Ed's Slow Life

人生終盤のゆっくり生活をあれやこれやを書き連ねていきます。

自由主義社会

2010年04月18日 | Weblog

BSフジでM.ムーア監督の映画「シッコ」(2007)を観た。9・11のテロでニューヨーク世界貿易センター・ビルが破壊されたとき、瓦礫の下の人々を助け出そうとボランティアで救援活動をした人たちが、それが元でその後様々な精神的、肉体的な病気を患い、市や政府からは資金援助もなく、ろくな医療を受けられずに苦しんでいる現在の米国の医療制度の実態と自由主義社会の矛盾を鋭く追及した映画である。

オバマ政権誕生で国民皆保険への方向へ一歩踏み出した米国ではあるが、医療費を払えない患者が入院先の病院から追い出される(というより文字通り”棄てられる”という方が当たっている!)様は、お金のめには人の命は紙屑と一緒に扱う豊かな米国社会の矛盾に背筋が寒くなった。
何しろそういう患者はタクシーに乗せられて遠方の病院の近くに置き去りにされるのだ。ムーア監督は、「この国は一体どこなのだ?・・・世界一豊かな米国ではないのか・・・?」と憤る。

一方、テロの容疑者と云われる人たちを収監しているグァンタナモ米軍基地の様子は議会で軍関係者の証言としてTV放映され、9・11で決死の救助活動をして後遺症に悩むヒーローたちは、自分たちにもせめてテロ容疑者が与えられているのと同等の医療を!と抗議行動を起す。ボートを仕立ててグァンタナモ米軍基地へ出向き、見えない政府に向かって呼びかけるけれど、当然基地からは何も反応はない。

やがてキューバに上陸し、市内で一般の人々が医療を無料で受けられることを知り、半信半疑で街角の病院を訪れる。すると名前を聞かれるだけで受付が済み、直ぐに夫々の病に即して専門医が治療を始める。薬も米国で9ドルもする同じ薬が、たったの数セントだと聞いて唖然としてしまう。
キューバでは医療は金儲けではなく、医者は患者が元気を取り戻すことに喜びを感ずるのだと説明される。みんなは自分たちの米国はどこかが狂っていると改めて強く思いはじめる。

これは、資本主義・自由社会の弊害、あるいは限界を暗示しているのではないだろうか。つまり自由の国アメリカでは自由競争で勝ち抜いたものが大きな富を得ることは当たり前であり、悪ではない。けれども現実には勝者は富を独占し、敗者は貧困に喘ぐという構図がすっかり出来上がってしまっているから、病院は金を払えない患者を「善意」だけでは支えられないから経済の法則に従って、外へ放り出すことになり、罰せられることはない。そこにはもう人道主義とか、助け合いの精神とか、貧しい人を哀れむ優しさの欠片もないのだ。

今や富める米国ではなくて病める米国になりつつあるのではないか・・・?
米国に習い同様な道を辿ってきた日本も、やがて今の米国と似た世の中になることを憂う。
企業の利益を優先させ、人間を一部品のように扱うことを認めている「人材派遣制度」は諸悪の根源だ。富を一握りの支配者・資本家に集中させすぎている日本の制度・現状は、18世紀の貴族社会と奴隷制度の関係と何ら変わるところがないのでは・・・