酔眼独語 

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「テロ」の安売りを憂える

2008-11-19 22:05:52 | Weblog
 旧厚生省の事務次官経験者を狙ったと見られる襲撃事件が連続して起きた。


 《さいたま市南区で十八日午前、元厚生事務次官と妻が自宅で殺害されているのが見つかり、同日夜には東京都中野区で、別の元厚生事務次官の妻が自宅で刺され重傷を負った。警察庁は元厚生省幹部を狙った連続テロの可能性があるとみて、全国の警察に関係者の警備強化を指示、厚生労働省も歴代幹部に身辺を注意するよう連絡した=18日 共同=》。


 きょうは朝から晩までこのニュースで持ちきりだ。言語道断の事件であり、民主主義に対する凶悪な挑戦であるという点では、メディアや政界筋が敏感に反応するのは理解できる。だが、この種の事件を「政治的テロ」と規定していいかとなると話が違ってくる。


 こんな訳の分からない犯罪を「テロ」と呼ぶべきではない。そんなふうに祭り上げるから勘違いをするはねっ返りが現れる。


 年金行政とは全く関係ない元次官の妻二人が刺された。この事実がテロではないことの証明だ。「9・11同時多発テロ」以降、理不尽な出来事を「テロ」の一言で片付ける風潮が目立つ。思考停止ではないか。



 テロリズムは暴力の脅威をかさに政治的主張を押し通すことを目的とする。政治的主張のないテロなどあり得ない。犯行声明と目的を明確にすることもテロの欠かせない構成要件である。


 今回の事件が年金などで厚生労働行政に恨みや怒りを募らせている者の仕業である可能性は高い。だが、それをテロと決めつけるのは乱暴だ。怒りのぶつけ場所が分からない思慮のなさが引き起こした? おろかな行為に国中が怯えてどうする。


 官邸の反応が鈍いなどという批判が起きているようだが、騒がせることを目的としたと考えられる犯罪に対して過剰に反応するのは考えものだ。いまは早く犯人を捕まえて、愚にも付かない犯行だということを天下にさらすことだ。



 厚生省叩きの元をつくったマスコミと野党に責任がある。などというトンデモ意見も出始めた。



 《自民党の津島雄二元厚相は19日、元厚生次官ら連続殺傷事件に関し、厚生労働行政を批判してきた野党やマスコミの論調に原因の一端があるとの認識を示した。

 津島氏は都内で記者団に「厚労省の仕事の成果をほとんど評価できないような論評ばかり行われている。その結果、不満を爆発させ、制度構築に携わってきた人に対する理不尽な行為につながったとすれば、本当に残念だ」と表明。

 その上で「そういう風潮をつくる上でマスコミも考えてもらいたい」「責任があるのは『あれが悪い、これが悪い』という国会の議論」などと、野党やマスコミに問題があると指摘した。

 厚労省や社会保険庁については最近でも、年金記録不備、厚生年金記録改ざんなどの問題が野党の追及で表面化し、マスコミの批判を浴びた。津島氏はこれらの経緯には触れず「事務方で一生懸命にやっている人に、ゆがんだ批判を向けるのは良くない」と述べた=東京新聞web=》。


 津島はもう少しリベラルな男だと思っていたが、違った。悪いのを「悪い」と指摘しないマスコミや野党は存在意義がない。それも分からないようでは天国で太宰が泣こう。この発言が危険なのは、先のトヨタの奥田発言と符合しているからだ。「行き過ぎた批判が社会を混乱させる」というなどという主張が公然と語られることに慄然とする。



 反対意見の存在を許さないことに通じる暴論である。こうしたところから言論弾圧は始まるのだ。各メディアは奥田発言への反応は鈍かった。今回はどうか。注目したい。


 テロが民主主義の敵であることは疑いないが、テロの土壌がマスコミにあるなどという意見が堂々とまかり通る世界もかなり危うい。


 
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