ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

加藤先生の無罪が確定へ!

2008年08月29日 | 大野病院事件

コメント(私見):

本日、福島地検が控訴を断念すると発表しました。これによって、9月3日の控訴期限を過ぎれば、加藤先生の無罪が確定し、大野病院事件の裁判は1審で終結することになりました。 まずは、無罪の確定を心から喜びたいと思います。

【追記:8/31】

8月30日付けの毎日新聞の記事からの引用:
県病院局の茂田士郎・病院事業管理者は「医療事故の再発防止に全力を尽くしたい」とコメント。加藤医師を減給1カ月(10分の1)とした05年6月の処分について、同局の林博行次長は「判決を吟味し、(加藤医師の過失を認めた)県事故調査委員会の報告書を含め、懲戒処分取り消しも視野に検討したい」と話した。(引用終了)

8月30日付けの河北新報の記事からの引用:
国立病院機構仙台医療センター(仙台市)産婦人科の明城光三医長も「先週、事件のような難しい症例があった。無罪判決があったので比較的冷静に対応できた」という。それでも「今後も逮捕という同じことが起こる可能性はある。ショックは忘れない」と影響の大きさをうかがわせた。(引用終了)

8月20日付けの共同通信の記事からの引用:
「私も加藤医師の立場だったら、同じ治療をしていた。日本中の医師の思いが共通していたので、これほどの動きが広がった」 千件近い帝王切開手術を手掛けたことがある東京都立府中病院産婦人科の桑江千鶴子部長(56)は、医療現場の反応をそう解説する。(引用終了)

今回の判決で、加藤先生の実施した医療行為が『癒着胎盤に対する現時点における標準治療』であったことが正式に認定され、加藤先生の過失は否定されました。従って、(過失を認めた)県事故調査報告書の記載内容を訂正して、その報告書を根拠にした懲戒処分を取り消すことは当然だと思います。

また、県病院局より、「医療事故の再発防止に全力を尽くしたい」とのコメントがありましたが、癒着胎盤の発生頻度は今後も従来と比べて変わらないでしょうし、もしも癒着胎盤の症例に遭遇した場合は、(現時点の医療水準では)どんなに態勢の整った病院であっても、基本的には今回の加藤先生の実施した医療行為と同じ対応をしていくことになります。

当科においても、大野病院事件後に癒着胎盤の症例に遭遇しましたが、やはり、癒着胎盤と認識した後もそのまま胎盤の用手剥離を継続しました。その後、大量出血が始まり、輸血をしながら全身麻酔下に子宮摘出術を実施しました。その時点ではまだ大野病院事件の裁判が進行中でしたが、現実的にはそのような対応をせざるを得ませんでした。その症例でも、やはり、術前に癒着胎盤とは診断できませんでした。

**** 加藤先生と弁護団のコメント(8/29)

◆ 加藤克彦先生のコメント

 心中ほっとしております。2年6カ月は、とても長かったです。支えてくださった皆様に大変感謝しております。これからも、地域医療に私なりに精一杯取り組んでまいります。あらためまして、患者さんのご冥福をお祈り申し上げます。

       加藤克彦

◆ 弁護団のコメント

 検察官が主張する医療措置について、全く立証されていない本件では、控訴断念が当然の結論であると考えます。

 一方、加藤医師について無罪が確定することにより、本件裁判が、産科を中心とする医療現場全般に与えた悪影響が、収束することを期待します。

       県立大野病院事件 弁護団

****** 日本産科婦人科学会・声明

福島県立大野病院事件についての福島地方裁判所無罪判決に対する検察当局の控訴断念について

 このたびの検察当局の控訴断念は、被告人に過失が無かったとする福島地方裁判所の無罪判決を尊重するものであり、医療現場の混乱を収束する上で産婦人科のみならず医療界全体にとっても妥当な判断であると考えます。

 日本産科婦人科学会は、今後も医学と医療の進歩のための研究を進めると共に、関係諸方面の協力も得て診療体制の更なる整備を行い、重篤な産科疾患においても、母児ともに救命できる医療の確立を目指して最大限の努力を続けてゆくことを、改めて表明致します。

平成20年8月29日

     社団法人 日本産科婦人科学会
            理事長 吉村 泰典

(日本産科婦人科学会・声明)

****** 毎日新聞、福島、2008年8月30日

大野病院医療事故:県、懲戒処分見直しも 

地検が控訴断念、医師の無罪確定へ

 無罪確定へ--。大熊町の県立大野病院で04年に起きた医療死亡事故の裁判は29日、福島地検が控訴断念を明らかにし、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた加藤克彦医師(40)の無罪が確定することになった。県は、加藤医師の懲戒処分の見直しを検討している。【松本惇、西嶋正法、今井美津子、石川淳一】

 福島地検の村上満男次席検事は「事実関係はおおむね検察官の主張通り認定している」とした上で、「判決は刑罰を科す基準となる医学的準則を、ほとんどの者が従っていると言える一般性を有しなければならないとした。裁判所の要求も考え方としてあり得る」と述べた。加藤医師の起訴については「被告が持っていた医学書に(検察側主張に沿う)記載があり、産婦人科医の鑑定もあったので、違法とは思わない」と正当性を主張した。県警の佐々木賢・刑事総務課長は「法と証拠に基づき必要な捜査をした。医療行為の捜査は今後も慎重、適切に行いたい」と話した。

 一方、加藤医師の弁護団は「当然の結論。産科を中心に医療現場全般に与えた悪影響が収束することを期待する」とし、日本産科婦人科学会は「今後も母児ともに救命できる医療の確立を目指し、最大限の努力を続ける」との談話を発表した。

 また、県病院局の茂田士郎・病院事業管理者は「医療事故の再発防止に全力を尽くしたい」とコメント。加藤医師を減給1カ月(10分の1)とした05年6月の処分について、同局の林博行次長は「判決を吟味し、(加藤医師の過失を認めた)県事故調査委員会の報告書を含め、懲戒処分取り消しも視野に検討したい」と話した。

 保岡興治法相は会見で「医療事故の調査は、専門家らで構成する第三者委員会がリスクなどに専門的判断を下し、刑事司法はそれを尊重し対応する仕組みが必要」と語った。

(毎日新聞、福島、2008年8月30日)

****** 河北新報、2008年8月30日

医療現場に安堵広がる 大野病院事件で地検控訴断念

 医療界を震撼(しんかん)させた事件は一審で幕が引かれることになった。産婦人科医が帝王切開中の過失を問われた福島県立大野病院事件。福島地裁が言い渡した無罪判決に福島地検は29日、控訴断念の方針を明らかにした。事件が暗い影を落とした産科医療現場には安堵(あんど)が広がり、捜査関係者らは淡々と結末を受け止めた。

 被告の加藤克彦医師(40)には弁護団から地検の方針が伝えられた。加藤医師は「逮捕からの2年6カ月はとても長く、ほっとしている。今後も地域医療に精いっぱい取り組んでいきたい。あらためて患者さんのご冥福をお祈り申し上げます」とのコメントを出した。

 福島県は2005年、判断ミスなどを指摘した事故調査結果に基づき加藤医師らに減給などの懲戒処分を科し、加藤医師は起訴に伴い休職となった。無罪が確定すれば休職は解かれる見通しで、県は処分の取り消しも検討する。

 茂田士郎県病院事業管理者は、発表した談話で「引き続き県民医療の安全確保に努め、医療事故の再発防止に全力を尽くしていく」との考えを示した。

 逮捕には当初から医療界が猛反発し、お産を扱う現場に動揺を与えた。「万が一、控訴されれば、現場はさらに萎縮(いしゅく)しかねなかった」と東北公済病院(仙台市)産婦人科の上原茂樹科長は胸をなで下ろす。

 国立病院機構仙台医療センター(仙台市)産婦人科の明城光三医長も「先週、事件のような難しい症例があった。無罪判決があったので比較的冷静に対応できた」という。それでも「今後も逮捕という同じことが起こる可能性はある。ショックは忘れない」と影響の大きさをうかがわせた。

 一方、死亡した女性患者の父親渡辺好男さん(58)は取材に対し「無罪有罪は関係なく、1人の命が失われた。医療界には原因を追及し、再発防止に努めてほしいとだけ願っている」と話した。

 福島地検の村上満男次席検事は記者会見で「遺族の方にはあらためてお悔やみ申し上げますとしか言いようがない」と述べた。県警の佐々木賢刑事総務課長は「県警としては法と証拠に基づいて必要な捜査をしたと考えている。医療行為をめぐる事件の捜査は本判決を踏まえ、慎重かつ適切に行っていく」と語った。

(河北新報、2008年8月30日)

****** 福島放送、2008年8月30日

大野病院事件、無罪確定へ/地検が控訴断念

 大熊町の県立大野病院事件で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医・加藤克彦医師(40)に無罪を言い渡した1審の福島地裁判決に対し福島地検は29日、控訴を断念した。加藤医師の無罪が確定する控訴期限は4日午前零時。

 検察側は公判で「産科医の基本的な注意義務に違反した」として禁固1年、罰金10万円を求刑。しかし福島地裁は「注意義務」を判断する医学的準則について、臨床例を示さず文献などを根拠とした検察側主張を否定した。加藤医師の行為を「標準的な医療措置」と認定し、過失はないと判断した。

 福島地検の村上満男次席検事は29日、断念の理由について「仮に控訴したとしても裁判所の判断を覆すことは困難」と述べた。

 大野病院医長の職にある加藤医師は、地方公務員法に基づき起訴された平成18年3月から休職となっているが、無罪が確定すれば休職は解ける。

(福島放送、2008年8月30日)

****** 朝日新聞、2008年8月29日

帝王切開した医師の無罪確定へ

福島地検が控訴を断念

 福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性(当時29)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた執刀医を無罪とした福島地裁判決について、福島地検は29日、「控訴しない」と発表した。これにより執刀医で同病院の産婦人科医、加藤克彦医師(40)=休職中=の無罪が確定する。

 控訴断念の理由について同地検の村上満男次席検事は、判決を覆すために必要な証人や鑑定といった「新たな証拠を出すことは不可能」と説明。加藤医師を逮捕・勾留(こうりゅう)したことについては「当時の判断としては、鑑定医の話や医学書の記載に基づいたもので、間違いはなかった」と話した。

 同地検は「女性が癒着胎盤で大量出血する恐れがあったにもかかわらず、子宮摘出に移行せずに胎盤をはがし続けて女性を失血死させた」などとして、06年3月に加藤医師を起訴。だが、20日の福島地裁判決は「胎盤をはがしはじめたら、継続するのが標準的な医療」として同地検の主張を退け、異状死の場合、死亡後24時間以内に警察へ届けなければならない医師法違反にも問えないとしていた。

 加藤医師の弁護団は「検察の主張はまったく立証されておらず、控訴断念は当然。裁判が産科を中心とする医療現場全般に与えた悪影響が無罪確定で終息することを期待する」とのコメントを出した。

(朝日新聞、2008年8月29日)

****** 読売新聞、2008年8月29日

「帝王切開」大野病院事件、福島地検が控訴を断念

 福島県立大野病院で2004年、帝王切開手術を受けた女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死罪などに問われた加藤克彦医師(40)に無罪を言い渡した福島地裁判決について、福島地検は29日、控訴を断念すると発表した。

 裁判では、子宮に癒着した胎盤をはがし続けた加藤医師の処置が医学的に妥当だったかが争点になったが、20日の判決は、検察側の立証について「根拠付ける臨床例を何ら示していない」と指摘していた。

 控訴断念の理由について、同地検の村上満男次席検事は「控訴しても裁判所の判断を覆すのは困難と判断した」と述べた。

 現在、休職中の加藤医師は、「ほっとしています。(逮捕後の)2年6か月はとても長かった。これからも地域医療に私なりに精いっぱい取り組んでまいります。改めて(亡くなった)患者さんのご冥福(めいふく)をお祈り申し上げます」と、弁護団を通してコメントを出した。

 一方、死亡した女性の父、渡辺好男さん(58)は、読売新聞の取材に対し、「娘が死ななければならなかった理由は十分明らかになっていないと思う。有罪、無罪に関係なく、それを知りたい」と語った。

(読売新聞、2008年8月29日)

****** 読売新聞、2008年8月30日

「医療事故の捜査 謙抑的な対応を」 保岡法相

 保岡法相は29日、大野病院事件で検察当局が控訴を断念したことを受けて記者会見し、「医療事故の真相究明については、第三者機関が専門的な判断を下すようにし、刑事訴追は謙抑的に対応すべきだ。私のこの考えなどもあり、検察や警察では謙抑的な対応が事実上始まると思う」と述べた。個別の事件に絡み、法相が捜査の抑制に言及するのは異例。

 また法相は、大野病院事件の刑事立件について「医療事故が多発し、厳しく対応するようにとの世論がある中で、第三者機関がなかったので警察が動いた。これが医療を萎縮させ、医師確保にも重大な影響を与えている」と指摘。厚生労働省が検討している第三者機関「医療安全調査委員会(仮称)」の早期設置が望ましいとの考えを示した。

(読売新聞、2008年8月30日)

****** 読売新聞、福島、2008年8月30日

「新たな立証難しい」大野病院事件

控訴断念で検察側

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術を受けた女性(当時29歳)が死亡した医療事故を巡る裁判は、福島地検が29日、控訴断念を表明したことで、無罪判決が確定することになった。業務上過失致死罪などに問われた加藤克彦医師(40)=休職中=について、県病院局では「判決が確定した時点で復職になる。復職後のことについては加藤医師の考えを聞いて検討する」としている。

 子宮に癒着した胎盤をはがし続けた処置の妥当性が問われた裁判で、「子宮摘出に移るべきだった」と主張した検察側に対し、20日の判決は立証不足を指摘していた。

 福島地検の村上満男次席検事はこの日、「(刑罰を科す基準となり得る)医学的準則には様々な考え方があり、裁判所が要求する程度も考え方としてはあり得る。あり得る以上は覆せない」と立証が及ばないことを認め、「証拠に基づいて過失があると判断したが、裁判所と過失、注意義務のとらえ方に違いがあった」と述べた。また、控訴審は原則として1審の証拠に基づいて審理されるため、新たな立証が難しいと説明した。

 ただ、任意捜査でなく、逮捕したことについては「逮捕の要件を慎重に判断して行ったもので、正当だったと思う」とし、起訴したことも「証拠に基づいたもので誤っていない」とした。

 今後については「より慎重、適正に捜査をしたい」と語った。

 また、県警刑事総務課の佐々木賢課長も、「県警としては、法と証拠に基づいて必要な捜査を行ったものと考えている。今後も本判決をふまえ、慎重かつ適切に行って参りたい」と話した。

 これに対し、加藤医師の弁護団は「当然の結論」とするコメントを出し、日本産科婦人科学会も「医療現場の混乱を収束する上で医療界全体にとっても妥当な判断」という声明を出した。

 一方、女性の父、渡辺好男さん(58)は読売新聞の取材に対し、「(事故について)まだ疑問に思うことがあり、生涯真実を求めていきたい」と胸の内を語った。判決当日に県に提出した、医療事故の再発防止を求める8項目の要望書にも触れ、「要望書は今の自分にとって希望。患者の視点で変えていける環境を提案しており、順番に変えていってほしい」と話した。

(読売新聞、福島、2008年8月30日)

****** 河北新報、2008年8月29日

検察側が控訴断念 大野病院事件

 福島県立大野病院(大熊町)で2004年、帝王切開中に子宮に癒着した胎盤の剥離(はくり)を続けた判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(40)を無罪とした福島地裁判決について、福島地検は29日、控訴を断念する方針を明らかにした。控訴期限の9月3日を過ぎて無罪判決が確定する。

 20日の判決で鈴木信行裁判長は「胎盤剥離を中断して子宮摘出に移っていれば大量出血を回避できた」とする検察側主張を認めたが、剥離を続けた判断については「標準的な医療措置であり、直ちに剥離を中止する注意義務はなかった」と過失を否定。「検察側は主張の根拠となる臨床症例を示していない」と証拠不足も指摘し、医師法違反を含め無罪とした。

(河北新報、2008年8月29日)

****** 時事通信、2008年8月29日

産科医の無罪確定へ=帝王切開死、検察が控訴断念-「今後は慎重に捜査」・福島

 福島県立大野病院で2004年、帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が大量出血して死亡した事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた執刀医加藤克彦被告(40)を無罪とした福島地裁判決について、福島地検は29日、控訴の断念を決めた。控訴期限の9月3日が過ぎれば、無罪が確定する。

 公判では、癒着した胎盤を子宮から剥離(はくり)した際に大量出血を予見できたのかと、剥離を中止し子宮摘出に移る義務があったのかが主な争点だった。

 地裁は20日の判決で、子宮摘出に移るべきだとした検察側主張について「医学的準則だったとは認められない」とし、被告に剥離措置を中止する注意義務はなかったと認定。検察側立証は医学書の記述などにとどまり、主張を裏付ける臨床例を提示していないと指摘していた。

 同地検の村上満男次席検事は「違反者に刑罰を科す(医師の)注意義務をどうとらえるかで、裁判所は検察と異なっていた。裁判所は臨床、検察は医学書に基づいており、判決のような考え方もある」とし、控訴しても裁判所の判断を覆すことは困難とした。

加藤医師「ほっとしている」=現場復帰に改めて意欲-帝王切開死

 帝王切開死の無罪判決に対する検察側の控訴見送りについて、執刀医の加藤克彦医師(40)は29日、弁護団を通じ、「心中ほっとしています。これからも、地域医療に私なりに精いっぱい取り組んでまいります。患者さんのご冥福を祈ります」とコメントした。

 弁護団も「控訴断念が当然の結論」と強調。無罪確定で産科を中心とした医療現場全般に与えた悪影響が収束することを期待するとした。

(時事通信、2008年8月29日)

****** ANNニュース、2008年8月29日

”帝王切開死”で検察側が控訴断念 医師の無罪確定

 帝王切開手術をした女性を死亡させたとして、業務上過失致死の罪に問われた福島県の産婦人科医が無罪となった裁判で、検察側は控訴を断念しました。

 福島県立大野病院の産婦人科医だった加藤克彦医師は、帝王切開手術中に女性を死亡させたとして逮捕・起訴されましたが、今月20日に1審の福島地裁で無罪が言い渡されました。福島地検は、医師の判断が標準的な医療措置と判決で認定されたことや、1審を覆すような新たな証拠を示すのが難しいとして、控訴を断念しました。これで、加藤医師の無罪が確定することになります。

(ANNニュース、2008年8月29日)

****** TBSニュース、2008年8月29日

法相、医療事故捜査は抑制的対応を

 福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が死亡し、産婦人科の医師が業務上過失致死などの罪に問われた裁判について、検察当局の控訴断念を受け、保岡法務大臣は記者会見で、「刑事司法は医療事故について抑制的に対応すべきだ」との考えを示しました。

 保岡大臣は、大野病院の加藤克彦医師の無罪判決について福島地検が控訴を断念したことを受け、29日午後、臨時の記者会見を開き、「個別事件について所感を述べることは差し控える」とした上で、次のように述べました。

 「(医療事故については)国民を代表する方々で構成された第三者委員会が判断し、訴追については、その意見を尊重し謙抑的(抑制的)に判断する仕組みが必要と考えています」(保岡興治 法相)

 医療事故に関する調査機関設置については、厚生労働省が9月からの臨時国会への法案提出を検討しています。

 保岡大臣は、「医療の萎縮を防ぐために事故についての判断は第三者機関に委ね、刑事司法は抑制的に対応すべき」との考えを示したものです。

(TBSニュース、2008年8月29日)

****** 日テレニュース24、2008年8月30日

“医療事故”第三者機関の設立に協力~法相

 福島県立大野病院事件で、検察当局が控訴を断念したことに関連して、保岡法相は29日、医療事故の真相究明を行う第三者機関の設立に協力する意向を示した。

 出産後の妊婦の死亡をめぐり、大野病院の産婦人科医に無罪を言い渡した福島地裁判決について、検察当局は29日、控訴を断念することを明らかにした。

 これに関連して、保岡法相は記者会見し、「医療事故の責任については、医師や法律家らからなる第三者機関が判断し、刑事事件の起訴については、その判断を尊重して謙抑的に対応する仕組みが必要だ」と述べ、第三者機関の設立に法相として協力する意向を示した。

 また、「検察や警察も、第三者機関の設立に向けた今の状況を踏まえた謙抑的な対応が事実上始まると思う」と見通しを述べた。

(日テレニュース24、2008年8月30日)

****** NHKニュース、2008年8月29日

医師無罪判決 検察が控訴断念

 4年前、福島県立大野病院で行われた帝王切開手術で女性を死亡させたとして業務上過失致死などの罪に問われ、無罪判決を受けた産婦人科の医師について、検察側は「裁判所が示した判断を覆すのは難しい」として控訴をしないことを決めました。

 福島県大熊町にある福島県立大野病院の加藤克彦医師(40)は、4年前の平成16年12月に当時29歳の女性に帝王切開手術を行った際、胎盤を無理にはがし、大量出血で女性を死亡させたとして、業務上過失致死などの罪に問われていました。

 今月20日、福島地方裁判所は「医療行為について刑罰を科すのは一般的な医学基準に反した場合に限られる」という判断を示したうえで、手術について「多くの医師が用いる標準的な処置だった」として、無罪の判決を言い渡していました。

 これについて、福島地方検察庁では「起訴した当時の検察側の判断がまちがっていたとは思わない」としながらも「医療行為に刑罰を科すケースについて裁判所が示した判断を覆すのは難しい」として控訴しないことを決めました。

 これについて、死亡した女性の父親の渡辺好男さんは「判決のことは別として、医療の現場でリスクの高い患者が安心できるよう事故を起こさないための仕組み作りを急いでほしい」と話しています。

(NHKニュース、2008年8月29日)

****** 共同通信、2008年8月29日

大野病院事件、検察が控訴断念 

産科医の無罪確定へ

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が手術中に死亡した事件で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医加藤克彦医師(40)を無罪とした福島地裁判決について、福島地検は29日、控訴断念を決めた。無罪が確定する。

 医療行為をめぐって医師が逮捕、起訴され、医療界の猛反発を招いた異例の事件は1審で終結することになった。

 福島地検の村上満男次席検事は「裁判所の判断を覆すのは困難と判断した」と説明。地検は、主張の根拠となる臨床例の提示や、新たな鑑定人確保などは難しいとの結論に達したとみられる。

 公判では、子宮に癒着した胎盤をはがし続けた判断が妥当だったかどうかが最大の争点になり、20日の判決は「標準的な措置だった」と過失を否定した。

 「直ちに子宮を摘出すべきだった」とした検察側主張に対し、判決は「根拠となる臨床症例を何ら示していない」と退け、立証が不十分と指摘。死亡を警察に届けなかったとされた医師法違反罪も含めて無罪(求刑禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。

(共同通信、2008年8月29日)


大野病院事件: 検察側が控訴断念の方向で最終調整

2008年08月28日 | 大野病院事件

コメント(私見):

救急科などで瀕死の状態で病院に運ばれたようなケースでは、病院で標準的治療が実施されていれば、たとえ結果が悪くても『何か医療ミスがあった筈だ』という発想にはなかなか結びつきません。

しかし、産科の場合は、健康な状態で自分で歩いて入院してきて、突然、病院の中で瀕死の状態になりますから、たとえ病院で標準的な治療が実施されていても、結果が悪ければ『何か医療ミスがあった筈だ』という発想に結びつきやすいことは確かです。

『お産は病気ではないのでうまくいって当たり前、何かあったらすべて医療ミスに違いない!』というのが一般的な認識となっています。大野病院事件で、加藤先生には悪意や重大な過失があったとは思われなかったのに、突然、逮捕・拘留されたことに対する医療界のショックは計り知れません。多くの産婦人科医がこの事件を契機に産科の医療現場から離れました。加藤先生が1人医長であったことから、少数医師の体制で産科医療に従事することのリスクが再認識され、マンパワー不足の産科が次々に廃止されて、その結果として分娩施設が急減し、全国的な産科空白地帯の拡大にさらに拍車がかかりました。

『産科では、標準的な医療の管理下であっても、一定の頻度で母体や胎児に悪い結果が起こり得る』という事実を、立法、行政、司法、警察、マスコミ、一般の方々にもよく理解して頂くことが非常に重要だと思います。

【追記】 大野病院事件で、検察当局が控訴を断念する方向で最終調整しているとのニュースがインターネット上に掲載されましたので、以下に引用させていただき、本日のブログのタイトルも変更しました。

****** 福島民報、2008年8月29日

遺族、控訴断念に言葉少なく 大野病院事件

 福島県立大野病院(大熊町)の医療過誤事件で、産婦人科医を無罪とした福島地裁判決に対し検察当局が控訴断念の方向で検討に入ったことが分かった28日、遺族は「検察側から何も聞いていないのでコメントできない」と言葉少なだった。控訴しないことを願う医療関係者は「安心できそうな知らせ」と受け止めた。

 帝王切開手術中に亡くなった女性=当時(29)=の父渡辺好男さん(58)=楢葉町=は控訴をめぐる動きについては言及を避けながらも、「真相を究明したいという思いは変わらない」と冷静な表情で語った。

 無念の涙を流しながら無罪判決を聞いた20日、会見で「少しでも医療事故が減ってほしい」と訴えた渡辺さん。27日には舛添要一厚生労働相に中立公平な医療事故調査機関の設置を要望するなど、娘の死を無駄にしないとの思いは尽きない。

 大野病院を運営する県病院局の尾形幹男局長は「検察の方針が確定していない段階ではコメントできない」とした。

 一方、産婦人科医の本田岳安達医師会長は「控訴断念の方向と聞き、安心した」。無罪判決を受けた加藤克彦医師(40)が復職を望んでいることを踏まえ、「産科医療は難しい環境にあるが、頑張って地域を支えてほしい」と期待した。

 判決当日に福島市で開かれたシンポジウムの発起人となった野村麻実医師(国立病院機構名古屋医療センター産婦人科)は「控訴を断念するなら早く決めてもらいたい」と望み、「ご遺族と病院側がよく話し合い、解決に向かってほしい」と願った。

(福島民報、2008年8月29日)

****** 日テレニュース24、2008年8月28日

大野病院医師無罪 控訴断念で調整~検察

 福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が死亡し、手術を行った産婦人科医が業務上過失致死罪などに問われた裁判で、医師に無罪を言い渡した福島地裁の判決について、検察当局が控訴を断念する方向で最終調整を行っていることがわかった。

 大野病院の加藤克彦医師(40)は04年に当時29歳の女性の帝王切開手術を行った際、癒着した胎盤を無理にはがし、大量出血で死亡させたとして業務上過失致死などの罪に問われた。一審の福島地裁は20日、「加藤医師が胎盤をはがすことをやめなかった措置は、臨床現場で一般的に行われていて、注意義務に違反したとは言えない」として無罪を言い渡した。

 この判決を受け、検察当局は控訴するかどうか検討してきたが、判決を覆すような臨床例を新たに示すことが困難なことなどから、控訴を断念する方向で最終調整を行っているものとみられる。

 この裁判は、医師の医療行為について刑事責任を問うことの是非が注目されていたが、医師の無罪が確定する見通しとなった。

(日テレニュース24、2008年8月28日)

****** 共同通信、2008年8月28日

検察、控訴断念の方向 

大野病院事件の産科医無罪

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が手術中に死亡した事件で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医加藤克彦(かとう・かつひこ)医師(40)を無罪とした福島地裁判決に対し、検察当局が控訴を断念する方向で検討に入ったことが28日、分かった。

 同事件は通常の医療行為で医師が逮捕、起訴されたことに医療界が反発、全国的な産科医不足に拍車を掛けたとされ、検察の対応が注目されている。

 20日の福島地裁判決で鈴木信行(すずき・のぶゆき)裁判長は、子宮に癒着した胎盤をはがす「はく離」を加藤医師が続けた判断の是非について「標準的な措置だった」と過失を否定した。

 検察側は公判で「直ちに子宮を摘出すべきだった」と主張したが、判決は「根拠となる臨床症例を何ら示していない」と立証不備を指摘。大量出血の予見可能性など検察側の構図を一部は認定したものの、禁固1年、罰金10万円の求刑に対し無罪を言い渡した。

 検察当局は、主張の前提となる臨床例の提示や、新たな鑑定人確保が困難な事情などを慎重に検討しているとみられる。

▽大野病院事件

 大野病院事件 福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開で出産した女性が死亡。子どもは助かった。県の調査委員会が医療過誤を認める報告書を公表、これが捜査の端緒となり、県警は06年、子宮に癒着した胎盤をはがす「はく離」を無理に継続し大量出血で死亡させたとして、業務上過失致死などの疑いで執刀した産婦人科医加藤克彦(かとう・かつひこ)医師を逮捕した。「医療が萎縮(いしゅく)する」と医療界は猛反発、関連学会の抗議声明も相次いだ。第三者の立場で医療死亡事故を究明する国の新組織が検討されるきっかけにもなった。

(共同通信、2008年8月28日)

**** NHKニュース、2008年8月28日

医師無罪判決 控訴断念へ協議

 4年前、福島県立大野病院で行われた帝王切開手術で、無理な処置で女性を死亡させたとして業務上過失致死などの罪に問われ、無罪判決を受けた産婦人科の医師について、検察側は「判決を覆すのは難しい」として、控訴しない方向で最終的な協議を進めています。

 福島県大熊町にある県立大野病院の産婦人科の加藤克彦医師(40)は、4年前、当時29歳の女性に帝王切開手術を行った際、胎盤を無理にはがし、大量出血で女性を死亡させたとして業務上過失致死などの罪に問われました。今月20日、福島地方裁判所は「多くの医師が用いる標準的な処置で、刑事責任は問えない」として、加藤医師に無罪を言い渡しました。判決の中で、裁判所は、胎盤をはがすのを中止する義務があったとする検察側の主張について「根拠となる過去の症例が示されていない」などと証拠の不足も指摘しました。これについて、検察側は控訴できるかどうか検討してきましたが、「判決を覆す新たな証拠を見つけるのは難しい」として、控訴しない方向で最終的な協議を進めています。

(NHKニュース、2008年8月28日)

****** 読売新聞、2008年8月28日

帝王切開死の医師無罪判決、検察側が控訴断念へ

 福島県立大野病院で2004年、帝王切開手術を受けた女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死罪などに問われた加藤克彦医師(40)に無罪を言い渡した福島地裁判決について、検察当局が控訴を断念する方向で最終調整していることがわかった。

 加藤医師は、帝王切開手術のミスによる大量出血で女性を死亡させたうえ、死亡を警察に届けなかったとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われ、裁判では、子宮に癒着した胎盤をはがし続けた処置が医学的に妥当かが争点になった。

 今月20日の判決は、「子宮摘出手術に移るべきだった」とする検察側の主張について、「根拠付ける臨床例を何ら示していない」と、医師法違反も含めて無罪とした。

 福島地検が上級庁と協議しているが、「標準的な医療措置」と認定した判決を覆すような臨床例を示すのは困難と判断しているとみられる。

 判決を巡っては、日本産科婦人科学会などが控訴断念を求める声明を出したほか、27日には超党派の「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」のメンバーらが保岡法相に控訴を断念するよう要請した。

(読売新聞、2008年8月28日)

****** 毎日新聞、2008年8月28日

福島・大野病院医療事故:検察、控訴断念へ--最終調整

 福島県大熊町の県立大野病院で04年、帝王切開手術中に患者の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、福島地裁(鈴木信行裁判長)が業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医、加藤克彦医師(40)に無罪判決(求刑・禁固1年、罰金10万円)を出したことについて、検察当局が控訴を断念する方向で最終調整に入ったことが27日分かった。

 今月20日の福島地裁の判決は、大量出血の予見可能性など検察側主張を一部認めたものの、最大の争点だった「胎盤剥離(はくり)を途中で中止すべきだったか」については「中止して子宮摘出手術などに移行することが当時の標準的な医療水準と認められず、剥離の継続が注意義務に反することにはならない」と加藤医師の過失を否定した。さらに、「剥離を中止しない場合の危険性を具体的に明らかにしなければならないが、検察官は臨床症例を提示していない」と検察側の立証の不備も指摘した。

 福島地検が上級庁と協議を進めているが、女性の症状の「癒着胎盤」は症例が極めて少なく、剥離を中断した臨床例の提示も困難なことなどから、慎重に検討しているとみられる。今回の事件を巡っては、全国の医療関係者が「医師の裁量に捜査機関が介入している」と反発していた。

(毎日新聞、2008年8月28日)

****** 毎日新聞、2008年8月28日

医療事故:防止へ第三者機関設置を 厚労相に遺族ら要望

 医療事故の被害者遺族らでつくる「医療過誤原告の会」など6団体は27日、事故原因究明のための中立な第三者機関「医療安全調査委員会」の設置法案を、来月開会する臨時国会で成立させるよう舛添要一厚生労働相に要望した。要望に先立っての会見では、20日に医師に無罪判決が出た「大野病院事件」で死亡した女性(当時29歳)の父親の渡辺好男さん(58)も同席。「娘が死んだ真相を知るには裁判しかなかった。第三者機関があれば状況は変わっていたと思う」と調査委の早期実現を求めた。【夫彰子】

(毎日新聞、2008年8月28日)

****** 福島放送、2008年8月28日

遺族が厚労相に要望/大野病院事件

 大野病院事件で娘を亡くした楢葉町の渡辺好男さんは27日、舛添要一厚生労働相に中立公平な医療事故調査機関の設置を要望した。全国組織「患者の視点から医療安全を考える連絡協議会準備会」の要望活動に参加した。渡辺さんは判決後に県病院局に提出した「医療事故再発防止のための要望書」を舛添厚労相に手渡し、「(医療)現場の声を何でも聞くことのできる体制をつくってほしい」と述べた。

 これに対し舛添厚労相は9月12日召集予定の臨時国会に、医療安全調査委員会(医療事故調)設置に向けた関連法案を提出する考えを示し、「医療側、患者側双方の意向を聞き、党派を超えて早く制度をつくり動かしたい。全力を挙げて取り組む」と約束した。

 舛添厚労相との面会に先立ち渡辺さんは、厚生労働記者会で会見に臨み、「第三者機関があれば少しでも真実をつかめただろう。医療側が痛みを出せるような制度をつくってほしい」と訴えた。

(福島放送、2008年8月28日)

****** TBSニュース、2008年8月27日

帝王切開事故、無罪判決受け申し入れ

 先週、無罪判決が出た福島県立大野病院事件の裁判を受けて、超党派の議員連盟が法務大臣らに控訴を断念するよう申し入れました。

 申し入れを行ったのは、尾辻秀久会長ら超党派で作る「医療現場の危機打開と再建を目指す国会議員連盟」の議員たちです。

 尾辻会長らは、出産の際の医療行為をめぐり、業務上過失致死などの罪に問われた医師が、先週、無罪判決を受けた事に対して、控訴しないよう保岡興治法務大臣に申し入れました。また、厚生労働省にも、同様の要望書を提出しました。

 これに対し、舛添要一厚生労働大臣は、「法務大臣ともよく相談し、今後どういう対応を取るか決めたい」とした上で、医療事故の原因究明を専門家が行う「医療版の事故調査委員会」の設置を急ぎたいとの考えを改めて示しました。(27日14:34)

(TBSニュース、2008年8月27日)

****** 日テレニュース24、2008年8月27日

大野病院事件で控訴断念を要望~超党派議連

 出産後の妊婦の死亡をめぐり、福島県立大野病院の医師に無罪を言い渡した福島地裁判決について、超党派の議員連盟の代表が27日、法務省を訪れ、保岡法相に控訴しないよう求める要望書を手渡した。

 要望書を手渡したのは、「医療現場の危機打開と再建を目指す国会議員連盟」の尾辻秀久会長ら。要望書では、大野病院事件で医師に無罪を言い渡した20日の福島地裁判決について、医療現場の不安と混乱を放置しないために、控訴しないよう求めている。

 尾辻会長によると、保岡法相は「控訴の判断は検察に任せている」とした上で、医療事故について第三者の調査機関を設置する必要があるとする議連側の意見に「ほとんど同じ考えだ」と述べたという。

(日テレニュース24、2008年8月27日)

****** 毎日新聞、2008年8月27日

大野病院医療事故:医師無罪に超党派議連「控訴断念を」

 福島県立大野病院の医療事故で、産婦人科医を無罪とした福島地裁判決(20日)について、超党派の国会議員150人でつくる「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」(会長・尾辻秀久元厚生労働相)は27日、保岡興治法相と舛添要一厚生労働相に控訴断念を求める要望書を提出した。

 要望書は「(事故が刑事事件になったため)ハイリスクな医療では、通常の医療行為でも刑事訴追される不安がまん延し、医療崩壊に拍車をかけた」と指摘。控訴断念を求める理由を「医療現場を不安と混乱のまま放置しないため」としている。

(毎日新聞、2008年8月27日)

****** 読売新聞、2008年8月27日

超党派議連、法相に大野病院事件の控訴断念を要請

 超党派の「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」の尾辻秀久会長(元厚労相)らが27日午前、保岡法相と法務省で会い、福島県立大野病院で起きた医療事故で業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医に無罪判決が出た裁判での控訴を、断念するよう要請した。

 議連は「事件後、ハイリスクな医療では刑事訴追される不安がまんえんし、産科空白地帯が急速に拡大した。控訴がなされないようお願い申し上げる」とする要望書を法相に手渡した。保岡法相は「(控訴については)現場の判断に任せる」と述べた。

(読売新聞、2008年8月27日)

****** 共同通信、2008年8月27日

法相に控訴断念を申し入れ 「医師に不安」と議員連盟

 福島県立大野病院事件をめぐり、超党派でつくる「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」会長の尾辻秀久氏ら5議員が27日、保岡興治法相に面会し、業務上過失致死などの罪に問われた医師を無罪とした20日の福島地裁判決に対して控訴しないよう申し入れた。

 議員連盟は「医師の逮捕後、通常の医療行為を行っても刑事訴追されるという不安がまん延し、医療崩壊に拍車を掛けた」と訴えた。面会後、尾辻氏は「法相は捜査にとやかく言える立場ではないが、医療事故に対する基本的な考え方では一致した」と語った。

(共同通信、2008年8月27日)

****** CBニュース、2008年8月27日

大野事件「控訴しないで」―超党派議連

 超党派の「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」の尾辻秀久会長ら5人が8月27日午前、法務省を訪れ、保岡興治法務相に「福島県立大野病院事件」について、「控訴することのないようお願いします」と要望書を手渡した。

 要望書は、事件が地域の産科医療に重大な影響を与え、刑事訴追への不安がまん延して医療崩壊に拍車を掛け、近隣で産科医療が受けられない「産科空白地帯」が急速に拡大したと指摘。医療現場を不安と混乱のまま放置しないためにも、控訴をしないよう求めている。

 法相との話し合いを終えた尾辻会長は、「保岡法相は、基本的にはわれわれと考えは同じだが、意見を言う立場になく、現場の判断になるとおっしゃった。医療事故原因の特定は、司法では分かりにくいため、専門家による第三者機関の設置は有効な手段であることも話し合った」と報告した。

 同議連は午後、舛添要一厚生労働相にも同様の要望書を提出。要望を受けた舛添厚労相は「法相とも相談しながら、政府としてどう対応するか議論していきたい。医療を提供する側と受ける側の相互信頼を再構築するために努力する」と述べた。

(CBニュース2008年8月27日)

****** m3.com医療維新、2008年8月26日

福島県立大野病院事件◆Vol.23

「検察は控訴すべきではない」と国会議員が発言

シンポジウム『福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える』vol.3

村山みのり(m3.com編集部)

 シンポジウム『福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える』第2部のフリーディスカッションでは、シンポジストの他に、全国から集まった医師、国会議員、地元の市会議員、高校教諭など、様々な立場の参加者からの発言があった。主なものを紹介する。

【国会議員コメント(発言順)】

◆民主党参議院議員・仙石由人氏
 「医療」という行為が刑法上どのような評価を受けているのか、受けなければならないかが問われる。刑法35条では「正当行為」として「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と定めている。医療行為はナマの事実としては傷害行為であるが、そもそも人間にとって必要であるので正当行為に当たり、犯罪に問われる筋合いのものではない。それを刑事事件として捜査するなど大問題である。われわれはこのようなことを許してはならない。
 抽象的概念としての法律において、「ここから先は良い、悪い」というのは、誰が判断するかによっても違ってくる。法務省・検察庁には、今回の事件を教訓にして、起こすべからざることの事例を積み上げ、専門的観点からの深い洞察がなければやってはならないということを十分に認識するよう、申し出ていきたい。

 ◆自由民主党参議院議員・世耕弘成氏
 今日の判決は高く評価する。判決が出るまでは、司法への介入になってはいけないので発言を控えていたが、判決は出た以上は、検察は控訴すべきではないということを、与党の政治家として申し上げたい。
 事件がここまで複雑になった背景には、福島県が行った調査委員会が、患者と示談をするために、あたかも加藤医師の過失を認めた調査報告を作ってしまったことが原点として存在する。これを防ぐために、一日も早く、無過失保障制度を立ち上げなければならない。過失を認めた報告がなければ患者が納得できるような示談・保障に応じられないという現状は、早急に改めなければならない。この制度は、(産科医療については)来年1月には立ち上げることになっている。これを確実に運営していくことが非常に重要である。
 また、遺族の方々にご納得いただき、一方、現場で働く医師が萎縮するようなことがないよう、これらを両立させるため、医療安全調査委員会を早急に立ち上げることが必要である。この中で免責の話も出ている。刑法、医師法21条としっかり向き合い、特例を明記した法律を作ることが求められる。
 今回の問題には、現場の臨床の医師だけが関心を持っていた訳ではない。昨日、中学時代からの 友人である、IPS細胞の研究者・山中伸弥教授(京都大学)と話したが、判決に大変注目していた。研究が臨床段階に入り、何かが起こった際に、最終的に研究者まで責任が追求されることがあったら、日本の医学研究そのものが止まる、また、そのようなものを現場の先生も使わなくなってしまう、と心配していた。
 先般、道路特定財源を一般財源化した。福田内閣が安心・安全を重視した政権であることを国民に理解してもらうため、ぜひこの財源の多くの部分を医療の建て直しに使ってほしい。これを首相にも提言していきたい。

 ◆民主党参議院議員・鈴木寛氏
 日本の医療崩壊は二つのことが悪循環になっている。一つは医師不足、またその結果による過剰な勤務状況。もう一つは現場の医師が、刑事訴追、訴訟のリスクに日々さらされていること、それによる萎縮医療。これらがどんどん悪循環を起こし、泥沼のような2年半だった。しかし、今日はその一つの軸に歯止めが加えられた、日本の医療を立て直すための記念すべき日。
 2年半前、医療の危機的状況について、国会議員はほとんど認識しておらず、むしろ医療費削減が国会の主力議論だった。しかし、今年2月に立ち上げた「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」には、現段階で、国会議員720人中150人が参加している。これが360人を超えた瞬間にこの国の医療は復活することを、心にとどめていただきたい。
 現場の医師があまりにも多忙であるために、その実態すら国会や各省庁、メディアに伝わってこなかったという不幸が、日本の医療をここまで深刻にしてきた。しかし今や、医療現場が大変だということは、全国民的に共有できている。では、第二のステップ、何をどうしたら良いのかの具体論について、より精緻で真摯で真剣な議論を積み重ねていくことが重要。それぞれの人が、医師も含め、最終的には自分は患者、患者の家族なのだという原点に立って、個々の人間としてつながり合い、そのネットワークを通じて色々なことを話し合うことにより、相互間の情報の非対称性が埋まり、リテラシーが深まり、その結果おぼろげに色々な解が見つかっていく。
 様々な立場を超えて日本の医療の在り方を模索し続ければ、必ず光明は見出せる。そのことを大野病院の事件を通して感じさせていただいた。今日集まっている人が、それぞれの現場に帰ってこれを深めてほしい。

 ◆民主党参議院議員・足立信也氏
 厚生労働省の第三試案と民主党案を比較したインターネット上の1万人アンケートで、民主党案は3倍の支持を得た。良質な医療とは、医療を提供する側も受ける側も納得することだと思う。その納得をするためのシステムを作りたい。今回の事件の大きな要因はコミュニケーション不足、情報の行き違い。そこを埋めることが最も大事であり、そのギャップを埋める人が絶対に必要。
 刑法211条の「業務上過失致死傷」については正面から議論すべき。われわれ医療者が自律的に処罰する仕組み、それ以前に原因究明をしっかりする仕組みを作らなければ、これを外すことはできない。
 また、医師法19条に「求めがあった場合に診断書、検案書、出生証明書または死産証書を出さなければならな」とある。さらに、20条には「自ら診察しないでこれらを交付してはならない」とある。では、どういう場合に診断書を書き、どういう場合に検案書を書くのか、これはどこにも書いていない。21条には、それを明記すべき。診断書、検案書を書ける場合は、適切な検査に基づいてこれを書く、それが書けない場合は捜査で死因を究明する必要がある--そういう構成にすべきだ、というのがわれわれの案だ。これにより、今まで曖昧であった「異状」という概念がきちんと明文化された形として現れると考えている。
 医療はする側と受ける側の共同作業であることは間違いない。それを支えるための法整備をしっかり行っていきたい。

【医師コメント(発言順)】

◆福島県立医大産婦人科教授・佐藤章氏
 無罪判決が出てほっとしている。医学的にどうか、という点で、裁判官も一生懸命勉強していただいたようだ。外科系の先生方からもかなりのプレッシャーを受け、「負けたらお前責任をどう取るんだ」と言われていた。控訴期間があり、まだ最終的な結論は出ていないが、今のところほっとしたというのが正直なところ。
 今後、このようなことが起こらないようにすることが極めて重要。現在はこの判例により、検察側はかなり医療分野に対して躊躇している。しかし、忘れてはならないのは、法律が変わらない限り、同様のことはすぐ起こるということ。われわれは、医療事故でこのように逮捕されるような法律を、刑事訴追の起きないような、医療行為が業務上過失致死に当てはまらないというくらいのものに変えていかなければ、この問題は解決しない。一生懸命取り組んでいくので、ご支援のほどよろしくお願いしたい。

 ◆北里大学医学部産婦人科教授・海野信也氏
 医療の不確実性や医療者・患者間の情報の非対称性は、どうしても存在せざるを得ないことを前提としつつ、緩和の努力をしていかなければならない。しかし、今の医療現場は、その余裕を全く与えられていない。もちろん現場の努力は重要だが、それと共に、全体のシステムとして、もう少し余裕のある状況、人間らしい環境で仕事をし、治療し、また治療を受ける、という環境に、日本の医療を変えていくことが必要である。
 産婦人科医不足は、大野病院事件以前から、既に危機的状況だった。その中でこの事件が起き、実際にはそれがきっかけとなって産婦人科医不足の問題が広く理解される経過となった。加藤先生がもし有罪になったら、われわれはただ加藤先生を犠牲にしただけなのではないか、と、今日も本当に心配していた。
 大野病院事件を経験して感じたのは、分かってくださる方々はたくさんおられるということ。「周産期医療の崩壊を食い止める会」、日本産婦人科学会、産婦人科医会、日本医師会、その他多くの臨床学会、医療関連団体、皆同じ気持ちで進んできて、今日の無罪判決を迎えられた。医療界以外からも、多くの方々に我々の現状を分かっていただくことができた。分かっていただくことができるのだ、ということを信じることができた経験でもあった。これを糧に、今の崩壊している医療現場再建のため、皆で理解し合いながら進んでいきたい。

 ◆国立病院機構名古屋医療センター産婦人科・野村麻実氏(発起人:閉会のコメント)
 準備段階において、判決の出る日にこの企画を開催することは、加藤医師に迷惑がかかるのではないか、裁判官への心証を害するのではないか、との懸案もあった。しかし、一方で、地元の妊婦さんから、「福島はやっぱり困ってるんです」という声もあった。そこで、判決結果はどうであれ、大野病院事件が萎縮医療を招いたことは間違いない、地元の妊婦さんは困っているに違いない、との思いから、このシンポジウムを実施した。
 現在、大都市である名古屋ですら産婦人科医の人数は足りず、以前は2次病院で行っていたことも3次病院へ回ってくるようになっている。逮捕そのものが皆の首を絞めた。これは、われわれ皆が不勉強であったことが原因ではないか。司法や報道の問題、また産婦人科医自身もリスクについてきちんと触れて説明してこなかった。それぞれに、色々と反省すべき点がある。
 「産科崩壊」---言うのは簡単な言葉である。しかし、産婦人科医たちは、皆ずっと好きで産婦人科をやってきた。今福島でがんばっている先生方も同じ思いだと思う。辞めていった先生方も、皆つらかったことと思う。
 忙し過ぎて、疲れ果てて、患者さんのお話も十分に聞けないという状況、36時間労働を当たり前に3日に1回やるような状況を続けてきた。深夜の帝王切開には2人の産婦人科医が必要。もちろん小児科医、麻酔科医もいることが望ましいが、翌日のことを考えると2人だけで対応せざるを得ないこともある。なるべくなら医療レベルは落としたくないが、切羽詰った状況まできている。皆さまにご理解とご協力をお願いしたい。
 どうか産科医療を温かい目で見守ってほしい。

(m3.com医療維新、2008年8月26日)

****** 相馬市長エッセー、2008年8月22日

http://www.city.soma.fukushima.jp/mayor/essay/essay.asp?id=157

「大野病院事件」

立谷秀清市長

 8月20日、大野病院事件に無罪の判決が出た。全国の医師や福島県の医療関係者が、固唾を呑んで見守る中での明快な判決内容だったことに安堵している。もちろん亡くなられた方には本当にお気の毒だし、ご冥福を祈るしかないのだが、この事件の社会に及ぼした影響は余りにも大きかった。
 「医療現場からの医師の立ち去り」という社会現象の象徴的な原因を作ってしまったからである。その影響は単に産婦人科医師の萎縮診療や、なり手不足に止まらなかった。医療現場の緊急事態で、生命の危機と戦う医師たちを震撼させたのである。

 通常、医師たちは状況に応じて最善の努力をする。自分の判断に患者の生命がかかっているとしたら尚のこと、あらゆることを忘れて没頭するものだ。その極みが手術室である。私は外科医ではないので、メスの先端に全神経を込めた経験は無いのだが、内科医として、外科的処置を必要と診断した患者の手術には何度も立ち会ってきた。その度ごとに見てきた彼らの鬼神のような表情には、人の命に対する畏敬の気持ちと、ベストを尽くそうとする強い意志がみなぎっていた。
 しかし手術台の上の患者が、教科書どおりの病態を示す例はほとんど無いという。人間の体で解剖の教科書のように臓器が整然と並んでいることなどあるはずもないし、まして患っている臓器が病理学の図譜のとおりに見えることも無い。それでも治療効果(つまりは救命)を信じて困難に立ち向かう医療行為は、結果が保証されない「挑戦」なのだ。

 いま現場の医師たちの間で、この厳しい日々の挑戦に危機感を抱く傾向が出てきている。
ひと昔前は、家族と医師が手を取り合って手術の成功を喜んだものだが、今は違う。上手くいって当たり前、結果が悪ければ訴えられるのだから、放って置けば死ぬと分かっている患者に一縷の望みをかけて手術をしようなどというお人よしはもういない。出来るだけ事前のリスクを取り去っていても、手術を受ける病気の体に何時不測の事態が起こるとも限らないから、続けていれば何時かはババを引くことになるだろう。運の悪いことにならないうちに安全地帯に非難しておいたほうが無難だとして、立ち去った医師は、産婦人科、外科、小児科に多い。もちろん医学生たちも先輩医師たちの不幸な現実を教訓とするようになる。5年前から始まった臨床研修制度は、医学生たちに、鬼神になろうとする先輩医師たちの危険な人生を、自分たちは回避しようと考えさせるのに充分な時間を与えてしまった。比較的トラブルや訴訟の少ない皮膚科や、眼科の希望者が増えたのは、増え続けた訴訟と、進路決定までの教育期間を2年延ばした影響である。医師不足とは、医師の絶対数の減少をさすのではなく、救急医療や外科系医師などの命と直接向き合う医師の枯渇状態を言うのだ。
 もうひとつ深刻な状況が国民医療を覆っている。近い将来、外科医が大量に不足することが予想されるのだ。比較的外科医のなり手の多かった団塊の世代が退職を迎えると絶対的に不足する。特にこの10年間は、新たな外科医のなり手が少ないのだ。緊急手術が出来ない社会の不安は産婦人科の比ではない。

 訴訟社会の不安に対しては、国家の経費負担による保険や弁護士のサポートといった、産婦人科を含めた外科系医師への護送船団を作る必要がある。報酬が見直されるべきも当然である。
 しかし。今回の大野病院事件のような、結果が悪かったから刑事罰で逮捕というのは、マスコミの過大報道や、医師教育制度の変更による国民医療の環境悪化とは根本的に別問題だった。このまま手術室にいたら、いつの日かは逮捕されかねないという恐怖感を医師たちに与えたのだから。
 判決理由にある「また、医療行為が患者の生命や身体に対する危険性があることは自明だし、そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難だ」この当たり前の理屈を証明するために費やした2年6ヶ月の加藤医師の苦労に思いを馳せると胸が熱くなる。この事件を民事とせずに刑事事件として逮捕拘留した段階で、全国の医師たちから抗議の声明がいっせいに挙がったが、医療の現場で働く立場としては当然だった。不可抗力による不幸な結果をいちいち犯罪にされたら医療は成り立たない。
 厳しい状況のなかで加藤医師は能く信念を貫いたと思う。もしも彼の精神力が途中で途切れたりしていたらと思うと背筋が寒くなる。おそらく日本の医療は挽回不可能な打撃を受けたに違いない。
 重ねて言うが亡くなられた方には本当にお気の毒だった。加藤医師本人の忸怩たる思いも相当なものだったことは会見でうかがい知れた。しかし、そのうしろ向きな気持ちと戦いつつも筋を通した彼の人格を、私は評価したいと思う。

(相馬市長エッセー、2008年8月22日)

****** m3.com医療維新、2008年8月26日

福島県立大野病院事件◆Vol.24

ご遺族の視点からの大野事件をとらえ直す

刑事訴追は必要だったのか、ご遺族が求めていたものとは…

野村麻実(国立病院機構名古屋医療センター産婦人科

 8月20日、大野事件における第一審の判決が出た。この判決は癒着胎盤を経験したことのある、すべての産婦人科医師にとって「術中死ではあっても病死」と受け取れる、正しいとしか言いようのない判決ではあったが、同日行われたご遺族の記者会見では 「一生、機会があれば真実を追究していきたい」との発言もあったという。「再発防止」「いまだに(真実究明は)不十分」との言葉の裏には、隠された医療過誤があったはずとの強い気持ちを感じざるを得ない。

 15回に及ぶ裁判の中で審議は尽くされ、少なくとも加藤医師の医療行為については、これ以上の新事実は見いだせないのではないだろうか。癒着胎盤は、大学病院で十分な輸血を用意し、最初から胎盤を剥離せずに子宮摘出を行っても亡くなる可能性のある病気である。

 ご遺族がここまで思いつめるに至り、裁判にご遺族を巻き込んでいった部外者の手による「刑事訴追」が、どのようであったのか。私見ながら考察してみたい。

  ■捜査の開始

 患者さんが亡くなったのは2004年の12月、2005年1月に福島県は事故調査委員会が設立され、県は否定しているものの、補償金を払う目的で加藤医師のミスを認めた報告書が3月に出された。恐らくそれで穏便に済ますのが、県や病院長の意向であったのだろうと思う。というのは、第12回の公判で実父が「事故後の12月26日に加藤医師から聞いた話と、法廷での説明がなぜ違うのか、不思議な気持ちでいっぱいです」と証言し、またその際、病院側から示談の話が持ち上がっていたことも示され、加藤医師も減俸処分に粛々と従っている。自身に問題がなかった、精一杯やったと思ってはいても、それが加藤医師の誠意だったのだろう。

 しかし、県側の意思とは裏腹に、この報告書を受けて警察は業務上過失致死の嫌疑で捜査を開始した。

 ■警察・検察には何が必要だったのか

 友人のある大学の医師が、大野病院の癒着胎盤術中死について、福島県警より意見を求められている。加藤医師の逮捕・起訴前の話である。「癒着胎盤で亡くなるのは、当然でしょうね。救命できるときもありますが」と返答したところ、食下がりもせずに、「そうですか」とあっさり去っていったという。警察には同業者によるかばい合いと映ったのかもしれない。しかし、幾つもの施設で同じような見解を言われている可能性が高い。

 第6回の公判で検察側証人となった大学教授は、「検察側の鑑定を書いてくれる医師がいなくて困っているから」と頼まれたと証言している。正しくは「検察側の鑑定を書いてくれる医師」ではなく「検察側の立てた仮説上、有利な鑑定を書いてくれる医師」がいなかったこと、検察はかなりの大学に足を運んでいた可能性、つまりコンタクトをとったほとんどの産婦人科医師から刑事訴追に値しない病名であったことを聞いていたことが考えられる。いわゆる「無理スジ」の事件であった可能性の自覚だ。

 そんな中、警察が現役医師を逮捕するためには強力に必要なものがあった。遺族の恨み、怒りといった負の感情である。強ければ強いほど裁判ではアピール力を持つ。しかも遺族は警察に相談してはいない。ここをどう裁判に持ち込むか。腕の見せどころである。

 ■ご遺族の気持ち―すり込まれた「医療ミス」

 死は誰しも簡単に受け入れられるものではない。突然の出来事ならなおさらだ。日々診療の中で、治療の甲斐なく亡くなっていく患者さんのご遺族と接する医師にとって、何を見ても涙があふれ、「ああすればよかった」「こうすればよかった」とただ呆然と虚脱されているご家族の姿は心からこたえる。そして申し訳なく思う。かける言葉も見つからず、どこまで立ち入っていいかも分からず、なるべく淡々とそっと立ち去るように、本当はもっと何か言った方がいいのだろうか、声をかけた方がいいのだろうか、それとも空気のようでいた方がいいのか。悩みが尽きることは、恐らく一生ないだろう。

 この事件で、いつ警察がご遺族に接触したかは分からない。ただ時期的には、あやすと笑うようになった赤ちゃんの成長を喜びつつも、見ればはらはら涙があふれる頃だっただろうということは想像が付く。なぜだろう、なぜこの子の母は死んだのだろうと日々悲嘆にくれ、何も目に入らず、何を食べても砂をかむ感覚で過ごしているところへ、親切を装いながら警察は遺族に近づいたのではないだろうか。

 あくまで想像の域を出ないが、「医療ミスがあったのです」「これは殺人です」くらいのことは言ったかもしれない。というのは、捜査段階で警察は(任意でも)平気で嘘を付くことを私は知っている。最近、名古屋市立大学での学位をめぐる贈収賄事件で、かつて大学院生であった人々が任意聴取を受けた。「AとBは君が渡したと言っている、認めるなら無罪放免するが、認めないなら君も贈収賄有罪の仲間入りだな」などと言われ長時間拘束された。あとで突き合わせてみたら、みんなそれぞれ言ってもいないことを勝手に証言したことにされていた、という話もある。

 少なくとも遺族に「ミス」を心から信じさせ、医師を憎ませないことには話が始まらない。証言の際にも重要になってくる。そう思わせるように誘導したのだろう。そして警察の都合のいいことに、警察が動き出したことによって示談に関する話がストップし、遺族が県に提出した質問状(第12回証言)の回答は永遠に返ってこないこととなった。遺族の不信感がますますつのり、警察のささやきに傾いていったことは想像に難くない。

 ■「警察・検察には感謝している」

 逮捕・起訴から判決までは2年半の歳月をかけてゆっくりと進み、ご遺族の知りたいこととは裏腹に、裁判所内では癒着胎盤についての基礎知識などを争点とした医師の裁量権についての論証が重ねられていった。ご遺族が分かってうれしかったことの中に「胎盤の表面の血管がぼこぼこしていた」という助産師の証言が上げられていたが、前置胎盤を数多く見たことのある医療関係者には当たり前のことであり、わざわざ語るに及ばない。しかし、ご遺族は帝王切開手術はどのように進んだのか、自らは目にしていないその様子を素朴に知りたかったのではないかと思う。

 警察・検察の関与は本当に必要だったのだろうか。

 ご遺族にとって大事だったのは警察が介入することで踏み潰してしまったもの、つまり県からの「示談」に対し、事の経緯を知りたいと考えて「質問状」を送ったことから始まるはずだった病院と医師と、その場に居合わせた人々との話し合いだったのではないか。カウンセリングと死の受容、納得、そういったものではなかったのか。ご遺族から申告されていない刑事訴追は、必要だったのだろうか。

 刑事事件では、当然ながら遺族に控訴権はない。その中で控訴されるのか否か、現在もじりじりと時を過ごしているに違いないご家族の気持ちを思うとやりきれない。そして「警察・検察には感謝している」という言葉も、痛々しく身を切られるようにつらいもののように感じてしまう。

(m3.com医療維新、2008年8月26日)


臨床研修制度の見直し

2008年08月27日 | 医療全般

臨床研修制度が見直されているようです。

まず、現在2年間の初期研修期間を1年間に短縮する案があるようです。初期研修期間を終了してから専門医研修を開始するわけですから、制度切り替えの年には同時に2学年分の医師(16000人!)が専門医研修を開始することになります。従って計算上は、現場の実働医師が確実に8000人増員される!ことになります。是非とも早急に実施していただきたいと思います。

ただし、この実働医師の増員効果は制度切り替え時の1回限りの効果です。従って、長期的には、やはり医学部の定員を増やすなどの対策も必須と思われます。

専門医研修(後期研修)は未だ制度化されてませんが、今後、初期研修と同様に専門医研修を制度化すると同時に、学会ごとに基準が異なる、認定医、専門医、指導医などのあり方をある程度統一し、完全に自由に医師が診療科を選択できるようにするのではなく、(諸外国と同様に)各診療科の必要数を踏まえて専門医の数を限定して養成し、専門医を取得した人にはインセンティブを付けることなども検討されているようです。

また、大学病院に限定されますが、来年度から2年間の初期研修期間のうち最長で1年半まで特定の診療科(内科、外科、小児科、産婦人科、救急)だけを集中的に研修できる『特定診療科集中研修プログラム』も認められました。将来の志望診療科がはっきりと決まっている学生にとってはこのプログラムは魅力的かもしれません。指導する側でも、このプログラムを選択した研修医は将来その科の専門医を目指してくれる可能性が非常に高いので、他の研修医と比較して指導にも一層熱が入ることは間違いありません。現行制度だと、初期研修開始時に産婦人科志望だった者が、2年目に産婦人科研修に回って来た時点で、いつのまにか他の診療科志望に変わってしまっているケースが非常に多いです。他の診療科の先生方も必死で勧誘しているので、お互い様なんですが、毎年、『せっかくの産婦人科志望の貴重な研修医を、どうして勧誘したんだ?』と他の診療科の先生方を逆恨みしてます。産婦人科を志望する学生達には、是非この『産婦人科重点研修プログラム』を前向きに検討して欲しいと思います。

今後、制度がどのように変わっていくのか全くわかりませんが、常に最新の情報を収集し、時代の流れに乗り遅れないよう、柔軟に対応していくしかありません。


癒着胎盤をどう処置すべきだったか?(朝日新聞・時時刻刻)

2008年08月22日 | 大野病院事件

コメント(私見):

8月21日付けの朝日新聞・時時刻刻の記事の引用:

東京都内の大学病院で06年11月、癒着胎盤と診断された20歳代の女性が帝王切開で出産後に死亡するという大野病院事件と類似の事故が起きた。病院は胎盤をはがすことによる大量出血を避けるため、帝王切開後ただちに子宮摘出手術に移った。しかし、大量出血が起こり、母親を救命できなかった。病院はリスクの高い出産を扱う総合周産期母子医療センターだった。厚労省の補助金で日本内科学会が中心に運営する「医療関連死調査分析モデル事業」で解剖と臨床評価が行われ、評価調査報告書の最後に「処置しがたい症例が現実にあることを、一般の方々にも理解してほしい」と記されている。

(引用終わり)

この事例では、大野病院事件の裁判で検察側が主張した通りに、癒着胎盤の剥離を試みないで直ちに子宮摘出手術を実施しました。しかも、人員も設備も完備した都内の某総合周産期母子医療センターで、この手術は実施されました。それでも、結局は母体を救命することができませんでした。

加藤先生が逮捕されたのは2006年2月18日ですから、2006年11月に実施されたこの手術でこのような方法が選択されたのは、もしかしたら、大野病院事件の検察側の主張の影響を少なからず受けたのかもしれません。『帝王切開に引き続いて実施される子宮摘出手術』は、それ自体が非常にリスクの高い難手術です。この事例においては、もしかしたら、『児の娩出後に胎盤の剥離を試みないで、直ちに子宮摘出手術に移ったこと』が、裏目に出たのかもしれません。

癒着胎盤の帝王切開は非常に難度の高い手術で、『癒着胎盤と認識した時点で、直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出に移るべきだった』という検察側の主張通りに手術を行ったとしても、必ずしも母体を全例で救命できるとは限らないということを示す臨床症例です。

検察庁が本件判決に控訴しないことを強く要請します。

******

診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業

評価結果の概要

http://www.med-model.jp/kekka/jirei38.pdf
  
本概要は、関係者への説明に用いるため、申請医療機関及び患者遺族に対して報告された「評価結果報告書」をもとに、その概要をまとめたもの。

1 対象者について
年齢: 20歳代
性別: 女性
事例概要:既往歴に2回帝王切開手術を受けた主婦。今回妊娠早期より前置胎盤と前の帝王切開創への癒着胎盤と診断され、自己血の貯血と輸血を準備し帝王切開を予定していた。予定した帝王切開まで子宮収縮抑制薬を点滴投与していたにも拘わらず妊娠33週に性器出血が増量し、さらに破水し、陣痛が発来したため緊急帝王切開をした。手術は帝王切開に引き続き胎盤を剥離することなく直ちに子宮全摘術を行ったが、摘出直後に予期せぬ心拍停止が発生し、急激な予測不能な大量出血により母体死亡を来たした。最終出血量は9053mlに及んだ。

2 解剖結果の概要
骨盤腔の腹膜直下の結合組織内全般に広範な出血がある。摘出子宮は胎盤を併せて899gで、胎盤付着部は子宮体下部から子宮頚部前壁やや右側である。頚管は著明に拡張し、子宮体部の下部および頚部前壁の胎盤付着部には子宮壁穿通はないが、子宮筋層は最も薄い所で0.5mm未満まで非薄化している部位もあった。羊膜絨毛膜炎の所見はなかった。また、肺胞内に胎児由来成分も検出されず、また免疫組織学的検索も行ったが証明されないので、確定的羊水塞栓症の診断ではない。

3 臨床経過に関する医学的評価の概要
当該病院の医療安全委員会から提出された診療録の一部に病状経過が詳細かつ正確に記載されていないなどの不備があり、また産婦人科、麻酔科、看護部からのそれぞれの報告で院内の統一見解でなかった為、十分解析出来なかった面もあり、死因を推測せざるを得ない点もあった。

1)臨床診断の妥当性
妊娠22週に経腟超音波、MRI(磁気共鳴映像法)により前置胎盤と前の帝王切開創にかかる癒着胎盤と診断され、正確に診断されていた。

2)手術の準備、時期と手術方法
妊娠24週より5回にわたり自己血を総計1200g貯血した。また手術前に2000mlの輸血も準備し緊急手術に臨んだことは現在行ない得る最善の方法である。手術当日、性器出血が増量しさらに破水し、陣痛が発来し子宮収縮抑制薬ではコントロ-ルが出来なくなった段階での手術のタイミングは適時である。また帝王切開に引き続き胎盤を剥離することなく直ちに短時間内に子宮全摘術を行なったことも賢明である。

3)術中の出血について
手術開始後2分で胎児を娩出し、引き続き子宮全摘術を開始した。輸血は手術開始後直ちに開始され、続けられた。出血量は児娩出するまでに400ml、その後の約10分で合計1620mlに及んだ。新生児のHb(血色素)を反映するデ-タ-である臍帯血の値も貧血を示していた。母体のHbは手術開始後約20分に始めて測定され5.5g/dlと低値であった。この状況は測定・把握していた量以上の急激な出血であったと推測される。帝王切開と子宮全摘術に要した時間は30数分であるので非常に手早く手術が遂行されていた。出血部位の特定は出来なかった。剖検から軽度の左心室の拡張がある以外の所見もなく、心筋梗塞や血栓もない。27歳の若さで術中Hb5.5g/dl台で突然不整脈に続き心停止状態になることは、通常の産科での急激な大量出血においても極めて稀であると考える。

4)輸液と薬
術前膠質浸透液を適切量の点滴がなされ、全身麻酔の選択も薬の用量も問題はない。麻酔導入開始より血圧は低下し、そのため適時エフェドリン、ネオシネジンの昇圧薬の投与により血圧は維持された。また手術開始と同時に輸血も開始され、循環血液量を補うことで血圧は一過性に上昇したが、胎児娩出後に著しく血圧は低下し、昇圧薬を頻回に投与しても昇圧作用が得られない状態に陥り死亡した。子宮収縮抑制薬の塩酸リトドリンは入院時から、硫酸マグネシウムは手術当日に出血量が増量し子宮収縮も頻回になったので時点で開始・併用した。両薬とも手術決定後には中止し、手術に臨んだ(結果的に手術開始前32分であった)。なお硫酸マグネシウム製剤の投与方法・用量は守られている。

(1)児は第一呼吸を認め体色良好であった。しかしその後、児は無呼吸発作を起こし、次に用手的陽圧呼吸にも反応しなくなった為、3日間挿管された。この呼吸抑制は帝王切開直前に投与されたマグネシウムに影響によるものと考えたが、新生児の臍帯血中のマグネシウム濃度は正常値であったので、マグネシウムによる呼吸抑制によるもの、また呼吸窮迫症候群とも考えねばいけないがwet lung(肺胞液漏出、吸収遅延による呼吸障害)によるものと解釈した方が自然であると推測した

(2)母体においては術中の心電図からは心筋虚血の所見は得られなかったが、子宮収縮抑制剤の併用が母体の術中血圧の低下に影響したかも知れないと推測した。

5)その他の原因
なお本事例が短時間に大量出血し播種性血管内血液凝固症候群(DIC)に至っているため羊水塞栓も検討した。剖検からは組織学的に胎児由来の成分も免疫組織学的検査も行ったが、それらは証明されず確定羊水塞栓症は否定された。また血清学的も行ったが支持する結果は得られなかった。委員から確定羊水塞栓症以外の臨床的羊水塞栓症もあるのではないかとの意見も出され議論した。

本事例の麻酔記録から麻酔導入時点で既に血圧は低い傾向にあったが、児娩出直後から血圧の著明な低下が始まり酸素分圧を示すPaO?の低下、不整脈の出現そして死に至っている。またカプノメトリ-(二酸化炭素の測定)で得た呼吸終末PCO?も低下していない。本事例の臨床経過が臨床的羊水塞栓症の診断基準に一部当てはまるが、本委員会では臨床的羊水塞栓症に関しては支持されるに至らなかった。しかし、急激な大量出血を考えると、稀ではあるが何らかの原因でDICが発症した可能性も考えねばならない。

4 結論
直接の死因は、帝王切開および子宮摘出直後の突然の不整脈に続く心停止状態と想定以上、突発的と思えるほどの急激な大量出血による循環血液量の減少に伴う循環障害、心不全である。また入院後の投与していた子宮収縮抑制薬に、さらに病状の悪化のため手術直前に加えた子宮収縮抑制薬の併用も拍車をかけたものと推測する。なお正確な出血部位は不明である。

5 再発防止への提言

1)当該病院への提言
今回各部門から提出された記録には不明な点があった。また時間的経緯のずれ、また不備もあり審議に苦慮した。院内委員会で十分に審議し統一見解としてまとめて提出しなければ真相は究明できない。モデル事業の参加は真相究明であるので、第三者が見ても良い限りなく透明性のある診療録にすることにより、医療の質も向上し医療不信を払拭できるのではないかと考える。本事例の調査委員会には小児科医が何故含まれなかったのか。また委員会の構成は当該科に呼応する外部の専門家や法律家も入れ、メンバ-を構築しなければ真理は追究できず、再発防止に繋がらない。さらに、モデル事業に提出された資料は委員会の議事録(開催日、場所、出席者、審議内容など)として体裁を整える必要がある。今回提出された資料は三部門(産婦人科、麻酔科、看護師)の資料を集めただけの内容であったことを追記する。

(1) 産婦人科医への提言:当該診療科から提出された資料には記載不十分な部分も多く丁寧なチェックを行い提出することを希望する。また執刀医が手術記録を書いていない。極めて稀な事例でもあるので手術記録は誠実に詳細に執刀医が記載するのは当然である。たとえ下位医師が上級医に依頼されても断ることも重要である。硫酸マグネシウムの投与方法・用量は守られ手術決定とほぼ同時に中止し、手術に臨んだが、添付文書の重要事項に硫酸マグネシウムを分娩直前まで持続投与した場合に出生した新生児に高マグネシウム血症を起こすことがあるため、分娩前2時間は使用しないと書かれている。また子宮収縮抑制薬の併用による母体への重篤な心筋虚血などの循環器関連の副作用も報告されているので、このような知識は周産期センタ-ともなればスタッフ全員がこの認識を持つ必要がある。

(2) 麻酔科医への提言:手術時の麻酔記録が極めて不十分であり、術中の記録から病態を解析するのに困難を極めた。稀有な症例であり、その時点での記録が困難であったものと推測するが、その後詳細な記録を残すことが重要である。硫酸マグネシウムの使用という情報が共有されていれば中和剤としてカルチコ-ルの選択もあった。また今回使用した以外の別の昇圧薬やドーパミン薬の使用も考慮しても良かった。今後、大量出血が予想される手術にあたっては、麻酔開始前から中心静脈圧、動脈圧を連続的にモニタリング出来るように準備してから手術を開始すべきである。ただ現実に臨床の場で常に準備することは難しいことも理解出来る。しかし今後検討すべきである。

(3) 泌尿器科医への提言:当初、提出された診療録に膀胱修復の手術記録が含まれてなく、手術への拘わりなど時間の参考資料にはならなかった。手術記録は当然記載し診療録に入れ診療録を完成させて提出する必要がある。

(4) 看護師への提言:本事例は術中の大量の出血によると考え、真相究明には時間的経過を詳細に知りたく、再三資料の提出を求めた。当然存在するはずの資料の提出がない場合、審議において、資料提出がないこと自体を当該施設に不利益な事情の1つとして斟酌する可能性もあることも、当該施設に対し通知した。その結果、最終的に提出されたメモと記憶からの資料により審議に臨めた。手術に入った看護師の配置は2名(器械出し、外回り)で、帝王切開用と子宮摘出用の器具を準備し、子宮摘出用の器具を隣室に置き隣室で器械を揃えるなど時間を取られている。そのため看護師の仕事である継続的に出血量をカウント出来ない時間が生じたことが解った。予め子宮摘出術が行なわれる可能性が高い例では、両器具を完全に揃え同一手術室に準備し、手術室から離れることがないようにすべきである。また緊急とはいえ大きくなる可能性のある手術では事前に医師と情報を共有することでマンパワ-も増し、再発防止に繋がると思われる。

2)医療界への要望
当該医療施設は周産期でも有数な施設であり、そのような機関でも本症例は不幸な転帰を辿ってしまった。手術開始前から出血が始まり、手術開始と同時に短時間に予期せぬ大量出血から生じたものと推測する。産科領域では、分娩を中心に稀有に見聞するが、急激な失血を正確に測定すること、またそれに呼応した輸血を考えると、今日の治療では難しかったかも知れない。なお、本事例のケ-スでの周術期死亡率は7.4%とも報告されている。学術集会では貴重な稀有な症例が発表され、無論成功例から学ぶことも大事である。しかしながら患者を救命することを使命とする医療従事者は、処置し難い症例が現実には存在し、不幸な転帰を辿る症例もあり対処出来るように努めなければいけない。またこのような症例が現実にあることを医療界だけでなく、一般の方々にも開示し理解して頂くことを希望する。
   
6 参考資料
・羊水塞栓症の血清学的診断法、www2.hama-med.ac.jp/wib/obgy/afe2/
・羊水塞栓症 プリンシプル産科婦人科学2 MEDICAL VIEW P617
・羊水塞栓 産婦人科研修の必修知識 2004 (社)日本産科婦人科学会 P282
・Okuchi A, Onagawa T, Usui R, etc Effect of maternal age on blood loss during parturition: a retrospective multivariate analysis of 10,053 cases. J Perinatedd.2003:31(3) P209
・母体救急疾患 ~こんな時どうする~ 研修ノート No62 (社)日本母性保護 産婦人科医会 平成11年10月

****** 朝日新聞・時時刻刻、2008年8月21日

■裁判所の判断

○癒着胎盤をどう処置すべきだったか

《検察側》 癒着胎盤を認識した時点で、胎盤を子宮から剥離するのをやめて、子宮摘出に移るべきだった。

《弁護側》 被告が胎盤の剥離を続けたのは、標準的な医療行為だ。

《判決》 剥離を中止して子宮摘出手術に移ることは可能だったが、当時の標準的な治療行為だったとはいえない。剥離の継続は、注意義務違反にはあたらない。

検察の裏付け不足指摘

 判決は、事実経過についてほぼ検察側の主張通りに認定している。死因が失血死であり、胎盤をはがしたことが原因だったとした。さらに、加藤医師は指を使って胎盤をはがすことが難しくなった時点で胎盤が子宮に癒着していると認識。無理にはがすと大量出血を引き起こし、妊婦が死亡する恐れがあることも予見できたと認定した。

 そのうえで、胎盤をはがすのをやめ、子宮摘出手術に移ることで大量出血を回避する義務があったかどうかを検討。剥離をやめて摘出に移行することは可能で、大量出血を防ぐことができた可能性があるとした。

 しかし、それが標準的な医療であるとする検察側の根拠は、一部の医学書と臨床経験に乏しい検察側鑑定医による鑑定のみで、裏付ける臨床症例を提示していないと批判。結論としては、加藤医師に胎盤剥離を中止する義務はなく、業務上過失致死罪に当たらないと判断した。

「刑事裁判にそぐわぬ」

 お産は常に急変する可能性がある。厚生労働省のまとめでは、出産で亡くなった妊婦は06年に54人いる。治療しても良い結果とならなかった時、医療者の責任は、どう扱われるべきなのか。

 捜査に批判的だった東京都立府中病院の桑江千鶴子・産婦人科部長は「患者の命を助けようと思って進めた末に、助けられないこともある。そのようなリスクを認めてもらえなければ、医療は成り立たなくなる」と指摘する。

 癒着胎盤と診断できた場合は、はがさずに子宮摘出に移行する場合があるが、摘出すれば安全とも言い切れない。

 東京都内の大学病院で06年11月、癒着胎盤と診断された20歳代の女性が帝王切開で出産後に死亡するという大野病院事件と類似の事故が起きた。病院は胎盤をはがすことによる大量出血を避けるため、帝王切開後ただちに子宮摘出手術に移った。しかし、大量出血が起こり、母親を救命できなかった。病院はリスクの高い出産を扱う総合周産期母子医療センターだった。厚労省の補助金で日本内科学会が中心に運営する「医療関連死調査分析モデル事業」で解剖と臨床評価が行われ、評価調査報告書の最後に「処置しがたい症例が現実にあることを、一般の方々にも理解してほしい」と記されている。

 医療と法の関係に詳しい樋口範雄・東大大学院教授(英米法)は「判決は検察側の完敗だ。だが、有罪か無罪かより重要なのは、医療事故の真相究明に裁判がそぐわないことがはっきりしたことだろう。検察側と弁護側が対立のゲームを続けたことで、医師も遺族も傷ついた。真相究明と再発防止のため、医師を中心に、患者も加わった形での協調の仕組みが必要だ」と話していた。

 福島地裁は、加藤医師の行為を「標準的な医療」と認定した。ただし、現行法のもとでは、薬剤投与ミスや技量不足の医師による無謀な手術の立件が妨げられることはない。

(朝日新聞・時事刻刻、2008年8月21日)

****** m3com医療維新、2008年8月22日

福島県立大野病院事件◆Vol.21

「ほっとしたが、なぜ逮捕されたか疑念は晴れず」

佐藤章・福島県立医大産婦人科教授が
判決直後の真情を吐露

聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)

 加藤克彦医師の所属医局は、福島県立医科大学産婦人科。その教授である佐藤章氏は、事件直後から、2006年の逮捕・起訴、そして8月20日の判決に至るまで、担当教授として事件にかかわってきた。また、佐藤氏は自ら一般傍聴券を求めて並び、計15回にわたった公判をすべて傍聴してきた。果たして、今回の判決をどう受け止めたのだろうか。判決直後の思いを聞いた。
(2008年8月21日にインタビュー)

――逮捕・起訴から約2年半。昨日、判決を聞いた率直な感想をお聞かせください。

 「ほっとした」というのが正直なところです。「勝った」「負けた」といった話ではありません。逮捕・起訴自体はそもそも「余分」なことだったので、無罪になったことは「前に戻った」だけにすぎないからです。またこの間、時間も労力もかかっていましたので。

――警察・検察に思うところはありますか。

 ノーコメントですね。何を言っても、「逮捕された」事実は消えることはないので。

――加藤先生は40歳前後という非常に活躍できる時期に、2年半臨床に携わることができなかったわけです。

 それは本当に痛かった。彼にとっても、またわれわれにとっても大きな戦力を2年半失ったことになりますから。ただでさえ、周産期医療に携わる医師が少ない中で、「産科が好きだ」と言っていた加藤医師が抜けることは本当に痛手でした。

――加藤先生は記者会見で、「地域医療に戻りたい」とおっしゃっていました。

 来週辺り相談しようかと思っていたのですが、判決が確定するまでは、加藤先生は、大野病院事件の関係者と接触してはいけないことになっているので、確定後に相談します。

  2年半のブランクがあるので、すぐに実践に出るのは、本人も心配だろうし、またわれわれも心配ですので、大学で研究生といった形で少しずつ実践に慣れてもらうのが、私はいいと思っています。いずれにせよ、本人と相談します。

――「心配」というのは、手術などをやるには「慣れ」が必要だからでしょうか。 

 私が以前、1年間の留学後、戻ってきて手術した際には、やはり手が震えました。それと同じです。それ以上に大きいのは、精神的な面でしょうね。

――次に判決の内容についてお聞きします

 われわれが主張していたこと、臨床の現実を認めてくれたわけですから、裁判官はよく勉強し、医学的なことを理解してくれたと思っています。感謝しています。

 一番の争点は、「胎盤剥離を中止して、子宮摘出術に移行すべきだったか」ですが、今回それが否定された。控訴審で判決を覆すためには、そうした臨床例を検察側が提示する必要があるわけです。

――それ以外の点はどうでしょうか。

 例えば、胎盤の癒着の範囲も、われわれは子宮前壁にはないと主張し、裁判官はその主張を認めてくれました。加藤医師は帝王切開手術時、開腹後にエコーを行い、前壁に癒着がないことを確認し、胎盤のあるところを避けて子宮を切開しています。それほど慎重に手術をしていました。

 裁判官は、「病理学的には癒着があると言っても、数人の証人が『胎盤が容易に剥離できたということは、臨床的には癒着胎盤ではない』としているので、前壁には癒着はない」と判断しています。なおかつ、「病理鑑定の際には、臨床的な情報を集めるべきだった」となどと指摘しています。非常によく勉強していると思います。

 ただ、医学的、専門的なことを刑事裁判で議論するのは限界があると思っています。医学には素人の警察が捜査する上、裁判官も医学の専門家ではありません。

――検察も、公判での尋問を聞いていると、勉強不足という面が感じられました。

 その通りです。でも検察官もかなり勉強したとは聞いています。公判前整理手続の際は、複数の、少なくても3~4カ所の大学に話は聞きにいったようです。

 とはいえ、検察は、専門の医師への証人尋問を経ても、「前壁に癒着がある」などといった主張を変えることはありませんでした。

――クーパーの使用については検察の主張が変わりました、というか、話が出なくなりました。

 加藤医師に逮捕前、「おまえ、クーパーで切ったのか」と聞いたんです。当然ですが、加藤医師は「そんなことするわけないじゃないですか」と(実際はクーパーを「そぐ」ように使い、胎盤を剥離)。警察にもそう説明したようですが、調書には「クーパーを使った」とだけ書かれる。「クーパーを使った」と聞くと、皆、はさみだから「切った」と思ってしまう。その誤解が初めはありました。でも、検察は証人の話を聞いたためか、途中から「クーパーで切る」という話はしなくなった。

――その一方で、裁判官はよく勉強されていたと。

 そうだと思います。しかし、裁判官が参考にするのは「証拠」のみなので、判決が出るまでは非常に心配だったんです。5割以上の確率で有罪になると思っていました。やはり勉強していても医学の専門家ではない、また医師などに個人的に意見を聞くことはしないわけですから。

――私は公判をすべて傍聴していて、検察側に不利な状況だと思っていたのですが。

 そうです。私も、圧倒的に弁護側が有利だと思っていました。しかし、先ほども言ったように、裁判官は医学の専門家ではないので、どう判断するのか不安だったわけです。でも結果的には、裁判官は非常によく勉強していた。臨床の実践を理解してくれたわけですから。

 だから、やはり専門家の間で、医療事故を検証する場を作った方がいいと思います。ただ、今の「医療安全調査委員会」の議論には、厚生労働省に委員会を設置するなど、問題はありますが。

 また死因究明に関して言えば、今回の場合、「解剖をしておけば」という思いはあります。加藤医師は遺族に解剖を申し出たのですが、断られたそうです。死因は失血死とされましたが、私はまだ羊水塞栓などの可能性があると思っています。

――医療事故の調査と言えば、「県立大野病院医療事故調査委員会」がまとめた報告書が発端になっています。以前、先生に、「加藤医師の過失と受け取られかねない部分があるので、訂正を求めた」とお聞きしました。

 はい。ここ(佐藤先生の教授室)に院長と県の病院局長が来て、「もうこれで認めてください」と言うから、「ダメだ」と言ったんです。

――それは遺族への補償に使うからですか。

 そうです。「先生、これはこういう風に書かないと、保険会社が保険金を払ってくれない」と言ったんです。

――でも、県はそれを否定しています。

 絶対にそんなことはありません。医療事故調査委員会の委員の先生方も、そう(補償に使う)と聞いているそうです。

――事故調査報告書が刑事訴追に使われることは想定されていなかった。

 私が「最後までダメだ」と言い張ればよかったのですが。

 今回のように刑事訴追に使われる可能性を考えると、事故調査報告書をどう書けばいいか、難しいですね。厚生労働省が考える「医療安全調査委員会」も、うまく機能するのか。だから私が思うのは、行政ではなく、医師同士、専門家同士が調査して、「これはお前、ダメだ」などと自浄作用を働かせる仕組みの必要性です。そうでないと、国民は納得しないと思います。

――そうした意味では、この事件を機に、医療事故調査のあり方について議論が進んだ意義は大きいと思います。世間の医療への関心も高まったように思います。 

 そうですね。ただ私にとって、また加藤医師にとってもそうでしょうが、はっきり言って貴重な時間が取られてしまったという思いはあります。社会的にはいろいろ勉強になりましたが、本来、医師ですから、臨床をやるのが仕事なわけですから。

 また医療への関心ですが、マスコミの方の関心は高まったものの、一般の方の関心はそれほど高まってはいないと私自身は思っています。

――「社会的に勉強になる」とは具体的にはどんな意味でしょうか。

 例えば、「司法というのは、すごい権力である」ということです。それに比べて、行政には力がない。例えば、医師法21条にしても、厚労省は「施設長が異状死を届け出る」といったマニュアルを作成しています。しかし、裁判官はあくまで法にのっとって判断する。また、警察、検察の力も恐ろしい。

 私はこの間、「くれぐれも交通事故を起こさないように」などと注意されていました。何かあると問題視される。そうなると、「医師は…」と言われ、証人の医師の信用性にも関係しかねない。

――あまり論理的な話ではない気がします。確かに、今回の公判では、検察は最後は情に訴えていたように感じました。

 私もそう思います。だから私は最後まで心配だったんです。そうした公判でのやり取りが「証拠」として残り、それを基に裁判官が判断するわけですから。

――では、控訴の可能性についてどうお考えですか。

 先ほども触れましたが、控訴した場合、検察側は「胎盤剥離を中止して子宮摘出術に移行する」という臨床例を提示する必要があるわけです。しかし、実際にはこうした臨床例は今のところありません。

 福島地検の検察官だけで判断するのではなく、上級庁と相談して決めるようです。その際、これまで事件にかかわってきた検察官が意見を言うようですが、上級庁がどう判断するのか。

 正直、どうなるかは分かりません。多くの方が、「判決要旨を読むと、全面的に(弁護側の)主張が通っている。控訴をしないのでは」と言ってくれますが、気休めにはなりませんね。この事件が始まって、人間が信用できなくなったので。ただ、刑事事件の場合、一審と二審で判決が変わることは99%以上ないと聞いています。だから仮に控訴されても、「無罪」になると信じています。

――なぜ人間を信用できなくなったんですか。

 一生懸命に診療をやっていて、逮捕されるわけですから。それも事故があってから1年以上が経過した後のことですから。いまだに「なぜこれが刑事事件になったんだ、逮捕されたんだ」という疑念は晴れません。「逮捕」されたのは、「証拠隠滅や関係者と口裏合わせをする恐れがあるから」ということですが、手術はチームでやるもの。何かを隠すことはできませんし、そもそも何も隠すものはありません。

 それとさすがにこの2年半、疲れました。

――どのくらいこの裁判に時間をかけていたのですか。

 最初のころは、弁護士の先生に癒着胎盤の説明をしたり、論文をお渡しするなど、月2回くらいは東京に行っていました。あとは月1回くらいでしょうか。四六時中、裁判のことをやっていたわけではないのですが、やはり精神的に負担でした。物事に集中できない。手術をやっている時だけは裁判のことを忘れられました。でもそれ以外、勉強している時などには、ふと裁判のことが頭をよぎっていました。加藤医師の逮捕時、60kgあった体重が53kgまで減りました。今は戻りましたが。

――最後にお聞きします。今回の件で各種団体や医師など、全国各地から加藤医師を支援する動きがありました。

 それは非常にありがたかったですね。支援団体の活動が盛んになり、マスコミが取り上げるほど、裁判官もまた検察も、「この裁判は簡単にはいかないぞ」という意識を持ったのではないでしょうか。そうした意味では、大きかったですね。今回の件では、本当にいろいろな意味で勉強になりました。

(m3com医療維新、2008年8月22日)

****** J-CASTニュース、2008年8月21日

「医師逮捕までする必要あったのか」 「大野病院」判決の新聞論調

  「メディアが『医療崩壊』を招いた」との指摘が相次ぐなか、帝王切開手術中に妊婦を死亡せたとして担当医師が逮捕・起訴された「大野病院事件」については、様子が若干異なるようだ。無罪判決から一夜明けた各紙の社説を見ると、きわめて慎重で、「医師逮捕までする必要あったのか」とする論調も目立つ。ただ、同じ新聞内でもさまざまな見方が出るなど、問題の複雑さを浮き彫りにしている。

朝日、読売、産経は判決に肯定的

   判決から一夜明けた2008年8月21日の朝刊では、全国紙の全てが大野病院事件を社説で取り上げた。各紙とも、医療事故が起こった際の第三者機関「医療安全調査委員会」の設立など、今後の制度の整備を求める点では一致している。一方、判決自体の評価は、各紙によって微妙なずれがある模様だ。

 判決に肯定的なのが、朝日・読売だ。朝日新聞は、

「判決は医療界の常識に沿ったものであり、納得できる。検察にとっても、これ以上争う意味はあるまい。控訴をすべきではない」

と、直接的な表現で判決を評価。さらに、

「今回の件では、捜査するにしても、医師を逮捕、起訴したことに無理があったのではないか」

と、そもそも公判の維持自体が「無理筋」だったのではないかとの見方を示している。

   読売新聞も、

「そもそも、医師を逮捕までする必要があったのだろうか。疑問を禁じ得ない」

と、同様だ。産経新聞も

「大野病院事件はカルテの改竄や技量もないのに高度な医療を施した医療過誤事件とは違った。それでも警察の捜査は医師の裁量にまで踏み込んで過失責任の罪を問うた」

と、逮捕・起訴が強引だったことを遠まわしに批判。おおむね、社説では、これら3紙の足並みはそろっていると見てよさそうだ。

   日経新聞は、判決が妥当かどうかについての直接的な言及は避ける一方、

「医療事故は後を絶たない。そこで問題になるのは、患者や家族に十分な説明をし、同意を得たかという点だ。この事件でも家族は病院側の説明に強い不満を抱いている」

と、医療側の体質に言及。インフォームド・コンセントの重要性を改めて強調した。

毎日社説は警察の起訴姿勢を擁護

   前出の4紙と、立ち位置が異なっているように見えるのが、毎日新聞だ。他の複数の新聞が、事件をきっかけに「医師の産科離れが進み、医療側からは『医療が萎縮する』との反発の声が上がった」といった経緯を紹介している一方で、毎日新聞は

「こうした考え方が市民にすんなり受け入れられるだろうか」

と、疑問を投げかける。さらに、

「警察権力は医療にいたずらに介入すべきではない」

としながらも、

「県警が異例の強制捜査に踏み切ったのも、社会に渦巻く医療への不信を意識したればこそだろう」

と、警察の姿勢を全国紙の中では唯一擁護しているともとれる文面だ。

   もっとも、その毎日新聞も、判決直後の08年8月20日夕刊1面の「解説」では、

「刑事訴追が医療の萎縮や医師不足を招くのは、医師と患者双方にとって不幸だ。お互いに納得できる制度の整備が急がれる」

と、若干のスタンスの違いを見せている。それは他紙でも同様で、読売新聞も、1面の夕刊の「解説」では、

「『医療行為による事故で刑事責任を問うべきでない』とする<医師側の論理>にお墨付きを与えたわけではない」

とした上で、

「医療界は患者の声に耳を傾け、より安全、安心な医療の確立に向け、冷静な議論をする必要がある」

と、社説とは一転、やや医療側に厳しいと読める文章になっている。

   このように各紙の間で論調が違うのはもちろん、同じ新聞でも朝刊と夕刊で論じ方が変化しているあたり、この問題の複雑さをあらわしたものだと言えそうだ。

(J-CASTニュース、2008年8月21日)


大野病院事件 被告に無罪判決

2008年08月21日 | 大野病院事件

コメント(私見):

『癒着胎盤』という疾患は、摘出した子宮および胎盤の病理検査によって確定診断されます。癒着胎盤であっても妊娠中は特に何の症状もないし、児が娩出するまでは妊娠経過には特に異常は認められません。児が娩出した後に、胎盤の全面または一部が子宮壁からなかなか自然に剥離しないという状況になって初めて、「もしかしたら癒着胎盤ではないだろうか?」という疑いがもたれます。そういう癒着胎盤を疑うような状況は日常茶飯事ですが、実際にそれが本当に癒着胎盤である確率は極めて低く、ほとんどの場合は『胎盤用手剥離』という処置を実施することにより胎盤は無事に除去できます。胎盤剥離中の出血も剥離を完了することにより通常は止血します。

もしも、今回の裁判で有罪の判決だった場合は、『癒着胎盤を少しでも疑ったら、何でもかんでも、直ちに子宮摘出を行わねばならない!』という判例となってしまうところで、産科臨床の実際とはとんでもなくかけ離れた判決になるところでした。そうなったら臨床の現場は相当混乱してしまうところだったと想像します。正直、妥当な判決でほっとしました。

検察庁が本件判決に控訴しないことを強く要請します。

****** 声明:日本産科婦人科学会

福島県立大野病院事件についての福島地方裁判所の判決に対する声明

 日本産科婦人科学会は亡くなられた患者様のご遺族と悲しみを共有し、患者様には心からの哀悼の念を捧げます。
 この悲しい事件は、癒着胎盤という重篤な産科疾患において生じたものですが、当時、被告人が産婦人科専門医として行った医療の水準は高く、全く医療過誤と言うべきものではありません。癒着胎盤は極めて稀な疾患であり、診断も難しく、最善の治療が如何なるものであるかについての学術的議論は現在も学会で続けられております。
 このたびの判決は、この様な重篤な疾患を扱う実地医療の困難さとそのリスクに理解を示した妥当な判決であり、これにより産科をはじめ多くの領域における昨今の萎縮医療の進行に歯止めのかかることが期待されるところであります。
 日本産科婦人科学会は、今後も医学と医療の進歩のための研究を進めると共に、関係諸方面の協力も得て診療体制の更なる整備を行い、本件のように重篤な産科疾患においても、母児ともに救命できる医療の確立を目指して最大限の努力を続けてゆくことを、ここに表明致します。
 本会は、今回の裁判による医療現場の混乱を一日も早く収束するよう、検察庁が本件判決に控訴しないことを強く要請するものであります。

平成20年8月20日

社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 吉村 泰典

(声明:日本産科婦人科学会)

****** 見解:日本産婦人科医会

福島県立大野病院事件判決について

業務上過失致死罪:無罪
医師法違反(21 条に規定する異状死の届出義務違反):無罪

 本日、この罪に問われた産婦人科医の被告人に対して、福島地裁から、二件の容疑に関する無罪判決が下りました。これに関して、周産期医療を担う専門家集団である産婦人科医会としての見解を述べさせていただきます。

 先ず、この事件で、亡くなられた方に対し、改めて、心より、ご冥福をお祈り申し上げます。

 本件は、帝王切開手術時の癒着胎盤剥離に伴う産婦の失血死により、平成18 年2 月に執刀医が業務上過失致死罪と医師法21 条に規定する異状死の届出義務違反容疑で逮捕、勾留、その後起訴されたものであります。
 本件は産科医療の基本的な日常診療のなかで、正当な医療行為をしたが、残念ながら力が及ばなかった不幸な事例であるとの見解から、刑事責任を問うことはできず、無罪以外の判決はあり得ないとの認識でしたから、当然の判決結果であると思います。

 さて、この事件は、産婦人科医だけでなく、医療界や、社会に大きな衝撃を与えました。
その理由は、
1. 帝王切開術による不幸な医療事故が発生してから、1 年以上が経過し、その間、地域の周産期医療を担い続けてきた医師が、逃亡や証拠隠滅のおそれは、全くないにもかかわらず、突然逮捕、勾留され、そして、直後に起訴されるという極めて不当な事件であったからです。
2. 医療事故の死因究明は、本来、医療の専門家である医師に委ねられるべきです。しかし、この事件は、産婦人科の専門医が判断すれば、『通常の医療行為の結果、不幸にして救命できなかった事例であり、刑事罰の対象にはなりえない事件である』にもかかわらず、刑事司法の判断によって、『医師の過失が重大である』とされ、刑事訴追されたからです。

 このように診療行為に伴って患者さんが死亡されたことを深く受け止め、再発防止に努めねばなりません。そのためには専門家集団による透明性のある事故調査が必要です。このような事例に刑事罰を適用することは医療現場を萎縮させるだけで、再発防止には繋がりません。
 以上の観点から、日本産婦人科医会は、日本医師会と日本医学会を中心に現在議論がなされている新たな死因究明制度における原因究明と再発予防に向けた取り組みを法制化し、医療の管理を今までのように刑事司法が行うのではなく、専門家集団である医師が行う仕組みの構築を全面的に支援していきたいと思います。
 今後、医療の専門家である医師は、医療事故発生の防止に努めるとともに、医療を受ける患者さん方と、真摯に向き合い、相互の理解に努め、医師・患者間の溝を埋めていくよう、一層の努力を払わねばならないと考えています。

平成20 年8 月20 日
社団法人日本産婦人科医会
会長 寺尾 俊彦

(見解:日本産婦人科医会)


大野病院事件 産婦人科医 加藤克彦被告に無罪判決 (速報)

2008年08月20日 | 大野病院事件

コメント(私見):

本日は、診療を同僚の先生方に任せて、はるばる福島市までやって来てます。留守番の先生方は忙しくて大変なことになっているかもしれません。

午前10時をちょっと過ぎた頃に無罪判決の速報がインターネット上に多数掲載されました。また、福島民報の号外が配られてました。午後1時から開催されたシンポジウムに参加しましたが、平日の昼間にもかかわらず大勢の参加者がいて、会場は熱気に包まれてました。会場には顔なじみの方も大勢いらっしゃいました。

これから新幹線で帰るところです。

判決文の詳細については、今後、明らかになると思われます。明日は売ってる新聞を全部買いそろえて、しっかり読んでみたいと思います。

以下、開廷直後の無罪判決の速報です。

*** CBニュース、2008年8月20日10時5分

大野病院事件、被告医師に無罪判決

 福島県立大野病院で2004年12月に帝王切開手術を受けた女性が死亡した事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた当時の産婦人科医長、加藤克彦被告(40)に対する判決公判が8月20日、福島地裁であり、鈴木信行裁判長は、無罪判決を言い渡した。

 起訴状などによると、加藤被告は2004年12月17日、女性の帝王切開手術をした際、胎盤と子宮の癒着を認識。胎盤を無理にはがせば大量出血する恐れがあるのに、子宮摘出術に移行するなどの危険回避の措置を怠り、剥離(はくり)を続けて女性を失血死させたとされた。

 また、異状死を24時間以内に警察に届けなかったとして、医師法21条違反にも問われたが、鈴木裁判長は、検察側の主張を退けた。

 検察側は今年3月21日の論告求刑公判で、禁固1年、罰金10万円を求刑していた。

(CBニュース、8月20日10時5分)

*** 朝日新聞、8月20日10時12分

産科医に無罪判決 帝王切開での女性死亡事故 福島地裁

 福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、福島地裁(鈴木信行裁判長)は20日、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(40)=休職中=に無罪(求刑禁固1年、罰金10万円)の判決を言い渡した。

 加藤医師の逮捕後、日本産科婦人科学会や日本医学会、地域の医師会などは「必要な医療が提供できなくなる」などと反発。手術部位を間違えるなどの単純ミスではなく、治療における医師の判断、手術法の選択にまで捜査当局が踏み込んだ事件として、判決が注目されていた。

(朝日新聞、2008年8月20日10時12分)

*** 毎日新聞、2008年8月20日10時16分

大野病院医療事故:帝王切開の医師に無罪判決 福島地裁

 福島県大熊町の県立大野病院で04年、帝王切開手術中に患者の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医(休職中)、加藤克彦被告(40)に対し、福島地裁は20日、無罪(求刑・禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。手術中の医師の判断を問う裁判として注目されたが、判決は医師の裁量の範囲と認めた。

 起訴状によると、加藤医師は04年12月17日、帝王切開手術中、はがせば大量出血する恐れのある「癒着胎盤」と認識しながら子宮摘出手術などに移行せず、クーパー(手術用はさみ)で胎盤をはがして女性を失血死させた。さらに、医師法が規定する24時間以内の警察署への異状死体の届け出をしなかったとされた。

 医療行為を巡り医師が逮捕、起訴された異例の事件で、日本医学会や日本産科婦人科学会など全国の医療団体が「結果責任だけで犯罪行為とし、医療に介入している」と抗議声明を出すなど、医学界を巻き込んで論議を呼んだ。公判では、検察側、被告側双方の鑑定医や手術に立ち会った同病院の医師、看護師ら計11人が証言に立っていた。【松本惇】

(毎日新聞、2008年8月20日10時16分)

*** 時事通信、2008年8月20日10時18分

産婦人科医に無罪=医療ミスを否定-帝王切開死亡事故・福島地裁

 福島県立大野病院(同県大熊町)で2004年、帝王切開手術で出産した女性=当時(29)=が大量出血して死亡した事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(40)の判決公判が20日、福島地裁であり、鈴木信行裁判長は被告の医療ミスを否定し、無罪(求刑禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。

 執刀医による手術時の判断について刑事責任を否定した判決は、今後の医療過誤事件に大きな影響を与えそうだ。

 胎盤を子宮から剥離(はくり)した際に大量出血を予見できたかと、剥離を中止して子宮摘出に移る義務があったかが、最大の争点となった。

 被告側は、剥離中の出血は少なく、出血量の急増は予測できなかったと主張。「剥離を開始したら完了させ、それでも出血が止まらなければ子宮を摘出するのが、一般の医療水準だ」として、処置は適切だったと訴えた。検察側は、通常は使わないクーパー(手術用はさみ)を使い胎盤をはがしたことなどから、「出血で死亡する危険性が高いと予見できたのに、無理な剥離を漫然と継続した」と非難していた。

(時事通信、2008年8月20日10時18分)

*** 河北新報、2008年8月20日10時18分

加藤被告に無罪 大野病院事件 福島地裁判決

 福島県立大野病院(大熊町)で2004年、帝王切開中に子宮に癒着した胎盤の剥離(はくり)を続けた判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたなどとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(40)の判決公判が20日午前10時すぎ、福島地裁で始まった。鈴木信行裁判長は業務上過失致死、医師法違反のいずれについても無罪を言い渡した。検察側は禁固1年、罰金10万円を求刑していた。

 事件は、逮捕時から医療界が「不当な捜査介入だ」と猛反発し、注目を集めてきた。福島地裁には朝早くから医療関係者ら788人が傍聴券を求めて詰め掛けた。判決言い渡しは昼休みを経て午後まで続く。

 最大の争点は、癒着胎盤の剥離を続けた判断の正否。これまでの公判で検察側は「命に危険が及ぶ状況に至っても漫然と剥離を続けた」と過失を指摘。弁護側は「いったん剥離を始めたら最後まで続けるのが妥当だ」などと反論した。

 大量出血の予見可能性では、検察側が「被告は手術前、子宮摘出の可能性も考えており、十分予見できた」としたのに対し、弁護側は「慎重な処置を繰り返しており、予見はできなかった」と主張した。

 加藤被告は「異状死」を警察に届け出なかったとして医師法違反にも問われた。

(河北新報、2008年8月20日10時18分)

*** 産経新聞、2008年8月20日10時22分

帝王切開死亡事故 大野病院産婦人科医に無罪判決 福島

 福島県大熊町の県立大野病院で平成16年、帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた産婦人科医、加藤克彦被告(40)の判決公判が20日、福島地裁で行われ、鈴木信行裁判長は無罪(求刑禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。判決言い渡しは午後3時ごろまでに終わる見込み。

 手術時の判断をめぐり、執刀医の刑事責任が問われたこの事件の公判では、「過失は明白」とする検察側と、「手術は適切だった」とする弁護側が全面対立。医療行為は適切だったのか▽危険は予見できなかったのか▽医師法違反に該当するのか-などが争われていた。

 執刀医の逮捕・起訴については、「診療が萎縮(いしゅく)する」として、日本産科婦人科学会をはじめ多くの医療関係者が反発、第三者の立場で医療死亡事故を究明する“医療版事故調”設置の議論を加速させる要因にもなるなど、国の医療政策にも大きな影響を与えた。

 論告などによると、加藤被告は平成16年12月17日、子宮と胎盤が異常な形で癒着した「癒着胎盤」の症例だった女性の帝王切開手術を執刀。子供は無事に生まれたが、女性は子宮から胎盤をはがす際に大量出血し、死亡した。また女性の死亡を24時間以内に警察署に届けなかった。

 検察側は、「剥離(はくり)を中止して子宮を摘出すべきだったのに、無理に続けて失血死させており、過失は明白」と主張。これに対し、弁護側は「剥離を始めれば、完了させて子宮の収縮による止血作用を期待するのが産科医の常識であり、臨床現場では、検察側が主張するような措置を取った例はない」として、検察側に反論していた。

 また、検察側は「事故後、自分の過失で失血死させた可能性を被告自身が述べており、異状死と認識していたことは明らか」として、異状死を届けなかった医師法違反を指摘。一方、弁護側は「被告は異状死と認識していなかったうえ、上司と相談して届け出なくていいと指示されていた」と主張していた。

(産経新聞、2008年8月20日10時22分)

*** 共同通信、2008年8月20日10時35分

帝王切開死で産科医に無罪 福島地裁、医療界に影響

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が手術中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(40)に対し、福島地裁(鈴木信行裁判長)は20日、無罪判決(求刑禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。

 「基本的な注意義務に反し過失は重大」とした検察側に対し、弁護側は「可能な限りの医療を尽くした」と無罪を主張、全面的に争っていた。

 医療行為の過失を問われ医師が逮捕、起訴された事件は医療界の反発を招き、全国の産科医不足に拍車を掛けたとされる。この日の司法判断は医療界に大きな影響を与えそうだ。

 公判では、子宮に胎盤が癒着した極めて珍しい症例をめぐり、被告が胎盤をはがす「はく離」を続けた判断の是非などが争点になった。

 論告によると、加藤被告は04年12月17日、女性の帝王切開手術を執刀。子宮摘出など危険回避措置を怠り、クーパー(手術用はさみ)で癒着した胎盤をはがし、大量出血で死亡させた。「異状死」なのに24時間以内に警察に届けなかったとして医師法違反の罪にも問われた。

(共同通信、2008年8月20日10時35分)

*** 福島テレビ、2008年8月20日10時56分

福島県立大野病院女性死亡事件 産婦人科医に対し無罪判決 福島地裁

 2004年、福島・大熊町の県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が手術中に死亡した事件で、業務上過失致死などの罪に問われている産婦人科医に対し、福島地裁は20日午前、無罪を言い渡した。

 この事件は、県立大野病院で帝王切開手術を受けた当時29歳の女性が、子宮から胎盤をはがす際、大量出血で死亡したもので、執刀した産婦人科医・加藤克彦被告(40)が業務上過失致死などの罪に問われているもの。

 20日午前の判決で、福島地裁は、加藤医師に無罪を言い渡した。

 今回の裁判では、検察は「加藤医師が適切な処置を怠った」として、禁固1年などを求刑、一方の弁護側は無罪を主張、また、日本医師会など医療界から反発が相次いでいた。

(福島テレビ、2008年8月20日10時56分)


医師判断、結果の責任は 福島・大野病院事件 20日に判決 (朝日新聞)

2008年08月18日 | 大野病院事件

****** 朝日新聞、2008年8月17日

医師判断、結果の責任は 

福島・大野病院事件 20日に判決

 帝王切開手術後に妊婦が亡くなり、産婦人科の医師が業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた「福島県立大野病院事件」の判決が20日、福島地裁で言い渡される。医師の手術時の判断について、刑事責任が問われた事件は、産科だけでなく、医療界全体に波紋を広げた。検察、弁護側の主張が真っ向から対立する中、判決が注目される。【高津祐典、立松真文、和田公一】

「危険予見できた」
 JR福島駅から車で約 2時間。福島県の浜通り、大熊町にある県立大野病院で04年12月17日、女性(当時29)の帝王切開術が行われた。赤ちゃんは無事生まれたが、執刀していた加藤克彦医師(40)が、癒着していた女性の胎盤を子宮から切り離した後、大量出血を起こした。加藤医師は輸血しながら、子宮を摘出する手術に切り替えたが、女性は 4時間半後に亡くなった。

医療界、一斉に反発
 「医師逮捕」に、医療界は一斉に反発した。

一人医長減少/医師1人での出産とりやめ

 事件は、お産の現場にも影響を与えた。

■主な争点
○癒着胎盤はどう処理すべきだったのか

○大量出血は予見できたか

○医師法違反に問えるか

(朝日新聞、2008年8月17日)


大野病院事件 8月20日に判決

2008年08月16日 | 大野病院事件

コメント(私見):

今回の症例は子宮後壁の癒着胎盤とのことですから、帝王切開の既往とも関係ありませんし、癒着胎盤と手術前に診断することも予測することも不可能だったと考えられます。極めてまれで予測不能な難治疾患と遭遇して、救命を目的に必死の思いで正当な医療行為を実施しても、結果的にその患者さんを救命できなかった場合に、今回のように極悪非道の殺人犯と全く同じ扱いで逮捕・起訴されるようでは、危なくて誰もリスクを伴う医療には従事できなくなってしまいます。

また、県の医療事故調査委員会の報告書は県の意向に沿って作成されたもので、佐藤教授が県に訂正を求めたが、「こう書かないと賠償金は出ない」との理由で却下されたとのことです。そもそも、正当な医療行為に対して、「医療過誤があったということにして賠償金を出させよう」という考え方が根本的におかしいし、そのために一人の医師の人生がめちゃくちゃにされ、日本の産科医療全体を崩壊の方向に加速させたこの事件の意味するところは非常に重大です。

以前より、我が国では「産婦人科医一人体制」の施設が多いことが問題視されてきました。その解決策の一つとされていたのが分娩施設の集約化です。本事件以降は、全国的に「産婦人科医一人体制」などのマンパワーの不十分な施設は次々に閉鎖に追い込まれています。結果的に、本事件は我が国の周産期医療体制の再編が始まる契機になったことも確かだと思います。

周産期医療に従事している限り、癒着胎盤にいつ遭遇するかは全くわかりません。そして、いざ癒着胎盤に遭遇した時には、本事件の担当医師と全く同じ対応をしなければならない立場にいるわけですから、多くの産婦人科医が「とてもじゃないがやってられない」という気持ちになって辞職しました。今度の判決次第では、現在まだ現場に何とか踏みとどまっている産婦人科医の中からも大量の離職者が出るかもしれません。 

****** m3.com医療維新、2008年8月15日

福島県立大野病院事件◆Vol.13

延べ80時間、加藤医師本人を含め15人が法廷に

計14回に及んだ公判を振り返る(1)

 来週8月20日、福島地裁で福島県立大野病院事件の判決が言い渡される。本事件は、2004年12月17日、帝王切開手術時に女性が死亡したもので、同病院の産婦人科医だった加藤克彦医師が業務上過失致死罪と、異状死の届け出を定めた医師法21条違反に問われていた事件だ。検察側は、業務上過失致死罪で禁固1年、医師法21違反で罰金10万円をそれぞれ求刑した。

 これに対して弁護側はあくまで無罪を主張している。

 2006年2月18日の加藤医師の逮捕により、産婦人科関係者だけではなく、医療界全体に大きな衝撃が走った。その後、各学会・医療団体が抗議の声明を出したことは、まだ記憶に新しいところだ。医療事故が刑事事件に発展することへの懸念が、今に至る“医療崩壊”につながっている。
 
 2007年1月26日から、2008年5月16日の最終弁論まで、計14回の公判を傍聴した立場から、その経過を振り返ってみる。各公判は、以下の日時で開催された。

【福島県立大野病院事件の公判経過】 (時間は概算)
第1回公判(2007年1月26日)  
・午前10時~午後4時(途中休憩は約1時間) 
・一般傍聴席26席/傍聴席を求めて並んだ人(以下、行列者)349人 
・起訴状朗読、冒頭陳述(検察側、加藤医師)、加藤医師への尋問

第2回公判(2007年2月23日)
・午前10時~午後4時半(途中休憩は約50分)
・一般傍聴席23席/行列者120人
・検察側証人尋問:緊急時に備え応援要請していた双葉厚生病院の産婦人科医と、本件で手術助手を務めた外科医

第3回公判(2007年3月16日)
・午前10時~午後6時10分(途中休憩は1時間強)
・一般傍聴席23席/行列者119人
・検察側証人尋問:本件の手術に携わった助産師と麻酔科医

第4回公判(2007年4月27日)
・午前10時~午後4時半(途中休憩は約1時間強) 
・一般傍聴席23席/行列者78人 
・検察側証人尋問:本件の手術に携わった看護師、大野病院の院長

第5回公判(2007年5月25日)
・午前10時~午後6時(途中休憩は1時間強)
・一般傍聴席23席/行列者84人
・検察側証人尋問:鑑定医(患者の死亡直後の病理検査や鑑定などを実施した病理医)

第6回公判(2007年7月20日)
・午前10時~午後4時半(途中休憩は約1時間15分)
・一般傍聴席15席/行列者90人
・検察側証人尋問:鑑定医(検察側の鑑定を実施した産婦人科医)

第7回公判(2007年8月31日)
・午前9時半~午後7時(途中休憩は約1時間40分)
・一般傍聴席15席/行列者121人
・弁護側証人尋問:加藤医師

第8回公判(2007年9月28日)
・午前10時20分~午後7時半(途中休憩は約1時間30分)
・一般傍聴席27席/行列者66人
・弁護側証人尋問:胎盤病理を専門とする医師

第9回公判(2007年10月26日)
・午前10時~午後4時20分(途中休憩は約1時間30分)
・一般傍聴席27席/行列者63人
・弁護側証人尋問:周産期医療の第一人者
 
第10回公判(2007年11月30日)
・午前9時30分~午後4時(途中休憩は約1時間25分)
・一般傍聴席27席/行列者54人
・弁護側証人尋問:周産期医療の第一人者

第11回公判(2007年12月21日)
・午前10時~午後3時(途中休憩は約1時間)
・一般傍聴席25席/行列者63人
・加藤医師本人への尋問

第12回公判(2008年1月25日)
・午前11時~午後2時すぎ(途中休憩は1時間10分)
・一般傍聴席25席/行列者64人
・死亡した女性の夫、父親、弟の意見陳述

第13回公判(2008年3月21日)
・午後1時30分~午後6時20分(途中休憩は10分)
・一般傍聴席27席/行列者171人
・論告求刑

第14回公判(2008年5月16日)
・午前10時~午後4時40分(途中休憩は約1時間20分)
・一般傍聴席27席/行列者162人
・最終弁論

 以上のように、証人尋問を受けたのは、11人。そのほか、加藤医師本人、遺族3人、計15人が法廷に立った。11人の内訳は、本件の手術の関係者、鑑定人、周産期医療や胎盤病理の専門家。加藤医師は医師法21条違反に問われているが、弁護側が同条に詳しい法学者の証人尋問を求めたが、認められなかった。

 公判の時間は、計約80時間に及んだ。最も長かったのは、加藤医師への尋問が行われた、昨年8月の第7回公判だ。また、第13回の論告求刑で検察側が読み上げた「論告要旨」は160ページ超、第14回の「弁論要旨」は157ページに及ぶものだった。

 本裁判は、3人の裁判官が担当しているが、昨年4月には裁判長が、また今年4月には右陪席(中央に座る裁判長から見て右)の裁判官がそれぞれ交代している。一方、検察側も昨年春と今年春に何人か入れ替わっている。

橋本佳子(m3.com編集長)

(m3.com医療維新、2008年8月15日)

****** m3.com医療維新、2008年8月18日

福島県立大野病院事件◆Vol.14

検察側、弁護側の主張は最後まで平行線のまま

計14回に及んだ公判を振り返る(2)

 「昨年1月の初公判における冒頭陳述をもう一回聞いたようなもの」。

 今年3月の論告求刑時、計14回の公判を継続して傍聴していた、ある医師が思わずこうもらした。

 検察側、加藤医師・弁護側、遺族の、それぞれの主張や事件への思いなどは、最後まで変わらなかった――。これが、2007年1月以降、計14回に及んだ、福島県立大野病院事件の公判を傍聴した感想だ。

 死亡した女性は、帝王切開手術の既往がある前置胎盤の女性で、2004年12月17日、帝王切開手術時に出血を来し、死亡した。被告の加藤克彦医師は、業務上過失致死罪と医師法21条違反に問われている。

 検察は初公判時、業務上過失致死罪については、(1)帝王切開手術前の検査時、遅くても胎盤と子宮を用手的に剥離する際に、癒着胎盤であることを認識し、大量出血の危険を予見できた、(2)用手的剥離が困難になった時点で剥離を中止して、子宮摘出術に切り替える義務があったが、それを怠り、大量出血を招いた、(3)死因は出血死であり、加藤医師の行為との因果関係がある――などと主張した。また、医師法21条違反については、異状死の届け出を怠ったとしている。この検察の主張は論告求刑時も変わっていない。

 一方、弁護側は、これらを否定し、一貫して加藤医師の無罪を主張している。また、加藤医師は、初公判時、起訴事実を否定したが、「忸怩(じくじ)たる思いがあり、(死亡した女性の)ご冥福を心からお祈りします」と述べた。その後の証人尋問や今年5月の最終弁論時にも同様に、遺族へのお悔やみの言葉を繰り返し述べている。

 一般的に刑事裁判では、公権力による捜査が行われることから、民事裁判と比べて、「いったい何があったのか、その真実が明らかになる」と考えられているが、今回の場合は当てはまらないようだ。遺族は、計14回の公判を傍聴し、約80時間に及んだ検察、弁護側のやり取りを聞いていた。それでもなお、「真実が明らかになった」とは受け止めておらず、加藤医師の責任追及を求める気持ちは変わっていない。

 「剥離を中断し子宮摘出術に切り替えるべきだったか」が最大の争点

 公判では、証人尋問を受けた医師が、加藤医師の起訴前の事情聴取時などとは異なる発言をする場面が何度か見られた。しかし、検察側の主張は変わることはなく、弁護側の主張とは平行線をたどったままだった。

 裁判の最大の争点は、前述の(2)の「癒着胎盤であることを認識した場合、胎盤剥離を中止して、子宮摘出術に切り替える義務があったか否か」という点だ。

 この争点を因数分解すれば、(1)子宮摘出術に切り替えることができたか、(2)子宮摘出術に切り替えれば、大量出血を防ぐことが可能だったか、(3)胎盤剥離を完遂したことが大量出血をもたらしたのか、(4)大量出血と死亡との間には因果関係があるのか――ということになる。

 以下が、検察側、弁護側それぞれの主張だ。

 【検察側の主張】
 (2008年3月21日の論告求刑)

 (1)について
 手術時の女性の体位は子宮摘出術が容易な「砕石位」であり、女性の全身状態など、医学的観点から子宮摘出術が可能な状況にあり、術前の説明で「内容は不十分ながらも手術の危険性を説明し、子宮摘出術の同意を得ていた」などと主張。

 (2)について
 用手的剥離できない癒着胎盤をクーパーで無理に剥離したために、子宮内壁の動脈が子宮内壁に向けて開放された状態になり、子宮後壁下部からの出血が急増したと主張。

 (3)について
 胎盤娩出(午後2時50分)後の午後2時55分ころまでの総出血量は、5000mLに達していた。

 (4)について
 死因は、胎盤剥離を無理に継続したことによる大量出血であり、加藤医師の胎盤剥離行為と死亡との間には因果関係がある。

 検察側が依拠した証拠
 本件手術の麻酔記録、医学書類、病理鑑定医(第5回公判で証人尋問を受けた病理医)、検察側鑑定医(第6回公判で証人尋問を受けた婦人科腫瘍の専門家)など(弁護側の証人の意見については、「日本産婦人科学会などが本事件への抗議声明を出している状況下では、中立性・正確性に疑問がある」などとしている)。

 【弁護側の主張】
 (2008年5月16日の最終弁論)

 (1)(2)について
 胎盤剥離を完遂すれば子宮収縮により止血が期待できる、剥離を中断しても出血は止まらない、剥離を完遂した方が子宮を摘出しやすいことなどから、「胎盤剥離をいったん開始したら完遂するのが、わが国の臨床医学の実践における医療水準」であり、加藤医師の行為は「医学的な合理性がある」と主張。
 
 (3)について
 胎盤胎盤娩出(午後2時50分)後の午後2時52~53分ころまでの総出血量は、2555mLであり、胎盤剥離中の出血は最大でも555mL。

 (4)について
 死亡原因として羊水塞栓の可能性があり、出血の原因として産科DICの発症が考えられ、大量出血と死亡との因果関係には疑問の余地がある。

 弁護側が依拠した証拠
 麻酔記録、医学書類(検察の医学書の解釈は、「誤解もしくは曲解」していると主張)、弁護側証人(胎盤病理や周産期医療の第一人者=第8回、9回、10回の公判で証人尋問を受けた医師。検察側の病理鑑定医などと比較して、経験・実績から極めて信頼性・信用性が高いと主張)。

 胎盤剥離時の出血量という「数字」も一致せず

 加藤医師の医療行為の妥当性はもちろん、(3)の出血量という一見客観的に把握できる数字ですら、検察側と弁護側の主張は一致していない。(3)の客観的証拠として、「麻酔記録」に記載されているのは、「午後2時52~53分ころまでの総出血量は、2555mL」という事実のみ。しかし、検察は「出血があった時期と出血量が麻酔記録に記載された時期との間に間隔が生じることが避けられないこと」「輸血用製剤を手術室に持っていった助産師が『5000mL出てます』と聞いたこと」「加藤医師が、当日夜記載した記録で、『この辺りでbleeding 5000mLぐらいか』と記載したこと」などを指摘し、「胎盤剥離後までに5000mLの大量出血があった」と主張している。

 要は、依拠する証拠およびその解釈によって、主張が異なるのである。果たして裁判所は、いかなる証拠の信憑性を重んじ、判断するのだろうか。

(m3.com医療維新、2008年8月18日)

****** m3.com医療維新、2008年8月18日

福島県立大野病院事件◆Vol.15

大野病院事件をめぐる5つの誤解・疑問を考察

計14回に及んだ公判を振り返る(3)

 2006年2月18日の加藤克彦医師の逮捕、翌3月10日の起訴、そして2007年1月26日の初公判以降、福島県立大野病院事件は一般紙やテレビをはじめ、様々なメディアで取り上げられてきた。ネット時代にあって、各種情報が瞬時に伝わり、事件に関する議論が深まった一方で、中には事実とは異なる解釈がされているケースもある。さらに、計14回にわたった公判を傍聴し、疑問に思う部分もあった。今回はこれらについて考察してみる。

 その1●「加藤医師の逮捕は、医師法21条がきっかけではない」

 「福島県立大野病院事件の発端は、医師法21条に基づき、異状死の届け出をしなかったことにある」との見方が医療界にある。

 確かに、加藤医師は、業務上過失致死罪に加えて、医師法21条違反でも起訴されている。しかし、加藤医師の捜査の発端となったのは、2005年3月22日に「県立大野病院医療事故調査委員会」がまとめた、「県立大野病院医療事故について」と題する報告書だ。ここに、

 「出血は子宮摘出に進むべきところを、癒着胎盤を剥離し止血に進んだためである。胎盤剥離操作は十分な血液の到着を待ってから行うべきであった」

 などと、加藤医師に過失があったと受け取られかねない記載がある。しかし、報告書は医師法21条に基づく届け出には言及していない。つまり、業務上過失致死容疑で捜査が開始されたのであり、医師法21条違反はその捜査の過程で浮上したものと見るのが妥当だ。

 2007年6月27日に開催された、厚生労働省の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」で、警察庁刑事局刑事企画課長はこう述べている(下記は、当日の議事録から引用)。

 「(平成9年以降、ここ10年間で)医師法21条に基づいて届け出なかったから事件になったというのは7件ありますが、これはすべていわゆる業務上過失致死が付いています。どちらかというと医師法21条は変な言い方ですが、当然過失致死等で立件にふさわしい案件に合わせて、21条の届出がなされていなかったから立件しているのだということで、届け出なかったゆえに、そのことをもって立件しているという21条だけのケースは1件もありません」

 つまり、「医師法21条違反だけで立件することはない」と述べているのである。確かに、今の医師法21条をめぐっては様々な問題があり、今の“医療事故調”をめぐる議論に発展している。しかし、医師法21条だけを改正しても問題は解決しない。同時並行的に、「どんな医療行為に対して業務上過失致死罪を適用するか」、この点を議論しないと、医療事故が刑事事件に発展する懸念は払拭できず、“医療崩壊”を食い止めることもできない。

 その2●「なぜ公判で医師法21条について、ほとんど議論されなかったか」

 前述のように、加藤医師は医師法21条違反で起訴されている。しかし、加藤医師本人と、大野病院の院長がそれぞれ当時の様子を語り、また弁護団が最終弁論で医師法21条違反はないことを主張した以外は、ほとんど21条が取り上げられることがなかった。

 医師法21条をめぐっては、1994年が日本法医学会がガイドラインを出して以降、各学会、さらには厚生労働省が解釈を出しているが、見解は一致しておらず、医療現場に混乱が生じている。加藤医師の弁護団は、医師法21条に詳しい法学者の証人尋問を求めたものの、理由は不明だが、認められなかった。このため、弁護団はこの法学者の「意見書」の形で証拠提出しているが、証拠採用されていない。

 その3●「なぜ院内事故調査報告は証拠採用されなかったか」

 「その1」で言及した通り、加藤医師の逮捕は、2005年3月の「県立大野病院医療事故調査委員会」の報告書が発端となっている。この延長線上で考えれば、検察側は、この報告書の証拠採用を求めるはずだが、実際にはされていない。

 この報告書は、本文部分4ページ(A4判)に、表紙と目次、「用語集」が付いた体裁で、計3回の議論を経てまとめられている。

 注目すべきは、「今回の事例は、前1回帝王切開、後璧付着の前置胎盤であった妊婦が…」としている点だ。この点が検察の主張と、実は異なる。「後壁付着」の場合、「前壁付着」と比べて、子宮と胎盤が癒着(癒着胎盤)しているかを、帝王切開手術前の検査などで診断するのは難しい。検察は「前壁」に癒着があったと主張し、術前、遅くても用手的剥離をした時点で癒着胎盤の予見が可能だったとしている。

 なお、福島県立医科大学産婦人科教授の佐藤章氏は以前、「この報告書を見たとき、ミスがあったと受け取られかねない記載があるため、表現の訂正を求めたが、県は認めなかった」と語っている。この報告書は、示談金を支払うことを想定してまとめられたものとされ、医療側に問題がある内容でないと、示談金の支払いに支障が出ると県は判断したものと思われる。

 その4●「加藤医師は、外来患者さんの前で逮捕されたのではない」

 「加藤医師は外来診療中に逮捕された」と解釈している人がいるが、実際にはそうではない。加藤医師が逮捕・起訴以降、公の場でコメントしたのは、初公判の直後に開かれた記者会見の席上のみだが、ここで本人自身がこの点を否定している。

 2005年3月の「県立大野病院医療事故調査委員会」の報告書以降、加藤医師は数回、警察に事情を聞かれていた。2006年2月18日の逮捕当日の3~4日前に、警察から家宅捜索に入る旨の連絡があった。当日、家宅捜索後、「警察で話を聞く」と言われ、加藤医師は警察署に同行した。警察署の取調室に入った後、突然、逮捕状が読み上げられたという。

 「逮捕」は、証拠隠滅や海外逃亡の恐れなどがある場合に行われるのが一般的。今回の場合、既にカルテなどは押収され、加藤医師は数回取り調べを受けていた。書類送検ではなく、なぜ「逮捕」されたのかを疑問視する向きは多い。

 その5●「遺族は告訴していない」

 近年、「医療事故に遭った遺族が警察に訴える」というケースが見られる。しかし、大野病院事件の場合は、前述のように、警察の捜査の発端は、「県立大野病院医療事故調査委員会」の報告書であり、遺族が告訴したわけではない。なお、遺族への示談金は、現時点ではまだ支払われてない。
 
 もっとも、帝王切開手術で死亡した女性の遺族が、今回の経過に納得しているわけではない。今年1月25日に開催された第12回公判で、女性の夫、父親、弟がそれぞれ意見を述べた。警察や検察に対する感謝の意を述べた上で、加藤医師の責任追及、事故の真相究明を求めている。

(m3.com医療維新、2008年8月18日)


日立総合病院 分娩予約一時中止

2008年08月16日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

茨城県北部・日立地域(人口28万人:日立市・高萩市・北茨城市)の分娩取り扱い施設は、現在、日立総合病院(常勤医6人、日立市)、北茨城市立病院(常勤医2人、北茨城市)、瀬尾産婦人科医院(日立市)、加茂助産院(日立市)の4施設のみです。

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同地域の2006年の分娩件数は計2257人ですが、基幹病院である日立総合病院は、このうちの半数超の1215人の分娩を取り扱いました。この地域の分娩件数はこの十年間で700人減りましたが、日立総合病院が引き受けた分娩件数は逆に300人以上増えました。

来年の4月以降、日立総合病院に産婦人科常勤医を派遣している東大医学部との交渉が不透明な状況になっているようです。来年4月まで8ヶ月を切った現在、医師確保の確証のないままに、分娩の予約を受けることはできないとの判断から、8月8日付で分娩予約の一時中止を公表しました。

同地域の分娩取り扱い施設は15年前に計13施設だったのが、年々減少し続けて現在は4施設のみになったそうです。地域における「ハイリスク患者の受け皿」がなくなることになれば、この地域での分娩取り扱いの維持が困難となります。

このまま放置すれば産科空白地域がどんどん広がり、お産難民が全国各地で大量に発生するのはもう時間の問題です。政府・行政・市民・医療関係者・司法・警察・報道関係者などで情報を共有し、この国の産科医療を立て直すための抜本的対策に乗り出す必要があると思います。

******

日立総合病院ホームページ、2008年8月8日
http://www.hitachi.co.jp/hospital/hitachi/infor/osirase/2089106_24270.html

お知らせ

分娩予約の一時中止につきまして

患者さま各位

 当院の産婦人科におきましては、現在、誠に残念ながら2009年4月以降の医師の人員が明確になっておりません。医師の確保に向けて全力を傾けているところではありますが、現時点としては、4月以降の分娩予約をお受けすることは困難であるものと判断いたしました。

 従いまして、誠に恐縮ながら本日以降当面の間は新規の分娩予約をお断りさせていただきます。
 尚、妊娠の判定のみ当院でも対応は可能ですが、妊婦健診以降の診療は分娩予定の医療機関が継続的に受け持つことが安心につながると考えておりますので、妊娠初期の時点から紹介先医療機関をご受診いただくようお願い申しあげます。

 患者さまには大変なご迷惑とお足労をおかけいたしますが、この地区の産科医療を守るべく医師の確保につきましては鋭意努力中でありますので、何卒ご理解のほどよろしくお願い申しあげます。
 ご不明な点、あるいはご相談などがございましたら、総合案内窓口までお問い合わせ願います。

     2008年8月8日
     日立総合病院
     病院長 岡 裕爾

(日立総合病院ホームページ、2008年8月8日)

****** 読売新聞、茨城、2008年8月15日

日立の日製病院 分娩予約一時中止

産科医確保不透明 来年4月以降の分

 日立市の日立製作所日立総合病院が、来年4月以降の分娩(ぶんべん)予約の受け付けを「一時中止」していることが14日分かった。4月以降の産科医確保が流動的で、「現時点で予約を受けることは困難」と判断した。産婦人科の閉鎖はしない方針。

 日製病院は、県北地域の中核的な周産期母子医療センターに位置付けられ、県内では最も多い年間約1200件の出産を担っている。

 病院によると、現在、常勤の産科医は6人いるが、医師を派遣している大学から「来年4月以降の派遣は難しい」と伝えられた。大学との間で派遣継続に向けた折衝を続けているが、現時点で結論は出ておらず、来年4月以降の体制は不透明な状況だ。病院は「不確定な状況で予約を受けるのは、不誠実になる」と一時中止の理由を説明。「一時中止は暫定的なもので、10月ごろには大学側との間で結論を出し、方向性を決められれば。医師確保が確実になれば一時中止は撤回する」としている。

 産科医は全国的に不足し、24時間体制の勤務や緊急呼び出しなどの過酷な条件下で、お産の現場を支えている。日製病院でも、現在、常勤医1人当たり年間平均200件の出産を担っており、「現在の6人でも足りない」のが実情。県北地域は特に産科医不足が深刻で、県医療対策課などによると、日立地域で分娩ができるのは、高萩協同病院、日製病院、北茨城市立総合病院など5施設。日製病院と大学側との折衝結果によっては、地域のお産に大きな影響が出ることにもなりそうだ。

(読売新聞、茨城、2008年8月15日)

****** 読売新聞、2008年2月8日

24時間勤務 最高で月20日

「体力の限界」開業医も撤退

 「このままでは死んでしまう」。茨城県北部にある日立総合病院の産婦人科主任医長、山田学さん(42)は、そう思い詰めた時期がある。

 同病院は、地域の中核的な病院だが、産婦人科の常勤医8人のうち5人が、昨年3月で辞めた。補充は3人だけ。

 しわ寄せは責任者である山田さんに来た。月に分娩(ぶんべん)100件、手術を50件こなした。時間帯を選ばず出産や手術を行う産婦人科には当直があるが、翌日も夜まで帰れない。6時間に及ぶ難手術を終えて帰宅しても夜中に呼び出しを受ける。自宅では枕元に着替えを置いて寝る日々。手術中に胸が苦しくなったこともあった。

 この3月、さらに30歳代の男性医師が病院を去る。人員の補充ができなければ、過酷な勤務になるのは明らかだ。山田さんは、「地域の産科医療を守ろうと何とか踏みとどまっている。でも、今よりも厳しい状態になるようなら……」と表情を曇らせた。

 燃え尽きて、分娩の現場から去る医師もいる。

 別の病院の男性医師(44)は、部下の女性医師2人と年間約600件の分娩を扱っていた。24時間ぶっ続けの勤務が20日間に及ぶ月もあった。自分を病院に送り込んだ大学の医局に増員を訴えたが断られ、張りつめた糸が切れた。2005年夏、病院を辞め、分娩は扱わない開業医になった。その病院には医局から後輩が補充されたものの、やはり病院を去ったと聞いた。

 少子化になる前、お産の現場を支えてきた開業医たちも引退の時期を迎えている。東京・武蔵野市にある「佐々木産婦人科」の佐々木胤郎(たねお)医師(69)は、1975年の開業以来、3000人以上の赤ちゃんを取り上げてきた。しかし、今は「命を預かるお産は責任が重い。体力的にきつくなり、訴訟の不安もつきまとう」と、分娩をやめ、妊婦健診だけにしている。

             ◎

 産科医がお産から撤退すれば、妊婦にしわ寄せがくる。

 東京・町田市の女性は昨秋、妊娠5週目ほどの時に神奈川県内の小さな産科医院を初めて訪れ、あっけなくこう言われた。「あら、あなた35歳なの? うちでは診られないですね」

 周辺病院で産科の閉鎖が相次ぎ、この産院に妊婦が集中したため、リスクの高い35歳以上の初産妊婦はお断りせざるを得ない――。そんな張り紙が待合室の隅に張り出されていた。帰り際、「早く探さないと産めなくなりますよ」と、別の病院を3か所ほど紹介してくれた。「これが現実なのだと自分を納得させるしかありませんでした」

 その後、産院や助産院を5か所回った。2か所は断られた。ある産院では「35歳の初産は分娩時に救急搬送になる可能性が高い。そういう妊婦は受け入れられない」と言われた。

 「仕事が忙しくて、出産を先送りにしてきたが、35歳以上の出産がこれほど大変とは思わなかった」と話す。

 医者の産科離れを加速させるのが、医療事故や訴訟のリスクだ。「子どもが好きだから、将来は産婦人科医も面白そう」と考えていた医学部3年生男性(22)は、「一生懸命やっても訴訟を起こされたり、刑事裁判の被告になったりしたら人生が台なしになる」と、産婦人科に進むことをためらっている。

 勤務医は過労で燃え尽き、開業医も分娩から撤退。現状を知った医学生が産科を敬遠する。医師も施設もますます減っていき、緊急時の妊婦の受け入れ先がなくなる――そういう悪循環が見えてくる。

 産科医が直面する問題を昨年、小説に描いて話題になった昭和大医学部産婦人科学教室の岡井崇教授(60)は、「悪循環を断ち切るには、働く環境を改善して現場の医師をつなぎ留め、産婦人科に進む医学生を地道に増やしていくしかない」と話している。

(読売新聞、2008年2月8日)

****** 茨城新聞、2007年9月30日

日立地域お産ピンチ 中核の日製病院 医師確保、予断許さず

 日立地域のお産が危機にひんしている。日立・高萩・北茨城三市のお産の半数以上を手掛ける日立製作所日立総合病院(日立市)で来春以降、現行の産科医六人体制を維持できるか危うくなってきたためだ。日立地域では出産施設が年々姿を消し、現在は同病院も含め四施設だけ。同病院の引き受け体制が崩れれば、他に受け皿はなく、「出産難民」が生じかねない。日製日立病院は県医師会などとともに、医師確保へ躍起になっている。

 ■地域の半数超担当

 県医療対策課によると、昨年度の日立地域(日立・高萩・北茨城三市)の出生数は計二千二百五十七人。日製日立病院は、このうちの半数超の千二百十五人の出産を手掛けた。三市の合計出生数はこの十年間で七百人減ったが、同病院が引き受けた出産数は逆に三百人以上増えた。

 日製日立病院の常勤産婦人科医は現在六人。昨年三月以降、二人減った。産科医は二十四時間体制の宿直や休日当番、緊急の呼び出しなどがあり、「体を休める暇がない重労働が続く」(同病院)。若手医師の場合、残業時間は一カ月平均百時間に上るという。

 しかし、日製水戸病院によると、こうした常勤医六人のうち数人については、来年四月以降も引き続き勤務してもらえるか確約を得られていない。このため、病院は万一に備えて後任医師の確保に懸命だが、「行政も巻き込んで探さないと難しい」(同病院)。来春以降の出産予約を受け付けられるか予断を許さない状況で、去る八月には県に医師確保のための財政支援も要請した。

 ■負担限界超える

 県産婦人科医会(石渡勇会長)によると、日立地域の出産施設は十五年前には計十三施設を数えた。現在は日製日立病院と、昨年十一月に産科を再開した北茨城市立病院、診療所の瀬尾医院(日立市)、助産所の加茂助産院(同)の四施設だけ。

 日立地域の産婦人科の医師数は計六人。医師一人当たりの年間分娩ぶんべん数は約二百四十件に上る。日製日立病院に次いでお産が多いのは瀬尾医院だが、同医院の場合、医師は院長だけで、院長一人で年間約三百八十件のお産を担う。早産や胎児異常などリスクの大きいケースは日製日立病院に搬送している。

 石渡会長は「本来、通常分娩は医師一人当たり百五十人が限界」と指摘する。瀬尾医院の瀬尾文洋院長は「日製日立病院が疲弊すればハイリスク患者の受け皿がなくなる」と危機感を募らせる。

 ■困難な体制維持

 限られた医療資源を集約化して効率性を高めようと、県は昨年四月、県内を三ブロックに分け、各地域の中核病院を「総合周産期母子医療センター」と位置付けた。日製日立病院は「県北サブブロック」の「地域周産期母子医療センター」として県北東部を受け持つ。危険性の高い出産をセンターに集中させ、通常分娩は診療所や助産院が担う形を目指した。

 石渡会長は「センターも診療所も今ぎりぎりの状態を維持している。医師不足を改善しない限り問題は解決しない」と語る。県医師会の小松満副会長は「県全体の出産の四割を担う診療所がお産をやめると分娩体制を支えられなくなる」と警鐘を鳴らす。

 県によると、県内の産婦人科医師数は二〇〇四年現在、人口十万人当たり6・6人で全国四十二位に低迷。県内の地域間格差も顕著で、医療圏ごとにみると、日立地域は同4・9人と最も高いつくば地域(11・0人)の半分以下となっている。

(茨城新聞、2007年9月30日)

****** 読売新聞、山梨、2008年8月15日

常勤産婦人科医ゼロ

都留市立、10月から

 都留市立病院で唯一残っていた常勤産婦人科医が、9月末で派遣元の山梨大医学部に引き揚げることがわかった。

 これに伴い、市立甲府病院の産婦人科医が1人増員されるとみられる。都留市立病院では10月以降、同大から派遣される非常勤医が週3日診察を続けるという。

 都留市立病院によると、今年3月末に3人いた常勤産婦人科医のうち、2人が同大に引き揚げたため、4月からは出産の扱いを取りやめ、妊婦の検診や避妊などを扱っていた。

 常勤医の引き揚げは数か月前から決まっており、8月から患者に周知を始め、混乱はないという。都留市立病院は「非常勤化による不都合が生じないよう山梨大にお願いしている」としている。

 市立甲府病院は同大から派遣された常勤医が3人所属し、年間800件以上の出産を扱う県内最大規模の病院。4人になることにより、出産の受け入れ件数を増やすことができるほか、医師の過酷な勤務状況の緩和につながる。

(読売新聞、山梨、2008年8月15日)

****** 読売新聞、山梨、2008年8月15日

救急妊婦拒む病院増

「処置困難」「専門外」

 県内で救急搬送された妊婦が病院に受け入れを拒否された事例が年々増えていることが、県のまとめで分かった。受け入れ先が決まるまでに1時間かかったケースもある。県消防防災課は「産科医の不足や、未受診の妊婦の増加、産科医に多い訴訟リスクを避けるなど、全国的な傾向が影響しているのでは」と分析している。

 同課によると、2007年の妊婦の搬送数は計149件(転院は除く)で、このうち受け入れを拒否されたのは7件だった。06年は4件、05年は1件、04年はゼロだった。

 07年の7件のうち、断られた回数は1回が5件、2、3回がそれぞれ1件だった。3回のケースでは、救急車が現場に着いてから、受け入れ先が決まって搬送されるまで30~60分かかったという。06年にあった4回断られたケースでは、60~90分かかったという。

 07年分を地域別でみると、峡東地域が3件で、中北と東部地域がそれぞれ2件だった。拒否理由は「処置困難」「専門外」「医師不在」が1件ずつで、「理由不明」は5件(重複分含む)。

 医師不足の影響で、県内では、出産ができる医療機関が04年4月には24あったが、08年4月には16に減っている。また、全国的に、妊娠しても経済的な理由などで受診せず、出産時やトラブルが起きてから病院を訪れる「飛び込み出産」の妊婦は、リスク回避のため敬遠されるケースが多いという。

 県消防防災課の担当者は「搬送人員自体も少ないので拒否される数は全国的には少ない方だが、今後増える可能性はある」と懸念している。

(読売新聞、山梨、2008年8月15日)

****** 読売新聞、埼玉、2008年8月13日

足踏み 母胎搬送拠点  高リスク患者対応 県の事業 引き受け病院なく

 一般の産科病院・診療所では対応が難しいハイリスク分娩(ぶんべん)の受け入れ先を電話で探す県の「母胎搬送コントロールセンター」事業の開始めどが立っていない。県は7月から、周産期の基幹病院に助産師を配置してセンターを稼働させる予定だったが、新生児集中治療室(NICU)不足などを理由に、引き受ける基幹病院が見つからない。県は県医師会と対応を協議し、運営方針の見直しを検討している。

 県によると、コントロールセンターは基幹病院に常時1人の助産師を配置し、産科病院や診療所で切迫早産や多胎妊娠などのハイリスク分娩が発生した場合、産科医から連絡を受けて、代わりに空床を探す機関。診察と並行して受け入れ先を探さなければならない産科医の負担軽減が狙いだ。県は今年度の新規事業として、配置する助産師の人件費約1620万円を予算化した。

 県内には、最も高度な産科医療を担う「総合周産期母子医療センター」が埼玉医大総合医療センター(川越市)にあるほか、地域の拠点となる「地域周産期母子医療センター」が5か所ある。しかし、2007年度末現在、県内のNICU(準NICU3床を含む)は計68床にとどまり、病床利用率は96・6%とフル稼働の状態。

 田村正徳・総合周産期母子医療センター長によると、県内には180~200床程度のNICUが必要で、患者の約3割が東京都内に流れているという。同センターのNICUは24床で、低体重児やよりハイリスクな妊婦を優先的に受け入れているが、病床利用率は95・4%と高く、軽症患者を断るケースも多い。

 田村センター長は「コントロールセンターが当病院に設置された場合、軽症患者も引き受けざるを得なくなり、本来の役割を果たせなくなる」と懸念。「NICUが足りない現状を踏まえ、東京都などと受け入れに関する政策協定を結ぶことも考えるべきだ」と指摘する。

 近隣では神奈川県医師会が07年4月から、コントロールセンター同様の「県救急医療中央情報センター」を運営し、24時間態勢で受け入れ先を探しており、効果を上げている。

 埼玉県医師会も5月に設けた周産期・小児救急医療体制整備委員会で、コントロールセンターについて協議しており、県がオブザーバー参加している。委員からは「センターには助産師ではなく、医師を配置した方がスムーズに探せるのではないか」との意見も出ており、医師会と県は今後も、設置場所や運営方法について引き続き検討する。

(読売新聞、埼玉、2008年8月13日)

****** 読売新聞、2008年8月13日

妊婦健診現状議論を 産科医不足踏まえ

助産所県助成対象外

 妊婦が妊娠期間中に受ける妊婦健診について、県は今年度から、公費で助成する回数を昨年度までの2回から5回に増やした。ただし、助産所での健診は対象外だ。一方で、市町が独自に助成することは認めており、現在のところ静岡市など5市町が助成を行っている。一律助成が認められなかった背景や課題を探った。【石塚人生】

■無事出産 

静岡市清水区の高田尚子さん(40)は2005年12月、同市葵区の「くさの助産院」の畳敷きの部屋で、隣で手を握る夫と長男に励まされながら、二男を無事出産した。「家で産んでいるみたい。医療機関よりも安心できた」。高田さんが当時を振り返って言う。

 妊娠中、妊婦は健診を通常14回前後受ける。高田さんは長男を産科医院で出産し、健診も同医院で受けたが、「待ち時間は長いのに検査は数分」だった。一方、二男の妊娠中は、医療機関で受けた健診は最低限の2回。残りは同助産所で毎回1時間かけて受けた。長男の出産時の処置への不安や、体調の変化なども、院長で静岡市助産師会長の草野恵子さんに相談した。

 「私のように出産経験があり、異常もなければ、5回も医療機関で健診を受けるのは労力がかかるだけ」と高田さんは感じている。

■助成の判断 

高度な医療処置が必要になる出産は一般的に全体の2割程度だが、県内で年間に生まれる約3万3000人の赤ちゃんのうち、出産を扱う県内19助産所での出産は400~500人どまり。緊急時のことを考えてか、「産むなら病院で」との意識が強いのが現状だ。

 健診未受診での“飛び込み出産”を減らすため、県は4月から、病院や産科診療所で受ける5回の健診を公費負担している。しかし、助産所での健診は、血液検査など高度な項目の実施が難しいうえ、一部助産所で医療機関との連携が不十分だとして、県は県内一律での助成は認めなかった。

 ただし、市町の判断で助産所健診に助成することは容認。県こども家庭室によると、5回の健診の一部を助産所で行った場合にも助成しているのは静岡、袋井、伊豆市。吉田町と川根本町は5回を超える部分を助成している。一方、牧之原市は助産所での健診には助成しないなど、自治体により対応に差が生じている。

■安全と連携 

助産所での妊婦健診について、産婦人科医の赤堀昭夫・県医師会理事(牧之原市)は、「出産にはある程度の危険性があるが、今は100%の安全を求められる。その重圧が産科医不足を招いている。危険を負いたくないのが正直な気持ちで、せめて5回の健診は高度な検査が可能な医療機関で受けてほしい」と話す。

 これに対し、草野さんは「助産所は健康な妊婦が出産する場所。少しでも危険と判断したら、出産前に提携病院に送っている」と言う。昨年4月に改正医療法が施行され、助産所は緊急事態に備えて嘱託医療機関を確保するよう義務づけられた。静岡市助産師会や周辺市町の助産所は、県立総合病院(静岡市葵区)や県立こども病院(同)と緊急時の協定を締結している。

 草野さんは「法で義務づけられた連携が不十分ならば、県が医療機関と助産所を橋渡しして改善を指導すべきではないか」と指摘する。一方で、助産所での健診や出産にどんな問題があるか、医療機関と差はあるのか、明確なデータがないのが現状だ。情報がないまま、関係者が互いに疑心暗鬼になっている面も否定できない。

 県こども家庭室は「市町の判断に任せた以上、県がすぐに前面に出るのは難しい。今後、医療機関、助産師双方の意見を集約したい」とする。産科医が不足し助産師の活用も求められているなか、助産所、医療機関、行政それぞれが課題を点検し、同じ場で話し合うことが必要だ。

(読売新聞、2008年8月13日)

****** 静岡第一テレビ、2008年8月12日

伊豆日赤病院も常勤産科医退職へ

 伊豆市にある伊豆赤十字病院で、ことし2月に着任した唯一の産婦人科医師が1年で退職したいとの意向を示し、病院もこれに応じたことがわかりました。伊豆市の伊豆赤十字病院の産婦人科は、2月に60歳代の男性医師が着任し、3月からは、この医師が1人で産科と婦人科を担当し、分娩を行ってきました。病院によりますと、今月上旬、この医師から「来年1月末で退職したい」という申し出があり、病院側では、慰留に努めましたがかなわず、受理したものです。このため、来年1月以降の分娩は取り扱わない方針とし、外来や分娩の希望者には他の病院への紹介などを行うなど対応することにしています。後任はまだ決まらず、来年2月から休診せざるを得ない状況に追い込まれています。

(静岡第一テレビ、2008年8月12日)

****** 読売新聞、2007年8月12日

産婦人科、新規外来休止

相馬総合病院

 相双地区の拠点病院の一つ「公立相馬総合病院」(相馬市)が、12日から産婦人科の外来患者の新規受け付けをやめることになった。唯一の男性常勤医が10月末に退職することになったため。後任確保のメドが立っておらず、10月15日からは休診になる見通しだ。相馬市内でお産を扱うのは、民間診療所1か所だけになる。

 同病院は、相馬市と新地町が運営している。同病院によると、産婦人科の2007年度の外来患者は延べ約3600人。新生児集中治療室(NICU)を備えているため、県から相双地区で唯一の「周産期医療協力施設」に指定されている。07年度は県から約150万円の補助金が交付された。小児科と連携して出産直後から高度な医療を提供して新生児を管理することが可能で、リスクが高い妊婦の受け皿にもなっている。

 隣接する南相馬市には、周産期医療協力施設に指定された病院はなく、休診した場合、こうした患者が県北地区や宮城県などの拠点病院でお産を行わなければならないケースが出てくる。

 同病院は「南相馬市にも市立病院の産婦人科や診療所があり、すぐに住民が産婦人科の医療を受けることが出来なくなるわけではないが、早急に常勤医を確保したい」と話している。

(読売新聞、2007年8月12日)

****** 毎日新聞、静岡、2008年8月9日

藤枝市立総合病院:医師の退職受理、産科休止確定へ

 藤枝市の北村正平市長は8日、市立総合病院で1人しかいない産科医(56)が先月31日に提出した退職願を受理した。今月末で退職する予定で、同病院の産科休止が確定的になった。医師は「1人では不安」として着任2カ月で退職願を出した。同病院は産科の診療や分べんを休止するが、婦人科は非常勤医師による外来診療を続ける。受け付け再開以降に予約した22人は全員転院の手続きを済ませた。【稲生陽】

(毎日新聞、静岡、2008年8月9日)

****** 毎日新聞、奈良、2008年8月9日

妊婦転送死亡:発生2年 産科医療改善まだ途上、医師や看護師不足に課題

 一昨年8月の大淀町立大淀病院(大淀町)の妊婦死亡問題を受け、県内ではこの2年、周産期(出産前後の母子双方にとって注意を要する時期)医療の改善が加速した。しかし、昨年8月には橿原市の妊婦が搬送中に死産した。医師や看護師不足を中心に残る課題も多く、体制整備はまだ途上だ。【中村敦茂】

 今年5月26日には、高度な母子医療を提供する総合周産期母子医療センターが、県内最大の医療拠点である県立医大付属病院(橿原市)に開設された。都道府県で45番目の遅い出発だったが、同病院の母体・胎児集中治療管理室(MFICU)は3床から18床に増えた。新生児集中治療室(NICU)は21床から31床になった。県立奈良病院(奈良市)でも、NICU6床の増設計画が進んでいる。

 勤務医の待遇改善にも手が打たれた。県は今年度当初予算で県立病院と県立医大付属病院の医師給与引き上げや分娩(ぶんべん)手当の新設などに2億9200万円を計上。「全国最低レベル」とされた給与水準は改善し、年間給与は産科医で約200万円、医師平均で約100万円上昇。県は過酷勤務による離職防止や欠員補充の難しさの緩和を期待する。

 県は今年2月、勤務医の少なさをカバーするため、産婦人科の夜間・休日の1次救急に、開業医らが協力する輪番制も導入。4月には参加する開業医を増やして拡充し、一定の成果を出している。出産リスクが高くなる妊婦健診の未受診者を減らそうと、今年4月から妊娠判定の公費負担制度も始めるなど、他にも多くの策を講じてきた。

 それでもなお、厳しさは続いているのが現状だ。荒井正吾知事は周産期センター開設に際し、「難しいお産も含め、県内で対応できる態勢がほぼできあがった」と語った。しかし、それはフル稼働が実現すればの話。

 センターでは看護師約20人が不足し、NICUのうち9床は開設時から使えていない。このため実際のNICU運用は22床で、従来より1床増えただけ。受け入れ不能の主な要因となってきたNICU不足の実態に大きな変化はなく、大阪など県外へ妊婦を運ばざるを得ない状況は続いているという。

 待遇改善で、すぐに医師不足が解消したわけでもない。昨年4月に産科を休診した大淀病院の再開のめどは今も立たない。県立三室病院(三郷町)でも、来年4月以降の産科医確保の見通しが立たず、今月中には新規のお産受け付けを停止する可能性が出ている。

 この2年間で実現した改善は少なくないが、医師や看護師不足など、容易でない重要課題に解決の道筋はついていない。県などは、今年度設置した地域医療対策の協議会の議論で、現状打開に向けた模索を続けている。

(毎日新聞、奈良、2008年8月9日)

****** 産経新聞、2008年8月8日

産科医不足で助産師注目、人材育成が課題に

 全国で産科医が減り、分娩(ぶんべん)可能な病院が激減するなか、助産師外来など助産師を活用した対策が注目を集めている。ところが、過酷な勤務から、助産師も不足している状態だ。日本産婦人科医会の調査で、助産師充足率0%の診療所が44・4%と高知県と並んでワースト1位の山梨県では、この状況を打破しようと今秋、研究費を負担し、助産師の活用方法などを研究してもらう寄付講座を山梨大に開設する。【油原聡子】

                   ◇

 「助産師はもともとお産を扱える資格。本来の実力を発揮してもらえば、産科医の負担軽減にもつながるんです」。山梨県医務課の山下誠課長はこう話す。産科医が1人前になるには10年ほどかかるというが、助産師は大学で学ぶか看護師資格を持つ人が養成学校で1年間学べばよいので育成も早い。健診や保健指導、正常分娩を助産師が扱い、異常分娩を医師が診るよう役割分担できれば、お互いの負担を軽減できるというわけだ。

 寄付講座では、助産師外来や病院内で助産師が中心となって分娩介助する院内助産所開設のための課題や研修、医師との役割分担などについて研究してもらう予定だ。総務省によると国立大学法人の寄付講座で、産科医療に特化したものは全国でも初めてという。

 県医務課によると、県内で看護業務に就いている助産師は平成18年末で約230人。そのうち産科以外で看護師として働いているのが65人だ。山梨大などによると、1人の助産師が研修をしながら勤務に余裕を持って扱えるお産は年間30人という。県内では年間7500人ほどお産があり、不足している状況だ。

 ところが、県内の養成機関は県立大と山梨大医学部だけ。助産師課程を希望する学生は多いが定員は計15人程度と少なく、資格を取得しても県外の病院に就職してしまう学生も多い。ある助産師は「助産師の少ない地方の病院だと、新人がいきなり1人でお産を任せられるなど勤務が過酷。勤務態勢の整った大都市の病院で学びながら働きたいという学生も多い」と明かす。養成数が少ない上に、過酷な勤務状況が追い打ちをかけるのだ。山梨大医学部看護学科の遠藤俊子教授は「養成するだけではだめ。まとめて配置して交代勤務できるようにするなど働きやすい環境を整える必要がある」と指摘する。

 助産師の資格を取得できるのは女性だけのため、結婚・出産を機にやめたり、フルタイムで働けずに分娩から離れ、地域の保健指導に活躍の場を移すことも多い。しかし、日本助産師会山梨県支部の榊原まゆみ支部長は「分娩にかかわりたいと思っている助産師は多い」と指摘する。県の意向調査でも、「助産師外来は、助産師の専門性が発揮できる場」などの声が目立ち、活躍の場が広がることへの期待は大きい。だが、助産師が独り立ちして活躍するには最新の知識を学んでスキルアップを図り、医師と信頼関係を築く必要がある。分娩の中心だった昔と違い、医師の補助的な役割を果たすことに慣れてしまった助産師も多いからだ。

 昨年12月に開設した山梨大医学部付属病院の助産師外来も、医師と助産師の協力態勢の上に成り立っている。週1回、医師が正常と判断した妊婦の健診や保健指導を行っているが、医師がすぐ近くで診療しており、不安なことがあればすぐに相談できる。医師から超音波検査の技術も学んでいるといい、「医師の診察が必要ならすぐにお願いするし、先生方とのコミュニケーションが大事」と花輪ゆみ子産科病棟看護師長は話す。

 同病院の平田修司分娩部長は「産科医の目標は子供が無事に生まれることだが、助産師は出産前から育児までかかわれる。産科医不足だから助産師で補うという発想ではなく、助産師本来の能力を発揮してもらうという考えです」。人材育成など課題は多いが、妊娠中から出産後まで母親に寄り添ったケアができる助産師への期待は大きい。

               ◇

 ■過去半世紀で半減

 国内では1950年代までは、自宅で助産師の介助で出産するのが一般的だった。その後、正常な経過のお産でも医療機関で出産するのが主流になり、助産師数は半減。日本産婦人科医会の調査(平成18年)では、全国で6700人が不足しているという。また、日本助産師会によると、現在では助産師の8割近くが病院・診療所などの医療機関で勤務している。

 「正常なお産は結果論。いつ異常が起こるかわからないのがお産」。産科医も助産師もこう口をそろえる。医療機関での出産が進んだ結果、出産10万人あたりの妊産婦死亡率は、1955年には178・8人だったのが、2006年は4・9人と激減、日本の周産期医療は世界でもトップクラスになった。しかし、「安全なお産」が常識になった結果か、患者から訴えられるリスクも高まり、産科医が減少。昼夜を問わない過酷な状況が拍車をかけ、産科医不足から分娩をやめる病院が全国で出てきた。山梨県内の分娩(ぶんべん)可能な施設は、1998年は14病院26診療所だったのが2008年4月の時点で7病院9診療所と、この10年で激減した。

(産経新聞、2008年8月8日)

****** 中日新聞、2008年8月7日

産婦人科当番「空白」 医師不足、輪番制困難に

 夜間や休日に入院の必要な病気やけがを診る「2次救急病院」の輪番体制が、名古屋市で崩壊の危機にある。9日は、2病院が必要な産婦人科の当番が1病院しか決まっておらず、初めて「空白」が出る見通しだ。大都市の救急を担ってきた輪番制の維持が、医師不足で困難になってきている。

 同市では1973(昭和48)年、2次救急に輪番制を導入。67病院が協力し、愛知県病院協会が産婦人科、小児科など4診療科ごとに当番日を割り振る。しかし、医師や看護師を確保できず、協力する病院が10年前と比べて産婦人科が15から11、小児科が23から14に減った。

 輪番の空白は9月と11月にも予想されるという。協会で救急問題を担当する名古屋第一赤十字病院の小林陽一郎院長(65)は「これまで一部の病院が無理して輪番に参加してきたが、いよいよ難しくなった。都市部にも医師不足の波が押し寄せている」と話す。

 協会は3月、名古屋市に苦境を伝え、協力する病院への補助金(現行1晩約7万円)の増額や、市立病院の当番日を増やすことなどを要望。市は医療関係者をメンバーに検討会を設けたが、改善には至っていない。市保健医療課では「根底には医師不足があり、一朝一夕には解決できない」と話している。

 2次救急の輪番を診療科別に分けているのは一部の大都市に限られるが、参加病院の確保に悩む市は少なくない。札幌市では医師不足で産婦人科の輪番制の体制が取れなくなり、9月末で休止することに。

 千葉市は4病院で休日の産科救急輪番を回すが、担当者は「医師不足で2、3年前から維持するのが難しい状況」と話す。

 【2次救急】救急に対応する病院は3段階に分かれ役割分担している。2次救急は入院の必要がある患者を扱い、都道府県が定める医療圏域ごとに整備する。ほかに、軽い病気やけがを扱う1次、高度な設備を備えて命の危険がある患者に対応する3次がある。

(中日新聞、2008年8月7日)


公立病院の機能分担、連携研究 上伊那地域医療検討会

2008年08月14日 | 地域周産期医療

上伊那地域における分娩件数は年間約1600件で、このうち伊那中央病院(伊那市)が約1000件、昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)が約500件を受け入れていました。しかし、本年3月で昭和伊南総合病院が分娩の取り扱いを中止し、同地域における分娩のほとんどが伊那中央病院に集中することになりました。そのため、伊那中央病院では同地域の分娩全体の約2割を占める里帰り分娩の受け入れを制限していますが、それでも同病院で取り扱う分娩件数は昨年までと比べて著明に増加して、すでに受け入れの限界に達しているとのことです。

****** 中日新聞、長野、2008年8月13日

公立病院の機能分担、連携研究 上伊那地域医療検討会

 上伊那地域8市町村や3つの公立病院、県伊那保健所などで組織する「上伊那地域における医療検討会」は12日、県伊那合同庁舎で開いた。地域医療を確保していく目的で、研究会的な組織を立ち上げ、3病院の機能分担や連携の可能性を検討していくことを決めた。具体的な内容や検討法は3病院事務長会議などで詰めていく。

 検討会では、産科医不足により伊那中央病院(伊那市)を拠点に開業医や助産院、公立病院が健診や出産を担う連携体制の状況が報告された。助産師会は「妊婦健診の血液検査を、産科以外でも受けられる体制になれば、助産院で健診を受けることもできる。検討を」と要望した。

(以下略)

(中日新聞、長野、2008年8月13日)


大野事件から三次試案を振り返る、医療再生への道探る―医療制度研究会

2008年08月12日 | 大野病院事件

コメント(私見):

もともと産婦人科医は長期的に減少傾向にありましたが、ここまで急激に減ってしまうとは誰も予想していませんでした。今、三十代、四十代の働き盛りの医師達が、お産からどんどん離れています。地域の分娩を長年にわたり担ってきた病院や診療所が分娩の取り扱いを中止する例が、全国各地で後を絶ちません。大野病院事件がこの産婦人科医減少の傾向にさらに拍車をかけたことは間違いないと思います。

各医療圏では、何とかしてこの危機的状況を打開しようと、それぞれ、地域としての対応策を必死になって協議しています。しかし、協議をするたびに次から次へと新たな難問に直面し、頻繁に対応策の全面的練り直しを迫られているような状況です。

私の居住する医療圏でも、2006年春に地域の分娩取り扱い施設が6施設から3施設に半減しました。分娩を中止した3施設では、合計すると年間800件程度の分娩を取り扱ってました。当科の分娩件数は、2006年4月から従来と比べていきなり倍増しました。

個々の医療圏や県レベルの自助努力には限界があり、このままではこの先、各医療圏の産科医療体制がどこまで持ちこたえられるか全くわかりません。

大野病院事件を契機に、崩壊の危機に瀕している産科医療に対する世の中の関心が急に高まり、マスコミでも毎日のように産科の問題が取り上げられるようになりました。政府もやっと危機感を持ち始めて、最近、産科医療を立て直すためのいくつかの緊急対策を発表しました。しかし、全国各地の産科医不足の深刻さは、今も変わりがありません。このまま放置すれば、産科空白地域がどんどん広がり、お産難民が全国各地で大量に発生するのはもう時間の問題です。政府・行政・市民・医療関係者・司法・警察・報道関係者などで情報を共有し、この国の産科医療を立て直すための抜本的対策に乗り出す必要があると思います。

”お産難民”発生寸前 (東京新聞)

****** 医療介護CBニュース、2008年8月11日

大野事件から三次試案を振り返る
―医療制度研究会

 現場の医療者らが医療問題について考えるNPO「医療制度研究会」は8月9日に夏季研修会を開催。「大野病院事件から第三次試案大綱までを振り返る」をテーマに、産婦人科医やテレビ番組制作者、弁護士がそれぞれの立場から講演した。

【福島県立大野病院事件】
 福島県立大野病院事件は、2004年12月、帝王切開手術中の女性を、子宮に癒着した胎盤のはく離による大量出血で失血死させたとして、当時の産婦人科医長、加藤克彦被告が業務上過失致死などの罪に問われて06年に逮捕・起訴された事件。今年8月20日に判決が言い渡される。公判では、出血後もはく離を続けた判断の妥当性などが争点となり、弁護側は加藤被告の無罪を主張している。現場の医師からは、「産婦人科医が一生に一度、遭遇するかしないかと言われるまれな症例で、医学的にみても治療に誤りはなかった」との声が上がっている。訴訟リスクを懸念する医師らが臨床現場を離れ、重症患者を引き受けなくなる委縮医療を招いているとの指摘もある。

「大野病院事件が何を残した」
野村麻実・名古屋医療センター産婦人科医師

 野村氏は「産科医療崩壊の現場から―大野病院事件によって浮き彫りにされた問題点」と題して講演。事件発生から加藤被告が逮捕されるまでの流れとして、「医師法21条による(異状死の)届け出がされていない。遺族からの告訴がされていない」と指摘した。このため、死因究明制度の第三次試案や法案大綱案が、医師法21条の改正に着眼していることを「大きな誤解」とした。また、「業務上過失致死傷罪が(告訴されることが公訴の前提となる)親告罪でないために、警察が望めばいつでも介入できることも問題」と述べた。
 このほか、医療事故死などの捜査手法について、「業務上過失致死罪の逮捕基準があいまいで、自白偏重になっている。自白調書が欲しいために逮捕・拘留する『人質司法』と言われ、それも問題」と述べた。

 大野病院事件の争点整理として、①胎盤と子宮の癒着を認識した時点で胎盤のはく離を中止すべきだったか【癒着部位やその程度、出血の程度や予見可能性、死亡との因果関係、クーパー(手術用ハサミ)を使用してはく離したことの妥当性】②医師法21条違反に当たるか③被告の供述の任意性―を挙げた。このうち①に関して(「癒着部位やその程度」以外)は、「医師の裁量権の問題。その場で医師がどう判断し、どう対応するかは素人が考えて判決を出す問題ではない。それが争点の中心的な問題になっている。それを刑事で裁くことに問題がある」との見方を示した。

 野村氏は「刑事訴追の問題点は、個人を罰するという方法しかなく、検事が問題とする点についてのみ議論が続けられること」と指摘。大野病院事件でも、麻酔科などの問題は議論されていないと訴えた。また、裁判の場では遺族感情は慰撫(いぶ)されないと主張した上で、「医療と裁判は相性がよくない」と述べた。
 このほか、福島県内では事件後に13施設(休止予定も含む)が分娩の取り扱いをやめていることなどを説明し、事件の影響で県内の産科医療の崩壊が進みつつあると訴えた。

(以下略)


母体搬送システムの改善はいまだ途上(埼玉県、奈良県)

2008年08月11日 | 地域周産期医療

****** 読売新聞、埼玉、2008年8月13日

足踏み 母胎搬送拠点 高リスク患者対応 県の事業

引き受け病院なく

 一般の産科病院・診療所では対応が難しいハイリスク分娩(ぶんべん)の受け入れ先を電話で探す県の「母胎搬送コントロールセンター」事業の開始めどが立っていない。県は7月から、周産期の基幹病院に助産師を配置してセンターを稼働させる予定だったが、新生児集中治療室(NICU)不足などを理由に、引き受ける基幹病院が見つからない。県は県医師会と対応を協議し、運営方針の見直しを検討している。

 県によると、コントロールセンターは基幹病院に常時1人の助産師を配置し、産科病院や診療所で切迫早産や多胎妊娠などのハイリスク分娩が発生した場合、産科医から連絡を受けて、代わりに空床を探す機関。診察と並行して受け入れ先を探さなければならない産科医の負担軽減が狙いだ。県は今年度の新規事業として、配置する助産師の人件費約1620万円を予算化した。

 県内には、最も高度な産科医療を担う「総合周産期母子医療センター」が埼玉医大総合医療センター(川越市)にあるほか、地域の拠点となる「地域周産期母子医療センター」が5か所ある。しかし、2007年度末現在、県内のNICU(準NICU3床を含む)は計68床にとどまり、病床利用率は96・6%とフル稼働の状態。

 田村正徳・総合周産期母子医療センター長によると、県内には180~200床程度のNICUが必要で、患者の約3割が東京都内に流れているという。同センターのNICUは24床で、低体重児やよりハイリスクな妊婦を優先的に受け入れているが、病床利用率は95・4%と高く、軽症患者を断るケースも多い。

 田村センター長は「コントロールセンターが当病院に設置された場合、軽症患者も引き受けざるを得なくなり、本来の役割を果たせなくなる」と懸念。「NICUが足りない現状を踏まえ、東京都などと受け入れに関する政策協定を結ぶことも考えるべきだ」と指摘する。

 近隣では神奈川県医師会が07年4月から、コントロールセンター同様の「県救急医療中央情報センター」を運営し、24時間態勢で受け入れ先を探しており、効果を上げている。

 埼玉県医師会も5月に設けた周産期・小児救急医療体制整備委員会で、コントロールセンターについて協議しており、県がオブザーバー参加している。委員からは「センターには助産師ではなく、医師を配置した方がスムーズに探せるのではないか」との意見も出ており、医師会と県は今後も、設置場所や運営方法について引き続き検討する。

(読売新聞、埼玉、2008年8月13日)

****** 毎日新聞、奈良、2008年8月9日

妊婦転送死亡:発生2年 産科医療改善まだ途上、医師や看護師不足に課題

 一昨年8月の大淀町立大淀病院(大淀町)の妊婦死亡問題を受け、県内ではこの2年、周産期(出産前後の母子双方にとって注意を要する時期)医療の改善が加速した。しかし、昨年8月には橿原市の妊婦が搬送中に死産した。医師や看護師不足を中心に残る課題も多く、体制整備はまだ途上だ。【中村敦茂】

 今年5月26日には、高度な母子医療を提供する総合周産期母子医療センターが、県内最大の医療拠点である県立医大付属病院(橿原市)に開設された。都道府県で45番目の遅い出発だったが、同病院の母体・胎児集中治療管理室(MFICU)は3床から18床に増えた。新生児集中治療室(NICU)は21床から31床になった。県立奈良病院(奈良市)でも、NICU6床の増設計画が進んでいる。

 勤務医の待遇改善にも手が打たれた。県は今年度当初予算で県立病院と県立医大付属病院の医師給与引き上げや分娩(ぶんべん)手当の新設などに2億9200万円を計上。「全国最低レベル」とされた給与水準は改善し、年間給与は産科医で約200万円、医師平均で約100万円上昇。県は過酷勤務による離職防止や欠員補充の難しさの緩和を期待する。

 県は今年2月、勤務医の少なさをカバーするため、産婦人科の夜間・休日の1次救急に、開業医らが協力する輪番制も導入。4月には参加する開業医を増やして拡充し、一定の成果を出している。出産リスクが高くなる妊婦健診の未受診者を減らそうと、今年4月から妊娠判定の公費負担制度も始めるなど、他にも多くの策を講じてきた。

 それでもなお、厳しさは続いているのが現状だ。荒井正吾知事は周産期センター開設に際し、「難しいお産も含め、県内で対応できる態勢がほぼできあがった」と語った。しかし、それはフル稼働が実現すればの話。

 センターでは看護師約20人が不足し、NICUのうち9床は開設時から使えていない。このため実際のNICU運用は22床で、従来より1床増えただけ。受け入れ不能の主な要因となってきたNICU不足の実態に大きな変化はなく、大阪など県外へ妊婦を運ばざるを得ない状況は続いているという。

 待遇改善で、すぐに医師不足が解消したわけでもない。昨年4月に産科を休診した大淀病院の再開のめどは今も立たない。県立三室病院(三郷町)でも、来年4月以降の産科医確保の見通しが立たず、今月中には新規のお産受け付けを停止する可能性が出ている。

 この2年間で実現した改善は少なくないが、医師や看護師不足など、容易でない重要課題に解決の道筋はついていない。県などは、今年度設置した地域医療対策の協議会の議論で、現状打開に向けた模索を続けている。

(毎日新聞、奈良、2008年8月9日)


全国医師連盟 大野病院事件判決に向けて声明 「患者・家族救済制度」設立を要望

2008年08月09日 | 大野病院事件

コメント(私見):

医療従事者に特に過失がなくても、分娩に伴って、脳性麻痺、母体死亡、周産期死亡などの不幸な出来事は、一定の確率で必ず起こります。現行制度では、予期せぬ医療事故で、患者が死亡したり重大な後遺症を負った場合、医療従事者の過失が認定されないと患者や家族に医療保険の補償金が給付されない仕組みになっています。そのため、弱者救済という立場から、『医学的には医療従事者の過失が明らかでなくても、患者や家族の救済を目的に医療従事者の過失が裁判で認定されてしまうようなケース』もあり、それが産科医療崩壊の大きな要因の一つとなっています。従って、産科医療崩壊立て直しの第1歩として、『予期せぬ医療事故で、患者が死亡したり重大な後遺症を負った場合に、医療従事者の過失の有無などを問わずに、患者および家族への経済的救済を行う制度』(無過失補償制度)の産科医療への早期導入が必要と考えられています。

来年1月1日より産科医療補償制度の運用が開始されます。その新しい制度で補償の対象になるのは、分娩に伴って脳性麻痺を発症したケースのうち、原則として新生児が「出生体重2000グラム以上かつ在胎週数が33週以上」で「身体障害者等級1、2級相当」などに該当する場合です。医療機関が分娩1件あたり3万円の保険料を負担し、審査により補償対象と認定されると、医療従事者の過失の有無を問わず総額3000万円が給付されることになっています。本制度の補償対象となる者は概ね500~800人程度日本医療機能評価機構・産科医療補償制度運営組織準備委員会報告書と見込まれます。

このように、本制度の運用開始時は、『分娩に伴って重症脳性麻痺が発症したケース』のみに補償対象が限定されます。分娩1件あたりの保険料の負担額が3万円で給付金が3000万円という設定だと、補償対象は重症の脳性麻痺のみに限定せざるを得ないという事情があるようです。将来的には、この制度の補償対象が分娩時母体死亡や周産期死亡などにも拡大されることを期待しますが、補償対象を拡大すれば、保険料の負担額が大幅に増額される可能性もあります。

産科医療補償制度の開始

福島県立大野病院の医師逮捕事件について
(自ブロク内リンク集)

****** Japan Medicine、2008年8月8日

全国医師連盟 大野病院事件判決に向けて声明 「患者・家族救済制度」設立を要望

 医療再生を目指す勤務医の団体、全国医師連盟(黒川衛代表)は5日、今月20日の福島県立大野病院事件判決(第1審)に向けた声明をまとめた。声明では、予期せぬ医療事故が発生した場合には、医療従事者の過失の有無などを問わずに患者および家族(遺族)への社会的慰撫(いぶ)・経済的救済を行う制度が必要だとして、制度設立を要望した。

 大野病院事件では、最善の医療を行いながらも、事故を防げなかった場合には、業務上過失致死罪や異状死の届け出義務違反などにより医療従事者が刑事訴追されることが表面化し、医療界に大きな混乱を与えている。
  声明の中で連盟は「不幸な結果のみで過失犯として断罪される危険を強く感じる。本件の逮捕・起訴が誤りであったことを確信している」と表明し、救命救急活動時の医療行為への刑事罰適用を限定し、刑事訴追を回避する法的整備が必要だとした。
  全国医師連盟は、<1>診療環境の改善<2>医療情報の啓発<3>法的倫理的課題の解決-の3つの課題を掲げて6月に設立した。

福島県立大野病院事件判決に際して、全国医師連盟の声明(一部抜粋)
  医療過誤の有無を問わず不幸にして予期せぬ医療事故に遭われた患者さん、御家族、御遺族への社会的慰撫と経済的救済を行う制度の設立を強く望みます。私達医師は、その救済制度実現に協力いたします。
  また、救命活動時の医療行為に対する刑事罰適用は限定し、刑事訴追を回避する法的整備を望みます。
  これらの救済制度の実現と刑事訴追回避のための法整備は、国民と医療の未来のために、是非とも必要な措置であると信じます。

2008年8月5日
全国医師連盟

(Japan Medicine、2008年8月8日)

****** 全国医師連盟、2008年8月5日

「福島県立大野病院事件判決に際して、全国医師連盟の声明」

はじめに、今回の手術でお亡くなりになられた方、そして御遺族の皆様方に心より哀悼の意を捧げます。

平成十六年十二月十七日、福島県立大野病院で、患者さんが帝王切開術中の大量出血によりお亡くなりになりました。この手術を担 当した産婦人科医は、業務上過失致死罪(刑法211条1項)および異状死の届出義務違反(医師法21条違反)容疑で逮捕、起訴されまし た。本年八月二十日には、一審判決の言い渡しが予定されています。

予期しない医療事故が生じた場合、後遺症を負った患者さんや御 家族、あるいは患者さんが不幸にして亡くなられた場合の御遺族には、耐え難い悲しみが襲いかかります。同時に、現実生活の上で経済的困難が大きく立ちはだかります。
現在の医療技術や診療環境の実際においては、どうしても不幸な 医療事故をゼロにすることは出来ません。

不幸な医療事故が起きたときには、それが医療従事者による過失 によるものだったのか、あるいは人の力では如何ともし難い結果だったのかを問わず、こうした患者さんや御家族・御遺族を社会的に慰撫し、経済的に救済する必要があります。
私達医師は、国によってその制度が設立されることを望み、また制度設立のために協力を致したいと思います。

もう一つ重要なことが有ります。
この事件では、担当医の逮捕、起訴という衝撃もあり、多くの医療団体及び医学系の学会から「これでは医療が出来ない」との抗議 声明が出ております。
多くの医師達は、本件訴訟において検察側・弁護側の立証から明 らかになった診療経過を検討し、本件担当医と同じ診療条件に置かれた場合、最善の医療を施しても助け得なかったのではないかと判 断しています。
また、日常診療における予期しない死亡事故が起こったとき、最善の医療を行っていても、不幸な結果のみで過失犯として断罪され る危険を強く感じました。
私達は、本件の逮捕、起訴が誤りであったことを確信しています。

私たち医師は、救命救急活動中や日常診療中に予期しない事態に 遭遇することはまれではなく、その際、判断を瞬時に行わなければ 患者さんの死に直結します。その一連の医療行為を後で検証すれば、 正しい判断であったかどうか不明な部分は必ず出てきます。
しかし、それは後方視的検討によって浮かび上がる問題点であり、 今後の医療の改善に役立つ情報ではあっても、その当時に通常の医 師として為すべきことを為したかという過失認定とは異なるもので す。従って、救命活動などの緊急時の医療行為は、多くの場合、業 務上過失致死罪の成立が阻却されると考えます。

医療事故に対して無闇に刑事訴追を行うことは、国民と医療者との対立を深め医療現場の荒廃を生み、その結果が国民には、十分な 医療を受けられないという不利益となってはね返ります。
福島大野病院事件のような事件を、二度と繰り返してはなりません。国民に必要な医療を守り医療事故から救済するために、全国医師連盟は以下の事を主張いたします。

医療過誤の有無を問わず不幸にして予期せぬ医療事故に会われた患者さん、御家族、御遺族への社会的慰撫と経済的救済を行う制度の設立を強く望みます。私達医師は、その救済制度実現に協力いた します。

また、救命活動時の医療行為に対する刑事罰適用は限定し、刑事訴追を回避する法的整備を望みます。

これらの救済制度の実現と刑事訴追回避のための法整備は、国民と医療の未来の為に、是非とも必要な措置であると信じます。

              平成二十年八月五日
                  全国医師連盟

(全国医師連盟、2008年8月5日)


昭和伊南総合病院の救命救急センター指定見直しの問題

2008年08月08日 | 地域医療

コメント(私見):

救命救急センターとは、急性心筋梗塞、脳卒中、頭部外傷など、2次救急で対応できない複数診療科領域の重篤な患者に対し高度な医療技術を提供する3次救急医療機関であり、人口100万人あたり最低1カ所、それ以下の県では各県1カ所設置されます。

24時間救急に対応するには常時1名以上の救急科の専門医が病院に待機している必要があり、そのためには最低でも5名程度の専任の専門医を確保する必要があると考えられますが、現実的には、救命救急センターが設置されていても、救急科の専門医が十分には確保されてない病院も多く、その結果、救急科医師の労働環境が悪化し、激務に耐えかねて辞める医師が増加し、それによって、救急科医師の労働環境がさらに悪化、というように悪循環に陥っています。

少ない医師数で救命救急センターの運営を維持するのは大きな限界があります。長野県の人口は約217万人ですから、人口規模から言えば、本来は県内に救命救急センターは2カ所程度設置されるのが適正数とも考えられます。ただ、救命救急センターまでのアクセスに時間がかかりすぎると救命率が下がるので、むやみに施設数を減らすわけにもいかない事情もあります。

既存の救命救急センターとの距離的問題などから3次救急医療を必要とする重篤な患者の診療を行うため新たにセンターの整備が必要と認められる圏域には10床程度の新型救命救急センターの設置が認められることになりました。

長野県・南信地区では、約30年前に昭和伊南総合病院が救命救急センター(30床)に指定されて、長い間その機能を果たしてきました。しかし、30年の間には事情もかなり変わってきましたので、南信地区に新型救命救急センターを3カ所設置することになり、2年前、昭和伊南総合病院の救命救急センターを30床から10床に縮小し、諏訪赤十字病院(10床)、飯田市立病院(10床)が新型救命救急センターとして新たに指定されました。昭和伊南総合病院と伊那中央病院とは同じ上伊那地方にあって、同地方の救急患者の多くは伊那中央病院に搬送されています。現在、上伊那地方のセンターをどの病院に指定するのかで問題となっています。

信州大付属病院は、救命救急センターのうちでも特に高度な診療機能を提供する高度救命救急センターとして認可されています。

(伊那毎日新聞、2008年8月1日)

****** 信濃毎日新聞、2008年8月6日

地域医療の要に波紋

医師減の影響深刻 公立3病院維持 重い課題

 県の救急医療機能評価委員会が7月末、昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)の救命救急センターに「機能不十分」との評価を下し、病院や地域に波紋を広げている。県は本年度内に、同病院がセンターにふさわしいかどうか見極める方針。仮にセンター指定を外れれば、同病院の経営難に拍車をかける可能性もある。指定の見直しは、公立病院が多くを担う上伊那地方の地域医療をどう維持していくか、根幹にかかわる課題も投げ掛けている。

◆救命救急センター 心筋梗塞、脳卒中、頭部損傷など重篤な救急患者に24時間態勢で高度な医療を提供する施設。県が病院に設置を要請し、国が認める。対象病院は実質的に県の判断で決まるが、指定を取り消す権限はないとされる。県内のセンターは東信が佐久総合(20床)、北信が長野赤十字(34床)、中信が信大付属(20床)と相沢(10床)、南信が昭和伊南(10床)、諏訪赤十字(10床)、飯田市立(10床)の計7ヵ所。

昭和伊南の救急「不十分」評価

 「厳しい判断が下るとは思っていた。医師不足はわれわれの努力だけでは何ともならないのが現状だ」

 評価委が昭和伊南を現地調査に訪れた7月31日。評価結果を聞いた長崎正明院長は淡々と語った。

 評価委はこの日、調査を終えると直ちに、「センターとしては不十分」(滝野昌也委員長)との見解を表明。8月中にも事実上の指定替えを求める報告を県に出す考えを明らかにした。

 「常勤医が50人はいないとセンターの運営が厳しいことは分かっていた」。ある男性医師は言う。同病院の常勤医は現在23人。2003年3月には36人いたが、信大の引き揚げや開業などを理由に次々と流出した。その厳しさは、誰よりも現場の医師たちが痛感している。

 1979年、昭和伊南は「24時間・365日の高度な救急医療」を掲げる救命救急センターに県内で初めて指定された。長い歴史を持つ救急医療に誇りを持つ関係者は少なくない。

 だが現在、救急部門の常勤医は2人。休日・夜間の多くを他の診療科の医師がカバーする。整形外科と産婦人科の常勤医は不在だ。

 医師不足は経営面にも深刻な影響を与えた。04年度に約9800万円だった単年度赤字は06年度、約4億6800万円に拡大。「医師が1人いなくなれば、年間1億円の減収につながる」(事務部)という。

 このままセンターの指定が外れれば、高度医療を提供するとの理由で高く設定された診療報酬が適用されなくなり、経営へのさらなる打撃は避けられない。運営する伊南行政組合の杉本幸治組合長(駒ヶ根市)は「今後も守り抜く」と力を込めるが、「悪循環」を抜け出す特効薬は見つかっていない。

 昭和伊南がセンターでなくなった場合、指定が有力視されるのは伊那中央(伊那市)だ。常勤医師は現在62人。心肺停止状態で救急部門に運ばれたケースは07年1年間に105件あり、昭和伊南の45件を大きく上回る。

 南信のセンターをめぐっては、前県政時代に県が昭和伊南に「自主返上」を促したものの、地元の反対を受けて存続方針に転換。指定を見込んでいた伊那中央側は、運営する伊那中央行政組合の小坂樫男・伊那市長が「はしごを外された」と猛反発し、両病院や地域間のしこりも生んだ。

 こうした経緯もあり、伊那中央側は「センターになれば今と同じ態勢で1億1千万円の収入増になる」と期待感を示す。

 ただ、指定替えによる影響は未知数な部分もある。伊那中央でも、かつて7人いた救急部門の常勤医師は現在3人に減り、休日や夜間は他の診療科もカバーする。昭和伊南の運営がより厳しくなれば、伊那中央にさらに患者が集まり、医師の負担が過重になる事態も招きかねない。

 今年1月、小坂市長は昭和伊南、伊那中央と辰野総合(上伊那郡辰野町)の公立3病院の経営統合にも言及したが、その後議論は進んでいない。「上伊那の公立3病院全体をどう維持していけばいいか、難しい課題だ」。市長は重く受け止める。

 センター見直しをめぐり、地域にとって最善の「着地点」は見いだせるか。医師不足で昭和伊南がお産の扱い休止を決めたことを受け、昨年10月に駒ヶ根市の母親らがつくった「安心して安全な出産ができる環境を考える会」の須田秀枝代表は「まずは病院同士、行政同士が率直に話し合ってほしい」と求めた。【東条勝洋、大杉健二】

南信地区の救命救急センターをめぐる主な経緯

1979年4月 昭和伊南総合病院のセンター(30床)が運営
       開始
2005年3月 県の救急医療機能評価委員会が昭和伊南を
       「マンパワー不足で将来的に厳しい」と評価
     8月 県が昭和伊南にセンター指定の「自主返上」
       を要請、地元側は反発
     9月 県が南信のセンターを伊那中央、諏訪赤十
       字、飯田市立に10床ずつ再配置する案を示す
2006年5月 田中知事(当時)が方針を転換、昭和伊南の
       センターを10床に縮小して存続、残り20床を
       諏訪赤十字と飯田市立に配置する考えを表明
     9月 機能評価委が昭和伊南、諏訪赤十字、飯田
              市立への再配置方針を「妥当」と判断
    10月 新体制に移行
2008年7月 機能評価委が昭和伊南を現地調査、「機能が
       不十分」との評価で一致

(信濃毎日新聞、2008年8月6日)

****** 伊那毎日新聞、2008年8月1日

昭和伊南総合病院 「緊急医療に不適切な状態」と認識示す 県緊急医療機能評価委員会、7月31日の現地視察で

 長野県緊急医療機能評価委員会が31日、駒ヶ根市の昭和伊南総合病院を現地調査し、「救急医療を行なうには不十分」という認識を示した。

 委員会は、県内の救命救急センターに指定されている病院を視察し、センターとしての機能が発揮されているかを調査している。今年度視察するのは、県内の指定病院7カ所のうち2カ所で、今日は、長野赤十字病院と昭和伊南病院が対象。視察後に病院側と意見交換もした。

 委員からは、夜間の救急センターの運営や、他の医療機関と連携について質問が出され、救命救急センター長の村岡伸介医師は、「休日・夜間に勤務した次の日に、休めないこともあり、厳しい状況だ」と答えていた。

 連携については、現在昭和伊南病院には、整形外科や産婦人科の常任医師がいないので、伊那中央病院などに依頼している状況であると報告していた。

 視察を終えて、瀧野昌也委員長(長野救命医療専門学校救急救命士学科学科長)は、「委員全員一致で、救急医療を行なうには不十分だと感じた。今後の改善の取り組みを見守りたい」と話した。また、委員から、「伊那中央病院のセンター指定を視野に入れて視察をしてはどうか」との意見も出たと話していた。

 昭和伊南病院の長崎正明院長は「無理して継続することにより悪影響が出るよりは返上もやむをえない」と話していた。

 長野県は今年度中に上伊那の救急医療体制について方針を出したいとしている。【伊那ケーブルテレビジョン】

(伊那毎日新聞、2008年8月1日)


シンポジウムのお知らせ(大野事件の判決日、福島に集まりましょう!)

2008年08月07日 | 大野病院事件

大野事件の判決日、福島に集まりましょう!!!
(産科医療のこれから)

日時:2008年8月20日13:00~15:00
シンポジウム(会場は福島グリーンパレス)

福島グリーンパレス  http://www.fukushimagp.com/
〒960-8068 福島市大田町13番53号(福島駅西口より徒歩2分)
TEL 024-533-1171 FAX 024-533-1198

参加のお申し込み:お名前とご所属を、
oono.obs@gmail.comまでメールでお送りください

参加費:1000円

ホームページ:http://oono-obs.umin.jp/

 2006年2月18日に福島・大野病院の産婦人科医が癒着胎盤による母体死亡で逮捕されてから、約2年半の歳月が過ぎました。まるで殺人者のように手錠を掛けられて連行される画像がテレビで放映されたのも、もう昔のことのようです。
 しかし、この事件の及ぼした社会的影響は大きく、一人医長問題の見直しと集約化、萎縮医療による二次医療機関の実質一次医療機関化、産婦人科医の不安、離脱などが起こり、地域や基幹病院産婦人科が次々となくなりました。また問題は産婦人科のみではありません。侵襲的治療・検査にかかわる外科・内科分野や、一刻一秒を争う救急分野でも同様のことが社会問題化しています。
 8月20日、ついに大野事件の判決が出ます。
 2年半にわたった刑事裁判によって、誰が、何を得ることができたのでしょうか?事件によって提起された、様々な問題点は解決できたのでしょうか?
 多くの時間と人的労力をかけたこの裁判の求刑は、懲役よりも軽い禁固1年と医師法21条違反の10万円。そして、どのような結果が出たとしても、控訴するかどうかを決定する権限は検察にあります。ご遺族にとっても、かかわった医療関係者にも、苦しみの連続だったのではないでしょうか。そして市民も、地域医療の崩壊に苦しんできたはずです。
 逮捕に始まる一連の騒動によって、かろうじて保たれていた地域産科医療は既に全国的に崩壊の真っただ中にいます。
 大野事件とはなんだったのか。あの逮捕劇はなんだったのか。あなたの街でもすぐに起こることかもしれません。医療関係者の方々も、忙しい日々の医療から手を離して、いま一度、福島の地で、医療事故刑事裁判とはなにか、いま地域の医療崩壊はどうなっているのか、行政や市民の方々と共に真剣に考えてみませんか?ご参加をお待ちしております。
 野村麻実 (名古屋医療センター 産婦人科)

参考記事:特集「大野病院事件判決」(共同通信)

****** 河北新報、2008年8月6日

福島・大野病院事件考えよう 20日シンポ

 帝王切開中に判断の誤りから患者を死亡させたとして福島県立大野病院(大熊町)の産婦人科医が業務上過失致死罪などに問われた事件について考えようと、福島地裁で産婦人科医の判決公判が開かれる20日、全国の医師らが福島市でシンポジウムを開催する。実行委は「地元のお母さんたちや行政関係者も参加し、意見を語ってほしい」と呼び掛けている。

 大野病院事件では、逮捕時から医学界で立件に反対する声明が相次いだ。当日は医師や弁護士らがパネリストになり、事件と判決が周産期医療だけでなく医療界全体に及ぼす影響を探る。全国から40―50人の医師が参加する見込みという。

 実行委メンバーでパネリストを務める名古屋市の産婦人科医野村麻実さん(34)は「事件の影響で産科医不足に拍車が掛かり、地域の周産期医療は崩壊寸前だ。事件が及ぼしたものを地元福島で考えたい」と話す。

 判決公判は20日午前10時開廷で、シンポジウムは午後1時から福島市太田町の福島グリーンパレスで開く。定員約400人。参加費1000円で当日参加も受け付ける。連絡先は実行委080(7031)3032。

(河北新報、2008年8月6日)

****** 医療介護CBニュース、2008年8月5日

大野事件の意味を考えるシンポ開催

 シンポジウム「福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える」が8月20日の午後1時から、福島市の福島グリーンパレスで開かれる。「福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える会実行委員会」の主催。
 産婦人科医が帝王切開手術中の女性を大量出血で失血死させたとして、業務上過失致死などの罪に問われ、2006年に逮捕・起訴された「福島県立大野病院事件」の判決が同日に言い渡されることを受けたもの。

 シンポジウム呼び掛け人の野村麻実医師は、「このシンポジウムを通し、医療者も患者も困っているということを皆で共有したい。この裁判をきっかけに、福島の地域医療が崩壊し、委縮医療を招いた。医療崩壊は産科から外科などにも広がっている。われわれ医療側もこうした事件が起こらなければ、世間に対してなかなか動かないという反省がある。ただ、地域医療を守るには、医療者だけでなく住民の参加が必須。シンポジウムには、地域の人や妊婦さんたちの会などにも来てもらい、一緒にこの問題や、今後の地域医療について考えていきたい」と話している。

 パネリストは以下の通り。
 山崎輝行・(長野県)飯田市立病院産婦人科部長▽野村麻実・国立病院機構名古屋医療センター産婦人科医師▽岸和史・和歌山県立医科大放射線医学講座准教授▽佐藤一樹・綾瀬循環器病院心臓血管外科医師▽川口恭・ロハスメディア代表取締役▽加治一毅弁護士▽上昌広・東大東大医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門特任准教授

(医療介護CBニュース、2008年8月5日)

****** 福島放送、2008年8月3日

20日に大野病院医療過誤事件の判決

 大熊町の県立大野病院で平成16年、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が手術中に死亡した医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた大熊町下野上、産婦人科医加藤克彦被告(40)の判決公判は20日午前10時から、福島地裁(鈴木信行裁判長)で開かれる。

 医療界などが注目する判決まで2週間余。福島地裁が下す判断は今後の周産期医療の在り方に影響を与えそうだ。

(福島放送、2008年8月3日)