脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

J2観戦記⑤ ~天王山番外~

2007年08月17日 | 脚で語るJリーグ


 京都の夏の風物詩、五山の送り火を京都のサポは清々ししい気持ちで観ることはできなかったろう。逆に北国からわざわざこの暑さ著しい夏の京都までやってきた札幌のサポーターにとっては戦いの後のクールダウンになったのかもしれない。
 この日対峙した首位札幌との一戦は天王山というにふさわしいスペクタクルな一戦になった。

 試合のキックオフは17時20分。送り火の関係でスタジアムの照明が20時には消灯を強いられるこの日、非常に日差しと暑さの強い中でのキックオフを迎えることとなった。
 ホームの京都は首位札幌を勝ち点差7で追う展開。34節ということもあってここで札幌を挫いても首位の座に揺るぎなく、下から追走する福岡、仙台、東京Vの影を振り払うためにも重要なゲームであった。

 バックスタンドの観戦者にとっては非常に見苦しい西日の差し込む時間に試合はキックオフされる。両チームのメンバーは直近の試合とほぼ変わりはない。前節、夫人の出産の関係で戦列を離れていたブルーノも戻り、札幌も万全の態勢だ。このブルーノと曽田の堅固なCBコンビを中心にした堅守ぶりが今季クローズアップされるが、試合の序盤から主導権を握ったのはその札幌であった。
 札幌は終始高いDFラインを保ちながら、京都にセカンドボールすら与える隙を見せず、左サイドの西谷を起点に前線のダヴィ、中山をターゲットにしてロングボールを再三当て込んだ。右サイドの藤田は特攻隊長と呼ぶにふさわしい積極的な攻撃参加でゴール前に度々顔を出す献身的なフリーランを繰り返す。札幌の攻撃を凌いだ後の京都のショートパスは中盤をコンパクトに保つ大塚と芳賀のコンビにことごとく奪取され、いい形が作れない。前線の田原とパウリーニョにほとんどチャンスボールが渡ることは無かった。8分に角田の冴えあるフィードから田原が浮かし気味にゴールを狙うも、高い位置を誇る札幌のDF陣を攻略してのアタックではないそのシュートも決定機と呼ぶには程遠い。
 この札幌の序盤の積極的な攻撃姿勢がこの試合の方向性を決めたと言っても過言ではないだろう。前半中盤から京都もボールが繋がり出し、三上、田原とシュートチャンスを狙うが、得点の雰囲気は生まれなかった。パウリーニョにボールが収まった瞬間に数人で囲い込む素早いプレスも効き、札幌が攻守に機能している様子を窺わせる。
 前半38分、札幌は西谷のFKを京都GK平井が弾いたところに西嶋が反応し先制点を奪う。以前このブログにも取り上げた同郷の左SBの今季初得点で札幌が激戦の口火を切った。その5分ほど前に2度のCKで京都ゴールを脅かした札幌に先制点奪取の空気は十分漂っていたが、いい時間帯で奪ったこのゴールで俄然札幌のペースは上がるかと思われた。
 しかしながら、サッカーは分からないものである。44分に再三攻撃参加のチャンスを窺っていた京都右SB平島のクロスに反応したパウリーニョを思わず曽田がPA内でファウル。それまで消えていたパウリーニョのこれ以上ない俊敏な反応が曽田のファウルを誘ったのは確か。一瞬のチャンスに京都のエースは大きな仕事をした。このPKを難なくパウリーニョが決めてゲームを振り出しに。西京極のボルテージは上がる。京都が精神的に余裕を得て、後半リズムを掴むのは予想できた。

 その前半終了間際の雰囲気そのままに京都は後半開始から前がかりにチャンスを作る。49分の倉貫のミドルシュートがその号砲となったか、その5分後には斉藤が巧みなインターセプトからゴール前に持ち込む。その直後のFKも手島がしっかりヘディングでミート。前半の劣勢が嘘のような京都の息の吹き返しぶりである。この攻勢に京都は田原に替えてアンドレを投入。自ら勝負できるFWの投入でたたみかけたいところだった。
 札幌は少しスタミナが切れたか、前半に比べると省エネになった印象を受けた。前半左足で再三チャンスメイクしていた西谷に代わって、藤田の縦への突破を拠り所にし、早い攻守の切り替えが目立つ時間帯となってくる。
 試合が動いたのは66分、交代出場のアンドレからパウリーニョと繋ぎ、完全に崩した京都はフィニッシュに徳重が決めて逆転に成功。この京都の時間に西京極6千人弱のサポーターは湧き上がった。この直前に途中投入された渡邉もリズムを変えるという意味では京都のベンチワークの采配が吉と出ていた。

 しかし、ベンチワークでは札幌三浦監督の方が遙かに策士であった。集中力の欠如と足の止まりだしたこの時間帯に逆転を許し、その直前に投入していた砂川も含め、その後10分足らずで3枚のカードを次々と使いきった。特に効果的な仕事ができず後半はトーンダウンが顕著だった中山に替え石井を投入。中盤もベテランの大塚を下げ、カウエを投入して全体的に引締めにかかる。後半さらにエンジンがかかっていた右サイドの藤田がこの交代策とマッチした。76分にその右サイドから突破した藤田が粘ってゴールライン間際からクロスを上げる。逆サイドで反応した砂川が1発でねじ込めずも同じタイミングで顔を出したダヴィが冷静に決め、札幌は息を吹き返した。これで再びゲームは振り出しに戻る。
 そうなれば、札幌は途中投入された選手を中心に再びポゼッションを握るのだが京都もこの時間帯はつまらないミスを多発し、自爆で札幌にリズムを与えてしまった面も多く見受けられた。試合を決定づけた石井の決勝点も石井一人に難なくDFラインを突破され、最後はGK平井の判断ミスも逃さず落ち着いて決めたものであった。こうなれば堅守の札幌は試合をいつも通りクロージングさせるだけだ。
 今ゲーム最大のハイライトであった87分の京都のFKも徳重のキックはバーを叩きそのこぼれ球に渡邉が決めれず万事休す。ロスタイム2分は京都にとってはあまりに短すぎたものであり、終始試合をコントロールできた札幌に軍配が上がった。

 前節、C大阪戦を勝利で飾った札幌は、ドームでの試合なんと23度という快適な気温下でゲームを行っている。その札幌が灼熱の京都でのデイゲームで勝利を収めたことに関しても最後まで走り切った選手たちは評価されるべきだが、三浦監督がチームに植え付けている守備的なサッカーに得点力が確実に備わっている。高い気温下での苦しいコンディションも機を見た巧みな選手采配でゲームを180度京都に裏返させることはなかった。スポンサーの事件が騒がれている中、遠路遙々駆け付けたサポーターも気が気ではなかったかもしれない。しかし絶対的な強さを顕示できた。昨季クローズアップされた横浜FCも守備的なサッカーを形容していたが、この札幌のサッカーがJ1でどこまで通じるのかも是非来季見てみたいものだ。
 対する京都はホームでこの試合は勝ちたかったが、集中力とミスが後半中盤から相次いだのが痛かった。この後まさに順位直下の東京V、福岡、仙台と今季最も大事な連戦が続く。この8月末までに負けが込むようではJ1も難しくなってくるだろう。幸い、他のチームも状態は良くない。札幌の快進撃を助長してしまった立役者に終わってしまったこの試合で修正点をきちんと見つけられているか。京都は間違いなく正念場を迎えている。

 次節、札幌は曽田、ダヴィを欠きながら涼しい室蘭で飄々と湘南を相手できるだろうが、京都は鬼の形相で国立での一勝を狙わなければならない。