ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

2020年07月03日 | 生殖内分泌
PCOS = polycystic ovary syndrome

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は原因不明の慢性的な排卵障害であり、月経異常や不妊症の原因となります。PCOSは生殖年齢女性の5~10%と非常に頻度が高く、不妊症の診療上重要な疾患です。



多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の特徴
臨床症状/合併症:

①月経異常(無月経、稀発月経、無排卵周期症)
②男性化(多毛、にきび、低声音、陰核肥大)
③肥満
④不妊
⑤2型糖尿病、高血圧症、脂質異常症、メタボリック症候群
⑥子宮内膜増殖症、子宮体癌

内分泌・代謝検査:
①血中男性ホルモン値が高値
②血中LH基礎値が高値、FSH基礎値は正常かやや低値(LH:黄体化ホルモン、FSH:卵胞刺激ホルモン) 
③インスリン抵抗性、耐糖能異常
 
卵巣所見:
①多数の小卵胞があり、卵巣が腫大
②内莢膜細胞層の肥厚・増殖、間質細胞の増生



多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断基準
以下の①~③のすべてを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする
①月経異常
②多嚢胞卵巣
③血中男性ホルモン高値、またはLH基礎値高値かつFSH正常

注1)月経異常は、無月経、稀発月経、無排卵周期症のいずれかとする。
注2)多嚢胞卵巣は、超音波断層検査で両側卵巣に多数の小卵胞がみられ、少なくとも一方の卵巣で2~9mmの小卵胞が10個以上存在するものとする。
注3)内分泌検査は、排卵誘発薬や女性ホルモン薬を投与していない時期に、1cm以上の卵胞が存在しないことを確認の上で行う。また、月経または消退出血から10日目までの時期は高LHの検出率が低いことに留意する。
注4)男性ホルモン高値は、テストステロン、遊離テストステロンまたはアンドロステンジオンのいずれかを用い、各測定系の正常範囲上限を超えるものとする。
注5)LH高値の判定は、スパック-Sによる測定の場合はLH≧7mIU/mLかつLH≧FSHとし、肥満例(BMI≧25)ではLH≧FSHのみでも可とする。測定キットによりLHやLH/FSH比のカットオフ値が異なることに注意を要する。
注6)クッシング症候群、副腎酵素異常、体重減少性無月経の回復期など、本症候群と類似の病態を示すものを除外する。
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会、2007)

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療指針
PCOSの治療は、現在妊娠を希望している場合と、そうでない場合とで異なります。また、PCOSで肥満のある方ではまず体重の管理を十分に行います。

挙児希望のあるPCOS女性の場合:
肥満例(BMI≧25)では、まず栄養指導・運動療法などによる減量を指導します。4~8週間で5~10%の減量を目標とし、3~6か月間継続します。減量により高男性ホルモン血症や排卵障害の改善を認める場合があります。
非肥満例(BMI<25)では、排卵誘発薬であるクロミフェン(クロミッド)を第一選択として使用します。クロミフェン抵抗性の排卵障害を認める場合は、アロマターゼ阻害薬(レトロゾール)、FSH低用量漸増法による排卵誘発、または腹腔鏡下卵巣多孔術なども検討し、妊娠に至らない場合は生殖補助医療(IVF-ET)を考慮します。PCOSの方に対する排卵誘発では、常に多胎のリスクと卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症に注意が必要です。排卵誘発法 FSH低用量漸増法 卵巣過剰刺激症候群

挙児希望のないPCOS女性の場合:
PCOSの患者さんは月経異常を放置していると子宮体癌のリスクが高くなることが知られています。無月経や無排卵などの月経異常の状態が続く場合は、子宮体癌を予防する目的でホルモン療法が必要となります。プロゲステロン製剤を毎月7~12日間内服して月経を誘発する黄体ホルモン補充療法(ホルムストローム療法)が基本で、これを長期的に行います。月経異常と同時に多毛やニキビの症状を改善したい方には低用量経口避妊薬を用いる場合もあります。


(日本産科婦人科学会:生殖・内分泌委員会、2009)

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編
CQ326 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断と治療は?

1. 日本産科婦人科学会による診断基準(2007年)に基づいて診断する。(A)
2. 挙児希望がない女性に対しては
 1) 肥満があれば減量など生活指導を行う。(B)
 2) 定期的な消退出血を起こさせる。(B)
3. 挙児を希望している女性に対しては
 1) 肥満があれば減量を勧める。(B)
 2) 排卵誘発にはまずクロミフェン療法を行う。(B)
 3) 肥満、耐糖能異常、インスリン抵抗性のいずれかを認め、かつクロミフェン単独で卵胞発育を認めなければ、メトホルミンを併用する。(B)
 4) クロミフェン抵抗性の場合はゴナドトロピン療法または腹腔鏡下卵巣開孔術を行う。(B)
 5) ゴナドトロピン療法を行う場合は、低用量で緩徐に刺激する。(B)
 6) 排卵誘発としてアロマターゼ阻害剤を使用する。(C)

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016
3) 産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020

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卵巣予備能の検査

2020年07月02日 | 生殖内分泌
卵巣予備能(ovarian reserve)

卵巣予備能は卵巣に存在する卵子の量と質の両方を指す単語である。卵巣予備能は加齢とともに低下し、それに伴い妊孕能(にんようのう)が低下する。

卵巣予備能を評価する検査として、血清FSH基礎値(FSH)、胞状卵胞数(antral follicle count ; AFC)、血清抗ミュラー管ホルモン値(anti-Müllerian hormone ; AMH)が挙げられる。

卵胞刺激ホルモン(FSH):
FSH値は月経周期により変動するため月経周期3~5日目に採血する必要がある。卵巣機能が低下するとFSH基礎値は上昇する。ホルモン療法中の患者では参考にならない。

胞状卵胞数(AFC):
月経周期3~5目に、経腟超音波法にて両側卵巣の径2~10mm大の胞状卵胞数を計測する。ホルモン療法中の患者では参考にならない。AFC<5~7個の場合、卵巣予備能低下と判断する。


AFC : high (卵巣予備能正常)


AFC : low (卵巣予備能低下)

抗ミュラー管ホルモン(AMH):
AMH値は卵巣内に残存する原始卵胞の数と比例する。25歳から評価が可能であり、年齢とともに低下する。25歳未満の女性は卵巣予備能とAMH値が相関してない。AMH<0.5~1.1ng/mlの場合、卵巣予備能低下と判断する。

年齢と抗ミュラー管ホルモン(AMH)

妊娠にとって卵子の数のみではなく質が重要であるが、AMH値は卵子の数のみを反映し、卵子の質を評価することはできない。卵子の質を正確に表す指標は現在のところ存在しない。卵子の質の低下は、女性の妊孕能低下、妊娠後の流産や染色体異常の増加などと関係している。流産や染色体異常の発症は加齢とともに指数関数的に増加する。つまり、AMHが高くても、卵巣の質は年齢とともに急激に低下していることを考慮すべきである。

早発卵巣不全(POI)
女性の年齢と妊孕能(にんようのう)

参考文献:
生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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早発卵巣不全(POI)

2020年07月01日 | 生殖内分泌
primary ovarian insufficiency (POI)
premature ovarian failure (POF)

早発卵巣不全(POI)とは、40歳未満で卵胞発育不全による卵巣性無月経を呈する疾患で、卵胞から分泌されるエストロゲンが欠乏し、のぼせ、発汗などの更年期症状を呈する。

早発卵巣不全(POI)の診断:
① 年齢40歳未満で、4カ月以上の無月経
 続発性無月経、第二次性徴がある
② ゴナドトロピン高値、エストロゲン低値
 少なくとも1カ月以上の間隔で2回測定し、高ゴナドトロピン値(血中FSH>25mIU/ml)、低エストロゲン値を確認する

残存卵胞数の診断:
現在のところ、POI症例において、残存卵胞の有無を正確に診断できる方法はない。抗ミュラー管ホルモン(AMH)値は参考になるが、POIのほとんどの症例で測定感度以下となる。経腟超音波検査による胞状卵胞数計測も有用である。かつて卵巣組織生検が行われていたが、卵巣内にわずかに残存している卵胞は散在して存在しており、微量な生検検体の組織検査では残存卵胞の有無を診断することは困難で、現在は行われてない。

POIの原因は不明のものが多いが、ターナー症候群などの染色体異常自己免疫疾患、卵巣手術や化学・放射線療法による医原性原因など多岐にわたる。卵巣内の卵胞の急激な減少に起因する病態である。卵巣内の残存卵胞数が1000個以下になると卵胞の活性化が停止して卵胞発育が起こらなくなり、卵胞顆粒膜細胞由来のエストロゲンが産生されなくなり、その結果、無排卵、無月経となる。POIの頻度は、30歳未満の0.1%、40歳未満の1%にみられ、無月経患者の5~10%を占めるとされる。POIでは、年齢による閉経婦人とは異なりまれに自然回復例がある

POIの治療:
POIの診断後でもまれに予測できない間欠的卵巣機能回復例がある。しかし、患者が挙児を希望する場合は速やかな治療の介入が望ましく、早期に生殖補助医療(ART)を専門とする医師に紹介する。最近では、休眠原始卵胞覚醒(IVA)など研究的臨床手技も報告されている。卵胞枯渇がある患者ではARTによっても不成功に終わる割合が高い。必要時には心理学的支援を含めた相談やカウンセリング受診も提案する。

今後の挙児希望がない場合はホルモン補充療法を行うことが基本であり、一般女性の閉経年齢である50歳頃まで継続することが望まれる。

無月経の分類
女性の年齢と妊孕能(にんようのう)
卵巣予備能の検査

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ313 早発卵巣不全(POI)の取り扱いは?

1. 問診を的確に行う。(A)
2. 内分泌学的検査を的確に行う。(B)
3. 挙児希望がある場合は早期に専門とする医師に紹介する。(B)
4. 挙児希望がない場合はホルモン補充療法を行う。(B)
5. 必要時には心理学的支援を含めたカウンセリングなどを行う。(C)

参考文献:
1) 産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
2) 百瀬幹雄編集、基礎からわかる女性内分泌、診断と治療者、2016

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生殖補助医療(ART)

2020年06月29日 | 生殖内分泌
assisted reproductive technology ART

生殖補助医療(ART)とは、卵子を採取する採卵、体腔外での卵子と精子の体外受精卵細胞質内精子注入法(顕微授精)、培養後の受精卵を子宮内に移植する胚移植などを含む医療技術の総称です。

生殖補助医療の種類と適応
① 体外受精・胚移植(IVF-ET)
採卵により未受精卵を体外に取り出し、精子と共存させる(媒精)ことにより得られた受精卵を、数日培養後に子宮に移植する(胚移植)治療法です。最初は卵管性不妊の不妊治療に用いられてきましたが、現在はその他の不妊原因の治療としても使われています。
② 顕微授精(卵細胞質内精子注入法、ICSI)
卵子の中に細い針を用いて精子を1匹だけ人工的に入れる治療法です。顕微授精は、男性不妊受精障害など、顕微授精以外の治療によっては妊娠の可能性が極めて低いと判断される夫婦を対象とします。
③ 凍結胚・融解移植
体外受精を行った時に得られた胚を凍結させて保存し、その凍結胚をとかして移植する方法です。身体に負担のかかる採卵の回数を最小限にして、効率的に妊娠の機会を増やすことができます。卵巣過剰刺激症候群のリスクの高い時期の胚移植を避けることができます。移植する胚の数を1つにしておけば、多胎妊娠となるリスクを減らすことができます。

日本産科婦人科学会では、生殖補助医療を行っている施設(生殖医療登録施設)の一覧を毎年発表しています。

http://www.jsog.or.jp/modules/statement/index.php?content_id=20
体外受精・胚移植に関する見解(日本産科婦人科学会)
体外受精・胚移植(以下、本法と称する)は、不妊の治療、およびその他の生殖医療の手段として行われる医療行為であり、その実施に際しては、わが国における倫理的・法的・社会的基盤に十分配慮し、本法の有効性と安全性を評価した上で、これを施行する。
1.本法は、これ以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断されるもの、および本法を施行することが、被実施者またはその出生児に有益であると判断されるものを対象とする。
2.実施責任者は、日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医であり、専門医取得後、不妊症診療に2年以上従事し、日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録施設において1年以上勤務、または1年以上研修を受けたものでなければならない。また、実施医師、実施協力者は、本法の技術に十分習熟したものとする。
3.本法実施前に、被実施者に対して本法の内容、問題点、予想される成績について、事前に文書を用いて説明し、了解を得た上で同意を取得し、同意文書を保管する。
4.被実施者は、挙児を強く希望する夫婦で、心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態にあるものとする。
5.受精卵は、生命倫理の基本に基づき、慎重に取り扱う。
6.本法の実施に際しては、遺伝子操作を行わない。
7.本学会会員が本法を行うにあたっては、所定の書式に従って本学会に登録、報告しなければならない。
(昭和58年10月発表、会長 鈴木雅洲)
(平成18年4月改定、理事長 武谷雄二、倫理委員会委員長 吉村泰典)
(平成26年6月改定、理事長 小西郁生、倫理委員会委員長 苛原 稔)


http://www.jsog.or.jp/modules/statement/index.php?content_id=21
顕微授精に関する見解(日本産科婦人科学会)
 顕微授精(以下,本法と称する)は,高度な技術を要する不妊症の治療行為であり,その実施に際しては,わが国における倫理的・法的・社会的基盤に十分配慮し,本法の有効性と安全性を評価した上で,これを実施する.本法は,体外受精・胚移植の一環として行われる医療行為であり,その実施に際しては,本学会会告「体外受精・胚移植に関する見解」を踏まえ,さらに以下の点に留意して行う.
1. 本法は,男性不妊や受精障害など,本法以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断される夫婦を対象とする.
2. 本法の実施に当たっては,被実施者夫婦に,本法の内容,問題点,予想される成績について,事前に文書を用いて説明し,了解を得た上で同意を取得し,同意文書を保管する.
3. 本学会会員が本法を行うに当たっては,所定の書式に従って本学会に登録・報告しなければならない.
(平成4年1月発表、会長 鈴木雅洲)
(平成18年4月改定、理事長 武谷雄二、倫理委員会委員長 吉村泰典)


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不妊症の原因

2020年06月28日 | 生殖内分泌
男女別の不妊原因の頻度(WHO、1996)
女性のみ:41%、男性のみ:24%、男女とも:24%、原因不明:11%
不妊原因は女性に多いが、「男性のみ」「男女とも」の合計は48%で、約半数は男性に不妊原因がある。


不妊症の原因(WHO、1996)

卵管閉塞無排卵症重度の乏精子症・無精子症は不妊期間を問わず妊娠のために医療介入が必要である。

女性不妊症:
不妊原因の女性因子は、卵巣因子卵管因子子宮因子免疫因子に分けられる。

(1) 卵巣因子:
①排卵障害
・ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)への反応性低下
・視床下部性(ストレス、ダイエット)
・下垂体性(ゴナドトロピン分泌低下)
高プロラクチン血症
多嚢胞性卵巣症候群
②黄体機能不全
③卵巣予備能の低下
加齢が原因の卵巣予備能低下
・早発卵巣不全(POI)
・子宮内膜症、卵巣手術、悪性腫瘍に対する化学療法など

(2) 卵管因子:
卵管閉塞
ピックアップ障害(排卵された卵子を卵管内に取り込めない)
 ⇒検査が不可能のため原因不明不妊となる
配偶子(精子・卵子)や受精卵の卵管輸送ができない
 ⇒検査が不可能のため原因不明不妊となる

(3) 子宮因子:
着床障害
 粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮腔癒着症、中隔子宮など
頸管因子(精子が子宮内に侵入できない)
 子宮頸管狭窄、精子の頸管粘液不適合
 ⇒配偶者間人工授精(AIH)で妊娠は可能

(4) 免疫因子:
抗精子抗体
抗精子抗体(特に精子不動化抗体)を産生する女性では、抗体が頸管粘液内にも分泌され、精子の通過を妨げる。また卵管内にも精子不動化抗体は分泌され、人工授精で精子を子宮腔の奥まで注入しても卵管内でその通過が妨げられる。さらに精子不動化抗体は受精を妨害し不妊症の原因なる。

男性不妊症:
(1) 造精機能障害
(2) 精路障害
(3) 性機能障害
 勃起不全(ED)、性交障害
(4) 免疫因子
 精子に対する自己免疫もしくは同種免疫
 ⇒重度の乏精子症・無精子症の原因となる

原因不明不妊症
原因不明不妊は、一次検査で評価が難しい病態か、検査が不可能な不妊原因があるか、偶発的に妊娠できていないことなどが考えられる。
検査が不可能な不妊原因:
卵管疎通性のある卵管機能障害
 ⇒生殖補助医療で妊娠可能
受精障害
 ⇒生殖補助医療で妊娠可能
器質的疾患のない着床障害
 ⇒治療が困難なことが多い

参考文献:
データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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原因不明不妊

2020年06月26日 | 生殖内分泌
原因不明不妊、機能性不妊、
unexplained infertility

不妊期間が1年以上で、不妊症の一次検査を行っても明らかな異常を認めない場合を原因不明不妊という。原因不明不妊は、一次検査で評価が難しい病態か、検査が不可能な不妊原因があるか、偶発的に妊娠できていないことなどが考えられる。

原因不明不妊への対応で最も配慮すべきことは女性の年齢と不妊期間で、とくに女性の年齢は妊孕性を規定する最も重要な因子で、晩婚化や望児年齢の高齢化が進行している現在、治療を急がなくてはならない場合が多い。

軽度の卵管周囲癒着や軽度の子宮内膜症は、一次検査では診断困難であり、腹腔鏡により初めて診断される場合が多い。子宮内膜ポリープ、軽度の子宮腔癒着症などの子宮内腔病変は子宮鏡検査で診断可能である。

検査が不可能な不妊原因:
①卵管疎通性のある卵管機能障害 ⇒生殖補助医療で妊娠可能
②受精障害 ⇒生殖補助医療で妊娠可能
③器質的疾患のない着床障害 ⇒治療が困難なことが多い


女性の年齢が若くかつ不妊期間が短い場合は、6カ月間から1年間のタイミング指導により自然妊娠を期待できる。一方、高年女性においては早期の検査や治療が必要となる。特に女性の年齢が37~38歳以上の場合や不妊期間が3年以上の場合には、生殖補助医療という選択肢を早期に提示する必要がある。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ319 原因不明不妊に対する対応は?

1. 女性の年齢、不妊期間、社会的背景などを考慮して、検査・治療方針を提案する。(A)
2. 一次検査では特定できない病態について説明し、原因を明らかにするために二次検査を行う。(B)
3. 女性の年齢と不妊期間を考慮し、以下を選択する。(C)
 1) タイミング指導を含む6~12周期程度の待機療法を行う。
 2) 排卵誘発治療、配偶者間人工授精(AIH)のいずれか、または併用療法を行う。
 3) 早期に生殖補助医療を提案する。

参考文献:
1) 産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
2) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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不妊症の原因検索としての一次検査

2020年06月26日 | 生殖内分泌
不妊症は1つの原因が見つかっても他の原因がないとはいえず、治療に先立って、原因検索のための一次検査を網羅的に実施する必要があります。『産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020』には比較的簡便な以下の一次検査が示されています。

①基礎体温測定
基礎体温測定は、排卵や黄体機能を簡易的に評価でき、検査の日程を決めるうえでも有用です。

②超音波検査
超音波検査は子宮および卵巣の状態観察に必須の検査です。また、経腟超音波検査は卵胞発育モニタリングに欠かせません。子宮内腔の形態評価にはソノヒステログラフィー(SHG)が有用です。

③内分泌検査
黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、エストラジオール(E₂)、プロラクチン(PRL)、プロゲステロン(P₄)、テストステロン(T)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定。(月経周期とホルモンの変化
・LH、FSH、E₂の3項目は月経周期3~7日目に測定する。
・乳汁分泌、排卵障害が認められる症例ではPRL測定が勧められます(高プロラクチン血症)。特に多嚢胞性卵巣症候群を疑う症例では併せてTを測定します。
・P₄測定は黄体機能不全を疑う症例で黄体期中期に実施します。

④クラミジア抗体検査あるいは核酸増幅検査
・クラミジア抗体検査(IgG、IgA):クラミジア感染の既往の有無の診断に有用です
・子宮頸管のPCR検査:検査時点でのクラミジア感染の有無の診断に有用です

⑤卵管疎通性検査
子宮卵管造影、超音波下卵管通水法、卵管通気法。

⑥精液検査
男性因子の評価に必要な検査です。治療に先立って実施することが勧められます。

⑦頸管粘液検査
頸管粘液検査、精子子宮頸管適合検査(フーナーテスト)。これらの検査は排卵期に実施することが重要です。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ318 不妊症の原因検索としての一次検査は?

1. 基礎体温測定(A)
2. 超音波検査(A)
3. 内分泌検査(B)
4. クラミジア抗体検査あるいは核酸増幅検査(B)
5. 卵管疎通性検査(B)
6. 精液検査(A)
7. 頸管因子検査(B)

参考文献:
産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020

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生殖医療の基礎知識

2020年06月26日 | 生殖内分泌
不妊症の定義
不妊症診療における基本的考え方
不妊症の原因検索としての一次検査
不妊症の原因
原因不明不妊
不育症・習慣流産
女性の年齢と妊孕能(にんようのう)
クラミジア感染症
基礎体温
子宮卵管造影検査
ソノヒステログラフィー
月経周期とホルモンの変化
排卵日推定法
タイミング法
配偶者間人工授精
排卵誘発法
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
FSH低用量漸増法
無月経の分類
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
高プロラクチン血症
生殖補助医療(ART)

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女性の年齢と妊孕能(にんようのう)

2020年06月25日 | 生殖内分泌
妊孕能 妊孕性 fertility

妊孕能とは妊娠する能力を意味する用語です。

女性は年齢とともに卵胞数が減少します。出生時に200万個あった原始卵胞は年齢とともに減少し、思春期には5~10万個となり、35歳以上から減少率は加速し、閉経で0となります。女性の一生で排卵する卵子数は約400個です。また、一部の女性では子宮内膜症や卵巣腫瘍などを発症し、卵巣機能が低下することがあります。いったん低下した卵巣予備能は回復することはありません。卵巣内に残っている卵子の数は、血清抗ミュラー管ホルモン(AMH)値でその目安が確認でき、卵巣予備能を評価することができます。

加齢による卵胞数の減少


一方、卵子の質は、AMHでは測定できず、年齢に相関します。卵子の質を正確に表す指標は、現在のところありません。卵子の妊孕能は、おおむね37歳から44歳の間のどこかの時点で消失します。いったん卵子が加齢により妊孕能を消失すると、現在の不妊治療では妊孕性を回復することは不可能であり、治療不能(絶対不妊)となってしまいます。そのため、そうなる前に治療を開始することが唯一の対処法となります。

受精卵の着床率は、原則として年齢の影響を受けませんが、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの子宮疾患により影響を受けます。子宮内膜症、子宮筋腫、子宮頸がん、卵巣悪性腫瘍など、女性の不妊の原因となる病気は年齢とともに増加します。

女性の年齢別出生率をみると、30歳を超えるころから徐々に減少し、35歳を過ぎるとその傾向は顕著になり、40歳からは急激に減少します。その一方で、女性の平均初産年齢は年々上がってます(30.7歳・2017年)。従って、女性が出産できる期間は短くなっています。挙児を希望する場合は、年齢に応じてライフプランを考えておくことが大切です。

女性の年齢別出生率


不妊症診療における基本的考え方

参考文献:
データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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不妊症診療における基本的考え方

2020年06月24日 | 生殖内分泌
現在の不妊治療では、体外受精・顕微授精を用いれば、体外での受精をほぼ確実に起こすことができます。しかし、その受精卵を子宮内に胚移植しても妊娠成立しないカップルの不妊原因として、受精卵そのものの妊孕性喪失子宮因子(着床障害)が考えられます。現代の不妊診療でまず考慮しなければならないことは、いったん配偶子(精子・卵子)が加齢により妊孕能を消失すると、現在の不妊治療では妊孕性を回復することは不可能であり、治療不能(絶対不妊)となってしまうことです。特に35歳以上の女性の場合、卵子妊孕性の消失により絶対不妊となる前に、必要であれば体外受精まで治療を行うことを考慮する必要があります。検査、タイミング法、配偶者間人工授精(AIH)などを施行して様子を見ているうちに卵子の妊孕性が失われて絶対不妊となってしまうことは極力避けなければなりません。従って、適当な時期に、絶対不妊の危険性について、夫婦同席で十分な説明を行うことが重要です。

不妊原因の分類
現在の不妊症の原因は、生殖補助医療(ART)の有効性の観点から、①体内における受精障害、②配偶子・受精卵の異常、③子宮・母体側の異常、の三つに分類できます。

1) 体内における受精障害:
 ・卵管閉鎖
 ・精子減少症
 ・ピックアップ障害
 (卵管が排卵された卵子を取り込めない病態)
⇒体外受精で挙児可能

2)配偶子(精子・卵子)・受精卵の妊孕性消失:
 ・卵巣不全 (閉経)
  成熟卵子が得られない場合
 ・卵子妊孕性の消失 (加齢)
  成熟卵子が産生されているにもかかわらず個体発生能を消失している場合
 ・高度精子無力症・無精子症
  精子が得られない場合
 ・遺伝子異常による不妊
⇒現在の医療技術では体外受精を用いても挙児不可能

3) 女性側因子(子宮因子)による着床障害:
 子宮筋腫、子宮内膜症、子宮内膜ポリープ、子宮内膜菲薄化、子宮内膜増殖症、子宮腔癒着症などによって、着床が妨げられて妊娠が成立しない病態。
⇒外科的処置で妊娠が可能な場合と、挙児不可能な場合がある

参考文献:
生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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配偶者間人工授精(AIH)

2020年06月24日 | 生殖内分泌
artificial insemination with husband's semen (AIH)

配偶者間人工授精(AIH)は、妻の排卵日に合わせて調整した夫の精液を子宮内に注入する治療法で、できるだけ多数の運動精子を卵管内に到達させて受精させることを目的とします。軽度から中等度の男性因子不妊、頸管因子不妊、性交障害、原因不明不妊などに用いられます。女性側の要件としては、①少なくとも一側の卵管に通過性があり、②排卵が存在することが挙げられます。

一般的にAIHで妊娠する症例の約9割が4周期以内に妊娠します。ある一定の治療回数を行って妊娠しない場合は、受精障害や胚分割障害、着床障害など検査できない不妊原因があると考え、生殖補助医療(ART)などの積極的な不妊治療に進むべきと考えられます。

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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無月経の分類

2020年06月23日 | 生殖内分泌
月経が発来しない状態を無月経(amenorrhea)という。

正常な月経の発来には、
①間脳-下垂体-卵巣系による制御、
②卵巣における性ホルモン産生、
③子宮・腟
のすべてが正しく機能する必要がある。

①初経前、②妊娠・産褥・授乳中、③閉経後の無月経を生理的無月経という。生理的無月経以外の無月経を病的無月経という。

満18歳になっても初経がみられないものを原発性無月経という。原発性無月経の原因としては、Müller管の分化異常(子宮欠損、アンドロゲン不応症など)や染色体異常(Turner症候群など)が多い。それに対して、順調にあった月経が3カ月以上停止したものを続発性無月経という。

黄体ホルモン製剤(ゲスターゲン)投与により消退出血が生じるものを第1度無月経という。それに対して、ゲスターゲン投与のみでは出血が起こらず、エストロゲン投与に引き続きエストロゲンおよびゲスターゲンを投与して消退出血が出現するものを第2度無月経という。エストロゲンとゲスターゲンとを投与しても消退性出血が起こらない場合は子宮性無月経と診断される。子宮性無月経の原因としては、子宮欠損や子宮腔癒着症(アッシャーマン症候群)がある。


無月経の診断法

第1度無月経:
第1度無月経は、卵巣には発育途中の卵胞を認め、血中エストロゲン値を一定量認めるため、子宮内膜は増殖しているが、排卵せずプロゲステロンの分泌がない。
①多嚢胞性卵巣症候群(LH>FSH)
②視床下部性無月経(FSH、LH、E2:ともに正常値)

第2度無月経:
第2度無月経は、中枢性のゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)分泌低下、もしくは卵巣機能低下が主な原因である。
①下垂体性無月経、重症の視床下部性無月経(FSH、LH、E2:ともに低値)  
②早発卵巣不全、更年期(FSH、LH:ともに高値、E2:低値)

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014
3) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016

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ソノヒステログラフィー

2020年06月23日 | 生殖内分泌
sonohysterography (SHG)

ソノヒステログラフィー(SHG)は、生理食塩水を経腟的に子宮内に注入して子宮内腔を広げて経腟超音波検査で子宮内膜面の構造異常を評価する方法です。通常の経腟超音波検査で子宮内腔の厚さなどから、子宮内膜ポリープ、子宮粘膜下筋腫、子宮内膜癌などの子宮内膜面にある病変の存在を疑った場合に有用です。放射線被爆がなく、造影剤アレルギーのある患者にも実施でき、コストも安いなどの利点があります。


子宮内膜ポリープ

参考文献:
生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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子宮卵管造影検査

2020年06月23日 | 生殖内分泌
hysterosalpingography (HSG)

子宮卵管造影検査(HSG)は、月経終了後から排卵までの時期に、造影剤を経腟的に注入し、腹部レントゲン撮影を行います。子宮腔の形、卵管の通過性、卵管周囲に癒着があるかどうかの評価ができます。子宮奇形、粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮腔癒着症、卵管閉塞、卵管狭窄、卵管周囲癒着、卵管留水症などを診断することができます。HSGは不妊症スクリーニング検査として実施されますが、診断への有用性のみならず治療的効果も無視できません。HSG施行後に原因不明不妊患者が妊娠する事例をしばしば経験します。


正常所見


両側卵管閉塞

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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タイミング法

2020年06月23日 | 生殖内分泌
タイミング法、タイミング療法、タイミング指導、timed intercourse

タイミング法は、経腟超音波による卵胞計測、尿中LH簡易測定などにより排卵日を推定し夫婦生活(intercourse)を促す指導で、両側の卵管閉塞や重度の乏精子症・精子無力症などを認めなければ適応となります。

タイミング法では、妊娠成立の確率が最も高いintercourseのタイミングは排卵日の1~2日前です。排卵の6日以前もしくは排卵後1日後には妊娠の可能性はありません。そのため、排卵1~2日前にintercourseのタイミングをとるよう指導します。


Wilcox AJ et al, Hum Reprod, 1998

また、精液所見が正常の場合、妊娠の可能性のある排卵5日前から排卵当日までの間のintercourseの頻度(日数)が3回以上あると妊娠率が高くなります。 (Wilcox AJ et al, N Engl J Med, 1995)

参考文献:
データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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