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AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

呼吸困難の体験例

2025-06-16 | 雑件

1.呼吸しづらさの自覚

71歳男。10日前頃から呼吸しづらさを自覚した。当初は心理的なものかとも思ったが、呼吸苦は次第に強くなった。深呼吸しようにも息を十分に吐き切ることができない。日中仕事している時はそれほど息苦しさがは感じないが、横になって休むと十分に息が吐けず、椅子に腰掛けて眠るという苦しい状態が続いた。同時にの頃から食欲がまったくなくなった。下肢浮腫あり。お終始、胸痛(-)動悸(-)


市内で呼吸器科を標榜しているK医院受診。胸部X線で胸水を指摘され、市内の中規模クリニックでCT検査をするよう指示。対症療法として気管支拡張剤メプチンエアーの吸入剤を処方された。
その2日後、K医院から電話あり。CTの結果が思わしくないので、直ちに来るように言われた。即刻受診すると、胸水の量が多く心不全の恐れもあるので、直ちに入院するようにと言われた。
これを聞いて驚き、入院準備してタクシーで立川S病院内科ER訪問、そのまま緊急入院となった。なお入院は今回が初めての経験である。


2.緊急入院


パルスオキシメーター(指先に光をあて、動脈血酸素飽和度を測定)では89~92%と、酸素が十分に身体に取り込めていないことが判明、緊急入院が決定した。


呼吸が苦しいのは、胸水の存在により肺が十分に伸縮できないためで、胸水の理由は心不全により、心臓の動きが低下して血液をさばききれないため。呼吸苦の治療は利尿剤を使うという。今後は心不全の原因を探っていくということだった。確かにこの時の体重は86.5kgであり、1ヶ月前の体重83kgと比べて重くなっている。それだけ体内に水が溜まっていることを示している。


3.入院経過
 
入院初日は、呼吸苦のためベッドに横に寝ることができず、椅子に腰掛けて上体をかがめると何とか呼吸できる状態。すなわち起座呼吸状態。酸素吸入5ℓ/分を受けると確かに呼吸が楽に感じた。なおこの酸素量は通常使用の最大値である。使用薬は点滴に利尿剤ラシックス混注。


2~3時間経過すると小便が多量に出るようになるとともに息苦しさが軽減、翌日には呼吸苦は消失した。ただし酸素吸入4ℓ/分。

治療と平行して心不全の原因を探るため、精密なEKG検査、再度の胸部エックス線検査と胸部CT検査、造影剤を使った胸部MRI検査を実施した。その結果、心筋梗塞の既往があることが判明した。(胸痛の経験は一回もないが)。血圧低下に対しては、心収縮力を強める目的でドブタミン静注を実施していた。利尿降圧剤ラシックスは、胸水を取るのに非常に効果的だが同時に血圧も下がるので、私の場合は使い加減が難しい。

その5日後からパルスオキシメーターは常時95%を超えるようになり、酸素マスクが外れる状態にまで改善した。また体重は1日0.4㎏づつ減少するようになった。
結局、令和7年6月2日から13日間入院し、6月14日退院となった。退院時体重は79.5kg。ちなみに入院費は本人2割負担で約75,000円だった。


4.退院時の状況


ドブタミン静注をしていたのだが現在の血圧は、安静時はBP90/60、運動後はBP100/70程度とあまり上昇せず、
心収縮力は弱い状態が続いている。今回の心不全も、思い当たるきっかけはなかったが、再び予兆なく心不全が再発する危険性もあるということだ。心不全完治の治療法はないらしい。調べてみると心不全の五年生存率は5割だと書かれていた。平均余命はまだ先の話になるが、健康寿命(男性では平均72.6歳)を終えたという意味になるのだろう。医師からは体重の急激な増加、血圧低下に注意しつつ自己管理が必要だと念を押された。次回は7月から3日間、心臓カテーテル検査入院を予定。 

それまでがメタボリック症候群ということで降圧剤を服用して血圧は上120程度に抑えていたのだが、今度は血圧下がり過ぎということで、これも心不全の結果だろう。脈拍は10年前から90/分と頻脈だったが、糖尿病のため2ヶ月毎に定期受診している医師がこれを重要視してこなかった。今思うと、一回心拍出力低下のため心拍数を増やすことで補っていたのかもしれない。

※「あんご針灸院」は、6月15日より再開しています。


5.心不全 heart failure について(筆者、「現代針灸臨床論」テキストより)

心臓のポンプ機能が低下し、体の需要に応じた血液を十分に循環できなくなった状態を心不全とよぶ。左心室の機能低下にある場合を左心不全、右心室の機能低下にある場合を右心不全と呼ぶ。性能の低下した部分の、その前段部分に症状が出現し、これを前方負荷と称する。

1)左心不全 

左心不全が悪化すると、左心の拍出力が弱いため、血液が肺胞内に貯留(=肺うっ血)し、咳、痰、喘鳴を伴う呼吸困難発作が起こる。あたかも気管支喘息のような状態になるので、これを心臓喘息とよぶ。 
 左心不全の徴候:チェインストークス呼吸(睡眠時)、肺鬱血、心臓喘息
    
2)右心不全
右心不全では、右心室に環流できない血液が体循環に溜まり、前方負荷の結果として体循環鬱血症状(全身浮腫、外頸動脈怒張)を呈する。重度の慢性気管支喘息の者は、気管支喘息→肺性心→右心不全となり、体循環鬱血症状が出現する。
 右心不全の徴候:全身浮腫、肺性心、COPD   

肺性心: 肺疾患で肺血管抵抗が増大していると、右心室は強引に血液を肺に送り込もうとするため、右心室肥大に、そして右心不全になる。COPDの末期で、長期入院しているような者は、すでに肺性心になっている。

要するに、左心不全では呼吸困難が生じ、右心不全では下肢浮腫などが生ずる。

 

 

 

 


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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (LEE MinDong)
2025-06-16 08:53:16
大きなことがありましたね。とにかく快適にお待ちしております。
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メールありがとう (LEE MingDong 先生)
2025-06-16 09:20:26
健康については、自分だけは特別ということにならないですね。これからはあまり水分を摂取せず(つまりビールを飲まず)体重管理に気をつけます。(似田)
返信する
お大事になさってください (Tanaka M)
2025-08-07 21:18:50
いつもブログを拝見致しております
2015年に直腸がん術後の肛門痛に対し、突然伺ったにもかかわらず治療して頂き、その後徐々に回復に至りました整形外科医です
その後に陰部神経関連の患者が増えたとのことでしたが、某SNSでの小生の発信が原因であったかも知れません
ご面倒をおかけ致しましたことお詫び申し上げます

以来、先生のブログを拝見致しながら日々の外来診療での応用を続けて参りました
我々は注射薬剤を用いることができますので、その効果を速やかに確認することができることは幸いですが、精緻な治療をぼやかしている可能性もあり、日々反省しきりです
MPS研究会→整形内科研究会にも少しばかり参加致しましたが、先生のご知見に勝るものはなく退会致し現在に至ります
現在は某県の地域急性期病院で勤務致しておりますが、排便障害及び年に一度ほど発症する肛門痛とも共存しつつ、先生のブログを都度拝見致しながらこれからも精緻な臨床に実践に邁進して参ります
本来なら直筆での御礼をしたためるべきところ、この場での発信をどうぞご容赦下さい

このブログのサービスが終了するとのことですので、よろしければこれからも別の場でのご教示を引き続き賜れれば幸いに存じます

どうかご自愛頂き、重ねて今後ともご教示のほど賜りますようお願い申し上げます
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