ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

子宮頸癌治療ガイドライン2011年版(第2版)

2011年11月26日 | 婦人科腫瘍

編集:日本婦人科腫瘍学会  
後援:日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、婦人科悪性腫瘍研究機構、日本放射線腫瘍学会

第51回日本婦人科腫瘍学会学術講演会が福岡県久留米市のホテルマリターレ創世で開催されてます。学会会場内に設置された書籍販売コーナーで、「子宮頸癌治療ガイドライン」(2011年版)定価2940円が販売されてました。2011年11月30日発行で、正式に発行する前の学会場での先行販売とのことで早速購入しました。

30109l_3

****** 第2版序文

 初版(2007年版)から4年が経過し、やっと改訂版(2011年版)の発刊にこぎつけました。初版の時も「子宮体癌治療ガイドライン」と同時に作業を開始したにもかかわらず1年長くかかりましたが、今回の改訂でも時間がかかってしまいました。これは、第一に子宮頸癌のエビデンスが蓄積されているとはいえ、エビデンスが一つ一つ連続して積み重なっておらず、各エビデンス間での比較が難しかったことによります。第二に、国内の治療法発達の歴史的背景の違いから、せっかく欧米で高いエビデンスがある領域であっても、それがそのまま国内の治療指針に適応とならなかったという点にも依存します。そのために初版作成にあたっては作成委員会内でも意見がなかなか集約せず、コンセンサスミーティングでも多くの意見が出されるなかでコンセンサスに至らないままの事項が残っておりました。今回の改訂に際しては、新たな項目は設けずに、最新のエビデンスを収集しながら国内の意見を再度集約することを目的としました。すなわち、初版を吟味しなおしてブラッシュアップするという方針で改訂作業を進めることとしました。そのために、できるだけ全国の大学やがんセンター、中核病院などで実地診療に携わっている専門家に作成をお願いしたいと考え、今回初めて作成委員を公募しました。また、初版で放射線腫瘍医側の意見を十分に反映できなかったのではないかという反省から、日本放射線腫瘍学会に事前に作成委員の推薦をお願いしました。

 今回の改訂の主なポイントは以下の通りです。

1) 推奨グレードの変更
 初版では推奨グレードがA、B、C、D、A’、Eの6段階になっていましたが、「子宮体がん治療ガイドライン2009年版」や「卵巣がん治療ガイドライン2010年版」に倣い、A、B、C1、C2、Dの5段階に変更しました。

2) 新FIGO進行期分類との関係
 本ガイドラインの作成作業中にFIGO(International Federation of Gynecology and Obstetrics)の進行期分類が改訂されました。新分類では上皮内癌0期を除外することとなっていますが、0期は患者数も多く患者年齢も若年者が多いためにガイドラインに記述する意義は高いと判断し、従来通り0期に対する治療指針を示すこととしました。
 一方、新分類でIIA期がIIA1期とIIA2期に細分類されました。それに伴い日本産科婦人科学会を中心とした「子宮頸癌取扱い規約」の改訂作業が急速に進み、本ガイドライン発刊時期からそれほど期間をおかずに発刊されることが明らかとなりました。そこで、本ガイドラインではIIA1期とIIA2期の細分類を採用しています。

3) 「子宮頸癌取扱い規約」との役割分担
 「子宮頸癌取扱い規約」との役割分担という意味で、放射線治療の具体的な方法については本ガイドラインで詳述することとしました。

4) 腺癌関連のCQの取り扱い
 子宮頸癌では腺癌単独での臨床試験がほとんど施行されていないことから、初版に設けていた腺癌単独の章は削除し、各進行期のなかで腺癌についても記述することとしました。

5) 妊娠合併症例の充実
 子宮頸癌症例の若年化、妊娠出産年齢の高齢化という傾向から、妊娠に合併した子宮頸癌の取り扱いはますますその重要性を増しています。そのために、これに関連するCQを増やし詳細に治療指針を示すこととしました。

 東日本大震災の年に、大変困難と思われた「子宮頸癌治療ガイドライン」の改訂版を世に出すことができましたことは、本書に関わったすべての人にとって大きな誇りとなるはずです。ガイドライン作成のまとめ役をしてきたものとして、改訂作業に携わっていただいたすべての皆様に深甚なる感謝を申し上げます。

2011年盛夏

日本婦人科腫瘍学会子宮頸癌治療ガイドライン検討委員会
委員長 八重樫伸生
副委員長 片渕秀隆

****** 目次

第1章 ガイドライン総説

第2章 0期とIA期の主治療
I 0期
 総説
 CQ01 上皮内癌に対して推奨される治療は?
 CQ02 治療後に再発した場合、どのような対応が推奨されるか?
II IA期
 総説
 CQ03 IA1期に対して推奨される治療は?
 CQ04 IA2期に対して推奨される治療は?
 CQ05 単純子宮全摘出術後にup stageされてIB期(またはそれ以上)の癌がみられた場合、推奨される治療は?
III 0期・IA期の腺癌
 総説
 CQ06 上皮内腺癌に対して推奨される治療は?
 CQ07 IA 期の腺癌に対して推奨される治療は?

第3章 IB期とII期の主治療
 総説
 CQ08 IB1・IIA1期(扁平上皮癌)に対して推奨される治療は?
 CQ09 IB2・IIA2期(扁平上皮癌)に対して推奨される治療は?
 CQ10 IIB期(扁平上皮癌)に対して推奨される治療は?
 CQ11 IB・II期(扁平上皮癌)に対して術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;NAC)は推奨されるか?
 CQ12 広汎子宮全摘出術の場合の骨盤神経温存術は推奨されるか?
 CQ13 広汎子宮全摘出術の場合に卵巣温存は可能か?
 CQ14 広汎子宮全摘出術の場合に傍大動脈リンパ節郭清の追加は推奨されるか?
 CQ15 IB・II期の腺癌に対して推奨される治療は?

第4章 IB 期とII期の術後補助療法
 総説
 CQ16 推奨される術後補助療法は?
 CQ17 術後再発リスク因子をもつ例に術後補助療法として放射線治療を行う場合、推奨される照射方法は?
 CQ18 傍大動脈リンパ節領域への予防照射の適応は?
 CQ19 維持療法として経口抗がん剤や免疫療法は推奨されるか?

第5章 III期とIV期の主治療
 総説
 CQ20 III・IVA期に対して放射線治療を施行する場合、放射線治療単独と同時化学放射線療法(CCRT)のいずれが推奨されるか?
 CQ21 III・IVA期に対して同時化学放射線療法(CCRT)を施行する場合、推奨される薬剤は?
 CQ22 III・IVA期に対して主治療前に施行する化学療法は推奨されるか?
 CQ23 III・IVA期に対して手術療法は推奨されるか?
 CQ24 IVB期に対して推奨される治療は?
 CQ25 III・IV期の腺癌に対して推奨される治療は?

第6章 再発癌の主治療
 総説
 CQ26 前治療として放射線治療が施行されていない場合、骨盤内に限局した再発に対して推奨される治療は?
 CQ27 照射野内再発に対して推奨される治療は?
 CQ28 照射野外再発、あるいは放射線治療を施行していない場合の骨盤外再発に対して推奨される治療は?
 CQ29 再発癌に対して全身化学療法は推奨されるか?
 CQ30 再発癌に対して全身化学療法を行う場合、推奨されるレジメンは?

第7章 妊娠合併子宮頸癌の治療
 総説
 CQ31 妊娠に合併した0期に対して推奨される治療は?
 CQ32 妊娠に合併したIA期に対して推奨される治療は?
 CQ33 妊娠に合併した浸潤癌に対して推奨される治療は?

第8章 治療後の経過観察
 総説
 CQ34 治療後の経過観察として推奨される間隔は?
 CQ35 治療後の経過観察において施行すべき検査項目は?

第9章 資料集
I 抗がん剤の有害事象一覧
II 子宮頸癌に用いることが多い抗がん剤と保険適用の有無
III 略語一覧

索引

****** 私見

医療従事者が患者さんのためによかれと思って最善を尽くしたとしても、必ずしも100%患者さんの期待通りの結果が得られるとは限りません。患者さんに対して、“我が国における現時点での標準医療”が提供されていれば、結果の善し悪しに関わらず、その結果を厳粛に受け入れるしかありません。

医療従事者は、職務として患者さんに関わる以上、“我が国における現時点での標準医療は何であるか?” を患者さんにきちんと説明して、現時点での標準医療を患者さんに提供できるように最大限の努力を払い続ける義務があります。もしも、自施設でそれが無理な状況であれば、標準医療を提供することが可能な施設に患者さんをただちに紹介する必要があります。

患者さん自身が、御自分の意思で標準医療を拒否し、自己責任において代替療法を選択した場合は、その結果責任を他人に押しつけることは難しいと思います。医療従事者が、現時点での標準医療を患者さんに提供する努力を怠って、エビデンスに乏しい代替療法を患者さんに押し付けて、その結果が不良の場合は、その医療従事者に対して結果責任が問われるのは当然だと思います。そこで、医学の全分野において、“現時点における標準医療は何か?” ということが、常に、非常に大きな問題となります。

最近刊行された産婦人科関連のガイドライン、取り扱い規約は以下の通りです。

・ 子宮頸癌治療ガイドライン(2011年版)
・ 卵巣がん治療ガイドライン(2010年版)
・ 子宮体がん治療ガイドライン(2009年版)
・ 絨毛性疾患取扱い規約第3版(2011年)
・ 産婦人科診療ガイドライン産科編2011
・ 妊娠高血圧症候群(PIH)管理ガイドライン2009
・ 日本版救急蘇生ガイドライン2010に基づく新生児蘇生法テキスト改訂第2版(2010年)
・ 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2011
・ 子宮内膜症取扱い規約第2部治療編・診療編(第2版)2010年
・ ホルモン補充療法ガイドライン2009
etc.

自分の関わっている診療分野のガイドラインや取り扱い規約の最新版を常に熟読吟味して、科内でも周知徹底させる必要があると考えています。


病院ロビーでのピアノ演奏

2011年11月20日 | 地域医療

十数年前、病気療養中の患者さんが病院に1台のピアノを寄贈してくださいました。それ以来、このピアノは病院ロビーに設置され、日々大活躍しています。毎日午後3時から自動演奏の音楽が奏でられます。毎月の院内コンサートでも活躍しています。また、十年以上前から、毎週木曜日にピアノを演奏してくださっている市内在住のピアノの先生もいらっしゃいます。それらの演奏を毎回楽しみにしている患者さんも大勢いらっしゃいます。

Piano_2

患者さんのリクエストに応えて...


2011年度研修医マッチング結果

2011年11月12日 | 地域医療

医師臨床研修マッチング協議会は、10月27日、2011年度研修医マッチング結果を発表し、全国の総定員10550人に対して、希望順位登録者8225人のマッチ率は96.7%でした。

長野県内のマッチング参加病院は26病院、総定員計157人に対し、マッチ者は115人となり、充足率は73.2%でした。

信州大学医学部附属病院は4プログラム合計の総定員54人に対してマッチ者は32人で、充足率は71.4%でした。県内関連病院の統一研修(定員36人)のマッチ者は27人、診療科自由選択研修(同14人)のマッチ者は3人、産婦人科研修(定員2人)のマッチ者は1人、小児科研修(定員2人)のマッチ者は1人でした。信州大学医学部附属病院のマッチ者に対する自学出身者の割合は81%でした。

******

今年度の飯田市立病院のマッチ者は3人でした。3人とも顔馴染みの優秀な学生です。臨床実習で何度も当院に足を運んでくれて、すっかり顔馴染みとなった信大の学生が、マッチングでも当院を選んでくれました。おそらく、信大とのたすき掛けで、1年目または2年目を当院で研修する研修医がそれぞれ数名づついる筈です。当院の場合、在籍医師の多くが信大の医局出身者で、研修医マッチングで当院を希望してくれる学生のほとんどは信大生です。また、当院初期研修医の多くが研修終了後は信大のいずれかの医局に入局してます。今後も、信大と一心同体で頑張っていく以外に、この世の中に生き残っていく道はないと考えています。

******

長野県内のマッチ者数(計115人)の内訳
定員充足率73.2%(115/157)

信州大学医学部附属病院 32人(定員54人)
 県内関連病院の統一研修 27人(定員36人)
 診療科自由選択研修 3人(定員14人)
 産婦人科研修 1人(定員2人)
 小児科研修 1人(定員2人)
県厚生連佐久総合病院 15人(定員15人)
長野赤十字病院 10人(定員10人)
相澤病院 10人(定員11人)
県厚生連長野松代総合病院 7人(定員7人)
諏訪赤十字病院 7人(定員7人)
諏訪中央病院 5人(定員5人)
長野市民病院 5人(定員5人)
長野中央病院 4人(定員4人)
県厚生連篠ノ井総合病院 4人(定員4人)
飯田市立病院 3人(定員5人)
安曇野赤十字病院 2人(定員2人)
県厚生連北信総合病院 2人(定員2人)
国立病院機構信州上田医療センター 2人(定員2人)
佐久市立国保浅間総合病院 2人(定員2人)
松本市立波田総合病院 2人(定員2人)
伊那中央病院 1人(定員2人)
県厚生連安曇総合病院 1人(定員2人)
県立木曽病院 1人(定員2人)
県厚生連小諸厚生総合病院 0人(定員3人)
県厚生連富士見高原病院 0人(定員2人)
県立須坂病院 0人(定員1人)
国立病院機構まつもと医療センター 0人(定員2人)
昭和伊南総合病院 0人(定員2人)
市立大町総合病院 0人(定員2人)
松本協立病院 0人(定員2人)


嚢胞性ヒグローマ

2011年11月11日 | 周産期医学

cystic hygroma

【Williams Obstetrics, 23ed Edition, p356より】

嚢胞性ヒグローマはリンパ管系の先天奇形で、液体に満たされた嚢胞が後頸部から生じる。嚢胞は大きく、多嚢胞性であることが多い。典型例では、頭部からのリンパ液が経静脈に流入するのに支障をきたし、リンパ液が頸部リンパ嚢胞内に蓄積される。嚢胞性ヒグローマでは胸管が肥大し、それが心臓の形成過程に影響を及ぼす可能性がある。心奇形のリスクが増大し、一部の症例では左心低形成や大動脈狭窄のような先天性心疾患を伴う。

嚢胞性ヒグローマ例の約60~70%は、Aneuoloidy(異数性)に随伴する。第2トリメスターに診断された嚢胞性ヒグローマの胎児では、Aneuoloidy(異数性)例の75%は45,X(Turner症候群)である(Johnson et al, 1993; Shulman et al, 1992)。嚢胞性ヒグローマが第1トリメスターに診断された場合にもっと多いAneuoloidy(異数性)は21トリソミーである(Malone et al, 2005)。このMaloneらの報告では、嚢胞性ヒグローマを伴った第1トリメスターの胎児がAneuoloidy(異数性)である可能性は、NTの増大した胎児の5倍であった。嚢胞性ヒグローマは単独で起こることもあり、遺伝性の症候群(Noonan症候群など)の一部として起こることもある(Lee et al, 2009)。

大きな嚢胞性ヒグローマは胎児水腫を伴うことが多く、自然消失することは非常にまれであり、予後は不良である。それに対し、小さな嚢胞性ヒグローマは自然消失する可能性があり、その場合は胎児の染色体検査や心エコー検査は正常で、予後も良好である( Shulman et al, 1992; Traufer et al, 1994)。

****** 

以下、嚢胞性ヒグローマのエコー写真

Cystichygroma1
嚢胞性ヒグローマ

Cystichygroma2
嚢胞性ヒグローマ

Cystichygroma
嚢胞性ヒグローマ


放射性物質の母乳への影響について

2011年11月10日 | 周産期医学

現在、母乳育児中の女性で、このまま母乳を飲ませ続けると、子どもに放射性物質を与えることになるのではないか?と不安に思っている方も少なくないと思います。

まず、母乳中の放射性物質の濃度についての、我が国における最近のデータを見てみましょう。厚生労働科学研究費補助金・成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業「東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故による母乳中の放射性物質濃度評価に関する調査研究」班が、母乳中の放射性物質濃度等の調査を行いました。

「母乳中放射性物質濃度等に関する調査」についてのQ&A

調査対象は8県(宮城県、山形県、福島県など)に在住する授乳婦、調査期間は平成23年5月18日~6月3日、提供された母乳中の放射性ヨウ素、セシウムの測定が行われました。今回の調査で、108人の母乳中の放射性物質濃度は101人が不検出で、福島県の方21人の中で7人の方の母乳から微量の放射性セシウムが検出されました。

経口摂取した放射性ヨウ素、セシウムは、平均としてそれぞれ4割、3割程度が母乳に移行すると言われています。今回、調査対象となった母乳の一部から放射性物質が検出されたのは、空気・水・食物中に存在する放射性物質が母体の体内に吸収され、それが母乳中に移行したためと考えられます。福島県の方の一部の母乳でだけ検出された理由は、これらの方の経口摂取または吸入摂取量が他の方よりも少し多かったからではないかと推定されます。

放射性ヨウ素は、尿などから排泄されるので、約7日で半分の量になります。放射性ヨウ素の新たな吸収がなければ、体内で時間と共に急速に減少し検出下限値以下になります。このため、以前の調査で検出された放射性ヨウ素は、今回の調査では検出されなかったと考えられます。

放射性セシウムの物理学的半減期はセシウム134で2年、セシウム137で30年、有効半減期は成人で80~100日、小児で40~50日とされています。このため数ヶ月程度の期間では減衰が少ないこと、および食品等からの少量の摂取がありうることから、放射性ヨウ素が検出されなくなってからも、放射性セシウムが検出される検体があると考えられます。

今回の調査で検出された放射性セシウムは高い人でセシウム134が6.4 ベクレル/kg、セシウム137が6.7 ベクレル/kgでした。母乳中の放射性セシウム134,137の濃度がそれぞれ10ベクレル/kgの母乳を毎日800g、1年にわたって摂取した場合を考えると、セシウム134,137の摂取量はそれぞれ2920ベクレルとなります。それによる線量の増加は約0.14ミリシーベルトと推計されます。放射性セシウムの飲食物としての摂取限度値は実効線量として5ミリシーベルト/年とされていますので、その線量の30分の1以下ということになります。

母乳には、栄養面をはじめとして感染防御など人工栄養には見られない様々な利点があります。今回の調査で放射性セシウムが母乳中に検出された方についても、引き続き、普段通りの生活を行っていただいて問題ないと考えます。

母乳中に放射性物質が検出されなかった他の地域の方については、当然授乳に問題はありません。

私たちが生活している空間や土壌には天然自然の放射線や放射性物質がたくさんありますが、今回は原発事故災害による放射性物質が余分に身体に入ってしまったのですから、同じ放射性物質であっても、本当に残念に思う気持ちは当然のことです。でも、今回の基準値以下の放射線量は、母乳を飲んでいるお子さんの健康に悪影響を及ぼす放射線量よりもはるかに少量です。そして、このわずかな放射線量よりも、母乳に含まれる様々な子どもの成長に役立つ成分のほうが、はるかにお子さんの成長にとって重要であることをご理解いただければと思います。

******

なお、福島県では、7月から妊婦や子どもを優先し、全県民の内部被ばく検査を開始しましたが、これまで三千人余を検査し、「問題のあるケースはない」(地域医療課)とのことです。1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故では、事故後数年後から子どもの甲状腺癌が増えたとの報告もあります。福島県では今後数十年にわたって調査を続ける方針とのことです。


梅毒

2011年11月09日 | 周産期医学

syphilis

****** 産婦人科ガイドライン。婦人科外来編2011

CQ108 梅毒の診断と治療は?

Answer

1. STS法定性と、TPHA法定性またはFTA-ABS法定性の併用により診断を確定させ、病期診断を行う。(A)

2. 治療は、合成経口ペニシリン(AMPC、ABPC)を第一選択とし、第1期では2~4週間、第2期では4~8週間、第3期では8~12週間内服とする。(A) 表1

3. 治癒効果はSTS法定量によって判定する。(A)

4. 梅毒の診断が確定した場合、診断した医師は感染症法に基づき届け出を行う。(A)

------

(表1)第一選択薬

Syphilisdrug_2

------

(表2)STS法とTPHA法の解釈

Ststpha1

------

(表3)ペニシリン系にアレルギーがある場合の治療薬(進行期別投与期間は第1選択薬に同じ)

Syphilisdrug1

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ613 妊娠中の梅毒スクリーニングと感染例の取り扱いは?

Answer

1. 妊娠初期に、カルジオリピンを抗原とする非特異的検査[STS: serologocal test for syphilis](RPRカードテスト、凝集法、ガラス板法のうち1法)と、T. pallidumを抗原とする特異的検査(TPHA法、FTA-ABS法のうち1法)を組み合わせてスクリーニングを行う。(A)

2. 感染があったと判断された症例は、病期診断を行い、治療不要と考えられる陳旧性梅毒以外の症例には、速やかにペニシンリンを中心とした抗菌薬投与を行う。(A)

3. 治療を行った妊婦では、妊娠中期に超音波検査(胎児肝腫大、胎児腹水、胎児水腫、胎盤の肥厚の有無)を行う。(C)

4. 治療を行った妊婦では、妊娠28~32週と分娩時にSTS法を行い、治療効果を判定する。(C)

5. 感染症法上5類感染症全数把握疾患であり、表2に従い診断後7日以内に所轄の保健所に届出る。(A)

6. 感染妊婦からの出生児には表2に従い、先天梅毒の検査を行う。(A)

------

(表1)梅毒血清反応検査による評価と反応(無症候の場合)

Ststpha2

------

(表2)感染症法(2003年11月施行)における届け出基準(一部抜粋改変)

○ 患者(確定例)(顕性梅毒)
 症状や所見から梅毒が疑われ、かつ、次の検査方法により、梅毒患者と診断した場合。

○ 無症状病原体保有者(無症候梅毒)
 臨床的特徴を呈していないが、次の検査方法により、抗体(カルジオリピンを抗原とする検査では16倍以上またはそれに相当する抗体価)を保有する者で無症状病原体保有者と見なされる者(陳旧性梅毒と見なされる者を除く。)を診断した場合。

Syphilistest

○ 先天梅毒は、下記の5つのうちいずれかを満たすもの。
ア. 母体の血性抗体価に比して、児の血性抗体価が著しく高い場合
イ. 血性抗体価が移行抗体の推移から予想される値を高く超えて持続する場合
ウ. TPHA IgM抗体陽性
エ. 早期先天梅毒の症状を呈する場合
オ. 晩期先天梅毒の症状を呈する場合

○ 病型は、以下の4つに分類して報告する。
1) 早期顕性梅毒(ア.Ⅰ期 イ.Ⅱ期)
2) 晩期顕性梅毒
3) 先天梅毒
4) 無症候(無症状病原体保有者)

******

梅毒はスピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum: TP)による感染症である。感染経路は接触感染と子宮内感染に大別され、前者を後天梅毒、後者を先天梅毒と呼ぶ。後天梅毒の大部分は性的行為によるが、まれに医療従事者の感染や輸血感染などがある。妊娠中母体が梅毒に罹患したものを妊婦梅毒という。妊婦梅毒では、TPが胎児に経胎盤感染して、流産、死産、先天梅毒などを生じる。

Treponemapallidum
梅毒トレポネーマ     (Source BMJ.com)

******

皮膚や粘膜に病変が生じる顕症梅毒と症状が顕わにならない潜伏梅毒とを交互に繰り返しながら進行する。病期は第1期から第4期までに分けられ、第2期までを早期梅毒、第3期以降を晩期梅毒と呼ぶ。早期梅毒は感染力が強いが、晩期梅毒では感染性は低い。ほとんどの感染者が顕症梅毒を発症するが、潜伏感染で終始する症例も少なからず存在する。

Syphilis_2

● 第1期
感染後3 週間の第1潜伏期を経て、菌の侵入局所(通常は外陰部)に1~2cmまでの硬い丘疹(初期硬結)ができる。これは次第に潰瘍化し、硬性下疳(げかん)となる。硬性下疳の表面には多量のTPが存在し、検鏡にて診断可能である。初期硬結発症の数日後に所属リンパ節の硬い腫脹が認められ、これを無痛性横痃(おうげん)と呼ぶ。いずれも痛みなどの自覚症状を欠き、気付かれないことも多い。これらの皮疹は3週間程度で自然消退し、2~6週間の第2潜伏期に入る。

血清梅毒反応(STS)は感染後5~6週目に陽性となる。

Kouseigekan_2

● 第2期
感染後3か月~3年の間の期間をいう。第1期に所属リンパ節で増殖したTPが血行性に全身に播種されると、自覚症状を伴わない多彩な皮疹(第2期疹)を生じる。梅毒抗体価はこの時期に最高値を示し以後漸減する。第2期疹は2~3週のうちに消退して、多発性リンパ節腫脹以外に症状をみない潜伏梅毒の状態に至るが、その後2~3 年にわたって数か月おきに皮疹を繰り返すようになる。皮疹は早期では全身に対称性に生じるが、次第に限局して非対称性となる。

[多彩な皮疹・丘疹]

梅毒性バラ疹
微熱や全身倦怠感とともに、5mm~2cmまでの淡い紅斑が全身に多発、掌蹠で顕著であり、自覚症状はない。数日で消退する。

Roseola
梅毒性バラ疹

丘疹性梅毒疹
バラ疹の2~3週後に、体幹を中心にして5mm~1cm程度の鮮紅色の丘疹が多発する。自覚症状はない。

Syphilis2
丘疹性梅毒疹

梅毒性乾癬
乾癬に類似した皮疹を掌蹠に限局して形成、とくに診断的価値が高い。

Syphilis4
梅毒性乾癬

扁平コンジローマ
肛門周囲、外陰部、液窩、乳房下部などにみられる湿潤した扁平隆起性丘疹。多量のTPが存在し感染性が高い。

Condylomalatum
扁平コンジローマ  (John L. Bezzant, M.D.)

梅毒性アンギーナ
口腔に生じた扁桃炎を伴う感染性の高い粘膜病変。

Imagescatrydqb
Anja Ulmer, M.D., and Gerhard Fierlbeck, M.D.: N Engl J Med 2002; 347:1677

梅毒性脱毛
感染6 か月ごろ、直径5mm~2cm の不完全脱毛斑が多発し、徐々に全頭に拡大する。円形脱毛症との鑑別が重要。

Syphilis3
梅毒性脱毛

梅毒性白斑
完全に色素の抜けきれていない境界不明瞭な白斑。

梅毒性爪囲炎、爪炎
爪に白斑や不透明化が生じる。爪郭の肥厚も起こる。

● 第3期
感染後3~10年までの時期をさす。この時期の菌の検出は困難である。

結節性梅毒
第3期早期に、数cm大までの赤銅色の結節が顔面に多発し、数か月で瘢痕治癒する。

402pxtertiary_syphilis_head
結節性梅毒

ゴム腫梅毒
皮下結節が少数生じ、軟化して破れて潰瘍を形成する。

Gumma_nasi_3
ゴム腫(鼻)

心血管梅毒
大動脈炎・大動脈瘤など心血管系にも影響を及ぼす。

● 第4期
感染から10 年以上経過した状態。皮疹はみられなくなり、中枢神経系や眼組織が侵される。脊髄癆(ろう)、進行性麻痺、認知症などを示すようになり、最終的には死に至る。神経梅毒とも呼ばれる。

※ 現在では第3期・第4期梅毒はほとんどみられない。


産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

2011年11月02日 | 周産期医学

昔から産科の管理方法には施設ごとにいろいろなバリエーションがあり、他の施設でどんな産科管理をしているのかは全くわかりませんでした。2008年より産婦人科診療ガイドライン・産科編ができて、3年ごとに改訂されて、産科診療の統一基準がだんだん整備されつつあります。何の基準もなかった時代であれば、それぞれの施設でオレ流にやってればよかったんですが、ガイドラインが制定された現在においては、日本で産科診療に従事する者は、最低限のルールとしてこのガイドラインの最新版を順守する必要があります。

産科医療の現場では、正常の妊娠・分娩経過だと思っていたのに、突然、予期せず異常な経過をたどり始めて、患者さんの期待に反する結果となることは日常茶飯事です。もしも、診療内容に納得が得られなくて医療裁判となってしまった場合は、医療現場でその時点における『標準的医療』が実施されたかどうか?が厳しく問われます。ガイドライン制定以前<wbr></wbr>は、標準的医療が何かを、個々の事例ごとに、医療の専門家で<wbr></wbr>はない原告弁護士や裁判官が決めてましたが、ガイドライン制定以後<wbr></wbr>は、その時点における最新版のガイドラインに記載された内容が標準的医療とみなされます。<wbr></wbr>

従って、現時点では、日本のどの産科施設でも、産婦人科診療ガイドライン・産科編2011に完全準拠する必要があります。訴訟対策として自分の身を守るためにも、日々、最新のガイドラインを反復熟読吟味し、隅から隅まで完全にマスターする必要があると考えています。

とは言っても、このガイドラインもたかだか339ページですから、まだ記載されてない重要事項も非常に多いです。今後、3年ごとに改訂され、だんだん内容が充実していくものと考えられます。