現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

宮沢賢治「狼森と笊森、盗森」注文の多い料理店所収

2018-08-06 18:11:01 | 作品論
 ここで「森」というのは、木におおわれてこんもりした丘のことです。
 近くに開拓に来た農民たちは、開拓する前に森たちに許しを願います。
 農民たちの開拓は順調に進みますが、時々子どもたちがいなくなったり物がなくなったりします。
 そんな時は、農民は森へ探しに行くのですが、あっさりと見つかります。
 森たちも、本当に盗もうとしたのではなく、ちょっかいを出しただけなのです。
 あるいは、粟餅が欲しかったのかもしれません。
 そんな森たちはすっかり農民たちの友達になり、冬のはじめにはきっと粟餅をもらうようになりました。
 人間と自然の共棲が、おおらかなタッチで描かれていて、読んでいてほっこりとした気分にさせられます。
 ただ気になったのは、ラストに「しかしその粟餅も、時節がら、ずいぶん小さくなったが、これもどうもしかたがない」と書かれていたことです。
 イーハトーブ(賢治の心象世界中にある理想郷としての岩手のことです)を苦しめていた冷害が、こんなところにも影を落としているのかと思うと、胸が痛みます。

注文の多い料理店 (新潮文庫)
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黒川博行「疫病神」

2018-08-06 07:49:20 | 参考文献
 2014年上半期の直木賞を受賞した「破門」のシリーズ第一作です。
 17年も前に書かれた作品で、この作品の名前を取って「疫病神」シリーズと呼ばれていて、「破門」が5作目ですから非常に間隔を置いて書かれています。
 もっとも、黒川はいろいろなシリーズを並行して書いているので、寡作なわけではありません。
 典型的なノワール小説ですが、阪神淡路大震災後の関西地方の荒涼した背景がうまく利用されています。
 極道やそのシノギ、それに博打などのシーンは非常にリアリティがあり、作者の来歴は知りませんが、かなり元手がかかっている感じがします。
 主役がカタギ(一応建設コンサルタントを名乗っている)で、相棒がバリバリの極道なのが作品のバランスをうまく取っています。
 暴力や犯罪まがいのシーンが頻出しますが、主人公だけでなく極道の相棒も憎めないところがあるのが魅力になっているのでしょう。
 ストーリーのテンポがいいし、会話もうまいので、一級のエンターテインメントになっています。
 児童文学でも、どうせエンターテインメントを書くなら、このくらいはじけたものが欲しいです。

疫病神 (新潮文庫)
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