、薬物やアルコール使用がなくとも存在する。その後の2周期にわたり繰り返し起こる。社会的、学問的または経済的行動・能力に、明確な障害をしめす。

月経前不快気分障害の診断基準(DSM-5)
(米国精神科学会、2013)
A. ほとんどの月経周期において、月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経修了後の週には最小限になるか消失する。
B. 以下の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する。
 ① 著しい感情の不安定性(例:気分変動;突然悲しくなる、または涙もろくなる、または拒絶に対する敏感さの亢進)
 ② 著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加
 ③ 著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考
 ④ 著しい不安、緊張、および/または“高ぶっている”とか“いらだっている”という感覚。
C. さらに、以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在し、上記基準Bの症状と合わせると、症状は5つ以上になる。
 ① 通常の活動(例:仕事、学校、友人、趣味)における興味の減退
 ② 集中困難の感覚
 ③ 倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
 ④ 食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望
 ⑤ 過眠または不眠
 ⑥ 圧倒される、または制御不能という感じ
 ⑦ 他の身体症状、例えば、乳房の圧痛または膨脹、関節痛または筋肉痛、“膨らんでいる”感覚、体重増加
D. 症状は、臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、仕事、学校、通常の社会活動または他者との関係を妨げたりする(例:社会活動の回避;仕事、学校、または家庭における生産性や能率の低下)。
E. この障害は、他の障害、例えばうつ病、パニック症、持続性抑うつ障害(気分変調症)、またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない(これらの障害はいずれも併存する可能性はあるが)。
F. 基準Aは、2回以上の症状周期にわたり、前方視的に行われる毎日の評価により確認される(注:診断は、この確認に先立ち、前提的に下されてもよい)。
注:基準A~Cの症状は、先行する1年間のほとんどの月経周期で満たされていなければならない。

参考Webサイト:
月経前症候群、日本産科婦人科学会

参考文献:
1)産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
2)女性内分泌クリニカルクエスチョン90、百瀬幹雄編、診断と治療社、2017


機能性月経困難症

2020年08月05日 | 生殖内分泌

月経困難症月経期間中に月経に随伴しておこる病的症状をいう。下腹痛、腰痛、頭痛、悪心、嘔吐、いらいらなどの諸症状がみられる。子宮筋腫、子宮内膜症などの器質的疾患を除外できれば機能性月経困難症と診断する。10歳代の月経困難症のほとんどは機能性月経困難症であり、初経後3年以内に始まり、年齢を重ねるに伴い徐々に軽快することが多い。次第に症状が増悪する器質性月経困難症とは対照的である。機能性月経困難症の主な原因は、子宮頸管の狭小プロスタグランジン(PG)の過剰産生による子宮の過収縮である。月経に対する不安や緊張などの心理的要因も関与するとされている。

薬物療法
非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)
機能性月経困難症治療の第一選択としてPG合成阻害薬を用いる。アスピリンジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®)メフェナム酸(ポンタール®)イブプロフェン(ブルフェン®)などは即効性が高い。NSAIDsは機能性月経困難症患者の約80%に有効である。
低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)
NSAIDsで十分な疼痛緩和が得られない場合や副作用が問題となる場合には、LEPを選択する。LEPは機能性月経困難症患者の90%以上で疼痛が緩和される。ヤーズ®配合錠ヤーズフレックス®配合錠ルナベル®配合錠LDルナベル®配合錠ULDジェミーナ®配合錠が保険適用となっている。投与法別では、28日周期で消退出血を起こさせる周期投与より、長期間連続投与のほうが疼痛日数を減少させるという報告がある。副作用としては静脈血栓症に注意する。
子宮内黄体ホルモン放出システム(LNG-IUS)
経口剤による治療が難しい場合や血栓症リスク(肥満、喫煙者、家族歴など)がある患者ではLNG-IUS(ミレーナ®52mg)も有用である。
ジエノゲスト
ディナゲスト®︎錠0.5mgの有効成分であるジエノゲスト第4世代プロゲスチン(合成黄体ホルモン)で、アンドロゲン作用をなくした新しいプロゲスチンである。経口投与により子宮内膜へ強い作用を示すことと抗アンドロゲン作用が特徴である。ディナゲスト®︎錠1mgは子宮内膜症治療薬として2007年に承認され、2008年より発売されている。ディナゲスト®︎錠0.5mg月経困難症治療薬として2020年1月に承認され、2020年5月より発売され現在使用可能である。喫煙などの血栓症リスクがあってLEPを投与できない場合などに有用と考えられる。
漢方薬
PG産生抑制作用を有する芍薬を含む芍薬甘草湯当帰芍薬散加味逍遙散桂枝茯苓丸当帰建中湯などの漢方薬も選択肢の一つである。即効性はないが、4~12週間の投与で症状改善が期待できる。
鎮痙剤
子宮の過収縮を抑制するブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン®)が有効な場合もある。

非薬物療法
薬物療法が無効の場合は心理・社会的背景が関与している可能性があるので、カウンセリングや心理療法を考慮してもよい。月経に対する正しい知識を教育することも大切である。

産婦人科診ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ305 機能性月経困難症の治療法は?

1. 鎮痛薬(NSAIDsなど)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、またはレノボルゲストレル放出子宮内システムを使用する。(B)
2. 漢方薬あるいは鎮痙薬を投与する。(C)

参考記事:
子宮内黄体ホルモン放出システム

参考サイト:
ディナゲスト錠0.5mg、持田製薬株式会社

参考文献:
1)産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、2020
2)女性内分泌クリニカルクエスチョン90、百枝幹雄編、2017


受精から着床まで

2020年08月02日 | 生殖内分泌

受精(fertilization)は卵管膨大部で起こる。受精の30分後から卵割(cleavage)が始まる。卵の輸送は卵管の蠕動運動と卵管上皮の線毛運動による。受精後4~5日(桑実胚期)で子宮内腔に達する。6日目に孵化(hatching)を起こし着床(implantation)を開始する。胚盤胞(blastocyst)となった受精卵は、内細胞塊側が子宮内膜に接着し侵入する。

孵化(ハッチング):受精卵が、内圧の上昇と酵素的融解により、透明帯から脱出する現象。


 受精から着床まで


 受精卵の卵割


参考記事:
受精(fertilization)
着床(implantation)


着床 (implantation)

2020年08月01日 | 生殖内分泌

着床とは、受精卵から初期発生を経て形成された胚が子宮内膜に触れ、結合(進入・絨毛構造を形成)することをいい、妊娠の始まりと言える現象である。着床過程は、胚と子宮内膜上皮の接着上皮下の間質への浸潤胚全体の被包・定着初期胎盤の形成に分けられる。子宮内膜が着床を起こすことができる時期は限られており、それを胚受容期(implantation window)という。胚受容期でなければ着床することはできない。着床成立には胚と子宮内膜の条件が同調している必要がある。

 着床過程

月経により子宮内膜が剥離・排泄された後、子宮内膜はエストロゲンの刺激を受け発育し厚みをもつ。排卵後にプロゲステロンが徐々に上昇し、子宮内膜管腔上皮細胞の増殖抑制と間質細胞の増殖亢進が起きる。その後にエストロゲンが上昇し、その刺激により子宮内膜は胚を着床させる能力を獲得し、着床が可能な胚受容期となる。その時期に着床成立しなければ、非胚受容期へと至る。胚受容期の時期は排卵後5~9日後と推定される。


 排卵後の女性ホルモン動態と胚受容期

参考文献:
1)データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2)生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014
3)今すぐ知りたい!不妊治療Q&A、久慈直昭ら編、医学書院、2019