脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

無得点で“一つ”タイトルを逃す ~スルガ銀行チャンピオンシップ~

2008年07月31日 | 脚で語るガンバ大阪
 コパスダメリカーナ2007の覇者であるアルゼンチンのアルセナルFC(プリメーラ・ディビシオン)を招いて戦ったスルガ銀行チャンピオンシップ2008OSAKAは0-1でG大阪が惜敗。パスサッカーの応酬では負けじと劣らず持ち味は見せたものの、スコア以上に前線のレベルの差を痛感させられた試合だった。

 山崎の1トップで臨んだこの試合。前半から相手の高いプレスに苦しみながらもG大阪はいつも通りのサッカーをしようとした。DFラインから中盤の展開においては、特にそこまで問題点らしき問題点も無かったかもしれない。前半のアルセナルは完全にG大阪の出方を窺っていた。25分に橋本の左からのサイドチェンジを加地がトラップしたところをジャクージにかっさらわれて一気にカウンターを食らう。右サイドのカレイラからクロスが上がると、FWサバのヘディングシュートはかろうじて藤ヶ谷がセーブし、こぼれ球に反応したジャクージのシュートもゴール右に逸れたものの、ここから徐々にアルセナルペースになっていった。ショートパスを繋いで組織的に組み立てるアルセナルのサッカーは、そこまで脅威を感じるものでもなかったが、厚い守備の前に山崎の1トップという苦しい布陣のG大阪はなかなか攻撃のチャンスを掴めない。32分には左サイドから、33分には中央からルーカスが強烈なシュートを見舞うが、PA内でアルセナルを崩せない現実が目の前に立ちはだかった。

 再三チャンスを狙いに来るサバを集中してよく守った中澤、山口を中心に0-0で踏ん張った前半から後半に入ると、51分の下平のシュートをはじめ、G大阪は先制点を狙いにいくが、やはりPA内まではなかなか持たせてくれない。53分には右サイドからゴメスが折り返し、ジャクーシの強烈なシュートを許すなど、ここ一番の精密さはアルセナルに分があった。パスサッカーの応酬になったこの試合が動いたのは87分、アルセナルの左CKからカステリオーネが強烈なヘッドで先制。橋本がギリギリでクリアしたかに見えたが、ゴールラインを割ったと判定されたこのシュートが決勝点となり、アルセナルが初代スルガ銀行チャンピオンシップ王者に輝いた。

 相手がアルゼンチンのチームだということを差し引いても、勝負に負けた事実は受け止めなければならない。しかも、PA内で相手守備陣を決定的に崩す場面がほぼ皆無で、ほとんどが中距離からのシュートにフィニッシュを頼る場面は散見された。守備陣が集中して守ったにも関わらず、前線はその踏ん張りに報いることができなかった。中盤の攻防はパスサッカーを持ち味とするチーム同士見応えはあったのだが。
 この“点の取れる予感”がしないG大阪の攻撃は深刻だ。やはりルーカスにはバレーの代わりは務まらないし、これだけ中央を厚く守られると、山崎に1トップを託すのも無理がある。橋本がその攻撃の起点となって奮闘はしているが、これまでのG大阪の“ウリ”は完全に消えてしまっている。僅差で決着がついてしまった試合だけにこの点は悔やまれるが、短時間で解決できる課題では無さそうだ。ここで平井、岡本らが爆発してくれれば話は別なのだが。

 16日の大宮戦で遠藤の帰還を待つのが得策か。それで本当にG大阪の攻撃は変わるのか。加地が負傷し、山口も終了間際に頭部を負傷した。今週末に試合を控えてはいないものの、連戦が続くこの夏、G大阪は試練に晒されそうだ。この低調な攻撃陣を自浄できるか。現有戦力で戦わなければならない今、必死に耐えて、泣き言は我慢しなければならない。

 ちなみに夏休みを過ごす小中高生のサッカー少年が総動員されたのか、観衆は19,700人を超えた。会場が大きすぎたということで空席こそ目立ったが、平日だということを考慮すれば面目はなんとか保たれたか。だが結果は敗戦。タイトルも含めて、結局何も得ることはできなかった試合なのかもしれない。

シュールな大会、スルガ銀行チャンピオンシップ

2008年07月29日 | 脚で語るJリーグ
 明日30日に大阪・長居スタジアムで「スルガ銀行チャンピオンシップ2008OSAKA」が開かれる。昨年のJリーグヤマザキナビスコカップの王者G大阪とコパ・スダメリカーナの王者であるアルセナルFC(アルゼンチン)のタイトルマッチだ。

 4月17日に、当ブログでもアルセナルFCの紹介を兼ねて、今大会のぼやけた存在意義を問うべく趣旨のエントリーを書いた。大阪府サッカー協会がチケットをばら巻き出したこの7月辺りから、やはりこの大会の存在意義には個人的にも甚だ懐疑的で、30日にどれだけの方が長居スタジアムに足を運ぶのかと考えるとこれは心配。もう1度この大会の是非を考えてみたい。存在意義というよりも、開催コンセプトも含めた開催地への言及と表現すべきか。

 数少ないメリットとしては、国際試合として良い経験が積めるとは思う。これも一つの“タイトル”として考えるなら勝ちに行くべきであり、ここで若手中心のメンバーで臨んだとしたら、遙々地球の裏側からやって来たアルセナルにも失礼極まりない。せめてもの救いは、リーグ真っ最中のこの時期に土日の試合が組み込まれてないことは選手のコンディションを考えれば助かったと言えるだろう。

 同時にいろいろ考えさせられる側面もある。前回エントリーに書き込んで頂いたコメントを参照にすれば、今回来日するアルセナルFCをイングランド・プレミアリーグのアーセナルと勘違いされている方もおられるようで、この試合の趣旨を良く分かっておられない方もたくさんいらっしゃるようだ。“何でG大阪が長居でアーセナルと対戦するの?”という感じだろうか。アーセナルが来るのならハコは長居でも足りない。万博で今回の対戦を特集したエル・ゴラッソがばら巻かれるのも頷ける。
 要は、“タイトルを懸けた国際試合”という趣旨があまりにも希薄で、プレシーズンマッチ程度の認識しかもたらしていないようだ。4月14日に発表された田嶋幸三日本協会専務理事の記者会見コメントでは、あくまで日本サッカー協会と南米サッカー協会の親善、友好のためだとしか語られておらず、日本の一方的なマッチメイクであったことは否めない。
 そして、コパ・スダメリカーナの関係で日産がメインスポンサーになるかと予想していたが、蓋を開けると「スルガ銀行」がメイン冠スポンサーとなった。これがまた関西では馴染みのないものだから余計「?」が付くわけだ。よほどのG大阪サポーターか南米サッカーフリークしか試合の内容を理解しておらず、実際スタジアムに足を運ぶのもその辺りの客層がメインとなるだろう。告知用のポスターや様々な媒体で特集が組まれているが、これで1万人超えすれば大したものだと言える。もちろん主管である大阪サッカー協会の総動員、松下の総動員は避けられない。

 ただ、それなら会場は万博でも良いわけで、ロイヤルボックスや表彰スペースが無いことよりも、スタンドに閑古鳥が鳴く方が格好はつかないのではないだろうか。表彰台などパンパシの時のようにピッチに仮設の台を組めただろうに。 
「ナビスコカップで優勝したチームの、近隣にある最も世界的なスタジアムでやるということで、この長居スタジアムで今回は行われることになりました。今後も優勝チームの近いスタジアムを使って試合を行っていきたいと思っています。」 (田嶋幸三日本協会専務理事の記者会見コメントより)
つまり、日本協会の面目のために、端から万博の使用が否定されていたのだ。これが首都圏のチームなら国立競技場を使えば万事は済む話。これが関西になると長居スタジアムしかないわけで、そのおかげでC大阪が2度に渡って日本協会に会場変更を求めている経緯もある。
 万博が使用できないのは百歩譲って認めるとすれば、そんなライバルチームとの遺恨を残してまで、関西で行うべきだったのか。完全な中立スタジアムならともかく、長居でG大阪がトロフィーを掲げるのはちょっと・・・という気持ちはおそらく多くの方が抱いているはずだ。皮肉にも過去にG大阪は長居を使用して親善試合の画策を練っていたことがあり、C大阪の猛反対を受けたが、今回のこの大会が、新スタジアム建設の構想を早めたと言えるだろう。

 とにかく開催前日に愚痴っても遅い話で、この大会が4年を待たずにポシャることがないことを祈るばかりだが、それより長居に何人入るのか・・・
 昔ほど南米クラブとのプレシーズンマッチが行われることが少なくなった昨今、対戦カード的には面白いのだが・・・

 今回の大阪開催は、そういう意味でも“奇抜且つ非日常的”な試合。シュールに富んだ大会と言えそうだ。 

奈良クラブ!アインを撃破! ~第44回全社関西1回戦 奈良クラブVSアイン食品~

2008年07月28日 | 脚で語る奈良クラブ
 第44回全国社会人サッカー選手権関西大会1回戦2日目の日程が橋本市運動公園多目的グラウンドで行われた。第2試合で我らが奈良クラブが初戦に挑み、見事に格上のアイン食品(今季関西リーグ2位)を2-1で下し、2回戦進出。新潟での全国大会に王手をかけた。
 なお、第1試合で行われたアルテリーヴォ和歌山と日本写真印刷の一戦は3-2で和歌山が勝利した。

第44回全国社会人サッカー選手権関西大会1回戦Bブロック

●アイン食品 1-2 奈良クラブ○
得点:12分嶋、28分松野正
@橋本市運動公園多目的グラウンド

 

<奈良クラブメンバー>
GK31松石
DF21中村、5杉田(78分=2中川)、4秋本、11松野智
MF16河合(60分=7石田)、24東(66分=19土井)、26矢部、13金城
FW9嶋、10松野正

 誰かが倒れてもおかしくないほどの炎天下の橋本で、ジャイアントキリングは起きた。今季関西サッカーリーグでバンディオンセ加古川に次ぐ2位のアイン食品に、奈良県リーグの奈良クラブが勝利。奈良県勢の全社関西での勝利は初。ささやかながら関西社会人サッカーの歴史を揺るがした。

 この日は、CBに杉田、秋本。右に中村、左に松野智を起用。そしてチームの根幹である矢部、東のダブルボランチが復活した。右SHには河合、左SHには金城、2トップは嶋と松野正だ。控えメンバーには合流直後の石田が入り、DF上西、上林を除いて考えられるベストメンバーがこの大一番に揃う形となった。
 ここで詳細は割愛するが、アイン食品はほぼリーグ最終節バンディオンセ加古川戦と同じメンバー。前線は辻村、井上の強力2トップに中盤の底にはゲームメイカーの佐藤良、10番の南茂もスタメン出場。警戒していた選手は全て出場している。おそらく80分(40分ハーフ)、守備一辺倒の時間を強いられることが濃厚だった。

 試合が始まるとやはりアインがポゼッションを握った。しかし、奈良クラブは守備陣が良く頑張る。CBの杉田、秋本を中心にシュートコースを消しにかかり、中盤からの早く高いプレスでボールの出所を押さえにかかった。特に矢部、東のボランチコンビは阿吽の呼吸で、リスクコンダクターとしての東、そしてゲームメイカーとしての矢部と役割分担がはっきりしていた。もちろん矢部も守備にはいつもより忙殺され、なかなか良いリズムは生まれにくいと感じた。
 12分に右サイドでボールを持った嶋が狙い澄ましたコントロールショットで先制する。アイン守備陣の意表を突くコースでボールはゴールに吸い込まれた。まさかの先制点。チームには申し訳ないが、この展開だけでも出来すぎな気がした。しかし、この嶋の先制点は、奈良クラブにさらにリトリートの意識を植え付け、タイムアップまでの集中力を保つカンフル剤となった。
 28分にはカウンターのお手本とも言える展開から追加点を挙げる。中盤から矢部がボールを左サイドの金城に繋ぐと、対峙したDFをタッチライン際で鮮やかに抜き去った金城はそのままトップギアで左サイドを疾走。クロスを入れると中央で松野正が上手くコントロールし、鮮やかなシュートを決めた。ここ数試合の不調を完全に吹き飛ばす2トップの活躍はチームを上昇気流に乗せた。

 
 矢部次郎(26)、東幸一(24)のボランチコンビはチームの生命線

 まさかの2-0。ポジティブな意味で“想定外”だった。関西リーグで最少失点(14試合で13失点)を誇るアインに2点を先行するこの展開。サポーターも浮き足立った。頭を過ぎったのは、この後も同じペースでリズムを保てるかということ。後半足の止まったチームがアインの猛攻を食らい、立て続けに失点を食らうとうことも考えられた。しかし、そんな思いは杞憂に終わる。
 後半も奈良クラブは運動量がそこまで落ちなかった。それどころか守備意識の統一が見られ、相手に枠内のシュートを打たせない。特にCB秋本の粘りのディフェンスは出色の出来だった。
 DF秋本佳則は奈良育英高校から今季奈良クラブに入団した選手だが、奈良育英ではスタメンを確保できず、Bチームでプレーする毎日だったという。昨年大晦日の前橋育英戦もその姿はおろか、登録メンバーにも名前は入っていない(この時、土井はベンチ入り、金城はスタメン出場)。後に聞けば、春の大会をもって部を辞め、大学進学のために受験勉強に励んだという。「今が一番サッカーをしていて楽しい」と話す彼はYANAGI FIELDでの練習時も照明が落ちるまでボールを蹴っているのだ。そんな彼が対等に格上のチームにその努力と粘りで打ち勝とうとしている。その彼の姿はチームの縮図のようだった。同じように奈良クラブがチーム全員のその粘りと意地とプライドを80分間見せつけてくれたのだ。

 
 終始集中した守備を見せたDF秋本佳則(4)

 後半1点を返されるも、徹底した粘りの守備で80分間を走りきった奈良クラブが勝利。ジャイアントキリングは達成された。これで次戦は8月3日(日)橿原公苑陸上競技場で2回戦(FC加古川戦)を戦える。新潟で11月に行われる全国行きに“王手”をかけた。数こそ少ないが、充実したメンバー、そして充実した精神面で、この大会で死力を尽くし、できるところまで登りつめる。奈良クラブは間違いなく面白くなってきた。

 
 この日右SBで出場したDF中村祥朗(21)が攻め上がる

 
 かつて横浜FCでもプレーしたFW石田雅人(7)もこの日初出場

 
 最高の仕事をした殊勲の2トップ 嶋(9)と松野正(10)

 なお、第1試合を戦ったアルテリーヴォ和歌山は元G大阪玉置の活躍もあり、先制されながらも3-2で勝利。次戦強敵バンディオンセ加古川を迎えることになる。

 
 和歌山の勝利に貢献した元G大阪のMF玉置慎也

攻守に課題さらけ出す敗戦 ~19節 VS大分~

2008年07月27日 | 脚で語るガンバ大阪
 今季のJ1も前節から折り返し地点、先週の日曜にフクアリで劇的な勝利を収めたG大阪はホーム万博で大分と対戦。しかし現在5戦負けなしと好調の大分の前に一矢報いることすらできず0-1と完敗。播戸、遠藤の病気離脱に水本の電撃移籍、おまけに先日発覚したバレー退団騒動と難局には事欠かない今季のG大阪の象徴するような、多くの課題をさらけ出す結果となった。

 

 “バレーが爆発してくれれば・・・”
 ここ2年間で得点の奪えない時に決まって定番となっていた“バレー依存症”の副作用と言うべきか。もう彼に頼ることのできないG大阪は蓋を開けてみれば、0-0の均衡を破れない軟弱なチームになってしまったような感さえ受けた。前半から中盤がパスミスを連発すれば、それをかっさわれてじっくり大分に繋がれる。ほとんど前線に効果的なボールは出ず、スタメンに抜擢された平井とルーカスの2トップは沈黙した。この2トップは前半の半分ほとんどボールに触れてもいない。サイドからチャンスを作ってもルーカスがターゲットマンになりきれずクロスは空を切った。中断後の好感触を考慮して橋本をサイドハーフで起用する策も、代わりにボランチに入った倉田があれほど低調ではリズムは生まれないのも当然。21分のシーンがその象徴。自分たちがゴール前でチャンスを作っている際に倉田のパスミスで大分のカウンターをまんまと食らってしまう。

 
 ルーカスはバレーにはなれない 彼を活かす方法を考えなければ

 大分は自分たちのサッカーがし易かったはずだ。自陣でボールを繋ぐときにはほとんどプレッシャーは無く、ホベルトとエジミウソンは最適のポジショニングでG大阪のボールの出所を摘み続けた。サイドの鈴木と高橋は高い位置でG大阪の下平と加地を釘付けにし、金崎は左右にそのフォローに回ることができる。あとはウェズレイと前田は味方を信じてチャンスボールを待つのみだ。
 30分には中盤まで下がったウェズレイが悠々とロングフィード。これを下平が中途半端にクリアしたところを金崎に拾われ、サイドを駆け上がったエジミウソンから惜しいヘディングシュートを放った高橋まで一連のチャンスをフリーで仕掛けることができた。大分には前半から“あとは決めるだけ”といったリズムがあった。

 G大阪は後半から倉田、平井に代えて佐々木、山崎を投入。橋本をボランチに下げた。これで少し流れはできたが、大分の守備陣に柔軟に対応された。点の奪えない悪しき流れの集大成は69分に最悪の形に。ルーカスからカットされたボールをエジミウソンがそのまま40mほど独走。アプローチに来ないG大阪守備陣をよそにサイドに張っていたウェズレイに出すと、高橋を経由してフリーで走り込んだエジミウソンが狙い澄ました一撃をゴールに突き刺す。この局面もサイドでボールを保持したウェズレイになぜか2人がかりでアプローチしたために、アシストの高橋はフリー、走り込んだエジミウソンもフリーだった。攻撃でも流れが引き出せない悪循環は組織的な守備の崩壊まで促したようだ。
 74分に岡本を投入しての波状攻撃もエンジンがかかるのが遅すぎた。大分の集中した守備の前に結局は何もできず90分を終えることになってしまった。

 
 今後山崎もこれまで以上の重責を担わなければならない

 完全に歯車が狂ったようだ。夏場の連戦、大事な一戦を落としてしまった。パスが繋がらず前線に直結しない中盤、それと同時に崩れる組織的な守備、封じられるサイドバック。バレー不在で抱えるターゲットマンの不在、バレーだけでなく安田と遠藤の存在感も改めて実感せざるを得ない敗戦。この後にスルガ銀行チャンピオンシップ(30日)、そしてナビスコ杯準々決勝2ndlegを迎えることを考えれば頭を抱えざるを得ない。
 長居で恥ずかしい試合はできないはずだ。

第44回全社関西1回戦 ~報国エンジニアリングVS滋賀FC~

2008年07月27日 | 脚で語る地域リーグ
 続いて14時より行われたもう1試合、報国エンジニアリング(大阪府)と滋賀FC(関西リーグDiv2)の対戦は圧倒的な力の差を見せた滋賀FCが4-0で快勝。27日開催分の結果次第で、今季3位でDiv1をフィニッシュした三洋電機洲本と来季へ向けた力試しの勝負ができることになった。

 

<滋賀FCメンバー>
GK1松岡
DF7上田、5谷口、4門岩
MF10橋爪、15奥田、6前川、14西、8本間
FW11岩田(78分=26武藤)、9梅辻(62分=20保田)

 今季滋賀県リーグから関西リーグDiv2に昇格1年目ながら優勝という快挙を成し遂げた滋賀FC。この日も府県リーグ決勝大会常連である大阪府リーグ所属の報国エンジニアリング相手に“違い”を見せつけた。
 最初からワンサイドゲームになることは分かっていたが、意外に滋賀FCは先制点を奪うのに時間を要した。33分にFW梅辻からの折り返しに走り込んだMF前川の強烈なミドルシュートが決まり先制したが、それまでにゴールを逸した決定機のは数知れず。しかし1点決めてしまえばエンジンがかかる。2分後には本間のスルーパスに走り込んだエース岩田が落ち着いて決め2-0。本来ならば5-0ぐらいでで折り返してもよかったのではと思う内容の差で前半を終える。

 
 目の覚めるようなミドルで先制点を奪ったMF前川賢司

 後半も依然冴える滋賀FCのパスワーク。50分にはスピードを活かした梅辻の突破からPA内でパスを受けた奥田に相手DFがたまらずファウル。これで得たOKを奥田本人が決めて3点目を奪取する。この後も今季1試合平均約1.7点という驚異的ハイペースでゴールを量産した岩田と、その後ろから鮮やかなパスワークと個人技を楽しむかのように繰り出す中盤の選手たちによって“滋賀FC劇場”は続いた。上田、谷口、門岩の3バックは常時安定し、高いライン取りでほとんど相手にチャンスを与えない。ようやく報国エンジニアリングが得たチャンスもFW99番の選手がポストに当ててしまうほどでゴールの神様も完全に滋賀FCに味方したようだ。71分には味方のシュートの跳ね返りを西が押し込み4-0として初戦を危なげなく快勝した。

 
 ゴールが止まらないエースFW岩田尚記

 これで順当にいけば、次戦で今季Div1の3位で全日程を終えた三洋電機洲本とのマッチアップが実現する。来季から昇格がほぼ決定している滋賀FCだけに真剣勝負の“力試し”ができそうだ。

 
 安定感抜群の上田、谷口、門岩の3バック
 
 話は変わるが、この試合、内容は楽しめたが、レフェリングの質が低かったのが残念なところ。負傷者がいるのに主審が気付かなかったり、スローインの判定があべこべだったりと少し気になった。まあ、たまに関西リーグでは選手交代時の掲示板で“誰が誰と交代するのか”ピッチの誰も分からないほどあやふやな時がざらにあるのだが・・・

第44回全社関西1回戦 ~FC京都BAMB1993VS関学クラブ~

2008年07月27日 | 脚で語る地域リーグ
 第44回全国社会人サッカー選手権関西大会が開幕。灼熱の中、鶴見緑地球技場で2試合が行われ、1試合目はFC京都BAMB1993(関西リーグDiv1)が関学クラブ(兵庫県)を1-0で下した。

 

<FC京都BAMB1993メンバー>
GK1伊藤
DF14高邊、24安達、3日高、23田中
MF20中村、9桜井、7奥谷、26石川(HT=12奥川)
FW18桧山(75分=11東)、10牧

 どちらが勝ってもおかしくない試合だった。今季関西リーグDiv1の6位に沈んだとはいっても、FC京都にとって兵庫県リーグの関学クラブは明らかに格下。しかし、前半から運動量で関学クラブが一歩リードした動きを見せる。長身のFWを前線に据えて、教科書通りのポストプレーでウイングと中盤の選手たちがボールを拾いに走る。その形にFC京都は序盤から自分たちのリズムを取り戻せないでいた。そのFC京都は、司令塔のMF奥谷から前線の桧山、牧へボールを繋げようとするが、決定機と呼べるシーンはほんの数えるほどであった。

 
 かつてC大阪でもプレーしたFW牧悠二

 後半、ペースが落ちるかと思いきや、前半と変わらず踏ん張る関学クラブ。しかし、徐々にFC京都がチャンスを掴んでいく。56分(試合は40分ハーフ)に左SBの田中が相手のパスをカットし、FW桧山へ。振り抜いたシュートはわずかにバーを越える。続く57分には奥谷のスルーパスに反応した桧山が突破してヒールで牧に。牧は狙いすましたループ気味のシュートでゴールを狙うが、これもわずかに決まらない。63分には奥谷のFKから牧が果敢にダイビングヘッドを見せるもまたしてもわずかにポストの脇へ。そうこうしているうちに自分たちのミスから関学クラブに決定機を許し出し、64分にはDF安達のゴール前のクリアミスを拾われシュートを放たれると、66分にも再びDF安達がロングボールをヘディングできずかぶってしまい、あわや失点というシーンも。この状況にみるみる焦り出すFC京都の攻撃陣だった。

 
 プレーだけでなくコーチングでもチームの司令塔 MF奥谷弘樹

 終了間際の78分に奥谷のFKを桜井がヘッドで決めて1-0とし、辛くも初戦を制したFC京都。しかしなんとも落ち着かないドタバタした試合内容に“負けるのでは”という恐怖感が常にあったのではなかろうか。最後は集中力で違いを見せる結果となったが、関学クラブの健闘ぶりは賞賛に値できる。

 
 78分、奥谷のCKにMF桜井鐘吾が頭で合わせて決勝点

勝たーれ!富山! ~JFL後期第5節 佐川印刷SCVSカターレ富山~

2008年07月26日 | 脚で語るJFL
 25日に西京極で行われたJFL後期第5節、486人の観衆を集めた佐川印刷SC対カターレ富山の一戦は終始試合の主導権を握った富山が1-0と辛勝した。

<佐川印刷SCメンバー>
GK31大石
DF5瀧原(HT=20松岡)、22高橋、13金井、15野澤
MF25猪狩、8大槻(75分=16足立)、27吉木、14遊佐
FW17高向、6中井(61分=18大坪)

 

<カターレ富山メンバー>
GK1中川
DF19西野、6濱野、3堤、26中田(86分=22小田切)
MF7朝日(83分=17木本)、8渡辺、16景山、10上園
FW15石田、13長谷川(78分=18羹)

 

 “見せてやれ 富山 男の心意気 さあ戦え 我らと共に勝利を目指せ”
 男たちの野太い声だけではない。女性や子供も一緒になって応援歌を歌うメインスタンド北側は盛況の雰囲気に満ち溢れている。ようやくカターレ富山にお目にかかることができた。金曜日にも関わらず、この日はなんと富山からバスツアーで応援団が参上。約50人のサポーターが選手たちを鼓舞し続けた。昨季までYKK APとアローズ北陸という富山に存在した2チームが今季合併して誕生。本格的にJを目指すチームの誕生に地元の皆さんも虜のようだ。

 
 富山から西京極にサポーター大集結

 
 人数こそ少ないが、ホームの佐川印刷も負けちゃいられない

 試合は、前半序盤こそ佐川印刷がハイペースで攻撃を続けたものの、アタッキングエリアでプレーが粗く、中盤にそのペースは消沈。以降富山が主導権を握ることとなる。2トップの石田と長谷川にうまくくさびを入れて崩しにかかる富山だが、ここは佐川印刷守備陣が激しいチェックで何とか凌ぎ続ける。その証拠に前半だけで富山は6本ものCKのチャンスを得た。22分には左サイドからSBの中田が石田とのパスアンドゴーで素晴らしい攻め上がりを見せるが得点には至らず。30分には上園からのパスを受けた石田がドリブルでPA内まで攻め込み、絶好のラストパスを飛び込んできた長谷川に合わせるもシュートは枠を捉えられない。結局0-0で前半を折り返す。

 

 後半も富山のペースは変わらず。前半は左サイドでMF上園がプレーの起点として機能するが、後半頭から佐川印刷は対人プレーに秀でた松岡を投入し対策を図ると、富山は代わって右サイドの朝日が攻撃面で存在感を発揮。53分には高い位置で粘りのインターセプトでボールを奪取した長谷川から折り返して朝日がシュートを放つなど、徐々に攻撃陣が調子を上げてくる。すると56分、不意を突いたMF渡辺のシュートを佐川印刷GK大石が弾いたところに長谷川が詰めてゴール。待望の先取点を富山が奪った。

 
 FW長谷川満(13)が待望の先制ゴールを挙げる

 先制点の直後に佐川印刷のCKから富山はピンチを迎えるが、ツキも味方にした富山がこのまま1点を守り切った。これで4連勝。5月からの2ヶ月間でわずか1敗しかしていないチームは今季の序盤のつまづきを完全に取り戻した。明日横河武蔵野が負けるか引き分け、1点差での勝利ならば4位をキープできる。暫定ながら3位ファジアーノ岡山にも勝ち点差1ポイントと肉薄している。

 
 後半、攻撃面で効いていた富山MF朝日大輔

 
 夏休みに入った小学生年代の子供たちも多数駆けつけていた
 
 もしかするとチームの目標である“3年以内でのJ2昇格”は良い意味で裏切られるのかもしれない。この調子で富山県民の「勝たーれ!」という声を背中に受けてカターレ富山は引き続いて快進撃を続けていけるだろうか。

 
 富山の魂が凝縮された気合いのTシャツ!!

 

本大会前、見えた課題 ~U-23日本VSU-23オーストラリア~

2008年07月25日 | 脚で語る日本代表
 なでしこジャパンの試合に続いて行われたU-23日本代表とU-23オーストラリア代表の試合は、2-1でU-23日本代表が逆転で辛勝。勝利こそ収めたものの、再構築が最重要課題であった守備陣と前線に宿題を残す試合となった。

 

 3月のアンゴラ戦以来このチームでは2試合目となるMF香川が先発起用され、梶山がベンチスタートに。左SBにはまだこのチームでコンスタントに出場できていない長友、CBで水本とコンビを組んだのはカメルーン戦に続き、青山直を押し退けてメンバー入りを果たした吉田だった。この本大会メンバーでもう一度連携面を築いていかなければならない。そのためには次戦がアルゼンチンと考えれば、ここでしっかり内容と結果を共に見せておく必要があった。

 
 90分絶え間なくサイドを駆け上がりチャンスを作ったDF内田篤人

 日本は、香川と本田を中心に徐々にペースを掴んでいくが、上背とフィジカルコンタクトに長けたオーストラリアの守備はトーポスタンリーとスピラノビッチを中心にタイトだった。前線で李と組んだ森本がなんとかポスト役となり、周囲のサポートから攻撃を繋げようとするが、これがうまくいかない。中盤ではセンターで細貝と本田拓が良く献身的に守り、18分にはその本田拓のインターセプトから、森本のシュートチャンスまで一気に繋ぐこともできた。相手のミスから如何にスピードを生かした攻撃で崩せるかが焦点となった。
 しかし、33分に日本は自分たちのミスから得点を奪われる。吉田が相手のロングボールの処理を誤り、相手FWルカビチャに奪われると一気にドリブル突破を許し、日本は3人がその対応に釣られてしまった。ルカビチャが悠々と中央にパスを送ると、走り込んだトンプソンがフリーでシュートを決める。吉田のマークもしっかり付けておらず、注意すれば十分防ぐことのできた失点だった。守備の再構築ならず。ミス絡みの失点に、何とか早いうちに同点に追い付きたい、そんな雰囲気が自然とホムスタを包む。

 
 連携不足とミスが重なり、失点のきっかけとなってしまったDF吉田麻也

 40分、日本は理想の形で同点に追い付いた。右サイドを内田が突破、1人を抜いて李へ送ると、スルーした李の背後で森本がワンタッチで左のスペースへ。そこに香川が走り込むとGKとの1対1を冷静に決める。まだこのチームで初先発という男が救いの1発を叩き込み、ホムスタを熱狂に包んだ。長身とフィジカルで劣勢だった日本が目指すべき“らしい”得点パターンだった。
 これで日本は勢いを増した。直後に逆サイドの長友も鋭いクロスを李に送るなど、新参者が明らかにチームを活性化させていた。

 
 このチームの救世主となるのかMF香川真司 持ち味を見せた

 後半、李に代わって谷口を投入したことで中盤が厚くなった。オーストラリアもマクレナハンとセレスキーのコンビで再三右サイドからチャンスを作り、トンプソンに合わせようとするが、ままならない。日本は4-2-3-1と布陣を明確化したことで、前半以上にワイドにボールを展開できるようになっていた。52分には梶山を投入し、バランスを保った。だが、肝心のゴールは遠く、右サイドを疾風の如く駆け上がる内田の攻撃意識が光るのみだった。高い精度でフィニッシュを決められるアタッカー不在を露わにしたと言えよう。

 
 短い出場時間ながらも岡崎のゴールはDF安田理大が起点となった

 それでも何とか勝利は奪えた。終了間際の44分に途中出場の安田が左サイドをドリブルで仕掛けると思いきや、背後からフォローに来た谷口へ。谷口はゴール前にクロスを送るとこれまた途中出場の岡崎がヘッドで起死回生の逆転弾を決め、辛くも勝利を手にした。
 相手はオーストラリア、決して強豪国ではない。得点を奪えない苦しみをここで味わっている場合ではないのだが、連携も含めミスを犯した守備陣、ゴールの奪えないアタッカー陣と課題は改めて明確になった。しかし、同時に香川がA代表だけでなくこのチームでも輝きをもたらしたことは大きい。また、内田の突破とクロスも日本の大きな武器であることが再確認できた。守備偏重型の長友とのバランスも良い。
 チームの良し悪しがはっきりした反町ジャパン。次戦はいよいよ本気でメダルを狙うアルゼンチン。この試合で何か大きな成果を得て、本大会に臨みたいものだ。

 

なでしこジャパンVSオーストラリア女子代表

2008年07月25日 | 脚で語る日本代表
 北京五輪本大会を控えたなでしこジャパンとU-23日本代表がホームズスタジアム神戸でそれぞれのオーストラリア代表と対戦。なでしこジャパンは3-0と快勝、U-23日本代表は2-1と逆転勝利で壮行試合を終えた。次戦は両チーム共に29日にそれぞれのアルゼンチン代表と対戦する。

 

<なでしこジャパンメンバー>
GK1福元(79分=18海堀)
DF2近賀(72分=14矢野)、3池田(86分=16宇津木)、4岩清水、5柳田
MF7安藤(84分=12丸山)、10澤、15阪口、8宮間
FW17永里、11大野(64分=13原)

 

 今年ベトナムで行われた女子アジアカップにおいても、なでしこジャパンはオーストラリアに2勝しており(3-0、3-1)、この日も序盤からコンディションの優れないその“お得意様”を相手にペースを握った。センターラインの澤と阪口を軸にオーストラリアのボールを高い位置で奪取。前半は宮間、柳田らが左サイドから果敢にチャンスを作った。特に宮間は積極的に前半からミドルシュートを連発。得点意識の強さを窺わせる。オーストラリアの屈強なフィジカルに前半は永里と大野の2トップが押さえ込まれ、なかなか得点を奪えなかったが、42分にCKからの展開より、右から阪口がクロスを中央へ放り込むと、澤が頭で鮮やかに合わせて先制する。

 
 ここぞという時の頼もしさは流石 MF澤穂希

 
 テクニックを随所に見せながらもチャンスを作るMF宮間あや

 後半開始早々の46分には右サイドを駆け上がった安藤が中央の宮間へパスを送ると、宮間はそのままオフサイドラインギリギリに走り込む永里へスルーパス。絶妙な切り返しでDFを1枚抜いた永里が追加点を奪う。その後も後半は、途中出場の原がタフさを随所に発揮すると、近賀と安藤の右サイドコンビも躍動し、何度もチャンスメイクを繰り返す。84分には途中出場の丸山が自らの突破で得たPKを右隅に決めて3-0とし、なでしこジャパンがオーストラリアに快勝を果たした。

 
 宮間との阿吽の呼吸で2点目を決めたFW永里優希

 
 84分FW丸山桂里奈が自ら得たPKを決める

 澤の先制点をアシストし、その澤と中央でゲームメイクに務めた阪口、そして技巧派の宮間が到る所で存在感を発揮した。特に宮間は前半からフィニッシュへの意識が明確で、この試合全体的に運動量に疑問の残ったなでしこジャパンにおいて名実共に大車輪の活躍を見せたと言える。また、途中出場の原と丸山も存在感をアピールできたはずだ。
 対するオーストラリアはスウェーデンのIEKに在籍するFWディバンナ、そして2トップを組む長身のジルを中心に時折鋭いカウンター攻撃を見せたが、日本の高い位置での守備に封じられた。オーストラリアはミスが多く決定機にも恵まれなかった。

 
 澤とのコンビはバッチリのMF阪口夢穂 守備でも効いていた

 ただ、先日まで神戸と10度近くも気温の異なるJヴィレッジ(福島)で合宿を行っていたため、全体的な運動量でまだ疑問は残った。特に前半のスロースタートぶりは、相手が地力で上回るオーストラリアだからこそ曖昧にできた感も否めない。本大会での二の舞は避けたい。相手によっては一気に勝負を決められるだろう。ただ連携面でそれをある程度補えることと、後半からエンジンがスムーズにかかり出したのは収穫かもしれない。是非強豪国相手にしっかり結果を出して現実的にメダルを狙って欲しい。

ドキュメンタリー映画「プライド・イン・ブルー」

2008年07月24日 | 脚で語る日本代表
 昨夜、Supporter's Fieldにて行われたドキュメンタリー映画「プライド・イン・ブルー」の試写会に参加した。メガホンを執った中村監督もお越しになり、上映後に様々なこの映画のエピソードをお話しされたり、この映画を撮るきっかけなどをお話し頂いた。

 個人的にも初見だったこの映画。2006年8月~9月に渡って行われた知的障害者サッカーの世界選手権、もう一つのワールドカップに挑む日本代表の密着ストーリーなのだが、ただの知的障害者サッカーの物語ではない。これは軽度の知的障害者がいかに日常社会とのギャップに喘ぎながら、自分たちのアイデンティティを形成していくのかという深いテーマが存在した。物語を彩る各代表選手のサイドストーリーが、自分の知る由もなかった彼らの苦労を浮き彫りにする。インタビューに応え、ピッチでは真剣にサッカーに取り組む選手たちの誰もが、健常者とはほぼ変わりない普通の青年たちに見えるのだが、それぞれ高度の自閉症や識字障害に苦しんでいる。“社会的な自立”という壁に挑みながら、何度も挫折や苦しみを味わってきた選手たちにとって、“サッカー”は自分を最大限に自己表現できる唯一の手段だったのだ。

 サッカーにおいて“ゴールする喜び”というのは重度の障害者でも、軽度の障害者でも皆同じ、という作中に出てくるメッセージが心を打った。人間が脳から最も遠い部位で行われるスポーツにも関わらず、“ボールを蹴りたい”という本能的衝動は、健常者であれ、重度の障害者であれ、車椅子の者であれ、皆駆られていくのだ。サッカーの魔術はここに起因する。これだけ健常者、障害者の垣根を越えて浸透しているスポーツはない。この作品を観て、改めてそのサッカーの深い魔術の虜になると同時に、健常者と変わらぬ取り組みぶりで汗を流す劇中の代表選手たちに“自分がもしこういう状況だったら”とも自己投影してしまった。
 果たして自分なら現実から逃げずに、劇中の選手たちのようにサッカーに食らいついていくことができるのだろうかと。

 中村監督は、2002年に日韓ワールドカップが観に行けず、たまたまこの知的障害者サッカーに出会ったという。2002年の世界選手権を観てこの作品を撮ろうというアイデアが浮かんだのだが、サイドストーリーが多く、延べ200時間にも及んだ撮影分の編集に最も労力を費やしたという。それは分かる気がする。多分自分が監督なら、サッカーは二の次になってしまいそうなぐらいのエピソードに焦点をぼやかしかねない。それほど彼らは日本代表となるまで多くの苦労を味わった。でも作品にはそんなことを感じさせない凛と輝く彼らの姿があった。世界という舞台でなかなか勝てなくても、“俺たちはサッカーをやっているんだ、日本代表なんだ”という誇りが見えた。

 “サッカーの魅力”と“軽度の知的障害者が持つ様々な葛藤や苦労”がこの作品からは窺えた。そして、“サッカーでそれを乗り越えていく強さを身に付ける”その姿はこの作品の最も重要なハイライトだ。中村監督はこの大会の後にサッカーを辞めた選手たちも何人かいることを話してくださった。寂しさを覚えると同時に、この経験をバネに社会へと飛び出していく勇気を持てたのだろうか、と考えると、わずか90分ほどのこの映画を観ただけながらも、なぜか彼らがすごく身近に感じることができた。
 
 大会中ドイツの街で気さくに人々とコミュニケーションを図る彼らは、どこにでもいる青年たちと何ら変わりはなかった。