ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その5)

2008年10月31日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

妊婦さんの状態が急変し、一刻を争うような緊迫した状況の中で、患者さんの受け入れ医療機関がなかなか決まらず、患者さんや御家族は本当につらく悲しい思いをされました。近隣には日本を代表するような大病院が多数あるにもかかわらず、受け入れてくれる高次医療機関がなかなか決まりませんでした。

『一刻を争うような緊急事態が発生してから、受け入れ医療機関を探し始める』という現在の患者搬送システムに一番の問題があることは間違いありません。この搬送システムを改善しない限り、同様の事態はいつでも何度でも発生する可能性があると思います。現在の搬送システムの問題点を検証し、早急にシステムを改善する必要があります。

根本的には、『周産期医療や救急医療に従事する医師の数が圧倒的に不足している』ことが問題の原因です。この問題を解決するためには、『全国各地で周産期医療や救急医療に従事する医師の数が増えるような長期的な施策』が必要だと思います。

必死の思いで頑張った現場の医師達をバッシングしても何にもなりません。離職者が増えて事態がますます悪化するだけです。一番悲しい思いをした患者さんの御主人が、『医療関係者はみんな一生懸命やってくれた。誰も責めない。妻の死で明らかになった現在の問題点を、みんなで力を合わせて解決してほしい。』と涙ながらに会見していた姿に、日本中の多くの人が感銘を受けました。私も、御主人の会見をニュース番組で見て、これからも精一杯頑張りたいという気持ちになりました。現場で必死で頑張っている多くの医療関係者達が、みんな同じ気持ちになったと思います。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その2)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その3)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その4)

*** 産科医療協議会・声明文、2008年10月30日

声   明   文

平成20年10月30日

産科医療協議会

 日本の首都東京で大変悲しい出来事がありました。亡くなられた妊婦さん、ご家族の皆様に心からの哀悼の意を込めて、新しい生命・家族の誕生を心待ちにされていた皆様の悲しい、悔しいお気持ちをお察し申しあげる次第です。

 私達、産科医療協議会は、全国の周産期医療の現場で働く産科医が周産期医療・産科医療の向上を目的に個人の立場で集っているグループです。周産期医療に従事する医師として声明を発表いたします。

 今回の悲しい出来事は、周産期医療の最後の砦とされる総合周産期母子医療センターで発生しました。尊い命を失ってしまったことに、深い悲しみを私達は感じています。国民の医療に対する信頼と期待に応えることができなかったことは痛恨の極みです。今私達にできることは、なぜこのような事態になってしまったのかを検証し、再発の防止に努めることだと考えています。
 医療の最後の砦を担うことは大きな責任を負うことになります。その責任を負う施設には応分の支援が行われなければなりません。同時にその施設に従事する医師には相応の責任が課せられるのです。医師はその責務を全うすべく努力しますが、個人の力には限りがあります。個々の医師の能力をいかんなく発揮するためには人員と施設の整備が不可欠です。このバランスを欠いたマンパワー不足の状況が放置された中で、悲しい出来事が発生しました。
 状態が急変する中で、受入先がなかなか決まらず、妊婦さんとそのご家族はどれほどの不安と恐怖を感じられたことでしょう。生命の危機に瀕し、一刻を争う状況にある患者さんを受け入れてくれる高次施設を探し続けるとき、現場の医師はどんなに悔しい思いをしたことでしょう。その一方、要請を受けて断らざるを得なかった若い医師が、今回の結果に受けた衝撃も計り知れません。そのような状況に対応することができるはずの高次施設から医師がいなくならないような方策は本当になかったのでしょうか。

 この事態を私達は心から憂いています。私達は医師として救命に努めたいのです。不幸な出来事を繰り返さないためには就労状況の整備をはじめとする勤務医をとりまく環境を見直す必要があります。搬送先にどのように情報を伝えたかというような、緊急事態が発生している中でのやり取りを問題にするのではなく、搬送システムそのものの問題を議論するべきです。勤務医が安心して診療できる環境があってはじめて、1次施設も緊急事態に対応できるのです。そしてこれこそが患者さんが安心して診療を受けることができる環境なのです。
 産科医や新生児科医は以前から絶対数が不足しています。いつでも救急対応のできる周産期センターを全国各地で整備、維持することはきわめて難しく、地域によっては到底無理という意見もありました。それでも私達は、高次医療施設を中心とした周産期医療体制を確立する方向性は正しいと信じ、厳しい勤務条件をいとわず、日夜努力を続けています。周産期センターの産科医は法定の労働時間をはるかに超える勤務を行っています。それに対して適正な報酬が支払われているとはいえず、過酷な勤務に耐えられなくなる医師もいます。残った産科医師は、そのような中で、妊産婦さんと赤ちゃんのために働き続けています。
 周産期センターに母体搬送の依頼があっても、引き受けることができない場合があります。その理由の大部分は産科だけの問題ではなく、生まれることが予測されている重症の新生児のためのベッド(NICUの病床)が足りないからなのです。周産期医療はお母さんと赤ちゃんの両方のための医療です。今回母体搬送を断った多くの周産期センターの理由もこのためです。母と子の両方のベッドが確保できなければ母体搬送を受け入れることはできないのです。

 私ども産科医はこれからもお母さんと赤ちゃんのために全力をつくしていきます。産科医療協議会として、以下のことを提言いたします。

1) 行政、病院設立母体、医療関係者、妊産婦ならびにその家族、すべての関係者が、地域における周産期医療システムの整備と円滑な運用に協力すること。

2) 行政に対して:NICUベッドの確保をはじめとする周産期医療体制の維持に必要な医療資源とチーム医療で妊婦ならびに赤ちゃんを支えるシステムを早急に整備すること。救急医療と周産期医療の連携強化体制充実のための施策を早急にとること。特に、母体救命の際には地域の実情にあった迅速な搬送のルールを明確にすること。各地の周産期医療協議会で議論された内容を広く公開し、妊婦さんにより良いシステムを構築すること。

3) 医療機関とその設立母体に対して:分娩取扱施設および周産期センターの勤務者(医師、助産師、看護師)の勤務実態を把握して、必要な人員の補充などの改善を図ること。その勤務の内容を正当に評価して、医療従事者が働きがいのある職場環境を整備すること。

 私達はここに声を大にして訴えます。高次医療機関に従事する医師が診療に専念できるように、医療行政は本気で取り組んでいただきたい。日本の母と子を守るために、医師、患者家族そして行政が一丸となって最善の方策を講じる努力を行っていかなければならないのです。根本的な診療システムの再構築に早急に着手することを強く望みます。

産科医療協議会 コアメンバー:
海野信也(北里大学医学部産婦人科教授)
川鰭市郎(長良医療センター周産期センター長)
久保隆彦(国立成育医療センター産科医長)
斉藤滋(富山大学医学部産婦人科教授)
篠塚憲男(胎児医学研究所代表)
中井章人(日本医科大学多摩永山病院産婦人科教授)
松田義雄(東京女子医科大学産婦人科教授)
松原茂樹(自治医科大学産婦人科教授)

なおこの声明文をお読みになられた墨東病院で奥様を亡くされたご主人様から以下のコメントを頂いています。
「この度の皆様方の声明に対して、深く感謝申し上げると共に、心強く感じております。 決して恵まれたとは言えない環境の中、ご苦労が絶えないことと思いますが、決して屈することなく、命を取り出すという重責ある、尊い仕事を誇りを持ってまっとうして頂くことを心よりお願い申し上げます。」

(産科医療協議会・声明文、2008年10月30日)

****** アメーバニュース、2008年10月29日
http://news.ameba.jp/domestic/2008/10/19690.html

妊婦死亡問題 誰も責めない夫の会見に感銘する声

 東京都内で8つの医療機関から救急搬送を断られた妊婦(36)が3日後に脳内出血で死亡したことを受け、彼女の夫(36)が27日に厚生労働省で記者会見を開いた。その会見内容を知った人々が感銘を含め、ネットで様々な意見を述べている。

 テレビ等の各種メディアでは、最終的に妊婦を受け入れた都立墨東病院を非難する例が目立っていた。同病院側が一度は受け入れを拒否したことや、「総合周産期母子医療センター」という指定を受けていながらも、産婦人科医の減少のために受け入れ態勢が整っていなかったからだ。また、石原慎太郎東京都知事(76)や舛添要一厚生労働大臣(59)が、責任の所在を互いになすり付けあったことも報道に拍車をかけた。

 しかし、当の男性は、病院側を始めとする医療現場や行政を責めるどころか「妻が浮き彫りにしてくれた問題を、力を合わせて改善してほしい。安心して赤ちゃんを産める社会になることを願っている」「何かが変われば『これを変えたのはおまえのお母さんだよ』と子供に言ってあげたい」などとコメント。

 また妻が亡くなる日に、医師や看護師が保育器に入ったままの赤ちゃんを妻の腕に抱かせてくれたおかげで、親子水入らずの短い時を過ごせたというエピソードを披露。「墨東病院の医師も看護師も本当に良くしてくれた。彼らが傷つかないようにしてほしい」と話した。

 ネットでは、「なんて立派な人なのだろう、こういう人のためなら今から産科目指して勉強し直そう、この惨状を放ってはおけない!」「病院を訴えてやるだの賠償責任だのいう人が多い中で、奥様を亡くされたのにここまで言える方はいないと思います」などと男性の対応を称える声が多く見られた。

 また、「医療崩壊は、国民全体で力を合わせて解決すべき問題だと思います」「安心して産める世の中になってほしいです」などと医療現場の改善を願う声も多く見られた。

(アメーバニュース、2008年10月29日)

****** 共同通信、2008年10月30日

産科医、55%が定数割れ 半数は1人当直 90%超「確保に苦労」 総合母子医療センター

 緊急処置の必要な妊婦や赤ちゃんを受け入れる全国の「総合周産期母子医療センター」(計75施設)のうち、共同通信の緊急調査に回答した60施設中55%は必要な産科の常勤医数を確保できずに定数割れに陥っていることが29日、分かった。

 当直の産科医が1人態勢のセンターが半数を占め、全体の90%以上が産科医確保に「苦労している」とした。

 センターに指定されている東京都立墨東病院など8病院に受け入れを断られた妊婦の死亡判明から1週間。母子の命を救う「最後のとりで」ともいえるセンターの中には、東京以外でも綱渡り診療を余儀なくされているところが少なくない現状が浮かんだ。

 調査は23日から全センターを対象に質問用紙を配布して実施。匿名を条件に医師数や診療上の不安を尋ね、60施設(回答率80%)からファクスで回答を得た。

 定数は各病院が望ましいと考える医師数を独自に定めるもので、それより産科の常勤医数が下回っているのは33施設(55%)。うち4施設は定数の半分以下だった。定数を満たすのは17施設(28%)で、残る10施設は定数なし(9)と無回答(1)。

 国はセンターについて原則「24時間体制で複数の産科医が勤務することが望ましい」としているが、平日または土日の当直が1人態勢で、緊急時は別の医師を呼び出しているのは30施設(50%)。ほかは2人から3人の医師が当直していた。1人当直でも地方の施設からは「待機の医師が十分程度で駆け付けられるので問題ない」などの意見は多かった。

 産科医の確保に36施設が「非常に苦労している」とし、「やや苦労している」(19)も合わせると「苦労している」は92%。産科医不足のために何らかの受け入れ制限をしているのは5施設あり、1人当直を理由に受け入れを断った経験のある施設も3カ所あった。

 医療を提供する上での不安(複数回答)は「産科医の確保」が85%で最多。次いで「新生児科の医師確保」(73%)、「病床不足」(55%)、「脳外科などほかの診療科との連携」(22%)などが挙げられた。「いつまで続けられるか不安。疲れ切っていますから」(中部地方のセンター)などの切実な声もあった。

▽東京の妊婦死亡問題

 東京の妊婦死亡問題 体調不良を訴えた東京都内の妊婦(36)が4日、都立墨東病院など8病院に受け入れを断られ、最終的に搬送された墨東病院で出産後、脳内出血の手術を受け、3日後に死亡した。赤ちゃんは無事。墨東病院は都指定の「総合周産期母子医療センター」で産科医の定数を9と定めているが、産科医が次々退職して常勤医は4人になり、7月から土日の当直を1人態勢として急患は原則受けないことにした。4日の当直も研修医1人だった。

▽総合周産期母子センター

 総合周産期母子医療センター 胎児の異常や切迫流産など、リスクの高い妊娠に対応する医療機関で、2008年10月末現在、75カ所が指定されている。複数の産科医を配置し、新生児用の集中治療室などを備え、24時間体制で運営。費用の3分の1を国の補助金で賄っている。厚生労働省は全都道府県に設置を求めているが、山形、佐賀の両県は未整備。厚労省は産科医が常時複数で対応することが望ましいとするが、母体胎児集中治療管理室が6床以下の施設は別の医師を呼び出せる態勢をとることを条件に1人でも可能とする。

(共同通信、2008年10月30日)

****** 共同通信、2008年10月30日

悲劇繰り返さぬ方策を

 【解説】全国の総合周産期母子医療センターを対象とする調査を通じ、東京で起きた妊婦死亡がほかの地域でも起こりうる現状があぶり出された。産科救急を取り巻く課題は地域ごとに違う。東京都の問題を教訓に各自治体や住民が地元の現状を知り、悲劇を繰り返さない方策をともに考える契機としたい。

 センターは低体重児などのケアのため新生児集中治療室(NICU)設置が条件とされるなど、小児医療に重点を置いて整備されている。高齢出産の増加で糖尿病や脳血管障害といった妊婦の合併症が増えているのに、調査では脳外科など成人の診療科がないという回答もあった。今後は救命救急センターなどとの連携構築が急務だろう。

 一方、今回の問題では産科医不足が注目を集めたが、調査では搬送を断る最大の理由として「NICUの満床」を挙げる施設が多かった。医療技術の向上によって救命できる赤ちゃんが増えた分、NICUの増床や長期入院児を受け入れる施設整備も必要だ。

 また満床で妊婦搬送を受けられない場合、当直医が電話で長時間にわたって別の受け入れ先を探す現状は診療に支障をきたし、負担が大きい。神奈川県や大阪府などでは行政などが代わりに搬送先を探すコーディネート業務が始まっている。産科医の待遇改善など長期的な医師増加策は重要だが、疲弊する産科救急の現場を支えるそういった取り組みは即効性がある対策として注目される。

(共同通信、2008年10月30日)

****** 共同通信、2008年10月30日

「どこでも起こりうる」 崩壊寸前、医師から悲鳴

 「(東京のような問題が)どこでいつ起きても不思議ではない」「疲れ切っている」。ぎりぎりの人数で妊婦と赤ちゃんの命を救おうとする現場の産科医らから寄せられた悲鳴とも取れる切実な声。29日まとまった総合周産期母子医療センターの全国調査は、崩壊寸前の産科救急医療の実情を浮き彫りにした。

 ▽限界

 「産科医不足で現状をもう維持できません。近々(受け入れ)制限を考えている」と訴えたのは四国のセンター。北陸のあるセンターは新生児を診察できる専門医が足りないと嘆き「近い将来、この県の周産期医療が崩壊する可能性は十分ある」とつづった。

 麻酔科医や看護師の不足、新生児集中治療室の満床状態...。抱える問題はそれぞれ違うが、センターが県に1、2カ所程度しかない地方では必ず搬送を受け入れているとした回答が目立った。

 「今回の事態は東京だから起きた。地方でセンターが拒めば、重症患者はどこで誰が診るのか。満床を超えても受け入れるのが使命でありプライド」(中国)。都会との意識差を指摘するが、地方の切羽詰まった状況も浮かぶ。

 ▽連携

 今回、センターの一つである東京都立墨東病院など8カ所の病院に受け入れを断られた後、亡くなった妊婦の病気は脳内出血だった。「妊婦は何でも産科に回すことが問題」(中部)など、重い合併症のある妊婦を救うには脳外科や救急などほかの診療科と連携した受け入れ体制をつくる必要があるとの意見は多い。

 関東地方のセンターに勤務する、ある産科医は4、5年前、くも膜下出血で搬送された20代の妊婦の緊急帝王切開をしたことがあった。幸い平日の昼間で、総合病院のため脳外科や麻酔科、新生児科などの医師計10人以上がすぐ集まって手術し、母親と赤ちゃんは一命を取り留めたという。

 この産科医は「それだけの医師をセンターに常時確保するには、今の国民医療費では全く不足。墨東病院の産科当直医が1人だったことが問題ではない」と強調する。

 ▽確実

 調査では90%以上のセンターが「産科医確保に苦労している」とし、全体のほぼ半数が1人当直態勢だった。「総合センターで2人当直を確保できないのは重大。早急に産科医増員策をとらないと同様な事例が起きる」(近畿)と警告する声がある一方で「2人当直が義務になればたくさんのセンターが消滅する」(四国)との意見もある。

 通勤に1、2時間かかる都会とは違い、地方は医師が10分程度で病院に駆け付けられるケースが多く、調査の回答でも1人当直を問題視することへの抵抗感が目立った。大切なのは地域の実情に合わせ、妊婦と赤ちゃんの緊急時に確実に対応できる体制作りだ。

 厚生労働省は現在、全国のセンターの緊急調査を進めており、今後は周産期医療と救急部門の連携体制構築などを進める方針。

 センターの窮状を改善するには何が必要なのか。調査では具体策として「曜日による当番制など必ず受け入れる施設を毎日確保」(関東)「状況に応じて搬送先を割り振るシステム」(四国)「過酷な労働条件の改善と訴訟リスク軽減」(関東)「同じ病院内でも産婦人科医の給料をアップし、出産立ち会い料金を給料に加える」(九州)などが挙げられた。

(共同通信、2008年10月30日)

****** 産経新聞、主張、2008年10月30日

医師不足 協力体制強めて解決せよ

 脳内出血の妊婦が受け入れを拒否されて都立墨東病院で死亡した問題を受け、厚生労働省が全国の「総合周産期母子医療センター」に対する緊急調査を実施したところ、多くの医療センターで常勤の産科医が足らず、当直も回らない実態が判明した。

 妊婦や新生児の緊急治療に対応できる病院でさえ、このありさまだ。明らかに産婦人科の勤務医が不足している。

 今年6月にまとまった医師不足を解消するための厚労省の「安心と希望の医療確保ビジョン」では、これまでの医師養成の抑制方針を百八十度転換し、医師の増員を打ち出した。

 しかし、単純に医師を増やしても問題は解決しない。増やした医師がビル診(オフィス街の診療所)などの開業医に流れるようでは意味がない。不足している病院の勤務医を計画的に増やして配置していかなければならない。

 そのためには第一に勤務医の待遇改善が求められる。開業医の年収は勤務医の1・8倍にも上る。診療報酬を勤務医に手厚く配分し、勤務医の収入を引き上げ、その分開業医の診療報酬を引き下げる。これには医師会の協力が欠かせない。勤務医を支援するためには医療クラーク(事務員)を増やし、看護師や助産師らの能力を向上させることも必要である。

 勤務医のなかで産婦人科医と同様に小児科医や救急医、外科医も不足している。勤務がきついからだ。この診療科ごとの偏在をなくすためにも労働環境の改善が求められる。医師が診療科を自由に名乗れる自由標榜(ひょうぼう)制にある程度制限を加え、一部の診療科への集中を防ぐことも検討したい。

 地方の医師が不足する地域的偏在も問題だ。開業する条件に地方の病院での一定年数の勤務を求めることも必要かもしれない。

 今回の問題では地元医師会が今年2月の時点で東京都に墨東病院の産科医の人数を増やすよう要望していた。しかし、要望するだけではなく、医師会に所属する産科の知識を持った開業医が交代で墨東病院の勤務に就くことも可能だ。そうした協力こそ人の命を救う医師の使命である。

 責任の所在をめぐって厚労相と都知事が対立する場面もあった。国、自治体、医師会、病院が力を合わせ、医師不足を解消し、安心して治療の受けられる社会を作っていかねばならない。

(産経新聞、主張、2008年10月30日)

****** TBSニュース、2008年10月28日

妊婦受け入れ拒否、背景に待遇格差

 「安心して子供が産める社会になって欲しい」。8つの病院への搬送を断わられ、死亡した妊婦の夫が会見を行い、こう訴えました。医師もいない。資金もない。公立病院の実状を取材しました。

 今年8月、ディズニーランドで撮った夫婦の写真。妻のお腹には初めての赤ちゃん。出産を心待ちにしていました。しかし妻(36)は今月4日、ひどい頭痛を訴え、救急車で主治医のもとに運ばれました。激しい頭痛を訴える妻。大きな病院に移そうとしましたが、受け入れ先はなかなか見つかりませんでした。およそ1時間20分後、妻は東京・墨田区の都立墨東病院に運ばれました。帝王切開と頭の手術を受けましたが、3日後に帰らぬ人となりました。

 「(墨東病院では)妻が死ぬ日に、妻の腕に子供を抱かせてくれました。2、30分くらいだったかもしれないが、本当に温かい配慮をしていただけた」(亡くなった妊婦の夫)「決して病院の責任を追及するつもりはない」と夫は繰り返しました。

 今回の事態の背景には、産科や小児科、救急の現場での医師不足があります。この現象、特に公立病院では深刻です。一体、なぜなのでしょうか?

 「墨東病院に関しては、1年くらい前から院長から召集がかかっていて」(江戸川区医師会)こう明かしたのは、都立墨東病院がある東京・江戸川区の医師会。医師が不足していると、病院側から地元にSOSが来ていたといいます。

 「国立大学、はっきり言って医者離れが起きてます」(東京医科歯科大・坂本徹病院長)「大学病院は、一方では毎年交付金が何百億と減額され、他方では緊急医療に対する要求も高まっていて、我々は二律背反的な相容れないことを要求されている」(東京大学・武谷雄二病院長)国立大学病院の院長たちも危機感を訴えています。大学病院には「カネもなく、医師もいない」のだといいます。

 都内の国立大学病院の給与に関する資料。医師不足を補うための非常勤医師に支払う給与が記されていますが、年収は1年目では273万円。7年以上勤めても343万円。常勤でも、35歳で年収600万~700万円だといいます。

 この大学病院の病院長は、我々の取材にこう語りました。「残業手当もない、土日もない。これでは医師が集まらなくても無理はない」(国立大学病院院長)「(公立病院の給与システムは)実態に合わない給与システム。(民間病院の医師は)たいだい1000万円くらい高いのが普通でしょうね」(医療経営財団協会の前会長・長隆氏)経営難に陥った公立病院の改革を手がけてきた公認会計士の長隆氏。公立病院の実態をこう語りました。「経営者(国や自治体)に真剣味がないってことですよ。それがいかにも病院長が悪いとか、勤務医師が怠惰とか捉えられるのは極めてよくない」(医療経営財団協会の前会長・長隆氏)

 8つの病院への搬送を断わられ、妊娠中の妻が死亡した夫はこう訴えました。「赤ちゃんのいるお母さんが安心して子供を産めるような社会になることを求めています」

(TBSニュース、2008年10月28日)

****** NHKニュース、2008年10月28日

“産科医不足の解消を”

 妊娠中の女性が病院に受け入れを断られたあと死亡した問題を受けて、女性がかかりつけだった診療所のある東京・江東区の山崎区長が、28日、東京都の石原知事と会い、産科医不足の解消を国に働きかけるよう文書で要望しました。

 この問題で、死亡した女性のかかりつけの診療所のある東京の江東区では、女性の受け入れを最初に断った都立墨東病院が緊急時の搬送先になっていますが、土日と祝日の産科の当直の医師が1人だけという事態になっており、地元の助産師会が、今月24日、山崎孝明区長に、産科医不足の解消を東京都や国に要望するよう求めていました。東京都庁で石原知事と面会した山崎区長は、妊娠中の女性の医療に対する不安が地域で広がっているとして、産科医不足の解消に向けた抜本的な対策を都が国に強く働きかけるよう文書で要望しました。これに対して石原知事は、都としても国に働きかけていく考えを示したということです。山崎区長は「こうした事故を二度と起こさないのが行政の責任だ。国と地方自治体が一体となって、安心して赤ちゃんが産める環境を作っていきたい」と話しています。

(NHKニュース、2008年10月28日)

****** 毎日新聞、東京、2008年10月28日

妊婦受け入れ拒否死亡:「周産期医療充実を」 江東区長が知事に要望

 脳出血を起こした妊娠中の女性(36)が都立墨東病院(墨田区)など8病院に受け入れを断られた後に死亡した問題で、女性のかかりつけだった産婦人科医院の地元である江東区の山崎孝明区長が28日、都庁に石原慎太郎知事を訪ね、産科医の確保をはじめとした周産期医療の充実を申し入れた。

 山崎区長によると、石原知事は「都も一生懸命やっているが、基本的には国の責任だ」と述べ、区と都が連携して国に働きかけることで一致したという。

 山崎区長は会談後、「突き詰めて言うと、やはり医師不足に行き当たる。この問題の解決なくして解決はない」と指摘。舛添要一厚労相と石原知事の双方が「任せられない」と非難し合っていることについては、「そんなことをやっている暇はない。国も自治体も一緒になって努力しなければ国民は安心しない」と語った。【木村健二】

(毎日新聞、東京、2008年10月28日)

****** 毎日新聞、2008年10月28日

妊婦受け入れ拒否死亡:周産期センター改善策を 問題を受け厚労省通知

 舛添要一厚生労働相は28日の閣議後会見で、東京都立墨東病院(墨田区)などに受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題について、墨東病院の医師補充策として他の都立病院から産科医を回すべきだとの考えを示した。また都道府県に対し、各地の周産期医療センターの運用状況を調べ、11月下旬までに改善策をまとめるよう通知したことを明らかにした。

 通知は27日付で、周産期医療センターの当直体制や救急部門との連携、搬送先の検索システムの更新頻度などを来月4日までに報告し、必要があれば改善策を同28日までにまとめるよう求めている。

 医療機能の集約・再編による医師確保の検討も求めており、舛添厚労相はこの点について「(渋谷区の)広尾地区には、いい産科の病院がたくさんあり、例えば都立広尾病院を他の都立と一緒にして医療資源を他の病院に回せば(墨東病院の)問題は解決する。一つの方策として提言したい。やるかどうかは都の裁量だ」と述べた。

 また、産科医療を巡る課題について、近く産科と救急医療の専門家を集めて短期的な対策をまとめる意向を示した。【清水健二】

(毎日新聞、2008年10月28日)

****** 毎日新聞、2008年10月28日

妊婦死亡:墨東病院より少ない施設6割 周産期センター

 脳出血を起こした東京都内の妊婦が8病院に受け入れを断られて死亡した問題で、厚生労働省は産科救急の中核を担う全国74カ所の総合周産期母子医療センターの医師数を再調査し、28日の自民党の会合で報告した。常勤の産科医(研修医含む)が受け入れを拒否した都立墨東病院(常勤6人、非常勤9人)より少ないのは3施設だったが、非常勤を加えた場合は6割以上の46施設が墨東病院を下回っていた。

 厚労省は4月現在の医師数を把握していたが、非常勤の数え方などが不統一だったため、10月現在の最新値を聞き取り調査した。

 それによると、産科の常勤医は882人、非常勤医は148人で、常勤の最多は昭和大病院(東京都品川区)と九州大病院(福岡市)の30人、最少は群馬県立小児医療センター(同県渋川市)の3人。東京女子医大八千代医療センター(千葉県八千代市)と国立病院機構香川小児病院(香川県善通寺市)も、墨東病院より少ない5人だった。

 常勤と非常勤を合わせた産科医数では、東京都の市部で唯一指定されている三鷹市の杏林大病院(11人)、京都府内で1カ所だけの京都第一赤十字病院(9人)、広島市民病院(12人)など46施設が、墨東病院の15人より少ない。

 また、母体・胎児集中治療室(MFICU)の1病床当たりの常勤医数は0.5~5人と、施設間で最大10倍の開きがあり、対応の手厚さに差がみられた。

 今回の調査では非常勤の勤務実態や当直態勢は分からず、厚労省は来月4日までに詳細な運用状況についての文書報告を求めている。【清水健二】

(毎日新聞、2008年10月28日)

****** 毎日新聞・社説、2008年10月30日

周産期センター 産科医不足解消は緊急課題だ

 24時間態勢でリスクの高い妊婦と新生児のトラブルに対応する「総合周産期母子医療センター」で、産科医不足の現実が明らかになった。東京都内の妊婦が八つの病院に受け入れを断られ脳出血で死亡した問題を受け、厚生労働省が全国75カ所の同センターに緊急調査を行って分かった。

 常勤産科医が6人以下だったのは都立墨東病院をはじめ15施設あった。厚労省は当直体制を回すには10人の常勤医が必要とみており、今回と同じことが多くの周産期センターで起きてもおかしくない実態が浮き彫りになった。

 緊急調査から産科医不足の厳しい現実がみえてくる。同センターは妊婦や新生児の救急医療に対応するために設置されたはずだ。しかし実際には「最後のとりで」となっていなかった。これでは、安心して子どもを産むことができない。

 周産期センターは、国が96年から全国で整備を始めたものだ。だが、調査の結果をみると、制度を作って補助金を出すだけで、施設の運営や医師不足の実態について点検をしてこなかったのではないかと指摘せざるを得ない。国だけではなく、都道府県にも責任はある。地域医療に対する責任をもっているのだから、周産期センターの診療体制を確保し、地域の医療機関とも十分な連携を取り、産科救急患者を確実に受け入れる態勢を整備すべきだ。

 産科救急が危機的な状況に陥っている大きな理由は産科医不足だ。医師の全体数は毎年約4000人増えているが、産婦人科・産科医は98年から06年までに1割減少している。過酷な勤務や医療事故による訴訟リスクなどが背景にあり、結婚や子育てなどで一時的に離職する女性医師も多い。

 厚労省は医学部定員を増やす方針を決めているが、短期間で医師養成はできない。そこで緊急的な対応策を作って、早急に医師不足を解消する必要がある。具体的な案を挙げてみたい。

 まずは女性産科医に復職してもらうための労働条件や環境の整備だ。短時間勤務の導入や病院内に保育所を作ることも必要だ。地域の医師会などとの連携を強化し緊急時には臨機応変に医師派遣を行う仕組み作りを急いでほしい。土日曜、祝日の当直は2人以上が望ましいとされており、これは緊急に手当てすべきだ。

 患者の家族やかかりつけ医と周産期センターなど救急病院との情報、連絡体制の再構築も必要だ。大阪府が昨年秋に設置した搬送先の調整に当たるコーディネーターもひとつの手段だ。患者の情報を的確に病院に伝え、受け入れ拒否を起こさないための有効な手だてとなろう。

 「妻が死をもって浮き彫りにした問題を、力を合わせて改善してほしい」。墨東病院で死亡した妊婦の夫が記者会見でこう訴えた。重く受け止めたい。

(毎日新聞・社説、2008年10月30日)

****** 朝日新聞、2008年10月28日

「医師確保へ都・国が抜本策を」 江東区長が要望書

 脳出血を起こした妊婦が東京都内の8病院に受け入れを断られた後に死亡した問題で、妊婦のかかりつけ医がある江東区の山崎孝明区長は28日、医師確保に向けた抜本的対策を都が区とともに国に働きかけるよう求める要望書を石原慎太郎都知事に出した。

 要望書では「医師不足の解消など周産期医療体制を支える施策は国が自らの責任で実施すべきだ」としている。今後、区長会を通じても国に働きかけたいという。

(朝日新聞、2008年10月28日)

****** 読売新聞、2008年10月28日

妊婦受け入れ拒否問題、厚労相が全国調査を指示

 東京都内で妊婦が8病院に受け入れを拒否され、出産後に死亡した問題を受け、舛添厚生労働相は28日の閣議後の記者会見で、各都道府県に対し妊婦や新生児の治療にあたる「周産期母子医療センター」の当直体制や受け入れ状況などを調査し、報告するよう通知したことを明らかにした。

 調査対象は、最重症患者の救命にあたる「総合周産期母子医療センター」75か所と、「地域周産期母子医療センター」237か所。11月4日までの報告を求めた。

(読売新聞、2008年10月28日)

****** 読売新聞、2008年10月29日

周産期医療センター、常勤6人以下は都立墨東含め15施設

 東京都内の妊婦が8病院に受け入れを拒否され、出産後に死亡した問題を受け、厚生労働省は28日、全国75か所の「総合周産期母子医療センター」の医師数などの緊急調査結果(速報値)を公表した。

 常勤の産科医(研修医含む)が6人以下だったのは、妊婦の受け入れを最初に拒否した都立墨東病院(墨田区)も含め、15施設あった。

 墨東病院では、医師不足から土日祝日の当直医が1人しかいなかったことが問題視されている。規模や設備の違いで単純に比較できないが、厚労省では、常勤医が少ないと、受け入れ体制に不備が生じる恐れもあるとみている。

 全国の合計で、常勤医は882人(1施設平均11・8人)だった。これまで墨東病院は常勤医4人と説明していたが、厚労省の調査では研修医も含めて集計したため、6人となった。

(読売新聞、2008年10月29日)

****** 読売新聞、青森、2008年10月29日

県指定病院も1人当直

周産期母子医療 医師不足が深刻化

 脳出血を起こした東京都内の妊婦が8病院に受け入れを拒否され、出産後に死亡した問題は、医師不足に悩む県内の医療関係者にも、重症患者をどう受け入れるのか、改めて課題を突き付けた。県内では、病院間で情報を共有して効率的な搬送に努めているが、産科医不足という根本的な問題は解消されておらず、医師の確保は急務だ。(谷川広二郎、岡部雄二郎)

 女性が出産した都立墨東病院は、最重症の妊産婦や新生児の救命にあたる「総合周産期母子医療センター」に指定され、県内では県立中央病院がその役割を担っている。国は態勢の目安として、「常時2人以上の産科医が勤務することが望ましい」としている。

 しかし、県立中央病院の当直時間帯(午後5時~午前8時15分)は産科医が1人。常勤医が6人しかおらず、複数の医師で当直にあたるのは難しい状況だ。このため、当直の医師のほか、医師1人を自宅待機とし、緊急時に呼び出して対応している。ただ、他病院から頻繁に妊産婦が救急搬送され、ベッドは常に満床状態。佐藤秀平・総合周産期母子医療センター長(47)は「限界を超えている。綱渡り的な状況」と話す。

 また、比較的高度な産科医療にあたる「地域周産期母子医療センター」のうち、八戸市立市民病院と国立病院機構弘前病院も当直の産科医は基本的に1人。青森市民病院とむつ総合病院は当直の産科医がいない。青森市民病院は常勤の産科医が3人。日中でも手術や救急治療で人手が足りずに受け入れを断るケースがあるといい、青森市民病院の工藤明総務課長は「現体制では24時間体制を組むのは難しい。もともとパイが少ない産科医は、どこの病院でも不足している」と窮状を訴える。

 ◇   ◇   ◇

 では、県内で妊産婦が重症になった場合、どう対応しているのか。

 県内では、病院間で病床の空き状況などを共有する「県広域災害・救急医療情報システム」が構築されている。産科も、県内の主な病院の病床数や対処できる症状などが一覧で公開され、開業医から大学病院まで県内のすべての産科が専用パソコンで閲覧できる。情報は毎日更新され、救急搬送時の参考にしている。

 さらに、都内で起きた妊婦受け入れ拒否問題は、患者が妊婦だったために妊婦特有の合併症を専門とする周産期母子医療センターに搬送したが、県内では県立中央病院が司令塔となって、心筋梗塞(こうそく)や脳血管障害といった偶発的な重症合併症に対応できる病院を探して搬送先を指示している。

 県立中央病院の佐藤センター長は「周産期という狭い視点ではなく、合併症そのものの担当科ですぐに治療を行える医療体制をとっている」と話す。ただ、「情報共有は少ない医者や施設を最大限に活用する工夫でしかない」とし、医師不足解消の必要性を訴える。

 県医療薬務課は、「医師の確保はすぐにはできないが、医師の養成と定着のため自治体と連携し、確保に努めたい」としている。

(読売新聞、青森、2008年10月29日)

****** 読売新聞、広島、2008年10月29日

備後の産科救急医療リポート 市民病院休診に不安 福山市周辺

母子双方救う体制不十分

 脳出血を起こした東京都内の妊婦が8病院に受け入れを拒否され、都立墨東病院で出産後に死亡した問題は、産科医不足に悩む備後地方の医療関係者にも波紋を投げ掛けている。福山市では、福山市民病院の産科が休診して既に1年半が経過、医師からは「東京と同じ問題が、いつ起こっても不思議ではない」と不安視する声が出ている。産科救急受け入れの中核施設で、高度な産科医療が可能な「周産期母子医療センター」の整備状況など、備後の産科救急医療の現状を、2回に分けて緊急リポートする。

 周産期母子医療センターは、〈1〉新生児集中治療室(NICU)や妊婦の集中治療室(MFICU)を数多く備え、極めて高度な医療を行う「総合」と、〈2〉比較的高度な産科・新生医療を提供する「地域」の2種類がある。県内には計9病院あるが、「総合」は広島市内の2病院のみで備後地方にはなく、福山市沖野上町の独立行政法人国立病院機構「福山医療センター」(産科医5人)と、尾道市古浜町の「JA尾道総合病院」(同4人)の2病院が「地域」に認定されている。

     ◇

 福山市周辺の状況はどうか。厚生労働省の調査によると、福山、府中、神石高原の3市町の行政や医師会などでつくる「福山・府中地域保健対策協議会」(長健会長)管内の状況(昨年12月1日現在)は、出産可能な医療機関が14施設(病院7、診療所7)で、常勤医は33人。府中市上下町の市立府中北市民病院(産科医1人)を除き、すべて福山市に集まっており、神石高原町には出産可能な医療機関はない。

 通常分娩(ぶんべん)では対応出来ない、大量出血や妊娠中毒に陥った妊婦は、どこで受け入れているのか。同協議会が2007年7月、管内の同4~6月の状況を調べたアンケートでは、同4月1日の福山市民病院の産科休診後、管内で発生した産科救急搬送41件中、約半数の20件を福山医療センターで受け入れた。残りは12件(約30%)が倉敷中央病院(岡山県倉敷市)、3件(7%)がJA尾道総合病院で、川崎医大病院(同市)などもあった。

 このうち、救急搬送依頼を断られ、他病院へ回されたケースが9件あり、半数以上を岡山県内の病院に回す結果となった。拒否の理由は、ほとんどがNICUなどの「満床」だった。

 その後、7~8月の状況を同様に調査したところ、産科の救急搬送26件中、21件(約80%)を福山医療センターで受け入れており、引き受けを断ったケースは1件に改善されたという。

 同協議会はこうしたデータを基に07年11月、「福山医療センターを中心とした受け入れ体制が定着しており、市民病院休診に伴う大きな混乱はない」と結論づけた。長会長は「医療センターを含め、どの病院もめいっぱい頑張っている。問題は産科医不足」と指摘する。

     ◇

 一方で、県東部で唯一、重症の3次救急搬送を受け付ける福山市民病院の産科救急を頼れない現状を、不安視する声は根強い。同病院の救命救急センターは、05年4月~06年12月、他院の産科から運ばれた3次救急患者22人の命をすべて救った。

 金仁洙(きんひとし)副院長(58)は「産科救急は多量の出血を伴うケースが多く、1分1秒を争う。地域に産科の救命救急センターが絶対に必要だ」と強調。同市内の開業医(53)も「本来なら、市民病院と福山医療センター両方に搬送出来るのが理想。母子双方を救うためには、NICUと救命救急センターの両方を備えた病院が必要」と話している。

(読売新聞、広島、2008年10月29日)

****** 読売新聞、広島、2008年10月30日

拠点病院充実へ知恵絞れ

 備後地方の産科救急医療の現状を取材し、改めて産科医不足の深刻さを痛感した。「たらい回し」のような事案は起きていないが、どの病院もぎりぎりの状態。より安心してお産が出来るような体制作りには何が必要とされているのか。

 福山市周辺では、新生児集中治療室(NICU)を持つが重篤な3次救急患者(妊婦)を受け入れられない福山医療センターと、NICUはないが母体を救える救命救急センターのある福山市民病院の機能が分離している現状が問題だ。もし、両病院の機能が合わされば、理想的な救急医療体制と言えるだろう。

 一方、尾三地区では、JA尾道総合病院の拠点性を更に高める必要がある。三原市の開業医から「産科医やNICUをもっと増やしてほしい」との声も聞かれた。同病院は2011年の新築移転も決まっている。これを機に産科医を2、3人集める手はないのか。

 産科医不足を解消する“特効薬”がない中、多くの医師が拠点病院に産科医を集約し、地域の救急体制を充実させる必要性を強調していた。そのためには、産科医を多く抱える病院とそうでない病院との利害調整も必要だ。行政がリーダーシップを発揮し、関係機関が知恵を絞らなければならない。【諏訪智史】

(読売新聞、広島、2008年10月30日)


母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その4)

2008年10月28日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

妊娠している女性でも、突然、脳や心臓や肺などに重大な異変が生じることは決してまれではありません。そういう場合は、産科医だけでは対応できません。例えば脳の疾患であれば神経内科医や脳外科医、心臓の疾患であれば循環器内科医や心臓外科医が迅速に対応する必要があります。まずは、一刻も早く適切な専門医のもとに搬送されることが重要です。

しかし、妊婦の救急疾患の場合は、救急医療の搬送システムではなく、周産期医療の搬送システムで収容する病院を探すことになるので、産科医不在とかNICU満床とかの理由で、次々に母体搬送の受け入れを拒否されて、なかなか搬送先病院が決まらないことも起こり得ます。母体の救命のためには一刻も早く脳外科医のもとに搬送される必要があるのに、たまたま妊娠していたために搬送先病院がスムーズに決まらず、救命のチャンスが失われることもあり得ます。

また、周産期医療の救急疾患には、胎児疾患、新生児疾患、母体疾患がありますが、総合周産期母子医療センターであっても、胎児疾患と新生児疾患への対応を主として、母体疾患には対応できない施設もあります。

周産期医療と救急医療を連携させて、母体搬送をどの病院で受け入れるかをスムーズに決定するシステムを確立する必要があると思います。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その2)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その3)

****** 毎日新聞、2008年10月27日

妊婦死亡:搬送先検索システムを強化 厚労相が考え示す

 舛添要一厚生労働相は27日、妊婦死亡問題に関して「周産期医療と救急医療の連携をどうするかが課題だ」と述べ、インターネットで急患の搬送先を検索するシステムを充実強化させる考えを示した。

 東京都の江戸川区医師会の幹部と意見交換した舛添厚労相は、墨東病院が一般救急のER(救急治療室)も併設していた点に触れ「最初にERに運び、脳出血の処置をしながら近隣の産科医を呼んでいれば、どうだったか」と指摘。会談後、報道陣に「受け入れ可能な病院を地図で表示するようなシステムを政府としても考えたい。長期的にメディカルクラーク(医療事務員)を増やし、データ更新も早める」と述べた。【清水健二】

(毎日新聞、2008年10月27日)

****** 毎日新聞、2008年10月27日

妊婦死亡:母子対面できず「悲しい」「改善を」夫が訴え

 東京都立墨東病院(墨田区)など8病院に受け入れを断られた後に脳出血で死亡した妊婦(36)の夫(36)が27日、厚生労働省内で会見し「母親と子供が互いの顔を見ることができなかったことが一番悲しい」と、時折声を詰まらせながら語った。病院や行政に対しては「誰かを責めるつもりはない。妻が死をもって浮き彫りにした問題を、力を合わせて改善してほしい」と訴えた。

 夫によると、妻が急に激しい頭痛を訴えたのは、自宅で夫婦でDVDを見ていた4日夕。寝かせても一向に症状が治まらないため、救急車でかかりつけの産科医院に運んだ。電話口で搬送を次々と断られる産科医を見て「医療が発達している東京で、なぜ受け入れてくれる病院がないのか、やり切れない思いだった」と振り返る。

 墨東病院に運ばれた時は、既に呼び掛けなければ目を開けない状態で、緊急手術の末、男児は助かったが、妻は脳死状態だった。3日後に亡くなる数時間前、病院は目を覚まさない妻の腕に抱かれるように、子供を置いてくれたという。

 8年前に結婚した妻は、芯が強く優しい人柄で、初めての出産を前に胎教のCDを買い込み、おなかの子供に前もって決めていた名前で毎日話し掛けた。「将来、同じことが繰り返されないように医療が変わったら『変えたのはお前の母親だ』と言いたい」と語す。

 墨東病院は22日の会見で「かかりつけ医から脳出血を疑われる症状は伝わらなかった」と説明したが、夫は「(医師は)私の目の前で『尋常じゃない』と、ちゃんと伝えていた」と強調。それでも「墨東病院の当直医が傷ついて病院を辞め、産科医が減るのは意味がない。今後も産科医としての人生を責任もってまっとうしてほしい」と力を込めた。【清水健二、奥山智己】

(毎日新聞、2008年10月27日)

****** 共同通信、2008年10月27日

救急搬送システム改善を検討  妊婦死亡で厚労相

 東京で8つの病院に受け入れを断られ、最終的に搬送された都立墨東病院で妊婦(36)が死亡した問題で、舛添要一厚生労働相は27日、墨東病院の地元医師会の1つ、江戸川区医師会の幹部と意見交換した。

 その後、舛添厚労相は記者団に「政府として救急搬送システムの改善を検討したい」と述べた。

 医師会との意見交換で厚労相は「拠点病院をつくっても、その後情報収集しないままで、厚労省としても反省している。率直な意見を聴いて前に進みたい」と話した。

 これに対し、同医師会の徳永文雄会長は、墨東病院の産科医師数が5年前から定数の9人を下回っていることについて、今年2月、都に対して改善を要望していたことを説明。「都から具体的な回答はまだない」と話した。

 また「全国的な医師不足や、医師の養成過程の問題などが複合的に重なって医療が疲弊している」と訴えた。

 墨東病院は、24時間態勢で早産などハイリスクの妊婦を受け入れる都立病院唯一の「総合周産期母子医療センター」に指定されている。

(共同通信、2008年10月27日)

****** 共同通信、2008年10月27日

妻の死無駄にしないで」  妊婦の夫が会見

 東京都立墨東病院(墨田区)を含む8病院に受け入れを断られた妊婦(36)が脳内出血で死亡した問題で、妊婦の夫(36)=都内在住=が27日、厚生労働省で記者会見し、「妻の死を無駄にしないでほしい。誰かを責めるとかではなく、妻が死をもって浮き彫りにした問題を、力を合わせて医師、病院、都と国で改善してほしい」と産科をめぐる救急医療の改善を訴えた。

 また「当直医を責めないでほしい。医師たちは必死にやってくれた」と話し、当時の医師らの対応を前向きに評価していることを明らかにした。

 今回の問題で遺族が公の場で発言するのは初めて。

 夫は終始、背筋を真っすぐに伸ばし、机の下で両手を握りしめながら、懸命に妻の最期の様子や今の思いを語り続けた。

 突然、妻が異変を訴えたのは4日夕方。2人でDVDを見ていたが、トイレからうめき声が聞こえた気がして、様子を見に行くと妻が嘔吐(おうと)していた。「頭が痛い」。救急車を呼んだ後も痛みを訴えた。

 「妻は途中から目が開けられなくなったが、手を強く握ると握り返してきた。わたしが代われるなら代わってあげたかった…」。一瞬沈黙し、涙を浮かべながらその時の様子を振り返った。

 赤ちゃんは無事に生まれたが、妻は3日後の7日に息を引き取った。「生と死が同時に起こって正直混乱している。妻が一番誕生を楽しみにしていたのに、息子の顔を見られずに逝ったことが悲しい」と心情を述べた。

(共同通信、2008年10月27日)

****** 産経新聞、2008年10月27日

【妊婦死亡】文科省も病院の調査開始

 東京の妊婦死亡問題で、文部科学省の銭谷真美事務次官は27日の会見で、文科省としても受け入れを断った大学病院の聞き取り調査を始めたことを明らかにした。

 厚生労働省が8病院の調査をしているが、文科省も所管する大学病院に対し24日から職員を派遣。夜間の勤務形態や、新生児の集中治療室の稼働状況などを確認している。銭谷次官は「情報収集の結果に基づいて、各省が連携して対応していきたい」と述べた。

(産経新聞、2008年10月27日)

****** 産経新聞、2008年10月27日

【妊婦死亡】「医療問題改善につながれば」 遺族が会見

 東京都内で今月4日、脳内出血を起こした妊婦(36)が8病院に受け入れを拒否され死亡した問題で、妊婦の夫(36)=都内在住=が27日、厚生労働省で会見し、「妻の死を無駄にしないためにも、死によって浮き彫りになった医療問題などが改善されればいい」と述べた。

 夫は「なぜ、文明や医療の発展した都会で、誰も助けてくれないのだろう」と気持ちを吐露。その上で、「かかわってくれたすべての医療関係者は、人として一生懸命やってくれた。責任追及したり、責める気はない」とも話した。

 ただ、東京都立墨東病院や都が「受け入れ要請を受けた段階では脳内出血と分からなかった」と主張している点については、受け入れ要請した医院は「『尋常でない頭痛を訴えている』と伝えた」と反論した。

 夫によると、体重1800グラムで生まれた男児は、現在2400グラムまでになり、健康という。7日には、病室ですでに脳死状態だった妻の腕に30分ほど抱かれたという。

 この問題で、厚生労働省は27日、ハイリスク出産に対応できるよう、医師の配置見直しを検討することを決めた。

(産経新聞、2008年10月27日)

****** 産経新聞、2008年10月27日

【妊婦死亡】別れの間際、わが子胸に 夫、医師らの配慮に感謝

 「(医療を)変えたのは母さんだよ」とわが子に伝えたい-。東京都立墨東病院を含む8病院に受け入れを断られた妊婦(36)が死亡した問題。27日に会見した妊婦の夫(36)は、時に言葉を詰まらせ、妻の死を無駄にせぬよう医療の改善を祈り懸命に語り続けた。

 最後まで誰かを責めるような言葉はなく、むしろ、口にしたのは感謝の言葉。「医師や看護師は本当に良くしてくれた」。妻は息子を産むと、7日夜に息を引き取った。直前、病室に息子を運んでもらい妻の腕で抱かせてもらえた。親子水入らずの時間はわずか30分。しかし「温かい配慮をいただけた」と振り返る。

 妻はベビー用品を用意したり「パパが帰ってきたよ」とおなかに語りかけたり、赤ちゃんを楽しみにしていた。「信頼できる、優しい人だった」。妻との思い出を語る時、少しだけ柔らかな表情になった。

(産経新聞、2008年10月27日)

****** 読売新聞、2008年10月27日

産科医6団体、2月に医師不足改善の要望書を東京都に提出

 脳出血を起こした東京都内の妊婦(36)が都立墨東病院(墨田区)など8病院に受け入れを断られ、死亡した問題で、墨東病院周辺の墨田、江東、江戸川の3区にある医師会など地元産科医らでつくる6団体が今年2月、東京都に対し、産科医不足に対応するよう要望書を提出していたことがわかった。

 舛添厚生労働相が27日、江戸川区医師会と懇談した際、明らかになった。

 要望書は、都病院経営本部と墨東病院あてに提出され、同病院の常勤医が年々減少していることを指摘して、「都民の安心できる周産期体制を準備してほしい」と求めていた。江戸川区医師会の徳永文雄会長は「今回の問題は医師不足から起きた悲劇。要望書に対し、都からいまだに明確な回答がない」と訴えた。

 懇談後、舛添厚労相は「どうすれば改善できるか、ERと周産期医療との連携がどうあるべきか検討したい」と述べた。

(読売新聞、2008年10月27日)

****** 読売新聞、2008年10月27日

「妻の死無駄にしないで」夫が会見…妊婦受け入れ拒否

 脳出血を起こした東京都内の妊婦(36)が8病院に受け入れを拒否され、出産後に死亡した問題で、女性の夫の会社員(36)が27日夜、厚生労働省で記者会見し、「妻が死をもって浮き彫りにした問題を、医者、病院、都、国が力を合わせ改善してもらいたい。妻の死を無駄にしてほしくない」と、声を詰まらせながら訴えた。

 夫によると、今月4日、嘔吐と頭痛を訴えた女性が最初に救急搬送された産婦人科医院で、かかりつけ医は電話で受け入れ先を探す際、「頭が痛い」という情報を伝えていたが、なかなか受け入れてもらえなかったという。その時の心境を夫は「医療の発達した東京で、死にそうに痛がっている人を助けてもらえないのかと無力感を感じた」と振り返った。

 女性は、結婚8年で授かった赤ちゃんの誕生を心待ちにし、夫が帰宅すると、「パパ帰ってきたよ」とおなかの赤ちゃんに語りかけていたという。いったんは受け入れを拒否されたものの、女性が帝王切開で長男を出産した都立墨東病院(墨田区)では、入院3日後の7日昼、病院スタッフが病室に長男を運び、意識がない女性の腕に抱かせてくれ、親子水入らずの時を過ごした。女性は、その夜に亡くなった。夫は「医師や看護師には温かい配慮をしてもらった。だれも責める気はなく、裁判を起こすつもりもない。赤ちゃんを安心して産める社会にしてほしい」と話した。

(読売新聞、2008年10月27日)

****** 朝日新聞、2008年10月27日

2月に墨東病院体制改善要望 都に江戸川など3区医師会

 脳出血を起こした東京都内の妊婦が8病院から受け入れを断られた後に死亡した問題で、最初に断った都立墨東病院(墨田区)の産科医不足について、地元の3医師会などが今年2月、文書で改善を求めていたことがわかった。

 命の危険がある患者が出た場合に同病院に送る墨田、江東、江戸川の3区の医師会と産婦人科医会が、同病院と都病院経営本部あてに出したという。

 文書では「難問の多い周産期医療だが、都民が安心できる体制を」と要望。その上で、「毎年(産科医が)減少している間になぜ補充をできなかったのか。書面で次回の会議までに(回答を)お願いしたい」としていた。

 一方、舛添厚生労働相は27日午前、江戸川区医師会幹部と懇談し、「総合周産期母子医療センターを守っていくには、医師がいないといけない。地元の医師会の医師や病院、都とも協力して、前向きにやりたい」と述べた。

(朝日新聞、2008年10月27日)

****** 朝日新聞、2008年10月27日

「病院、都、国など力合わせ改善を」妊婦死亡の夫会見

 脳出血を起こした妊婦が東京都内の8病院に受け入れを断られた後に死亡した問題で、都内の会社員の夫(36)が27日、厚生労働省で記者会見した。当時の状況を振り返り、「妻が死をもって浮き彫りにしたものを医者、病院、東京都、国が力を合わせて改善してほしい」と訴えた。

 男性によると、妻が体調不良を訴えたのは今月4日の夕方だった。DVDを一緒にみていた妻がトイレに行ったが、なかなか戻らず、うめき声がしたため見に行ったところ、嘔吐(おうと)していたという。

 かかりつけの五の橋産婦人科(東京都江東区)に電話し、医師の助言で救急車を呼んだ後、頭痛を訴え始めた。同産婦人科に運ばれ、胎児の検査とともに、妻も診察を受けたが、頭の痛みが止まらない。医師は受け入れてくれる病院を探すため、都立墨東病院(墨田区)などに電話をかけ始めた。

 次々と断られた。男性は「やりきれない気持ちでいっぱいだった。なぜ文明が発達した都会で、こんなに痛がっているのに助けてくれる人がいないのか」と感じたという。再度の交渉で受け入れることになった墨東病院に着いたのは、異常を訴えてから約1時間半後だった。

 男性は「誰も責める気はない。この件で当直医が傷ついて病院を辞めるようなことがあったら意味がない」と話した。

 手術後、医師から妻が助かる可能性が極めて低いと説明を受け、帝王切開で無事に男の子が生まれたことを知らされた。「お母さんが安心して赤ちゃんを産めるような社会になってほしい」と声を振り絞った。

(朝日新聞、2008年10月27日)

****** 時事通信、2008年10月27日

「ハイリスク分娩の集約も」=地元医師会と意見交換-舛添厚労相

 救急搬送された妊婦が東京都立墨東病院など8病院に受け入れを拒否され死亡した問題で、舛添要一厚生労働相は27日、地元医師会の1つである江戸川区医師会を訪れ、意見交換した。

 終了後、厚労相は「周産期医療とER(救急治療室)の連携をどう改善するかが課題だ」と述べた上で、今回のケースのような「ハイリスク分娩(ぶんべん)」に対応可能な施設については「ある地域に再編、集約するなど、いろんなことを考える時期に来ている」との認識を示した。

(時事通信、2008年10月27日)

****** 時事通信、2008年10月27日

安心して産める社会に=「誰も責める気ない」-死亡妊婦の夫が会見

 東京都内で8つの病院に救急搬送を断られた妊婦(36)が脳内出血で死亡した問題で、夫の会社員男性(36)が27日夜、厚生労働省で記者会見し、「妻が浮き彫りにしてくれた問題を、力を合わせて改善してほしい。安心して赤ちゃんを産める社会になることを願っている」と訴えた。

 夫によると、妊婦特有の高血圧もなく健康だった妻の容体が変わったのは4日夕。掛かり付けの産科医院に着くころには頭痛が激しくなり、医師が搬送先を探している間中「痛い痛い」と言い続けていた。「こんなに医療が発展している東京でどうして受け入れてもらえないのか、やりきれない思いだった」。

 約1時間後、都立墨東病院での受け入れが決定。救急車では「痛い」とも言わなくなり、「目を開けろ」と言ったら辛うじて開ける状態。「病院に着くころにはもう開けなかった」と振り返り、声を詰まらせた。

 搬送要請で、医師は頭痛が尋常でない状況を伝えていたといい、「伝わらないはずがないと思うが、誰も責める気はない」と夫。最初に断った同病院の当直医について「傷ついて辞めるようなことになったら意味がない。絶対辞めないでほしい」と話した。

 さらに脳死状態で3日間を過ごした妻が亡くなる日、保育器に入ったままの赤ちゃんを連れてきて妻の腕に抱かせてくれて、親子水入らずの短い時を過ごしたエピソードを披露。「墨東病院の医師も看護師も本当に良くしてくれた。彼らが傷つかないようにしてほしい」とした。

 夫は、医師不足や搬送システムなど浮き彫りになった問題について「のど元過ぎれば忘れるのではなく、具体的な目標を持って改善に向かってほしい。何かが変われば『これを変えたのはおまえのお母さんだよ』と子供に言ってあげたい」と話した。

(時事通信、2008年10月27日)

****** 沖縄タイムス・社説、2008年10月26日

[妊婦受け入れ拒否]

救命優先の産科体制を

 脳内出血の症状を示した東京都内の妊婦が、都立墨東病院(墨田区)など八カ所の病院に診療を断られ、出産して三日後に死亡した。

 奈良県で昨年と一昨年、受け入れを拒否された妊婦が死亡したり死産したりしたケースがあった。なぜ、その教訓が生かされなかったのか。今回、受け入れを拒否した病院は、いずれも名だたる大病院である。

 高度な医療技術が集中している都市部でも、救急医療に十分対応できないという深刻な現実を見せつけられた。

 とりわけ、産科医療の切り札といわれる総合周産期母子医療センターに指定されている病院ですら、急患の受け入れを制限せざるを得ない状況に、多くの女性や産科医療関係者の受けた衝撃は大きい。

 今回、妊婦のかかりつけ医は墨東病院に受け入れを依頼した際、「頭が痛いと訴え七転八倒している」などと切迫した状況を伝えたと主張。一方、病院側は「下痢や嘔吐の症状から脳内出血との認識はなかった」とし、言い分に食い違いをみせた。

 一刻を争う状況の中で、微妙なニュアンスを含め状況を的確に伝えることは、言葉のやりとりだけでは難しいのかもしれない。

 実際、医師が治療のかたわらで、急患搬送の手だてを講ずるのには多くの困難と負担を伴う。

 しかし、救急医療では、患者の容体を迅速かつ的確に把握することが必要だ。医療機関だけでなく、自治体との連携も含め効果的な対策が求められる。

 受け入れを拒否した病院を批判するだけでは現実は改善されない。

 墨東病院が受け入れを断ったのは、産科医の当直が研修医一人だけで、対応が難しいと判断したからである。産科医不足は全国的な問題だ。

 訴訟になるのを恐れ難しい症例を避けるケースもある。実際に急患を受け入れた場合、十分な対応ができるのか、重い責任を抱えるのは事実だ。二〇〇五年度の厚労省の調査では、総合周産期母子医療センターの約七割が、満床などを理由に地域病院からの母体搬送を断ったという。地域周産期母子医療センターとして認定された病院が、医師不足のため妊婦の緊急搬送受け入れを休止する事例もある。

 医療現場からは「重症事例も増えスタッフの負担は大きい」「自分たちが倒れてしまう」など悲鳴にも似た叫びが聞こえる。

 妊娠・出産というのは本来、新たな命を宿した幸福感に包まれるものだ。赤ちゃんの健やかな成長と可能性を信じているからこそ、母親は苦しい思いをしながらも一大事業をやり遂げる。

 妊婦の受け入れ拒否は、現在、そういう立場にある女性に大きな不安を与えたに違いない。

 産科医不足を解消するには、政治・行政が強いリーダーシップを発揮するしかない。当面の対策としては、産科医の待遇改善や女性産科医が子育てをしながら働けるような職場環境づくりが急務だ。

(沖縄タイムス・社説、2008年10月26日)

****** 共同通信、2008年10月26日

常勤医は4人と修正報告へ  岡山医療センター

 東京の妊婦死亡問題を受けて厚生労働省が公表した全国の「総合周産期母子医療センター」の常勤の産科医数に関する調査結果について、国立病院機構岡山医療センター(岡山市)の青山興司院長は25日、「国の調査では3人となっているが、正しくは4人」と事実関係を明らかにした。

 同センターは24日、共同通信の取材に、「当直は常勤と非常勤の医師に加え、地域の医師に協力を求め計7人態勢でこなしている」と説明したが、青山院長は「実際は常勤医4人に非常勤の医師4人を加え計8人で当直を回している。開業医に応援は頼んでおらず、他の医療機関からも緊急時を除いてはほとんど協力を求めていない」と話している。

(共同通信、2008年10月26日)

****** NHKニュース、2008年10月26日

搬送先探すシステム機能せず

 脳内出血を起こした妊娠中の女性が東京都内の8つの病院に受け入れを断られたあと死亡した問題で、搬送先を探すシステムが機能しなかったことが明らかになりましたが、全国の3分の2の自治体でも、このシステムが十分機能していないことがわかりました。

 この問題は、東京に住む36歳の妊娠中の女性が今月4日、脳内出血を起こし、都内の8つの病院から次々と受け入れを断られたあと、3日後に死亡したものです。搬送先を早く見つけられるよう全国の都道府県には、新生児の集中治療室のベッドの空き状況などを表示する「周産期医療情報システム」が整備されていますが、今回「空きがある」となっていた3つの病院は、満床などで受け入れられませんでした。こうしたシステムの問題が全国で起きていることが、お産前後の医療を担う拠点病院の協議会が去年9月、システムを整備していた42の都道府県を対象に行った調査でも裏付けられています。それによりますと「システムが機能している」と答えた自治体は12にとどまり、64%に当たる27の自治体が「十分機能していない」と答えました。機能していない理由を尋ねたところ、「情報が更新されない」が最も多く11、次いで「電話のほうが確実」が8、「ベッドがいつも満床でシステムの意味がない」が3で、運用がおろそかになり、システムへの信頼が失われていることがわかりました。救急医療に詳しい杏林大学医学部の島崎修次教授は「1日2回の更新ではリアルタイムといえないが、忙しい医師に頻繁に入力をさせるのは困難だ。こうした業務を行うコーディネーターを導入することなどが必要だ」と話しています。

(NHKニュース、2008年10月26日)


母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その3)

2008年10月25日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

都立墨東病院の場合、産婦人科の常勤医の離職が相次ぎ、2006年11月から通常分娩の取り扱いを中止し、分娩取り扱い件数が2006年度の1306件から2007年度の438件まで約3分の1に激減しました。現在、産婦人科の常勤医数4名で、今年7月から土日は当直1人体制となり、緊急患者の受け入れは原則できないと関係機関に文書で通知してあったそうです。2人当直を維持している平日であっても、上席の医師が外部の非常勤の場合は受け入れが難しいケースがあることを関係機関に通知してあったそうです。現状では、マンパワー的に、総合周産期母子医療センターとしての機能を十分に果たせるような状況ではないようです。

「救命救急センター」や「総合周産期母子医療センター」などに指定されると、それだけで毎年何億円もの補助金が厚労省から支給される上に、診療報酬の加算があるなどの財政的なメリットもあり、大赤字に悩む自治体病院の経営陣としては、一度指定されたら何としてでも指定解除だけは避けたいと考えるのは当然なのかもしれません。しかし、『常勤医師数が極端に不足しているにもかかわらず、周産期医療の最後の砦として、産科の最重症救急患者をいつでも受け入れて、適切に対応しなければならい』という義務を現場の医師達に押し付けたら、医師達は疲弊し、遅かれ早かれ全員が燃え尽きてしまうでしょう。都内にはマンパワーや設備のより充実した大学病院や有名病院が数多く存在しますから、実情に合わせて、指定医療機関を随時フレキシブルに入れ替えていく必要があると思われます。

長野県の場合、胎児や新生児の最重症救急患者は県立こども病院(総合周産期母子医療センター)が受け入れ、母体の最重症救急患者は信州大病院が受け入れることになってます。この2施設が県の周産期医療の最後の砦という位置付けになってます。通常の産科救急患者は各医療圏の基幹病院(地域周産期母子医療センター、高度周産期医療機関)が受け入れて対応します。各状況により受け入れ可能な医療機関はほぼ1施設に限定されるため、受け入れ医療機関が見つからずに右往左往するということは、今までほとんど経験してません。ただ県内でも最近は産科医不足が深刻化し、分娩を取り扱う施設が激減してます。地域周産期母子医療センターに指定されている国立病院機構長野病院も分娩取り扱い中止に追い込まれました。『現在の周産期医療提供システムを今後も維持していけるのか?』が大きな課題となっています。

****** 共同通信、2008年10月25日

「周産期センター返上を」の意見 

墨東病院内部で、都も把握

 複数の病院で受け入れを断られた妊婦(36)が亡くなった問題で、搬送をいったん断った後、受け入れた東京都立墨東病院内部から医師不足を理由に「総合周産期母子医療センターの看板を下ろしたい」などとする声が以前から上がっていたことが25日、分かった。都も、病院内で指定解除の要望が出ている事実を把握していた。

 墨東病院は5年前から産科医が定数9人に達しない状態が続いていた。関係者によると、同病院では週末の当直医が7月から1人になったが、それ以前から「このままでは周産期医療センターの看板を下ろさないとつらい」などの声が出ていた。

 しかし同病院は都立病院唯一の総合周産期母子医療センターで、墨田、江東、江戸川区の周産期医療の拠点病院。そのため「代わりの施設がない」と、現場の医師の努力で維持していたという。

 都病院経営本部によると、病院側との会合で「『看板を掲げていていいのか』との声が出ている」との報告を受けていたという。

(共同通信、2008年10月25日)

****** 時事通信、2008年10月25日

以前から「看板下ろしたい」=減員で総合センター維持厳しく-妊婦死亡の墨東病院

 東京都内で8つの病院に救急搬送を断られた妊婦(36)が脳内出血で死亡した問題で、最初に断った都立墨東病院(墨田区)は、以前から高度産科医療を提供する総合周産期母子医療センターの「看板を下ろしたい」と、都に窮状を訴えていた。医師が減り、体制維持が厳しくなっていたが、地域の拠点施設をなくすわけにいかず、踏みとどまっている形だ。

 墨東病院の常勤産科医の定数は9人だが、2006年4月には6人に減少し、同年11月からは新規の外来患者の受け付けを中止した。その後も減り続け、今年4月には3人に。10月から1人増えたものの、定数の半分に満たない。

 都病院経営本部の谷田治課長によると、7月に週末当直が1人体制となる以前から、同病院の医師から「看板を下ろしたい」「きつくて対応できない」という話を常に聞いていたという。

(時事通信、2008年10月25日)

****** 読売新聞、長野、2008年10月24日

総合センター核に連携

「受け入れ拒否、基本的にない」

 東京都内で脳出血を起こした出産間近の妊婦(36)が、病院から受け入れを拒否され、出産後に死亡した問題では、「総合周産期母子医療センター」が機能していなかった。県内では、「総合センター」を中核に、計19病院で連携をとる態勢が組まれており、医療関係者は「妊産婦の緊急搬送の受け入れ拒否は起こりえない」と話している。

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 県内では2000年9月に、県立こども病院(安曇野市豊科)が、最重症の妊産婦や新生児の救命にあたる「総合センター」に指定された。病床数は163床で、スタッフは産科医6人、新生児を専門に診る小児科医8人、研修医4人。当直は、産科医1人、小児科医2人、麻酔科医1人に加え、医師2人が15分以内にかけつけられる態勢だ。

 こども病院が年間に扱う約200件の分娩(ぶんべん)のうち、約130件は、他の医療機関からの緊急搬送。中村友彦センター長は「基本的に患者の受け入れを拒否することはない」と話す。

 周産期救急には、母体救急、胎児救急、新生児救急の3分野があり、こども病院が担当するのは、胎児救急と新生児救急。今回のように、母親が脳出血を起こすなど、母体への治療が必要な場合は、信州大病院(松本市)に搬送する。

 また、県内5地域に、それぞれ「地域周産期母子医療センター」が置かれており、比較的高度な治療を担当している。非常に危険な場合は、こども病院に搬送することになっており、2時間以内での搬送が可能という。

 そのほか、帝王切開の必要な異常分娩に対応出来る13の「高度周産期医療機関」が「地域センター」に準ずる形で設置されており、計19病院で、正常分娩を扱う一般の病院や診療所からの緊急搬送を受け入れている。

 事情があって緊急搬送を受け入れられない時は、責任をもって別の受け入れ先を探すことを申し合わせている。「病院が横のつながりを持って、リスクを分散させることが大切」(中村センター長)という。

 一方、危険な状態だった母子の容体が安定した場合は、こども病院から他の18病院に転院してもらうことになっている。

 ただ、県内でも、産科医の絶対数の不足や、分娩を扱う医療機関の減少などの問題は深刻だ。県健康づくり支援課は「現時点では各医療機関の連携がうまく機能していると思うが、今後、お産を取り巻く環境が変わる中で、今のシステムを維持していけるかが課題だ」としている。

(読売新聞、長野、2008年10月24日)

****** 朝日新聞、2008年10月25日

妊婦死亡 墨東病院のみ当直医不足 

都内の9センター

 脳出血をおこした東京都内の妊婦が八つの病院に受け入れを断られ、その後死亡した問題で、最初に受け入れを断った都立墨東病院(墨田区)だけが、都内9カ所ある総合周産期母子医療センターのうち、最低2人とされている当直態勢を確保できていなかったことが分かった。7月以降、当直が1人の土、日曜日、祝日の急患受け入れは原則断ってきており、「センターの機能を果たせていない」との声が出ていた。

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 総合周産期母子医療センターとは、危険性が高い出産や母胎管理のための地域の砦(とりで)的存在の医療機関。都の指定基準によると、24時間体制で産科を担当する「複数の医師」が勤務していることが望ましい、とされている。

 都によると、墨東病院では6月に産科の非常勤医が辞めた後は2人での当直が維持できなくなり、7月以降は土、日曜日と祝日に限って1人で当直を担当していた。

 このため、土、日、祝日の妊婦の急患受け入れは原則断り、平日でも2人の当直医のうち上席の医師が外部からの非常勤医の場合は「ハイリスク分娩(ぶんべん)の受け入れが困難なことがある」と地元の墨田区・江東区・江戸川区の産婦人科医会会員に伝えていた。

 地元の医師たちは「医師不足のなかで、墨東病院も頑張っていた」としながらも、最近の状況については「センターとして機能しないのは異常」との声が出ていた。

 しかし、墨東以外の8病院に朝日新聞が取材した結果、全病院で2人以上の医師を当直に配置。最大4人の当直を置く病院もあった。

 都立病院の医師不足について、都病院経営本部は24日に開かれた都議会委員会で「都立病院は給与水準も低く、敬遠される傾向にあった」と説明。都によると、05年度の都立病院医師の平均給与は、47都道府県と14政令指定市の公立病院のなかで最下位だった。今年度から産科医については年収で200万~300万円上積みしたが、それでも中位程度とみられるという。

 日本赤十字社医療センター(東京・渋谷)の杉本充弘・産科部長は「かつて都立病院医師の給与は平均的な在京病院より高かった。待遇が悪くて人がいなくなり、仕事がきつくなり、さらに人が来なくなっている」として、「こうした状況を招いた都の責任は大きい」と話した。

 都は当直の基準を満たせていない墨東病院を総合周産期母子医療センターに指定し続けていることについて、「望ましくない状況にある」との認識を示しつつ、「大学などに依頼し、一日も早く元に戻したい」としている。

(朝日新聞、2008年10月25日)

****** 産経新聞、2008年10月25日

【妊婦死亡】墨東病院のみ今後も「当直1人」

 東京の妊婦死亡問題で、切迫流産などリスクの高い妊婦を受け入れる総合周産期母子医療センター設置の都内の医療機関のうち、問題が発生した都立墨東病院(墨田区)だけが土日、今後も1人当直体制をとり続けることが24日、わかった。墨東病院は7月から週末の当直が1人態勢になり、基本的に搬送を受け入れていなかった。

 都から総合周産期母子医療センターの認定を受けているのは全9施設。産経新聞が土日の当直体制について聞いたところ、8施設から回答があった。このうち、墨東病院は問題発生後も土日1人当直体制を続行。問題発覚後初めての土曜となる25日は、問題発生時の当直医と同じ現場研修年数を積んだ別の当直医1人が入る。

 他の7施設は、杏林大医学部付属病院(三鷹市)が2~3人、東京女子医科大病院(新宿区)が2~3人、日赤医療センター(渋谷区)が3人、東邦大医療センター大森病院(大田区)が3~4人、昭和大病院(品川区)が2人、日大医学部付属板橋病院(板橋区)が4人、愛育病院(港区)が2人で、いずれも複数の当直体制を取ると回答した。

 墨東病院は「人手不足はすぐに解決できない。2人体制を目指したいが、それができないのが現実」としている。

(産経新聞、2008年10月25日)

****** 毎日新聞、2008年10月24日

妊婦死亡:15病院が常勤医5人以下 全国の産科救急拠点

 脳内出血を起こした東京都内の女性(36)が8病院に受け入れを断られた後に死亡した問題で、厚生労働省は24日、産科救急の拠点になる全国の「総合周産期母子医療センター」の医師数を公表した。産科の常勤医が、搬送拒否で問題になった都立墨東病院(墨田区)の3人と同数以下の病院はほかに5施設、5人以下は14施設あり、複数人の24時間対応が望ましいとする国の指針を守るのが難しい実態が浮かぶ。

 民主党の厚労部門会議で示された資料によると、4月1日現在で、5月に開設した奈良県立医大病院を除く全国73カ所の総合周産期母子医療センターの常勤医は、産科が694人、小児科が394人。厚労省は96年に通知した整備指針で「24時間体制で産科医の複数確保」を求めているが、49施設が常勤10人以下、15施設が5人以下と、不足がまん延している。墨東病院より少ない常勤2人の病院も1施設あった。

 受け入れ人数との関係では、母体・胎児集中治療室(MFICU)のベッド数より常勤医数が少ない病院は、墨東病院も含め26施設だった。指針で1人以上の24時間体制を求めている小児科は、38施設が常勤5人以下で、1人が4施設あった。

 ただ、大阪大病院のように常勤医が3人しかいなくても、非常勤医が7人いるなどのケースもあるほか、非常勤医の人数を報告していない病院も多い。厚労省は「当直体制なども併せて早急に再調査し、勤務状況を把握したい」としている。【清水健二】

(毎日新聞、2008年10月24日)

****** 共同通信、2008年10月24日

常勤3人以下が6施設 周産期拠点病院の産科医

 厚生労働省は24日、産科医療の拠点となる全国の「総合周産期母子医療センター」のうち、常勤の産科医数が3人以下なのは東京都立墨東病院を含め6施設に上るとの調査結果を公表した。妊婦(36)が複数の病院に受け入れを断られ、いったん拒否した墨東病院で死亡した問題を受け、同日開かれた民主党の厚労部門会議で同省が明らかにした。

 センターの運営に関する国の指針では「当直時でも複数の産科医の確保が望ましい」としており、会議では「3人で当直を回すのは困難」との指摘が出た。

 調査は4月1日時点でセンターに指定されていた73施設(現在は74施設)を対象に実施。

 常勤医3人は墨東病院のほか、群馬県立小児医療センター(群馬県渋川市)、大阪大病院(大阪府吹田市)、国立病院機構岡山医療センター(岡山市)、宮崎大病院(宮崎県清武町)の4施設。2人は富山県立中央病院(富山市)。

 国立病院機構岡山医療センターでは、3人の常勤医だけで当直をこなすのは困難なため、地元の開業医に協力を求め、計7人態勢で当直業務をしている。

 厚労省は各センターでどのように当直態勢を組んでいるのか、近く実態を調査する方針。

 総合周産期母子医療センターは胎児集中治療管理室などを備え、ハイリスクの妊婦を受け入れる。地域での産科医療の拠点的役割が求められ、24時間態勢で運営されている。

 墨東病院が妊婦の受け入れを拒否したのは土曜日で、当時、研修医が1人で当直勤務をしていた。

(共同通信、2008年10月24日)

****** 共同通信、2008年10月26日

常勤医は4人と修正報告へ 岡山医療センター

 東京の妊婦死亡問題を受けて厚生労働省が公表した全国の「総合周産期母子医療センター」の常勤の産科医数に関する調査結果について、国立病院機構岡山医療センター(岡山市)の青山興司院長は25日、「国の調査では3人となっているが、正しくは4人」と事実関係を明らかにした。

 同センターは24日、共同通信の取材に、「当直は常勤と非常勤の医師に加え、地域の医師に協力を求め計7人態勢でこなしている」と説明したが、青山院長は「実際は常勤医4人に非常勤の医師4人を加え計8人で当直を回している。開業医に応援は頼んでおらず、他の医療機関からも緊急時を除いてはほとんど協力を求めていない」と話している。

(共同通信、2008年10月26日)

****** NHKニュース、2008年10月26日

搬送先探すシステム機能せず

 脳内出血を起こした妊娠中の女性が東京都内の8つの病院に受け入れを断られたあと死亡した問題で、搬送先を探すシステムが機能しなかったことが明らかになりましたが、全国の3分の2の自治体でも、このシステムが十分機能していないことがわかりました。

 この問題は、東京に住む36歳の妊娠中の女性が今月4日、脳内出血を起こし、都内の8つの病院から次々と受け入れを断られたあと、3日後に死亡したものです。搬送先を早く見つけられるよう全国の都道府県には、新生児の集中治療室のベッドの空き状況などを表示する「周産期医療情報システム」が整備されていますが、今回「空きがある」となっていた3つの病院は、満床などで受け入れられませんでした。こうしたシステムの問題が全国で起きていることが、お産前後の医療を担う拠点病院の協議会が去年9月、システムを整備していた42の都道府県を対象に行った調査でも裏付けられています。それによりますと「システムが機能している」と答えた自治体は12にとどまり、64%に当たる27の自治体が「十分機能していない」と答えました。機能していない理由を尋ねたところ、「情報が更新されない」が最も多く11、次いで「電話のほうが確実」が8、「ベッドがいつも満床でシステムの意味がない」が3で、運用がおろそかになり、システムへの信頼が失われていることがわかりました。救急医療に詳しい杏林大学医学部の島崎修次教授は「1日2回の更新ではリアルタイムといえないが、忙しい医師に頻繁に入力をさせるのは困難だ。こうした業務を行うコーディネーターを導入することなどが必要だ」と話しています。

(NHKニュース、2008年10月26日)

****** 中国新聞、2008年10月24日

産科救急、広島県内も窮迫 妊婦受け入れ拒否

現場「人ごとでない」 医師確保や搬送対策急務

 東京都内の妊婦が都立病院などに受け入れを断られ、脳内出血を起こして死亡した問題で、慢性的な産科医不足に悩む県内の病院は「人ごとではない」と受け止める。高度な医療が可能な「総合周産期母子医療センター」などの医師の勤務は過酷で、専門医の確保や搬送を円滑化する対策が急務だ。

 母体・胎児集中治療管理室がある「総合周産期母子医療センター」は、都道府県が指定する。県内は県立広島病院(広島市南区)と広島市民病院(中区)。両病院とも複数の医師が二十四時間態勢で交代勤務し、当直医一人だった都立病院より医師数は多い。

 ただ、広島市民病院の「総合センター」主任部長の林谷道子医師は「このまま医師が増えない実態が続けば、広島でもいつ同様の惨事が起こるか分からない」と危機感を示す。

 センターのベッド数は六十六床。昨年度は妊婦と新生児を合わせ計千六百五十一人を受け入れた。うち三百五十九人は三次、東広島など市外を含む他の産院から、妊婦または新生児が緊急搬送されたケースだった。受け入れられなかったケースは昨年七件。いずれもベッド数が満床だったためだ。

 診察に当たる医師は十六人。夜間は新生児担当二人、産科医一人が当直する。林谷医師は「特に新生児担当の勤務実態はきつい。経験年数が六年以下の三人を含めて六人しかいないため、宿直は三日に一度の頻度。一人でも倒れたら回らなくなる」と明かす。

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 「総合」に準ずる高度医療を担う「地域周産期母子医療センター」は県内に七カ所ある。JA尾道総合病院(尾道市)の黒田義則院長も「産科医の絶対数が足りない。がけっぷちで踏みとどまっている」と訴える。

 過疎地の実情は厳しい。年間約五百人の分娩(ぶんべん)を受け持つ三次市立三次中央病院の大谷清事務部長は「断ったら患者は行くところがない。どんな状況でも受け入れざるを得ない。絶対的な使命」と強調した。

 中核病院にコーディネーターを置く制度を望む声もある。連絡窓口となって病状を的確に把握し、搬送先の病院を指示するのが役割。大阪府が昨年、千葉県が今年に設けた。

 中国労災病院(呉市)は「明確な要請があれば受け入れ準備の態勢を取りやすい」と県に設置を求めている。【藤村潤平、田中美千子、永里真弓】

(中国新聞、2008年10月24日)

****** 毎日新聞、埼玉、2008年10月25日

記者日記:産科医不足の悲劇

 身につまされる問題が東京都で起きた。妊娠中に脳内出血を起こした36歳の女性が複数の病院に受け入れを断られ、手術3日後に死亡したことだ。私の妻も妊娠中で、現在9カ月。さいたま市内の病院で診察を受けているが、もし何かあって転院になれば、県内の大病院はちゃんと対応してくれるのか不安になる。

 この問題の背景に産科医不足が挙げられる。産科医を取材したことがあるが、緊急のお産や手術もあり帰宅は遅く、宿直も多かった。「お産は成功して当たり前と思われ、何かあれば訴訟になる」と嘆く。これは体力、気力面からも過酷な仕事だと思った。産科を選ぶ若い医師が少なくても不思議ではない。

 しかし、この状況が続いていいわけがない。特別に報酬を補助したり、医療設備を整えるなど、国は産科医を増やすための対策を急ぐべきだ。奈良で妊婦が長時間転送されず死亡したのは06年。同じ問題が何年も繰り返されるようなら、行政に対し訴訟を起こしたい気持ちだ。【桐野耕一】

(毎日新聞、埼玉、2008年10月25日)

****** 朝日新聞、2008年10月24日

厚労相、墨東病院を視察 

妊婦死亡めぐり実態調査

 脳出血を起こした東京都の妊婦(36)が8病院に受け入れを断られ、その後死亡した問題で、舛添厚生労働相は24日午前、いったん要請を断ったが最終的に受け入れた都立墨東病院(墨田区)を訪れ、新生児集中治療室(NICU)などを視察した。事態を重くみて、厚労省と都が共同で調査を実施した。

 舛添厚労相は視察後、記者団に「一番構造的な問題は医師不足。今後、全国のセンターについて現状を把握したい」と述べた。また墨東病院で当時、当直の産科医が1人だったことについて、「開業医のみなさんに支援してもらうのも手。緊急策として地域の人材を総動員する必要がある」とした。

 今後、ほかの7病院にも同省と都が調査する。

 舛添厚労相はこれに先立ち、閣議後会見で「ERの設置の仕方など東京都には改善してもらわないといけない問題が山積している」と指摘。また報道機関の取材で発覚するまで問題発生を国に報告しなかった都の姿勢について「とてもじゃないけど、都に任せられない」と批判した。

(朝日新聞、2008年10月24日)

****** m3.com医療維新、2008年10月24日

救急医療の危機◆Vol.10

妊婦搬送問題で、舛添大臣が都立墨東病院を視察

「医師不足が原因」と指摘、全国の総合周産期母子医療センターの実態調査を指示

橋本佳子(m3.com編集長)

 舛添要一・厚生労働大臣は10月24日午前、東京都内の妊婦(36歳)が8施設に受け入れを断られ、出産後、脳内出血で死亡した問題で、最終的に受け入れた東京都立墨東病院を視察、病院関係者と話し合いを行った。

 会議自体は非公開だったが、会議後、舛添大臣は下記のように述べ、この問題の根本原因が医師不足にあること、また他の総合周産期母子医療センターでも医師不足が懸念されることから、今回の件を限定的なものにとどめず、全国的な問題ととらえ、実態調査を指示した。一般紙が今回の問題を最初に報道したのは10月22日のこと。医師不足問題に危機感を抱く舛添大臣の異例の迅速な視察となった。24日の午後には、都の関係者などへの調査も行い、今後の対応を検討する予定。

 会議に出席したのは、病院側は、小林剛病院長をはじめとする病院幹部と東京都の関係部局責任者の計10人。厚労省側は舛添大臣や外口崇・医政局長ら計7人。会議の冒頭、小林氏は「いろいろと心配をおかけした。話し合いをさせていただき、いい方向に持っていきたい」と挨拶。舛添大臣も、「全国的には産科、小児科、そして救急医療などでの医師不足がある。今回の件では、医師不足、産科と救急医療の連携など、様々な問題が浮かび上がった。今回のことを大きな教訓として何をすべきかを議論したい」と述べた。

 【視察後の舛添大臣の記者会見の内容】(代表質問者とのやり取り)

 ――どのような説明を受けたのか。

 今回の件について、どんな経過であったのかということと、会議の冒頭で私が言ったように、基本的には医師不足が最大の問題であるので、今の墨東病院の現状がどうなっているのか、特に各科の医師や看護師などについて議論した。NICUなども視察した。

 ――今日の閣議後の記者会見で「東京都の責任もある」という趣旨の発言をしたが、墨東病院は都の東側の大きなエリアをカバーしている。医師配置など、東京都の施策についてどう考えているのか

 第一義的には、医療、介護は地域に密着すべきものなので、地域にがんばってもらう。しかし、国、東京都も含め、皆で力を合わせてやっていかないといけない。救急医療であれば、第3次救急、総合周産期母子医療センター、これらがなければ「最後の砦(とりで)」がなく、医療体制が確立しない。

 やはり一番構造的な問題は、医師の不足。あと1~2人産科医がすぐにここに来ればほとんどの問題は解決する。(産科医不足の対策は)短期的、長期的の両方でやっているので、さらに何かできることがあれば工夫してやりたい。

 総合周産期母子医療センターは全国に70数カ所あるが、現実にどんな状況にあるのか、何人くらいのスタッフで回しているのか。墨東病院では7月から産科医が減り、当直を2人体制から1人体制にするという苦肉の策でやっていると聞いた。同じような状況にあるセンターがどの程度あるのか。あるのであれば、改善が必要。また例えばこの地域の開業医の協力を得るなど、様々な地域でいろいろな取り組みをやっている。今まさに困っているのだから、その手を打つために現状把握をやる。

 ――今まさに手を打っていく中で、どのような工夫が考えられるか。

 例えば、当直が1人体制であれば、地域の医師会の協力を得て、地域の開業医にサポートに入ってもらう。それが一つ。

 また今、臨床研修制度の改革を進めている。今日、明日に変えられるものではないが、例えば今、案として出ているが、研修期間を2年から1年にすれば、8000人の医師が生まれることになる。

 緊急策として、それぞれの地域で持っている医療資源、特に開業医の先生方を含め総動員してやるしかない。

 ――今朝の閣議後の記者会見で「大臣への報告が遅れた」ということも言っていたが。

 マスコミの報道が先になった。この部分も含め、今日の午後に、都などからもっと細かい調査を行う。今日はむしろ産科体制の不備、特に医師不足、NICUの不足の状況を見に来た。

(m3.com医療維新、2008年10月24日)

****** NHKニュース、2008年10月25日

医師会 2月に都に改善要望

 妊娠中の女性が東京都内の8つの病院から受け入れを断られたあと死亡した問題で、最初に受け入れを断った都立病院の産科医不足を解消するよう地元の3つの医師会が、ことし2月の時点で東京都に文書で要望していたことがわかりました。

 この問題は、東京の妊娠中の女性が今月4日、脳内出血を起こし8つの病院から受け入れを断られたあと3日後に死亡したものです。このうち受け入れを最初に断った都立墨東病院は、緊急の治療が必要な妊娠中の女性を受け入れる医療機関に都から指定されていますが、常勤の医師が5年前から定員割れとなり、ことし7月からは産科の当直の医師が1人だけという事態になっていました。こうした状況に危機感を抱いた地元の墨田区や江東区、それに江戸川区の3つの医師会が、墨東病院の産科医不足を解消するよう、ことし2月の時点で東京都に文書で要望していたことがわかりました。要望では産科医が減り続けている原因を明らかにしたうえで、大学病院からの医師の受け入れ方法を再検討するよう求めていました。都は「要望はしんしに受け止め、実現に向けて協議をしているところだ」としていますが、これまでのところ明確な回答はしていないということです。要望書を出したうち江戸川区医師会の徳永文雄会長は「都から回答がないことは疑問に思うが、都だけで簡単に解決できる問題ではなく、国を含めて産科医の解消に努めてほしい」と話しています。

(NHKニュース、2008年10月25日)

****** NHKニュース、2008年10月24日

全国の施設で当直医師不足

 脳内出血を起こした妊娠中の女性が東京都内の8つの病院から受け入れを断られたあと死亡した問題で、NHKが全国の「総合周産期母子医療センター」を調べたところ、3分の1以上に当たる26施設で、医師不足などが原因で当直の医師が1人になるケースのあることがわかりました。

 この問題で、受け入れを断った東京都内の8つの病院の中には、お産前後の周産期にリスクの高い医療に対応する「総合周産期母子医療センター」が3施設含まれていました。このため、NHKは全国に74ある「総合周産期母子医療センター」を対象に患者の受け入れ態勢を調査し、71施設から回答が寄せられました。この中で、夜間、何人の医師が当直しているか尋ねたところ、全体の37%にあたる26施設が、医師が1人で当直することがあると答えています。厚生労働省の指針は、夜間も産科を担当する医師が2人以上勤務していることが望ましいとしていますが、ほとんどの病院では、医師不足で配置できないとか、緊急のときには呼び出しで対応すると答えています。問題の再発を防ぐため何が必要か尋ねたところ、26施設が「医師不足の解消」をあげました。このほかには、救急の患者を必ず受け入れる病院を地域ごとに設けるべきだという意見や、産科が脳神経外科などほかの診療科と連携して母親の病気に対応するべきだという意見が多くなっています。

(NHKニュース、2008年10月24日)

****** NHKニュース、2008年10月24日

妊婦死亡 厚労省と都が調査へ

 脳内出血を起こした妊娠中の女性が東京都内の8つの病院から受け入れを断られたあと死亡した問題で、厚生労働省は24日から東京都と合同で本格的な調査を始めることになりました。受け入れを断った病院から当時の状況を詳しく聞き取り、原因の解明を進める方針です。

 この問題は、東京に住む36歳の妊娠中の女性が、今月4日、脳内出血を起こし、都内の8つの病院から次々と受け入れを断られたあと3日後に死亡したものです。事態を重くみた厚生労働省は、24日から東京都と合同で、受け入れを断った8つの病院に担当の職員を派遣し、本格的な調査を始めることになりました。これまでの調査で、最初に受け入れを断った都立墨東病院は、リスクの高い妊婦を受け入れる総合周産期母子医療センターに指定されているにもかかわらず、常勤の医師はわずか4人で、週末の当直には1人しか充てられなかったことがわかっています。また、ほかの病院も、新生児の集中治療室に空きがなかったり、当直の医師が別の患者の対応中だったりして、受け入れを断っていたということです。このため厚生労働省は、当時の診療態勢やベッドの空き状況、それにほかの診療科との連携などについて病院から詳しく聞き取り、原因の解明を進める方針です。厚生労働省が直接、医療機関から事情を聞くのは異例のことで、今後、原因を分析し再発防止策を検討することにしています。

(NHKニュース、2008年10月24日)

****** NHKニュース、2008年10月24日

妊婦死亡 厚労相が病院を訪問

 脳内出血を起こした妊娠中の女性が、東京都内の8つの病院から受け入れを断られたあと死亡した問題で、舛添厚生労働大臣は、24日午前、女性の受け入れを最初に断った東京・墨田区の病院を訪れ、当時の状況について院長から説明を受けました。

 厚生労働省は、問題の原因究明と再発防止策を検討するため、24日から東京都と合同で本格的な調査を始めることにしており、午前中は、舛添厚生労働大臣が、女性の受け入れを最初に断った東京・墨田区の都立墨東病院を訪れて、小林剛院長から当時の状況について説明を受けました。舛添大臣は、冒頭、「妊娠中の女性が死亡するというたいへん不幸なことが起こった。全国的な医師不足のなか、緊急医療体制をきちんとしていくため、教訓としていかなければならない」と述べました。これまでの調査で、都立墨東病院は、リスクの高い妊婦を受け入れる「総合周産期母子医療センター」に指定されているものの、常勤の医師は4人で、当時、当直の医師が1人しかいなかったことがわかっています。病院側の説明を受けた舛添大臣は、記者団に対し「いちばん構造的な問題は、医師不足だ。短期的・長期的にさらに何かできないか考えたい。例えば、当直の医師が1人でどうしようもないなら、地域の開業医にサポートしてもらうのも手だ。また、臨床研修の見直しを行い、現場に出る医師を増やすなど、あらゆる手を総動員してやっていく必要がある」と述べました。

(NHKニュース、2008年10月24日)

****** NHKニュース、2008年10月24日

厚労相“東京に任せられず”

 舛添厚生労働大臣は、閣議のあとの記者会見で、脳内出血を起こした妊娠中の女性が東京都内の8つの病院から受け入れを断られたあと死亡した問題について、国に情報を上げてくるのが遅く、「とても東京都には任せられないという思いだ」と述べ、東京都の対応を批判しました。

 この中で、舛添厚生労働大臣は「問題が起きてから2週間も東京都から厚生労働省に情報が上がってこなかった。総合周産期母子医療センターに、週末、当直の医師が1人しかいないことについても、もっと早く『何とかならないか』と伝えてくるべきだ」と述べました。そのうえで、舛添大臣は「文句を言うときだけは、『国は、しっかりしろ』と言うが、問題があったときに情報も上げないで、言われてもどうしようもない。わたしがやっていることが完璧だとは言わないが、とても東京都には任せられないという思いだ」と述べ、東京都の対応を批判しました。一方、東京都の石原知事は記者会見で「医師不足を招いたのは国だ」などと述べ、今回の問題の大きな責任は国の医療行政にあるという考えを示しました。石原知事は「今回は妊娠した女性が脳内出血を起こし、出産とも重なるというレアケースだが、医師の数が多かったらここまで至らなかったかもしれない」と述べました。そのうえで、石原知事は「国に任せていたら産婦人科と小児科の医師の絶対数が足りなくなった。こういう事態を招いたのは国であり、国にこそ任せられない」などと、厚生労働省の医療行政のあり方を強く批判しました。

(NHKニュース、2008年10月24日)

****** 毎日新聞、2008年10月24日

妊婦受け入れ拒否死亡:厚労相、異例の視察 都立墨東病院病棟など

 脳出血を起こした東京都内の女性(36)が8病院に受け入れを断られた後に死亡した問題で、舛添要一厚生労働相は24日、最初に搬送を拒否した都立墨東病院(墨田区)を視察した。厚労相が事故直後に現地の病院を視察するのは異例の対応。

 舛添厚労相は、産科病棟や併設されている一般救急対応の「東京ER(救急治療室)」などを視察した後、「周産期に対応する全国の病院がどの程度のスタッフで勤務を回しているか把握し、墨東病院と同じようなら改善したい」と述べた。

 墨東病院はリスクの高い妊婦の救急治療を担う「総合周産期母子医療センター」に指定されているが、当日は研修医が1人しかおらず、国の整備指針を満たしていなかった。舛添厚労相は「今回の問題は、基本的には医師不足。(開業医など)それぞれの地域で持っている医療資源を使って対応するしかない」との認識を示した。

 また、視察前の閣議後会見では「こういう事故が2週間も厚労省に情報が上がってこないのは何なんだ。週末に当直が1人しかいないのに周産期医療センターだと言うのは羊頭狗肉(くにく)で、国に相談してこなかった都にも大きな責任がある」と都を厳しく批判した。【清水健二】

(毎日新聞、2008年10月24日)

****** 毎日新聞、2008年10月24日

妊婦死亡:「国こそ反省を」石原都知事が厚労相に反論

 都立墨東病院などの搬送拒否問題で、東京都の石原慎太郎知事は24日、都の対応を批判した舛添要一厚生労働相の発言について「厚労省の医療行政が間違ってきて、お医者さんがこういう体たらくになった。こういう事態を作ったのは国じゃないですか。反省してもらいたいのは厚労省で、担当の大臣様だね」と反論した。

 石原知事は死亡した女性(36)のケースについて「これは医療事故じゃない。それだったら国に報告する責任があるが、(最終的に)ER(救急救命室)で処置している。お産というのは非常に危険な作業で、今度の場合はレアケースだった。そういう事態を踏まえてものを言ってもらいたい」と発言。そのうえで舛添厚労相を「年金の問題でも大見え切るけどいつも空振りする。もっと頭を冷やしてものを言ってもらいたい」と批判した。【須山勉】

(毎日新聞、2008年10月24日)

****** 産経新聞、2008年10月24日

【妊婦死亡】石原知事「舛添くん、反省しろ」

 東京都の石原慎太郎知事は24日の定例会見で、都内で脳内出血を起こした妊婦(36)が8病院に受け入れを拒否され、死亡した問題について、舛添要一厚生労働相が「都に任せられない」と発言したことに対し、「反省してもらいたいのは厚労省で、今担当のその大臣様だ」と反論した。会見の詳報は次の通り。

 --墨東病院で妊婦が死亡した問題で、舛添厚労相が「都には任せられない」と発言したが

 「と、いうところまでは承知している。その後のところが大事なんだよな。あの人はね、大見得(おおみえ)きったつもりでいつも空振りするけどね、今度も現場に行ってですね…まあ、こういう発言するときは、現場を踏んでね。起こった事態の事実ってものをちゃんと分折して掌握したうえで物を言ってもらいたい。一国の大臣なんだから」

 「年金の問題でもいつも大見得切るけど、いつも空振り。結局なんか、彼が国のけしからん役人を代弁してるみたいな印象にしか写らないじゃないか。今度も何の思惑か知らないけどね、病院に行って事態聞いたあとで、話随分トーンダウンしたじゃないですか。しかもですな、事態を掌握していない証拠はね、これは医療事故ではないんですよ。それだったらね、ただね、お産というのは非常に危険な作業でね、かつて昭和30年代のはじめのころには死亡率が高かった。今まあ、その10分の1に減りましたがね。そういう今度の場合は非常にレアケースでね、妊婦ご自身が脳出血をした。これは30歳代半ばは、そういう事故が割と頻発する年代らしいんだけども、具合悪いことに出産と一緒に重なりましてね。当人は自分に何が起こっているのかわかりっこないんだから。頭が痛い、痛いっていうのに、『私、脳出血です』とは言わないよ。それは医者が判断すること」

 「しかし、その頭痛に関してどういう会話があったかわからんけどね。結局、最後は脳出血で手術をしたわけでしょう? ですから、そういう事態を踏まえて物言ってもらいたいんでね。東京に任せてられないんじゃない。国に任せていられないんだよ。厚労省の医療行政が間違ってきて、お医者さんがこういう体たらくになった。足りない。足りないだけじゃなしに、まあ、高福祉高負担というのは当然だけど、日本の場合には高福祉低負担だ。それがまかり通ってね、患者も非常に注文が多くなって、お医者さん非常に苦しい立場で。昔はなかったような医療裁判にさらされて、だんだんなりたい人がなくなってきた。こういう事態つくったの国じゃないですか。国に任せていられないんだよ。誰がやったんですか?国に任してたからこういうことになっちゃったんだよ。反省してもらいたいのは厚労省で、今担当のその大臣様だね。物言うならもう少し冷静に頭冷やして物言った方がいいと私は思いますけども」。

 --新しい取り組みは考えているのか

 「これはね、本当にレアケースなんですよ。ですからね、こういう万が一の事態ってのはなかなか想定しにくいんでね。それでもやっぱりお医者さんの数が多かったら、ここまで至らなかったかもしれない。それに医者の数増やすのは国の責任だから。東京は東京なりにですね、いろんな誘致をしてますよ。だから、他の県からうらまれているフシがあるけど、それでも絶対数が足りないんでしょ。赤ん坊を産む産科と、産んだ子供を育てる小児科がね、絶対的に医師が足りないということはね、これやっぱり国の責任じゃないですか。舛添くんしっかりしてもらいたいよ、ほんとに。あまり国に任してられないね」

(産経新聞、2008年10月24日)

****** スポーツ報知、2008年10月25日

石原都知事「医師不足は国の責任」vs舛添厚労相「都にも責任」…妊婦死亡問題

 脳内出血を起こした東京都内の妊婦(36)が8病院に受け入れを拒否され死亡した問題で、石原慎太郎都知事(76)と舛添要一厚生労働相(59)が24日、舌戦を繰り広げた。舛添氏は午前の閣議後の会見で、「死亡から2週間以上も報告があがってこないのはどういうことか。都にも責任がある」と都の対応を痛烈に批判。これを受け、石原氏は午後の定例会見で「こういう事態をつくったのは国じゃないか」と応酬し、舛添氏を名指しして「大見


志太榛原地域の救急医療の現状や課題を話し合う公開フォーラム

2008年10月25日 | 医療全般

****** 読売新聞、静岡、2008年10月26日

救急医療の窮状訴え 藤枝で討論

 志太榛原地域の救急医療の現状や課題を話し合う公開フォーラムが25日、藤枝市役所で開かれた。公立病院の医師は、救急のみならず地域医療全体の窮状を訴え、「病院に関心を持ち、地域の財産として守ってほしい」と集まった200人以上の住民に呼びかけた。

 フォーラムは同地域の公立4病院でつくる救急医療体制協議会と医師会などが主催した。

 4病院では、医師の負担軽減のため、夜間や休日に受診する軽症患者を対象に、医療費の時間外加算分を患者の全額自己負担とする制度を導入している。藤枝市立総合病院の池谷健副院長はこの制度の実施にいたる経過を説明し、「批判もあったが、効果はあった。救急現場の苦しい実情を伝えるメッセージになった」と総括した。

 島田市民病院の近藤真言副院長は、医師が大学に引き揚げられ、救急医療での勤務医の負担が増え、医師が辞めてさらに負担が増す悪循環に陥っている現状を説明。「救急医療から病院が崩壊しかねない。軽症者は診療所を利用してほしい」と訴えた。

(読売新聞、静岡、2008年10月26日)


母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その2)

2008年10月24日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

以下のような経過であったと報道されています。

――――――――――――――――――――――

10月4日(土曜日)午後7時頃に墨東病院に母体搬送受け入れ可否の問い合わせがあり、その時は産科当直医が「土日は基本的に母体搬送を受け入れていない」と回答し、受け入れ可能な医療機関名を教えた。

その後、東京都内の8病院(慶応大病院、日赤医療センター、順天堂医院、東京慈恵会医大病院、東京慈恵会医大青戸病院、日大板橋病院、東京女子医大東医療センター、東大病院)に母体搬送の受け入れ要請をしたが、受け入れ病院がなかなか決まらなかった。

午後7時45分頃、妊婦の容体が悪化し、再度、墨東病院に母体搬送の受け入れ要請があった。当直医が常勤産科医師を呼び出した。

午後8時頃、母体搬送の受け入れが可能と連絡した。

午後8時18分頃、救急車で墨東病院に到着した。救急車内で患者の意識レベルが低下した。

午後8時半頃、脳外科の当直医が対応した。

午後9時41分、帝王切開で児を娩出した。

午後10時24分、脳外科で頭部の血腫除去手術を開始した。

10月5日午前1時28分、手術終了した。

――――――――――――――――――――――

東京都内だと日本最高水準の医療機関が数多くあり、多くの医療機関に受け入れ可能かどうかを打診することが可能です。今回は、9医療機関に打診し、受け入れ病院が決定するまでに約1時間を要しました。

地方の場合だと、各医療圏で母体搬送を受け入れることが可能な医療機関はたいてい1施設に限定されますので、受け入れ可能な病院を探して苦労するという事態は今までほとんど聞いたことがありません。

私自身の場合も、現在の病院に赴任してから約20年になりますが、一人医長だった時も含めて、地元医療機関からの母体搬送の要請を断ったことは一度もありません。電話を受けた瞬間に、何も考えず即断即決で母体搬送の受け入れを受諾してます。

田舎だと症例数が少ないのでそれでも何とかなってますが、大都会では症例数が田舎とは全く比較にならないので、母体搬送をどの病院で受け入れるかを決定するシステムが非常に重要になると思われます。

****** NHKニュース、2008年10月23日

受け入れ拒否 8医療機関に

 妊娠中の女性が、東京都内の医療機関から受け入れを断られたあと死亡した問題で、新たに東大病院が受け入れを断っていたことがわかりました。これで受け入れを断った医療機関は、あわせて8つになりました。

 この問題は、東京に住む36歳の妊娠中の女性が、今月4日に脳内出血を起こし、都内の医療機関から次々と受け入れを断られたあと、3日後に死亡したものです。女性は、激しい頭痛を訴えて東京・江東区の掛かりつけの診療所に運ばれたあと、医師が都立墨東病院をはじめ、あわせて7つの医療機関に受け入れを要請していましたが、これとは別に、診療所で待機していた救急隊員が、文京区の東京大学附属病院に受け入れを依頼していたことがわかりました。しかし、東大病院側は、女性が赤ちゃんを出産した場合に必要な新生児用の集中治療室の空きがなかったため、受け入れを断ったということです。これで、女性の受け入れを断った医療機関は、あわせて8つになりました。

(NHKニュース、2008年10月23日)

****** NHKニュース、2008年10月23日

妊婦死亡“必要な対策を”

 脳内出血を起こした妊娠中の女性が東京都内の7つの医療機関から受け入れを断られたあと死亡した問題で、民主党の厚生労働関係の会議が23日開かれ、出席した議員からは、同じようなことが起きないよう、直ちに必要な対策をとるべきだという意見が相次ぎました。

 今月4日、脳内出血を起こした東京に住む36歳の妊娠中の女性が都内の7つの医療機関から次々と受け入れを断られ、出産した3日後に死亡したもので、会議には厚生労働省の担当者も出席しました。この中で、出席した議員からは「厚生労働省は、患者のたらい回しを許している行政としての責任を重く受け止めるべきだ」として、同じようなことが起きないよう医師を増やすなど、直ちに必要な対策をとるべきだという意見が相次ぎました。また、今回の問題では、緊急時に患者の受け入れが可能な病院がどこにあるか調べるシステムが機能していなかったという指摘もあるとして、改善を求める意見も出されました。これに対して、厚生労働省の担当者は「現在、東京都を通じて、女性が死亡した詳しい経緯を調査しており、できるだけ早く詳細を把握するよう努めたい」と述べました。

(NHKニュース、2008年10月23日)

****** FNNニュース、2008年10月23日

妊婦たらい回し死亡問題 舛添厚労相「緊急時に医師が連絡を取れる態勢作りを」

 脳内出血を起こした出産間近の女性が、7つの医療機関から受け入れを断られ、死亡した問題で、舛添厚生労働相は23日朝、FNNの取材に対して、医師の連携不足を指摘し、再発防止のため、緊急時に医師が連絡を取れる態勢づくりをしていきたいと述べた。

 舛添厚労相は午前8時ごろ、「本当にお悔やみを申し上げるしかないんで。お医者さん間のネットワーク、それの連携をちょっと強めないと、要するに箱(周産期医療センター)だけではだめだという感じですね。こういうことが二度と起こらないように、態勢の整備をきちんとやっていきたい」と述べた。

 今回の問題は、出産間近だった36歳の女性が10月4日、脳内出血を起こし、都立墨東病院など、7つの医療機関から次々と受け入れを断られ、1時間以上あとに墨東病院に運ばれ、帝王切開で出産し、3日後に死亡したもの。

 舛添厚労相は、周産期医療センターを設置するだけではなく、地域の医師会にも協力を求めて、さまざまなケースに対応できるよう、連携を強化することが必要だとの考えを示した。

(FNNニュース、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

当初、脳内出血と分からず 都「当直医の判断妥当」 かかりつけ医と食い違い 妊婦受け入れ拒否

 東京都内で7カ所の病院に受け入れを断られた妊婦(36)が、いったん拒否した都立墨東病院で脳内出血の手術を受け死亡した問題で22日、都と墨東病院が記者会見し「当直医は当初、脳内出血だと分からなかった。分かっていれば最初から受け入れたはず」と説明した。その上で「一連の判断は妥当」と主張し、医療過誤ではないとの認識を示した。

 一方、墨東病院に受け入れを依頼した江東区のかかりつけの川嶋一成(かわしま・かずなり)産婦人科院長も会見し、当初の妊婦の容体について「自宅に救急車が到着する直前から頭が痛いと訴えた。尋常ではなく頭部の疾患を疑った」とし、病院に「七転八倒している状況を伝えた。頭を抱えて『痛い、痛い』と言っていると伝えた」と説明、双方の認識に食い違いがあることが判明した。会見では「今後、子どもの顔が見られない母親を作ってほしくない」とする遺族のメッセージが読み上げられた。

 かかりつけの産婦人科医院の医師が、当初から脳内出血の診断を墨東病院の当直医に伝えていたのではないかとの質問に、都の幹部は「詳しいやりとりは調査中で分からない」と答えた。

 また当直医は、受け入れ可能な周産期医療センターなど3病院を端末で検索。かかりつけ医はそれらを含む計8病院に問い合わせたが、7病院で断られたことも会見で判明。1カ所は「受け入れる」としたものの、その時点で既に墨東病院への搬送が決まっていたという。

 断った病院の当直体制について、都側は「調べてみないと分からない」とした。

 厚生労働省の基準で総合周産期医療センターは24時間体制で産科を担当する複数の医師の勤務が望ましいとしているが、墨東病院は7月から週末の当直が1人態勢になり、基本的に搬送を受け入れていなかった。

 都幹部や病院幹部は「産科医の確保は懸命にしていた。週末に受け入れが困難になることは地元の医師会などにも周知していた」と話した。

▽総合周産期医療センター

 総合周産期母子医療センター 胎児の異常や切迫流産など、リスクの高い妊娠に対応する医療機関で、2008年5月末現在、全国で74カ所が指定されている。複数の産科医を配置し、新生児用の集中治療室などを備え、24時間態勢で運営。厚生労働省は全都道府県に設置するよう求めているが、佐賀、山形の両県では未整備。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

拒否の経緯、詳しい検証を

 【解説】大都会・東京で7病院から救急搬送による受け入れを拒否された妊婦の死亡が明らかになった。

 舞台となった都立墨東病院は、緊急時の受け入れ先として都の指定を受けている大規模施設。都は搬送を断った当直医の判断は妥当だったとするが、妊婦の当初の症状をめぐり、受け入れを要請したかかりつけ医側との間に認識の食い違いもあり、「産科医不足」が原因と割り切っていいものかどうか疑問が残る。

 受け入れ拒否について都側は、背景に組織体制の問題があると強調。

 しかし、そもそも墨東病院は緊急事態に対応するためにスタッフを充実させているはずの「総合周産期母子医療センター」だ。

 かかりつけ医の要請をいったん断ったものの、約1時間後には受け入れた点についても、患者側にしてみれば「最初から迅速な対応を取れたのでは」との印象はぬぐえないだろう。

 医療現場では、医師が難しい症例を回避する"萎縮(いしゅく)"が広がっているとされる。産婦人科医が逮捕、起訴された福島県立大野病院事件の後遺症との指摘もある。

 崩壊の危機にあるとされる医療が信頼を獲得するためには、今回の原因を単に医師不足だけに求めるのではなく、経緯について詳細に確認し、あらゆる角度からの議論を進める必要があろう。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

「妥当」「問題ない」 病院、繰り返し強調

 妊婦の駆け込み寺である総合周産期医療センターが、救急患者を断っていた。出産後に脳内出血の手術で死亡した妊婦(36)の受け入れをいったん拒んだ都立墨東病院。22日の記者会見では「当直医の判断は妥当」「問題ない」と繰り返し強調した。

 「このような事態になり、亡くなられた方やご遺族に心よりお悔やみ申し上げます」。一緒に会見した都病院経営本部の及川繁巳(おいかわ・しげみ)経営企画部長は冒頭、沈痛な表情で頭を下げた。

 女性は最終的に墨東病院が受け入れるまで、同病院を含む7病院から診療を断られた。「妊婦のかかりつけ医は当初から脳内出血の診断を当直医に伝えていたのではないか」。記者の質問は病院側の判断の是非に集中した。

 及川部長らは「吐き気や下痢の症状が連絡されたため、脳内出血との認識はなかった。脳内出血と分かれば、最初から受け入れていた」と主張した。

 一方「かかりつけ医と当直医の詳しいやりとりは知らない」とも。「問題がない」と判断した根拠について、十分な説明はなかった。

 墨東病院の林瑞成(はやし・ずいせい)周産期センター産科部長は「産科医自体が少ないし、目指す人も少ない」と医師確保に苦労している実情を訴えた。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

七転八倒、苦しむ妊婦 「分かってほしかった」 医院が会見で遺族心情も

 「痛い、痛い」。かかりつけの医院で頭を抱えて七転八倒する妊婦。わずか1キロ離れた大病院の当直医は、こう答えたという。

 「1人当直なので受け入れられない」

 脳内出血を起こした妊婦が、7カ所もの病院に受け入れを拒否された末に死亡。かかりつけ医院(江東区)が22日夜になって記者会見し、都立墨東病院とのやりとりなどを明らかにした。

 「今後、子どもの顔が見られない母親を作ってほしくない」。会見の冒頭、5の橋産婦人科の川嶋一成(かわしま・かずなり)院長(49)は、遺族からのメッセージを読み上げた。

 川嶋院長によると、妊婦は4日夕、自宅で下痢や嘔吐(おうと)の症状を訴えた。夫が同日午後6時半ごろ119番をかけたが、自宅に救急車が到着する前から「頭が痛い」と苦しみ出した。

 医院に搬送され、すぐに採血や腹部の超音波検査を実施。川嶋院長は「妊娠のトラブルではないことを確認した。尋常でなく、頭部の疾患を疑った。緊急性があると判断した」。診察した塩野結子(しおの・ゆうこ)医師(38)も脳内出血を疑った。

 家族や救急隊が見守る中、塩野医師は墨東病院に連絡。「頭を抱えて『痛い、痛い』と言っている」と以前からの知り合いだった当直医に伝えた。

 疾患名まで特定して伝えたわけではないが、塩野医師は「頭部の疾患との意味を込め、依頼した。急ぐ状態を察してほしかった。個人的な意見が先走るのは避けたいが、分かってほしかった」と声を落とした。

 墨東病院は2度目の要請で受け入れを決めたが、搬送される救急車の中で妊婦は意識を失った。わずか1キロ先の同病院にたどり着くまでに要した時間は1時間20分。川嶋院長は「一生懸命やった中で、これが現実。状況をみんなに理解してほしい。今後も墨東との協力を密にするしかない」と訴えた。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

墨東病院の対応

 東京都が発表した妊婦に対する都立墨東病院の対応は次の通り。

 【10月4日】

 午後7時ごろ 東京都江東区の地元産婦人科医師から都内の妊婦(36)の受け入れ可否問い合わせ。当直医が「土日は基本的に母体搬送を受け入れていない」と回答、受け入れ可能な医療機関名を教える

 午後7時45分ごろ 妊婦の容体が悪化し、他の医療機関が受け入れ困難だったため、再度母体搬送の依頼。当直医が産科の医師1人を呼び出す

 午後8時ごろ 地元産婦人科医師に母体搬送が受け入れ可能と連絡

 午後8時18分 救急車で墨東病院に到着。救急車内で意識レベル低下

 午後8時半ごろ 脳卒中が疑われるため、脳外科の当直医が対応

 午後9時41分 帝王切開で出産

 午後10時24分 頭部の血腫除去手術を開始

 【5日】

 午前1時28分 手術終了

 【7日】

 午後8時31分 脳内出血による死亡確認

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

最初に頭痛ちゃんと伝えた

 妊婦のかかりつけの川嶋一成(かわしま・かずなり)・五の橋産婦人科院長の話 患者の女性が頭が痛いというのが一番の搬送理由。墨東病院には最初に、そのことをきちんと伝えている。脳外科と産婦人科の両方が必要なので、墨東病院に連絡した。言い分が違うと言うとけんかになるし、反論するわけではない。患者や赤ちゃんの命を預かる者として、事実と違う話が独り歩きすると焦点がずれる。事実を伝えることで、これから先どうしたらいいのかということを国民みんなで判断してほしい。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

要請先の病院名を公表

 東京都は22日、死亡した妊婦(36)のかかりつけ医院が都立墨東病院(墨田区)のほかに、搬送先として問い合わせた病院7カ所を明らかにした。

 7病院は、慶応大病院(新宿区)▽日赤医療センター(渋谷区)▽順天堂医院(文京区)▽東京慈恵会医大病院(港区)▽東京慈恵会医大青戸病院(葛飾区)▽日大板橋病院(板橋区)▽東京女子医大東医療センター(荒川区)。

 都によると、東京女子医大東医療センターは受け入れを了承したが、その時点では墨東病院への搬送が決まっていたという。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

救急にかかわる医師不足 識者談話

 日本産科婦人科学会常務理事の岡井崇(おかい・たかし)昭和大教授の話 そもそも救急部門にかかわる産科医の数が絶対的に少ない上、医師や病院の適正な配置ができていない状況が問題の大きな原因だ。東京都内であっても人手不足は深刻で、産科医はぎりぎりの状態で診療を続けている。都立墨東病院や、当直だった研修医の責任を追及すべきではない。計画的な病院の設置ができるよう行政などと協議を進めることが重要だ。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

妊婦死亡は極めて遺憾 官房長官

 河村建夫官房長官は22日午後の記者会見で、東京都内の妊婦が7カ所の医療機関に診療を断られ出産後に死亡した問題について「極めて遺憾だ。亡くなられた方に心からお悔やみを申し上げたい。原因をきちんと究明し、早急に再発防止措置を取らないといけない」と述べた。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

崩れた「最後のとりで」 産科医不足、都心にも影

 多くの病院が集まる東京都でも22日、妊婦の救急搬送をめぐる悲劇が明らかになった。都が24時間対応可能な「総合周産期母子医療センター」に指定した都立墨東病院(墨田区)ですら、産科医不足から週末は急患の受け入れを制限していた。母子の命を救うための「最後のとりで」はなぜ崩れたのか。

 ▽欠員

 「ぎりぎりの人数で当直をやってきた。先生たちのやる気の灯を消したくないので、苦しいけれど頑張ってる」。問題発覚後、墨東病院の幹部の1人はそう打ち明けた。

 同病院産科が望ましいと定めた常勤医の定数は9人。だが退職者が相次いで数年前から欠員状態が続き、現在は常勤医は4人しかいない。このため、研修医も含めて通常2人で回してきた当直を7月からは土日は1人とし、土日の緊急搬送を原則断ることにした。

 今月4日、土曜日の夜。江東区内の産婦人科医院から受け入れ要請があった日も当直医は研修医1人だった。再度の要請を受けて林瑞成(はやし・ずいせい)産科部長を呼び出し、妊婦を受け入れたのは最初の要請の約1時間後。36歳の主婦は帝王切開で男の子を出産後、脳内出血の手術を受けたが、赤ちゃんの顔を見ることなく3日後に息を引き取った。

 ▽取り合い

 22日午後、都庁で開かれた記者会見。林部長は「当直がベテランなら受け入れたのでは?」との質問に対し、「そうかもしれない。産科救急はやる人間が少なく、やっと来てくれた若い先生に当直をさせなければいけない。すべて負わせることはできない」と苦渋の表情をにじませた。

 総合周産期母子医療センターは母体や胎児の集中治療に対応できる高度な医療機関として指定され、国の基準は「24時間体制で複数の産科医が勤務することが望ましい」と定めている。

 都は墨東病院から相談を受けて産科医不足を把握していたが、センター指定を外さなかった。

 会見に同席した都病院経営本部の及川繁巳(おいかわ・しげみ)経営企画部長は墨東病院の危機的状況に3カ月間も手だてができなかったことについて問われ「深刻に受け止めている。今、医師は取り合い。2人当直体制が復活できるよう、あらゆる手段を尽くして確保したい」と言うのが精いっぱいだった。

 ▽都会の死角

 厚生労働省は、2006年夏に奈良県で意識不明になった妊婦が10カ所以上の病院に受け入れを断られた末に死亡するなど各地で問題が相次いだことを重視。総合周産期母子医療センターの整備を切り札として、全都道府県への設置を目指している。東京は既に墨東病院など9カ所を整備した「先進地」だった。

 だが、総務省消防庁の調査によると、07年に救急隊が妊婦を搬送しようとして医療機関から10回以上拒否されたケースは全国で53件あり、東京はそのうち31件を占めていた。

 今回の問題でも当初の説明について、妊婦のかかりつけ医が「頭痛で七転八倒していると伝えた」とし、都側は「脳内出血とは認識していなかった。最初から知っていれば受け入れていた」と食い違う。しかし医師が確保できていれば起きなかった問題で、都心でも安心して子どもが産めない現状が際だった形だ。

 厚労省の担当者は今回の問題について「都の調査を待たないと何とも言えない」としながら「病院が1カ所しかない地方と比べて、逆に『うちでなくても、ほかにあるだろう』という意識が都市部にはあるのかもしれない」と漏らした。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

7病院から直接聞き取りへ 妊婦死亡で厚労省 一両日中にも実施

 東京都内で7カ所の病院に受け入れを断られた妊婦(36)が、都立墨東病院(墨田区)で脳内出血の手術を受け死亡した問題で、舛添要一厚生労働相は23日、国として事実関係を検証するため、診療を断った病院に対し独自に聞き取り調査する方針を決めた。一両日中にも実施する。国が直接、地域の医療機関への調査に乗り出すのは異例という。

 同省は、断った病院が産科医療の基幹的な施設や国内有数の大規模病院だったことを重視。国の医療政策に問題がなかったかどうか確認する必要があるとしている。

 都などによると、妊婦は4日、吐き気などを訴え、かかりつけの医院に救急車で搬送された。かかりつけ医院は深刻な症状だと判断し、都立墨東病院に受け入れを要請。しかし同病院から断られたほか、慶応大病院(新宿区)、日赤医療センター(渋谷区)など6病院も相次いで受け入れを拒否。断った理由は「新生児集中治療室(NICU)が満床」「当直に脳外科医がいない」などだった。

 これら7病院以外に、東京女子医大東医療センター(荒川区)だけは受け入れを了承したが、その時点では墨東病院への搬送が決まっていたという。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

検索の更新、1日2回以上 病院の最新情報反映できず

 東京都内で7カ所の病院に受け入れを断られた妊婦(36)が出産後に脳内出血で死亡した問題で、最初に拒否した都立墨東病院の当直医が受け入れ可能な病院を検索したシステムは1日2回以上の更新しか義務付けられていないことが23日、分かった。

 当直医が検索し、「受け入れ可能」として妊婦のかかりつけ医に教えた東京慈恵会医大病院など周産期医療センターに指定された3病院はいずれも「満床」や「処置中」の理由で断っていた。検索システムの情報が最新の診療態勢を反映していなかった形で、都は当時の状況を調べている。

 都によると、検索システムは病院ごとに「産科空床」「ハイリスク患者」「産科手術」などの項目に○か×を表示。土日も含め、1日2回以上の更新を義務付け、病院側が更新を怠ると、その病院のシステムには警告画面が表示され、使えなくなる。

 都は平日は更新されたかどうかをチェックし、更新されていなければ病院に電話をかけて注意を促しているが、妊婦が搬送された4日は土曜日でチェックしていなかったという。

 受け入れを断った日赤医療センターは「専用の6ベッドがすべて埋まっており、別の母体搬送を受け処置中だった」と説明。東京慈恵会医大病院は「母体、胎児の両方をケアする可能性があると判断したが、新生児集中管理治療室が満室だった。システムに入力していなかったことはない」とし、慶応大病院は「受け入れられる態勢だったが、感染症の疑いがあると判断し、個室ベッドを探したが満床だった」と話している。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

医者は一生懸命やっている 石原知事

 東京都内の妊婦が都立墨東病院で脳内出血の手術を受け死亡した問題で、石原慎太郎知事は23日、都庁で報道陣に対し「医者は一生懸命やっている。みんな命懸けでやっているんだから、そういう事情も配慮して、すべてを否定するみたいな報道をしてもらいたくない」と述べた。

 知事は「墨東病院を弁護するつもりじゃない」としながら「臨月の女性が脳出血を同時に起こしたという大変な事態で、めったにないケースが起こった」とした。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 共同通信、2008年10月23日

救急搬送先選ぶ基準作成へ 消防庁、容体に応じて判断

 総務省消防庁は23日、救急隊員らが患者や負傷者を運ぶ際に、重症度や緊急度に応じて搬送先の医療機関を選ぶ基準を作成する方針を固め、同庁の有識者検討会に提案した。今後、基準の内容などについて具体的に議論する。

 国は患者らの容体と搬送先について明確な基準を定めておらず、自治体が独自に判断しているケースが多い。基準作成は救命救急センターなど高度医療機関への集中を防ぐとともに、医療機関による救急患者の受け入れ拒否問題の改善にもつなげることが狙い。

 消防庁は、例えば患者が胸の痛みを訴えている場合、心電図のデータや呼吸困難の程度などに応じて、適切な医療機関を判断できる基準を想定。症状に応じて治療をスムーズに受けられるようにすることを目指している。

 検討会では、東京都内で7カ所の病院に受け入れを断られた妊婦(36)が死亡した問題について、石井正三委員(日本医師会常任理事)から「(医療に関する)予算を削って質を維持するのは無理だ」とする発言もあった。

(共同通信、2008年10月23日)

****** 朝日新聞、2008年10月23日

都立墨東病院、搬送先探す役割果たさず 妊婦死亡事故

 脳内出血を起こした東京都の妊婦(36)が都立墨東病院など7病院に受け入れを断られ、その後死亡した問題で、受け入れ要請を断った都立墨東病院が周産期医療センターとして搬送先を探す役割があったにもかかわらず、かかりつけ医に任せていたことが分かった。また、都の受け入れ病院を検索するシステムも機能していなかった。

 墨東病院は都指定の総合周産期母子医療センター。指定基準では「担当する地域の患者の搬送先確保に努める」とあり、同病院で患者を受け入れられない場合、他の周産期母子医療センターなどと連携して搬送先を探す役割が課されている。

 しかし、都は「今回はかかりつけ医が搬送先を探すと言っていたので任せた」と説明。墨東病院側も「当直医が1人しかいないこちらの事情を知っているかかりつけ医が、気を使ってくれたのではないか」としている。

 ただ、墨東病院はかかりつけ医に対し、都の周産期母子医療センターのネットワークシステム上で受け入れ可能となっていた東京慈恵会医科大付属病院、慶応義塾大学病院、日本赤十字社医療センターを紹介したという。

 このネットワークシステムには、危険度が高い出産に対応できる医療機関として都が指定する周産期母子医療センター(都内22カ所)と同程度の機能を持つ2病院が参加。各病院は「手術が可能か」「ベッドに空きはあるか」など変更があるたびに入力し、どこが患者を受け入れられるか端末で見ることができる。

 しかし、かかりつけ医が3病院に受け入れを要請したところ、いずれの病院も満床などを理由に拒んだという。都は、なぜ受け入れ可能となっていた病院が妊婦を受け入れられなかったのか、システムがうまく機能しなかった原因を調査する方針だ。

 都によると、4日夕、江東区の女性が自宅で下痢や嘔吐(おうと)、頭痛を訴え、救急車でかかりつけの江東区内の産婦人科医院・五の橋産婦人科に運ばれた。かかりつけ医は脳内出血の疑いがあると診断し、午後7時ごろ、墨東病院に受け入れを依頼。しかし、断られ、他の搬送先を探した。

 搬送先探しはかかりつけ医が担当し、7病院に断られ、午後7時45分に再度、墨東病院に要請し、午後8時ごろに受け入れが決まった。その間、妊婦の症状は悪化し、墨東病院に着いたときには意識不明に陥っていたという。

(朝日新聞、2008年10月23日)

****** 朝日新聞、2008年10月23日

順天堂、慈恵医科大、慶応…大病院が次々拒否 妊婦死亡

 脳内出血とみられる妊娠9カ月の東京都内の女性(36)が、救急搬送を断られた末に亡くなった問題で、受け入れを拒否した病院は、都立墨東病院(墨田区)のほか、大学病院など6病院だったことが分かった。ほとんどの病院はハイリスクの出産に対応する「地域周産期母子医療センター」などに指定されていた。

 救急車で運ばれてきた妊婦の異変に気づいた江東区亀戸6丁目、「五の橋産婦人科」(川嶋一成院長)の医師は、墨東病院に断られた後、周産期母子医療センターのネットワークで診察可能な病院を探したという。

 この医師は、順天堂大学医学部付属順天堂医院(文京区)に4日午後7時半すぎ、「妊婦が吐き気や下痢、激しい頭痛を訴えている」として受け入れを依頼した。医院側によると、当日の産科・婦人科の当直医は2人いたが、いずれも別の出産に対応していた。産科・婦人科の計61床も満床で、受け入れは不可能と答えたという。

 さらに医師は東京慈恵会医科大付属病院(港区)にも電話。ベッド数9の新生児集中治療室(NICU)は満床だったうえ、前日に生まれた双子を管理中で、当直医2人は手が回らなかったという。産科には当直医も2人いたが、破水した妊婦が待機中で「受け入れられるような状況ではなかった」という。

 日本赤十字社医療センター(渋谷区)は、6床の母体胎児集中治療室が満床なうえ、別の妊婦も搬送されていたため、当直医3人では対応できないとして搬送を断った。センターによると、「電話では切迫した状況がうかがえなかった」といい、「救急患者はかなり受け入れてはいるが、集中治療室が満床の場合には断らざるをえない」という。日本大学医学部付属板橋病院(板橋区)も、12床の集中治療室が満床で断るしかなかったと説明。当直の産科医が3人いたが「ベッドがないなら断らざるをえない」と話した。

 慶応義塾大学病院(新宿区)では、「下痢、嘔吐(おうと)、頭痛の症状がある」という医師の言葉を聞いて感染症の疑いがあると判断。産科の個室の空きを確認したが埋まっていたため、受け入れられなかったという。東京慈恵会医科大学付属青戸病院(葛飾区)は、もともとリスクの高い新生児の対応ができないうえ、当日は脳外科医の当直医が不在だったと説明した。

(朝日新聞、2008年10月23日)

****** 東京新聞、2008年10月23日

受け入れ拒否、妊婦死亡 『みんなギリギリ』墨東病院 産科医不足浮き彫り

 脳内出血を起こした出産間近の妊婦(36)が七つの医療機関に受け入れを断られ、その後に死亡した問題は、産科医不足にさらされる医療現場の危うい実態も浮き彫りにした。地元医院からの最初の要請を断った墨田区の都立墨東病院は「複数の当直医をどうしても手当てできず、原則として救急搬送は断っていた。みんなギリギリのところでやっている」と訴えた。【石川修巳】

 都によると、墨東病院は妊産婦の救命救急に二十四時間対応する「総合周産期母子医療センター」として都の指定を受けており、周産期医療を支える中核病院の一つ。都の基準では「複数の医師の確保が望ましい」とされるが、医師の退職で二人の当直体制が維持できず、七月から休日には一人体制としていた。

 同病院の常勤産科医は現在、四人。都が提示する定数の九人を大きく下回っている。

 同病院周産期センターの林瑞成産科部長は「産科医を簡単に増やせる状況ではなく、産科救急を目指す人はもっと少ない。その中で、どうしたら安全が維持できるか、関係機関と話し合っている」と話す。医師確保のため大学医局への働きかけや待遇改善、女性医師の短時間雇用など「打てる手は打っている」(病院経営本部)という。

 都内の産科医は一九九六年の千五百七十三人から、二〇〇六年には千四百十一人に減少している。

 都の周産期医療協議会による〇八年三月の報告では「予想以上の減少傾向」と指摘。▽女性医師自身の出産や育児のための離職▽医療訴訟の多発などで新たな産科希望の医師の減少-などの要因があると分析している。

(東京新聞、2008年10月23日) 

****** 時事通信、2008年10月23日

7病院から聞き取り調査へ=妊婦受け入れ拒否-厚労省

 東京都内で救急搬送された妊婦が7つの医療機関に受け入れを拒否され死亡した問題で、厚生労働省は23日、これら7つの医療機関から近く聞き取り調査することを決めた。なぜ妊婦の受け入れを拒否したのかを直接聞き、当時の経緯に問題がなかったか調べる方針だ。

 同省は、病院が多い東京都で相次ぐ受け入れ拒否から死亡事例が起きた事態を重視しており、いったん受け入れを拒否し最終的に受け入れた都立墨東病院(墨田区)を所管する都の担当者からも既に事情を聴いた。

(時事通信、2008年10月23日)

****** 時事通信、2008年10月23日

「七転八倒」尋常でない頭痛=産科医療の現状に理解を-妊婦死亡で掛かり付け医

 脳内出血を起こした妊婦(36)が7病院に受け入れを断られ死亡した問題で、妊婦が通院していた五の橋産婦人科(東京都江東区)の医師らが22日夜に記者会見。妊婦が尋常でない痛がり方で頭痛を訴えていたとし、脳神経外科のある病院に搬送を依頼した経緯を説明した。

 川嶋一成院長は、搬送受け入れ先が決まるまで1時間ほどかけて依頼することは常にあるとし、「複数の科にまたがる搬送は非常に難しい。現状がこういう状況であることを皆さんに理解していただきたい」と述べた。

 同院長と、当日対応した塩野結子医師によると、4日午後6時ごろ、妊婦の夫から下痢と嘔吐(おうと)を訴える電話があり、具合が悪ければ救急車で来院するよう指示。午後7時少し前に到着した時には、激しい頭痛を訴えていたという。

 妊娠状態に問題はなく、頭部疾患を疑って搬送を依頼。都立墨東病院には「当直が1人で対応できない」と断られた。電話した塩野医師は「頭を抱えて痛い痛いと七転八倒している状態をそのまま伝えた。脳出血とは言っていない」と説明。電話を受けた医師がどう判断したかは「分からない」とした。

 並行して救急隊員が病院を探し、脳疾患だけなら受け入れ可能な病院があったが、妊婦には対応できず、最終的に墨東病院が受け入れるまで約1時間20分かかった。

 複数の病院に断られたことに対し「みんな頑張ってるとしか思えなかった」と塩野医師。搬送する際、目の前で急激に妊婦の容体が悪化していき、「自分の無力さを感じた」とつらそうに話した。死亡翌日に来院した夫からは「この病院に来てよかった」と言われ、涙したという。

(時事通信、2008年10月23日)

****** 毎日新聞、2008年10月23日

妊婦受け入れ拒否 都心でも産科崩壊寸前

 ◇医師不足、拠点まで--当直1人、土日対応に限界

 都立墨東病院が今月4日、36歳の妊婦の受け入れをいったん拒否し、その後妊婦が死亡した問題は、緊急を要する妊婦に対する医療体制の不備や医師不足が東京など大都市にも及んでいることを示した。周産期医療の拠点病院でも医師の勤務実態は厳しく、搬送のための連絡態勢にも課題を残した。

 「亡くなられた方、そしてご遺族の方々に心よりお悔やみ申し上げます……」

 22日午後3時すぎ、東京都庁で開かれた記者会見。立ち上がって頭を下げたのは病院経営本部の及川繁巳・経営企画部長1人だけで、残りの説明者4人は座ったまま。しかも「おわび」ではなく「お悔やみ」。今回の問題での都の複雑な立場を物語っていた。

 墨東病院は一報を受けた4日午後7時の段階で、女性の症状をどう認識していたのか。

 会見で同病院の林瑞成(ずいせい)・周産期センター産科部長らは「下痢と吐き気があって、頭痛が少しあるという状態での依頼だった。一般的には感染症を疑うべき症状」と繰り返した。

 当時、産科の当直医として連絡調整に当たっていたのは経験4年の医師1人。適切な判断が疑われる背景には、医師不足で進む周産期医療の形骸(けいがい)化がある。

 都は同病院を「総合周産期母子医療センター」に指定しているが、基準は「複数の医師が24時間診療できることが望ましい」というあいまいなものだ。産科スタッフは常勤医の定数を9人としているが、法律や内規などで義務付けられたものではない。現状は常勤医の4人に加え▽非常勤のシニアレジデント(研修医)2人▽非常勤医師2人▽応援の非常勤医師7人--で日常業務をやりくりしているという。

 以前からも産科医不足に悩まされ、06年11月からは新規の一般分娩(ぶんべん)患者の受け入れを停止した。今年6月末にシニアレジデント1人が退職し、7月からは土日の当直は1人態勢に切り替え、土日の救急の受け入れを制限していた。それでも07年度の母体受け入れ数は199件で都内の同センター9施設の平均よりも約90件多く、林部長は「この人数でも頑張ってやっている」と理解を求めた。

 総務省消防庁が今年3月にまとめた07年の妊婦の救急搬送の実態調査によると、昨年全国で10回以上受け入れ拒否された53件のうち31件が都内。また、救急搬送されるまでに30分以上かかったのは264件、2時間以上は6件でいずれも全国最多。首都・東京の周産期医療は限界近くまで疲弊しているといえる。

 都内の産科医は06年に1411人となり、88年の1813人に比べ2割以上も減っている。都福祉保健局の吉井栄一郎・医療政策部長は「厳しい状況の中で役割分担をし、他の圏域からの応援ができる仕組みを作りたい」と話し、医療機関同士の協力態勢の再構築を急ぐ考えを示した。【木村健二、堀智行】

 ◇搬送調整役を設置--大阪・千葉

 妊婦の命にかかわる出産はまれではない。日本産科婦人科学会が04年に実施した調査によると、約12万人の分娩で32人が死亡した。うち、今回の妊婦と同じ脳内出血も4人。延べ417人が生死をさまよい、妊婦の250人に1人が命にかかわる状態に置かれた。久保隆彦・国立成育医療センター産科医長は「重症例は必ず発生する。危険度が増す高齢出産も増えている」と話す。

 現行体制の限界を指摘する見方もある。総合周産期母子医療センターは、危険度の高い出産の「最後のとりで」と考えられ、未熟児など新生児の救命を目的に設置された。現在45都道府県で74病院が指定されている。しかし、母体救命の設備を必須としていない。母体の救命を優先するならば、一般の救命救急センターに搬送したいが、多くの家族は「胎児も助けてほしい」と希望するため、総合周産期母子医療センターへ搬送される。ある産婦人科医は「結果的に母親への対応は後手に回る」と打ち明ける。

 緊急を要する妊婦の搬送体制にはどう対応するのか。奈良県橿原市の妊婦が搬送中に死産した問題を受け、大阪府は搬送先の調整に当たるコーディネーターを昨年11月に全国で初めて設置。千葉県でも24時間対応のコーディネーターを置いた結果、妊婦の県外搬送が減ったという。

 「受け入れ拒否」を防ぐ取り組みも求められるが、産院を経営する医師は「施設やシステムが構築されても、訓練と当事者意識が徹底されないと再び起きかねない」と指摘する。【永山悦子、奥野敦史、清水健二】

 ◆妊婦死亡までの経過◆

 <4日(土)>

午後7時ごろ  女性(36)が江東区のかかりつけの産婦人科医院に搬送される。主治医が墨東病院に受け入れの可否を問い合わせるが、当直医は「土日は基本的に母体搬送を受け入れていない」と説明。連絡した計7病院に断られる

同45分ごろ  主治医が再び墨東病院に受け入れを依頼。当直医が外にいた産科部長に緊急登院を要請

同8時ごろ   墨東病院が産婦人科医院に「受け入れ可能」と連絡

同18分    女性が墨東病院に到着。救急車内で意識レベルが低下し、到着時には呼吸停止状態に

同9時41分  帝王切開で胎児が生まれる(病院側が胎児から先行して手術を進めることを説明し、家族は同意)

同10時24分 女性の頭部の手術を開始

 <5日(日)>

午前1時28分 頭部手術が終了

 ※その後、女性の症状が悪化

 <7日(火)>

午後8時31分 女性が死亡

(毎日新聞、2008年10月23日)

****** 毎日新聞、2008年10月23日

妊婦受け入れ拒否死亡:産科医「頭部疾患伝えた」 病院側は「脳出血疑えず」

 妊娠中に脳内出血を起こした東京都内の女性(36)が都立墨東病院など7病院に受け入れを断られた後に死亡した問題で、最初に女性を診察した江東区の「五の橋産婦人科」の医師が22日夜、記者会見した。「(受け入れを要請した)墨東病院の当直医に(女性は)頭が痛くて痛くて七転八倒しているニュアンスを伝えた」と証言し、「脳内出血が疑われる症状は伝わらなかった」とする墨東病院側の説明に反論した。

 会見したのは、塩野結子(ゆうこ)医師(38)。会見は遺族の同意をもとに開かれ、川嶋一成院長と小西貞行弁護士が同席した。塩野医師によると、女性は初めての妊娠で定期的に検診を受け、妊娠35週と4日目だった。4日午後6時に夫から「下痢と嘔吐(おうと)があり、食中毒かもしれない」と電話があり、救急車で来院するよう伝えた。救急車は同52分に医院に到着し、夫は「自宅に救急車が着く直前に『頭が痛い』との訴えがあった」と話し、本人も頭痛を訴えたという。

 採血と超音波で妊娠によるトラブルがないことを確認したが、頭痛が尋常ではなかったため、電話で墨東病院に受け入れを要請。詳しい症状を伝えたが「1人当直なので受け入れられません」と


母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例

2008年10月22日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地方だと、母体搬送を受け入れる(2次医療圏内の)病院は限定されます。産科2次病院は、母体搬送の受け入れ要請があれば、他に選択の余地がないので、とにもかくにも何でも受け入れざるを得ません。ですから、地方では、『多くの施設に母体搬送の受け入れ要請を断られて、受け入れ先が決定するまでに時間を要する』という事態はむしろ起こりにくいと思われます。

都内には周産期母子医療センターが22施設(総合:9施設、地域:13施設)もあり、地方と比較すると産婦人科医の数は圧倒的に多いはずですが、施設の患者収容能力にはそれぞれ限界がありますから、運が悪いと次から次へと母体搬送の受け入れ要請を断られ続ける可能性もあります。

また、産婦人科の常勤医数が減少し、認定されている総合周産期母子医療センターとしての機能を十分に全うすることが困難になった場合、例えば、『いくつかの周産期母子医療センターを統合して、1施設当たりの産婦人科の常勤医数を増やす』などの対策を講じる必要があるのではないでしょうか?

総合周産期母子医療センター:2008年5月26日現在、74施設(45都道府県)。相当規模の母体・胎児集中治療管理室を含む産科病棟及び新生児集中治療管理室を含む新生児病棟を備え、常時の母体及び新生児搬送受入体制を有し、合併症妊娠、重症妊娠高血圧症候群、切迫早産、胎児異常等母体又は児におけるリスクの高い妊娠に対する医療及び高度な新生児医療等の周産期医療を行うことができる医療施設をいう。

****** NHKニュース、2008年10月22日

妊婦死亡 7医療機関が拒否

 今月、東京で出産間近の36歳の女性が脳内出血を起こしましたが「対応できる医師がいない」といった理由で7つの医療機関から次々と受け入れを断られ、赤ちゃんを出産後に死亡していたことがわかりました。東京都は詳しい経緯を調査しています。

 東京都や消防などによりますと、今月4日の夜出産を間近に控えた都内に住む36歳の女性が体調の不良を訴え江東区にあるかかりつけの産婦人科医院に救急車で運ばれました。女性は脳内出血の症状がみられたためかかりつけの医師が電話で緊急手術が可能な病院を探しましたが「当直の医師が別の出産に立ちあっている」とか「ベッドに空きがない」といった理由であわせて7つの医療機関から次々と受け入れを断られたということです。およそ1時間後最初に受け入れを断られた墨田区内の都立病院に再度、要請した結果病院側は当直以外の医師を呼び出して対応しましたが女性は帝王切開で赤ちゃんを出産したあと脳内出血のため3日後に死亡しました。赤ちゃんの健康状態に問題はないということです。

 この都立病院は緊急の治療が必要な妊娠中の女性を受け入れる医療機関として東京都が指定しています。しかし医師不足を理由に本来は2人だった産科の当直の医師を1人にしていたため当直時間帯は原則として手術を断っており、最初の要請に対応できなかったということです。東京都は女性が死亡したことを重く見て医療機関などから事情を聴いて詳しい経緯を調査しています。妊娠した女性の救急搬送の問題に詳しい昭和大学医学部の岡井崇教授は「今回の問題をきちんと検証し病院施設の多い東京でも産科医の不足や病院の受け入れ体制について対策を講じる必要がある」と話しています。

(NHKニュース、2008年10月22日)

****** NHKニュース、2008年10月22日

“脳内出血と思わず断った”

 東京で脳内出血を起こした妊娠中の女性が、7つの医療機関から、次々と受け入れを断られたあと死亡した問題で、最初に受け入れを断った都立病院の担当者が記者会見し、「かかりつけの医師から、女性の症状を最初に聞いたときは、脳内出血を疑わなかったため受け入れを断った」と釈明しました。これに対し、女性のかかりつけの病院側は、「激しい頭痛の症状を伝えた」と反論しています。

 東京都内に住む妊娠中の36歳の女性は、今月4日に脳内出血を起こして、7つの医療機関から次々と受け入れを断られたあと、赤ちゃんを出産してから3日後に死亡しました。22日午後、女性の受け入れを最初に断った東京・墨田区の都立墨東病院や東京都の担当者が記者会見しました。この中で、墨東病院側は、最初に受け入れの要請があった際に、女性のかかりつけの医師が「下痢やおう吐の症状を訴えている」と話したため、感染症だと判断し、脳内出血のような重い病気とは疑わなかったと釈明しました。墨東病院は、緊急の治療が必要な妊娠中の女性を受け入れる医療機関として都から指定されています。医師不足から本来は2人だった土日と祝日の産科の当直の医師を、ことし7月からは1人にしていたため対応できないと考え、かかりつけの医師に受け入れ態勢が整っている医療機関を紹介したということです。女性は、ほかの医療機関からも受け入れを断られたため、最終的に墨東病院が受け入れたということです。これに対して、女性のかかりつけの病院側は「激しい頭痛を訴えていると墨東病院に伝えた」と反論しています。

 この問題を受けて東京都は、22日午後、記者会見を開いて経過を説明しました。東京都病院経営本部の及川繁巳経営企画部長は、都立墨東病院が最初の搬送要請を断ったことについて、「妊娠していた女性について、下痢やおう吐のほか、少し頭痛があると産婦人科の医院から連絡を受けたが、その時点で脳卒中という認識はなかったため、手術など十分な対応できるほかの病院を探してもらった方がよいと判断した」と話しました。また、都内の病院に次々と受け入れを断れられ、結果として女性が死亡したことについて、問題の背景には産婦人科の医師の絶対的な不足があるとしたうえで、各病院が当時どんな状況で受け入れを断ったのか詳しく調査する考えを示しました。

 一方、女性のかかりつけだった病院は「救急搬送中に頭痛がひどくなり、病院に到着した段階では非常に緊急性が高いと判断した。救急隊員には次の搬送に備えてそのまま待機してもらった。頭痛がひどく緊急性が高い症状だということは、受け入れを要請した墨東病院にも伝えた」と話しています。

(NHKニュース、2008年10月22日)

****** 共同通信、2008年10月22日

7カ所診療断られ妊婦死亡 医師不足、研修医が当直 緊急対応指定の都立病院 脳内出血、赤ちゃん無事

 体調不良を訴えた東京都内の妊婦(36)が都立墨東病院(墨田区)など7カ所の医療機関に診療を断られた後、最終的に救急搬送された墨東病院で赤ちゃんを出産後、脳内出血の手術を受け、3日後に死亡していたことが22日、分かった。赤ちゃんは無事だった。

 墨東病院は、緊急対応を必要とする妊婦や新生児を受け入れる都が指定した医療機関。当直に当たる産科医師の1人が退職し、妊婦が搬送された今月4日の土曜日は研修医1人が当直していた。都は、指定医療機関としての態勢に不備がなかったか経緯を詳しく調べる。

 都によると、妊婦は吐き気などを訴え、江東区のかかりつけの産婦人科医院を訪れた。医院は緊急な措置が必要と判断し、墨東病院への搬送を手配。しかし墨東病院は産科の当直医が1人しかいなかったため対応できず、いったん断った。

 妊婦の診療がほかの6カ所の医療機関にも断られたため、医院が再度依頼し、約1時間後に墨東病院が受け入れを決めた。墨東病院は医師1人を呼び出して対応。妊婦は、帝王切開で赤ちゃんを出産後、脳外科で脳内出血の手術を受けた。

 墨東病院の産科医師は、7月からは常勤3人、研修医3人で当直に当たった。平日の当直は2人だったが、週末は1人で、妊婦が搬送された当日の当直は30代の研修医1人だった。

 重大なケースになると、別の医師を呼び出していたという。

 都は「限られた人材で精いっぱい対応した。痛ましいことで救えなかったのは残念」と話している。墨東病院は、救急患者の診察や緊急手術、救命措置などに当たる「東京ER」を開設。産科は直接は対象外だが、石原慎太郎都知事は「あってはならないことで残念。経緯を調査したい」と話した。

 昨年8月には、買い物中に腹痛を訴えた奈良県の妊婦の搬送先がなかなか決まらず、10カ所目に打診した大阪府の病院に運び込まれたが、死産となった。

(共同通信、2008年10月22日)

****** 共同通信、2008年10月22日

妊婦死亡、当初脳内出血分からず  かかりつけ医と食い違い

 東京都内で7カ所の病院に受け入れを断られた妊婦(36)が、いったん拒否した都立墨東病院で脳内出血の手術を受け死亡した問題で22日、都と墨東病院が記者会見し「当直医は当初、脳内出血だと分からなかった。分かっていれば最初から受け入れたはず」と説明した。その上で「一連の判断は妥当」と主張し、医療過誤ではないとの認識を示した。

 一方、墨東病院に受け入れを依頼した江東区のかかりつけの産婦人科医院長も会見し、当初の妊婦の容体について「自宅に救急車が到着する直前から頭が痛いと訴えた。尋常ではなく頭部の疾患を疑った」とし、病院に「七転八倒している状況を伝えた。頭を抱えて『痛い、痛い』と言っていると伝えた」と説明、双方の認識に食い違いがあることが判明した。

 かかりつけの産婦人科医院の医師が、当初から脳内出血の診断を墨東病院の当直医に伝えていたのではないかとの質問に、都の幹部は「詳しいやりとりは調査中で分からない」と答えた。

 また当直医は、受け入れ可能な周産期医療センターなど3病院を端末で検索。かかりつけ医はそれらを含む計8病院に問い合わせたが、7病院で断られたことも会見で判明。1カ所は「受け入れる」としたものの、その時点で既に墨東病院への搬送が決まっていたという。

 断った病院の当直体制について、都側は「調べてみないと分からない」とした。

(共同通信、2008年10月22日)

****** 共同通信、2008年10月22日

妊婦搬送要請先の病院名

 東京都は22日、死亡した妊婦(36)のかかりつけ医院が都立墨東病院(墨田区)のほかに、搬送先として問い合わせた病院7カ所を明らかにした。

 7病院は、慶応大病院(新宿区)▽日赤医療センター(渋谷区)▽順天堂医院(文京区)▽東京慈恵会医大病院(港区)▽東京慈恵会医大青戸病院(葛飾区)▽日大板橋病院(板橋区)▽東京女子医大東医療センター(荒川区)。

 都によると、東京女子医大東医療センターは受け入れを了承したが、その時点では墨東病院への搬送が決まっていたという。

(共同通信、2008年10月22日)

****** 時事通信、2008年10月22日

東京都に口頭で指導=妊婦死亡問題-厚労省

 東京都内で救急搬送された妊婦が7つの医療機関に受け入れを拒否され死亡した問題で、事態を重視した厚生労働省は22日、病院を所管する都の担当者に対し口頭で指導し、経緯について問題がなかったか事情を聴いた。

 同省は「病院が多い東京でなぜこのようなことが起きたのか原因を分析し、国として必要な対応を取りたい」としている。

(時事通信、2008年10月22日)

****** 読売新聞、2008年10月22日

脳出血に「対応できぬ」と7病院が拒否し、妊婦が死亡

 脳出血を起こして緊急搬送先を探していた東京都内の妊婦(36)が、七つの医療機関から受け入れを断られ、出産後に死亡していたことが22日、わかった。

 いったん受け入れを断り、最終的に対応した都立墨東病院(墨田区江東橋)は、緊急対応が必要な妊婦を受け入れる病院として都の指定を受けていた。都は詳しい経緯を調べている。

赤ちゃんは無事

 都などによると、今月4日午後6時45分ごろ、江東区に住む出産間近の妊婦が頭痛や吐き気などを訴え、同区内のかかりつけの産婦人科医院に運ばれた。医師は、墨東病院に電話で受け入れを要請したが、同院は「当直医が1人しかいないので対応できない」と断った。医師は引き続き、電話で緊急対応が可能な病院を探したが、「空きベッドがない」などの理由で、同院を含め計7病院に受け入れを断られた。

 医師は約1時間後、再び墨東病院に要請。同院は別の医師を自宅から呼び出して対応し、同9時30分ごろから帝王切開で出産、同10時ごろから脳出血の手術をしたが、妊婦は3日後に死亡した。赤ちゃんは無事だった。

 墨東病院は、母体、胎児、新生児の集中治療に対応できる「総合周産期母子医療センター」として1999年6月に都が指定。

 同センターに関する都の基準では、「産科医を24時間体制で2人以上確保することが望ましい」とされている。しかし、同病院では、産婦人科の常勤医が2004年に定員の9人を割ってから、慢性的に不足しており、現在は、4人にまで減っていた。

 そんな中、当直も担当していた非常勤産科医が6月末で辞め、7月以降は土日、祝日の当直医を1人に縮小しており、妊婦が搬送された4日は土曜日だった。

 都の室井豊・救急災害医療課長は「搬送までの時間と死亡との因果関係は不明だが、もう少し早ければ、命が助かった可能性も否定できない。産科の医療体制が脆弱(ぜいじゃく)だった点は問題で、早急に対策を取りたい」として、受け入れを断った他の病院についても、当時の当直体制など、詳しい事情を聞いている。

                ◇

[解説]産婦人科の「緊急」指定病院なのに…

 妊婦の救急搬送を巡っては、奈良県の大淀町立大淀病院で一昨年、出産の際に意識不明になった女性が、19病院から受け入れを断られ、搬送先の病院で死亡した例がある。この悲劇が繰り返された。

 読売新聞社は、16日の医療改革提言で、救急たらい回し解消のため、24時間、どんな患者も受け入れる救急病院「ER」(救急治療室)を全国400か所に整備することを求めた。都立墨東病院は、妊産婦や新生児の緊急治療を行う総合周産期母子医療センターに指定されているうえ、ERでもあるが、産婦人科の当直医が1人だけで、1回目の受け入れ要請を断らざるを得なかった。産科の医師不足が影を落とした形だ。

 医師不足対策には、病院同士が協力し、医師を拠点病院に集める「集約化」を進めることが重要だ。

 大阪府泉佐野市と貝塚市の両市立病院では、ともに産婦人科の当直医が1人体制だった。そこで今春から、夜間は貝塚病院の医師が泉佐野病院に出向き、同病院の当直を2人にして救急体制を強化した。貝塚病院産婦人科は当直医を置かず、婦人科手術を引き受ける。

 病院が役割分担し、広域で産科救急を支える仕組みを早急に整えるべきだ。【療情報部 山口博弥】

(読売新聞、2008年10月22日)

****** 東京新聞、2008年10月22日

7病院拒否、妊婦死亡 

都指定機関も「対応できない」

 脳内出血を起こした東京都内の妊婦(36)が、墨田区の都立墨東病院など七カ所の医療機関に受け入れを断られた後、帝王切開で出産した三日後に死亡していたことが二十二日、分かった。赤ちゃんは無事だった。都は、受け入れを断った医療機関から当時の状況を聴くなど、詳しい経緯を調べている。

 墨東病院は、緊急対応が必要な妊婦を受け入れる「総合周産期母子医療センター」として、都の指定を受けた二十二病院の一つ。産科の当直医は通常二人だが、七人いた産科医が三人に減ったため今年七月から土・日曜と祝日には一人態勢とし、受け入れ制限を関係機関に知らせていた。妊婦が症状を訴えた今月四日も土曜だった。

 都によると、妊婦は同日、体調不良を訴えてかかりつけの産婦人科医院に救急搬送された。妊婦に脳内出血の症状が見られたため、同医院が午後七時ごろ、墨東病院に受け入れ可能かを照会。墨東病院は当直医が一人のため十分に対応できないとして、ほかの指定医療機関を紹介した。

 だが、その後も六カ所の医療機関に「対応できる医師がいない」などと断られたため、医院が同日午後七時四十五分ごろ、再び墨東病院に依頼。女性の容体が悪化していることもあり、墨東病院は当直以外の産科医一人を呼び出して態勢を整え、同八時二十分ごろ妊婦を受け入れた。

 女性は帝王切開で赤ちゃんを出産、脳内出血の手術も受けたが、容体が悪化。三日後の七日に死亡した。

 都によると、総合周産期母子医療センターの指定を受けている二十二医療機関は、救急搬送に対応するため、ベッドの空き状況を端末で確認できる「周産期センターネットワーク」を構成。墨東病院は当時、ネットワークを見て、ほかに受け入れ可能な病院があることを確認し「より適切に症状に対応できる」(都病院経営本部)として、ほかの病院を紹介したという。

(東京新聞、2008年10月22日)

****** 朝日新聞、2008年10月22日

妊婦搬送7病院が拒否、出産後に死亡 東京

 出産間近で脳内出血の症状が見られた東京都内の女性(36)が7病院から受け入れを断られ、出産後に死亡していたことがわかった。手術を受けた病院に到着するまで約1時間15分かかっており、東京都は詳しい経緯を調べている。

 都によると、女性は今月4日、頭痛などの体調不良を訴え、江東区のかかりつけの産婦人科医院に救急車で運ばれた。かかりつけ医は脳内出血の疑いがあると診断し、午後7時ごろから電話で緊急手術ができる病院を探した。しかし、都立墨東病院(墨田区)など7病院から「当直医が他の患者の対応中」「空きベッドがない」などと次々に断られたという。

 かかりつけ医が午後7時45分ごろ、改めて都立墨東病院に電話したところ、受け入れ可能になったという返事が来たため、同病院に搬送。午後8時18分に到着した女性は帝王切開で出産し、脳内出血の血腫を取り除く手術も受けたが、3日後の7日に脳内出血のため死亡した。赤ちゃんの健康状態には問題がないという。

 都立墨東病院は、リスクが高い新生児と妊婦に24時間態勢で対応する総合周産期母子医療センターに都から指定されている。同病院の当直医は本来は2人体制だが、産科医不足で7月から土曜日と日曜日、祝日は1人になっていた。4日も土曜日で1人しかおらず、1人の時間帯は原則として急患受け入れを断っているため、最初の要請に対応できなかった。2度目の要請があった時は、当直以外の医師を呼び出して対応したという。

 都の担当者は「改善を検討していたが、都内でも産科医不足が深刻なため、十分な体制が確保できていなかった」と話している。石原慎太郎都知事は22日、救急搬送拒否について「そういうことのないために東京ER(救急室)をつくった。調べて対処します」と述べた。

(朝日新聞、2008年10月22日)

****** 朝日新聞、関西、2008年10月22日

「妻の死が何も生かされていない」 奈良の死亡妊婦遺族

 近畿地方でも、救急搬送中の妊婦や患者が病院から受け入れを断られて命を落とすケースが相次いでおり、関係機関が対策を模索している。

 06年8月に奈良県大淀町立大淀病院で分娩(ぶんべん)中に意識不明になり、19病院に転院を断られた末に亡くなった高崎実香(みか)さん(当時32)の夫・晋輔さん(26)は「病院も医師の数も多いはずの東京で、同じような問題が起きるなんて。妻の死が何も生かされていない」と嘆いた。

 同県では07年8月にも、橿原市の妊婦が救急搬送中に11医療機関に受け入れを断られ、死産した。県は再発防止に向け、生命に危険が生じるなどした妊婦を夜間や休日に搬送する際、病院や消防に代わって受け入れ先を探す「妊婦搬送コーディネーター」を導入。今年5月には、県立医大付属病院(橿原市)に総合周産期母子医療センターをオープンさせた。しかし、コーディネーターは人員を確保できず、休日だけの運用。母子医療センターも看護師不足で一部しか稼働できていない。

 兵庫県姫路市でも07年12月、救急搬送中の男性(当時66)が17病院に受け入れを断られ、死亡した。姫路市や市医師会は今年4月、救急車から各病院へ問い合わせて5回断られたら、市消防局指令センターも病院探しに加わる▽受け入れ困難な病院を救急車に積んだパソコンに表示する――など救急搬送を迅速化させるマニュアルを作成した。

 大阪府は緊急の出産手術などに備えた中核施設として、5カ所に総合周産期母子医療センターを整備。連携施設として、地域の周産期母子医療センターも13カ所に設け、24時間態勢で帝王切開などに備えている。しかし、府医療対策課の担当者は「中核施設は国の基準を満たしている。一方で、常勤医の不足に悩んでいる病院もあり、開業医や大学病院の協力でしのいでいるのが実情」と話す。

 重症の妊婦の搬送先が見つからない場合、府内の病院でつくる「産婦人科診療相互援助システム(OGCS)」で、受け入れ可能な病院を探す。それでも、搬送先が見つからない場合に備え、昨年11月から、専任の医師が受け入れ先を探す「緊急搬送コーディネーター」を稼働させた。3月末までに55件の受け入れ先を調整したという。

(朝日新聞、関西、2008年10月22日)

****** 産経新聞、2008年10月22日

7病院に断られ…妊婦が出産後に死亡

 出産間近で体調不良を訴えた東京都内の女性(36)が、都内7病院から受け入れを断られ、出産後に脳内出血で死亡していたことが22日、分かった。当初搬送を断った都立墨東病院(墨田区)が最終的に女性を受け入れ、赤ちゃんを出産。女性は脳内出血の手術を受けたが3日後に死亡した。赤ちゃんは無事だった。

 都によると、女性は4日夜、吐き気などを訴えて東京都江東区内のかかりつけの産婦人科医院で診療を受けたが、医院は脳内出血の疑いがあると判断。午後7時ごろから緊急手術が可能な病院を探したが、7病院から搬送を断られた。

 かかりつけ医は午後7時45分ごろ、再度墨東病院に連絡。同病院は当直以外の医師を呼び出すなどして急きょ受け入れを決めた。女性は午後8時18分に病院へ到着。帝王切開で出産した後、手術を受けたが7日、死亡した。

 墨東病院は、都から新生児と妊婦に24時間態勢で対応可能な「総合周産期母子医療センター」に指定されている。

 しかし、同病院では医師不足のため、本来2人体制だった当直医は7月から土日、祝日は1人体制になっていた。4日は土曜日だった。

 石原慎太郎都知事は22日、「調べて対処するようにする」と話した。

背景に止まらぬ産科医不足 妊婦受け入れ拒否

 妊婦の救急搬送受け入れをめぐっては、平成18年8月に奈良県で意識不明になった妊婦が18カ所の病院で受け入れを断られた末に死亡するなど、搬送先が決まらず手遅れとなるケースが相次いでいる。

 背景には、深刻な産科医不足があり、国は基幹病院を指定して、重点的に産科医を配置したり、手薄な病院に臨時に派遣したりするなど、対策に乗り出している。しかし救急と並んで勤務条件が過酷な産科医の現場離れには、歯止めがかからない状態だ。

 死亡事例が相次いだ奈良県など地方や過疎地に比べ、比較的医師の数が確保されているとみられていた東京都で起こった今回の事態に、厚生労働省の担当者は「今回のケースについては、よく調べないとわからないが」とショックを隠せない様子だ。

「脳内出血と分からず」 妊婦死亡で病院側が会見

 東京都内で7カ所の病院に受け入れを断られた妊婦(36)が、いったん拒否した都立墨東病院で脳内出血の手術を受け死亡した問題で22日、都と病院が記者会見し「当直医は当初、脳内出血だと分からなかった。分かっていれば最初から受け入れたはず」と説明。その上で「一連の判断は妥当」と主張し、医療過誤ではないとの認識を示した。

 かかりつけの産婦人科医が、当初から脳内出血の診断を墨東病院の当直医に伝えていたのではないかとの質問に、都の幹部は「詳しいやりとりは調査中で分からない」と答えた。

 また当直医は、受け入れ可能な周産期医療センターなど複数の医療機関を端末で検索し、かかりつけ医に教えたが、それらの施設からも断られたことも会見で判明。断った医療機関の当直体制について、都側は「調べてみないと分からない」とした。

(産経新聞、2008年10月22日)

****** 毎日新聞、2008年10月22日

妊婦死亡:7病院に受け入れ拒否され手術3日後に 東京

 妊娠中に脳内出血を起こした東京都内の36歳の女性が今月4日夜、都立墨東病院(墨田区)など七つの病院に受け入れを断られ、約1時間20分後、最終的に墨東病院に搬送された後、手術を受けたものの、3日後に死亡していたことが分かった。墨東病院はリスクの高い妊婦に対応する都内9カ所の「総合周産期母子医療センター」に指定されているが、産科医不足のため休日の当直医が1人体制となり、救急患者の受け入れを制限していた。都は一連の経緯に問題がなかったか調査している。

 都立病院を運営する東京都病院経営本部などによると、女性は4日午後7時ごろ、体調不良を訴えて江東区のかかりつけの産婦人科医院に救急車で運ばれた。脳内出血の疑いがあったため、医院の医師が墨東病院に受け入れを要請したが、「土曜日のために当直産科医が1人しかおらず、ハイリスク分べんへの対応が難しい」などの理由で断られた。

 医師はその後、墨東病院に紹介された病院など六つの病院に受け入れを求めたが、いずれも新生児集中治療室(NICU)が満床などの理由で断られたという。

 同7時45分ごろ、医師が再び墨東病院に連絡を入れたところ、病院側は状況が悪化したと判断し、当直以外の産科医1人を呼び出して同8時20分ごろ女性を受け入れた。同10時過ぎから脳の手術と帝王切開を行い胎児は無事生まれたが、女性は7日になって脳内出血のため死亡した。

 墨東病院の林久美子事務局長は「産科医不足で土日の受け入れができず、あらかじめ周囲の病院に協力を求めていた。現状で最善の措置を採ったと考えている」と説明。受け入れが遅れたことと死亡との因果関係について病院経営本部は「何とも言えない」としている。【関東晋慈、真野森作】

(毎日新聞、2008年10月22日)

****** 毎日新聞、2008年10月22日

妊婦受け入れ拒否死亡:都心でもほころび 産科医不足、受け入れ制限

 都心の救急医療体制のほころびが浮かび上がった。妊娠中に脳内出血を起こして亡くなった女性の受け入れをいったん断った東京都立墨東病院(墨田区)は、リスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」に指定されているが、産科医不足で救急搬送の受け入れを制限していた。繰り返される悲劇はどうすれば防げるのか。専門家からは「医師不足解消のため、都や国全体の問題として取り組む必要がある」との声が上がっている。

 墨東病院によると、昨年末に産科の常勤医1人、今年6月に研修医1人が退職し、医師が計6人となった。このため、7月から土日と祝日のセンターの当直医を本来の2人から1人に減らし、周辺の病院に週末の受け入れの協力を求める文書を配布していた。

 脳神経外科非常勤医員の経験もある坂本哲也・帝京大教授(救急医学)は「(都内9カ所の)周産期センターの機能を果たせなくなるという状況にまでなるのなら、社会の安全を保証できない。東京都の福祉行政の責任を問題にするしかない。産科医師が仕事をしやすくなる環境作りが欠かせない」と指摘する。

 三鷹市の杏林大学医学部付属病院で1、2次救急医療の責任者を務める松田剛明准教授(救急医療)は「妊婦の急変には救急医に加えて産科医の協力が不可欠」と指摘。しかし、産科医は全国的に不足しており十分な当直態勢を組めない状況で、「無理して受け入れて死亡した場合、病院や医師が訴訟を起こされて負ける懸念もある」と話す。【樋岡徹也、関東晋慈、中村牧生】

         ◇

「あってはならないこと」…石原都知事

 妊娠中の女性が7病院から受け入れを断られ、死亡した問題で、石原慎太郎都知事は22日午前、報道陣の質問に「初めて聞いた。あってはならないこと。そういうことがないように(救急医療体制を)作っているのに。なお調べて対処します」と答えた。【須山勉】

         ◇

「驚いた」--奈良の死亡妊婦遺族

 奈良県大淀町で06年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、19病院に受け入れを断られた末に亡くなった高崎実香さん(当時32歳)=奈良県五條市=の義父憲治さん(54)は「東京にはいくらでも病院がありそうなのに、このようなことが起きて驚いている」と繰り返される悲劇を憤った。そのうえで「搬送先が決まらない間、家族らはやきもきしたことだろう。救急に対応する病院は、無駄だと思わず、医者の数にゆとりを持たせるべきではないか」と指摘した。

 ほかにも07年8月には下腹部痛を訴えた奈良県の妊婦が病院に受け入れを断られ、救急車で大阪府内の病院に運ばれる途中に死産。同年12月には嘔吐(おうと)などを訴えた大阪府の女性(当時89歳)が30病院に受け入れを断られ、収容先の病院で死亡。今年に入っても、1月に胸痛を訴えた東京都の女性(当時95歳)が、11病院から受け入れを断られ死亡している。

 奈良県はこうした問題を機に周産期医療整備を加速させ、今年5月に橿原市の県立医大付属病院に新生児集中治療室(NICU)31床などを備えた総合周産期母子医療センターを開設。休日・夜間の産婦人科の1次救急の輪番制を開業医の参加で拡大するなどした。

 しかし課題も多い。竹村潔・奈良県健康安全局長は「産科医不足などで総合周産期母子医療センターが名ばかりになっている実態が各地であるようだが、東京でさえこんな状況なのかと驚いている。県は有識者らによる協議会で医療全般の見直しを進めているが、着実に整備を進めなければいけない」と話した。【高瀬浩平、中村敦茂】

(毎日新聞、2008年10月22日)

****** 毎日新聞、2008年10月22日

妊婦死亡:検索ネット機能せず 「可能」3病院も拒否

 妊娠中に脳内出血を起こした東京都内の女性(36)が都立墨東病院(墨田区)など7病院に受け入れを断られた後に死亡した問題で、受け入れ先が探せる都の「周産期医療情報ネットワーク」が機能していなかったことが分かった。ネットの表示では3病院が受け入れ可能だったが、実際にはいずれも拒否していた。システムが機能していれば、女性はより早く搬送された可能性もあり、都は詳しい経緯を調査している。

 周産期医療情報ネットワークは、リスクの高い妊婦に対応する周産期母子医療センター(都内22カ所)と都、消防をインターネットでつなぐシステム。緊急の場合に患者の受け入れが可能なセンターが一覧できるようになっている。

 都によると、死亡した女性は4日午後7時ごろ、下痢や吐き気、頭痛などを訴え、救急車で江東区のかかりつけの産婦人科医院「五の橋産婦人科」に運ばれた。主治医が近くの墨東病院に受け入れを要請したが、産科医院の当直医は「土曜日のため当直が1人しかいない」と説明。主治医から「受け入れ可能な医療機関を教えてほしい」と依頼を受けた当直医は周産期医療情報ネットワークを検索し、受け入れ可能の表示があった▽東京慈恵会医科大病院▽慶応大病院▽日本赤十字社医療センター--の3病院を紹介したという。

 しかし、主治医がこの3病院に電話をしたところ、いずれも「満床」などを理由に受け入れを拒否。▽東京慈恵会医科大青戸病院▽日本大板橋病院▽順天堂大医院にも電話したが、受け入れられなかった。東京女子医大東医療センターだけは受け入れ可能と返事をしてきたが、既に墨東病院が受け入れを決め距離も近かったため同病院に搬送したという。

 厚生労働省によると、コンピューターで周産期医療情報を共有化するシステムは昨年1月現在、39都道府県が導入。しかし「(空き病床の)情報の更新が遅い」などの問題も抱え、一般救急で使われる医療情報システムでは、今年1~2月の総務省消防庁の調査で、全国の消防本部の53%が「システムを利用していない」と答えた。

 奈良県橿原市の妊婦死産を受け、厚労省が昨年12月に行った救急搬送の総点検でも「夜間・休日も空床状況を更新できている」とした自治体は福島、広島県など6県しかなかった。今回の問題でも、病院が情報を更新していなかった可能性もあり、都は「調査している」と説明している。【須山勉、清水健二、木村健二】

(毎日新聞、2008年10月22日)

****** 毎日新聞、2008年10月22日

妊婦死亡:河村官房長官「きちんと検証を」

 河村建夫官房長官は22日の記者会見で、妊娠中に脳内出血を起こした女性が7病院に受け入れを拒否され死亡したことに関して「極めて遺憾だ。原因をきちんと究明し、防ぐにはどうしたらいいか、必要な措置をとらないといけない。東京都で起きたことがどういう意味を持つのか、きちんと検証しないといけない」と述べた。政府として、都道府県と情報交換しながら再発防止に取り組む考えを示した。【坂口裕彦】

(毎日新聞、2008年10月22日)

****** 毎日新聞、2008年10月22日

妊婦死亡:産科医「頭部疾患伝えた」

 妊娠中に脳内出血を起こした東京都内の女性(36)が都立墨東病院など7病院に受け入れを断られた後に死亡した問題で、最初に女性を診察した江東区の「五の橋産婦人科」の医師が22日夜、記者会見した。「(受け入れを要請した)墨東病院の当直医に(女性は)頭が痛くて痛くて七転八倒しているニュアンスを伝えた」と証言し、「脳内出血が疑われる症状は伝わらなかった」とする墨東病院の説明に反論した。

 会見したのは、塩野結子(ゆうこ)医師(38)。会見は遺族の同意をもとに開かれ、川嶋一成院長と小西貞行弁護士が同席した。

 塩野医師によると、女性は初めての妊娠で定期的に検診を受け、妊娠35週と4日目だった。4日午後6時に夫から「下痢とおう吐があり、食中毒かもしれない」と電話があり、救急車で来院するよう伝えた。救急車は同52分に医院に到着し、夫は「自宅に救急車が着く直前に『頭が痛い』との訴えがあった」と話し、本人も頭痛を訴えたという。

 採血と超音波で妊娠によるトラブルがないことを確認したが、頭痛が尋常ではなかったため、電話で墨東病院に受け入れを要請。詳しい症状を伝えたが「1人当直なので受け入れられません」と断られたという。

 塩野医師は「脳内出血を疑ったからこそ、脳神経外科と産科のある病院に連絡をした。ただ、電話で『脳出血』とは言っておらず、伝え方が悪かったかと言われれば真しに受け止めるが、頭部に疾患があることは伝えた。急いでいる状態を察していただきたかった」と話した。

 これに先立ち、墨東病院を運営する都の及川繁巳・病院経営本部経営企画部長は都庁で記者会見し、「(塩野医師から当直医が)頭痛があると聞いていたが、脳内出血が疑われるとは伝わらなかった」と釈明した。【川上晃弘、町田徳丈、木村健二】

(毎日新聞、2008年10月22日)

****** TBSニュース、2008年10月22日

7病院に受け入れ断られ、出産後死亡

 今月4日、東京で脳出血とみられる症状を訴えた出産間近の女性が7つの病院に受け入れを断られ、その後、死亡していたことがわかりました。

 今月4日午後7時ごろ、妊娠中で出産間近の都内の36歳の女性が頭痛や下痢・嘔吐などを訴え、江東区のかかりつけの産婦人科に救急搬送されました。

 産婦人科の医師は脳出血の疑いもあるとして、墨田区の都立墨東病院に受け入れを打診しましたが、「受け入れ態勢が整っていない」と断られました。

 その後、7つの病院に次々と断られ、およそ1時間後に再度、墨東病院に打診。結局、墨東病院は別の医師を呼び、女性を受け入れました。

 この時すでに女性の意識はなく、帝王切開で出産したのち、頭部の手術を受けましたが、3日後、脳出血のため死亡しました。

 この日は土曜日で、墨東病院は土日は当直医が1人しかおらず、緊急の手術は原則として断っていたということです。

 この問題について、22日午後、墨東病院を管轄する東京都が会見を開きました。

 「ご遺族の方々に心よりお悔やみを申し上げます。当初、下痢とおう吐が強いということで、頭痛という話もあったが、極めて激しい頭痛で、脳内出血が疑われるような症状は産科医に伝わらなかったというふうに聞いております。したがいまして、通常の周産期の母体の受け入れということで、他の周産期センターに依頼した方が早く対応できるという判断から、受け入れ可能な医療機関名をお伝えした」(東京都の会見)

(TBSニュース、2008年10月22日)

****** FNNニュース、2008年10月22日

受け入れ拒否で都内の妊婦死亡 かかりつけの産婦人科医「尋常でない頭の痛み伝えた」

 10月、東京で診療拒否された妊婦が死亡した問題で、女性のかかりつけの産婦人科医の担当医が「尋常でない頭の痛みを訴えていることを伝えている」と反論した。

 都立墨東病院と東京都は、会見で「最初の要請の段階で、脳内出血の状況を把握していたら、対応した」と述べた。

 これに対し、女性のかかりつけの産婦人科医の担当医は、22日夕方、FNNの取材に対し、「吐き気や下痢もあったが、尋常じゃない頭の痛みを訴えており、墨東病院にも伝えた」と反論している。

(FNNニュース、2008年10月22日


平成20年度 研修医マッチングの結果

2008年10月18日 | 医療全般

コメント(私見):

今年度の研修医マッチングの結果が10月16日に発表されました。

都道府県別マッチ結果
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/10/dl/h1016-2c.pdf

研修プログラム別マッチ結果
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/10/dl/h1016-2e.pdf

長野県内の研修希望者(計111人)の内訳
 信州大病院:44人
 佐久総合病院:15人
 相澤病院:12人
 長野赤十字病院:8人
 長野松代総合病院:5人
 飯田市立病院:4人
 諏訪赤十字病院:4人
 諏訪中央病院:4人
 長野市民病院:4人
 篠ノ井総合病院:3人
 長野中央病院:3人
 小諸厚生病院:2人
 安曇野赤十字病院:1人
 富士見高原病院:1人
 北信総合病院:1人 

研修医マッチングは、国家試験に合格して医師免許を取得した後の最初の2年間の臨床研修(初期研修)をどの病院で受けるのかを学生と病院双方の希望を基に決める方式で、学生は研修を受けたい病院を第1希望から順位を付けて登録し、病院側も面接などを基に受け入れたい学生を登録し、コンピューターで双方の希望を合致させて決定します。

2004年から臨床研修が義務化された時に導入されました。毎年10月に、翌春の国家試験受験予定者を対象に実施され、今回で5回目です。

研修医を受け入れる病院の動向は、今回も前回までの傾向とほぼ同じ傾向でした。すなわち、都会の病院に研修医が集まる傾向にあり、地方の病院の苦戦が目立ちました。今回も大学病院は半数を割り込みました。

また、現在2年間の初期研修期間を1年間に短縮する案が検討されているようです。初期研修期間を終了してから専門医研修(後期研修)を開始するわけですから、制度切り替えの年には同時に2学年分の医師(16000人)が専門医研修を開始することになります。従って計算上は、医療現場の実働医師が確実に8000人増員されることになり、医師不足の緩和には即効的かつ絶大な効果が期待できます。ただし、その効果は制度切り替え時の1回限りのものです。

参考記事:臨床研修制度の見直し

****** 読売新聞、長野、2008年10月18日

臨床研修ゼロ 13病院

充足率は微増

 来春医師になる医学生の臨床研修先を決める「マッチング」の結果が発表され、県内では、28病院が計204人を募集したのに対し111人が集まり、充足率は昨年を1・9ポイント上回る54・4%だった。

 マッチングは、医学生の研修先の希望順位と、病院側の受け入れ希望などをコンピューターシステムでかけあわせ、研修先病院を決めるもの。

 医師臨床研修マッチング協議会(事務局・東京)の発表によると、県内最多の90人を募集した信州大病院(松本市)には44人が集まり、充足率は48・9%。昨年の39人(充足率43・3%)を上回ったものの、依然として厳しい状況だ。44人のうち、信大医学部からは24人だけだった。

 地域医療などで全国的に人気のある県厚生連佐久総合病院(佐久市)が15人の定員を満たしたほか、相沢病院(松本市)、諏訪中央病院(茅野市)など5病院も充足率100%。一方、1人も集まらなかった病院も13あり、県内でも格差が目立った。

(以下略)

(読売新聞、長野、2008年10月18日)


働きやすい職場環境

2008年10月17日 | 飯田下伊那地域の産科問題

『病院で常勤医として働き続けるためは、必ず他の医師と平等に当直をこなさなければいけない、退勤時刻になっても仕事が残っていれば職場を離れられない、受け持ち患者の状態が悪くなれば非番でも呼び出されるのが当たり前』、そういう一律の義務を課した勤務に耐えられなくなった者が職場から排除されるシステムでは、もはや病院はこの世の中に生き残っていけません。

滅私奉公の厳しい勤務に耐えられなくなった医師達が、次々に「燃え尽きて」過酷な職場を離れていき、その離職者達の穴を埋めるのが新人医師しかいないという状況が続けば、人材はすぐに枯渇してしまうでしょう。

今後は、多様な働き方を認めて、多くの人が自分なりの働き方を選択でき離職しなくても済む、働きやすい職場環境を作っていく必要があります。

****** 信濃毎日新聞、2008年10月7日

市立病院の人材確保 働きやすい環境模索

 「今のところ対応可能な範囲」。飯田市役所で9月29日に開かれた開かれた記者会見で、市立病院の山崎輝行・産婦人科部長は、4月以降の同病院でのお産の受け入れ状況について、こう述べた。同病院は4月から、地元在住者を優先した上、月70件の目安を超えない範囲で他地域で暮らす地元出身者の出産(里帰り出産)を受け入れるーとしてきた。

 全国で問題となっている産科医不足。飯田下伊那地方の中核を担う同病院も昨年11月、里帰り出産を今年4月から原則受け入れない方針をいったん発表した。その後、信大から新たに医師1人が着任することになり、常勤医4人、非常勤医1人による体制で現状まで制限を緩和した。

 助産師のみによる妊婦健診の拡大が軌道に乗ってきたこともあり、出産は「現在は月80~90件に増えている」と山崎部長。ただ、飯伊地方でお産を扱う医療機関は計3ヵ所と3年前から半減。お産の半数以上は同病院に集中しているだけに、千賀脩院長は「あと1、2人は産科医がほしい」と話す。

 同病院の医師は今年4月時点で90人(研修医含む)。4年前に比べて22人増え、「403床のベッド数に対する割合は、ほかの病院に比べても多い方」(千賀院長)。医師と並んで全国的に不足がいわれる看護師も、パートを含め297人(4月時点)と、2年前から39人増えた。来年には患者と看護師の割合を、診療報酬の上乗せがある「7対1」にまで増やす予定だ。

 人材確保に向け、病院側はこれまで「働きやすい環境づくり」(市立病院事務局)を重視。特に女性の医師や看護師らのため、4月には院内保育所を設置したほか、生活と仕事が両立しやすいよう勤務体系を「可能な限り柔軟にしてきた」(同)。また医師の事務作業を補助する職員を配置するなど、医師の負担軽減にも取り組み始めた。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2008年10月7日)


医師の計画配置の提言、読売新聞

2008年10月16日 | 医療全般

現在の医師不足問題は、診療科や地域により医師が偏在していることに起因している。今後、医師養成数を増やしても、この医師偏在を解決しない限り、問題は解決しない。読売新聞は、医師の計画配置の提言を行った。

****** 読売新聞、2008年10月16日

医療改革、読売新聞社提言…医師を全国に計画配置

公的派遣機関を創設

 医師不足などによる医療の崩壊を防ぎ、信頼できる医療体制を確立することを目指し、読売新聞社は改革への提言をまとめた。

 お産、救急医療、認知症の介護などが安心して受けられるよう、直ちに実施すべき「緊急対策5項目」と、中長期にわたる「構造改革5本の柱(21項目)」からなる。提言は、医師不足の地域や診療科に若手医師を計画的に配置するのをはじめ、医師派遣を調整する公的機関を創設するよう求めている。財源として、2011年度までに消費税を「社会保障税」に切り替えて、税率を10%に引き上げるよう訴えている。

〈提言のポイント〉

若手医師を計画配置
産科、小児科の不足も解消

たらい回し防ぐ救急体制
開業医も交代で病院支えよう

介護難民をつくるな
高齢者ケア充実に支援を強化

名ばかり専門医はなくそう
医療ミス防止に調査委設置急げ

安心医療にカネ惜しむな
社会保障費抑制一本やりを転換

介護報酬引き上げ

 読売新聞社は、編集局、論説委員会、調査研究本部の専門記者による社会保障研究会を編成し、有識者との意見交換や、医療、介護現場の取材を通じ、医療・介護の改革について検討してきた。今回の提言は、4月の年金改革提言に続き、超少子高齢社会にふさわしい医療・介護の社会保障の方策を打ち出したものだ。

 医療・介護は国民全体が使う公共財であり、医療を提供する側、利用する患者側ともにルールが必要、との認識に立っている。

 まず緊急に取り組むべきなのが、医師不足対策だ。

 医師不足が問題化したのは、2004年度に始まった医師の新たな臨床研修制度(義務研修)がきっかけだ。研修先として、出身大学ではなく、都市部の有力病院を選ぶ新人医師が増え、地方の大学病院などの人手不足が深刻になった。医師が、勤務する診療科や地域を自由に選べるため、偏在につながっている。

 そこで、医師の研修先を自由選択に任せるのではなく、地域・診療科ごとに定員を定め、計画的に配置するよう制度を改める。対象は、義務研修を終えた後、専門医を目指して3-5年間の後期研修を受ける若手医師とする。そのため、地域の病院に医師を派遣してきた大学医局に代わり、医師配置を行う公的機関を創設する。

 産科、小児科など医師不足が深刻な分野では、病院の医師は当直明けで日勤をこなすなど厳しい勤務を強いられている。医師を増やすなどで過重勤務を緩和することが必要だが、開業医に比べて勤務医の給与が低いことも問題だ。激務に見合った報酬を得られるよう、緊急に診療報酬を改定して待遇を改善すべきだ。

 妊婦ら救急患者が何か所もの病院で受け入れを断られる「たらい回し」の背景には、救急病院の人員が不十分なことがある。地域の開業医が交代で病院に詰めて救急医療に参加する体制を、早急に整えるべきだ。中長期的には、救急病院「ER」を全国400か所程度に整備する。

 医師や医療機関による治療技術の格差を是正することも重要だ。学会が認定している専門医制度は、技量を厳しく評価する仕組みに改める必要がある。

 さらに、医療事故の原因を究明し、再発防止に生かす医療事故調査委員会の設置を急ぐべきだ。

 高齢化で、認知症や寝たきりの患者が急増し、重い介護負担に苦しむ家族は多い。だが、介護サービスに対する報酬が抑えられた結果、介護職員の給与は低く、離職者が相次ぎ、人材不足が深刻だ。介護施設の経営も悪化している。

 介護報酬を緊急に引き上げて職員の待遇と施設経営を改善し、介護を受けられない「介護難民」が出るのを防ぐべきだ。簡単な介護サービスを行う高齢者向けのケア付き住宅を今後10年で倍増させる必要もある。

 医療、介護の現場が危機に直面しているのは、社会保障費について、政府が予算編成で、高齢化による自然増分(年約8000億円)を毎年2200億円抑制してきたことが一因だ。不必要な歳出を削ると同時に、超少子高齢社会に必要な施策には財源を投入すべきであり、やみくもな抑制路線は改めなくてはならない。

 財源については、本紙の年金改革提言で提案したように、消費税を目的税化して税率10%の「社会保障税」とすべきである。

 医師不足 全国医学部長病院長会議のまとめによると、2004年度の研修義務化以前は、新人医師の7割が大学に残っていたのに対し、義務化後は5割に減少。特に東北、四国地方などでは3割前後と激減した。人手不足に陥った大学医局は、他の医療機関に派遣していた医師を引き揚げ、医師不足が顕在化した。日本医師会の調査では、大学医局の77%が、約3000医療機関への医師の派遣中止や減員を行い、約500施設が診療科の閉鎖を余儀なくされた。

(読売新聞、2008年10月16日)

****** 読売新聞、2008年10月16日

医師不足招いた「自由選択」

「外科、産科」「地方」がピンチ

 各地で医師不足が深刻になり、病院の縮小、閉鎖が相次いでいる。解決のため、読売新聞社は、若手医師を計画配置することを提言した。こうした方法は、欧米先進国でも取られている。【医療情報部 田村良彦、利根川昌紀、地方部 菅野薫】

 わが国の医師数は、1996年の約24万1000人から、2006年には約27万8000人へと、10年間で約15%増えている。それにもかかわらず、医師不足が問題になるのは、複合的な要因があるからだ。

 まず、医師数が増えたといっても、他の先進諸国に比べれば少ない。人口1000人当たりの医師数は、日本はフランスやドイツの6割程度だ=グラフ上=。

 逆に、病院や病床の数は際立って多い=同下=。このため、病院ごとの医師数が少なく、一つの診療科に医師が一人しかおらず、満足に休みもとれない場合も珍しくない。過労で病院を辞める医師もいる。

 地域や診療科による医師の偏在も大きい。

 地方の国立大学医学部では、東京など大都市の高校から進学した学生が、卒業後は都会に舞い戻る例も多く、大学が地域医療の担い手を育てる役割を十分に果たせていない。診療科別では、眼科や皮膚科を志望する医師が多い反面、激務の外科、産科を目指す医師は減っている。医師が、勤務する地域や診療科を自由に選べるためだ。

 医師の偏在を是正し、必要な分野や地域に適正配置する仕組みが必要だ。

米独では計画配置

 欧米では、医師の偏在を防ぐため、様々な規制が行われている。

 フランスでは、国が地域や診療科ごとに必要な医師数を調査し、各病院の研修医の数を決めている。

 医学生は、卒業時に国の試験を受け、成績上位の学生から順に、希望する地域や診療科に進む。心臓外科などの専門診療科で研修できるのは、毎年5500-6000人いる卒業生の約半分だ。希望通りの分野や地域に進める学生は1000人程度。中でも放射線科などは狭き門だ。

 研修医になる段階で定数が決められ、診療科の偏在は、ある程度なくすことができる。

 ただ、研修が終われば働く病院を自由に選ぶことができる。パリや南仏などの病院は就職先として人気が高く、地域的な偏りは避けられない。パリ第5大学のパトリック・ベルシュ医学部長は「地域ごとにも、医師を強制的に配置する必要がある」と強調する。

 地域ごとに、開業医の計画配置を実施しているのがドイツだ。

 1993年、州ごとに人口当たりの医師定数を設けた。定員の110%を超える地域では、保険診療を行う保険医として開業することはできない。東京医科歯科大の岡嶋道夫名誉教授は「開業医の定員制は、医師の偏在を防ぐ一定の効果をもたらしている」と言う。

 ドイツ保険医協会のローランド・シュタール広報担当部長(40)は「93年以降、定数を変えておらず、旧東独地域では医師が足りない。『村』単位まで適正な医師数を出すよう、改定作業を進めている」と話す。

 米国では、医療団体や市民らでつくる協議会が、心臓外科、脳外科など24の分野について、専門医になるための研修を行う病院を選定する。研修医1人当たりの症例実績が十分ある病院が対象で、募集枠の人数も実績に応じて決まる。この結果、特定の診療科や地域に医師が偏ることを防止できる。

 例えば脳外科専門医は、米国は約3000人と、人口当たりの医師数で日本の約5分の1に制限されている。このため、一人の医師がこなす手術件数は、日本の医師の5倍に上り、医師の技量も向上する。

外科医ゼロ、秋田の総合病院

 日本病院団体協議会が昨年8-9月に実施した全国医療機関調査では、「04年度以降に休止した診療科がある」と回答した病院は、全体の16%(439施設)に上った。診療科別では、産婦人科(71施設)、小児科(67施設)が多かった。救急指定を取り下げるなど、救急医療から撤退した病院も109施設あった。

 同協議会は「このまま医師不足の状態を放置したら、病院医療が崩壊し、地域医療の維持が困難になる」と危機感を募らせる。

 秋田県北秋田市の公立米内沢(よないざわ)総合病院では、かつて17人いた常勤医が、今では6人に減った。中でも外科医はゼロとなり、「総合病院」とは名ばかりの状態だ。04年度に医師の研修が義務化された後、弘前大や秋田大から派遣されていた医師が、次々に大学に引き揚げられたためだ。

 同病院を含む市内3病院の医師は、合わせて25人。“共倒れ”を防ごうと、市は来年10月、3病院を統合・再編し、新病院を開設する計画だが、必要とされる約40人の常勤医を確保できるメドは立っていない。

 欧米のように、医師配置に関する規制策を求める声も聞かれる。

 熊本大病院の山下康行教授(放射線科)は「熊本大では、かつて年20人ほどいた外科志望者が、最近では1-2人だけになった。政府は全国の医学部定員を増やす方針を打ち出したが、それだけでは各診療科に必要な医師数が確保される保証はない。それどころか、産婦人科や外科などは敬遠される状態が続き、ひずみはますます大きくなるのではないか。診療科ごとの医師数に定員を設ける必要がある」と話す。

(読売新聞、2008年10月16日)

****** 読売新聞・社説、2008年10月16日

医療改革読売案 国民の不安を払拭する時だ

 医療と介護の現場から大きな悲鳴が聞こえている。現状を早急に改善しなければならない。

 読売新聞は4月に公表した年金改革案に続き、医療・介護の包括的な改革プランを提言する。

 衆院解散が遠くないと見られる今、これを世に問うのは、与野党が総選挙で社会保障改革を真っ向から争点に掲げ、内容を競い合うべきだと考えるからだ。

 この提言をたたき台の一つとして、各党がそれぞれ医療・介護に関する公約を深化させ、年金を含む社会保障改革について国民的議論が広がるように願う。

 ◆若手医師を計画配置◆

 読売新聞は日本の医療・介護が直面する現状を俯瞰(ふかん)し、問題点をあぶり出した上で、「ただちに実行すべき緊急対策」と「着実に取り組むべき構造改革」の二段構えで処方箋を書いた。

 最重要かつ最優先の課題は、医師不足の解消である。

 医師の数はできるだけ早く、大幅に増やすべきだ。だが、医学部の定員をいくら拡充しても、一人前の医師が育つまでには10年近くかかる。それを待てる状況にない。

 ならば、医師不足がより深刻な地域や分野に、集中的に人材を送り込まねばならない。

 即効性ある方策として、卒業後2年間の義務研修(初期研修)を終えた若手医師のうち、さらに専門医を目指して3~5年の後期研修に臨む人を、大学病院など全国の基幹病院に偏りなく、計画的に配置する。

 研修中とはいえ、この段階の医師は一人前だ。その“配属先”を国が決定する。地域・診療科ごとに人数枠を定め、本人の希望ともすり合わせて配置を行う。

 そして、人材に余裕が生じる基幹病院から、医師不足が深刻な地域へ中堅・ベテラン医師を派遣する。その計画を立て、調整する公的な医師配置機関を都道府県ごとに創設する。

 新機関は自治体や大学、基幹病院、医師会などで構成する。現在でも同様の顔ぶれで各県に「地域医療対策協議会」があり、これが母体となろう。

 直面する医師不足は、言い換えれば病院勤務医の不足だ。

 次回2010年度の診療報酬改定を待たずに、勤務医の報酬アップにつながる緊急改定を行う。地域の開業医に、中核病院の救急診療に参加してもらうことで、勤務医の過重労働を改善する。

 ◆医療と介護を連携◆

 中長期的には若手のみならず、医師全体の人材配置を計画的に行わなければならない。

 現状は医師免許さえあれば、何科を名乗ろうと、どこで開業しようと、ほとんど制約がない。医師の偏在を招く、過度な自由は改めるべきだろう。

 各地域で診療科別の必要医師数を定め、救急、産科、小児科といった緊急性の高い不足分野からまず増員されるよう、医師配置機関が権限をもって調整する。

 24時間型救急「ER」を全国400か所に整備することや、技量の高い真の専門医、患者を総合的に診られる家庭医の育成も盛り込んだ。さまざまなレベルの医療機関と医師を過不足なく配置し、連携させることが重要だ。

 高齢者の介護と医療は、切れ目なく整備しなければならない。

 介護職員の人材難は、医師不足と同様に深刻だ。介護職員の給与が確実に上がるように、介護報酬を改定する。

 本来は在宅で暮らすことのできる高齢者が社会的入院をせずにすむよう、ケア付き住宅を増やし、開業医の往診と訪問看護・介護を連携、充実させる。

 ◆財源は社会保障税で◆

 提言を実現するために必要な財源の額は、当面1兆6000億円と試算した。だが、医療・介護で改善すべき点は多岐にわたり、改革の進め方によってはさらに必要となるだろう。

 財源の手当ては、先に公表した年金改革提言で示してある。消費税を「社会保障税」に替え、目的税化した上で税率を10%にする。食料品などの生活必需品は5%に据え置く。全体で実質4%分、新たな恒久財源が確保される。

 読売新聞は年金改革案を検討する際に、医療と介護の充実に要する費用を視野に入れ、消費税率にして2%強の財源で収まるように設計した。このため、今回の提言を実現する余力は残っており、年金・医療・介護の同時一体改革は財源面からも十分可能である。

 政府はこれまで、年金・医療・介護の各制度を、つぎはぎするように手直ししてきた。一方で、社会保障費を機械的に抑制する無理を重ね、新たなほころびを次々と生じさせている。

 国民が抱いている不安を払拭するためには、社会保障費の抑制路線とは明確に決別し、必要な医療や介護に手厚く予算をつけて、大胆な改革を断行するべきだ。

 全世代が広く薄く、財源を負担し合うことで、安心できる長寿社会に向けた改革は可能になる。

(読売新聞・社説、2008年10月16日)


産婦人科と漢方医学

2008年10月14日 | 東洋医学

産婦人科医は、他の科の医師と比べて、漢方に興味を持っている者が比較的多い方だと思います。例えば、更年期障害、月経困難症、冷え症、不妊症、妊娠中の感冒や花粉症、抗癌剤の副作用対策など、産婦人科医が漢方薬を処方する機会は意外に多くあります。産婦人科では、もっぱら漢方医学のみを実践している純粋の漢方医はさすがに少ないですが、通常の現代医学的な診断や治療に加えて、その足りない部分を漢方医学で補うというスタンスの医師は比較的多いと思います。

月経異常、更年期障害などの婦人科特有の症状を訴える患者さんに対してよく処方される漢方薬の代表格(3大婦人薬)は、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散です。当帰芍薬散は比較的体力が低下し冷え症がみられる者、桂枝茯苓丸は体力中等度で下腹部の抵抗・圧痛を認め、いわゆる瘀血(おけつ)の腹証がみられる者、加味逍遥散は精神症状、発汗・ホットフラッシュなどの症状がみられる者に多く用いられます。

また同じ感冒でも、症状によりいろいろな使い分けがあります。例えば、感冒の初期で発熱があり、まだ自然発汗が認められない時期は葛根湯が用いられ、鼻閉、鼻水、痰などが主症状であれば小青竜湯や苓甘姜味辛夏仁湯、発作性の激しい咳の場合は麦門冬湯が用いられます。インフルエンザには麻黄湯が有効です。

私がよく処方する漢方薬: 加味逍遥散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、温経湯、女神散、桃核承気湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯、葛根湯、小青竜湯、麦門冬湯、麻黄湯、桂枝湯、苓甘姜味辛夏仁湯、香蘇散、猪苓湯、大建中湯、牛車腎気丸、柴胡加竜骨牡蛎湯、半夏厚朴湯、抑肝散、呉茱萸湯、防風通聖散、防已黄耆湯、清上防風湯、半夏瀉心湯、温清飲、釣藤散、芍薬甘草湯、柴苓湯など。

女性のための漢方セミナー 気になる不調、これって更年期? (毎日新聞)

漢方医学について

漢方の腹診法

漢方の脈診法


刑事裁判は○か×かを決めるゲーム

2008年10月11日 | 大野病院事件

コメント(私見):

産科医療では、一定の頻度で母体や児の死亡や重大な障害が発生する可能性があり、しかも、こうした事例が突発的に発生するのが産科医療の最大の特徴と言えます。産科の急変事例で母体や児の命を守るためには、非常に高度の医療技術を要しますし、産科医・新生児科医・麻酔科医・助産師・看護師などで構成される医療チームの力を集学的に駆使して、初めて母児の救命が可能となります。

産科救急の救命率向上のためには、不幸にも母児を救命できなかった症例を集積して詳細に検討し、『今後、同様の症例に遭遇したら医学的にどのように対処していけばいいのか? また、今後、産科医療提供体制をどのように変革すれば、同様の症例に対処することがが可能になるのか?』について、医療側、患者側、医療行政側などが、一つのテーブルで真摯に話し合うことができる新しい問題解決システムを創設する必要があると思います。

医療側が救命を目的にできる限りの対応をした事例については、刑事裁判で争うこと自体が非常に不適切と思われます。刑事裁判は有罪か無罪かの争いですから、弁護側は最後の最後まで『問題がなかった』と主張せざるを得ないし、検察側は職務上何としてでも有罪を立証しようと全力を注がざるを得ません。最後に勝敗が決するまで、どこまでいっても対立するしかないシステムで、このような事例の解決方法としては大きな違和感を感じます。

**** 日本産婦人科医会報、2008年10月1日

福島県立大野病院事件を振り返って

主任弁護人弁護士 平岩敬一

 はじめに、物心両面にわたって多大なご支援をして下さった医会の皆様に心から御礼を申し上げたい。無罪を勝ち取り、検事控訴もなく一審で判決が確定したのは、医療界を挙げてのご支援があればこそと深く感謝している。

 平成20年8月20日、福島地裁の法廷で、被告人は無罪との判決を聞いた時は、ほっとした、やっと肩の荷が下りたというのが偽らざる心境であった。しかし、なぜ加藤医師は逮捕・勾留されたのか、なぜ起訴されねばならなかったのかと考えてみても、私には今だに何一つ合理的な理由を見出すことができない。検察・警察の医療に対する無知が招いた不幸な事件であったとしか言いようがないのである。

 現在もなお、不正確な情報に基づき、事件について論議されている節もあるので、以下出来る限り正確に事実をお伝えすると共に、判決の内容についても少し触れておきたい。

 加藤医師は、平成8年に大学を卒業後、福島県立医科大学産婦人科学教室に入局し、周産期医療の権威である佐藤章教授の指導を受けた。同大学付属病院の研修医を経て、その後いくつかの病院に勤務し、平成13年に日産婦学会から専門医として認定され、平成16年4月から大野病院の産婦人科の一人医長に就任した。

 加藤医師の産婦人科医としての勤務年数は約8年7カ月であり、この間約1,200例の分娩を取り扱い、そのうちの200例が帝王切開手術であった。平成16年7月には妊娠37週の全前置胎盤患者の帝王切開手術を無事に終えている。

 大野病院には、12名の医師が常勤として勤務しており、看護師は90名前後、一般病床は146床であり、第二次救急病院に指定された双葉郡内における中核病院であった。産婦人科には、常勤9名、臨時1名の助産師が勤務していた。

 本件患者は、昭和50年に出生、平成13年に双葉厚生病院において、帝王切開手術により第一子を出産していた。その後平成16年5月6日、大野病院で加藤医師の診察を受け、妊娠5週と診断された。初診時の超音波検査の際、通常の切開場所に前回帝王切開創が認められたが、以後の超音波検査では、胎児の成長に伴い子宮壁が薄く伸びたため、確認ができなくなった。本件患者は、6月15日(妊娠10週3日)、経腟超音波検査により、後壁の低い位置に胎盤が付着していると診断され、10月22日(妊娠28週6日)、経腟及び経腹超音波検査により、後壁付着の全前置胎盤であるとの確定診断を受けた。加藤医師は同日の診察時、本件患者に対し、避妊手術の希望の有無を確認したが、希望がないため、診療録に「mad せず」と記載した。本件患者は、その後も幾度か加藤医師の診察を受けたが、11月22日(妊娠33週2日)、切迫早産及び前置胎盤の管理のため、大野病院に入院した。

 加藤医師は、12月3日(妊娠34週6日)、経腟超音波検査を行ったところ、血流が豊富であり、わずかに尿中潜血が認められたことから、医師記録に「血流(+)」「尿中潜血(±)につき癒着胎盤又は前置胎盤による出血注意」と記載した。東北大学の岡村教授は、画像の血流は前置胎盤にしばしば認められる血流を示す所見であり、癒着胎盤を疑うほど豊富な血流ではなく、尿中にわずかな潜血があることをもって癒着胎盤を疑うことは過剰診断であると述べている。

 加藤医師は、12月6日(妊娠35週2日)のカラードプラ検査により、芋虫状の血流が見られたので、医師記録に「膀胱下血流(+)」と記載した。岡村教授は、このような血流は通常の妊婦にも臨床上よく見られるものであって、この血流から癒着胎盤を疑うことはできないと述べている。同日、加藤医師は、術中超音波検査のためにプローベを清潔にすること、MAP5単位を用意すること、場合によっては単純子宮全摘手術を行うことを前提に手術の準備をするよう指示し、本件患者に対しても、輸血や子宮全摘手術の可能性について説明している。

 加藤医師は、12月14日(妊娠36週3日)、本件患者夫妻に対し、本件患者が前置胎盤であること、輸血や子宮摘出の可能性、血栓症、抗体、DIC 等について説明し、何かあったら双葉厚生病院の産婦人科医に手伝ってもらう旨話した。本件患者は、被告人の説明を受けた後、手術承諾書、輸血同意書に署名している。この間加藤医師は、本件手術の麻酔医に対し、手術中に出血が多くなる可能性や子宮を摘出する可能性があることを伝え、これを受けて麻酔医は点滴ラインを2本取るよう指示している。

 過去に県立医大で帝王切開時に大量出血となった症例があったことから、助産師の1人が加藤医師に対し、本件患者の転院を進言したが、加藤医師は、その助産師の経験が浅い上、やっかいな症例についてはすぐに転院を勧めるということがあったことから、大丈夫である旨答えている。あるジャーナリストは、チーム医療の観点から、助産師の進言を容れなかったとして加藤医師を非難するが、チーム医療は、医師、助産師、看護師が、それぞれ役割を分担してその職責を果たし、互いに協力、連携して医療にあたるものであって、経験が浅く、医療行為ができない助産師の進言を聞かなかったことを非難されるいわれはない。

 本件手術は、平成16年12月17日(妊娠36週6日)に行われた。患者の夫が立ち会うことになっていたが、風邪を引いたとのことで立ち会うことはなかった。手術開始時の担当者は、執刀医が加藤医師、麻酔医、助手として外科医、助産師2名、オペ責の看護師、器械出しの看護師、出血量確認や雑務を担当する外回り看護師2名の合計9名であり、後に看護師ら3名が加わった。

 午後2時26分加藤医師は、患者の腹壁を切開し、露出した子宮壁に直接プローベをあて、子宮内部を超音波検査した後、子宮を切開した。子宮切開前、子宮前壁下部に太さ2~3mmの男性の手の甲にある静脈程度の数本の血管怒張を認めたが、加藤医師がプローベでなでると消失した。助産師や看護師の中には、初めて見る血管の怒張を大げさに表現するものもいたが、前置胎盤の患者にこの程度の怒張が生ずることは珍しいことではなく、この怒張から子宮後壁の癒着胎盤を予見することは全くできなかった。

 午後2時37分、体重3,000グラムの女児が娩出された。午後2時40分の出血量は、2,000mlであると麻酔記録に記載されている。臍帯血を採取した後、子宮収縮剤を注射し、臍帯を牽引したが、胎盤を剥離することができなかった。そこで、子宮をマッサージした後、再度臍帯の牽引を試みたが剥離しなかったことから胎盤の用手剥離が開始された。初めはスムーズに剥離できていたが、後壁部分の3分の2程度剥離が進んだ頃から、剥離がしづらくなってきた。加藤医師は、子宮の収縮が悪いためか、癒着胎盤のためかと疑いつつ、胎盤と子宮壁の間の白く薄い膜状の索状物をクーパーの刃でそいで切り、用手とクーパーを併用しながら剥離を続行した。この間、出血の吸引もスムーズに行われ、術野は完全に確保されていたことから、加藤医師は、クーパーの刃先を目視しながら剥離を行うことができた。最後に前壁部分にあった胎盤がするっとはがれ、午後2時50分胎盤娩出を終えた。剥離に要した時間は約10分である。この2、3分後である午後2時55分の出血量は2,555ml、剥離開始時の午後2時40分の出血量は2,000mlであるから、胎盤剥離中の約10分間の出血量は、最大でも555mlであった。麻酔記録には、この直後から輸血等を始めたとする記録がある。

 胎盤娩出後、加藤医師は、子宮収縮剤を再投与したが、出血は収まらず、ガーゼを充填しての双手圧迫、出血部位の縫合等を行ったが出血はなお続き、午後3時5~10分の出血量は7,675mlに達した。加藤医師は、この頃子宮摘出を決意している。

 午後4時30分、加藤医師は、輸血により血圧が安定したのを見計らって子宮摘出手術を開始し、約1時間後に無事終了した。

 午後4時45分には、最高血圧は120mmHg 最低血圧は30~60mmHgまで回復した。

 午後6時5分、加藤医師が子宮摘出の際に傷ついた膀胱を縫合し、膀胱からの漏れがないか確認していたところ、突然心室細動が起こり、約1時間の蘇生術にもかかわらず、午後7時1分患者は死亡した。

 患者が手術室に入室した午後1時30分から、加藤医師が待機していた家族らに患者の死亡を告げた午後7時すぎまでの間、加藤医師から経過についての説明が何もなかったと、家族らは加藤医師を非難する。しかし、長時間にわたり、片時も手を休めることなく、一生懸命患者の治療に当たっていた加藤医師を非難するのは酷である。家族への説明は当然に必要であるが、それは病院のリスク管理のシステムの問題である。他山の石としたい。

 午後8時30分頃から、加藤医師は、家族に対し、改めて手術経過を説明し、病理解剖を勧めたが断られた。当日夜、加藤医師は、麻酔医と共に院長らと協議したが、医療過誤ではないと判断し、警察へ届出をすることはなかった。

 ちなみに大野病院の「医療事故防止のための安全管理マニュアル」では、旧厚生省の「リスクマネジメントマニュアル作成指針」に基づき、届出は院長が行うことになっていた。また、同年12月20日に行った院内検討会においても加藤医師の施術に過失があったという指摘はなかった。

 ところが、平成17年3月22日付けの県の事故調査委員会報告書には、過失を認めるような記載があり、県は記者会見を開いて医療過誤があったとして遺族らに謝罪している。検察官は、裁判において、謝罪の記者会見を写真入りで報じた地元新聞二紙が捜査の端緒であったとし、新聞の記事を甲1号証として証拠請求している。

 報告書を検討した警察が、過失の存在を前提に捜査を開始したことは、やむを得ないことであったと思う。しかし、1年近い捜査によって、報告書が再発防止と過失の存在を前提とする保険適用を意図して作成されたことは判明した筈である。だからこそ、検察官は、裁判においても、本来甲1号証として真っ先に証拠とすべき報告書について、ついに証拠請求すらしなかったのである。県は、報告書の公表や記者会見をすることについて、配慮を欠いたものと言わざるを得ない。平成18年2月18日、あらかじめ自宅待機を指示されていた加藤医師は、警察署に任意同行を求められた上逮捕されている。

 患者が死亡してから1年2カ月が経過していた。事件後も一人医長として、激務のなかで地域医療に貢献していた加藤医師を逮捕する必要性がどこにあったのであろうか。警察は、身柄を拘束した上で、接見禁止により外界と接触させないようにして、自白を得ようとしたのであろう。

 加藤医師は、その後勾留されているが、この勾留も不当であった。刑事訴訟法上、勾留は、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、定まった住居がないとき、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、逃走し又は逃走すると疑うに足りる相当な理由があるとき、の1つにあたるとき」に限られる。カルテ等の記録はすべて押収され、必要な関係者らの取調べも終わっている段階で、事件発生後1年以上経ってから加藤医師が関係者らと口裏合わせをすることなど無意味である。隠滅すべき罪証などないに等しい。加藤医師に罪を犯したという認識はなく、県立病院の医師として真面目に働き、まもなく第1子が生まれようとする時に逃走すると疑うことは不合理である。薬の種類や量を間違えたり、誤って臓器や血管を切ったり、あるいは医療器具を体内に残置したりして、その結果患者が死亡するという明白な医療過誤事件ではない。癒着胎盤という疾患についての産科医としての通常の医師の裁量そのものが過失とされたのである。全国の医療関係者が猛反発したのもうなずける。

 加藤医師は、平成18年3月10日、業務上過失致死罪、医師法違反の罪で起訴された。検察官は、起訴状の公訴事実において、胎盤の剥離が困難になった時点で、直に剥離を中止し、子宮を摘出すべきであったと主張するが、胎盤剥離を継続するか、あるいは中止するかは臨床現場の医師が、刻々と変化する患者の病状に即して判断し、最良と信ずる処置を行うしかないのであって、事後的に生じた結果から、施術の是非を判断することはできない。そうでなければ、単なる結果責任を追求するものにすぎないことになる。

 検察官は医師でも医療の専門家でもない。癒着胎盤という極めて稀な疾患の施術について、過失の存否を判断するにあたっては、医療現場で実際に行われている、癒着胎盤に対する施術を前提とし、これが専門的な領域の事象であることから周産期医療の専門家の意見に耳を傾けて、本件施術時点において、何が診療当時の、いわゆる臨床医学の実践における医療水準であるのかを慎重に見極めなければならない。その上で、カルテ等の客観的な資料を仔細にかつ慎重に検討して合理的な判断をすべきである。ところが、検察官は、周産期医療の専門医の意見を全く聞いていない。警察の依頼により鑑定書を作成した大学教授は、婦人科腫瘍の専門医である。鑑定を依頼した警察官に対し、私は、周産期の専門医ではなく、一般の産婦人科の専門医であるが、その知識でしか鑑定できないがよろしいかと尋ね、警察の了解を得ている。同教授は、自ら執刀医として癒着胎盤の手術をしたことはなく、一度も癒着胎盤の超音波検査をしたこともない。癒着胎盤の施術の当否を判断する適格性がないのである。

 一方、弁護側の鑑定書は、日産婦学会の当時の周産期委員長であった岡村教授と前周産期委員長であった宮崎大学の池ノ上教授が書いている。両教授が、本件患者のカルテ等を十分に検討した上で、加藤医師の施術に過失はなく、自分でも同じように施術していたと思うと証言したことはそれなりの重みを持っている。

 癒着胎盤の臨床例についても検察官は「剥離が困難となった時点で、直に剥離を中止し、子宮を摘出する」という症例を1つも証拠として提出することができなかった。逆に検察官申請の証人である双葉厚生病院の産科医は、産科の臨床医として32年の経験があり、1万件を超える分娩を担当し、これまで3例の癒着胎盤症例を経験したが、いずれも出血は多くなったものの、胎盤剥離を完了している。岡村教授は、約33年間で1万件以上の分娩に立ち会い、そのうち100ないし200例は前置胎盤であり、臨床的に癒着胎盤の症例は8ないし10例くらいあったが、穿痛胎盤の1例を除き、すべて胎盤を剥離している。池ノ上教授は、約36年間に多数の分娩に直接、間接に関与した。宮崎大学で経験した12例の癒着胎盤のうち、5例は胎盤剥離をしないで子宮を摘出し、他の7例は、すべて胎盤剥離をしている。新潟大学医学部の医局検討会では、34例の前置胎盤症例について、うち癒着胎盤症例が3例あったが、この3例については、いずれも胎盤剥離を完了させている。このように裁判においては、癒着胎盤の剥離を開始した後に剥離を中止し、子宮摘出手術に移行した臨床例は1つも提示されていない。

 そこで判決では、「岡村、池ノ上、加藤の3人の医師の鑑定ないし証言から、大学病院や地方病院などの臨床現場の標準的な医療措置をくみ取ることが可能であるとし、用手剥離を開始した後は、出血をしていても胎盤剥離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血する場合には子宮を摘出する。これが臨床上の標準的な医療措置と解するのが相当である」として、弁護側の主張をほとんどそのまま認めている。さらに判決は、刑罰を科す基準となり得る医学準則について「臨床に携わっている医師に医療措置上の行為義務を負わせ、その義務に反したものには刑罰を科す基準となり得る医学的準則は、当該科目の臨床に携わる医師が、当該場面に直面した場合に、ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じていると言える程度の、一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない」と判示している。常識的な判断であると思う。

 胎盤の癒着部位について判決は、「後壁は相当程度の広さで癒着していたが、前回帝王切開創部分を含め、前壁に癒着があったことを認めるには合理的な疑いがある」とし、癒着の程度については、「嵌入胎盤であり、絨毛の深さと子宮筋層全体の幅が約1対5程度であることが認められる」として、前壁にも癒着があり、癒着程度は子宮筋層の2分の1であるとする検察側の主張を排斥し、弁護側の主張を容れている。これは、検察側の病理医が、「癒着胎盤の病理診断を行うのは本件が2件目であり、胎盤病理についての専門的な研究の経験がない」のに対し、弁護側の病理医は、「胎盤病理の経験豊富な専門家である」という経験の差が如実に反映された結果であると思う。

 大量出血の予見可能性について判決は、「癒着胎盤と認識した時点において、胎盤剥離を継続すれば、現実化する可能性の大小は別としても、剥離面から大量出血し、ひいては、患者の生命に危機が及ぶおそれがあったことを予見する可能性はあった」とし、子宮摘出手術等への移行可能性についても、「単に移行が可能か不可能かという問題であり、移行が相当か否かとは次元を異にすることがらである」としつつも、単なる移行可能性自体は認めることができるとする。さらに、移行等による大量出血の回避可能性についても、「単なる可能性の有無というレベルに止まるが、結果回避可能性があった」と解している。

 確かに医療行為、特に産科のそれにあっては、大量出血の予見が可能な場合があり、危険な医療行為をそもそも行わないとすることで、事後的に見て結果を回避することが可能な場合があろう。しかし問題は、そのような医療行為が、適切か、相当かという点にある。その是非を判断する基準になるのが、わが国の臨床医学の実践における医療水準、判決でいう医学的準則である。この点について判決は、証拠に基づき常識的に妥当な判断をしていることは前述のとおりである。

 次に医師法違反について判決は、「医師法21条にいう異状とは、同条が、警察官が犯罪捜査の端緒を得ることを容易にするほか、警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能にしようとした趣旨の規定であることに照らすと、法医学的にみて、普通と異なる状態で死亡していると認められる状態であることを意味すると解されるから、診療中の患者が、診療を受けている当該疾病によって死亡したような場合は、そもそも同条にいう異状の要件を欠くというべきである」と判示する。合理的な判断だと思う。

 最後に起訴から判決言い渡しまでの2年6カ月、医師でも医療専門家でもない法律家が、専門的な医療裁判を担うことの困難さを痛感した。特別弁護人として日本医科大学の澤先生を迎えることができたことは幸いであった。

 それにしても、専門性の高い医療事件について、医療については素人である警察や検察が直ちに捜査にあたるというわが国のシステムには明らかに欠陥がある。最初から専門家が介入していれば、今回の不幸な刑事事件は起訴されることなく終熄した筈である。大野事件を契機に設置が検討されている医療安全調査委員会が、一日も早く設置されることにより、現在の欠陥が是正されることを願ってやまない。

(日本産婦人科医会報、2008年10月1日)


公立病院の経営改革

2008年10月05日 | 地域医療

全国に約1000ヵ所ある自治体病院の8割は赤字経営に陥っています。昨年12月に発表された公立病院改革ガイドライン(総務省)で、病院を経営する自治体は、経営合理化や経営形態の見直しにより、病院経営の黒字化を達成するよう要求されました。

しかし、全国の自治体病院の赤字額は年々膨らむ一方です。新聞記事を読むと、自治体病院の赤字が急拡大し、2006年度の「実質赤字額」(経常収支の赤字額+自治体から病院への繰入金)の合計が7000億円を突破した!とか、某市立病院の累積赤字が50億円!とか、某県立病院の累積赤字が75億円!とか、信じられないような数字が並んでいます。

毎年、何億円もの赤字を出し続けてきた自治体病院が、『今すぐ黒字経営を達成せよ!』と厳しく申し渡されても、現実的にはなかなか難しいのではないか?と思われます。銚子市立総合病院のように、財政難と医師不足により診療休止に追い込まれる地域の拠点病院が、今後は全国的に続出するかもしれません。

公立病院改革ガイドライン

****** 朝日新聞、2007年12月28日

公立病院 実質赤字7000億円 昨年度 自治体、繰入金重荷に

 公立病院の赤字が急拡大している。約1000の病院について総務省がまとめた06年度決算では、自治体からの繰入金がなければ計上されていた「実質赤字額」の合計が、初めて7000億円を突破した。勤務医不足や診療報酬引き下げによる収入の落ち込みに加え、財政難の自治体からの繰入金が減少傾向にある。同省が今月、発表した公立病院改革ガイドライン(指針)は「黒字の達成」を病院を経営する自治体に突きつけた。急激な「改革」は、地域医療に混乱を及ぼす恐れもある。【加戸靖史、若松聡、浜田陽太郎】

「交付税頼み」崩れる

 「実質赤字額」は、経常収支の赤字額に、自治体が病院の赤字穴埋めのために繰り入れた金額を加えることで、経営状況の実態を示す。06年度、全国973の公立病院の経常赤字は前年度比567億円増と急拡大し、過去最悪の1997億円に。自治体からの繰入金5100億円を加えた実質赤字額は7097億円に達した。

 「親方日の丸で何とかなった時代から、倒れる時には倒れる時代に入った」と、川崎市病院事業管理者の武弘道氏は言う。これまで赤字でも病院経営が成立したのは、自治体からの繰入金があり、それを国の交付税が支えていたからだ。

 民間企業なら建物や設備機器の更新に手持ち資金をあてることで、金利負担のある借金をできるだけ減らそうとする。

 だが、公立病院の建設や設備更新は、借金で賄うのが普通だ。返済に充てる元利償還金の半分が自治体から繰り入れられ、交付税が「上乗せ」されることもあり、自己資金で賄うより有利と考えられた。

 この「借金した方が、交付税が多くもらえる」という仕組みが、多くの自治体を「病院の名を借りた公共事業」(厚労省関係者)に走らせ、借金を膨れあがらせた。

 公立病院も会計上、民間企業と同様に毎年、減価償却費を計上する。だが実際には支出されないため、将来の設備更新に備える手持ち資金として残る。そのため、「赤字が出ても手持ち資金の範囲内なら問題ない」と自治体も病院もとらえがちだった。

 だが、三位一体改革のもとで交付税が削減され、自治体本体の財政が悪化。繰入金はピークの99年度から600億円近く減少。医師不足と診療報酬引き下げも重なって、手持ち資金も目減りした。借金返済に必要な資金の不足を示す「不良債務」を、104病院事業で計953億円抱える。前年度から約120億円の急増だ。

 自治体財政健全化法の成立で、08年度決算からは、病院など公営企業の不良債務が一般会計の赤字と連結され、自治体全体の財政が査定される。

 一般会計からの繰り入れがあれば、経常黒字が達成されるよう、経営改善を目指すべきだ――。総務省が21日に発表した指針は、自治体が08年度中に策定する改革プランに、こんなハードルを設けた。しかし、自治体からの繰入金が減る中で「黒字化」を目指せば、産科や小児科、救急、へき地など、不採算な医療から切り捨てられていく危険がある。

 全国自治体病院協議会の小山田(こやまだ)恵(けい)会長は指摘する。「不採算分野など政策的な医療の明細を確定して、それに見合う費用を自治体は一般会計から繰り入れる。この前提がなければ、経営を健全化しても地域住民を苦しめるばかりだ」

(以下略)

(朝日新聞、2007年12月28日)


産科医療に関する最近のニュース(奈良県立三室病院、長野県・富士見高原病院)

2008年10月05日 | 地域周産期医療

****** 毎日新聞、奈良、2008年10月1日

県立三室病院:医師確保めど立たず、お産新規受け付け停止--三郷

 県立三室病院(三郷町)が8月から、新規のお産の受け付けを停止していることが分かった。来年4月以降の医師確保にめどがたたないためで、4月以降、産科が休止となる可能性もある。県内では県立五條病院(五條市)も06年4月から産科を休止したまま。人口当たり産婦人科医師数が全国最低水準という深刻な医師不足が、地域の医療拠点の県立病院にまで影を落としている。

 三室病院の年間分娩(ぶんべん)数は約200件。同病院や県によると、産科常勤医2人のうち、50代の1人が勤務の過酷さなどを理由に来年3月で退職の意向。常勤医1人での産科継続は困難なため、来年4月以降に出産予定を迎える新規のお産の受け付けを、8月中旬から停止している。

 医師は昨年度も退職の意向を示して県などが今年度まで慰留した経緯があり、更に引き延ばすのは難しい状況。病院では、民間診療所の医師を招いて診療してもらう方式も検討し、近隣の医師らに打診したが、協力は得られなかった。県医療管理課は「産科継続に向け、最大限の努力をしている」とするが、人材獲得の見通しは立っていない。

 厚生労働省の調査(06年12月時点)によると、15~49歳の女性10万人当たりの産科・産婦人科医師数は、奈良県は31・9人で全国43位。県内では昨年以降、大淀町立大淀病院(大淀町)が産科を休止。済生会中和病院(桜井市)でも分娩の取り扱いをやめている。【中村敦茂】

(毎日新聞、奈良、2008年10月1日)

****** 毎日新聞、奈良、2008年8月9日

妊婦転送死亡:発生2年 産科医療改善まだ途上、医師や看護師不足に課題

 一昨年8月の大淀町立大淀病院(大淀町)の妊婦死亡問題を受け、県内ではこの2年、周産期(出産前後の母子双方にとって注意を要する時期)医療の改善が加速した。しかし、昨年8月には橿原市の妊婦が搬送中に死産した。医師や看護師不足を中心に残る課題も多く、体制整備はまだ途上だ。

 今年5月26日には、高度な母子医療を提供する総合周産期母子医療センターが、県内最大の医療拠点である県立医大付属病院(橿原市)に開設された。都道府県で45番目の遅い出発だったが、同病院の母体・胎児集中治療管理室(MFICU)は3床から18床に増えた。新生児集中治療室(NICU)は21床から31床になった。県立奈良病院(奈良市)でも、NICU6床の増設計画が進んでいる。

 勤務医の待遇改善にも手が打たれた。県は今年度当初予算で県立病院と県立医大付属病院の医師給与引き上げや分娩(ぶんべん)手当の新設などに2億9200万円を計上。「全国最低レベル」とされた給与水準は改善し、年間給与は産科医で約200万円、医師平均で約100万円上昇。県は過酷勤務による離職防止や欠員補充の難しさの緩和を期待する。

 県は今年2月、勤務医の少なさをカバーするため、産婦人科の夜間・休日の1次救急に、開業医らが協力する輪番制も導入。4月には参加する開業医を増やして拡充し、一定の成果を出している。出産リスクが高くなる妊婦健診の未受診者を減らそうと、今年4月から妊娠判定の公費負担制度も始めるなど、他にも多くの策を講じてきた。

 それでもなお、厳しさは続いているのが現状だ。荒井正吾知事は周産期センター開設に際し、「難しいお産も含め、県内で対応できる態勢がほぼできあがった」と語った。しかし、それはフル稼働が実現すればの話。

 センターでは看護師約20人が不足し、NICUのうち9床は開設時から使えていない。このため実際のNICU運用は22床で、従来より1床増えただけ。受け入れ不能の主な要因となってきたNICU不足の実態に大きな変化はなく、大阪など県外へ妊婦を運ばざるを得ない状況は続いているという。

 待遇改善で、すぐに医師不足が解消したわけでもない。昨年4月に産科を休診した大淀病院の再開のめどは今も立たない。県立三室病院(三郷町)でも、来年4月以降の産科医確保の見通しが立たず、今月中には新規のお産受け付けを停止する可能性が出ている。

 この2年間で実現した改善は少なくないが、医師や看護師不足など、容易でない重要課題に解決の道筋はついていない。県などは、今年度設置した地域医療対策の協議会の議論で、現状打開に向けた模索を続けている。【中村敦茂】

(毎日新聞、奈良、2008年8月9日)

****** 長野日報、2008年10月4日

富士見高原病院 分娩の再開困難に

 富士見町の県厚生連・富士見高原病院(井上憲昭院長)は、2009年4月からの分娩取り扱い再開を目指し、準備を進めてきたが、再開は困難な状況であることが3日、明らかになった。昨年3月に着任した産婦人科の深井宣子医師(52)が年度内に退職するためで、新たな産婦人科医の確保に向けた努力を継続するが、全国的な医師不足のため、めどは立っていない。

 深井医師は取材に対し、茅野市の諏訪中央病院が6月から産婦人科を再開し、お産の「受け入れ態勢が整ったことが大きな要因」と退職の理由を説明。諏訪中央病院が茅野、富士見、原の3市町村をカバーすることで、富士見高原病院の医師として分娩を再開する「役目は終わった」と判断したという。産婦人科医の常勤2人態勢への「ハードルは高すぎた」とも語った。

 常勤は12月末だが、来年3月末までは婦人科の外来診療をこれまで通り週4日担当する。井上院長は、4月以降の婦人科外来について「継続できるよう努力する」とし、山梨大学、信州大学の医学部と周辺の病院に対し、パート医師の派遣などの支援を求めている。

 富士見高原病院は04年8月に産婦人科の常勤医師が開業に伴い退職。医師の確保ができず、分娩の取り扱いを中止してきた。05年5月には小児科の常勤医師も退職した。深井医師は昨年3月に着任し、4月から婦人科外来を再開。今年4月には小児科の常勤医師2人が着任し、再開に向けた準備は整いつつあった。

 同病院は、産婦人科医が1人体制のため、急患に対応できるよう、病院内に医師の居住施設を確保。当時は町所有だった医局棟の2階を居住施設に改修した。事業費2200万円の半分は町が地域医療推進事業として補助した経過がある。

(長野日報、2008年10月4日)

****** 毎日新聞、愛知、2008年9月30日

医師不足:県内全病院の2割、診療制限 産婦人科3割、分娩の休止など

 県内の全病院のうち医師不足を理由に診療制限をしている病院は約2割に上ることが県の調査で分かった。特に産婦人科は約3割で分娩(ぶんべん)の対応などを休止しており、深刻な医師不足の実態が改めて浮き彫りになった。【月足寛樹】

 ◇昨年度比5カ所増

 県が社団法人・県病院協会の協力を得て6月末時点で334カ所の病院を調査した。入院の制限や診療日数の短縮、初診患者の受け入れ制限などの診療制限を実施している病院は67カ所あり、初めて調査した昨年度より5カ所増えた。

 うち、診療科の全面休止や分娩対応の休止など特に深刻な状況にあると回答した病院は昨年度より6カ所増えて39カ所に上った。内訳は▽入院診療の休止が18カ所▽診療科の全面休止が17カ所▽時間外救急患者の受け入れ制限が16カ所▽分娩対応の休止が10カ所だった(重複回答含む)。

 診療科別で診療制限を実施している病院の割合は、産婦人科が27・1%で最も高く、以下▽小児科11・7%▽精神科10・7%▽内科9・9%--と続く。地域別で診療制限をしている病院の割合が最も高かったのは尾張西部(一宮、稲沢)の30・0%で、以下▽尾張北部(春日井、小牧、犬山市など)25・0%▽西三河南部(岡崎、碧南、刈谷市など)21・6%▽東三河南部(豊橋、豊川、蒲郡市など)21・1%。

(毎日新聞、愛知、2008年9月30日)

****** 中日新聞、2008年10月3日

65%が「診療に制限」 中部9県自治体病院に本紙アンケート

 中部9県(愛知、岐阜、三重、長野、静岡、富山、石川、福井、滋賀)の自治体病院の65%が、診療科の休止や手術数の制限など、診療体制を何らかの形で縮小・制限していることが、中日新聞社のアンケートで分かった。雇用している常勤医の総数は、必要とする数の83%にとどまり、ほとんどの病院が医師不足に悩んでいる現状が浮かび上がった。

 アンケートは県立、市町村立などの182病院を対象に先月行い、57%にあたる104病院から有効な回答を得た。最近5年間に何らかの診療縮小・制限をしたことがあった病院は72病院。このうち68病院で、現在も制限が続いていた。

 診療科を閉鎖・廃止したのは10病院、中止・休止が続いているのは32病院あった。また手術数の制限は16▽分娩数の制限6▽外来診療の制限46▽入院の制限26-の病院が続けていた。

 各病院が必要としている常勤医は計4855人だったが、実際に雇用している常勤医は計4054人で、801人足りなかった。必要な常勤医の総数に対し、麻酔科と神経内科は66%、眼科は67%、病理部門は70%しか常勤医がおらず、医師離れが著しい産婦人科の71%を下回って全診療科に医師不足が広がっている現状が浮かび上がった。

 医師が足りない理由(複数回答可)では、「大学病院の医局に医師を引き揚げられた」が最も多く、記入した83病院のうち55病院(66%)が理由に挙げた。次いで「定年前に開業して医師が辞めた」「診療体制の強化や医療の質の向上のためにはさらに医師が必要」が、ともに48病院(57%)で続いた。

 研修医を受け入れている病院で、研修医を「診療体制上、戦力として不可欠」と位置付けている病院は76%を占めた。

(中日新聞、2008年10月3日)


助産師外来の拡充

2008年10月04日 | 飯田下伊那地域の産科問題

全国的に分娩を取り扱う産婦人科施設数が激減しつつあり、地域の分娩が基幹病院に集中する傾向が顕著となりつつあります。

当医療圏でも、2年前に分娩を取り扱う施設が6施設から3施設に半減し、当科の分娩件数は従来の年500件からいきなり年1000件に倍増しました。数年以内に当地域の分娩取り扱い施設がさらに減少するのは確実な情勢と考えています。

当科の診療状況の変化を分析してみますと、帝王切開の実施件数は従来と比べてほとんど増加してませんし、早産児やNICUの重症患児数も従来と比べて増加してません。要するに、当科の分娩件数が倍増したことは事実ですが、増加分のほとんどが低リスクの経腟分娩であり、高リスク妊娠の管理や異常分娩の件数は従来と比べてそれほど増加してないことが判明しました。

ハイリスク妊娠・異常分娩への対応を中心とした(従来からの)業務内容が、ここにきて大きく変化しているわけですから、新たな局面に対応するために病院内部でもさまざまな工夫が必要となります。病院スタッフの業務分担の見直し(助産師の増員と業務拡大、専属の超音波検査技師の配置など)も必要と考えています。

****** 信濃毎日新聞、2008年9月30日

飯田市立病院: 「月70件」の出産受け入れ予定

「断った人はいない」 4月以降・助産師外来も軌道

 飯田市立病院は29日、地元在住者を優先した上で1カ月の全出産予約件数が70件を超えない範囲で里帰り出産を受け入れる-としてきた4月以降の対応について状況を発表した。全出産取扱数は「今のところ対応可能な範囲で、断った人はいない」と説明。4月から拡充した助産師外来での妊婦健診についても、全体の3割を超えるほどに増え「おおむね好評」との認識を示した。

 昨年度まで常勤医が5人だった同病院の産婦人科は現在、常勤医4人、非常勤医(週3回)1人。里帰り出産については、出産予定月の5か月前の1~7日に予約を受け付けている。

 この日会見した同病院の山崎輝行・産婦人科部長によると、4~8月の全出産取扱数は月平均約75件だった。医師の負担を減らす助産師外来が軌道に乗り、4月に着任した医師も慣れてきたため、「ここにきて月80~90件ほどに増えている」といい、「今後も可能な範囲で受け入れる」と述べた。

 助産師外来による妊婦検診については、超音波診断装置や専門の検査技師を配置した上で、4月以降は助産師、検査技師のみによる健診と、医師による健診を交互に組み合わせる方向で増やしてきた。8月には全体の33.9%(230件)を占めるまでになった。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2008年9月30日)


大野病院医療事故:医師の懲戒処分取り消し 事故調報告書は訂正せず

2008年10月02日 | 大野病院事件

コメント(私見):

懲戒処分が取り消されて、加藤先生の名誉が回復されたことは大変喜ばしいことです。

しかし、事故調査報告書が訂正されないのは、どうしても納得できません。『こういう風に書かないと、保険会社が保険金を払ってくれない』という県の強い意向に沿って書かれたこの事故報告書こそが本事件の発端となったわけですから、事故報告書は周産期医学の専門家により正しく訂正されるべきだと思います。

著しく名誉を傷つけられた上に、2年半もの長きに渡り不当に自由を束縛され続けた先生に対する損害賠償は正当に支払われるのでしょうか?

****** m3com医療維新、2008年8月22日

「ほっとしたが、なぜ逮捕されたか疑念は晴れず」

佐藤章・福島県立医大産婦人科教授が
判決直後の真情を吐露

聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)

【途中から引用】

――医療事故の調査と言えば、「県立大野病院医療事故調査委員会」がまとめた報告書が発端になっています。以前、先生に、「加藤医師の過失と受け取られかねない部分があるので、訂正を求めた」とお聞きしました。

 はい。ここ(佐藤先生の教授室)に院長と県の病院局長が来て、「もうこれで認めてください」と言うから、「ダメだ」と言ったんです。

――それは遺族への補償に使うからですか。

 そうです。「先生、これはこういう風に書かないと、保険会社が保険金を払ってくれない」と言ったんです。

――でも、県はそれを否定しています。

 絶対にそんなことはありません。医療事故調査委員会の委員の先生方も、そう(補償に使う)と聞いているそうです。

――事故調査報告書が刑事訴追に使われることは想定されていなかった。

 私が「最後までダメだ」と言い張ればよかったのですが。

【以下略】

(m3com医療維新、2008年8月22日)