http://plaza.umin.ac.jp/~neonat/news/seimei060913.pdf
声明文
日本周産期・新生児医学会は、会員の総意に基づき、福島県立大野病院勤務の医師、加藤克彦(以下加藤医師)の逮捕・起訴に対して強く抗議することを声明致します。
この事件は、加藤医師が、同上病院において平成16年12月17日に施行した癒着胎盤を合併する前置胎盤の帝王切開に際し、出血多量のため患者を死亡させたとして業務上過失致死の罪、及び異常死体を24時間以内に届け出ると定めた医師法違反の罪に問われ、去る平成18年2月18日に逮捕、3月10日に起訴されたものであります。
本会並びに学会員は、まず、亡くなられた患者様に深く哀悼の意を表し、ご家族の皆様には心からお悔やみを申し上げる所であります。しかしながら、この事例は、加藤医師が“故意”や“怠慢”などにより患者を死亡に至らしめたのでないことは明白であり、力を尽くし懸命な努力をしたにも拘らず、患者の命を救うことができなかった事例であります。この様な事例に対し担当医師の刑事責任を問うことは、そのこと自体が全く不当で、本会はそれを容認することはできません。
本件で、一時的とは言え身柄を拘束された加藤医師はこれまでも身を粉にして地域の医療に貢献してきた産婦人科専門医であります。上記事例の発生後も同上病院に勤務し日々の診療に当たっておりました。この様な医師が逃亡する恐れの無いことは明らかで、また、警察の取調べにも素直に応じ、既に資料も総て押収されてしまった逮捕当時、証拠隠滅など図りようもないことであります。その様な状況での今回の逮捕拘留は全く理解に苦しむものであり、誤った処置であったと断言できます。
本会も事例の医学的事項並びに不幸な結果に至った経緯とその原因については徹底的な究明を望むものであります。しかし、本事例は癒着胎盤と言うまれな疾患の診断の難しさゆえに生じたものであり、また、医師不足や輸血用血液確保の困難性など、地域医療の特性に基づく悪条件が不幸な結果に強く結びついていることも明らかであります。この様に、本事例が学問上も難しく、さらに僻地医療が抱える問題を背景として生じた事例であることを鑑みますと、その責任を現場の医師一人に帰してしてしまおうとする今回の逮捕・起訴に、本会の多くの会員が憤りすら感じていることも無理からぬことと言えます。この様な逮捕・起訴がまかり通れば、僻地医療、延いては日本の周産期医療全体を衰退させることになると強く危惧するところであります。周産期医療に携わる医師が日常的に行っている医療行為には本件のような不測の事態の発生する可能性が常に内在されており、それ故、今回の加藤医師の逮捕・起訴は医療従事者を萎縮させ、今後、医師を、自己防衛を優先する医療に走らせる懸念があるとさえ言わざるを得ません。
また、本件で加藤医師が異常死届出に関する医師法違反に問われたことも道理の通ったものとは思われません。いわゆる医療事故と考えられる事例は、事の重大さを問わず、医師が自らの良心に従い病院に報告するのが通例となっており、本事例に関しても、加藤医師は病院長に報告し指示を仰いでおります。実際、大野病院のマニュアルにもそのように定められており、必要があれば院長が警察に届け出る事になっておりました。また、加藤医師は福島県の事故調査委員会の取調べに対しても、再発防止の観点から調査に全面的に協力し、正直に事例の経緯を述べております。再発防止と将来のより良い医療の達成に資する目的の調査委員会報告書が捜査資料に使われ、病院の規定通りに事例を報告し、病院側からの指示に従った加藤医師がこのことで医師法違反に問われたことにも、本会は大きな驚きと深い失望を覚えている所であります。
以上のことから、日本周産期・新生児医学会は福島県立大野病院事件における加藤医師の逮捕・起訴に対する強い抗議の意志をここに声明する次第であります。
平成18年8月
日本周産期・新生児医学会
理事長 堀内 勁
****** 参考