AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

発汗過多に対する針灸の検討 Ver 1.2

2011-06-06 | 精神・自律神経症状

A.発汗の種類

1.温熱性発汗
身体の温度上昇を体温中枢が感知→発汗命令→体表面全体の発汗量をたかめ、気化熱を利用して体温を低下させる。これら全身 の汗腺には、交感神経第8頚髄~第3腰髄の交感神経が関与している。交感神経遮断術(後述)後の代償性発汗はこのたぐい。


2.精神性発汗
手掌・足底の発汗は体温調節とは無関係で、精神的興奮に反応する。精神性発汗の中枢機構には大脳皮質の前運動野、大脳辺縁系、視床下部などが関与するとされている。
多汗症での、手掌からの発汗はこの類で、「手に汗握る」の好例。

B.発汗過多となる疾患:甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、更年期障害、低血糖など。

 

C.発汗過多の鍼灸治療
1.視床下部の血流増加
現代医学では、発汗過多は症状の一つであると認識していても、とくに寝汗だけを問題にすることはない。入眠開始時はノンレム睡眠となるが、ノンレム睡眠は体温や脳内温度を強く下げるという目的がある(眠気とは、脳内温度が高すぎることで生じる)。発汗するのは温度を下げる方法であって、視床下部の発汗中枢による命令である。厚い布団に入って寝れば、さらに発汗量も増えることになる。

代田文彦先生は、風呂屋でかなり熱い浴槽に入る前、桶で何杯も首や肩に湯をかけてている人を見て、視床下部の体温中枢を一時的に狂わすことで、風呂に入ろうとしているのではないか、との着想を得た。

視床下部の体温中枢は、自らの設定した体温と、現在の体温のズレを監視している。体温を下げるためには発汗させる。しかし頸肩のコリなどで視床下部に行く血流が減少すると、正しくモニターできないのかもしれない。

発熱時、鍼灸治療で、天柱や肩井を刺激して下熱させる意図はここにあるが、有効となるのは限定的であり、追試しても効果のない場合が多い。

2.胸部交感神経遮断術の応用
発汗過多、とくに手掌の発汗を止める方法としては、胸部交感神経遮断術が知られる。人間の身体は、第一に脳の加熱を防止するよう制御されている。マラソンなど激しい運動したときや夏の暑いときにまず最初に顔や頭から汗がでるのはこのためである。
胸部交感神経遮断術を行うと、代償性発汗が必発するが、交感神経遮断部位と代償性発汗には交感神経デルマトームに従う。高位の神経を遮断するほど代償性発汗は高度になる。胸部交感神経遮断術は、顔面と手掌からの高度な発汗過多に対して、Th2~Th3レベルでの遮断が行われることが多い。

胸部交感神経遮断術は、気胸を惹起しやすいので、針灸で真似することは危険である。しかし胸椎棘突起の直側にある棘筋に刺針することに危険性はないので、Th2~Th3棘突起直側への深刺を行う。
村上守氏のHP「マッサージ鍼灸の魅力 村上治療室 診療ノート」には、寝汗過多の患者に、「胸椎の左右の際のところに、細い木の枝のように感じられる筋肉の凝りがありました。寝汗の患者さんにはこのような凝りが出ることが多く、この凝りを取ることで寝汗の症状は出なくなります」との記述がみられる。

1)Th2交感神経の遮断
頭・顔面の汗は、第1~2胸部交感神経が支配する。Th2交感神経の遮断では、手掌や顔の汗がまったく出なくなる。
頭や顔から汗がまったく出なくなるので、熱から脳を守るため視床下部からもっと汗を出すように命令が出される。命令がでても顔や頭からは汗が出ないので、少しでも熱を発散するために背中や胸、大腿などから大量に発汗するようになる。これを代償性発汗とよぶ。視床下部一部からフィードバック現象で代償性発汗が起こるとされる。
Th1交感神経に影響を与えて遮断すると、眼瞼下垂が起こる(ホルネル現象)。

2)Th3交感神経の遮断
手掌の汗が完全に出なくなる一方,代償性発汗が多く出ることもある。

3)Th4交感神経の遮断
手掌の過剰発汗が停止し,代償性発汗の程度もわずか。
腋窩の発汗(おもに第4~第5胸部交感神経支配)にも有効。

4)腰部交感神経の遮断
足底の汗の対して、3~5割程度に有効。

 


5.寝汗の針灸治療
睡眠の第一義的目的は、脳深部温度を下げることにある。寝汗を多量にかくのは、脳内温度が高すぎた場合の反動であるが、脳内温度が高くなり過ぎる原因としては、夜遅くまで残業したり、昼間の強い精神的刺激などが考えられる。日中の心身の疲労を軽減する針灸治療が、寝汗の治療につながる。

6.中医理論の紹介
中医学の成書には、次のような内容が書いてある。
気虚→自汗(昼間に、暑くなく、労働もしないのに出る汗)
陰虚→盗汗(寝入ってから出る汗で、目覚めるとすぐに止まる)

1)気虚と自汗
通常、そう理(皮下水脈と体表を結ぶ、井戸のような縦坑)は開いており、この穴を通じて、体表に汗、脂分、蒸気が出ている。衛気は皮膚の防御作用を行うと同時に、衛気自体の量や汗量(温度調節に対応)を調節するため、腠理の開閉をコントロールしているという。
気の固摂作用→腠理を閉じる
気の宣散作用→腠理を開く
衛気が不足していると、気の固摂作用も弱くなるので、腠理を閉じる力が乏しくなる(縦坑内径が緩んで拡大する)ため、井戸から水があふれるように汗が出る。これが自汗である。
現代医学的には、発汗はイコール交感神経緊張とするが、中医では自汗は副交感神経優位状態(よく言えばリラックス状態、悪く言えば虚脱状態)と捉えるている。

2)陰虚と盗汗
納得できない説明:陰虚になり体内に熱が蓄積されると、逆に熱により次第に体表まで熱が押し寄せ、津液がはじき出される。これが盗汗である。

一応納得できる説明:覚醒状態は、陽>陰であり、睡眠は陽<陰である。ゆえに睡眠時に陰が不足していると、眠りにつくことができない。陰不足では体内に熱がこもる。体は汗を出して熱を下げようとするが、汗を多くかくとさらに陰が不足し、悪循環に陥りやすい。
要するに陰虚(水不足=脱水)→熱がこもる→腠理開して発汗→陰虚増大となる。


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