AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

仙椎一行の圧痛硬結の意味

2024-05-30 | 腰背痛

1.腰殿痛を訴える一部の患者に、触診すると仙椎棘突起傍に圧痛硬結をみることがある。患者の大部分は、自分自身でその反応に気づかない。しかし腰椎や下部胸椎や腰椎の棘突起傍に刺針してもあまり腰殿痛は改善せず、仙椎棘突起傍に刺針して、初めて腰が伸びたり、上体の前方屈曲が可能になる者が結構多く、下部胸椎や腰椎の一行と併せ、仙椎一行(棘突起傍0.3~0.5寸)の圧痛硬結に刺針することは非常に効果がある。

 

.仙椎一行の皮下にある筋は、表層も深層も多裂筋である。多裂筋や回旋筋は短いので、脊椎捻挫の際にモロに損傷を受けやすい。これに対し、起立筋などの長い筋は筋伸縮に余裕があるので衝撃を逃がすことでダメージを受けにくいのだという。腰部表層には、浅層ファッシア(浅層腰仙筋膜)が発達し、サポーターのようにて腰を保護している。したがって、腰部一行刺針で直刺すれば多裂筋、水平刺すれば浅層ファッシアに対する治療ということになる。

 

3.多裂筋のトリガーポイント
トラベルとシモンズの「トリガーポイントマニュアル」によると、仙骨部でS1やS4の高さの多裂筋のTPsは、まさにその部分の痛みが出現すように図示されている。


4.「椎間関節性腰痛」の顛末
30年ほど前、針灸師の間で、神経根症状のない腰殿部痛の大部分は、筋筋膜性腰痛(ほとんどは起立筋性や腰方形筋性の)と診断がつけられていたと思う。それが「椎間関節性腰痛」という病態が認識され出してから、胸腰椎棘突起直側に圧痛点を見いだせるものは椎間関節性腰痛と診断され、こうした圧痛が発見できないものには筋筋膜性腰痛とのベッドサイド的診断が行われてきたように考える。

それは椎間関節の捻挫→滑膜や周囲筋の筋損傷→脊髄神経後枝内側枝の興奮→背部一行の圧痛という機序で説明された。このような病態に対し、私は脊髄神経後枝内側枝の鎮痛目的で背部一行刺針を行い、まずまずの成果をあげてきた。一方、椎間関節にモロに針先をぶつけて刺激する方法も考案され、治療効果に優れていると記した報告も多々あった。この方法を試してみると、結構深刺になり、また確かに骨にはぶつかるが、椎間関節に刺入できているか否か判定しづらかった。さらに非常に強刺激な針になることがわかったので、使う機会は減っていった。というのも一行の針で満足できる効果が得られていたからでもあった。 
 

実際的に腰痛症の8割前後の患者に腰背部一行の圧痛が発見できるので、これをもって腰痛症の8割は椎間関節症だと考えたこともあった。しかし、これでは仙椎棘突起一行の圧痛を説明できない。仙椎は癒合しており、椎間関節は存在しないからである。すると痛みの原因として考えられるのは、背部一行にある筋自体の問題であって、前述したような多裂筋の問題に落ち着くのである。

 

 


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