環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

「気候変動対策」、もう一つの視点

2009-11-19 15:26:07 | 温暖化/オゾン層
私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック         持続可能な国づくりの会<緑と福祉の国・日本>のブログは、ここをクリック
アーカイブ(公開論文集)                              持続可能な国づくりの会の紹介動画は、ここをクリック   





去る11月15日(日)に、私もサポートしている「持続可能な国づくりの会」のシンポジウムが開かれました。パネリストの一人として発言する機会をいただきましたので、「日本の地球温暖化対策、もう一つの視点」と題するペーパーを事務局から配布していただきました。そこに示した図表をご覧になって、参加者の中には日本の現状にある種のショックを受けた方がおられるかもしれません。例えば次のような図です。



これらの図は、エネルギー分野の専門家であれば誰でもご存じのはずの国際エネルギー機関(IEA)の最新の報告「CO2 Emissions from Fuel Combustion Highlights 2009 Edition」に掲載された国別のCO2排出量の推移(1971~2007年)を示す表から日本とスウェーデンの数値を抜粋し、その推移の傾向を見るためにグラフ化したものです。日本は京都議定書の基準年である1990年以降も着実にCO2の排出量が着実に増加していることがわかります。

また、参考のために主要先進国の1人当たりCO2の排出量の推移も示しました。出典は同じです。
1人当たりのCO2排出量は、6カ国中5カ国が減少傾向にあるのに対して、日本だけが京都議定書の基準年である1990年以降も年々増加傾向にあることが見て取れます。

           



このシンポジウムの質疑応答のセクションで、私は次の図を提示しました。



この図は、私が13年前の1996年に出版した『21世紀も人間は動物である 持続可能な社会への挑戦』(新評論 1996年7月)の45ページに掲載した下の図を、表現を変えて示した図です。

今から200年以上前までは自然に対して人間の活動が小さかったために、人間活動の環境への影響は無視しても問題はなかったのです。ところが、現在のように、環境の許容限度に近づいた段階になりますと、現状を拡大する方向では私たちがやることなすことのすべてが私たちに降りかかって来ることになります。

早い話が不況になって生産活動が低下すると、エネルギーの消費量、工業用水の消費量、硫黄酸化物や窒素酸化物など大気汚染物質の排出量やCO2の排出量、水質汚濁物質の排出量が減り、廃棄物の量が減るのを私たちは経験から知っています。このことからも明らかなように、「経済活動の持続的拡大」「環境への人為的な負荷の増大」および「人体への負荷の増大」は図2・1のように密接に関係しているのです。 
 



この図の中に、表2-1とあるのは次の表です。



日本では、環境問題は「自然科学的な問題」と考えがちですが、私は「環境問題は人間と自然とのかかわりで起こる問題だから、この問題を考えたり、解決策を考えたりする場合には基本的には「経済学、社会学、政治学、法学、心理学など社会科学系の問題」だと考えた方が適切だと思っています。ですから、環境問題の解決には、公害の解決とは違って、社会システムの変革など制度的な対応のほうが、技術的な対応より重要になってくるのです。 

関連記事
判断基準を変えれば別のシーンが見えてくる、改めて、日本は世界に冠たる「省エネ国家か」?(2009-10-11) 

●大和総研 経営戦略研究レポート CSR(企業の社会的責任)とSRI(社会的責任投資)  日本は環境先進国なのか? 2008年3月10日
世界銀行が2007年10月に公表した温暖化対策を評価した報告書において、 日本は70カ国中62位、先進国では最下位という衝撃的な結果が示された。
洞爺湖サミットで環境立国日本を標榜し、世界のリーダーシップをとるのであれば、日本は環境先進国、という思い込みを捨てて積極的かつ大胆な温暖化対策を早急に進める必要がある。



さて、今朝の朝日新聞の「オピニオン」に掲載された蟹江憲史さん(東京工業大学准教授)のご意見「気候変動対策 外交政策としての戦略必須」は、私にとって大変うれしい記事でした。私が15年ほど前から言い続けてきた環境問題(今回の場合は「気候変動対策」に限定されてはいますが)に対する私の基本認識をサポートして下さったように感じたからです。



上の記事の赤アミをかけた部分がまさに私と共有する基本認識です。エネルギーや資源の議論で「入り口」と「出口」の両方の議論をしておられることもうれしい限りです。この当たり前の議論がこれまで、他の専門家の議論では、あまりお目にかからなかったからです。これまでの議論はほとんど「入り口」の議論ばかりでした。この記事によって、若手の研究者で、しかも私とはバックグラウンドがまったく異なる蟹江さん(政治学がご専門で、国際関係論専攻)が、「気候変動対策」について私の基本認識と共通であったことが確認できました。

●蟹江さんのご意見の全文をご覧になるには次をクリックして下さい。
 オピニオン 気候変動対策 外交政策としての戦略必須(2009-11-19)

関連記事
原発を考える⑤ エネルギーの議論は「入り口の議論」だけでなく、「出口の議論」も同時に行う(2007-04-14)

私の環境論 経済危機と環境問題① 21世紀の安全保障 + 岩井克人・東大経済学部教授(2008-10-17)

低炭素社会と原発の役割、再び 原発依存を強化する日本 vs 原発依存を抑制するスウェーデン(2009-10-08)




最新の画像もっと見る

9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
明るい未来(@^-^@)本質解決 (環境調和(@^-^@))
2009-11-24 08:19:57
おはようございます(@^-^@)
より積極的に具体的活動を高めたいです(@^-^@)
返信する
お疲れ様でした (しゅとう)
2009-11-26 15:00:54
シンポジウムお疲れ様でした。
こういう機会を通して、少しづつ議論を深めていくというのは、とても大切なことと思います。
質問ですが
①環境問題の本質についてですが、今の日本では環境問題よりも経済の持続的成長のほうが優先順位が上だよという考えが主流のように感じます。
小澤先生の言われる人体と環境の許容限度の限界というのは、どういう状況をイメージしたらよいか、基準がいまいち分からないのですが。

地球は閉鎖系であり、資源も有限で、一度壊れた生態系は取り返すのは不可能に近い…だから治療よりも予防が大切でありという意味の分かっているつもりですが。いまいち懐に落ちません。


②勉強不足で怒られるかもしれませんが、原発についてですが、水資源の確保ができなくなる状況が予想されるということですが、海水は使えないのでしょうか??


*あと画面を最大化しても新聞記事の右側が切れて読めませんでした。
返信する
金魚鉢の金魚 (小澤)
2010-01-23 13:56:25
しゅとうさん、
2つの質問をいただきました。

①環境問題の本質について

地球は閉鎖系であり、資源も有限で、一度壊れた生態系は取り返すのは不可能に近い…だから治療よりも予防が大切でありという意味の分かっているつもりですが。いまいち懐に落ちません。ここまで、おわかりなら、金魚鉢の金魚のたとえで、十分理解が深まるのではないでしょうか。

金魚鉢は閉鎖系で、金魚が生きる資源(金魚鉢の中にあるもの)は有限ですし、金魚の生存を支える生態系の能力にも限界があります。いま、5匹の金魚が健康に生き続けているとします。金魚をさらに5匹加えて10匹にしたらどうなるでしょうか。金魚鉢の中の環境では、正常に生き続ける金魚の数には限界があるはずですよね。後はいろいろ想像してみて下さい。

人間社会の場合は、金魚鉢を地球に、金魚の数を人口と経済活動(資源とエネルギーの拡大)に置き換えれば、答えは容易に想定されると思います。

②原発について

 これはご質問の意味が私にはわかりませんので、お答えできません。よろしければ、もう一度お尋ね下さい。

*画面を最大化しても新聞記事の右側が切れて
 読めないという現象

私のブログでは、左右の幅が一番広いテンプレートをわざわざ選んで使用しています。
ブログの左右の幅が狭いテンプレートを使用していれば、このような右側が切れるという現象は生じません。

私が聞いている範囲でお答えしますと、お使いのPCが新しいタイプのモノであれば、右側がかけるという現象はないそうです。これはごお使いのPCの性能にかかわる問題です。
もちろん、私が左右の幅のもうすこし狭いテンプレートを使用していれば、お気づきの不都合は避けられると思います。

返信する
ありがとうございます (しゅとう)
2010-01-26 11:02:20
おいそがしいところ、
お返事ありがとうございました。

金魚鉢のたとえで理解が深まりました。
大学の時に「共有地の悲劇」?という話を思い出しました。
家の中でストーブを使いながら、換気しないと人間は酸欠で死んじゃいますよね、それとも少し似た感じかな、、、などと考えました。

原発についてですが、小澤先生の「スウェーデンに学ぶ…」の本のP115の「渇水が深刻な状況であれば工場は停止せざるを得ない…」という部分で水不足によって原発が停止せざるを得ないということですが、海水なら簡単に枯渇しないと思ったのですが、、

お答えいただけたら嬉しいです。
返信する
想定できなかったご質問の趣旨 (小澤)
2010-01-27 10:30:42
しゅとうさん、

 再質問ありがとうございます。

 いろいろ考えてみたけれども、最初のご質問の時には、その趣旨がわかりませんでしたが、再質問で、ご質問の意味がわかりました。私のお答えは次の通りです。

 まず、私の本(p115)では、一般論として、モノの生産には「労働」、「原料」「エネルギー」、水、が必要で、これらは生産工程のインプット側です。アウトプット側は、製品と「廃棄物」(排気、排水、固形廃棄物など)および「廃熱」です。そこで、インプット側のエネルギーが十分にあっても(具体的には原発で十分な電力が供給されていても)、「労働力」、「原料」、「水」およびアウトプット側の「廃棄物」と「廃熱」の要因のうち、どれか一つでも量的に少ないモノがありますと、少ないモノの量で生産プロセスが動かなくなるということです。

 そこで、原子力のことを考えてみます。商業用の原子力エネルギーは今のところ発電にしか使われていません。原子力エネルギーで発電する場合に、発電に寄与するのは全エネルギーのおよそs1/3で、残りの2/3は廃熱となって捨てられています。熱の放出は原発が海に隣接していれば、海水へ捨てられます。そして、温排水の問題を引き起こします。原発が海の近くに立地できない場合は、巨大な冷却塔を設置して大気中に排熱を放出しています。

 日本には55基の商業用原発がありますが、これらはいずれも海に隣接して建てられていますので、原子炉から出る膨大な排熱は海水中に放出されており、いずこも温排水の問題を抱えています。

 ですから、原発は渇水であろうが、なかろうが正常に稼働しています。渇水の影響で工場が稼働しなくなる場合は、生産工程のプロセス水、洗浄用の水および工場内の冷却の水で、いずれも淡水です。

 したがって、水不足で原発が停止せざるおえないということはあり得ないことです。

 おわかりいただけたでしょうか。
返信する
ありがとうございます (しゅとう)
2010-01-29 15:22:25
お返事ありがとうございました。
原子力発電について勉強不足ですみません。

淡水の不足によって、原発の稼働が制限されるという理解でよろしいでしょうか?

ウィキピデアで原子力発電について読んでみて、原子力発電というエネルギー問題一つを考える時も国のビジョン、方向性というという大きな枠組みの中で本質からみないと問題の本質も見えてこないのかなと感じました。
返信する
ちょっt、違うと思ういますが・・・・・ (小澤)
2010-01-29 18:09:38
淡水の不足によって、原発の稼働が制限されるという理解でよろしいでしょうか?

 そうではないと思います。自然現象としての渇水が原因で原発の稼働が制限されるということは通常はないと思います。

 しゅどうさんが「水(淡水 あるいは海水)」と「原発」の関係をどのように理解しておられ、質問されているのか、私には理解できません。
私の2回目の回答でも、今回のような質問がでてくるのはどうゆうことでしょうか。もう一度、言葉を補って質問をいただけませんか。
 
返信する
言葉足らずで、すみません (しゅとう)
2010-02-16 14:08:33
変な質問で、しかも言葉足らずだったようで
小澤先生を混乱させてしまい失礼いたしました。
直接お話しできれば、もっとスムーズに分かる気がしますが、再質問します。

>渇水の影響で工場が稼働しなくなる場合は、
>生産工程のプロセス水、洗浄用の水および工場内の冷却の水で、
>いずれも淡水です。

原発が稼働するときに原材料、労働力など
インプット、アウトプットさまざまな要因のうち
どれか一つでも少ないものがあると、その少ない物の条件で
しか生産されないということでした。

そして「渇水が深刻な状況になれば原料やエネルギーが十分供給されていても
工場を停止せざるを得ない」と本に書かれています。P115

ということは夏場などに淡水が不足した時は、
工場は生産停止してしまうことがあるということなんでしょうか?
しかし、先生は「自然現象としての渇水が原因で
原発の稼働が制限されるということは通常はない」と言われています。
このところがよく分かりません。。
ほんとに何度もすみませんがよろしくお願いします。
返信する
それでは、また。 (小澤)
2010-03-03 10:28:28
しゅとうさん、

 電話でお話できてよかったですね。

 私がお伝えしたかったことをご理解いただきありがとうございます。

 また別の機会にコメントをいただければ、幸いです。

 
返信する

コメントを投稿