2020年1月24日公開 139分
17歳の高校生ハル(モトーラ世理奈)は、東日本大震災で家族を失い、広島に住む伯母、広子(渡辺真起子)の家に身を寄せている。心に深い傷を抱えながらも、常に寄り添ってくれる広子のおかげで、日常を過ごすことができたハルだったが、ある日、学校から帰ると広子が部屋で倒れていた。自分の周りの人が全ていなくなる不安に駆られたハルは、あの日以来、一度も帰っていない故郷の大槌町へ向かう。広島から岩手までの長い旅の途中、彼女の目にはどんな景色が映っていくのだろうか―。憔悴して道端に倒れていたところを助けてくれた公平(三浦友和)、今も福島に暮らし被災した時の話を聞かせてくれた今田(西田敏行)。様々な人と出会い、食事をふるまわれ、抱きしめられ、「生きろ」と励まされるハル。道中で出会った福島の元原発作業員の森尾(西島秀俊)と共に旅は続いていき…。そして、ハルは導かれるように、故郷にある<風の電話>へと歩みを進める。家族と「もう一度、話したい」その想いを胸に―。(公式HPより)
震災で家族を失った少女の再生の旅を描いた人間ドラマです。今は亡き大切な人と思いを繋ぐ電話として、岩手県大槌町に実在する「風の電話」がモチーフになっているため、タイトルもずばり「風の電話」なのですが、登場するのはラストシーンだけ。勝手にその電話にまつわる複数の登場人物の話かと思っていたので、ちょっと拍子抜けでした。
ハルが出会う人たちは、彼女同様、過去の災害で心に傷を抱えていました。だからこそ、ハルを問い詰めたりせずにそっと包み込んでくれたのかなぁ。正直、倒れて意識のない叔母を置いて飛び出してしまったハルの気持ちには寄り添えなかった自分がいます。彼女のような壮絶な喪失体験がない者の想像力の不足なのかもしれません。でも、ヒッチハイクをしたり、夜のベンチで一人でいたり、襲ってくださいと言わんばかりの自暴自棄にも見える行動には、どうしても嫌悪感を覚えてしまったのです。
最初に出会った公平さんは、家に連れ帰って食事をさせてくれました。彼は豪雨被害にあった広島で年老いた母と暮らしています。ヒッチハイクで乗せてくれた姉弟は食堂でハルに食事を奢ってくれました。臨月の姉の胎動に触れたハルは「生」の躍動を感じ取ります。降り際、5000円を渡され家に帰るよう言われますが、ハルは旅を続けます。男たちに絡まれているハルを助けてくれた森尾は車で旅をしていました。埼玉で出会ったのは、不法移民として収監されている男の家族や仲間たちです。何も悪いことはしていないのにどうして?と嘆く彼らですが、二人をとても温かくもてなしてくれました。森尾はハルを連れて福島の自宅に向かいます。彼もまた、震災の時に妻子が行方不明になったままでした。福島では、今田から、震災時の避難生活のことや、かつての穏やかだった暮らしの話を聞きます。彼らとの出会いを通して、ハルは少しずつ「光」を取り戻していくのです。
森尾は大槌までハルを送ります。懐かしい、でも変わってしまった故郷で、ハルは仲良しだった友だちのお母さんに出会います。共に避難する中で手を放してしまった二人。ハルは生き残り友達は・・・「私が手を放さなかったら」と詫びるハルを友達のお母さんは泣きながら抱きしめます。
森尾から帰りの汽車賃を渡され、駅のホームで電車を待つハルに、一人の少年が声をかけてきたことで「風の電話」の存在を知ったハルは、少年とその場所に向かいます。少年もまた事故で亡くした父親と話をしたいと母に黙って出てきたのでした。
ハルが少年に「お母さんが心配してるだろうから」と連絡を入れさせるシーンが出て来ますが、彼女の心が他人に寄り添えるようになったことが示される印象的なエピソードでした。
「風の電話」はもちろん、死者と本当に繋がるわけではないけれど、電話を通して亡き愛する人たちと会話(口に出して気持ちを伝える)するという一種の儀式を通して、自らの心(気持ち)もまた「生」に向かうということなのかなぁ
ハルはいっぱい泣きますが、泣くという行為も、前に進むためには大事な過程なのだと感じました。彼女は震災後、叔母が倒れるまで、おそらくは泣くことすらできずに心を閉じ込めていたのではないかなぁ。叔母が倒れ、自分ひとりになってしまう不安が、彼女のリミットを外したのかも。