ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

長野病院 出産受け付け休止から1年 (信濃毎日新聞)

2008年12月30日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

上田市を中心とした上田小県(うえだ・ちいさがた)地域は、上小(じょうしょう)地域とも呼ばれ、長野県の10医療圏(佐久、上小、諏訪、上諏訪、飯伊、木曽、松本、大北、長野、北信)の一つを形成しています。

この上小医療圏(人口:約22万人、分娩件数:約1800件)は、長野県の東部に位置し、上田市、東御(とうみ)市、青木村、 長和町などで構成されています。

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現在、上小医療圏で分娩に対応している医療機関は、上田市産院、上田原レディース&マタニティークリニック、角田産婦人科内科医院の3つの一次施設のみです。ハイリスク妊娠や異常分娩は、信州大付属病院(松本市)、県立こども病院(安曇野市)、佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、篠ノ井総合病院(長野市)などに紹介されます。分娩経過中に母児が急変したような場合は、救急車でこれらの医療圏外の高次施設に母体搬送されることになり、医療圏内に母体搬送を受け入れる産科二次施設は存在しません。また、産婦人科医は産科だけでなく婦人科疾患にも対応してますから、この地域で、婦人科の急性疾患や良性・悪性疾患で手術などの治療を要する場合は、ほぼ全例で隣接医療圏の施設に紹介されているものと思われます。

2005年、当時の信州大教授が、このまま放置したのではこの地域の周産期医療体制が崩壊する可能性が高いことを危惧され、(2つの大学から派遣されている)長野病院と上田市産院の産婦人科医を集約し、この地域の周産期医療体制を強化する決断をされました。

当時の状況であれば、この2施設のスタッフを集約すれば計6名の産婦人科医からなる非常に強力な産婦人科の二次医療チームを構成することも可能でした。その構想の実現に向けて多くの人が努力しましたが、諸事情により残念ながらその構想は現実化しませんでした。

地域の産婦人科二次医療体制を支えていた多くの人がこの地域から去ってしまった今となっては、この地域に産婦人科二次医療チームを再び創設するには、ベテランから若手を含めて少なくとも4~5人の産婦人科医を日本のどこかから連れてくる必要があります。しかし、現在の全国的な産科医不足の状況では、それは非常に困難だと言わざるを得ません。

当面の現実的な方策としては、隣接医療圏の周産期医療体制をより強化して、地域の周産期医療体制の崩壊がこれ以上拡大しないように努力するしかないのかもしれません。

参考記事:

上田市周辺の周産期医療体制について

東御市民病院が婦人科外来を開設

長野病院 来年3月末で産科医不在に

長野病院の全産科医派遣の昭和大、引き揚げ方針

産科医療 崩壊の危機

迫る限界 お産の現場

産科医療に関する新聞記事

「バースセンター」構想 上田の母親ら「集い」発足 (信濃毎日新聞)

東信地域の厳しい産科医療の状況について

上田でお産の課題話し合う (南信州新聞)

読売新聞: 現実にらみ 産院存続運動

南信州新聞社:「院内助産院」勧める意見も

医療タイムス社:上田市産院・廣瀬副院長 産科の集約化を非難

公的病院での分娩再開を求める運動について

読売新聞: 深刻な産科医不足 集約化加速

****** 信濃毎日新聞、2008年12月29日

長野病院 出産受け付け休止から1年

医師確保 続く苦闘

 上田市の国立病院機構長野病院が、昭和大学(東京)から産科医の引き揚げを通告され、新たな出産の受け付けを休止して1年。4人いた産科医は順次引き揚げられ、今年8月からは残った1人の医師が婦人科の外来診療のみを担う。病院や市は医師確保に向けた苦闘を続けているが、産科再開の見通しは立っていない。一方で住民側からはリスクの高い「飛び込み出産」を減らす呼び掛けなど、地域医療を支えようとする動きも生まれている。【袮津学】

 「自分の周りでも、佐久総合病院(佐久市)まで通っている妊婦がいる。普通だとは思えない」。今月14日、上田市民有志でつくるグループが、地域医療をテーマに開いた意見交換会。参加者から切実な声が上がった。

 上田小県地域の医療機関での出産は年間2千件ほど。長野病院は、危険度の高い「ハイリスク出産」を中心にこのうち5百件弱を担ってきた。

 同病院が出産受け付けを休止したのは昨年12月3日。休止に伴う影響について明確なデータはない。市内には民間医療機関や市産院があるが、ハイリスクの妊婦は県厚生連の佐久総合や篠ノ井総合病院(長野市)に通うケースも少なくないとされる。

 市や市内の病院によると、地域ではこの1年余、妊婦が複数の病院から受け入れを断られ、重篤な事態に陥るなどの事例は表面化していないものの、市民の不安は根強い。

 「この1年間で、全国の17大学を訪ね、産科医派遣を直接依頼した」。長野病院の進藤政臣院長は懸命の努力を明かす。しかし、全国的な産科医不足の中で、どの大学も新たに派遣する余裕はない。昭和大は現在1人残る産科医についても、来年4月以降は引き揚げる方針だ。

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 短期的な解決の糸口が見つからない中で、病院や行政は将来の医師確保につなげようと模索を続けている。

 常勤麻酔科医の確保も課題となっている長野病院は今年、病院の「グランドデザイン」をまとめた。現在35人前後の医師数を60人台まで増やすなど、約5年先に目指す病院の姿を示すことで、医師に勤務を呼び掛ける狙いがある。11月に神経内科、12月には外科の医師が1人ずつ増えるなど、明るい兆しも見え始めた。

 市は来年1月、医学生や研修医、医師に資金を貸与し、指定する医療機関に一定期間勤めれば、返済を免除する制度を始める。上小の5市町村でつくる上田地域広域連合も、長野病院の産科医や麻酔科医らに研究費を支給する制度を導入する予定だ。ただ、市の大井正行健康福祉部長は「市などが直接できる支援には限界がある」と漏らす。

 国は来年度、全国の大学医学部の定員を計693人増員。信大は5人増えて110人となる。大学病院の研修医不足の一因とされる臨床研修制度も見直す方針だが、効果はまだ不透明だ。

 「医療を社会インフラととらえ、どの地域でも一定水準を保つため医師を配置する仕組みがないと、地方の病院にとっては非常に厳しい」。進藤院長は訴える。

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 今年5月、上田市の母親らでつくるネットワーク「パム」は、妊婦に定期的な健診を呼び掛ける名刺大のカードを作った。市医師会と上田薬剤師会の協力で、薬局で妊娠検査薬を買う人に配っている。妊婦健診を受けていないと、危険な兆候があっても備えが取れず、妊婦、産科医双方のリスクが大きく増す。こうした「飛び込み出産」を減らす狙いだ。

 11月には、長野病院の地元地区住民らでつくる「西部地区を考える会」が「かかりつけ医をさがせ」と題する住民向けの連続講座を始めた。住民がかかりつけの開業医を持つことは、一部の病院に過大な負担がかかるのを避ける効果があるとされる。

 講座では初回、市の健康推進課長らが救急医療の現状などを紹介。その後も、神経内科や皮膚科の医師らを招き、それぞれの分野の病気についての知識を深めている。

 産科をめぐる「危機」に地域が向き合ったこの1年。住民自身が当事者として問題を考える動きは広がりつつある。会の代表、鈴木永さん(54)はこう話した。「医療機関や行政に医師確保を求めるだけでなく、住民も一緒にできることを探すきっかけにしたい」

上田小県地域の周産期医療 長野病院の出産受け付け休止後は、上田市産院と同市内の民間の2医療機関が担う。このうち市産院は2005年8月、信大医学部の医師引き揚げ方針に伴い市が廃止を検討したものの、存続を求める運動が起き、06年1月に存続が決定。今年6月には市が移転・建て替え方針も示した。また、隣接する東御市は09年度、市民病院に院内助産院開設を目指している。

(信濃毎日新聞、2008年12月29日)


埼玉県の周産期医療の現場

2008年12月27日 | 地域周産期医療

****** 東京新聞、埼玉、2008年12月23日

周産期医療 現場からの報告<上> 疲弊する医師

 「二十四時間、三百六十五日の周産期母子医療センターとは名ばかり。それでも補助金をもらっているのかと問われれば、今すぐにでも県に指定返上願を出す用意はある」

 本紙が県内の各周産期母子医療センターに周産期医療の現状をアンケートをしたところ、深谷市の深谷赤十字病院からの回答には悲痛な現場の叫びが書かれていた。同病院は県北地域で唯一、地域周産期母子医療センターに指定されている。当直を二人体制にしたいが常勤医師不足でままならない。「センターとして機能しているのは平日の日勤だけ」という。

 県内の周産期医療は、設備が充実しリスクの高い救急医療ができる総合周産期母子医療センターに指定されている埼玉医大総合医療センターと、産科と小児科を併設し比較的高度な医療ができる地域周産期母子医療センター五カ所の計六医療機関が中核を担う。来年度には地域センターが一カ所増える見通しだ。

 地域センターでは常勤医師は五人が多く、休日夜間の当直体制は多くが一人で対応している。埼玉医大総合医療センターは四人で当直しているが、それでも「三十六時間勤務はざら」(関博之教授)という。

 厚生労働省の二〇〇六年の調査では、県内の産科医は出産適齢人口十万人当たり二七・六人と全国で二番目に少ない。施設面では今年四月一日現在、人口七百万人で総合センター一カ所、地域センター五カ所だが、東京都は人口千二百万人で総合九、地域十三、人口二百万人の栃木県は総合二、地域八。県内の医療資源がいかに貧困かが分かる。

 「行政は、新生児集中治療室(NICU)と総合周産期母子医療センターを充足するための対策を放置している。妊婦に『野垂れ死にしろ』と言っているに等しい」と話すのは、埼玉医大病院(毛呂山町)の岡垣竜吾准教授。

 県はNICUの増床を目指すが、医師不足で既存のNICUの運営すら厳しいのが現状といい、同病院の板倉敦夫教授は「設備を充実してもマンパワーが追いつかない。医師の養成はお金ではカバーしきれない」と、効果を疑問視する。

 関教授は県内の施設、医師数不足を考えると「これまで救急の妊婦の死亡例が県内でなかったのは奇跡だ」と話した。ある関係者はつぶやいた。「厳しい勤務で医師が次々に辞めている。県内六カ所の周産期母子医療センターで、撤退する病院が出てくるかもしれない」

       ◇

 全国で周産期医療が崩壊の危機に瀕(ひん)している。もはや、一医師や一病院の努力で患者の命を守ることができる状況は超えており、国全体で医療を立て直さなければならないところまで来ている。一方で、救急搬送で妊婦の受け入れ拒否が各地で問題化するなか、県内では救命が必要な妊婦を原則受け入れる母体救命コントロールセンターが二十四日にスタートするなど、新しい取り組みも始まりつつある。県内の周産期母子医療の現状と課題を探る。

(東京新聞、埼玉、2008年12月23日)

******* 東京新聞、埼玉、2008年12月24日

周産期医療 現場からの報告<中>母体救命センター

 「脳内出血の妊婦が次々に受け入れを断られ死亡した東京のような事故は、県内で絶対に起こしたくない」

 川越市鴨田辻道町の埼玉医科大総合医療センター。県幹部と同医療センター幹部が今月十二日、県内での母体搬送をどのようにすべきか、最終的に詰めていた。

 この時、県が本年度中に設置を予定していた「母体搬送コントロールセンター(仮称)」構想は暗礁に乗り上げていた。「だがいま何もしないわけにはいかない」という認識では一致。命が危険な妊婦を基本的に必ず受け入れる「母体救命コントロールセンター」の設置が正式決定した。

 県は当初、一般の産科では扱いきれないハイリスク分娩(ぶんべん)時の安全確保のため、救急搬送が必要な母体の受け入れ先を調整する母体搬送センター設置を計画していた。産科医が母体を診ながら受け入れ病院を探しているのでは医師に負担がかかる。同センターが病院探しを担当し、搬送先が決まるまで医師は母体への対応に集中できるシステムをつくろうとしていた。

 県の構想は、同センターに助産師が詰め、医師から病状を聞いた上で受け入れ先を決めるというもの。七月ごろの稼働を念頭に、五月からは医師会とも協議を重ねた。ところが医師らからは「母体の命にかかわる病状を助産師が判断できるのか」という反発も。一方で医師が詰めるとなると「ただでさえぎりぎりの医師。もう業務は増やせない」という意見も出た。

 ずるずると年末を迎えた。「少なくとも東京のようなケースは避けたい」との思いから、たどり着いたのが母体救命センターだ。

 総合周産期母子医療センターと高度救命救急医療センター、ドクターヘリ拠点施設の三つを兼ね備える埼玉医大総合医療センターと県が、高度救命救急と周産期医療の双方をカバーする仕組みをつくることで考えが一致した。

 ただ、同医療センターも医師数がぎりぎりの状況で新生児集中治療室(NICU)も十分とは言えない。高度医療の不必要な患者まで搬送されれば業務がパンクすることは必至だ。

 県は十六日以降、医師会など関係機関に頭を下げて走り回り搬送基準の徹底などを求めた。「まずかかりつけ医をつくってほしい。そうでないと、病状を把握して正確な搬送ができなくなる」と県民にも呼び掛ける。

 母体救命センターの運用開始を二十四日に控え、同医療センターの関博之教授の表情は厳しいまま。「何でも『命にかかわります』などと言って送ってこられても困る。そんなことが一回でもあればすぐやめる」

(東京新聞、埼玉、2008年12月24日)

******* 東京新聞、埼玉、2008年12月25日

周産期医療 現場からの報告<下> 意識改革の必要性

 「周産期医療は駄目になっているということを知ってほしい。そこからスタートしないと崩壊は止まらない」

 川口市立医療センターの栃木武一・病院事業管理者が話すように「現状を知ってほしい」という、医療関係者の声は共通する。

 深谷赤十字病院の担当者は「受け入れ拒否という言葉がセンセーショナルに言われると、私たちが身を粉にして頑張っている窮状への無理解に思えて残念。『私も疲れ果てた。やめさせていただきます』と言うしかなくなる」とする。

 埼玉医科大総合医療センターの関博之教授も「お産は絶対に安全と言い切れない。医師が夜も寝ずに社会的使命を持ってやっていることを理解してほしい。産科医を目指す医学生は少なくないのに、批判ばかりされると、産科医を避ける人が多くなる」と訴える。

 では、周産期医療の立て直しには何が必要なのか。関教授は、施設や人などの医療資源を増やすための財源確保と、広域的な取り組みを挙げる。

 「日本の実質的な医療費は米国の半分。高度医療など医療には金がかかる。財源をどう捻出(ねんしゅつ)するか、国民的議論をすべきだ。さらに、限られた資源を有効活用するため、東京を中心に周辺の県を含めてやりくりすべきだ」

 後者については、埼玉、東京、千葉など四都県で新たな取り組みが始まりつつある。県境を越えて患者の行き来が多い地域で搬送などに連携しようという「地域医療福祉コンソーシアム」構想だ。

 だが周産期に限れば、四都県とも限界に達しているのが現状。医療資源の確保という道筋が付かない状態では、どこまで実現できるかは未知数だ。

 さいたま市立病院の担当者は「救急・救命センターや周産期母子医療センターなど、国や県が形だけをつくり、維持管理は現場に丸投げ。医師・看護師を充足させる財政措置が伴わないと、すべて絵に描いたもちになる」と指摘する。

 医師や設備がそろっても、受け入れ拒否は起こり得るという指摘もある。妊婦健診を未受診だったり、かかりつけ医がいない場合、母体や胎児の状態が分からないといい、産科医は「出産時の事故の可能性が捨てきれず、受け入れを断らざるを得なくなる」と口をそろえる。

 川口市立医療センターの栃木病院事業管理者は行政から国民までの意識改革を求める。

 「老人医療は騒ぐが周産期医療にかける費用はあまり注目されない。子どもは国の宝、すべての住民が平等に周産期医療を受ける権利がある。国や国民が考えを今すぐに改めないと、周産期医療の未来、ひいては国の未来が危ない」

【萩原誠、柏崎智子、山口哲人】

(東京新聞、埼玉、2008年12月25日)


長野県、岩手県の周産期医療の状況

2008年12月25日 | 地域周産期医療

****** 朝日新聞、長野、2008年12月23日

ドクターカー、出動年270回 こども病院

 こども病院では93年の開院当初から、「ドクターカー」が活躍している。医師と看護師が同乗し、新生児を温める保育器が備わった救急車だ。出動は年間約270回。中村センター長は「ドクターカーなしに、長野の周産期医療は機能しない」と話す。

 12月のある日の午前9時。ドクターカーが信大病院に向かった。前日に同病院で生まれた男児に心疾患があることがわかり、受け入れの依頼があったのだ。男児は1600グラム余り。低出生体重児は温めながらでないと運べない。

 車内で男児の状態についての書類を確認しながら、廣間武彦・新生児科副部長は「安定していると聞いている。信大の先生が処置をしてくれたからこそ」と話す。

 20分弱で信大病院に到着。台車で保育器を運びながら、4階のNICU(新生児集中治療室)へ向かった。

 医師と看護師合わせて10人ほどが待ち構えていた。いくつもの管につながれた赤ちゃんが横たわっている。「呼吸数は? 血圧は?」。廣間医師が信大の医師らに矢継ぎ早に尋ねる。「顔見知りだからこそ、スムーズに引き継ぎができる」と周りの医師が教えてくれた。保育器に移すため、看護師が管を抜き始めると赤ちゃんが消え入りそうな声で泣いた。3人がかりで保育器に移しNICUを出た。

 午前10時40分、こども病院に到着。3階のNICUには循環器科、放射線科の医師らが既に待機していた。手際よくレントゲン撮影をした後、心臓の超音波検査をした。

 この直前、塩尻市内のある病院から新生児の受け入れ依頼が入った。ドクターカーを当初使う予定だった母親の搬送を急きょ通常の救急車に切り替えた。臨機応変に対応することで、「どんな状況でも基本的に受け入れる」と廣間医師は話した。

(朝日新聞、長野、2008年12月23日)

****** 読売新聞、長野、2008年12月16日

新生児対応9病院で、人材育成が急務

 札幌市で昨年11月、緊急搬送された未熟児が7病院で受け入れてもらえず、その後死亡したケースなどで、「新生児集中治療室」(NICU)の不足という問題点が浮かび上がった。県内にはNICUと、それに準じた施設が計9か所あり、県健康づくり支援課は「この9病院で責任をもって受け入れる態勢になっている」と説明している。

 県内のNICUは、県立こども病院(安曇野市・21床)、信州大病院(松本市・6床)、長野赤十字病院(長野市・9床)、飯田市立病院(飯田市・3床)の4か所。

 このほか、新生児科医が少なく、24時間常駐できないなど、厚生労働省の施設基準は満たしていないものの、NICUと同等の設備をもつ病室が、県厚生連佐久総合病院(佐久市・12~15床)、波田総合病院(波田町・6床)、諏訪赤十字病院(諏訪市・6床)、県厚生連北信総合病院(中野市・5床)、県立須坂病院(須坂市・4床)にある。夜間の緊急時には医師を呼び出すなどして、NICUに準じた役割を果たしているという。

(読売新聞、長野、2008年12月16日)

****** 朝日新聞、岩手、2008年12月22日

周産期医療 県内の現状は

 東京で、脳出血を起こした妊婦が8病院から受け入れを断られた末に死亡した問題は、周産期医療が抱える深刻な課題を浮き彫りにした。産科医、小児科医とも、単位人口あたりの医師数が全国最低水準の県内ではどうなっているのか。母親と赤ちゃんの命を守る現場の取り組みを岩手医大准教授・福島明宗医師(50)に聞いた。

    ◇

 ――県内で搬送依頼のあった妊婦が受け入れられない事例はありましたか

 岩手は東京と違い、県土が広い上に病院が少ないですから、我々が受け入れを断ったらその妊婦はもう行くところがなくなってしまう。「たらい回し」はあってはならないし、あり得ません。

 ――ベッドが満床だったり当直医が対応できなかったりする事態はないのですか

 岩手医大の場合、県内のいくつかの大きな病院と役割分担して、診る症例の基準をある程度決め、地域で完結する症例は地域で完結するようにしています。

 患者の適切な搬送振り分けを行うため、搬送の必要な症例が発生すると、患者の情報
を搬送元の医師から医大に送ってもらう。症状を判断し、我々の方で受け入れ可能な近くの病院を探して搬送元と搬送先の橋渡しをしています。

 医大で診る必要がなければ、最寄りの病院で受け入れてもらうことで、医大のベッドが満床で受け入れのできなくなる事態を回避する。我々はこの仕事を「搬送コーディネート」と呼んでいます。

 東京の問題は、このコーディネートが機能しなかったということです。

 ――搬送依頼はどのくらいあるのでしょうか

 ここ数年、岩手医大の受け入れ件数は年間120件前後ですが、総合周産期母子医療センターに指定され、県内各病院とのネットワークを作った直後の02年ごろは約170件でした。当時は、各病院に症例を振り分けずにすべて医大で引き受けていたので、大まかには、差し引き年間50件くらいをコーディネートしているのだと思います。

 ――当直はどの程度あるのでしょうか

 医大では1人当直、1人自宅待機(宅直)という態勢です。1人当たり週に1、2回。若手は月4、5回くらい当直しています。医局には20人余りの医師がいますが、診療応援などでほかの病院にも医師を派遣していますので、全員がそろうことはまずありません。本来当直は複数置かなければなりませんが、現状では不可能です。

 小児科はもっと大変です。救命救急センターと循環器医療センターにも当直が必要なので、病棟とあわせて毎日3人が当直しています。

 ――どんな対策が必要ですか

 究極的にはもちろん医師を増やすしかありませんが、すぐには望めないでしょう。それ以外では若い医師のモチベーションを上げるためにも、私たちがボランティアでやっているコーディネートの仕事を、公のものとして認めて欲しいですね。これが機能しなくなれば、現在まで築き上げてきた岩手県の周産期医療システムは崩壊します。

 また、さらなる医師の集約化が必要だと思います。身近に産婦人科医がいない地域の
住民の方の切実な不安も理解できますが、医師が疲弊しないようなシステム作りが必要です。そうしないと周産期医療に携わる医師の減少に歯止めがかからないと思います。

    ◇

■ 総合周産期母子医療センター 

 母体・胎児集中治療室(MFICU)や新生児集中治療室(NICU)などを備え、24時間体制で、妊娠22週以降の妊婦と生後7日未満の新生児を表す「周産期」を対象に、高度な医療を提供する。県内では唯一、岩手医大付属病院が指定を受けている。総合周産期母子医療センターの規模と機能を縮小した「地域周産期母子医療センター」は、県立中央、久慈、大船渡の3病院。

(朝日新聞、岩手、2008年12月22日)


医師確保険しく 来春産科医0の日製病院 (朝日新聞)

2008年12月23日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

茨城県内で最多の分娩を取り扱ってきた日立総合病院の産婦人科常勤医が、来春から全員いなくなってしまうようです。年間1200件前後の分娩を取り扱っていた地域基幹病院が、突然、分娩取扱いを中止したら、その地域が受ける影響は計り知れません。

院内助産所の開設も検討されているようですが、産婦人科医の常勤が前提条件となります。また、地域における「ハイリスク妊婦の受け皿」がなくなることになれば、この地域での診療所や助産所での分娩取り扱いの維持も困難となります。

最近は、どの大学の医局も地元の県の周産期医療体制を守るだけで精一杯となり、県外の病院にまで医師を派遣し続ける余裕がだんだんなくなってきました。従って、県を代表するような大病院の産婦人科であっても、県外の大学の医局から医師が派遣されている場合だと、突然、産婦人科の常勤医全員の医局への引き揚げを通告される可能性が少なくありません。

日立総合病院 分娩予約一時中止

****** 朝日新聞、茨城、2008年12月22日

医師確保険しく 来春産科医0の日製病院

 昨年まで県内の医療機関で最多の出産を取り扱ってきた日立製作所の日立総合病院(日製病院)から来年3月、産科医全員が派遣元の大学に戻る。病院は医師確保に懸命だが、全国的な産科医不足のなか、脳出血を起こした妊婦が7病院に受け入れを断られて死亡した都立墨東病院問題のあおりも受け、見通しが立たない状態だ。【大塚隆】

Photo_2  日製病院の産科医は現在4人と、わずか2年余りで半減した。それでも勤務医の奮闘で出産件数はここ数年1200件前後を保っていたが、8月からの新規受け付け中止の影響で今年度は990件程度に減少する見込みだ。残る4人の産科医も大学側の強い要請で来春には医局へ帰る。

 ●一時は光明も

 日製病院は新規受け付けを中止した8月以降、周辺の病院を案内している。日立市が母子手帳交付時に受診中の医療機関を調べたところ、5月には半数が同病院を使っていたが、10月は4%弱だった。

 来春以降の産科維持のため、日製病院は都内のある医大病院に絞って常勤産科医の派遣を要請し、一時は前向きの感触を得た。だが、10月に都立墨東病院問題が明るみに出て、都が産科医の確保に全力を挙げ始めたため、「どの大学も地方の病院に産科医を派遣することに二の足を踏んでいる」(関係者)という。

 日製病院は産科医不足に対応できるよう、正常分娩の場合は助産師が対応する院内助産所の開設準備を進めている。ただ、突然の出血などでハイリスク分娩への対応を迫られる場合もあり、「院内助産所でも産科医による管理が重要」(岡裕爾院長)と、産科医常勤が大前提だ。

 ●広がる影響

 産科は24時間の緊急対応が必要で、訴訟リスクなども敬遠されるため、産婦人科の看板を掲げながらも、婦人科だけにする施設が急激に増えた。日立市でも産科の開業医は瀬尾医院だけだ。

 日製病院は県北地域の地域周産期母子医療センターに指定され、県北で唯一、未熟児などの新生児医療に不可欠なNICU(新生児集中治療管理室)を持つため、「日製病院の産科が休止されると、緊急時には水戸や県南まで救急車で搬送する事態が起きうる」(瀬尾医院の瀬尾文洋院長)という。

 日製病院は「年内に何とかめどを」と、あらゆるつてを頼ってOBらにまで協力を求めている。日立市も「産科休止は町づくりの根幹にかかわる」(大和田進・保健福祉部長)と、産科医確保に向けた財政支援などの方針を固めている。だが、事態を打開するめどはまだ立っていない。

(朝日新聞、茨城、2008年12月22日)

****** 東京新聞、茨城、2008年12月9日

助産師16人活用できず 産科休止の県立中央病院 助産所開設検討へ

 産科医不足に伴い、助産師の役割が見直される中、笠間市鯉淵の県立中央病院(永井秀雄病院長・五百床)では助産師の資格保持者が十六人いるにもかかわらず、三年前から産科が休止となり、他の診療科で看護師として勤務していることが八日、分かった。病院は今後、数人の産科医確保を前提に、院内助産所の開設を検討する。【伊東浩一】

 同日の県議会一般質問で、常井洋治県議(自民)に対し、病院側が明らかにした。

 県内では分娩(ぶんべん)施設が十年前に比べて半減し、昨年十一月時点で五十カ所。産科医は約百五十人となっている。

 中央病院でも産科医四人が辞めた影響で、〇四年度末に産科を休止。法律上、正常分娩ならば助産師だけで取り扱うことができるが、県は「危険回避のため、出産は助産師だけでなく、産科医の指導下で行うべきだ」として、お産の受け入れを一切取りやめた。このため、助産師は他の診療科で看護師として働いており、資格を生かすことができない状況が続いているという。

 常井県議が「助産師を活用して、院内助産所を設置する考えはないか」と質問したのに対し、古田直樹病院事業管理者は「一定の産科医を確保した上で、指導の下に院内助産所を開設できる体制を整えたい」と答弁した。

(東京新聞、茨城、2008年12月9日)

****** 読売新聞、茨城、2008年12月8日

院内助産所開設を検討 県立中央病院

 産科の診療を中止している県立中央病院(笠間市鯉淵)で、助産師が中心となって出産を介助する「院内助産所」の開設が 検討されていることがわかった。8日の県議会一般質問で、古田直樹・県病院事業管理者が、常井洋治県議(自民)の質問に答えた。 助産所を構える病院は県内にはなく、開設されれば県内初になるという。

 中央病院は2005年3月の段階で4人の産科医を抱えていたが、医師らが出身大学の病院に戻り、当直体制が敷けなくなるなどしたため、 同年4月以降、診療を中止している。

 院内助産所は、助産師が、正常に経過している妊婦の出産を助ける病院内の施設で、育児期まで継続的なケアが受けられたりするのが特徴。 正常な出産の経過をたどっていれば、産科医の立ち会いもいらない。対象は、通常分娩が可能なリスクの低い妊婦に限られるが、 万一の時に対応する常勤の産科医さえ確保できれば開設の見通しが立ち、産科の開設に比べ、環境は整えやすい。現在、中央病院には助産師資格を持った看護師が16人いる。

 県内では、県北地域の中核的な周産期母子医療センターに位置づけられている日立製作所日立総合病院(日立市)が来年4月以降の 分娩の予約受け付けを一時中止するなど、出産をめぐる環境は年々悪化している。県内の人口10万人当たりの産科医数(06年末現在)も、6.5人(全国平均7.9人)で全国41位になるなど、産科医不足は深刻だ。

 これまでも、県は中央病院の産科診療の再開に向けて努力してきたが、産科医が1人も確保できていないのが現状。このため、 県はあくまで産科の再開を目標にしながらも、より開設の見通しが立ちやすい院内助産所の開設を本格的に検討していくとしている。

(読売新聞、茨城、2008年12月8日)

****** 読売新聞、茨城、2008年10月29日

産科医の確保 日製病院難航

 来年4月以降の分娩の予約受け付けを「一時中止」している日立市の日立製作所日立総合病院の産科医確保が難航している。病院や同市によると、産科医の派遣元大学の「全員引き揚げ」の姿勢に変化がないという。

 日製病院産婦人科の産科医は全員、大学から派遣を受けており、5月下旬に大学から「産科医全員を引き揚げるかもしれない」と伝えられた。2人が9月で引き上げ、現在の産科医は4人。病院と県、市などは派遣継続を要請しているが、大学側は「開業医になる医師が増えて、医師を派遣する余力が大学にもない」などと説明したという。

 日製病院は、産婦人科を閉鎖しない方針を固めており、派遣元の大学以外のルートでの産科医確保、正常分娩を扱う院内助産所の開設も探っているが、結論は12月ごろになる見込みだ。

 同市の樫村千秋市長は28日の記者会見で「来年4月以降に産科医がゼロになることは避けたい」とする反面、「もう少し様子を見るしかない」と述べるにとどまり、市の対応に手詰まり感をにじませた。

 日製病院は、県北地域の中核的な周産期母子医療センターに位置づけられ、年間に約1200件の出産を担っている。

(読売新聞、茨城、2008年10月29日)

****** 朝日新聞、茨城、2008年9月14日

来春から分娩予約を一時停止 日製病院

 県内の医療機関で最多の出産を扱う日立市の日立製作所日立総合病院(日製病院)が、来年4月以降の出産予約の受け付けを「一時中止」している。病院に医師を派遣している大学の医局から医師の派遣を打ち切りたいと要求され、来春以降の産婦人科医の確保が不透明なためだ。同病院は難しい出産にも対応できていただけに、広域的な影響が出かねないと懸念する専門家もいる。【木村尚貴】

 県医療対策課の調べでは、日製病院の07年の出産は1212件で県内最多。現在は産婦人科医6人で、24時間365日当番を回している。

 日製病院によると、産婦人科を開設してから医師を派遣していた首都圏の国立大学から5月、「来年4月以降の派遣を中止したい」と伝えられた。日製病院は大学側に1、2人でも医師を残すよう求めているが、現状では6人は来年3月までに大学の医局に戻る可能性が「極めて高い」という。

 こうした状況を受け、日製病院は8月初めに病院長名義で「分娩予約の一時中止」のお知らせを、病院内の掲示板やホームページで明らかにした。出産希望者には他の施設を紹介するなどしている。ただ、「あくまでも一時中止で、産婦人科をやめるということではない。医師が確保でき次第、診療を再開する準備はしている」と説明する。

 複数の市町村を一つの単位とする「二次医療圏」のうち、日立、高萩、北茨城の3市からなる「日立保健医療圏」では年間約2千件の出産があるが、出産可能な施設は3病院、1診療所、1助産所の5施設しかない。このうち過半数を日製病院が扱っていた。出産予約停止で通い慣れていない場所に行く妊婦の負担が増す。

 また、日製病院は異常分娩などの危険な出産にも対応する地域の拠点病院のため、異常出産の妊婦が近隣の病院に集中する可能性も高まる。

 日立保健医療圏に隣接する「常陸太田・ひたちなか保健医療圏」のある医師は「周産期医療の拠点である水戸の済生会病院などにハイリスクな患者が集中し病院のキャパシティーを超えると、ドミノ倒し的に県の母体搬送システムが崩れる恐れがある。今回の問題は、県北だけではなく県全体の問題だ」と指摘する。

(朝日新聞、茨城、2008年9月14日)

****** 読売新聞、2008年2月8日

24時間勤務 最高で月20日…産科医

「体力の限界」開業医も撤退

 「このままでは死んでしまう」。茨城県北部にある日立総合病院の産婦人科主任医長、山田学さん(42)は、そう思い詰めた時期がある。

 同病院は、地域の中核的な病院だが、産婦人科の常勤医8人のうち5人が、昨年3月で辞めた。補充は3人だけ。

 しわ寄せは責任者である山田さんに来た。月に分娩(ぶんべん)100件、手術を50件こなした。時間帯を選ばず出産や手術を行う産婦人科には当直があるが、翌日も夜まで帰れない。6時間に及ぶ難手術を終えて帰宅しても夜中に呼び出しを受ける。自宅では枕元に着替えを置いて寝る日々。手術中に胸が苦しくなったこともあった。

 この3月、さらに30歳代の男性医師が病院を去る。人員の補充ができなければ、過酷な勤務になるのは明らかだ。山田さんは、「地域の産科医療を守ろうと何とか踏みとどまっている。でも、今よりも厳しい状態になるようなら……」と表情を曇らせた。

 燃え尽きて、分娩の現場から去る医師もいる。

 別の病院の男性医師(44)は、部下の女性医師2人と年間約600件の分娩を扱っていた。24時間ぶっ続けの勤務が20日間に及ぶ月もあった。自分を病院に送り込んだ大学の医局に増員を訴えたが断られ、張りつめた糸が切れた。2005年夏、病院を辞め、分娩は扱わない開業医になった。その病院には医局から後輩が補充されたものの、やはり病院を去ったと聞いた。

 少子化になる前、お産の現場を支えてきた開業医たちも引退の時期を迎えている。東京・武蔵野市にある「佐々木産婦人科」の佐々木胤郎(たねお)医師(69)は、1975年の開業以来、3000人以上の赤ちゃんを取り上げてきた。しかし、今は「命を預かるお産は責任が重い。体力的にきつくなり、訴訟の不安もつきまとう」と、分娩をやめ、妊婦健診だけにしている。

             ◇

 産科医がお産から撤退すれば、妊婦にしわ寄せがくる。

 東京・町田市の女性は昨秋、妊娠5週目ほどの時に神奈川県内の小さな産科医院を初めて訪れ、あっけなくこう言われた。「あら、あなた35歳なの? うちでは診られないですね」

 周辺病院で産科の閉鎖が相次ぎ、この産院に妊婦が集中したため、リスクの高い35歳以上の初産妊婦はお断りせざるを得ない――。そんな張り紙が待合室の隅に張り出されていた。帰り際、「早く探さないと産めなくなりますよ」と、別の病院を3か所ほど紹介してくれた。「これが現実なのだと自分を納得させるしかありませんでした」

 その後、産院や助産院を5か所回った。2か所は断られた。ある産院では「35歳の初産は分娩時に救急搬送になる可能性が高い。そういう妊婦は受け入れられない」と言われた。

 「仕事が忙しくて、出産を先送りにしてきたが、35歳以上の出産がこれほど大変とは思わなかった」と話す。

 医者の産科離れを加速させるのが、医療事故や訴訟のリスクだ。「子どもが好きだから、将来は産婦人科医も面白そう」と考えていた医学部3年生男性(22)は、「一生懸命やっても訴訟を起こされたり、刑事裁判の被告になったりしたら人生が台なしになる」と、産婦人科に進むことをためらっている。

 勤務医は過労で燃え尽き、開業医も分娩から撤退。現状を知った医学生が産科を敬遠する。医師も施設もますます減っていき、緊急時の妊婦の受け入れ先がなくなる――そういう悪循環が見えてくる。

 産科医が直面する問題を昨年、小説に描いて話題になった昭和大医学部産婦人科学教室の岡井崇教授(60)は、「悪循環を断ち切るには、働く環境を改善して現場の医師をつなぎ留め、産婦人科に進む医学生を地道に増やしていくしかない」と話している。

(読売新聞、2008年2月8日)


富士市立中央病院:産婦人科医増員へ 浜松医大派遣方針、8人態勢実現に期待

2008年12月22日 | 地域周産期医療

例えば、地域内に産婦人科医2人、小児科医2人、麻酔科医2人、助産師10人が勤務する分娩施設が4施設存在する場合、どの施設でも医師達は必ず1日おきに当直し、当直ではない日も夜中の緊急手術があれば必ず病院から呼び出されます。そのような過酷な勤務環境では絶対に長続きする筈がありません。

それよりは、地域の分娩施設をセンター化し、産婦人科医8人、小児科医8人、麻酔科医8人、助産師40人を配置する方が、無理のない維持可能な勤務環境を実現できるという意見に多くの人が賛同すると思います。

分娩施設の集約化に際しては、地元大学の産婦人科教授などが強力なリーダーシップを発揮できれば、話が比較的スムーズにまとまっていくと思います。

しかし、実際に分娩施設の集約化を実行しようとする際に、どの施設に医師を集約するのか?で各施設の利害が激しく対立し、すんなりと話がまとまらない場合も少なくないと思います。集約化の話がうまくまとまらない地域では、自然淘汰で施設が一つ一つ減っていくのを辛抱強く待つしかないのかもしれません。

****** 毎日新聞、静岡、2008年12月20日

富士市立中央病院:産婦人科医増員へ 浜松医大派遣方針、8人態勢実現に期待

【要約】 富士市の鈴木尚市長は、市立中央病院(山田治男院長)の産婦人科について、現状の医師4人を将来的に増員できる見込みであることを19日、明らかにした。来年4月から医師3人を派遣する浜松医科大から増員方針を伝えられたという。今後、順次増員される計画とのことで、山田院長は医師8人態勢実現を期待していると表明した。東京慈恵医科大から小児科医の派遣継続も決まり、周産期母子医療センターも存続することになった。

(毎日新聞、静岡、2008年12月20日)


全国のNICUを1.5倍に増床する提言

2008年12月20日 | 地域周産期医療

****** 毎日新聞、2008年12月19日

妊婦受け入れ拒否死亡:問題受け「新生児治療室1.5倍に」 有識者懇が報告書案

 東京都内で起きた妊婦死亡問題を受け、産科と救急の医療確保策を議論していた厚生労働省の有識者懇談会(座長、岡井崇・昭和大教授)は18日、報告書案を大筋でまとめた。母体の受け入れ体制強化のため、総合周産期母子医療センターと救命救急センターの機能を合わせた施設を整備し、全国のNICU(新生児集中治療室)を現行の1・5倍程度に増やすよう求めている。報告書は来年1月にも厚労省に提出する。

 現在の産科救急は、全国75カ所の総合周産期センターが地域の拠点になっているが、約3分の1の施設は脳出血などを起こした妊婦への対応が難しかった。そこで報告書では、センターの指定基準を年度内に見直し、最も高度なセンターは▽産科▽新生児科▽NICU▽MFICU(母体・胎児集中治療室)▽救命救急--の全機能を持つべきだとした。

 また、総合周産期センターが救急搬送の受け入れを断る理由の9割以上が「NICUの満床」であることから、出生1万人当たり20床としていた必要病床数を、当面25~30床に引き上げる整備が必要だとした。【清水健二】

(毎日新聞、2008年12月19日)

****** 読売新聞、2008年12月19日

「新生児ICU最大5割増」有識者会議が報告書案

 東京都内で今秋、妊婦が複数の病院から受け入れを拒否される事態が相次いだことを受け、周産期医療と救急医療の改善策を検討していた厚生労働省の有識者会議(座長・岡井崇昭和大教授)は18日、全国の新生児集中治療室(NICU)を最大5割増やすことなどを柱とした報告書案を大筋で合意した。

 来年1月の最終会合で正式決定する見通しで、同省は研究班を作るなどして具体化を急ぐ。国はこれまで、NICUを出生1万人当たり20床必要としてきたが、報告書案は同25~30床に増床するよう都道府県に促すことを求めた。

 たらい回し防止策では、救急隊が空き病床の情報を正確に把握するため各都道府県に情報センターを設置し、搬送先を探すコーディネーターを24時間態勢で配置することなどを提案した。

(読売新聞、2008年12月19日)


臨床研修、後半1年は専門科で…医師不足対策 厚労・文科省案

2008年12月18日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

現行の臨床研修制度は、初期研修期間の2年間で、内科、外科、救急医療、小児科、産婦人科、精神科、地域医療などの必修科目を数週間ずつ研修するシステムです。その間に自分が将来専門とする診療科を決めて、医師免許取得後3年目から専門研修(後期研修)を開始する制度になっています。この制度は2004年に始まり今年で5年目になります。

今回、厚生労働省と文部科学省より、この臨床研修制度を見直して、2年間の初期研修期間のうち後半の1年間を将来専門とする診療科に特化させることで、専門研修の開始を実質1年早める案が示されました。

今は6週間ごとに2年目の初期研修医が産婦人科研修に回ってきてますので、年間を通していつも初期研修医が1~2名産婦人科病棟にいます。臨床研修制度が案通りに改定されると、研修医の中に産婦人科志望の者が1人でもいれば、2年目の研修医が1年間産婦人科に専従してくれることになりますが、産婦人科志望の者が1人もいない場合は1年間研修医が誰も産婦人科に来てくれないことになります。

また、地域ごとに研修医受け入れの上限を設置して、研修医が特定の地域に偏在しないように制度を改める方向で検討されているようです。

臨床研修制度が最終的にどのように変わっていくのか分かりませんが、将来的に研修医が誰も来なくなったら病院の体制を維持できませんから、病院側としても時代と共に自ら変革し続けていく必要があります。

****** 共同通信、2008年12月18日

臨床研修1年に短縮を提示 2010年度の導入目指す 医師不足で厚労、文科両省

 医師不足の一因とも指摘されている医師の臨床研修制度について、厚生労働省と文部科学省は18日までに、現行2年の研修期間を実質1年に短縮するなど現場で働く医師を確保する見直し案をまとめ、厚労・文科合同の専門家検討会に提示した。検討会はこうした方向で議論し、年度内にも結論を出す。早ければ2010年度からの導入を目指す。

 現行では、医師免許取得後2年間で7つの診療科の研修が必須だが、見直し案では、1年で内科や救急などの基本となる診療科の研修を終了、後半1年は将来専門とする診療科に特化させ、現場で診療も担わせる。

(以下略)

(共同通信、2008年12月18日)


医者はどこに消えた? 「医療崩壊」の理由と解決策

2008年12月17日 | 地域周産期医療

日本では、分娩の約半数が産婦人科医1~2人の小規模施設で管理されています。それに対して、アメリカでは、分娩の98%が大規模施設で管理されています。イギリスにおいても分娩の大部分が大規模施設で管理され、小規模施設は少数とされています。スウェーデンでは、分娩の100%が大規模施設で管理され、小規模施設は存在しないと報告されています。

1産婦人科施設あたりの産婦人科医師数は、アメリカが6.7人、イギリスが7.1人なのに対し、日本は1.4人にすぎず、我が国では、きわめて小規模な施設で多くの分娩が行われていることが分かります。

小規模施設での分娩の管理では、どうしても勤務条件が過酷になってしまいますし、安全性にも限界があります。産婦人科医の絶対数は急には増やせませんから、まず当面の緊急避難的対策として、分娩施設を集約化して、施設あたりの産婦人科医師数を欧米並みの7人程度まで増やす必要があると思われます。

さらにその上で、若い医師が産婦人科に入門しやすいように勤務環境を整備し、次世代の産婦人科医をじっくりと育成し、将来的に産婦人科医の絶対数が現在よりも増えていくような流れをつくっていく必要があります。

****** 産経新聞、2008年12月14日

医者はどこに消えた? 「医療崩壊」の理由と解決策

東京でさえも妊婦受け入れ拒否が起きたことに、ただならぬ「医療実態」を感じた人は少なくないだろう。加えて今年は産科や小児科病棟の閉鎖など、各地から医療混乱の報告が相次いだ。医師不足は深刻である。厚生労働省はようやく腰を上げ、医師定数の増員策を考えはじめたが、直ちに状況が好転する見込みはない。なぜ、医療現場から医師の姿が消えたのか。なぜ、ここまで状況は深刻になってしまったのか。これから、どうなっていくのか。

(中略)

どうやって医師を増やすか

 各地からの相次ぐ“医療崩壊”の知らせに、「医師は不足していない」と主張してきた厚労省も方針を見直さざるを得ない事態に追い込まれた。

 「医療崩壊と言われる状態なのだから、従来の医師数抑制政策を見直すことで総理の了解を得た」

 6月17日。舛添厚労相は会見で明確に方針転換を表明した。さらにこうも加え、従来政策からの決別を宣言した。

 「現実を見てやらないと。官僚が霞が関の机の前に座り、紙と鉛筆だけで数字を合わせをしただけで政策とされたのではかなわない」

 では、どうやって医者を増やすのか。

 医師増員策の下地となる政策を描く役割を担ったのは、厚労省などが立ち上げた複数の「専門家会議」である。

 舛添厚労相が自ら会議をリードした「安心と希望の医療確保ビジョン」会議は6月に、医師数増員の方針や、産科医不足を補うため病院内に助産所を整備すること、パートタイム的な労働体系を整備することなどで女性医師の復職を支援することなどをとりまとめた。

 8月末には、確保ビジョンの報告をうけて立ち上げられた「『安心と希望の医療確保ビジョン』具体化に関する検討会」が、将来的に医学部定員を現在の1・5倍に当たる約1万2000人にする必要があるとする報告をまとめた。

 さらに年内には、厚労省と文科省が合同で立ち上げた「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」が、研修制度にメスを入れた提言をまとめる予定だ。

 過去には医師数抑制に理解を示したこともある日本医師会は、国より一歩先に昨年8月の段階で対策を提言している。そこでは、「医学部定員の適正化、医師の再就職支援」といった中期的対策や、「女性医師の就業支援、医学部定員の地域枠設定、医療現場を守る診療報酬引き上げ」といった緊急対策が盛り込まれた。

偏在解消の“強制力”と“就労自由”のジレンマ

 国の医師数政策が「抑制」から「増員」に方針転換されたからといって、それが特効薬になるわけではない。

 増員策を話し合った懇談会や検討会では、百家争鳴の意見が専門家たちから出されている。

 例えば、都会に集中している医師偏在。

 検討会では、名古屋セントラル病院の斉藤英彦病院長がこう提案した。

 「直ちに偏在や不足を是正するには、各地の医大ごとに、地元に就職する人の地域枠を設けるべきだ」

 各地の医大設置の精神から言えばこれは正論だが、阻むのは「就労の自由を奪うことになる」という考え方だ。

 舛添厚労相からは「2年の研修期間を1年に短縮して、医師が現場に出るまでの時間を短縮させる」といった意見も出た。

 これに対し徳島県立中央病院の永井雅巳病院長はこう言って慎重姿勢を見せるのだ。

 「1年にするメリットとデメリットをしっかりと整理しないと、再び同じような議論の混乱を招きかねない」

 検討会の座長である高久史麿・自治医科大学長はこう指摘した。

 「今の医療提供体制を変えずに医師を増やしても、アンバランスが広がるだけ。ただ増やしても問題は解決しない」

 北里大の海野信也教授は「増えてきた医師が働き続けられる現場でないといけない」と新たな制度づくりを提案している。

(以下略)

(産経新聞、2008年12月14日)


産科医・新生児科医の育成

2008年12月14日 | 地域周産期医療

周産期医療の崩壊を防ぐためには、産科医や新生児科医を育成し、将来的に周産期医療に携わる医師数が増えるように地道に努力していくしかありません。

崩壊寸前にまで低下した現有戦力が枯渇しないように、基幹施設に医師を集めて何とか急場をしのぐ必要があるのは確かですが、それだけでは単なる一時的な延命処置にしかなりません。中高年医師だけでいくら頑張っても、次世代の医師が育たないことには将来的にはどうにもなりません。周産期医療存続の危機に陥っている今こそ、将来の貴重な戦力となる若い医師達をじっくりと育成していくことが非常に重要だと思います。

****** 読売新聞、神奈川、2008年12月14日

産科・小児科医を育成 横浜市助産所健診の費用補助

 産科や小児科などの深刻な医師不足を受け、県や横浜市が、妊婦や子どもたちが安心して医療を受けられる体制作りを模索し始めた。県は、横浜市立大医学部で来年度から増員される医学生を産科・小児科の医師として育てることを決め、学費を援助する。横浜市では、助産所で出産する妊婦への資金援助を始めた。県は「地域医療を支えてほしい」と期待をかけている。

 県によると、県内の病院に勤務する産科・産婦人科の医師数は、1998年の419人から06年に363人と1割以上減った。横浜市の調査では、昨年度の産科病院数は05年度より4か所減った一方で、出産件数は400件以上増加した。

 こうした現状を踏まえ、横浜市立大は医師確保策として、医学部医学科の定員を来年度から10人増やすことを決めた。増員した医学生が卒業後、県内の医療機関で一定期間勤務することを条件としている。

 10人のうち5人は、出産直前直後の周産期医療に携わる産科や小児科などの医師として養成する。在学中の6年間、県が学費や生活費を融資するが、卒業後の臨床研修を経て、県指定の医療機関に9年以上勤務すれば返済義務がなくなる。残る5人についても7年間、県内の医療機関で勤務してもらうとした。同大は今年度、医学科の定員を20人増の80人としており、今回の増員で来年度は90人になる。

(以下略)

(読売新聞、神奈川、2008年12月14日)


医療クライシス:妊婦死亡が問うもの/上・中・下 (毎日新聞)

2008年12月11日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

周産期医療の現在の危機的状況を打開するための方策がいろいろと検討されてますが、根本的には産科医療や新生児医療に従事する医師数を地道に増やしていく他ありません。

一緒に頑張ってくれる仲間が増えれば、絶対に何とかなります。産科医療や新生児医療に従事する楽しさや充実感を、多くの医学生や初期研修医たちに伝えて、周産期医療を志す若い仲間を一人でも多く増やしていきたいと考えています。

一緒に頑張る仲間を地道に増やし、みんなでスクラムを組み、みんなの力を結集して、この危機を打開していきたいと思います。

****** 毎日新聞、2008年12月9日

医療クライシス:妊婦死亡が問うもの/上 

少なすぎる医師数

 ◇開業医と連携なく

 昨年11月21日夜。東京都立墨東病院(墨田区)5階の大会議室に病院と都、地元開業医の代表計18人が集まった。産科救急の「最後のとりで」である総合周産期母子医療センターに指定されている同病院産科の常勤医が、定員(9人)の半数以下の4人となったことへの対応を話し合う初めての会合だった。

 病院は「(開業医は)患者を救急搬送したら、墨東に入って手伝ってほしい」と提案した。開業医たちは「なぜ医師を補充しないのか」「公立病院の責務はどうなったのか」と反発し、議論は2時間半に及んだが、具体策は決まらなかった。

 今年7月には非常勤医がさらに1人減り、土日の救急搬送に対応できなくなった。悲劇が起きたのは、その3カ月後の10月4日。脳出血を起こした妊婦(36)が同病院を皮切りに8病院に受け入れを断られ、3日後に亡くなった。江戸川区産婦人科医会の鈴木国興会長は「いつか起きると覚悟していた」と話す。

 都内の産科医は約1400人で、出生数に対する医師数は全国平均の1・4倍。全国75の総合周産期母子医療センターのうち9施設が都内にある。それでも十分な体制でないことは、関係者の間では周知の事実だった。今年9月にも同様の妊婦が同センターの杏林大病院(三鷹市)などに受け入れを断られた末に重体となり、深刻さが浮き彫りになった。

 06年11月にも、荒川区の開業医が切迫早産の妊婦の搬送先を探したが、墨東病院を含む十数カ所に断られ、川崎市内の病院で死産した。都福祉保健局長が都議会で「事実を検証する」と答弁したが、その後の都周産期医療協議会では取り上げられず、今年3月にまとまった協議会報告書でも触れていない。十分な対策が打たれないまま、悲劇は繰り返されたのだった。

 日本の医師数は、経済協力開発機構(OECD)加盟国中最低レベル。産科医不足の解消は容易でない中、どうしたらいいのか。

 大阪府泉佐野市と貝塚市は今春から、両市立病院の間で、婦人科手術は貝塚、分娩(ぶんべん)は泉佐野に集約した。以前はそれぞれが産婦人科医5人で、年間約750件の分娩や当直をこなした。当直は1人のため、他の医師が呼び出されることもたびたびあった。

 集約後は常勤医10人を基本に泉佐野の当直を回しているため、2人体制による24時間対応が可能になり、母体搬送を断るケースは減った。医師は呼び出し回数が半減し、手当も月20万~30万円アップ。開業医も当直に入るようになった。泉佐野病院の荻田和秀・産科医療センター長は「余裕ができた分、治療にも専念できるようになった」と説明する。

 東京では、総合周産期センターの愛育病院(港区)が地域の診療所と、健診と分娩の役割分担を進めている例などがあるが、医師を融通し合うような連携はない。都内の病院長は「墨東病院は一時、赤字を減らそうと、開業医が扱うべき正常分娩を取りすぎた。開業医との役割分担より利益追求を優先した結果地域から孤立し、協力体制を築けなかった」と指摘する。

   ×  ×

 産科の救急医療体制をどう立て直せばいいのか。各地の現状と取り組みを追った。

(毎日新聞、2008年12月9日)

****** 毎日新聞、2008年12月10日

医療クライシス:妊婦死亡が問うもの/中 

見つからぬ搬送先

 ◇調整役導入で好転

 「痛い、痛い」と訴える妊婦(36)の横で、産科医は搬送先を探すため懸命に電話をかけ続けた。10月4日夜、東京都江東区の産婦人科。都立墨東病院に受け入れが決まったのは、7病院に受け入れを断られた末の約1時間後だった。

 夫(36)は「なぜ、どこも診てくれないのか」と、やりきれない思いで待つしかなかった。妊婦は3日後に脳出血で死亡。搬送先が迅速に決まる仕組みは作れないのか。

 昨年11月、未熟児が7病院に受け入れを断られ、その後亡くなる事案が明らかになった札幌市。実は今年11月7日夜も、市内6病院に計48床あるNICU(新生児集中治療室)がすべて埋まっていた。こうした事態は月1回程度あり、「搬送不能」が繰り返されてもおかしくない。だが10月から産科救急の体制を変えたことで、受け入れ拒否の心配は基本的になくなった。

 仕組みは単純だ。市夜間急病センターに詰める助産師資格を持つオペレーター2人が毎夕、NICUのある病院の状況を確認し、受け入れ病院を決めておく。11月7日夜は、市内のある病院を受け入れ先に指定し、「NICUが必要なら苫小牧市立病院へ運ぶ」。産科医はセンターに連絡するだけでよく、搬送先を探す必要はない。

 大阪府も昨年11月、府立母子保健総合医療センターに、産科救急搬送を調整する専任コーディネーターを置いた。「各病院の事情を知るベテラン産科医なので、押しが利く」(府担当者)面もあり、病院選定にかかる時間が平均約50分から約30分に縮まった。

 厚生労働省によると、同様の取り組みは千葉や京都など4府県でも実施している。なぜ東京はやらないのか。関係者からは「数が多すぎてリーダーシップを取る病院がない」などの声が漏れる。

 東京には、(1)搬送が必要になった産科があるブロック(8地域)内の総合周産期母子医療センター(2)それ以外のセンター(3)すべて無理なら最初のセンター--の順で搬送を受け入れるとのルールがある。だが、現場の医師が、搬送先が見つかるまでかけ続けているのが実情。ネット上で受け入れ可能病院を表示するシステムもあるが、現場の医師には「情報入力の余裕がない」と不評だ。

 厚労省はそれでも、IT(情報技術)を使った搬送先決定システムの開発に力を入れようとしている。札幌市の体制整備にかかわった水上尚典・北海道大教授は「現場の医師に負担がかかるシステムは役立たない。産科医を医療以外の行為から解放することが大切だ」と訴える。

(毎日新聞、2008年12月10日)

****** 毎日新聞、2008年12月11日

医療クライシス:妊婦死亡が問うもの/下 

産科救急

 ◇深刻、NICU不足

 体重約1500グラム。細心の注意を払った帝王切開手術が無事終わり、赤ちゃんは元気な産声を上げた。06年8月、青森県立中央病院(青森市)の総合周産期母子医療センター。母親は約1カ月前、肺の動脈に血栓が詰まる肺塞栓(そくせん)症を発症し、約40キロ離れた弘前大病院(弘前市)に救急搬送されて緊急手術を受けたばかりだった。

 弘前大病院は総合周産期センターではなく、NICU(新生児集中治療室)はない。それでも運んだのは、重い脳や心臓の病気の妊婦に対応する病院を決めていたからだ。県立中央病院の佐藤秀平センター長は「母体救命には産科以外の診療科との連携が不可欠」と話す。脳出血になった妊婦の救急搬送を巡る問題が相次いだ東京では、なぜ救急で受け入れなかったのか。

 日本の周産期医療は開業医から総合周産期センターまで、産科の連携で対応する。厚生労働省はセンター指定要件に救急部門設置を求めず、分娩(ぶんべん)に力点を置いてきた。厚労省母子保健課は「産科以外の病気による母体救急はまれ」と説明する。だが、最近の研究で、分娩と関係ない「間接死亡」が妊婦死亡のかなりの割合を占めることが分かってきた。

 国立循環器病センターの池田智明・周産期治療部長らの研究グループは、米国の統計手法に従うと、日本の05年の妊産婦死亡数は84人で、脳出血などの間接死亡が41%に上るとのデータをまとめた。日本産婦人科医会も04年分を分析、間接死亡率を38%と推計した。池田部長は「脳疾患などの母体の救命は、日本の周産期医療ではほとんど注目されず、具体的な対策が少なかった」と指摘する。

 都周産期医療協議会は11月28日、都内9カ所の総合周産期センターのうち3~4カ所を「スーパー総合周産期母子医療センター」(仮称)とし、重症妊婦の搬送をすべて受け入れる方針を決めた。ただ、都の調査では、総合周産期センターが妊婦を受け入れられなかったケースの理由は「NICU満床」が約9割に上り、「スーパー総合」が機能するか懐疑的な声も上がる。

 産科救急が苦境にある大きな原因はNICU不足だが、全国で約1000床足りないとの推計もあり、国が医師数や医療費の抑制策を抜本的に改めない限り劇的な改善は難しい。協議会会長代理の楠田聡・東京女子医大教授は「スーパー総合は、NICUの負担増無しには動かない。根本的な解決はNICUが増えることだが、それまでは今まで同様耐えるしかない」と話す。

 当面は各地の取り組みの知恵を共有し、行政も支援して苦境に対応するしかない。だが綱渡りをいつまでも続けられる保証はない。

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 この連載は、須山勉、清水健二、河内敏康が担当しました。

(毎日新聞、2008年12月11日)

****** 読売新聞、2008年12月11日

周産期の救急医療体制…新生児ICU 「満床」対策が急務

 産科救急の危機が社会問題になっています。今年10月、脳出血を起こした東京都内の妊婦(36)が8病院に受け入れを断られ、出産後に死亡した問題では、そのうち3病院が最重症の妊婦や新生児の救急治療にあたる「総合周産期母子医療センター」だったため、関係者に大きな衝撃を与えました。

 国が、同センターを制度化したのは1996年。産科救急の拠点として24時間体制で複数の産科医が勤務していることなどを条件とし、現在、45都道府県で計75施設が指定されています。比較的高度な医療を行う「地域周産期母子医療センター」も全国236施設が指定され、地域の医療施設も含めた周産期医療ネットワークを構築することで、安心して赤ちゃんを産み育てられる環境づくりが進められてきました。

 ところが、ここ数年、救急での妊婦の受け入れ状況は急速に悪化。総務省消防庁が今春まとめた調査では、昨年1年間に119番で緊急搬送された妊婦のうち、3回以上医療機関に断られたのは1084件で、3年間で4・3倍に増えました。母子医療の“最後の砦”であるはずの総合周産期母子医療センターのうち7割が、昨年度、搬送受け入れを断った経験があることが、厚生労働省の調査で分かりました。

 その理由に、「新生児集中治療室(NICU)が満床」をあげている施設が92・5%(複数回答)に上ります。出生数は減っていても、出産年齢の高齢化などにより、NICUでの治療が必要な新生児が増えているとの背景も指摘されています。

 激務や訴訟リスクの高さから全国的に産科医不足が深刻化しているのも理由の一つです。産科医の確保が難しく、夜間、土、日の当直が医師1人しかいないセンターも少なくありません。また、国はこれまで産科と一般の救急体制を別々に整備。このため、産科医と新生児診療を担当する医師はいても、脳出血など他の診療科での治療が必要な妊産婦への対応ができない施設もあるのが実情です。

 それでも日本の新生児死亡率は諸外国に比べて低いのですが、より安心して子供を産み育てられる体制づくりに向け、産科と一般の救急医療の連携強化などの対策を早急に進める必要があります。【本田麻由美】

(読売新聞、2008年12月11日)


妊婦搬送:総合周産期センター、平均200件は受け入れ不能--昨年度、東京

2008年12月08日 | 地域周産期医療

妊婦の搬送受け入れ拒否の理由のほとんどは「NICUの満床」です。ですから、NICUを大幅に増床する必要があります。

しかし、国や都道府県などの政策でNICUをむりやり増床しようとしても、新生児科医やNICU専属の看護師をそこに配属することができなければ、増床分のNICUのベッドを稼働させることができません。

従って、早急に多くの新生児科医の養成に着手し、将来的に新生児科医の数を増やす必要があります。まずは、大学病院や総合周産期母子医療センターで、小児科専門医をめざす小児科後期研修医や周産期専門医(新生児)をめざす小児科専門医の数が大幅に増加するような何らかの施策が必要です。

ただし、小児科専門医資格の取得には医師になってから5年以上(初期研修2年、後期研修3年以上)かかりますし、周産期専門医(新生児)資格の取得には小児科専門医資格取得後に3年以上かかります。

****** 毎日新聞、東京、2008年12月6日

妊婦搬送:総合周産期センター、平均200件は受け入れ不能--昨年度

9割、NICU満床--極低出生体重児が増え

 ハイリスクの妊婦に対応する都内の「総合周産期母子医療センター」(9カ所)が昨年度、妊婦の搬送を受け入れられなかった事例は1センター平均約200件に上り、その9割近くはNICU(新生児集中治療管理室)の満床が理由だったことが、都の調査で明らかになった。晩婚・晩産化などからNICUが不可欠な未熟児が増えたうえ、他県からの入院児も多く、首都の周産期医療の厳しい現状が改めて浮き彫りになった形だ。

 都内で今年9~10月、脳内出血の症状を訴えた妊婦の搬送を総合周産期センターなどが受け入れられなかった問題が相次いだことを受け、都福祉保健局が各総合周産期センターの搬送受け入れ状況(昨年度実績、速報値)などを調べた。

 その結果、妊婦の搬送の要請は9センターで延べ計2784件(一つのケースで複数のセンターが要請を受けた重複分も含む)あり、うち受け入れられなかったケースが1789件(64%)を占めた。受け入れ不能だった理由の内訳を数字で示したのは7センター(1408件)で「NICU(およびMFICU=母体・胎児集中治療管理室)が満床だったため」が1192件(85%)を占めた。

 残りの2センターも東邦大学医療センター大森病院(204件、大田区)が「おおむねNICU満床による」、日本赤十字社医療センター(177件、渋谷区)も「病床(NICUおよびMFICU)が満床の場合がほとんど」とコメント。合わせると妊婦搬送を受け入れられなかった事例の9割近くが、NICU不足によるものだったとみられる。

 ある総合周産期センターの責任者は毎日新聞の取材に「子どもが生まれそうな妊婦の搬送要請があった場合、母親のベッドは空いていてもNICUに空きがなければ普通は受け入れない。無理して受け入れても未熟児が生まれ、万一亡くなるような事態になれば、遺族から『なぜ受け入れたんだ』と訴えられることもありうる。だったら最初から受け入れない方がいい、ということになってしまう」と打ち明ける。

(以下略)


子宮がんについて

2008年12月04日 | 婦人科腫瘍

 子宮は骨盤の中央に位置し、その両側には左右の卵巣があります。子宮は、子宮の下部の子宮頸部と、子宮の上部の子宮体部より構成されます。子宮がん(上皮性悪性腫瘍)は、子宮頸部に発生する子宮頸がんと子宮体部に発生する子宮体がんに大別されます。

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子宮頚がん

 子宮頸がんは子宮頸部にできるがんで、最近では20~30歳代の若年女性に急増しています。 初期の子宮頸癌ではほとんど自覚症状がありませんが、 がんが進行すると不正性器出血や性交渉時の出血などの症状がみられることもあります。

 子宮頚がんは扁平上皮がんと腺がんの2種類があり、扁平上皮がんは子宮頚がんの約80%で放射線療法がよく効きますが、腺がんは約20%で放射線療法はあまり効果が期待できません。

 子宮頸がんは他のがんと異なり、定期的な検診で前がん病変のうちに発見することが可能です。前がん病変で発見し、治療を行えば、ほぼ100%完治します。また子宮を温存することも可能なため、その後の妊娠・出産も可能です。

 近年、子宮頸がんの原因のほとんどは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスであることが分かってきました。 HPVは性交渉により感染します。このウイルスはとてもありふれた存在で、性交渉の経験のある女性であれば、ほとんどの人が感染したことがあると考えられています。 このウイルスに感染しても多くの場合は、免疫力によってウイルスが体内から排除されます。しかし、何らかの理由によりウイルスが持続感染した場合、長い年月(ウイルス感染から平均で約10 年以上)をかけ、子宮頸がんへと進行する危険性があります。

 HPVには100以上ものタイプがありますが、全てのタイプが子宮頸がんの原因となるのではありません。子宮頸がんは高リスク型HPVと呼ばれている一部のHPVによって引き起こされます。高リスク型HPVは性交渉により人から人へと感染します。 この高リスク型HPVが持続感染した場合、子宮頸がんへと進行する危険性があります。持続感染する原因はまだ明らかにはなっていませんが、その人の年齢や免疫力などが影響しているのではないかと考えられています。

 HPVに感染した人の中で、およそ10人に1人がウイルスを排除できず持続感染することがあります。その場合、子宮頸部の細胞に異常な変化を起こすことがあります。この細胞の変化を異形成といいます。異形成になってもウイルスが排除されれば、それに伴い異形成も自然に治ります。しかし、ウイルスが持続感染した場合、異形成の程度が進行することがあります。異形成の程度が軽い場合(軽度異形成)は自然に治癒することが多く、程度が重くなった場合(中等度~高度異形成)は自然治癒しづらくなります。

 高度異形成を治療せず長期間放置した場合、病変が進行し子宮頸がんになる恐れがあります。子宮頸がんは早期がんであれば、手術により高い確率で治癒することが可能です。しかし、がんが進行しているほど、手術をしてもがんをとりきれなかったり、他の臓器へ癌が転移している可能性が高くなり、治癒が難しくなります。

 子宮頸がんは定期的に癌検診を受けることで予防することができます。現在、子宮頸がん検診では細胞診での検査が主流です。しかし、細胞診のみでは検診の精度にやや問題があり、細胞診とHPV検査を併用することで、検診の精度がほぼ100%になり、将来の子宮頸がんのリスクも知ることができます。アメリカの婦人科検診のガイドラインでは細胞診、HPV検査の両方が陰性の場合は、その後3年間は検診の必要がないとされています。従って、子宮頸がん検診では、できれば、細胞診とHPV検査を併用することをお勧めします。

 子宮頸がん検診の結果、精密検査の必要性があると判断された場合、コルポスコープ(膣拡大鏡)検査を行います。コルポスコープ検査で異常が疑われる箇所があれば、その部分の組織を一部採取(生検)して病理専門医が診断します。

 異形成の病変は、軽度、中等度、高度と長い時間をかけて進行し、上皮内がんを経て最終的に浸潤子宮頸がんになる恐れがあります。異形成/上皮内がん/浸潤子宮頸がんの治療法は病変の進行状態によって異なります。

 軽度異形成は、ウイルスが免疫力によって排除されると、異形成も自然に治癒する可能性が高いため、通常は治療の対象になりません。異形成がさらに進行した場合には、がんへの進行を防ぐため円錐切除術という治療を行います。高度異形成~上皮内がんまでの段階であれば、円錐切除術で治癒が可能で、子宮を温存できるのでその後の妊娠・出産にもほとんど影響はありません。

 高度異形成~上皮内がんの段階で発見されず浸潤子宮頸がんに進行してしまうと、円錐切除術では病変を取りきれなくない場合が多く、子宮の摘出が必要になります。病巣の大きさ・拡がり具合によっては、子宮だけでなく基靭帯、膣壁、骨盤内リンパ節なども同時に摘出する広汎性子宮全摘術を実施する必要があります。広汎性子宮全摘術では、下肢リンパ浮腫や排尿障害などの後遺症が高頻度に残ります。

 子宮頚がんの中でも扁平上皮がんは放射線に対して感受性が高く、放射線療法の治療成績は手術と同等です。最近は、化学療法(抗がん剤治療)と放射線療法を同時に行う同時併用化学放射線療法により、治療成績が向上しました。しかし、放射線療法はがんだけでなく腸や膀胱等にも放射線があたってしまうため、後遺症が残ることがあります。

 子宮頚がんの原因がウイルスだとわかり、子宮頚がんの予防ワクチンが開発されました。アメリカなどでは臨床試験を終え、医療の現場で使用されるようになってきました。性交渉をもつ前に予防接種をしなければならないので、性交渉を経験する年代に達する前に何度か繰り返し接種することが必要です。日本でも臨床試験が進められていて、間もなく日本でもワクチンの使用が始まります。

子宮体がん(子宮内膜がん)

 子宮体がんは、子宮体部の粘膜(子宮内膜)に発生するがんで、95%以上が腺がんです。以前は日本人には少ないがんと言われていましたが、食生活の欧米化にともなって、近年増加傾向にあり、現在では子宮がん全体の30%を占めるほどになっています。

 子宮体がんは、食生活やその人の体質に深く関係があります。高脂肪・高カロリーの食事を好む人、肥満体質の人や糖尿病、高血圧のある人は注意が必要です。また、出産経験のない人や、若い頃排卵障害、ホルモン異常のあった人も危険性が高いことが知られています。年齢的には、45歳以上から増えはじめ、50歳以上の閉経後に多く発生します。

 子宮体がんの症状としては、閉経後の不正性器出血や月経の異常が重要です。子宮体がんを早期発見するには閉経期前後の子宮内膜の検査が大切です。不正性器出血などの症状が気になる場合は、自己判断せずに産婦人科で子宮内膜の検査をしてもらいましょう。

 子宮体がんのスクリーニング検査としては、子宮内膜細胞診が一般的です。子宮の内部に細い器具を入れ、子宮内膜の細胞をこすりとって調べる検査で、比較的簡単にできます。この検査で異常が発見された場合、今度は子宮内膜の組織を一部採取して病理専門医が顕微鏡で調べます(子宮内膜組織診)。また、経腟超音波検査で、子宮内膜が厚くなっているかどうか?も非常に重要な情報です。通常、閉経後には子宮内膜は委縮して薄くなりますが、子宮体がんの場合は子宮内膜が肥厚しています。

 子宮体がんは病理組織学的には90%以上が腺がんですが、発生のメカニズムの違いから、2つのタイプに大別されます。1つは、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの影響を受けて発生する「タイプⅠ」と呼ばれるものです。もう1つは、エストロゲンと関係なく発生し、高齢者に多くみられる「タイプⅡ」と呼ばれるものです。

 「タイプⅠ」は子宮体がん全体の80~90%を占め、「子宮内膜異型増殖症」という前がん病変の時期を経てがんに移行します。「タイプⅠ」は進行が遅く、予後は比較的良好です。「タイプⅠ」の病理組織型は「類内膜腺がん」です。

 それに対して、「タイプⅡ」の場合は委縮した子宮内膜から突然発症し、「タイプⅠ」と比べて進行が速く、遠隔転移の頻度も高く、予後不良です。「タイプⅡ」の病理組織型は「漿液性腺がん」、「明細胞がん」などです。

 子宮体がんはほとんどが腺がんであり、(ほとんどが扁平上皮がんである)子宮頚がんほど放射線療法が有効ではありません。従って、子宮体がんの治療は手術療法が中心となります。

 手術方法としては、子宮全摘出術・両側付属器切除・骨盤~傍大動脈リンパ節郭清術(または生検)などが行なわれる場合が多いですが、癌の進行度、糖尿病や高血圧の有無、年齢や肥満の程度など、患者さんそれぞれに最適な手術方法を正確に見きわめることが重要になります。子宮体がんの進行度を正確に見きわめるために、手術前にCTやMRIなどの検査も行なわれます。

 手術摘出物の病理検査結果(癌の組織型、筋層浸潤の深さ、癌の広がり具合、リンパ節転移の有無など)によっては、術後の追加療法が必要になる場合もあります。子宮体がんの追加療法は、放射線療法や化学療法(抗がん剤療法)がありますが、未だに標準的な方法は確立されていません。これは、欧米では放射線療法が、日本では化学療法が主に使われてきたため、大規模な比較検討が行なわれていないためです。

子宮体部に発生する、子宮体がん以外の悪性腫瘍

 子宮体部には、まれに子宮体がん以外にも(非上皮性の)悪性腫瘍が発生することがあります。「平滑筋肉腫」、「高悪性度子宮内膜間質肉腫」、「低悪性度子宮内膜間質肉腫」、「がん肉腫」、「腺肉腫」、「がん線維腫」などがあります。これらの腫瘍の発生頻度はいずれも非常にまれです。予後不良の場合が多いですが、比較的ゆっくりした経過をたどる症例もあります。


「スーパー総合周産期母子医療センター」構想

2008年12月02日 | 地域周産期医療

母体搬送受け入れ拒否の理由ではNICU満床が多いです。 実際問題として、児娩出後に直ちに児がNICUに収容されることが確実な状況であれば、NICUが満床の施設は母体搬送の受け入れを拒否せざるを得ません。

しかし、命にかかわる重大な母体疾患の場合は、母体の救命が最優先となりますから、たとえNICUが満床であろうとも、とりあえず母体搬送を直ちに受け入れて、脳神経外科などと連携して母体の救命処置を優先的に実施せざるを得ない場合もあり得ます。

それぞれの患者さんの状況に応じて、母体搬送を受け入れる施設をスムーズに決定する公式ルールを策定する必要があります。ただ、特定の施設の負担だけが著しく増大するようでは、周産期医療の崩壊がかえって促進されるかもしれません。

地方の場合は、緊急母体搬送の受け入れ先は各医療圏でほぼ1施設のみに限定されますので、受け入れ拒否という事態はあまり起こりません。ただ、医療圏によっては、基幹病院の産婦人科医が全員いなくなって産科部門が閉鎖となり、ほぼすべての母体搬送を他の医療圏に搬送せざるを得ないような地域もあります。同じ県内の医療圏であっても、それぞれの医療圏ごとに事情は全く異なりますから、有効な対応策もそれぞれ全く異なります。

****** 共同通信、2008年12月1日

重症妊婦専門病院を指定へ 脳疾患など受け入れ 妊婦死亡問題で都協議会

【要約】 脳内出血の妊婦が東京都立墨東病院など8病院に受け入れを断られ死亡した問題を受け、学識経験者でつくる都の協議会は28日、会合を開き、脳疾患や心疾患を併発するなど重症に陥った妊婦をすべて受け入れる緊急対応の病院を、都内で指定することを決めた。

(共同通信、2008年12月1日)