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倉庫番のアルバイト 

2013年02月08日 20時42分28秒 | その他

短編(ショート・ショート)です。
以前、他のブログに発表していたものを修正したものです。 自作ですが暇つぶしに読んでいただければ幸いです。


 【1】

とある郊外の工業団地内にある比較的大きな業務用冷凍倉庫。
中には大型冷凍庫が6台ほど設置してあって、中には鮮魚、精肉、冷凍食品などが一時保存してあり
朝方には配送のトラックがレストランや居酒屋、スーパーに商品を運んでいく。
倉庫内には8畳ほどのプレハブで出来た詰所があり、詰所の中には事務机とFAX電話、そして社員が休憩できるように
ソファーと長机、形だけの台所とトイレが設置してあった。

プルルルルー
午前2時過ぎに事務机の上にある電話が鳴った・・・

「もしもし、上野君? お疲れ様です、神田です。」
「あっ、ハイ、上野です、神田主任お疲れ様です。」
「今自宅なんだけど、お得意先から急に注文が来たんでちょっとマグロの在庫を確認してほしんだけど。」
「えーっと、マグロは4号庫でしたっけ?ちょっとわかりませんけど・・・」
「そう、たぶん4号庫だったと思うよ、今ある在庫数を紙に書いて本社にFAXしてほしいんだ・・明日朝一で得意先に連絡するから」
「分かりました、お安い御用です・・・任してください」
「すまないね、じゃぁ夜も寒いんで朝まで気をつけて。」
「はい、お疲れ様です、神田主任」  ガチャ・・・プープープー

「と、いう訳だ、出番だよ・・・義男君!!!」
「へぇ?なんすか、先輩!!」
ソファーの上で足を組んで携帯を操作していた義男は、何の事か分からない様子で上野の顔を見てこう言った。
「神田主任が在庫確認してこいってさ!!!4号庫のマ・グ・ロ」
「俺、中に入ったこと無いっすよ、先輩!!、そしてそんなの俺たちの仕事じゃ無いし・・・」
「馬鹿だなぁ~お前、いいかい、バイトの俺たちが仕事先の緊急なる指示に臨機応変に対応してこそ
バイトの株が上がるというもんだよ・・・ 確かに俺たちの仕事って冷凍庫が故障したり停電したりで中の商品が
駄目にならないように監視しているだけなんだけどね。もし故障した場合は二人で商品を他の冷凍庫に移し替えるのが仕事。
しかも監視設備はこの詰所の中にあるのでブザーが鳴ったらメーカーに電話してすぐ来てもらえばいいんだけどね。

「先輩、今までバイトしていてブザーが鳴ったこと有ります?」
「いや・・・一度も無い・・って話をそらすんじゃないよ、義男!!」
「お前ねぇ~もしも中の商品がダメになったらとんでもない被害だよ、その為の俺たちじゃないか!!」
「だ・か・ら・・・マグロ確認はバイトの範疇じゃ無いって言ってるんすけど・・・」
「グダグダ言うんじゃねぇよ、お前、早く行って来いよ、義男!!」
「俺はね、漫画読んでここで待っているから・・・俺は今、漫画を読むほどに忙しいの・・・分かる?」
「分かりましたよ、行けばいいんでしょ? 行けば!!」
憤慨しながらも義男は詰所から出て行った・・・

「あいつ、本当に使えねぇ~」


 【2】

「えっーと、ここかなぁ~4号庫って・・・」
義男の目の前には3メートルほどはあるかと思われる銀色の鉄の扉があった。
義男は左にスライドするその扉のノブをもって力強く扉を開放した・・・
ガシャーン・・・
「あれ?中は真っ暗だ・・・マグロがあるのか?・・えっーと電気のスイッチは・・・どこだ?」
義男は壁伝いにスイッチを探すために2~3歩中に入り込んだ・・・その時、後ろで扉が閉まる音が・・・
ガシャーン!!!
「あれ、閉まっちゃった・・・えっーとスイッチ、スイッチ・・・あったこれかな?」
照明が点いた冷凍庫の中を見る義男。
「あれっ・・・何にも無いや、俺間違えちゃったようだね・・・ははははっ。」
外へ出ようと中から扉のノブを引っ張る義男。
「あれ? 開かないぞ、なんで?・・・もしかして俺、閉じ込められたのかな・・・」
「先輩、開けてくださ~い、先輩、助けてくださ~い、せんぱ~い、せ・ん・ぱ~~~~い!!!」

 【3】

詰所の中で読んでいた漫画から目を離し、時計を見る上野。
「あいつどこ行ったんだ・・・それにしても20分は遅すぎやしないかな。怒って帰ったのかな?」
「本当に使えねぇ~やつ・・・」
上野が心配して4号庫の前に行くと隣の5号庫から自分の名前を呼ぶ義男の声が・・・

上野が5号庫の扉を開けると床に座り込んで泣きべそかいている義男が居た。
「お前何やってんの?泣きながら座り込んで・・・」
「あっ!!先輩!!助かった・・・助かった・・・」
あまりにも哀れな姿の義男に笑いそうになったが・・・そこは先輩としてちょっとカッコつけて義男に話しかけた。
「なに大げさな事言ってんの? ははははっ ほら、手を貸してやるから・・・立ってって・・・ははははっ」
上野が義男に近ずく為に中に2~3歩入った途端、後ろの扉が音をたてて閉まる。

ガシャーン!!!

「なにやってんすか~先輩!!!」
「あれ、閉まっちゃね、でもねこういう事態もあるので安全策として中から開けられるのをお前知らないの?」
「へぇ?そうなんすか? 知りませんでした、へへへへっ」
「本当に何にも知らないんだね、お前 はははははっ」
「ほら、壁から出ているノブを押し込むんだよ・・・そうそう、それそれ。」
「これですね、へへへへっ」
「ほら、早く押し込んで・・・開かないだろう義男君・・・」
「先輩、最後まで押し込んでいるんスすけど・・・・」

 【4】

何にもない冷凍庫の中に閉じ込められた二人の男。

「先輩、俺たちもう・・・閉じ込められて・・どれくらいっス・・・かねぇ~」
「さ・あ・なぁ~もう1時間くらいか」
「寒い・・寒いっス、せん・ぱ・・い」
「おれ・・も・・さ・・む・・い・・もう、限界かもしれ・・・ない」
「この中って・・・いったい、何度で・・・しょう・・か・・・」
「たぶ・・んマイナス、15度く・・らいかも・・・」
「じ・・じゃぁ、その温度で人間ってどれくらいも・・・つ・・んでしょう・・か?」
「2時間・・くらいじゃ・・・ないかな」
「寒い・・寒い・・寒い寒い寒い寒い寒い・・・・」
「あっ!!!先輩思い出した!!!」
「なんだ、外に出れる・・・方法か?」
「そういえば詰所の黒板に・・・4号庫か、5号庫か、故障中って書いてあった・・ような・・・」
「今は、そんな・・・話は・・・役にたたねぇー・・」
「あっ、こんどは俺が・・・思い出した・・・お前・・・携帯持っているよな」
「それ、最初に試したッス・・・電波入らない・・・」
「お・ま・えは本当に・・役にたたねぇ~~~!!!」

抱き合って冷凍庫の床に座り込む二人の男。

「せ・・んぱ・・い、もうダメッス・・・足の・・感覚が・・・なくなってきました」
「俺も・・歯のふ・・震え・・が止まらな・・・い」
「せん・・ぱ・・い、最・・後に・・一言・・いって・・いいッス・・か?」
「な・・んだ?よ・・・しお」
「雪山で・・・遭難し・・て凍死したなら、まだカッコいいッスけど・・・
冷・・冷凍庫で・・・死んだなんて・・・俺たち・・・カッコ悪い・・・すよねぇー」
「そっ・・・そうだよな・・・俺たち・・カッコ悪い・・・よなぁ~・・・」


【5】

検視官と警部の会話。

「警部、この二人の状況から見て、事故死じゃないかと思います、体中に凍傷が見受けられます」
「事件性は無いということかね、自殺の可能性は?」
「まだ、死因解剖してみないとはっきりとは言えませんけど、凍死で間違いないかと・・・」
「第一発見者の話が聞きたいので、呼んできてくれないか・・・」

呼ばれてきた神田は不思議そうに二人の死体を覗き込んだ。
「はい、たしかに二人に冷凍庫の中の在庫確認を頼みましたが・・・なぜこのような事態になったのか分かりません」
「でも、本当に不思議です、この5号庫は扉が故障中でしたので、中の商品はすべて他に移して
クーラーの電源もブレーカーから切っていたのです・・・・・



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4 コメント

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Unknown (non)
2013-02-10 22:32:03
こんばんは
ボレロさん、小説を書かれるんですね。びっくりしました。
私もたまに詩みたいなのは書くのですが、
小説は書けません・・・。

業務用冷凍庫に閉じ込められたらおそろしいだろう、
と思われて発想されたお話しなのでしょうか??

少年二人がユーモラスなのに悲惨な死に方をするところがこわいです。
かわいそう・・・。
故障してブレーカーも落としていた冷凍庫が、
なぜアルバイトの少年二人を凍死に呼び込んだのか、気になります・・・
(謎めいたオチに関して作者の方に尋ねるのは野暮でしょうか・・・。)
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Unknown (ボレロ)
2013-02-11 00:10:12
nonさん、こんばんは。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。

>小説を書かれるんですね。びっくりしました。
実は初めて書いてみました・・・
私の目指す??最高の小説の形はカフカの「判決」です(笑)

>謎めいたオチに関して作者の方に尋ねるのは野暮でしょうか・・・
nonさん、野暮です(笑)でも読んだ人がそれぞれ考えてください・・・てのも不親切ですね、別に職業でもありませんので(笑)
これは実話からヒントを得たものです・・・
どっか外国での不思議な話などの本に紹介されていた話です。
閉じ込められた恐怖感と冷凍庫の中は「寒い」との思い込みから発生した悲劇です。

やっぱり自分で考えるよりも、既存の小説を読んでいた方が面白いです。

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良かったです (課長)
2013-02-11 20:44:31
よかったっすよ。ぜひ次も読んでみたいっす。星新一みたいで、やわらかブラックでした。
返信する
Unknown (本人です。)
2013-02-11 23:07:32
コメントありがとうございます。
なんかある意味身内の評価は恥ずかしいです。
星新一みたい~はおこがましです。(笑)
素人は神様の足元にも及ばないです。
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