Multiple Pregnancy
[定義] 子宮内に複数の胎児が存在する状態をいう。
2児の場合:双胎(twins)
3児の場合:三胎または品胎(triplets)
4児の場合:四胎または要胎(quadruplets)
5児の場合:五胎または周胎(quintuplets)
わが国における多胎妊娠が起こる頻度は胎児数をnとすると
1/100n-1~1/120n-1とされる。
[疫学] 日本では諸外国と比べて多胎妊娠の頻度は少ない。最近の双胎の出生数は全出生数の1.8%を占める。
最近、日本の多胎妊娠の頻度は増加している。移植胚数制限により、四胎、五胎の妊娠例は減少してきたが、双胎、品胎は依然として増加傾向にある。
[誘因] 排卵誘発、体外受精胚移植(IVF-ET)
多胎妊娠率:hMG-hCG療法は20~30%、クロミフェン療法は4~8%、IVF-ETは10%である。
※体外受精の結果発生する双胎のほとんどは二卵性である。近年の不妊治療の進歩とともに、二卵性双胎の頻度が上昇している。
[卵性による双胎の分類]
①一卵性双胎(monozygotic twins)
・ 1つの卵細胞が1つの精子と受精した後に2個の胎芽に分割し、それぞれが1個体として発育するものを一卵性双胎という。
・ 頻度:0.4%(人種、遺伝要素などにかかわらずほぼ一定)
・ 膜性診断:DD双胎、またはMD双胎、またはMM双胎
②二卵性双胎(dizygotic twins)
・ 同時に2つの卵細胞が排卵され、別々に受精・着床し、発育したものを二卵性双胎という。
・二卵性双胎の頻度:人種や遺伝要素などに関係しており、黒色人種、白色人種、黄色人種の順に多いといわれる。母体の年齢とともに増加する傾向がある。わが国における二卵性双胎の自然頻度は、0.2~0.3%と推測されている。 近年の不妊治療の進歩とともに、二卵性双胎の頻度が上昇している。
・ 膜性診断:ほぼすべてがDD双胎(二卵性の一絨毛膜双胎例の報告もある)
[膜性による双胎の分類]
1.一卵性双胎
①二絨毛膜二羊膜双胎(DD: dichorionic diamniotic twins)
受精後3日以内に分離(25~30%)
②一絨毛膜二羊膜双胎(MD: monochorionic diamniotic twins)
受精後4~7日に分離(70~75%)
③一絨毛膜一羊膜双胎(MM: monochorionic monoamniotic twins)
受精後8日以降に分離(1~2%)
・ 一絨毛膜双胎では1つの胎盤を両児で共有するため、胎盤の吻合血管により血流不均衡を生じ、5~15%に双胎間輸血症候群を発症する。
・ MM双胎は、臍帯相互卷絡による血行障害が多いため予後は極めて悪い。以前は約50%以上の周産期死亡率であったが、近年では、より正確な画像診断や新生児管理の向上により20%前後まで改善されている。
2.二卵性双胎
ほぼすべてがDD双胎
※ 一般に二卵性双胎はDD双胎となるが、近年では二卵性の一絨毛膜双胎例も報告されている。
[超音波検査による膜性診断]
多胎妊娠管理のためには、膜性診断がきわめて重要であり、妊娠初期に十分に観察する必要がある。妊娠7 週以前では、羊膜が見づらく、妊娠週数が進むと絨毛膜が相対的に薄くなるとともに、別々だった羊膜が重なり合うために膜性診断が困難となる。妊娠10 週前後に経腟超音波検査にて膜性診断を行う。
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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ701 双胎の膜性診断の時期と方法は?
Answer
1. 双胎の絨毛膜性診断は妊娠10週ごろまでに行う。(A)
2. 超音波検査により、絨毛膜及び、羊膜の数を数えることにより行う。(A)
1) 絨毛膜の数と胎嚢の数は等しいため、胎嚢が2つ確認できれば二絨毛膜双胎と診断し、胎嚢が1つであれば一絨毛膜双胎と診断する。
2) 両児を隔てる隔膜が厚いとき(絨毛膜)は二絨毛膜双胎と診断する。
3) 一絨毛膜双胎の場合、両児を隔てる薄い隔膜(羊膜)が確認できれば一絨毛膜二羊膜双胎と診断する。
4) 一絨毛膜の場合、両児を隔てる薄い隔膜(羊膜)が確認できなければ一絨毛膜一羊膜双胎を疑い繰り返し精査する。
3. 妊娠14週以降など絨毛膜と羊膜が癒合し直接膜の数を数えることができない場合は、隔膜の子宮壁からの起始部の形状、胎盤の数、性別などを参考に膜性を診断する。(B)
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膜性診断における卵黄囊の数の意義は?
従来、卵黄囊の数と羊膜の数は一般的には一致していると考えられていたが、一絨毛膜双胎の15%程度に卵黄囊の数と羊膜の数が一致しない症例があるとの報告や、卵黄囊が2個存在する一絨毛膜一羊膜双胎の報告もあり、卵黄囊の数は膜性診断の補助として利用するにとどめ、正確な膜性診断は膜の数を数えることが原則と考えるべきであろう。
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(図1) 双胎膜性診断のステップ
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超音波による妊娠初期の膜性診断
①二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎)
一卵性の25~30%と二卵性のほぼすべてがDD双胎とな。
絨毛膜は超音波検査では胎嚢の外周に白く厚い線状の構造として描出される。羊膜は絨毛膜に比して薄い膜様の構造であり、絨毛膜の内側に細い線様のエコー像として描出される。胎児(胎芽)と胎児(胎芽)の間に絨毛膜が存在すれば二絨毛膜双胎である。
妊娠初期に胎嚢が2つ確認できれば二絨毛膜と診断してよい。
絨毛膜の数=胎嚢の数
②一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)
胎児(胎芽)と胎児(胎芽)の間に厚く白い絨毛膜が存在せず、薄い羊膜のみが存在すればMD双胎である。
③一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)
胎児(胎芽)間に隔膜が存在せず、両児を取り囲むように羊膜と絨毛膜が確認できればMM双胎と診断できる。
羊膜の走行が確認しづらい場合でも、臍帯相互巻絡が確認できれば間違いなく一羊膜双胎である。
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(表1) second trimester 以降での膜性診断
λ-sign、twin-peak sign: 子宮壁に接して隔膜の起始部が三角形になる
T-shape:膜の起始部が薄い膜状の形態
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[双胎妊娠の合併症]
・ 母体合併症: 切迫早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝など。
※ 双胎の常位胎盤早期剥離、HELLP症候群、あるいは子癇では、単胎に比し先行する妊娠高血圧症候群が認められない例が多いのが大きな特徴の一つである。また、双胎妊娠では単胎妊娠に比してHELLP症候群の発症率が高く、その危険は単胎妊娠の10倍以上である可能性が指摘されている。さらに、双胎妊娠においては単胎妊娠と比較して、血小板数低下、肝機能障害、尿酸値上昇、アンチトロンビン活性低下の発生頻度が高く、またこれらの検査異常はHELLP症候群にしばしば先行する。妊娠後半期では、これら検査を適宜行い、肝機能障害が新たに出現するか増悪して、HELLP症候群の発生リスクが高いと判断される場合は、原則急速遂娩とすることで予後改善に寄与する可能性がある。
・ 胎児合併症: 双胎間輸血症候群(羊水過多症、羊水過少症)、双胎一児死亡、胎位異常(懸鉤など)、胎児奇形、胎児発育不全など。
[双胎妊娠の管理]
・ 多胎妊娠では、単胎妊娠と比べて周産期死亡率が高く、母体や胎児の合併症が多いため、妊娠・分娩の管理が重要となってくる。
・ 一絨毛膜双胎では、重篤な合併症がおこることが多く、厳重な管理が必要となる。一絨毛膜双胎の中でもMM双胎は、二絨毛膜双胎に比べて特に厳重な管理が必要である。
管理入院 (通常は妊娠28週頃より必要に応じて)
・ 栄養摂取:単胎妊娠+300kcl/日
・ 切迫早産徴候があれば子宮収縮抑制剤を投与
・ 妊娠高血圧症候群の予防と治療
※ 双胎妊娠の周産期死亡率は37~38週が最も低く、その後は増加する。また、37週以降分娩双胎児の周産期死亡率は40週以降分娩単胎児に比して6倍以上高い。そのため、双胎37週以降は単胎よりも胎児well-beingに注意する必要がある。双胎を何週で誘発すべきかについてはデータがまだ充分にない。
[双胎妊娠における分娩方法の選択]
どちらか一児でも、明らかなIUGR や胎児心拍パターン異常などがある場合には帝王切開となる。両児ともにwell-being を確認できている場合は、胎位の組み合わせ、推定体重および在胎週数に応じて、分娩様式を検討する。
1)膜性
一 絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)では、臍帯相互巻絡によるリスクから帝王切開を選択する.。
2)在胎週数と推定体重
各施設のNICU の有無や新生児管理の状況により異なるため、一定の基準はない。1500 g 以上、32週以上では分娩様式による周産期死亡率および合併症に差は認めなかったと報告された。
3)胎位の組み合わせ
①頭位─頭位、②頭位─非頭位、③非頭位─頭位、④非頭位─非頭位がある。
分娩様式の基準は施設によって異なるが、頭位─頭位の場合は経腟分娩が選択され、先進児が非頭位の場合は帝王切開が勧められている。
新生児仮死に関連する周産期死亡率および合併症は、「経腟分娩群」および「第2子帝王切開群」では、「両児とも帝王切開群」に比較して増加するとの報告がある。
頭位─非頭位の経腟分娩では、第1子娩出後の第2子緊急帝王切開発生リスクは23% と、頭位─頭位での第2子緊急帝王切開発生リスク約7%に比較して高率となるため、経腟分娩を施行するにあたっては迅速に帝王切開が行える状況下で分娩を管理する。
非頭位─頭位で経腟分娩を試行した場合、両児の顎が互いにロックすることで分娩が進行できない状態(懸鉤)となることがある。
※ 三胎以上の多胎妊娠では、低出生体重児や胎位異常が多いため、帝王切開で児を娩出することが多い。
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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ702 一絨毛膜双胎の取り扱いは?
Answer
1. 高次施設に紹介するか、または連携しながら診療する。(B)
2. TTTSや無心体双胎の可能性を念頭に管理し、妊婦や家族にもそのりすくについて説明する。(B)
3. 妊娠14週頃までに、二羊膜(MD)か一羊膜(MM)かの鑑別をする。(B)
4. 二羊膜(MD)では羊水量不均衡と胎児発育に注意し、少なくとも2週間ごとの超音波検査を行う。(C)
5. 一羊膜(MM)では臍帯相互巻絡による胎児突然死の危険性について妊婦や家族にも説明する。(C)
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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ705 双胎の一般的な管理・分娩の方法は?
Answer
1. 妊娠後半期においては早産徴候について十分注意する。(A)
2. 妊娠後半期には、妊娠高血圧症候群、HELLP症候群、血栓症等の発症率が高いので、それらを考慮して検査等を行う。(C)
3. 37週以降双胎は同時期単胎よりも胎児well-beingに注意する。(B)
4. 分娩様式について定説はないが胎位により以下の方法を参考とする。(C)
1) 両児が頭位:経腟分娩
2) 第一子が頭位・第二子が非頭位:単胎骨盤に分娩法に準じる
3) 第一子が非頭位:予定帝王切開
5. 経腟分娩時には、両児の心拍数モニタリングを行う。(B)
6. 経腟分娩の際には、第一子分娩後の第二子心拍数と胎位を確認する。(B)
7. 分娩後出血と周産期血栓塞栓症発症に注意する。(C)
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懸鉤(interlock、locked twins):
骨盤位―頭位の組み合わせで経腟分娩を行った場合、まれに両児の顎が互いにロックし分娩が進行できない状態(懸鉤)になることがある。MM双胎に多いとされ、すみやかに帝王切開を行う。
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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ703 一絨毛膜双胎において、双胎間輸血症候群(TTTS)や無心体双胎を疑う所見は?
Answer
1. 一児に羊水過多傾向、他児に羊水過少傾向を認めたらTTTS発症を疑い精査する。(B)
2. 双胎一児死亡と診断されていた児に発育が認められるときは無心体双胎を疑い精査する。(B)
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双胎間輸血症候群(TTTS)
twin-twin transfusion syndrome
【定義】TTTSとは、双胎の一児から他児へ何らかの原因により血液が移行し、供血児(donor)では循環血液量減少、尿量減少、羊水過少をきたす腎不全型を示し、受血児(recipient)では循環血液量増加、尿量増加、羊水過多をきたす心不全型を示す症候群である。
【診断】 羊水過多児、過少児の最大羊水深度が、それぞれ>8cm、<2cmで、同時にみられた場合にTTTSと診断する。
羊水過多・羊水過少をきたす疾患(胎児消化管閉鎖、泌尿器疾患、前期破水など)は除外される。
【頻度】 TTTSは一絨毛膜二羊膜(MD)双胎の5~15%に発症し、一絨毛膜一羊膜(MM)双胎での発症はまれである。
TTTSは胎盤上での吻合血管の存在が必須であるために二絨毛膜二羊膜(DD)双胎での発症はまずない。
【予後】
・ 周産期死亡率は60~100%におよぶ。
・ 受血児は循環血液量の増加により心拡大を起こし、うっ血性心不全となる。悪化すると胎児水腫となる。また、尿量の増加によって羊水過多となる。
・ 供血児は循環血液量の減少からFGRとなる(stuck twin)。また、尿量減少によって羊水過少となる。
・ 受血児、供血児ともに胎児機能不全に陥り、子宮内胎児死亡となることがある。
※ TTTSは16週未満にも発症する。早期発症TTTSは放置すれば極めて予後不良なので、発症有無確認のために一絨毛膜双胎では頻回の外来受診(少なくとも2週間に1回以上)が勧められる。
【治療】
(1) 体外生活が可能な時期(妊娠26週以降)であれば娩出後に新生児治療を行う。
(2) 妊娠26週未満の治療法
① 羊水除去(AR: aminio reduction)
・ 子宮内圧の減圧により妊娠期間を延長し児の生存率を改善する。
・ ARによる成績は児生存率60%、神経学的後遺症を残す割合は25%である。
② 胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP: fetoscopic laser photocoagulation)
・ FLPは、TTTSにおいて供血児と受血児との間の胎盤吻合血管をYAGレーザーにより凝固・遮断させる方法である。TTTSの原因と考えられている吻合血管を遮断することで、両児間の血流不均衡を是正できる根治療法で、近年注目されている。
・ 欧米と日本でのFLPとARの治療成績を比較した報告をまとめると、少なくとも一児が生存する割合は80%対60%とFLPがやや上回る程度であるが、助かった児がその後神経学的後遺症を残す割合が5%対25%というようにFLPの方が有意にすぐれていると言える。
・ 欧州における前方視的無作為試験でも、Stage Ⅰ~Ⅳにおいて、FLPはARに比較して児生存率を上昇させ、神経学的後遺症を減少させた。
・ 米国での前方視的無作為試験では、FLPのARにたいする有用性は示されなかったが、レーザー手術の治療成績が悪く、手術手技の未熟によるためと考えられた。
・ 本邦においても26週未満TTTSに対してFLPが限られた施設で行われており、児生存率80%、流産率5%、神経学的後遺症5%前後と良好な成績である。
****** TTTSのStage分類(Quintero)
注1:Stage Ⅰは、「供血児の膀胱がみえること」かつ「血流異常がないこと」。
注2:血流異常は、1) 臍帯動脈拡張期途絶逆流、2) 静脈管逆流、3) 臍帯静脈の連続する波動のいずれかを、供血児および受血児のどちらか一方に認めれば、stage Ⅲと診断してよい。
注3:血流異常を認めるが供血児の膀胱がみえるものは、Stage Ⅲ atypical と亜分類し、膀胱がみえないStage Ⅲ classical と区別する。
注4:供血児および受血児のどちらか一方に胎児水腫を認めればStage Ⅳと診断する。血流異常や供血児の膀胱の確認は問わない。
注5:供血児および受血児のどちらか一方が胎児死亡となったものはStage Ⅴと診断する。血流異常、胎児水腫の有無、膀胱の確認は問わない。
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本邦におけるFLPの適応と要約
Jpan Fetoscopy Group(JFP)
適応:
・TTTSである(MD双胎、羊水過多>8cm、羊水過少<2cm)
・妊娠16週以上、26週未満
・Stage Ⅰ~Ⅳである
要約:
・未破水である
・羊膜穿破・羊膜剥離がない
・明らかな切迫流早産兆候がない(頸管長20mm以上を原則とする)
・重篤な胎児奇形がない
・母体が手術に耐えられる(重篤な合併症がない)
・母体感染症がない(HIVは禁忌)
・研究的治療であることを納得し同意している
※ 適応は病態の厳密な評価後に決定されるので、病態の評価は超音波・ドプラ検査に習熟した施設で行われ、FLP施行可能な施設への紹介はそれら施設を介して行われている。
※ 本邦でのFLPは、現在、Japan Fetoscopy Group(JFG)に所属する7施設(北海道大学、宮城県立こども病院、国立成育医療センター、聖隷浜松病院、国立長良医療センター、大阪府立母子医療センター、徳山中央病院)にて行われている。
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不均衡双胎(discordant twins)
・ 一般に、双胎で児の体重差が大きい児の25%以上を呈した場合、discordant twinsと診断される。
・ 胎盤内の血管吻合を介する血流移行が成因と一般的には理解されやすいが、出生した児のヘマトクリット値も、大きい児が必ずしも多血症で小さい児が貧血とは限らない。胎盤内血管吻合のない二絨毛膜二羊膜性双胎でもdiscordant twinsは起こりえる。
・ concordant twinsと比較してdiscordant twinsでは、羊水過多症、前期破水、早産、帝王切開分娩が高率に合併する。
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stuck twin現象
[定義] 二羊膜双胎に認められる現象で、一児は非常に重症な羊水過少の腔内で子宮壁に接して存在し胎動も制限され、他児は重症の羊水過多の腔内に存在する。
[頻度] 双胎の8%に合併し、一絨毛膜二羊膜双胎の35%に出現する。大部分は双胎間輸血症候群(TTTS)に合併している。
[予後] 本現象は両児にとって危険な現象であり、特に小さい方の胎児の生存率は20%以下である。
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無心体双胎(acardius anceps)
・ 無心体双胎は1絨毛膜双胎において一児の心臓が欠如(もしくは痕跡心臓)しているが,吻合血管(動脈~動脈吻合)により健常児からの血流で無心体が栄養されている状態である。1絨毛膜双胎の1%もしくは35000分娩に1例とまれな疾患である。
・ 無心体双胎は、無心体児が健常児から供給される血流で生存するため、健常児に心負荷がかかり、羊水過多、胎児水腫をきたす予後不良な疾患である。
・ 妊娠初期に1絨毛膜双胎の一児死亡と診断されていた児に発育が認められるときは、無心体双胎を疑い精査することが大切である。
・ 血流ドプラ検査にて無心胎児の臍帯動脈血流が通常とは逆行性に(胎盤から無心体への拍動する血流)存在することが確認されると診断できる。
・ 治療法としては、無心体児の臍帯血流遮断術が行なわれる。侵襲度の低い方法として超音波ガイド下ラジオ波凝固術がある。(実施施設:国立成育医療研究センター周産期診療部など)
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双胎における流早産、周産期死亡率
・ 平均妊娠持続期間は、単胎で39週、双胎で35.1週、三胎で32.7週、四胎で28.7週と、多胎妊娠では早産となることが多い。
・ 周産期死亡率(出産1000対)は、単胎で5.9、双胎で75.0、三胎で75.4、四胎で102.9である。
・ DD双胎に比較して、一絨毛膜双胎では周産期死亡率が5倍高いとされている。
・ MM双胎では50%に臍帯の相互卷絡が起こるため、MD双胎に比較して周産期死亡率が高い。
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双胎一児死亡
・ 胎盤循環が完成した妊娠中期以降に、一絨毛膜双胎の一児に子宮内胎児死亡を生じた場合、他方の児が脳障害きたしたり死亡したりすることがある
・ 胎盤を共有しない二絨毛膜双胎の場合、双胎一児死亡が起きても生児への影響はほとんどない。
・ 妊娠初期に双胎一児死亡が生じた場合、死亡児は消滅してしまうことが多く、これをvanishing twinという。
・ 妊娠中期以降では、まれに死亡児がミイラ化して紙様児(fetus papyraceus)となり、分娩時まで残存することがある。
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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ704 双胎一児死亡時の対応は?
Answer
1. 二絨毛膜双胎の場合、母体DICに注意しながら待機的管理を行う。(B)
2. 一絨毛膜双胎の場合、児の貧血とwell-beingに注意しながら待機的管理を行う。(C)
3. 一絨毛膜双胎の場合、最善を尽くしても生存児の神経学的後遺症・周産期死亡のリスクが高いことを、妊婦および家族に説明する。(C)
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・ 二絨毛膜双胎の一児が死亡しても急速遂娩を考慮する必要はないと考えられている。母体のDIC発生が危惧されるものの、その発生頻度は非常に低いと考えられている。
・ 一絨毛膜双胎一児死亡後の他児予後は、約50%がintact survival、約50%が死亡もしくは脳障害を有すると推定するのが妥当と考えられる。一児死亡確認後の生存児急速遂娩が生存児予後改善に寄与するとのエビデンスはない。したがって現時点では、一絨毛膜双胎一児死亡の場合、児の貧血、well-beingに注意しながらの待機的管理が勧められる。ただし、生存児がすでに成熟している場合、早期娩出の有益性に関するエビデンスはないものの早期娩出も考慮される。一絨毛膜双胎一児死亡においても、母体DIC発生が危惧されるものの、その発生頻度は非常に低いと考えられている。
・ 胎児Hb値の推定には、胎児中大脳動脈の最大血流速度(middle cerebral artery peak systolic velocity, MCA-PSV)測定が有用である。
****** 一絨毛膜双胎一児死亡時におけるインフォームドコンセントの際、重要と思われる2つの問題:
(1) TTTSにおいて、受血児が胎内死亡した場合と供血児が胎内死亡した場合で、生存児の予後に差があるか?
Answer: 一児死亡後のIUFD、出生児の頭蓋内病変、いずれも供血児が先に胎内死亡した症例で予後良好であった。
(2) 一絨毛膜双胎において、妊娠22週以前一児死亡例でも生存児脳障害発生はあるか?
Answer: これまで妊娠22週未満の一児死亡に限定して生存児脳障害の発生率を調査した報告はなく、一児死亡の発生時期によって生存児の神経学的予後が異なるかどうか不明である。現時点では、妊娠22週未満の一児死亡であっても重篤な神経学的異常を呈する場合があるとしかいえない。