ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

C型肝炎

2011年10月29日 | 周産期医学

Hepatitis C

C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV:hepatitis C virus)の感染により起こる。HCVは一本鎖RNAウイルスで、血液を介して感染する。C型肝炎は肝炎の中で肝硬変、肝癌への移行率が最も高いとされ、内科医による長期間のフォローアップが予後改善のために必要である。HCVの輸血感染がほぼ防止できた現在、感染の主な経路は母子感染(分娩時の母体から児への血液移行が原因とされている)となり、その対策が強く望まれる。しかし、HCVの母子感染予防対策は未だ十分とは言いがたい。

C型肝炎ウイルス(HCV)キャリア妊婦とその出生児の管理指導指針

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ607 妊娠中にHCV抗体陽性が判明した場合は?

Answer

1. HCV-RNA定量検査と肝機能検査を行う。(A)

2. HCV-RNA定量検査が「検出せず」であれば母子感染の心配はないと説明する。(B)

3. HCV-RNA定量検査が「検出」の場合には母子感染のリスクを説明するとともに内科受診を勧める。(B)

4. HCV-RNA定量検査が「検出」されても母子感染予防目的のために授乳を制限する必要はないと説明する。(C)

5. HCV-RNA量高値群の妊婦の分娩様式を決定する際には、本邦における分娩様式による母子感染率を提示し、患者・家族に選択させる。(C)

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(表1)HCV-RNA陽性妊婦の分娩様式別にみた母子感染率

Hcvrna

HCV-RNA量高値群:2.5x106コピー/mL(リアルタイムPCR法で約6.4LogIU/mL)以上

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【疫学と病態生理】

・ HCVに感染すると60~80%程度に持続感染(キャリア化)が成立し、多くは20~30年の経過で肝硬変・肝癌へと移行する。HCVに感染してもキャリア化せずに一過性感染で終わることもある。

・ HCV抗体陽性にはHCV持続感染者(キャリア)HCV感染既往者が含まれ、それらを鑑別するにはHCV-RNA定量検査を行う。HCV持続感染者(キャリア)はHCV-RNA定量検査が「検出」である。一方、HCV感染既往者はHCV-RNA定量検査が「検出せず」である。

・ 現在の測定方法であるHCV-RNA定量検査(リアルタイムPCR法)は、以前の測定方法に比べ高感度であり、低コピーから高コピーまで高範囲量のウイルスRNAが検出できる。なお、リアルタイムPCR法の測定結果はHCV増幅反応シグナルが「検出せず」または「検出」で示され、「検出」された場合は測定範囲が15~6.9 x 107 IU/mL と広範囲のため、実数値ではなく対数値(1.2~7.8LogIU/mL)で示される。

・ 一般妊婦のHCV抗体陽性率は0.3~0.8%であり、その70%でHCV-RNAが「検出」される。

すなわち、HCV抗体検査陽性妊婦のうち約70%がキャリア(HCV-RNA「検出」)であり、残りの30%はHCV感染既往者(HCV-RNA「検出せず」)で体内にHCVは存在しない。

【胎児・新生児への影響】

・ HCVキャリア(HCV-RNA「検出」)妊婦では、主に分娩時の経産道感染により母子感染が起こる。(経胎盤感染、母乳感染、唾液からの感染なども考えられてきたが、分娩時産道感染が母子感染の主体である。)

・ HCVキャリア(HCV-RNA「検出」)の母子感染率は4~10%であり、HCV感染既往者(HCV-RNA「検出せず」)の場合、母子感染は成立しない。

・ 母子感染した児のうち、30%程度は3歳までにHCVが身体から排除されるが、残りの70%はキャリア化すると想定されている。

【検査・診断】

妊婦全員に対して妊娠初診時にHCV抗体検査が行われる。HCV抗体陽性の場合には、HCV-RNA定量検査(リアルタイムPCR法)と肝機能検査を行う。

【HCV抗体陽性妊婦の管理】

・ AST、ALTなどの肝機能検査とHCV-RNA定量検査を行い、肝臓専門医を紹介し受診を勧める。

・ HCVキャリア(HCV-RNA「検出」)の母子感染率は4~10%であり、HCV感染既往者(HCV-RNA「検出せず」)の場合、母子感染は成立しない。

・ 母子感染危険因子として明らかになっていることは、HIV重複感染と血中HCV-RNA量高値である。(注: 106コピー/mL(リアルタイムPCR法では6.0LogIU/mL)以上とする報告例が多い。ただし高値でも非感染例が少なくない。)

・ 血中HCV-RNA量高値例において、予定帝王切開は経腟分娩・緊急帝王切開に比して母子感染率を明らかに低くする可能性がある。ただし、HCV-RNA量高値妊婦に対して予定帝王切開を採用すべきか否かについては結論が出ていない。以下に示すようなHCV母子感染ならびに帝王切開分娩に関する情報を提供し、分娩様式に関しては患者家族の意思を尊重すべきとの意見がある。

1)HCV-RNA「検出」でしかもRNA量高値の妊婦では、予定帝王切開により母子感染を減少させる可能性がある。
2)もし母子感染したとしても、母子感染児の3割は3歳ごろまでに陰転化し、陽性児にはインターフェロン療法で半数はHCVを排除できる。
3)HCVが臨床で問題となるのは数十年後であるので、母子感染したとしても今後治療法が開発されている可能性がある。
4)帝王切開分娩、経腟分娩にはおのおの長所と短所があり、いずれが優れているとは言い難い面が多々あるが、本邦分娩の約20%弱は帝王切開術で安全に行われている。

【HCV-RNA「検出」妊婦からの出生児の管理】

・ 母乳哺育と母子感染率とは関連がないので、母乳は原則として禁止しない。

・ 出生後3~4ヵ月にAST、ALT、HCV-RNA定量を検査する。HCV-RNA「検出」の場合は生後6ヵ月以降半年ごとにAST、ALT、HCV-RNA定量、HCV抗体を検査し、感染持続の有無を確認する。母子感染例の30%は3歳頃までに血中HCV-RNAが自然消失するので、原則として3歳までは治療を行わない。ウイルスが排除されない場合には3歳以降にインターフェロン療法が考慮される。

【HCV抗体陽性かつHCV-RNA「検出せず」の妊婦からの出生児の管理】

HCV-RNA「検出」妊婦からの出生児に準ずるが、出生~生後1年までの検査は省略し、生後18ヵ月以降にHCV抗体を検査し、これが陰性であることを確認する。


周産期(母体・胎児)専門医試験

2011年10月26日 | 周産期医学

10月22日~23日に周産期専門医試験(受験会場:東京大学)が実施されました。22日に筆記試験(110問題、2時間)と小論文試験(45分間)が行われ、23日に口頭試験が行われました。5年前に婦人科腫瘍専門医試験を受験して以来5年ぶりの専門医試験の受験でした。

筆記試験はとにかく問題の量が非常に多く、私は最初の1時間ゆっくりやりすぎて、試験開始後1時間経過した時点でまだ40問題くらいしか解答してなくて、残りの1時間で70問解答しなければならないので、1問あたり40~50秒で解答しないと最後までたどり着けないことに気付き非常にあせりました。途中から猛然とスピードアップし、何とか最後の問題までたどり着けました。時間配分が大事だと思いました。産科分野では、産婦人科ガイドライン・産科編2011の知識が問われている問題が多かった印象です。新生児分野では、消化器外科関係の問題が多かった印象です。先天性心疾患や新生児蘇生法からの出題はありませんでした。問題は回収され持ち帰れませんでした。ただ、「問題は毎年新たに作り直しているので、過去問を調べても何の役にも立ちません。」とのことでした。

また、筆記試験の試験会場は医学部の古い階段教室で、机と椅子の間のスペースが(私にとっては)非常に狭く、お腹が机に完全に接してしまい、試験中かなり厳しかったです。私の腹囲がぎりぎりの限界で、それ以上の腹囲の方の場合は机にすわれません。これから周産期専門医試験を受けようとする方は、メタボリックシンドロームには十分にお気を付けください。

小論文試験は、事前に三つのテーマが通知されて、その中から1題が出題されます。(制限文字数:800字)

二日目の口頭試験は、受験者一人と面接官(産婦人科の先生と小児科の先生)二人とが対面して実施されました。

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10月25日、合格通知が葉書で届いてほっとしました。

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三四郎池(東京大学本郷地区キャンパス)

Sannshirouike

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赤門(東京大学本郷地区キャンパス)

Akamon

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医学部2号館(本館)
1日目(筆記試験、小論文)の試験会場

Igakubu2goukan

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医学部附属病院南研究棟
2日目(口頭試験)の試験会場

Minamikenkyuto


長野県・飯田下伊那地域における産科問題の変遷

2011年10月25日 | 飯田下伊那地域の産科問題

13/01/19 チーム医療体制の刷新

12/12/29 ?2012年の仕事納めの日にふと思ったこと

12/12/03 院内のICLSコースに参加しました

12/12/01 周産期救急への対応

12/11/10 光陰矢の如し

12/11/03 新生児蘇生法(NCPR)講習会Aコース(於:飯田市立病院)

12/10/30 ALSOを学ぶ意義は?

12/07/15 産婦人科の専門研修について

12/04/11 診療体制の維持は可能か?

12/03/04 地域の産婦人科医療提供体制の維持について

12/02/22  地域産婦人科医療の最近の情勢について

12/02/19 新生児蘇生法(NCPR)講習会・専門コース(Aコース)、於:飯田市立病院

12/02/18 今後の産婦人科医療のあり方

12/01/18 地域の病院がこの世の中に生き残る条件は?

12/01/02 産科医療の集約化と各基幹病院の果たすべき役割について

11/12/29 仕事納めの日

11/12/18 多忙なれど充実して楽しい日々

11/11/20 病院ロビーでのピアノ演奏

11/11/12 2011年度研修医マッチング結果

11/10/23 後期研修医募集(内科、外科、麻酔科、産婦人科 etc.)

11/09/11 平日夜間および休日における超緊急帝王切開への取り組み(スライド)

11/06/25 椎名レディースクリニック開業百周年記念式典

11/02/05 次世代への継承

11/02/02  「若手グループ」勉強会の活動

11/01/23 地域の産婦人科医療を継続していくためには、今後どうしたらいいのか?

10/12/25 人生の岐路

10/12/19 ある研修医の奇跡の産婦人科入局宣言

10/11/27 今後の飯田下伊那地域における産婦人科医療提供体制について

10/11/01 休日深夜帯の超緊急帝王切開について

10/10/29 平成22年度 研修医マッチングの結果

10/10/27 飯田下伊那地域における産科医療提供体制の変遷(最近二十年間の歩み)

10/10/25 長野県の周産期医療の現状について

10/10/10 最近の産婦人科診療体制の動向について

10/07/21 新生児蘇生法「専門」コースインストラクター養成講習会

10/07/19 レジナビフェア2010 in 東京(医学生向け)

10/07/18 当地域の最近の産科事情

10/06/04 実質約8億円の収支改善を達成(平成21年度)、飯田市立病院

10/04/27 助産師と超音波検査を担当する臨床検査技師による妊婦健診の導入効果(第2報):第62回日本産科婦人科学会学術講演会一般演題

10/04/03  新年度入り

10/03/18 飯田市立病院 常勤医師の増員

10/03/11 周産期センター棟の新築計画

10/02/08 飯田下伊那地域における産科医療提供体制の変遷

09/12/16 助産師と超音波検査を担当する臨床検査技師による妊婦健診の導入効果 (第2報)

09/10/30 平成21年度 研修医マッチングの結果

09/10/20 地域の病院に医師を派遣する拠点病院「マグネット・ホスピタル」を整備する県の構想

09/09/16 産婦人科医の状況、「悪化」が半減

09/07/09 妊婦健診と分娩の取り扱いを地域内で分担

09/07/03 医師の研修制度はいま

09/06/22 臨床研修6年目 競争激化、質も向上

09/06/07  「過酷な」勤務実態で産科女医の就労継続困難に

09/05/30 レジナビフェア2009 for RESIDENT in 東京

09/05/28 医師配置、新機関で(厚労省研究班が提言)

09/04/09 助産師と臨床検査技師(超音波検査士)とが協同して担当する妊婦健診の導入効果(第61回日本産科婦人科学会学術講演会・演題)

09/03/31 後期研修医の新規採用状況

09/03/18 地方における医師不足対策

09/03/15 臨床研修制度の見直しについて

09/03/08 帝王切開:周産期センター「30分で手術可能」3割

09/03/06 飯田市立病院 分娩受け入れ制限を一部解除

09/02/24 医師の計画配置と公共の福祉

09/02/15 地域に産婦人科の機能を残すために

09/02/07 周産期医療提供体制立て直しの方策は?

09/02/01 産科復興に向けた長野県各地域の取り組み

09/01/08 産科医、母親の負担軽減へ 飯田市立病院が助産師外来拡充

09/01/06 周産期医療の現場

08/11/09 分娩施設の集約・産科医の再配置

08/10/18 平成20年度 研修医マッチングの結果

08/10/17 働きやすい職場環境

08/10/04 助産師外来の拡充

08/10/01 産科医の「過酷な勤務実態」が明らかに―月295時間在院

08/09/23 一人産婦人科医長体制について

08/09/15 周産期医療提供体制は今後どうなるのか?

08/07/29 ”お産難民”発生寸前

08/07/16 研修医の動向、地域格差

08/07/13 産科医、新生児科医、麻酔科医の適正配置

08/07/12 シンポジウム「産婦人科医不足の解消を目指して」、第60回日本産科婦人科学会

08/07/03 医師不足の原因は何?

08/06/28 松本地域の産科連携システム 分娩と健診の役割分担

08/06/21 今後の分娩場所のトレンドは?

08/06/09 産婦人科の休診・診療縮小が止まらない!

08/06/06 勤務医の待遇改善急務

08/05/04 地域の産科機能を次世代に残すために(その四)

08/04/26 続々・地域の産科機能を次世代に残すために

08/04/22 続・地域の産科機能を次世代に残すために

08/04/19 地域の産科機能を次世代に残すために

08/04/09 地域医療崩壊の阻止に向けて(福島・社民党党首の病院視察)

08/03/28 産科崩壊に対する緊急支援策

08/03/25  お産休止・制限 全国で77カ所、厚労省が緊急調査

08/03/21 飯田市立病院 里帰り分娩受け入れの再開

08/03/13 地域産科医療提供システムの構築(飯田下伊那)

08/03/11 里帰り分娩制限の一部解除について

08/02/22 地域の周産期医療システムが崩壊するのを阻止するために

08/02/12 地域産科医療改善への取り組み

08/01/31 緊急課題としての産科医確保対策

08/01/23 産科医不足対策

08/01/20 大臣と語る 希望と安心の国づくり

08/01/18 医師確保 取り組みは

08/01/13 現実見据え試行錯誤を

08/01/06 県内中核的病院 産科医3割減

07/12/23 対応「もう限界」

07/12/20 産科医不足 地域越えた連携望む

07/11/10 分娩取り扱う病院 激減

07/11/06 飯田下伊那医療圏の産婦人科医療 里帰り分娩と他地域在住者の分娩の受け入れを中止

07/11/05 貴重な助産師パワーの活用

07/10/30 2年半で22病院が35診療科を休廃止/長野

07/10/20 勤務医の大量離職、診療科の休廃止

07/09/30 助産師の活躍に期待

07/09/25 臨床研修の経費を補助へ/長野県

07/09/13 周産期医療の提供体制

07/09/07 深刻化する産科医不足 助産師の活躍に期待

07/09/05 産科医不足 役割分担を急がねば

07/08/30 飯田市立病院から下伊那日赤に産科医派遣も 飯伊医療圏の産科体制が新局面に

07/08/09 医師の配置機能

07/08/02 地方病院での医師の確保と育成

07/07/05 医師不足対策

07/06/19 目前に迫りつつある地域周産期医療の崩壊をくいとめるために

07/05/31 書類処理作業の増大

07/05/27 若手医師の育成

07/05/10 地方病院の医師供給体制について

07/04/11 医師の集約化 格差を広げないために

07/04/08 産科施設の減少

07/04/05 飯田下伊那の産科体制「やむを得ない」が8割

07/03/30 産科・小児科の重点配置を提言 (長野県産科・小児科医療対策検討会)

07/03/28 医療資源の有効活用に地域一体で対応を

07/03/25 産婦人科の後期臨床研修

07/02/28 医師不足の大学病院、派遣医引き揚げ

07/02/25 深刻さ増す「お産状況」

07/02/16 産科/検討進む医師の集約化

07/01/12 不足診療科のトップ、産科・婦人科 県民意識調査

07/01/09 当医療圏における産科地域協力システムの運用状況

07/01/02 医者がいない!?~“医療難民”を防げ~ (ガイアの夜明け、番組紹介)

06/12/29 お産難民の問題

06/12/14 地方病院での医師確保策

06/11/19 助産師の活用(助産師の集約化)

06/11/07 産科・小児科で集約化の是非など検討がスタート(医療タイムス社、長野)

06/11/02 産科医不足問題 松川町で母親の会 医師ら提言、勉強会

06/10/08 飯田下伊那地域の産科対策、What's on Japan(NHKの海外向け番組)

06/10/07 ここで産みたい~産科医不足・試される現場から~、長野朝日放送

06/10/04 上田でお産の課題話し合う 飯田市立病院の現状も紹介

06/09/27 小児科・産科の集約化に伴う一つの問題点

06/09/04 飯伊地区の産科分業態勢 順調に進展

06/08/31 助産師が足りない 人材、大病院に集中

06/08/22 第4回産科問題懇談会の協議内容

06/08/18 お産難民、産科セミオープンシステム

06/08/04 助産師不足? 適正配置に課題

06/05/31 南信州新聞社:「院内助産院」勧める意見も

06/05/19 NHKの取材の様子について

06/04/30 地域周産期医療の現場で、我々が今なすべきことは何だろうか?

06/04/21 病院の広報:当院産科の状況

06/04/10 産婦人科継続を求める署名活動

06/03/23 産科問題について地域住民との意見交換

06/02/23 医師の集約化、地域連携、および次世代の育成

06/02/15 将来の産婦人科医療を支える新人医師の育成

06/02/12 産婦人科医の急減&高齢化について

06/01/28 地域周産期医療体制の今後の流れは?

06/01/25 当医療圏の産科問題に対する取り組み

06/01/17 ハイリスク分娩に適切に対応できる病院の体制とは?

06/01/12 分娩件数、手術件数の急増

05/12/31 持続可能な周産期医療システムの構築

05/12/30 周産期医療体制の崩壊を阻止するために

05/12/25 周産期医療の危機的状況


後期研修医募集(内科、外科、麻酔科、産婦人科 etc.)

2011年10月23日 | 飯田下伊那地域の産科問題

飯田市立病院では、内科・外科・麻酔科・産婦人科などで幅広く後期研修医を募集してます。

平成24年度は麻酔科1名・外科1名、平成23年度は麻酔科1名、平成22年度は麻酔科1名、平成21年度は産婦人科1名・内科1名・麻酔科1名、平成20年度は外科2名・内科1名・麻酔科1名、平成19年度は産婦人科1名・麻酔科1名が、飯田市立病院の後期研修医として新規に採用され各科で研修中です。各科とも随時募集しており、数多くの応募をお待ちしてます。

当院の麻酔科の後期研修医は、最近6年連続で毎年1名づつ採用されています。麻酔科では、若い医師達が順番に国内留学をして研鑽を積んでます。麻酔科医の大幅増員で外科系医師は非常に助かってます。

当院産婦人科の医師団は、主に、信州大産婦人科より1~2年間の任期で派遣される医師達で構成されてます。これまでに、当院での初期研修を経て、当科で産婦人科後期研修を開始した者が1名、信州大産婦人科に入局した者が計5名いました。また、県外の病院での初期研修を経て、当科で3年間の産婦人科後期研修を修了し産婦人科専門医資格を取得した者も1名在籍しています。また、これまでに2名のベテラン産婦人科医師(日本医大卒、九州大学卒)が縁あって採用され、長年にわたり一緒に働きました。ここ数年間で近隣のほとんどの産科施設が分娩の取扱いを中止し、当科の分娩件数は年々うなぎ登りに増加し続け、最近の分娩件数は月100~120件程度です。毎年、施設を改修しながら分娩数増加に対応してきましたが、それでは対応しきれなくなったため、2014年、新たに北棟を増築しそこに周産期センターを立ち上げました。交通の便の悪い田舎の病院ですが、いろいろな経緯で集まった有能・勤勉な仲間達が大勢いて、抜群のチームワークで日々楽しく働いてます。

リニア中央新幹線の駅が当地にできることが決定し、今は陸の孤島ですが、将来的には当地の交通の利便性は今と比べると飛躍的によくなる筈です。

飯田市立病院産婦人科 後期研修プログラム

 本プログラムは、2年間の初期臨床研修を修了後に、日本産科婦人科学会の認定する産婦人科専門医および母体保護法指定医の資格取得をめざす3年間のコースである。

 当科における後期研修プログラムは、信州大学産科婦人科学教室(塩沢丹里教授)との緊密な連携のもとに実施される。本人の希望により、信州大学産科婦人科学教室または長野県立こども病院にて研修を行い、より多くの症例を経験することも可能である。当科および信州大学産科婦人科学教室において、産婦人科に関する臨床研究を行い、積極的に研究発表(論文も含む)を行う。

 飯田市立病院・産婦人科は、産婦人科医 6名(出身大学:信州大 3名、名古屋市立大1名、大阪市大 1名、鳥取大1名)、助産師50名の診療体制である。地域周産期母子医療センターに指定され、年間約1200~1400例の分娩を取り扱い、年間約50例の緊急母体搬送を受け入れ、広域医療圏内の異常分娩のほぼ全例を取り扱い、臨床各科と協力して多数例の合併症妊娠にも対応している。また、年間約200例の婦人科手術を行い、新規の婦人科浸潤癌症例が年間約50例ある。婦人科内視鏡手術も年間約50例実施している。当院は地域がん拠点病院に指定され、PET-CT、放射線治療設備などの最新鋭の診断・治療機器が完備し、広域医療圏内の婦人科悪性腫瘍のほぼ全例を取り扱っている。

 本プログラムでは、産婦人科診療のほぼすべての領域において、多数の症例を経験し、産婦人科専門医資格を取得するために必要なすべての技能を修得することが可能である。本プログラムの指導医師達の専門分野は、産婦人科のほぼすべての領域をカバーしており、専門医資格取得のために必要十分な指導を受けることが可能である。

 また、地域周産期母子医療センターとしてNICUもあり、本人の希望により、NICUでの研修ができる。新生児科・小児科での正常新生児の健診や未熟児のフォローアップについても研修できる。さらに、当院麻酔科の指導により、産科麻酔(無痛分娩を含む)の研修もできる。消化器外科、泌尿器科などの研修の希望があれば可能な限り相談に応じる。

 当院は、日本産科婦人科学会専門医制度卒後研修指導施設、日本周産期新生児学会基幹(母体・胎児)基幹研修施設、母体保護法医師指定研修指導医療機関、日本臨床細胞学会認定施設などとして認定されている。従って、本プログラムを修了して産婦人科専門医の基本資格を取得後に、さらに本人の希望により、周産期(母体・胎児)専門医、母体保護法指定医師、細胞診専門医などの各種のsubspecialityにおける専門医をめざして修練する道も開かれている。

指導担当:

○常勤医師:

 山崎輝行( 副診療部長 兼 副医療情報部長 兼 産科部長 兼 周産期センター長、昭和57年信州大卒、医学博士、信州大医学部臨床教授、産婦人科専門医、周産期母体胎児専門医、日本周産期新生児医学会暫定指導医、新生児蘇生法「専門」コースインストラクター、ALSOインストラクター、母体保護法指定医、婦人科腫瘍専門医、がん治療認定医、細胞診専門医) 

 鈴木昭久(婦人科副部長、平成9年名古屋市立大学卒、根羽村出身、産婦人科専門医、専門領域:婦人科腫瘍学)

 宮本 翼(産婦人科医長、平成18年大阪市大卒、産婦人科専門医)

 藤原静絵(平成20年信州大卒、産婦人科専門医)

 大岡尚実(平成22年鳥取大卒)

 松原直樹(検査科副部長、平成9年信州大卒、産婦人科専門医、周産期母体胎児専門医、新生児蘇生法「専門」コースインストラクター)

○非常勤医師:

 塩沢丹里(信州大医学部産婦人科・主任教授、医学博士、産婦人科専門医、婦人科腫瘍専門医)専門領域:婦人科腫瘍学、婦人科病理学。

 宮本 強(信州大医学部産婦人科・講師、医学博士、産婦人科専門医、婦人科腫瘍専門医)専門領域:婦人科腫瘍学。

関連診療科の常勤指導医

 長沼邦明(副院長、小児科部長、昭和53年弘前大卒、小児科専門医、医学博士、信州大臨床教授)

 中田節子(新生児科部長、平成 5年信州大卒、小児科専門医、周産期新生児専門医)

 原 克実(副診療部長、昭和57年信州大卒、麻酔科指導医、ペインクリニック専門医、医学博士)

 岩澤 健(麻酔科部長、平成5年信州大卒、麻酔科指導医)

待遇:

飯田市立病院規定に従う。身分:常勤医(1年ごとの契約更新)。宿舎あり。
募集人数:若干名

後期研修終了後の進路:

研修終了時に病院側との話し合いで決定する。

問い合わせ先:

〒395-8502 長野県飯田市八幡町438番地
飯田市立病院 庶務課 庶務係
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当科の最近の主な業績:

山崎輝行,波多野久昭,鈴木章彦,菅生元康,中村正雄,関谷雅博,上田典胤,羽場啓子,塚原嘉治,藤井信吾:Normal-sized ovary carcinoma syndrome,14例の病理組織学的解析.日本産科婦人科学会雑誌 47:27-34,1995

Shimojo H, Itoh N, Shigematsu H, Yamazaki T : Mature teratoma of the placenta. Pathol Int 46 : 372-375, 1996

波多野久昭,山崎輝行,折井文香,八木ひかる,生山敏彦:腸チフス合併妊娠の1例. 産婦人科の実際 45:235-238,1996

野口 浩,横西清次,小谷俊郎,山崎輝行,波多野久昭,塚原嘉治,重松秀一:扁平上皮癌優位の下床癌を伴った外陰Paget病の1例.癌の臨床 43:793-796,1997

堀米直人,山崎輝行,神頭定彦,疋田仁志,金子源吾,千賀 脩,宮川 信,波多野久昭:消化管大量出血により発症した絨毛癌空腸転移の1例.飯田市立病院医誌第3号105-107,1997

大平哲史,波多野久昭,山崎輝行:卵巣原発の悪性中胚葉性混合腫瘍の2例.飯田市立病院医誌第4号91-95,1998

山崎輝行,波多野久昭,大平哲史,長沼邦明,津野隆久,朴 成愛,松下雅博,原田 大:胎盤多発梗塞を呈した原発性抗リン脂質抗体症候群の1例,飯田市立病院医誌 第4号:85-89,1998

大平哲史,山崎輝行,波多野久昭,津野隆久,長沼邦明:胎児母体間輸血症候群の1例.周産期医学 29:241-244,1999

山崎輝行:Normal-sized ovary carcinoma syndrome. 臨床婦人科産科 53,774-775,1999

大平哲史,波多野久昭,山崎輝行:膣壁に発生したAngiomyofibroblastomaの2例.日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報 36:391-394,1999

Ohira S, Yamazaki T, Hatano H, Harada O, Toki T, Konishi I: Epithelioid trophoblastic tumor metastatic to the vagina: an immunohistochemical and ultrastructural study. Int J Gynecol Pathol 19: 381-386, 2000

大平哲史,波多野久昭,山崎輝行:頸部に発生したAngiomyofibroblastomaの1例.日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報 37:41-44,2000

大平哲史,山崎輝行,波多野久昭,土岐利彦:特殊な絨毛性疾患,ETT (epithelioid trophoblastic tumor).半藤 保(編),新女性医学大系第37巻 絨毛性疾患,pp315-319,中山書店,東京,2000

松原直樹,山崎輝行,波多野久昭:原発性卵管癌の1例.飯田市立病院医誌第6号121-124,2002

西尾昌晃,実原正明,園原美恵子,赤羽美智子,荒木竜哉,山崎輝行,福島万奈,伊藤信夫:子宮頚部Glassy cell carcinomaの2例.飯田市立病院医誌第8号43-46,2002

Horiuchi A, Itoh K, Shimizu M, Nakai I, Yamazaki T, Kimura K, Suzuki A, Shiozawa I, Ueda N, Konishi I: Toward understanding the natural history of ovarian carcinoma development: a clinicopathological approach. Gynecol Oncol 88: 309-317, 2003

山崎輝行,波多野久昭,小野恭子,実原正明,西尾昌晃,金井信一郎,伊藤信夫:脈管侵襲を伴う子宮頚癌Ia1期における骨盤内リンパ節転移例.飯田市立病院医誌第10号67-70,2004

山崎輝行,波多野久昭,小野恭子,伊藤信夫,金井信一郎,正木千穂,大平哲史,塩沢丹里,小西郁生:不妊治療中に発見された高カルシウム血症型卵巣小細胞癌(大細胞亜型)の1例.日本婦人科腫瘍学会雑誌第23巻163-170,2005

山崎輝行,小野恭子,正木千穂,松原直樹,波多野久昭:帝王切開後の経腟分娩(VBAC)で発生した子宮破裂の3症例.産婦人科の実際第54巻845-849,2005

松原直樹,小倉寛則,竹内はるか,前田知香,山崎輝行:当院で経験した子宮破裂の5例.日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報第45巻49-53,2008

大野珠美,竹内はるか,松原直樹,西澤春紀,山崎輝行,小林隆夫:高度の軟産道裂傷および子宮破裂によりDICを発症した1例.日本産婦人科・新生児血液学会誌第17巻63-68,2008

小野恭子,菊池昭彦,松原直樹:産婦人科臨床の難題を解く―私はこうしている.産褥1か月の胎盤ポリープの扱いは? 臨床婦人科産科第62巻434-437,2008

小倉寛則,前田知香,竹内はるか,松原直樹,山崎輝行:若年女性における卵管留血腫,茎捻転の1例.臨床婦人科産科第62巻757-759,2008

山崎輝行,芦田 敬,松原直樹,古川哲平,宮本 翼,堀澤 信,竹内穂高:帝王切開既往妊婦に発生した子宮破裂の4例.長野県母子衛生学会誌第13巻2-7,2011

古川哲平,山崎輝行,安藤大史,宮本翼,芦田敬:マラリア合併妊娠の1例.長野県母子衛生学会誌第14巻28-33,2012  

飯田市立病院産婦人科の紹介
(臨床婦人科産科2007年10月号、病院めぐり、一部情報を更新)

 飯田下伊那地方は飯田市と下伊那郡14町村で構成され、人口約18万人、長野県最南端に位置し、西は木曽山脈、東は赤石山脈にはさまれ、中央部を天竜川が流れています。飯田市立病院は、一般病床403床、診療科目23科、医師数95名の総合病院として、臨床研修病院、新型救命救急センター、地域がん拠点病院、地域周産期母子医療センターなどの指定を受け、地域の基幹病院として活動しています。

 当産婦人科は、平成元年4月に信州大より筆者(山崎)が赴任し開設されました。開設時のスタッフは産婦人科医1名、助産師2名で、手術室の1室を改装して分娩室とし、小児科病棟の1室を間借りしての非常にささやかな産婦人科診療のスタートでした。平成3年4月に待望の常勤医2人体制が実現し、平成4年10月に現在地に病院が新築移転した時に念願の産婦人科病棟もできました。その後、年々マンパワーも充実し、現在は常勤産婦人科医6名(出身大学:信州大4名、大阪市大1名、藤田保健衛生大1名)、非常勤産婦人科医2名、助産師37名の体制で産婦人科の診療を行っています。最近の年間分娩件数は1200~1400件、年間手術件数は約500件で、県下でも最大規模の産婦人科施設の一つに成長してきました。

 当医療圏の産婦人科の診療は、当院と地域の開業の先生方とで緊密に連携し、開業の先生方は主に妊婦健診と婦人科の一般外来を担当し、当院では主に異常妊娠管理、分娩取り扱い、婦人科手術、悪性腫瘍の治療などを担当しています。

 正常妊娠・分娩の管理では、助産師外来やフリースタイル分娩などを導入し、助産師の活躍の場が広がっています。新生児科、麻酔科などとも連携を密にし、24時間緊急の事態に即応できる体制を組んでいます。

 当院は、PET-CT、放射線治療設備などの最新医療機器が完備し、新規婦人科浸潤癌症例も年間約50例あり、放射線科、外科、泌尿器科などとも連携して多数例の婦人科悪性腫瘍の治療にあたっています。また、腹腔鏡手術、子宮鏡手術なども積極的に行っています。

 当院は、日本産科婦人科学会卒後研修指導施設、日本周産期新生児学会(母体・胎児)基幹研修施設などに認定され、専門医の育成にも力を入れています。現在、産婦人科専門医をめざして研修中の医師が1名、産婦人科専門医資格を取得後に周産期専門医(母体胎児)をめざして修練中の医師が2名在籍しています。今までの実績は、周産期専門医(母体胎児)試験合格者:2名、婦人科腫瘍専門医試験合格者:1名です。

 最近は、当院の周辺の病院でも、産婦人科の閉鎖や分娩取り扱いの中止が相次いでいます。マンパワーの更なる充実を図り、地域での病診連携を強化し、何とかして、この逆風を乗り切っていきたいと考えています。

(臨床婦人科産科2007年10月号、病院めぐり、一部情報を更新)


急性妊娠脂肪肝

2011年10月20日 | 周産期医学

acute fatty liver of pregnancy (AFLP)

【定義】 急性妊娠脂肪肝(AFLP)は、妊娠末期に突然発症し、妊娠を終了させない限り急速に肝不全となり、母児ともに予後不良となる疾患である。肝細胞内の微細粒状脂肪沈着を特徴とし、診断が遅れると致命的となる妊娠合併症の一つである。

妊婦・褥婦のみに発症する産科固有の合併症である。

【発症時期・頻度】
①妊娠28~40週に限られるのが特徴で、平均して妊娠35~36週である。

②初産婦(48%)、双胎(14%)に多い。妊娠高血圧症候群(46%)との合併が多い。男児妊娠例に多い。アンチトロンビン(AT)活性の減少が先行する報告もある。

③頻度は9600~13000例に1例と言われている。HELLP症候群の1/20程度の発症頻度である。次回妊娠で繰り返す可能性はまれである。

【病態】 AFLPの本態は脂肪酸β酸化酵素の異常とされており、組織学的には肝細胞内に微細顆粒状脂肪滴が沈着していることで確定診断される。壊死、炎症、線維化は伴わない(ウイルス性肝炎との鑑別点)。小滴性脂肪肝で主に遊離脂肪酸が沈着する。(肥満成人の脂肪肝で沈着する脂肪の大部分は中性脂肪)

【症状】
①嘔吐、腹痛
②掻痒を伴わない黄疸
③意識障害 

妊娠末期(主に30週以降)に、食欲不振、上腹部違和感(上腹部痛のこともある)を訴える。最終定期健診時に比し極端に減少した体重が認められる。

進行すると低血糖、DIC、消化管出血、膵炎、腎不全などや肝不全を呈する。肝性脳症、ショック、多臓器不全により死亡する。

胎児は母体の代謝性アシドーシスにより、急速に状態が悪化する。

【検査】
AST、ALT:高値(100~1000 U/L)
LDH:高値
ビリルビン(直接ビリルビン優位):高値
血清アルブミン:低値
尿酸:異常高値
クレアチニン、BUN:高値
白血球増加(20000~30000 /μL)
血液濃縮によるHt値の上昇
PT、APTTの延長
フィブリノゲン:低値
AT(アンチトロンビン)活性:低値(通常50%以下)
妊娠初期に比し減少した血小板数

進行すると低血糖やアンモニア上昇がみられる
血小板減少は軽度(DICを合併すると著明に減少)
母児ともに代謝性アシドーシス
膵炎や尿崩症を合併することもある

【診断】 超音波検査やCT検査で脂肪肝としてとらえられる頻度は、それぞれ50%、20~30%とそれほど高くない。従って、画像診断上、脂肪肝の所見がなくてもAFLPを否定できない。

肝生検による病理診断では、肝小葉構造は保たれており、小葉中心性の肝細胞内に無数の微小胞性の脂肪変性が認められる。壊死や炎症像は軽度である。

電顕所見では、ミトコンドリアの腫大と変性、滑面小胞体の拡張と減少、肝細胞質内の脂肪滴の沈着などがみられる。

急性妊娠脂肪肝の診断には肝生検が必要であるが、DICの危険が高い妊婦への肝生検は躊躇されることも多く、また急性妊娠脂肪肝の診断が確定しても、治療法が急速遂娩しかないことから、肝生検実施の正当性に疑問が持たれている。

AFLPとHELLP症候群との臨床的鑑別は必ずしも容易ではない。現在のところ、AFLPとHELLP症候群とを区別するgolden standardは存在しない。AFLPの血液検査データの特徴は、HELLP症候群と同様な異常値以外に、AT活性の極端な低値、尿酸の異常高値であることが明らかとなった。また、母体の肝不全徴候(プロトロンビン時間延長、血中アンモニア濃度上昇など)はAFLPの方が強い。臨床的には、AT活性低値、AST、LDH高値、かつ尿酸異常高値を伴った症例をAFLPと診断するのが妥当である。

【管理】 早期診断、早期治療により近年、母児の予後は著しく改善されている。重症化する前に妊娠を中断することが大切である。治療は、早期の児娩出と母体の集中管理である。重症例では血漿交換を行う。分娩によって肝機能は速やかに改善することが多い。肝機能障害が慢性化することはない。再発は一般的に否定されており、次回妊娠を禁忌としない。


HELLP症候群

2011年10月20日 | 周産期医学

HELLP syndrome

【定義】 HELLP症候群とは、
溶血 (Hemolysis)、
肝酵素上昇 (Elevated Liver Enzyme)、
血小板減少 (Low Platelets)

を主徴候とする症候群である。

【疫学】 全妊娠の0.2~0.6%、PIHの4~12%で、2/3は妊娠中の発症で、1/3は産褥期発症である。90~96%がPIHに合併して起こる。

経産婦、多胎妊娠に多い。

再発率が約20%と高い。

【血液検査所見】 
LDH≧600U/L、
末梢赤血球スメア:有棘赤血球、分裂赤血球など、
ビリルビン≧1.2mg/dL、
AST (GOT)≧70U/L、
血小板数<10万/μL

【症状】 突然の上腹部痛や心窩部痛(90%)、疲労感や倦怠感(90%)などで発症し、嘔気・嘔吐(50%)、食欲不振もみられる。HELLP症候群に先行して血小板減少がみられる。多くは高血圧、蛋白尿を伴う。主な合併症はDIC(20%)、常位胎盤早期剥離(16%)、腎不全(7%)、肺水腫(6%)、胸水・心嚢水、肝内血腫・肝破裂(1%以下)などがある。胎児機能不全の頻度も高いため、厳重な管理を要し、急速遂娩(帝王切開が多い)となることが多い。

【病態】 上腸間膜動脈や肝動脈の攣縮と網内系の血管内皮障害が主な病態と考えられる。

【治療】 治療の基本は、妊娠中断(ターミネーション)である。

早期診断をして、降圧剤の投与、硫酸マグネシウムの投与、新鮮凍結血漿の投与などを行いつつ、帝王切開で妊娠を中断する。

近年、ステロイド療法(ベタメタゾン、デキサメタゾン)が母児の予後改善につながるとの報告が多い。

塩酸リトドリンは禁忌である。(血管攣縮を助長するため好ましくない)

【予後】 母体死亡率1~4%、周産期死亡率30~40%。

子癇と同時に発症する例は重篤な経過をたどる。

多臓器不全などの続発症もみる。

****** 問題

HELLP症候群について誤っているのはどれか。2つ選べ。

a 産褥期にも発症することがある。
b 肝静脈の血栓症が原因と考えられている。
c 妊娠高血圧症候群に続発することが多い。
d 末梢血の塗沫検鏡で球状の赤血球がみられる。
e 突然の上腹部痛が高頻度にみられる。

------

正解:b、d

a 2/3は妊娠中の発症で、1/3は産褥期発症である。

b 上腸間膜動脈や肝動脈の攣縮と網内系の血管内皮障害が主な病態と考えられる。

c PIHの4~12%にHELLP症候群を合併する。また、HELLP症候群の90~96%がPIHに合併して起こる。

d 末梢赤血球スメア:有棘赤血球、分裂赤血球など

e 多くは突然の上腹部痛や心窩部痛で発症する。  


常位胎盤早期剥離

2011年10月20日 | 周産期医学

premature separation of normally implanted placenta

placental abruption

【定義】 常位胎盤早期剥離は、正常位置(子宮体部)に付着している胎盤が、妊娠中または分娩経過中の胎児娩出前に子宮壁から剥離した状態をいう。

基底脱落膜の剥離に始まり、形成された胎盤後血腫がさらに胎盤を剥離・圧迫して、最終的に胎盤機能不全や子宮内胎児死亡が起きる。母児ともに対して重篤な障害をもたらす危険性が高い、代表的な産科救急疾患である。

Placentalabruption

******

産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ311 常位胎盤早期剥離(早剥)の診断・管理は?

Answer

1. 妊娠高血圧症候群、早剥既往、切迫早産(前期破水)、外傷(交通事故など)は早剥危険因子であるので注意する。(B)

2. 妊娠後半期に切迫早産様症状(性器出血、子宮収縮、下腹部痛)と同時に異常胎児心拍パターンを認めた時は早剥を疑い以下の検査を行う。
・ 超音波検査(B)
・ 血液検査(血小板、アンチトロンビン活性、FDPあるいはD-dimer、フィブリノゲン、AST、LDHなど)(B)

3. 腹部外傷では軽症であっても早剥を起こすことがあるので注意する。特に、子宮収縮を伴う場合、早剥発症率は上昇するので、胎児心拍数モニタリングによる継続的な監視を行う。(C)

4. 早剥と診断した場合、母児の状況を考慮し、原則、急速遂娩を図る。(A)

5. 母体にDICを認める場合は可及的速やかにDIC治療を開始する。(A)

6. 早剥による胎児死亡と診断した場合、DIC評価・治療を行いながら、施設のDIC対応能力や患者の状態等を考慮し、以下のいずれかの方法を採用する。(B)
・ オキシトシン等を用いた積極的経腟分娩促進
・ 緊急帝王切開

7. 早剥を疑う血腫が観察されても胎児心拍数異常、子宮収縮、血腫増大傾向、凝固系異常出現・増悪のいずれもない場合、週数によっては妊娠継続も考慮する。(C)

------

(表1)早剥関連DIC診断スコア(産科DICスコアより抜粋)

Ⅰ 基礎疾患               点数
a. 常位胎盤早期剥離
 ・ 子宮硬直、児死亡          5点
 ・ 子宮硬直、児生存          4点
 ・ エコーあるいはCTG所見で診断   4点

Ⅱ 臨床症状
a. 急性腎不全
 ・ 無尿(~5mL/時間)        4点
 ・ 乏尿(5.1~20mL/時間)              3点
d. 出血傾向
 ・ 肉眼的血尿、メレナ(黒色便)、紫斑、あるいは皮膚、粘膜、
   歯肉、注射部位からの出血      4点
e. ショック症状
 ・ 以下、それぞれに1点(例えば2つあれば2点)
  脈拍数≧100/分、収縮期血圧≦90mmHg、冷汗、蒼白

Ⅲ 検査所見
 以下、それぞれに1点(例えば3つあれば3点)
 血清FDP≧10μg/mL、血小板数≦10万/μL
 フィブリノゲン≦150mg/dL
 プロトロンビン時間≧15秒またはヘパプラチンテスト≦50%
 赤沈≦4mm/15分または赤沈≦15mm/時間
 出血時間≧5分

注: 基礎疾患、臨床症状、検査所見の総合点数が8点以上でDICとしての治療を開始できる。

例えば、エコーで早剥が疑われ(4点)、乏尿(3点)と冷汗(1点)があれば、血液検査結果を待たなくともDIC治療を開始できる。

****** 

【発生頻度】 早剥は、単胎で1000分娩あたり5.9件、双胎で12.2件発生する。全分娩の0.3~0.9%程度。産科的DICをきたす原因の中では最も多い(約50%)。

【症状】 
・ 早剥の臨床症状は、その重症度によりさまざまで、症状の進行度も症例により異なる。
・ 剥離が軽度の場合には無症状である。
・ 発症早期には切迫早産に類似した症状を呈する。
・ 病態が進行すると、子宮は板状硬と呼ばれる状態となり、持続的かつ強い腹痛を呈する。
・ 急速に進行するものでは、わずか数時間のうちに胎内死亡や母体がショック状態に陥るものもある。

【重症度分類:Pageの分類】

Page

軽度(胎盤剥離面30%以下)
0度:臨床的に無症状、児心音はたいてい良好、
   娩出胎盤観察により確認、頻度 8%
1度:性器出血は中等度(500ml以下)、
   軽度子宮緊張感、児心音時に消失
   蛋白尿はまれ、頻度14%

中等度(胎盤剥離面30~50%) 頻度59%
2度:強い出血(500ml以上)、
   下腹部痛を伴う子宮硬直あり、
   胎児は入院時死亡していることが多い、
   蛋白尿ときに出現

重症(胎盤剥離面50~100%) 頻度19%
3度:子宮内出血、性器出血著明、
   子宮硬直著明、下腹痛、子宮底上昇、
   胎児死亡、出血性ショック、
   凝固障害の併発、子宮漿膜面血液浸潤、
   蛋白尿陽性

******

【診断】
(1)自覚症状:
 急激な下腹部痛と少量の性器出血

(2)診察所見:
 ①腹壁板状硬
 ②剥離部子宮壁の圧痛
 ③子宮底の急激な上昇

(3)超音波所見:
 ①胎盤後血腫像
 ②胎盤内血腫像
 ③胎盤の肥厚(5.5cm以上)
 ④胎盤辺縁部の膨隆・剥離像
 ⑤所見(-)でも除外診断とはならない

胎盤後血腫像
Placentalabruption1

Placentaabruptionultrasound_2

Placentalabruptionultrasound

(4)胎児心拍数陣痛図(CTG):
 ①遅発一過性徐脈
 ②胎児心拍数基線細変動の消失
 ③発症初期には頻脈がみられることが多い
 ④陣痛間欠期でも子宮内圧が高い
 ⑤さざ波様子宮収縮

Ctg1

(5)末梢血検査:
 ①貧血:赤血球数 ↓、Hb ↓、Ht ↓
 ②DICの検査:血小板 ↓、血清FDP ↑、
   フィブリノーゲン ↓、赤沈遅延、アンチトロンビン活性 ↓

(6)開腹所見:Couvelaire(クヴレール)子宮
 (子宮筋層ならびに広間膜内にうっ血をきたしたもの)

Couvelaire子宮
Couvelaire

Placentalabruptionultrasound1

(7)分娩後の胎盤所見で診断がつく場合もある
 ⇒胎盤母体面に凝血の付着が認められる

Placentalabruption_2
(Edward C. Klatt, M.D.)

【病態】 早剥の病理組織学的変化としては、胎盤の床脱落膜内の出血による子宮・胎盤のうっ血が特有であり、その出血や組織の変性・壊死が子宮漿膜面や広間膜に及ぶこともある(Couvelaire兆候)。このような状態では、組織因子が母体血中へ流入し、母体のDICをひき起こすと同時に、胎児に対しては、胎盤血管床の減少により血流・酸素供給の減少が生じ胎児機能不全をひき起こす。

【リスク因子】 早剥の発症機序はいまだ解明されておらず、その発症を予知・予防することは不可能であるが、以下のようなリスク因子が知られている。

①妊娠高血圧症候群(PIH):
 早剥症例の1/3~2/3はPIH症例
 PIH症例では重症化や産科DIC併発の危険性が高い
②胎児奇形、重症の胎児発育不全(FGR)
③早剥の既往:
 早剥症例の次回妊娠での再発率は5~15%
   (既往がない症例の10倍)
 再発は前回の発症時期よりも早期に起きやすい
④前期破水、絨毛羊膜炎
⑤喫煙:
 喫煙妊婦の早剥発症率は非喫煙妊婦の2倍
⑥薬物治療:アスピリン、コカイン
⑦その他: 機械的外力(打撲、骨盤位外回転など)、臍帯過短、代謝異常(高ホモシスチン血症、葉酸欠乏)、妊娠初期に出血があった症例、など。

発症リスク:
・ 早剥既往のある妊婦(10倍)、
・ 母体の妊娠中期のAFP高値(10倍)、
・ 慢性高血圧(3.2倍)、
・ 妊娠24週の子宮動脈血流波形にnotchがみられる症例(4.5倍)、
・ 子宮内感染例(9.7倍)、
・ 前期破水後:48時間未満(2.4倍)、48時間以上(9.9倍)

※ 外傷は早剥の発症原因の1.5%程度を占めるにすぎないが、比較的軽微な外傷であっても早剥の原因となることがあり、外傷があった後2~6時間は胎児心拍モニタリングを行う必要がある。

【治療】 分娩後に判明するような軽症例を除けば、急速遂娩が原則であり、緊急帝王切開を要するものが多い。出血性ショックやDICがある場合は、輸液・輸血を行ってDICの治療をしながら帝王切開を行う。母体救命のために子宮摘出を要する場合もある。

早剥により既に児が死亡している場合、母体DICの評価・治療を行いながらの積極的な経腟分娩、もしくは緊急帝王切開を行う。
(産婦人科診療ガイドライン・産科編2011、CQ311、Answer 6)

※ 米国や英国では、早剥による胎児死亡を発見した場合、大量の出血があり多量の輸血によってさえ十分に補いきれない場合以外では、人工破膜やオキシトシンを併用した積極的な経腟分娩が推奨されている。本邦においても経腟分娩方針の方が優れていることを示唆する報告があるが、本邦では伝統的・経験的に母体合併症軽減を目的として緊急帝王切開が多く行われてきた。

【予後】 早剥の周産期死亡率は、全体の周産期死亡率に対し、10倍以上高い。また、早剥はしばしば母体死亡の原因となる。重症例での母体死亡率は6~10%、周産期死亡率は60~80%ともいわれる。


子癇

2011年10月20日 | 周産期医学

eclampsia

【定義】 妊娠20週~分娩期、産褥期に、痙攣発作を発症し、てんかんなどによる二次性痙攣が否定されるとき、子癇と診断する。(妊娠高血圧症候群の1病型)

【頻度】 子癇の頻度は先進諸国では2000~3700分娩に1例と推定される。

【分類】 発症時期により、妊娠子癇、分娩子癇、産褥子癇に分類される。

発生頻度は、妊娠子癇:50%、分娩子癇:25%、産褥子癇:25%である。妊娠管理の向上により、特に妊娠子癇や分娩子癇の発生頻度は減少傾向にある。

※ 子癇は妊娠高血圧症候群の重症、軽症に関係なく起こる。以前は子癇を伴った場合はすべて重症としたが、新分類では含まれてない。

【危険因子】
・10代妊娠、初産婦、双胎、子癇既往
・妊娠蛋白尿
・妊娠高血圧症候群
・HELLP症候群

本邦2004年の子癇54例の調査では89%が初産婦であった。子癇患者の平均年齢は低く、二十代での頻度を1.0とすると十代では3.2であった。

本邦54例の検討では、子癇発作に先行して高血圧が確認されていた症例は44%であった。子癇では子癇発作後(直前?)には高血圧を示すが、発症前には高血圧を示さない患者が30~50%存在し、それら患者でも蛋白尿は示していることが多い。

子癇既往妊婦の約25%は次回、妊娠高血圧腎症になり、約2%が子癇を再発する。

本邦の報告で、子癇のHELLP症候群合併率は26%(19/73)であった。また、双胎は単胎に比し、子癇に4.8倍、HELLP症候群に16.0倍罹患しやすいことが指摘された。

【前駆症状】 
①頭痛、頭重感
②眼華閃光、めまい、弱視
③心窩部痛、悪心嘔吐、膝蓋腱反射亢進
④妊娠高血圧腎症の症状(高血圧、蛋白尿、浮腫)

子癇発症前に頭痛、視覚異常(かすんで見える、チラチラする)、上腹部痛等の訴えが60~75%の患者に認められるので、これらは子癇発作出現の予測・診断に有用である。

前駆症状なく突然発症することもある。

【痙攣発作】
・チック期(ある限局した一定の筋肉群に、突発的、無目的に、しかも不随意に急速な運動や発声が起きる)→
・強直性痙攣(手足が棒のようにかたく突っ張る発作)→
・間代性痙攣(筋肉の緊張と弛緩を繰り返すけいれん)→
・昏睡期(外部からどのような刺激が加えられても、脊髄反射以外の反応がない状態)

昏睡状態のまま発作が重積した場合は、意識が回復することなく死に至ることもある。

【MRI所見】 皮質下白質と灰白質に接する部分の浮腫や梗塞の所見。

Eclampsia1
産褥早期子癇(MRI T2強調画像):後頭葉のsubcortical white matterにおけるhyperintense(矢印)を認める。(from Schwartz RB, et al.Radiology, 2000)

【鑑別診断】 意識消失を来す疾患の中に、てんかん、脳内出血、脳梗塞、低血糖などの内分泌代謝疾患、過呼吸発作などがある。無痛分娩時の局所麻酔薬中毒も鑑別疾患の一つである。

【子癇発作時の管理】 発作が起こった場合、母体の救命処置を先行するが、同時に胎児の評価も行う。 

①舌咬傷予防のためバイトブロック挿入(賛否両論)
※痙攣重積中のバイトブロックの使用に関しては賛否両論あり、産婦人科診療ガイドライン・産科編2011ではその使用を求めなかった。
②エアウェイ挿入または気管内挿管
③酸素投与
④安静、絶飲食、室内遮光
⑤血管確保
⑥抗痙攣薬の投与
 ジアゼパム(セルシン):5~10mgワンショット静注、あるいは
 硫酸マグネシウム(マグネゾール):4g、10分で静注
⑦降圧剤の投与
 ヒドララジン(アプレゾリン)、あるいは
 ニカルジピン(ペルジピン)
⑧Swan-Ganzカテーテルの挿入
 中心静脈圧(CVP)測定
 母体のバイタルサインの確認
⑨胎児心拍数モニター

母体の全身状態が改善されれば急速遂娩。
(全身麻酔下の帝王切開)

【予後】 子癇による母体死亡は稀である。

本邦の調査で、子癇による母体死亡率は0.0%(0/73)であった。(当初、子癇と診断された)脳内出血の母体死亡率は67%(4/6)であった。

脳内出血例は子癇と診断されやすく、母体死亡率が高いのが特徴である。脳内出血を診断・否定するためにCT検査は有用である。

子癇と見誤れるような脳内出血・脳梗塞の出現頻度はおよそ10万分娩に1例程度と推定され、本邦では年間約10例程度の子癇と見誤れるような脳内出血・脳梗塞が起こっていると推測される。

【病因】 子癇発作の発症機序として、forced dilatation theoryとvasospasm theoryの2つが考えられている。

①forced dilatation theory:
脳血管障害に加えて血圧の上昇により脳血液関門が破綻する事で脳血圧の自己調節能が喪失した結果、脳血管が拡張し、血流が過剰となり、血管性脳浮腫が引き起こされるとするものである。

②vasospasm theory:
急激に脳血圧が上昇することにより脳血管の過剰収縮(over regulation)が起こり、血管攣縮に引き続く脳虚血による脳浮腫(cytotoxic edema)が引き起こされるとするものである。

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ315 子癇の予防と対応については?

Answer

1. 妊婦が分娩のために入院した時には血圧測定と尿中蛋白半定量検査を行う。(B)

2. 妊娠高血圧症候群妊婦、蛋白尿陽性妊婦、ならびに入院時に高血圧を示した妊婦においては、陣痛発来後は定期的に血圧を測定する。(B)

3. 分娩中に頭痛、視覚異常、あるいは上腹部痛等を訴えた場合には血圧を測定する。(B)

4. 分娩時に高血圧重症(収縮期≧160mmHgあるいは拡張期≧110mmHg)が確認されたらMgSO4 を使用する、あるいはMgSO4 と降圧剤を併用する(特に急激な血圧上昇を認める場合)。降圧目標は高血圧軽症レベル(140~159/90~109mmHg)とする(CQ312・表1参照)。(C)

5. 痙攣が確認された場合には以下のすべてを行う。(B)
 ・血圧測定
 ・ジアゼパム(5~10mg静注)あるいはMgSO4 (4g、10分で静注)投与
 ・痙攣発作終了後には気道を確保して、酸素投与
 ・痙攣再発予防のためにMgSO4 の24時間持続静注開始(1~2g/時間)

6. 意識低下(痙攣を含む)が認められた場合には、子癇とみなして治療を開始するが、HELLP症候群、脳内出血、脳梗塞などを除外するために以下の検査を行う。また、ヒステリー、てんかん、低血糖発作、過呼吸発作、あるいは局麻剤中毒(無痛分娩時など)も鑑別診断として考慮する。
 1)麻痺等検出のための理学所見(呼びかけへの応答、四肢筋力の状態や病的反射の有無、瞳孔の左右差など)検査(B)
 2)血液検査(血小板を含む血算、アンチトロンビン活性、AST、ALT、LDH、FDPあるいはD-dimer、動脈血ガス分析)(B)
 3)必要と判断された場合にはCT/MRI検査(B)

7. 母体の状態安定化後には胎児well-beingに留意し、児の早期娩出をはかる。(B)

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(表1) 子癇の危険因子

10代妊娠、初産婦、双胎、子癇既往
妊娠蛋白尿
妊娠高血圧症候群
HELLP症候群

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参照:妊娠高血圧症候群

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問題

子癇について正しいのはどれか。2つ選べ。

a. 初産婦に多い。
b. HELLP症候群を合併することはまれである。
c. 発作後アルカローシスになる。
d. 治療にはカルシウム製剤を投与する。
e. MRIで脳浮腫所見が認められることが多い。

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正解:a、e

a. 本邦2004年の子癇54例の調査では89%が初産婦であった。

b. 本邦の報告で、子癇のHELLP症候群合併率は26%(19/73)であった。

c. 子癇発作後は高頻度に母体アシドーシスが認められる。

d. 痙攣が確認された場合には以下のすべてを行う。(B)
 ・血圧測定
 ・ジアゼパム(5~10mg静注)あるいはMgSO4 (4g、10分で静注)投与
 ・痙攣発作終了後には気道を確保して、酸素投与
 ・痙攣再発予防のためにMgSO4 の24時間持続静注開始(1~2g/時間)

e. MTI所見: 皮質下白質と灰白質に接する部分の浮腫や梗塞の所見。

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問題

硫酸マグネシウムの副作用として誤っているのはどれか。1つ選べ。

a. 眼瞼下垂
b. 筋力低下
c. 膝蓋腱反射亢進
d. 呼吸抑制
e. 心停止

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正解:c

硫酸マグネシウムの副作用: 顔面紅潮、口渇管、倦怠感、目のかすみ、眼瞼下垂、筋力低下、悪心嘔吐、膝蓋腱反射抑制、呼吸抑制、心停止など

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問題

子癇について正しいのはどれか。

a. 妊娠中のすべての痙攣発作をいう。
b. 妊娠高血圧症候群重症と判定する。
c. 予防に硫酸マグネシウムを使用する。
d. 児の娩出後には痙攣発作は生じない。
e. 我が国の妊産婦死亡原因の第1位である。

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正解:c

a 妊娠20週~分娩期、産褥期に、痙攣発作を発症し、てんかんなどによる二次性痙攣が否定されるとき、子癇と診断する。

b 誤り。子癇は妊娠高血圧症候群の重症、軽症に関係なく起こる。以前は子癇を伴った場合はすべて重症としたが、新分類では含まれてない。

c 正しい。

d 発症時期により、妊娠子癇、分娩子癇、産褥子癇に分類される。発生頻度は、妊娠子癇:50%分娩子癇:25%産褥子癇:25%である。

e 子癇による母体死亡は稀である。


妊娠高血圧症候群

2011年10月20日 | 周産期医学

pregnancy-induced hypertention: PIH

【定義】 妊娠高血圧症候群は、妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症候が偶発合併症によらないものをいう。

【病型分類】
a. 妊娠高血圧(gestational hypertension: GH)
妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、分娩後12週までに正常に復する場合。

b. 妊娠高血圧腎症(preeclampsia: PE)
妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、かつ蛋白尿を伴うもので、分娩後12週までに正常に復する場合。

c. 加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia)
①高血圧が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降に蛋白尿が出現した場合。
②高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降に、いずれか一方、または両症状が増悪が認められた場合。
③蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降に高血圧が出現した場合。

d. 子癇(eclampsia)
妊娠20週以後に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次性痙攣が否定されるもの。痙攣発作の起こった時期により、妊娠子癇、分娩子癇、産褥子癇に分ける。

【症候による亜分類】
①軽症
血圧:次のいずれかに該当する場合
収縮期血圧 140mmHg以上、160mmHg未満
拡張期血圧 90mmHg以上、110mmHg未満
蛋白尿:300mg/日以上、2g/日未満

②重症
血圧:次のいずれかに該当する場合
収縮期血圧 160mmHg以上
拡張期血圧 110mmHg以上
蛋白尿:2g/日以上 

【発症時期による分類】
①早発型(early onset type: EO)
妊娠32週未満に発症するもの

②遅発型(late onset type: LO)
妊娠32週以後に発症するもの

軽症は遅発型が大多数を占める。重症は早発型と遅発型のいずれでも発症する可能性がある。早発型では合併症の頻度が高く、母や児が予後不良となりやすい。早発型は胎児の発育が障害されていることが多く、胎盤形成不全が大きく関わる。遅発型は胎児発育の障害はないかあっても軽度で、胎盤形成不全以外の母体因子(肥満など)が発症原因と考えられる。

【頻度】
・ PIHの発生頻度は全妊婦数の約5%(4~8%)である。
・ PEの頻度は2~3%である。 
・ 重症PIHは全妊婦の1~2%である。
・ GHのうち約15~25%がPEに移行する。
・ PEにおいて高血圧のみ、あるいは蛋白尿のみである期間は平均2~3週間で、PEの診断基準を満たしてから分娩までの期間は平均2週間前後と報告されている。

【リスク因子】
①遺伝素因:高血圧家系
②既往歴:既往妊娠のPIH、高血圧症、慢性腎炎、糖尿病、抗リン脂質症候群、甲状腺機能亢進症
③身体的因子:高年齢、肥満(BMI≧26)
④産科的因子:初産、多胎、羊水過多
⑤社会的因子:過労、ストレス、低所得、塩分過剰摂取

【検査】
①血液濃縮(Ht
②水、Naの貯留
③腎機能低下(GFR 、BUN 、尿酸
④アシドーシス
⑤慢性DIC(血小板 、過凝固)
⑥尿蛋白(+)、低蛋白血症
⑦脂質
⑧PGI2/TXA2比の低下 (TXA2優位)
 子宮・胎盤のほか主要臓器の血流低下、血小板機能異常

 PGI2(プロスタサイクリン):血管内皮細胞で主に産生され強力な血管平滑筋弛緩作用と血小板凝集抑制作用を有する。
 TXA2(トロンボキサンA2):血小板で産生され血管平滑筋収縮作用や血小板凝集作用を有する。

【合併症】 妊娠高血圧腎症では、全身の血管内皮細胞障害による血管攣縮、血管透過性亢進、凝固亢進が生じ、重大な合併症が生じやすく、厳重な監視とその患者に適した分娩時期・方法の決定が必要になる。

DIC、子癇、脳出血、肺水腫、肝機能障害、HELLP症候群、腎機能障害、常位胎盤早期剥離、胎児発育不全(FGR)、胎児機能不全など。

【治療】 妊娠高血圧症候群の最終的な治療は妊娠中断である。児が未熟な場合は妊娠を継続し、適切な分娩時期を判断する。

1. 安静・食事療法(食塩摂取7~8g/日程度)
 ※以前は厳重な塩分制限が推奨されていたが、現在は否定的である。

2. 薬物療法:
 ①降圧薬:
  ヒドララジン(アプレゾリン)
  メチルドーパ(アルドメット)
  ニフェジピン(アダラート) ※妊娠20週以降で保険適用
  ラベタロール(トランデート) ※妊婦に保険適用
  ニカルジピン(ペルジピン) ※注射薬は高血圧緊急症で保険適用(妊婦へは有益性投与)

 ②硫酸マグネシウム:子癇の治療、発症・再発の予防

 ※ 妊娠高血圧症候群に降圧利尿剤は禁忌である。

3. 妊娠中断(ターミネーション)
 ①重症で、児が十分に成熟している場合
 ②母体の状態悪化や合併症、胎児機能不全がある場合

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ312 妊娠高血圧腎症の取り扱いは?

Answer

1. 原則として入院管理を行う。(C)

2. 早発型(32週未満発症型)は低出生体重児収容可能施設と連携管理を行う。(B)

3. 母体の理学所見・血液検査所見と胎児の発育・健康状態を定期的に評価し適切な分娩時期を決定する。(B)

4. 腹痛(上腹部違和感)や頭痛を訴えた場合、血圧を測定し子癇発作予防に努めるとともにHELLP症候群・常位胎盤早期剥離にも注意し、検査(血液検査、NST、超音波検査)を行う。(B)

5. 36週以降の妊娠高血圧腎症軽症の場合、分娩誘発を考慮する。(C)

6. 経腟分娩時は、血圧を定期的に測定するとともに、緊急帝王切開が行えるよう準備しておく。(B)

7. 分娩中は分娩監視装置を用いて連続的胎児心拍数モニタリングを行う。(B)

8. 降圧剤使用に関しては表1を参考にする。(C)

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(表1) 降圧剤使用法と注意点(主に妊娠高血圧腎症の場合)

1. 妊娠中
1)降圧剤投与は高血圧重症レベル(160/110mmHg)で開始し、降圧目標は高血圧軽症レベル(140~159/90~109mmHg)とする。

2)高血圧は妊娠高血圧腎症の重症度を示す1つの徴候であって、血圧の適正化は妊娠高血圧腎症の改善を意味しない。適切な分娩時期を決定するにあたっては、血圧以外の母体理学所見(体重推移、浮腫の程度、訴え等)や血液検査所見(Ht値・血小板数・アンチトロンビン活性値・尿酸値・AST・LDH値推移)、胎児の発育・健康状態も参考にする。

3)降圧剤は以下の2薬剤を単独あるいは併用で使用する。
 ・メチルドーパ(250~2000mg/日) 商品名:アルドメット
 ・ヒドララジン(30~200mg/日) 商品名:アプレゾリン

4)ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)とARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は、胎児発育不全、羊水過少、先天奇形、ならびに新生児腎不全の危険を高めるので使用しない。【禁忌!】

2. 分娩中の急激な血圧上昇(>160/110mmHg)時

 子癇(CQ315参照)が危惧されるのでMgSO4 を投与する(4gを1時間で、引き続き1~2g/時間で持続静注)。場合により以下のいずれかを併用する。

 ・ ヒドララジン(注射用、1アンプル中20mg)
 1アンプル(20mg)を筋注、あるいは1アンプルを徐々に静注(1/4アンプルをbolusで、その後20mg/200mL生理食塩水を1時間かけて点滴静注)

 ・ ニカルジピン(注射用、2mg、10mg、25mgの製剤あり、商品名:ペルジピン)
 10mg/100mL生理食塩水を0.5μg/kg/分(60kg妊婦では18mL/時間)で投与開始する。

******

妊娠高血圧腎症は、胎盤機能不全、胎児機能不全、FGR/IUFD、早産、常位胎盤早期剥離、HELLP症候群、子癇、DIC、急性腎不全など、母児の生命を危うくする重篤な合併症を併発しやすい。入院管理はこれらの早期診断・早期治療に有用であると考えられている。

妊娠高血圧腎症では、血管内皮機能不全による血管透過性亢進(血漿成分が血管外に漏出しやすくなる)のため、循環血漿量減少(血液濃縮)が起こっている。

アンチトロンビン活性は血管透過性亢進を反映している可能性があり、アンチトロンビン活性の減少が激しい妊婦では循環血漿量が減少していることが多い。

妊娠36週以降の軽症妊娠高血圧腎症と軽症妊娠高血圧患者を対象とした分娩誘発の効果についてのRCTの結果、誘発は帝王切開率を減少させた(14% vs 19%)。

硫酸マグネシウムの投与(4gを1時間で、引き続き1~2g/時間で持続静注)は子癇予防に有効であるが、降圧剤が子癇予防に効果があるかについては結論が出てない。

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入院後の管理

・ 利尿剤投与ならびに水分摂取制限は行わない!

妊娠高血圧腎症では循環血液量減少がある。利尿剤投与は血液濃縮・循環血液量減少を加速させ、むしろ高血圧を助長し、胎盤循環に悪影響を与える。

・ 血圧測定:3回/日

血圧160/110mmHg前後が複数回観察される場合には降圧剤投与を考慮する。

 メチルドーパ(アルドメット): 初期投与量250~750mg/日(分1~3)、効果がでるまでに数日ごとに250mgずつ増量、2000mgまで増量可(経口投与)

 ヒドララジン(アプレゾリン): 初期投与量30~40mg/日(分3~4)、効果をみながら漸次増量、200mgまで増量可(経口投与)

 上記両剤を併用することも可能である。

 ニフェジピン(アダラート)、ラベタロール(トランデート)、ニカルジピン(ペルジピン)の経口投与も妊娠高血圧腎症時の降圧に有効で、妊婦にも比較的安全に使用できる。しかし、これらの薬剤は保険適用はなく添付文書中では「妊婦への投与は禁忌」となっていた。しかし、最近、アダラートの添付文書は「妊娠20週未満の妊婦では禁忌」と改訂され、トランデートの添付文書の「妊婦への投与は禁忌」の項目が削除された。これらの改訂により、ニフェジピンの妊娠20週以降の妊婦への投与、ラベタロールの妊婦への投与が保険適用で可能になった。

「ニフェジピンの妊娠20週以降の妊産婦への投与についての要望」について
「塩酸ラベタロール錠の妊産婦への投与についての要望」について

【禁忌薬剤】 ACE(angiotensin converting enzyme)阻害薬とARB(angiotensin receptor blocker)は、胎児発育不全、羊水過少、先天奇形、ならびに新生児腎不全の危険を高めるので使用しない。

・ 体重測定:連日

急激な体重増加(>2.0kg/週)は高度血液透過性亢進を示唆。

・NST、BPP(biophysical profile)、臍帯動脈血流速度波形:適宜

・エコーによる胎児推定体重評価:1回/週

・血液検査:1回以上/週

血算、血小板数、アンチトロンビン活性、GOT/GPT/LDH、尿酸、BUN、クレアチニン、FDP、APTTなどの評価。特に血小板数ならびにアンチトロンビン活性の経時的変化に注意する。

・尿量測定(蓄尿、連日)と尿検査(1回以上/週)

1日当たりの尿中蛋白喪失が2.0g/日以上で蛋白尿重症と診断される。

******

分娩時期の設定

以下の場合は分娩(ターミネーション)が考慮される。

・ 調節困難な高度高血圧(180/110mmHg前後)出現
・ 体重増加が顕著(>3.0kg/週)
・ 肺水腫の出現
・ 尿中蛋白喪失量増大(>5.0g/日)
・ NST、BPP(biophysical profile)で胎児well-beingの悪化傾向
・ 胎児発育の2週間以上の停止
・ 血小板数減少傾向が明らかでありかつ以下のいずれかがある場合
 血小板数<10万/μL、もしくはGOT/LDHの異常値出現
・ アンチトロンビン活性減少傾向が明らかでありかつ以下のいずれかがある場合
 アントトロンビン活性<60%、もしくはGOT/LDHの異常値出現

******

経腟分娩時の管理

・ 絶飲食
・ 静脈ラインの確保と輸液
・ 定期的血圧測定(血圧測定間隔に一致した見解はない)

急激な高度高血圧出現をみたら表1を参考に対応する。ニカルジピン(ペルジピン)注射薬は高血圧緊急症で保険適用があり、妊婦へは有益性投与となっている。短時間内の分娩が困難と判断された場合は緊急帝王切開に切り替える。

******

帝王切開時の管理

・ 循環血液量減少があることを想定する。
・ 帝王切開後乏尿に対しては肺水腫に注意しながら輸液を行う。

フロセミド(ラシックス)投与は、十分な輸液を行い、5mg(1/4アンプル)投与して反応を観察する。高度の循環血液量減少がない場合にはよく反応する(反応しない場合は輸液が足りない)。

・ 血管透過性亢進は多くの場合、分娩後36時間以内に正常化する。

******

問題

重症妊娠高血圧症候群の母体検査所見で認められるのはどれか、2つ選べ。

a ヘマトクリット値の低下
b 血糖値の上昇
c 血小板数の減少
d 尿酸値の上昇
e 動脈血酸素分圧の上昇

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正解:c、d

妊娠高血圧症候群の検査所見:
①血液濃縮(Ht ↑)
②水、Naの貯留
③腎機能低下(GFR 、BUN 、尿酸
④アシドーシス
⑤慢性DIC(血小板 ↓、過凝固)
⑥尿蛋白(+)、低蛋白血症
⑦脂質 ↑
⑧PGI2/TXA2比の低下 (TXA2優位)

******

問題

重症妊娠高血圧症候群でみられるのはどれか。1つ選べ。

a プロスタサイクリン/トロンボキサンA2比の増加
b 循環血液量の減少
c 血漿トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)値の低下
d 血中トリグリセリド値の低下
e 血中尿酸値の低下

----

正解:b

******

問題

妊娠高血圧症候群の病態として正しいのはどれか。

a ヘマトクリット値の低下
b 血小板数の増加
c 血液凝固能の低下
d 血管透過性の亢進
e 腎血流量の増加

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正解:d

妊娠高血圧症候群では、血管透過性の亢進から血漿成分の血管外漏出をきたし、ヘマトクリット値は脱水により高値となる。血小板数は低下、血液凝固能は亢進、腎血流量は低下する。

******

問題

Asymmetrical typeの胎児発育不全をきたしやすいのはどれか。1つ選べ。

a 妊娠糖尿病
b 胎位異常
c 風疹感染
d 血液型不適合妊娠
e 妊娠高血圧症候群

------

正解:e

******

問題

妊娠高血圧腎症でただちに分娩(ターミネーション)とすべき条件はどれか。1つ選べ。

a 血圧150/90mmHg
b 肺水腫の出現
c 蛋白尿2g/dL
d 下肢浮腫の増悪
e 血小板15x104/μL

------

正解:b

以下の場合は分娩(ターミネーション)が考慮される。

・ 調節困難な高度高血圧(180/110mmHg前後)出現
・ 体重増加が顕著(>3.0kg/週)
・ 肺水腫の出現
・ 尿中蛋白喪失量増大(>5.0g/日)
・ NST、BPP(biophysical profile)で胎児well-beingの悪化傾向
・ 胎児発育の2週間以上の停止
・ 血小板数減少傾向が明らかでありかつ以下のいずれかがある場合
 血小板数<10万/μL、もしくはGOT/LDHの異常値出現
・ アンチトロンビン活性減少傾向が明らかでありかつ以下のいずれかがある場合
 アントトロンビン活性<60%、もしくはGOT/LDHの異常値出現

******

問題

25歳の初妊婦。妊娠36週の妊婦健診で高血圧、下腿浮腫を指摘されて紹介、入院。胎児発育は週数相当と言われていた。血圧146/94mmHg。子宮口の開大はなく、展退も認めない。尿蛋白(-)。Ht33%、血小板20万。

まず行うべき検査はどれか。2つ選べ。

a ノンストレステスト(NST)
b 超音波検査による羊水量計測
c 羊水鏡検査
d マイクロバブルテスト
e 胎児血液ガス分析

------

正解:a、b

妊娠高血圧症候群では、まず胎児機能不全の検査(NST、羊水量計測など)を行う。

******

正誤問題

a 癒着胎盤は妊娠高血圧症候群において起こりやすい。
b 常位胎盤早期剥離は妊娠高血圧症候群において起こりやすい。
c 胎児発育不全(FGR)は妊娠高血圧症候群において起こりやすい。
d 仰臥位低血圧症候群によるショックは妊娠高血圧症候群において起こりやすい。
e 重症妊娠高血圧症候群では羊水過多症がみられる。

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a X 絨毛が子宮筋層に侵入し、胎盤と筋層が癒着するもの。

b O 

c O

d X 妊娠子宮による下大静脈圧迫のために起こる。左側臥位に体位変換すれば軽快する。

e X 重症妊娠高血圧症候群では羊水過少症を起こすことが多い。

******

正誤問題

a 妊娠高血圧症候群ではヘマクリット値の低下がみられる。
b 妊娠高血圧症候群では血小板増加がみられる。
c 妊娠高血圧症候群では血液凝固能低下がみられる。
d 妊娠高血圧症候群では血管透過性亢進がみられる。
e 妊娠高血圧症候群では循環血液量が減少する。

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a X 妊娠高血圧症候群では血液は濃縮状態でヘマトクリット値は上昇する。

b X 血小板減少が妊娠高血圧症候群の重症化の目安となる。

c X 血液凝固能は亢進状態である。

d O 血管内皮の障害に基づく血管透過性の亢進が浮腫の一因となる。

e O

******

正誤問題

a 妊娠高血圧症候群は双胎妊娠に合併しやすい。
b 妊娠高血圧症候群は糖尿病妊婦に合併しやすい。
c 甲状腺機能亢進症が妊婦に及ぼす影響として妊娠高血圧症候群がある。
d 妊娠高血圧症候群は一般に妊娠28週以降に発症するものをいう。
e 妊娠高血圧症候群は初産婦に多い。

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a O

b O

c O

d X 妊娠高血圧症候群は、妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症候が偶発合併症によらないものをいう。

e O

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正誤問題

a 妊娠高血圧腎症では次回妊娠で再発しやすい。
b 妊娠高血圧腎症の症状の多くは分娩後早期に消失する。
c 妊娠30週以前に発症するものは加重型妊娠高血圧腎症が多い。
d 加重型妊娠高血圧腎症は、妊娠回数を重ねると重症化する。
e 妊娠高血圧症候群では正期産で低出生体重児が生まれやすい。

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a X 妊娠高血圧腎症では次回妊娠での再発はあまりない。加重型妊娠高血圧腎症は再発しやすい。 

b O 妊娠高血圧腎症の症状の多くは約1カ月で消失する。

c O 加重型妊娠高血圧腎症は比較的早期に症状が現れ、慢性の経過をとる。

d O 加重型妊娠高血圧腎症は、妊娠回数を重ねると、子癇、肺水腫などへの移行が多い。

e O

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正誤問題

a 重症妊娠高血圧症候群の判定基準として収縮期血圧160mmHg以上は正しい。
b 重症妊娠高血圧症候群の判定基準として拡張期血圧100mmHg以上は正しい。
c 妊娠高血圧症候群は全妊娠の2~4%にみられる。
d 妊娠高血圧症候群は一般に胎盤病とされている。
e 妊娠高血圧症候群には妊娠偶発合併症による高血圧を含める。

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a O

b X 拡張期血圧110mmHg以上が重症PIHの判定基準である。

c X 妊娠高血圧症候群は全妊娠の4~7%にみられる。

d O

e X 妊娠高血圧症候群は、妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症候が偶発合併症によらないものをいう。

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正誤問題

a 妊娠偶発合併症による高血圧で症状が増悪した場合を、加重型妊娠高血圧腎症という。

b 妊娠高血圧症候群の症候による亜分類では、収縮期血圧が140mmHg以上、160mmHg未満、拡張期血圧が90mmHg以上、110mmHg未満を軽症とする。

c 妊娠高血圧症候群の症候による亜分類では、収縮期血圧が160mmHg以上、拡張期血圧が110mmHg以上を重症とする。

d 24時間尿の蛋白尿が300mg/日以上、2g/日未満を蛋白尿軽症、2g/日以上を蛋白尿重症とする。

e 重症妊娠高血圧症候群は全妊娠の1~2%に発生する。

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a O

b O

c O

d O

e O

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正誤問題

a 32週未満の発症を早発型、32週以後の発症を遅発型とする。
b 早発型では遅発型に比較してFGRが減少する。
c 妊娠高血圧症候群では一般に血液希釈が認められる。
d 妊娠高血圧症候群では一般に循環血液量の増加が認められる。
e 妊娠高血圧症候群によるFGRはsymmetrical FGR(均衡型発育不全)になる。

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a O

b X 早発型では遅発型に比較してFGRが増加する 

c X 妊娠高血圧症候群では血液濃縮が認められる。

d X 妊娠高血圧症候群では一般に循環血液量の減少が認められる。

e X asymmetrical FGR(不均衡型発育不全)

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正誤問題

a 妊娠高血圧症候群の治療の基本は安静・食事療法である。
b 妊娠高血圧症候群では一般に高カロリー療法を行う。
c 妊娠高血圧症候群では一般に食塩摂取量を5g/日に制限する。
d 妊娠高血圧症候群では一般に厳重な水分制限を行う。
e 妊娠高血圧症候群の薬物療法ではACE阻害薬が第一選択である。

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a O

b X 妊娠高血圧症候群では一般に軽度の低カロリー療法を行う。

c X 妊娠高血圧症候群では一般に食塩摂取量を7~8g/日に制限する。極端な塩分制限はしない。 

d X 妊娠高血圧症候群では循環血液量の減少が認められるため、極端な水分制限はしない。口渇を感じない程度に摂取させる。 

e X 妊娠高血圧症候群ではACE阻害薬は禁忌薬剤である。PIHの降圧剤としてはヒドララジン(アプレゾリン)、メチルドーパ(アルドメッド)、ニフェジピン(アダラート)、ラベタロール(トランデート)などを用いる。


腸回転異常症

2011年10月19日 | 周産期医学

Intestinal malrotaion

【概念】 胎生期に胎児の臍帯内で発達した中腸は、上腸間膜動脈を軸に反時計方向に回転し腹腔内に復帰する。中腸はさらに腹腔内で回転を続け、正常の位置で後腹膜に固定される。この過程のいずれかに障害が起こると、腸の位置異常を生じる。これを腸回転異常症という。

Malrotation
      正常        腸回転異常症

【発生頻度】 出生5000~10000に1人。

【臨床症状】 半数以上が生後2日以内に繰り返す胆汁性嘔吐で発症(十二指腸閉塞)、哺乳不良。中腸軸稔転を起こした場合は、広範な腸管の壊死をきたし敗血症・ショックとなるため、早期の診断と緊急手術を要する。60%の症例は新生児期に発症するが、1歳過ぎに発症する場合もある。

【診断】 超音波検査、注腸造影、上部消化管造影で診断可能である。
・ 腹部単純X線: double bubble sign

・上部消化管造影: cork-screw sign  

Malrotationcorkscrew

・ 注腸造影: 回盲部が上腹部正中付近にある(確定診断)

・ 腹部CT: whirl sign

Whirlsign  

【治療】 中腸軸捻転を合併しなければ緊急手術の必要はないが、中腸軸捻転が疑われる場合には、腸管の壊死が急速に進行するため緊急手術を要する。

Ladd手術: 手術で捻転を解除し、Ladd靱帯を切離、盲腸・上行結腸から十二指腸・上部空腸を剥離して腸間膜根部を十分に伸展することで、捻転を予防する。回盲部を左下腹部にもっていき、虫垂切除を付加する。

Mal21

中腸軸捻転で広範囲の腸壊死に陥った場合は、切除する腸管の範囲をできるだけ少なくすることを最優先にして壊死腸管を切除し、端々吻合を行う。

【予後】 腸管壊死を免れLadd手術が行われた例の予後は良好である。広範囲腸切除により短腸症候群をきたした症例の生存率は25~80%と言われる。短腸症候群によって小腸不全に陥った場合は小腸移植の候補となり得る。


血液型不適合妊娠

2011年10月19日 | 周産期医学

blood type incompatibility

血液型不適合妊娠とは、母体に存在しない血液型抗原が胎児に存在する場合をいう。

血液型不適合妊娠では、 「胎児血が母体に移行して作られる感作抗体」 または「母体血漿中の自然抗体」が胎児血中に入り、抗原抗体反応を起して、胎児・新生児に溶血が起こる可能性がある。

胎児の溶血性貧血、免疫性胎児水腫、新生児溶血性疾患( HDN; hemolytic disease of the newborn )をきたす。

臨床的な重症度の観点から最も重要な血液型不適合妊娠は、Rh式血液型不適合妊娠、特にD型不適合妊娠である。

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ABO式血液型とは?

・ 赤血球の表面にA抗原があるとA型、B抗原があるとB型、AとB両方の抗原があるとAB型、両抗原がないとO型とする。

・ 血漿中には各抗原に反応する抗体(IgM)があり、A型の血漿中には抗B抗体、B型の血漿中には抗A抗体があり、AB型の血漿中には抗A抗体・抗B抗体のどちらもなく、O型の血漿には抗A抗体と抗B抗体の両方が存在する。

・ 表面抗原に、それぞれ対応する抗体が反応すると赤血球は凝集してしまう。

Abo_2

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ABO式血液型不適合妊娠

・ 母体がO型で、胎児がA型またはB型の場合の0.7~2%に発生する。これはO型の血漿中に抗A抗体と抗B抗体が存在するためで、自然抗体で起こるので、初回妊娠でも起こり得る。

・ O型の母体の抗A抗体、抗B抗体のうち、IgGサブクラスの抗体(ごく少量)が胎盤を通過して胎児に移行する。(A型やB型の母体においてはIgG分画に属する抗体がほとんどないので、抗B抗体や抗A抗体の胎児への移行はほとんど起こらない。)

・ ABO式血液型不適合妊娠での胎児の貧血の程度は軽くほとんどは無症状である。胎児水腫や子宮内胎児死亡をおこすほどの重症例はないが、新生児早発黄疸を起こすことがある。

・ ABO式血液型不適合妊娠での新生児溶血性疾患(HDN)の程度は軽いことが多く、光線療法で対処できる場合がほとんどであるが、核黄疸を発症して脳性麻痺に発展するものもあり、交換輸血の基準を満たした場合は、時期を失することなく交換輸血を施行する。

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不規則抗体

・ 不規則抗体とは、赤血球に対する抗体のうちABO式抗体(抗A抗体、抗B抗体)以外の抗体をいう。 つまり、ABO式血液型抗原以外の赤血球抗原型に対する抗体を意味する。

・ 不規則抗体は、輸血や妊娠で免疫されて作られる抗体(IgG型)のことが多いが、抗原に感作されてない個体で既に存在する自然抗体(IgM型)もありうる。

・ 日本における不規則抗体をもっている妊婦は2~3%と言われている。よくみられる不規則抗体には、抗D抗体、抗E抗体、抗Duffy、抗Lewis抗体などがある。

※ Lewis抗体は、37℃では反応しない冷式抗体(IgM抗体)なので胎児・新生児溶血性疾患に関与しない。臨床的意義は少ない。

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不規則抗体による不適合妊娠

・ 母体血漿中にIgG型の不規則抗体が存在し、胎児が対応する赤血球抗原を有している場合、抗体は胎盤を通過して胎児の赤血球を破壊し、新生児溶血性疾患を引き起こすことがある。

・ 臨床的に問題となるのはRh式不適合妊娠であり、なかでも児の溶血性疾患の原因として重要なものはD(Rh0)因子である。D因子以外のRh因子は抗原性が低く抗体産生も弱い。

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Rh式血液型とは?

・ 赤血球上に存在する抗原C、c、D、E、eの5つの因子によって識別される血液型をいう。

・ 最も抗原性が高いのはD抗原である。そのため、一般にRh式血液型でいう陽性・陰性はD抗原の有無のことを指し、それぞれRh(+)、Rh(-)で表す。

・ 日本人ではRh(-)は0.5%程度であるが、白人では15%程度である。

・ ABO式血液型と違い、Rh(-)型の人はD抗原の自然抗体を持たない。そのため、Rh型不適合妊娠による胎児への影響は、第2児以降の出産かD抗原に何らかの形で感作した場合にしか起こらない。

・ ABO式血液型不適合で起こりにくい胎児への悪影響がRh型で起こるのは、抗A抗体や抗B抗体がIgMで胎盤通過性を持たないのに対し、抗D抗体がIgGで胎盤通過性を持つからである。

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Rh式血液型不適合妊娠(D型不適合妊娠)

・ 本症は、Rh(-)の妊婦がRh(+)の胎児を妊娠した場合に生じる。

・ 多くは1回目の妊娠において母体が胎児のD抗原に感作され、2回目以降の妊娠時に母体でつくられた抗D抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、胎児貧血や新生児溶血性疾患をひき起こす。

・ 胎児から母体への血液流入は妊娠初期から起こっており、胎児血が母体に移行する量は妊娠の経過とともに増加する。また、分娩時の胎盤剥離によってほぼ全例で胎児血は母体血に移行する。そのため、妊娠回数を重ねるごとに母体のD抗原への感作率は高くなる。

・ D抗原に対して産生される抗D抗体はIgGであるため、抗D抗体が胎児に移行して溶血をひき起こす。

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ABO式血液型とRh式血液型との相違点

・ Rh(-)型の人はD抗原に対する自然抗体を持たない。そのため、Rh式血液型不適合妊娠による胎児への影響は、第2児以降の出産かD抗原に何らかの形で感作した場合にしか起こらない。

・ ABO式血液型不適合で起こりにくい胎児への悪影響がRh式血液型不適合で起こるのは、 抗A抗体、抗B抗体がIgMで胎盤通過性を持たないのに対し、抗D抗体がIgGで胎盤通過性を持つからである。

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[検査]
Coombs試験: 血中の抗赤血球抗体(不規則抗体)の存在を調べる検査であり、間接法と直接法がある。

間接Coombs試験: 血清中の抗D抗体の存在を調べる(母体)。抗D抗体の場合には、抗体価が16倍以上であれば、羊水検査または臍帯血検査をして管理方針を決定する。

直接Coombs試験: 血球に付着した抗D抗体の存在を調べる(胎児・新生児)。

・ 抗D抗体が存在すれば赤血球が凝集し(陽性)、児に溶血性疾患が起こりうる。

羊水吸光度分析(⊿OD450検査):
・ 超音波ガイド下に羊水を採取し、羊水中のビリルビン様物質の量を測定し、胎児の貧血の程度を推測する。

・ 羊水ビリルビン様物質は450nmの波長において吸光度のピークがみられることを利用して測定する。

・ 超音波ドプラ法を用いた胎児の中大脳動脈の血流速度を測定する方法が普及し、現在、臨床ではほとんど用いられていない。

Od4501

Od4502

Od4503

胎児中大脳動脈(MCA)ドプラ血流計測:  
・ 貧血になると心拍出量の増加,血液粘稠度の減少が起こることから、Mari et al. は胎児貧血症例において中大脳動脈の最高血流速度(middle cerebral artery peak systolic velocity:MCA-PSV )が上昇していることを報告した。

・ MCA-PSV 計測により中等度以上の胎児貧血が感度100%、偽陽性率12%で検出可能とされる。

・ MCA-PSV計測は非侵襲的で比較的正確な胎児貧血評価法として従来法に優るとする報告が相次ぎ、次第に臨床応用されつつある。

Mca

胎児採血: 
臍帯穿刺により、臍帯血を採取し、血液型、Hb値、Ht値、網状赤血球数を測定する。

④分娩時に臍帯血検査を行う。
血液型、直接Coombs試験、Hb値、ビリルビン値、網状赤血球数

[症状]
①溶血性貧血が高度であれば、免疫性胎児水腫、子宮内胎児死亡となる。

②溶血性貧血が中等度であれば、出生後に新生児早発黄疸や核黄疸となる。

※ 溶血によって生じる間接ビリルビンは胎盤を通過して母体側に排泄されるので、胎内では黄疸は発症しない。

③溶血性貧血が軽度であれば、出生後に新生児溶血性貧血となる。

[治療] 胎児輸血
・超音波検査( MCA-PSV 計測)で胎児貧血が疑われ、胎児採血で貧血が認められた場合、貧血を是正するために胎児輸血が行われる。

・胎児輸血は超音波ガイド下に行われ、方法としては臍帯静脈内輸血が第一選択である。臍帯静脈内への輸血が難しい場合、腹腔内輸血を行う。

・輸血する血液はO型Rh(-)の白血球除去濃縮赤血球を用いる。移植片対宿主病の発症を予防するため、白血球除去濃縮赤血球は放射線照射を行う。

******

未感作妊婦の管理

・ 未感作妊婦は、初回妊娠・分娩の際に胎児のD抗原に感作される可能性があるため、その予防に抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。これにより、次回妊娠時の抗D抗体産生を妨げることができる。

・ 少なくとも妊娠28週前後かつ分娩時に抗D抗体陰性を確認する。

・ 抗Dヒト免疫グロブリン投与スケジュール:
①新生児がRh(+)かつ直接Coombs試験陰性であることを確認し、分娩72時間以内に感作予防のため母体に抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。
②インフォームドコンセント後、妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。
③自然および人工流産後、子宮外妊娠後、羊水穿刺(絨毛生検、胎児血採取)後には感作予防のため抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。

****** 

産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ302 Rh(D)陰性妊婦の取り扱いは?

Answer

1. 抗Rh(D)抗体陰性の場合、以下の検査・処置を行う。
 1)児がRh(D)陽性であることを確認し、分娩後72時間以内に感作予防のため母体に抗D免疫グロブリンを投与する。(A)
 2)少なくとも妊娠28週前後かつ分娩時に抗Rh(D)抗体陰性を確認する。(B)
 3)インフォームドコンセント後、妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗D免疫グロブリンを投与する。(B)
 4)妊娠7週以降まで児生存が確認できた自然流産後、妊娠7週以降の人工流産・異所性妊娠後、妊娠中の検査・処置後(羊水穿刺、胎位外回転術等)、腹部打撲後には感作予防のため抗D免疫グロブリンを投与する。(B)

2. 抗Rh(D)抗体陽性の場合、妊娠後半期は2週ごとに抗Rh(D)抗体価を測定する。(B)

3. 抗Rh(D)抗体価上昇が明らかな場合、胎児貧血や胎児水腫徴候について評価する。(A)

******

産婦人科診療ガイドライン・産科編 2011

CQ008 (抗D抗体以外の)不規則抗体が発見された場合は?

Answer

1. 間接クームス試験を含む不規則抗体スクリーニング検査が陽性となった場合、不規則抗体の種類(特異性)の検索を行う。(B) 

2. 不規則抗体が溶血性疾患の原因となりうるIgG抗体(表1参照)の場合には、抗体価を測定する。(B)

3. 溶血性疾患の原因となるIgG抗体価が上昇する場合には、胎児貧血・胎児水腫に注意した周産期管理を行う。(B)

4. 不規則抗体陽性者に予期せぬ大量出血が起こり、輸血が必要となった場合、ABO同型赤血球を用いてもよい。(B)

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(表1)

胎児・新生児溶血性疾患の原因となる抗D抗体以外の不規則抗体

重要:c, K, Ku, k, Jsb, Jka, Fya, Dib U PP1Pk(p), anti-nonD(-D-)

可能性あり、高い:E, Kpa, Kpb, Jsa, Dia, M

可能性あり、低い:C, Cw, e, Jkb, Fyb, S, s, LW, Jra

関与しない:Lea, Leb, Lua, Lub, P1, Xga

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抗D抗体では、間接クームス試験で抗体価が1:8以下の場合には月一度程度の抗体価測定を行い、抗体価の上昇がないことを確認する。また、1:16以上の場合には、胎児溶血のハイリスクと考え、胎児貧血、胎児水腫の出現に注意が必要となる。

検査の結果、胎児貧血が強く疑われる場合は超音波ガイド下に臍帯穿刺を行っての胎児貧血の直接評価を考慮する。胎児採血は最も正確であるが、侵襲的であり、施行時に胎児の状態が急激に悪化する可能性もあるため、他の胎児貧血の評価法で異常が見られた場合に行われるべきである。

胎児採血の結果、ヘマトクリット値が20~30%で胎児水腫がある場合や20%未満の場合には、胎児輸血が考慮される。

****** 問題

Rh(D)不適合妊娠について正しいのはどれか。2つ選べ。

a. 母体血中の抗Rh(D)抗体は直接Coombsテストで検査する。
b. 抗Rh(D)抗体の出現頻度は経産回数と関係がない。
c. 胎児の溶血の状態は羊水分析によって検査する。
d. 交換輸血は新生児のビリルビンと抗体および感作赤血球とを除去するために行う。
e. 抗Rh(D)ヒト免疫ガンマグロブリンは妊娠末期に投与する。

------

正解:c. d.

a. 母体血液検査の時は間接Coombsテストを行う。直接Coombsテストは臍帯血検査の時である。

b. 分娩時の胎盤剥離によって、胎児血は母体血に移行しやすくなるため、抗Rh(D)抗体の頻度は経産回数を重ねるごとに高くなる。

c. 溶血判定には羊水中のビリルビン様物質の測定をする。(羊水吸光度分析は、現在、臨床ではほとんど用いられない。)

d. 交換輸血により核黄疸を防止できる。

e. 分娩後72時間以内に抗Rh(D)ヒト免疫ガンマグロブリンを注射することにより、母体における抗体産生の予防を図る。インフォームドコンセント後、妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗D免疫グロブリンを投与する。

****** 問題

母A型、Rh(-)、父B型、Rh(+)の間に生まれた新生児AB型、Rh(+)の黄疸治療のための交換輸血に用いる血液型はどれか。

a. A、Rh(-)
b. B、Rh(+)
c. AB、Rh(-)
d. AB、Rh(+)
e. O、Rh(+)

------

正解:c.

患児はAB型であり、AB型の血液を輸血する。母体にある血清抗Rh抗体が児に移行しているので、患児と同じRh(+)の血液を輸血すると溶血する。

****** 問題

未感作Rh(D)陰性妊婦に分娩後抗Rh(D)ヒトガンマグロブリン投与を考慮しなくてもよいのはどれか。

a. 全胞状奇胎
b. 自然流産
c. 早産
d. 前置胎盤
e. 常位胎盤早期剥離

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正解:a.

a, 全胞状奇胎では、胎芽(胎児)を欠くため、感作の可能性がない。このため、抗Rh(D)ヒトガンマグロブリンの投与は必要でない。

b.~e. 胎児血がある以上、いずれも感作の可能性があり、抗Rh(D)ヒトガンマグロブリンの投与が必要である。

****** 問題

血液型不適合妊娠感作例の胎児の管理上最も問題となるのはどれか。

a. 高ビリルビン血症
b. 高度貧血
c. 水頭症
d. 肝腫脹
e. 羊水過多

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正解:b.

血液型不適合妊娠では、胎児血の溶血が起こり、高度貧血による胎児水腫が最も問題となる。溶血にって生じる間接ビリルビンは胎盤を通過して母体側に排泄されるので、胎内では黄疸は発症しない。新生児の管理では高ビリルビン血症が問題となる。

****** 問題

Rh(D)陰性妊婦の取り扱いで誤っているのはどれか。1つ選べ。

a. 配偶者がRh(D)陽性の場合は、血液型不適合妊娠として管理する。
b. 間接Coombs試験で抗体価が1:64の場合は、そのまま妊娠経過をみる。
c. 羊水中ビリルビン様物質の吸光度測定で使用されるのはLileyの予想図である。
d. 分娩後72時間以内に児のRh(D)陽性かつ直接Coombs試験陰性を確認して抗Dグロブリンを母体に投与する。
e. 羊水穿刺後、抗Dヒト免疫グロブリンを投与すべきである。

------

正解:b.

間接Coombs試験では母体血清中の不規則抗体の存在を調べる。抗D抗体の場合には、抗体価が16倍以上であれば羊水検査または臍帯血検査をして管理方針を決定する。

****** 問題

母体血中不規則抗体のうち、胎児に対する影響が最も少ないのはどれか。1つ選べ。

a. Rh(D)
b. Rh(C)
c. Rh(E)
d. Lewis
e. Diego

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正解:d.

Lewis抗体は、37℃では反応しない冷式抗体(IgM抗体)なので胎児・新生児溶血性疾患に関与しない。臨床的意義は少ない。

****** 問題

Rh(D)陰性妊婦で正しいのはどれか。1つ選べ。

a. 異所性妊娠後、抗D抗体陰性の場合は抗D免疫グロブリンを投与する。
b. 妊娠20週前後、抗D抗体陰性の場合はインフォームドコンセント後に抗D免疫グロブリンを投与する。 
c. 分娩後、抗D免疫グロブリンを投与する前に母体の直接クームス試験陰性を確認する。
d. 分娩後、母体に抗D免疫グロブリンを投与する場合は96時間以内に行う。
e. 妊娠経過中に抗体価4倍となれば、羊水中ビリルビン様物質を測定する。

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正解:a.

a. 妊娠7週以降まで児生存が確認できた自然流産後、妊娠7週以降の人工流産・異所性妊娠後、妊娠中の検査・処置後(羊水穿刺、胎位外回転術等)、腹部打撲後には感作予防のため抗D免疫グロブリンを投与する。

b. インフォームドコンセント後、妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗D免疫グロブリンを投与する。

c. 直接Coombs試験は、児の血球に付着した抗D抗体の存在を調べる(胎児・新生児)。

d. 児がRh(D)陽性であることを確認し、分娩後72時間以内に感作予防のため母体に抗D免疫グロブリンを投与する。

e. 抗D抗体の場合には、抗体価が16倍以上であれば、羊水検査または臍帯血検査をして管理方針を決定する。


両大血管右室起始症(DORV)

2011年10月19日 | 周産期医学

double-outlet right ventricle

【概念】 大動脈と肺動脈の両大血管の半分以上が右室から出ている先天性心奇形で、心室中隔欠損を伴っている。

最も多いタイプ(約50%)は大血管がside by side(同じ断面積で真横に同じ高さ)に並び、心室中隔欠損が大動脈弁下(subaortic VSD)にあるタイプである。

Dorv

① overriding aorta
② ventricular septal defect
De-oxygenated blood enters the aorta from the right ventricle and is returned to the body.

【分類】
左右心室間の短絡のため肺血流が増加し心不全と肺高血圧症を呈する場合と、肺動脈狭窄を合併しチアノーゼを呈する場合の2つに大別される。

心室中隔欠損の位置による分類:
大動脈弁下型
心室中隔欠損が大動脈弁の下に位置する。

肺動脈狭窄を伴わない場合は心室中隔欠損症と同様の、肺動脈狭窄を伴った場合にはファロー四徴症と同様の臨床症状を示す。

肺動脈弁下型(Taussig-Bing奇形)  
心室中隔欠損が肺動脈弁の下に位置する。

大血管位置関係により、正常大血管型のoriginal Taussig-Bing奇形と、大血管転位型のfalse Taussig-Bing奇形に分類されている。

両大血管下型  
心室中隔欠損が大動脈弁及び肺動脈弁両弁の下に位置する。

遠位型
心室中隔欠損の上縁が正常大動脈径以上離れている。

【心エコー、心カテーテル、心血管造影】

① 両血管が右室より起始すること
② 僧房弁がいずれの半月弁とも線維性連続性を欠くこと
③ 左室からの流出路がVSD以外にないこと

を確認する。

【治療・予後】

本症の自然予後は病型ごとに異なる。肺動脈弁下型が最も予後不良で、大動脈弁下型がこれに続き、肺動脈狭窄合併例が最も良い。(※ 自然予後と治療後の予後とは全く異なりますので、それぞれの患者さんの治療後の予後については、担当の心臓血管外科専門医の先生とご相談ください。)

通常、乳児期は、肺血流量が減少するタイプではプロスタグランジンの使用やシャント術を、肺血流量が増加する病型では心不全の治療や肺動脈絞扼術を考える。

根治手術の方法はそれぞれの病型によって異なる。


妊娠糖尿病(GDM)、妊娠時に診断された明らかな糖尿病、ならびに糖尿病(DM)合併妊娠の管理・分娩

2011年10月17日 | 周産期医学

産婦人科診療ガイドライン産科編2011  

CQ314 妊娠糖尿病、妊娠時に診断された明らかな糖尿病、 ならびに糖尿病合併妊婦の管理・分娩は?

Answer

1. 早朝空腹時血糖値≦95mg/dL、食前血糖値≦100mg/dL、食後2時間血糖値≦120mg/dLを目標に血糖を調節する。(C)

2. 耐糖能異常妊婦ではまず食事療法を行い、血糖管理できない場合はインスリン療法を行う。(B)

3. 妊娠32週以降は胎児well-beingを適宜NST、BPS(biophysical profile score)などで評価し、問題がある場合は入院管理を行う。(C)

4. 血糖コントロール良好かつ胎児発育や胎児well-beingに問題ない場合、以下のいずれかを行う。(B)
 1)40週6日まで自然陣痛発来待機(待機的管理)と41週0日以降の分娩誘発
 2)頸管熟化を考慮した37週0日以降の分娩誘発(積極的管理)

5. 遷延分娩時、陣痛促進時、あるいは吸引分娩時には肩甲難産に注意する。(C)

6. 血糖コントロール不良例、糖尿病合併症悪化例や巨大児疑い合併例では分娩時期、分娩法を個別に検討する。(B)

7. 39週未満の選択的帝王切開例、血糖コントロール不良例、あるいは予定日不詳例の帝王切開時には新生児呼吸窮迫症候群に注意する。(B)

8. 糖尿病合併妊婦分娩中においては連続的胎児心拍数モニタリングを行う。(B)

9. 分娩時は母体血糖値70~120mg/dLの正常範囲にコントロールする。(C)

10. 分娩後はインスリン需要量が著明に減少する。インスリン使用例では低血糖に注意し、血糖値をモニターしながらインスリンを減量もしくは中止する。(B)

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妊娠糖尿病、妊娠時に診断された明らかな糖尿病、ならびに糖尿病合併妊娠の診断については、

CQ005 妊婦の耐糖能検査は?

を参照されたい。

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妊娠中の管理

妊娠糖尿病、妊娠時に診断された明らかな糖尿病、ならびに糖尿病合併妊娠のいずれにおいても、食前血糖値≦100mg/dL、食後2時間血糖値≦120mg/dLを目標として、食事療法、運動療法(妊娠中は制限される)を行い、コントロール不良の場合はインスリン療法を行う。妊娠32週までの良好な血糖コントロールを目標とする。

妊娠時に診断された明らかな糖尿病や糖尿病合併妊娠では、SMBG(self-monitoring of blood glucose: 食前、食後2時間、入眠前の1日7回血糖自己測定)を行う。妊娠糖尿病には糖尿病に準した食事療法を行う。

一日の平均血糖値が105mg/dL以上の場合はlarge for gestational age infant(LGA)が増加し、87mg/dL未満であるとsmall for gestational age infant(SGA)が増す。

HbA1c は過去1ヵ月間の血糖調節状態を反映したものであり、HbA1c も管理指標として使用される場合がある。HbA1c を血糖調節指標として加える場合にはHbA1c ≦6.2%(HbA1C(JDS)≦5.8%)が目安となる。

耐糖能異常妊婦に塩酸リトドリンを用いる場合、血糖上昇が起こることがあるので注して使用する。代替薬として硫酸マグネシウムの使用も考慮される。

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妊娠時の食事療法

普通の体格の妊婦(非妊時BMI<25): 標準体重 x 30 + 200 kcal
肥満妊婦(非妊時BMI≧25): 標準体重 x 30 kcal
標準体重=身長(m) x 身長(m) x 22

高血糖を予防し、血糖の変動を少なくするために4~6分食にする。

食事・運動療法だけで血糖管理が困難な場合は、インスリンを使用する。

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インスリン療法

妊娠中は特に厳格な血糖コントロールが必要であり、通常のインスリン療法でうまく血糖がコントロールできない場合は、インスリンの基礎量と追加量を補充する強化インスリン療法、すなわちインスリンの頻回注射療法(multiple insulin injection therapy: MIT)やインスリン持続皮下注入療法(continuous subcutaneus insulin infusion therapy: CSII)などが推奨されている。また、食後血糖が高い場合は、分割食にせず超速効型インスリンを用い食後高血糖を是正する方法が普及しつつある。

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インスリン使用妊婦の分娩時の血糖管理

糖尿病合併妊娠では分娩時に胎児機能不全を示しやすいため、原則として連続胎児モニタリングを行う。

5%ブドウ糖液100mL/時間の輸液を行い、1~3時間おきに血糖値を測定し、血糖を70~120mg/dLに維持する。必要に応じ速効性インスリンを使用する。

インスリン需要量は分娩後急速に低下するので、分娩後は低血糖に十分注意し、適宜インスリンの減量・投与中止を行う。通常、出産直前の1/2~2/3のインスリン量あるいは妊娠前の使用量に戻すことが多い。

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産褥期の管理

GDM妊婦では、分娩後6~12週で75gOGTTを実施する。また“妊娠時に診断された明らかな糖尿病”妊婦でも分娩後に耐糖能を再評価する。

授乳期間中は、授乳のための付加カロリーとして、妊娠前摂取カロリーに450kcl(肥満者は200kcl)程度加える。

運動については、医師から特に制限指示がなければ、従前どおりとする。

経口糖尿病薬は児に低血糖を引き起こす場合があるので、授乳中は服用しない。

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糖尿病による母体および児の合併症

Dmpreg

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糖尿病母体児
infant of diabetic mother; IDM

・ 血糖は胎盤を通過するが、インスリンは胎盤を通過しない。

・ 胎児への糖の過剰供給
 →胎児膵のβ細胞からのインスリン過剰分泌
 →胎児高インスリン血症

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器官形成期の高インスリン血症 による胎児への影響

・ 心奇形
・ Caudal regression syndrome
・ 無脳症、髄膜瘤
・ 肺低形成
・ 呼吸窮迫症候群(RDS)
・ 口唇裂、口蓋裂

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妊娠後期の高インスリン血症による影響

・ Fetal macrosomia(巨大児) 心臓、肝臓、筋肉組織への脂肪の過剰蓄積

・ 母体の血管損傷が著しい場合、胎盤血流も障害され、逆に胎児発育不全(FGR)を呈する。

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出生直前の高インスリン血症 による児への影響

・ 出生後の低血糖症

・ 新生児仮死
・ 出生後の低Ca血症
・ 多血症(高粘稠度症候群、血栓症、 高ビリルビン血症)

****** 問題

糖尿病合併妊娠で正しいのはどれか。2つ選べ。

a. 治療にはインスリンを用いる。
b. 新生児は高血糖をきたしやすい。
c. 妊娠高血圧症候群を合併しやすい。
d. 血糖値の管理は妊娠中期以降に開始する。
e. 食後2時間の血糖値を150mg/dL以下に保つ。

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正解:a. c.

a. インスリンは胎盤を通過しないため、胎児に影響を及ぼさないことからインスリンを用いる。経口の血糖降下薬は胎盤を通過するため、胎児の低血糖を引き起こす可能性があり使用しない。

b.妊娠中は高血糖に曝されるため、胎児もインスリン分泌が亢進し、分娩後、低血糖をきたしやすい。

c. 母体高血糖により血管障害が生じ、PIHを合併しやすい。

d. 胎児奇形や流産を予防するためには妊娠前からの血糖コントロールが必要である。

e. 妊娠中の合併症を予防するために非妊娠時よりも厳しい血糖コントロールを必要とし、目標血糖値は食前を100mg/dL以下、食後2時間を120mg/dL以下とする。

****** 問題

糖尿病合併妊娠について誤っているのはどれか。

a 2型糖尿病が多い。
b 糖質摂取量は維持する。
c 経口糖尿病薬を用いる。
d 血糖管理で新生児合併症は減少する。
e 早朝空腹時血糖は95mg/dL以下を目標とする。

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正解:c

a 1型糖尿病(インスリン依存型):5%
     2型糖尿病(インスリン非依存型):95%

b 妊娠中は適正な栄養、糖質摂取が必要。

c 妊娠中、経口糖尿薬は禁忌。

d 妊娠中の血糖管理が重要。

e 早朝空腹時血糖値≦95mg/dL、食前血糖値100mg/dL以下、食後2時間の血糖値120mg/dL以下を目標とする。

****** 問題

糖尿病合併妊娠について誤っているのはどれか。

a 妊娠初期は経口血糖降下薬で管理する。
b 妊娠初期の血糖コントロールが不良の場合は先天奇形の頻度が高い。
c 羊水過多症の合併頻度が増える。
d 分娩後はインスリン必要量が減少する。
e 新生児低血糖に注意する。

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正解:a

経口血糖降下薬は胎盤通過性があり、妊娠初期では催奇形性、妊娠中期以降は胎児低血糖の危険があり、原則禁忌である。血糖のコントロールには胎盤を通過しないインスリンを用いる。

****** 問題

塩酸リトドリンによる有害事象で誤っているのはどれか。1つ選べ。

a 高インスリン血症
b 低カリウム血症
c 高カルシウム血症
d 高アミラーゼ血症
e 血中CPK値の上昇

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正解:c

塩酸リトドリン
・ 選択的β2刺激薬であるが、いくらかのβ1刺激作用も出現するため、ほとんどの症例で頻脈の訴えがある。
・ 経口:1日15~20mg(1錠5mg)
 点滴静注:5%ブドウ糖注射液に溶解し50~200μg/分で投与する。(1A50mg)
・ 副作用
生理的変化: 不安感、頭痛、嘔気、頻脈、不整脈、嘔吐、発熱、神経過敏、幻覚
代謝性変化: 高インスリン血症、高血糖、乳酸アシドーシス、低カリウム血症低カルシウム血症、トランスアミナーゼ上昇、抗利尿作用
心血管系: 頻脈、肺水腫、低血圧、不整脈、心不全、心筋虚血
胎児: 頻脈、不整脈、心筋の肥厚、心筋虚血、高血糖
新生児: 高ビリルビン血症、心筋虚血、心筋収縮能低下、低血圧、脳室内出血
⑥その他:
Ⅰ 高アミラーゼ血症 耳下腺腫脹を生じることがある。
Ⅱ 顆粒球減少 顆粒球が1500/μL以下になることがある。投与中は白血球とくに顆粒球を検査する。
Ⅲ 横紋筋融解症 筋肉痛、脱力感、CPK上昇、血中および尿中ミオグロビン上昇を特徴とする。筋緊張性(強直性)ジストロフィー等の筋疾患またはその既往歴のある患者では慎重投与。 


産褥精神病、マタニティーブルーズ

2011年10月17日 | 周産期医学

産褥精神病とは分娩を契機に発病する精神病をさす。

● 産褥精神病の特徴:
・ 発症の頻度は約3%と推定されている。
・ 分娩後数日以内に発病し概して予後良好である
・ 再度の分娩や妊娠によって再発しやすい
・ 長期予後は良好である
・ 激しい情動的興奮を伴うこともあり緊急入院する症例も多い

● 産後うつ病
・ 頻度:産褥精神病の約半数
・ 産後3ヵ月以内の発現頻度がそれ以降と比較して高い
・ 罹患期間が短い
・ 罪悪感、焦燥感の出現頻度が高い
・ 身体的症状が目立つ
・ 多くは2~6ヵ月で軽快するが、1年以上の長期経過を示す場合もある
・ 自殺企図や乳児に対する危険がある場合は精神科による緊急介入が必要となる
・ うつ病スクリーニングにエジンバラ産後うつ病自己質問表を使用する。

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(表) エジンバラ産後うつ病調査表

ご出産おめでとうございます.ご出産から今までの間どのようにお感じになったかをおしらせください.今日だけでなく,過去7日問にあなたが感じられたことにもっとも近い答えにアンダーラインを引いてください.必ず10項目に答えてください.

例)私は幸せである。 
 ・ たいていそうです。
 ・ いつもそうではない。
 ・ 全く幸せではない。  
“たいていそうです”と答えた場合は過去7日間のことを言います。このような方法で質問にお答えください。

[質問]
1.笑うことができるし、物事のおもしろい面もわかった。  
(0)いつもと同様にできた。
(1)あまりできなかった。
(2)明らかにできなかった。
(3)全<できなかった。

2.物事を楽しみにして待った。  
(0)いつもと同様にできた。
(1)あまりできなかった。
(2)明らかにできなかった。
(3)ほとんどできなかった。

3.物事がうまくいかない時、自分を不必要に責めた。 
(3)はい、たいていそうだった。
(2)はい、時々そうだった。
(1)いいえ、あまりたびたびではない。
(0)いいえ、そうではなかった。

4.はっきりした理由もないのに不安になったり心配した。  
(0)いいえ、そうではなかった。
(1)ほとんどそうではなかった。
(2)はい、時々あった。
(3)はい、しょっちゅうあった。

5.はっきりした理由もないのに恐怖に襲われた。  
(3)はい、しょっちゅうあった。
(2)はい、時々あった。
(1)いいえ、めったになかった。
(0)いいえ、全くなかった。

6.することがたくさんあって大変だった。  
(3)はい、たいてい対処できなかった。
(2)はい、いつものようにはうまく対処しなかった。
(1)いいえ、たいていうま<対処した。
(0)いいえ、普段どおりに対処した。

7.不幸せなので,眠りにくかった。  
(3)はい、ほとんどそうだった。
(2)はい、時々そうだった。
(1)いいえ、あまりたびたびではなかった。
(0)いいえ、全<なかった。

8.悲しくなったり惨めになった。  
(3)はい、たいていそうだった。
(2)はい、かなりしばしばそうだった。
(1)いいえ、あまりたびたびではなかった。
(0)いいえ、全くそうではなかった。

9.不幸せで,泣けてきた。
(3)はい、たいていそうだった。
(2)はい、かなりしばしばそうだった。
(1)ほんの時々あった。
(0)いいえ、全くそうではなかった。

10.自分白身を傷つけるのではないかという考えが浮かんできた。  
(3)はい、かなりしばしばそうだった。
(2)時々そうだった。
(1)めったになかった。
(0)全<なかった。

( )の数字は配点を示す            

(Cox JL et al., Br J Psychiatry,1987)

この表を用いた検討で欧米では10~13点を区分点としているが、わが国の女性の場合には、9点以上を産後うつ病の疑いとして取り扱うのが適切とされている。

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● マタニティーブルーズ
 産後における一過性の女性の正常反応であり、産褥うつ病とは異なる。産褥うつ病への移行と産褥精神病の初発症状との鑑別が必要である。

マタニティーブルーズの特徴:
1. 分娩後3~10日目頃の産褥婦に生じる軽度の情緒不安定。数時間から数日間持続するが、自然に消失する。
2. 産褥婦の50~80%に認める。
3. 特徴的症状は、
 涙もろさ
 落胆あるいは軽度の抑うつ
 不安
 軽度の困惑(集中力不全、忘れっぽさなど)
 心気的傾向、疲労、不眠、頭痛などを伴う
4. 高率の出現頻度と出現期間・期間の規則性から、分娩後の内分泌変化(エストロゲン、プロゲステロンの急減など)に対応するとの見解が有力

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問題

産褥1ヵ月健診で正しいのはどれか。1つ選べ。

a 子宮底を恥骨上に触れる。
b うつ病スクリーニングにエジンバラ質問表を使用する。
c 凝血塊の排出がみられる。
d 末梢血白血球数12000/μLである。
e マタニティーブルーズの発症がピークとなる。

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正解:b

a 子宮は分娩1ヵ月後にはほぼ非妊時の大きさとなる。

b 産後うつ病を早期に診断するためにわが国でもCox et al.によって提唱された自己質問表(エジンバラ産後うつ病自己質問表)が用いられている。

e マタニティーブルーズは分娩直後から産後7~10日以内にみられ、主に2~4日を発症のピークとする。


妊婦の耐糖能検査

2011年10月17日 | 周産期医学

耐糖能異常スクリーニングとしての血糖検査については妊娠糖尿病の予後改善の観点から勧められる。推奨レベル(B)

GDMでは、奇形、巨大児、出産時障害、帝王切開率の上昇など多くの合併症が起こることがよく知られている。

GDMの診断基準の変更によりGDMの頻度は約4倍に増加すると考えられる。予備調査では、診断基準改定により妊娠中期のGDM頻度は2.1%から8.5%程度に増加する。

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効率よいGDMスクリーニング法は?

一般的に行われている3通りの耐糖能異常のスクリーニング法:
随時血糖法: 食後時間は考慮せず血糖値を測定する方法で≧100mg/dLを陽性とする。
空腹時血糖: 夜間絶食後の血糖値を測定する方法で≧85mg/dLを陽性とする。
50gGCT(glucose challenge test)法: 食事摂取の有無にかかわらずブドウ糖50gを飲用1時間後の血糖値を測定し、≧140mg/dLを陽性とする。

「妊娠糖尿病のスクリーニングに関する多施設共同研究」では、スクリーニング特性は50gGCTが初期、中期ともに優れていた。コストパフォーマンスは初期には随時血糖法が、中期には50gGCTが最も優れていた。

中期に感度が最も優れた50gGCTを行う二段階スクリーニング法では初期随時血糖カットオフ100mg/dLでも効果が十分に期待できる可能性がある。

****** 産婦人科診療ガイドライン産科編2011

CQ005 妊婦の耐糖能検査は?

Answer

1. 妊娠糖尿病(GDM、gestational diabetes mellitus)のスクリーニングを全妊婦に行う。(B)

2. スクリーニングは以下に示すような二段階法を用いて行う。(B)
1) 妊娠初期に随時血糖測定(カットオフ値は各施設で独自に設定する)。随時血糖値≧200mg/dL時には、75gOGTTは行わず、Answer4の①~③の有無について検討する。
2) 妊娠中期(24~28週)に50gGCT(≧140mg/dLを陽性)、あるいは随時血糖測定(≧100mg/dLを陽性)。その対象は妊娠初期随時血糖法で陰性であった妊婦、ならびに同検査陽性であったが75gOGTTで非GDMとされた妊婦。

3. スクリーニング陽性妊婦には診断検査(75gOGTT)を行い、以下の1点以上を満たした場合にはGDMと診断する。ただし、2時間値≧200mg/dL時にはAnswer4の①~③の有無について検討する。(A)
① 空腹時血糖値≧92mg/dL(5.1mmol/L)
② 1時間値≧180mg/dL(10.0mmol/L)
③ 2時間値≧153mg/dL(8.5mmol/L)

4. 以下のいずれかを満たした場合には、“妊娠時に診断された明らかな糖尿病、overt diabetes in pregnancy”と診断する。
① 空腹時血糖値≧126mg/dL
② HbA1C≧6.5% (HbA1C(JDS)≧6.1%)  註
③ 確実な糖尿病網膜症が存在する場合
④ 随時血糖値≧200mg/dL、あるいは75gOGTTで2時間値≧200mg/dLで上記①~③のいずれかがある場合

5. GDM妊婦には分娩後6~12週の75gOGTTを勧める。“妊娠時に診断された明らかな糖尿病”妊婦では耐糖能について再評価する。

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(表1) 新しい妊娠糖尿病診断基準

定義:
妊娠糖尿病gestational diabetes mellitus(GDM)は妊娠中にはじめて発見、または発症した糖代謝異常。しかし、overt diabetes in pregnancy(妊娠時に診断された明らかな糖尿病)はGDMに含めない。

診断基準:
1.妊娠糖尿病(GDM) 75gOGTTにおいて次の基準の1点以上を満たした場合に診断する。
① 空腹時血糖値≧92mg/dL(5.1mmol/L)
② 1時間値≧180mg/dL(10.0mmol/L)
③ 2時間値≧153mg/dL(8.5mmol/L)

2.妊娠時に診断された明らかな糖尿病 (overt diabetes in pregnancy) 以下のいずれかを満たした場合に診断する。
① 空腹時血糖値≧126mg/dL
② HbA1C≧6.5% (HbA1C(JDS)≧6.1%)  註
③ 確実な糖尿病網膜症が存在する場合
④ 随時血糖値≧200mg/dL、あるいは75gOGTTで2時間値≧200mg/dLで上記①~③のいずれかがある場合

註1. 国際標準化を重視する立場から、新しいHbA1C値(%)は、従来わが国で使用していたJpan Diabetes Society(JDS)値に0.4%を加えたNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値を使用するものとする。
註2. HbA1C<6.5%(HbA1C(JDS)<6.1%)で75gOGTT 2時間値≧200mg/dLの場合は、妊娠時に診断された明らかな糖尿病とは判定し難いので、High risk GDMとし、妊娠中は糖尿病に準じた管理を行い、出産後は糖尿病に移行する可能性が高いので厳重なフォローアップが必要である。

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・ 随時血糖≧200mg/dL時の対応

“妊娠時に診断された明らかな糖尿病”の疑いがあるため、50gGCTや75gOGTTは行わず(高血糖を招き危険である)、空腹時血糖ならびにHbA1Cを測定し、眼科受診を促す。

空腹時血糖値≧126mg/dL、HbA1C≧6.5% (HbA1C(JDS)≧6.1%)、あるいは糖尿病網膜症のいずれかがある場合には、“妊娠時に診断された明らかなと尿病”と診断する。いずれもない場合にはGDMと診断する。

・ 診断検査(75gOGTT)について

スクリーニング検査陽性妊婦に行い、Answer 3の①~③の1点以上満たした場合、GDMと診断する。0時間値(空腹時血糖)<126mgかつ2時間値≧200mg/dL時には、HbA1cを測定し、眼科受診を促し、HbA1C≧6.5% (HbA1C(JDS)≧6.1%)、あるいは糖尿病網膜症のいずれかがある場合には、“妊娠時に診断された明らかなと尿病”と診断する。いずれもない場合にはGDMと診断する。

ただし、HbA1C<6.5%(HbA1C(JDS)<6.1%)かつ75gOGTT 2時間値≧200mg/dLの場合は、High risk GDMとし、妊娠中は糖尿病に準じた管理を行い、出産後は糖尿病に移行する可能性が高いので厳重なフォローアップが望まれる。

・ GDM妊婦からの糖尿病発症

GDM妊婦は将来、糖尿病発症率が高いことが知られている。

GDM妊婦では糖代謝が落ち着いてくる分娩後6~12週の75gOGTTが勧められる。“妊娠時に診断された明らかな糖尿病”やhigh risk GDMに対しても同時期での耐糖能再評価が勧められる。また、妊娠時に耐糖能評価されていない妊婦で巨大児、肩甲難産を起こした場合、同時期での耐糖能評価が勧められる。

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妊娠初期高血糖と胎児奇形の関係

妊娠初期の血糖値と胎児奇形の関連が指摘されている。

糖尿病婦人では児奇形防止の観点から、HbA1c7.4%未満(理想は6.4%未満)(JDS基準ではそれぞれ、7.0%未満、6.0%未満)到達後の計画妊娠が勧められる。