さて、お約束通り前回の続きです。
「このレストランで、私たちの身に起きたちょっとしたアクシデント」についてお話ししましょうね。
かねてより気になっていたオーガニックレストラン「TILTH」に初めて足を運ぶきっかけとなったのは、ある方々に招かれての、会合を兼ねてのお食事でした。先方が指定してきたレストランが、偶然にも「TILTH」だったのです。ここで、私たちの近い将来の生活についてのある方向性が出されるはずでした。
タクシーのドライバーに行く先を告げて下り立ったそこは、まるで誰かの家のようでした。
扉を開けて入ってみても、その感じは変わりません。さして大きくもない室内のテーブルはどこも埋め尽くされていて、人々がくつろいで食事と談笑を楽しんでいるように見えます。これがあのTILTH? あのアイアンシェフの店? と意外に思うほどに気取りも気負いもありません。私たちはまるでちょっと遅れて到着したホームパーティーのゲストのよう。
あらかじめ予約されていたテーブルに案内され腰を下ろすや、ひとりの男性が近づいてきました。その物腰からしておそらくマネージャーの方なのでしょう。そして、小さな声でこんなことを告げました。
「○○様から先ほどご連絡があり、交通事故に遭われたそうです。ご心配はいりませんが、お車を動かせなくなったため、本日はこちらにおいでになれないということです。『大変申し訳ありません。どうかお二人でお食事を楽しんで下さい。』とのことでした。」
予想だにしないことに動転した私たちは、「本当に大丈夫なのだろうか。怪我でも負っているのではないだろうか。」などという心配にとらわれながら、しばし留まるべきか、去るべきかを考えることになりました。事故現場もわかりませんし、第一わかったところで我々が飛んでいって何になるでしょう。かえって負担をかけるばかりです。大丈夫だと言う以上、大丈夫と信じるほかはありません。
たどりついた結論は、「どうかお二人でお食事を楽しんでください。」という言葉を尊重して、楽しむことは無理でも、正面の2席ががらんと空いた4人掛けのテーブルで、食事をすることでした。
ワインも料理も確かに評判通りのものでした。接客のマナーも決して押しつけがましくなく、自然で心地良いものでした。ただ、この日、このテーブルで、ある報告を聞くことになっていた私たちにとっては、たくさんの気がかりを抱えながらの食事となりました。私が日本から用意していったお土産も宙ぶらりんになってしまいました。しかも、私たちはその翌日、成田への飛行機に乗らねばならなかったのです。
食事を終える頃には外テーブルも一杯になり、この店の人気のほどがうかがい知れます。
お勘定をすませようとすると、また私たちのテーブルに先ほどのマネージャーがやってきました。そしてこんなことを言って、どうしても夫が差し出したクレジットカードを受け取ろうとしないのです。
「お支払いはすでに○○様がお済ましでございます。」
事故のことを店に告げた際に、支払いのことも打ち合わせなさったのでしょう。こうした気配り、そしてホスピタリティーは、さすがに大勢の人の上に立ち、ひとつの大きな組織を動かしている彼女です。
幸い、彼女は、車はしばらく使えなくはなったものの傷ひとつ負ったわけでもなく、翌日にはいつも通りに出勤し、食事の席で話されるはずだった事柄は別の機会に夫との間で交わされて、しかもそれは私たちにとって大変嬉しいお話で、同じメンバーで同じ場所で食事をする予定も新たに立てられたのでした。それは私が再びシアトルに戻ってからのことですが、今度こそ心置きなく「TILTH」の料理を堪能できることでしょう。
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