ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

不妊・不育症 支援事業(長野県)

2020年08月15日 | 不妊・不育症 支援事業

長野県では不妊に悩む方への治療費助成制度(特定不妊治療、男性不妊治療、不育症治療)があり、不妊・不育症などの治療費の一部助成を行っています。
不妊・不育症治療支援事業のご案内(長野県)
不妊に悩む方への特定治療支援事業について(長野県)
不育症治療費に対する助成制度(長野県)

特定不妊治療費に対する助成制度

● 特定不妊治療とは?
体外受精または顕微授精に係る治療を指します。

● 特定不妊治療に対する助成制度
長野県では「不妊に悩む方への特定治療支援事業」において特定不妊治療費に対する助成を行っています。

● 助成対象者の要件
夫婦の一方または両方の住所が長野県内(長野市は除く)にあり、次のいずれにも該当する方が対象です。
(1) 法律上の婚姻をしている夫婦であって、体外受精・顕微授精以外の治療では妊娠の見込みがないか又は極めて少ないと医師に診断されていること。
(2) 夫婦の前年所得(1~5月の申請については前々年の所得)の合計が730万円未満であること。
※所得額=所得合計額-8万円(社会保険料等相当額)-諸控除額

● 助成の対象となる不妊治療
長野県並びに他の都道府県、指定都市及び中核市が指定する医療機関で実施した体外受精及び顕微授精。ただし、夫婦以外の第三者からの精子・卵子・胚の提供による不妊治療、代理母・借り腹による不妊治療は除きます。

● 助成を受けられる回数
① 初めて助成を受ける際の妻の年齢が40歳未満の夫婦(※注1)
 通算6回まで(※注2)
 (年間回数、通算期間の制限なし)
② 初めて助成を受ける際の妻の年齢が40歳以上の夫婦(※注1)
 通算3回まで(※注2)
 (年間回数、通算期間の制限なし)
③ 妻が43歳以上の夫婦(※注1)の治療は助成対象外
※注1 治療開始時の年齢
※注2 他の自治体で助成を受けた場合は、その助成回数を控除する

● 助成の額及び期間
一組の夫婦に対し、1回の治療につき15万円(治療ステージC及びFについては7万5,000円)を限度に、通算6回まで(初めて助成を受ける際の治療開始時の妻の年齢が40歳以上の夫婦は通算3回まで)助成します。ただし、初回の特定不妊治療(治療ステージC及びFを除く)に限り30万円まで助成します。また、特定不妊治療の一環として行われる男性不妊治療(精巣内精子採取術)を行っている場合は、当該男性不妊治療費につき15万円まで助成します。ただし、平成31年4月1日以降に開始した男性不妊治療について、初回の治療に限り30万円まで助成します。
別表:体外受精・顕微授精の治療ステージと助成対象範囲

● 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う対応
新型コロナウイルス感染症防止の観点から一定期間治療を延期した場合、時限的に年齢要件を緩和します。また、新型コロナウイルスの影響により所得が急変した場合、所得判定の見直しを行います。
新型コロナウイルス感染症の影響に伴う令和2年度における取扱い

男性不妊治療費に対する上乗せ助成

体外受精・顕微授精に至る過程で精子を採取する手術を行った場合、特定不妊治療費に対する助成に上乗せして助成金を給付します。

● 助成の対象となる治療は?
次の治療が対象となります。
・精巣内精子生検採取法(TESE)
・精巣上体内精子吸引採取法(MESA)
・その他精子を精巣または精巣上体から採取する手術

● 助成対象者の要件
「不妊に悩む方への特定治療支援事業」と同じです。長野市にお住まいの方は、長野市保健所へ申請お願いします。

●助成額および助成回数は?
初回治療時は30万円、2回目以降は15万円を上限として助成します。「不妊に悩む方への特定治療支援事業」における女性上限回数に達するまでの治療について助成します。

不育症治療費に対する助成制度
長野県単独(H27年4月スタート)

● 不育症とは?
妊娠後に流産を繰り返す反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)のことを指します。

● 助成の対象となる治療
国内の医療機関において行われた次の検査及び治療費(保険適用・保険適用外)を対象とします。
(1)不育症の診断に係る検査
(2)ヘパリン療法
(3)アスピリン療法
(4)ステロイド療法
(5)その他知事が特に必要と認めたもの

● 助成対象者の要件
夫婦の一方または両方の住所が長野県内(長野市を含む)にあり、次のいずれにも該当する方が対象です。
(1) 法律上の婚姻をしている夫婦であって、体外受精・顕微授精以外の治療では妊娠の見込みがないか又は極めて少ないと医師に診断されていること。
(2) 夫婦の前年所得(1~5月の申請については前々年の所得)の合計が730万円未満であること。
※所得額=所得合計額-8万円(社会保険料等相当額)-諸控除額

● 助成額および助成回数
1回の妊娠に係る検査および治療につき上限5万円を上限、通算6回までとなります。ただし、妻の治療開始時の年齢が治療期間の初日において40歳以上の場合は、通算3回までとなります。

治療費助成制度の申請窓口、問い合わせ先
お住まいの市町村を管轄する保健福祉事務所(保健所)へ申請書類をご提出ください。
佐久保健福祉事務所、上田保健福祉事務所、諏訪保健福祉事務所、伊那保健福祉事務所、飯田保健福祉事務所、木曽保健福祉事務所、松本保健福祉事務所、大町保健福祉事務所、長野保健福祉事務所、北信保健福祉事務所

長野市にお住まいの方へ:
・「不妊に悩む方への治療費助成制度」は長野市保健所へ申請をお願いします。
・「不育症治療費に対する助成制度」は長野保健福祉事務所へ申請をお願いします。

※ 市町村でも独自の助成制度を設けている場合があります。

参考Webサイト:
1)不妊に悩む方への特定治療支援事業について(長野県)
2)長野県不妊に悩む方への特定治療支援事業実施要綱
3)不育症治療費に対する助成制度(長野県)
4)長野県不育症治療支援事業実施要綱

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生殖医療の基礎知識

2020年08月10日 | 生殖内分泌

不妊症の定義
不妊症診療における基本的考え方
不妊症の原因検索としての一次検査
精液検査
フーナー検査
抗精子抗体(女性不妊)
抗精子抗体(男性不妊)
不妊症の原因
原因不明不妊
黄体機能不全
天然型プロゲステロン製剤
不育症・習慣流産
女性の年齢と妊孕能(にんようのう)
卵巣予備能の検査
抗ミュラー管ホルモン(AMH)
早発卵巣不全(POI)
クラミジア感染症
基礎体温
子宮卵管造影検査
ソノヒステログラフィー
減数分裂(成熟分裂)
卵胞発育
排卵(ovulation)
黄体(corpus luteum)
受精(fertilization)
受精から着床まで
着床(implantation)
月経周期とホルモンの変化
排卵日推定法
タイミング法
配偶者間人工授精
排卵誘発法
経口排卵誘発剤
ゴナドトロピン製剤
排卵誘起薬(hCG、GnRHa)
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
FSH低用量漸増法
無月経の分類
体重減少性無月経
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
高プロラクチン血症
生殖補助医療(ART)
我が国の生殖補助医療(ART)成績
受胎前後における葉酸摂取により神経管閉鎖障害の発症リスクが低減する
機能性月経困難症
月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)
不妊・不育症 支援事業(長野県)

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月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)

2020年08月09日 | 生殖内分泌

premenstrual syndrome : PMS
premenstrual dysphoric disorder : PMDD
selective serotonin reuptake inhibitors : SSRIs

月経前症候群(PMS)とは、「月経前3~10日間の黄体期に発症する多種多様な精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減弱あるいは消失するもの」をいう。重症型で精神症状主体の場合は、月経前気分不快障害(PMDD)と分類する。精神神経症状として、情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害などがあり、自律神経症状として、のぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感などがあり、身体的症状として、腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどがある。日本では生殖年齢女性の約70~80%が月経前に何らかの症状を有するといわれる。欧米と同じ基準を適応すると生殖年齢女性の約5.4%で社会生活困難を伴う中等度以上のPMSが認められる。PMDDの頻度は日本では約1.2%である。PMS/PMDDの症状が患者の日常・社会生活に影響を与える場合には治療対象となる。

カウンセリング・生活指導・運動療法
生活指導には、症状日記の記録、疾患の理解、頻度と発症時期、重症度の位置づけの認識(認知行動療法)などがある。規則正しい生活を送り、定期的に有酸素運動を行い、喫煙とコーヒーなどの嗜好品を制限する。重症の場合には仕事の制限、家事の軽減などを指導する。

薬物療法:
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬利尿薬鎮痛薬漢方薬などがある。欧米ではSSRIsがPMS、PMDDの第1選択薬となっている。患者とよく相談して治療薬剤を決めることが肝要である。各薬物療法の効果、メリット、デメリットを詳細に説明をして、患者本人に処方する薬剤を選択してもらう(informed choice)ことを原則とする。

婦人科的治療としては、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬のほか、E₂貼付+レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)などもセカンドラインの選択肢として挙げられる。難治症例ではGnRHアゴニストによる排卵抑制の選択枝がある(保険適用外)。

低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬や精神安定薬を希望しない患者には漢方薬を投与する。(処方例:当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、女神散、抑肝散加陳皮半夏など)

PMS/PMDDの重症例(精神症状が強い時)は、精神科または心療内科に紹介する。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ404 月経前症候群の診断・管理は?

Answer
1.発症時期、身体症状、精神症状から診断する。(A)
2.カウンセリング・生活指導や運動療法を行う。(B)
3.利尿薬や漢方薬を処方する。(C)
4.ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠などの低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬を処方する。(B)
5.精神症状が主体の場合、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)により治療する。(B)
6.精神症状が強い時は精神科または心療内科に紹介する。(C)

月経前症候群の診断基準(米国産婦人科学会、2014)
過去3回の連続した月経周期のそれぞれにおける月経前5日間に、下記の情緒的および身体的症状のうち少なくとも1つが存在すれば月経前症候群と診断できる。
情緒的症状
 ・抑うつ
 ・怒りの爆発
 ・易刺激性・いらだち
 ・不安
 ・混乱
 ・社会的引きこもり
身体的症状
 ・乳房緊満感・腫脹
 ・腹部膨満感
 ・頭痛
 ・関節痛・筋肉痛
 ・体重増加
 ・四肢の腫脹・浮腫
※これらの症状は月経開始後4日以内に症状が解消し、少なくとも13日目まで再発しない、いかなる薬物療法、ホルモン摂取、薬物やアルコール使用がなくとも存在する。その後の2周期にわたり繰り返し起こる。社会的、学問的または経済的行動・能力に、明確な障害をしめす。

月経前不快気分障害の診断基準(DSM-5)
(米国精神科学会、2013)
A. ほとんどの月経周期において、月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経修了後の週には最小限になるか消失する。
B. 以下の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する。
 ① 著しい感情の不安定性(例:気分変動;突然悲しくなる、または涙もろくなる、または拒絶に対する敏感さの亢進)
 ② 著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加
 ③ 著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考
 ④ 著しい不安、緊張、および/または“高ぶっている”とか“いらだっている”という感覚。
C. さらに、以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在し、上記基準Bの症状と合わせると、症状は5つ以上になる。
 ① 通常の活動(例:仕事、学校、友人、趣味)における興味の減退
 ② 集中困難の感覚
 ③ 倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
 ④ 食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望
 ⑤ 過眠または不眠
 ⑥ 圧倒される、または制御不能という感じ
 ⑦ 他の身体症状、例えば、乳房の圧痛または膨脹、関節痛または筋肉痛、“膨らんでいる”感覚、体重増加
D. 症状は、臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、仕事、学校、通常の社会活動または他者との関係を妨げたりする(例:社会活動の回避;仕事、学校、または家庭における生産性や能率の低下)。
E. この障害は、他の障害、例えばうつ病、パニック症、持続性抑うつ障害(気分変調症)、またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない(これらの障害はいずれも併存する可能性はあるが)。
F. 基準Aは、2回以上の症状周期にわたり、前方視的に行われる毎日の評価により確認される(注:診断は、この確認に先立ち、前提的に下されてもよい)。
注:基準A~Cの症状は、先行する1年間のほとんどの月経周期で満たされていなければならない。

参考Webサイト:
月経前症候群、日本産科婦人科学会

参考文献:
1)産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
2)女性内分泌クリニカルクエスチョン90、百瀬幹雄編、診断と治療社、2017

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機能性月経困難症

2020年08月05日 | 生殖内分泌

月経困難症月経期間中に月経に随伴しておこる病的症状をいう。下腹痛、腰痛、頭痛、悪心、嘔吐、いらいらなどの諸症状がみられる。子宮筋腫、子宮内膜症などの器質的疾患を除外できれば機能性月経困難症と診断する。10歳代の月経困難症のほとんどは機能性月経困難症であり、初経後3年以内に始まり、年齢を重ねるに伴い徐々に軽快することが多い。次第に症状が増悪する器質性月経困難症とは対照的である。機能性月経困難症の主な原因は、子宮頸管の狭小プロスタグランジン(PG)の過剰産生による子宮の過収縮である。月経に対する不安や緊張などの心理的要因も関与するとされている。

薬物療法
非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)
機能性月経困難症治療の第一選択としてPG合成阻害薬を用いる。アスピリンジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®)メフェナム酸(ポンタール®)イブプロフェン(ブルフェン®)などは即効性が高い。NSAIDsは機能性月経困難症患者の約80%に有効である。
低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)
NSAIDsで十分な疼痛緩和が得られない場合や副作用が問題となる場合には、LEPを選択する。LEPは機能性月経困難症患者の90%以上で疼痛が緩和される。ヤーズ®配合錠ヤーズフレックス®配合錠ルナベル®配合錠LDルナベル®配合錠ULDジェミーナ®配合錠が保険適用となっている。投与法別では、28日周期で消退出血を起こさせる周期投与より、長期間連続投与のほうが疼痛日数を減少させるという報告がある。副作用としては静脈血栓症に注意する。
子宮内黄体ホルモン放出システム(LNG-IUS)
経口剤による治療が難しい場合や血栓症リスク(肥満、喫煙者、家族歴など)がある患者ではLNG-IUS(ミレーナ®52mg)も有用である。
ジエノゲスト
ディナゲスト®︎錠0.5mgの有効成分であるジエノゲスト第4世代プロゲスチン(合成黄体ホルモン)で、アンドロゲン作用をなくした新しいプロゲスチンである。経口投与により子宮内膜へ強い作用を示すことと抗アンドロゲン作用が特徴である。ディナゲスト®︎錠1mgは子宮内膜症治療薬として2007年に承認され、2008年より発売されている。ディナゲスト®︎錠0.5mg月経困難症治療薬として2020年1月に承認され、2020年5月より発売され現在使用可能である。喫煙などの血栓症リスクがあってLEPを投与できない場合などに有用と考えられる。
漢方薬
PG産生抑制作用を有する芍薬を含む芍薬甘草湯当帰芍薬散加味逍遙散桂枝茯苓丸当帰建中湯などの漢方薬も選択肢の一つである。即効性はないが、4~12週間の投与で症状改善が期待できる。
鎮痙剤
子宮の過収縮を抑制するブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン®)が有効な場合もある。

非薬物療法
薬物療法が無効の場合は心理・社会的背景が関与している可能性があるので、カウンセリングや心理療法を考慮してもよい。月経に対する正しい知識を教育することも大切である。

産婦人科診ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ305 機能性月経困難症の治療法は?

1. 鎮痛薬(NSAIDsなど)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、またはレノボルゲストレル放出子宮内システムを使用する。(B)
2. 漢方薬あるいは鎮痙薬を投与する。(C)

参考記事:
子宮内黄体ホルモン放出システム

参考サイト:
ディナゲスト錠0.5mg、持田製薬株式会社

参考文献:
1)産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、2020
2)女性内分泌クリニカルクエスチョン90、百枝幹雄編、2017

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受精から着床まで

2020年08月02日 | 生殖内分泌

受精(fertilization)は卵管膨大部で起こる。受精の30分後から卵割(cleavage)が始まる。卵の輸送は卵管の蠕動運動と卵管上皮の線毛運動による。受精後4~5日(桑実胚期)で子宮内腔に達する。6日目に孵化(hatching)を起こし着床(implantation)を開始する。胚盤胞(blastocyst)となった受精卵は、内細胞塊側が子宮内膜に接着し侵入する。

孵化(ハッチング):受精卵が、内圧の上昇と酵素的融解により、透明帯から脱出する現象。


 受精から着床まで


 受精卵の卵割


参考記事:
受精(fertilization)
着床(implantation)

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着床 (implantation)

2020年08月01日 | 生殖内分泌

着床とは、受精卵から初期発生を経て形成された胚が子宮内膜に触れ、結合(進入・絨毛構造を形成)することをいい、妊娠の始まりと言える現象である。着床過程は、胚と子宮内膜上皮の接着上皮下の間質への浸潤胚全体の被包・定着初期胎盤の形成に分けられる。子宮内膜が着床を起こすことができる時期は限られており、それを胚受容期(implantation window)という。胚受容期でなければ着床することはできない。着床成立には胚と子宮内膜の条件が同調している必要がある。

 着床過程

月経により子宮内膜が剥離・排泄された後、子宮内膜はエストロゲンの刺激を受け発育し厚みをもつ。排卵後にプロゲステロンが徐々に上昇し、子宮内膜管腔上皮細胞の増殖抑制と間質細胞の増殖亢進が起きる。その後にエストロゲンが上昇し、その刺激により子宮内膜は胚を着床させる能力を獲得し、着床が可能な胚受容期となる。その時期に着床成立しなければ、非胚受容期へと至る。胚受容期の時期は排卵後5~9日後と推定される。


 排卵後の女性ホルモン動態と胚受容期

参考文献:
1)データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2)生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014
3)今すぐ知りたい!不妊治療Q&A、久慈直昭ら編、医学書院、2019

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受精(fertilization)

2020年07月30日 | 生殖内分泌

排卵により卵丘細胞・卵子複合体(COC)が腹腔内に放出され、その後卵管内に入る。卵子は第二減数分裂中期で停止し、卵管膨大部で精子を待つ。

一方、腟内に射精された2~3億個の精子は早いものは5分後に卵管内まで到達し、最終的には200個以下が卵管膨大部に達する。

精子は、卵胞液の刺激を受けると受精能を獲得(capacitation)する。受精能獲得完了の指標として精子の運動性の変化があり、hyperactivationと呼ばれる。精子鞭毛の大きな振幅と非対称性を特徴とする。この運動は透明帯進入において物理的推進力となると考えられる。卵丘細胞を通過し透明帯(zona pellucida)に近づいた精子は先体反応(acrosome reaction)を起こす。先体反応により、精子の頭部から酵素の放出が起こって精子が透明帯を通過できるようになる。ただ一つの精子が透明帯を貫通し、卵子に横対横で接着・結合し、狭義の受精が成立する。

卵細胞内では反復性かつ一過性の細胞内カルシウム濃度上昇(カルシウムオシレーション)が起きる。カルシウム濃度の上昇は即時的に卵巣表面顆粒の開口分泌を誘導し、透明帯蛋白ZP3の精子結合部を分解する。これにより次の精子が先体反応を起こせず、多精拒否機構が成立する。

細胞内カルシウム濃度の上昇により停止していた卵の減数分裂が再開し、第二極体(second polar body)が形成され、減数分裂が完了する。卵子由来の遺伝子が入っている雌性前核(female pronucleus)と、精子由来の遺伝子が入っている雄性前核(male pronucleus)が形成され、最終的にこの2個の前核が融合して広義の受精が完了する。

卵活性化(egg activation)
受精後に起きる表層顆粒の開口分泌第二減数分裂の再開前核形成などの一連の現象を卵活性化という。卵細胞内に取り込まれた精子ファクター(PLCζ)は、小胞体からのカルシウム遊離を誘導し、遊離されたカルシウムは他の小胞体からのカルシウム遊離を次々に引き起こし、細胞内カルシウム濃度は上昇・下降を繰り返す。これをカルシウムオシレーションといい、前核形成まで継続する。

参考文献:
1)データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2)生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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黄体(corpus luteum)

2020年07月29日 | 生殖内分泌

黄体形成
排卵後の卵胞は黄体(corpus luteum)となり、プロゲステロンエストロゲンを分泌する。

黄体退縮
妊娠が成立しなければ、黄体は約14日で退縮する。黄体後期にプロゲステロン産生が低下し黄体細胞のアポトーシスが起こる。黄体が退縮し白体(corpus albicans)が形成される。

妊娠黄体(corpus luteum of pregnancy)
妊娠が成立すると、将来胎盤を形成するようになる絨毛組織からhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が分泌される。hCGがLH/FSH受容体を介して黄体のプロゲステロン産生を促進し、黄体機能の延長を起こす。黄体は妊娠黄体として妊娠12週頃まで存在し、プロゲステロンを分泌し続ける。


   妊娠黄体

参考記事:
卵胞発育
卵胞におけるエストラジオールの産生
排卵(ovulation)
月経周期とホルモンの変化
黄体機能不全
天然型プロゲステロン製剤

参考Webサイト:不妊College(データに基づく不妊治療の基礎知識)、フェリング・ファーマ株式会社

参考文献:
1)データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2)基礎からわかる女性内分泌、百枝幹雄編、2016

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排卵(ovulation)

2020年07月29日 | 生殖内分泌

卵丘細胞・卵子複合体
COC : comulus oocyte complex

成熟卵胞に向かって数十個の卵胞が発育していくが、通常、1回の排卵タイミングで排卵できるのは1個の卵胞のみでこれを主席卵胞という。主席卵胞以外の残りの数十個の発育途中の卵胞は閉鎖卵胞となる。

主席卵胞から産生されるエストラジオールが増量して、200~400pg/mlに達した時点でポジティブフィードバックによるLHサージが起こる。排卵前に卵胞内では卵丘細胞と顆粒膜細胞に解離が起こり、卵丘細胞・卵子複合体(COC)が卵胞液内に浮遊する。卵胞壁はプロスタグランジンの作用により平滑筋が収縮して卵胞内圧が上昇し、産生されたプラスミンの影響で卵胞壁が菲薄化し破裂する。排卵により卵丘細胞・卵子複合体(COC)が腹腔内に放出され、その後卵管内に入る。

排卵の起きるタイミングLHサージの立ち上がりから30~36時間後エストラジオールのピークの24~28時間後LHサージのピークの12~18時間後に起こる。

参考記事:
卵胞発育
卵胞におけるエストラジオールの産生
月経周期とホルモンの変化
排卵日推定法

参考Webサイト:不妊College(データに基づく不妊治療の基礎知識)、フェリング・ファーマ株式会社

参考文献:データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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卵胞におけるエストラジオールの産生

2020年07月27日 | 生殖内分泌

“two cell, two gonadotropin theory“
2細胞2ゴナドトロピン説

エストロゲンはエストロゲン受容体に結合してホルモン作用を示す化合物の総称である。ヒトのエストロゲンは、エストロン(E₁)、エストラジオール(E₂)、エストリオール(E₃)などがあるが、エストラジオールが最も強い生理活性を持ち、その活性はエストロンの2倍、エストリオールの10倍である。発育中の卵胞はエストロゲン(エストラジオール)を分泌する。

“two cell, two gonadotropin theory”
卵巣におけるエストロゲンは、FSHとLHの2種類のゴナドトロピンと、莢膜細胞と顆粒膜細胞の2種類の細胞との相互作用で産生される。


“two cell, two gonadotropin theory”

LH受容体は莢膜細胞に存在し、FSH受容体は顆粒膜細胞に存在する。莢膜細胞ではLHの作用によってコレステロールからアンドロゲンが産生され、このアンドロゲンが基底膜を通過して顆粒膜細胞に移行し、FSHの作用で誘導されたアロマターゼによりエストロゲンに転換される。エストラジオールはFSHの作用下に顆粒膜細胞で産生され、排卵の24~36時間前にピークとなる。

参考記事卵胞発育

参考Webサイト:不妊College(データに基づく不妊治療の基礎知識)、フェリング・ファーマ株式会社

参考文献:データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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卵胞発育

2020年07月26日 | 生殖内分泌

遺伝的な女性(XX)の原始生殖細胞は、発生5~6週頃に卵巣原基に移動して卵原細胞卵祖細胞)へと分化する。卵巣内で卵原細胞が多数産生され、卵原細胞は複数回の体細胞分裂を起こし第一次卵母細胞となる。

第一次卵母細胞は周囲を一層の扁平上皮様細胞が取り囲んだ状態で原始卵胞が形成される。胎生期に第一次卵母細胞は減数分裂を開始し、第一減数分裂の前期の網状期でいったん休止し、この状態で出生し、思春期にいたるまでこのままである。卵細胞はすべてが減数分裂の途上にある。

思春期に入り、主席卵胞の卵子のみがLHサージにより第一減数分裂を再開し、排卵の直前に第一減数分裂が完了して第二次卵母細胞と第一極体になり排卵される。第二次卵母細胞はすぐに減数第二分裂を始めるが中期で再び休止する。

卵巣皮質にある原始卵胞数は、胎生20週頃で最大の700万個であり、出生時には80万個に減少し、月経開始時に30~40万個となり、閉経期頃には1000個程度となる。女性が一生のうちに排卵する卵子の数は約400個で、排卵しなった卵細胞はアポトーシスによる細胞死に至る。ほとんどの卵胞は排卵せずに閉鎖卵胞となる。

卵胞は形態により原始卵胞一次卵胞二次卵胞に分類される。原始卵胞は第一次卵母細胞とそれを囲む一層の扁平な上皮とからなる。一次卵胞は一層の立方状の顆粒膜細胞に囲まれる。二次卵胞は数層の顆粒膜細胞に囲まれる。二次卵胞のなかで、顆粒膜細胞から分泌された卵胞液により囲卵腔が形成されたものが胞状卵胞である。

原始卵胞から一次卵胞へ発育するのに約150日間、一次卵胞から二次卵胞へ発育するのに約120日間を要する。二次卵胞は約85日間で排卵直前の成熟卵胞(グラーフ卵胞)まで発育する。

最初の原始卵胞から前胞状卵胞に至る発育は,ゴナドトロピンに全く依存せず自律的に進行する(ゴナドトロピン非依存性)。続く前胞状卵胞から小卵胞腔を有する初期胞状卵胞への移行期は、卵胞がゴナドトロピンに反応し始めるものの生体内での発育には必ずしもゴナドトロピンを必要としないといわれている (ゴナドトロピン感受性)。最終的に胞状卵胞がリクルートされ選択→発育→排卵に至るプロセスは、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)が完全に主導する(ゴナドトロピン依存性)。卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する受容体は前胞状卵胞の段階で発現するが,卵胞が実際にゴナドトロピン依存性に発育するのは胞状卵胞以降である。すなわち前胞状卵胞から胞状卵胞への移行期は,卵胞発育を制御するメインシステムが,卵巣内の局所調節因子からゴナドトロピンへと切り替わる重要なターニングポイントと考えられる。

単一排卵機構:
ヒトは月経周期のにおいて1つの排卵が起こる単一排卵機構が特徴的である。月経周期の初期の卵巣には3mm前後の十数個の二次卵胞が存在し、FSH依存性に発育成熟するが、卵胞期中期以降FSHの分泌が減少し、この変化に耐えられる1個の卵胞(主席卵胞)のみが閉鎖を免れて成熟卵胞(グラーフ卵胞)となり排卵に至る。成熟卵胞以外は閉鎖卵胞となる。

減数分裂(成熟分裂)
月経周期とホルモンの変化
排卵日推定法

参考Webサイト
不妊College(データに基づく不妊治療の基礎知識)、フェリング・ファーマ株式会社

参考文献
1)データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2)基礎からわかる女性内分泌、百枝幹雄編、2016、p10

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飯田下伊那地域における産科医療提供体制の変遷(平成の30年間を振り返って)

2020年07月23日 | 飯田下伊那地域の産科問題

私は岐阜県瑞浪市の出身で、自然科学者になりたいという幼少時からの夢を実現するために、最初は名古屋大学理学部に進学しましたが、卒業を前にして医学を勉強したくなり医学部を再受験しました。受験科目の関係でたまたま信州大学を受験しましたが、入学試験の前日まで長野県内に足を踏み入れたことは一度もありませんでした。信州大学卒業後は岐阜県に戻る予定でしたが、岐阜県内の行き先がなかなかみつからず、とりあえず母校の大学院に進学して長野県に残留しました。というわけで、私は長野県の中でも松本市内しか住んだことがなく、飯田市立病院への赴任を命ぜられた35歳になるまで飯田市を訪れたことは一度もありませんでした。平成31年3月に私は65歳で市立病院を定年退職しました。無我夢中で働いて本当に楽しいあっという間の30年間でした。最初のうちはいつか地元の岐阜県に戻りたいと思ってましたが、今となっては岐阜県に戻っても知り合いはほとんど皆無です。今ではこの飯田下伊那地域に非常に多くの知り合いができて、この地が世界でいちばん居心地のいい場所となり、死ぬまでこの地で暮らしたいと思ってます。

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平成元年4月に飯田市立病院(市立病院)に産婦人科が開設されることとなり、信州大学産婦人科より教授命令で初代市立病院産婦人科部長として赴任し、それから平成の30年間を市立病院で勤務しました。

市立病院に産婦人科が開設された当初は産婦人科医1人、助産師2人の診療態勢でした。平成3年4月にN医大講師(医局長)だったH先生が就任し常勤医2人となりました。H先生とは、その後14年間よき相棒として苦楽を共にし一心同体となって働きました。

飯田下伊那地域では、平成元年には分娩を取り扱う施設が13施設(4病院,9診療所)ありましたが、産婦人科医の高齢化により地域の分娩取り扱い施設は年々減り続け、平成10年頃には地域の分娩取り扱い施設は計6施設(3病院、3診療所)となり、その6施設で地域の分娩(年間1500~2000件)を分担して取り扱っていました。平成17年の夏頃に、その6施設のうちの3施設(2病院、1診療所)がほぼ同時に分娩の取り扱い中止を表明しました。この3施設分を合計すると、年間約800~900件の分娩受け入れ先が突然なくなってしまうことになり、地域から多くのお産難民が出現する最悪の事態も予想されましたので、関係者たちは非常に大きな危機感を持ちました。

そこで、平成17年8月に当地域の各自治体の長、医師会長、病院長、産婦人科医、助産師、保健師などが集まって産科問題懇談会を立ち上げ、この問題に対して今後いかに対応していくかを話し合いました。市立病院(平成17年当時の常勤産婦人科医3人、小児科医4人、麻酔科医3人)は、県より地域周産期母子医療センターに指定され、地域における唯一の二次周産期施設として、異常例を中心に年間約500件程度の分娩を取り扱ってました。産科問題懇談会での話し合いの結果、周辺自治体からの資金提供もあり、市立病院の産科病棟・産婦人科外来の改修・拡張工事、医療機器の整備などを行ってハード面を強化し、常勤産婦人科医数も信州大学からの人的支援が得られて常勤医3人態勢から4人態勢に強化されました。また、分娩を中止する産科施設の助産師の多くが市立病院に異動することになりました。分娩取り扱いを継続する2つの産科一次施設にも、できる限り(低リスク妊婦管理を中心とした)産科診療を継続していただくとともに、地域内の関係者の協力体制を強化して産科医療を支えあっていくことになりました。具体的には、市立病院で分娩を予定している妊婦さんの妊婦健診を地域の産婦人科クリニックで分担してもらうこと、地域内での産科共通カルテを使用し患者情報を共有化すること、市立病院の婦人科外来は他の医療施設からの紹介状を持参した患者さんのみに限定して受け付けること、などの地域協力体制のルールを取り決めました。また、産科問題懇談会は継続して定期的に開催し、いろいろな立場の人達の意見を広く吸い上げて、何か問題が発生するたびにそのつど対応策を協議し、その結果を情報公開して市の広報などで市民全体に周知徹底させてゆくことが確認されました。

平成18年4月以降、飯田下伊那地域の分娩取り扱い施設は3施設(市立病院、2診療所)のみとなり、予想通り市立病院の年間分娩件数は倍増し約1000件となりましたが、共通カルテを用いた地域の産科連携システムが比較的順調に運用され、それほど大きな混乱もなく地域の産科医療を提供する体制が維持されました。また、平成19年6月には市立病院の常勤産婦人科医は5人となりました。

当時、長野県内の他の医療圏でも、産婦人科医不足の状況は急速に悪化し、各地域を代表する基幹病院産婦人科が、次々に分娩取り扱い休止に追い込まれる異常事態となりました。そして、比較的順調に推移していると考えられていた飯田下伊那地域の産科医療提供体制にも、平成19年10月以降は急速に暗雲がたちこめ始めました。市立病院と連携して妊婦健診を担当していた2病院の常勤産婦人科医が県外に転勤し、1診療所が休診となりました。さらに市立病院産婦人科の複数の常勤医が平成20年3月末で辞職したいとの意向を表明しました。平成19年11月に開催された産科問題懇談会にて、平成20年4月からの分娩制限(里帰り分娩と他地域在住者の分娩の受け入れ中止)を決定しました。

その後、信州大学からの人的支援に加えて、他県より2名の産婦人科医が就職し、市立病院は常勤産婦人科医5人態勢を何とか維持できることとなり、平成20年3月に開催された産科問題懇談会にて、翌4月から実施が予定されていた分娩制限を解除することを決定しました。また平成20年4月より、助産師外来を大幅に拡大し、超音波検査を専任の検査技師が担当するシステムも導入しました。平成22年4月、市立病院産婦人科は常勤医6人態勢となりました。

H医院が平成23年2月をもって分娩の受け入れを中止し、近い将来に地域の全分娩が市立病院に集中する事態も想定し、分娩受け入れ数の更なる拡大に対応できるように施設を整備する計画を策定し、平成25年に県内最大規模の周産期センターが完成しました。実際に平成28年7月からは市立病院が飯田下伊那地域で唯一の分娩施設となり、年間1200~1300件の地域のほぼ全分娩を取り扱うようになりました。平成31年1月より市立病院産婦人科は常勤医7人、助産師50人以上の態勢で産科診療を行ってます。

飯田下伊那地域では、初期~中期の妊婦健診は4診療所で行い、後期以降の妊婦健診および分娩業務は主に市立病院で行って、市立病院と地域の産科医療機関とが緊密に連携し協力して互いの業務負担を軽減してます。平成30年度の県と市の予算で、当地域に病診連携のための産科電子カルテシステムを導入するプロジェクトが採択され、平成31年3月より地域産科電子カルテシステムの運用が開始されました。今後、試行錯誤で数年かけてシステムを完成させていく必要があると思います。

平成の30年間、飯田下伊那地域の産科医療提供体制は大きく変遷しました。幾度となく壊滅的な危機的状況にも直面しましたが、その度に信州大学産婦人科からの支援や地域の多くの人々の協力体制の構築によって、危機を一つ一つ乗り越えてきました。産科医療を取り巻く地域の状況はこれからも常に大きく変化します。今後もその時その時の状況に応じて臨機応変に対応し、時代とともに変革を続けていく必要があるでしょう。令和の時代も、多くの人々が協力して、また新たな歴史を切り開いていくことでしょう。

長野県・飯田下伊那地域における産科問題の変遷

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経口排卵誘発剤

2020年07月23日 | 生殖内分泌

クエン酸クロミフェン(クロミッド®):
クエン酸クロミフェン(クロミッド®)は、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)であり、弱いエストロゲン作用と強力なエストロゲン拮抗作用を有する経口剤である。視床下部のエストロゲン受容体に対して内因性エストロゲンと競合的に結合することにより、エストロゲンによるネガティブフィードバックを阻害する。これにより、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌を促進する作用がある。GnRHは下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進し、その結果、卵巣を刺激して卵胞の発育を促進する。内因性のエストロゲン分泌が保たれている第1度無月経多嚢胞性卵巣症候群無排卵周期症の排卵誘発時に適応となる。月経5日目から50mg~100mg(1錠~2錠)/日を5日間連続服用する。クロミフェン®投与時は、卵胞径20~25mmまで発育してもLHサージが起こらないことがあり、その場合はhCGもしくはGnRHアゴニスト点鼻薬などで排卵誘起を行う。クロミッド®の排卵誘発率は60~90%と高いが、副作用として抗エストロゲン作用による子宮頸管粘液の分泌低下と、子宮内膜の菲薄化が問題となり、妊娠率は10~40%にとどまる。内因性エストロゲン分泌が低下している第2度無月経には無効である。したがって、クロミッド®投与で妊娠が成立しない場合には6周期を目処として中止し、ゴナドトロピン療法や体外受精へのステップアップを考慮する。


 クロミッド錠50mg、富士製薬工業株式会社

レトロゾール(フェマーラ®):
アロマターゼはアンドロゲンをエストロゲンへ変換する生合成酵素で、女性では卵巣顆粒膜細胞に主に限局するほか脳や乳腺などにも存在する。アロマターゼ阻害薬(レトロゾール)は全身のアロマターゼに作用し、アンドロゲンからのエストロゲン産生を低下させる。その結果、視床下部に対するエストロゲンのネガティブフィードバックが阻害され、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌が促進され、卵胞刺激ホルモン(FSH)の産生が増加する。レトロゾールはアロマターゼ阻害薬で、抗エストロゲン作用による閉経後乳癌の治療薬である。レトロゾールの投与によりFSH分泌が促進され卵胞が発育する。排卵誘発剤として使用する場合、通常月経3~5日目より2.5mg(1錠)/日を5日間連続服用する。排卵率は90%で単一卵胞発育の割合が高い。クロミッド®と異なり子宮頸管粘液の減少や子宮内膜の菲薄化はほとんどない。レトロゾールを排卵誘発剤として使用する際は、本来の治療薬としての適応外使用であり保険適用がない。


 フェマーラ錠2.5mg、ノバルティスファーマ株式会社

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緊急避妊法

2020年07月21日 | 生殖内分泌

emergency contraception (EC)
レボノルゲストレル( LNG) 1.5mg 製剤

緊急避妊法(emergency contraceptive : EC)とは、妊娠を望まない女性が、避妊せずに行われた性交または避妊したものの避妊手段が適切かつ十分ではなかった性交(unprotected sexual intercourse : UPSI)の後に、緊急避難的に妊娠成立を阻止するものである。

わが国では、レボノルゲストレル( LNG) 1.5mg 製剤が唯一の緊急避妊薬として2011年に正式に承認されており、緊急避妊法(EC) の第一選択として推奨される。

服用方法:LNG 単剤 1.5mg 1錠を性交後 72 時間以内に1回服用する。有効性を考えれば、できるかぎり速やかに服用することが望ましい。

服用後2~3時間以内に嘔吐した場合は、再度内服するか内服以外の方法に変更する必要がある。また、緊急避妊法の成功後も妊娠を望まない場合は、経口避妊薬(OC)、レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)など、より確実な避妊法の選択を勧める必要がある。

レボノルゲストレル( LNG)は合成黄体ホルモン(プロゲスチン)である。

   レボノルゲストレル( LNG)

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ403 緊急避妊法の実施法と留意点は?

Answer
「緊急避妊法の適正使用に関する指針」(日本産科婦人科学編、平成28年度改訂版)を参考に、緊急避妊法(emergency contraception : EC)について情報を提供し、必要に応じて実施する。
1. 性交後72時間以内にレボノルゲストレル(levonorgestrel : LNG)単剤1.5mg錠を確実に、できるだけ速やかに1錠服用する。(B)
2.内服以外の方法として、性交後120時間以内に銅付加子宮内避妊具(copper intra-uterine device : Cu-IUD)を使用する。(B)
3. ECの効果は完全ではなく、施行後も妊娠の可能性があることを説明し、必要に応じて来院させ妊娠の確認を行う。(A)
4. 以後、より確実な避妊法の選択を勧める。(B)

参考文献:
1)緊急避妊法の適正使用に関する指針、日本産科婦人科学編、平成28年度改訂版
2)産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
3)ノルレボ錠1.5mg、添付文書、あすか製薬株式会社

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子宮内黄体ホルモン放出システム(ミレーナ®52mg)

2020年07月20日 | 生殖内分泌

レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)

LNG-IUSミレーナ®52mg)は、プロゲスチン(合成黄体ホルモン)製剤であるレボノルゲストレルの子宮内留置型の薬剤放出システムです。約20μg/日のレボノルゲストレルを子宮内に約5年間放出します。本システムの特徴は、プロゲスチン単独の製剤であること、局所療法であることです。

ミレーナ®52mgは、2007年に避妊薬として国内で承認されました。2014年からは過多月経、月経困難症の治療に対してミレーナ®52mgが保険適用となりました。

LNG-IUS装着の目的:
① 避妊(自費診療)
② 過多月経の治療(月経血の減少)
③ 月経困難症の治療(月経痛の軽減)

LNG-IUSの利点
① エストロゲンが配合されていないプロゲスチン単剤のため、血栓症リスクの上昇は懸念されない。
② 局所療法であり、血中に移行するレボノルゲストレル量は軽微であるため、乳癌術後や腎機能不全例にも使用可能である。
③ 従来の子宮内避妊用具(IUD)とは異なり、LNG-IUSは子宮機能に関しては可逆性が担保されており、抜去後の妊孕性は十分に保たれる。
④ 子宮内膜増殖症(単純型)に有効性が認められている。子宮体がんに対する予防効果が期待できる。子宮内膜症・子宮腺筋症の症状緩和に有効である。
⑤ コストパフォーマンスが良好である。同じ目的で経口避妊薬(OC)や低用量ピル(LEP)を5年間服用した場合と比較しても明らかに安い。

LNG-IUSの短所:
① 3ヶ月以内の自然脱出例が4%ある。
② 粘膜下筋腫、骨盤内感染症症例への使用は禁忌である。
③ 子宮頸管狭窄例では挿入困難である。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ402 子宮内避妊用具(IUD)・レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)を装着する時の説明は?

1. 避妊を目的とする場合、完全な避妊はできないこと。(A)
2. 妊娠の疑いがある場合にはただちに受診すること。(A)
3. 位置の確認と交換のために定期的に受信すること。(B)
4. 出血、感染、穿孔などの有害事象および自然脱落が起こりえること。(B)

参考Webサイト:
ミレーナ®52mg ご使用中の皆様へ、バイエル薬品株式会社

参考文献:
産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020

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