ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

長野県・上伊那地域の産科医療の状況

2007年06月28日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

長野県・上伊那地域の年間分娩件数は約1600件程度で、現時点においてこの地域で分娩を取り扱っている施設は2施設ですが、来年4月以降は現体制を維持するのが困難な状況にあり、この地域の分娩取り扱い施設が1つだけになってしまう可能性もあるようです。

そこで、今後のこの地域の産科医療提供体制をいかにして再構築していくのか?について、行政、両病院の代表者、大学関係者などが会談し、抜本的な解決策の検討を始めた、との報道です。

参考:産科・小児科の重点配置を提言 (長野県産科・小児科医療対策検討会)

**** 医療タイムス、長野、2007年6月26日

昭和伊南と伊那中央の産科医集約も

 ~上伊那地域における医療検討会

 「上伊那地域における医療検討会」は22日、伊那合同庁舎で初会合を開き、今後の産科医療の提供体制について検討を始めた。産科医師の負担軽減を目的に、昭和伊南病院の産科医を、産婦人科の「連携強化病院」である伊那中央病院に集約することを軸に協議を進める方向性が示された。

 現在、上伊那地域の医療機関では年間1600件のお産を取り扱っている。このうち、分娩件数が最も多いのは伊那中央病院の常勤医4人で1000件、次いで昭和伊南病院の常勤医2人で500件、その他100件となっている。

 会合では、信大医学部産科婦人科学教室の金井誠講師が県内の産科・小児科医療体制について説明。飯田下伊那地域での産科集約化を例に挙げ、「県内の産科医、小児科医不足はかなり深刻。特に産科医の集約化は避けられない状況にある」と、上伊那地域でも集約化を含めた抜本的な解決策の検討が必要だと訴えた。

 伊那保健所の宮澤茂次長は「(産科医療は)地域住民の生活に直結する問題。住民の意向を聞きながら広域連合、自治体、病院それぞれの立場で、今後について考えていきたい」としている。

(医療タイムス、長野、2007年6月26日)

****** 信濃毎日新聞、2007年6月26日

医師不足で連携模索 伊那中央病院と昭和伊南病院 早急な対応検討へ

 上伊那地方の医師不足に連携して対応しようと、伊那中央病院(伊那市)を運営する伊那中央行政組合の組合長・小坂樫男伊那市長らと、昭和伊南総合病院(駒ケ根市)を運営する伊南行政組合の組合長・中原正純駒ケ根市長らが25日、伊那市役所で会談した。信大医学部や県衛生部も交えて、具体的な連携方法を早急に決めることで合意した。

 産婦人科や整形外科などの医師確保が難しくなっている昭和伊南側が呼び掛けた。昭和伊南側は、現在4人いる整形外科医は今秋にゼロ~2人、産婦人科医(2人)は来年4月以降いなくなる可能性があるとした。

 上伊那の医療体制は、伊那中央病院地域救急医療センターの専従医師が減り、上伊那医師会に医師派遣の協力を求めているのが実情。また、産婦人科医は伊那中央に4人、昭和伊南に2人いるものの、年間のお産の受け入れ数は伊那中央が約1000人、昭和伊南は約500人に上っている。伊那中央の小川秋実院長は「理想」とされる医師1人につき年間150人を既に超えているとした。

 会談は非公開で行った。取材に対して小川院長は「地域の需要にどう応えるかは深刻な問題だが、妙案はない。産婦人科などの限定せず、全科をどうするか考えていきたい」と話した。

(信濃毎日新聞、2007年6月26日)

****** 中日新聞、2007年6月26日

医師不足対策で会談

昭和伊南と伊那中央病院 検討組織設置へ

 医師不足が深刻化している問題で、伊南行政組合の昭和伊南病院(駒ヶ根市)と伊那中央行政組合の伊那中央病院(伊那市)の双方の組合長、院長、事務長らが25日、伊那市役所で非公開の会談をした。両病院が連携強化を図るための「検討組織」を早急に設置することを確認した。(相坂穣)

医療の質維持の道探る

 会談は、産科医、小児科医の減少で、出産の取り扱いを停止せざるを得ない恐れが出てきた昭和伊南病院側の要請で初めて開かれ、同病院の中原正純組合長、千葉茂俊院長、福沢利彦事務長、伊那中央病院の小坂樫男組合長、小川秋實院長、薮田清和事務長が出席。

 両病院をはじめ、上伊那地方各地の医師不足の現状について意見を交換。それぞれの病院が得意とする診療科を分担して強化し、地域全体の医療の質を維持する可能性などを具体的に探る検討組織の設置を目指すことに合意した。

(中日新聞、2007年6月26日)

****** 伊那毎日新聞、2007年6月26日

医師不足で具体策を検討

伊那中央、昭和伊南が懇談

 医師不足問題を抱え、伊那中央病院(伊那市)と昭和伊南総合病院(駒ケ根市)は25日、産科など医療全般にわたって協力していくことを確認した。今後、問題点をクリアできる具体策を早急に検討する。

 懇談には両病院の院長、それぞれの病院を運営する伊那中央行政組合・伊南行政組合の組合長らが出席。

 医師不足は各診療科で問題だが、開業医で対応できる内科などに比べ、産婦人科の場合は出産する場所が限られるため、特に深刻だ。産婦人科医1人が受け持つ出産件数は年間150人が適数といわれるが、両病院では250人。

 昭和病院の産婦人科医は前年度と同じ2人を確保しているが、来年度以降、維持するのが厳しい現状になる可能性があるとして、中病側へ出向いた。中病の産婦人科医は4人。「お産一つとっても、これ以上の対応はできない」という。

 懇談(非公開)では、それぞれ病院の現状などを説明。状況に応じて県、信大なども交え、医師不足に対応する具体策を検討することとした。

 中病の小川秋実院長は「限られた医療資源の中で、需要にどう対応していくのか、難しい問題」と述べた。

(伊那毎日新聞、2007年6月26日)


大淀病院事件・第1回口頭弁論の報道

2007年06月27日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

この事例は、本来、担当医個人の責任に帰する問題というよりは、むしろ、地域の周産期医療システムの不備に帰する問題だと思われます。

周産期医療システムが整備されてない地域では、分娩中に何か異変が発生するたびに、担当医が苦労して母体搬送の受け入れ先を探し出さねばなりません。近隣に受け入れ先がどうしても見つからなければ、県外のはるか遠方の病院にも受け入れ可能かどうかを打診しなければなりません。

母体搬送の受け入れ先がなかなか見つからないのは、地域の周産期医療システムの問題であり、担当医個人の責任ではありません。

もしも、『地域の医療システムの不備によって生じた問題なのに、担当医個人が結果責任を問われる』ということになれば、医療システムが整ってない地域では医療に従事できなくなってしまいます。

参考:

転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)

妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 (朝日新聞)

<母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ

奈良の妊婦死亡、産科医らに波紋 処置に賛否両論

医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (朝日新聞)

転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出(読売新聞)

周産期医療システムの不備は、誰に責任があるのだろうか?

****** 読売新聞、2007年6月26日

大淀病院妊婦死亡 町・医師争う姿勢

民事訴訟第1回弁論「脳出血、救命できず」

 大淀町立大淀病院で昨年8月、出産時に意識不明になった妊婦が相次いで転院拒否された末に死亡した問題で、遺族が「脳検査も治療もせず放置した」として同町と担当医を相手に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、大阪地裁(大島真一裁判長)であった。被告側は「重篤な脳内出血のため救命できず、死亡との因果関係はない」と請求棄却を求め、全面的に争う姿勢を示した。

 この日は、亡くなった○○○○さん(当時32歳)の夫で原告の□□さん(25)が「医師からは命を助けようとする必死さが全く伝わってこなかった。妻は一度もわが子を見ることも抱くこともできなかった」と時折、涙ぐみながら訴えた。

 これに対し、被告側は「子供の命も重大な危機に直面したが、何の障害も残さずに助かっており、医師の処置の正しさを証明している。県医師会なども『医師に責任がない』との見解を表明した」と反論した。

夫ら記者会見「休診は逃げ」と反論

 弁論終了後、夫の□□さんら遺族が記者会見。「子どものために頑張りたい」と、真相解明と病院の責任追及に向けて改めて決意を語った。

 □□さんは、被告側が全面的に争つ姿勢を見せたことに「これから争いが続く悲しみに、耐えられるか不安もある」と揺れる心境を吐露したが、「このままでは、なぜ母親が亡くなったのかを子どもに伝えられない」と真実を明らかにする思いを述べた。

 また、被告側が弁論で、同病院の産科の休診を「(今回の問題で)正当な批判の域を超えてバッシングされ、撤退を余儀なくされた」と説明したが、それについては、□□さんは「自分たちは続けてほしいと願っている。病院の”逃げ”だと思う」と反論した。

 ○○さんの義父の△△さん(53)も「病院側は当初、違う理由を説明していた。今回の問題を理由にするのは卑劣で、□□の心が傷つかないか心配」と涙を浮かベて訴えた。

 また、県警による業務上過失致死容疑での捜査について、被告側が「警察は.『立件しない』としている」と述べたことに対し、△△さんは「県警からは『今もまだ一生懸命やっています』という報告もあった」と否定した。

(読売新聞、2007年6月26日)

****** 毎日新聞、2007年6月26日

奈良・妊婦転送死亡:賠償訴訟 初弁論、夫が涙の訴え 両親も癒えぬ悲しみ

 ◇「命助けようとする必死さ伝わらなかった」

 ◇娘の死、産科医療に生かして--両親も癒えぬ悲しみ

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明となった同県五條市の○○○○さん(当時32歳)の転送が難航した上、死亡した問題で、夫□□さん(25)と10カ月の長男◇◇ちゃんが町と担当医師に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の初弁論が25日、大阪地裁(大島眞一裁判長)であった。□□さんは「命を助けようとする必死さが伝わってこなかった」と涙ながらに意見陳述。被告側は「早く搬送していても救命の可能性はなかった」と全面的に争う姿勢をみせた。【高瀬浩平、撮影も】

 この日、○○さんの両親も傍聴。母(58)は終了後、「あの子は天国から見守ってくれたと思います」と涙を浮かべた。

 □□さんが意見陳述に立つと、母は胸に抱いた○○さんの遺影に「見守っててね」と語りかけた。手にした赤い巾着(きんちゃく)袋の中には安産のお守りと、○○さんの回復を願って写した般若心経。「奇跡が起きて良くなりますようにと、わらにもすがる思いでした。あの子の枕元にずっと置いていました。奇跡は起きませんでした」と袋をさすった。

 弁論で、母は被告側の「社会的なバッシングで大淀病院は周産期医療から撤退した」との意見表明に心を痛めた。「○○の死で病院が閉鎖に追い込まれたかのような主張。○○も『そうじゃないでしょ』と言いたいと思う」と少し口調を強めた。

 父(60)も「娘は亡くなったのに、被告側が被害者だと言っている感じがした。なぜ亡くなったのか、なぜ脳内出血が起きたのか究明してほしい」と訴えた。

 母の悲しみは癒えない。一日に何度も仏壇に手を合わせ「どうしてる?」「○○ちゃん。安らかになれたらいいね」と話しかける。24日に墓参りし、「正しい道が開かれますように見守ってね」と祈った。

 父も「寂しさや悲しみは和らぎ、薄らぐことがない。日がたつにつれて増していく感じ。娘は妻として母としての夢があった。子どもにどんな服を着せよう、どんなお弁当を作ってあげよう、と言って、普通の平凡な生活を望んでいたと思う。夢を閉ざされて無念だっただろう」と話した。訴訟については「娘の死を産科医療の充実のために生かしてほしいというのが親としての思いだ」と話した。

(毎日新聞、2007年6月26日、大阪朝刊)

****** NHK奈良のニュース、2007年6月26日

妊婦死亡裁判 病院争う姿勢

 去年、大淀町の町立病院で妊婦が出産中に意識不明となって死亡したのは医師の診断ミスが原因だと夫らが訴えている裁判で、病院側は、「出産中に大量の脳内出血を起こし、どのような処置をしても助けられなかった」と全面的に争う姿勢を示しました。

 この問題は、去年8月、大淀町の町立大淀病院で、○○○○さん(当時32)が出産中に脳内出血で意識不明となり、ほかの19の病院に受け入れを断られて大阪の病院まで運ばれた末、8日後に死亡したものです。
 原告で夫の□□さんら2人は、「脳内出血を疑わせる兆候があったのに、産婦人科の主治医が放置したため容態が悪化し、死亡につながった」として、病院を運営する町と主治医に損害賠償を求めています。
 25日は大阪地方裁判所で1回目の裁判が行われ、被告の町と医師側は、「医師は放置していないし、妊婦が大量の脳内出血を起こしていたことを考えるとどのような処置をしても命を救うことはできなかった」と反論し、全面的に争う姿勢を示しました。
 この問題が明らかになった後、大淀病院はことし3月一杯で産科を休診しましたが、これについて被告側の弁護士は、「今回の件でバッシングを受けた結果だ。原告らの誤った主張は医療界をあげて断固正していく」と批判しました。これに対し、原告の□□さんは裁判の後、「病院には産科を続けて欲しかったが、事故の検証もせずに廃止を決めてしまった。逃げたとしか思えない」と話していました。

(NHK、2007年6月26日)

****** 朝日新聞、2007年6月25日

病院側「産科医療全体の問題」と反論 奈良妊婦死亡訴訟

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、出産中の妊婦が19病院に転院の受け入れを断られた末に死亡した問題をめぐり、遺族が町と担当医師に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、大阪地裁で開かれた。被告側は意見陳述で「産科診療体制の問題を特定の医師や医療機関の責任に転嫁している」と述べ、全面的に争う姿勢を示した。

 被告の同病院産婦人科(現・婦人科)の男性医師(60)側は、医師は早く搬送先が見つかるよう努めた▽早く転院できても助かった可能性はない――などと主張。「社会的制裁を受け、病院は産科医療からの撤退を余儀なくされた」とした。

 一方、長男の出産後に脳内出血で亡くなった○○○○さん(当時32)の夫で原告の□□さん(25)も意見陳述に立ち、「もう少し早く別の病院に搬送されれば助かったのではないか、という思いが頭から離れない」と声を震わせて訴えた。

(朝日新聞、2007年6月25日)

******* 共同通信、2007年6月25日

「遺族は責任を転嫁」 妊婦死亡で町が争う姿勢

 奈良県大淀町立大淀病院で出産時に意識不明となり、約20の病院に転院を断られた後に死亡した○○○○さん=当時(32)=の夫□□さん(25)らが大淀町と担当医に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、大阪地裁(大島真一裁判長)で開かれ、町側は争う姿勢を示した。

 町側代理人は「診療体制の問題点を特定の医師、医療機関に責任転嫁しようとしており、到底許容できない」と主張。提訴を「正当な批判を超えたバッシング」と批判し「結果として病院は周産期医療から撤退、県南部は産科医療の崩壊に至っている」と述べた。

 遺族側の訴えについては「脳内出血は当初から大量で、処置にかかわらず救命し得なかった」と反論した。

 これに先立ち意見陳述した□□さんは、転院先の医師から「あまりに時間がたちすぎた」と伝えられたことを明かし、おえつしながら「もう少し早ければ助かったということ。それが頭から離れません」と訴えた。

 閉廷後、□□さんは記者会見し「病院側は(周産期医療を)続けようと何か努力したのか。逃げたとしか思えない」と反論した。

 訴状などによると、○○さんは昨年8月8日未明、分娩(ぶんべん)のため入院していた大淀病院で意識不明となり、約20の病院から受け入れを断られた後、転送先の医療機関で男児を出産したが、16日に死亡した。大淀病院の担当医は、晋輔さんらが脳内出血の可能性を指摘したのに適切な処置をしなかったという。

(共同通信、2007年6月25日)


医師の確保―医学部の定員を増やせ (朝日新聞)

2007年06月26日 | 地域医療

コメント(私見):

地方ばかりでなく都市部でも、多くの病院の勤務医が不足し、激務に耐え切れなくなった勤務医達が医療現場から立ち去っています。最近では、この医師不足の問題が、連日、マスコミで大きく取り上げられています。

政府・与党が発表した「緊急医師確保対策」では、『医師不足の地域に緊急臨時的に医師を派遣できる、国レベルのシステムを構築する』との方針が示されました。しかし、都市部でも医師不足が問題となっているのに、一体どこに「派遣する医師」がいるのでしょうか? 

日本の医学部定員は84年の約8300人がピークで、その後は医学部定員が約8%削減されたままになっています。医師養成数を削減した結果として、現在の医師不足問題が生じているのは間違いありません。

今、医学部定員を増やしたとしても、実働の医師数が増え始めるのは10年先の話で、この医師不足の問題がすぐに解決するわけではありませんが、全体の医師数が不足している状況を放置したままでは、この医師不足の問題は永久に解決しません。長期的対策として、日本の医師養成数を増やしていく必要があります。

参考:医師不足 苦しむ地方 (中日サンデー版)

****** 朝日新聞・社説、2007年6月24日

医師の確保―医学部の定員を増やせ

 医学部の定員という蛇口を閉めたままで、あれこれやりくりしても、焼け石に水ではないか。

 与党が参院選向けに打ち出した医師確保策を見て、そう思わざるをえない。

 医師は毎年4000人程度増えており、必要な数はまかなえる。問題は小児科や産婦人科などの医師不足のほか、地域による医師の偏在だ。こうした偏りを正せばいい。これが厚生労働省の方針だ。

 その方針をもとに、与党は選挙公約でこれまでの偏在対策に加えて、新たに次のような項目を追加した。

 政府が医師をプールする仕組みをつくり、医師不足の地域へ緊急派遣する。大学を卒業した医師が研修で都市の人気病院に集中しないように定員を改め、地方の病院にも回るようにする。

 確かに、偏在の是正にはすぐに手をつけなければいけない。

 しかし、医師不足は全国の病院に広がっている。都市でもお産のため入院できない地区が増えている。深刻な実態が進んでいるのに、偏在対策だけでは安心できると言えないだろう。

 いま求められているのは、時間はかかるが、医学部の定員を増やし、抜本的に医師不足の解消を図ることだ。

 政府は1982年と97年の2回、医学部の定員を減らす方針を閣議決定した。これに基づき、ピーク時には約8300人だった定員が約8%削られた。特に国立大学が大きく減らされた。

 医師が多くなれば、診療の機会が増え、医療費がふくらむ。だから、医療費の伸びを抑えるには、医師を増やさない方がいい。そんな考えからだ。

 いまの危機的な医師不足はその結果といってよい。

 経済協力開発機構(OECD)の調べでは、人口1000人当たりの医師数が日本は2人で、先進国の平均の2.9人を大きく下回る。しかも、このままでは韓国やメキシコ、トルコにも追い抜かれる可能性があるという。

 政府・与党はこうした状況を招いた責任をどう考えているのか。

 もうひとつ考えなければならないのは、最近の医療はかつてよりも医師の数を必要としていることだ。技術の高度化に伴って、チーム医療が大勢となった。患者に丁寧に説明することが求められ、患者1人当たりの診療時間が増えている。医師の3割は女性が占め、子育てで休業することも多い。

 おまけに高齢化はますます進み、医師にかかるお年寄りは増える。

 医師の偏在さえ正せばいい、という厚労省の楽観的な見通しは、医療の新しい傾向を踏まえたものとは思えない。

 医療のムダは今後ともなくしていかねばならない。しかし、医療費の抑制のため発想された古い閣議決定にいつまでもこだわるべきではない。そんなことをしていたら、日本の医療は取り返しのつかないことになる。

(朝日新聞、2007年6月24日)

****** 毎日新聞、2007年6月25日

医師不足:「医学部定員削減」の閣議決定、5党「見直し必要」 自民も「検討」

 ◇抑制策転換か----主要6党、毎日新聞調査

 医師不足が深刻化する中、「医学部定員の削減に取り組む」とした97年の閣議決定について、民主、公明、共産、社民、国民新党の5党が「見直すべきだ」と考えていることが、毎日新聞の主要政党アンケートで分かった。自民も「今後の検討課題」とした。医師数の現状については、民主、共産、社民が「絶対数が不足」と回答し、自民と公明、国民新党は「地方や診療科によって不足」と認識に差があるものの、各政党が医師不足への危機感を示したことで、医師数抑制を続けてきた国の政策が転換に向かう可能性が出てきた。【玉木達也】

 アンケートは主要6党に、医師不足に対する認識や参院選に向けた政策などを聞いた。97年の閣議決定については、自民以外の5党が「見直すべきだ」とした。理由は「医師不足の実態に即して医学部定員を元に戻す」(民主)▽「地域医療に従事する医師数を増やし、医療の高度化や集約化に対応する」(公明)▽「地方に住む人々に安心した医療を提供する」(国民新党)を挙げた。自民も「勤務医の過酷な勤務の改善のため、必要な医師数の検討が必要」と、見直し自体は否定しなかった。

 医師数への認識では、自民が「一定の地方や診療科で不足が顕在化している」、公明も「へき地で医師が不足し、小児科、産科の医師不足は深刻化している」と、部分的に不足がみられるとの姿勢。一方、民主は「OECD(経済協力開発機構)加盟国平均にするには10万人足りない」、共産が「『医師が余っている』地域はない」、社民も「このままではOECD最下位になる」として、3党とも絶対数が不足しているとの認識だった。

 医師数を巡っては、政府が「人口10万人当たり150人」を目標に、73年から「1県1医大」を推進し、83年に目標を達成した。しかし、旧厚生省の検討会が84年、「2025年には全医師の1割程度は過剰になる」との推計値を公表し、同省も各大学に医学部の入学定員を削減するよう協力を求めた。97年には政府が定員削減を継続することを閣議決定し、現在も政策の基本となっている。

 しかし、医療の高度化や高齢化で、OECD加盟国の多くは医師数を増やし、04年の加盟国平均(診療に従事している医師数)は10万人あたり310人。日本は200人で、加盟国中最低レベル。

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 ■主要各党が参院選で訴える主な医師不足対策■

 ◇自民・公明

 不足地域に国が緊急的に医師を派遣する体制を整備。研修医の都市への集中を是正するため、臨床研修病院の定員を見直す

 ◇民主

 10%削減された医学部定員を元に戻し、地域枠、学士枠、編入枠とし、医師育成の時間短縮や地方への医師定着を図る

 ◇共産

 閣議決定を撤回し、医師養成数を抜本的に増やす

 ◇社民

 医師を増員し、労働環境を改善するとともに、医療の高度化・複雑化への対応、質と安全の向上を行う

 ◇国民新党

 OECD並みの医療費確保を公約として掲げ、世界一の国民皆保険制度の堅持を目指す

****** 高知新聞、2007年6月18日

【医師不足】偏在だけの問題なのか

 地方の小児科や産科で顕在化した医師不足を、全国の43%もの人が実感していることが、本社加盟の日本世論調査会が実施した「医療問題」に関する面接世論調査で明らかになった。

 調査結果は医療サービスを受ける側の実感であり、実態をそのまま反映しているとは限らない。しかし、医師不足を実感する割合が、少ない地域ブロックで四割近く、大都市でも一割以上あることは、医師の偏在問題だけでは説明がつかないことをうかがわせる。

 人口千人当たりの医師数で、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国の下位にあり、将来はさらに落ちる、との予測もある。医師養成の根幹にある医学部定員は現状のままでいいのか。医師の総数にまで踏み込んだ論議が必要になってきた。

 今月初旬に実施した調査によると、「医師不足を大いに感じる」が16%、「ある程度感じる」が27%あった。先駆的な「国民皆保険制度」が高い評価を受けてきた日本のイメージとはずれのある数字だが、注意を要するのはこんな傾向が特定の地域にとどまらないことだ。

 不足感の合計をブロック別にみると、最多52%の東北地方をはじめ、四国地方(42%)など多くのブロックが40%を超え、最少の中国地方でも37%を記録した。

 「大いに感じる」の回答を有権者人口別にみると、十万人未満の小都市で27%、郡部で19%あった。医師不足を感じる理由では、「病院などの閉鎖」「近くに医師がいない」などが多く、医療サービスの絶対数に起因している傾向が強かった。

 医師不足の典型的なパターンと言えるが、問題の広がりを示すのは中都市(有権者十万人以上)と大都市における回答だ。不足感の合計が各12%あった。

 その理由で多かったのは「待ち時間が長くなるなど不便になった」と「救急対応が遅かったり、たらい回しにされる」。小都市、郡部のような医師不在はなくても、人数の不足やサービス内容への不満が高いことを示している。

 日本は27位

 これまで医師不足といえば、地方病院の診療縮小や閉鎖、さらには臨床研修制度による医師の大都市・大病院への集中などがクローズアップされてきた。

 これが依然、大きな問題であることに変わりはないが、今回の調査結果は、程度の差はあっても中・大都市にも同様の問題があることを浮き彫りにする。

 医師不足は、総数は足りているのに勤務地にばらつきがあるという偏在の問題なのか。それとも総数自体が過少という問題なのか。この点を見極める必要がある。

 一県一医大政策などで医学部定員を増やしてきた政府は、八〇年代に入ると抑制に転じた。医師過剰時代への対応と医療費抑制に主眼があったとされる。現在の政策を続けても毎年、医師数は増えるから二〇二〇年代に需給数が均衡するというのが厚生労働省の説明だ。

 これには批判的な見方がある。

 その資料として用いられるのはOECDの統計で、〇三年、日本の医師数は加盟三十カ国中二十七位で、OECD平均に遠く及ばない。川渕孝一・東京医科歯科大学大学院教授は「医療法で定められた医師の配置基準を達成している県は一つもない」と分析する。

 高齢化による医療費増大など困難な問題はあっても、医師の確保政策が現状のままでいいのか、もっと議論を深めるべきだ。

(高知新聞、2007年6月18日)

****** 信濃毎日新聞、2007年6月25日

医師不足対策 勤務医の負担軽減から

 待ち時間が長くなって困る。近くの病院で診てもらえなくなった-。

 医師不足を実感している人が4割以上に上ることが、日本世論調査会が行った面接調査で明らかになった。とりわけ、小規模の自治体に住む人の心配が強まっている。

 地方の医師不足は深刻で、住民の関心が高い問題だ。政府・与党は国が医師を派遣する制度など医師確保対策を選挙公約の柱に掲げるが、実効性に疑問がある。目先の対策を並べただけでは、絵に描いたもちになりかねない。

 調査によると医師不足を「大いに感じる」人は全体で16%に上り、都市の規模や地域によって差が広がっている。郡部で19%に上り、有権者人口10万人未満の都市では27%とさらに高い。地方の中核病院で医師不足が深刻な状況を裏付ける。

 足りないと感じる理由は▽待ち時間が長くなった▽病院や一部の診療科が閉鎖した▽救急の対応が遅れた-など。お産ができる場所や小児科が足りないと訴える人もそれぞれ2割近い。

 政府・与党がまとめた緊急対策の柱の一つは、国レベルの医師派遣システムを作ることだ。国立病院機構などに医師の派遣機能を持たせ、都道府県の要求に応じて、医師を送り出す。

 世論調査の中でも、国や自治体が医師配置を調整することを求める声は強い。ただし実効性は疑われる。昨年秋に国立病院同士で地方の病院に医師を派遣する制度を始めたが、断られるケースが続出。半年で中止した例もある。国が掛け声をかけても、どれだけの医師を動かせるのかは未知数だ。

 緊急対策は中期的な課題として、国家試験の合格者が3割を占める女性医師の活用をうたう。出産や育児で職場を離れた女性医師が復帰しやすくなるよう、研修や院内保育所の整備を挙げている。

 女性たちが復帰したくてもできないのは、子育てしながら月何回もの夜勤や残業が当たり前の職場で働き続けることが難しいからだ。病院内に保育所をつくれば解決する問題ではない。男女ともに働きやすい環境をつくらなければ、地方の病院を離れる医師は増える一方だ。

 何よりも、勤務医全体の負担を軽くすることが大切だ。診療行為に専念できるよう、看護師、助産師らとの仕事の分担の見直しは当然のことだ。開業医との収入の格差も縮める必要がある。

 徹夜明けで疲れ切った医師が患者を診ている状況が当たり前、では医師不足は解消しない。

(信濃毎日新聞、2007年6月25日)

****** 読売新聞、2007年6月26日

信大医学部が奨学制度 医師不足解消図る

来年度から定員10人増

 信州大学医学部(松本市)は25日、医師不足対策の一環として、卒業後9年間、県内の医療機関で研修し、働くことを条件とした奨学金制度を2008年度から創設すると発表した。これに合わせ、同年度入試から10年間、学部の定員を10人増の105人とする。

 県医療政策課によると、県内の人口10万人あたりの医師数(2004年末現在)は190・9人と、全国平均の211・7人を下回り、47都道府県中35位。また、県内の保健所の管轄別では、松本(松本市など)が313・4人いるのに対し、木曽(木曽郡)は116・9人、上伊那(伊那市など)は129・3人となるなど、大きなばらつきがある。

 そのため、厚生労働省などが昨夏まとめた「新医師確保総合対策」の中で、長野県は青森や新潟など9県とともに、医師の確保が急務とされ、定員の10人増が10年間の期限付きで認められた。

 定員増は奨学金制度など、医師の地域定着の方策をつくることが条件。大学が県と協議を重ねた結果、来年度からの実施で合意した。県は06年度から実施している「県医学生修学資金」貸与制度(月額20万円)をベースに、具体的な制度を策定する。対象は1学年10~20人を想定している。

 奨学生は医学部卒業後、県内で研修医として2年、信大で3年、県内の医療機関で4年間働くことが義務づけられる。

 記者会見した大橋俊夫・医学部長は「地域によって医師の数が違う『地域偏在』を解消するため、長野県で医療に取り組みたい人材を育てていきたい」と抱負を語った。

(読売新聞、2007年6月26日)

****** 信濃毎日新聞、2007年6月26日

医師の安定確保へ 信大と県が奨学金創設で合意

 信大医学部(松本市)は25日、来年度からの入学定員増に向け、医学部生対象の奨学金制度を創設することで県と合意したと発表した。定員を現在より10人増の105人とし、県内受験者の多い前期日程にその10人分を充てる。県内の医師不足解消のため、卒業後も県内にとどまる医師を安定的に確保する狙い。

 国は昨年8月、医師不足が深刻な長野など10県について、来年度から医学部定員増を最大10人まで認めると打ち出した。各県に対し、定員増の条件として奨学金創設などを求めていた。

 奨学金は、来年度以降に入学する医学科の学生が対象。卒業後9年間、初期研修を含めて県内の医療機関に従事することを条件に、学部在学中に月額約20万円を貸与する。国と県が負担し、毎年20人以上の利用を目標としている。

 来年度定員は前期50人、後期45人、県内枠の特別推薦10人。大学入試センター試験の成績などで門前払いする「2段階選抜」も見直し、前期は撤廃、後期は定員の20倍(従来は10倍)を超えた場合に実施する。

 県医療政策課によると、人口10万人当たりの医師数(2004年末現在)は、全国平均211・7人に対し、長野県は190・9人。面積100平方キロメートル当たりでは全国平均71・5人に対し、県は32・2人と半数に満たない。

 大橋俊夫学部長は25日の記者会見で「県内を見ても地域間で医師の偏在が起こっている。県民に将来も質の高い医療を提供するため、県と信大が一緒になって解決に取り組みたい」と述べた。

(信濃毎日新聞、2007年6月26日)

****** 中日新聞、2007年6月26日

独自の奨学金制度創設へ 医師不足打開で信大医学部

 信州大(本部・松本市)は二十五日、県内の医師不足と地域偏在を解消するため、来年度の医学部の定員を九十五人から百五人に十人増やし、卒業後九年間は県内での医療に従事することを義務化する独自の奨学金制度を設けると発表した。医師不足に対する国の勧告に基づく十年間限定の措置。同大で会見した大橋俊夫医学部長は「県と一緒になって、質、量ともに充実するよう取り組みたい」としている。

 奨学金制度は来年度の新入生から適用し、約二十人程度を見込む。国と県の予算措置を受け、六年間、月々約二十万円を貸与するかわりに、卒業後九年間は県内での医療に従事する。

 二年間の初期研修後は、診療だけに縛られず、海外留学や大学院での研究もできるよう、信大病院内での研修を三年間実施。その後の四年間は、県の人事のもと、県立病院を中心とする各自治体の病院に配置される。

 大橋学部長によると、県内の人口十万人当たりの医師数は約二百人で、全国平均値とほぼ同じ。しかし、南北に広いため、地域間での医師数の格差は深刻な問題となっているという。大橋学部長は「奨学金制度による人材の確保で、適切な医師の配置が可能になる」と期待を寄せている。

 今回、国から医師不足県として勧告を受けたのは、長野県のほか、岐阜、三重など九県。国は各県に対し、十人を限度とする医学部定員増を認めるかわりに、独自の奨学金制度などの対策を求めている。【中津芳子】

(中日新聞、2007年6月26日)


親拒んでも15歳未満輸血、信仰より救命優先…学会指針案

2007年06月25日 | 医療全般

コメント(私見):

「エホバの証人」の信者への輸血についての関連5学会の従来の指針では、『18歳以上の患者の場合は、(親の意思に関わりなく、)本人の意思を尊重する。12歳未満の患者の場合は、(本人、親の意思に関わりなく、)救命を優先する。』とされ、12~17歳の患者に対しての対応策は示されていませんでした。

今回、12歳~17歳の患者に対する学会としての対応策の素案が示されました。すなわち、

『15~17歳の患者については、本人と親の双方が拒めば輸血は行わないが、それ以外の場合は輸血を行う。15歳未満の患者の場合は、(信者である親が拒んでも)治療上の必要があれば輸血を行う。18歳以上の患者の場合は、従来通り、本人の意思を尊重する。』 

年内にも、関連5学会の共通指針としてまとめられる予定とのことです。

医療現場で緊急の輸血が必要となるような場合には、患者さん本人は出血性ショックで意識がない場合もあるし、その場にいる御家族の中にもいろいろな意見があって、直ちに輸血を行うかどうか?の意思決定を迫られ、非常に緊迫した状況となります。医療現場の判断で、どのように治療方針を決定したとしても、後に各方面から問題視される可能性があります。12~17歳の患者に対する方針が一律にはっきりと示されてないと、医療現場では非常に困る場合もあり得ますので、公式のルールを一律に決めておく必要があります。従って、この件についての関連5学会の公式ガイドラインを早急にまとめていただきたいと思います。

参考:

妊婦が輸血拒否で死亡 「エホバの証人」信者

****** 読売新聞、2007年6月24日

親拒んでも15歳未満輸血、信仰より救命優先…学会指針案

 信仰上の理由で輸血を拒否する「エホバの証人」信者への輸血について、日本輸血・細胞治療学会など関連5学会の合同委員会(座長=大戸斉・福島県立医大教授)は、15歳未満の患者に対しては、信者である親が拒否しても救命を優先して輸血を行うとする指針の素案をまとめた。

 「信教の自由」と「生命の尊重」のどちらを優先するかで悩む医療現場の要請に応えて検討を始め、「自己決定能力が未熟な15歳未満への輸血拒否は、親権の乱用に当たる」と判断した。

 合同委員会はこのほか、日本外科学会、日本小児科学会、日本麻酔科学会、日本産科婦人科学会の国内主要学会で組織。年内に共通指針としてまとめる。

 エホバの証人への対応はこれまで、日本輸血・細胞治療学会(当時は日本輸血学会)が1998年、18歳以上の患者は本人の意思を尊重し、12歳未満の場合は、家族が反対しても輸血を含む救命を優先するとの指針をまとめていた。しかし12~17歳については、発育途上で判断能力に個人差があるとして対応策を示していなかった。

 今回の素案では、治療法に対してある程度の自己決定ができる年齢を、義務教育を終える15歳に設定した。15~17歳の患者については、本人と親の双方が拒めば輸血は行わないが、それ以外、例えば本人が希望して親が拒否したり、逆に信者である本人が拒み親が希望したりした場合などは輸血を行う。

 15歳未満の患者に対しては、本人の意思にかかわらず、親が拒んでも治療上の必要があれば輸血する。18歳以上については、これまでの指針通り、親の意向にかかわらず本人の意思を尊重する。

 大戸教授によると、エホバの証人信者が子への輸血を拒否する事例は、大学病院など全国100以上の病院で少なくとも毎年数例は起きていると推定される。

(読売新聞、2007年6月24日)

****** 毎日新聞、2007年6月24日

<エホバの証人>15歳未満なら輸血 学会が信者治療指針案

 信仰上の理由で輸血を拒否している宗教団体「エホバの証人」の信者の治療について、日本輸血・細胞治療学会など関連5学会の合同委員会は、患者が15歳未満の場合、親が拒否しても輸血を実施するとの指針案をまとめた。「自己決定能力がまだ未熟な段階での輸血拒否は親権の乱用に当たる」と判断した。今後、エホバの証人との意見交換や5学会での調整を進め、年内に指針を決める。

 同学会(当時は日本輸血学会)は98年、12歳未満では両親の反対があっても輸血などの救命措置を優先するとの指針をまとめた。18歳以上は本人の意思を尊重した対応を取る。12~17歳については対応策を示さなかったが、小児科医などから方向性を示したほうが好ましいとの声が上がっていた。

 合同委員会は、自己決定ができる年齢として、義務教育を終え、民法上で遺言のできる15歳以上が適切と考えた。

 最高裁は00年、信者の意思に反し説明なしで輸血を行った病院などに損害賠償を命じる判決を出し、自己決定に基づく治療は定着しつつある。

 合同委員会座長の大戸斉・福島県立医大教授は「子供時代の考えは成長とともに変化する。治療拒否が信念かどうか、慎重に見極める必要がある」と話す。

 エホバの証人の信者が輸血を必要とする治療例は、全国で年間1000件程度発生し、約1割が15歳未満と推定されている。【田中泰義】

(毎日新聞、2007年6月24日)

****** 共同通信、2007年6月25日

15歳未満、親拒否でも輸血・学会指針素案、信仰より救命優先

 宗教上の理由から輸血を拒否する「エホバの証人」信者の治療をめぐり、日本輸血・細胞治療学会など五学会の合同委員会(座長・大戸斉福島県立医大教授)が、患者が15歳未満の場合は、信者である親が反対しても輸血を行うとする指針の素案をまとめたことが24日、分かった。

 今後、関連学会や信者側の意見も聞き、年内に共通指針としてまとめたいとしている。

 輸血・細胞治療学会は、エホバの証人に関する指針を1998年に策定。この時は、親が反対しても輸血する年齢を12歳未満、18歳以上は本人の意思を尊重するとしたが、12―17歳の患者については一律の規定を設けていなかった。

 大戸教授によると、近年、宗教上の理由による子どもの治療拒否が「児童虐待」に当たるとの判断が司法の場で示されたことや、白血病などの治療で子どもの輸血の要否の判断に常時直面する小児科医からの要望を受け、昨年から合同委で検討を開始。「自己決定能力が未熟な15歳未満への輸血拒否は親権の乱用に当たる」と結論づけた。

(共同通信、2007年6月25日)


長野県・東信地域の厳しい産科医療の状況について

2007年06月23日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地元紙に長野県・東信地域の厳しい産科医療の状況について掲載されていました。東信地域の2次医療圏は、上田市を中心とした「上小医療圏」(人口約22万人)と、佐久市を中心とした「佐久医療圏」(人口約21万人)とに分かれています。

佐久医療圏には有名な佐久総合病院(1190床、職員総数1614名、常勤医師数188名)があり、この地域の医療を支えています。その佐久総合病院でも分娩件数の急増に対応しきれず、分娩制限が始まったと報道されています。

上小医療圏では、常勤の麻酔科医が一人もいないことが特に問題となっているようです。周産期医療にしろ、救急医療にしろ、24時間待ったなしで、いつでも重症患者への迅速な対応が可能な医療体制を構築する必要があります。それを支える常勤の麻酔科医は、地域に一人でもいれば済むという問題ではなく、医療圏内に最低でも5~6名以上は常時必要だと思われます。

産婦人科医も、麻酔科医も、養成には長い時間がかかり、今、地域で必要だからといって急に増やせるわけではありません。今後、10年後も、20年後も、安定的に持続可能な地域の周産期医療体制を構築していくために、地域で一丸となって、この問題と地道に取り組んでいく必要があると思います。

****** 信濃毎日新聞、2007年6月21日

上小の「医師不足」考える

関係19団体 対策協議会が初会合

 県上田保健所は20日、上田小県地域の病院や医師会、市町村など19団体による「上小地域医療対策協議会」を発足させ、上田市の上田消費生活センターで初会合を開いた。今後、「産科・小児科」「救急医療」の2分科会を設け、医師不足対策などを話し合っていく。

 上田保健所が、県内10医療圏ごとに「連携強化病院」を選び、医師を重点配置すべき-とした県産科・小児科医療対策検討会の提言を紹介。上小地域では、長野病院(上田市)に常勤麻酔科医がおらず、産婦人科の連携強化病院が選ばれなかった-と説明した。

 さらに、長野病院の常勤麻酔科医の不在などで、上小地域の2006年の救急搬送患者7499人のうち、前年より0・8ポイント多い16・9%、1266人が地域外に搬送された-と報告した。

 意見交換では「パート医師の所得が常勤医よりおおくなることが問題」(依田窪病院)などの発言があった。

(信濃毎日新聞、2007年6月21日)

****** 医療タイムス、長野、2007年6月21日

麻酔科医の確保など課題に

~上小地域医療対策協議会 分科会を立ち上げへ

 上小地域医療対策協議会は20日、上田市内で初会合を開き、上小地域における産科・小児科医療体制と救急医療体制について協議した。年内にそれぞれの分科会を立ち上げ、何らかの方向性を打ち出す方針を確認。産科医療に関しては、麻酔科医不足の解消や国立病院機構長野病院への産科医集約を視野に入れ、検討を進める考えだ。

 同地域の産科医療を支える立場から、長野病院の大澤道彦副院長は「上小地域は県内の他地域に比べ、もともと産科医1人あたりの出生数が群を抜いており、医師の負担はかなりのもの」と説明。また、同様の立場から上田市山陰の甲藤一男院長は「産科の2次医療を地域で担えないことが課題。また、長野病院に常勤の麻酔科医がいないことも原因の1つ。」産科医だけでなく、麻酔科医の早急な確保も必要」と窮状を訴えた。

 これに対し、国保依田窪病院の三澤弘道院長は「麻酔科医の不足は上小地域だけにとどまらず、国全体の問題」と指摘した上で、「松本地域には比較的多くの麻酔科医がいる。同地域の麻酔科医の協力を受けやすくするためにも、(上田市と松本市を結ぶ)三才山有料トンネルの通行料を医師だけは無料にするなどの対応を県に求めていくべき」と述べた。また、大澤副院長は「現在のところ、当院での麻酔科医の確保は見通しが立ってない。1つの医療機関で採用するのではなく、地域全体で麻酔科医の採用を検討してみては」と提案した。

産科医療の集約化も視野に

 産科医不足については、小県医師会の塚原正典会長が「長野病院への産科集約も視野に入れた上で、地域のお産を担う医療機関の連携方法を検討してみる必要がある」と提案。しかし、この提案に県助産師会上小地区会が反発。塚田典子地区長は「女性にとってお産は命をかけてするもの。その気持ちを考えれば、分娩する医療機関を選びたいはず。住民の声を置き去りにして協議を進めるのはいかがなものか」と述べた。

 上田保健所の小林文宗所長は、「上小地域でのさらなる医療体制の構築を目指し、引き続き分科会で産科・小児科医療などの課題を検討していく」とした。

(医療タイムス、長野、2007年6月21日)

****** 信濃毎日新聞、2007年6月21日

出産受け入れ 佐久総合病院も一部制限

扱い数増加「限界超えた」

 全国的な産科医不足の中、これまですべてのお産を受け入れてきた県厚生連佐久総合病院(佐久市)も、一部で制限を始めたことが分かった。医師1人当たり月間24件を扱い、「物理的に限界を超えた」状態。医療態勢が充実しているとされる佐久地方だが、主な病院が満杯になり、厳しい状況だ。

 佐久地方 主な病院満杯

 佐久病院は、4月に87件、5月に98件の出産を扱い、ともに前年同月の1・3倍。入院ベッドが足りず、産科以外も使ってしのいでいる。今月と7月も80件を超える見通しだ。医療関係者の間では「医師1人年間200件(月17件)が限度」とされるが、産科医4人の同病院では1人当たり20件を超えている。

 このため月間予約70件を目安に、現場で状況判断しながら「県外から電話で申し込んでくる里帰り出産者はお断りしている」という。他病院からリスクの高い出産が転送されたり、婦人科の診療を兼ねていることもあり、夏川周介院長は「物理的に限界を超えている。1人倒れれば現状も維持できず、一病院の努力を超える」と説明している。

 出産を扱う医療機関が減り、昨年から増加傾向だったが、4月から佐久市立国保浅間総合病院が出産受け入れ制限を始めた影響が大きい。同病院は産科医が1人減って2人になり、月40~55件だった出産扱いが4、5月は20~30件になった。「従来通りでは安全を保てない。過重労働による事故を防ぐやむを得ない措置だ」(佐々木茂夫事務長)とする。

 小諸市の県厚生連小諸厚生総合病院も、今年になり、出産件数が月45~53件余の1・5倍以上だ。産科医は2人で、1人当たり25件前後になる。渡辺康幸事務長は「医師が休む時間がない。受け入れ制限を考えざるを得ない」と話す。

 8月に2人目を出産予定の佐久市内の主婦(36)は、佐久地方の病院をあきらめ、夫の実家がある松本市の医院に予約した。しばらくは義父母の送迎で通い、検診を受ける。「医師不足は分かるが、納得できない。少子化問題が論議されるが、産科医確保が最優先では」と訴えている。

(信濃毎日新聞、2007年6月21日)


妊婦が輸血拒否で死亡 「エホバの証人」信者

2007年06月21日 | 医療全般

コメント(私見):

前置胎盤例などでは分娩時の大量出血があらかじめ予想され、分娩前に自己血を貯血したりして突然の出血に備えています。低リスクの分娩であっても、分娩時に予想外の大量出血となって、救命のために輸血を要するような事例は決して珍しくありません。

『分娩時にいくら大量に出血しようとも、輸血は絶対に実施しない』という条件下だと、どの病院であっても、分娩時母体死亡の確率が格段に高くなってしまいます。

ただ、交通事故などで突然運び込まれて来るような場合とは違い、妊娠が判明してから分娩までの準備期間は8ヶ月以上ありますから、エホバの証人の信者の妊婦さんも、多くの病院と事前によく話し合って、分娩を受け入れてくれる病院を日本全国くまなく探し回るだけの時間的余裕は十分あります。

受け入れる病院側も、妊婦さん自身とよく話し合い、最終的に、「そういう条件だと、当施設では対応できません!」と分娩の受け入れを事前にお断りすることも可能です。分娩を受け入れた病院の方で、最後の最後まで責任を持って対応してくださる筈なので、『エホバの証人の信者の妊婦さんが、ある日突然、分娩時大量出血で運び込まれて来て、対応に苦慮する!』という事態は、通常あり得ないと思われます。

参考:エホバ問題 【新小児科医のつぶやき】

エホバの証人 【フリー百科事典:Wikipedia】

****** 共同通信、2007年6月20日

妊婦が輸血拒否で死亡 「エホバの証人」信者

 大阪府高槻市の大阪医科大病院で5月初旬、妊婦が帝王切開の手術中に大量出血し、信仰上の理由で輸血を拒否し死亡したことが19日、分かった。女性は宗教団体「エホバの証人」の信者だった。

 同病院によると、女性とは事前に、輸血をしないとの同意書を交わしていた。女性は妊娠42週で帝王切開手術で子どもを出産後に大量出血。病院は止血措置だけで輸血はせず、女性は数日後に死亡した。

 エホバの証人の信者をめぐっては、手術中に無断で輸血したことの違法性を争った訴訟で、病院や医師の人格権侵害を認め損害賠償を命じた最高裁判決がある。

 また輸血を拒否して死亡する患者が相次いだため、各地の病院が「本人の意思を尊重する」などとする治療方針を策定。大阪医科大病院も2年前、意思確認のマニュアルを策定していた。

 病院は「女性には生死にかかわる危険があることも説明した。家族にも再三、輸血の同意を求めた。患者の意思を尊重した」と話している。院内に設置された事故調査委員会も「医療上の手順に問題はなかった」と判断している。

 エホバの証人の機関誌を作成している「ものみの塔聖書冊子協会」によると、信者は、聖書に「血を避ける」などの戒律があることから輸血を拒否。今回のケースについて「本人の意向を尊重した処置が施されたことに関しては妥当であったと考えます」とコメントした。

(共同通信、2007年6月20日)

****** 毎日新聞、20007年6月20日

エホバの証人、大量出血で妊婦死亡 帝王切開、輸血拒否で同意書 大阪医大病院

 信仰上の理由で輸血を拒否している宗教団体「エホバの証人」信者の妊婦が5月、大阪医科大病院(大阪府高槻市)で帝王切開の手術中に大量出血し、輸血を受けなかったため死亡したことが19日、分かった。病院は、死亡の可能性も説明したうえ、本人と同意書を交わしていた。エホバの証人信者への輸血を巡っては、緊急時に無断で輸血して救命した医師と病院が患者に訴えられ、意思決定権を侵害したとして最高裁で敗訴が確定している。一方、同病院の医師や看護師からは「瀕死(ひんし)の患者を見殺しにしてよかったのか」と疑問の声も上がっている。

 同病院によると、女性は5月初旬、予定日を約1週間過ぎた妊娠41週で他の病院から移ってきた。42週で帝王切開手術が行われ、子供は無事に取り上げられたが、分娩(ぶんべん)後に子宮の収縮が十分でないため起こる弛緩(しかん)性出血などで大量出血。止血できたが輸血はせず、数日後に死亡した。

 同病院は、信仰上の理由で輸血を拒否する患者に対するマニュアルを策定済みで、女性本人から「輸血しない場合に起きた事態については免責する」との同意書を得ていたという。容体が急変し家族にも輸血の許可を求めたが、家族も女性の意思を尊重したらしい。

 病院は事故後、院内に事故調査委員会を設置。関係者らから聞き取り調査し、5月末に「医療行為に問題はなかった」と判断した。病院は、警察に届け出る義務がある異状死とは判断しておらず、家族の希望で警察には届けていない。【根本毅】

(毎日新聞、20007年6月20日)

****** 読売新聞、20007年6月19日

エホバ女性信者が輸血拒否し死亡、病院と同意書交わす

 大阪医科大学付属病院(大阪府高槻市)で5月中旬、帝王切開の手術を受けた宗教団体「エホバの証人」の女性信者が、宗教上の理由から輸血を拒否し、死亡していたことがわかった。病院側は本人や家族に死亡の危険性を説明したうえで、輸血拒否の同意書を交わしていた。

 同病院によると、女性は妊娠42週目で、帝王切開の手術をしたが、子どもを取り出した後、子宮外から大量に出血。止血したものの輸血は行わず、女性は数日後に死亡した。子どもの命に別条はなかった。

 宗教上の理由で輸血を拒む患者について、同病院が2年前に作成したマニュアルでは「患者の意向を最大限に尊重したうえで治療に当たる」と規定している。今回も、マニュアルに基づいて本人から同意書や医師の免責証書を得たほか、家族にも輸血の許可を再三求めたが、断られたという。

 同病院は「最善の処置を取った。治療上の問題もなかったが、結果的に亡くなったことは申し訳ない」としている。

 エホバの証人の信者に対する輸血を巡っては、緊急時に無断で輸血して救命した医師と病院が患者に訴えられ、自己決定権を侵害したとして、2000年に最高裁で敗訴が確定。以降、患者の意思に反して輸血はしないとの指針を持つ病院が増えている。

(読売新聞、20007年6月19日)


目前に迫りつつある地域周産期医療の崩壊をくいとめるために

2007年06月19日 | 地域周産期医療

目前に迫りつつある、地域における周産期医療の崩壊をくい止めるために、一体全体、我々はどう行動したらいいのでしょうか?

国も、県も、大学も、今後、我々が進むべき道の指針・方向性をアドバイスしてくれるだけで、直接的に危機から救済してくれるわけではありません。基本的に、それぞれの地域の自助努力により自力で問題を解決することが求められています。

例えば、『地域内に点在する医師を集約化して、基幹病院の医師数を確保する!』、『基幹病院と地域の病院・診療所との協力・連携体制をを強化する!』、『地域で独自に専門医を育成する!』等々、それぞれの地域のみんなで知恵を絞って、医療崩壊の危機から脱する方策をいろいろと模索していく必要があります。

しかしながら、『これこれしかじかの対応により、地域における周産期医療崩壊の危機を見事に回避した!』というような具体的な事例報告はほとんど見当たりませんし、見本とすべきモデル・ケースも身近にはほとんど見当たりません。

これは非常に大きな問題なので、一人の力ではどうにもなりません。現在の危機的な状況を地域のみんなによく理解していただき、地域の強力なバックアップを得て、多くの力を結集し、未踏の原野に新たな道を切り開きながら、一歩一歩、前に進んで行くしかありません。


岐阜県東濃地方の産科医療の状況

2007年06月16日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地元新聞のインターネット上の記事を読むと、岐阜県の東濃5市(多治見市、土岐市、瑞浪市、恵那市、中津川市)の産科医療もかなり厳しい状況にあることがわかります。この地方では、多治見市以外の4市で産科施設が急激に減少しつつあり、その結果として、多治見市では「お産利用者の4分の3は市外から押し寄せパンク状態」となっているそうです。

東濃5市の2007年4月1日現在の人口は、多治見市:114,707人、土岐市:61,547人、瑞浪市:41,461人、恵那市:55,167人、中津川市:83,231人で、この5市の人口を合計すると356,113人となります。この地域は、JR中央西線の沿線に位置し、名古屋市のベッドタウンで、(行政的には岐阜県に属していますが、岐阜市との結びつきは比較的希薄で、)経済的にも、文化的にも、地形的にも、名古屋圏に属しています。

****** 岐阜新聞、2007年6月14日

土岐市、産婦人科医ゼロに 出産受け入れできず

 土岐市立総合病院(同市土岐津町土岐口)が、唯一の常勤産婦人科医=同科部長(39)=が辞職するため、9月中旬以降の分娩(ぶんべん)受け入れを休止することが13日、分かった。市内では民間の産婦人科医院も今年に入って産科を休止しており、市内での出産受け入れができなくなる。

 同院によると、部長は2004(平成16)年から産婦人科唯一の常勤医として勤務。現在は非常勤産科医との2人体制で、24時間体制の分娩を受け入れている。

 同院では、名古屋大付属病院の医局に産科医派遣を求めたが「過重労働における医療事故防止のため(常勤医の)1人赴任はさせない」との返答があった。市では後任の常勤医の確保が難しくなったことから、9月中旬から産科を休止し、非常勤医師による婦人科の診療のみ継続することにした。

 榊原聰院長(60)は「当面は市外の病院で対応していただくしかない。産科が再開できるように産科医師の確保に努めていきたい」としている。

(岐阜新聞、2007年6月14日)

****** 岐阜新聞、2007年4月20日

東濃の医師不足深刻 

奨学金創設提案も即効性なく

 医師と看護師の不足が全国で深刻な社会問題となっている。東濃地域では特に産科医不足が各市の共通課題に挙がり、待ったなしの状態。地域医療の現場は、特効薬もなく危機感を強めている。

 産科を含め県内の医師数は、人口10万人当たりの換算で165人と全国ワースト5。東濃5市では136人(2004年調査)と県平均をさらに下回っている。

 中でも産科など特定の診療科では、時間外の過剰労働や医療訴訟の多発などで医師自体の数は少ないのが現状だ。

 今年2月の「東濃5市首長会議」では、産科医療の窮状が指摘された。これを受け、県東濃振興局は3月に5市の健康医療担当幹部や公立病院の事務局長らを集め、県内でも先駆けとなる地域医療対策会議を開いた。

 会議では「5月から市内唯一の産科医が閉院する」(恵那市)、「お産利用者の4分の3は市外から押し寄せパンク状態」(多治見市)、「5月から市民病院で里帰り出産の受け入れを制限」(中津川市)、「東濃厚生病院は救急体制の受け入れが限界。昨年4月から産科は休止状態」(瑞浪市)など、苦しい現状の報告が相次いだ。

 医師不足は産科にとどまらず、小児科、麻酔科、呼吸器科などでもあり、外来診療や検査など患者の待ち時間も長く、市民から苦情も寄せられる。医師も患者も疲労、悪循環に陥っている。

 医師不足の背景には医師、看護師などの待遇が名古屋市と比べて低水準にあることや、大学の医局に医師の派遣依頼をしても、医局にも人材がいないという事情もある。

 こうした現状を打開するため、会議では「東濃圏域医学生奨学金」制度の創設(試案)が提案された。地元出身の医大生を対象に、将来地元で働くことを条件に奨学金を貸与、貸与期間と同期間、管内の病院に勤務した場合は、奨学金の返還を免除する仕組みだ。

 ただ、奨学金の創設も現実に投資効果が出るのか、効果が出ても数年先となる。「新医師臨床研修制度」の導入を受け、研修医に選んでもらえる魅力ある病院づくりも必要で、地域医療の整備に難題は山積している。 【東濃総局長・各務勝】

(岐阜新聞、2007年4月20日)

****** 中日新聞、2007年2月11日

医師不足受け「里帰り出産」を制限 中津川市民病院

 東濃東部2市の産科医師不足を受け、中津川市は臨時に「里帰り出産」の市民病院での受け入れを5月以降制限することを決めた。恵那市の開業産婦人科医院が4月限りで診療を休止することを受け、この地域から“お産難民”を出さないための窮余の策。産科医師の確保を急ぐとともに、緊急事態への理解を求めている。

 恵那、中津川両市はここ数年、3医療機関で4人の産科医師が年間約1000件のお産を取り扱ってきた。中津川市民病院ではこのうち2人の産科医師を擁して昨年度は450件を扱い、本年度は500件を超す勢い。そこで、恵那市の開業医師が診療休止すると、900件前後を2人の医師で扱う緊急事態が予測されている。

 医師の勤務状況のさらなる悪化はお産のリスクを高め、医師が倒れるケースも予測されるため取扱件数の制限が必要になる。しかし、単純に人数を制限すると、地元でお産できない「お産難民」を生み出す可能性があるため、「里帰り出産」制限の策を選んだ。

 市の広報やホームページに掲載したところ、不満の声も寄せられているが、地域の産科事情を説明して理解を求めている。

 医師不足の背景として、臨床研修医制度により新人医師が都市部に集中することや、リスクの高い産婦人科を志望する人が減ったことがあるとみられる。同市民病院では「出産の機会の里帰りを楽しみにする親御さんの気持ち、中津川に愛着を持ってもらう機会を逸することは痛いほど分かるが、それ以前の瀬戸際にある。解除に向けて第一条件の医師の確保に手を尽くしたい」としている。【山本哲正】

(中日新聞、2007年2月11日)

****** 岐阜新聞、2007年1月31日

里帰り出産の受け入れ制限 中津川市民病院

 中津川市は30日までに、同市駒場の市民病院に開設している産科について、今年5月から、同市出身の妊婦が実家に戻って出産する「里帰り出産」の受け入れを制限する方針を明らかにした。

 隣接する恵那市に唯一ある産院が5月以降の出産受け入れを停止することから、地域医療として市民病院が担う両市在住の妊婦の受け入れを優先させるためで、中津川市は異例の措置に理解を求めている。

 中津川市と恵那市の産科医療は、中津川市民病院と両市に1施設ずつある民間の産院が担い、3施設で4人の産科医が年間計約1000件の出産を担当している。年間約400件を行ってきた恵那市の産院で受け入れ停止が続いた場合、中津川市の2施設で産科医療を行うことになる。

 同市民病院は2人の産科医がいるが、2002(平成14)年度に340件だった出産が05年度は450件で、年々増加傾向にある、このため、受け入れの増加は産科医の負担を増やし、出産の安全確保や産科の維持が困難になると判断し、「里帰り出産」の受け入れ制限を決めた。

 同市民病院は、大学病院などに医師の派遣増員を働き掛けているが困難な状況で「地域で暮らす妊婦の受け入れを優先する必要があると考えた。里帰り出産を予定している人は居住地での出産をお願いしたい」としている。受け入れの制限は同市の広報やホームページに掲載して伝えている。

(岐阜新聞、2007年1月31日)

****** 中日新聞、2007年1月19日

恵那市内 産科医ゼロの危機 4月で不在に、派遣要望進展なし

 恵那市で開業する唯一の産婦人科医院が4月限りで診療を休止することになり、同市の産婦人科医がゼロとなる可能性が高まっている。市は市内で働いてもらえる産婦人科医を探しているが、めどが立っておらず「お産がしにくくなれば、地域の人口減や少子高齢化に歯止めがかからなくなる」と危機感を募らせている。 (鈴木智行)

 診療を休止するのは、同市長島町中野の「恵那産婦人科」。同病院によると、五月から産婦人科医が不在となる見込みとなったため、お産は四月までしか受け付けていない。病院は閉鎖しないが、後任の医師が見つかるまで休むという。

 もし休止が続けば、市民は市中心部からでも車で三十分近くかかる中津川市、瑞浪市などの医療機関でしか出産ができなくなる。休止を知った市内の主婦からは「当面、次の子どもを産むのは控えた方がいいのかしら」という不安の声も上がっている。

 山間部の過疎化が進む恵那市は、新総合計画で二〇一五年の人口を現在から約二千人減の五万五千人にとどめる目標を設定。昨春には少子化対策推進室を設置するなど力を入れていただけに「(同病院に)何とか続けるようお願いしてきたが…」と頭を抱える。

 市は同病院の診療休止を把握する前から、市幹部らが厚労省や県外の医療機関に出向き、市立恵那病院などへの産婦人科医派遣を要望しているが、具体的な話は進んでいない。市は「努力を続けていきたいが、全国的な産科医不足は深刻。今後は首長らの協力で、自治体の枠を超えた医療態勢の構築も必要になる」としている。

<県内の産科の状況> 県などによると現在、県内で産科医がいない市は本巣市だけだが、近くの岐阜市や北方町の病院で出産ができる。また、美濃市は、市立病院で、週二回大学病院から婦人科医が来て診察、山県市や飛騨市の病医院では婦人科の診療はしているが、三市ともお産はできない。

(中日新聞、2007年1月19日)

****** 岐阜新聞、2006年11月24日

産科の緊急医療 県内も整備不足 専門医、減る一方 

周産期医療 拠点づくり急務

 先月、奈良県で意識不明の妊婦が複数の病院で受け入れを拒否されて死亡した問題は、ハイリスクを伴う周産期医療の整備不足を浮き彫りにした。岐阜県でも、周産期医療に関する整備不足は以前から、医療関係者の間で指摘されているが、背景には深刻な産科医師の不足がある。お産をめぐる県内の医療現場を取材した。

 岐阜市内の産科医によると、産科は分娩(ぶんべん)などで拘束時間が長い上、その処置が訴訟問題に発展するケースも比較的多い。さらに少子化の影響も重なり、医学生が産科を敬遠する傾向が出ているという。

 県の調査では、県内の産婦人科、産科医数は、1998(平成10)年の172人が、2004年には155人に減少。医師不足で分娩を取りやめる病院や施設も出始めており、02年には84の病院、診療所で行われていた分娩は、05年には71に減った。地域によっては近くの施設で分娩できない状態が生まれているという。

 現在は市内に34の産科施設がある岐阜市でも、医師が高齢化する数10年後には「お産の過疎地になる」との予測も聞かれる。同市産婦人科医会長の岩砂眞一医師(61)は「若い産科医を育てていくには、ハイリスク出産を受け入れる、周産期医療の拠点づくりを進めなくてはいけない」と指摘する。

 県内で唯一、産科に特化した母体胎児の医療を担う、岐阜市長良の国立病院機構長良医療センター産科。前置胎盤など妊婦の様態の急変による緊急搬送などハイリスクを伴う出産を受け入れる周産期施設だ。産科医は5人で、24時間の当直体制で月に30―40件の出産をこなす。産科の34床、NICU(新生児集中治療室)を含めた未熟児新生病棟24床はいつも満床に近い。

 川鰭市郎産科医長(51)は「県内のハイリスク出産をカバーする周産期の医療はまだまだ足りない。今のうちに、医療機関のすみ分けや医師の集約化を図らなければ、奈良のようなケースが起きかねない」と警鐘を鳴らす。

 今月初めに移転した、同市野一色の県総合医療センター(旧県立岐阜病院)内の「母とこどもの医療センター」は、産科、新生児科、小児科とも県内屈指の規模。県は本年度中に、同施設を国が整備を求める総合周産期母子医療センターの特定施設に指定する予定だが、ここにも産科医不足が影響している。

 母とこどもの医療センターの小児科医は19人と充実する一方、産科は、産婦人科医の4人が婦人科と兼務であたる。「分娩だけでなく、外来患者の診察や手術もあり、ギリギリの数」と現場の医師。当直体制を敷くには7、8人が必要だが、医師が病院へ30分以内に駆けつけられる場所に居住してカバーしている。清水勝院長(68)は「県内の総合周産期医療の中核施設として産科専門医を確保したいのだが、探してもすぐに見つからない」と現状を打ち明ける。

 医師不足が続く中、医師も患者も安心してお産に臨める体制づくりとして、周産期医療の総合的な整備が1日も早く望まれている。【小森孝美】

周産期医療 周産期は妊娠満22週から生後満7日未満までを指し、周産期を担う医療施設では、切迫流産や前置胎盤など妊娠や分娩時の異常、胎児、新生児の異常に産科、小児科が連携して対処する。国は高度な治療が必要な母子に対応する「総合周産期母子医療センター」を全国に整備する計画だが、現段階で特定施設指定が予定される岐阜県を含め、8県で未整備。整備期限は2008年3月まで。

(岐阜新聞、2006年11月24日)


医大の若き戦力 激減

2007年06月14日 | 地域医療

どんな医師でも、最初は右も左も分からない白紙の状態から出発し、先輩医師たちから伝統技術を基本から叩き込まれながら多くの臨床経験を積み重ね、日進月歩の最新医学も学んで専門医資格なども取得し、だんだんとベテラン医師らしくなっていき、やがては、後輩医師達を育成する立場になっていきます。

従来、日本では長い間、多くの新卒医師が大学の医局に所属し、医局主導による医師のキャリア形成が行われてきました。私自身も、従来の医局制度の元で、多くの先輩達から基本的な技術を教わり、大学のいくつかの関連病院で研修し、大学で研究の指導を受け、学生や後輩医師の教育にも少し従事したあと、医局人事により大学の関連病院に赴任しました。現在も、大学から常勤、非常勤の医師を派遣してもらってます。

新臨床研修制度により、新卒医師たちが自由に自分の初期研修先を選択できるようになりました。それとともに若手医師の人材流動化が活発になり、若手医師が自分のキャリア形成の各段階(初期研修、後期研修、サブスペシャリティ専門医研修など)における研修先を、自分で自由に選択できる時代となりつつあります。

若手医師が自分のキャリア・プランを組み立てる際、研修先の選択はきわめて重要です。キャリア形成の各段階で、研修先として適している病院をちゃんと選択していかないと、最終的に自分の目標としているような医師にはなれないかもしれません。

従って、単なる数合わせだけで、若手医師を地方に強制的に誘導しようとしても、地方の研修・指導体制が充実してない限りは、若手医師が地方に定着するはずがないと思います。


医師不足 苦しむ地方 (中日サンデー版)

2007年06月13日 | 地域医療

コメント(私見):

地方では、病院勤務医の不足により、医療崩壊がどんどん進行しています。それに対して、『退職した医師を公募し、休診に追い込まれた病院に緊急派遣する』とか、『研修医をへき地に強制配置する』とか、最近、次々に国の解決策が発表されていますが、どれも実効性にはかなり疑問のあるように感じます。

今週の中日サンデー版でも、地方の医師不足の現状について、非常にわかりやすく図解されていました。国際的に比較しても、我が国の医師の絶対数が不足していることは、もはや誰の目にも明らかで、これには異論がないと思います。

医師の絶対数が不足している問題を放置したままで、目先の対症療法だけをいくら繰り返していっても、この「地方における医師不足の問題」は永久に解決しないと思われます。

参考:現場からの疑問の声

医師不足 苦しむ地方 東京新聞日曜版!
【産科医療のこれから】

****** 中日サンデー版、2007年6月10日
世界と日本 大図解シリーズNo.789

医師不足 苦しむ地方

Tokyoshinbun

国の失策が招いた人災

東京医科歯科大学大学院教授 川渕孝一

 わが国の「医師不足」は明らかに政府の失策だ。

 ひとつは必要医師数の推計ミス。1970年の「一県一医大構想」はつとに有名だが、何の根拠もなしに85年までに「人口10万人あたり150人の医師」を目指した。この数値目標は83年に達成され、その後は“医師過剰”として国は医学部の定員を削減。ところが実際の医師数はOECD(経済協力開発機構)30カ国中27位。また、医療法で定められた医師の配置基準を達成している県はひとつもない。にもかかわらず、厚生労働省は、「医師は毎年7700人誕生しており、退職などを差し引いても毎年3500から4000人ずつ増え、15年後の2022年には30万5千人で需給が均衡する」という。

 今一つの誤算は04年に導入された「新医師臨床研修制度」。公募により、全国から好きな研修先を自由に選べるようにしたところ、新人医師が大学に残らず、たまりかねた大学病院が関連病院かに派遣していた医師を引き揚げたのだ。供給がストップされた一般病院は当然人手不足に陥る。もともと女性医師の休職・退職が問題化していたが、とどめを刺された格好だ。特に時間外診療が多い小児科、産科は厳しい。そこへ超過勤務で疲れ切った勤務医の“開業ラッシュ”。まさに医師不足は“人災”だ。

 それにしても。医師の地域分布を見てみると、「西高東低」傾向は歴然としている。人口あたりの受療率や病床数も総じて西日本が多い。一票の格差も問題だが、住んでいる地域によって受療機会が異なるというのは、明らかに不平等。

 しかしながら、国の解決策は即効性の乏しいものばかり。そこで筆者が「構造改革特区」に提案したのが、供給過剰に悩む歯科医師(毎年約2700人を輩出)を一定の訓練のもと、医師にコンバートする構想。支援者もなく、水泡に帰した。当分は、地域の開業医の“助け船”に期待するしか方法がないようだ。

全国自治体病院協議会 
小山田恵会長の話

 勤務医がこれ以上辞めないよう、今いる医師を大切にすることが必要。医師の人権を守ることは、患者の人権を守ることでもある。宿直を1回減らす、明けは休みにする――過酷な労働環境が改善される期待があれば、医師も留まる。お金ではない。集約化、地域連携づくりなど、策はある。しかし、経営的視点の病院長や自治体首長、医師への住民の過大な期待と要求など、ハードルも高い。

世界で比べてみると

欧米先進国並みにはあと12万人不足している。 厚労省は、2022年に30.5万人となり需給数が均衡するとしている。

1000人あたりの医師数
 ギリシャ  4.9人
 イタリア  4.2人
 ノルウェー 3.5人
 フランス  3.4人
 米国    2.4人
 英国    2.3人
 日本    2.0人
 韓国    1.6人
   OECD「ヘルスデータ2006」

<救急告示病院の減少!>
知事から認定・告示を受けている救急告示病院は、2002年に全国で4343病院だったが、05年には4166病院に。

【北海道】

・私立根室病院
常勤医が06年度の11人から7人に減った。小児科以外の夜間救急外来を休止。4月中旬から5月初めにかけて、姉妹都市の富山県黒部市・黒部市民病院から外科医の応援派遣を受けた。

【青森県】

・公立金木病院
04年4月に10人いた常勤医が6人になり、今年から救急指定を取り下げた。

【岩手県】

岩手県遠野市は07年度から、希望があれば県立遠野病院の常勤石原に乗用馬を無償貸与することに。が、今のところ希望者はいないという。

【千葉県】

・東金病院
04年春に10人いた内科医が06年には3人に減ったが、専門医の資格を取得できる研修システムの整備などが奏功し、今年は6人に。

<自治体病院の閉鎖増加!>
医師不足や経営悪化などから、07年4月1日までの5年間で、1000近くある自治体病院のうち、6病院が閉鎖、17病院が民間に移譲された。これとは別に、民間業者などへの運営委託も1月現在で43病院に上る。

【静岡県】

・富士宮市立病院
内科医が減ったため、内科外来を紹介制・予約制に。

【愛知県】

・新城市民病院
内科医の減少などで夜間救急外来などを制限。06年秋には新城市と周辺住民の住民らが医師確保などを求め、5万人以上の署名を添えて陳情書を提出した。
・高浜市民病院
常勤医が3人と、前年同期と比べ7人減少。小児科、時間外救急を休止。公設民営化を模索しているが、はかどらず。

【富山県】開業医との連携

富山県南砺市では、開業医らでつくるNPO法人「南砺市医師会」が公立南砺中央病院に週3日、医師を派遣、病院の夜間救急業務の一部を担当している。勤務医の負担軽減に成果。

【大阪府】女性医師の子育て支援

大阪厚生年金病院は、育休3年、子どもが小学校を卒業するまでは週30時間の短時間労働などの待遇で育児支援。医師確保につながっているほか、研修医も増えた。

【島根県】統計値は高くても・・・・!

島根県・出雲地域の人口10万人対医療施設従事医師数は360人だが、雲南地域は133人。“地域内”格差も問題となっている。

【愛媛県】

・西条市立周桑病院
06年に28人いた常勤医が07年6月には15人と激減。
小児科・精神科が休止。

【長崎県】医師派遣システム

長崎県では離島からの要請を踏まえ、医師を公募、県職員として採用し、派遣。一定期間勤務すると、有給で自主研修ができる。04年度から6人の実績。

【熊本県】

・山鹿市立病院
07年度から平日の外来受け付けは午前中だけ、土曜日は休診となるなど、診療時間・内容が縮小。

<膨らむ不足感!>
日赤病院の調査(06年)によると、92病院のうち62病院で医師不足を訴え、不足数は30診療科の437人に上った。診療科別では内科が30病院で79人と多く、産婦人科、小児科、麻酔科と続く。医労連の施設調査でも、3年間に38病院で159人の医師が減った。

<欧米主要国下回る>

Q:日本の医師数は少ないのかな
A:人口に対する医師の割合はOECD諸国の平均以下。医師の総数は年々、増えてはいるんだが。

Q:でも、各地で医師が不足していると聞いてるけれど…
A:勤務医師数は増えているが、都心部の人気病院に集まっていて、地方の公立病院では勤務医が辞めている点が問題になっているんだ。勤務医を辞めて開業する医師も多い。
Q:偏りや地域差があるんだね。

<過酷な労働が拍車>

Q:勤務医ってそんなに忙しいの?
A:週一回以上宿直している医師は3割。医師の8割以上が宿直明け後も休憩せず、通常勤務に就いているそうだ。

Q:たまりかねて職場を去れば、人手不足でさらに過重労働の悪循環だね…
A:研修の新制度も影響しているんだ。04年度から新卒医師に2年間の研修が義務づけられ、地方の大学病院ではなく都会の有名病院で研修する者が増加。新人供給が止まった大学病院が、関連病院に派遣していた医師を引き揚げたんだ。

Q:女性医師も辞めていくって聞いてるけど…
A:女性医師が自分の出産や育児で職を離れるケースもある。

  育休制度が実施されている  67.2%
  労働時間の配慮        34.5%
  院内保育所           20・0%
  子育て医師への手当支給   5.5%

Q:対策はまだ十分ではないね。

【あの手この手】

・院内保育

05年の厚労省調査では9026病院中、院内保育を行っているのは2018病院だった。

・奨学金

県内病院での一定期間勤務などを条件に奨学金の返済を免除。
山形、三重、佐賀など実施自治体も多い。

・医学部の定員増

08年度から青森、岩手、岐阜、長野など10県で定員最大10人増。

・大学入試での地域枠

地元出身者限定の募集定員。実施大は年々増加。07年度は19大(募集人員165人)。

   2001  2大学
   2002  4大学
   2003  4大学
   2004  5大学
   2005  7大学
   2006 16大学
   2007 19大学

(中日サンデー版、2007年6月10日)

****** 共同通信、2007年6月12日

「過去半年に休診」が要件 国が医師派遣で新制度 大病院、退職者から人材

 厚生労働省は11日、政府、与党が5月末にまとめた緊急医師確保対策の一環として、人材不足に悩む医療機関への医師派遣の具体的なルールを盛り込んだ新たな制度を決めた。

 医師派遣を要請できる病院の要件は「過去6カ月以内に休診に追い込まれた診療科がある」などで、人材は全国規模の病院グループに提供を求めたり、医療機関の退職者から公募したりして集める。

 12日以降、新制度に基づいて都道府県から派遣要請を受け付ける。6項目にわたる政府の医師確保対策のうち、内容が具体化したのは初めて。ただ人員に余裕がある病院は少なく、必要な医師を確保できるかどうかは未知数だ。

 新制度は「緊急臨時的医師派遣システム」。医師派遣先の要件は(1)(都道府県をブロック別に分けた)2次医療圏内の中核病院(2)過去6カ月以内に休診に追い込まれた、もしくは今後6カ月以内に休診に追い込まれる診療科がある(3)大学に派遣を依頼したり、求人広告を出しても医師を確保できない-など。

 これらの要件について都道府県の医療対策協議会が検討し、派遣が必要と判断した場合に厚労省に要請。同省などがあらためて必要性や優先順位を検討する。

 派遣のための人材は国立病院機構や日本赤十字社など全国に病院を持つ組織にリストアップしてもらうほか、医療機関を退職した医師から公募。複数の医師によるローテーション制や、退職医師への研修を行うことも検討する。

 厚労省は11日、病院団体の代表者らでつくる「地域医療支援中央会議」に新制度について説明、了承された。会議に出席した柳沢伯夫(やなぎさわ・はくお)厚労相は「地域住民の医療サービス確保が待ったなしとなっていることをご理解いただきたい」と出席者に協力を求めた。

▽政府の緊急医師確保対策

 政府の緊急医師確保対策 政府、与党が5月31日に緊急に公表した6項目の対策。短期的な取り組みとして「国レベルでの緊急臨時的医師派遣システムの構築」を盛り込んだ。ほかには勤務医の労働環境整備、女性医師の就労支援、臨床研修病院の定員見直しなど。これまでに政府が提唱していた内容と重複するものが多く「実効性は未知数で参院選を控えたアピールにすぎない」との批判もある。

(共同通信、2007年6月12日)


補足(子宮頸がん予防ワクチンについて)

2007年06月11日 | 婦人科腫瘍

コメント(私見):

米国でも子宮頸がんが原因で毎年3700人が死亡していることから、全米で約20州が、十代の女性への子宮頸がん予防ワクチン接種を義務化することを検討しているとのことです。しかし、『若年層の性行為を助長する』などの批判もあって、ワクチン接種義務化に関して米国で大きな論争になっているそうです。

ワクチン接種の費用が約360ドルと高価なことも問題のようです。また、開発されたばかりのワクチンなので、副作用や免疫持続期間などに関するデータがまだ多く得られてないのも問題です。

現在、米国で承認されている子宮頸がん予防ワクチンは、米国メルク社製の「ガーダシル」のみで、HPV16、HPV18に対する感染予防効果が認められています。それに対し、最近、オーストラリアで初めて承認された英国グラクソ・スミスクライン社製の「サーバリックス」だと、HPV16、HPV18以外の高リスクHPVに対する感染予防効果も認められ、免疫持続期間も長いというようなデータが得られているそうです(日本臨床細胞学会ランチョンセミナー、金沢大学・井上教授)。今後、「サーバリックス」の方も世界各国で承認されることになるでしょうし、製薬会社間の激しいシェア争いが世界中で展開されることになるのかもしれません。

日本でも、十代後半の若者のクラミジア感染症の急増が問題となっています。十代後半で子宮頚部細胞診で異常がみつかる者も少なくないです。子宮頸がん予防ワクチンは、HPVに曝露される前に接種する必要があるので、ワクチン接種を義務化するのであれば、接種時期は十代前半でないと意味がないかもしれません。日本でも、近い将来、このワクチンの接種を義務化するかどうか?に関して論争になるかもしれません。

この子宮頸がん予防ワクチンの接種は、将来的な戦略として、次世代での子宮頸がんの発生率を減らそうという試みです。すでに現在がん年齢に達している人たちの場合は、毎年、子宮頸がん検診(細胞診検査)を受診していく必要があります。

参考:子宮頸がん予防ワクチンについて

****** 産経新聞、2007年4月4日

子宮頸がんワクチン、10代に義務付け 性行為助長と米で論争

 【ニューヨーク=長戸雅子】性感染症を主因とする子宮頸(けい)がんの予防接種を、女子生徒に義務付けることの適否をめぐる論争が、米国で続いている。米医薬品大手が開発した初の子宮頸がん予防ワクチンの効果が期待される一方、接種義務年齢を10代としたため、「若年層の性行為を助長する」という批判を呼んだためだ。副作用を懸念する声もあり、各州で始まった接種を義務づける動きは、ここに来て足踏み状態となっている。

 このワクチンはメルク社製の「ガーダシル」(対象年齢は9歳から26歳)。女性がかかりやすい子宮頸がんの発症原因の70%を占めるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染予防に特化した機能を持つ。同社が行った臨床実験でほぼ100%の予防効果が得られたとして、昨年6月、申請から半年足らずで米食品医薬品局(FDA)にスピード承認された。

 HPVは主に性行為で感染する。米疾病対策センター(CDC)によると、HPVには米国内で毎年620万人が感染するとされる。一方、毎年新たに約9700人が子宮頸がんと診断され、3700人が死亡している。

 こうした現状にもかかわらず、保護者らが反発したのは、多くの州がワクチン接種を10代に義務付けようとしたためだ。「予防ができたと不適切な性行為容認につながりかねない」「親の監督権を侵害している」とする意見が続出した。

 なかでも女子中学生への接種を義務付けたテキサス州では、ペリー州知事に対し州議会が、知事命令を無効とする法案を提出。加えてペリー知事の元側近がメルク社のロビー活動をしていることも不信を呼び、知事は支持基盤の保守層から連日、抗議を受けている。

 一方、メルク社は2004年に、当時の主力商品、関節炎鎮痛剤バイオックスの副作用問題で、同剤の販売を中止したことがある。今回のガーダシルについても「3年の臨床検査期間では免疫がどれぐらい継続し、長期的なリスクがあるかどうかについての治験が得られない」と、副作用を懸念する声は根強い。

 ワクチンの効果を得るには3回の接種が必要で、費用も約360ドルに上ることも、接種義務化の動きを阻んでいる。

 現在、全米で約20州が接種義務化を検討中だが、フロリダ州では、共和党議員の強い反対で提案者の民主党議員が年内の法案審議を断念した。医学と倫理の問題に政治的思惑も絡んで、事態はさらに複雑化している。

(産経新聞、2007年4月4日)


子宮頸がん予防ワクチンについて

2007年06月10日 | 婦人科腫瘍

コメント:

子宮頸がんは世界において45歳以下の女性の死亡原因の2番目となっており、毎年27万人以上がこの病気で亡くなっています。子宮頸がんは、パピローマ・ウイルスの持続感染からがんへ進行するとされています。わが国でも、子宮頸がんによって年間約2400人が死亡しています。

現時点において、子宮頸がんで死亡することを免れるためには、年に1度の子宮頸がん検診(子宮頚部の細胞診検査)を受診することが最も有効とされています。しかしながら、欧米での子宮頸がん検診の受診率が7~8割であるのに対し、わが国の子宮頸がん検診の受診率は2割程度にとどまっています。

米国メルク社が開発した初の子宮頸がん予防ワクチン「ガーダシル」が、昨年6月に米国で承認され、9月には欧州でも承認されました。最近、英国グラクソ・スミスクライン社が開発した子宮頸がん予防ワクチン「サーバリックス」が、世界で初めてオーストラリアで承認されました。日本でも、現在、これらの子宮頚がん予防ワクチンの臨床試験が進行中ですから、数年以内には使用可能となるはずです。

今後、これらの子宮頸がん予防ワクチンが世界的に普及すれば、将来的には子宮頸がんがほとんど撲滅される可能性もあります。

参考:

子宮頚がんワクチン 米国で認可

子宮頸癌について

子宮頸がん、最近の話題

****** 薬事日報、2007年4月27日

【万有製薬】子宮頸癌ワクチン「ガーダシル」‐今年中に申請へ

 万有製薬の平手晴彦社長は都内で記者会見し、子宮頸癌ワクチン(海外名「ガーダシル」)の日本での承認申請について、「期待値としてだが、今年中に申請したい」と述べた。子宮頸癌によって年間約2400人が死亡していることから、早期上市が社会的使命だとし、全力を上げる構えだ。実現すれば当初予定より2年以上前倒しの申請となる。

 ガーダシルは、米メルクが開発した子宮頸癌ワクチンで、2006年6月に米国で承認。子宮頸癌ワクチンとしては世界初となった。その後9月には欧州でも承認。日本では現在PⅢにある。

 「ガーダシル」は、子宮頸癌の原因の約70%を占めるされるヒトパピローマウイルス(HPV)16型、18型と、尖圭コンジローマなど生殖器疣贅の原因として約90%を占めるHPV6型、11型の感染を予防するワクチン。海外臨床試験では、HPV16型、18型に曝露された経験のない女性で、両型に起因した子宮頸癌を100%予防したという結果が報告されている。

 日本の治験では、当初計画として18~26歳の健康な女性1000人を対象に、プラセボ対照二重盲検群間比較試験が予定されている。筋肉注射によって初回と2カ月目、6カ月目の計3回接種し、抗体価、ワクチンに含まれる型に由来するHPV持続感染及び生殖器疾患の発生の有無が検証される。

 同社としては、日本で年間約7000人が新たに子宮頸癌と診断され、約2400人が死亡している状況を解消したい考え。ドラッグラグの解消の動きやがん対策基本法、ワクチン産業ビジョンの策定など環境が整ってきている中で、「何よりも優先させて取り組む」(高橋希人・研究開発本部長)としており、データ収集・解析を急ぎ、早期承認にこぎつける方針だ。

(薬事日報、2007年4月27日)


大学や地域の現状踏まえ制度の是正を~新医師臨床研修制度でヒアリング(医療タイムス)

2007年06月08日 | 地域医療

コメント(私見):

大学病院は3次医療を担っているので、地域の2次病院ではとても手に負えないような重症の患者さん達が県内各地からどんどん紹介されて来ます。また、大学の医学部では基礎的な医学の研究が行われています。

ですから、一般の2次病院では扱うことのできない高度で最先端の医療を学ぶためには、大学病院での修業が不可欠ですし、基礎的な医学研究に従事するためには大学に在籍する必要があります。

しかし、一般のよくある疾患は、大学病院での診療の対象とはならないので、大学病院における臨床研修ではあまり多く経験できないかもしれません。

初期臨床研修では、プライマリー・ケアの修得のために経験できる症例数が十分にあり、指導体制の整った病院に、研修医が自然に多く集まると思います。都会の有名病院では、それらの条件がちゃんと満たされているからこそ、多くの研修医が集まっているんだと思います。

初期臨床研修の中で、産婦人科研修は2年目に行われますので、すでに1年間かけて内科や外科を回っていますし、当直業務や救急外来なども多く経験してます。ですから、当科では、産婦人科研修中に、各研修医の技術修得状況に応じて、妊婦検診や帝王切開執刀など、指導医の監督下にいろいろと実践してもらっています。実際に産婦人科診療に参加して、産婦人科に興味を示してくれる研修医もいます。その中で、産婦人科医への道を自ら選んでくれる研修医が、年に1人でも出現してくれたら、最高にうれしく思います。

****** 医療タイムス、2007年5月29日

大学や地域の現状踏まえ制度の是正を
~新医師臨床研修制度でヒアリング

 医道審議会医師分科会医師臨床研修部会は25日、4人の参考人からヒアリングを行った。その中で大学病院の代表参考人からは、大学病院を中心とした臨床研修制度への是正や、ある程度地域の状況を踏まえたマッチング制度を求める意見が出た。

 小西郁生信州大学医学部産婦人科学講座教授(卒後臨床研修センター長)は、新医師臨床研修制度の開始によって、産婦人科の不足が一挙に顕在化したことを指摘し、「厚生労働省を深くうらんでいるが、研修医のプライマリ・ケアの修得など優れた面もある。元の卒業後即専門研修に戻したいとは思わない」と評価した上で、新制度の一層の充実を求めた。そのための課題としては、「将来の専門性が決まっていない中で、次々と診療科を移るローテーション研修では、モチベーションを保てない研修医が多い」と述べた。また、「現在の実力ある医師は、大学病院中心の臨床研修で鍛えられてきた。大学離れを促進する研修制度は、若手医師全体のレベル低下を招く危険性がある」とし、大学病院を中心に据えた臨床研修制度とする必要性を訴えた。

(医療タイムス、2007年5月29日)

****** Japan Medicine、2007年5月28日

厚労省・医師臨床研修部会 産科、小児科等は別立ての研修方式採用を 参考人からヒアリング

 厚生労働省の医道審議会医師分科会・医師臨床研修部会は25日、産婦人科、小児科、精神科に携わる参考人を呼びヒアリングした。各診療科の参考人は、全人的な医療を提供する医師の育成を目指す新医師臨床研修制度に一定の理解を示した。ただ、産婦人科、小児科などは別立ての研修方式を採用する必要性を指摘するなど、診療科の特殊性に応じた研修体制を求める声もあがった。

 信州大医学部産科婦人科学講座の小西郁生教授は、新医師臨床研修制度導入のデメリットとして、<1>専門性が定まらず、モチベーションを保てない<2>一般臨床研修病院だけで研修し、一人前になった錯覚を起こす研修医の存在を指摘。信州大では、モチベーションの低下した研修医に対し、メンタルヘルスケアを充実することで対応している。 また一人前になったと錯覚する研修医については、若手医師全体のレベル低下が危惧されるとし、「厚労省と大学病院が一緒になって、若手医師の研修システムをつくる時期が到来したのではないか」と述べた。

  新潟大大学院医歯学総合研究科の内山聖氏(小児科教授、医学部長)も、新制度の今後の課題について、「地域での小児科医確保が難しい状況。そのため、ある程度、人口、医師数を考えて、地域の定員を設けてもらいたい」と要請した。さらに、小児科、産科などは他科にまたがる“何でもやれる医師”は不要とし、「別立ての研修制度が必要ではないか」と述べた。

  大宮厚生病院の小島卓也副院長は、新制度が精神科に与えた影響について、「約2割の研修医が、うつ病などの精神問題を経験しており、精神科指導医の支援が有用だった」と振り返った。

  ヒアリング終了後に国立病院機構の矢崎義雄理事長は、新制度下での研修医について、「売り手市場のため学生気分が抜けず、医学部8年制のような傾向がある。定員を一度に下げる訳にはいかないが、全体として考え直していかなければならない」と提案した。

(Japan Medicine、2007年5月28日)

****** Online Med、2007年5月25日

新医師臨床研修 産科・小児科・精神科からヒアリング、制度は維持すべきの意見 厚労省部会

小児科・産科に特化したローテーションなど注文

 厚生労働省・医道審議会の医師分科会医師臨床研修部会(部会長:斎藤英彦:名古屋セントラル病院長)は5月25日、産婦人科、小児科、精神科の各学会から臨床研修制度に対する考え方をヒアリング。各学会とも、修正すべき点を指摘しながらも、臨床研修制度そのものは維持すべきものとの考えを示しました。

 産婦人科では信州大学医学部産科婦人科学講座教授で付属病院卒後臨床研修センター長の小西氏が、新制度の前には毎年350人程度いた産婦人科学会に加入して研修に入る医師数が、新制度の導入にともなって2年間はゼロとなり、700人程度が入ってこなくなったことが現在の産婦人科医師の不足の大きな要因としました。
 また、新臨床研修制度になって産婦人科研修に入る医師数は300人以下となり以前に比べて2割減少していることも示しました。
 こうした状況に「厚生労働省をうらんでいる」としましたが、臨床研修制度自体はプライマリケア修得の面で評価でき、産婦人科医師の処遇問題を浮き彫りにした面もあるとして、維持すべきものとしました。
 修正すべき点としては、新制度の欠点とされる研修医のモチベーションの低下に対し、「将来の専門性を明確にしたうえでの初期研修」とすることなど、スーパーローテーション研修の充実を求めました。

 小児科では、新潟大学医学部小児科教授で医学部長の内山氏が、新潟県は医学部入学者数の割合が少なく、そのため医師数も少なくなっている中で、小児科医確保策として、県内の病院について、地域ごとの小児科医の集中化を積極的に進めていることを紹介、臨床研修制度については、マッチングに地域性を導入すること、小児科と産科の専攻を希望する研修医については両科を中心とした研修方式とすることを求めました。
 小児科と産科では、「他科にまたがる何でもやれる医師は不要」とし、小児科であれば皮膚科でアトピーを研修したり耳鼻咽喉科を研修することが有用になるとしました。

 精神科では、大宮厚生病院副院長で精神科7者懇談会委員長の小島氏が、研修医に対するアンケート調査の結果、87人中18人、約2割が「最近1年間に1週間以上うつ状態になったことがある」と回答したことを明らかにしました。一般企業の新入社員の状況と比べて多いとし、原因は力のない指導医など研修カリキュラムの問題が影響しているとしました。ただ、研修の中での精神科の指導医によるサポートが有用に働いたことも指摘しました。
 精神科研修では、研修期間1ヵ月が多い中で、2ヵ月以上になると満足度・有用度・参加度が高くなると指摘しました。

(Online Med、2007年5月25日)


小児科、産科 拠点病院への集約化・重点化

2007年06月07日 | 地域周産期医療

小児科・産科は、全国的に休診・閉鎖が相次いでいて、県の医師不足対策として集約化策を実施する以前に、自然淘汰的な集約化がどんどん進行しています。

残った施設には地域の患者さんが一極集中することになり、その施設の医師数が増えない限り、医師たちは過重労働に耐え切れず次々に辞めていきます。

従って、伝統のある名門病院であっても、いったん医師数が減り始めると、坂道を転がり落ちるように医師数はどんどん減っていきます。こうして、今、地方では、小児科や産科の空白地帯がどんどん広がっています。

これを、自然の成り行きに任せて放置すれば、県によっては、県内全域に小児科・産科の空白地帯が広がってしまう可能性もあり得ます。

万が一、ある広域医療圏の全体が、小児科・産科の空白地帯となってしまえば、そこの患者さん達の流出先となる周辺の医療圏に与える影響も非常に大きいです。地域の周産期医療が完全に崩壊するのを阻止するために、地域にとって最後の砦となる基幹施設だけでも、せめて何とかして残すよう努力する必要があります。


医療現場-道職員としての医師派遣 (札幌テレビ放送)

2007年06月04日 | 地域医療

コメント(私見):

宮城県では、従来から頼りにしてきた東北大学の医局人事にだんだん依存できなくなってきたという事情から、2年前より『県庁医局』という新しい医師派遣システムを開始し、県で独自に医師を8人採用し、すでにかなりの成果が上がっているようです。採用された8人は、30代から50代の即戦力ばかりで、現在、それぞれ、地域にとけこんで大活躍してらっしゃるようです。

県の職員として採用され、3年間のうちの2年間は県より指定された病院で働き、残りの1年間は有給扱いで自由な研修ができるというシステムとのことです。県の担当職員が、全国各地で開催されている学会に出向き、直接、医師の勧誘をしているそうです。

これだけの成果が上がっていれば、おそらく、全国各地の医師不足で悩む県の担当部署からは、相当に注目されていることでしょう。このシステムで採用された医師たちは即戦力であり、一人前の医師を養成するために要する莫大な時間と費用を考えれば、3年間のうちの1年間の研修費用など非常に安いものです。

北海道でも、宮城県と同様に、「道職員として医師を採用し派遣する」方式の医師確保策をスタートさせたというローカル・ニュースの紹介です。

この方式の大きな問題点は、全体として不足している少ない医師の奪い合いですから、どこかの県が大いに頑張って、有能な医師の引き抜きに成功すれば、引き抜かれた方の県にとっては、地域医療の貴重な戦力が他県に奪われることになってしまい、医師不足で悩む地域住民がよりいっそう困窮する原因ともなり得ます。

****** 札幌テレビ放送、2007年5月31日
http://www.stv.ne.jp/tv/dnews/past/index.html

医療現場-道職員としての医師派遣

【スタジオ】
「変わる医療現場」です。"医師不足"の解消に向けて道庁が動き始めました。その策の一つが高橋知事が公約した「道職員として医師を採用し派遣する」方法です。「医師求む」のこのポスター。実は宮城県のものですが、2年前にスタートして既に成果を上げています。北海道でも参考になる先進例を取材しました。

【伊達正宗の像】
伊達政宗が街を見下ろす宮城県。

【2006年・宮城県の「辞令」】
この宮城県は2年間で独自に8人の医師を「県職員」として採用・内定し医師が足りない市町村病院に派遣しました。

【東北大学】
それまで頼ってきた東北大学には依存できなくなってきたからです

【七ケ宿町へ】
その第一号の医師を山間の町に訪ねました。

【水田から診療所】
仙台から車で1時間。人口1870人の七ケ宿町の診療所。

【診療風景】
長島高宏医師(34)「何か変わりはありましたか?」
男性患者「何もないのですが立っていると安定しない。フラフラする」

長島高宏医師34歳です。

【診療所のロビー】
町の高齢化率は県内一。役場が総合医療のできる医師を県に希望して派遣されました。

【所長室で辞令を見せてくれる】
見せてくれたのは2枚ある「辞令」です。

長島高宏医師
「県庁の身分として主任主査ですね/こちらが七ケ宿町から」 県職員であり町の職員。給与は町から受け取っています。

【X線撮影】
長島さんはもともと内科医です。

長島高宏医師、X線撮影 「息を大きく吸ってください」

診療所ではX線撮影のほか整形外科の関節内注射も手がけます。

Q どこが悪いのですか?

農家の男性80歳:「肩。上にあがらなくなった。過労だな」

長島高宏医師34歳:「やはり地域医療やる上では皮膚とか整形の勉強が大事なので、
旭川厚生の時に勉強して関節内注射も教えて頂いてできるようにしています」

【診察風景】
専門医教育を基本とする大学医局には、医師の派遣が期待できない診療所です。

【写真‐富良野勤務時代】
もともと地域医療をやりたかった長島さん。最初は北海道の病院で研修しました。

【カルテを書く長島医師】
その後、たまたまインターネットで見た宮城県のドクターバンクに応募したのです。

長島高宏医師:「県の職員として働いているので県の後ろ盾がある。何か困ったときに、手助けが欲しいときは県が後方支援してくれる。県が医局のような捕らえ方でやっている」

【仙台・宮城県庁】
"県庁医局"。長島さんがそう呼んだ宮城県庁です。

【医療整備課に入る】
「医療整備課・企画推進班」。それが"県庁医局"の心臓部です。

【書類を持ってくる課長】
職員として医師を採用する「ドクターバンク」事業は、全国にありますが宮城は有数の実績を持っています。

佐々木 淳課長:「H17年18年あわせて8人。予想外に応募して頂いたと・・・」

【採用資料】
採用が決まった8人は30代から50代の即戦力ばかりです。

Q ポイントは何か?
佐々木 淳課長:「県職員として採用される事と有給研修/それが魅力だと・・・」

【宮城のシステム】
宮城ドクターバンクの仕組みです。「3年1単位」で医師を県職員として採用します。このうち2年間は指定の施設に派遣しますが、残りの1年間は、有給扱いで自由な研修ができます。原則6年、延長可能で職場を移っても退職金が加算される所が大学医局よりも高待遇です。

【東北自動車道】
今度は、仙台から高速で30分の拠点病院に派遣された医師を訪ねました。

【大崎市民病院】
ここは東北大学からの医師派遣が不安定な病院でした。

【小児科と産婦人科カンファレンス】
小児科は、医師が1人になったこともありました。そこで、ドクターバンクに依頼して派遣されたのが岩城利充医師57歳でした。

【廊下と病棟での診察】
岩城さんは信州大学を出た後、名古屋市立大学の医局に入って岐阜の病院に勤務していました。しかし、あるきっかけ1つで宮城に移る決心をしたといいます

岩城利充医師:「宮崎で整備課の局長にあって話を聞いて一発で決めたので」

つまり、九州で開かれた学会に宮城県の担当者がリクルートに出向いていたというのです。

【仙台での糖尿病学会】
実際、岩城医師を取材した同じ日。仙台で開かれた学会の会場では宮城県が、採用活動を展開していました。

県職員・山崎さん:「宮城県ですが、県内の病院が医師不足なものですから・・・」
「よろしくお願いします」

こうした学会への出張勧誘を宮城県では年4回繰り広げています。

【知事からの手紙】
さらに、この手紙。岩城さんが採用前に受け取った知事の直筆でした。

岩城利充医師:「(手紙が)なくても来たと思うが宮城県の姿勢が象徴されている直筆だし・・・」

【未熟児室で若い医師と】
57歳になったいまも月1回の当直をしていますが、ドクターバンクには満足しているといいます。

岩城利充医師:「去年採用された医師の活躍みると、彼らが採用された所には大学からいかなかった所ばかり。しかしそこで働いている人達は満足感を持ってやっている。それはドクターバンク制度が存在価値を持っていると認めてよいと思う」

【七ケ宿町の田植え】
【車で移動する長島医師】
再び山間の七ケ宿町に派遣された長島高宏医師です。

【車に積まれた往診バッグ】
使い込まれたカバンを持って往診に向かっていました。

【101歳の女性宅に到着】
長島高宏医師:「どうも、こんにちは・・・」

そこは80歳の嫁が101歳の姑を介護している家でした。

長島高宏医師:「ヨシさんお腹痛くないかい?」
101歳姑:「痛くない」

診療所への派遣には満足しているという長島さん。3年目の有給研修は取らずに診療所に残りたいと考え始めています。

Q いつまでいるのか?
長島高宏医師:「この地域に馴染んで患者に気に入って頂ければ居られるだけいたいという気持ちでやっている」

Q ドクターバンクを使って?
「そうですね、ハイ」

【走り去る往診の車】
県職員の2人の医師が上げた"県庁医局"成功の秘訣。それは"県の熱意"と"やりがい"そして"信頼関係"でした。

(札幌テレビ放送、2007年5月31日)

****** 札幌テレビ放送、2007年6月1日http://www.stv.ne.jp/news/item/20070601185909/

道庁に"医局"が誕生

医師不足問題―。"道庁医局"ができました。"医師確保"を最重要課題に掲げた高橋知事が「医師確保推進室」を道庁に作りました。今年度中に、5人の"道職員医師"採用を目指すといいます。

(高橋はるみ知事会見) 「道職員としての医師の採用、地域に派遣をすると…」
再選直後の記者会見で高橋はるみ知事が設置を表明した医師確保の専門組織―。急ごしらえな表示ですが、きょうの道庁組織・機構改革で新たに誕生しました。担当職員数は1人から6人に増加―。すぐに動き出すといいます。

(高橋はるみ知事) 「予算が通れば、あるいは予算が通ることを見越した下準備は今もう既に始めている所です」

道庁が目指すのは、道が独自に医師を採用・派遣する仕組みづくりです。これまで、病院の医師の多くは、大学の医局から派遣されてきました。それに期待できなくなったいま、道庁自身が「医局」になろうというのです。具体的には、道職員としての「身分を保障」した上で、2年間は医師不足病院に派遣し、1年間は有給で、希望する研修を約束しようというのです。

実際に宮城県では、この方法で、2年間に8人を採用・内定しています。道もこの仕組みに倣う考えです。勤務年限に応じた退職金も出ることから、医局派遣で病院を転々とした経験のある医師はこう評価します。

(今村啓作医師) 「日赤病院、厚生病院、市立病院、町立病院と回るうちに退職金はグチャグチャだから、その都度10万、20万もらうから。それで切れてしまう。そうではなくなるのなら身分保障はひとつ魅力だ」

道は今年度中に5人の道職員医師の採用を目標にする、といいます。目的をそのまま掲げた道の組織が動き出しました。

(札幌テレビ放送、2007年6月1日)