「核時代と戦争児童文学」という特集の中の論文です。
著者は「戦争児童文学三五〇選」というブック・リストを取り上げて、「戦争の時代をくぐってきた作家たちが、苦汁にみちた戦争体験をもとに、さまざまな作品を作った。どの作品にも、戦争のほんとうの姿を正しく伝えようとする意欲、戦争の残酷非情な実態を描こうという努力、戦爭という極限状態の中にあっても、人間は常に精いっぱい生きようとしていた事実を描きあげようとする願いが、語りこまれていた。そして、子どもたちか戦争を批判する力をもち、自らが平和をつくりあげる姿勢を身につけることを願って、書きつづけられてきた。(『戦争児童文学三五〇選』の「はじめに」より)」という主張を、それは一面の真実を語っていると同時に、そのことによって、いわゆる戦争児童文学にかかわる評価のかなりの部分がうやむやにされてきたことをも語っている。そしてその多くは、〈反戦〉というテーマを持ちさえすれば、大方のことは許されるという、悪しきテーマ主義に起因している。」と批判しています。
これは、私が学生時代にそのころ書かれていた戦争児童文学を数多く読んで持った感想と、ほぼ同じです。
著者は、さらに、たんなる被害者意識だけでなく加害者意識も持った作品を書くことの重要性を、自分自身の作品も例に挙げて指摘しています。
また、戦争や核の問題が過去の出来事でなく現在も起こり得ることだということを子どもたちに伝えなければならないと、強く主張しています。
これらの主張もほぼ現在の私の考えと一致するのですが、それはある意味当たり前のことなのかもしれません。
なぜなら、安藤美紀夫は私にもっとも影響を与えた児童文学者の一人だからです。
この論文は三十年以上前に書かれたものですが、福島第一原発事故や北朝鮮の核武装化などに直面している私たちにとっては、ますます重要な意味も持ってきていると思います。
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日本児童文学 2013年 04月号 [雑誌] |
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