2007年3月3日公開 63分
2019年1月1日 放送(テレビ朝日)
互いに思いあっていた貴樹と明里は、小学校卒業と同時に明里の引越しで離ればなれになってしまう。中学生になり、明里からの手紙が届いたことをきっかけに、貴樹は明里に会いにいくことを決意する(第1話「桜花抄」)。やがて貴樹も中学の半ばで東京から引越し、遠く離れた鹿児島の離島で高校生生活を送っていた。同級生の花苗は、ほかの人とはどこか違う貴樹をずっと思い続けていたが……(第2話「コスモナウト」)。社会人になり、東京でSEとして働く貴樹。付き合った女性とも心を通わせることができず別れてしまい、やがて会社も辞めてしまう。季節がめぐり春が訪れると、貴樹は道端である女性に気づく(第3話「秒速5センチメートル」)。
「言の葉の庭」の新海誠による2007年公開の劇場作品で、ひかれあっていた男女の時間と距離による変化を全3話の短編で描いた連作アニメーション。主題歌は山崎まさよし「One more time, One more chance」
タイトルの「秒速5センチメートル」とは、舞い散る桜の花弁(または雪)が地面に向かって落ちる速度のことと説明されています。
観る前は、少年少女の淡い初恋物語程度に思っていたら全く違っていました。
第1話では、貴樹が明里に会いに行きますが、空模様は雨から雪に変わり、先の波乱を予測させます。そもそも平日の学校帰りの夜に彼女の住む駅で待ち合わせるってどうよ!って話なんだけど。
彼の住む小田急線沿線から埼京線、宇都宮線、両毛線を乗り継いで岩舟駅がゴールなのですが、「中学生が一人で行くには遠く、大人にとってはたいしたことがない距離」という絶妙の位置なんですね。予め調べた行程の時刻表はしかし、雪のため遅延しダイヤが乱れて役に立たず、携帯を持っているわけでもないので連絡手段もなく、ただひたすらに待つしかない貴樹の孤独が恐いほどに伝わってきます。
4時間以上遅れてやっと着いた駅の待合室にそれでも明里は待っていてくれました。(その時点で親が心配してるだろ?とか思ってしまう大人な自分)駅舎を出て交わした初めてのキス。一晩過ごした小屋(凍死するだろ?とかまたまた親への連絡はどうした?とか余計な考えが浮かんでしまいますが)で、尽きることなく二人は語り合います。
第2話の「コスモナウト」は、“cosmonaut” ソ連の宇宙飛行士を指す単語らしい。最初に登場する草原は地球じゃないどこか、一緒にいる女性の顔ははっきりしません。ここでは高校生になった貴樹に想いを寄せる花苗の視点で語られていくのですが、東京の大学を受験するというのでてっきり明里と続いていると思っていたけれど、彼の打つメールは「宛先のない=届くことのない」ものです。卒業前、花苗は貴樹に告白しようとして彼との間に超えられない距離を感じ諦めてしまいます。彼の想像の中で、一緒にいる女性の顔はラストでは明里になっています。つまりまだ彼は過去に囚われたままだということですね。
そして第3話。彼は社会人になっていますが、目的を見失い会社を辞めてしまいます。花苗とは卒業後もメールのやりとりがあったようですが、「1000通メールを交わしても心は1cmも近づけなかった」と言われています。花苗以外に三年付き合った彼女とも別れています。あれ~~?明里はどうした??と思っていると、彼女の方は新たな人生のスタートを切っているんですね
はい、少年の頃の淡い恋が持続して成就するなんて、現実には殆どありません。あるとしたら互いに相当に努力が必要でしょう。
遠く離れた距離と時間が、彼らを引き裂いたとしてもそれは自然な結果です。その意味では明里は喪失を受け止め乗り越え、新しい道を拓いて進んでいます。でも貴樹の方は「あの頃」に囚われたままもがいているように見えます。
1話で登場する踏切の前で再びすれ違った二人。遮断機が下り、電車が通過したあと、貴樹の視線の先に明里の姿はありません。それが彼女の答えです。
う~~ん、深いなぁ。願わくば彼が今度こそ「あの頃」と決別できたら良いのに・・。
でも全編を通して、貴樹からは前に進もうとする生命力を感じられないんですよね~~ 自分の殻の中で閉じこもっているような今だ思春期のもがき続けている男の子のイメージでした。