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前日、「都立の星」こと東京B代表の三鷹がオープニングゲームを制し、今年も幕が開けた全国高校サッカー選手権大会。奈良県代表の奈良育英と筆者の母校である大阪代表近大附属のゲームを見届けるために、今大会は埼玉ブロックが筆者の主戦場となった。
○前橋育英VS奈良育英● 5-4
●星稜VS近大附属○ 1-1(PK2-4)
今年3度目の来訪となる埼玉スタジアム2002では初めてのメインスタンドでの観戦。普段は赤い悪魔たちが覆うその大きな器は、改めてサッカー専用スタジアムとしての素晴らしさを物語る。
高校生の彼らに用意されたこの申し分ない舞台にて1回戦の第1試合として前橋育英と対峙した奈良育英。群馬のタイガー軍団はU-18代表のボランチ青木(来季大宮入団内定)、司令塔廣瀬を擁し優勝候補にも挙げられる強豪校である。正直クジ運は最悪だなと組み合わせが発表の時点では思ったことに加え、県予選の決勝のハラハラさせる戦いぶりでは内心この全国を勝ち上がるのは不安というのが本音であった。しかしこの日の奈良育英は相手に臆することなく素晴らしいサッカーを披露した。
圧倒的にボールを支配され、それでも前半を終えて2点のビハインドで済んだのは良かった。常識的にもそのビハインドを取り返すにはまだ充分な点差であるからだ。しかしそのためには前半のサッカーでは計算は立たない。すると奈良育英はベンチが動く。彼の先発落ちがこの日最大のサプライズであった10番の田仲をこの後半から起用してきた。テクニックに富む中野と吉田将という2年生コンビで臨んだ前半は攻撃の起点を築くことができず、ターゲットマンとしての田仲の存在感は後半のサッカーで何よりも明確に映し出された。中野がサイドに移り、田仲を起点に効果的なボールを配給することで前半よりアグレッシブに奈良育英はゴール前に展開できるようになった。
前半はオーバーラップしたDF笛田の思い切りの良いシュートも含め、後半9分にも1年生FW西澤がこの日2得点目で3-0とリードを広げた前橋育英。しかし気の緩みだけではなく、後半明らかに火の着いた奈良育英の猛攻に守備は崩れた。
後半12分にゴール前で落ち着いて中野が1点を返すと、そのわずか1分後には左からのクロスにFW吉田将が反応して決め、これで1点差に迫る。後半20分にはその吉田将のクロスにエース田仲がなんと3-3の同点に追いつくゴールを決めるのであった。
盛り上がるスタジアム。最高にスペクタクルに富んだ展開。その後、後半29分には途中出場の前橋育英FW木原がオフサイドぎりぎりで喜屋武からのラストパスをゴールに沈め4-3とすると、残り時間2分となった後半38分には奈良育英がCKからFW吉田篤が相手GKに競り勝ち4-4とする起死回生の同点弾。80分間で決着が着かなかった場合は即PK戦となる。このままPK戦まで持ち込めばまだ勝機は充分に残されている。誰もがそう望み、迎えたロスタイムに悪夢は起きた。一瞬の集中力の欠如か、はたまた前橋育英の気迫は勝ったか、MF青木の鬼気迫る突破から放たれたスルーパスはこの日スタメンながらも脇役に回っていたFW喜屋武へ。これで5-4。息をつかせぬ白熱のシーソーゲームはタイムアップを迎えることとなった。
奈良育英は自分たちの力を出し尽くした。しかし負けたことが全て。この選手権ではそれは次は無いこと意味する。前橋育英は確かに強かった。左右に広くボールへとコンタクトをとるMF廣瀬、中盤の起点となったMF青木、時にアグレッシブにオーバーラップを仕掛けてくるDF陣、1年生ながら2得点とその得点能力の非凡さを発揮したFW西澤など、個々が自分たちの仕事を全うできた。
しかしながら奈良育英も後半は前半の劣勢を完全に払拭する質の高さを見せてくれた。この全国の舞台で躍動してくれた彼らには惜しみなく賛辞を送りたい。中野、吉田将、染田と主力に2年生も多いこのチームにはまだ来年もこの悔しさを晴らすチャンスはある。来年この選手権でリベンジを果たしてくれることを期待する。
第1試合終了後、タクシーですかさず駒場スタジアムへ。さすがにこのスケジュールではダブルヘッダー観戦は無理がある。しかし前半20分頃から何とか観戦することはできた。
駒場では前半30分に星稜のDF福田がCKから頭で合わせ、そのリードを守り、1-0のまま前半が終了。今大会「西の横綱」と称される星稜を相手に近大附属は善戦していた。まだ後半チャンスは生まれる。期待通り後半ペースを握った近大附属はU-18代表で新潟への入団も決まっているDF鈴木を中心とした星稜の厚い壁をその速攻で切り裂きにかかる。後半20分、府大会決勝でも2得点と殊勲の活躍を果たした主将のMF笹田が星稜GK今村の飛び出しにて生まれたルーズボールを拾い、そのままシュート。ここ一番で本当に仕事をする男だ。ゴールに突き刺さる同点弾に大阪から駆けつけた近大附属の応援サイドは喜びを爆発させる。
その後も星稜がペースを上げてはFW谷川を中心として再三近大附属ゴールを脅かすが、これを無難に乗り切って勝負はPK戦へともつれ込む。
星稜の1人目鈴木が外したのはドラマの前兆であった。3本目も決められなった星稜に対して近大附属は1人が外しながらも、残り全員が無難に決め4-2で勝利を手中に。優勝候補を倒して、年を越しての2回戦進出を見事に決めたのであった。
駒場で行われた第1試合で高川学園が岐阜工を下し、次戦の相手はこの高川学園に決まっている。1月2日、場所は埼玉スタジアム2002。新年早々次は是非ともあのスタジアムで勝利の凱歌、いや校歌を歌いたいものだ。
寒空の下、ブラスバンドの演奏と勝利の歓喜に酔いしれながら歌う何年ぶりかの校歌も悪くはない。
前日、「都立の星」こと東京B代表の三鷹がオープニングゲームを制し、今年も幕が開けた全国高校サッカー選手権大会。奈良県代表の奈良育英と筆者の母校である大阪代表近大附属のゲームを見届けるために、今大会は埼玉ブロックが筆者の主戦場となった。
○前橋育英VS奈良育英● 5-4
●星稜VS近大附属○ 1-1(PK2-4)
今年3度目の来訪となる埼玉スタジアム2002では初めてのメインスタンドでの観戦。普段は赤い悪魔たちが覆うその大きな器は、改めてサッカー専用スタジアムとしての素晴らしさを物語る。
高校生の彼らに用意されたこの申し分ない舞台にて1回戦の第1試合として前橋育英と対峙した奈良育英。群馬のタイガー軍団はU-18代表のボランチ青木(来季大宮入団内定)、司令塔廣瀬を擁し優勝候補にも挙げられる強豪校である。正直クジ運は最悪だなと組み合わせが発表の時点では思ったことに加え、県予選の決勝のハラハラさせる戦いぶりでは内心この全国を勝ち上がるのは不安というのが本音であった。しかしこの日の奈良育英は相手に臆することなく素晴らしいサッカーを披露した。
圧倒的にボールを支配され、それでも前半を終えて2点のビハインドで済んだのは良かった。常識的にもそのビハインドを取り返すにはまだ充分な点差であるからだ。しかしそのためには前半のサッカーでは計算は立たない。すると奈良育英はベンチが動く。彼の先発落ちがこの日最大のサプライズであった10番の田仲をこの後半から起用してきた。テクニックに富む中野と吉田将という2年生コンビで臨んだ前半は攻撃の起点を築くことができず、ターゲットマンとしての田仲の存在感は後半のサッカーで何よりも明確に映し出された。中野がサイドに移り、田仲を起点に効果的なボールを配給することで前半よりアグレッシブに奈良育英はゴール前に展開できるようになった。
前半はオーバーラップしたDF笛田の思い切りの良いシュートも含め、後半9分にも1年生FW西澤がこの日2得点目で3-0とリードを広げた前橋育英。しかし気の緩みだけではなく、後半明らかに火の着いた奈良育英の猛攻に守備は崩れた。
後半12分にゴール前で落ち着いて中野が1点を返すと、そのわずか1分後には左からのクロスにFW吉田将が反応して決め、これで1点差に迫る。後半20分にはその吉田将のクロスにエース田仲がなんと3-3の同点に追いつくゴールを決めるのであった。
盛り上がるスタジアム。最高にスペクタクルに富んだ展開。その後、後半29分には途中出場の前橋育英FW木原がオフサイドぎりぎりで喜屋武からのラストパスをゴールに沈め4-3とすると、残り時間2分となった後半38分には奈良育英がCKからFW吉田篤が相手GKに競り勝ち4-4とする起死回生の同点弾。80分間で決着が着かなかった場合は即PK戦となる。このままPK戦まで持ち込めばまだ勝機は充分に残されている。誰もがそう望み、迎えたロスタイムに悪夢は起きた。一瞬の集中力の欠如か、はたまた前橋育英の気迫は勝ったか、MF青木の鬼気迫る突破から放たれたスルーパスはこの日スタメンながらも脇役に回っていたFW喜屋武へ。これで5-4。息をつかせぬ白熱のシーソーゲームはタイムアップを迎えることとなった。
奈良育英は自分たちの力を出し尽くした。しかし負けたことが全て。この選手権ではそれは次は無いこと意味する。前橋育英は確かに強かった。左右に広くボールへとコンタクトをとるMF廣瀬、中盤の起点となったMF青木、時にアグレッシブにオーバーラップを仕掛けてくるDF陣、1年生ながら2得点とその得点能力の非凡さを発揮したFW西澤など、個々が自分たちの仕事を全うできた。
しかしながら奈良育英も後半は前半の劣勢を完全に払拭する質の高さを見せてくれた。この全国の舞台で躍動してくれた彼らには惜しみなく賛辞を送りたい。中野、吉田将、染田と主力に2年生も多いこのチームにはまだ来年もこの悔しさを晴らすチャンスはある。来年この選手権でリベンジを果たしてくれることを期待する。
第1試合終了後、タクシーですかさず駒場スタジアムへ。さすがにこのスケジュールではダブルヘッダー観戦は無理がある。しかし前半20分頃から何とか観戦することはできた。
駒場では前半30分に星稜のDF福田がCKから頭で合わせ、そのリードを守り、1-0のまま前半が終了。今大会「西の横綱」と称される星稜を相手に近大附属は善戦していた。まだ後半チャンスは生まれる。期待通り後半ペースを握った近大附属はU-18代表で新潟への入団も決まっているDF鈴木を中心とした星稜の厚い壁をその速攻で切り裂きにかかる。後半20分、府大会決勝でも2得点と殊勲の活躍を果たした主将のMF笹田が星稜GK今村の飛び出しにて生まれたルーズボールを拾い、そのままシュート。ここ一番で本当に仕事をする男だ。ゴールに突き刺さる同点弾に大阪から駆けつけた近大附属の応援サイドは喜びを爆発させる。
その後も星稜がペースを上げてはFW谷川を中心として再三近大附属ゴールを脅かすが、これを無難に乗り切って勝負はPK戦へともつれ込む。
星稜の1人目鈴木が外したのはドラマの前兆であった。3本目も決められなった星稜に対して近大附属は1人が外しながらも、残り全員が無難に決め4-2で勝利を手中に。優勝候補を倒して、年を越しての2回戦進出を見事に決めたのであった。
駒場で行われた第1試合で高川学園が岐阜工を下し、次戦の相手はこの高川学園に決まっている。1月2日、場所は埼玉スタジアム2002。新年早々次は是非ともあのスタジアムで勝利の凱歌、いや校歌を歌いたいものだ。
寒空の下、ブラスバンドの演奏と勝利の歓喜に酔いしれながら歌う何年ぶりかの校歌も悪くはない。