1994年から2000年にかけて、コーラスに連載された作者の代表作のひとつです。
それまで別マ(別冊マーガレット)の看板漫画家の一人だった作者が、少し年齢の高い読者層を対象とした雑誌に連載するために、それまでの絵のタッチ(それ以前にも徐々に変化していましたが)や作風(都会から田舎(山陰地方です)へ舞台を変え、登場人物もそれまでの中学生中心から、高校生中心にしています)を変えてチャレンジして、見事に成功しました。
美人だが方言バリバリの主人公、右田そよの中学二年から高校二年までの三年間を、東京から転校してきた大沢広海との恋愛を中心に、村の豊かな自然(海も近いです)、分校の下級生たちや先生たち、ユニークな村の人々、高校での新しい人間関係などを散りばめながら描いています。
この作品の成功の一番の理由は、なんといってもヒロインの右田そよの造形でしょう。
地元だけでなく高校のある町でも有名になるほどの美人なのに本人にはまるでその自覚はなく、成績も良く分校の下級生たちの面倒もよく見る「いい子」なのですが、どこか抜けている題名通りの天然ぶりが魅力です。
題名の天然コケッコーは、彼女の天然さと分校で彼女たちが世話しているニワトリ(コッコ、彼女がいつも心のよりどころにしている分校(将来はそこで先生をするのが彼女の夢です)の象徴でしょう)からきています。
また、作者の作品の特長であり限界でもあったお約束の主人公があこがれる美少年も、この作品ではおっちょこちょいで三枚目の性格を持たせることによって、リアリティを高めることに成功しています。
二人の恋愛関係も、すぐにファーストキスはするのですが、その後は彼女の古風さもあって三年かけてゆっくりと進み、なんどかきわどい局面はあったのですが、ラストまで実現しなかったことも、こういった作品の大半の読者の女の子たちと同様で、安心して読める要因になったかもしれません。
この作品は、登場人物がストーリーとともに年齢を重ねていく一種の成長物語(定義については、関連する石井直人の論文の記事を参照してください)なので、読者と登場人物は一緒に成長していくことにより、自分の体験と重ね合わせて読むことができます(連載は6年間なので、実際は読者の成長の方が2倍ぐらい速いです)。
修学旅行(主人公には初めての(彼が住んでいた)東京です)、高校受験(主人公と彼とでは成績が違うので、二人が離れ離れになる危機です)、高校入学(二人を除くと、他はみんな町の子ばかりなので、主人公はなかなかなじめません)など、読者にも身近なイベントを追体験しながら、読者は主人公たちと一体化できるのです。
なお、2007年に、この作品の中学時代の部分が実写映画化されました。
実際の作品の舞台である山陰の農村(作者の母の故郷だそうです)にロケーションした美しい映像と、新人時代の夏帆と岡田将生のういういしい演技が記憶に残っています。