脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

奈良のフットボリスタ ~奈良にプロクラブを~①

2007年08月18日 | 脚で語る奈良のサッカー


 今日8月18日は特別な日になるのかもしれない。

 地元である奈良県の国体選抜が近畿予選の戦いに挑む。選抜チームは奈良県社会人リーグでプレーする選手が大半だ。対する大阪は、関西社会人リーグのアイン食品と阪南大でプレーする選手が中心となる様子でかなりの強敵である。
 
 この奈良のチームを指揮するのは矢部次郎氏。かつて名古屋や鳥栖とJリーグで8年間プレーされた方である。昨年JFLのアルテ高崎でそのキャリアを終えられた矢部氏は地元の奈良で、今度は指揮官という立場で真剣勝負の場にカムバックされる。現役を終えられて、改めてサッカーの奥深さ、そしてその魅力を日々感じる毎日を過ごされている。現在は私の地元でもある大和郡山市で、少年向けのサッカースクールにて指導に当たっている。楽しんでサッカーすることを子供たちに伝える熱いマインドを持った素晴らしい方だ。

 私が矢部氏と初めてお会いしたのは、今年の冬だった。偶然にも奈良市内の行きつけのカフェでライターの小宮良之氏と談笑されているところに出くわした。誰がこの組み合わせに気づくであろうか。よほどのサッカーマニア?自分でもそう思うことがあるが、その小さなカフェでお二人の存在に気付いた私は思わず声をかけさせて頂いたのだ。矢部氏の顔もどんな方かというのももちろん知っていた。かつて中谷勇介選手と共に奈良育英高から名古屋に入団された時から注目していた。やはり奈良出身のJリーガーは地元のフットボールバカなら誰もがその動向が気になるはずだ。とこれは私なりの解釈だが、思わずスターに会ったようなテンションになってしまったのを今でもよく覚えている。
 サッカーダイジェストの連載で小宮氏は奈良のサッカー事情を取材するために矢部氏を訪問していたとのことで、後ほどその記事は愛読しているサッカーダイジェストでしっかり拝見させて頂いた。しかしながらそのお会いした際に概ねの内容を聞いた私は感銘を受けた。今まで本気で考えもしなかった思いがひとつ芽生えたのである。

 私が生まれ育ったこの奈良県にはプロを目指すクラブチームは皆無に等しい。現在多くの、いやほとんどの都道府県でJリーグを目指すクラブチームがその産声を上げる中で奈良県は何も動きが無い。その声も上がっていない。
 Jリーグに輩出する選手はいない訳ではない。日本代表の楢崎選手に代表されるようにこれまで多くの選手がこの奈良から夢の舞台に挑戦していった。県内では高校選手権でもかつてはお馴染みであった奈良育英高校がその輩出元して全国的な知名度を誇る。しかしながらクラブとして上のカテゴリーを狙うマインドの高いチームが無いのだ。
 小学生の頃から関西で当時唯一のJリーグチームだったガンバ大阪の虜になった私にとっては15年近くその考えとは無縁だった。かつて「プロサッカークラブをつくろう」というゲームがあり、私自身ものめり込んだことがあったが、まさにそんなゲームの中の夢見事であった。まさか奈良にJリーグチームだなんて・・・本当に考えることもしなかった。
 しかし、社会人になって余暇をほぼサッカー観戦に費やし、こうしてブログにて勝手きままに己のサッカー論を書くようになってからか、そんなことを考えるようになった。むしろ現在では本気でこの奈良県にプロクラブが誕生しないものかと思っている。自分は何ができるだろうか。一端のフットボールバカの自分が地元奈良のために何ができるだろうか、と気づけばそんなことばかりを模索する毎日なのである。

 先日、矢部氏とゆっくりお話させて頂く機会があった。今回の国体選抜を指揮するにあたってのいろんな苦労話も聞かせて頂いた。選手の選抜に関しては50試合以上もの県リーグを中心とした試合を観戦し、テクニックではなく気持ちで戦える選手を選ばれたということもお聞きした。この人は本気だと感じた。
 今まで地元奈良にプロ選手としての経験をフィードバックしてくれる人たちが少なかったのも事実だ。観光産業と林業や農業ばかりが中心とされ、県民性は極めて保守的で、大阪と京都のベッドタウンとしての存在価値ばかりがこの奈良にはクローズアップされることが多い。その中で矢部氏は何かを変えようと頑張ってくれている。サッカーというスポーツを通して。

 今日11時にキックオフされる試合が行われるのが鴻ノ池陸上競技場。かつて私が小学校時代にはガンバのサテライトが度々試合も行っていた県内でも数えるほどのまともな競技場だ。つまりこの試合はホームゲーム。そこが未来の聖地になるかもしれない。
 近鉄奈良駅からやすらぎの道を北上すればその競技場に着くのだが、このやすらぎの道をいっぱいのサポーターがスタジアム目指して歩く姿をいつも頭の中に描いてしまう。そうなる日が来てほしい。そう思いながらもちろん私も今日のゲーム応援に駆けつける。そして今後は暇を見つけては奈良のサッカーシーンを追っていきたい。

 今回の国体選抜チームがこのプロクラブ発足の機運を高めるきっかけになるかは分からない。しかし、これまでとは明らかに違う風は吹いている。
 歴史の証言者になりたいと心の底から思う。