LOS ANGELES FLIGHT DIARY

愛機ビーチクラフトボナンザで南カリフォルニアの空を駆ける日本人飛行機乗りの日記。

ビーチジェットを見かけると、いつも心を過るもの。

2007-02-23 | 航空関連エッセイ
いつものようにサンタモニカ空港の滑走路脇のベンチでビジネスジェット達の離着陸を見ていると、1機のビーチジェットが着陸してきた。

http://www.youtube.com/watch?v=ZvoovxrLzzQ

このクラスのビジネスジェットだとCitationLearjetなどが多いので、自分にとってBeechjetの離着陸は目を引く。ところで、このBeechjetはもともと三菱製だということを知っている人は意外と少ないのではないだろうか?

もはや戦後ではないと日本が高度経済成長のまっただ中にあった70年代、勢いを増す自動車産業に比べると明らかに低迷して米国下請けに成り下がっていた日本の航空機産業。そんな中で三菱は小型ジェット機のマーケットに目をつけ、三菱ジェット ダイアモンドを開発した。機体の性能は良かったが、数々の不運が重なりFAAの型式取得に時間がかかった。そして、80年代に入り日米貿易摩擦が激化し米国の対日感情は悪化の一途をたどる。三菱ジェットもとばっちりを受け、日本人社員が現地で部品調達に行くと法外な値段をふっかけられたり購入できなかったりするが、現地採用の米国人が同じことをしにいくと容易に部品調達ができるなど、明らかに”日本製”であることがマイナス要因として働いていた。販売の振るわない三菱はBeechcraft社と提携して販売を行ったが、後にBeechjetに改名、さらにはBeechcraft社に生産販売権を移譲することになった。最終的にはBeech社も傘下に入るRaytheon社のグループ企業の一つであるHawker社のモデルとして扱われ、現在もHawker 400XPとして販売されている。その商品としての息の長さからも、三菱ジェットダイアモンドの基本設計の良さや素性の良さがうかがえる。

Beechjet / Hawker 400XPはその後も順調な販売を遂げ、米軍練習機としても採用されるまでに至る。腹立たしいのは我が国の自衛隊もBeechjet / Hawker 400XPを採用していることだ。三菱が作ったジェット機がアメリカ製として販売され、そこに自衛隊機として日の丸が掲げられる姿は苦々しいものがある。ちなみに三菱の社用機はBeechjetではなく、さすがに”三菱ジェット ダイアモンド”を採用している。

三菱の失敗はどこにあったのだろう?と考えると、他国の市場に完全に頼った所だと思う。そもそも日本の極小ビジネスジェット市場だけを頼っては航空機開発販売は不可能だ。だからと言って、米国市場が完全にフェアーに性能と価格だけで日本製航空機を受け入れるわけがないという認識が欠如していたのではないだろうか。やはり計画そのものに脆弱性があったのだと思う。80年代の日米貿易摩擦が激化した時代の米国人の対日感情には一定の理解を示せるところがある。私自身、反日を声高に叫ぶ某国家の製品は普段から購入しないようにしているくらいだ。

三菱ジェットの開発の成功、しかしビジネスとしての失敗から20年の月日が経ち、ホンダが同じビジネスジェットの市場に挑戦しようとしている。幸運にも20年前のような自動車を筆頭にした日米経済摩擦は存在しない。また、当時と違い現在の日本企業は輸出だけに頼らずに米国現地工場で米国人を雇用しての自動車生産という方式が確立しており、しっかりと米国に根ざしたビジネスが展開されている。一部の白人優位主義者達や人種差別感に満ちた輩は苦々しい思いをしているかもしれないが、LexusやAcuraを抵抗なく購入できるアメリカ人達から日本製ジェットが十分受け入れられる環境が整っているのではないだろうか。

三菱ジェットの屈辱の歴史から学ぶ事は多いと思う。それは相手のフェアープレーの精神を期待しすぎてはいけないということ。航空機産業は国家の誇りにも関わってくることがあり、その開発販売には民族や国民感情などを考慮し、熟考に熟考を重ねた戦略が要求されるのだと思う。

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