http://www.chiba-og.jp/osirase.asp
千葉県産科婦人科医会のホームページより転載
福島県立病院産婦人科医師逮捕に対する千葉県産婦人科医会の対応について
すでに、会員の皆さんはご存知のことと思いますが、本年2月18日に、帝王切開術後の妊婦死亡により、手術を担当した福島県立病院の産婦人科医が逮捕される、という事件が発生しました。詳細については、不明な点も少なくありません。しかし、千葉県産婦人科医会では、現時点で司法当局から明らかにされている逮捕、起訴の理由は、明らかに不当であることを確認し、関係団体とともに抗議活動および逮捕された医師への支援募金活動を行うことを理事会において決定しました。会員の皆様の協力、支援をお願いいたします。
声明
千葉県産科婦人科医会会長
八田 賢明
はじめに、今回亡くなられた患者様とそのご遺族に対し心より哀悼の意を表したいと存じます。
お産や手術に際して、担当した患者様が亡くなられる事は、ご家族と同様に、周産期医療に携わるものにとっても大変残念で悲しい事であり、医療の限界を痛感させられるものです。
平成18年2月18日、帝王切開中の大量出血により患者様が亡くなられた件で、福島県立大野病院産婦人科医師が業務上過失致死ならびに医師法違反の容疑で逮捕され、同年3月10日起訴されました。
私たちは、医療上の不幸な転帰に関して遺族への保障制度がない我が国では、今回のような事例が民事事件として取り扱われることもやむを得ないかと考えます。
しかし、診療にあたった医師個人の逮捕、勾留、起訴という司法当局の対応については、座視することはできず、強く抗議の意志を発せざるを得ません。
1、業務上過失致死容疑について
①癒着胎盤の予見について
現代の医療水準において癒着胎盤を事前に診断することは極めて困難であると考えます。
②多量出血に対する対応
医療には100%安全で、確実であるということはありません。それゆえ最善を尽くし診療に当たったとしても、ある一定の頻度で不幸な出来事が起こることを避けることはできません。同様な事例は、産科医が1人しかいない施設のみならず、複数の産婦人科医がおり、輸血が準備できる高次周産期医療施設でも起こりうると考えます。
以上より司法当局の判断には、医学的な見地との間に隔たりがあり、この判断に基づく逮捕・起訴は誤りであると私たちは考えます。
2、医師法違反-「異状死」の解釈およびその届出について
臨床の立場から、「異状死」とは診療行為の合併症としては合理的に説明できないものと考えます。本件では出血による出血性ショックという報告書の結論もでており、異状死の定義には該当しないと判断します。届出については、県立大野病院の「医療事故防止のための安全管理マニュアル」に従い、 病院長へ報告ならびに事故報告もなされおり、医師個人の届出義務違反にも該当しないと考えます。
また、報道されるように今回の医師の逮捕・勾留・起訴の発端が「事故報告書」であったとすると、私たちが診療行為の中で起こったインシデント、アクシデントを反省し、再発防止に努めようとする自浄作用を妨害し、今後の医療の安全性の向上を妨げるものであると考えます。
3、逮捕・勾留について
平成17年3月に県立大野病院事故調査委員会が事故調査を行い、報告書を作成し、行政処分が行われ、同年4月には県警が提査・証拠書類の押収を行ったと報道されています。さらに当該医師は、病院での処分後も当該病院にて産婦人科医師として診療に従事していたのとことです。これらの情報が正しいとすると「証拠隠滅及び逃亡の恐れがある」として逮捕・勾留が行われことは県警・検察の強権的暴挙と言わざるを得ません。
加藤医師に対する逮捕、勾留、起訴については、すでに日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会の共同声明や産婦人科医会各県支部およびさまざまな関係団体から多くの抗議声明がなされています。しかし、それ以上に産婦人科医だけでなく実際に臨床に関わる多くの医師が個人として、抗議、危惧の声をあげています。これは、このような不幸な事例に対して個人の医師の逮捕、勾留、起訴という形での対応しか取れない社会では、今後個々の医療者が、医療を必要とする人々に良心的な医療を提供できない状況が起こりうることが容易に想像できるからに他なりません。
自発的な意志による加藤医師支援募金署名活動に賛意を示し、この逮捕・勾留・起訴が不当であると判断し、強く抗議します。
1) 医療事象に対する第三者による調査機関の早期設立、
2) 医師法21条の「異状死」の解釈の統一化、
3) 医療者に対する「逮捕」・「勾留」の適応についての明確化
4) 「事故報告書」の適応外使用の禁止、