脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

追憶の鹿島戦

2007年08月30日 | 脚で語るJリーグ


 今季の著者のリーグ連続参戦記録はホーム&アウェイ問わず、先日の川崎戦で19という形で途絶えてしまった。仕事の関係で4日ばかりのホテル住まいを余儀なくされ、久しぶりにサッカーを拝むことのできない慌ただしい週末を過ごす。そして、23節を迎えた金沢の鹿島戦も無念の不参戦。思えば今季は鹿島に縁がない。

 そういう意味では、ナビスコで対峙するのがこの鹿島だと思うと悪くない相手である。結果的に昨夜のゲームは5-1というスコアであったが、この鹿島という相手は著者には全く相性の悪い相手である。そのため、いくら勝ってもまだ過去の借りを返すには物足りない。そんな追憶の鹿島戦をプレイバックする。

 まずは1994年サントリーシリーズの鹿島戦。このゲームはGWに名古屋(神戸ユ)、磐田(西京極)と鮮やかな連勝劇を見せてくれながらも、三ッ沢で悔しすぎるバウベルのおちょくりヒールの一発を食らい、続く浦和戦もルーキー辛島がJ初ゴールを決めながらも逆転負けで惜敗。アウェイ平塚では中村洋仁がついにその頭角を現すVゴールで喜びまくっていた姿が印象に残る連戦の後であった。
 しばしの中断期間を経て行われたこのゲームのハイライトはジーコのFK。これに尽きる。これで全てが終わった。満員の万博は引退間際の芸術家のアートに感動した。当時小学生の私にとってはそれは一瞬の出来事だった。この試合からガンバの4連敗がスタートした。

 その翌年の95年に、実はこのカードは昨夜と同じ金沢で実現している。その時は1-2で惜敗。宮本のデビュー2戦目だった。この試合でガンバは驚異の7連敗を記録し、難なく次節のV川崎戦で8連敗の記録を打ち立ててしまう。この時はスクリーニャが10番を付けると勝てなかった。プロタソフとヒルハウスの二大点取り屋を擁しながらも、最弱ガンバ全盛期であった。

 鹿島戦ベストバウトはやはり05年の満員の万博決戦に譲るとして、印象に残るのはやはり00年の万博か。2ndステージで鹿島と優勝争いを演じたガンバはホームに天王山を迎える。勝負所の駆け引きで経験の劣るガンバは鹿島のゲームプランに早々と乗せられ、最後まで優勝の道は遠かった。この試合はガンバがやはり優勝するためには経験が足りなすぎるというのを強烈に実感させてくれた試合であった。この試合で一矢報いた新井場が現在鹿島でプレーする因縁を、著者は毎度勝手に頭に描いている。
 この頃の鹿島は3冠に向けてのシナリオを完成させるべく、文字通りの黄金時代を突っ走っていた。

 鹿島ほど過去を毎回思い起こさせる対戦相手もないだろうと個人的には思う。熾烈なドローゲームも近年では毎度の如く。鹿島戦は毎年、ガンバの成長曲線を飛躍的に上昇させる。その成長曲線はこう語るのだ。

 黄金時代はもらった。と。

 

誰もがマグノアウベスを愛している

2007年08月25日 | 脚で語るJリーグ


 そろそろ奮起する頃だ。浦和戦、横浜C戦と不甲斐無いサッカーを演じたチームにこの男が帰ってくる。昨年のリーグトップスコアラー。
 そう、マグノアウベスだ。

 今季、バレーの加入で絶対的な存在感は影を潜めた。昨年以上に守備を前線から求められるチームにおいて、マグノは自身のポジショニングなどに苦しんでいるのがシーズン序盤から見てとれた。新加入の相棒がクローズアップされる中、ついズルズルと中盤まで下がってはボールを求めてイライラを募らせる。"2年目のジンクス"といっては言いすぎになるかもしれないが、それでもその不完全燃焼ぶりは試合ごとにハイクオリティを求めるサポーターにとっては物足りない、そしてそどこか悲しげなマグノの姿があった。

 今季はケガを繰り返してしまったマグノ。シーズン序盤には某サッカー誌のインタビューで「もうすぐ本来の自分をお届けする」と語った次の大分戦で大爆発した。そのここぞという時の勝負強さは目を見張るものがある。今夜の川崎戦ではその勝負強さをわずかでも見せてもらいたいものだ。

 彼にはガンバでプレーしたことを永久に忘れさせない語り草がある。昨年の11月26日だ。雨の降りしきるホーム万博で、彼は次節浦和戦に優勝の可能性を繋ぐ劇的なヘディングシュートをロスタイムに沈めた。2-2のまま万事休すかと思われたあの時間、彼は神がかった。ゴール裏は涙に暮れ、その浦和との間に現実的に立ちはだかる得失点差を忘れさせる感動を与えてくれたのである。
 不調な雰囲気を漂わせる彼の今季の姿に、私はいつもあの11月26日のマグノを重ね映す。彼は間違いなくガンバ史上に名を残すストライカーだ。入団当初いつも比較対象とされてきたアラウージョの存在をその得点王という成果で打ち砕いてみせた。「彼はもう過去のこと」とまで言い放ち、黙々と結果を積み重ねるその姿をもう一度我々に見せて欲しいものだ。

 さあ、今からお前の時間だ。誰もがマグノアウベスを愛している。

 もう遠慮はいらない。

真のスペクタクルリーグ、スペイン!

2007年08月24日 | 脚で語る欧州・海外


 昨夜書いたカルチョだけでなく、今週末には世界最高峰と名高いリーガエスパニョーラも幕を開ける。マドリードダービーで開幕を迎えるなんてマドリードの人々は熱い一日を過ごすのだろう。個人的にはこの一戦が最も注目カードではあるが、バレンシアVSビジャレアルも気になるところだ。

 覇権争いは間違いなくレアルとバルセロナの一騎打ちの構図が予想されるが、セビージャの存在はこの2チームを上回るインパクトを残しかねない。欧州全土から熱い眼差しを送られるファンデ・ラモス監督率いるこのセビリアの勇者たちは、今季欧州チャンピオンズリーグの舞台にも挑戦する。昨季圧倒的な強さを誇示したカップ戦同様、チャンピオンズリーグでも旋風を巻き起こせるだろうか。

 リーグではその成長著しいセビージャに昨季は肉薄された上記のビッグ2。アンリを獲得し、補強面ではストーブリーグの話題をかっさらったバルサよりもやはり「脱・ギャラクティコ」と一皮むけたレアルに注目だ。チームOBでもあるベルント・シュスター新監督を迎え、優美で強いレアルの復権は見られるのだろうか。その不安定なプレーシーズンマッチを見ているだけでも何か楽しみになってくる。
 そのレアルは負のイメージが付き纏った歴代CB陣の補強にメッツェルダーを獲得し、昨季バロンドールを獲得したカンナバーロよりも目立ったセルヒオ・ラモスを左に回すことが濃厚である。45億円の移籍金が物議を醸したペペもこの白いビッグクラブでキャリア中絶好のアピールチャンスを得た。中盤はディアッラの出来にかかっているだろう。シュスターの目指す「スペクタクルなサッカー」には堅実な守備力を誇る彼の存在は不可欠。プレーで目立つのは前線のサビオラ、そして不動のエースであるファンニステルローイの役割だ。

 絶対的な強さはともかく、銀河系集団時よりも面白いメンバーは揃った。あとはどれだけバルサと対等に渡り合えるかで今季のリーガの面白さは左右される。少しでも油断すればセビージャにも足元をすくわれかねない。バレンシアやサラゴサあたりも面白い。欧州屈指の実力伯仲ぶり、これが真のスペクタクルではなかろうか。
 

幕を開けるカンピオナート

2007年08月23日 | 脚で語る欧州・海外


 ドイツではバイエルンがロケットスタートを切り、プレミアでは前述したマンチェスターCが現時点で首位。ダービーで赤い悪魔を叩きのめしたシチズンズは今季行った補強の成果を早くも地元ファンに証明してみせている。
 そして今週末にはお待ちかねのカルチョの幕開けである。

 カルチョスキャンダルでペナルティを数チームが食らう中スタートした昨季とは違い、今季は横一線からの開幕となる。3連覇を狙うインテルはスーパーカップでローマに惜敗するも、やはりトップクラスの現有戦力だ。そのインテルを見守るインテリスタには何よりもキブの補強が絶大なる安心感をもたらしている。プレーシーズンでは左SB起用が目立ったキブはマテラッツィとコルドバが控える最終ラインよりも中盤でレジスタの位置も期待できる。そしてまだまだ移籍期限には10日ほどの余裕を残す現在、最後のサプライズがあり得るかもしれない。若干中盤の選手層に手薄感を抱くだけにラストピースが気になるところだ。
 今季は前線にカリアリからスアゾを獲得したインテル、不要論の噴出著しいアドリアーノを尻目にFW陣の中心となっている。この「カリブの怪人」にズラタンの2トップはカルチョ随一のコンビになるに違いない。個人的には数日前のミラン戦でも鮮やかなミドルを決めてみせたレコバの去就が最後まで気になるが、このまま残留路線でいくのだろうか。
 個人的に理想のメンバーは・・・
GKジュリオ・セーザル
DFマイコン、マテラッツィ、コルドバ、キブ
MFヴィエラ、カンビアッソ、サネッティ、スタンコビッチ
FWイブラヒモビッチ、スアゾ
といったところか。カンビアッソの位置にダクールも十分バックアップとしてシーズンを通して計算できるし、個人的にはラツィオからやってきたヒメネスにも期待したい。彼は長いシーズン必ずチャンスをモノにできる機会が訪れるはず。是非とも1年後の買い取りオプションを行使したいものだ。
 このインテルも選手層がお世辞にも厚いとは言い難いが、トップ戦力とバックアップ陣の総合力の乖離が少し気になるところだ。今季もヴィエラがケガをすることがあれば、20代半ばの中堅選手で代役を務める選手が中盤には皆無である。噂にもあるように理想はセビージャのマレスカかバルサからデコあたりか、どちらにしろラストピースが埋まる前に今週末の開幕戦ウディネーゼ戦を迎えるだろう。

 そのインテルが対峙するライバルは同じミラノをホームとするACミラン、といいたいところだが、最有力はローマだ。昨季のスペクタクルサッカーをより一層飛躍させるピースとしてバルセロナからジュリを右サイドに獲得した。キブの後釜にはブラジル代表のファンを補強、国内屈指のレジスタとして君臨するデロッシを中心に昨季得点王まで獲ってみせたトッティは代表引退してクラブのスクデット獲得に燃える。インテルにとっては相性の悪いこのローマが長いシーズンで今季も最大のライバルとなるだろう。

 昨季は勝ち点のペナルティを食らいながらもカルチョをあきらめ、ミランは欧州を制した。今年も欧州連覇を最大の目標に掲げてくるだろうが、カカが映える中盤だけがクローズアップされ、前線と最終ラインはそれほどでもない。ネスタは選手としてのピークを過ぎたと感じるし、序盤はベテランパオロも不在。カラーゼやボネーラあたりでは心もとないメンバーだ。何よりも前線はロナウド頼みの状況で、ジラルディーノが今季もいまひとつならば、ベテランのバの起用法にも注目したい。やはりキーマンはカカ。彼なしには今のミランは考えられない。

 その他にもBからAへの復帰を遂げたビアンコネーロことユベントスの戦いぶりにも注目が集まるし、個人的にはフィオレンティーナとウディネーゼは注目だ。とても書ききれない今季のカルチョ展望。
 インテルの3連覇かそれともそれを食い止めるチームは出てくるのか。今週末日曜日からその長い長いシーズンが始まる。

奈良のフットボリスタ ~奈良にプロクラブを~④

2007年08月22日 | 脚で語る奈良のサッカー


 人間誰もが安定した生活を望み、その居心地の良さにあぐらをかき、夢や情熱という感情の高鳴りを忘れることが多い。その世界から脱却することほど勇気の要る行為はない。そのリスクを背負えば背負うほど、人間は更なる高みへと己を飛躍する可能性を引き出すことができるのだが、誰もがそれを直視しないでいる。

 "ファン"から"バカ"への脱皮はまさにそれに当てはまるのかもしれない。特にフットボールにおいては。

 以前、県リーグ1部を戦うポルベニルカシハラの代表を務める福西達男氏とゆっくりお話させて頂く機会があった。
 ポルベニルカシハラはその名の通り奈良盆地の南部に位置する橿原市を拠点にNPO法人として、子供たちの育成を中心に活動している。前身は畝傍FC、白橿FC、橿原FCの3つのクラブで、2002年に日韓W杯開催にあたってチュニジア代表がこの橿原市でキャンプを行ったことから、橿原市のサッカーに対する情熱や活動とそれに起因されるサッカーを中心とした更なるスポーツの発展を謳った設立趣意の下作られた。「ポルベニル」とはスペイン語で"未来"を意味する。
 
 代表の福西氏にお目にかかったのは、大阪で行われたサロン2002(サッカー文化を通して豊かな暮らしつくりを目指すネットワーク)主催の後藤健生氏の講演会の場であった。関西を拠点に活動する多くのライターやジャーナリスト、指導者の方々がいるその場で私は思わず「地元奈良にJリーグチームを作るのが夢」だと発言した。良識のある方ならこの思いは伝わったのかもしれない。しかし、明らかに物珍しいこのマイノリティな発言にビックリされたのが本当のところであろう。この発言に反応してくれたのが福西氏であった。
 その後、場所を移しての懇親会の場で、奈良から指導者の方が来られているということを聞いた私は福西氏に声を掛けさせて頂いた。普段、会社員とガンバサポを務める私にとって現場の指導者の方と直々にお話させてもらう機会は少ない。
 思わず、奈良にJリーグチームを作りたいというその想いを率直にぶつけさせて頂いた。

 この夜から私の頭にはこびりついて離れない福西氏の言葉がある。
 「現場で教えるバカはいくらでもいるが、運営やマネジメントの部分でバカになれる奴がいない。」
 この言葉は奈良のサッカームーヴメントの低調さを見事に形容しているといっていいだろう。その通りである。
 サッカーはその選手寿命が野球などのそれと比べれば遙かに短い。高校で終止符を打つ者、大学で、またはプロや社会人でプレーした後に早々とスパイクを脱ぐ者など十人十色である。逆に言えば、それほど強烈な競争原理の中で11人の選手はボールを蹴る。自己満足に終わればそれこそカテゴリーを選ばず草サッカーはできるが、プロなど上を目指せばキリが無いその世界で、周囲に評価され注目を浴びることは稀といっていい。現実的に言えば、プロを目指す選手の大半が若くして指導者の道を歩むのが定番のルートである。
 「サッカーでメシが食えない」そういったサッカーバカはたくさんいるということだ。
 しかしながら、それとは違って競技者と一歩離れたスタンスでサッカーを支える者は確かに少ない。昨夜も書いた通り、奈良で言えば行政面や資本面でのバックアッパーもそうだ。クラブを法人化に導き、自らの生活をサッカーに捧げる人間はなかなか現れない。
 つまりこちらも同じく「サッカーでメシが食えない」ということではあるが、どちらかといえば「メシが食えないのがサッカー」というネガティブな形容が正しい。誰もがこのネガティブな選択肢を選ぼうとはしない。競技人口とは圧倒的にマイノリティで対極的なこのマネジメント面でのサッカーバカに徹する人間が、保守的な県民性著しいこの奈良ではいないのである。

 こういったことを現場サイドの視点から問題提起された福西氏はこう続けた。
 「皆逃げている。オレも含めてそうだ。行政も協会も皆そうだ。」
そうおっしゃられた福西氏はポルベニルもJを目指すことはないと強調した。
 J入りを目指すスケールになれば資金面での問題はおろか、クラブ自体が大きくなり過ぎて代表というポストはビジネスライクになりかねない。私は福西氏の意見に思わず同調してしまった。それはサッカーの面白さを自分自身が見失うのではないかということでもあるのだ。これはつまり現場で教えるバカとマネジメントできるバカが揃ってこそ初めて、そこまでマインドの高いクラブチームが成り立つということであり、上記の通り本当にマネジメント面でのサッカーバカ不足を物語る意見である。

 とにもかくにも"サッカーバカ"ほど聞こえの良いバカもないだろう。フットボールはそこまで人々を虜にし得るのだ。こんなに魅力的なことはない。
 福西氏は将来的に子供たちがクオリティの高い環境でサッカーが学べるアカデミーを作りたいとおっしゃられていた。模範はアヤックスの下部組織だという。国内外を問わず、文化としてのサッカーを深く考えてらっしゃた福西氏との会話は間違いなく私の心に火を付けた。

 私自身そろそろ"ファン"から"バカ"に脱皮したいと考えている。奈良のサッカーシーンに何か尽力できる"バカ"になれれば幸いであるし、是非ともこうやって「書く」ことによってムーヴメントの一環になれればと強く思う。

 多少の遠回りはしても"サッカーバカ"をもっと増やせる"サッカーバカ"になってやる。

奈良のフットボリスタ ~奈良にプロクラブを~③

2007年08月21日 | 脚で語る奈良のサッカー


 隣接する大阪府の2倍の面積を誇る奈良県はその大半が山地で、経済の中心は北西部の奈良盆地に集中している。特有の盆地気候は今年も容赦なく、文字通りの「猛暑」を県民に提供してくれている。言わずと知れた京都と並ぶ観光都市。数多くの文化財等を有しながら、北部に近年目まぐるしく開発が進む各ニュータウンは京都と大阪のベッドタウンの象徴で、多くの県民は県外に通勤している。また、山間部にかかる盆地南部の吉野地方は古くから林業の盛んな地域で、険しい山に囲まれ、村落が点在する。「日本一広い村」で有名な十津川村もその一つだ。

 この奈良県に文字通りのサッカープロクラブは無い。県内には3部で構成される社会人リーグは存在するが、Jを狙うクラブは皆無で、そこまで意識され組織化された法人クラブの存在も皆無である。
 
 関西社会人リーグ2部で戦う高田FCが現状ではトップカテゴリーに位置するクラブと言える。その高田FCは今季、元JFL西濃運輸などでプレー経験を持つ中塚康博氏がチームを指揮し、関西リーグ2部で2位に食い込んだ。来季は1部自動昇格が決まっており明るい話題ではあるが、昨季1部から降格した高田FCにとっては1年でのカテゴリー復帰に過ぎず、来季は将来のJリーグ昇格を目指すFC Mi-Oびわこkusatuに代表される強豪チームたちとの対戦が待っている。
 県内では随一であるトップ、サテライト、U-18(ユース)、U-15(ジュニアユース)、U-12(ジュニア)、ソヒィーゾ(レディーストップ)、レイール(レディースセカンド)などと明確にカテゴリー分けされているこのチームですらJ入りの意思は表明していない。どちらかというとジュニアからユース年代の育成が主体で、これまでその下部組織から輩出してきたJリーガーは前田俊介(大分)、片山奨典(名古屋)、古田泰士(徳島)らと数多い。ジュニアユースは高円宮杯に6度出場し、99年度には名古屋に次ぐ準優勝という成績すら残している。ジュニアも全日本少年サッカー大会の常連であり、04年には全日本フットサル大会で準優勝、8人制サッカー大会では05年に優勝を果たしている。この下部組織における選手育成の功績が高田FCの専らの印象要素であり、ここ5年で奈良県代表として3度の出場を果たしている天皇杯など含め、トップチームの活躍の認知度はまだまだ希薄といえるだろう。

 県社会人リーグを見渡しても、1部でトップチームがプレーするポルベニルカシハラ、ソレステレージャ奈良2002とこのような下部組織における子供たちの育成に重点を置き、特定非営利活動法人として活動するチームは存在する。しかしトップチームがJを狙うという意思表明をするまでに残念ながら至っていない。
 その何よりも顕著な要因はバックアップできるスポンサーの少なさと整備が進まない県内のサッカー環境によるところが大きい。

 奈良県内には地元の有力企業といえども、中小規模の企業が大半で、隣接する京都のような任天堂や京セラといった全国区の企業が無い。これまで観光産業や林業を中心にその経済が回ってきた奈良において、スポーツに対しての強烈なバックアップが期待できる出資元が現れないのである。一昨年、工作用機械製造で有名な森精機が名古屋に本社を移転したように、奈良に本社を置く企業は関連会社との関係が希薄になるというデメリットもあり、県内では全国規模の企業の工場や研究所ばかりがその看板を目立たせている。

 そして芝生のグラウンドが少ないのも確かで、県内でその希少性はまだまだ際立つ。特にナイター設備を要するグラウンドはほとんどなく、社会人のカテゴリーでも練習、試合を含めて中学校などの土のグラウンドが主戦場だ。県リーグの会場が奈良県外になることもしばしばである。それでも芝生のグラウンドで選手たちがプレーできる機会は限られている。この辺りの問題は県のサッカー協会や地方自治体の行政面で何とか将来明るい環境整備に取り組んでもらいたいところである。しかしながら協会も行政もその点において非常に腰が重いというのが現状である。

 何しろ、行政もそれどころではない。3年後の2010年に奈良県は平城遷都1300年の記念事業を計画している。県内の著名人及び政界人、そして新宮康男氏(前関経連会長、住友金属工業名誉会長)を協会名誉会長に据え、自民党幹事長である中川秀直氏や青木幹男氏を顧問、会長には森喜朗元首相などを記念事業推進連盟役員に連ねるその事業は約半年間、市内の平城京跡を中心に数多くのイベントを打っていく予定なのだが、その総事業費は300億円。その記念事業において奈良県は1年間に1,500万人の動員客を見込んでいる。とてもじゃないが、スポーツ、特にサッカーの強化にその予算が割かれるのは絶望的であるのだ。

 基盤となるクラブ、出資元、環境とそれを整備すべき行政や協会の面でも大きな壁が立ちはだかるこの奈良県。
 大和郡山市に住む著者のマンションからは北に若草山、東大寺や薬師寺、南を仰げば大和三山すら見渡せる。隣接する大阪や京都に比べるとこれだけ景色の良いところはない。その景色を眺める度に、景観を妨げる建物は無いものの、サッカーにおいては発展を遅らせる大きな壁が立ちはだかることを今一度実感して止まない今日この頃である。

最悪の三ッ沢

2007年08月20日 | 脚で語るJリーグ


 「最悪な試合をしてしまった。」

 試合後、そう語った遠藤にサポーターのブーイングはどう聞こえていたのだろうか。勝利に慣れてしまったサポーターの求めるクオリティは高い。今季二度目となる三ッ沢でガンバはそれを垣間見せることなく首位から陥落することとなった。

 三ッ沢で今季行われた横浜の2チームとの対戦はゴール裏で声を張り上げるサポーターにとってはどちらも非常に疲れるものであった。先日の横浜FC戦は首位と最下位チームの対戦という構図もクローズアップされたが、それ以上に勝利を求める絶対的欲求が欠けていたというべきだろう。球際でのプレーに精彩を欠き、横浜FCの堅守に攻撃陣は沈黙した。"崩せなかった"という言い方がふさわしいともいえるが、"崩そう"としない歯痒いシーンも散見され、勝利への希薄さがこのドロー劇を呼び込んでしまったに違いない。
 まさに"超攻撃"というスローガンが聞いて呆れる。ただでさえシーズン中盤に入り、各々のチームで研究が進む中で、より多くのオプションや幅広い戦術面でのポリバレントさが不可欠なはずなのだが。拙攻の連続はサポーターが求めるクオリティとは程遠いものだった。

 加地のクロスの著しく低い精度と家長がキープする際の周囲とのプレー感覚のズレはひどく気になる点だ。その家長も自分が試合の流れを変える強い意志をプレーでもっと見せて欲しい。何しろこれだけピッチに出てからその好不調の波が分かるようではハイリスクにもほどがある。
 選手それぞれに疲れが見えるのは確かだ。しかし、この2試合は勝っておきたかった。ガンバは自らのつまずきで今季独走して覇権を奪うチャンスをフイにした。まるで優勝を経験する前の経験値の低い頃のガンバを見ているようでもある。今季序盤から堅守を見せた基盤の4バックすらテコ入れ及び3バックへの修正が必要なのかもしれない。

 結果的に甲府に快勝した浦和と順位は入れ替わった。ここからは追いかける立場、もちろん取りこぼしは許されないし、浦和が調子を崩すのを待つ完全な他力本願状態である。安田、家長よ。やべっちFCで調子に乗っている場合ではないぞ。

 最悪な試合は終わった。あとは上を目指すのみだ。もう最悪な試合というワードは言わせない。

奈良のフットボリスタ ~奈良にプロクラブを~②

2007年08月19日 | 脚で語る奈良のサッカー


 フットボールにおいて真に称賛される者は勝者だけではない。そのゲームに全力で挑み、ファイトした者であれば誰もがその資格を有するはずだ。
 しかし、そこで勝者と敗者のコントラストが浮かび上がるのがフットボールの理であり、昨日の炎天下の中プレーした国体選抜成年チームの奈良と大阪の両チームはそれらを改めて教えてくれたのかもしれない。

 午前11時にキックオフを迎えたこのゲームは先に足の止まった方が負けだと私は確信していた。ノックダウン方式のトーナメントは容赦ない。泣きの効かないこの1試合が全てだ。
 ホームの奈良は県内の社会人リーグを中心に選出されたメンバー。それに対して大阪は関西社会人リーグのアイン食品と関西学生リーグ2部の阪南大から選出されたメンバー構成であった。カテゴリーだけで見れば大阪の方が選手の実力は上。かつて鹿島アントラーズにも在籍した13番の中村選手がいるだけでも大阪の強さは明らかだった。

 シビアな言い方をすれば、何も最初から奈良の勝利を信じていたわけではない。明らかにレベルが上のチームにどういった戦いぶりを演じるか、そして県内でただただサッカーに情熱を注ぎそれに打ち込む選手たちがどこまでファイトしてくれるかが楽しみでもあった。勝敗はその次だった。全国的にもサッカームーブメントの低いこの奈良県内の選手たちが見せる雑草魂こそがこのゲームの醍醐味だった。

 猛暑の日差し厳しい中で試合はキックオフを迎える。試合開始直後から奈良は果敢にシュートを狙っていくなど積極的な姿勢を見せてくれた。中盤の6番の選手を中心にボールを展開していきたい奈良であったが、大阪は明らかに個々の技術が上であり、序盤からセットプレーでチャンスを広げていく。先制点は前半10分大阪がもぎ取る。体格的には大阪との差も無い奈良だったが、セカンドボールの処理や次の一歩といったところで大阪にポゼッションを許す展開に。やはり13番の中村はその経験値を武器に左サイドから再三チャンスメイクを繰り返した。また6番と10番の落ち着いた展開力、19番の個人技を生かしたドリブル突破など大阪は徐々にエンジンがかかってきた。
 前半29分頃に非常にいい位置でボールを奪ったが、ゴール前で大阪のチェックに奪われるなど大阪守備陣を崩せない奈良の我慢の時間は続いた。

 終盤の怒涛の攻撃を凌ぎ0-1で折り返すこととなった前半。これだけ暑いコンディションの中で大阪の足も必ず後半止まりだすと思っていた。追加点を取られなければ奈良もチャンスはまだある。そんな中で奈良が喫した後半早々の2失点目は痛かった。その失点に集中力が途切れたか、その3分後にも追加点を奪われる。
 ここからが正念場だ。ここで全てをあきらめるか、1点は返すという執念を見せるか。サッカーはリードを奪われているチームの気持ちいかんで展開見どころは変わる。この暑い中、3-0と勝利をグッと引き寄せた大阪は選手を入れ替えて少しペースを落としたように感じた。翌日の京都とのゲームも見据えてセーブする意味もあったのだろう。後半20分頃から少しずつ奈良はペースを掴むようになっていた。シュートで終わるシーンが増える。ここで足を止める訳にはいかなかった。
 結局一矢報いることなく、終了間際にさらに4点目を奪われゲームは終わった。

 選手個々のレベルは違った。しかし灼熱のピッチで戦う気持ちは前面に出していたのではないだろうか。皆ファイトしていた。正直、この1試合で終わるのがもったいない。何試合もこれから経験を重ね、このチームが成長していくのを見守りたいという気持ちが湧き上がった。この私の気持ちと同じ気持ちを何人の観客が感じたのか。
 そんな思いと共に鴻ノ池陸上競技場に映える緑多き風景がチームの緑のユニフォームと重なり、私の心に印象を残した。この試合で感じた多くのこの気持ちを皆にも味わってほしい。サッカーに賭けるたくさんの雑草魂がここにもあるのだ。この奈良に皆で上を目指せるチームはやはり必要だ。
 

奈良のフットボリスタ ~奈良にプロクラブを~①

2007年08月18日 | 脚で語る奈良のサッカー


 今日8月18日は特別な日になるのかもしれない。

 地元である奈良県の国体選抜が近畿予選の戦いに挑む。選抜チームは奈良県社会人リーグでプレーする選手が大半だ。対する大阪は、関西社会人リーグのアイン食品と阪南大でプレーする選手が中心となる様子でかなりの強敵である。
 
 この奈良のチームを指揮するのは矢部次郎氏。かつて名古屋や鳥栖とJリーグで8年間プレーされた方である。昨年JFLのアルテ高崎でそのキャリアを終えられた矢部氏は地元の奈良で、今度は指揮官という立場で真剣勝負の場にカムバックされる。現役を終えられて、改めてサッカーの奥深さ、そしてその魅力を日々感じる毎日を過ごされている。現在は私の地元でもある大和郡山市で、少年向けのサッカースクールにて指導に当たっている。楽しんでサッカーすることを子供たちに伝える熱いマインドを持った素晴らしい方だ。

 私が矢部氏と初めてお会いしたのは、今年の冬だった。偶然にも奈良市内の行きつけのカフェでライターの小宮良之氏と談笑されているところに出くわした。誰がこの組み合わせに気づくであろうか。よほどのサッカーマニア?自分でもそう思うことがあるが、その小さなカフェでお二人の存在に気付いた私は思わず声をかけさせて頂いたのだ。矢部氏の顔もどんな方かというのももちろん知っていた。かつて中谷勇介選手と共に奈良育英高から名古屋に入団された時から注目していた。やはり奈良出身のJリーガーは地元のフットボールバカなら誰もがその動向が気になるはずだ。とこれは私なりの解釈だが、思わずスターに会ったようなテンションになってしまったのを今でもよく覚えている。
 サッカーダイジェストの連載で小宮氏は奈良のサッカー事情を取材するために矢部氏を訪問していたとのことで、後ほどその記事は愛読しているサッカーダイジェストでしっかり拝見させて頂いた。しかしながらそのお会いした際に概ねの内容を聞いた私は感銘を受けた。今まで本気で考えもしなかった思いがひとつ芽生えたのである。

 私が生まれ育ったこの奈良県にはプロを目指すクラブチームは皆無に等しい。現在多くの、いやほとんどの都道府県でJリーグを目指すクラブチームがその産声を上げる中で奈良県は何も動きが無い。その声も上がっていない。
 Jリーグに輩出する選手はいない訳ではない。日本代表の楢崎選手に代表されるようにこれまで多くの選手がこの奈良から夢の舞台に挑戦していった。県内では高校選手権でもかつてはお馴染みであった奈良育英高校がその輩出元して全国的な知名度を誇る。しかしながらクラブとして上のカテゴリーを狙うマインドの高いチームが無いのだ。
 小学生の頃から関西で当時唯一のJリーグチームだったガンバ大阪の虜になった私にとっては15年近くその考えとは無縁だった。かつて「プロサッカークラブをつくろう」というゲームがあり、私自身ものめり込んだことがあったが、まさにそんなゲームの中の夢見事であった。まさか奈良にJリーグチームだなんて・・・本当に考えることもしなかった。
 しかし、社会人になって余暇をほぼサッカー観戦に費やし、こうしてブログにて勝手きままに己のサッカー論を書くようになってからか、そんなことを考えるようになった。むしろ現在では本気でこの奈良県にプロクラブが誕生しないものかと思っている。自分は何ができるだろうか。一端のフットボールバカの自分が地元奈良のために何ができるだろうか、と気づけばそんなことばかりを模索する毎日なのである。

 先日、矢部氏とゆっくりお話させて頂く機会があった。今回の国体選抜を指揮するにあたってのいろんな苦労話も聞かせて頂いた。選手の選抜に関しては50試合以上もの県リーグを中心とした試合を観戦し、テクニックではなく気持ちで戦える選手を選ばれたということもお聞きした。この人は本気だと感じた。
 今まで地元奈良にプロ選手としての経験をフィードバックしてくれる人たちが少なかったのも事実だ。観光産業と林業や農業ばかりが中心とされ、県民性は極めて保守的で、大阪と京都のベッドタウンとしての存在価値ばかりがこの奈良にはクローズアップされることが多い。その中で矢部氏は何かを変えようと頑張ってくれている。サッカーというスポーツを通して。

 今日11時にキックオフされる試合が行われるのが鴻ノ池陸上競技場。かつて私が小学校時代にはガンバのサテライトが度々試合も行っていた県内でも数えるほどのまともな競技場だ。つまりこの試合はホームゲーム。そこが未来の聖地になるかもしれない。
 近鉄奈良駅からやすらぎの道を北上すればその競技場に着くのだが、このやすらぎの道をいっぱいのサポーターがスタジアム目指して歩く姿をいつも頭の中に描いてしまう。そうなる日が来てほしい。そう思いながらもちろん私も今日のゲーム応援に駆けつける。そして今後は暇を見つけては奈良のサッカーシーンを追っていきたい。

 今回の国体選抜チームがこのプロクラブ発足の機運を高めるきっかけになるかは分からない。しかし、これまでとは明らかに違う風は吹いている。
 歴史の証言者になりたいと心の底から思う。

J2観戦記⑤ ~天王山番外~

2007年08月17日 | 脚で語るJリーグ


 京都の夏の風物詩、五山の送り火を京都のサポは清々ししい気持ちで観ることはできなかったろう。逆に北国からわざわざこの暑さ著しい夏の京都までやってきた札幌のサポーターにとっては戦いの後のクールダウンになったのかもしれない。
 この日対峙した首位札幌との一戦は天王山というにふさわしいスペクタクルな一戦になった。

 試合のキックオフは17時20分。送り火の関係でスタジアムの照明が20時には消灯を強いられるこの日、非常に日差しと暑さの強い中でのキックオフを迎えることとなった。
 ホームの京都は首位札幌を勝ち点差7で追う展開。34節ということもあってここで札幌を挫いても首位の座に揺るぎなく、下から追走する福岡、仙台、東京Vの影を振り払うためにも重要なゲームであった。

 バックスタンドの観戦者にとっては非常に見苦しい西日の差し込む時間に試合はキックオフされる。両チームのメンバーは直近の試合とほぼ変わりはない。前節、夫人の出産の関係で戦列を離れていたブルーノも戻り、札幌も万全の態勢だ。このブルーノと曽田の堅固なCBコンビを中心にした堅守ぶりが今季クローズアップされるが、試合の序盤から主導権を握ったのはその札幌であった。
 札幌は終始高いDFラインを保ちながら、京都にセカンドボールすら与える隙を見せず、左サイドの西谷を起点に前線のダヴィ、中山をターゲットにしてロングボールを再三当て込んだ。右サイドの藤田は特攻隊長と呼ぶにふさわしい積極的な攻撃参加でゴール前に度々顔を出す献身的なフリーランを繰り返す。札幌の攻撃を凌いだ後の京都のショートパスは中盤をコンパクトに保つ大塚と芳賀のコンビにことごとく奪取され、いい形が作れない。前線の田原とパウリーニョにほとんどチャンスボールが渡ることは無かった。8分に角田の冴えあるフィードから田原が浮かし気味にゴールを狙うも、高い位置を誇る札幌のDF陣を攻略してのアタックではないそのシュートも決定機と呼ぶには程遠い。
 この札幌の序盤の積極的な攻撃姿勢がこの試合の方向性を決めたと言っても過言ではないだろう。前半中盤から京都もボールが繋がり出し、三上、田原とシュートチャンスを狙うが、得点の雰囲気は生まれなかった。パウリーニョにボールが収まった瞬間に数人で囲い込む素早いプレスも効き、札幌が攻守に機能している様子を窺わせる。
 前半38分、札幌は西谷のFKを京都GK平井が弾いたところに西嶋が反応し先制点を奪う。以前このブログにも取り上げた同郷の左SBの今季初得点で札幌が激戦の口火を切った。その5分ほど前に2度のCKで京都ゴールを脅かした札幌に先制点奪取の空気は十分漂っていたが、いい時間帯で奪ったこのゴールで俄然札幌のペースは上がるかと思われた。
 しかしながら、サッカーは分からないものである。44分に再三攻撃参加のチャンスを窺っていた京都右SB平島のクロスに反応したパウリーニョを思わず曽田がPA内でファウル。それまで消えていたパウリーニョのこれ以上ない俊敏な反応が曽田のファウルを誘ったのは確か。一瞬のチャンスに京都のエースは大きな仕事をした。このPKを難なくパウリーニョが決めてゲームを振り出しに。西京極のボルテージは上がる。京都が精神的に余裕を得て、後半リズムを掴むのは予想できた。

 その前半終了間際の雰囲気そのままに京都は後半開始から前がかりにチャンスを作る。49分の倉貫のミドルシュートがその号砲となったか、その5分後には斉藤が巧みなインターセプトからゴール前に持ち込む。その直後のFKも手島がしっかりヘディングでミート。前半の劣勢が嘘のような京都の息の吹き返しぶりである。この攻勢に京都は田原に替えてアンドレを投入。自ら勝負できるFWの投入でたたみかけたいところだった。
 札幌は少しスタミナが切れたか、前半に比べると省エネになった印象を受けた。前半左足で再三チャンスメイクしていた西谷に代わって、藤田の縦への突破を拠り所にし、早い攻守の切り替えが目立つ時間帯となってくる。
 試合が動いたのは66分、交代出場のアンドレからパウリーニョと繋ぎ、完全に崩した京都はフィニッシュに徳重が決めて逆転に成功。この京都の時間に西京極6千人弱のサポーターは湧き上がった。この直前に途中投入された渡邉もリズムを変えるという意味では京都のベンチワークの采配が吉と出ていた。

 しかし、ベンチワークでは札幌三浦監督の方が遙かに策士であった。集中力の欠如と足の止まりだしたこの時間帯に逆転を許し、その直前に投入していた砂川も含め、その後10分足らずで3枚のカードを次々と使いきった。特に効果的な仕事ができず後半はトーンダウンが顕著だった中山に替え石井を投入。中盤もベテランの大塚を下げ、カウエを投入して全体的に引締めにかかる。後半さらにエンジンがかかっていた右サイドの藤田がこの交代策とマッチした。76分にその右サイドから突破した藤田が粘ってゴールライン間際からクロスを上げる。逆サイドで反応した砂川が1発でねじ込めずも同じタイミングで顔を出したダヴィが冷静に決め、札幌は息を吹き返した。これで再びゲームは振り出しに戻る。
 そうなれば、札幌は途中投入された選手を中心に再びポゼッションを握るのだが京都もこの時間帯はつまらないミスを多発し、自爆で札幌にリズムを与えてしまった面も多く見受けられた。試合を決定づけた石井の決勝点も石井一人に難なくDFラインを突破され、最後はGK平井の判断ミスも逃さず落ち着いて決めたものであった。こうなれば堅守の札幌は試合をいつも通りクロージングさせるだけだ。
 今ゲーム最大のハイライトであった87分の京都のFKも徳重のキックはバーを叩きそのこぼれ球に渡邉が決めれず万事休す。ロスタイム2分は京都にとってはあまりに短すぎたものであり、終始試合をコントロールできた札幌に軍配が上がった。

 前節、C大阪戦を勝利で飾った札幌は、ドームでの試合なんと23度という快適な気温下でゲームを行っている。その札幌が灼熱の京都でのデイゲームで勝利を収めたことに関しても最後まで走り切った選手たちは評価されるべきだが、三浦監督がチームに植え付けている守備的なサッカーに得点力が確実に備わっている。高い気温下での苦しいコンディションも機を見た巧みな選手采配でゲームを180度京都に裏返させることはなかった。スポンサーの事件が騒がれている中、遠路遙々駆け付けたサポーターも気が気ではなかったかもしれない。しかし絶対的な強さを顕示できた。昨季クローズアップされた横浜FCも守備的なサッカーを形容していたが、この札幌のサッカーがJ1でどこまで通じるのかも是非来季見てみたいものだ。
 対する京都はホームでこの試合は勝ちたかったが、集中力とミスが後半中盤から相次いだのが痛かった。この後まさに順位直下の東京V、福岡、仙台と今季最も大事な連戦が続く。この8月末までに負けが込むようではJ1も難しくなってくるだろう。幸い、他のチームも状態は良くない。札幌の快進撃を助長してしまった立役者に終わってしまったこの試合で修正点をきちんと見つけられているか。京都は間違いなく正念場を迎えている。

 次節、札幌は曽田、ダヴィを欠きながら涼しい室蘭で飄々と湘南を相手できるだろうが、京都は鬼の形相で国立での一勝を狙わなければならない。