AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

三胚葉形成からみた鶏卵の成長と太極図(「閃く經絡」の読み解き その1)

2020-06-11 | 古典概念の現代的解釈

「閃(ひらめ)く經絡」が出版され、丸2年が経過しようとしている。出版当時は非常に話題になった本であるが、内容が斬新である一方、鍼灸臨床には直接は役立たない(鍼灸の根本原理なので)という内容でもあった。
 
私がネットで調べてみると本著の前1/4(Part1 鍼のサイエンス>限定だが、自分の経験を織り交ぜ、咀嚼しながら分かりやすく内容紹介しているのが、菅田裕子氏<鍼灸師が読み解く!「閃く経絡」、かげにひなたにブログ>(2018)5回シリーズだった。  山口髙明氏(山口マッサージ鍼灸治療院)も<外科医ダニエル・キーオン著 「閃く経絡」を読んで>と題して、15回シリーズで同部分を読み解いている。山口氏は大学で理学部生物学科で発生遺伝学を専攻卒業した経歴があるといことで、よく追従しており、難しい内容を平易に紹介できている。両者とも私と同じく鍼灸師であることは誇らしいことである。

ここでは菅田裕子氏<その3、ファッシアを流れる電流>(2018年07月15日)に関係した内容を、私なりに分かりやすい形で紹介したい。山口氏のブログも、同じ部分を解説している。山口氏のものは、別の回(「閃く經絡」の読み解き  その3)で検討予定である。

 

1.鶏卵の構造

1)鶏卵構造

問題1:鶏卵の殻を割った状態を示している。以下の写真で、将来ヒヨコになる部分はどれか?

 

解説と解答:

この問題は、私主催の勉強会の余興で出題したが、誰も正解できなかった。Aは卵白、Bはカラザ、Cは卵黄、Dは胎盤(=胚)である。胚盤は直径3~4㎜の薄く白い円形で、ここがヒヨコへと生長する部分である。卵黄はヒヨコと生長する過程で必要となる栄養貯蔵庫である。卵白は内部が乾燥するのを防ぎ、細菌侵入を防ぐ意味がある。Bのカラザは卵黄が端に片寄らないようにするためのヒモで2本ある。(ヒトなどの哺乳類は、胎児は母体胎盤を通じて酸素と栄養を供給されているので、卵黄に相当するものは必要ない。)
 

胚を乾燥や外部の衝撃などから保護する意味から、胚は、羊膜に覆われ守られる。すなわち始めは胚は、羊膜と卵黄膜という2つの膜間にあったが、胚の生長とともに羊膜も広がり、胚の一部と卵黄が連絡する形になる。

 

2)三胚葉への分化

受精卵が次第に分割され、三胚葉の段階にまで分裂すると、一体だった胚の一部が陥凹し、それが次第に深くなってパイプのように穴が貫通するようになる。パイプの外側を形成するのが外胚葉で、パイプの内側を形成するのが内胚葉である。その間にあって空間と接触しない部分を中胚葉と分化する。

①内胚葉
多細胞動物が生まれてから、受精卵が分裂し原口のもとになる凹みを形成。凹みは次第に深くなり、パイプのように体の中を突き抜ける。このパイプの内側を内胚葉とよび、外部から必要な物質を取り込み、不要なものを吐き出す。すなわち消化管と排泄器官に発達する。肺もチューブの内側にあるから内胚葉に属する。


②外胚葉
パイプの外側部分を外胚葉とよぶ。外胚葉は、個体の外側を覆う層で多細胞化の初期段階で形成される。皮膚の表皮・毛髪などの感覚器を形成し、また一部が発生過程で溝状に陥没し神経管を形成する。神経の大元という意味からか、脳も外胚葉から進化する。
 
③中胚葉

外胚葉と内胚葉と繋がり、外界とは直接繋がらない器官を中胚葉とよぶ。中胚葉が進化したことにより、体腔内に複雑かつ高度な臓器を発達させることが可能になる。筋、骨格、皮膚の真皮、結合組織、尿道、心臓・血管、血液や脾臓などを形成。

 

2.太極図にみる三胚葉
1)太極図のいろいろ
問題2:以下の3種類の太極図で間違いはどれか?

解説と解答

太極図は、今から3000年前の易經で生まれたもので、陰と陽が循環している状態を示している。現在では時計回りと反時計回りの2パターンあるが、どちらか正しいかは諸説ある。
「左が陽、右は陰」という決まりはあるが、それは自分から見てなのか、向かって見てなのか分からない。太極図は縦向きでも横向きでも構わず、色も必ずしも黒と白の2色でなくてよい。すなわち全部正解となるが、次に述べる理由からB黒の太極図(時計回りの回転)を間違いとする考え方がある。


2)太極図に隠された三胚葉

韓国旗は横向きで半時計回りに運動している。赤青の2色が使われている。ところで「閃く經絡」での太極図も韓国国旗と同様の構成になっているが、陰と陽がのびのびと活動している様子を表しているかのようだ。陰と陽はぐるぐると回転し、かつ両者が混じり合わないこことが重要ポイントである。
 
陰を内胚葉、陽を外胚葉とすると、陰陽の境界線が中胚葉だと著者のダニエル氏は説明した。 内胚葉と外胚葉を分け隔てると同時に、バラバラにならないように結合しているもの、これは広義の膜すなわちファッシアの機能に他ならない。