脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

奈良のフットボリスタ ~奈良にプロクラブを~④

2007年08月22日 | 脚で語る奈良のサッカー


 人間誰もが安定した生活を望み、その居心地の良さにあぐらをかき、夢や情熱という感情の高鳴りを忘れることが多い。その世界から脱却することほど勇気の要る行為はない。そのリスクを背負えば背負うほど、人間は更なる高みへと己を飛躍する可能性を引き出すことができるのだが、誰もがそれを直視しないでいる。

 "ファン"から"バカ"への脱皮はまさにそれに当てはまるのかもしれない。特にフットボールにおいては。

 以前、県リーグ1部を戦うポルベニルカシハラの代表を務める福西達男氏とゆっくりお話させて頂く機会があった。
 ポルベニルカシハラはその名の通り奈良盆地の南部に位置する橿原市を拠点にNPO法人として、子供たちの育成を中心に活動している。前身は畝傍FC、白橿FC、橿原FCの3つのクラブで、2002年に日韓W杯開催にあたってチュニジア代表がこの橿原市でキャンプを行ったことから、橿原市のサッカーに対する情熱や活動とそれに起因されるサッカーを中心とした更なるスポーツの発展を謳った設立趣意の下作られた。「ポルベニル」とはスペイン語で"未来"を意味する。
 
 代表の福西氏にお目にかかったのは、大阪で行われたサロン2002(サッカー文化を通して豊かな暮らしつくりを目指すネットワーク)主催の後藤健生氏の講演会の場であった。関西を拠点に活動する多くのライターやジャーナリスト、指導者の方々がいるその場で私は思わず「地元奈良にJリーグチームを作るのが夢」だと発言した。良識のある方ならこの思いは伝わったのかもしれない。しかし、明らかに物珍しいこのマイノリティな発言にビックリされたのが本当のところであろう。この発言に反応してくれたのが福西氏であった。
 その後、場所を移しての懇親会の場で、奈良から指導者の方が来られているということを聞いた私は福西氏に声を掛けさせて頂いた。普段、会社員とガンバサポを務める私にとって現場の指導者の方と直々にお話させてもらう機会は少ない。
 思わず、奈良にJリーグチームを作りたいというその想いを率直にぶつけさせて頂いた。

 この夜から私の頭にはこびりついて離れない福西氏の言葉がある。
 「現場で教えるバカはいくらでもいるが、運営やマネジメントの部分でバカになれる奴がいない。」
 この言葉は奈良のサッカームーヴメントの低調さを見事に形容しているといっていいだろう。その通りである。
 サッカーはその選手寿命が野球などのそれと比べれば遙かに短い。高校で終止符を打つ者、大学で、またはプロや社会人でプレーした後に早々とスパイクを脱ぐ者など十人十色である。逆に言えば、それほど強烈な競争原理の中で11人の選手はボールを蹴る。自己満足に終わればそれこそカテゴリーを選ばず草サッカーはできるが、プロなど上を目指せばキリが無いその世界で、周囲に評価され注目を浴びることは稀といっていい。現実的に言えば、プロを目指す選手の大半が若くして指導者の道を歩むのが定番のルートである。
 「サッカーでメシが食えない」そういったサッカーバカはたくさんいるということだ。
 しかしながら、それとは違って競技者と一歩離れたスタンスでサッカーを支える者は確かに少ない。昨夜も書いた通り、奈良で言えば行政面や資本面でのバックアッパーもそうだ。クラブを法人化に導き、自らの生活をサッカーに捧げる人間はなかなか現れない。
 つまりこちらも同じく「サッカーでメシが食えない」ということではあるが、どちらかといえば「メシが食えないのがサッカー」というネガティブな形容が正しい。誰もがこのネガティブな選択肢を選ぼうとはしない。競技人口とは圧倒的にマイノリティで対極的なこのマネジメント面でのサッカーバカに徹する人間が、保守的な県民性著しいこの奈良ではいないのである。

 こういったことを現場サイドの視点から問題提起された福西氏はこう続けた。
 「皆逃げている。オレも含めてそうだ。行政も協会も皆そうだ。」
そうおっしゃられた福西氏はポルベニルもJを目指すことはないと強調した。
 J入りを目指すスケールになれば資金面での問題はおろか、クラブ自体が大きくなり過ぎて代表というポストはビジネスライクになりかねない。私は福西氏の意見に思わず同調してしまった。それはサッカーの面白さを自分自身が見失うのではないかということでもあるのだ。これはつまり現場で教えるバカとマネジメントできるバカが揃ってこそ初めて、そこまでマインドの高いクラブチームが成り立つということであり、上記の通り本当にマネジメント面でのサッカーバカ不足を物語る意見である。

 とにもかくにも"サッカーバカ"ほど聞こえの良いバカもないだろう。フットボールはそこまで人々を虜にし得るのだ。こんなに魅力的なことはない。
 福西氏は将来的に子供たちがクオリティの高い環境でサッカーが学べるアカデミーを作りたいとおっしゃられていた。模範はアヤックスの下部組織だという。国内外を問わず、文化としてのサッカーを深く考えてらっしゃた福西氏との会話は間違いなく私の心に火を付けた。

 私自身そろそろ"ファン"から"バカ"に脱皮したいと考えている。奈良のサッカーシーンに何か尽力できる"バカ"になれれば幸いであるし、是非ともこうやって「書く」ことによってムーヴメントの一環になれればと強く思う。

 多少の遠回りはしても"サッカーバカ"をもっと増やせる"サッカーバカ"になってやる。