現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

少女は自転車にのって

2018-08-07 08:44:36 | 映画
 現代でも女性に対する様々な因習が残るサウジアラビアを舞台に、いろいろな困難に立ち向かっていく少女を描いています。
 人種も宗教も風俗も違う日本人から見るとなかなか理解しにくい点もあるし、彼女自身にも不法滞在している外国人に対する偏見があるので、素直には共感はできませんでした。
 しかし、やや安易なハッピーエンドともいえるラストの明るさの中には、この国での女性の人権が次第に改善されることを期待させてホッとできました。

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アルバトロス
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宮沢賢治「狼森と笊森、盗森」注文の多い料理店所収

2018-08-06 18:11:01 | 作品論
 ここで「森」というのは、木におおわれてこんもりした丘のことです。
 近くに開拓に来た農民たちは、開拓する前に森たちに許しを願います。
 農民たちの開拓は順調に進みますが、時々子どもたちがいなくなったり物がなくなったりします。
 そんな時は、農民は森へ探しに行くのですが、あっさりと見つかります。
 森たちも、本当に盗もうとしたのではなく、ちょっかいを出しただけなのです。
 あるいは、粟餅が欲しかったのかもしれません。
 そんな森たちはすっかり農民たちの友達になり、冬のはじめにはきっと粟餅をもらうようになりました。
 人間と自然の共棲が、おおらかなタッチで描かれていて、読んでいてほっこりとした気分にさせられます。
 ただ気になったのは、ラストに「しかしその粟餅も、時節がら、ずいぶん小さくなったが、これもどうもしかたがない」と書かれていたことです。
 イーハトーブ(賢治の心象世界中にある理想郷としての岩手のことです)を苦しめていた冷害が、こんなところにも影を落としているのかと思うと、胸が痛みます。

注文の多い料理店 (新潮文庫)
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黒川博行「疫病神」

2018-08-06 07:49:20 | 参考文献
 2014年上半期の直木賞を受賞した「破門」のシリーズ第一作です。
 17年も前に書かれた作品で、この作品の名前を取って「疫病神」シリーズと呼ばれていて、「破門」が5作目ですから非常に間隔を置いて書かれています。
 もっとも、黒川はいろいろなシリーズを並行して書いているので、寡作なわけではありません。
 典型的なノワール小説ですが、阪神淡路大震災後の関西地方の荒涼した背景がうまく利用されています。
 極道やそのシノギ、それに博打などのシーンは非常にリアリティがあり、作者の来歴は知りませんが、かなり元手がかかっている感じがします。
 主役がカタギ(一応建設コンサルタントを名乗っている)で、相棒がバリバリの極道なのが作品のバランスをうまく取っています。
 暴力や犯罪まがいのシーンが頻出しますが、主人公だけでなく極道の相棒も憎めないところがあるのが魅力になっているのでしょう。
 ストーリーのテンポがいいし、会話もうまいので、一級のエンターテインメントになっています。
 児童文学でも、どうせエンターテインメントを書くなら、このくらいはじけたものが欲しいです。

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黒川博行「破門」

2018-08-05 08:17:54 | 参考文献
 2014年上半期の直木賞を取った作品です。
 1997年にスタートした「疫病神」シリーズの第五作です。
 カタギの主人公と極道の相棒のはちゃめちゃストーリーは、17年にわたって書き続けられてきましたが、この作品の最後に題名通りに極道が組を破門されて完結したようだったのですが、直木賞を取って売れ行きが戻ったので、その後も連載は続いて、第六作、第七作も出版されています。
 シリーズの作品には出来不出来があり、かならずしも「破門」が一番いい作品ではありませんが、これまでに何度も直木賞の受賞を逃しているので、シリーズ全体の評価としておくられたのでしょう。
 また、直木賞の審査員が、作者と同世代の人間が増えたのもプラスに働いたでしょう。
 「疫病神」シリーズは、カタギと極道にコンビを組ませることによって、合法と非合法のバランスが取れていて、単なるやくざ物の作品になっていないところが魅力になっています。
 しかし、第五作になるとさすがにマンネリ化は目立ちますし、作品の中での時間経過(主人公は3-4才しか年を取っていません)と17年という実時間の経過のギャップも目立ちます。
 そこで、作者は登場人物の年齢設定はそのままに、強引に作品世界の時間を2011年の大阪府暴力団排除条例が施行後にスキップさせています。
 このあたりはエンターテインメント作品ならではのご都合主義なのですが、極道(その周辺にいるカタギの主人公も)のシノギ(金儲け手段の事です)が厳しくなったことを作品の背景とするとともに、シリーズを終了させるための伏線なのでしょう。
 もっとも、直木賞を受賞したことで人気も売上げも大幅に上がったので、作者はこのコンビを復活させました。
 かの有名なシャーロック・ホームズも、読者の熱烈な要望で、ライヘンバッハの滝つぼから生還しています。

破門 (単行本)
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KADOKAWA/角川書店
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黒川博行「勁草」

2018-08-03 16:49:22 | 参考文献
 特殊詐欺という非常に今日的な犯罪を題材にして、犯罪者側(「受け子」と呼ばれる詐欺の被害者からお金を受け取るグループのリーダー)と捜査側の両方から描いています。
 いつもながら作者の犯罪に対する知識はたいしたもので、かつてはオレオレ詐欺と呼ばれていた特殊詐欺について、犯罪者側の内部組織(金主、名簿屋、道具屋、掛け子、受け子、ケツ持ちのヤクザなど)も、警察の捜査担当部隊も、すごくリアルに描かれています。
 しかし、作者の代表作の「疫病神」シリーズ(それらの記事を参照してください)ほど引き込まれないのは、主人公たち(犯罪者はもちろん警察側も)に「疫病神」シリーズの主人公たちのような魅力がないせいでしょう。

勁草 (徳間文庫)
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徳間書店
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インクレディブル・ファミリー

2018-08-02 17:11:05 | 映画
 2004年のミスター・インクレディブルの続編です。
 「途方もない」という意味を持つ父親のミスター・インクレディブル、この作品では中心的な活躍をする母親のイラスティガール、思春期の長女のヴァイオレット、小学生の長男のダッシュ、それに家族の中で不思議なパワーを一番もつ赤ちゃんのジャック=ジャックの五人家族が繰り広げるスーパーヒーローものです。
 予告編では、繰り返しジャック=ジャックの魅力が描かれていて、それに魅かれて見に行った観客(私もその一人ですが)が多かったと思うのですが、彼の活躍シーンはそれほど多くなく(やはりこの映画の一番の魅力ですが)、実際はイラスティガールの活躍を中心とした映画でした。
 特殊能力を使うシーンは確かに迫力があるのですが、SFXの映画が溢れている現在では、それほど新味のあるものではないし、法律によって禁止されているスーパーヒーローたちの復権というテーマは前作の延長にすぎません。
 致命的なのは、慣れない家事に悪戦苦闘する父親、脚光を浴びながらも家に残してきた子どもたちが気になって仕方がない母親、初めてのデートに悩む思春期の女の子、元気いっぱいだが算数が苦手な男の子という設定は、あまりに没個性で時代錯誤です。
 このあたりにも、最近のディズニー映画の保守化、アメリカでのジェンダー観の揺り戻しなどが現れているようです。
 そういった意味でも、型にはまらないスーパー赤ちゃんのジャック=ジャックの、題名通りの途方もない活躍を期待していたのですが。

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大江健三郎「家としての日記」静かな生活所収

2018-08-01 18:13:42 | 参考文献
 主人公のマーちゃんが、障碍者の兄のイーヨーの運動(その理由が彼の性的衝動を抑えるためという、みもふたもないものなのですが)のために、父が所属しているスポーツクラブへ水泳の練習に連れて行きます。
 そこで知り合った水泳選手の若者との一連の事件を描いています。
 どこまでが実際に作者の家族のまわりでおきた事なのかはわかりませんが、にわかには信じがたいことの連続ではっきりいって読むのがけっこうつらいです。
 作品内で、この若者は明確な犯罪を二回(作家の友人の作曲家に対する傷害(ろっ骨を三本骨折)とマーちゃんに対するセクハラと婦女暴行未遂)も犯しながら、警察沙汰にならずにスポーツクラブの出入り禁止になるだけでうやむやにされているのは、作者も含めてここに描かれているのが奇妙に歪んだ世界だというのが率直な感想です。
 しかも、この若者は、以前に男性中学教師と、彼と愛人関係にあった女性(しかも若者のすごく年上の婚約者)の死に関係があったことがほのめかされています
 さらに、この若者は、多額の女性の死亡保険金(それでポルシェを買ったようです)を受け取り、現在は中学教師の妻と同棲中なようなのです。
 もっとも、いくら父親が著名な作家だからとはいえ、障碍者のイーヨーが民間のスポーツクラブに出入りできるのは、よほど特殊な人たちで構成されるクラブなのでしょう。
 私は、この十年間にいろいろなスポーツクラブに入っていますが、残念ながら障碍者の会員の方は一度も見たことがありません。
 営利を目的とする普通の民間のスポーツクラブでは、障碍者の人たちも利用できるような施設や人員の配置は難しいでしょうし、他の会員たちの理解を得ることも困難でしょう。
 一方で、公営のスポーツ施設(特にプール)では、障碍者の子どもたち(といっても多くの場合は成人しているようですが)を連れた親たちの姿を良く見かけました。
 おそらく、障碍者の運動不足による肥満防止のために、水泳は有効だからだと思われます。
 そういった意味でも、この小説で描かれた世界は、特権的な立場の作家とその障碍者の息子といった、非常に特殊な状況の作品ととらえられてしまう危険があり、それに対して作者が無邪気なまでに無頓着なのには驚かされまず。


静かな生活 (講談社文芸文庫)
クリエーター情報なし
講談社

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