現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

坂村 健「究極のマン=マシン・インターフェース」電脳都市所収

2020-09-26 18:19:14 | 参考文献

 この章では、ポール・アンダースン「アーヴァタール」とジェイムズ・P・ホーガン「創世記機械」に出てくる、究極の人間とコンピュータを結びつける方法、脳波やテレパシーを使うやり方について解説しています。
 残念ながら、現在においてもこうしたインターフェースは実現しておらず、その理由はこの本でも書かれているように、人間の脳がコンピュータで解析するには桁外れに複雑なことがあります。
 このギャップを埋めるために、SFではコンピュータに理解できるような脳波を出せる人間が登場します。
 しかし、最近実験に成功したと言われる桁外れの計算能力を持った量子コンピュータが実現し、さらに身に付けられるほど小型化されれば、普通の人間でもコントロールできるものが実現されるかもしれません。
 さて、この本が書かれた時点での最高のマン・マシン・インターフェースとして紹介されているMITのメディア・ルームは、椅子に座ったままタッチ・パネルやジョイ・スティックを使って、映像を見たり、本をめくったり、電卓、テレビ、電話などを使えるというものです。
 ご存じのように、インターネットや携帯電話通信網やスマホや電子書籍の実現で、現在では遥かに高度なことができる環境を持ち運べるようになっています。
 これを支えているのは、コンピュータや通信技術の進歩なのですが、その背後には他の記事でも書いたような半導体技術の驚くべき進歩があります。
 なにしろ、このメディア・ルームを実現するためにスーパー・コンピュータ四台と周辺機器十台が必要だったのです。
 しかも、スーパー・コンピュータのメモリ容量はたった512キロバイト(メガですらない)です。
 今では、この一万倍以上のメモリがスマホの中に入っています。
 当時の優秀なソフト・エンジニアの指標のひとつが、いかに少ない行数(必要なコンピュータのメモリ容量に比例します)でプログラミングできるかだったのも想像していただけるでしょう。

 

 

 

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坂村 健「OAの未来図②」電脳都市所収

2020-09-26 18:16:57 | 参考文献

 この章では、ロバート・シルヴァーバーグの「時の仮面」に描かれた口述筆記(音声認識によるコンピュータによる文章作成)、自動酒場(コンピュータ制御によるバーテンのいないバー)、ベーパーレス・オフィス、コンピュータ・シミュレーションなどが解説されています。
 ここでも、興味深い以下の項目について述べます。

音声認識:ご存じのように、現在では、Siriやスマートスピーカーのように、様々な音声入力でサービスしている機械が実用化されていますが、この本が発表された1987年にはまだごく特殊な用途にしか実現していませんでした。さらに時代をさかのぼると、1976年に私が書いた卒論は音声のパターン認識がテーマで、大型コンピュータ(そのころはパソコンなど影も形もありませんでした)を使って、「時の仮面」にも出てくるパンチカード入力で、真夏なのに18℃に保たれたコンピュータ室(そのころのコンピュータには真空管が使われていて、専用の部屋が必要なほど馬鹿でかく、また半導体と違って故障しやすいので低温環境でないとすぐにダウンしてしまいます)で、震えながら実験をしたのを覚えています。それでも、認識できたのは、「あ」「い」「う」「え」「お」の五つの母音だけでした。

自動酒場:コスト優位性がなかなか得られなかった(人間を安価な賃金で働かせた方がまだ安いことが多い)ので、ご存じのようにキャッシュレスと監視カメラを使ったコンビニなどの無人店舗は、まだそれほど普及していません。

プログラミング言語:FORTRAN、BASIC、PASCALなどの懐かしい言語が並んでいます。FORTRANは初期の大型コンピュータ用のプログラミング言語で、私が高校三年の時に初めて習ったのも、大学で卒論用にプログラミングしたのもこれでした。BASICは直感的に分かりやすい言語なので、パソコンで採用された例が多く、私が勤めていた会社で作っていたパソコン(工業用なのでワークステーションと称していました)にも採用されていたので、二十代の前半は、世界中のサービスエンジニアが我々の製品(電子計測器です)の動作試験をするためのプログラムを、これを使って書いていました(パソコンが出る前は、キャリキュレータと称していた工業用の専用コンピュータでHPL(Hewlett Packard Language)という会社独自の言語で書いていました)。PASCALには苦い思い出があって、私が二十代後半の時に初めて製品プランナーとして手掛けた、計測システムのプログラミング言語として採用して、大失敗しました。この言語は非常に美しく記述性に優れていたので、私も、開発プロジェクトのマネージャも、プログラミング担当のエンジニアたちも、みんな夢中だったのですが、大規模プログラム用なのでやや難しく、お客様をサポートするアプリケーション・エンジニアの育成に時間がかかって、商機を逃しました。

 

 











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坂村 健「OAの未来図①」電脳都市所収

2020-09-26 18:13:36 | 参考文献

 OAとは、今ではあまり使われなくなりましたが、Office Automationの略で、コンピュータを中心とした電子機器による仕事の機械化を指しています。
 この章では、ジェイムス・P・ホーガンのSF「星を継ぐもの」に描かれた未来の仕事の様子をもとに解説しています。
 ここでも、以下の興味深い項目について述べます。

テレビ電話:この作品では専用ブース行われています。私が会社で海外の事業部とテレビ電話で会議をするようになったのは1990年代ですが、その時も専用の部屋でやっていました。それが、2000年代に入ると、ネットミーティングと称して、自分の席、あるいは自宅のパソコンを使って行われるようになりました。今では、誰もが、スカイプなどを使ってスマホで世界中の人たちとテレビ電話をしているのはご存じのとおりです。

データベース問い合わせ機能:ここでも電話回線による集中処理方式のデーターベース問い合わせ機能が想定されています。1990年代のインターネットの発明が、いかに偉大で世の中を大きく変化させたかが分かります。

集中処理方式と分散処理方式:さすがにコンピュータ・アーキテクトである筆者だけに、将来は通信速度の向上により分散処理が主流になることを予想していますが、おそらくここで予想されていたのは有線方式で、現在のような超高速の無線通信(例えば5G)は想像していなかったようです。

スーパー・パーソナル・コンピューター:現在のノートPCのイメージに近いですが、記憶容量がメガ単位で、現在のギガ単位とは1000倍以上の差があります。筆者は半導体の専門家でもあるのですが、ムーアの法則(インテルの創業者の一人のゴードン・ムーアが1965年に論文に発表した「18か月で半導体の集積度は2倍になる」という有名な経験則)が、五十年以上たった今でもほぼ成り立っているとは思っていなかったかもしれません。

 

 



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坂村 健「未来予測が日常化するとき」電脳都市所収

2020-09-26 18:10:14 | 参考文献

1985年に、当時、非常に人気のあったコンピューター科学者(当時は東京大学の助教授)が、SFが描いた未来世界が、どのように実現されるかを解説した本です。
 この本が書かれてから30年以上がたち、著者の予測自体も当たりハズレがあって、今読み直してみると、多くの示唆を含んでいます。
 この章では、ジョン・ブラナーが1975年に書いた「衝撃波を乗り切れ」を題材にして、未来予測が日常的になった世界を解説しています。
 以下に興味深い項目をあげます。

アルビン・トフラー「第三の波」:1980年に出版された近未来を描いた本でベストセラーになりましたが、すぐにブームは去って1985年の時点では全く見向きもされなくなっていたようです。

家庭百科事典サービス:電話線を使ったデーターベース・サービスか、光ディスクによるサービスなので、価格的にも利便性でも紙の百科事典にたちうちできていませんでした。もちろん、その後に発明されたインターネットによる分散処理によって、現在ではウィキペディアなどが無料で利用できるので、こうしたビジネス自体存在しなくなっています(しいて言えば、電子辞書にその名残があります)。

バグ:この時点でも、大規模ソフトウェアではバグを100%なくすことは不可能だったのですが、現在ではさらにバグが引き起こす社会問題が大規模化しているのはご存じの通りです。

ワーム:自身を複製して他のシステムに拡散するマルウェア(悪意を持ったソフトウェア)で宿主となるソフトウェアを必要とするウィルスとは別の定義なのですが、今は引っくるめてウィルスと呼ばれることが多いので、懐かしいタームになっています。

デルファイ法、クロス・インパクト・マトリクス法、シナリオによる予測、システム・ダイナミックス:いずれも未来予測の手法で、私は事業部のビジネス・プランを立てるために使ったことがありますが、今はほとんど使われていないでしょう。

スーパー・ハッカー:このころはまだ否定的な意味で使われることが多かったと思いますが、現在では非常に重要で価値のある存在と見なされています。

新しい倫理基準:ここではコンピューターを扱う人間に対して求められていますが、AIが一般化した現在では、コンピューター自身にも求められています。

 

 



 

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安藤美紀夫「戦争・核・子ども ―私に寄せて」日本児童文学1984年8月号所収

2020-09-26 08:56:56 | 参考文献

 「核時代と戦争児童文学」という特集の中の論文です。
 著者は「戦争児童文学三五〇選」というブック・リストを取り上げて、「戦争の時代をくぐってきた作家たちが、苦汁にみちた戦争体験をもとに、さまざまな作品を作った。どの作品にも、戦争のほんとうの姿を正しく伝えようとする意欲、戦争の残酷非情な実態を描こうという努力、戦爭という極限状態の中にあっても、人間は常に精いっぱい生きようとしていた事実を描きあげようとする願いが、語りこまれていた。そして、子どもたちか戦争を批判する力をもち、自らが平和をつくりあげる姿勢を身につけることを願って、書きつづけられてきた。(『戦争児童文学三五〇選』の「はじめに」より)」という主張を、それは一面の真実を語っていると同時に、そのことによって、いわゆる戦争児童文学にかかわる評価のかなりの部分がうやむやにされてきたことをも語っている。そしてその多くは、〈反戦〉というテーマを持ちさえすれば、大方のことは許されるという、悪しきテーマ主義に起因している。」と批判しています。
 これは、私が学生時代にそのころ書かれていた戦争児童文学を数多く読んで持った感想と、ほぼ同じです。
 著者は、さらに、たんなる被害者意識だけでなく加害者意識も持った作品を書くことの重要性を、自分自身の作品も例に挙げて指摘しています。
 また、戦争や核の問題が過去の出来事でなく現在も起こり得ることだということを子どもたちに伝えなければならないと、強く主張しています。
 これらの主張もほぼ現在の私の考えと一致するのですが、それはある意味当たり前のことなのかもしれません。
 なぜなら、安藤美紀夫は私にもっとも影響を与えた児童文学者の一人だからです。
 この論文は三十年以上前に書かれたものですが、福島第一原発事故や北朝鮮の核武装化などに直面している私たちにとっては、ますます重要な意味も持ってきていると思います。

日本児童文学 2013年 04月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
小峰書店
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