ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

アグルーカのカバーなど

2012年09月19日 15時06分01秒 | お知らせ
アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極
角幡唯介
集英社


『アグルーカの行方』が26日に発売になります。アマゾンで検索してみると、表紙カバーがすでにアップされていました。デザインは今回も鈴木成一さんです。おそろしくかっこいい出来栄えになっているので、書店での売れ行き増に期待しています。ちなみに撮影は一緒に旅をした荻田君で、北米大陸北部の不毛地帯を縦断中の一コマです。

 私と荻田君は昨年、「幻の北西航路」を探して北極の地で全滅した英国のフランクリン隊の足跡をトレースするため、カナダ北極圏の氷海と荒野を103日間にわたり歩き続けました。この本は、フランクリン隊に何が起きたのか、彼らはどこで全滅したのかといった謎を交差させながら、自分たちの旅の模様をつづったものです。

私の中では極地とは歴史的に人の生き死に直結した土地であるというイメージがあり、フランクリン隊を題材にその「極地性」とでもいったものを描きたいと考え、作品化しました。自分でいうのもなんですが、なかなか迫力のある内容に仕上がったと思っています。興味のある方はぜひ読んでみてください。

なお『アグルーカ』の作業も終わり、たまっていた短い原稿書きも終わり、完全に仕事がなくなった! この前まであんなに時間がなくて、ひーひー言っていたのだが、私は現在無職です。気持ちいいなあ。何もしなくていいって……。

ということで、ようやく本を読む時間ができたのだが、『狼の群れと暮らした男』という本には度肝を抜かれた。

狼の群れと暮らした男
ショーン・エリス、ペニー・ジューノ
築地書館


著者はアメリカのロッキー山脈に二年間も山籠もりして、本当に狼の群れに受け入れられた経験があるらしく、それがこの本のクライマックスる。狼の群れへの潜り方が半端ではない。最初に英国の動物園で飼育されている狼の檻の中で暮らす。そして狼に痛めつけられながらも、狼の意思を理解し、群れに受け入れられる。この檻の中で狼から受けたイニシエーションも、肉片を食いちぎられたりと、なかなか半端ではない。

その経験をばねに、今度は野性の群れと共生したいと考えた著者は、群れをを探してロッキー山脈での孤独なサバイバル生活を開始する。群れと接触するまでに何カ月もかかるのだが、その生活自体が凄まじい。獣道に罠をしかけて、ウサギなどを捕獲し、それを生のまま食べていたというのだ。それだけで一冊の本が書けそうだが、一行か二行くらいでさらりと触れているだけである。そんな暮らしを続け、ついにオオカミの群れと接触する。群れに受け入れられるまでに何度も危機一髪のやり取りを乗り越え、最後はなんと狼が食料――シカの足の肉など――を持って来てくれるまでになったという。

とりわけ発情期のオオカミは半端ではないらしく、何度も体当たりを食らったり、噛みつかれたりして、さすがにくじけそうになったという。マウントポジションを食らい、殺されそうになったこともあったそうだ。

惜しむらくは、もともと本を書く気などなかったためか、この二年間のオオカミとの暮らしについては、本の一部にまとめれているに過ぎない。あとは彼の自伝的な内容や、体験的なオオカミ論やイヌ論がながながと語られているのだが、正直言ってオオカミの群れとのやり取りをもっと詳細に知りたかった。

とんでもない男であることは間違いない。人類の可能性を広げた人間の行為について読みたければ、ぜひ。
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