脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

Road To JFL ~地域リーグ決勝大会~①

2007年11月30日 | 脚で語る地域リーグ


 晩秋から冬にかけての寒さが顕著になってきた11月最後のこの日。その寒さを象徴するどんよりとした雲が覆う熊谷スポーツ文化公園陸上競技場でJFL昇格に向けた熱い戦いが幕を開けた。

 ラグビーの地で知られるこの熊谷の地には立派なラグビー場を中心にドーム施設と陸上競技場が備わった大きな運動公園がある。ウィークデーの金曜日にも関わらず、ここで記憶に残る戦いを見届けに各地からサポーターも有志が集まっていた。

 <第1試合> △ファジアーノ岡山VSニューウェーブ北九州▲ 1-1(PK5-3)

<ファジアーノ岡山>
GK1堤
DF15重光、4伊藤、16野本、18池松
MF28小野、38三原、22臼井(78分=11弦巻)、10川原
FW7朝比奈(58分=39ジェフェルソン)、9喜山

<ニューウェーブ北九州>
GK1水原
DF4ドグラス、15永野、18小野、20吉野(86分=19古賀)
MF5桑原、2タチコ、8日高、10森本(74分=27楠)
FW9藤吉(86分=11宮川)、26中島

 11時よりキックオフされた初日の第1試合。開始前から両チームをサポートするサポーターグループがメインスタンドの両端に分かれて大きな声でチャントを絶えることなく発し続ける。ここ熊谷は身に染みる寒さを除いて、社会人サッカーレベルを超越した最高に熱い空間へとなっていた。
 前半からお互い腹の探りあいが始まる。スロースターターだ。それもそのはず、今日から3日間毎日激戦が続くのである。ターンオーバー制を敷くことができれば話は別だが、これは社会人リーグ、連日の激戦を考えてのペース配分は重要である。だからといって全ての試合が負けられない重要な一戦。その中で緩急をつけて攻守にバランス良いサッカーを岡山は早速披露した。
 
 どちらもオーソドックスな4-4-2を敷く中で、前半から目立ったのは岡山の左サイド池松だ。常にサイド攻撃は彼の突破から始まった。アウトサイドの10番川原との連携も良く、徐々に北九州の守備網はこの岡山の左サイドの対応にスタミナを奪われる。しかしながらドグラス、タチコという外国人選手2人を最終ラインと守備的な位置に置く北九州は岡山の決定的なチャンスを効率良く摘んでいく。特に百戦練磨のベテラン桑原(元広島、新潟)とにコンビを組むタチコの上背は空中戦で威力を発揮、随所に見せるインターセプトからチャンスも再三作った。
 中国リーグを怒涛の強さで駆け抜けた岡山には焦りは無かった。前半スコアは動かなかったが、きっちりパスを繋いで中盤で確実に繋げるサッカーはポゼッション率を自然と上げる。予選ラウンドから気を吐くエース朝比奈、喜山の両フィニッシャーにどうボールを繋げるかがポイントであった。

 41分、試合は動く。両チーム共にペースを上げていく最中で北九州のタチコがまさかのファウルで2枚目の警告を受け退場処分を食らってしまう。前半終了間際で、そのまま岡山がエンジン全開とはいかなかったが、中盤で攻守にいいプレーを見せていたタチコの退場は少なからずこのゲームの流れを変えた。

 後半、北九州は藤吉を右アウトサイドに下げ、森本と中島を前線に張らせる布陣に変更する。岡山は案の定ペースを上げて点を取りに来た。GK水原を中心に守備陣がよく踏ん張る。この攻勢をさらに勢いづけたのは後半途中から投入された岡山のFWジェフェルソンだったというのは言うまでもない。予選ラウンドで爆発した朝比奈はこの日不発。ジェフェルソンが満を持しての投入となったが、この投入は岡山に多くの決定機をもたらす。
 後半多くのCKからジェフェルソンがあわやというシーンが度々見られるも、時にバーに嫌われ、ゴールは遠い。桑原が最終ラインまで下がり、ジェフェルソンをマークするも疲れの見える北九州の守備陣は、84分にその集中力を切らしてしまう。PA前からのアーリークロスをジェフェルソンが頭で決め、待望の先制点を岡山が先取する。残りはあと5分。一人少ない北九州はこれで万事休すかと思われた。
 しかし、集中力を欠いたのは岡山も同じ。大事なこの終了間際にPA内で痛恨のファウル。北九州はこれで得たPKを小野(元G大阪、横浜FC)が決め起死回生の同点劇を演じたのである。

 この大会のレギュレーションでは90分で決着が付かなければ即PK戦となる。岡山の堤、北九州の水原と両GKがファインセーブを1本ずつ見せながらも結果4-3で岡山に軍配が上がった。
 敗北した北九州は勝ち点1を獲得、勝利の岡山は勝ち点2。初戦から劇的な試合となったが、1人少ないチームには負けられない岡山が意地の1勝をもぎ取った。

 <第2試合> △バンディオンセ神戸 VS FC Mi-Oびわこkusatsu▲ 1-1(PK5-3)

<バンディオンセ神戸>
GK21近藤
DF2烏谷、4川口、5神崎、24八柄
MF3山道、8川崎、13森岡(76分=14石田)、25下松
FW11川淵(85分=7秋田)、17松田

<FC Mi-Oびわこkusatsu>
GK1田中
DF17浦島、3木場(71分=27桝田)、15石澤、6根岸
MF10金、23若林、7壽、30大江
FW8内林(56分=24ユン)、26安部(HT=25波夛野)

 初日からマッチアップすることとなった関西の両雄。前半からB神戸が飛ばした。ダイレクトプレーを随所に見せ、繋いで崩すサッカーを体現するB神戸は右サイドの山道、左サイドの森岡を起点に前半からびわこを圧倒した。このペースではびわこは一体何点取られるのかと不安になるほど差の出た中盤の展開力と鋭いプレスだったが、サッカーとは不思議なものでそれがスコアに反映されるとは限らないのだ。前半から眠っていたびわこは関西リーグMVPの神埼(元川崎)を中心とした素早いフォアチェックに苦しむ。ほとんどシュートを撃てずして前半45分を終えてしまう。B神戸はDF石澤の退場もあり、前半のうちに10人になったびわこから先取点を取っておくべきだったが、フィニッシュの精度を大きく欠いた。

 後半、内林と安部の2トップを下げ、不甲斐ない前線にテコ入れを施したびわこだが、B神戸は立ち上がり53分にオフサイドギリギリで裏に抜け出した松田がそのまま勝負に持ち込み、ゴールネットを揺らす。いい時間帯でB神戸は先制点奪取に成功した。びわこもこの後、徐々にパスが繋がるようになる。おそらくB神戸の足が止まるのを今か今かと待っていたであろう。積極的に攻め立てるB神戸に比べて後半も無難なプレーに終始するびわこはリスクを回避し続けた。B神戸は高い安定したラインコントロールでびわこの攻撃の芽を摘み取るも徐々にサイドから疲れが見え始めた。下松と川崎に大きく負担がかかり始め、バイタルエリアに空いたスペースをびわこに支配されるようになっていく。金と若林、壽あたりで見せる連携はびわこの攻撃のバロメーター。正直びわこのつまらなかったサッカーは一瞬の隙を突いた1発でスコアをイーブンに戻す。若林が中盤からPA内に放り込んだアーリークロスに途中出場の波夛野がヘッドで合わせ、64分にびわこが同点に追いついた。
 その後も疲れを見せ始めたB神戸を突きにかかかるびわこだが、選手交代を効果的に使うB神戸の前に地力の差は見えていた。

 一瞬の隙を突かれたB神戸と何とか追いついたびわこの両雄は1戦目と同じくPK戦にその運命を委ねることになる。神はポゼッションを圧倒的に見せつけたB神戸に微笑むこととなる。1人目の金が痛恨の失敗を喫したのに対してB神戸は全員がきっちり成功。どちらが勝つかは明白だったといわんばかりの内容ながら薄氷の勝利にベンチが湧いた。

 1日目の総括として、正直、岡山とB神戸のサッカーはワンランク上を走っている。しかし、これは短期集中決戦、疲労の積み重なるここからが本当の勝負どころである。今日共に勝ち点2を得た岡山とB神戸とて明日は直接対決、お互いの潰し合いである。悲しくもこの日負けたチームに限って退場者が出ている。もちろん次戦は出場停止だが、一晩で訪れる次戦に修正の時間はほとんど残されていない。気を抜いたチームが涙を流す。そう誰もが分かっていながら、サッカーの神はどちらに微笑むかは分からない。2日の日にここで笑うチームはどこになるのか、全てのチームが勝ち点を奪った今日の結果だけでは実は分からないのが本音だと言いたい。

 熊谷にいながら明日の選択肢は3つ・・・
①広島で行われるG大阪の最終節
②群馬・敷島で決まるであろう京都の命運
③熊谷で2日目を引き続きウォッチ
ううむ、どれも捨て難い選択肢で今夜は眠れそうにない。 
 

脳天を揺さぶるみかん旋風

2007年11月29日 | 脚で語る天皇杯


 この冬、浦和市民はこたつでみかんを食べられないだろう。天皇杯4回戦未消化のゲームにてJ2愛媛FCが見事にアジア王者を食った。まさか完封勝ちとは・・・
 
 正直、実に恥ずかしい。テレビ埼玉のみの放送となった今夜、21時前に携帯を使って途中経過をチェックしたところ、スコアが動いているのを知った。2-0というスコアで得点者は「田中」である。浦和が苦しみながらも田中達也の2ゴールでリードしているものだと思った。ところが、フタを開けてみれば愛媛が勝利したという。スコアラーは達也ではなく、愛媛の田中俊也だったのだ。今年一番のジャイアントキリングが駒場で起こったのである。
 アジア王者を叩きのめした愛媛の望月監督は勝利をこう振り返る。
「サッカーならかなわないが、ゲームならかなうこともある。ゲームにはギャンブル性がある。今年は強いチームと戦って、そういうギャンブル性を発揮することがあった。」
 殊勲の指揮官はなんともシブいコメントで締めくくったものだ。今年愛媛を何度か生観戦にてウォッチした筆者もどこか嬉しい感情がある。長丁場のJ2では10位にあえぐが、確実に愛媛は「戦える集団」になっている。

 既に日程の大半を消化して、昇格を狙うチーム以外ほとんど注目の集まらないJ2において、前節の東京V戦も惜敗し、一矢報いることはできなかった。しかし、一発勝負の天皇杯ならまだこれからいくらでも彼らが主役に登りつめるチャンスは残っている。これが彼らの第一歩になるだろうか。
 
 愛媛は前線のジョジマールの加入は大きい。そこにエース田中の帰還。中盤には宮原が加わり、ポゼッション能力が高まった。サイドには江後と浦和から愛媛にやってきた大山。同じく浦和からレンタル中のDF近藤もこの日はスタメンで出ていた。愛媛と対照的に浦和は前線にワシントンら主力を欠いたとはいえ、大半はそこまでメンバーも落ちていない。慢心か一発勝負の妙か、現実に浦和は格下の愛媛に食われたわけだ。毎試合のスタメンのやりくりにも頭を抱えるであろうその薄い選手層も指揮官の巧みな采配さえあれば、サッカーは戦える。ゲームとしての勝負を制することはできる。愛媛はそれを高らかに実証してみせた。

 浦和にとってはAFC最優秀チームに選ばれた矢先の惨事。公式戦だけみればリーグも含めてここ最近絶不調にあえいでいる。負けないサッカーをするチームも負ける時はある。しかしここまで意外な負け方をするとは。12/1にもひょっとしたらひょっとするかもしれない。この結果は鹿島サポにとってさらなる可能性を予感させるには充分な材料となった。

 サッカーはつくづく分からないものだ。固定観念を振り払ってゲームを観なければいくらでも脳天を揺さぶってくれる。なんとも中毒性の高いスポーツだということを改めて実感する夜であった。

地域リーグ決勝大会決勝ラウンドを控え・・・

2007年11月28日 | 脚で語る地域リーグ


 遂に今週末に迫ってきた全国地域リーグ決勝大会決勝ラウンド。今年はJFL参入を目指して11/30から埼玉県熊谷市で熱い3日間が繰り広げられる。
 この決勝ラウンドまで勝ち上がったのは4チーム。関西からバンディオンセ神戸、FC Mi-Oびわこ、そして中国リーグを圧倒的な強さで制したファジアーノ岡山、kyuリーグで劇的な逆転優勝を果たしたニューウェーブ北九州と顔を揃えた。ほぼ順当といえる決勝ラウンドの顔ぶれは昨年以上の激戦が予想される。果たして関西の2チームはJFLの切符を掴むことができるのだろうか。

 来季、バンディオンセ神戸とFC Mi-OがJFL参入を達成すれば、佐川急便、佐川印刷と共に4チームとなるJFLの関西クラブ。俄然JFLをチェックする楽しみが増えそうだ。しかし、決勝ラウンドはそう甘くはない。

 優勝候補の筆頭はやはりファジアーノ岡山になってくるだろう。23日、25日の予選ラウンドではエースのジェフェルソンすらサブに回せる余裕の采配でグルージャ盛岡とホンダロックを粉砕してきた。現在チームを支えるのはその2試合で合計4得点を叩き出し、獅子奮迅の活躍を果たした朝比奈祐作。三原や池松、喜山ら元Jリーガーも多い中で、一つレベルの高いプレーを見せてくれるかもしれない。
 ニューウェーブ北九州も今季はV・ファーレン長崎に1-0で競り勝つなどkyuリーグでは勝つべくところで勝ってきた。昨季は長崎がこの決勝ラウンドで涙を呑んだだけに九州陣のリベンジとして負けるわけにはいかないだろう。何よりも目を見張るのは年間20試合で総失点がわずか8失点という驚愕の守備陣。元名古屋や東京Vで活躍したGK水原を中心に、この4チーム中唯一のブラジル人DFドグラスを構える壁はハイレベル。岡山、B神戸、FC Mi-Oもこの守備陣を崩すのは簡単ではない。

 関西の2チームはどちらも本格的にJ入りを目指すコンセプトの下、この1年熾烈を極めるデッドヒートを繰り広げた。バンディオンセ神戸はこの3年連続関西リーグの王者を守り通している。3年連続ベストイレブン、そして昨年、今年の2年連続MVPを受賞したDF神崎を中心にアシスト王の森岡、得点王の松田などメンバーは地域リーグ屈指の陣容を誇っている。総失点数はこれまたニューウェーブ北九州に並ぶシーズンわずか8失点。機は熟した。バンディオンセ神戸には是非3度目の正直を達成してもらいたいものだ。
 この各地域リーグチャンピオンチームが出揃った中にFC Mi-Oびわこが加わる決勝ラウンドである。彼らも全国社会人選手権を制し、何とか決勝ラウンドまで勝ち上がった。特に1次ラウンドでは強敵松本山雅FCに押されながらも2-0と完勝、確実にチームの経験値を上げている。現在監督を務めるのは戸塚哲也氏。元神戸、元佐川急便京都の選手が多いこのチームはバンディオンセ神戸と並んでのJFL昇格になれば、関西サッカーの盛り上がりには最高のトピックスとなるはずだ。健闘を期待したい。

 もちろん、決勝ラウンドレビューはこちらにてアップ予定。残念ながら1日の日程は筆者J最終節のために広島へ向かうが、最終日に熊谷で悲願を達成するチームはこの目で見届ける。

魁!後藤塾!

2007年11月27日 | 脚で語るJリーグ


 昨日、とある繋がりから後藤健生さんの講義を受けに関西大学に行かせてもらう機会があった。後藤健生さんといえば日本が誇るサッカージャーナリストの大御所であり、74年西ドイツW杯から現地で世界の名試合の数々をウォッチしてきた方だ。筆者は兼ねてから後藤さんのファンであり、先生の著書も幾つか拝読してきた。その後藤さんは現在、関西大学の客員教授として不定期ながらも大阪に来られている。

 今年大阪で行われた「サロン2002」において自身の最新の著書である「日本サッカー史」を引っ提げて講演に来阪されたのが、筆者と後藤さんの最初の出会いであった。その時は仕事を切り上げ、何とか時間内に間に合ったものの、満足に後藤さんのお話をお伺いすることはならなかった。後藤さんの大先輩である日本サッカージャーナリストの先駆け賀川浩さんも来られていたこともあり、筆者が会場に着いた時には、歩く「日本サッカー大辞典」賀川さんの独壇場であった。
 一度、後藤さんの講義を拝聴させて頂きたく機会を狙っていたのだが、今回思わぬ形でそれが実現の運びとなった。

 久々に少数の学生に混じって、大学の講義室で充実感みなぎるおよそ3時間を過ごした。何よりも以前から気になっていたサッカーノートの書き方においてレクチャーを頂いたのは願ってもないことであった。
 
 今年になってガンバ以外のゲーム観戦の際につけるようになったサッカーノート。これはサッカー観戦の新境地を己に知らしめてくれる最高のアイテムとなった。日頃気にしないようなシーンにも目を向けることのできる自分がいる。特にゴールシーンは一連の流れを記号でメモして残す作業がクセになった。
 ところがどうだろう。後藤さんの講義を聞いて自分の未熟さをつくづく痛感させられた。先日行われた五輪代表のベトナム戦の映像を講義材料に自らサッカーメモを執っていく実習では、ゴールシーンや決定機だけでなく、その前後やその局面に直結する全てのプレーがサッカー観戦では重要になってくるということを改めて学んだ。それは紛れもないサッカージャーナリストの観点からだ。そう、90分間ほぼ全てがメモの対象となる。

 例えば、このベトナム戦で李が前半8分に水野のFKからヘッドで奪った先制点。この早い時間帯での先制点が日本を勢いづけるきっかけになったのだが、さらに重要なのはどういった展開からこの得点機会をもたらした水野のFKが生まれたかということだ。普通にゲームを流して観る中で、後でその局面を問われるとほとんど脳裏には映像が残っていない。どういったやりとりの中で相手のファウルが生まれたのか、メモも手元には残っていない。しかしそこが最も重要なファクターである。
後藤さんはその得点シーンよりもそれに直結した局面の重要性を説いてくださった。
 今年、早くも現地観戦数が200試合を越える後藤さんはこのベトナム戦も現地でもちろん取材されていた。しかし、考えてもみればこの直前のファウルが日本の先制点に繋がる確固たる確信はない。リプレイのない生観戦において、ほぼ全ての局面を細かい何気ないシーンまで記号でメモにとることで、その場で行われていた90分間の激闘が手元に記録として残るわけだ。もう一度、試合のVTRに頼ることなくスムーズにその試合を論じることが可能となる。これを口で語るのは実に簡単であるが、事実90分間これを続けることは相当な集中力と、ノートとフィールドを幾度となく往復する己の目が必要になってくる。しかし、サッカージャーナリストたる者には絶対不可欠なアジリティ要素だ。

 これはすぐにしっかり実践していこうと思った。いつもそういう局面での細かいプレーなどはページの隅に文章のメモで執っていた程度であった。しかし、90分間常に記号でのメモをとることで、さらに戦術的、技術的な論述が可能になる。ヒューマニズムに偏重し、サッカー自体の面白さを失いかねなかった自分のこれまでの温いフィルターを浄化された気分になった。

 コツなど何もない。おそらくゲームを観る目と膨大な経験値がモノをいう。今年は60試合以上の観戦に足を運んだ私もまだまだひよっ子だ。ますますサッカージャーナリスト後藤健生は自分の中で神格化された。
 いつも感じることのない緊張感を感じつつ、後藤さんとクルマで関西大を後にし、大阪市内へ向かった。車中でまだ25歳の若造にいろいろお話頂いた後藤さんに感謝。17時を過ぎた大阪はすっかり暗くなっていた。
 
 サッカーを愛する一人の人間として、自分もまた負けてはいられない。次の世代のサッカーを伝える者として、もっと勉強したくなったのが本音だ。

上海に行っている間に・・・

2007年11月25日 | 脚で語るJリーグ


 何ということだ。出張で上海に行っている間にガンバの優勝の望みは潰えるわ、マグノアウベスが解雇になっているわ、鹿島が浦和に勝っているわ、甲府降格したわ、大宮と広島の明暗が分かれているわで、この激動的な33節だけを見逃しただけで、激しく浦島太郎状態でひどく取り残された状態だ・・・

 マグノの解雇は、アル・イテハドのHPを向こうへ行く間際にギリギリ見たのだが、完全に移籍する気満々の写真が数々アップされていて、これは時間の問題だなと感じた。「体調不良」ということでの練習無断欠席が囁かれていたが、真実はクラブを裏切るあまりにも「フォア・ザ・チーム」に反した行動。クラブもそれを分かっていたのか否か定かではないが、面食らったこの行動には契約解除という選択肢を選ばざるを得なかっただろう。至極残念である。

 とにもかくにもマグノのことはさておき、浦和が我々サポーターの描く筋書き通りのシナリオ(32節引き分け⇒33節負け)を辿っているにも関わらず、ガンバが自ら優勝から遠のく2戦連続ドローで終戦を迎えたことには実に失望した。もはや「他力本願」という言葉も彼らには及ばない。勝利し続けてなお、浦和と鹿島の動向に左右される背水の陣でこのザマでは8月まで首位を走っていたのが遠い昔のことのように思えてくるものだ。
 「奇跡」を信じすぎたか、この晩秋にかけての例年の失速ぶりは最早ガンバにとって「持病」と化している。各ゲームにおける集中力の欠如か、はたまたモチベーションの低下に起因されるのか、間違いなく「強いチーム」の姿ではないことは確かだ。いくら「試合巧者」と呼ばれるようになっても、長いシーズンを通して毎試合そうかと言われればそんなことはない。
 しかし、今季は浦和のアジア制覇とリーグでも簡単に負けないその強さ、そして終盤の鹿島の強烈な追い上げも相まってリーグではガンバとこの2チームの力の差を強く実感する11月となってしまった。ナビスコ杯を獲ったからといってそれで満足してはいけない。長いリーグ戦こそ真に「優勝」に相応しいステージなのだが。
 最終戦、天皇杯と戦いは続く。今後どういった来季の構想を組み立てていくか非常に楽しみになってきたということで気持ちを切り替えるしかない。

 ところで、冒頭の写真は上海体育場。8万人の収容人員を誇る中国で2番目のスタジアムだ。北京五輪ではサッカーの主要会場として使用されることが決まっている。「Go to 北京」が合言葉だった五輪代表も実際はこのスタジアムのピッチに立つかもしれない。宿泊先のホテルの目と鼻の先にあるのだが、その前には上海市内一の大きさを誇る体育館もあり、その影に隠れれば見えないアングルもある。ホテルのエレベーターに乗って初めて確認できるスタジアムのその大きさは中国のスケールの大きさを伺い知ることのできる立派なものであった。

 ACLでもおなじみ、上海申花は上海市民にはあまり人気がないようだ。中国国内でも大連実徳には敵わないとタカをくくる市民が大半らしく、できれば本拠地である虹橋地区へ足を運んでみたかったが、その時間も残念ながら無かった。上海市内はスポーツアパレルメーカーの各広告もバスケットボールを前面に出すものが大半。浦和レッズがアジアを制したことなど市民はこれっぽっちも知らない様子。それもそのはず1,700万人の市民がひしめき合うこの上海ではサッカーをやる場所すらなかなか無いのが実情のようである。

 少し浦島太郎状態から抜け出し、天皇杯、クラブワールドカップと決勝大会の始まった地域リーグ終盤戦、そして高校サッカーもこれから始まるサッカーカレンダーはまだまだてんこもりだ。サッカーの季節12月がやってきた。

彩りと儚さを併せ持つストーブリーグ到来

2007年11月22日 | 脚で語るJリーグ


 FC東京が福西と土肥に見切りをつけた。二人とも代表としての実績もあり、まだ移籍して活躍できる余地のある選手だけにこれからのキャリアもポジティブに捉えることができるが、わずか1年しか福西がFC東京のユニフォームに袖を通すことができなかったのは確実に時の流れを感じさせるものである。
 
 大宮では奥野、京都では秋田がそのキャリアに終止符を打つ。特に秋田は代表選手として98年、02年と2度のW杯も経験したベテランであり、彼の引退表明もまた時の流れを感じさせるには充分だ。
 奥野もカテゴリーはJ2が大半とはいえ、長年大宮の黎明期を支えてきた選手。大宮サポには思い入れの大きい選手であろう。かつて出場機会に恵まれない横浜F時代から腐らずJで戦ってきたベテランの引退は既に今シーズン序盤から決意として固められていたという。

 毎年、各クラブの入退団が騒がれてくる晩秋のこの時期。まだシーズンが残っているために確定度こそ不透明な話題もあるが、来季に目を向けてああでもないこうでもないと語るのは各クラブのサポーターにとっては格好の酒の肴にもなる。しかしその反面、プロとして1年1年が勝負の選手には笑っていられない時期でもあるのだ。
 各クラブ悲喜こもごも、優勝、J1昇格、J2降格と毎週気の抜けない週末が続く中、11月の末を目処に各クラブの人員整理も水面下で行われている。天皇杯を残すクラブにとっては毎年モチベーションの面で問題視されるこの時期の契約更改ほど選手にとって複雑な心境を抱く時間は無いだろう。そう考えれば1年という時間は非常に短いものだ。2月に本格始動するクラブが多いJリーグでは実質11月末までの約9ヶ月間がプロとしての勝負の時間となるのである。
 複数年契約をクラブと結ぶ選手は少ない。単年契約を結ぶ選手が大半を占めるJリーグで、そのピッチに立つ選手にはサポーターと違う時間軸が確かに存在する。ひいきのクラブを長年応援するサポーターにとって、確かに記憶として刻まれる選手は一体何人ほどいるのだろう。

 主力、若手選手の移籍、退団、ベテラン選手の引退。時の流れと共に選手たちの流れもまたフットボールにとって新たな彩りをもたらす重要な要素。とは分かっていてもサポーターと違い、ピッチでプレーすることを許された選手たちに与えられた時間は少ない。サポーターと共に分かち合う一喜一憂がいつまで続くのか。そう考えれば少し切なさをも感じる、そんなストーブリーグの時期が今年もやってきた。
 まだまだこれから冬を迎えるにあたって話題は尽きない。

 

次は是非メダルを狙え

2007年11月21日 | 脚で語る日本代表


 交代カードを切ることなくスコアレスドローで終えた北京五輪アジア最終予選サウジアラビア戦。もちろん観ている全てのサポーターが勝利を望んだであろうが、膠着した試合は結局両チーム無得点に終わり、本大会出場は決めたものの、どこか心寂しい感触が残るのは確かである。とにもかくにも本大会出場は当たり前。これからは本大会でどこまでメダルに迫れるかを議論すべきだ。

 前半あわやという瞬間を青山敏のミラクルプレーで防いだ日本。前半30分頃からようやくチームが連動性を見せ、サウジアラビア陣内でも効果的なボールが繋がるようになった。それまで眠っていた訳ではない日本だったが、やはり勝てば出場権を得るサウジアラビアも前がかりに攻めてくる中で、青山敏、細貝を中心によく凌いでいた。左の本田圭、右の水野をもっと生かしたい日本だったが、柏木が攻守に幅広く攻撃のタクトを振るう。岡崎と李の2トップではなかなかくさびのボールを足元に収められない中で、この柏木がよく動いて攻撃を牽引していた。
 0-0で折り返した後半戦から日本は全体的にサウジアラビアを凌駕する動きを見せる。欲を言えば前半20分までに欲しかった先制点は時間の問題かと思われたが、後半も依然あとわずかのところで決めきれない。李と岡崎の2人はサウジアラビアのDF陣にフィジカル面で劣り、二列目からの十分なサポートを受けられない中で歯痒い時間が続く。続々とカードを切ってくるサウジアラビアに対して日本ベンチは沈黙を続ける。勝利を狙うか引き分けを狙うかピッチの選手たちもサポーターもジリジリする雰囲気を強いられる終盤に入り、サウジアラビアの猛攻を浴びるその光景は実に溜め息の続く展開であった。

 最後までピッチで戦い続けた選手たちには賛辞を贈るべきだ。反町監督をはじめスタッフ陣もメディアを代表する様々な外野の声によく耐えてきた。しかし点を取れなかったこの予選の反省は本大会に向けて怠ってはいけない。むしろもう一度ゼロからチームを建て直すぐらいの意識が必要だ。これからが本当のスタートである。
 反町ジャパンの真価を問われるのはこれからだ。点を取れるチームに。目指すはメダルだ。まだ間に合う。

神のみぞ知るラスト2

2007年11月19日 | 脚で語るJリーグ


 なんとサポーターにとっては落胆の残る試合となったのだろうか。今年もまた味の素スタジアムで勝利を逃した。「鬼門」と言って片付けられない。同時刻にさいたまで行われている浦和の試合は清水の頑張りでドローで90分が終わった。そんな大事な局面でなんとも後味の悪いドローゲームをガンバは演じてしまった。

 64分にバレーを止めに入った茂庭が退場となった時間からがターニングポイントとなった。1人少なくなったFC東京が前がかりに攻めてきたところで、先制した1点を守りに入っているガンバの消極的な試合運びが如実にピッチに表れた。後半から投入された馬場も梶山も非常に溌剌としたプレーで数的不利を感じさせないFC東京の猛攻を演出して見せる。バイタルエリアでこれでもかとFC東京に繋がれチャンスを献上した。
 昨年に比べ、先取点を取った直後に前後半を折り返せた意味では非常に良い時間帯にマグノの先制点は生まれたと感じた。ハーフタイムというインターバルを使ってもう一度集中力を立て直せる。昨年のような無様な逆転劇を喫するわけにはいかない。後半さらに点を取りに行けると思った。いや、まさにそうするべきだった。
 しかし後半始まってみれば、バレーがことごとくチャンスを逸したのに加え、退場者を出した相手に逆に勢いを与える始末。76分に許したルーカスの得点は彼自身の技術も然ることながら、まさに必然。何も失うものがないFC東京は極めて中途半端なガンバのサッカーをメンタル面からいとも容易く攻略したといえよう。

 逆転優勝に一抹の望みを懸けての試合とは思えない90分間だった。評価できるところは何もない。結局は浦和との「2強時代」ともてはやされることへのこそばゆさが我々に残っただけである。水曜日に死闘を制してアジア王座の昇りつめた浦和もボロボロになりながらも負けはしなかった。鹿島が勝利したことで順位も3位に後退。もはや浦和だけでなく鹿島の今後にも左右されることとなった。

 リーグ終盤でモチベーションの上がらない下位チームに自ら起爆剤となる原因を与えてどうする。FC東京が今目の前の1試合を勝とうと必死になったそのモチベーションがガンバには無かった。そんなチームがリーグ王者にはなれない。
 試合後、突き刺さるブーイングの嵐を彼らはどう感じたか。これが初めてではない。何度同じことを繰り返すのか。天皇杯山形戦に続き、ナビスコ杯を制してから勝者のメンタリティは完全に失われてしまった。リーグだけ見れば前節も日本平で苦杯を味わったばかりだというのに。

 12.1に広島で何が起こるか。その最終戦までサポーターは信じ続けることができるだろうか。それは神のみぞ知るところだ。

 

第86回全国高校サッカー選手権大会大阪大会決勝

2007年11月18日 | 脚で語る高校サッカー


 この決勝に勝利すれば、4年ぶり4度目の出場が決まる近大附属高と勝利すれば創部48年で初出場となる大阪学院大高のマッチアップとなった長居スタジアム。互いの校内で応援の大号令が敷かれたのか、長居のバックスタンド(この日はバックスタンドのみが開放)はびっちり両校の生徒たちで埋まっていた。さらに授業を終えた生徒たちがキックオフ時間を過ぎてもどんどん入ってくる。C大阪のホームゲームをも軽く上回るその雰囲気と吹奏楽部隊が奏でるその応援には正直鳥肌が立った。

 筆者は実は近大附属高の卒業生であり、久々に全国への切符を掴むであろう母校の雄姿を観戦に訪れたわけだが、やはりスタジアムに入る際に母校の在校生を見ると懐かしさは込み上げて余りあるものがあった。所々で見かける先生たちは見覚えのある顔ばかりで卒業してから7年が経とうとしている時間を感じさせない。サッカー部の監督もその当時と変わらぬ山田稔監督。もう監督を務めて21年になる。そんな光景を見ながらなんとなくこそばゆい気持ちになりながらも見届けたこの試合は今年60試合ほど生観戦したサッカーの中で屈指の見応えであった。

 昨年大阪朝鮮高に大阪代表の座を奪われながらも大阪大会優秀選手に選ばれた谷(3年)を中心とした3バックは連携のとれたものであり、5枚の中盤は主将の笹田(3年)らスタミナ豊富に攻め上がるサイド攻撃をメインにしながらダイレクトプレーも織り交ぜ、レベルの高さを随所に窺わせた。攻撃の中心はガンバ堺出身で10番を背負う田内(3年)と東大阪朝鮮中出身のFWの高(3年)。高は対する大阪学院大高は強固な4バックで近大附属の攻撃を凌ぐ。この決勝の舞台に進むまでPK戦を3試合も制した粘り強さは健在で、ポゼッションこそ近大附属であったが、GK大枝(3年)を中心に組織的に守る大阪学院大高の粘りもあって前半から一進一退の攻防が続く好試合となった。
 「まずは先制点」という山田監督の哲学は前半からピッチに立つ選手たちが前がかりに点を狙う姿勢からもよく現れていた。本来守備重視のサッカーを浸透させながら、近大附属は絶対に勝たないといけない闘志がこの日は充分に感じられた。キーマンはやはり笹田との連携で右サイドからチャンスを作るFW高。足元にボールが収まり、一人での突破も仕掛けられる得点源。ここまで圧倒的な得点力を誇った近大附属のエースは幾度となくチャンスを作る。

 前半スコアレスドローで終えた試合は、双方の攻防がより激しさを増す後半へ。その開始3分に近大附属は田内のミドルシュートがポストを叩く。後半5分には大阪学院大高も主将の中原(3年)がPA内まで持ち込むビッグチャンスを皮切りに前半とは違うリズムで立て続けに近大附属ゴールを脅かす。後半7分には再び中原がシュートを放つもGK大西(3年)がセーブ。その後も右SB宇佐美の攻め上がりなどから果敢にチャンスを作る。
 後半11分に高の突破から得たCKから再び流れは近大附属へ。セットプレーの精度に自信を持つ彼らはこのCKからのプレーに可能性を感じさせた。後半18分に後半だけで6本目のCKからDF水口(3年)の長身を生かしたヘディングで待望の先制点を奪う。この後運動量が少し落ちた両者の試合展開から栄冠は近大附属に輝くかと思えた。
 後半31分、少し足の止まった近大附属陣内にボールを運び、MF但馬(3年)のキープとDF宇佐美の右サイドのクロスから得たゴール前のチャンスにFW中原が左足で起死回生の同点弾を叩き込む。近大附属のわずかの隙と大阪学院の粘り強さがもたらした同点ゴールだった。
 その後も攻め立てる近大附属を大阪学院はGK大枝のファインセーブなど最後までゴールを割らせない。試合はそのまま延長戦へともつれ込んだ。

 10分ハーフで行われた延長戦は後半3分に近大附属がロングスローからゴール前の混戦を主将の笹田が押し込み勝ち越しゴール。スタンドの応援団も全国進出を前に最高潮のムードに達する。この日チームのために労を惜しまぬアップダウンを繰り返した黒子のキャプテンは終了直前にも右サイドにフリーで走りこみとどめの一撃を突き刺す。3-1と最高の勝利で近大附属が4年ぶり4度目の優勝と選手権出場を決めた。

 殊勲の活躍を見せた主将の笹田は試合後男泣きに大阪200校以上の代表として全国の舞台で恥じない活躍を見せてくれると誓ってくれた。大晦日に開幕する高校サッカー選手権本大会。奈良の奈良育英、大阪の近大附属と両校共に地区大会決勝で素晴らしい試合を見せてくれた。まさに筆者理想の参加校が顔を揃えた。これはもう追いかけないわけにはいかない。

監督業はツラい ~オシムとフェルフォーセン~

2007年11月17日 | 脚で語る日本代表


 「オシム監督倒れる」
 16日夕方、衝撃のニュースが日本のサッカーファンを驚愕させた。16日未明に日本代表監督でもあるイビチャ・オシム氏が自宅で脳梗塞により意識を失ったというのだ。現役代表監督の不測の事態は協会によって半日が過ぎた後に緊急記者会見が開かれ、その事実が発表されることとなった。就任当初から66歳という高齢が現役代表監督としてはどうかという懸念されていた声もあったが、それは最悪の形を迎えることとなる。もう来年からW杯予選が始まるというのに。まずは一命をとりとめて、一刻も早い回復を望むばかりだ。

 千葉の監督として来日以降、その歯に衣着せぬ独特の発言と「走るサッカー」の哲学で一躍日本でもその名を轟かせたオシムは代表就任以降、代表強化のためにその労を惜しまなかった。クラブとの過密日程をモノともさせず、合宿を繰り返し、自らの哲学をチームに注入させていった。その独特の言い回しが様々な憶測をもたらすこともしばしばだが、残念なのはこれまでの代表監督とは違うその圧倒的な経験とそれに裏打ちされた哲学を持つ名将を日本は失うという危機に直面している。
 ただただ残念だ。監督続投が絶望視される声が聞かれる中、アジアカップを終えて、ようやく国内でオシム監督がどういった人物か、どういったビジョンで代表を導いていくのかを我々はようやく理解し始めたというのに。国内を慌ただしく視察で回り、自宅では深夜まで欧州サッカーをチェックする多忙ぶりが思わぬ形で彼自身の体に跳ね返ってきたのだろう。

 片や、今季名古屋の監督を務めたセフ・フェルフォーセン氏がクラブに契約の打ち切りを求めてきた。当初名古屋を今季限りで辞任し、監督業を引退する決意を固めてきた氏にオランダの名門PSVから監督就任のオファーが舞い込んできたのである。
 PSVはつい先日、ロナルド・クーマン監督がキケ・フローレンス氏を解任したバレンシアの後釜に抜擢され、PSVもそれを認める形で彼はシーズン半ばでクラブを離れることとなった。後継者探しが急務となったPSVが白羽の矢を向けたのがフェルフォーセン氏だったのである。
 PSVと名古屋の実情は双方それぞれである。シーズンが終盤で上位争いとも無縁の名古屋にとっては既に来季フェルフォーセンが去るのは決定事項であったが、まさか契約打ち切りとまでは想定外。まだ天皇杯が残っているだけにここでフェルフォーセンが去るのは本望ではないはず。大会期間がわずかである天皇杯だけは現行の体制で乗り切ってしまいたいはずだ。しかしPSVはクーマン退団後、公式戦3試合で2分け1敗と勝ち星に見放された。コーチから昇格したボウタース暫定監督が指揮を執るが、きっちり後任監督がすぐにでも就任できた方がそれはありがたいはず。
 
 当のフェルフォーセン本人はまさかの欧州ビッグクラブからのオファーに当初の監督業引退という発言は撤回、すっかり過去のものとなってしまった。ここ最近欧州ではファンデ・ラモス氏のセビージャ⇒トッテナムの電撃移籍があっただけに本人の高い志とそれを欲しがるクラブがあれば幾らでもトライできる世界。その世界ではシーズン途中に放り出されたチームはお構いなしであり、監督の翻意次第で「契約」は何とでもなってしまうものである。
 名古屋は打ち切りを認めてすぐにフェルフォーセンを欧州に送り出すのか、それとも今季契約期間を全うさせるのか、つくづく監督という仕事ほど水商売的なものはないなとも思わせるエピソードである。

 病に倒れたオシム、ビッグオファーにいてもたってもいられなくなったフェルフォーセン、どちらも監督業が非常に人間の本質的な部分を時にクローズアップさせてくれるものだなと実感する。

 とにかく今は一刻も早くオシム氏が回復して再び元気な姿を見せてくれるのを望むばかりである。